02/11/14 第4回医療安全対策検討会医療に係る事故事例情報の取扱いに関する検討部会      議事録                 医療安全対策検討会議          医療に係る事故事例情報の取扱いに関する検討部会                    第4回          日時 平成14年11月14日(木)15時〜          場所 厚生労働省省議室 ○堺部会長  定刻になりましたので、第4回「医療に係る事故事例情報の取扱いに関する検討部会 」を始めさせていただきます。本日は12名の委員の方々のご出席で始めます。ただ、岡 谷委員と三宅委員のお2人は、少し遅れてお見えになります。また、本日は前回あるい は前々回に引き続いて、参考人の方々からの意見聴取、ならびに質疑を行わさせていた だきます。  前々回の第2回には、医療事故を経験されたご家族の方として、稲垣克巳さん、「四 病院団体協議会」の医療制度委員兼医療安全対策部会の委員である大井利夫さん、この お二方からご意見を頂戴しました。また前回の第3回は、医療事故を経験されたご家族 の方であり、かつ「医療事故調査会」の世話人等である久能恒子さん、日本外科学会会 長であり、また北海道大学医学部附属病院長である加藤紘之さん、このお二方からご意 見を頂戴しました。  本日は、ご意見を伺う第3回として、弁護士であり、かつ愛知大学法学部教授等を勤 めておられる加藤良夫さん、医療法人医真会理事長の森功さん、このお二方にお願いし ております。  本日はどうも大変お忙しいところこの会にお運びいただきまして、部会を代表しまし てお礼を申し上げます。また、本日はこのお二方の参考人の方に続いて、航空分野での 医療事故対策について、委員の1人である黒田委員からもご意見を頂戴することになっ ております。それでは、議事を始める前に、資料の確認を事務局からお願いします。 ○宮本専門官  事務局から資料の確認をさせていただきます。まず、資料1ですが、加藤参考人から ご提出いただいた資料、『安全な医療を実現するために−「医療被害防止・救済センタ ー」構想について』で、1頁から6頁までの資料となっています。次に資料2は、森参 考人からご提出いただいた『日本の医療事故の実態と対策』で、12頁までの資料となっ ています。資料3は、黒田委員からご提出いただいた、『航空産業分野等における事故 事例を生かした安全対策』で、1頁から3頁までの資料となっています。以上です。 ○堺部会長  ありがとうございました。それでは、早速始めさせていただきます。加藤参考人、森 参考人、黒田委員、この三方からのご意見を伺いまして、その後質疑に入らせていただ きます。それでは、加藤参考人どうぞよろしくお願い申し上げます。 ○加藤参考人  お手元に資料1がありますので、ご覧いただきたいと思います。私は医療過誤の裁判 を、専ら患者の立場からずっと手がけてきたわけですが、たくさんの事例に接しながら、 勝訴判決を得たところで、被害を受けた実態、そういうものが何ら変わらない。そんな 思いがだんだん強くなるようになりまして、事故が起きないように、何とか安全な医療 をつくっていくことが出来ないのか。そんな思いにかられるようになりました。  ここに書いてありますように、「医療被害防止・救済センター」というものをつくり たいと、今は強く願っています。従来医療事故の問題というのは、臭いものに蓋式の対 応を、ずっと長くしてきました。このことについては、前に稲垣さんという、医療事故 の被害を経験された方もお話になったかと思いますが、率直に非を認めて謝罪をすると いう対応ではなかった。そういうことがまた二重、三重に、患者の気持を傷つけている、 という姿に接してきています。  今日は資料のほかにも、カラーの追加で配らさせていただいたものがありまして、9 頁に図が出ています。このカラーの図が見やすいので、後ほど詳しくこのシステムをお 話をしたいと思うのですが、基本的には、その横の文章中に、『「隠す文化」から「正 直文化」への変容を遂げよう』と書いてあります。今まで私が医療裁判で経験してきて いる中にも、カルテの改竄とか、あるいは証言の中での不誠実な供述とか、いろいろな ものに接しました。そして、責任を回避することによって、裁判対策ということに相当 な時間を費やすというあり方が、果たして正しい姿なのかとも感じさせられてきたわけ です。  特に、この「医療に係る事故事例情報の取扱いに関する検討部会」という、この「事 故事例情報」というものの性質について、若干触れたいと思うのです。医療事故の情報 というのは、本質的に沈殿しやすいという性質を持っていると思います。それはなぜか ということを、やはり踏まえておいたほうがよいのではないだろうか。  資料の1の始まりの所に書いてありますが、医療関係者が医療事故に関する情報を正 直にどこかに伝えた時に、その後どういうことが発生してくるのかということがはっき りしていないために、あるいはそこから出てくることに相当の不安を持っているがゆえ に、マイナス情報というものをどうしても表に出しにくい。そういう構造になっている のではないかと感じています。例えば医療事故を起こすと、死亡事例であれば医師は当 然に免許は取り消されると思っていたり、あるいは刑務所に入らなければいけないと思 っていたり、あるいは大変な賠償額で成り立ちゆかなくなると思っていたり、いろいろ な誤解なのですが、そういう過剰な恐れが存在しているという面が1つあります。  つまり、お医者さんたちは正確なペナルティの現状を知らないために、医療事故を起 こした時の保身というか、そういう方向に動かざるを得ないという側面があります。そ の趣旨を書いたのが、「三ざた」ということで、「三ざた」というのは耳慣れない言葉 でしょうが、「警察ざた」「裁判ざた」「マスコミざた」、この3つです。事故を起こ した時に、警察で取り調べを受ける、処罰を受けるのではないか。だから、なるべく察 知されないようにという方向に動くでしょうし、裁判ざたになって賠償問題になるのは かなわないということで、表に出ないようにと隠蔽工作をする。あるいはマスコミざた で、新聞報道、マスコミ、テレビ報道されることによって、病院の評判等が相当大きく 傷つく。こんなことをいろいろと考えるのだろう。このほかにも、もちろん行政処分の ことだとか、あるいは勤務医であれば、病院の中の懲戒の問題とか、そういうことが不 安の中に入ってくるだろうと思います。  ある意味では、そういう三ざたに象徴されるものがあるゆえに、医療事故に関して、 特に被害者が出た場面では、情報が沈殿してしまうという本質的な性質を持っている。 そこのところをきちんと見つめて対応を考えたほうが、医療事故情報というものは表に 出やすくなると考えているわけです。  ヒヤリ・ハットを厚生労働省は集めるようにして、先日も報道されていましたが、ヒ ヤリ・ハットは、現実に被害者が出ていなくて、報告しやすいという側面があることは 間違いないし、ヒヤリ・ハットの情報をたくさん集めることによって、安全な医療に活 かしていこうという方針も、決して間違っているとは私は思いませんが、交通事故の安 全対策を考える時に、ヒヤリ・ハットの問題だけ集めて、交通事故の安全対策を考えよ うというのは明らかに滑稽というか、それと同じように、現に医療事故が悲惨な形で起 きたケースを、安全に活かすということで調べないということも、考えてみればまさに 変な話なのです。  今年の4月17日に医療安全対策検討会議がまとめた医療安全推進総合対策、「医療事 故を未然に防止するために」の中にも、ある意味では、具体的な事故が起きたケースに ついてどうするかということについて、38頁に出てきています。そこには係争中の当事 者の関係にも配慮することとか、いろいろな要素で事故事例そのものについては、今後 法的な問題も含めて、さらに検討するという形になっています。しかし、今回名古屋大 学が実際に医療事故を起こしているケースがありまして、腹腔鏡の手術の際にトロッカ ーという器具で腹部大動脈を損傷させたという、一見単純そうに見える事故であるわけ ですが、この医療事故の調査委員会がすぐに出来まして、委員は6名ですがそのうち3 名が外部委員でありまして、外部委員として、私とそのほかに内視鏡外科学会の学術委 員等もされているドクターと、医療ジャーナリストの方が加わりまして、詳細に事実関 係をヒヤリングしまして、提言にまとめているわけです。  これは実際にまとめた医療事故調査報告書ですが、2カ月で会議そのものの時間は延 べ37時間ほど集中的に行いまして、精力的にこの報告書のまとめをしました。しみじみ 感じたことは、ヒヤリ・ハットを集めているということと、こうした一連の事故調査を 深く、例えば医局講座制にまで立ち及んだ病院のあり様、例えばいろいろなセクショナ リズムだとか、その連携の悪さだとか、総合病院でありながら、総合の力が発揮できな い仕組みとか、そういうことまで全部トータルに、この1つの事故が起き、かつその救 済の道のりの中には、影を落としているわけです。そういうものをトータルに調査する。 そこから引き出される教訓というものを、提言の形でまとめるという作業は、単純なヒ ヤリ・ハットを集計していくというプロセスとは違った真実性というか、問題の提起の 深さというか、そういうものが入っている。つまり、安全な医療をつくるのに、教訓と して活かさなければいけない貴重な情報が、そこに込められているということを痛切に 感じました。  したがって、事故というものは、一見あるお医者さんが不注意で起こしたと見えるも のでも、提言そのものをまとめますと、大きく固まりにして8つぐらいの提言項目にな っているのです。そこには相当の幅広い問題が入ってきています。ですから、あくまで も事故が起きた時には、深い突っ込んだ調査をし、そこから教訓を引き出して、後の事 故防止に活かしてほしいと願わざるを得ないわけです。そのためにも、名古屋大学の場 合は「三ない」という、「隠さない」「逃げない」「ごまかさない」という方針で、医 療事故調査委員会を外部委員を含めて、実質的な討議機関として位置づけて、この調査 を委嘱したということです。問題解決のルート、ルールを可視化して、メリットシステ ムを導入して、正直文化に変わっていく、大きなダイナミズムを提案する必要が、この 検討部会に課せられているのではないかと私は願っているわけです。  今日お手元にお配りしたカラーの図の付いたほうを見ていただきたいのですが、医療 事故の防止ということと、被害者の救済ということを、今までは全く別個のものと頭か ら考えてきたわけですが、そうであってはならないということで、医療事故の防止とい うことと、被害者の救済ということを、車の両輪のように一体的に行うという仕組みの 中でこそ、被害者ももちろん願っている再発防止に、大きく貢献できる方法があるだろ うと考えているわけです。医療被害防止・救済センターが扱う問題は、医療事故はもち ろんのこと、過失があるないにかかわらず、医療に起因して起きた事故について、医療 被害防止・救済センターは対象としていきます。この図の赤い所に「医療被害者」があ りまして、そこから「相談」という矢印がついています。上のグリーンの所に、お医者 さんたちのことが書いてありまして、そこから矢印が赤いほう(「医療被害者」)に伸 びて、医療事故が起きるわけですが、麻酔事故とか、いろいろな手術中の事故等を考え ても、被害者は詳しく、何がいけなかったのか、例えば麻酔の機械の問題なのか、薬の 問題なのか、術者の技量の問題なのか、そう簡単には分からないわけです。被害を受け たということで、相談をしていただく。  それに対して、医療被害防止・救済センターではこの調査権限はもちろん持っていま すので、どういうことかを調査させる。大きな病院、例えば特定機能病院等では、当然 に医療事故が起きれば、医療事故調査委員会を外部委員も交えてつくりまして、2カ月 以内に事故報告をさせることが、可能になります。そういうことを監督すればよろしい ということかと思います。そういうことが出来ない状況であれば、調査に入らなければ いけない場面もありますが、原則的には、病院というレベルであれば、自主的に調査を させ、それがきちんとなされるということを見極めることが、基本になるかと思います。  そういうことで出てくる教訓を、現場にいちはやく返していく。例えば今回でも、こ の名古屋大学のケースを例にとれば、腹腔胸の手術の際に使っているトロッカーの、こ ういう器具は使わないようにしたほうがいいだろうということだとか、こういう手技は しないほうがいいだろうとかいうことを、きちんと返すことによって、同じようなこと をやっている多くの医療機関で、起きる再発事故を防いでいく役割を、速やかに果たす ようにしたいと考えるわけです。  