02/10/15 第8回これからの医業経営の在り方に関する検討会議事録        第8回 これからの医業経営の在り方に関する検討会          日  時  平成14年10月15日(火)10時30分から12時30分  場  所  厚生労働省共用第7会議室  出席委員  石井孝宜、内田裕丈、川合弘毅、川原邦彦、小山秀夫、田中 滋、        谷川和生、豊田 堯、西澤寛俊、西島英利、長谷川友紀、南  砂                              (五十音順、敬称略) 議事内容  ○田中座長  ただいまから、第8回「これからの医業経営の在り方に関する検討会」を開催いたし ます。委員の皆様方におかれましては、ご多忙中のところ、当検討会にご出席いただき 、誠にありがとうございます。  本日の出欠状況ですが、神谷委員の後任で就任される千葉大学法経学部教授遠藤委員 はご欠席との通知を受けております。津久江委員、大石委員がご欠席だと承っておりま す。  議事に入ります。本日はご案内にもありましたように、「医療法人の組織運営等、医 療法人の永続性、公益性を高める方策」をテーマに議事を進める予定であります。初め に、豊田委員から意見発表をお願いいたします。2番目には、日本経済研究センターの 八代理事長においでいただいておりますので、後にご報告をお願い申し上げます。事務 局から資料の確認と説明をお願いいたします。 ○指導課長  資料説明に先立ち、事務局内に異動がありましたのでご紹介させていただきます。医 政局担当審議官の阿曽沼です。医政局総務課長の榮畑です。指導課長の渡延です。経済 課医療関連サービス室長の永井です。指導課長補佐の中野です。以上よろしくお願いい たします。 ○中野課長補佐  資料の確認をさせていただきます。1枚目の「議事次第」に続きまして「委員名簿「 座席表」と、豊田先生のプレゼン資料で「医療法人の持分をめぐって」です。次は八代 先生のプレゼン資料で「医療法人の問題点と改革方向」です。以上が議事資料です。  参考ですが、本年7月に公表された総合規制改革会議の「中間とりまとめ」の概要と 本文、その中間とりまとめと同日付で厚生労働省が公表した「中間とりまとめに対する 意見」、本年8月に最後に厚生労働省が公表した「医療提供体制の改革の基本的方向の 中間まとめ」です。 ○田中座長  意見発表に入ります。初めに検討会メンバーであります豊田委員からお願いいたしま す。 ○豊田委員  「医療法人の持分をめぐって」意見を発表させていただきます。資料の各項目につい て、枠で囲んである部分はその表題のまとめ的なことでして、説明文はそれ以下に書い てあります。この順番に沿って報告させていただきます。  初めに、「医療法人における持分の意義」についてお話します。医療法は法人の一形 態として医療法人制度を規定しておりますが、医療法人の種類には「社団」と「財団」 の2つがあります。さらに、社団にあっては「持分の定めあるもの」と「持分の定めの ないもの」の2つを予定しております。一般に社団とは「一定の目的を持って組織され た自然人の団体で、その団体自身が個々の構成員から独立した単一体としての存在を有 するもの」と、財団とは「一定の目的のために結合された財産の集合」ということにな っております。  医療法人は、この両方を含んでいるわけです。平成14年3月末の種類別医療法人数を 見ると、医療法人総数は3万5,793法人、そのうち財団は399法人、持分の定めのない社 団は309法人です。残る3万5,085法人は、持分の定めある社団であり、医療法人全体の 98%を占めております。  なぜ、持分の定めある社団が群を抜いて多いのかということについての正確な調査は ありませんけれども、持分のない医療法人、財団あるいは持分の定めのない社団を設立 する場合、これには税制の問題が絡んでまいりまして、「みなし譲渡課税」であるとか 、「みなし相続・贈与課税」の対象として取り上げられるため、そういった意味でなか なか設立しにくい、時間もかかるということがあります。  医師が自分で購入した土地・建物、あるいは医療器具を提供する場合、持分のない医 療法人を選択した場合、場合によっては高額な税負担をしなければならないということ は現実的には困難な問題であります。そういったことが、持分のある社団の数が増えて いる大きな原因ではなかろうかと考えます。  法律学上、法人における持分というのは、「社員・組合員など構成員としての地位」 いわゆる社員権、もう一つは「法人財産に占める社員・組合員等の構成員の権利義務の 割合を示す額的なもの」とこの2つの意義を持っております。医療法上の持分も、基本 的にはこれと同じと理解してよろしいかと思います。  基本的にはそういうことですけれども、この持分の持つ意味合いが、医療法人と営利 法人にはかなりの相違があります。それを一言で言いますと、その医療法人の場合、医 療法で定められております「医の非営利性」という制約が大きな相違を生む原因になっ ております。  そういったことから、医療法人における持分というのは、個人的な利益を目的とした ものではないということになるわけですが、その相違を明確にするために、同じ持分概 念が使われております有限会社と医療法人の持分について比較してみます。持分を社員 ・組合員など構成員としての地位と考えた場合、その具体的な権利内容は、議決権のよ うな「共益権」、利益配当請求権や残余財産の分配請求権のような「自益権」といった 2つに分かれると思います。有限会社の場合、出資口数によって社員の議決権の数が決 まります。要するに、出資額が多ければ発言権も強くなるということで、社員平等では なくて、出資平等の原則になっております。これは、営利企業の特性ということになる わけです。典型的な例として株式会社では、これが株式数に応じた議決権というのはご 承知のとおりです。その点医療法人では社団法人と同様、各社員の議決権は1個のみと されています。  自益権のほうを見ると、利益配当請求権については、さらに大きな違いがあります。 有限会社の場合には、出資の数によって利益配当が行われますが、営利企業にとって、 これが出資の最大の目的である以上当然のことであります。それに対して医療法人は、 まさにこの点が否定されております。剰余金の配当禁止規定が医療法54条で定められて いるわけです。したがって、利益配当請求権は、医療法人の持分概念の中には含まれて おりません。  しかしながら、残余財産分配請求権は有限会社の場合は出資数量によりますけれども 、医療法人にもこの出資の持分に応じた請求権が認められています。これは、医療法第 56条、社団医療法人定款例第34条に認められているわけですが、医療法人は、立法の趣 旨そのものが医療機関の永続性を図ることにあるわけですので、これが現実の問題にな ることは例外的な状況かと思いますが、こういうことになっております。