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厚生労働省発表
平成14年12月26日
厚生労働省労働基準局
総務課
課長    森山  寛
企画官   土屋喜久
課長補佐 奈尾基弘
電話番号 03-5253-1111
       (内線5544)
夜間直通 03-3502-6741


労働政策審議会建議
−今後の労働条件に係る制度の在り方について−


 労働政策審議会(会長 西川 俊作 慶應義塾大学名誉教授)は、労働条件分科会において検討を行った結果、本日、別添のとおり、厚生労働大臣に対し、「今後の労働条件に係る制度の在り方」について建議を行った。
 厚生労働省としては、この建議の趣旨に沿い、次期通常国会へ関連法案を提出する予定である。


労審発第98号
平成14年12月26日

厚生労働大臣
  坂口  力 殿

労働政策審議会
  会長  西川 俊作


今後の労働条件に係る制度の在り方について(建議)


 本審議会は、標記について、下記のとおりの結論に達したので、厚生労働省設置法第9条第1項第3号の規定に基づき、建議する。



別添の労働条件分科会の報告のとおり。


平成14年12月26日

労働政策審議会  会長  西川 俊作 殿

労働条件分科会
  分科会長  西村 健一郎


今後の労働条件に係る制度の在り方について(報告)


 本分科会は、標記について、別添のとおり報告を取りまとめたので、厚生労働大臣に建議すべきである。


今後の労働条件に係る制度の在り方について(報告)


 今後の労働条件に係る制度の在り方については、労働政策審議会労働条件分科会において平成13年9月19日以後25回にわたり検討を行い、本年7月23日には、それまでの意見について整理して「今後の労働条件に係る制度の在り方に関する議論の整理について」を取りまとめ、その後、さらに関係者の意見の調整を図るべく精力的に議論を深めてきたところである。
 我が国の経済社会を取り巻く状況をみると、少子高齢化が進み労働力人口が減少する一方、経済の国際化、情報化等の進展による産業構造や企業活動の変化、労働市場の変化が進んでいる。このような中で、我が国の経済社会の活力を維持・向上させていくためには、労働者の就業意識の変化に対応しつつその主体性を尊重し、個人が持てる力を発揮できる社会を実現していくことが必要である。
 労働契約や労働条件に係る制度について、労働基準法が制定以来労働条件の確保・向上に重要な役割を果たしてきたが、労働条件や解雇をめぐる紛争が多数生じていることを考えると、労働基準法も、経済社会や労使の要請に応えて変えていくことが必要となっている。
 すなわち、(1)労働者の能力や個性を活かすことができる多様な雇用形態や働き方が選択肢として準備され、労働者ひとりひとりが主体的に多様な働き方を選択できる可能性を拡大すること、(2)働き方に応じた適正な労働条件が確保され、紛争解決にも資するよう労働契約など働き方に係るルールを整備すること、(3)これらの制度の整備、運用に際しては、労使によるチェック機能が十分に活かされるようにすること等を基本的な視点として、労働契約の成立、展開から終了に至る制度、労働時間に係る制度等各制度の在り方の見直しを行うことが必要である。
 このような考え方に基づき当分科会において検討を行った結果は、下記のとおりであるので報告する。
 この報告を受けて、厚生労働省において、次期通常国会における労働基準法の改正をはじめ所要の措置を講ずることが望まれる。



I 労働契約に係る制度の在り方

 労働契約内容の明確化
 労働市場をめぐる環境が変化する中では、労働契約に係るルールや労働契約の内容が明確となっており、労働者及び使用者が予見可能性を持って納得した上で行動できるようにすることが重要であるが、このような明確化は、労働契約の終了に際して発生するトラブルを防止し、その迅速な解決に資するものと考えられることから、次のとおり、労働契約内容の明確化を図ることが必要である。
(1) 就業規則の絶対的必要記載事項である「退職に関する事項」について、「解雇の事由」が含まれることを明らかにすること。
 この場合に、各事業場において解雇の事由が就業規則に適切に記載されるよう、現在、事業場において就業規則を作成する際の参考とするために作成している「モデル就業規則」について見直しを行い、その普及に努めることが適当であること。
(2) 使用者が労働契約の締結に際し書面の交付により明示すべき労働条件として、「退職に関する事項」に「解雇の事由」が含まれることを明らかにすること。