この医療機関、お医者さんがいつも繰り返してミスをしているような人であったら別 なのですが、この図の中に「求償または免除・軽減」と書いてありまして、日ごろから 誠実に医療実践活動してきた人が事故を起こして、被害者からクレームが出る前に正直 に、「ご免なさい」を言い、反省、謝罪をし、真相を明らかにし、この救済センターに も事故報告をするということになれば、そして再発防止の改善策、立案をし、それを実 践に移すことになれば、この求償を免除したり、軽減したりということをしよう、そう いうメリットシステムを導入したいと考えるわけです。  このシステムは過失がなくても、補償という形でしますので、それが病気で亡くなっ たのか、医療事故によって亡くなったのか、その補償すべきケースなのかそうでないの かということについては、これは医療に起因して起きてきているという因果関係の点が ポイントになるわけですが、それはむしろ市民感覚で判定をしていただければいいだろ うと。このグリーンの中の(2)の所に、「調査判定チーム」と書いてあります。専門家 の意見はもちろん聞くわけですが、陪審制で40歳以上65歳というのは、民事の調停委員 になっていただく時の年齢構成が、大体このぐらいのところになります。そういう人た ちが市民、有権者名簿の中から選ばれて、12名が集中的に検討していただければ、これ は自ずと結論は妥当なところにいくだろうと私は思っています。これについては、シミ ュレーションをして、実証的に提示をしたいとも考えていますが、そういうことで著し く意外な結果が起きているかどうか、これは大変気の毒なことが起きたというケースに ついては、補償を先行させることになります。  (7)に「政策立案チーム」と書いてありますが、こうした事故事例がたくさん集まる 第三者機関が、今はないわけです。医療事故について情報を責任をもって集め、分析し、 そこから教訓を引き出して、現場にいちはやく返す。そういう役割を担っている第三者 機関がないわけでして、医療事故で、一体日本でどれだけの人が亡くなっているかとい うことは、アメリカのデータ等を基に推計するしかありません。それでも、年間2万人 以上は医療事故で亡くなっているのではないかという推計が、人によって随分違います が、なされているところです。  そういう意味では、安全な医療、医療の質の向上のために役立つ施策を立案して提案 していく時に、この機関が厚生労働省の政策の批判をしなければいけない場面もあるの で、厚生労働省の下部組織という位置づけは避けたほうがいいだろうと。内閣府にもっ ていく、いわゆる独立性の強い行政機関という位置づけで、立法によって医療被害防止 ・救済センターをつくりたい。今、この提案を皆さんにして、このデザインをしっかり とさせること、財政的な裏付けも含めて検討をいろいろしていくことが、今いちばん大 事な時期だと思っています。  このアイデアそのものは、1997年2月につくり始めたわけですが、そのきっかけとし ては、大変重い障害を負ったケース、盲腸の手術で寝たきりになった子供のケースが、 20年の裁判を経て、やっと最高裁判所で勝訴判決を得て、その年のうちに名古屋高裁で 和解で終了するまで、何と20年間子供の介護に明け暮れながら裁判されたということで、 これではいくら何でも法の正義は満たされていないという思いが強くありまして、この アイデアをつくるモチベーションになったわけです。  すでに5年ほどいろいろな機会に、こうした黄色いパンフレットを作りまして、これ がすでに1万部出ています。そういう活動をする中で、さまざまな所からいろいろな応 援メッセージを含めて寄せられていますので、このデザインをよりしっかりとしたもの にして、私が今夢として持っているのは、「2007年の3月の通常国会可決成立」と、自 分の手帳に書いて、時々見てにんまりしているのですが、そういう目標に向かって、ま だ時間はかける必要があると思いますが、1つのアイデアであります。  大事なのは、いろいろと叩いていただくこと、そして場合によればそうではない、も っとこういうアイデアがあるということを、建設的に出し合うこと、このことを通じて、 『「隠す文化」から「正直文化」変容を遂げたい』というメッセージが、医療現場に津 々浦々伝わっていくことを、心から願っているわけです。  詳細は、「安全な医療を実現するために」という、今日の資料1をまたお読みいただ ければ、内容そのものをご理解いただけるかと思います。是非何らかの形で、沈殿しや すい情報を浮かび上がらせるルールというか、ルートというか、そういうものをつくっ て、こういう形でやるならば、さまざまな罪一等を減ずるとか、いろいろなメリットシ ステムが考えられてしかるべきだと思いますが、そういう中で、今までは隠しながらき た文化から、患者中心、患者本位の本来の医療に、どうやって安全な質の高い医療をつ くっていけるのか、正直文化に変えていくことが出来るのか。そういうことをともに考 えていくことができれば、大変うれしいことだと思いまして、今日はこちらにまいりま した。どうもご清聴ありがとうございました。 ○堺部会長  ありがとうございました。引き続いて、森参考人のご意見を頂戴したいと思います。 よろしくお願いします。 ○森参考人  本日私が参考人としてご指名いただいた理由は、1つは現役の第一線の地域医療を担 っている医療福祉グループを率いて活動していますし、さらには1995年以来、日本にお いて初めて同僚審査機構としての医療事故調査会を開設し、約60名ほどの専門医グルー プでもって、診療工程設計管理の評価をやってまいりましたので、その2点からの意見 の陳述を希望しておられるものと期待しております。  ただいまの加藤参考人とはもう従前よりご一緒に、いろいろな点でお仕事も一緒にし ておりますし、加藤参考人がおっしゃる医療被害防止・救済センター構想というのは、 日本式の解決法としては非常に理想的な側面の強いものです。しかし、今からお話をし ますように、日本の医療現場の現状は、それほど楽観視できる現状にはありません。む しろ昨今は、加藤参考人も先だって出ておられますが、外科学会が決めました、「傷害 行為に対する警察への刑事訴追」といった、とんでもない結論が出るような国ですから、 大変深刻な現状にあるということで、もう一度現実をしっかりと見つめて、実態がどう であるのかということを考えた上で、具体的に今できる対策は何かということを、主体 としてお話をさせていただきたいと思います。  最初に申し上げますが、レジュメにも書いていますように、日本の医療というものは、 スイスチーズのように、いろいろな欠陥を持った上で、現場で行われているわけです。 これは医療事故の海の中で医療を行っていると言っても、過言ではないものであろうと 思っています。何よりも教育、研修、信任という、品質保証の原点が保証されていない。 ましてや、看護職ほかの医療職の教育制度は、専門学校レベルです。  つまり、学問を十二分に学んでいませんから、自ら行っている行為の理解の深さとい うものが、非常に浅いものがあります。そういった諸々の品質保証の欠如ということが まずありまして、しかも、いつも言われていますように、文明国の中では対GDP比 7.9%という最も少ない、イギリスはもう8%を超えようとしていますから、最も少な い医療費を使い、しかもその構成がどうしても医師に偏りがちで、それ以外の部門に対 する配分というものは、変異を起こしているといった経済的な問題もあります。  もちろん国民皆保険制度という、世界に冠たる制度はありますが、それが残念ながら、 こういう形で歪められている。しかも国民も含めて、江戸時代的な医療の考え方という ものは、今でも残っています。信じて頼っていくような姿勢で、自分の飲んでいる薬す らご存じない患者も多いです。また情報開示等に関しては、木で鼻をくくったような表 現をされる先生方もたくさんいらっしゃるわけです。  また、有床診療所と称する養生所的な、どういう目的で作られたか分からないような 病院まがいの施設もあります。こういったものが、まだ残っている。しかも、何よりも 加藤参考人がおっしゃったように、大学を含めて、非科学的閉鎖型の医療機関というも のがそのまま放置され、しかも日本においては80大学ということで、ドイツの20大学、 フランスの24大学、それもほとんどが国立ですが、そういったものと比べては大変多い、 私立医大を含めた医科大学がありますし、その各々が講座制でもって動かされている。 こういう中で育ってくる医療人というのは、決して加藤参考人が指摘されたような、い わゆる正直な医療文化を担っていける、それだけのトータルな人格を備えているかとい うと、残念ながら「ノー」と言わざるを得ないのです。  私どもは今、大阪の東南東部にわたりますが、八尾市を中心としまして対象人口約50 万、レジュメの中に29万という八尾市の人口が書いてありますが、27万に減っています ので、申しわけありません。直近は27万です。トータル50万人ぐらいを対象とした、医 療福祉の艦隊運動を展開しています。安中診療所というのは、八尾市がお作りになって、 公設のミニ診療所で大きな赤字を出されましたので、私どもがお引き受けして、現在運 営していまして、健康な運営に変わっています。  何とか今回の診療報酬改訂がありましたが、目下のところトントンで、何とか生きて いるという状況ですが、もはや経済的には大変厳しい状況にさらされていると言わざる を得ません。臨床研修指定病院とか、あるいは専門医の指定病院とか、あるいは医療機 能評価機構の認定等は、当然のこととしていただいていますが、それにしても、経営的 には大変です。  「艦隊運動」という言い方は、僭越ではありますが、しかし、理念というものが大き く基盤にございまして、いわゆる正義ですが、こういうものを中心にして、すべての医 療福祉グループの施設、人間が同じ目的でもって、あの地域で活動していくということ に意味を見つけています。何よりも、この理念がしっかりしていない限りは、各々の施 設、人がばらばらに動いていきまして、ややもすると経営を中心とした運営に変わって しまったり、あるいは逆に医療の質ばかりを追う偏ったことも発生します。そういう意 味では、今現在まだ十分揃ってはいませんが、そういった中で今展開しているわけです。  私どもは1995年から「ステップ1」を初めとした、一般病院におけるエラー管理を始 めてまいりました。何よりも病院機能評価機構を受診するということを目的として、も う一度自らの医療を見直す、福祉を見直すというところで、職員の意識変革を図りまし た。これには看護部が積極的に事故情報を集めたり、分析しようという意識を持ってく れましたので、他の医療職も含めて、幸い民間ですが、非常に意思の疎通が図りやすい ということもありまして、スタートしました。横断的な感染防止委員会とか教育委員会、 地域交流委員会等を通じて、すべての職種が一堂に会するという活動もしていましたの で、それも役に立ったものと思っています。  第2段階としましては、危機管理委員会活動です。これは「医療の質調整委員会」と いう名前に変えましたが、情報の報告と、それを分析し、皆でもって学習をする。それ を公開の場でディスカッションする。この訓練に17カ月を要しています。207件の医療 事故報告がこの間に集まりまして、週に1回、2回、夕方、調査委員会の者が分析して 司会役になって、そういう認識を深めていったわけです。その中で、リスクマネージャ ーが兼任で生まれまして、積極的に情報を集めましょうというふうになりますと、月に 100件を超える情報が集まるようになりました。その時点で、後ほど示しますが、東京 電力株式会社の原子力発電所にヒューマンファクター研究所がありますが、そこの河野 龍太郎先生にお越しいただいて、その分析方法等を学びまして、リスクマネージャーが 中心となって、そういう新しい分析方法でもってし、その結果によって対応策を立てる ことを始めました。  そうしますと、やはりリスクマネージャーというのは大変な仕事になりますので、こ れはもう専任でなければ出来ないということで、一昨年2000年の4月に、監査機構がス タートしました。これは専任でこういう仕事ばかりを統括する監査室長である副委員長 格の医師と、院内から公募して看護室長とレントゲン科の主任が、リスクマネージャー に立候補しまして、事務職員を1人付けて、なおかつ対外折衝のための部長を付けて、 5人でこの監査機構をスタートして、今2年半になっています。その間において、メデ ィカル・トータル・クォリティ・マネージメントという活動の中にも参加させていただ いて、いろいろ学習もさせていただいています。  組織の取組みとしましては、このように1997年から5年にわたりましてやってまいり まして、この棒グラフは発生した事故の報告数ですが、こういうふうに、やや減少傾向 にあるかなと思いますが、しかし、相変わらず多くの事故事例が集まっています。