この辺が、後 ほど大きな問題になってまいります。  「医療法人の非営利性」ということですが、医療法の根本理念は、医療の非営利性と いうことになっているわけです。それを踏まえた医療法人制度は、昭和25年の医療法改 正によって創設されております。このときの立法の趣旨は、「医療事業の経営主体が、 医業の非営利性を損なうことなく、法人格を取得する途を開くことにより、資金の集積 を容易にするとともに、医療機関の経営に永続性を付与し、これにより私人による医療 機関の経営の困難を緩和する」ということでした。  ここで注意すべきことは、「医療の非営利性を損なうことなく」という部分になりま す。そもそも医療法の根本理念は、「医療は非営利であるべき」ということです。それ は、次の条文に明確に示されております。医療法第7条第5項には「営利を目的とした 病院、診療所又は助産所等を開設する者に対して許可を与えないことができる」という こと。さらに第54条では「医療法人は剰余金の配当をしてはならない」と規定されてお ります。  その上、昭和25年の厚生事務次官通知では、「医療法人に剰余金の配当を禁止するこ と。したがって、営利法人たることは医療法人の本質上許されない」と明確に通知が出 されております。このように、非営利の開設主体とされている医療法人には、社団、財 団を問わずすべてにこれが適用されているわけです。  次は「医療法人の剰余金」です。「剰余金」という言葉の一般的な意味は、「会計上 自己資本のうち、資本金と資本準備金以外の部分をいい、過去の利益の蓄積を示すもの 」ということです。医療法人の剰余金も、対外活動から得られた利益である以上、株式 会社における利益と発生原因に同一性があります。しかし、医療法はこの剰余金の配当 を禁止するとともに、医療法第41条第1項で次のように規定しています。「医療法人は その業務を行うに必要な資産を有しなければならない」と。つまり、配当が禁止された 剰余金は、同条項によって医療に必要な資産の取得に充当されることが予定されている わけです。  したがって、医療法の剰余金と株式会社の剰余金とは次の点で基本的に異なります。 つまり、株式会社の剰余金・利益は「会社構成員たる株主に配当することを目的とする 」、医療法人の剰余金は「法的留保(配当禁止)により内部に蓄積され、より良い医療 提供のために使用する」ということが予定されております。  この点について先に述べました、厚生事務次官通知の中にも、「剰余金を生じた場合 には施設の整備改善に充て、以って医療内容の向上を図るよう指導せられたい」となっ ています。このように剰余金の内部留保と、自己資産の確保を医療法人に求めた趣旨と いうのは、医療の非営利の理念ということがあって整合性を持つものだと考えます。  持分のある医療法人が営利法人である、という議論はこのところ聞かれるところです 。昨年来の規制改革議論の中で、営利企業の医業経営参加論が盛んに言われております 。その中で持分のある医療法人は営利法人である、という主張もあります。また、「持 分のある社団の医療法人は、配当はしないけれども最終的に解散時の残余財産の配分を 持分に応じて配分する」という規定がある以上、これは法律的には営利法人ということ がいえるのではないかという議論です。  ここで営利法人の分類の問題ですけれども、法人の分類論については、法律学ではさ まざまな観点から法人の分類が行われていますが、そもそもこのような分類というのは 、多様な実態を有する法人の法的な位置付けであるとか、相互関係を明確にしたり、各 種の概念や法の適用範囲を確定するなど、いわゆる法技術的な目的によるという側面が 強く出ております。  しかしながら、医療の主体を営利主体に委ねるか、非営利主体に委ねるべきか、ある いは医療における非営利性とはどのようなもので、医療法人の非営利性とはいかなるも のかという議論は、こういった技術論ではなくて、現実を踏まえた、最終的には政治的 判断によらなければならない問題であると考えます。それは、我が国だけではないので しょうけれども、その国において長年の歴史の中で暗黙のうちに合成された価値観であ るとか文化的背景、あるいは経済的条件、あるいは倫理感といった問題が総合されて議 論される中で、最終的には国民の代表が決定すべき問題であろうかと思います。  したがって、法律論的に持分のある社団は営利法人だと。したがって営利法人も医療 を行ってもよいというのは議論に飛躍があるのではないかと考えます。株式会社の参入 についてはいろいろ議論されておりますし、時間の関係もありますので省略させていた だきます。株式会社の参入については、私は否定する意見です。  6番の「医療法人制度の展開」ですが、医療法が昭和25年に制定されてから、いろい ろ現実的な要請に基づき、さらに多様化をして現在に至っております。昭和39年には医 療の普及向上、あるいは社会福祉への貢献、その他公益の増進に著しく寄与している公 的な運営をしている医療法人に対し、特定医療法人制度が認められております。「財団 」と「持分の定めのない社団」に対して、「特定医療法人制度」が創設されております 。  これは、租税特別措置法上の問題で、純粋な医療法人の類型ではありませんが、これ は昭和39年以来現在に至っております。平成10年には医療法上の規定として、「特別医 療法人制度」が施行されております。これには一定の制限はありますけれども、収益業 務が行えるようになっております。これは医療法上に規定された、医療法人の一類型で す。昭和61年には「一人医師医療法人」も加わっております。  このように医療法人制度の展開とともに、医療法人の類型は多様化し、現在は「財団 」「社団」の2種類、社団の中には「持分の定めのあるもの」と「持分の定めのないも の」があります。その枠の中で、「特定医療法人」、「特別医療法人」の類型が選択肢 としていま用意されているわけです。  この医療法人制度は昭和25年に創設されて以来、今年で52年を経過することになるわ けですけれども、この間に現在「制度疲労」ともいうべき、非常に大きな問題に直面し ております。例えば、平成6年3月に東京地方裁判所八王子支部は、ある医療法人を退 社した社員に対し、5億円余りの支払いを行うよう命じました。これは、退社した社員 が、持分払戻請求を裁判所に訴えた結果です。  最近では、死亡した社員の相続人が、医療法人に対する37億円という高額の払戻請求 を訴えるというケースも起こっております。このような訴訟が明らかになるというのは 、まだ数は少ないわけですけれども、世代交代が進むにつれ、さらに増加していく傾向 が懸念されるわけです。