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今後のたばこ対策の基本的考え方について

平成14年12月25日
厚生科学審議会

1.はじめに

 喫煙が健康に及ぼす悪影響については、受動喫煙を含め多くの疫学研究等により、指摘がなされている。また、喫煙による医療費及び労働力などへの影響についても試算が行われている。
 しかしながら、我が国の喫煙率は、特に男性について先進国の中でも極めて高く、また、未成年者の喫煙率も過去と比べてなお高いことから、今後、一層のたばこ対策の推進が必要となっている。
 一方、WHOにおける来年5月の採択に向けて、現在「WHOたばこ対策枠組条約」の検討が進められており、このような状況の下、当審議会として、今後のたばこ対策の基本的考え方について、以下のとおりとりまとめた。
 国民の健康を増進する観点から厚生労働大臣は、以下の基本的考え方に立って、今後のたばこ対策の一層の推進にあたられたい。


2.たばこに関する基本的認識

 (1) 喫煙者に、がん、心臓病などの疾病の罹患率等が高いこと、及びこれら疾病の原因と関連があることは多くの疫学研究等により指摘されている。このため、たばこ対策を推進することにより、国民の健康に与える悪影響を低減させていくことが必要である。

喫煙が健康に及ぼす悪影響については、長い研究の歴史があり、今日においては多くの研究成果が蓄積している。その結果、喫煙者に、がん、心臓病、脳卒中、肺気腫、喘息、歯周病等、特定の重要な疾病の罹患率等が高いこと、及びこれらの疾病の原因と関連があることは多くの疫学研究等により指摘されている。

また、妊婦の喫煙による流産、早産、低出生体重児などの発生率の上昇も報告されており、妊娠中の喫煙が胎児の発育に悪影響を及ぼすことが指摘されている。

なお、いわゆる低タール・低ニコチンたばこであっても、体内のニコチン量を一定に保つよう無意識のうちに調整する作用が働くことから、吸う本数や吸う強さが増え、逆に健康への悪影響が増大するという指摘もある。

 (2) 喫煙には依存性があることは確立した科学的知見となっている。いったん喫煙を開始すると禁煙することは一般的には難しい。このため、成人で判断能力のある者に対しても、たばこ対策を推進することが必要である。

国際疾病分類(ICD−10)や精神医学の分野で世界的に使用されている「精神障害者の診断及び統計マニュアル第4版」(DSM−IV)において、ニコチン依存は独立した疾患として扱われている。このようにたばこに依存性があることも確立した科学的知見となっている。

 (3) 受動喫煙についても、最近の知見によると、本人による喫煙の場合と同様の事実が指摘されている。これは、喫煙していない他者の健康への悪影響を及ぼすもの(他者危害)であり、たばこ対策を推進することは、この視点からも正当化される。

受動喫煙により、肺がんや心臓病など様々な疾患の罹患率等が上昇したり、非喫煙妊婦でも低出生体重児の出産の発生率が上昇する、といった研究成果が近年数多く報告されており、他人のたばこの煙を吸わされることによって健康への悪影響が生じることについても指摘されている。

 (4) 我が国の喫煙率は、特に男性について先進国の中でも極めて高い。さらに、未成年者の喫煙率も過去と比べて依然として高いものとなっている。未成年者の喫煙はすでに法律で禁止されており、法律の趣旨を徹底すること、未成年者にたばこ購入の機会を与えないことは、青少年保護の観点からも重要である。

我が国の喫煙率は、先進国の中でも極めて高いものとなっている。男性の喫煙率は低下傾向にあるとはいえ、なお、50%近くに及び、国民の健康増進の観点から、さらに大幅な喫煙率の低下が必要である。また、女性の喫煙率は比較的低率で推移してきたが、それでも20−30代の女性の喫煙率は、40代以上の女性の喫煙率と比べて高く、男性と異なり今後喫煙率の上昇が懸念される。さらに妊婦の喫煙率が上昇傾向にあるとの調査もあり、胎児の発育に対する悪影響が懸念される。

我が国では未成年者喫煙禁止法により未成年者の喫煙は禁止されている。しかしながら、未成年者の喫煙率は高校3年生の男子が36.9%、女子が15.8%との調査があり、これまでなされてきた取組にもかかわらず、高率のまま推移しており、これらの世代が成人後も喫煙を継続し、喫煙率の上昇を支えることが懸念される。さらに、たばこには依存性があり、喫煙開始年齢が低ければ低いほど健康への悪影響が大きく現れるという問題もある。

