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資料2

化学物質による環境中の生物への影響


1.影響事例

 化学物質が環境中の生物に影響を及ぼしていると考えられる事例として以下が挙げられる。

(1) 残留性有機汚染物質
 PCB、DDT、ダイオキシン等の残留性有機汚染物質(POPs)は、人の健康への影響に加え、北極圏の海棲哺乳類等にも蓄積していること等から地球規模での環境中の生物への影響が懸念されている。これらPOPsへの対策を講ずるため、POPsの廃絶・削減を図り、人の健康及び環境の保護を図ることを目的として、「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約」が2001(平成13年)5月に採択されている(日本は本年8月30日に加入)。
 第1回POPs条約政府間交渉会議に提出された、POPs12物質の評価レポートでは、POPsの人の健康への影響に加えて環境への影響についても報告されている。様々な生態毒性を示唆する実験データの他、実際の生物への影響事例としては、ヘプタクロルによるカナダガン等複数の野生鳥類の数の減少(米・コロラド盆地)、鳥類の生殖障害(米・オレゴン)、DDTによるカモメの性転換(米・五大湖、カリフォルニア南部)、アルドリンによる鳥類の死亡(米・テキサス湾岸)などが報告されている。

(2) トリブチルスズ化合物
 船底塗料や漁網防汚剤として広く用いられたトリブチルスズ(TBT)化合物は、海水中に溶けだして底質や生物に蓄積し、長期にわたり環境中に残留する。TBT化合物による環境中の生物への影響としては、世界各地での巻き貝の生殖障害・数の減少、ヒラメの免疫機能の低下、牡蠣等の奇形が報告されている。
 2001年(平成13年)10月には、船舶用の防汚剤による海洋環境及び人の健康への悪影響を削減又は廃絶することを目的とし、「船舶についての有害な防汚方法の管理に関する国際条約」(AFS条約)が採択された。TBTを含む有機スズ化合物を含有した船舶用防汚塗料を当面の対象とし、2003年以降総ての船舶への塗布を禁止する等の規制を求めている。

 (注)  国内においては、14物質のTBT化合物が化学物質審査規制法の対象となっており、これらの製造・輸入は行われていない。また、船舶用防汚塗料向けのその他のTBT化合物は、製造・輸入ともされていない。


2.評価検討事例

 これまで我が国で環境中の生物への影響に関する観点から化学物質について評価・検討を行った事例としては以下が挙げられる。

(1) 化学物質排出把握管理促進法
 平成11年に制定された「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律」(化学物質排出把握管理促進法)においては、人の健康を損なうおそれのある化学物質とともに、第2条第2項第1号において「動植物の生息若しくは生育に支障を及ぼすおそれがあるもの」もその対象とされている。具体的には、水生生物(藻類、ミジンコ、魚類)を用いた急性毒性又は慢性毒性試験の結果に基づき、一定程度の生態毒性(急性毒性値LC50が10mg/L以下等)を有するものが選定されており、排出量等の把握を行うPRTR制度の対象となる354物質のうち、有害性の根拠に生態毒性を含むものは118物質あり、そのうち56物質は生態毒性のみを有害性の根拠として選定されている(参考1参照)。

(2) 環境省リスク初期評価
 環境省が実施した環境リスク初期評価パイロット事業(平成9年〜12年度)における39物質についての評価結果によれば、生態リスクに関して3物質(ディルドリン、フタル酸ジ(2−エチルヘキシル)、ホルムアルデヒド)の予測環境中濃度(PEC)※が予測無影響濃度(PNEC)※※を上回り、より詳細な評価を行う候補物質とされ、さらに6物質についてはPECがPNECを下回っているものの比較的近い値であることから、情報収集に努める必要があるとされた(参考2参照)。

   ※:  予測環境中濃度(PEC):実測データをもとに安全側にたった評価の観点から設定した環境中の予測濃度。
   ※※:  予測無影響濃度(PNEC):試験生物種の毒性値をアセスメント係数で除することにより算出した、生態系に対して有害な影響を及ぼさないと予想される濃度。

