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資料2


生殖補助医療技術についての意識調査2003

集計結果(速報版 概要)

平成15年2月6日



平成14年度厚生労働科学研究費補助金厚生労働科学特別研究
「生殖補助医療技術に対する国民の意識に関する研究」班
主任研究者  山縣然太朗(山梨大学医学部教授 保健学II講座)
分担研究者  星 和彦(山梨大学医学部教授 産婦人科学講座)
 平田修司(山梨大学医学部助教授 産婦人科学講座)
 武田康久(山梨大学医学部助教授 保健学II講座)



I.調査の目的

 わが国の生殖補助医療は、急速な技術進歩と共に、社会に着実に普及してきている。一方、生殖補助医療をめぐる様々な問題、特に第三者が関与する生殖補助医療(精子・卵子・胚を夫婦以外の第三者から提供を受けて実施する等)に関連する課題に対して適切な対応を行う制度づくりが急務となっている。
 これらの状況の下、厚生労働省においては、第三者の関与する生殖補助医療の是非やその規制のあり方、生殖補助医療に関する個人情報管理のあり方等の生殖補助医療を適正に実施するために必要なしくみについて検討されている。これらの検討を行うに際し、医療の問題だけでなく、倫理、社会面での問題も多く含んでおり、広く意識を把握する必要があるため、平成10年度に、一般国民、患者、医師約6000名を対象とした調査を実施した。
 その後、議論が不妊治療への関心の高まりなどによって、生殖補助医療に対する国民の意識が急激に変化している可能性があることや、厚生労働省における検討が進んでおり、これに対応した具体的な国民の「現在の」意識を的確に把握することを目的として調査を実施する。また、生殖補助医療技術の専門的な情報の提供が回答に影響を与えるか否かも検証し、今後の情報提供のあり方に資することとする。


II.調査方法

1.対象

 全国200地点から、無作為抽出した20〜69歳の男女4000名(前回同様の調査対象。以下「調査票のみ群」という。)および無作為抽出した20〜59歳の男女4000名(リーフレットによる情報提供の調査対象。以下「リーフレット群」という。)の合計8000名うち、実際に調査票を本人に届けることができた5846名。

2.方法

1)対象者の抽出

 層化二段階無作為抽出法を用いた。層化はまず全国を10ブロック(北海道、東北、関東、北陸、東海、近畿、中国、四国、九州、沖縄)に分類し、各ブロック内において、さらに、市郡規模で13大都市(札幌市、仙台市、千葉市、東京都区、横浜市、川崎市、名古屋市、京都市、大阪市、神戸市、広島市、北九州市、福岡市)、15万以上の都市、5万以上の都市、5万未満の都市、郡部に層化した。抽出は層化された各層の母集団の大きさにより200地点を比例配分し、各層の地点数を決め、市区町村コード一覧より対象市町村を決めた。個人抽出は住民基本台帳法に基づき各市町村の許可を得て、住民登録台帳より、調査対象適格者を等間隔に系統抽出した。

2)調査方法

 対象者の居住地を管轄する保健所の協力を得て、留め置き法(訪問配付、後日回収、本人の意志により郵送回収可能)によった。一部、郵送法(郵送による配付回収)とした。

3)調査票、リーフレットと回答方法

 調査票は前回(1999年2月)のものに準じて作成した。リーフレットは生殖補助医療技術について理解を深めるために作成した。いずれも、無記名自記式回答とした。

4)調査期間

 平成15年1月

5)その他

 本調査は「疫学研究に関する倫理指針(文部科学省、厚生労働省)」に基づき、山梨大学医学部倫理委員会の承認を得ている。


III.結果

1.回収率

 回収率が60%を超え、全回収数も3000を超えており、国民の意識を知る上では、信頼できる調査であると言える。

 回収率は次のとおり

  配付数 回収数 回収率
調査票のみ群 2525 1548 61.3%
リーフレット群 3321 2075 62.5%
合計 5846 3623 62.0%
 配付数は未確認を含み、減少する可能性がある。一方、回収数はさらに50程度増加する見込み。よって、回収率は若干上がる可能性がある。

