「セルフメディケーションにおける
一般用医薬品のあり方について」
〜 求められ、信頼され、安心して使用できる一般用医薬品であるために 〜
III.一般用医薬品の役割の変化等
(1) | 国民のニーズを反映した一般用医薬品の範囲の見直し |
(2) | スイッチOTC薬の開発の促進と安全対策の充実 |
(3) | 漢方薬・生薬の活用 |
(4) | 剤型の多様化 |
(1) | 安全対策、市販後調査の強化 |
(2) | 再評価の推進 |
(3) | 情報提供の拡充 |
(1) | 審査体制の整備 |
(2) | 申請区分の見直し、添付資料の軽減化 |
I.はじめに |
近年、急速な高齢化の進展や生活習慣病の増加などの疾病構造の変化、生活の質(QOL)の追求等に伴い、自分の健康に強い関心を持つ国民が増えるとともに、薬局や薬店の薬剤師等による適切なアドバイスの下で、身近にある一般用医薬品を利用するセルフメディケーション*の考え方が広がりつつある1)。
一般用医薬品のあり方等に関しては、これまでも様々な場で検討されてきた3~6)。しかしながら、以前に比べて高齢者の全人口に占める割合がさらに増加し、国民の健康ニーズも多様化している中で、今後、保健・医療資源としての一般用医薬品の有効活用を進めていくためには、国民の新たなニーズに対応し得る一般用医薬品を育成していく必要がある。
一般用医薬品承認審査合理化等検討会では、本年6月以降、一般用医薬品をめぐる諸問題について検討を行ってきたが、今般、セルフメディケーションにおける一般用医薬品のあり方について以下のとおり意見をとりまとめることができたので、中間報告する。
* | WHOによれば、セルフメディケーションとは「自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調(minor ailments)は自分で手当てすること」とされている2)。 |
II.国民のニーズに対応した一般用医薬品の必要性 |
生活環境の改善、医学・薬学の進歩等は、世界に冠たる長寿を我が国にもたらした。しかしその一方で、生活習慣病の増加や痴呆、寝たきり等の要介護状態になる者の増加等の問題がみられるようになってきた。このような状況を背景に、例えば保健福祉動向調査(1994年度)によれば、"健康への不安を感じている人"の割合は男女各年代を通じ約40%に達している。また、自分の健康に強い関心を持つ国民が増える一方で、国民の健康に関するニーズも多様化している。したがって、簡便に利用できる一般用医薬品に対する潜在的需要も少なくないと思われる。そのような中で、国民の新たな健康ニーズに対応した質の高い一般用医薬品を提供していくためには、一般用医薬品の役割を見直した上で、国民の新たなニーズに対応し得る役割・機能を備えた一般用医薬品の開発が促進されるよう、必要な環境整備を図っていく必要がある。[資料1、2]
III.一般用医薬品の役割の変化等 |
1. | 一般用医薬品の役割の変化
現在の一般用医薬品の役割は、主に「軽度な疾病に伴う症状の改善」、「健康の維持・増進」及び「保健衛生」であるが7)、国民の疾病・健康に対する意識や知識、ニーズが様変わりする中で、セルフメディケーションの手段としての一般用医薬品の役割も変化していくべきである。今後はこれらに加え、「生活習慣病等の疾病に伴う症状発現の予防*,**(科学的・合理的に効果が期待できるものに限る)」、「生活の質の改善・向上」の各分野についても、その新たな役割として検討していくことが必要と考えられる。
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2. | 一般用医薬品が具備すべき特性 一般用医薬品が本来期待される役割・機能を十分果たすためには、次のような特性を具備していることが求められる。
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IV.一般用医薬品の適正使用と関係者の役割 |
国民が医療機関を受診する前後で適切に一般用医薬品を使用するためには、製薬企業・業界、薬剤師等及び行政によるセルフメディケーション普及活動や適正使用にかかる情報提供をより積極的に行っていくとともに、初等・中等教育において、医薬品の基本的な事項に関する教育を行うことが重要である。
現状でも、医薬品や薬物乱用防止の教育が行われている例はあるが、医薬品の有効性・安全性とは何かといった医薬品の本質が理解できるような教育が行われることが必要である。
我が国でも、小学生、中学生(1、2年生)を対象にして、薬の基礎知識を教育している事例があり、また、フランスでは、既にこういった医薬品教育が行われているといわれている。それらの事例を研究しつつ、教育機関へのアプローチを検討することが望まれる[資料3]。その際、教育現場に配置されている学校薬剤師の活用が図られるよう、学校薬剤師会等の関係者との協力関係を構築することも考慮すべきである。
一方、薬剤師が一般用医薬品に関して国民に十分情報提供できるよう、大学薬学部、薬科大学における教育の充実を図ることも重要である。
1. | 使用者である国民に求められること 一般用医薬品が適正に使用されるためには、一般用医薬品の使用者である国民が、自己責任の自覚を持つことが先ず求められる。そのためには、日常の健康管理に努め、かかりつけ医師、かかりつけ薬局を確保し、適切な情報の収集に努め、さらに一般用医薬品の使用に当たっては、以下のことに留意する必要がある。