つまり、世代交代に伴う、巨額の払戻請求が医療法人の存続を 危うくさせているという現状です。  こういった問題がなぜ生じているのかというポイントは、まさに医療法人の持分とい うことにあります。前に述べましたとおり、解散による残余財産の分配という事態は極 めて例外的であり、我々も見たことはありませんが、残余財産の分配と連動して認めら れた世代交代の際の持分払戻し、要するに退社した社員に対する払戻しの規定が、資産 価値の増大という要因とも相俟って、このような事態を招いているわけです。  医療法人の永続性を目的とした医療法人制度が、持分に応じた払戻しという点のため に、その制度がまさに医療法人の存続を危うくするということが現実に起こりつつある わけです。このような創設50余年を過ぎた医療法人制度の中に、いま現れてきている「 制度疲労」という状況を考えると、なぜかということになるわけです。  これは、立法当時の社会情勢もあるのでしょうけれども、その中で当初予定されてい た医療法人制度が、運用面によって変容をきたしていたということに行き着きます。こ の変容とはどういうことかというと、非営利の原則に立つ医療法人制度は、剰余金の配 当禁止により、その理念を具体化、明確化しておりますが、これはまさに医療法人存立 のキーポイントになっているわけでもあります。  そこにおいて、剰余金は本来出資者に帰属すべきものではなく、解散時まで医療法人 に強制的に留保されるべきものと予定もされてきたことは前にも述べたところです。こ れを踏まえるならば、解散時の残余財産の帰属に関する規定は、持分の定めある社団に ついても、同法56条の趣旨に従い、「解散した社団医療法人の残余財産はすべての社員 の同意により、かつ都道府県知事の認可を受けて、その帰属すべき者に帰属させる」と 定めておけばよかったわけですが、現実ではそういうことではなかったわけです。  既に触れましたとおり、厚生省の医療法人定款例は、「本社団が解散した場合の残余 財産は、払込出資額に応じて配分するものとする」ということで、定款例の第34条に規 定されておりました。中途退社や世代交代に対しても、持分に応じた払戻請求を認めて いるわけです。  したがって厳密に言うならば、医療法人制度の趣旨と運営は、当初からややボタンの 掛け違えといいますか、やや不整合をきたしていたということも言えるのかと思います 。ただ、これは単に批判するだけでなくて、当時の経済状態、社会状態、社会情勢の考 察なしにはなかなか理解しにくいところでもありますし、行政目的の促進のため生じた こともあるいはあったかとも思われます。いずれにせよ、いま制度によって制度が危う くなっている状況ですので、これは是非とも改革しなければならないわけです。  そこで私どもは、次のように提案いたします。今後の医療法人を「極めて公益性の高 いもの」「それに準ずるもの」「現在の一般の医療法人」と3つに類別することを提案 いたします。極めて公益性の高いものとしては、現在ある特別医療法人、特定医療法人 がそこに入ります。それに準ずるものとして、いわゆる出資額限度法人、これは社員の 払戻請求権を出資額にのみ限定した定款を有する社団医療法人ですが、これを配置する 、ということを提案いたします。  医療法人協会は、かねてから医療法人の一類型として、出資額限度法人の創設を各方 面に要望してまいりました。資料別添1を見ますと、「出資額限度法人」というのは、 持分のある社団医療法人において、退社時における出資持分の払戻し及び解散時におけ る残余財産の分配、持分に応じた配分を、払込み済みの出資額に限定し、社員の退社や 死亡に伴う持分払戻請求による過大な負担を軽減し、社団医療法人の安定的永続性の確 保を目的にするというものであります。  医療法人の剰余金は、医療法の趣旨に照らして、本来出資社員の所有に帰属するもの ではなくて、法人の解散時まで強制的に留保される、ということは法の上でも予定され ておりましたし、そのように実行されています。したがって、社員の払戻請求権を出資 額にのみ限定した定款を有する社団医療法人は、医療法人制度創設の趣旨に最も適合し た法人ということがいえるかと思います。医療法人制度が制度疲労に陥っているいまこ そ、この出資額限度法人の創設を求めたいと思います。  平成6年12月1日に、旧厚生省の健康政策局長の諮問機関として、医療法人制度検討 委員会がありました。その報告書の中でも、「本来持分の在り方は各医療法人の判断に おいて、定款の定めにより自立的に決定すべき事項として、持分の払戻しを一定限度に 制限してもよいはずであり、行政としても各医療法人の自立的な判断に委ね、定款変更 の道を開くべきである。また、今後こうした医療法人類型を税制上も認知していくため の条件整備が必要であり、その場合、投下資本の回収を最低限確保しつつ、剰余金の配 当禁止規定と、その整合性を図る意味で、出資額限度方式が最も妥当である」と書かれ ております。  これを受けて、関係者がいろいろ実現のために努力いたしましたが、当時の法制局と の調整が合わず、法制化には至っておりません。この出資額限度法人について、なぜ法 制化が必要なのかということですが、出資額限度法人の法的位置付けを得るために、現 在制度上では準拠法令を欠いております。出資額による払戻し及び残余財産の配分につ いての公正を期すため、後戻りの定款変更はできないようにすることが必要であります が、そういった意味での法人類型としての法的位置付けが必要になるわけです。  また、出資額限度法人に移行するに当たり、税制面の対応が不透明です。定款を変更 した場合の課税面の取扱いの明確化もここで必要になっております。つまり、定款変更 した場合に、医療法人の社員に対しては、その後の相続、贈与、譲渡のあったことに対 する課税面をどうするのか、また出資額を超える分の払戻しを免れることによる法人の 受贈益課税はどうなるのか、この辺を明確にするためには、医療法上の制度化は欠くこ とができない状況になります。  このように医療法人の類型は先ほど述べましたとおり、財団、社団があるわけですが 、私どもは極めて公益性の高いグループとして「特定医療法人」「特別医療法人」、そ れに準ずるものとして「出資額限度法人」、そして3番目に「一般の医療法人」に類別 することが望ましいと考えております。  いわば、この出資額限度式法人には、一般の医療法人が公益性を高めていく中間地点 的な類型として、是非とも法制化した上で設立を図りたいと考えております。こうした 医療法人制度改革により、我が国医療の大きな部分を支える、医療法人の健全な発展が 一層図られることを期待していきたいと思います。以上です。 ○田中座長  豊田委員どうもありがとうございました。引き続き日本経済研究センターの八代理事 長にお願いいたします。