その 過程で、こういういろいろな方々の外部からの指導を得ています。私どもの監査機構は 「IAU」と呼んでいますが、医真会ODTユニットというのは、医真会本部に付属し ていまして、すべての我々の施設および職員に直接アプローチすることができます。必 要ならば、外部のいろいろなコンサルタントを受ける。これは医師も含めた、いろいろ な外部意見をも、彼らの判断でもって判断できるという、非常に自由に、しかも必要な ことがわだかりもなく、いわゆる縦割り職制ですから、そういうことに影響されること なく活動できるものとして、実施させています。  グループの中の医療の品質保障のための監査活動が大事です。監査活動をする前に、 とにかく事故が起こりましたら、その対応策を立てて、それを実践するという過程を経 て、やっと2年経ちまして、その実践したことが出来ているのかどうかという監査活動 が始まったところです。そうすることによって、グループ内における医療のエラーが、 低減していくのではないかという期待をしていますし、また、それでもなおかつ発生す る医療事故、過誤に対して即時的に対応して、決して患者との間の信頼関係を損なうこ となく、対応できるようにという活動をしています。  もちろんデータベースを作成したり、啓蒙活動、あるいはホームページを通じた情報 公開等については、これはもう粛々とやっています。目的としてはこういうことであり まして、結局内部監査と言いますと、何か非常に怖いもののように聞こえますが、要す るに医療の品質を改善するために、常に継続的に働いてもらおうというものです。  私どものリスクマネージャー2人に関しては、この『組織事故』という、ジェームズ ・リーズンの書物がありますが、それを中心にして、現在までのこういう事故に関する すべての学習をするとともに、我々の各施設、老人保健施設とか、あるいはケアハウス、 リハビリテーションのための療養病床群とか、それに最適の事故対策システムというも のを、提言するという活動もしています。もちろん事故が起こりましたら、情報収集と いうのは事情聴取に似たような対応をしますから、カウンセリングというものも必要に なってまいりますし、事故の社会性に対する学習とか、こういったことをやりますので、 リスクマネージャーというのは、その作業が大変多岐にわたってきます。  機能としてはこういうことですが、従来から安全文化というものが、日本の医療界に はありませんでしたから、その中において、こういう作業をすることがいかに困難かと いうことです。情報の収集、分析、管理がそれほど容易にできるものではありません。 まず個人的にそれがきちんと自分で提示できるほどの教育レベルにある人が、すべてと は言いかねないわけです。したがって、能力のばらつきも多いですし、ましてや囲い込 みによって職場によっては、非協力の姿勢をとる所もあります。しかも、何らかの支援 をするためにアドバイスをしたいとなりますと、それも詰所、あるいは職場によっては、 非常に浅い理解度で通り一遍の対応をする部分もありますから、1回や2回のアプロー チでは、なかなかこの機能が十二分に果たせるものではありません。  しかも、医療事故、過誤が起こりますと、患者と医療側とのちょうど中間にあるよう な、医療事故コーディネイターという役を果たさなければなりませんから、そうなりま すと、よけいにストレスがかかってきますし、しかも私どもの所では事故が発生します と、彼らがとりあえずまず分析に入りまして、専門的知識が必要な場合にはそういう医 療職の意見を聞きながら、一応自分たちで過誤かどうかという判定をします。過誤であ るならば、院長も含めて管理職、および当事者の謝罪をすぐに要求してまいりますから、 そういった対応をする中で、文章化して、何ゆえ過誤であるかということを分かった範 囲で、文章にしてサインをして、公式文書として患者にお渡しするという作業を、彼ら がコーディネイターとしてやるわけですから、たちまち大変な仕事が増えるわけです。  現在、保健所を通じて厚生労働省のほうには深刻な事故に関しては届けていますが、 警察、マスコミには届けていません。私どもは刑事訴追に対しては、反対という立場を とっていますし、マスコミに対しては、マスコミがとらえたケースのみ刑事訴追される という、非常に不公平な対応が、現実に進んでいます。しかも、その内容が過失責任と いう、現実的には意味のない処罰対象になるようなものですから、それは無意味である という判断から、私ども自身としては公的機関に届け出ることはします。もちろん患者 にちゃんとした正式な文書を渡していますから、それを警察あるいはマスコミに提示さ れることについては、全くやぶさかではありませんし、それは私どもの管轄を超えた問 題です。  リスクマネージャーは、先ほどから申していますように、安全文化のない医療機関で すから、その中で理事者と職員と患者の間に存在するということは、個人的にも大変苦 労します。さらに分かりやすく言えば、例えば友達をなくしてしまうとか、人間的に非 常に落ち込むとか、そういう段階がありまして、そこからさらに成長してまいりまして、 現在それなりの対応をしています。  何度も申しますが、学術レベルにおいて不揃いな医療者がたくさんいますから、これ は医師も含めてですが、それへの対応というものが大変困難です。特に経験主義を基に して語られる、ベテランの医療職の方々、あるいは何か斜に構えたような、ぼやきを中 心にした人たちが医療界にはたくさんいますから、そういう人たちに論理的に納得させ るというのは、大変困難な作業でもあります。また、苦情処理係をしていますから、こ れは後ほどお見せしますが、そういうご意見箱に入ります意見書とか、直接来られるク レームについての対応もしていますので、非常に精神的ストレスも強くなります。した がって、本業との兼務は不可能ですから、これは専属でやらせています。  報告書はこのような報告書でして、私どもは本質的にはヒヤリ・ハットも事故報告書 も、分類する必要はないというのが原則ですが、一応分類するためにも、チェックはす るようにしています。要するに、こういう発生状況とか経過というものを、できるだけ 客観的にきちんと書いていただいて、「ご免なさい、すみません」という言い方は、全 くする必要はありませんというふうにしていますし、POSシステムで書いていただけ れば、それに越したことはないわけです。これを週2回集積しまして、それを分析して グレード3から5というと、何らかの処置を要した、あるいは大変深刻な、死に至るよ うな場合もありますが、結果を残したケース、あるいはもしも行われていたらそうなっ たであろうというHRのケース、これについてはすぐに根本原因分析に入りまして、対 応策を立てるように対応しています。  これが事故の数で、2000年、2001年と、今年の10月までというのが出ていますが、こ のように総件数にしても、やや減少傾向にあり、深刻なケースについても、絶対数とし ても減っていますし、比率的にも減っているということが見られますから、この3年間 を比べますと、やや改善傾向にあろうかと思いますが、まだまだこれほどの膨大な数の 事故が発生しているということは、いかに我々自身の能力も含めて、システム的にも対 応が不十分であるかと思っておりまして、今後も努力を行いたいと思っています。  内情を見てみますと、診療というのは医師の過誤ですが、医師が起こす事故に関しま しては、ほとんど変わりません。実は、我々の所は医真会医師職務規範を決めまして、 これは今年の2月に『Luncet』と『Annals of Internal medicine』という、非常に 有名な医学雑誌に出ました。「ア・チャーター・オブ・フィジョン」、21世紀の医師憲 章ということについての項目が羅列されていますが、それによく似たものを昨年の10月 に作りまして、各先生にそれにサインしていただいて、例えば医療事故が起こったら即 座に報告をして、それを患者にも謝罪をする、あるいはインフォームド・コンセントは きちんとするとか、カルテはちゃんと書くとか、診療工程設計管理は守るとか、こうい ったことを遵守してもらうという誓約をしてもらっているわけです。それをしてやや増 えるかなと期待していますが、そういった点では、まだ診療レベルでの報告は不十分で はないかと思っています。ちなみに大阪大学では、ヒヤリ・ハット報告だけで医師が15 %ぐらい、特に研修医からの報告が15%ぐらいあるということですから、我々の場合は いささか少ないかと思っています。  誤薬に関しましては、比率的にも変わっていません。医師から始まりまして、薬剤師 ならびにその助手、看護師、あるいは看護助手がいろいろ絡んでまいりますので、なか なかこれが改善しません。鋭意、これは今努力しているところです。転倒、転落事故に 関しましては、率が増えているように見えますが、実態的には2000年の時の深刻な合併 症は、現在では少なくなっていまして、転倒、転落は防止できるとは思っていません。 今の老人保健施設における人員配置からしたら、とてもではないが、そんなのが防止で きるほどの人員配置をしていませんし、もともとそういう患者群は転倒、転落が非常に 多いですから、実態的にそれがなくなることはないと思います。しかし、合併症につい ては、いろいろな配慮によって少なくなり、骨折等は明らかに少なくなっています。  これは事故レベルで、今年1年の事故レベルですが、この黄色いのが深刻なケースで す。緑は、もしも行われれば深刻なケース。つまり、これほど各月に発生しているとい うことです。  これが私どもの分析方法で、アナログでして、要するに事情聴取から問題点をもう一 度時系列的に並べて、それのいちばん大きな問題に関して、この背後要因を分析する。 それはMCLという方法で分析して、それによって対応策というものを、次のフールプ ルーフの定理でもって考えるということを、リスクマネージャーがやっているわけです。 明らかに、診療工程設計管理ということがきちんと出来ているかどうか、ということを チェックしているわけで、これらの各ステップにおける絶対必須の作業がきちんと出来 ているかどうかということを見まして、出来ていなければ、それは少なくともその時点 での診療過誤に通じると判定しています。  看護工程に関しましても同じように、やはり入院から退院までのこういう医師の診療 工程設計管理と整合性のあるものを作って考えて、それに合わせてやれということで、 今看護部のほうでは、すべての入院患者に対して自己管理カルテを一部ずつ、各患者に 配備して、看護自身の情報収集を図り、医師が行う情報の定義が十分納得されているか という確認、つまり、コーディネイターとしての働きも、看護部が担うことを今現実に やっています。  これはIAUの職員が、とにかく皆さんの声というところから、苦情処理をするポイ ントですが、こういうものを配備していまして、出た結果に関しましては、各部門の管 理職に対して、分析と対応策を教えまして、その人の名前でもってエレベーターホール に対応策を掲示するということで、こういうものを毎週出しています。  医師が起こす医療事故に関しましては、7年半にわたって分析してまいりまして、 580件の鑑定を終了しています。580件の収量のあげくには、何が多かったかというと、 やはり4分の3、74%ぐらいが医学的に過誤であるという事実です。もちろん、こうい う報告は大都市近郊からたくさん集まっていますし、年齢的には0歳から80歳を超える まで続いています。これをご覧いただきますと、平成7年に40件で始めましたこのケー スが、右肩上がりに580件になりましたが、医療過誤と判定される過誤率は変わってい ません。4分の3はずっと一定しています。しかも、それらのケースの62%が死亡例で あるという率も変わっていません。つまり、何ら改善を示していないということですし、 今後も少なくとも5年間は、こういうデータが続くであろうと。症例数だけが右肩上が りに上がっていくのではないかと予測しています。  医療機関のほうから見ますと、大学病院をはじめとする基幹病院で57%のケースを示 していまして、やはり、こういう中核病院においてより複雑で、高度な医療を担う所が、 医療事故を起こしやすいという傾向があるのではないか。我々のケースからはそういう ふうに分析しています。その原因を見てみますと、医師の能力不足のカテゴリーに入る のが534件と、圧倒的です。これは救急診療に至りましては、例えば急性大動脈解離は、 25%近い誤診である。初診の救急初期診療というものが、ほとんど十二分に出来ていま せんし、診察、例えば心音を聴取するとか、腹部を触診するということが十二分に出来 ていないという、非常に原則的なところでの間違いが多い。