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資料3

化学物質の生態毒性試験方法


1.OECDテストガイドライン
 OECDテストガイドラインは、当初、各国が独自に開発していた化学物質の安全性等に関する試験法について、試験結果を各国が共通に使用できるようにすることを目的に、OECDにおいて統一的な試験方法として定められたものである。
 OECDテストガイドラインにおいては、生態系の機能に着目して生物群を選定し、その中で取扱が容易でかつ感受性が比較的高いものを供試生物種として示しており、その生物種を用いて試験を行うことが推奨されている。
 生態毒性に関するテストガイドラインとしては、現在、以下に示す17種類が承認されており、さらに8種のドラフト(TG 202及び208の改訂版を含む)が提案されている。

・TG 201 藻類生長阻害試験 (改訂版、1984年6月承認)
・TG 202 ミジンコ類急性遊泳阻害試験および繁殖試験(改訂版、1984年4月承認)
(TG 202 ミジンコ類急性遊泳阻害試験として改訂中。2000年10月ドラフト)
・TG 203 魚類急性毒性試験 (改訂版、1992年7月承認)
・TG 204 魚類延長毒性試験:14日間 (1984年4月承認)
・TG 205 鳥類摂餌毒性試験 (1984年4月承認)
・TG 206 鳥類繁殖試験 (1984年4月承認)
・TG 207 ミミズ急性毒性試験 (1984年4月承認)
・TG 208 陸生植物生長試験(1984年4月承認:改訂中2000年7月ドラフト)
・TG 209 活性汚泥呼吸阻害試験 (1984年4月承認)
・TG 210 魚類の初期生活段階毒性試験 (1992年7月承認)
・TG 211 ミジンコ繁殖試験 (改訂版、1998年9月承認)
・TG 212 魚類の胚・仔魚期における短期毒性試験 (1998年9月承認)
・TG 213 ミツバチ急性経口毒性試験 (1998年9月承認)
・TG 214 ミツバチ急性接触毒性試験 (1998年9月承認)
・TG 215 魚類稚魚成長毒性試験 (1998年9月承認)
・TG 216 土壌微生物窒素無機化試験 (1998年9月承認)
・TG 217 土壌微生物炭素無機化試験 (1998年9月承認)
・TG 218 底質によるユスリカ毒性試験(ドラフト) (2001年2月)
・TG 219 水質によるユスリカ毒性試験(ドラフト) (2001年2月)
・TG 220 ヒメミミズ科繁殖試験(ドラフト) (2000年3月)
・TG 221 ウキクサ生長阻害試験(ドラフト) (2000年10月)
・TG ウズラに対する鳥類繁殖毒性試験(ドラフト) (2000年4月)
・TG ミミズに対する繁殖毒性試験(ドラフト) (2000年1月)


2.主な生態毒性試験方法の概要

(1)藻類生長阻害試験(TG201)
 水系食物連鎖における生産者である藻類(単細胞緑藻類)を対象とし、化学物質に72時間暴露した際の藻類の生長、増殖に及ぼす影響を把握する。試験にはSelenastrum capricornutum, Scenedesmus subspicatus, Chlorella vulgarisを用いることとされている。
 一定時間後の生物量又は細胞数を測定し、成長阻害半数影響濃度EC50、無影響濃度NOECを求める。

(2)ミジンコ急性遊泳阻害試験(TG202)
 水系食物連鎖における一次消費者であるミジンコ(推奨種:Daphnia magna)を対象とし、化学物質に48時間暴露した際のミジンコの遊泳に及ぼす影響を把握する。ミジンコ繁殖阻害試験の予備試験の役割も有する。
 24時間、48時間後の行動、生死、異常行動及び外見の変化を観察し、遊泳阻害半数影響濃度EC50を求める。

(3)ミジンコ繁殖試験(TG211)
 水系食物連鎖における一次消費者であるミジンコ(推奨種:Daphnia magna)を対象とし、化学物質に21日間暴露した際のミジンコの繁殖に及ぼす影響を把握する。
 親ミジンコの生死と状態、産仔数とその状態、放出卵の有無を観察し、繁殖阻害半数影響濃度EC50、無影響濃度NOECを求める。

(4)魚類急性毒性試験(TG203)
 水系食物連鎖における高次消費者である魚類を対象とし、化学物質に96時間暴露した際の魚類に及ぼす影響を把握する。試験には、ヒメダカ、ゼブラフィッシュ、ファットヘッドミノー、コイ、グッピー、ブルーギル、ニジマスを用いることが推奨されている。
 死亡数を測定し、半数致死濃度LC50を求める。

(5)魚類の初期生活段階毒性試験(TG210)
 魚類を対象とし、受精卵から稚魚へ成長するまで試験物質を連続的に暴露した際の慢性的な影響を把握する。試験にはヒメダカ、ニジマス、ファットヘッドミノー、ゼブラフィッシュ、シープスヘッドミノーを用いることが推奨されている。
 孵化数と生存数、体形異常、行動阻害、体長、体重を測定又は観察し、最小影響濃度LOEC、無影響濃度NOECを求める。