委員の皆様方はご存じのとおり、八代理事長は、マクロ経済の 在り方等についてご活躍なさる傍ら、総合規制改革会議の論客としても多方面で発言を 重ねていらっしゃる方です。それでは八代理事長よろしくお願いたします。 ○八代理事長  日本経済研究センターの八代です。よろしくお願いいたします。座長からご紹介いた だきましたように、私は規制改革委員会当時から、過去5年ほど、社会的規制の問題を 担当しておりました。医療、福祉、教育、労働、最近は農業もやっておりますが、いず れも非営利と言われる分野で、基本的に共通した問題があります。本日は、医療法人と 、それ以外の、いわゆる非営利法人との共通性ということも含めてお話をさせていただ きます。  私の発表の視点ですが、先に豊田先生が、医療法人の健全な発展をするために、どう いうことが望ましいか、という観点からお話されたと思います。私も基本的にそれは同 じです。ただ、消費者本位の医療改革というのがいま求められている中で、特に患者の 観点から、どういう制度改革が望ましいか、その中には医療法人の制度改革も当然含ま れる、という観点でお話をさせていただきます。  総論ですけれども、私は「営利法人」とか「非営利法人」の区別というのは、基本的 に善悪論で片づけるものではなくて、むしろ利用者にとってどちらがいいのか、という ことが重要であります。  あくまでも私は経済学の立場から、営利がいいか、非営利がいいかという単なる比較 論ではなくて、それら事業者間の活発な競争こそが利用者にとって最も望ましい結果を 持つ、もちろん一定の条件付きではありますけれども。そういう意味で、あくまで医療 サービス分野における、事業者間の健全な競争をどういう形で達成できるか、という観 点からお話をさせていただきます。  2頁では、いま言ったことと同じですが、「医療制度改革の基本的目標」というのは 、決して財源論だけではなくて、医療サービスの質の向上である。患者から見て望まし い医療サービスを達成するためにどうしたらいいかということです。なぜ、いま制度改 革が必要とされているかというのは、医療法人制度に限らず、経済社会環境の変化等が あるということです。  3頁に、そういう利用者本位の医療サービスを実現するためにはどうしたらいいのか ということです。ここで「営利」「非営利」という言葉が医療の世界では非常に重視さ れるのですが、これを「患者の利益にとってプラスかマイナスか」という形に言い換え ていいかどうかというのを是非、ご検討をお伺いしたいと思います。我々は、まさにそ れが目的であって、営利か非営利かの違いは、そのための手段に過ぎない。ですから、 仮に営利事業者間の厳しい競争によって、他のサービス分野のように、利用者にとって 望ましい状況が実現しているというのであれば、それは医療分野で非営利を追求するの と結果的に同じことではないのだろうか。なぜ非営利の医療機関が重要かというと、そ れは患者の利益にとってそれが望ましいからだと考えておられると思いますので、あく まで営利、非営利にこだわるよりは、何が患者にとってプラスなのか、という観点から 考えるべきではないかと思います。  現在の医療の考え方というのは、私の理解によれば、医療機関があくまでも主体とな ることである。これはご承知のように、医療の世界では医者と患者との間には情報の非 対称性という問題がありまして、患者が必ずしもほかのサービスと同じように、十分な 選択ができないという前提で、医者が患者の利益を主体的に判断して医療サービスを行 う。患者は、そうした医者の倫理、あるいは医療機関の倫理に全面的に依存することが 望ましいのだという考え方だと思います。したがって、それが先ほどもお話がありまし た、医療法における医療が非営利でなければいけない、ということの趣旨だと思います 。  ただ、私は豊田先生とは違って、非営利性の規定はもちろん重要ですが、それを担保 する具体的な手段が、いまの医療法ではほとんどといっていいぐらい書かれていない。 専ら精神規定である。むしろ非営利性を明確にするような規定が必要ではないかと思い ます。あとはそういう観点から、弱者としての患者を保護するために、これまで広告規 制等いろいろな規制が行われてきたということです。  それに対して私どもの考え方は、もちろん医者の倫理性というのは非常に重要であり ますけれども、それだけに全面的に依存するのではなくて、もう少し別の手段も必要で はないか。それが先ほど申しました供給側の競争促進ということであります。利用者の 選択肢ができるだけ広がる。そのときには当然ながら情報の非対称性を克服するために いろいろな情報公開、あるいは評価という仕組みを兼ね備えなければいけない。  そういう利用者の選択肢を通じたサービスの質向上が望ましいのではないか。具体的 に言うと、医療分野に多様な新規の事業者がどんどん参入し、古い事業者、「古い」と いう意味は別に歴史的に古いだけではなくて、旧態依然たるような医療サービスをされ ていて、患者から見ればあまりありがたくないような医療機関の意味ですが、そうした 方は、むしろ淘汰されることが大事ではないかと思われます。  この点は豊田先生のお話と違うと思うのは、「永続性」だけが重要ではない。確かに 永続性というのは重要ですけれども、むしろ質の低い事業者には撤退してもらわなけれ ばいけない、そこが競争の論理であります。その点をどう担保するか、ということが大 事ではないかと思います。そのためには医療情報の公開、カルテの開示、セカンドオピ ニオンのいずれも患者の利益を追求する手段としての競争ということが大事ではないか と思われます。  4頁で、具体的に医療の非営利性をどうやって担保するのかということです。これは 先ほどもご紹介がありましたように、医療法第7条では、営利目的の病院経営を禁止し ているということです。ただ、ここで問題なのは営利的行動とは何か、という定義が全 くありません。あくまで経営主体の規制のみである。経営主体の規制というのは、剰余 金の配当という1点のみをもって、それを「営利性」と定義していますが、それははな はだ不十分ではないか。やはり、きちっとした行為規制をして、こういうことをしたら 営利的行動であって、患者にとって障害がある、というようなことをもうちょっと明確 化してもらわないと、肝心の非営利性の規定の趣旨が十分に担保されないのではないか ということです。  「経営主体の規制」というのはいくつかありまして、開設主体が営利法人ではないこ と。ただし、既に存在している企業の福利厚生目的の病院は除くということです。これ が、現在66ぐらいあるということです。企業の従業員だけではなくて、一般の地域住民 も診療しているということです。  「医療法人の剰余金の第三者配分の禁止」、それから「法令に定める者以外の収益事 業の禁止」という経営主体と、収益事業の禁止等の意味で、一部の行為規制があります 。