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2. | 製薬企業・業界の役割 製薬企業・業界には以下の役割を積極的に果たす責務がある。そのためには、個別企業だけではなく、製薬企業団体等が行政、医師会・薬剤師会等の協力を得て、出版物の作成、健康フォーラムの開催等を行い、インターネット等様々な方法で一般用医薬品の適正使用のために必要な情報を提供するよう努めるべきである。
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3. | 薬剤師等の役割 薬剤師等は、医薬品の専門家として地域の中で国民の医薬品に関する相談等に応じることにより、一般用医薬品の適正使用に際して、その信頼性を高めることが求められている。そのためには、次の役割を果たすべきである。
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4. | 行政の役割 一般用医薬品の適正使用の推進を図る上で行政が果たす役割は極めて大きい。製薬企業・業界、薬剤師等及び国民それぞれが担うべき役割を果たすための行政的な基盤整備を図る必要がある.
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V.提言−具体的な方策 |
一般用医薬品がセルフメディケーションの重要な手段として位置付けられ、有効活用されるためには、セルフメディケーションの主体者である国民から求められ、信頼され、安心して使用できる一般用医薬品でなくてはならない。
1. | 「求められる」一般用医薬品であるために 求められる一般用医薬品であるためには、社会環境の変化に応じて迅速に国民の健康ニーズを反映することが重要である。そのためには、以下の方策が考えられる。 |
(1) | 国民のニーズを反映した一般用医薬品の範囲の見直し III.1で述べたように、これまでの一般用医薬品の範囲・領域に加えて、緩和な効果が期待できる領域として「生活習慣病等の疾病に伴う症状発現の予防(科学的・合理的に効果が期待できるものに限る)」、「生活の質の改善・向上」及び「健康状態の自己検査」分野の拡充を図るべきである。また、既存の範囲・領域についても、一般用医薬品として承認前例のない分野の開発を検討すべきであろう(注釈については、III.1参照)。
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(2) | スイッチOTC薬の開発の促進と安全対策の充実 | ||||||||||||||||||||
1) | スイッチOTC薬の考え方
これまでスイッチOTC薬の開発は、医療用医薬品として使用されているもののうち、一般用医薬品として承認前例のある薬効群であって、軽度な疾病の症状の改善をもたらすものを中心に行われてきた[資料4]。
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2) | 評価方法としての使用実態試験(Actual Use Trial:AUT)[資料10〜13] AUT とは、実際の使用場面に近い条件下での被験者における使用実態(使用パターンと行動)から一般用医薬品としての適性及び有効性・安全性を評価することを目的として行う、薬局において薬剤師が実施する試験である(いずれかの時点で医師等専門家の協力があることが前提)。スイッチOTC 薬の人での評価を行うに当たっては、臨床試験に代えてAUT を活用することも一つの方法として考えられる。現在実施されている臨床試験の問題点及びAUT 導入に関し留意すべき事項は、以下のとおりである。
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(3) | 漢方薬・生薬の活用 | ||||||||||||||||||||
1) | 一般用漢方処方の見直し[資料14] 一般用漢方製剤については、昭和40年代末に当時の厚生省より210の処方について承認審査の内規が公表された。その後30年ほどが経過する中で、生活環境の変化や急激な人口の高齢化に伴う疾病構造の変化等に伴い、210処方が現在の様々な国民のニーズに合致しなくなってきた面もあることから、次のような事項を検討する必要がある。
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2) | 生薬製剤の評価(承認審査)について[資料15]
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(4) | 剤型の多様化[資料16]
現在は、薬効群毎に剤型規制があるが、高齢社会を迎え、セルフメディケーションの中で一般用医薬品がより有効活用されるためには、高齢者が使用し易い剤型を幅広く提供できるための環境整備を図っていくことが必要である。 |
2. | 「信頼され、安心して使用できる」一般用医薬品であるために |
(1) | 安全対策、市販後調査の強化
スイッチOTC薬の項でも述べたように、一般用医薬品が適正に使用されるためには、製薬企業・業界、薬剤師等、国民の各々に求められる事項があり、それらを明確にして関係者に徹底する必要がある[資料17]。
