02/12/11 第10回これからの医業経営の在り方に関する検討会議事録          第10回 これからの医業経営の在り方に関する検討会 日時    平成14年12月11日(水)10時30分から13時00分 場所    厚生労働省専用第18会議室 出席委員  石井孝宜、遠藤美光、大石佳能子、川合弘毅、川原邦彦、小山秀夫、       田中 滋、谷川和生、津久江一郎、豊田 堯、西澤寛俊、西島英利、       南  砂                             (五十音順、敬称略) 議事内容 ○田中座長  ただいまから第10回「これからの医業経営の在り方に関する検討会」を開催いたしま す。委員の皆様方におかれましては、ご多忙中のところ当研究会にご出席いただき誠に ありがとうございます。本日は内田委員と長谷川委員がご欠席との連絡を受けていま す。また小山委員が遅れて来られるとご連絡をいただいております。  それでは議事に入りたいと存じます。本日はご案内にもありましたように、株式会社 をはじめ民間企業経営方式を含めた医療機関経営の在り方について、参考人からお話を 伺うということで旭リサーチセンター代表取締役社長の鈴木良男様、学習院大学経済学 部教授の遠藤久生先生においでいただいておりますのでご紹介申し上げます。続いて前 回ご議論いただいた医療法人の効率性を高めるための方策について、谷川委員から意見 発表をお願いしたいと思います。最後に経営の安定性を高めるための方策について引き 続き参考人からお話を伺うため、社会福祉・医療事業団企画指導部長の小木津敏也様に お越しいただいております。ご紹介いたします。はじめに事務局から資料の確認をお願 いいたします。 ○中野課長補佐  お手元の資料のご確認をお願いいたします。議事次第、委員名簿、座席表に続きまし て、本日発表していただく先生方の資料として、最初に旭リサーチセンターの鈴木先生 の「これからの医療経営の在り方」、学習院大学の遠藤先生の「営利法人の病院経営は 医療のパフォーマンスを向上させるか」、谷川委員の「医療法人経営の効率性」、最後 に社会福祉・医療事業団小木津部長の「社会福祉・医療事業団の医療貸付事業等につい て」、以上です。 ○田中座長  議事に入らせていただきます。はじめに鈴木参考人、遠藤参考人のお2人から続けて 発表をいただきます。最初の議題は「株式会社をはじめ民間企業経営方式を含めた医療 機関経営の在り方」となっています。旭リサーチセンター代表取締役社長鈴木様よりお 願い申し上げます。 ○鈴木参考人  おはようございます。時間が30分ということなので、かい摘んでご説明申し上げたい と思います。私の話したい事柄についてはレジュメに書いてありますので、それから説 明をさせていただきたいと思います。  私は現在、総合規制改革会議の議長代理として、また医療ワーキンググループの主査 としてこの問題に取り組んでいるわけです。実は私は規制改革については行政改革委員 会以来、今年で8年目になるわけですが、当初のころは経済的規制を中心にやっていま して、あまり社会的規制の分野はやったことがありませんでした。昨年から医療分野の 主査をやれということで急遽勉強をさせていただいてきたわけです。  最初に若干感想めいたことを申し上げさせていただきたいと思います。去年、「医療 の世界」というものを聞かさせていただいて感じたことは、昭和23年、医療法の制定以 来、ほとんど変化のない社会だなというふうに思ったわけです。やっておられる方は大 きな改正をいくつもやってきたとお思いでしょうけれども、私も経済的規制の分野、旭 化成においてはビジネスの分野を40何年間やってまいったわけですが、そういう視点か ら見ると、この世界というのはほとんど変化をしていないと言わざるを得ないという感 じがしています。  その例を挙げましょう。第1は「患者の視点」が欠落していませんか。口を開けば情 報の非対称性ということを言って、非対称であるが故に特殊だと、こういうことを言わ れるわけです。要するに患者は「依らしむべし、知らしむべからず」というのは、今日 もまだ依然として存在している問題だと言わざるを得ない。  第2に、IT化のこの時代において、ITから逃避しておられるという感じがしてな らない。紙のレセプトがいまだに99%を占めているのは、その象徴だと思います。第3 が競争に対する感覚です。競争と言うと、市場原理は医の世界には馴染まないという議 論が盛んにされて、競争を嫌悪する発想が非常に多いわけです。だが、競争というのは 知恵を使う競争であって、何も喉をかき切る競争だけを言っているわけではないので す。そういう意味での知恵を使う競争が不在だと思います。出来高払い制度へのこだわ りとか、いわゆる混合診療というものに対する本能的な嫌悪感とか、これなどはその象 徴かと思います。  第4は、診療所集団が政治力によって、つまり簡単に言ったら医師会ということです が、医師会の政治力によって、医療の世界の制度が支配されているという変わったとこ ろがある。さらに言ってしまえば、医師会はもっぱら診療所、いわゆる中小企業を代弁 している所であるわけですが、その中小企業が病院とかいう大企業をかき混ぜていると いう、良いのか悪いのかは別としても、一般には特異な存在であることは間違いないと 思います。最後に、医の倫理が一人歩きをしている。これは何かというと、口を開けば 「人間の命は平等だ、だから金持ちだけの混合診療は駄目だ」とか、「金儲け主義の株 式会社は駄目だ」とかいう。この議論に象徴されていると思います。  そのような感想を持ったわけですが、昨年、総合規制改革会議では医療に関して、か なり抜本的な改革を求める答申を出させていただきました。このほとんどのものは、今 年3月の閣議決定の中に織り込まれて、現在厚生労働省において着実に実施されている と思っているわけです。その中での考え方において目指すべき医療の方向性としては、 まず「IT化」という事がスタートラインであろうかと思います。私どもがイメージし ている「IT化」というのは、電子カルテからレセプトに直結して、そのレセプトがオ ンラインで支払者(保険者)に直送されて、審査・支払いはここで行われるという仕組 みです。このことを答申しているわけです。これは閣議決定を経ています。  そうしますと、審査の中にはIT技術の活用によって、例えばこういう病症名に対し てはこういう薬という事が、これが現在の支払基金における審査のかなり大きな部分を 占めていると思うのですが、こういうのは人間の目でレセプトを繰りながら判断する問 題ではなくて、まさにIT技術、つまりパソコン自体が自動的にやってくれる最も便利 な武器だと思うのですが、こういうことに活用されれるようになる。いやいやそうでは ない、もっと細かい判断を要するものもあると言うが、それもかなり定型化できるので はないのか、本当の判断を要するものはごく限られてくるのではないか。そういうプロ グラムを開発して、保険者による審査をIT技術の中で処理するようにすれば、審査に まつわる公正性・透明性がぐっと高まってくるのではないか。このように、電子カルテ から保険者による審査に直結することと、保険者の審査の大部分はパソコンなどで自動 的に行えるようにする。こういうIT化を最終目的にしようというのが第1点です。  次には良い意味での競争を医の世界の中にも入れることを、是非やっていただきたい ということを提言しているわけです。そのためには、1つは「DRG−PPS」と言わ れているような制度を導入する。出来高払いによっていては、公的保険は私は早晩どこ ろかもう現に破綻していると言わざるを得ないと思います。そのような意味合いからD RG−PPSを早期に導入して、この中で能力のある医者が効率よく患者の治療を達成 して、その医者が報われるというシステムに乗り移っていかないといけない。これは単 に医師の競争を促すだけでなく、公的保険の行き詰まりという問題の回避のためでもあ るわけです。  競争促進の第2番目の手段として、患者の選択による混合診療を真っ正面から肯定し て、医療の質とサービスの水準を上げるとともに、公的社会保障以外の医療費を含む総 医療費を増やして、経済発展に貢献するべきだということです。こういう発想がどうし て否定されるのか、私ども、この道の外から眺める者にとっては、誠に不思議です。し たがってこれを促進することと私は常々言っているのです。現在医療費は30兆円という けれども、これは振っても出ない30兆円であるわけです。医療ニーズは30兆円ではない はずです。私は比喩的に申し上げていますが、もし患者が望む診療が与えられて、それ はもちろん患者が負担するということにすれば、軽く10兆円は新しい医療需要としてさ らに出てくるであろうと申し上げているのです。  そういうことを言ったらある人は、「いや、100兆円だ」と言われましたが、100兆円 かどうかは別として、現在の30兆円というのは、要するに振っても出ない30兆円だとい うことです。将来振って出そうとするにはどうしたらよいかと言ったら、結局は被保険 者が負担するか、患者自身が負担するか、政府が負担するか以外に手段はないのです。 でも、負担する被保険者は少子化によってどんどん減っているからこれ以上、被保険者 に負担しろと言ったら反乱が起きると思うのです。患者が負担するといったときには、 一体何をやっているのか、これで皆保険と言えるのかという議論になる。政府は振って も金は出ないと言い続けるでしょう。  そういうことから考えると、これは振っても出ない30兆円と考えるべきであって、こ このところに患者が望む混合診療を認めてあげれば、医者も収入が増えるし患者も満足 度が得られるし、そして日本経済も発展する。誰も損をする人のないウイン・ウインの ゲームである。なぜこれを毛嫌いされるのか。医師会と私どもとで議論しましたが、医 師会は人間の命は平等だから金持ちだけが受けられる云々ということを言っておられま すが、この考え方は納得できない話です。そういう事を進めていくべきだと思います。 それによって保険制度を公的保険だけではなくて、民間保険との組合せによる保険に よって維持する。これが、これからの少子高齢化時代の日本の姿であろうと思っている わけです。  このように混合診療を認めれば、医者の中にはよく勉強をしていて異なる医療や、現 在認められていない医療などを開発し、あるいは取り入れるようになり、その医者の評 価が高くなってその医者が栄える、という競争原理が働くわけです。いまの出来高払い の中で薬漬け、ベッド付けをするよりも、はるかに良い制度ではないかと思うわけで す。  もう1つの競争の導入としては、患者のエージェントとしての保険者の機能を強化し て、医師と対等の立場をつくることが必要ではないか、そうすることによって医療機関 の相互の競争を促進すべきではないかということです。これらはいずれも昨年の答申で 提言し、かつ今年の3月の閣議決定で基本的方向は決定されており、厚生労働省におい てはかなり苦労をしながらという点もありますが、着実に進歩させてきているわけで す。  私は去年、取り組んだときに、医療の世界の遅れについていささかびっくりしたと冒 頭で言いました。実は私は土光臨調の時に事務局の調査員として国鉄、電電、専売とい う3公社の改革をやりましたが、この時の国鉄を見たときにはあきれ果てました。やる べき事柄が何もやらずにそのまま放置されていたのです。それに対して分割民営という 1つの方向を示した。今日皆さんご存じのようにJRは、かなり良い企業体として復活 することができたわけです。  私が何を言いたいのかということですが、この状況を見ると「医の混沌」という問題 はこれだけ治療するべき題材があれば、それを着実にこなしさえすれば、「医の再生」 は十分に期待できるということです。そういう気持ちで今年、来年以降もこれらの問題 に取り組んでまいりたいと思っています。  何にも増して言いたい事は医の世界というのは、理事長要件は外れましたが、医者だ けで支配していこうという世界ですが、これはもう限界にきているということで考え直 しをいただきたい。要するに今、医の世界に必要なのは「新しい血液」ではないか、と いうことを深く思っているわけです。そういう意味合いで、例えば株式会社の参入に対 しても道を開いていくべきではないかと思っているわけです。  ウにも書いてありますが、これらが実現される、特にIT化とか競争の促進が実現さ れるための技術的な前提は何かということになります。そのためには医療情報が、医者 のカルテの中だけに存在するのではなくて、広く蓄積されて、そして例えばカルテを一 元化するといっても、あるいはDRG−PPSを作るといっても、いろいろなデータの 蓄積に基づいてそれをやらなくてはいけない。そのデータの蓄積と活用が技術的前提と して、どうしても必要となってくるということです。 そのうえで更に、その全てを包含しての前提がもう1つあるわけです。それは何かとい うと、徹底した「情報の公開」ということだとと思います。知らしむべからず、依らし むべしという時代ではもう、世の中のあらゆる分野はなくなっています。情報の公開こ そ現代のキーワード中のキーワードだと思うわけです。そういう透明・公正な環境の中 で、新しい制度づくりが粛々と行われていくべきだと考えています。  今日は「株式会社経営形態論」を話せということなので、そこにの否定論と肯定論を 書いておきましたが、これは今年の総合規制改革会議におきます中間取りまとめの中 で、総合規制改革会議側がこういう観点から株式会社を認めるべきではないかと言った のを肯定論として、それに対して厚生労働省が、いや、ちょっと待ってもらいたいと 言ったのを否定論として、それをサムアップしたものです。この研究会は厚生労働省所 管の下で、株式会社化の問題を中心に研究している会と承っているので、当然、十分ご 承知のことと思いますので、内容については説明を省略させていただきます。  否定論について若干コメントさせていただきますと、事業を廃止する可能性というこ とを言いますが、株式会社というのは永続的に事業を維持したいというためのものであ るということは、私どもの実感であります。