資料2 |
水質検査に係る品質保証(QA/QC)について
(担当主査:安藤委員)
10月7日の本委員会において、水質検査に係る品質保証(QA/QC)については、以下の方向で検討を進めることとされた。
1. | QA/QCの重要性が益々高まっており水質検査分野においてもGLP制度の導入を図ること。 |
2. | 統一精度管理調査の実施により検査施設間における水質検査技術の格差是正、向上に努めること。 |
このため、本委員会委員以外の水質検査に関する専門家等の協力も得て、本委員会に対し、案を提示すべく検討を進めているところであり、その検討状況は別紙のとおりである。
水質検査の精度と信頼性保証のあり方(案)
1.水道水質の検査方法
(1)検査方法
水質基準に設定された項目はppm〜pptまで広範囲の濃度レベルにわたり、微量で正確な測定が要求されている。
各基準項目を分析方法から分類すると12の方法とが採用されている。(表1)
人の感覚による方法は目視法と官能法である。
機器を使用しないものには、滴定法、重量法及び培養法などで、操作は簡便であるが、人の感覚によるため熟練を要し、個人差や誤差が大きいなど精度に課題がある。
健康に関連する項目は定量下限値がmg/lの小数点3桁から5桁が要求されるものが多く、論理的に設計された新しい装置を用いているが、複雑なマトリックスの実試料に対しては極めて無力であり、かつ、低濃度が要求されることから、人による誤差を生じやすい。
表1 検査方法と対象項目
検査方法 | 処理法 | 対象項目 | 求める定量下限 |
原子吸光光度法 | フレームレス法 | Cd,Pb,Cr,Zn,Fe,Cu,Na,Mn,As,Se | 0.00x-0.x mg/l |
水素化物発生法 | ヒ素,セレン | 0.00x mg/l | |
還元気化法 | 水銀 | 0.0000x-0.00x mg/l | |
ICP,ICP/MS法 | ヒ素,セレン,水銀を除く金属 | 0.0000x-0.00x mg/l | |
ガスクロマトグラフ法 | P&T,H/S-GC-MS法 | 揮発性有機化合物・農薬 | 0.000x-0.x mg/l |
固相抽出-GC-MS法 | シマジン, チオベンカーブ | ||
HPLC法 | 固相抽出-HPLC法 | チウラム | 0.000x mg/l |
イオンクロマトグラフ法 | NO2,NO3-N,F-,Cl- | 0.000x mg/l | |
吸光光度法 | ABS,Phenol,NO2,NO3-N,F- | 0.0x-x mg/l | |
透過光測定法 | 色度,濁度,pH値 | 0.0x-x mg/l | |
滴定法 | カルシウム,マグネシウム等,有機物等 | ||
重量法 | 蒸発残留物 | x | |
目視法 官能法 |
色度,濁度、味,臭気 | x | |
培養法 | 一般細菌,大腸菌群 |
(2)検査の精度
水道水質測定法の信頼性の確保は、以下のことに配慮している。
・省令の検査方法では、> | 定量下限は原則として基準値の10%であること | |
> | 基準値の1/10において、金属類ではCV=10%以内で、有機物ではCV=20%以内の検査技術が確保されること |
等を基本原則にとし、低濃度レベルを厳密に測定することが要求される。
2.水道水質検査の現状
(1)水質検査の実施機関
水道法に基づく定期及び臨時の水質検査は、水道事業者等による自己の検査施設、水道事業者等の共同検査施設、保健所等の地方公共団体の検査機関又は厚生労働大臣が指定した検査機関により行われている。
水質基準46項目を全項目検査実施できる施設を有する機関数は、概ね表2のとおりである。
表2 全項目検査実施できる施設数
水質検査の実施主体 | 14年度 | 4年度 |
水道事業者等の自己検査施設 | 170 | 96 |
水道事業者等の共同検査施設 | 15 | 16 |
保健所等の地方公共団体の検査機関 | ・・・ | 39 |
指定検査機関 | 157 | 69 |
(注)一部データが未確定であり、今後精査する予定。
従って、全国では約15,000の水道事業者等が存在しているが、そのほとんど(自己検査施設又は共同検査施設をもたない水道事業者)は保健所等の地方公共団体検査機関や指定検査機関など外部の機関へ必ずしも全項目でないとしても何らかの形で水質検査を委託していることとなる。
(2)課題
> | 指定検査機関については、平成12年度より「水道水質検査の精度管理に係る調査」を実施している。 | |
> | 水道事業体の検査機関については平成14年度から実施対象に加えた。 | |
> | 地方公共団体については現時点では実施対象としていない。 |
> | いずれの機関に対しても調査していない。 | |
> | 検査データの信頼性に関する保証がない。 |