ただ、これはほかの分野の非営利性の担保の手段、あるいは法令と比較すると、「甚 だ不十分」と申しましたのは、医療以外にも非営利的な分野は当然あるわけです。例え ば電力や輸送です。他の公益分野における非営利性の担保というのは、そういう剰余金 の配当禁止というような、資本調達方法の規制ではなくて、具体的な供給義務というこ とがなされている。  あるいは、米国の非営利病院というのがあるそうですが、そこでは「一定の範囲にお いて慈善医療」、つまりお金がない人でもちゃんと医療サービスを行うということを義 務付けられています。これは、日本でも「医師の応召義務」というのがあるそうですが 、これも精神規定にとどまっていて、具体的に何をもって応召義務違反であるか、とい うのが必ずしも明確にはなっていない。  次に、「いまの医療法における非営利性を担保するための経営主体の規制」の意味を 5頁で見ていきます。剰余金の配当禁止というのは、我々経済学から見ると、資金調達 方法への規制にすぎない。つまり、株式発行の対価である配当を禁止するということは 、直接金融市場での資本調達を禁止していることにすぎない。  ただ、病院でも診療所でも、当然ながら増築・改築したり、あるいは高い医療機器を 買うときには資本の調達が必要なので、そのときは銀行借入れ等、間接金融市場での資 金調達をやっている。  問題は、そういう銀行から借り入れた場合には当然金利を払わなければいけないわけ です。銀行から借り入れて金利を払うという行動と、株式を発行して配当を払うという 行動は、我々から見れば全く同じものである。基本的に直接金融か、間接金融の違いに すぎない。なぜ一方が営利的行動であって、他方が非営利的行動なのか、という説明は 私も何回も聞きましたが、全く理解できません。  もちろん配当というのは、金利のように固定ではなくて利益に比例しますから、株主 が儲け主義経営を強制するという話もありますが、これは病院が非常に儲かっていると きの話でありまして、赤字の場合にどうなのか。現に多くの病院が赤字だと聞いており ますが、赤字のときは逆に配当は払わなくてもいいわけです。日本の法人企業の7割近 くは、現に配当をしていないと聞いています。  ところが銀行借入れというのは、情け容赦なく、病院が赤字であってもとにかく金を 返せ、金利を払えと強制し、それができなければ担保としての病院を取り上げるわけで す。一部には「債務奴隷」という言葉もあるそうです。ある意味で仮に病院が赤字だと した場合は、むしろ銀行借入れのほうが、病院に対して儲け主義経営といいますか、い わば無理やり過剰診療をしたり、いろいろな形で収入を上げざるを得ないような状況に 強制するわけです。この点についてどう考えられるのか、ということを是非お聞きした いと思います。資本調達コストが固定だから安心だ、利益比例だから危険だというのは 、あくまで儲かっているときの話であって、逆の場合はどうなのかということです。  やや余計なことを申しますと、イスラム教国にはイスラム銀行というのがあるそうで すが、これは基本的に金利を禁止されているそうです。払えない人から、強引に借金を 取り立てるという行為は、イスラム教では神の倫理にもとるというふうにされていて、 そういう銀行は禁止されています。  それでは、イスラム教国の企業はどうやって資金調達をしているかというと、どこか からお金を借りて、そのお金で利益を上げたら、お礼としてその利益の一部をお金を貸 してくれた人に配分する。利益が上がらなければ構わない。これは、極めて倫理的な行 動だとの解釈だそうです。  そういう意味では、配当が営利であって、借入れは非営利であるといういまの医療法 とは全く逆の考え方をする人々も世界には多くいるということです。どっちが正しいか ということは問題ではないので、要するにそういう金利と配当とは基本的に資金調達方 法として同じものである。なぜ一方だけを規制するのかという問題になるわけです。  現に、資金調達の問題というのは、現在の病院経営にとって、大きな問題になってい ると聞いております。病院施設を建て替えるときに資金繰りが非常に困難である。内部 留保だけで建て替えられる病院は結構なわけですが、それができない場合はどうするの か。病院債の問題などいろいろ議論されていると思います。もちろんそんな株式発行が できるわけはない、という議論もありますから、別にそれを強制することはありません が、少なくとも禁止する理由はないのではないか。あくまでも資金調達の多様化の手段 としてそれを認めることが、企業の営利、非営利にかかわるほどの重要な問題かどうか というのを、やや疑問に思っているわけです。  先ほどもお話がありましたが、問題は良い医療のための設備投資の資金をどうやって 調達するかということです。内部留保を蓄積する、剰余金の配当を禁止すれば、当然利 益があった場合に、それだけ内部留保が高まりますから、それだけ設備投資がしやすく なるというのはそのとおりでありますが、仮に内部留保が十分でなかったらどうするの かということで、これは銀行借入れか、資本市場からの調達かのどちらかにしなければ いけない。  問題は、まさに良い医療サービスを提供するために、どうやったら設備投資をより良 く調達できるかというのがポイントであって、それは個々の病院の判断に任せたらなぜ いけないのだろうかということであります。あるいは法律で規制するほど、明らかにこ ういうことをしてはいけない、というほどの問題なのかということであります。  6頁は、以前に医師会からいただいた資料ですが、これは先ほど言ったことの繰り返 しで、配当というものを非常に特殊視されるわけです。医療法人と営利法人を比較する と、ほかは全部同じで、配当金だけが突き抜けている。したがって配当を認めれば、医 療費が高まるというご説明です。これについては先ほど言いましたように、右側の配当 金に相当するものは、当然ながら左側の医療法人の費用の中の金利というものがある筈 でありまして、金利を無視して配当だけを書くというのはおかしいのではないかという ことの例示です。  7頁は「医療法人の非営利性の形骸化」ということです。これについては先ほど申し ましたように、配当だけを禁止しても、医療の非営利性はとても担保できるとは思えな い。それはご承知のように、役員報酬を増やすという形、あるいは先ほどもご説明があ りましたが、個人財産の蓄積や解散時の財産の配分というのは実態は少ないということ ですが、理論的にはそういうことは可能である。あるいは先ほど指摘がありましたよう に、出資者が、それを一部返せというような場合は当然ある。そういう形で、実質的に 配当と同じようなことは可能であるということであります。  