またこの世の中でどなたであれ一つの存在 となった人たちというのは、それなりの効率性を果たして、その効率性を果たすことに よって自分の仕事を続けたいということを本質的に願っていると思います。株式会社は 儲からないと、勝手に事業をやめという短絡的な議論は是非、頭を切り換えていただき たいと思うわけです。  2番目はアメリカの例を引いておられますが、これは肯定論の中でも言っています が、日本とアメリカとでは医療法人に対するシステムが違う、というのはご案内のとこ ろだと思います。アメリカの非営利医療法人は例えば税法上の恩典がある、あるいは起 債をした時にその債権者は利息についての税金を払わないでもいいという、いくつかの 恩典があっての話なのです。ですからこういう条件の違いということを考えずに、アメ リカの悪い例、それもおそらく一部だろうと思いますが、それをあまり過大に言われる べきではないと思います。  金融機関からの借入金は「当然の支払いコスト」だと言われていますが、これは私ど も去年から聞いていて、まったく分からない議論です。配当は、エにも書いてあります が、医療法人が利益の全てを再生産費用に充てていると言われていて、株式会社も再生 産費用にも充てるだろうけれども、配当をするではないか。配当する分だけは高コスト だと言われています。配当は、金融機関からの借入金に対する利子と、まったくイクイ バレントなものであって、配当は利益の勝手な配分だと考えるならば、これはそもそも 株式会社そのものをご存じない議論であると言わざるを得ません。  「地域医療に悪影響を及ぼす」ということを言われていますが、これは何を言われて いるのかがよく分かりません。たぶん農業生産法人でも議論が出てきますが、株式会社 の農業参入を認めると、血縁で結ばれた地域というもの、例えば水を上の田圃から下の 田圃に流す過程の中で、共用して仲良くやっていく血縁社会のハーモニーといいます か、秩序を乱す。これは農林水産省の言い分であるわけです。  これと同じようなことを言われておられるのかと思いますが、社会的な存在としての 株式会社は、自分も入って、自分だって上の田圃だけを持っているわけではないので す。下の田圃を持っこともある以上、上の田圃の都合だけで振舞えるわけがありませ ん。株式会社は自分のことだけ考えて勝手なことをやるというふうに、頭から決めつけ ないでいただきたいと思うわけです。この議論に対しては賛成はできません。  次の頁に書いてあるのは、単純に並べただけです。非常に残念な事は、今年はこの肯 定論と否定論を1回戦わせただけで、見切りをつけざるを得ませんでした。隔たりが大 きすぎました。これは厚生労働省だけではありません。他の4分野、農業、福祉、教育 も同じで、その差は大きくて埋めようがないので、仕方がないから中間取りまとめの段 階ではお互いさま、自分の言い分だけ書いて始末を付けざるを得なかったのが実情で す。  12日にいよいよ今年の問題として取り上げるわけですが、株式会社問題に関しては、 私どもの中間取りまとめで書いたところを記述して、我々はこのような考え方を今日も 維持しているが、今年は隔たりがあって埋まらない。したがって、引き続き総合規制改 革会議で株式会社問題4つについては議論をする、という宣明にとどめています。そう いうことで、医療についても同様の論調にする考えです。これは明日発表されます。  その他の議論として、初期には、株式会社というのは資本金1,000万円あればすぐ医 療行為ができるのではないかという議論がありました。何を言いたいのかといったら、 株式会社をつくれば商法の規制しか受けない、したがって資本金、たかたが1,000万円 で、それが医の世界にただちにそのまま入ってくるのかということを心配されてのこと です。そんなことを我々が言うわけがありません。株式会社が医療機関として参入する ときには、それがあるチェックを受けるのは事の性質から当たり前のことなのです。文 部科学省も株式会社論を持ち出したときにこれを最初に言ってきました。聞くところに よると、同省は今度初めて株式会社の容認を求められたのでので、先輩である厚生労働 省に駆け込んで、何と言って反論したらよいかと聞いたら、厚生労働省が資本金1,000 万で設立可能と最初に言ったのを言えなんて教えるものだから、それを言ったらしいの ですが、そのような議論が当初はありました。これは漫談みたいな話です。  その他の議論としては、現在存在する60余りの株式会社病院あるいは株式会社立病院 などは、反社会的な行動を現実にとっているのですかという問題があります。去年の9 月に日本医師会医療政策会議というところが「医療と市場経済」という報告書を出して おり、「市場原理は医の世界には取り入れられないのだ」という主張をしています。報 告自体は感心できませんが、その中に、いみじくも「しかし、こういう株式会社立病院 は他の一般的な病院のそれと比較して、特段に特異であるという指摘は聞かない」と書 いてあります。当たり前のことです。  私どもの考えを誤解しないでください。私どもは全ての病院・医療所を株式会社にし ようなどと言っているのではありません。そういう経営形態でやりたいという人たち、 現に私の所にもそういう希望を言ってこられる方がおります。その希望を受け入れない 納得的な理由はどこにあるのですかと言っているだけのことなのです。反対論がいろい ろな点を心配されています。その心配な点は、心配な点で適切に対応して対処すること は、可能です。それさえすればよいことです。  議論すべきは反対のための反対論ではなくて、不具合があるならばどうやってその不 具合を是正するかという前向きの議論のはずですが、極めて残念なことに、私どもと厚 生労働省とは他の分野、ただいま私が申し上げましたIT化の問題だとか医療分野にお ける適切な競争の導入という問題については、ほとんど考えは一致していると思ってい ますが、株式会社問題だけは大きな隔たりがあるということは認めざるを得ません。ほ とんど議論にもならないということがいちばん残念なことで、前向きの議論をしていた だきたいと思うわけです。  ご案内のように医療法は株式会社を含めて営利会社の病院への参入を否定しているわ けではありません。基本的には肯定を前提とした上で、「営利を目的とするものは認め ないことができる」と言っているだけです。その精神を曲げたのが昭和25年の事務次官 通達で、余剰金の配当を禁止する、今後株式会社組織は認めないという一片の通達に過 ぎません。  更に言いますと、いま厚生労働省が悩んでおられますが、直接審査です。保険者が審 査をするというのは、昭和23年制定の医療法が本来規定しているところなのです。し かし、その同じ23年に当時の厚生省は通達を出して、支払基金という特殊法人を通せ、 自分で審査をしてはならないとやっているわけです。これと似たような現象です。この 通達は何かといったら、これは行政の出す1つの指針に過ぎません。それには法的拘束 力はありません。このことは行政手続法ではっきりさせているわけです。そういう通達 で、現実の行政を行なうというやり方は、行政手続法制定以来、拘束力を持たないもの として位置づけられているのです。私この行政手続法の制定の時にも、第三次行革審で タッチしていました。ここのところを間違わないでいただきたいということを申し上げ ておきます。  要するに現在の基本は、あらゆる参入に対して、少なくともその可能性、道というも のを閉ざしてはいけない。もちろん無秩序な参入を認めなさいなどとは誰も言っていな い。秩序のある参入をするためにはどういう手法があるのかということを真面目に考え るべきであって、株式会社と聞いたら拒絶をするという態度は行政としてとるべきでも ないし、政治もそういう姿勢をとるべきではないというのが、私の意見です。  株式会社について儲け主義だとかいろいろなことを言われる。現在の株式会社につい て若干申し上げておくと、高度に発達した現在の資本主義の下では、出資者だとか債権 者、取引先、従業員、地域、そして何よりも顧客の満足を得て、組織の持続的な維持を 図るのが営利非営利を問わず、基本だと思います。私どもはそのような方法で経営を やっているわけです。その際、反社会的な行動を行う者、これはないとは言えません。 そういう株式会社もあります。しかし、株式会社以外の非営利法人と称するものも反社 会的な行動を行なう者もいる。これが人間の世の中なのです。裁判官でも悪いことをす る、不思議なことではないわけです。これが人間の世の中ですから、したがって、反社 会的なものはどうなるのかといったら、それは経営形態のいかんを問わずに、市場から 追放されるだけなのです。それを機能させるのが競争の存在なのです。  競争というものをそのように捉えて、良い意味の競争でやっていくことが、あらゆる 関係を浄化する基本だということを、私は40数年にわたるビジネスの体験から痛感して おります。競争と聞くとお医者様は喉をかき切る、他人のお客をすぐかっさらう、安値 で売るというふうにイメージされ、それだけで震っておられますが、それも1つの競争 です。しかし、競争の本質はそのようなものではありません。そんな競争というのは仕 掛けたほうがかえって深手を負うだけです。本当の競争とは、社会のために良くなるよ うにと知恵を使って、自分の力を蓄えてやっていく、これを競争というわけです。競争 の概念を取り違えないでいただきたいということです。  私もそういう乱暴な競争をやりましたし、知恵を使った競争もやってきました。乱暴 な競争はこちらのほうがくたびれるということで長くは続きません。そういう乱暴な競 争だけを言っているのではないのだということです。競争と聞くと逃げるという姿勢で あっては一歩も進歩はありません。あらゆる進歩というのは、良い意味の競争から生ま れるというのが私どもの信念ですし、また実際です。そういうことによって日本の戦後 の発展はあったのだということをご理解いただきたいと思います。  株式会社形態というのは少なくとも上場基準に適合する企業の場合には、収入−費用 の差である余剰。この余剰というのは営利・非営利を通じて全てのものが目指す目的で はありませんか。わざわざ損をしようという人がどこにおりますか。収入から費用を差 し引いてそこに余剰をつくろうとして、みんな努力をしているのです。それを出さない とあらゆる組織は継続ができないからです。ところで、上場基準に合致する株式会社は この余剰の恣意的な配分は認められないシステムになっています。ここを勘違いしない でいただきたいと思います。それを担保しているのが有価証券報告書などによる情報開 示と第三者監査ということになります。その余剰は再投資に挙げられる以外にはないシ ステムであるということを、申し上げておきたいと思います。  これが本音かもしれないが、医療関係者は株式会社を認めると、現在の医療法人のほ とんどのものが株式会社に走ってしまって、配当可能にしようとするということを心配 しておられるようです。私どものイメージしているのは、そういう家内経営的な株式会 社ではありません。今までブック(決算)を閉める前のところで費用の中に入れ込んで いたものを、それは税務署との間で闘いになるでしょうが、費用の後から分け前として 貰える、そのインセンティブは家内営業の場合にはかなりあると思います。ご主人のお 医者さんが7割、奥さんが2割、長男が1割という形でやったときに、配当が認められ れば、それはそれで便利でしょう。けれども私どもはそういう株式会社を議論をしてい るのではなく、少なくとも上場基準に合致して、有価証券報告書を出し、第三者監査を 受ける規模のものを対象として議論をしているつもりですが、こういう議論にも残念な がら厚生労働省とは話が進まないというのが現状です。しかし、こういう法人であって も上場基準に達している株式会社と同じような規律に服するのなら、それはそれとして 私は認めてもいいと思っています。  私は弁護士問題をやって、弁護士の世界に大きな穴を開けてきたのですが、ここも完 全なギルド社会ですが、医の世界はそれにも勝るギルド世界だと思いました。そのギル ド世界というものは早晩に崩壊せざるを得ない問題です。これはお医者さんだからよく 分かると思いますが、遅くなって打つ手は間違いになるものです。そしてもう遅いかも しれません。遅いけれどもこれ以上遅いよりも今やったほうがよろしい。この考え方が 重要だと思うわけです。  医療関係でいまやるべきことは、「医療問題に取り組んで感じたこと」の(2)で、 「目指すべき医療の方向性」というところに書いてあることをまずやるべきだと思いま す。これを着実に実行して、そして患者の納得が得られる医療に体質が変わっていけ ば、医療の中の人の考え方もまるきり変わってきますから、したがって株式会社問題は 現在のような医の倫理といいますか、そういう観念的な反対から、現実的な問題として 理解ができるのではないかと思っています。  最後になりますが、厚生労働省に期待したいのは、国民の視点に立った上で自らのガ バナンスを失わないことだということです。厚生労働省は今回の株式会社問題について は、マンディートを失ったと言っております。マンディートを簡単に行政が放棄したも らっては駄目であって、行政というのは行政の責任において、先ほど申し上げたような 議論をすべきもので、端的に言って政治にそうかき混ぜられるなということで、それが 国民の視点に立ったという意味であるわけです。この検討会に対してはそういうこと で、かなり進歩してきましたが、なおなお力の弱い厚生労働省であるので、どうか一層 の励ましを与えてやっていただきたいということをお願いしておきたいと思います。  最後、経営の安定性の問題ですが、現在安定性と聞かれますと、いまの診療所の経営 は安定していないのですかということを逆に聞きたくなる、ということだけを申し上げ ておきます。病院、その他が困っている話はよく聞いています。勤務医が非常に過酷な 勤務によって問題があるということもよく聞いています。