欧米の医療事故というのは、 確定診断の後の治療法の選択とか、手術の間違いというのは多いのですが、日本の場合 には、病歴をとったり、診察をしたり、鑑別診断をするというレベルでの過誤が非常に 多い、という特徴があります。これはまさに基本的な教育、研修が出来ていないという ことです。  薬剤の過誤使用については、最近は少し軽減しています。私どもに持ち込まれるケー スというのは、初めから明らかなケースは来ませんから、そういう面では、我々のケー スとしては少ないのではないか。一般的には、これは相変わらず続いています。KClの 問題、抗がん剤の問題、ずっと同じように続いています。  チーム医療に関しましては、看護師をはじめとする医療職の教育制度が、カリキュラ ムにおいても非常にばらつきがありますし、そういう面では、チーム医療をしようにも、 なかなか医師と同じようなレベルで作業ができないというまどろこしさもあります。 例えば危険薬品というものを「ペリルドラッグ」と称して、私どもの所は特別の処方、 調剤をするようにしていますが、なぜ危険なのかということが理解できない。これは薬 剤師も含めてそうですが、そういう人たちが結構います。そういったことが十二分に理 解されなければ、何ゆえこういう作業をしなければならないのかということが理解され ませんから、そういう点では、教育の問題が非常に大きいということになりますと、大 変深刻な、また時間のかかる問題ですが、いつの日にかこれは改善するのではないかと 期待しております。  インフォームド・コンセントに関しましては、現在、裁判所においてもこれがちゃん とした司法的な判断がありませんので、非常に軽く済まされます。また伝統的に司法の 場では、もしもやっていればこうなったであろうという、いわゆる不作為による過誤、 事故というものは、軽く見られる傾向がありました。そういう意味では、インフォーム ド・コンセントをやらなくても、それほど重篤ではないのですが、しかし、欧米ではこ れは法制化されていまして、インフォームド・コンセント、つまり、患者の納得のない 医療は傷害行為であると判定されまして、刑事罰に直接まいります。そうすると、やは りより真剣にとるわけですが、日本においてもそういう法制化が必要であろうと思って います。  しかし、現状は誘導型の説明でもって、患者は手術をされている。先ほどの名古屋大 学の腹腔鏡の件はどうか分かりませんが、大阪大学で起こりました腹部大動脈瘤の手術 は、6時間経っても腹部の大動脈に到達できずに、患者は下肢の虚血による壊死のため に、心停止から最終的には亡くなられたのです。その方のインフォームド・コンセント と称するものを見ましたが、わずか3時間ほどで簡単で、穴が3つあくだけの手術です などという説明をされています。そういう現実が、現実にあるわけですから、インフォ ームド・コンセントというものは、大学においても著しく杜撰であるし、ましてや民間 病院とか、あるいは基幹病院と言われる病院においても、実態の書いていない、どうい うことを説明したのかが全く書かれていない、そういう書類のないインフォームド・コ ンセントが相変わらず多くあります。これは私どもが580件やりました中に、多数そう いうものがありますので、インフォームド・コンセントに対する法制化も必要になって きます。  こういったいろいろな諸問題から、私どもは当面できることとしましては、北海道、 東北、関東といったエリアでの医学的な鑑定委員会制度と、医療職に対する審判制度と、 それに対する教育とか研修というものを課せるという評価の方法、せめてこの2つは是 非大至急やっていただかないと、私がお示したこのグラフがいつまでも同じ、ケースは 増えても過誤率は変わらないということが続いていくと思っています。  しかも医療現場、特に民間病院においては、ばらつきもさらに大きいわけで、監査機 構がもしもなければ、非常に寂しい状況になります。私どもは、注射の打ち方について のチェックポイントをきちんとやっているかどうかということを、全く予告なしにラン ダムに監査したところ、静脈注射の場合には、2カ所のポイントでチェックするのです が、それがきちんと行われていたケースが23%。点滴の混注の場合には4カ所でチェッ クするようにしていますが、それがきちんとされたのは38%という、惨憺たるデータで す。つい先月、それに対してまた対応策をやりまして、病院全部挙げて、是非この達成 率を50%以上に、まず伸ばしなさい。その次は理想的には、やはり本来するべき作業が 75%以上の実施率でやられているということにしたい。もちろん輸血とか、絶対数の少 ないことに関してはもう十二分にやっていますが、日ごろのそういう作業というものが、 著しく杜撰であるという現実を、まだ今も持っています。  少なくとも監査希望がありましたら、そういう意味での監査データが出ますから、現 実がどうなのかということをずっと押さえ続けられますので、それで初めて、事故に対 して積極的に改善策を講じ、また結果評価をしているということが言えると思っていま す。監査機構のない病院は、病院ではないというのが、私どもの定義でして、いかに経 済的に苦しくとも、この制度は続けていこうというのが我々の方針であります。以上で す。 ○堺部会長  ありがとうございました。では、黒田委員から「航空機事故にかかわる事故情報の取 扱い」について、ご意見を伺います。 ○黒田委員  前回、医療関係のいろいろな安全に対するディスカッションというのは、どうも30年 遅れているのではないだろうかというお話をしました。  早速私のところに話をしろということになりました。いずれにしましても、先ほどの 森先生のお話の最後のところにもありましたように、医療事故に関して国としてどうい うことをやらなければいけないのかということは、やがてこの検討部会の大変大きなテ ーマになってくるのだろうと思うのです。国あるいは個人といういろいろな分け方があ るのだろうと思うのですが、いま日本の行政機関の中で、事故調査ということを看板に している行政機関があるのです。それは、航空・鉄道事故調査委員会です。これに似た ものの中に、原子力安全委員会というものがあります。それから、つい最近、行政改革 で、原子力安全・保安院というのができています。それから、海難審判庁というものが あります。  このように、行政として安全に対応するいろいろな形があるのですが、その中で、い ままでずっと医療の関係でディスカッションされているものに大変似ている、こういう ものを1つの手がかりとして考えなければいけないのかなと思えるものとして、航空・ 鉄道事故調査委員会というものがあります。これは、再発防止を主体とした委員会です。 いま医療過誤関係で、現在どのような事故が起こっているのかということに関しては、 いろいろな報告がいっぱい出ていると思うのです。問題なのは、それを一体どうするの か、それにどう対応していくのかというところがあまり見えないことだと思うのです。  最近、ヒヤリ・ハットが2万7,000件報告されて云々という報告もありましたが、国 民が持っている不安、事故をどうやって減らしたらいいのかというようなことを本気に なって論じていく場所というのが、なかなかないようなのです。もしそのような組織を つくるとすれば、1つの手がかりとして航空鉄道事故調査委員会があるのかな、という 感じがするのです。もちろん、その対象であるものは大変違うのですけれども、その中 から同じような精神を学び取っていくということはできないのだろうか、と思ったので す。 航空産業の分野ではいろいろな事故を起こしてきましたが、その起こった事故に対する 対応の方式が随分変わってきているのです。その辺の歴史を振り返ってみる必要はない のかなと思って、資料を用意しました。  1頁に、日本に関連するいままでの航空事故の一覧表が載っています。これは主要な 事故で、皆さんもご存じの事故が非常に多いと思いますが、この事故に対応する方式が 大きく変わってきているのです。三原山の事故などは古い古い事故で、アメリカ軍がコ ントロールしていた時代の事故なのですが、国民全体が本気になって対応を求めた事故 調査というのは、昭和41年の羽田沖の全日空の事故からなのです。皆さんもご存じのよ うに、このときにはキムラ委員会というのができました。今も医療関係はそのレベルな のですけれども、大きな事故が起こるたびに個別に委員会をつくっていく方式なのです。 それが発足したのが、昭和41年に羽田沖で雪祭の帰りの全日空のボーイング727が墜落 した事故からだったのです。私はこの辺から航空事故に携わっているわけですが、その ころは、運輸省の運航課がいろいろなルールを作っていまして、そこが主体となって事 故調査をやって、それが事務局となって委員会をつくっていたわけです。  次に、同じ昭和41年にカナディアンパシフィックの事故が羽田で起きまして、その壊 れている飛行機を見ながら上がっていったBOACが、富士山の上で墜落しました。今 度は国際的な問題が出てきたわけですが、このときもまだ運輸省に個別の事故調査委員 会をつくっていたのです。BOACとかカナディアンパシフィックというのはインター ナショナルなものですから、ICAOの規定によりますと、発生した国が事故調査を実 施することになっています。ですから、機籍は英国ではありますが、事故調査は日本で やらなければいけない。そういうことで、各国との間の事故調査の内容の質的な問題と いうものが大きく問われるようになってきたわけです。  そこで、運輸省としましては、運航課という行政を行っているところではもうとても 持ち切れないということで、航空事故調査課という特別な課をつくって対応するように なりました。その状態が昭和45年の横津岳での東亜国内航空のYS−11の事故のときぐ らいまで続いたのですが、次に、昭和46年に雫石で、航空自衛隊のF86Fとボーイング 727が衝突するという事故が起きました。このころは、航空事故というのは民間と防衛 庁との2つに分かれていたのです。それで、事故調査委員会が、防衛庁と運輸省をカバ ーするということで、突然総理府に移りました。しかし、このときの委員会は依然とし て、その都度にできる委員会だったのです。  2頁には、大変面白いことが書いてあります。私は、事故調査の専門委員として委員 会に出席していました。おそらく今もそういう委員が選ばれるのでしょうが、学識経験 者という方々が集まって委員会というものをやるわけです。  事故調査をしていくときに重大なことは、現在流れているいろいろな法的な問題との 関連性をどうやってクリアしていくか、という問題なのです。事故でもたくさんの方が 亡くなっていますから、刑事捜査の対象にもなります。それから、民事的な問題もあり ます。同時に、行政の問題もありますし、社会的ないろいろな問題もあります。それが ごっちゃになってきているのですが、この委員会が動いていくときに、どういう哲学を 持って動いていくのかというのは1つ1つ違うのです。要するに、刑事の捜査の手伝い をしているのか、再発防止の話をしているのかというのが、大変曖昧なのです。しかも、 技術の専門家ではあるけれども、事故調査の専門家ではないのです。  ですから、大変面白い論議が行われました。飛行機をつくっている側は、「そんな飛 行機はつくっていない」と言うのです。パイロットを養成している側は、「そんな下手 くそなパイロットを私たちはつくっていない」と言う。そうすると、事故調査委員会の 結論は、「この事故は起こってはならなかった」という話になるのです。そういうこと を何回となく繰り返す。学識経験者という専門の先生方が集まると、どうも「あるべき 姿」という話になって、今あった事故を見るということに関しては、決してエキスパー トではないということなのです。ですから、皆様もご存じかもしれませんが、委員会が 分裂してしまったケースというのが何回もありました。要するに、事故をどうやって調 査し、防止をするかという目的が達成できないような専門家による委員会が、何回とな く繰り返されてきているという事実があるわけなのです。  しかも、小さな世界ですから、払拭できない利害関係という問題があるのです。例え ばYS−11の事故調査というのは、YS−11をつくっている人が最もよく知っているわ けです。ですから、そういう方を委員の中に入れなくてはいけない。しかし、YS−11 をつくった人は、自分のつくった飛行機が悪いという結論を出したくないのです。それ から、ボーイング727は非常にいい飛行機なのですが、それを導入するときのメインに なられた方が事故調査委員長をやるとすると、ボーイング727がすごく悪い飛行機で、 エンジンが1つ途中で飛んでしまったなどということにオーケーと言うわけはないので す。 そんなわけで、非常に不毛の論議が委員会の中で続きました。我々は横で見ていて、「 こんな委員会は、しょうがないな」と思ったことをいまだに覚えています。