それから、収益事業が禁止されておりますが、最近よく指摘されているのは、保険請 求、給食、検査といったメディカル・サービス事業は可能であって、こちらの形に多国 籍企業がトランスファーペイメントをするような形で、こういうほうに利益を付けるこ とは可能である。病院本体では利益はでないけれども、給食や検査義務のほうで利益を 上げることは十分可能だということであります。さらに医療の中でも既に薬局や訪問看 護は企業形態が可能であるので、そういう意味で企業はすでに一部医療の世界に参入し ている。  また、先ほども申しましたが、福利厚生目的の企業病院には、既に一般的な診療行為 が行われていて、こういう多くの企業経営の病院で、どういう営利追求のための弊害が 起こっているか、ということについて私は承知しておりません。まさに、そういう営利 企業が良くない、非営利が悪いというのであれば、その証明が必要でありまして、単な る神学論争的に営利を追求するから悪いことをするであろうというのはおかしいのでは ないか。現に一部であっても、そういう株式会社形態の病院は日本に存在しているわけ ですから、そこがほかの医療法人とどれだけパフォーマンスが違うのか、ということを きちっと説明する必要がある。私の理解では、基本的に差はないと聞いております。  8頁では、「医療法人をどうやって改革するか」ということです。これは、この検討 会でも昔から議論されているそうですが、大きく2つに分ける必要があります。これは 豊田先生が言われたことと基本的に同じですが、「非営利型の医療法人の構築」という のは、個人財産と明確に分離する「持分なき社団」である。そこには社会的貢献をきち っと義務付ける。具体的には、先ほどの応召義務をもうちょっと明確化し、米国の非営 利病院のような、医師の慈善医療を一定比率まで認める。それがあまり高くなると病院 はつぶれてしまいますから、一定の比率でそういう応召義務を明確化する。それから、 税制上の優遇措置をきちっととる。先ほど、医療法人の本来の目的は、永続性の担保に あるというご説明がありましたが、まさにこれこそ最も永続性が担保される仕組みでは ないかと思います。  豊田先生がおっしゃった、第2の類型ですが、限度額だけを制限するということです が、ここでちょっとわからない点がありますので、後でお話をいただければありがたい です。「過去の出資額の限度に」とおっしゃいますが、そのときの実質価値をどう決め るのか。20年も30年も前に出資した人から見れば、インフレ調整は当然してもらわなけ ればいけない。当然ながらその間の経済成長もあるわけです。なんとなれば、そのとき の出資財産というのは、その当時の経済価値に応じて出資したわけですから、それと全 く同じ額をいま返してもらっても、その実質価値はかなり減価している、従ってそれは 年金と同じようなインフレスライド、賃金スライドをしてもらわなければいけないので はないか。そういう何をもって実質的な過去の出資限度額とするか、という点が明確で はないかと思います。  仮にそういうことをした場合、いまでも一部の方が出資者、あるいはその家族が自分 の出資分を返してほしいということなのですが、もしいまのようにキャピタルゲインを 十分分配されずに、キャピタルゲインだけは病院に取られてしまうということでいえば 、今度は逆に解散要求をするおそれはないだろうか。いまは、自分の出資分だけ返して もらえばいいのですが、もしその人が十分な多数になれば、逆に医療法人の解散をある 意味で促すようなリスクはないだろうかと思われます。  やや失礼な言い方をすれば、こういう中途半端なやり方では駄目であって、医療法人 の永続性の担保というのが最も重要であれば、それは完全に1型の極めて公益性の高い 「特別医療法人」や「特定医療法人」に変えるというのがいちばん有効な手段ではない かと思われます。そのときは、当然ながら先ほどご説明のありました税制上の障害をな くし、少なくとも社会福祉法人と同程度の税制上の優遇措置を担保すべきであろうと思 います。  豊田先生との違いは、第2の類型として、「企業型の医療法人」ということです。現 在の医療法人というのは、いわば精神規定としての非営利というものがあるがゆえに、 逆に株式会社と比べても十分な経営や医療情報の開示義務がないわけであります。  そういう組織財産と個人財産が一体化したような、いわば個人企業と非常に類似した ような形での医療法人においては、きちっとした経営情報等の開示義務が必要ではない か。これは社会保険のお金、税金のお金が医療法人に投入されているからだという位置 付けです。  少なくとも先ほどおっしゃったように、経営の決定権が出資額に比例するか、あるい は1人1票かというだけの違いであっては、十分非営利性は担保できないと思われます 。同時に、そういう企業型の医療法人については、もっと事業内容や資金調達の自由化 を進める、あるいは収益事業や多様なサービスの自由化を進める。あくまでも、そうい う事前規制ではなくて、その病院がどういうサービスをしているかで規制する。患者の 利益にならないようなことをやっていたら、それは経営形態を問わず、きちっと取り締 まるし、場合によっては廃止命令を出す、というぐらいの担保が必要ではないかと思わ れます。  9頁ですが、なぜそれが重要かといいますと、事業者間の競争を通じた利用者保護の 原則があるからです。いまでも事業者間の情報提供をきちっとすれば、別にこれ以上の 競争は要らないのではないかというご意見もありますが、いまの競争の不十分さでは、 情報公開のインセンティブがないわけです。あるいは競争自体はやられていても、画一 的な競争であって、患者から見れば十分な選択の余地がない。その意味では普通のサー ビス産業では、お客を引き付けるために我が方はこんなことをやっている、ということ を積極的に情報開示するのがビジネスの世界では当たり前でありますが、医療の世界は 非営利であるという名目によって、これまで情報公開のインセンティブが非常に少なか った。むしろ、逆に広告規制ということが行われていたと思われます。  広告規制は随分緩和されたわけですが、より積極的にこれまでの病院のいろいろな診 療実態や、過去の手術成績なども含め、積極的に情報公開を促すようなインセンティブ を高める必要があるのではないかと思われます。  それから、事業者間の競争をより活発にすると、いわば医者と患者との信頼性を阻害 するのではないか、という懸念があるそうですが、これは逆であります。むしろ競争を 促進することにより、事業者のほうが、「会社」というのはちょっと書きすぎですが、 ブランド価値を追求する。我が方の病院は、過去こんなに医療事故が少ないし、これほ どきちっとした診療をやってきた、ということを積極的に広報することにより、消費者 に選ばれることが重要ではないかと思います。  