しかし、診療所という形で経 営を考えてみると、お困りになっているという話はあまり聞かないということを申し上 げておいて、「安定」を目指すよりもむしろ「発展」、いまの自分たちを取り巻く制度 の改革を通じて、発展を目指すべきである。その発展は自らの創意・工夫によるべきで ある。これが今の医療の再生の基本であると私は思います。ある特定集団がそういうこ とを言っているだけで、どこのお医者さんもみんなそんなふうには思っていないと信じ ていますが、医の世界だけの議論が多すぎます。医以外の分野では、もっと違った発想 で皆やっていますということを最後に申し上げておきます。以上、私の意見を述べさせ ていただきました。どうもありがとうございました。 ○田中座長  どうもありがとうございました。引き続き学習院大学経済学部教授の遠藤久夫先生に お願いいたします。 ○遠藤参考人(学習院大学)  私も4頁もののレジュメを用意しています。ただいま鈴木参考人から営利病院の参入 の問題も含めて、規制緩和のお話を承ったわけでありますけれども、私も規制改革会議 等々の出されるご提言の中には、非常に有意義でありかつ私自身も賛同するものがある わけです。しかし医療システム、医療経済を比較的長く勉強をしている者として、「営 利病院参入」云々という話をテーマとして挙げるのにはややですね、そもそもそれが テーマとして挙がってくること自体が、私の今までの医療政策の勉強の中であまりな かったものですから、その辺はどういうことなのだろうかということで、やや奇異に感 じたというのが、営利病院参入問題に最初に接した時の私の印象でした。  そのようなことも含めて、私の考えは、4頁の「結論」のところで書いていますが、 鈴木参考人とは考え方を異にすることになるわけです。結論とすれば現段階で参入する ことは反対であるということです。これは私が研究者としていろいろなことを考えなが らの結論でして、決して特定の集団の利益の代表とか、代理だとかいうことは、まった く関係ないわけです。  簡単に結論だけを最初に言わせていただきます。市場の失敗である医療に営利性を導 入することは原理的におかしい。アメリカの実証研究でも営利病院が効率性や公平性の 視点から優れたパフォーマンスを示したというものは必ずしも多くなく、クリームスキ ミング(良いところ取り)が行われていることを指摘する者が多い。我が国の医療に営 利法人による病院経営を認めることは、このような問題を生じさせる懸念があるだけで はなく、資金調達上の不公正を容認することになる。そのためには営利病院の提供する サービスが非営利病院より社会的に望ましいことが前提となるが、その具体的な内容は 明確なものでないのが実情である。現行の病院行動に問題があったとしても、それはそ れとして改善する施策を講ずべきものであり、営利病院の参入によって解決するもので はない。諸外国の例でも、医療改革と営利病院を関連づける施策はないことも考慮すれ ば、現段階で営利法人形態での医療経営を認めることには反対である。  なぜならばということを、3つの視点から簡単に話させていただきたいと思います。 3つの視点と申しますのは、はじめが原理的な視点です。私はこれは結構重要だと思っ ています。2つ目が実証的な視点で、3つ目が政策効果の視点ということです。原理的 な視点というのが経済学の基礎的な話で大変恐縮ですが、しばしば言われているよう に、医療市場というのは市場の失敗のケースだ。医療市場は市場の失敗のケースであっ て、そこには利潤動機との親和性が低いということです。  医療市場というのは情報の非対称性ということが盛んに言われているわけですが、実 はほかにも大きな問題がありまして、情報の非対称性というのは医療サービスの特性な わけですが、支払方式に公的保険制度が介入していますから、第三者支払いが介在する ということも市場の失敗の理由です。患者の自己負担が実際の対価より安いというこ と、それから診療報酬が公的価格になっていますが、この公的価格が原価を反映してい るとは限りません。こういうことで価格メカニズムが有効に機能しないわけです。それ には当然のことながら医師・患者間の情報の非対称性が存在する、ということがあるわ けです。  こういうことで医療市場には市場原理が有効に機能しない、もちろん全ての商品が情 報の非対称性がないわけではないですが、特に1番、2番というのは、医療システムの 上で重要な特徴をもっているわけです。またこれから何が言えるかというと、患者の医 療ニーズにより対応した病院の利益が増えるかというと、必ずしもそうではないわけで す。残念ながらそうなっていない。これは制度的に変えていく必要性はあると思います が、現状ではそうなっていない、ニーズに対応しても利益につながらないケースもある し、医学的ニーズから乖離していても利益につながるケースがある。これは最近の例で いうならば小児科のケースになりますし、救急救命のケースとか、さまざまな例はいく らでも挙げられると思います。  こういう意味で一般の財・サービスの供給とは異なるわけです。したがいまして医療 の場合は利潤動機に基づく行動というのは、効率的な資源配分を達成しないと私は基本 的に考えています。もちろん完全に自由診療の世界で、公的医療保険を排除するという 話になれば、また話は別なわけです。しかし、それではまた別な公平性の問題も出てく るわけです。  したがいまして、利潤動機を抑えるという意味で、医療機関に配当の禁止制約がつい ているわけです。そもそも配当禁止制約が非営利を担保するかどうかという問題は、実 際問題としてはいろいろな問題があるとは思いますが、非配当制約を付けているという ことは、世の中に存在している非営利組織、NPOの存在理由として、経済学でしばし ばなぜ故に存在するのかという議論が出てくる時に、この非配当制約が重要な条件にな るわけです。その場合にしばしば出てくるのが情報の非対称性です。情報の非対称性が ある場合には過剰な利益追求が受益者の利益を損なうということで、出資者の利潤追求 圧力を削減させたいということが、配当禁止制約の1つの根拠になっているわけです。 同時に、他の有利な投資対象があっても、医療の場合は医療目的ですね。その他のNP Oであれば本来のミッションということになりますが、それに再投資をするという本来 の組織目的の追求をやらせようと。これが現実に機能しているかどうかは分かりません が、非営利組織に、配当禁止をしているのはこういう理由だと言われているわけです。  実際に非営利病院に利益追求行為があるということで、あると私も思いますが、それ はそれとしてそれを改善させるための施策を講ずべき話であるわけで、そこに営利病院 の参入によって改善されるということは、私には理解ができません。一言でまとめるな らば、医療市場というのは保険制度と情報の非対称性によって、市場が失敗している ケースです。そこに利潤動機を持ち込むということは、資源の最適配分につながらない ということです。  2つ目が実証的な視点です。先ほどアメリカのケースは特殊例であって、都合の良い 例だけを出すなと言われましたが、特殊例かどうかはともかくとして、一言だけ申し上 げておきたいのですが、都合の良い例だけを決して私は出していません。大体30本ぐら いの有名な比較研究のペーパーをサーベイしたもので、その具体的なサーベイ結果につ いては、医療経済研究機構から一部出していますが、それはともかくとして、それらの 分析結果の傾向としてはこのようなことが言えるわけです。  アメリカでは営利病院の病床シェアは十数パーセントですが、その多くは上場してい るInvestor owned hospitalと言われている大規模チエンホスピタルです。1970年代以 降、だんだんこのプレゼンスが高まってくるのにしたがいまして、いま我々が議論をし ているのと同じような議論が当然あったわけです。学者が営利病院と非営利病院との間 の比較研究をずいぶんやった。このことは、ここで第2回目の報告でさせていただいて いますので、簡単にさせていただきたいと思います。したがいまして、今回は前回のよ うな資料は持っていません。  まず比較研究のサーベイを見てみます。大体1980年代半ばぐらいまでの比較研究で す。これは営利病院のほうがコストが低いという例は非常に少なかったということで、 特に管理費であるとか、資本費が高い。資本費が高いというのは、設置してから期間が 短かったということもあり、それは仕方がないところもあるかもしれません。また1999 年の『ニューイングランド・ジャーナルオブメディスン』という医学雑誌ですが、ここ では非営利病院しかない地域と営利病院しかない地域の1人当たりメディケア、高齢者 公的医療保険の支出の比較をしてみる。その他の条件を一致にさせるために統計的処理 をかけているわけですが、営利病院地域のほうがかなり高いということがあるわけで す。コストあるいは公的医療保険の消費のレベルも、営利病院のほうが高いということ が言われています。もちろん個別のケースにおいてはそうではないものもありますが、 いくつかのサンプルを混ぜて比較調査をすると、こういう傾向が見られるということが 1つです。また利益率については営利病院のほうが高いという報告が圧倒的に多い。  そういうことなので、ある種のクリームスキミング、いいとこ取りが行われているの ではないかということで調べられましたが、以下のようなことが指摘されています。こ れは大体1985年ぐらいまでの話ですが、まず高所得者層、あるいは保険加入者、アメリ カの場合には民間保険に加入するためには、大企業がその保険料を払っているというと ころもあるので、大企業が立地していてそこの従業員がたくさん住んでいるような地 域、こういう所に選択的に営利病院が立地しているとか、あるいは不採算な医療、アメ リカの場合には保険の支払い能力のない人がおりますので無償医療をやるわけです。あ るいは研究とか訓練等、不採算な医療の提供が営利病院のほうが抑制的である、という 報告が非常に多い。  支払能力の乏しい患者、これは無保険者あるいはメディケイド患者ですが、メディケ イドですから低所得者です。メディケアレベルでは営利病院、非営利病院とも差はない のですが、無保険者、メディケイド患者の入院を調べてみると、営利病院のほうが入院 に対して抑制的だと、言われている。  医療の質については、どちらが良いのか悪いのかはよく分からないというのが正直な ところです。これは外から、しかも複数の医療機関のクオリティを評価するのは、評価 技法がないということもあり難しいということです。もちろん営利病院の中で非常に高 い三ッ星ランキングで評価されているような所もあるし、逆にさまざまな不祥事で報道 されているようなものもあるということで、ばらばらなのでここのところは何とも言い ようがありません。したがって、質についてはニュートラルというふうに見ても、アメ リカの営利病院が非営利病院と比較して、安くて良い医療を提供しているという明白な エビデンスは、過去の比較研究の中からは出てこない。この事実は無視できないのでは ないか。クリームスキニングが、経営を効率化させるという展開の中で出てきている話 だ、ということは事実として考えられるわけです。  ヨーロッパはどうかということですが、これは北欧を除けば基本的には営利病院とい うもの、つまり利益の配当を禁止していないという病院は存在するわけですが、ヨー ロッパの場合の多くは株式会社といっても公開をしていない小規模なものが多いわけで す。したがって、そこでは株式会社のメリット享受云々という議論すらもなく、公的な 病院とそうでない病院という枠組みしかないわけです。それぞれの国の制度上こういう 形が存在しているわけです。  例えばフランスなどでは、3割ぐらいが営利形式の病床なのです。病床シェアでは3 割ぐらいなのです。しかし、実際にフランスの営利病院のパフォーマンスがどうのこう のという議論はまったくないわけです。ヨーロッパの多くの場合には非課税とか補助金 の対象となる非営利病院としての条件を規模であるとか、さまざまな条件を満たさない 場合の、法人格取得の一手段として、有限会社になっている傾向が強いわけで、一般に 小規模なものが圧倒的に多いということです。  現在株式会社病院を導入すべきだという議論としては、こういう形態のものを前提に されているのではないと私は理解しています。ただ、もちろんヨーロッパの中にも Investor owned hospital的なもので、チェーン展開しているものがないわけでは決して なく、それは存在しています。アメリカに本拠があるものがヨーロッパに出先を置くこ とはあるわけですが、傾向としてはこういうことがいえるということです。ヨーロッパ の場合には一般的に営利病院と言われているものも、診療科目もプライマリケアとか比 較的軽医療のウエイトが高い。これが原理の話とヨーロッパ・アメリカの動向です。  基本的にはこれだけで議論をしても私はよろしいかと思うのですが、最後に政策効果 の話を少ししたいと思います。私自身、営利病院のパフォーマンスに関する疑問がいく つもあるわけです。もしかしたら今日教えていただけるのかもしれませんが、まず第一 に競争促進の意味とメカニズムが私はよく理解できないのです。例えば営利病院の参入 は医療機関の競争を促進させるということですが、医療市場内の競争というのは、本当 に無風状態なのかということです。  もちろん出来高払いというものはありますが、出来高払いといっても、現実問題とし て見れば、かなりのところの包括化の方向で修正がかかっているわけですし、同時に高 齢者医療を中心とした包括化が進んでいるということももちろんあります。しかし、そ の問題は別として、ともかくフリーアクセスが日本ほど認められているところはないと いうわけで、いってみれば消費者がどこを選択するかにこれほどハードルがない所は少 ないわけです。これが現実問題、良いか悪いかは別として、大病院指向等々ということ が起きているわけです。  