偉い先生方 が集まると困ることは何を目的としてやるのかという相互の調整がなかなかうまくいか ない委員会になってしまうのです。  それから、委員会は報告書を出すと解散してしまうのです。その結果、フォローアッ プをどこがやるのかということがはっきりしないのです。しかも、裁判の上で処罰をさ れますと、もう一件落着で、再発防止を確実にやろうという話というのは、どこかに消 えてしまうのです。日本人の精神風土として、処罰をされると「ああ、これで終わりま したね」ということになってしまう。いちばん不満なのは被害者の方々で、大変なクレ ームをおっしゃっておられますが、当然のことだと思います。大切なのは、対策が本当 に有効であるかということなのですが、そのための調査や試験というものもあまりやら れていないのです。  そういうことで、雫石のときに航空界を中心に大変な論議が起こりました。その論議 が、この医療関係の論議にすごく似ていると思うのです。例えば、いろいろなお話の中 に「公正中立なる第三者機関」という言葉がたくさん出てくる。ところが、その「公正 中立なる第三者機関」というものは、どこかにスーパーマンのような人がいて、できる わけではなくて、そういう人たちをつくらなければいけないわけです。その努力をして いかないといけない。「公正中立なる第三者機関」という言葉を発すると何かものが解 決しているような感じがするのはとんでもない話で、私は、よくディスカッションしな がらつくりなさい、という感じがするのです。  航空事故調査委員会ができましたのは、昭和48年なのです。雫石の事故があって2年 ぐらい経ってできたわけですが、実は、これは残念ながら日本人のアイデアではないの です。そのずっと前に国際民間航空機構の第十三付属書というのが出ていまして、そこ には、インターナショナルでやらなければならない航空事故のルールというのがきちん と決められていたのです。その中に、責任追及ではなく再発防止のための技術調査であ って、それは完全にセパレートしなければいけない、というルールがありました。日本 は協定国で、先ほど申しましたいくつかの国際的な航空事故の中でも随分いじめられて きたという経過があるものですから、そのときに、国際的に通用する委員会にしましょ うということで、航空事故調査の設置法を盛んに論議したのです。  そのときも我々はその席でいろいろな話を聞いていたわけですが、そのときに大問題 になったのが、警察庁との関連だったのです。事故現場をどのように保存していくのか、 証言はどうするのかなど、再発防止のために越えなければならないバリアがたくさん あるわけなのです。そこで、航空事故調査委員会が発足するときには、何日間か警察庁 との間でディスカッションがありました。これは法律の先生方も大変おられるのですが、 日本の法律は警察が主体になりまして、航空事故調査、技術調査のために免責をする とか、そういう形というのは通用しないのですね。ですから大変面白いことは、申合書 に書かれておりますのは、航空事故の現場というのは警察が全部それを押収するように、 他の人は絶対入れないのです。ただし、その中にフライトデーターレコーダーであると か、ボイスレコーダーがあるわけですよね。これはやっぱり専門家じゃないと見れない わけです。だけれども、そういうものも警察が全部押収をします。ただしその読み方に 関しては、航空事故調査委員会に委託をして、鑑定をしていただくというような、複雑 怪奇なる申し合わせがありまして、それがいまの航空事故調査委員会の行動の中に大変 な問題になっていることは事実なのですが、いずれにしろ、そういう警察の方々がまず 実施をいたします。ですから大変皆様もびっくりされたと思いますが、つい最近日本航 空の飛行機が2機沼津の上で空中接触をしそうな状態になりました。降りてきた途端に、 コックピットの中に警察の方々が調査に入ったわけですね。パイロットというのはお客 さんも連れて帰ってきているわけですから、航空法においてその状態を報告しなければ ならない義務があるわけですが、その要するに航空の中における安全を唱っている航空 法よりも、犯罪捜査のほうが主体になるような状態で、囂々たる避難を受けたわけです が、当然のことでして、決して悪い面だけではないと私は思うのですが、その辺の関連 性をこれからどういうふうに、医療の関係においてクリアしていくのか。先ほど森先生 もおっしゃっておられました大変難しい問題であろうと思うのです。それは、どうも個 人の問題と言いますか、小さな病院の問題でなくて、国の問題として解決しなければな らない問題だろうという気がいたします。それで、航空事故調査委員会の設置法などと いうのは、皆さんあまりご興味がないのだろうと思うのですが、鉄道の名前が入りまし たのは去年なのです。それは信楽高原での事故を皆さんご存じだと思いますが、45人の 方が亡くなりまして、ご家族の方々が、「あの鉄道の事故調査委員会の報告書は全くな っていない」と。私も読みながらそうだと思います。なぜかと言うと、あの事故の調査 を実証した最大の理由は、45人の人が亡くなった理由を調べていかなければいけないの であって、JR西日本と、信楽高原鉄道の会社の経緯を報告する話ではないと思うので す。ですからその面においては、あれは本当の意味において、国民の安全のためにその 事故調査をするという話から大きく離れている。  これは同じように日比谷の鉄道の地下鉄事故においても、全く同じでありまして、 154頁の報告書の中に、なぜ亡くなったのかということは1.5頁書いてあるだけ。これ は国民が納得するのかという点において、事故調査のあり方というのを基本的に考え直 さなくてはいけないだろうという気はいたします。いずれにしましても昨年から航空事 故調査委員会に、鉄道委員会というのが入りました。その中に、事故調査というものを 実施をしていくための専門グループでありまして、ファシリティーも相当なものを持っ ています。その中の項目の中に「事故の徴候」というのが新しく加えられたのです。徴 候という言葉は大変問題がありまして、インシデント、あるいはヒヤリ・ハットのよう ななことまで含む可能性があり得るのです。ただ、それだけの能力がありませんから、 いまのところ事故というものの所に焦点が絞られているわけですけれども、この設置法 の第3条が2頁の真ん中の所に載っていますが、ここにまず再発防止と言うか調査を行 って事故を防ぐのですよ、というようなことが書いてあります。同時に1つ大事なこと は、第3条の第6項の所に、建議をするようにきちっと決まっているのです。あとでお 話しいたしますように、建議だとか提案だとか要するに、結果に関してどういうふうな ことをやらなければいけないかという対策の行く先、あるいは責任者、これをしっかり と決めていくということです。  それで、医療事故の場合大変問題なのは、どこまでが事故かというようなことの定義 をなかなかはっきり線が引けないところがあるのですね。その辺に関しては、これはや っぱり事故調査というものを対象にするためには、定義をはっきりさせなければいけな いであろう。ただ、はっきりできない問題のところをどういうふうに処理をしていくか というのは医療の場合にはあるのだと思いますが、2頁の航空法第76条の所には「航空 事故とは」という規定をしてあります。ですから飛行機は何も壊れていなくても、中で 人が死ねば大事故に相当するのです。人間というものに対する定義というのは、特に生 命に対することは大変高いのです。この法律の中に特徴的なのは、3頁の所に書いてあ りますが、どういうことができるのかという「処分の権限」ですね、これがずっと7項 目に渡って書いてあります。それは現場で機材を動かさないようにしなければいけない。 そういう権限がありますよとか、証言を取る権限がありますよ。どこの官庁に行っても、 そういうことを協力してもらうような権限がありますよと書いてあります。ただしその いちばん最後の所に、「処分の権限は犯罪捜査のために認められたものと解釈してはな らない」ということが、ちゃんと書いてあるのです。これはどういうことを意味するか というと、我々が事故調査をやっていくときに、もし犯罪の捜査というものに我々の調 査の内容が流れるとしますと、証言を強制をし、本当のことを話していただくというの は、これは憲法違反になってしまう。要するに本人に不利なことはしゃべらなくてもい いという、ちゃんとプロテクトがあるわけです。とすると、それを超えてまで本当のこ とはどうなのですかという証言を取っていく場合には、それが報告書に載せられ、犯罪 の処分の対象になるのだったら、我々が憲法違反をしていることになってしまうのです。 そこが大変問題でありまして、ですから、「これは事故調査のためにだけ使う話ですよ 」ということを我々調査をするときにいちいちお断りしなければいけない。その証言は 本当のことを聞かなかったら事故調査にならないのです。それを聞く場合にいちいちお 断りをしています。どうしているかというと、その証言を基にして、調査委員会がどう 判断をしているのかというのは報告書に書きます。しかしながら、その判断をするとき の証言は誰がどういう話をしたからですよ、ということは一切公表いたしません。です から、要するに証言は本当のことを話していただく。しかしながら、それは再発防止の ためにだけ事故調査委員会が使うのであって、ご本人に迷惑はかからないというプロテ クトをしているわけです。それが、いちばん最後の所の「不利益取り扱いの禁止」とい う第24条が3頁の真ん中にありまして、「何人も調査に協力する処分に応ずる行為をし たことを理由として、解雇その他の不利益は取り扱いを受けない」という規定をわざわ ざここに作ってあります。これは第24条です。こういうようなプロテクトをしないと、 本当の意味の事故調査にはならないのだと思うのですね。なぜかと言うと、先ほどから お話がありましたように、いろいろな加藤先生のお話にあった犯罪の問題だとかそうい う心配というのはみんな持っているわけです。本当のことを言いたくないのは当たり前 であって、しかも過誤ということを喜んでしゃべる人は1人もいないわけですよね。そ ういうところの報告したくないものをどうやって報告していただくのですかという、私 どもいつも礼儀作法と言うのですが、礼儀作法がきちっとなければいけないのだという ことですよね。そういうものがあって、初めて本当のことがわかって、本当の対策がで きるはずだ。いまやっているいろいろな方策の中で、そういう事故調査の中にそういう ことがないものですから、何となく的の外れたもの、すごいあいまいな話になっていく のだろうという気はするのです。ですから、報告の様式というものも、きちっと決めら れております。ここの3頁の所に、どんな経過を取ったのか、どういうものを見つけた のですか、その壊れ方は本当にはどうやってこんなふうに壊れ方をしたのですかという 証拠を、いちいち実験をやるのです。ですから、飛行機を壊すというような実験もやる のです。というように、この見つけたものが本当に飛行機の事故に関連のあるものであ るかというものを分別することは大変難しいのですが、これには時間がいちばん食うの です。それが本当に事故の原因としての事実であるのかということを繋げたあとで、初 めてそれに対する原因の流れというものが報告書の中に盛り込まれるわけです。  もっと重大なことは、対策なのです。対策というのは、原因と必ずしも一致しないこ とがあります。我々が原因として見るのは、例えばハードウェアがどうであるとかいろ いろな問題なのですが、運用の問題、歴史の問題ですね。そういう背後まで遡って対策 を講じなければ対策にならないのです。そのために対策のところに、先ほど申しました 「勧告」というのがあります。これは大変強い権限を持っておりまして、必要あると認 めるときには、国土交通大臣に勧告をして、大臣はそれをどうやりましたかという通報 をしなければならないようになっております。  それから、「建議」というのは必要だと認められるときには国土交通大臣または関係 の行政機関に建議をすることができます。これが使われた最近のものは、先ほど出まし た沼津の日本航空のニアミスですね。国際民間航空機構のTCASの信頼性、あるいは そのプロシージアを変えなさいという勧告をしております。これは大変大事なことであ りまして、いままでの対策というのは、何となくぼんやりと対策が出ていて、読みたい 人が読むならいいですよと。こんなものでは対策にならないのだと思うのです。勧告と いうのは確実にそれをやらなければいけない。もちろんそれを考えていくためには大変 な努力をし、いろいろな検討をしていくわけですが、我々がほしいのは対策であって、 原因というのはプロシージアの入口なのですね。その対策をどうしていくのかというの はすごく大事です。ですから、こんな事故が起こった、いまどんな医療過誤が起こって いるということが大事ではありません。