あるいは、不採算医療の問題もまさにそうでありまして、一定の不採算医療をすると いうことが、むしろお客を引き付けるための一つの売りになるわけであります。そうい う儲かる部分だけやる、儲からない部分はやらないということが、本当にお客を引き付 けるために良いかどうかというのは疑問であります。もちろんそういうことをやる病院 があってもいいのですが、基本的にほかの業界では、一定の多様なサービスをすること により、逆にお客が増えるというのがいろいろな例でありますので、これは決して競争 を促進するから不採算医療がなくなるという問題ではないかと思います。仮にそれがあ るとすれば、それは診療報酬体系の改善で対処しなければならない、そもそも不採算医 療というものは、本来、あってはならないわけです。人々のニーズがあって、しかし供 給が少ないというものは、供給を増やすような方向に診療報酬体系を変えるべきである 。最近は、小児医療でも若干そういう対策がとられたと聞いておりますが、これをもっ と徹底する必要がある。  「事業の安定性」ということですが、個々の病院がそれぞれ永続性を持つことも大事 でありますが、普段に新規参入が行われるということで、サービス全体としての安定化 があったほうが利用者にとっては望ましいのではないか。その意味は、新規参入という のは、極力規制してはいけないかと思います。  基本的に病院の保護か患者の保護かというのはよく銀行について言われることと同じ です。銀行についても従来の護送船団方式は基本的に見直されて、預金者保護をするこ とによって銀行は倒産させる、というのが最近の考え方であります。同じように、例え ば患者の取り違えとか、院内感染を起こすような病院はつぶれてもらわなければ困るわ けです。そういう意味で、医療の質にかかわらず単に病院の永続性ということは決して 消費者にとって望ましくないのではないかと思われます。最後に10頁ですが、そういう 競争を促進すべきであるという観点では、本日は必ずしも議論はなかったと思いますが 、医療法人と公的医療機関との対等な競争条件の確保というのが非常に重要であって、 これはもちろん皆さんもご存じだと思いますが、公的病院と民間病院との不明確な役割 分担がある。  公的病院というのは、高度専門医療や不採算医療に特化する、政策医療に特化すると いう前提で多大な補助金を貰っているのですが、現実には一般外来等で医療法人と競合 している。そうであれば、きちっと対等な競争条件が必要なのに、公的病院は政府から 補助金を貰ったり、税制上の優遇措置を受けたり、あるいは一般会計から繰り入れすら 貰っている公立病院も多い。そういう意味では民間銀行の資金調達手段をもっと多様化 するような形で、公私の対等な競争条件を確保する必要があるのではないかということ です。  繰り返し申しますが、利用者の立場からすれば、多様な医療機関が競争しているとい う状態が最も望ましい、それが利用者の利益になるわけです。そういう意味では参入規 制を禁止するというのはよほどのことです。例えば電力のような、極度の資本集約的な 分野では共倒れになりますから、参入規制があるわけですが、少なくとも病院や診療所 というのは、新規参入がそれほど難しい分野ではありませんから、その意味ではもっと 自由な参入が必要ではないかと思われます。  最後に、これはほとんど議論されていない点ですが、病院が医療法人かその他の経営 形態のいずれが望ましいかを誰が判断するべきかということです。社会福祉法人型の非 営利と、企業型の医療法人に分かれるときに、そのどちらが良いかというのは、あくま でも消費者が判断することです。これは株式会社の問題もそうですが、政府や事業者の 方が、これは望ましくないと決めるのではなく、利用者が、儲け主義の病院は嫌だと思 えば行かなければいいわけで、利用者の判断をなぜそこまで禁止するのか。営利病院が 認められている米国でも、その比率は小さいと言われております。逆に言うと非営利と いうのは、それ自体立派な競争力を持っているわけで、なぜそこまで営利性の排除にこ だわられるのか、私には理解できません。  営利病院など、日本では存続できないという批判もあるわけですが、存続できるかで きないかは、やってみなければ分かりません。結果的に参入を自由化しても誰も入って こなかったら、それはそれで構わないわけです。規制緩和というのは、あくまでも選択 肢の拡大であって、よほど明確な理由がない限り、参入規制というのは望ましくありま せん。もちろん医療の分野での規制は重要ですが、その規制というのは、参入規制やほ かの事前規制ではなくて、医療サービスの内容についての行為規制です。悪い医療をす る病院をきちんと規制して、良いサービスをしている病院にもっと事業拡大のチャンス を与えるというのが、本来の規制の在り方ではないかと思います。  言い忘れましたが、資本調達方法の自由化を議論するときに、これまで全く議論され ていなかったのは、賃貸方式の病院です。これは米国にも多いと聞いております。もと もと病院というのは、診療報酬で経営しているわけですから、フローの面だけであれば 、安定的な経営ができるはずです。問題は、病院の建て替えや新規の病院をつくる場合 などの資本の調達です。そういうところは別の経営主体が病院をつくり、それを賃貸す るということをどう考えるかです。これは現在の医療法でも容認されており現に、そう いう形の病院もどんどん増えています。資本調達には内部留保でやる方法、銀行借入れ でやる方法、株式を発行して配当でやる方法、賃貸方式など、多様な手段があります。 ですから、そのうちの1つだけを規制して、それで非営利の担保ができているというの は、あまりにも楽観的な見方ではないでしょうか。  繰り返し申しますが、私は医療の非営利性というものをもっと明確にして、参入規制 ではなく、行動規制でやるべきだと思います。具体的に言うと、例えば慈善医療的なも のや、きちんとしたサービスの質を担保するという行為規制の点から、もっと非営利を 確保することが大事ですし、それはまた、それに応じた医療法人の在り方にもかかわる のではないかと思います。 ○田中座長  八代さん、どうもありがとうございました。短い時間で要領よくまとめていただきま した。ではお2人の方々の意見を踏まえて、ご質問でも結構ですし、ご自分の意見の開 示でも構いません。検討会は公開ですし、私もよく言われるのですが、多くの方がイン ターネットで出てくる議事録を参考にしている、楽しみにおられる。それだけではなく 、この委員は何も言わないではないかなど、最近は結構厳しい評判があります。医療法 人の在り方のみならず、検討会の委員としての在り方も、いまでは世間に厳しく問われ ている時代です。