しかも医療供給の中核が民間病院であり独立採算だということを考えると、それなり に競争が行われ、その競争に対応しようというアクションは起きているのだろう、とい うのが私の理解です。したがって無風状態であるという考え方は私は持っていません。 ただし、支払方式についての問題はあるかもしれません。ただ、この点はまったく規制 改革会議と私は意見が一致していると思いますが、情報を徹底的に開示しろという話は あります。私もまったくそのとおりだと思います。そういう意味では情報開示がまだ不 十分であるということについては認めるわけです。しかし、これは情報開示とか、医療 機関の第三者機能評価の話であって、営利病院を参入させるという話とはまったく無関 係な話だと、私は理解をしています。それが前段です。  営利病院が参入すると競争が促進するというのは、どういうメカニズムなのかを考え てみると、よく分からないのです。1つには例えば航空業界が3社しかなかったところ に、1つ入ってきた2つ入ってきたという量的な拡大を意味しているのかというと、現 実問題、医療の場合は、医療供給量を規定しているのは医師等の医療従事者のマンパワ ーなわけです。医師はほとんど完全雇用の状態ですし、働いている人は非常に高い稼働 率で就業をしているわけですから、営利病院が参入するということは、実は供給量が増 えるということには私はならないと思うのです。仮になったとしても、いま世界的に見 ても過剰な急性期病床を削減するという政策と、どう整合性をもつのか、むしろ病床削 減というのは競争抑制的な話であるからよくないと言われているのか、その辺が私は理 解できない。さらにそれに伴うところの病床と医療費との正の相関があるという、確固 たる統計結果があるわけですが、医療費の上昇についてはどういうふうに考えているの か、ということが分からないのです。  もう一つは量的な拡大ではなくて、質的競争が促進するのだということであると、ま たこれも私よく分からないので教えていただきたいのです。医療の質をめぐっての競争 が医療全体の質の向上が図られるのだ、というようなニュアンスで私は理解をしている のですが、これは医者が非営利病院に雇用されるよりも、営利病院に雇用されたほう が、質の高い医療を提供すると言っていることになるのだと私は思います。これは正直 言って具体的にどういうことなのかということが、私にはよく分からないというのが1 つなのです。  またそのようなノウハウは営利病院でしか実行できないのかどうか。その具体的内容 が分からないから同時に分からないわけです。そこの質的な競争ということが具体的に 何を意味をするのかがよく分からない。でも、それは別にどうでもいいではないか、と りあえず営利病院を参入させて後で競争結果、市場が判断するのだという言い方もある かもしれない。したがってここで競争のパフォーマンスを明らかにする必然性はないの だという考え方があるかもしれない、しかし、私はそうは思わないのです。2つ話した いのですが、それは後に回しておきたいと思います。  いまの話に関連するところで営利病院の優位性が不明瞭だということを、もう少し話 させていただきますと、例えばこれは私がたまたま営利病院はこういう点が優れている のだと聞かされたものについて、私なりの考え方を述べているだけで、もっとほかにも あるかもしれません。先ほどの鈴木参考人の文章の中にあったので、本来ならもう少し 勉強をしておくべきことだったのかもしれませんが、1つにはエクイティファイナンス による資金調達が多様化するという点です。たしかにいま病院の投資的経費は非常に不 足しているわけです。これにエクイティファイナンスによって資金調達ができることに なるわけです。しかし、現実問題としては市場から資本調達ができるような規模あるい は利益を持つ病院は、非常に限られているわけです。  現在上場している企業が子会社であるとか、一事業部として参入する場合には、エク イティファイナンスは極めて楽です。つまり、資本調達において大きな差がつくわけで す。不公正といったらいいかもしれません。この問題について後できっちり話をしたい と思いますが、そのようなものであって、ここでは取りあえず中小病院については株式 会社転換にしても、事実上利用できる資金調達手段なのかなということが疑問でありま す。  第2、ここは議論のあるところかもしれませんが、株式会社になった場合に利潤追求 圧力は強くなるのではないかということです。ここは時間の都合で飛ばしておきます。  2番目にディスクロージャーの問題です。株式会社のほうがさまざまなディスクロー ジャー制度が整っているというわけですが、現実問題としては強制的ディスクロージャ ーの対象は、財務データ中心なわけで、患者の欲している情報は自分の診療情報である とか、医療機関の質に関する情報だと思うのです。したがって患者の欲しがる情報が開 示されるかどうかという問題は、営利であるから非営利であるからということではな く、まったく違う制度の話であると私は理解をしています。株式会社制度になることに よって患者の欲する情報が強制的に開示されることはあり得ないだろうと思っているわ けです。  3番目は、あえてこういう議論をしても詮無いことかもしれませんが、倫理性が高い とかいう議論もあるわけです。つまり大企業のほうが小規模経営より、社会的に適切な ガバナンスが働くために、非論理的行動とか違法行為が抑制される、この議論はしばし ば私も聞いたものですから1つ書いたわけです。正直申し上げて大企業もさまざまな不 祥事があとを絶たないわけですから、遵法精神とか倫理性の問題は、組織の規模とか運 営形態というものと直接関係するとは私は思えないということです。規模の拡大、要す るに小規模で運営していることが患者の利益にならないので、規模が大きいことが重要 なのだという考え方が一方であるわけです。  ただし、これはさまざまな医療経済的な分析・調査によると、医療において規模の経 済が非常に強く働いているというものはないわけではありませんが、そういう報告は少 数派であり、規模の経済はそれほど強くはありません。  ただアメリカにおいては、いま急速な大規模化が起きております。これは非営利のセ クターでも、非営利の病院群で提携が進んでおりますし、営利の場合、もっと急速に集 中化が進んでおります。これには、アメリカの特殊事情によるところがあります。マネ ージドケア保険が急成長していってしまったために、マネージドケア保険会社との交渉 力を増強するために大きくなっているのです。ただ、その集中化のプロセスでさまざま な行きすぎがあったことが、しばしばジャーナリスティックに報じられているというこ とはあります。そういうことを考えてみると、営利病院の優位性としてしばしば指摘さ れることが、本当に妥当なのだろうか、あるいはこれ以外に何があるのだろうかという ことが、私自身にはわからないのです。  3番目に、先ほどお話した資金調達上の不公正ということを、私は考えます。なぜ不 公正かと言いますと、大規模な医療機関、あるいはすでに上場している企業が参入して くるときには、資本市場から低コストの資本を導入することができますが、一部の医療 機関にはそれができないのです。ただし企業もそうではないかという反論もあるでしょ う。それは少規模な企業は上場できないから、上場できるように大きくなりなさい、と いう話だと思います。ですから別にそれを羨ましがっても仕様がないとも言えるかもし れませんが、ここがいちばん最初の原理である、市場の失敗の議論と絡むわけです。つ まり大規模化して利益を蓄積できるような医療機関が、高い質の医療を提供したり、地 域ニーズに対応したりしてきたかというと、残念ながら必ずしもそうではありません。 それが先ほど言った情報の非対称性と、患者の自己負担が少ないということと、公定価 格制度によって生じているのです。  本当にやる気になれば、クリームスキミングができてしまう世界だと思います。そう なりますと利益の高い所に、より容易に資本が入ってくるということは、適切ではない のではないかと考えます。一般企業ならば、同じ土俵で市場原理が働きます。その場 合、上場企業にどんどんお金が入ってくるということが、社会全体の資源の配分が非常 に効率的な所、資源の活用が非常にいい所にさらにお金が集まってくれば、社会全体の ウエルフェアを高めることになりますが、医療の場合はそうではないと私は認識してお りますので、大企業だけが事実上利用可能な資金調達手段をすることは、1つの条件を 除けば、私は適正ではないと思います。その1つの条件とは何か。それは営利形態で運 営したほうが、医療が社会にとって非常に望ましいということが、ある程度説得性を 持っている場合です。しかし私の不勉強かもしれませんが、私は先ほど申し上げたよう な理由で、十分納得いかないのです。  さらに4番目に、「医療改革の政策メニューとして」という話です。これは冒頭にお 話しましたように、多くの国ですでに営利病院は認められておりますから、そういう意 味で「振興」という言葉を書かせていただきましたが、営利病院を振興させることを医 療改革の主要な政策メニューとしている国を私は知りません。あえて言えば、かつてイ ギリスの大規模なNHS改革の中で、それまでは完全自己負担でやっていたNHSの外 部にあった民間病院を、GPファンドホルダーというかかりつけ医が、外部の営利病院 と契約してもいいですということが認められたわけです。つまりNHS財源の一部が、 営利病院にも流れるということです。いままで保険の外にあったようなものが、保険対 象になったということがあるので、強いて言えばこれに近いかなという感じもしないで もありません。  ただしこれもGPを地域住民が自由に選べるといった、ものすごく大きな改革の中の ほんのおまけみたいな話なのです。私はあえて公正を保つために、営利病院を政策メ ニューとした例を一生懸命探してみたのですが、私の不勉強かもしれないけれど、これ しか見つけられませんでした。どこの国でも医療改革の政策メニューとして、営利病院 の議論を出している所はないのではないかと思います。ただ、いうまでもなくこれは国 公立病院の民営化というものとは、全く話が違います。したがって冒頭に申し上げた結 論に至るわけです。  「市場の失敗であり、医療に営利性を導入することは原理的にはおかしい。アメリカ の実証研究でも営利病院が効率性や公平性の視点から、優れたパフォーマンスを示して いるものは必ずしも多くなく、クリームスキミングが行われていることを指摘するもの が多い。我が国の医療に営利法人による病院経営を認めることは、このような問題を生 じさせる懸念があるだけでなく、資金調達上の不公正を容認することになる。そのため には営利病院の提供するサービスが、非営利病院より社会的に望ましいことが前提とな るが、その具体的な内容は明確なものではないのが実情である。現行の病院行動に問題 があったとしても、それはそれとして改善する施策を講ずるべきであって、営利病院の 参入によって解決できるものではない。諸外国の例でも医療改革と営利病院を関連付け る施策がないことも考慮すれば、現段階で営利法人形態での病院経営を認めることには 反対である」というのが、現在の私の考えです。 ○田中座長  どうもありがとうございました。経済学、あるいは医療政策論の観点から、ていねい に整理していただきました。それではお2人の方々のご意見を踏まえ、委員のほうから 質問、あるいはご自分の意見がありましたらどうぞ。 ○川合委員  鈴木参考人に質問します。私は医学しか学んだことのない経営の素人ですので、非常 に幼い質問をいたします。鈴木参考人の所が内資なのか外資なのか、私は存じ上げませ んので、内資と仮定して質問するわけですが、官営のリサーチセンターと鈴木参考人の リサーチセンターとが、不公正な競争状態にあるという環境で、外資のリサーチセンタ ーが入ってくるという話があった場合、鈴木参考人はどのように対応されますか。 ○鈴木参考人  私は官営ではありません。先ほど株式会社とご紹介いただきました。株式会社旭リサ ーチセンターです。ご質問の趣旨は、外資が入ってきたら、どう対応するのかというこ とですが、入ってくるのは自由であって、私どもがそれを阻止することも出来なけれ ば、阻止する意思もありません。お互いに研鑽して競い合えばいい問題であって、外資 だからといって拒否する理由は全くありません。 ○川合委員  前提がひとつ違うと思いますのは、病院に関しては官営の病院と民営の病院とが共存 して、競争しているわけですね。「競争」という言葉を使っていいかどうかは知りませ んが、それで営利のものが入ってくるという環境ですから、鈴木参考人のリサーチセン ターと私どもの病院とは、業界の環境が全く違うわけです。そういう前提を踏まえての 質問なのです。 ○鈴木参考人  おっしゃっている意味がよく分かりません。もう少し明快に言っていただけないです か。 ○川合委員  私は、まずリサーチセンターが何者であるか分からないという前提で、ご質問してい るのです。要するに公が設立したリサーチセンターと、民間が行っているリサーチセン ターとがあります。官営の所では税が投入されているわけですから、競争を行うとして もアンフェアーな状態で行われているわけです。そういう職場環境なのです。ところが 現実に医療、病院という環境では、大きく分けてそういう2種類の形で、アンフェアー かフェアーという議論は置きますが、それなりに経営を行っている状況があるわけで す。ですから鈴木参考人の会社の状況と我々病院の状況とは、少し違うのではないかと いう前提を踏まえ、どう考えるかということです。外資というのは、我々の所では営利 企業の参入と同義語というように、とらえていただいて結構です。 ○鈴木参考人  大体わかりました。いまのお話で、株式会社を外資にお例えになるのは、私は少し問 題が違うのではないかと思います。国公立の官営病院と民営病院の問題だとするなら、 これも株式会社問題とは少し違うと思います。 私は思うのですが、先ほど遠藤参考人がおっしゃられたけれど、営利と非営利というも のをスパッと分けて対立させて、どちらが良いかという議論をやってみても、ほとんど 無意味だと思います。  