2.回答者の属性

  20歳代 30歳代 40歳代 50歳代 60歳代 70歳代
調査票のみ群 13.3%(201) 17.9%(271) 21.3%(322) 23.9%(350) 23.9%(362) 0.5%(7)
リーフレット群 20.9%(418) 24.8%(497) 24.8%(496) 27.9%(559) 1.6%(32) 0.0%(1)
合計 17.6%(619) 21.8%(768) 23.3%(818) 25.9%(909) 11.2%(394) 0.2%(8)
不明 107名

(用語の解説)

 AID:夫以外(第三者)の男性から精子の提供を受けて人工授精を行い妊娠、出産すること○ 第三者の精子を用いた体外受精:夫以外(第三者)の男性から精子の提供を受けて体外受精を行い妊娠、出産すること

 第三者の卵子を用いた体外受精:妻以外(第三者)の女性から卵子の提供を受けて体外受精を行い妊娠、出産すること

 第三者の受精卵を用いた胚移植:夫婦の両方の原因で子どもができない場合に、第三者から提供された精子と卵子でできた受精卵を夫婦が利用し妊娠、出産すること

 代理母:夫婦のうち、妻が卵巣と子宮を摘出したこと等により、妻の卵子が使用できず、かつ妻が妊娠できない場合に、夫の精子を妻以外の女性に人工授精しその女性に妊娠、出産してもらい、その子どもを依頼者夫婦の子どもとすること

 借り腹:夫婦のうち、夫の精子と妻の卵子が使用できるが、子宮摘出等により妊娠できない場合に、夫の精子と妻の卵子を体外受精してできた受精卵を妻以外の女性の子宮に入れて、その女性に子どもを出産してもらうこと


3.各技術の利用

設問  あなたが子どもを望んでいるのになかなか子どもに恵まれないとしたら、あなたはこの技術を利用しようと思いますか?(Q3、Q5、Q8、Q12、Q17、Q20)

1)調査票のみ群とリーフレット群別の集計

 調査票群とリーフレット群では大きな違いはない。いずれも、「利用したい」は数パーセントであり、ほとんどの技術で6割以上が「利用しない」と回答した。

各技術の利用

2)前回との比較

 1999年の調査と比較すると、いずれの技術も「利用しない」が減少した。

技術を利用するか

3)性別及び理解度別の集計

 多くの技術で男女差が認められた。理解の度合いによる違いはほとんどなかった。

第三者の精子を用いた人工授精(AID)について

第三者の精子を用いた体外受精について

第三者の卵子を用いた体外受精について

第三者の受精卵(胚)を用いた胚移植について

代理母について

借り腹について

4.各技術の是非

設問  一般論としてお聞きします。このような技術を一定の条件のもとで社会的に認めるべきだと思いますか?(Q4、Q6、Q9、Q13、Q17、Q21)

1)調査票のみ群とリーフレット群別の集計

 調査票のみ群とリーフレット群で違いはなかった。
 第三者の受精卵、代理母は「認められない」が「認められる」を上回っていた。
 AID,第三者の精子、第三者の卵子、借り腹で約4割が「認めてよい」と回答していたが、半数は超えなかった。
 いずれの技術も3割以上が「わからない」と回答していた。

各技術の是非

2)前回との比較

 1999年の調査と選択肢が異なることから単純に比較できないが、「条件付で認めてよい」、「認められない」の回答から判断して、認めてよいが増加しているとは言えない。

一般論として認めるか

   2003年の調査では「認めてよい」が選択肢に入っていないために単純な比較はできない。

3)性別及び理解度別の集計

 ほとんどの技術で、男女差が認められた。また、リーフレットの高理解群で、「わからない」が減少しており、その分、是非の両方の割合が多くなっていたが、その配分に大きな違いはなかった。

第三者の精子を用いた人工授精(AID)について

第三者の精子を用いた体外受精について

第三者の卵子を用いた体外受精について

第三者の受精卵(胚)を用いた胚移植について

代理母について

借り腹について

5.借り腹について社会的に認める理由と認めない理由

設問  借り腹について認めてよい理由、認められない理由は何ですか?(Q22,Q23)

 「病気などで子どもを産めない女性が子どもをもてる」及び「病気などで子宮を摘出した女性が子どもをもてる」が「認めてよい」の大きな理由。

借り腹 認めてよい理由

 「認められない」理由の一番は「妊娠は自然になされるべき」。以下「親子関係が不自然」「人を生殖の手段として用いるから」「商業利用」と続いた。

借り腹 認めない理由

6.精子・卵子の提供者について

設問  一般論として精子・卵子を提供することが認められるのはどのような者と思いますか?(Q26)

 「匿名の第三者」が最も多く、4割程度であった。続いて、「兄弟姉妹」で、この二つは「認める」が、「認めない」を上回ったが、「父母」「おじおば」「友人知人」は「認めない」が「認める」を大きく上回った。しかし、「わからない」が多かった。

精子卵子を提供することが認められる者は?