 (5) 喫煙による医療費、労働力などへの悪影響について、研究報告がある。このため、たばこ対策を推進することにより、これらの負担を低減させていくことが必要である。

喫煙がなければ回避できた死亡者の数(超過死亡数)について、我が国では9万5千人にのぼるとのWHOの研究報告がある。また、喫煙が健康に与える悪影響の中でも特に、がん、循環器疾患といった疾患は、我が国の死因の6割を占めており、がんに関して言えば、特に喫煙による罹患・死亡リスクの上昇が高い肺がんは、がんの中でも死因の第1位を占めている。

喫煙は、健康に悪影響を及ぼし、それが我が国の医療費に影響を与えており、喫煙がなければその分の負担が不要であった医療費(超過医療費)は1兆3千億円にのぼるとの試算もある。また、労働力への影響などを含めるとその額はさらに大きくなるとの試算もある。


3.今後のたばこ対策

(1)基本的方向
(1)「WHOたばこ対策枠組条約」については、現在、各国政府間で交渉中であるが、この条約は、たばこの需要・供給両面にわたる施策を推し進めることにより、喫煙の健康に及ぼす悪影響を減じ、健康増進を図ろうとするものである。その目的及び基本的方向はいずれも妥当なものであり、我が国としても、これらを十分認識した上で、国内対策の充実強化を図っていくべきである。

(2) 国民の健康増進の観点から、今後、たばこ対策に一層取り組むことにより、喫煙率を引き下げ、たばこの消費を抑制し、国民の健康に与える悪影響を低減させていくことが必要である。

 (2)具体的たばこ対策
 今後の具体的たばこ対策としては、喫煙が健康に及ぼす悪影響についての十分な知識の普及、未成年者の喫煙率ゼロに向けた喫煙防止対策の推進、受動喫煙防止対策及び禁煙支援プログラムの普及の強力な推進が必要である。

これまで、厚生労働省においては「健康日本21」の中で
喫煙が及ぼす健康影響についての十分な知識の普及
未成年者の喫煙をなくす
公共の場及び職場における分煙の徹底及び効果の高い分煙に関する知識の普及
禁煙支援プログラムの普及
に取り組むこととし、また、本年8月に公布された健康増進法の中でも受動喫煙防止措置を規定するなど、たばこ対策に取り組んできており、今後ともこの4本柱を強力に推進する必要がある。

(1) 喫煙が及ぼす健康への悪影響についての十分な知識の普及
 喫煙が及ぼす健康への悪影響に関する科学的知見については、これまでも国や地方公共団体、保健医療関係者によって普及啓発が行われてきたが、今後、別添の資料を用いるなどにより国民にわかりやすい形で、あらゆる機会を通じて一層普及啓発を推進すべきである。また、たばこ包装の警告表示についても、最新の科学的知見や海外の事例も参考として、明確な形で示されることが必要である。

(2) 未成年者の喫煙防止
 未成年者については、年齢が低い小学生のうちから「喫煙により肺がん等のリスクが高くなり、また、喫煙開始年齢が低ければ低いほど健康への悪影響が大きく現れること」や「いったん喫煙を始めると禁煙することは難しいこと」「受動喫煙による健康への悪影響」等の喫煙の健康への悪影響に関する正しい知識の普及を徹底する必要がある。未成年者の喫煙率ゼロに向けて、例えば学校医等学校保健関係者や地域保健関係者が小中学生に対して喫煙の健康への悪影響について健康教育を実施するなど、学校、家庭、医療機関、薬局等地域社会が一体となって、未成年者の喫煙の防止に一層積極的に取り組む必要がある。また、中高生のたばこの主な入手経路が自動販売機であることや、広告が児童や若年者に影響を与えることなどを踏まえ、適切な措置を講ずる必要がある。

(3) 受動喫煙防止対策
 受動喫煙防止対策については、「屋内に設置された喫煙場所の空気は屋外に排気する方法が、受動喫煙防止にとって最も有効である。」等とする、平成14年6月の「分煙効果判定基準策定検討会報告書」に沿った対策を実施するなどの工夫を行い、対策を強化する必要がある。

(4) 禁煙支援プログラムの普及
 いったん喫煙を開始すると自らの意思で禁煙することが難しいというたばこの性格に鑑み、医療機関、薬局等における個別保健指導、禁煙教室など禁煙支援プログラムを普及・充実していくことが必要である。

なお、たばこの価格が上昇すると、成人及び未成年者の喫煙率が下がり、超過医療費なども減少するとの報告もあり、たばこの価格の引き上げはたばこ対策の有効な方法の一つと考えられる。

また、これらの施策を実施する際には、関係省庁とも十分連携していくことが必要である。さらに、関係団体にも喫煙の健康への悪影響に関する健康教育の実施などたばこ対策についての働きかけを行う必要がある。


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