もともと「営利」という言葉の意味ですが、いまの営利・非営利といわれる法人の中 で、「営利」とは何かといったら、私に言わせると明治民商法の産物、つまり資本主義 の未発達段階の発想だと思います。 私が言いたいことは、「株式会社」という経営形態のものにも問戸を開いていって何が 問題だと言うのかということです。しかも最初から申し上げているように、全部を株式 会社にせよなどとはまったく言っておりません。そういう形でやりたい者に対して門戸 を開いて何の支障があるのか。安い費用で資本を調達するとおっしゃりますが、そうい う市場から安く資本調達できるのは、不特定多数の人から資本金を調達できる、つまり 上場できる規模のものでないと不可能なのです。  「株式会社」と言っても個人営業の場合は、銀行の借金に頼らざるを得ません。です から、そういう規模以上のものが、どちらを選択するかは、その法人の経営の判断の問 題なのです。そのときに非営利法人的なものをお採りになるならば、それも1つの判断 だし、株式会社を選ぶのも1つの判断だと思います。要するに私がまとめて言いたい事 は、営利か非営利かという問題を鮮烈に対立させて、その損得の議論をここでやっても 始まらないと思います。入りたい者に対しては入らせてやり、もしその者がもたらすで あろう問題があれば、それに対しては個別に措置してていけばよい問題だということ を、現実論として申し上げているわけです。 ○石井委員  私は質問ではなく、簡単に意見を述べさせていただきます。私は会計士でございまし て、最近世に言われている情報公開と第三者監査の中心的位置にいる職業領域の者で す。私自身、前回のこの会議でもご説明しましたように、医療界は変化が必要である し、様々な改善が必要だという意見を明確にしているつもりです。あるいは病院経営情 報の開示との関連で、病院会計準則の見直しに関してもそのメンバーとして現在作業を 進めております。最終的な結論を先に申し上げますと、私自身は遠藤参考人のご意見に 賛成しております。どうして賛成かということに関する説明を、簡単にいたします。そ して大変恐縮ですが、鈴木参考人の考えに対する、私の見解を述べさせていただきま す。  1つには、「良い意味の競争は、あらゆるものを浄化する作用を持つ」と書いてござ います。それは非常に論理的であるし、一見現実的ですが、実際の世界では、残念なが らそう簡単には実現されていないという事実が存在しております。「競争」という言葉 だけでは済まない世界が、たくさんあるのも事実です。また「有価証券報告書による情 報公開や第三者監査などによって、このシステムを持つ株式会社が日本の発展を実現し た」とお書きになっていますが、残念ながら戦後50年を経過して、株価は最高値3万 8,000円が9,000円前後、土地に関しては約1,000兆円の評価損を抱えているという現実 があります。「日本の発展は、このシステムを持つ株式会社によって実現された」とは 結論できないのが、いまの時代の現実であるし苦悩であると思います。そういう意味で はコーポレートガバナンスというものも含めて、株式会社制度そのものが再評価の時代 に入っているという事実がありますので、この辺のところは私自身、まさに情報開示や 第三者監査という仕事とかかわりを持っていて、極めて悩んでいるところであります。 「場合によっては営利法人が医療に参入した場合、いまの情報公開や第三者監査を経れ ば、認める余地があるのではないか」ということですが、まさに日本だけではなくてア メリカにおいても、あれほど堅固だと言われていたコーポレートガバナンスが崩壊して おり、その問題に関する結論が出ていない現状においては、残念ながら情報公開や第三 者監査等を経れば、すべてのことが客観的に透明性を保証されるという状態にはならな いというのも事実です。形によって本質は保証されないということを、実感せざるを得 ないわけです。  最後に、配当の問題です。つまり営利・非営利という議論の本質は、先ほど遠藤参考 人からもお話がありましたように、配当問題だろうと思います。結果的に得た計算上の 余剰は、ある一定の会計期間を前提にして算出されたもので、現在の会計理論において も非常にさまざまな見解が出されておりますが、絶対的数値ではありません。その数値 をもって配当を行っているわけですが、医療事業によって得た余剰を配当することが出 来るかどうかが、いちばん大きな問題であろうと思います。本来であれば株価の形成と いう問題も議論したいところですが、それは置きます。  もし株式会社に本当に参入を認めるのであれば、私は個人的には株式会社における病 院事業の最終的な会計損益というものを明確に出し、その損益に関しては配当可能利益 に参入しない。そして出てきた所の利益に関しては、病院事業ないしはその周辺に直接 的にかかわりのある事業に限って、活用を認めるという縛りをしなければいけないので はないかと思っています。しかしながら現実的な実現性において、それは難しいのでは ないかと思います。計算上、理論的にそれを行うことができても、いちばん最初に株式 会社が自らの資金を使って病院経営に乗り出した際には、株式会社が過去に一般の営利 事業によって得た資金を投入いたしますから、最終的に配当できなくなりますと、リタ ーンがないという話になり、株主が納得しないという問題が出てくるのではないでしょ うか。そのあたりの問題を、きちんと明確にしていかなければいけないのではないかと 私は思います。  結論的に現時点においては、まだ株式会社が直接的に病院の経営に参入をすることに 関しては、積極的に賛成とは言えません。どちらかと言いますと、「変化」あるいは「 競争」という言葉のみを持って是とする世界のほうが、早晩破綻するのではないかと感 じております。 ○西島委員  鈴木参考人とは日本医師会もいろいろ議論してまいりましたので、ここでとやかく言 うつもりはありませんが、先ほどの鈴木参考人のお話で、ようやく理解したことが1つ あります。それはこの世界の勉強をし始めて、まだ1年ちょっとしか経っていないとい うことで、ようやく理解できました。いろいろなことがお分かりになっていないまま、 1つの数字だけでお話されているのだろうと思います。そのあたりを少しだけ、私自身 からお話させていただきます。  例えば「昭和23年以来、ほとんど変化のない社会」と言っておられますが、昭和23年 から現在までの間に、どれだけ健康寿命が延びてきたのか。また乳幼児の低死亡率も、 世界一に位置されているわけです。確かに法制度そのものに大きな変化は与えてこな かったかもしれないけれど、医療内容にはものすごく大きな変化を遂げてきていると言 え、まずはこの議論をしなければいけないはずだろうと思います。  また「ITからの逃避」と言われますが、私どもは決して逃避をしているわけでも何 でもありません。例えばレセプトが、まだ紙のレセプトだと言われておりますが、まさ しく大企業がつくり出したレセコンが、取囲みのためにデータの移行もできない、互換 性もない機械を作ってきたがゆえに、実はIT化が進んでこなかったとも言えるだろう と思います。ただし今のレセコンというのは、80%以上の医療機関がすでに導入してい ますので、これをきちんとシステム化すれば、いつでも出来る話だろうと思っていま す。しかしレセコンもほとんどがオフコンです。つまりオンライン化できない。これも やはりメーカーが作ってきたレセコンの弊害だろうと考えております。そういう意味で IT化に関しては、私ども日本医師会がいちばん進んでいるというように自負している ところです。いま大事なことは、標準化をどう進めていくのかということと、マスター 等々をどう整備していくかということで、そういうところに今取りかかっているところ です。このあたりが全く整備されてこなかったのは、経済産業省主導型の開発というと ころに、大きな原因があるのだろうと考えております。  それから、公的保険と保険外診療の併用に反対しているということについては、なぜ これを反対しているのかという理由が、お分かりになっていないのです。本来であれば 必要な医療は、保険で診るようにするのは当たり前です。お金がないからという話は別 問題としても、必要な医療というのは、ほとんど保険に取り込まれているわけです。混 合診療に反対しているのは、勝手な価格を付けて、それをサービスとして医療機関が提 供することに対して、私どもは反対しているわけです。つまり混合診療というものを許 可いたしますと、それぞれの医療機関が勝手な価格を付けてしまいます。例えば公的保 険で公定価格で定められている価格を無視してやることも可能なのです。この混合診療 をいま出来ないようにしているのは、一連の医療行為の中にそういうものが入ってくる こと自体、駄目だと言っているだけのことなのです。  総合規制改革会議が言われている、なぜ混合診療を認めないのかというのは、公的保 険の守備範囲の見直しと混合診療というのが、ワンセットなのです。つまり公的保険制 度の守備範囲を縮少し、混合診療の部分を拡大していくことによって、利益を得るとい う考え方が、ここに明確にあるわけですので、これは決して上乗せの話ではないので す。この中でセコムが出したがん保険が、まさしくそれを言っているわけです。ただ、 これは最高日数が限定されております。ではそれ以降の医療はどうなるのかというの は、そこでは全く触れられておりません。  さらにもう少し言わせていただきますと、この競争原理というのは、まさしく価格競 争なのです。セコムのがん保険で見ましても、病院と契約するときには、1点12円で契 約します。これはおいしい話です。しかも被保険者、お金を支払う患者たちに対して は、安い保険料でやります。最初はそれでやれるでしょうけれど、そういうことが定着 していきますと、当然このあたりに後退する修正がかかってくることは、目に見えてお ります。そこで私どもは、「生命に価格を付けるのですか」と言っているだけのことで す。  それから「診療所集団」云々と書いておられますが、病院はすべて日本医師会に入っ ておられるわけで、いまの会長は病院です。私も病院ですし、若い常任理事も病院で す。つまりここでは古い考え方が謳われているということに、鈴木参考人の認識のなさ というものがあるのではないかと思っているところです。  情報開示等々も、確かにそうですし、第三者監査があって、非常に透明性があるとい うようにも言われておりますが、一連の不祥事というのは、まさしくこの第三者監査が 機能しなかったところから起きているわけです。ですから、そのあたりも必ずしも透明 性があるとは言えないだろうと思います。  また最近出てきた議論の中に、株式会社立の病院が67病院あって、ちゃんと経営を やっているではないかと言われます。これはそもそも生まれてきた経緯が全く違いま す。職域病院であり、その職員の福利厚生のためにつくられた病院なのです。その方々 が退院し、その家族なり親戚なりがその病院を使うようになったことで、今はかなり一 般的に開放されているわけです。これは株式会社立病院のような、営利的な考えを持っ た病院でないことは明確です。新日鉄の八幡病院は、株式会社から医療法人に変わりま したし、北九州のNTT病院が、今度医療法人に売却いたします。そういう実態がある わけです。  もう一つ盛んに言われるのは、直接契約のことです。今日の内容には入っておりませ んが、直接契約というのは、まさしくフリーアクセスをなくすという話です。直接契約 になりますと、ここの病院しか行けないという話になります。そうなりますと、果たし てここに競争の原理が働くのかと。こういう問題があるから、実はアメリカでは患者の 権利法等々が成立してきたわけです。HMOを中心とした問題が、アメリカで大きな問 題になっていることは、もうご存じのことだろうと思います。  いま問題なのは、総合規制改革会議の宮内議長等々が、「なぜ株式会社を入れないの か」と言われることです。宮内さんも、辞められたセコムの方も、実は病院のファイナ ンス、保険、医療周辺サービス等々、周辺でいろいろな事業をされているのです。これ に病院経営を株式会社として入れれば、ワンセットになります。まさしく利潤が拡大す る話なのです。病院経営ができないがゆえに、その利潤がどうしても中途半端な形に なってしまっているので、どうしても株式会社としての病院経営をさせなければいけな いというのが、この方々の考えだろうと、私どもは思っております。そういう意味で、 総合規制改革会議が出されるいろいろな考え方には、そういう部分がかなり大きく影響 しているのではないかということを、私どもは非常に危惧しているところです。 ○大石委員  私は、この中では少数派になるのかもしれませんが、基本的には鈴木参考人のご意見 に賛成です。遠藤参考人のご意見は、申し訳ないのですが、ちょっとよく分からなかっ た部分があります。まず私のバックグラウンドから申し上げますと、私はもともとリ サーチ会社みたいな所におりまして、いまは実際に医療界の中におります。あとは内資 ・外資の両方を含めて、大企業の役員もやらせていただいています。ですから、わりと 多面的に見られるのではないかと思っております。その経験なども踏まえて、いくつか 申し上げたいことがあります。  まず1つは、多分鈴木参考人がおっしゃっているのは、別にすべての病院を株式会社 化しろとおっしゃっているわけでもないし、すべての病院が営利として運営しろとおっ しゃっているわけでもありません。基本的には株式会社というものを、1つの運営形態 のオプションとして認めるということです。それはそうしたい人に対して、そういうパ スを認めるべきである、ということをおっしゃっているのだと思います。また無条件で はなく、それに対してはいろいろな制限とか、監視をする方法などを加える中で、やっ ていく方法を見い出すべきではないかとおっしゃっていると思います。こういうお話で あれば、私は基本的には非常に賛成です。  