3.流通機構の中の医薬品や食品におけるデータの精度と信頼性保証
(1)食品に関する信頼性保証
食品関連では、輸入食品の増加、食品の安全性に関する問題の複雑化等による行政ニーズの高まりから食品衛生検査機関における検査業務は、質的に高度な内容が求められており、食品における貿易摩擦に伴い国際的な問題にも発展した。
このような中、FAO/WHO合同食品規格委員会、ISO、AOAC Internationalでは、内部精度管理、検査業務管理などの標準的手法がとりまとめられた。 厚生省では、食品における検査結果の数値に対する信頼性確保として、平成8年5月に食品衛生法施行規則を改正し、信頼性保証体制を起動させた。
(2)医薬品に関する品質保証
医薬品分野では、国際的調和の必要性が叫ばれ、検査データとその保証について検討を重ね、検査結果の保証体制としてGLP(Good Laboratory Practice)が構築された。
我が国でも、国際的ハーモニゼーションの観点から、OECDや米国の考え方を踏まえてGLP体制が確立され、1980年代の早い時期からスタートしている。
4.水道水のデータの質に関する特異性
(1)社会での流通機構を伴わない水道
水道水は消費者にとって商品であり、その品質は担保されるべきである。
しかしながら、流通機構の中でデータの質が極めて厳格に求められる医薬品や食品分野と異なり、水道水の検査データが商品としての信頼性に直接的に影響することは少なかった。
(2)水質のデータの質が問われる特殊な状況
水道事業体以外の他機関との整合性が問われる例としては、原水での事故等に際して、他機関とのクロス検査や水質データの検査請求がなされる場合などである。
外国船への水道水の供給等、流通に関与する対象となる事例は極めて少ない。
(3)データの質の保証の必要性
水道水質検査データの質は、現在の体制では、精度とその保証が担保されていない。
情報公開や他の分野での精度保証体制が確立している状況では、精度に係わる問題が発生した場合、精度とその保証の手段を持たないことは検査機関や水道事業体にとって無防備であると言わざるを得ないことを自覚すべきである。
このことから、受益者に対して、安全性の保証を確保しないまま自身の情報のみで評価してよいか、あるいは第三者機関による保証体制を組み込んでおくべきかについて考えておく必要がある。
消費者に対する安全性を保証する方策として、データの質の精度とその保証(GLP)を考えていく必要がある。
5.水道事業体の水質検査機関の特徴
(1)検査機関が担う業務
水道事業体における水質検査機関は単に検査結果を求めているわけではなく、常に水道原水の変動に伴う最良の浄水処理条件の工程管理等の比重が高い。
検査担当者には、専門性を求めるのではなく、原水から給水栓水までの水道全体を経験させる人事が行われ、水道水質危機に対応可能な人材育成を実施している。
このことは高度な専門技術を必要とする検査部門としては矛盾した体制であり、検査データの精度向上の観点からすると大きなマイナス要因となっている。
したがって、水道における検査機関では、人材が恒常的に不足し、検査技術のレベルの向上が進展しないばかりか、維持していくことが困難となっている。
(2)水道事業体の規模
小から大まで種々の規模の水道事業体があること、原水水質の問題がまったく異なること、人員、人材の質と規模がまったく異なること等のため、精度や信頼性保証に係わる問題を同一レベルで議論することが難しい。
大水道事業体では、検査機関の規模も比較的大きいと考えられ、精度管理や信頼性保証の体制を構築できる可能性は高い。
中規模水道事業体の検査機関(全国の検査機関の80%が水質検査担当者5名以下)では精度管理や信頼性保証の業務が増加することになるため、全体の検査業務に大きな負担が発生する。
中小水道事業体の検査機関では、信頼性保証ばかりでなく、精度管理あるいは水道水質危機管理についても実施が不可能な事業体が多い。
(3)共通事項
精度管理及び信頼性保証の実施については、検査担当者はもとより、管理責任者まで多くの人員を動員し、かつ長時間を要するため、時間と人数、人件費を多く費やすことになり、業務量が増大し、人材の確保が極めて困難な状況になることが予想される。特に、全項目の検査を実施している中規模水道事業体への影響は深刻である。
(4)水道水質危機管理上からの問題
水道水質については安全性の担保が前提条件となっているが、安全性の担保、すなわち検査結果の信頼性について、明確な保証を確保していないことは水道水質危機管理上からも重大な問題である。
6.指定検査機関および地方公共団体の検査機関
(1)指定検査機関
(1)公益法人
公益法人の検査機関のほとんどは、食品衛生法をはじめ、多くの法律に基づく指定検査機関の資格を取得している。