2 労働契約の期間
(1)有期労働契約の期間の上限について
 我が国においては、長期継続雇用が基幹的な労働者を中心に今後も基本的な就業形態であり続けると考えられるが、一方で雇用形態の多様化が進んでおり、このような状況の下では、有期労働契約が労使双方にとって良好な雇用形態として活用されるようにしていくことが必要である。このため、有期契約労働者の多くが契約の更新を繰り返すことにより一定期間継続して雇用されている現状等を踏まえ、有期労働契約の期間の上限について、現行の原則である1年を3年に延長するとともに、公認会計士、医師等専門的な知識、技術又は経験であって高度なものを有する労働者を当該専門的な知識、技術又は経験を必要とする業務に従事させる場合及び満60歳以上の高齢者に係る場合については、5年とすることが必要である。
 この場合に、有期労働契約の期間の上限を延長することに伴い、合理的理由なく、企業において期間の定めのない労働者について有期労働契約に変更することのないようにすることが望まれる。
 本項目については、労働者側委員から、有期労働契約の期間の上限を延長することに伴い、企業において、期間の定めのない労働者の雇用に代えて有期契約労働者の雇用にするケースや、新規学卒者の採用に当たって3年の有期労働契約とすることにより事実上の若年定年制となるケースが増大するのではないか、との強い懸念があり、常用代替が進まぬよう、一定の期間を超えて雇用された場合の常用化や期間の定めのない労働者との均等待遇等を要件とすべきであるとの意見があった。一方、使用者側委員から、企業においては、基幹労働者は基本的に期間の定めのない雇用としており、今回の見直しに伴って基幹労働者を有期労働契約とすることは考えにくいとの意見があった。
 有期労働契約の期間の上限を延長した場合において、トラブルの発生について状況を把握し、当分科会に報告することとされたい。

(2)有期労働契約の締結及び更新・雇止めに係るルールについて
 有期契約労働者について適正な労働条件を確保するとともに、有期労働契約が労使双方にとって良好な雇用形態として活用されるようにしていくためには、有期労働契約の締結及び更新・雇止めに際して発生するトラブルを防止し、その迅速な解決が図られるようにする必要がある。
 このため、労働基準法において、有期労働契約の締結及び更新・雇止めに関する基準を定めることができる根拠規定を設け、有期労働契約を締結する使用者に対して必要な助言及び指導を行うこととし、当該基準においては、一定期間以上雇用された有期契約労働者について使用者が契約を更新しないこととするときは、当該労働者に対して更新しない旨を予告すること等を定めることとすることが必要である。

(3)その他
 有期労働契約の果たす役割など有期労働契約の在り方については、上記(1)の状況把握を踏まえ、雇用形態の在り方が就業構造全体に及ぼす影響を考慮しつつ、今後引き続き検討していくことが適当である。

3 労働契約終了等のルール及び手続
(1)労働契約終了のルール及び手続の整備について
 労働契約の終了が労働者に与える影響の重大性を考慮するとともに、解雇に関する紛争が増大している現状にかんがみると、労働契約終了のルール及び手続をあらかじめ明確にすることにより、労働契約の終了に際して発生するトラブルを防止し、その迅速な解決を図ることが必要である。
 このため、労働基準法において、判例において確立している解雇権濫用法理を法律に明記することとし、使用者は、労働基準法等の規定によりその使用する労働者の解雇に関する権利が制限されている場合を除き、労働者を解雇できるが、使用者が正当な理由がなく行った解雇は、その権利の濫用として、無効とすることとすることを規定することが必要である。
 この場合に、判例上の解雇権濫用法理が使用者及び労働者にこれまで十分に周知されていなかった状況があることから、この規定を設けるに当たっては、これまでの代表的な判例及び裁判例の内容を周知すること等により、この規定の趣旨について十分な周知を図るとともに、必要な相談・援助を行うこととすることが適当である。
 また、解雇をめぐるトラブルを未然に防止し、その迅速な解決を図る観点から、退職時証明に加えて、解雇を予告された労働者は、当該解雇の予告がなされた日から当該退職の日までの間においても、使用者に対して当該解雇の理由を記載した文書の交付を請求できることとすることが必要である。
 なお、上記ハと同様の観点から、上記1の(1)で述べたとおり、就業規則の絶対的必要記載事項である「退職に関する事項」について、「解雇の事由」が含まれることを明らかにすることが必要である。

(2)裁判における救済手段について
 解雇の効力が裁判で争われた場合において、裁判所が当該解雇を無効として、解雇された労働者の労働契約上の地位を確認した場合であっても、実際には原職復帰が円滑に行われないケースも多いことにかんがみ、裁判所が当該解雇は無効であると判断したときには、労使当事者の申立てに基づき、使用者からの申立ての場合にあっては当該解雇が公序良俗に反して行われたものでないことや雇用関係を継続し難い事由があること等の一定の要件の下で、当該労働契約を終了させ、使用者に対し、労働者に一定の額の金銭の支払を命ずることができることとすることが必要である。
 この場合に、当該一定の金銭の額については、労働者の勤続年数その他の事情を考慮して厚生労働大臣が定める額とすることを含めて、その定め方について、当分科会において時間的余裕をもって検討することができるよう、施行時期について配慮することが適当である。