設問  もしあなたが夫婦間では子どもに恵まれず、子どもを得るために第三者の精子・卵子・受精卵(胚)の提供を受けることを考えた場合に、第一に誰から提供を受けたいと考えますか?

 「血縁者」と「匿名の第三者」に意見が割れた。知人友人はほとんどなかった。

誰から提供を受けたいか

設問  もしあなたに同性の兄弟姉妹がいるとして、その兄弟姉妹が提供された精子・卵子による生殖補助医療でしか妊娠できない状態にあり、兄弟姉妹からの提供が社会的に認められているならば、精子・卵子を兄弟姉妹に提供したいですか?(Q28)

 「提供したい」と「提供しない」に意見が分かれたが、「わからない」が4割いた。

精子卵子を兄弟に提供したいか

設問  前問で、兄弟姉妹への精子・卵子の提供について、「提供したいとは思わない」、または「わからない」と答えた人にお聞きします。兄弟姉妹や周囲の人から「精子、卵子を提供してほしい」と言われた場合、あなたはどうしますか?(Q29)

 「わからない」が最も多く、4割を超えた。男性で、「提供したくないが頼まれれば提供する」が15%強いたが、女性は8%程度であった。

精子卵子を提供して欲しいといわれた場合

7.出自を知る権利

設問  生まれた子どもが精子、卵子、受精卵(胚)の提供によって生まれた事実を知ることについてどのようにお考えですか?(Q30)

 出自を知る権利は「親に任せるべき」が約半数であり、「知らされないでいるべき」が「知らされるべき」を上回った。

子どもは事実を知らされるべきか

設問  子どもが知ることができる提供者の個人情報はどのようなものか?(Q31)

 「知らせないでいるべき」が、約半数であったが、「氏名や住所まで」と「匿名性が守られる情報」はほぼ同程度であった。リーフレット高理解群で個人情報を知ることができるが多くなっていた。

提供できる個人情報は何か

設問  生まれた子どもが提供者(あなた)が誰であるかを知ることができる場合、精子、卵子の提供についてどう思いますか?(Q32)
 生まれた子どもが提供者(あなた)が誰であるかを知ることができない場合、精子、卵子の提供についてどう思いますか?(Q33)

 生まれた子供が提供者が誰であるかを知ることができるか否かによって提供したい者の割合が変わる。知ることができる場合も6%以上が提供すると回答した。リーフレット高理解群は男性で15%、女性で10%弱が提供すると答えた。

Q32 提供者を知ることができる場合の精子卵子の提供について

Q33 提供者を知ることができない場合の精子卵子の提供について

8.卵子のシェアリングについて

設問  卵子のシェアリング制度が考えられています。これは卵子の提供は原則として無償のボランティアによることを原則としますが、卵子の提供が少ないことが見込まれることから、他の体外受精を行っている女性から採取された卵子の一部を、医療費の一部を負担することによって、提供を受けるという制度です。この制度を一定の条件のもとで社会的に認めるべきだと思いますか?(Q11)

 「認めてよい」が多かったが、意見が分かれており、調査票のみ群の女性は「わからない」が半数を超えた。

卵子のシェアリングについて

9.卵子の提供が少ない場合における受精卵(胚)の利用

設問  卵子を提供されることだけで妊娠できる状態にある夫婦が、提供される卵子が少ないために提供を受けることができず、やむを得ず、受精卵(胚)の提供を受けることを、一定の条件のもとで社会的に認めるべきであると思いますか?(Q15)

 「認めてよい」が多かったが、「わからない」も多く、意見が分かれた。

受精卵(胚)の提供について

10.年代及び考え方による違い

 年齢が上がるにしたがって、各技術について認める者の割合が少なくなった。

年代別「認める」者の割合

 家族観や性的役割についての考え方が、リベラルであるほど各技術を認める者の割合が高い。

家族観、性的役割の意識と技術を「認める」割合



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