(6)ユスリカ毒性試験(TG218, TG219(ドラフト))
 底生生物であるユスリカ(Chironomus属)の1齢幼虫を対象とし、試験に用いるユスリカの種に応じて、化学物質に20〜28日間又は28〜65日間暴露した際のユスリカへの影響を把握する。TG218では化学物質を底質に、TG219では水中に添加して試験が行われる。
 羽化にかかった日数及び羽化総数、行動障害、成長と死亡について測定又は観察を行い、羽化率、半数影響濃度EC50、最小影響濃度LOEC、無影響濃度NOECを求める。

(7)鳥類繁殖試験(TG206)
 陸棲の高次消費者である鳥類を対象とし、化学物質を20週間以上投与した際の親鳥及び雛鳥への影響を把握する。試験には1種又はそれ以上の種を用いるとされ、マガモ、コリンウズラ、ウズラが推奨されている。
 死亡及び中毒症状、親鳥の体重、雛鳥の体重、親鳥の摂餌量、雛鳥の摂餌量について測定又は観察を行うとともに肉眼的病理検査を行い、統計的に有意な影響濃度、無影響濃度NOECを求める。
 なお、現在、本テストガイドラインとは別に、「ウズラに対する鳥類繁殖毒性試験」のテストガイドラインが検討されているところである。


3.GLP
 GLP(Good Laboratory Practice:優良試験所基準)は、試験施設の構造、設備等のハード面及び組織、運営管理、信頼性保証体制等のソフト面に関して、試験施設が遵守すべき基準を定めたもので、その基準への適合状況を当局が確認することにより各種安全性試験の成績の信頼性の確保を図る制度である。
 OECDにおいては、化学品の安全性試験データのOECD加盟各国間における相互受理の実効性を担保する観点から、OECD優良試験所基準原則(OECD-GLP原則)が策定され、1981年のOECD理事会において化学品評価におけるデータ相互受理(MAD:Mutual Acceptance of Data:)に関する決定としてテストガイドラインとともに採択され、各国がこのOECD-GLP原則を使用すべきことが勧告された。すなわち、加盟各国が化学物質の人や環境の保護に関する安全性評価を行う際には、GLPに適合した試験施設における試験成績であれば受け入れることとされている。さらに、1989年にはGLP原則の適合性モニタリングに関する決定・勧告が採択され、査察制度の構築などが求められている。
 これを受け、我が国の化審法においても、1984年3月にGLP制度が導入され局長通知の形で示されており(化審法GLP)、分解性、蓄積性及び毒性に関する試験成績はGLPの適合確認を受けた試験施設で行われたものでなければならないこととされている。
 化審法GLPでは、以下の事項について規定されている。

 (1) 試験施設の組織と職員
 試験施設運営管理者、信頼性保証部門の担当者、試験責任者、試験担当者等のそれぞれの職務事項を規定。
 (2) 信頼性保証部門
 試験施設は、GLPに従って試験が実施されることを保証するため、文書化した信頼性保証規定を持たなければならないこと、運営管理者が信頼性保証部門の担当者を指名すること等を規定。
 (3) 施設
 試験施設の構造等について試験系の施設、被験物質及び対照物質の取扱い施設や試資料保管施設等が分離されていること等を規定。
 (4) 設備機器・材料・試薬等
 設備及び機器が適正に配置され、定期的な点検、校正等が実施されていること、試薬が適正に保管されていること等を規定。
 (5) 試験系
 物理・化学系及び生物系のそれぞれについてデータの信頼性を確保するための留意事項について詳細に規定。
 (6) 被験物質及び対象物質
 被験物質及び対象物質の受領、取扱い、保管等に関する留意事項について規定。
 (7) 標準操作手順書
 試験施設運営管理者によって承認された標準操作手順(SOP)を文書化し、常備すること、SOPに記載すべき事項について規定。
 (8) 試験の実施
 試験に先立って、試験計画書を作成し、試験責任者の承認と信頼性保証部門担当者によるGLP準拠の確認を受けること、試験計画書に記載すべき事項、試験実施に関する留意事項等について規定。
 試験の実施に当たっては、試験責任者の指導、監督及び管理の下、試験計画書及び標準操作手引き書に従って実施されることを規定。
 (9) 試験成績の報告
 最終報告書の作成に当たり、試験責任者が試験成績の有効性に対する責任を認め署名等をすること、信頼性保証規定に基づき作成された信頼性保証書を添付すること、最終報告書に記述すべき事項等について規定。
 (10) 記録と試資料の保管告
 試験計画書、最終報告書、生データ、監査等の記録及び被験物質や標本等の試資料について10年間保存すること等を規定。

 なお、環境省では、化審法GLPを参考として、環境省の生態影響試験事業に適用するための実務的なGLPとして「生態影響試験実施に関する基準」を定め、これを満たす試験機関において試験を実施させているところであり、現在、国内では7機関がこの基準を満たしている。


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