特に参考人が言われているお話の中で、新しい血液をギルド化しがちな、この世界に 入れるということは、私はこの医療界において、非常に大事だと思います。確かに株式 会社化することが唯一、ギルド化しがちな世界に新しい血を入れる方法ではないと思い ますが、1つの有力なオプションにはなり得るのではないかと思っております。私ども の例で恐縮ですが、私どもは病院ではなく、たかが1つのクリニックですが、かなり経 営を専門にやってきた人間が、先生方と共同経営者という形で入らせていただいており ます。  ですから、もともと株式会社的な経営の理論や実践を持ち込んで、経営しているので す。その成果は、時間が経たないと分からない部分もありますが、実態として例えばカ ルテの開示に関しては、当面ほかの先生方でも、やられている所はありますが、多分日 本で先駆けて、非常に積極的に取り組んでいます。インターネットを通してのカルテの 開示など、ほかではやられていない例にも取り組み始めております。また開業時間も、 朝8時から夜8時というように非常に長くして、患者ができるだけ受けやすいような診 療時間にしております。そうやってかなりいろいろな形で、積極的に新しい経営努力を やっております。  これをやり始めてわかったことは、自分たちの所でいろいろ変えていったのですが、 それを見て、何だ、こういうことをやると良いではないかということで、賛同して新し く自分たちも開院時間を長くしたり、積極的な情報公開をしたりという先生方が、周り に増えてきました。ですから一石を投じるという意味では、非常に意味があったのでは ないかと思っています。  では経営的に見てどうなのかというと、決して儲け主義でやっているわけではありま せん。余分な検査は一切するなというようにしておりますし、周りの診療所が受けない ような生活保護の患者も、かなり積極的に受けています。ですから診療所の経営自体、 患者単価は低いので、そんなに楽ではないのですが、そこは経営努力で何とか乗り切る ということで、今のところは無事に過ごしております。  要は何を申し上げたいかと言いますと、私どもの場合、現行法の範囲の中でやれる形 態でやっておりますが、やはり株式会社的なものの考え方を入れることによって、いろ いろ変えていけたことも確かです。ほかに株式会社を認めることによって、こういう形 で続くような人たちも、どんどん出てくるのではないかというのが、私どもの実感で す。ですから株式会社を入れると、すべて悪だとも思いません。むしろ新しい変革が起 こってくる布石になるのではないかと、私どももやっていて実感として感じます。  2つ目の話としては、営利法人の話です。鈴木参考人と同じような感じで、私自身が 医療関係の仕事をし出して非常に不思議に思ったことは、開業医の問題です。個人開業 というのは、売上げから費用、自分の給料ではなく、看護婦の給料や医療機材など、い ろいろなものを引いて、その残りの税引き後の部分が、全部院長先生の取り分になるわ けです。これは実態として、100%配当と非常に近い形だと思います。その100%配当の 部分を診療所に戻すか、それとも自分の生活費として使うか、場合によっては遊興費と して使うかというのは、完全にその先生の判断に任されています。それと株式会社的な 配当とどう違うのかが、私にはよく分からないのです。これはやはり長期的に、患者の ためにも診療所のためにも戻すというように判断される方もいるし、そうでない方もい ると。ですから、そういう個人開業医の形態を認めながら、株式会社だけはおかしいと 言うのは、私としてはよく分からない議論だと感じています。  多分皆さんがご懸念なのは、株式会社に参入させると、外資の会社などが大量に参入 して、日本の医療界が荒らされるのではないかというご懸念があるかと思います。やは り外資というのは、非常に儲け主義であることは確かです。ただ反対に、日本の医療界 は全然儲からないですから、外資の参入対象としては、極めて魅力の薄いものなので す。要するに、彼らにはほかにも投資対象があるわけで、その中でどれがいちばん良い かを選びますので、大量に攻め寄せてくるということは、ほぼ絶対あり得ないのではな いかと思っています。  もう一つの話としては、不公平な競争という話がありますが、私は株式会社とそうで ない所との不公平な競争を論じる前に、民間病院と民間でない病院との間の不公平な競 争を、まず問いただすべきではないかと思います。自治体立病院というのは、やはりか なりいろいろな形で、補助金や補填が出ています。例えば電子カルテ一つ取ってみて も、何十億円も絶対に取り返せないし、しかもそれが本当に患者のためになっているの か、よく分からないような投資を平気でしながら、それで有名になっている自治体立の 病院とか、そこの院長先生などがいらっしゃるわけです。このような所と同じ土俵で競 争していかなくてはいけない民間病院、しかも全体の保険点数のパイは少なくなってき ているわけですから、この競争を何とかしていかないと、民間立の病院の将来は、非常 に暗いものではないかと思っています。これは本件とは関係ありませんが、ひとつ問題 提起させていただきます。 ○田中座長  この際、ほかにご意見を言われたい方、あるいはお二方へのご質問がおありの方、い かがでしょうか。 ○遠藤委員  先ほど石井委員から、ご報告いただいた鈴木遠藤参考人に対する疑問ということで、 意見を表明していただいたわけですが、鈴木参考人から何かお話があるかと思っており ましたら、特にありませんでしたので、私が思うところで、どう考えたらいいかという ことをお話したいと思います。  まず第1は、良い意味での競争というのは、あらゆるものを浄化する作用を持ってい るというのは、本当でしょうし、理論的にもまさにそうだろうと思います。ただ実際と 理論は違う面はあるわけです。それはどんな世界もそういうことですので、理論的に非 常に重要な競争原理というものが機能するということを前提にすることが、まず大事だ と申し上げたほうがいいかなと思います。  2つ目は、株式会社形態そのものについて、それが日本の社会をうまくリードし、形 成してきたというお話に対して、そうは言っても株価はこんなに下がっているではない か、資産はこんなに暴落しているではないか、企業は昨今に至っても、あちこちで不祥 事を起こしているではないかといった、ある種の病理現象を取り上げられて、株式会社 制度そのものが果たしてどうか、というお話があります。何か羹に懲りて韲を吹くよう なお話のように、私には思えます。病理現象というのは、常にどこかで出てきます。そ の病理現象に対してどういう対応をしていくかというのは、制度を運営して維持してい くために、当然、常日ごろやらなければいけないことです。競争原理が働いてくる限 り、ある種の負の状況が大きく生じたときには、それに対する浄化作用は、当然働いて きます。それによって次のステップに進むものだと見ればいいのではないかと思いま す。ですから株式会社形態を排除する論理として言えるのかどうか、私には疑問に思い ます。  3つ目ですが、配当のお話をしておられましたね。石井委員のご提案では、配当につ いては配当可能利益の中に含まないような仕組みを、考えてはどうかというお話があっ たかと思います。仮にそういうことをいたしますと、株式会社の営利性そのものを否定 することになりますので、それを「株式会社」とは言いません。株式会社であるけれ ど、利益配当は未来永劫行わない、解散のときの残余財産分配請求権だけがあるという 仕組みにしますと、商法が予定している営利性を否定していることになりますから、組 織変更を迫られて、株式会社が参入するということにはならなくなります。ですから、 そこはそういう仕組みを採るわけにはいかないだろうと思います。  遠藤参考人からもお話いただきましたので、それに関しても一言二言、申し上げたい と思います。遠藤参考人のお話の中で重要な点は、株式会社の場合、クリームスキミン グが行われることになりはしないか、そこが1つの問題であるということと、もう一つ は、配当規制をどういう形でやるのかということが、はっきりしてこないではないかと いうことではなかろうかと思います。先ほどのお話の中でも、クリームスキミングがな されていて、それによって営利法人、株式会社形態の病院が、外国ではみんなよろしく ない傾向を示しているという数字なのかなと思いましたところ、ペーパーの2頁の(1) (2)(3)と上がってきておりますが、必ずしもそうではないように思います。つまり(2) (3)のあたりですと、抑制しているという話はあろうかと思いますが、提供がなされて いないわけではないのだろうと思いますし、それなりの対応はなされているのだろうと 思います。  配当の側面に関しては、医療法なり厚生労働省所管のそれぞれの特別法で、株式会社 形態の病院の配当についての規制の在り方というものに、特別法上の枠組みを設定して やればいいわけです。それはできない話ではありませんので、そういう枠組みをつくれ ば、それなりの対応は可能ということになろうと思いますから、それを株式会社形態の 参入を認めないという論理で使うのは、どうかなと思います。  このように見ていきますと、株式会社という選択肢を認めましょうという話であっ て、全体を株式会社化しろという話ではないのです。先ほどご報告いただき、あるいは ご議論いただいている中身では、選択肢を広げること自体を否定する論理として、そう いった点は必ずしも明快には出ていないのではなかろうかという印象を持ったところで す。 ○豊田委員  株式会社の参入に反対の立場から、私の意見と、鈴木参考人にご質問したいと思いま す。ご承知のとおり日本の医療は、戦後50余年、非営利の中で現在に至っているわけで す。鈴木参考人は先ほどのレジュメの中でも、医療の質の向上と経済の発展、あるいは 再生のためということで、株式会社の参入を推進しているようですが、まず医療の質の 問題についてお尋ねしたいと思います。この50余年の中で、医療は非常に進歩しており ます。医療の本質というのは、病いを癒すことです。したがって医師の仕事は、病気を いかにして治癒に導くかということで、そのための勉強をしているわけですし、そのた めの研鑽をしているわけです。  そこで先ほどから出ている競争の問題に絡みますが、医療人のいちばんの競争は、自 分自身の医療技術をいかに高く持っていくかです。これを日夜研鑽しているのです。医 療技術を高めるということ、これはかなり過酷な競争でもあるわけです。しかしお話を 伺っておりますと、どうも鈴木参考人の競争というのは、そうではなく、対価とサービ スの関係で言われているのだろうと思います。そういうことであると限定すれば、鈴木 参考人のご意見にも理由はあると思いますが病院というのは、病を治す所です。「競争 はない」と言うのは、認識の違いではないかと思います。  株式会社参入の問題が生じて、いろいろな議論が生じておりますが、その中で私が非 常に気になっている点があります。先ほど鈴木参考人は、医の倫理とか医の本質につい ての議論は観念的だと受け取られるような発言されましたが、非営利の中で育ってきた 我々からすると、医療について勉強する過程で、やはり人の生命というものと、テープ レコーダーやカメラとは異質のものである、やはり人の生命はお金に換算するものでは ないし、そういうことに使ってはならないという考え方なのです。この価値観を観念的 と否定されては、我々は同じ土俵には上がれないのです。そういう考え方は、人の生命 と物を同列に考える議論だと思います。生命と物が同じであるなら、鈴木参考人の言わ れることも、一理あるのかもしれません。私どもが非常に大事にしている価値観という のは、その国々によって違うと思いますが、一つの精神文化であり、国民の中に定着し た観念であると思います。ですから観念論だなどという一蹴は、もうやめていただきた いと思います。  また経済の発展・再生のためと言われましたが、いま私が言った医の倫理から言え ば、経済の再生や発展のために医療を使うのは、以ての外です。これは断じて認められ ません。  それから株式会社の参入について言います。株式会社が参入するとすれば、そこで利 益が上がるからだろうと思います。株式会社が医療の質を上げるために参入するなどと いう話は、直ちには信じられないので、利益を上げるために入ってくるのだろうと思い ます。現在、医療改革として提案されているプログラムの中には、混合診療を認めると か、公的な保険の守備範囲を狭めるといったことが入っております。  まず後段の公的保険の守備範囲を狭めるというのは、非常に大きな問題です。いまは 公的な保険で、すべて診てもらえますが、どういう切り口で制限されるかは分かりませ んが、それが制限されるということになりますと、病気になったときに、保険だけでは 通用しないという事態が生じます。当然、そこにはそれをカバーするための民間保険と いうものが出るわけです。それは金融界にとっては、歓迎すべき経済活性の手段である のかもしれません。しかし私どもから見ますと、例えば現在でも生命保険会社で行って いる任意保険の場合、一定期間内に手術をした人、病気をした人、現在薬を服用してい る人といった、本当に医療が必要な人たちは、制限を受けます。つまり民間保険という のは、初めから損失を被るような保険をつくるわけはないのです。  そこで、いちばん重要なことを申し上げます。一方では株式会社が参入し、混合診療 が行われ、非常に療養環境のいい所で、その患者のニーズに合った素晴らしい医療が受 けられる人が出てきます。その一方で、民間保険にも入れないし、蓄えもないために、 医療さえ受けられない人たちも出現するという現実が、必ず出てまいります。私どもは 戦後、「社会主義的である」とか、いろいろ言われましたが、戦後の医療制度でいちば ん良かったのは、誰でもどこでも非常に安いお金で、病気の治療ができるというこの安 心感を、国民に与えたことではなかったかと思います。  ですから今の医療がなぜ株式会社を参入させるのか、そんなに日本の医療が悪いのか と。