指定検査機関の中には、浄水処理の工程管理や突発汚染事故時での対応などに対して経験を踏まえた相談や水道水質危機管理に貢献できる。
食品衛生法では既に精度管理と信頼性保証のGLP体制がスタートしている。これらの状況から、水道法に基づく検査については、精度管理や信頼性保証の体制を構築することは可能であると思われ、ISO9000あるいはISO17025の認可申請の方向で検討している機関も多いものと思われる。
(2)民間検査機関
民間の検査機関には、単に分析機器と人材の面から参入した機関と、分析機器と人材の面に加え技術上の経験が豊富であることをもって参入した機関の2つのタイプがある。したがって、精度管理あるいは信頼性保証体制等への移行には十分対応が可能な機関と対応できない機関に分かれる。
工程管理や水質変動あるいは突発水質汚染等への対応には、全く経験がない機関が多いことに留意すべきであり、水道水質の危機管理に対応できない可能性が高い。
したがって、特に水道水質危機管理が弱体な中小水道事業体がこれら機関に委託するにあっては、浄水処理から危機管理に至るまでの経験と知識の保持の体制を求めるべきである。
(2)地方公共団体の検査機関
地方公共団体の検査機関は、食品衛生法の指定機関をはじめとして多くの法律に基づく試験検査を行っている。
食品衛生法では既に精度管理と信頼性保証のGLP体制がスタートしている。したがって、水質検査について、精度管理や信頼性保証の体制を構築することは可能であり、ISO9000あるいはISO17025の認可申請の方向で検討できる機関も多いと思われる。
しかし、地方公共団体の検査機関のほとんどは、工程管理における検査等には対応できないことが多い。ただし、長年の経験から水質異常に対しての相談はできる。
7.水道事業における水質管理としての水質検査
(1)原水、浄水処理、給水栓水までの一連の水質管理
水質管理は、本来、原水、浄水処理および配給水までを総合的に管理することにある。
水道法上の水質検査は、水質基準に適合しているかどうかを判断するための検査である。
水道における水質検査には、水道事業者による検査結果の速やかな把握、必要な管理上の処置の迅速な実施が求められる。
水道事業体としての水質検査は、単に基準に適合しているか否かの検査結果を求めているわけではなく、水源管理、浄水の工程管理および配給水管理等の比重が高い。
このため、水道法では、水道事業者が自ら検査施設を設置すべきことを求めており、水道事業体で本来の水質管理を遂行するためには、常時、事業体独自で検査体制が整備されていることが理想である。
なお、水道事業体が実施する水質検査は、水質基準項目と水質管理のための検査の2種類の性格があり、水質管理の検査では、精度よりも継続性の観点が重視されるべきである。
(2)小規模水道における水質管理
この観点からすると、水道事業体における検査業務はできる限り事業体独自で実施できるのが望ましい。
しかし、小規模水道事業体では独自に検査施設を設置して行うことが困難な状況にある。このような事業体では、他の検査機関に委託することが水道法20条の「ただし書き」において認められている。
このため、小規模水道事業体では、指定検査機関等に委託して水質基準に適合しているかどうかの検査は実施するものの、委託先の機関の設立の背景や経験の程度によっては水質管理としての水質検査が不十分になりやすい。
8.水道事業におけるその他の背景(水道事業における水質検査の委託)
前述のとおり、必要な場合、水道事業者は(定期及び臨時の)水質検査を地方公共団体の検査機関又は指定検査機関に委託することができる。
委託に際しては、精度管理や信頼性保証に関する考え方を確認した上で委託していくことが重要である。
9.水道で求められるデータの質
(1)品質保証体制(GLP)
上記の課題を解決するには、客観的な技術評価の精度管理とその保証として水道水質検査分野にもGLP的体制を導入する必要がある。
精度の保証は、信頼性保証部門と水質検査部門(理化学的検査、細菌学的検査)に各責任者を配置した組織体制により、標準作業書によってマニュアル化し、統一的に正確な検査結果を得るための体制の構築が必要である。
検査に関するGLPとしてはISO17025が定められており、品質保証体制の導入に当たってはこのようなレベルの導入が望ましい。しかしながら、直ちにこのレベルを求めるのが困難な場合においては、例えば、まず、ISO9001レベルのGLPの導入をはかり、その後、さらに精度を求めたISO17025レベルのGLPにステップアップさせることも考えられる。
(2)水道水質検査機関の認証制度
検査機関の品質保証を確保するためにはISOの制度に見られるように外部機関による査察・認証が不可欠である。
このため、水道水質検査機関においても、これらのシステムを参考にしつつ、認証制度のあり方について検討していくことが必要である。