それを手がかりにして、じゃあどうするのかと いうことの対策を講じなければいけないわけです。それは事故調査のテクニックを上げ るだけではできないのです。いろいろな所で勉強してこなければいけないのです。なぜ、 他の同じことをやっている航空会社が事故が起きないで済むのかというわけで、例えば カンタス航空というのは50何年かは無事故で繋げているのですけれども、それは一体ど うしてなのですか、アメリカ圏の航空会社が事故が少ないというのはどうしてですかと か、そういうことを勉強した上で初めて対策は出てくるのであって、そういうことを専 門にやるためには、どうもその都度作る事故調査委員会ではないだろうと私は思うので す。ですから、実は事故調査委員会ができまして、どのぐらいいま日本の航空会社は安 全の状態を続けているかというのは、皆さんご存じでしょうか。  日本エアシステムというのは、1頁をご覧ください。7番目の横津岳。東亜国内航空 Ys−11が函館でもって落ちて、それ以来死亡事故はゼロです。ということは、1971年 以来日本エアシステムの死亡事故はありません。飛行機が燃えたりしたのは花巻の事故 だとかいろいろあるのですが、死亡事故ゼロである。  それから、全日空は雫石のやっぱり1971年から31年間無事故を続けております。死 亡事故は無事故です。  それから、日本航空は大変遅れまして、御巣鷹山昭和60年(1985年)から17年間無事 故を続けております。ということは、必ずしも事故調査委員会があったせいではないだ ろうと私は思うのですが、いずれにしましても、日本のシステムの中で、本当に再発防 止のために動いているということが、そういう行政組織というのはおそらくこの組織1 つだけだろうと思うのです。ですから、事故調査委員会というのは、何回もいろいろな ものに出ているわけです。今度の原子力発電所の場合にしても。ただそれはテンポラリ ーでもって、ある仕事をし対策らしいものを並べたら、いなくなってしまうのですね。 そういう組織というものは、安全という再発防止のためには有効ではないのではないか という感じがいたします。そのためには、やはりしっかりとした対策を含めた専門の組 織というものが、どうしても必要ではなかろうかという気がいたします。ただ、これは 行政の設置法上第8条機関なのです。第8条機関であるということは、国土交通大臣の 指揮下にあるわけですね。としますと、国土交通省が実は犯人である場合があり得るわ けです。それは本来ならばNTSBのように、あるいは大統領に直轄しているものです が、行政組織を含めた調査を自由にできるような第3条機関と言うのですが、それにな るのは当り前ではなかろうかということで、鉄道が合併をするときに、大分そういう動 きがあったのですけれども、いまだに国土交通省のほうにぶら下がっております。です から、安全というものを実証していくときに、例えば厚生労働省の中にあるというのは、 そういうものがあること自体がもうすでに、信頼性を失う可能性があり得るわけで、そ れを行政でやっている本人が、自分の足を食べる形になるわけです。そういうことをで きるわけがないじゃないかというのは一般の、当り前の物の考え方だろうという気はす るのです。  それで、最後の所、これは前にも私お話したのでだぶる話になるかもしれませんが、 お許しください。  ヒヤリ・ハットというのは先ほども申しましたように、言いたくないこと、人に隠し たいことを報告してもらうことなのですね。それは安全のためということでお話をして もらうわけです。とすると報告する先が、処罰権を持っている所に報告をすることは、 絶対成功しません。いままで全部つぶれていっております。なぜかと言うと、これは行 政、刑法とか民事の話ではありません。行政の話になるわけですが、行政の実施をして いる所に報告書を出しますと、それは行政の中における例えば、ガイドラインであると かいろいろなものをお作りになっているわけですね。そうすると、そのガイドラインか ら外れているから失敗をしているのであって、すると厳しく持って行きますと、全部行 政罰の対象になり得る可能性があるわけです。そういう失敗があがってきましたという ことを知っていながら、行政をやっている人は黙っているわけにはいかないでしょう。 そうすると、どこに線を引くのですか、どういうふうにしてこれを利用するのですかと いう、何かヒヤリ・ハットという言葉が、ただ走っておりましてとってもいい話になっ てきているかもしれませんが、これはやがて形を間違えると、崩れていくだろうという 気がするのです。それは実際に、国立病院だとか何かのヒヤリ・ハットを出された例が ありますが、病院によってうんと差があるのですね。これは一体どうしてだろうかとい うことを、やっぱり考えてみる必要がある。これは飛行機の中におきましても、Avi ationSafetyReportingSystemというアメリカですが、AS RSにやっているのですが、それは大失敗しているのです。それはFAAですね、連邦 航空局が出すように一生懸命窓口を開いたのですが、処罰権を持っているところに恐れ ながらと言って出すやつはいないだろうというディスカッションになりまして、それで 崩れました。結局中立と考えられるNASAに、その報告を出すようになったのです。  しかし、これは報告書が月に3,000件ぐらいにもなるものですから、大変な労働にな りまして、NASAはそのために、多くの人を雇っているのです。ただ、これはずっと 続いてだんだんとよくなってきた最大の理由は、非常に分析をする人が、内容を知って いる人のメンバーを集めて、本気になって対策というものに繋がるような分析をしてく れるということですね。それから、匿名性と、免責性を持っているということです。で すから、名前を付けて出すのですが、それは切って返してよこします。内容をフィルア ップしたあとですね。  それから、いろいろ対策を講じたときに、必ずその報告をしてくれた人に「あなたの 報告によってこういうふうな対策が取られました」ということを、いちいち、すごく礼 儀正しくお答えするのです。そういうことがあって初めて、皆さんが協力をしてくれる のです。確かに俺の出した報告書というものが役に立ったのだな、とそういうことがな いと、ヒヤリ・ハットの報告というのはきっと消えていくであろうという感じがいたし ます。それが安全というもののいままで流れてきた姿で、我々はいろいろなところで失 敗をしてきているのですね。その失敗をどういうふうにして乗り越えて、新しいシステ ムに作っていくのかということが、すごく大事ではなかろうかという気がします。 ○堺部会長  ありがとうございました。それでは質議に入らせていただきます。お二人の参考人と 黒田委員からご意見を伺いました。それではお立場は異なりますが、お話していただい た内容についてはいろいろ重なるところがあると思います。したがいまして、お二人の 参考人及び黒田委員どなたにでも結構ですし、また複数の方へのご質問でも結構です。 委員の方々どうぞよろしくお願いいたします。いかがでしょうか。  大体こういうときというのは最初質問が出なくて、部会長が口火を切るというのが定 石のようでございますので口火を切らせていただきます。加藤参考人と、森参考人のお 二方にご意見を頂戴したいと思いますが、医療事故とは何ぞや、どういうものを医療事 故と言うのだというのが、実はまだ確定しておりません。黒田委員のご指摘にもあった ところです。加藤参考人と、森参考人のお考え、それぞれの立場から異なることもある と思いますので、それぞれの立場からどのようなものを医療事故とお考えになって取り 扱われるのかということを伺いたいと思います。加藤参考人お願いします。 ○加藤参考人  医療事故、それから医療過誤、医事紛争。概念図が、今日委員の人に配ったものの2 頁に出ておりますが、基本的には医療行為、作為、不作為いろいろ入ってきますけれど も、それによって被害が発生したというのが医療事故。その中には不可抗力も含むとい うふうに、私は理解をしています。医療過誤となると、そこに過失が介在して、被害が 発生した、そんなふうに大凡は理解をしております。 ○森参考人  現在医療界で使われております医療事故の定義というのがありまして、これは医療現 場において発生する人身事故すべてを含んでおります。それは過誤も、非過誤、全く頓 着いたしませんで、当然医療行為によって起こる場合もありますし、それから災害によ って起こる場合もありますし、医療従事者が事故被害者になることもあります。したが って、医療現場において発生するすべての人身事故をもって医療事故とするという定義 でやっております。 ○川端委員   森先生のご報告で、「ヒヤリ・ハットの事例が事故の報告に比べて随分少ない」とい うのが、ちょっと不思議に思えたのですが、普通は人身事故に至らない過ちのほうが、 案件数として多いはずなのではないかなと思うのですが、なぜこういう形になったのか おわかりになりますか。 ○森参考人  私が調べました限りにおきましては、私どものところを除いて、ヒヤリ・ハットと称 しておられますのは、実際は実行したけれども、被害がなかったか、あるいは軽微であ った。これも入っていると思うのです。私どもはそういうものは全部事故に入れており ますので、純粋に未遂事故のみをもって、ヒヤリ・ハットというふうに考えていますか ら、少し定義が異なろうかと思います。  それから、ヒヤリ・ハットを十二分に確保しようとしますと、情報の収集方法が非常 に問題になります。大阪大学が取り組んでいらっしゃいますような、ITを使った1方 向の無記名の、800台もあります端末から、2、3分でできるような報告システムを取っ ていらっしゃいます。これだと大変たくさん集まるのです。ペーパーにちゃんと書いて、 記名で出します私どもの方法では、ヒヤリ・ハットと言えどもそれほど実数よりは、や はり掌握率が6割から7割ではないかというふうに認識しております。その点で数値的 には些か他の医療機間とは異なるかと思いますが、より純粋なるヒヤリ・ハットと思っ ております。 ○星委員   ちょっと加藤先生と、森先生にお伺いしたいのですが、加藤先生はこの提唱されてい るものの中で、「因果関係の判断を市民感覚でするために陪審の制度がいいんだ」とお っしゃられて、森先生のほうは自分がやられた580件については、どうやって判断をさ れているかおっしゃられなかったのですが、森先生にはどうやって判断されて過誤率を 出しているのかという話と、ご両名にお伺いしたいのは、先ほどの黒田先生のお話だと 専門性をもって判断をするということが、再発防止という点には大切だと。しかし、補 償という感覚になると市民感覚というのを私は理解するのですが、その辺りのところの 区分けと言いますか考え方を、どういうふうに先生方のほうで整理をされているのか、 教えていただければありがたいなと思います。 ○森参考人  医療事故調査会の我々が採っております同僚審査法と申しますと、現在会員が32名、 協力会員が30名おりますが、すべて専門医でございまして、一応文献等を、それまでの 業績を世話人会でチェックいたしまして、会員として認める人は会員になっていただい ております。  それから、ご本人は会員を希望されないけれども、協力するとおっしゃる、主として 大学の教授ですが、こういう方々は協力医として協力していただいております。もちろ ん私ども事務局に集まりましたケースに対しまして、専門医にそれぞれの資料をお渡し して、その先生方のご判断をいただく。一応答えが返ってまいりますので、それに対す る鑑定の方法について、資料等はちゃんと整備されているかどうかについては事務局の ほうでチェックいたしまして、その鑑定については尊重させていただくというふうにし ております。 ○加藤参考人  このシステムの中では、過失があるないにかかわらず、医療行為に関連しておれば補 償をしていくという考え方なので、いまの過失論というのは問題にならないのですね。 問題は医療行為に起因して発生している著しく意外な結果かどうかとか、医療行為によ っていかにも気の毒な結果になったかどうかというのは、たぶんお医者さんたちも過失 と言われると非常に抵抗があるけれども、いかにも結果は気の毒で、何とかしてあげた いという領域がありますね。たぶん臨床されている人たち、みなそういう分野を持って いると思うのですね。そこは過失がなければいまの裁判制度というのは賠償できないわ けですが、いかにも気の毒だという場面で判断するときに、私は市民感覚で判断できる のではないか。これは1つの仮説ですから、シュミレーションをいろいろなところでや ってみて、その安定具合を科学的に証明して、そして臨床の感覚でもそれは納得できる みたいなところの線に、どのぐらい近づいているものかを、ちょっと科学的な証明をし てみたいと思っているのですけれども、そんなに大きな差にならないのではないかと思 っています。 ○川端委員   星委員とほとんど同じことをお聞きしようかと思ったのですけれども、森先生の話だ と、鑑定される方の何というか公平性とか、あるいは専門性というのが、どう客観的に 担保されることになるのか、裁判所の依頼する鑑定についても、いろいろ問題にされて いるのが実際なわけですから、そこがちょっとはっきりしません。そもそも医学教育制 度に大問題があるとか、あるいは学会の専門医制度はいい加減だとかいう批判がある中 で、その客観性をどう担保するのかというのを1つお伺いしたいのです。  というのは、私自身医療事故を担当してきて、専門医の間を回って意見をいろいろ聞 いても、意見がさまざまになってくるというのはよく経験することなのです。ある裁判 所では、実は何人かの専門医に同時に来てもらって、その場でディスカッションさせる というようなシステムも考えておられるようですが、そういう客観性の担保をどうする のか。黒田委員が言われた「公平、中立な第三者機関なんて空から降ってこない」とい うのは、これ誠にもっともなご意見だと思ったのですけれども、それと関連するのでち ょっとお伺いしたい。  それと、加藤先生の陪審制というのは、補償するかしないかの判定だけだということ ならある程度私も納得できるのですけれども、私は民事の医療過誤の裁判でも陪審制を 導入したほうがいいのではないかと元々思っているのです。しかし、その場合はあくま でも対立当事者構造というものがあって、それぞれが主張立証を尽くして、あるいは相 手方の主張立証をその場で吟味し合うというのを見せるから、この陪審制が機能し得る と思うのですね。もし医療専門家を混ぜて陪審員そういうものを作ったときに、いまの 裁判員制度の導入で心配されているように、結局専門家に素人が振り回されるだけの結 果になりはしないか、というような問題についてお聞きしたいのですが。 ○森参考人  確かにご指摘のとおり、いまの日本において、客観的にこれがもっとも妥当な医学的 判断であるということを、資格として述べられるような、そういう人たちが生まれてい ないのは事実です。例えば、外科系の大学教授の選考に手術歴というものを、ちゃんと 重視しているのは、信州大学だけです。そういった点では、臨床医学の能力とかいうこ とについてばらつきがあるのは承知しておるわけですが、私どもが判定しておりますの は、診療工程設計管理が、患者さんが目の前に現れてから消えていかれるまでの課程に おいて、その各ステップをどれだけ客観的にきちっと見たかということを、そのときに 可能なる客観的な根拠でもって判定する。こういう作業というのは、一定の専門委員と しての、それなりの学識経験を持てば、そんなに困難なことでもないわけです。  ただ、我々がよく見ますのは、専門家と称される方がある部分に偏って意見を変移さ せられると。これはなぜかと言いますと、医療過誤裁判というのはそもそも被告側の代 理人は、被告は無罪であるということを証明するために全力をあげるわけですから、疫 学的な常識をくつがえしたり、あるいは重点の置き方を変えたり、いろいろなことによ って本来成されるべき医学的、そういう公平なる判断がされないと。これは私ども別に 損得の問題で言っているわけではなくて、客観的に医師として、妥当な診療工程設計管 理というのは、そんなにバラエティーに富んだものではないわけです。したがって、学 術論争ではなくて、きちっとした、基本的なことがちゃんとされたかどうかということ を判定することにおいては、いまの専門医と言われる方々、それなりの臨床経験をしっ かり持っていらっしゃる方というのは、公平なる判断は可能だと思っております。なお かつ問題がある場合には、第三者がそれに関与するということで、我々は解決している わけです。それは決して完璧ではないかもしれませんが、よりベターな方法であると思 ってやっております。 ○加藤参考人  専門家の意見に引きずられるかもしれないという側面はあり得るかもしれませんが、 ある程度そうした意見、レポートも踏まえて、十分に、自由にディスカッションしてく ださいという、その時間と、その場の提起の仕方によってですね。これは、先ほどから 言っているように、1度微妙なケースでそういう専門家という人から報告をさせて、皆 さんがどういうふうに結論を導かれるのか、そういうことを何例もやってみて、いけそ うだということを提示して、またそれを持ってお話できる機会があればと思います。 ○樋口(正)委員   突飛な質問かもしれませんが、3方の参考人の先生にご意見をいただきたいことがあ ります。1つそれは受診される患者さんの立場から言いますといくら第三者何とか言っ ても、安全と言われてもどんな雰囲気かよくわからないのですね。結局例えば食べ物で も売る場合に、これは安全で安心というような言葉が入ってくるのですね。行政の方も 安全で安心な何とかをやりますという言葉が、インターネットでもたくさん飛び交って いて、患者さんが求めているのは安全はもちろんですけれども、安心感みたいなものを 求めていると思うのです。私がお聞きしたいことは、その安全と安心という言葉の意味 と、中身の違いと、患者さんが求めているのはむしろ安心感みたいなものを求めて受診 するわけですね。いくらインフォームドコンセントをやっても、現在のシステムだとイ ンフォームドコンセントをやって、受けるか受けないかというのは、患者さんが自己決 定するというふうに言っていると、患者さんは最後まで安心感がない場合があって、ま たいわゆるセカンドオピニオンとか求めて、うろうろしている患者さんが現実にいっぱ いいるわけですね。そうすると、宗教みたいな話も出てくるかもしれませんけれども、 その安心感の構築が、例ば法律で言えば善管注意義務とか、弁護士さんの存在とか、加 藤先生がおっしゃった無過失補償制度みたいな構築とか、そういうものが安心感を構成 するのかもしれませんけれども。患者さんが求めている安全というのはいくら飛行機が 安全に飛んでいると言っても、本当かなということが最後にあって100%安全はないと 常に言われているわけですから、最後に何が受診を決定するかと言うと、やはり何か安 心感の構築だと思うのですけれども、それはどうやっていいかというところで、その安 心と安全ということについて、ちょっとご意見をいただきたいのですけれども。 ○加藤参考人  ちょっと的確にお答えできるかどうかわかりませんけれども、例えば飛行機でシドニ ーへ飛ぶというときは、カンタス航空を僕も選びたいと思っています。それは過去の実 績なり何なりで、きちっと保安等のことをやっているからだろうと、そういう意味で安 全性の高い、それ故に安心感と。だからそのずれというのは僕にはわからないのですが、 医療でも基本的には不確実性とか、オールマイティーではないとかいろいろな問題は当 然あるわけで、そういうことも含めて医療に接近しているはずなのですね。ですけれど も、その医療機関によってはクオリティーコントロールきちっとできているところ、あ るいはお医者さんの技量とか、そういうものにも随分差があるわけですから、そこがま ず高まると言うのですか、医師自身の診断能力なり、コメディカル含めたチームとして の力。それから、医療機関としての質ですね、そういうものが全体的に高まることが筋 だと思います。そういう中で安心感がかもし出されてくるというのが報道だと思ってい ます。それで答えになっているかどうかは、ちょっとわからないのですけれども。 ○樋口(正)委員   先生がなさろうとしているこの被害者救済システムですが、これはむしろその安心感 の構成というようなことと、ちょっと関係ないのでしょうか。 ○加藤参考人  私の考えていることは、安全な医療、あるいは質の高い医療そのものであって、その 結果として患者さんはいまよりも安心感を持つことが、二次的に出てくるだろうという ふうにお答えしておけば、正しいかと思います。まず第1には、やっぱりクオリティー を高めるためにはどうしたらいいかということで、事故が起きたり、そういう不具合が 起きたことに臭い物に蓋をするような、同じようなことをまた繰り返すようなことをや っている無策繰りはもうやめましょう。その1つの提案をしているわけで、こういうこ とによってより医療会が質の高いものになっていく。そのことによって、人々の間で不 信感とかいろいろな出ているものが徐々に解消されているということではないでしょう か。 ○森参考人  一般的に医療の現場で安全と言われても、これは本当は存在しないわけでありまして、 要するに臨床司法と言われているような自分の医療機関、医療現場においては、どれだ けの確率で治っている人がおられ、どれだけのパーセントの合併症があるか、危険率が あるかということは、客観的に提示されなければ、安全そのものが理解できないわけで すね。それがまずあった上で、なおかつその当事者の疾病についての特徴に合わせて、 主治医がどこまできっちりとその病気と、それに対応する診療方針について説明をし、 そが相手に理解できるようにドキュメント、書いたものでお渡しできるかということだ と思います。日本病院会では今度私のカルテというのを12月4日にオープンにしますが、 2,600の病院に配ります。そういうものを使ってとにかく自分は一体何なのかという、 医療の実態をきっちりとつかんでいただいてその上で理解できたから安心できるのか、 まだ不安なのかということを、より1つ1つ具体的に確かめていくというプロセスを踏 むことが、実際は安全への道なわけですね。だから一般的な安全というようなことは存 在しないわけですし、私が申し上げましたように、すべての医療機関は不確実性の海の 中で医療をやっているわけですから、安全はないのです。ただ、自分にとっての安全は、 自己防衛も含めていろいろな緊張感と、ステップを踏むことによって持てます。それだ から具体的に、本当に個々のことを1つ1つ進めていくという、そういう将棋のような 一手ずつをやっていくことから安全を確保していくということしかないのではないかと 思っています。そういう手順をいまやろうとしているわけです。 ○樋口(正)委員   一般論的に、私も常々インフォームドコンセントには、結局いま問題なのは時間が足 りないと思うのです。本当に先生がおっしゃるように患者さんに理解させるためには、 極端に言えば1日、半日という時間がないと、できないと思うのです。インフォームド コンセントをちゃんとやって、納得させて、デシジョンメーキングを患者さんがやると いうためには。そういうふうにはお考えになりませんか。 ○森参考人  現実に何時間というふうなものが設定されること自体は、一括してお話できることで はないと思うのですね。私が先ほど3時間と申し上げたのは、手術時間が3時間で終わ りますよということを言って、実際は36時間かかって患者さんは死んでいるわけです。 だからそういうあり得ないことを言って、何となくごまかすようなインフォームドコン セント、これは全然論外なわけですよ。だからいま現場においては、そんなに何時間も かけて、十二分に納得した納得したということを確認するようなことをやっている医療 機関というのは極めて少なくて、かけられるのはだいたい多い所で2時間から3時間で すよ。ただ、オーディオビデオとかいろいろな物を使われて、非常にわかりやすい説明 をされています。したがって家族の方も含めて、わかっていない場合には繰り返しやり ますし、私どもの所も自己管理カルテを使って、看護婦さんが、患者さんが理解してい なかったら「先生もう1度やりなさい」ということをコーディネイトしますから、そう いうことを繰り返して少しでも理解度は深めよう。しかし、50時間やったからと言って 深まるものじゃないと思いますよ。 ○堺部会長  このあと黒田委員にお答えいただきますが、その前に申し上げますが、今日はお三方 からご意見いただきまして、質議の時間が少々不足しております。いつもですと委員の 方々にすべてご発言をいただいておりますが、今回はその時間がありませんので黒田委 員がお答えになられたあと、ご発言をお願いします。では黒田委員よろしくお願いしま す。 ○黒田委員  大変難しい質問でありますが、自分で病気を持っている人は安心なんかするわけない だろうと、僕はそんな感じがいたします。安全の定義の中に、「許容限度を超えていな いと判断される危険性である」というローレンスの定義があるのですね。としますと、 いままでの医療の治療の経過から、こういうものを許容できる範囲なのですよというお 話を、インフォームドコンセントの中でお話していただければいいのかな。それは医学 的な話と同時に、社会的な話ですよね。例えば、がんの人に全部治りなさいという話を したって、それは駄目だと思うのですね。ですから、その社会的に通用するような話を きちっと分けて話をしていただきたい。