現に2000年のWHOでも、日本の医療に対する評価は、世界のトップクラスである ということも公認されているわけですから、いまの医療体制を崩すやり方が、なぜ必要 なのか。私はまさに経済的な問題以外にはないと思います。医療費の財政的な問題につ いては認めます。株式会社を参入させることによって、医療の質を向上させるという問 題とは、異質の問題であると考えております。 ○田中座長  予想どおりこの問題は、多分1日がかりのシンポジウムをしても終わりません。 ○西島委員  株式会社の病院経営を、国民は本当に望んでいるのでしょうか。この話が今日も出て きていないのです。例えばマスコミがよく社説などで書かれているのを見ますと、あれ は経済担当の記者が書かれたような記事なのです。本当に国民が望んでいるのだろうか どうかというのは、やはり今後議論しなければいけない部分ではないかと思います。 ○田中座長  続けておりますと、ますます議論は白熱すると思いますが、実はもうお一方の参考人 を呼んでおりますので、申し訳ございませんが、この話題はここで切らせていただきま す。ただしいろいろな質問やコメントが出ていました。それに対しては手短に主な点に ついてのご自分の意見を、最後に鈴木参考人と遠藤参考人にお答えいただく場をつくり たいと思います。お願いいたします。 ○鈴木参考人  この問題について真剣に議論されていることに対しては、大変結構だということで評 価いたします。ちょっと誤解のないように、西島委員に言っておきます。確かに私は2 年ですが、あなたが今おっしゃったような事は、十二分に話を聞いた上での問題提起を したつもりです。また特定の人が特定の問題をという議論は、やはり普通のフェアな議 論の中では、おやめになったほうがよろしいのではないかと思います。  ただ、そんなつまらないことを言い合っていても仕方がありません。医の倫理に関連 して、医の程度が上がっていないなどとは申しておりません。それは上がっておりま す。当たり前のことです。世の中の医療は発展したのだから、戦後の医療の水準よりも 日本の医療の現状が上がっているというのは、当たり前のことです。では日本の医療は 世界をリードしたのか。この意味で問題を反省していただきたいと思います。ですか ら、そこのところを「上がっていない」などと、私は不遜なことは申しておりません。 ただシステムは、まるでそれに付いていっていない。ここのところはどうやら共通点が あるようです。  それと医の倫理というものを、決して否定いたしません。否定するどころか、それは 大いに重要なことだという前提に立って、私は申し上げております。しかし医の倫理を 過剰に振り回さないでくださいということ申し上げておきます。医師会の方々と討論を やりますと、その傾向がどうしても過剰に出てきます。混合診療反対の根拠に「人間の 生命は平等なのだから」とおっしゃるから、私は何度も会議でその質問をしたのです が、それを説明されないのです。結局人間の生命は平等だということをベースとして、 「お医者さんの平等を狙っているんですか」と聞いたら、それに対しても反論もしてく れないのです。そういうことが実態であるということもお含み置きください。  コーポレートガバナンスで悩んでいるというのは、遠藤参考人が明快にご指摘なさっ たとおりで、私も全く同感です。日本の株式会社がいま、コーポレートガバナンスでい ろいろ悩んでいることは確かです。しかしこれは克服するに決まっている話ですし、も し克服できなかったら、日本丸自体、沈没せざるを得ない問題だと思っておりますか ら、いちいち過程の問題のところで、あまり悲観的にならないでいただきたいと思って おります。  そのほかに、今日は本当に建設的な話ができました。大石委員には、そういうように して皆さんを説得していただくことをお願いしておきます。いくつかの建設的なお話を 聞かせていただいて、まさに私が望んでいるのは、こういう議論をやりたいということ で、どちらがどうだ、誰がどうだなどという議論は、やめたいと思います。そして出来 るところからやっていきたいし、変えるべきものは経営形態以外の問題を含めて、早く 変えたいということに尽きます。どうか意のあるところを汲み取っていただき、真剣な ご議論をお続け願えたらということを、私どものほうも当研究会に対してお願いしてお きたいと思います。よろしく。 ○田中座長  ありがとうございました。遠藤参考人、どうぞ。 ○遠藤参考人  私も大変建設的な、活発なご意見を拝聴いたしまして、大変勉強になりました。先ほ ど言っていることがよく分からないというご意見もありましたので、私が申し上げた かったことを、一言で申し上げます。まずさまざまな医療の問題はあるけれど、私の視 点からすると、それが営利病院参入によって改善するというイメージがつかめないのが 1つです。それと諸外国の事例を見てみると、クリームスキミングの傾向があるわけで す。そして我が国の状況を見た場合、明らかに資金調達上、大企業に有利な形になるの ではないかということです。このような情報が完全でないような市場では、営利活動に よって利潤を獲得することが、社会的な便益を向上するというメカニズムが、十分発揮 できない領域ですから、そういう中で大組織のみが、あるいは大企業のみが安い資金調 達コストで、大量の資金を調達できるためには、そういう形態の運営のほうが良いとい う、何がしかのものを知りたいというのが、率直な希望なのです。  ところがそれについて私は、よく分からないのです。先ほど入りたい人は入ったらと いうお話がありましたが、クリームスキミングというのは、やはり利潤動機が強く発生 する所で起きるのです。そういうことも考えたときに、一体これがどういう効果をもた らすのか。まさに先ほど大石委員から出されたように、いろいろな新しいノウハウが生 まれています。しかしそれは非営利の形態のクリニックでもできたわけです。なぜ株式 会社形態にしなければ、そういうノウハウが出てこないのか、伝播しないのか、そこが 正直言って私の理解できないところなのです。 もう一つありました、自治体病院と民間病院との間では、補助金などの資金調達上の不 平等があるというのも、よく出る議論です。そういうことがあるから資金調達上の不平 等が、大企業と中小病院との間であってもいいではないかというのは、私はおかしいと 思います。それはやはり本来、非営利の中で不平等があったことがおかしいわけです。 ただその場合の不平等は、これが現実的に妥当かどうかは別として、公的病院にはいわ ゆる政策医療を賄う、不採算な医療を行うという大義名分が、とりあえずあったわけで すが、今度は民間の話で、政策医療とは関係ありません。よって、そういうことでおか しいのではないかというのが、私が申し上げたかったことです。 ○田中座長  ありがとうございました。私も一言感想を言わせていただきます。株式会社なるもの が善か悪かという問題設定は、そもそも議論として意味をなさないと思います。また株 式会社が医療を行うと、良い医療をするかしないか、あるいは安い医療が出来るか出来 ないかの問いも、本筋ではありません。株式会社が参入したことによって、社会的共通 資本である医療制度が全体としてうまくいくようになるか、また株式会社が参入してき たことによって、全体が公正な競争ができ、資源配分効率がよくなるか、もっと言えば 社会全体の安定や安心感にどう繋がるかにかかわる判断であって、株式会社が医療とは 別の世界で良いか悪いかについての議論にしてはいけないし、株式会社が個別に良い医 療をするかしないかも、きっとするものもあるし、しないものもあるとしか言い様があ りません。ですから医療政策全体の中で、株式会社が入ってきたことへのトータルな効 果を見るというまとめのほうが、正しいと考えます。  私も諸外国の例を見ると、株式会社論云々が医療政策の大きな課題になっている国 は、見たことがありません。電力なり、通信なり、運輸では、株式会社あるいは自由化 論が、非常に大きな政策課題ですが、医療ではなぜか日本だけがなっている実態だろう と思います。今後ともこの議論は大いに続けてまいりたいと思います。お二方の参考 人、本当にどうもありがとうございました。  次に前回の検討会で、医療法人の効率性を高めるための問題に関して、病院における アウトソーシングの活用についてご議論いただきましたが、それを補足するために、谷 川委員から医療法人経営の効率性について、ご発表いただくことになっております。よ ろしくお願いいたします。 ○谷川委員  この委員会のメンバーの中で唯一、株式会社に所属しております。株式会社論でいろ いろありましたので、1点だけお話をさせていただきたいと思います。株式会社の組織 の中で、いま我々が盛んにやっておりますのは、会社の中での適正手続というものを、 どのように確立していくかということです。つまりデュープロセスということだろうと 思います。結局、組織の中で適正手続がきちんと確立されない限り、いま諸先生方がご 心配になられている、いろいろな問題が出てくる可能性が非常に高くなる場合がありま す。いま現在、その作業を社内で、あるいはいたる所でやっております。これがきっち り出来れば、不祥事と言いますか、あるいは株式会社という隠れ蓑を着た自分に利する 行為は、だんだん少なくなる、あるいは確率が非常に小さくなるというように考えてお ります。  お時間をいただきましたのは、前回のご議論を伺っていて、こんな形の議論なのかな ということで、私なりの意見を少し発表させていただきたかったからです。前回、アウ トソーシングという問題が、非常に議論になりました。その中で私なりに是非掘り下げ てほしかった点があります。結局アウトソーシングというものは、病院経営にとってど ういう意味を持つのか、何のためにやるのかということです。前回、損保ジャパンさん がやられたご発表では、基本的にアウトソーシングをやっている業務は何か、それがど うかという形でまとめられておりましたが、いまご覧いただいておりますように、マ ネージメント体制ということで、最後にまとめております。やはり委託業務の評価や改 善を行う組織体制が整備できないと、アウトソーシングはやれないし、それがまた螺旋 状にと言いますか、相互の繰り返しの中で、アウトソーシングの持つ意味というものが 出てくるのだろうと思います。  そのようなことで病院業務というものを、少し類型化して考えてみてはどうだろうか ということで、これが私なりにまとめた絵です。例えば診察・治療のところは、ご批判 がいっぱいあろうかと思います。この辺は全くの素人ですので、イメージ的に病院の中 の仕事や業務というものをまとめてみると、こんな形ではないかと私が思っているとこ ろです。1つの組織体ですので、業務を類型化したり、いろいろな形の業務がやられて おります。また前回議論にもなりました付随業務・附帯業務というものを、この中に入 れたほうがいいのか、通常の業務のプラスアルファーとして存在するのか、この辺は私 なりにもすっきりしていないのですが、こんな形で病院経営の業務をまとめてみたの が、この絵です。  こういうことをやりますと、パッケージとしてアウトソーシングができるのではなか ろうかと思います。医事会計ということもありますが、真ん中のちょっと右寄りにあ る、「診察・治療、医療、医療行為そのもの」というのは、病院の本来の任務ですが、 その周りに関連する、例えば病院のスタッフの人事的な管理とか、病院に必要な物の購 入といった業務もあります。ただ右下の「給食」の「栄養指導」にまで、「○」を付け てしまいましたが、栄養指導というのは医療行為の中であると理解しておりますので、 ちょっと「○」の付けすぎであろうかと思っております。そんなことを一つ細かくやっ ていけば、医療法人の経営の効率性の向上ということで、これについては石井委員も前 回のご発表で、7頁目で言っておられますが、経営情報というものが十分に把握され て、管理されて、分析・評価されて、伝達されていないということの逆の意味で、こう いうものをまとめていくことによって、少しは効率性の向上に資するのではなかろうか ということを、前回申し上げたかったのです。 ○田中座長  手短にまとめていただきました。引き続いて次のテーマである、「経営の安定性を高 めるための方策」について、社会福祉・医療事業団の小木津企画指導部長から、ご発表 をよろしくお願いします。 ○小木津参考人  当社会福祉・医療事業団の医療貸付事業と、医業経営を支援する事業について、お手 元の資料に沿ってご説明させていただきたいと思います。まず私どもが所属いたします 社会福祉・医療事業団のあらましについて、簡単にご紹介させていただきます。2頁を 開いてください。社会福祉・医療事業団というのは特殊法人で、事業団法第1条にその 目的があります。例えば社会福祉事業施設の設置に関する資金の融通とか、医療に関し ては病院・診療所の設置等に必要な資金の融通といった、社会福祉の増進ならびに医療 の普及および向上を図ることを、目的として設立された法人です。  3頁を開いてください。設立は昭和60年です。資本金は2,900億円余りで、全額政府 出資です。主務省は厚生労働省で、役職員数は277名です。4頁にここに至る沿革があ ります。まず左のほうにありますように、昭和29年に設立された社会福祉事業振興会 と、昭和35年に設立された医療金融公庫が、昭和60年に統合されて設立されたという経 緯です。当時からの事業に加え、統合の時点で経営診断・指導事業が加わりました。ま た平成元年には開業医承継支援事業などが開始されております。平成13年には年金福祉 事業団の解散に伴い、そちらで行っていた年金担保貸付事業を承継して、現在に至って おります。  5頁では当事業団の事業と、その性格についてご紹介しております。厚生労働省が推 進いたしますゴールドプラン21、障害者プラン、新エンゼルプラン、医療関係で言い ますと、良質かつ効率的な医療サービスを提供するという医療制度改革の流れ、あるい は年金制度にかかわって、その政策目的を達成することを事業目的としております。そ の下にありますように、大きく分けて8本の事業を行っております。