(3)その他
 労働条件の変更、出向、転籍、配置転換等の労働契約の展開を含め、労働契約に係る制度全般の在り方について、今後引き続き検討していくことが適当である。

II 労働時間に係る制度の在り方

 裁量労働制の在り方
 労働時間を適切に管理する必要がある一方で、経済社会の変化に伴い、成果等が必ずしも労働時間の長短に比例しない性格の業務を行う労働者が増加するなど、働き方が変化している状況にある。
 このような状況を踏まえ、企画業務型裁量労働制については、その導入、運用等に係る手続及び要件について必要な見直しを行うとともに、裁量労働制が働き過ぎにつながることのないよう、健康・福祉確保措置及び苦情処理措置が適切かつ確実に実施されるようにすることが必要である。

(1)企画業務型裁量労働制の導入、運用等の手続について
 企画業務型裁量労働制が、多様な働き方の選択肢の一つとして有効に機能するよう、その導入、運用等に係る手続については、制度の趣旨を損なわない範囲において簡素化することが求められることから、次のとおり措置することが必要である。
(1) 労使委員会が決議を行うための委員の合意について、委員の5分の4以上の多数による決議で足りることとすること。
(2) 労使委員会の委員のうち労働者代表委員について、労働者の過半数の信任を改めて得なければならない要件を廃止すること。
(3) 労使委員会の設置について行政官庁に届け出なければならないことを廃止すること。
(4) 健康・福祉確保措置の実施状況等の行政官庁への報告を簡素化すること。
(5) 労使委員会の決議の有効期間に係る暫定措置(有効期間の限度を1年とするもの)を緩和すること。
 また、企画業務型裁量労働制については、対象業務を労使委員会で決議する仕組みとなっていることから、その対象事業場を現在対象となっている「事業運営上の重要な決定が行われる事業場」に限定しないこととすることが必要である。
 本項目については、労働者側委員から、「事業運営上の重要な決定が行われる事業場」に限定しないこととすることに伴い、企業において無原則な拡大につながるとの懸念がぬぐいきれないとの意見があった。
 なお、時間外及び休日の労働等について、現在、労使協定に代えて労使委員会の委員全員による合意による決議(協定代替決議)を行うことができることとされているが、この協定代替決議についても、委員の5分の4以上の多数による決議で足りることとすることが必要である。
 企画業務型裁量労働制については、今般の導入、運用等に係る手続の簡素化等に伴う影響を含め、その実施状況を把握し、当分科会に報告することとされたい。

(2)健康・福祉確保措置等の充実
 専門業務型裁量労働制の適用を受けている労働者について、健康上の不安を感じている労働者が多い等の現状があることから、裁量労働制が働き過ぎにつながることのないよう、専門業務型裁量労働制についても、企画業務型裁量労働制と同様に、労使協定により健康・福祉確保措置及び苦情処理措置の導入を要することとすることが必要である。
 また、裁量労働制に係る健康・福祉確保措置の具体的な内容の一つとして、働き過ぎにより健康を損なうことのないよう、必要に応じて、使用者に産業医等による助言・指導を受けさせることとすることを加えることが適当である。

(3)その他
 企画業務型裁量労働制の在り方に関連し、労使委員会の在り方について、今後検討していくことが適当である。

 適用除外について
 労働基準法第41条の適用除外の対象範囲については、上記1の裁量労働制の改正を行った場合の施行状況を把握するとともに、アメリカのホワイトカラー・イグゼンプション等についてさらに実態を調査した上で、今後検討することが適当である。

 時間外労働等について
 時間外労働の限度基準(労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準)においては、労使協定の定めるところにより、限度時間を超えて労働時間を延長しなければならない特別の事情が生じたときに限り、限度時間を超える一定の時間まで労働時間を延長することができることとされているが、働き過ぎの防止の観点から、この「特別の事情」とは臨時的なものに限ることを明確にすることが必要である。
 また、平成13年4月に「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」が発出されたところであるが、事業場において適正な労働時間管理が行われるよう、適切な監督指導に努め、一層の周知徹底を図ることが必要である。

 年次有給休暇の取得について
 年次有給休暇の取得が進まない実態の中、計画的に年次有給休暇を付与させることが、年次有給休暇の取得促進に有効であることから、計画的年休付与・取得の普及促進策を実施することが適当である。


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