要するに医学的な問題なんていくらお話したっ て患者さんは全ては分かるわけはないと思うのです。社会通念上の危険性をどこまで許 容することができるのかというお話が必要だと思いますし、説得と、納得というのは全 く違うのだと思うのです。説得は医者の話であって、納得するのは患者さんの論理であ りますから、その辺を何か我々大変間違っているんだなという感じがいたします。説得 したから納得するんだという話は、これは通用しないというような気がいたします。よ ろしいでしょうか。 ○堺部会長  ありがとうございました。それでは、これまでご発言でない委員の方何かございます か。 ○岸委員   森先生にお伺いしたいのですが、私、八尾総合病院の取り組みを、非常に高くは評価 するのですけれども、この取り組みを日本中に普及させようとする場合に、非常に難し い問題いくつかあります。何点か、これとこれとこれを除去しなければ、日本中に広が らないよ、というようなご指摘をいただきたいと思います。 ○森参考人  そんなに難しいことはないと思います。理事長がやる気になりまして、自分の給料を 少し減らして、IAUを作って、監査機構をみんなに納得させるという努力を何年間か 続けると。そのステップにつきましては、申し上げましたように4段階のステップがあ ります。常に職員全体をみんな同じレベルでもって引っ張っていこうという努力をやり 続ける中で発生する事例について、常にフィードバックしていくという作業を繰り返す 以外ないわけですから。私は縦割職制というのは認めておりませんので、できるだけす べての職制に対して、自由に入っていけるような監査機構というのがなければ、自己管 理はできないと思っております。それでも不十分ですけれども、そういうふうなシステ ムでやろうとしておりますから、全国的に広げるのはそんなに難しいことではないと思 います。トップダウンで考えられれば、それなりに十分できることだと思っております し、いま「全国回ってやってください」というふうにお勧めしておりますので、いくつ かの場所では始まるのではないかと思っております。 ○岡谷委員  黒田先生と、森先生にお聞きしたいのですけれども、黒田先生がテンポラリーの調査 委員会では、「やはり十分な再発防止の対策を勧告するまでには、なかなか至らないの ではないか」というふうにおっしゃって、私もそれは本当にそう思うのですが、じゃあ 調査委員会のメンバーと言いますか、調査委員会でそういう対策までを講じていくよう な、そういうメンバーの教育と言いますか、能力には、どういうことがいちばん必要な ことなのかということを、お伺いしたいです。  それから、森先生には「リスクマネージャーは、やはり機能が大変なので、兼任とい うのはなく、やはり専任で置くべきだ」というふうにおっしゃっていたのですが、いま いろいろな病院でリスクマネージャーをナースがやる場合が多いのですけれども、なか なか専任でナースを配置するということが診療報酬上の点からも非常に困難で、ナース を兼任で置くということが非常に多いのですが、その点について、専任で置くために何 かお考えがあるのでしょうか。管理者というか、病院長なり、理事長なりが決断すれば いいとおっしゃられてしまうと、それまでなのですけれども、何かお考えがあったらお 願いします。 ○黒田委員  教育は、とにかく事故調査という教育をものすごくやっております。アカデミーもあ りまして、インターナショナルにもそういう教育をする場所があります。それを通じて 対策をどうしていくかという。これは積み上げの問題でありまして、例えば医療の場合 においては、リスクマネージャーだとか何かそういう素晴らしい成績をお持ちになって いる方々、そういう方々とのインフォメーションを持つことによって、今度は対策にど ういうふうに役に立つのかというような、教育をしていかれることが必要だと思います。  ただ、偉い先生だからといっておられてもあまり実際には役にたたないのではないか な、という感じはいたします。以上です。 ○森参考人  リスクマネージャーという名前を関する人というのはやはり、本来は専属でなければ ならない。といいますのは、立場的に患者さんと医療側との中間に存在しなければなら ない場合も結構多いわけです。それから、分析する作業というものは決して時間的にも、 また量的にも兼務でもってできるものではありません。もしも兼務でやれるとすれば、 それはやっているふりになってしまうのです。だからコスメティックコンプライオンス というものをやってしまうのならそれで結構なのですが、そういうことをいくらやって も本当の意味での自己管理にならないと、いうことは航空業界がちゃんと教えてくれた わけですから。だったら我々は、少なくとも理事者のほうの考え方でもって、1人ない し2人の専属の者は、必ず200床か300床に1人は置くと。そういうところからスタート して、できれば機構として成り立つようなシステムを作っていかなければ、本当の意味 での自己の管理というものはできないと思っています。 ○児玉委員  森先生と、加藤委員に、それぞれ「過失」ということを巡ってお尋ねをしたいと思い ます。まず、お二方に、昨今医療従事者の業務上過失致死、あるいは業務上過失致傷と いうことでの刑事責任追求が非常に多くなってまいりまして、賠償の訴訟をする前に、 あるいは正直に事実を話している場合においても、刑事告訴と捜査が先行するという事 例がまま見られる。こういった状況について、患者が、あるいはよりよい医療を目指す 立場から、ご意見をいただきたいということが1つ目です。  2つ目は森先生に対しての質問ですが、私も日本の医療現場にオーディットと、アド ボカシー、アシュアランスの3つの絵が欠けているということが、重大な問題だろうと 思っているのですが、そして先生のご活躍を常に大変興味、感心を持って見させていた だいているのですが、実は私先生の医療事故調査会の出された裁判の意見書を度々実は 見る機会がありまして、正直申し上げて非常に大きな違和感があります。と言いますの は、私の目から見て、医療事故調査会のお出しになる意見書というのは、裁判で裁判官 に読ませるべきものではなく、医療従事者みんなに読んでほしいものだと。そして、そ の書かれている内容は、よりよい医療を目指すものであって、まさに医療従事者が心を 1つにして、よりよい医療を目指していく、その志が書かれているものであって、裁判 の現場で過失があるかないかという、仕分けをするという観点からすると、非常にたぶ ん違和感がある文章のように思われるときがあります。おそらくこれは先生の側から見 て、民事裁判の過失があるないという議論というのは、おそらく先生の側から見て違和 感があるのではないか。その辺の先生の民事裁判との関わりと、過失の有無という問題 について、何かご所感があれば聞かせていただきたいと思います。 ○加藤参考人  まず、私がごく最近関わった名古屋大学医学部附属病院の医療事故調査委員会でも、 冒頭医療事故調査をする際に、私たち調査委員会が捜査権限を持っているわけでももち ろんありませんし、犯罪捜査として、協力したつもりも全くありませんので、そのとき にディスカッションをしました。それで、現実にトロッカーを指した術者がいますね。 その方はやがて業務上過失致死の容疑で取り調べられる可能性があります。実際にお亡 くなりになった患者さんの解剖のときに、検死という手続きも取って、要するに警察官 が立ち合って、証拠収集を開始しているという経過があります。もし我々がこの調査を するときに、警察がカルテ類を押収するだとか、関係者をかたっぱしから呼びつけると いうようなことをやった場合には、きちっとした事後調査ができないということで、と りあえず自主的に事故調査委員会を作り、公平にそれをやろうとしている以上は、その 犯罪捜査のほうはしばらく動くなという、そういう気持で、病院の医師というものは間 接的な形にせよ、伝わっていると思います。実際にヒヤリングをするときに、委員長も ずっとそのことを言いましたけれども、刑事処罰が実質的に問題になるという恐れがあ ったので、私は弁護人依頼権、黙秘権、不利益な供述を強要されないという権利告知だ けはしておかないといけないだろうということは、お話しました。それで、ヒヤリング のときに、弁護人が立ち合いました。立ち合った上でかつ、非常に正直に、誠実にあり のままのお話をくださいました。それゆえに、事実関係を把握できたし、その提言をま とめることができた。そういうことに対して、今後この報告書を警察が入手して、これ を訴追の際の有力な手がかりにするということに対して、私たちは非常に不愉快な思い を持つだろうということだけは、委員会の中で語り合いました。もちろん損害賠償がど うなるのか、そういうことを通して被害者の気持が許す気持になってくれるかどうか、 いろいろなことが影響あると思いますけれども、基本的にそうして協力をしてきた人に 対して、刑事訴追ということは、被害者の宥恕(ゆうじょ)があれば起訴猶予、あるい はどうしても被害の結果の重大さということであったとしても、略式による罰金ぐらい なところで治まるべきものではないかというのが、私がこのことに関わったときの率直 な感想です。そういうことで、具体的なケースとしてお答えして、もし答えに不十分で あれば追加でお聞きください。 ○森参考人  私の刑事訴追に関する件に関しましては、2003年日本の論点のほうに詳しく詳述して おりますので、またご覧いただければと思いますが、少なくとも日本において刑事訴追 をされるのなら、もっと公平にしていただきたい。現在東京の地方裁判書でいま135件 の都内の私立医大の案件が裁判に係っていますけれども、そのいずれ1つ取っても刑事 訴追されていないわけです。1つを除いて。つまり女子医大の1つであります。女子医 大19件いま出ておりますが、18件は刑事訴追されていないわけです。つまり、刑事訴追 されているように見えますけれども、ほとんどのケースはされていないというのが現実 であります。しかもされるケースについても過失責任ですから、形式的な刑罰で、しか も実行者である看護師がもっとも重い刑を負うということは、横浜市内のケースでも手 術場の看護師が禁固刑でありますし、実行した医師は罰金刑であります。そういうふう な刑罰を課しますけれども、何の改善策にも繋がらないような刑罰で終わっているわけ ですから、これは無意味としか言いようがありません。日本において、医療行為を医療 傷害行為と定義されるなら、少なくとも我々は、アダムスミスの時代から医療行為とし て傷害行為を言い変えてあるわけですから、エラーが起こっても、これは医療行為とし て処理していただき、それなりの新たなる知性、あるいは理性でもって社会で処すべき だろうというのは、私の意見であります。  私どもが書きます、鑑定意見書。特に私が書きますのは、個々の案件に関しましては、 その診療工程設計管理の中のどの部分が、相互があったかということを客観的な根拠に 基づいて指摘しておりますから、決して一般的な話でもって鑑定意見書を書いているわ けではありません。いくつかのケースについて、あまりにも原則的に間違っていらっし ゃる場合には、教育においてもう少し考え直したらどうかと、ご本人にお話しているわ けでありまして、その医療機関と、ご本人にもう1度勉強し直されたらいかがなものか と。例えば病歴が書いていない、話が聞けていない、鑑別診断ができない、診察ができ ていない。こういう場合にそういう指摘をすることがありますが、すべての医療者に対 して語っているわけではありません。したがって個々の鑑定意見書については、正確に 評価していただきましたら、それはなっていないと思います。 ○堺部会長  それでは予定の時刻をかなり過ぎてまいりました。本日はこれで終わらせていただき たいと思います。加藤参考人、森参考人のお二方、本日はわざわざおい出いただきまし て、まことにありがとうございます。重ねてお礼を申し上げます。  それでは次回は、この参考人の方からの意見聴取をさせていただいて、質疑を行うこ との最終回といたしまして、航空界以外の分野のご意見、それから諸外国における状況、 これについてご意見を伺いたいと思います。また、次々回におきましては、これまでの ご質議を踏まえまして、論点整理などに入らせていただきたいと考えております。それ では事務局から次回の日程等について、ご案内を申し上げます。 ○事務局  次回の日程は12月9日月曜日の17時から19時の間で開催させていただきたいと思いま す。場所等詳細については、またご連絡させていただきますのでよろしくお願いいたし ます。 ○堺部会長  それでは、本日はどうもありがとうございました。これで閉会させていただきます。 (照会先) 医政局総務課医療安全推進室企画指導係 電話 03-5253-1111(内線2579)