福祉貸付事業、医 療貸付事業、年金担保貸付事業という融資の事業があります。経営診断・指導事業とい うものもあります。社会福祉施設に関しては、退職手当共済事業、心身障害者扶養保険 事業、「WAM NET」と言っております福祉・保健情報サービス事業をやっており ます。また長寿社会福祉金などをはじめとする、基金による助成事業も実施しておりま す。  この中で医業経営を支援する事業ということでは、3つご紹介したいと思います。ま ず医療貸付事業ですが、こちらは民間の医療施設が良質な医療サービスを提供するため の支援をするもので、長期固定低利の資金を供給するのが、主な役割です。この下のほ うに書いてありますが、融資の対象となる施設は、病院、診療所、介護老人保健施設を はじめとする施設です。融資を受けられる方は個人、医療法人、民法法人、社会福祉法 人、学校法人などです。  7頁に融通する資金の種類があります。メインは医療施設を設置するための設備整備 資金で、建築資金が主流です。それに併せて、機械の購入資金なども貸し付けておりま す。また長期の運転資金として、新設に伴って必要な資金、あるいは経営の安定化に必 要な資金などを供給しております。利率は基本的に低利で貸し付けるということで、財 政融資資金を原資としておりますので、その金利を基準にして、優遇金利で貸し付けて おります。融資額の限度額については、それぞれ政策の優先度合に応じて限度額を設 け、融資対象の融資率も細かく変えております。融資期間は、長いものは25年からあり ますが、主立った病院の増改築資金などは、大体20年ぐらいが通常の場合です。長期の 運転資金などは、5年とか3年といった短期のものも若干あります。  8頁ですが、基本的にこの医療貸付事業は、医療政策に連動して、政策の優先度合に 応じて金利を設定しております。左のほうに行くほど、政策の優先度合が高いものと なっており、金利は逆に、上に行くほど低いものとなっております。例えば介護老人保 健施設などは、政策の優先度合が高いので、最も有利な金利で貸し付けております。現 状では財政融資資金の貸入金利が1.2%と非常に低い水準ですので、制度的にはそれ以 下で貸し付ける設計になっておりますが、今のところは同率です。それから病院・診療 所の不足地域における新設・新築・増改築資金というのが、次の優先順位です。さらに 過剰地域においての増改築資金です。経営安定化資金というのは、政策優先度合として はその後に属しますので、そのあたりになりますと長期プライムレートと、かなり近い 水準で貸し付けております。現状では財政融資資金の貸入金利が、20年もので1.2%、 長期プライムレートが1.6%という非常に低い水準ですので、政策優先度合に応じた金 利設定は、今のところあまり差が現れませんが、政策融資という関係上、こういった金 利体系になっております。  9頁です。当事業団では、東京にある本部と大阪にある支店で、貸付業務を行ってお りますが、利用者の利便を考え、都市銀行、地方銀行をはじめとする市中銀行を代理店 として、業務の一部を委託しております。資金の中身により、特殊な判断を要しないも のについては、代理貸付けで貸し付けております。その割合は9頁の右のほうにありま す。件数で言いますと4割程度が代理貸付けです。やはり金額的に大きなものは、直接 貸付けになりますので、9%程度が代理貸付けという状況になっております。  10頁には、実際の融資の残高を表にしたものがあります。現在のところ、平成13年度 末までの融資の残高ストックですが、こちらが1兆8,825億円です。その内訳を見ます と、46%が病院、6%が診療所、48%が介護老人保健施設という状況になっておりま す。件数で見ますと診療所が多くなり、これもストックベースで3,000件以上というこ とで、41%が診療所という具合になっております。こちらの目盛りには数字が書いてあ りませんが、平成13年度単年度に貸し付けた額は、2,500億円です。その内訳は病院が 61.6%、診療所が7.9%、介護老人保健施設が30.1%となっております。  11頁ですが、これらは政策融資という性格を持っておりますので、医療政策の動向に 応じて、それを側面支援するという形で、政策メニューを織り込んでおります。これは 平成5年度から平成13年度にかけて、そのメニューが改正されたものです。この中には 電子情報化など、さまざまな政策の動向に応じて、メニューを加えております。  12頁は、実態的に病院側から見て、貸付事業がどのように役立っているかです。貸付 けの申込みに来られた医療施設の資金計画から見たとき、どうなっているかということ ですが、病院の場合、事業団に来られた方で、全体の資金需要に対して57%が、事業団 からの貸入れで賄っており、22%が市中銀行から、その他の資金がこのような形になっ ております。介護老人保健施設は補助金の額が膨れますので、56%が事業団からの貸入 れです。  ただ、これは事業団に来られた方の状況ですが、13頁を見ていただきますと、もう少 し範囲が広くなりまして、医療と保健に関連するビジネスなどが入ります。例えば検査 業や消毒業などが入ってきますが、こういったものの日銀の統計を見ますと、市中銀行 で81%、当事業団で15%程度の供給のシェアになっております。  さらに14頁に進みますと、平成13年度の総融資実績は、878件、2,482億円ですが、こ れまでの累積で見ますと、8万8,822件、4兆2,379億円ということで、現在の融資残高 は先ほどご紹介したとおり、7,483億円、1兆8,825億円です。過去10年間において貸付 事業における成果として見た場合、5,200医療関係施設の新設や、3,000施設の増改築に 資金を提供しております。介護老人保健施設については、15万8,000人分の利用が可能 になるような施設整備に供給しております。病院においては3万2,000床の増床、8万 7,000床の建替えに貢献しているといった状況です。新ゴールドプランに関しては、下 のほうに書いてありますが、介護老人保健施設の79.3%が、事業団の融資の対象となっ ております。  15頁ですが、医業経営を支援する事業の2本目の柱として、経営診断・指導事業とい うものを実施しております。これは民間の福祉施設や医療施設の安定経営をバックアッ プするということで、実施しております。集団の経営指導というのは、医療経営あるい は介護老人保健施設の経営に関して、セミナーを開くものです。また、個別の施設から の申込みにより、施設の経営診断を行っており、毎年30件程度の需要があります。  16頁からは、その内容を少し紹介したものです。16頁が、平成14年度に実施する予定 になっている経営セミナーの内容で、このようなものを織り込んでおります。最近では 近代化や効率化ということで、情報システムの導入とか医業経営の改善事例の紹介と いったニーズに応じて、セミナーを実施しております。  17頁からは、個別の経営診断です。これには2つの種類があります。私どもでは貸付 け先のデータを保有しておりますので、3年間の決算データを基に、申込みのあった施 設と同種・同規模の施設を選定し、安定的に経営されている施設のデータがどのように なっているか、それと比較しながら、その施設の経営状況を診断するというやり方をし ております。診断料はこのように低額で実施しており、これまでのべ304施設によって おります。  18頁では、どんな項目について診断しているかを、簡単に紹介しております。施設の 機能の面、費用の適正性の面、あるいは安定性、収益性、生産性といった観点から、各 項目を比較診断しているところです。  19頁ですが、今のものは書面による診断ですから、書面をいただいて、さらに電話で 聴取して、内容を確認しながらの調査ですが、さらに現地に出向いて、かなり綿密に調 査するという方式も採っております。過去にのべ83施設を実施しており、こちらのほう は診断料として、少し高めになっておりますが、こういった内容です。  そして20頁に書いてありますように、実地の調査ですので、診療圏の調査・分析と か、経営実態をより詳細に分析するとか、経営計画に関する提案とか、そういった具体 的なものまで含めて実施しております。最近では費用負担の関係や、かなり手間がかか るということもあり、実際には書面の診断事業を中心に実施しているところです。  21頁は、経営診断・指導事業の一環として行っている、開業医承継支援事業です。地 域医療にかかせない存在となっている診療所とか、その医師の高齢化等により、存続が 危ぶまれるケースについては、そこを承継して、そこで新しく経営したいという方々の 希望を取って、譲渡希望のある開業医からいろいろな条件や希望を聞いて、さらに今後 開業したいという勤務医の希望を取って、お互いの情報がマッチするようなケースであ れば、それをご紹介し、成立に至る仲介をいたします。これまでの譲渡希望医の登録 は、いま現在、全国で184件の登録があり、開業希望医のほうは、550件ほどで、これま での累積で52件の成立事例があります。これは登録料や仲介料は一切取らずに、実施し ている公共的なサービスという感じで実施しております。  22頁ですが、もう一つの柱として、福祉・保健情報サービス事業を実施しておりま す。福祉・医療保健にかかわる情報を、ネットワークで提供するという中身です。こち らのほうはクローズドで情報交換をする仕組みと、それを公開用のサーバーに移して、 インターネットで提供するという、この2つの仕組みになっております。クローズドの ほうは、利用施設に登録していただき、例えば医療で言いますと、医療のさまざまな内 容についてお互いにアドバイスをするというように、情報交換をいたします。現在、医 療施設においては5,000機関の登録があり、相互の情報交換と共に、公開する情報につい て、適宜情報を更新するような機能も持っております。そういうクローズドのシステム と、一般の方々に保健や医療の情報を、インターネット上で提供するという仕組みも 持っております。こちらのほうは全くのフリーアクセスで、一般の方々からの利用が可 能です。  23頁に、実際に一般の方々から見られる情報として、どのようなものがあるかという のがあります。WAM NET事業の設立の経緯からして、介護保険制度を後押しする ということで、利用者の方々に介護保険にかかわる情報を積極的に提供するというとこ ろから始めましたので、今のところ介護保険の情報は、非常に充実しております。  もちろん、その他の情報もないわけではありません。これは情報源、あるいは情報の 項目というように見ていただければと思いますが、24頁に、WAM NETにおける医 療関連情報として、このような情報が提供されております。身近な情報として一般の 方々がアクセスしようとすると、どんな情報があるかということで、25頁を開いてくだ さい。実はWAM NETの中に、「我が街の便利帳」というのがあります。これは市 区町村単位で、その地域に福祉施設や保健施設、医療施設としてどんなものがあるかが 一覧でわかるという仕組みです。その中に医療機関の情報があります。これは千代田区 の情報を引っ張ったものですが、今はこんな情報が入っております。これらは厚生労働 省のデータによって、一括更新しております。診療所のほうは年次ということになって おりますが、病院のほうは月次でデータを更新しております。  最後に26頁です。特殊法人整理合理化計画というのが進められておりますが、これに 対してどう対応しているのか。まず今回のテーマにかかわる病院等の融資については、 民間に出来ることはできるだけ民間に委ねるという原則のもとに、融資対象を医療政策 上、真に必要なものに限った上で、コストに応じた金利設定をすべきという指摘があり ました。やはり政策融資としては、設備整備資金がメインですので、それ以外の短期資 金については、概ね民間の金融機関が貸せるという状況ですから、そういう対応ができ るような、機械購入資金や運転資金などの短期についての貸出しは、既存の医療機関に は行わないという改正を行いました。  また長期資金においては、融資条件、医療政策上、病床過剰地域については、病床を 抑制するという観点から、病床の減少を伴わない整備については、優遇金利から外すと いうことで、通常の金利で貸し付けるという形にしております。このような対応を、平 成14年度にいたしました。組織形態としては平成15年10月に、独立行政法人になり、福 祉医療機構に衣替えすることになっており、その法律が先ごろ成立したところです。 ○田中座長  ありがとうございました。谷川委員と小木津参考人には、貴重な勉強をさせていただ いたと思います。残念ながら時間がありませんので、質問等がありましたら、個別にお 願いせざるを得ません。申し訳ございませんでした。  それでは次回の日程と今後の進め方について、事務局から説明をお願いいたします。 ○渡延指導課長  本年3月の中間報告において、引き続き検討すべきとされた課題についての検討が、 本日で一巡いたしましたことを受け、本年度末の最終報告に向けて、今後議論の集約を 図ってまいりたいと存じます。次回は来年1月24日の金曜日、10時半から開催すること といたします。これまでのご議論を踏まえ、事務局から「論点整理メモ」を提出させて いただく予定です。なお、次回の開催案内については、場所が決まり次第、正式に差し 上げるようにいたします。 ○田中座長  ただいま事務局から説明がありましたとおり、次回は最終報告に向けた「論点整理メ モ」を基に、ご議論いただきたいと思います。これまでのご議論に関連して、さらに補 足してご意見等がありましたら、今月中をメドに、事務局までファックス等でお送りく ださい。本日はこれにて閉会いたします。お忙しいところご出席いただきまして、どう もありがとうございました。                                    (以上) 照会先 厚生労働省医政局指導課 医療法人指導官 橋本 昌男(内線2560) 医療法人係長  手島 一嘉(内線2552) ダイヤルイン 3595-2194