(3) 環境省「水生生物保全に係る水質目標」
 「水生生物保全水質検討会」は平成14年8月に水生生物保全に係る水質目標の考え方を示した報告を取りまとめた。報告では、水生生物への有害性が考えられ、かつ、水生生物が継続して暴露する可能性の高い物質の中から、環境中濃度が既存の文献の急性毒性値を上回っている物質及び環境リスク初期評価で詳細な評価を行う候補とされた物質を中心に水質目標値の導出可能性について検討した結果が取りまとめられた。具体的には、現時点までに十分な知見が得られたものとして、9物質(ホルムアルデヒド、アニリン、クロロホルム、ナフタレン、フェノール、エンドスルファン、2,4-ジクロロフェノール、カドミウム、亜鉛)につき水質目標値が導出されている(参考3参照)。

(4) 既存化学物質安全性評価シート
 経済産業省では、平成8年度より、既存化学物質による人の健康や環境への影響に関する安全性情報を文献調査等により収集した上で、専門家による評価を加え、その結果を既存化学物質安全性(ハザート)評価シートとして取りまとめ公表している。環境中の生物への影響に関する情報としては、各種文献データベース等から収集した生態毒性試験データや有害性に関するOECD分類基準による分類が記載されている。これまでに化学物質排出管理促進法の第一種指定化学物質を中心に256物質の評価シートを作成してきている。

(5) 新規化学物質のうち「生態影響に関し環境への影響に留意する物質」と判断されたもの
 化学物質審査規制法に基づく新規化学物質の審査に際し、環境省では生態影響など同法の視野に入っていない環境影響について留意すべき物質を「フォロー物質」として記録に残している。平成9年度以降審査された約1,300物質のうち魚の急性毒性試験等の結果が添付されていたのは約650物質であったが※、そのうち「生態影響に関し環境への影響に留意する物質」※※と判断されたのは110物質であった。この110物質のうち20物質は人の健康を損なうおそれが疑われる「指定化学物質」相当とは判断されておらず、人の健康に対する有害性はそれほど強くないものの環境中の生物に対する有害性が疑われている(参考4参照)。

   ※:  濃縮度試験の予備試験として魚の急性毒性試験が実施されている場合及びその他の生態毒性試験結果が添付されている場合(欧州からの輸入物質など)につき、これらの試験結果を元に判断したもの。届出された全ての物質について判断しているわけではない。
   ※※:  「生態影響に関し環境への影響に留意する物質」とは、魚類急性毒性試験等の短期毒性試験で得られたLC50値等が概ね10mg/l以下のもの等


3.外国の事例

 上記1で述べたPOPs条約、AFS条約の他、海外で環境(生物やその生息環境を含む)保全の観点から化学物質が規制の対象として取り上げられている事例としては以下が挙げられる。

(1) 短鎖塩素化パラフィン」
 EUでは、人の健康保護及び環境保全の観点から有害性が強い化学物質についてリスク評価を実施し、その結果に応じてEU全体で規制対象としてリスク削減措置を講じている。  金属加工油用の添加剤やゴム用の難燃剤、可塑剤等に用いられている短鎖塩素化パラフィンは、リスク評価の結果、環境に対するリスクについて以下のように判断された(参考5参照)。
PEC/PNEC比によれば、金属加工時の潤滑油の製造・使用及びレザー加工工程からの排出源近傍の水生生物への重大なリスクを示唆している。
陸生生物に関しては、スクリーニング評価では、金属加工時の潤滑油及びレザー加工用油の製造・使用及び広域的な排出についてPEC/PNEC比が1を超える。
食物連鎖による高次捕食生物への影響については、スクリーニング評価では、金属加工における使用やレザー加工用油の製造・使用により、食物連鎖による高次捕食生物へのリスクが示唆されている。
これを受けて、2002年6月には金属加工及び皮革の加脂加工における用途向け上市を禁止する等のリスク低減措置に関する理事会指令が採択されている。

(2) ノニルフェノール
 界面活性剤、油溶性フェノール樹脂等の原料として広く利用されているノニルフェノールは、EUではリスク評価の結果、水生生物及び陸上生物にリスクを及ぼすものと判定され、EUレベルでの上市と使用の制限措置をとる必要があると提案された。  これを受けて、2002年8月にはノニルフェノール及びノニルフェノールを原料とするノニルフェノールエトキシレートについて、金属加工、織物及び皮革の加脂加工における用途向け上市を禁止する等のリスク低減措置に関する理事会指令が提案されている(参考5参照)。


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