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(2) | 再評価の推進[資料18]
一般用医薬品は国民自らの判断で使用されることから、その評価にあたって安全性の確保に重点がおかれてきたが、最近では効き目のより確かな一般用医薬品を求める傾向が増加している。その結果、安全性だけでなく有効性の確保についても重点をおくことが求められてきていることから、最新の科学水準に照らして再評価を行うことが必要である。
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(3) | 情報提供の拡充
国民がセルフメディケーションにおいて一般用医薬品を適正に使用するためには、必要な時に適切な情報を容易に入手できるような仕組み作りが必要である。 |
3.承認審査の流れの改善等 | |
(1) | 審査体制の整備 一般用医薬品の品質・有効性・安全性の確保をさらに図るとともに、国民の健康ニーズに対応した新たな役割・機能を備えた一般用医薬品をタイムリーに提供していくためには、申請者において申請内容を申請時点での科学水準に即したものとなるよう努力する必要がある。同時に、行政においても、審査の流れを改善し、一層の迅速化を図ることが必要であり、その実現のためには、スイッチOTC薬の項でも述べたように、審査体制の整備を検討する必要がある。 また、承認審査等の簡素合理化を一層推進するためには、新たな承認基準の制定を進める等一般用医薬品の承認審査の地方委任業務を拡大しつつ、都道府県間の調整を国が行う等、国と都道府県の役割を明確化し、相互の十分な意思疎通を図ることも重要である。 |
(2) | 申請区分の見直し、添付資料の軽減化 国民により早くより良い医薬品を提供することが行政に課せられた使命である。迅速・適正な審査を確保するためには、承認申請に際して煩雑な現行の申請区分を見直し、簡素化することが必要である。 また、承認申請時に必要とされている添付資料についても、臨床試験における倫理面及び動物愛護等の観点から極力試験の重複等の無駄を省き、医療用として得られたデータを最大限活用するなど、データの軽減化を図ること等が必要である。 |
引用文献
1) | 厚生労働省医政局:医薬品産業ビジョン/「生命の世紀」を支える医薬品産業の国際競争力強化に向けて(2002年) |
2) | Guidelines for the Regulatory Assessment of Medicinal Products for Use in Self-Medication,WHO Geneva 2000 |
3) | 医薬品産業政策懇談会:「大衆薬の振興方策について」答申(1984年) |
4) | 中薬審・一般用医薬品特別部会:スイッチOTC薬承認審査の考え方の明確化(1998年) |
5) | 中薬審・販売規制緩和特別部会:15製品群の新指定医薬部外品の指定(1999年) |
6) | 医薬品の範囲基準の見直しに関する検討会:「医薬品と食品の区分の明確化」(2001年) |
7) | 医薬品製造指針(1998年) |
8) | 21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)(2001年) |
9) | A Guide to Finding Information, Medical Products and the Internet, WHO Geneva 1999 |
照会先 厚生労働省医薬局審査管理課 | ||
TEL | 03−5253−1111 | (代表) |
林憲一国際化専門官 | (内2745) | |
山本学主査 | (内2743) |
資料1. | 一般用医薬品を左右する要因(PDF 22KB) |
資料2. | 健康価値観の多様化(PDF 19KB) |
資料3. | 学校教育における薬に関する教育 ―日本の現状―(PDF 13KB) |
資料4. | 日本におけるスイッチOTC成分(PDF 19KB) |
資料5. | 主要国(日米英独仏)スイッチOTC成分(PDF 21KB) |
資料6. | 英国スイッチOTC候補成分リスト(1992)(PDF 12KB) |
資料7. | 米国スイッチOTC候補成分リスト(1992)(PDF 12KB) |
資料8. | 米国、英国の審査体制(PDF 25KB) |
資料9. | スイッチOTC薬の考え方(PDF 14KB) |
資料10. | 使用実態試験のイメージ(PDF 10KB) |
資料11. | 一般用医薬品を臨床試験(GCP)で評価した場合の問題点(PDF 27KB) |
資料12. | 一般用医薬品の臨床評価におけるAUTの位置付け(PDF 25KB) |
資料13. | AUT導入における留意点及びその対応策(PDF 17KB) |
資料14. | 一般用漢方処方の見直し(PDF 8KB) |
資料15. | 生薬製剤の評価(審査)について(案)(PDF 13KB) |
資料16. | 一般用医薬品の剤型について(PDF 21KB) |
資料17. | 一般用医薬品に対する安全対策のあり方について(PDF 14KB) |
資料18. | 一般用医薬品の再評価の考え方について(PDF 18KB) |