10.水道事業体の信頼性保証について
水道事業体の中で水質基準全項目を実施している機関は、現在、概ね170機関と考えられる。
> | 精度管理並びに信頼性保証体制の確立は可能と考えられる。 |
> | 大部分の中規模水質検査機関では4〜5名の担当者で運用しているのが現状である。 | |
> | 精度管理あるいは信頼性保証の体制が導入された場合、業務量の増大は明らかで、人員及び人材不足の状況が生まれると考えられる。 | |
> | 人員確保による経費増大ばかりでなく、高度な人材確保の困難さから、自主検査を放棄して民間検査機関等へ委託する事業体が増加することが予想される。 | |
> | この場合、工程検査等のきめ細かな水質管理の不徹底等が起こる水道事業体が増加する可能性がある。 | |
> | 現在の検査人員の体制では精度管理並びに信頼性確保体制の確立は不可能であり、中小水質検査機関は必要最小限の精度管理は行うがそれ以外の一部または全部の信頼性保証に係わる業務は切り離して外部機関への委託等を検討するか、あるいは近隣事業体との共同運営を検討するなど、水道水質検査体制の整備と整理について時間的猶予を与えて検討させる必要がある。 |
小から大までの水道事業体を一括して精度及び信頼性品質保証について議論することは困難な面があり、大水道事業体に要求されるレベルと中規模あるいは小規模水道事業体に求めるレベルは異なった体制を考えるのも一つである。
11.信頼性保証の制度を導入した場合の問題点
(1)水道事業体の水質検査機関
中小規模の水道事業体では業務量増大・人員不足などにより自主検査から委託検査に切り替える事業体が増加することが予想され、これまで自主検査によって確保されてきた水質管理への対応体制が不十分になるおそれがある。
(2)指定検査機関(今後登録検査機関に移行)
(1)現在の指定検査機関
現在の指定検査機関については、食品分野等では既に確立されているように、検査体制はもちろんのこと国内の信頼性保証体制は品質保証の観点から不可欠であり、両体制の整備が要求される。既に、ISO9000やISO/IEC17025を取得している機関もあることから、業務量は増加するものの、信頼性保証体制の整備はスムーズに移行が可能であると考える。
指定検査機関の一部には、浄水処理での相談や突発汚染事故時での対応などにおける経験が豊富であることから、水道水質危機管理にある程度貢献できると考えられる。
しかしながら、水道の維持管理上不可欠な原水水質管理や工程管理に必要な検査への貢献という点では改善されることは少なく、水道水質に起因する危機管理に貢献できない可能性が高い。したがって、水道水質危機管理や、一般的水質管理に迅速な対応が可能な体制の構築が必要である。
(2)民間検査機関
民間の検査機関では、分析機器、人材が豊富であることから、精度管理あるいは信頼性保証体制への移行は十分対応可能であると考えられる。
しかしながら、工程管理や水質変動や突発水質汚染等に対する水道事業体に対する対応や全く経験がないことから水道水質の危機管理には対応できないと考えて良い。
したがって、中小水道事業体にあっては民間検査機関における浄水処理から危機管理に至るまでの経験と知識の保持を要求することなどが必要であると共に、相互の信頼関係を確立する必要がある。
また、中小水道事業体と民間検査機関との間で水道水質危機管理マニュアルを明確に設定しておく必要がある。以上、民間検査機関について考慮しておくべき点としては、精度管理・信頼性保証はもちろんのこと水質検査結果の迅速な報告、水道水質危機管理に対する知識と浄水処理技術の知識等に対応できる人材の確保等が挙げられる。
(3)地方公共団体の検査機関
12.水質検査項目と精度のレベルの違い
水道の水質検査には、既に述べたとおり、水道施設の工程管理の一環として行う検査と水質基準に適合しているかを確認するために行う品質検査との2種類の性格に分けられ、検査にあたって要求される精度にはその性格によってレベルの違いが存在する。
(1)安全性に関わる項目の精度のレベル
(2)工程管理の精度のレベル
工程管理の一環として行う検査は、水道事業体自らが自己管理できることが理想となる。
工程管理の水質検査項目は、連続性の情報を得るための検査の値であることから精度管理や信頼性保証よりむしろ、連続した流れの中での変化が重要である。
なお、工程管理の項目の中には、健康影響項目の代替指標的に用いられるものがある。例えば、濁度がその例で、クリプトスポリジウム問題の回避策の一つとして濾過池出口での濁度0.1度以下の維持が指標として示しされている。工程管理の項目として濁度の指標をとらえるとしても、裏には健康影響項目としての意味が含まれている以上、精度について厳格に考慮しておかなければならないことも考えておくべきである。