どうぞ、お2人への質問のみならず、お2人のご発表についてのご自 分の意見でも結構ですので、お願いします。 ○川合委員  これは私の意見です。実は私、平成6年の医療法人制度検討委員会のころから参加し ておりました。そのときは非常にむなしゅうございました。当時は健政局の総務課が担 当室だったと思いますが、いくら議論しても、ホームページに載るわけでもなかったの です。今回の検討会はホームページに載りますし、いろいろな議論が活発に行われると いうことで、この検討会は非常に時代に合ったものではないかと、私は思います。  それと八代さんのご意見の中の3頁に、カスタマー側、利用者側に立って選択、向上 、淘汰という言葉が出ておりますが、私どもはこれを全面的に否定するところでは全く ないということは、やはりご確認いただきたいと思います。10枚目のペーパーがなかっ たら、八代さんのお話は一体何なのかと思っていたのですが、10枚目のお話があって、 医療法人と営利株式会社という議論になると、私は税立病院、税なし病院、税あり病院 という3つの分類をしていますが、税立病院のことも議論しないで営利企業云々という のは、問題になるのではないかというのが私の考え方です。 ○田中座長  これはご質問ではないですね。ご意見ですね。 ○川合委員  意見です。 ○田中座長  では豊田委員、どうぞ。 ○豊田委員  私の発表に対して、八代さんから質問と取れるようなご意見がありましたので、その 2点についてお答えしたいと思います。1つは、いわゆる資金調達の問題です。医療法 人は銀行から借り入れていただくということに対して、直接金融である株式との比較で お話されましたが、私どもの認識を申し上げます。株式会社のほうから直接金融で資金 調達をする、要するに株主がいるという場合は、必ずしも医療に関心がある、あるいは 理解のある株主だけではないのです。  先ほど八代さんは、「赤字になったら払う必要はない」と言われましたが、そういう 株は売れないと思います。やはり株式会社というのは、個人が株を買う動機というのは 、やはりそれによって利益を得たいという動機があるからです。株主というのは例外な く、その会社が利益を上げて十分な配当をしてくれれば、ありがたいという期待がある と思いますし、またそのための会社でもあるわけです。そのためというのは、そういう ことが使命の会社でもあるということです。そのときに医療に対する理解がない、ある いは関心がない、単に利益を最大にしてほしいという株主たちの圧力が、どのように働 くかということが懸念されるわけです。そういった動機が常に働いているのが、株式会 社なのです。  私どもはこれで十分だとは思いません。医療法人としてもいまや資金調達方法は、も っと選択肢を広げるべきだということで、いま委員会を立ち上げて研究を始めています 。いま間接金融はあまり適当ではないようなご発言がありましたので、いままで間接金 融である銀行から融資を受けて、ここまできた医療界として一言言いたいと思います。 確かに元金を払う、利息を払うということを確実に実行しなければ、八代さんが心配さ れたような結果になります。従来は健全な医療をやっていれば、引き剥しみたいなこと に遭うこともなかったのです。この費用はあくまでも固定的な、先まで見通すことので きる支払いコストであって、医療法人の経営の中でそれを考慮に入れて、予算を立てて 実行していきますと、これによって医療法人の運営が左右されることは、従来はまずほ とんどありませんでした。  いまは世の中が不況ですので、いろいろ懸念されますが、少なくとも銀行のほうから もっと収益を上げろとか、もっと何とかしろということは、現場ではありません。そう いった意味でどちらがどうだという議論をするならば、やはり私どもはいままでの安定 した、見通しができる間接金融でここまできたという思いでおりますから、それを否定 される意見には賛成できないわけです。  それから出資額限度法人で、出資額だけを返すのかというお話ですが、私は明確に50 万円出資した方は、何年経っても50万円でいいと思います。つまり医療法人は非営利と いう医療法に基づいた制度ですし、それに賛同しない人は、医療法人にはならないわけ です。そういうことで公益性だの、出資額が増えないから駄目だと言う人は、初めから 医療法人をつくってはいないわけですから、これについて法人を経営する人たちが、イ ンフレ調整をしろとか、どれだけ加算しろということになれば、まさに自分たちを否定 する行為そのものになると思います。「出資」という言葉は、いろいろ問題があるよう ですが、医療法人を立ち上げるときに、設立資金として出したお金が持分になるわけで すけれど、その拡大は誰も望んでおりません。  また出資額限度法人というのは、法律改正をして、いまの法律で持分のある社団を全 部それにするといった強行的な話ではありません。要するに医療法の1つの類型として 、こういった形の出資額限度式の法人をつくるということです。今日お配りした中にも 、具体的な方法が書いてありますが、これはあくまでも手挙げ方式です。この趣旨でい こうということで、自分たちで主体的に決めた法人がそれを申請することですので、中 にはそんなものはやらないという所もあるかもしれませんし、そんなことなら特別医療 法人、あるいは特定医療法人になりますというのもあるかもしれません。それはあくま でも法人の自治に任されることですので、出資額限度方式の法人ができたら、すべての 持分の定めのある社団医療法人が出資額限度法人にならなければならないという話では ありません。そこをはっきりしておきたいと思います。  もう一つ法人の在り方について、形だけつくってというような話はよそでも聞きます が、まず医療法人の類型がどういうものであるかを、きちんとつくっておくということ と、その法人がどのように運営されるか、その医療機関をどういうように地域住民のニ ーズに合わせるか、あるいは利用者側から選択されるような医療法人にするかというこ ととは別の問題です。私どもは医療法人の抱える諸問題が出資額限度方式によってすべ て解決すると思っているわけではありません。その辺はご理解いただきたいと思います 。 ○西島委員  今日、八代さんがいちばん最初におっしゃった、利用者にとってどちらが良いかとい うことです。競争という意味には、いろいろな意味があるだろうと思います。そういう 意味で医療機関同士は、すでに質の競争をしているわけですから、競争はしていないと いう根拠は、全くわからないわけです。「健全な競争」と言われましたが、その競争の 結果うまくいかなければ、市場からの撤退というのが、ある意味での市場原理主義の考 え方です。しかし市場からその医療機関が撤退した結果、どうなるか。そこは無医地区 になるわけで、無医地区にならないように先ほどから言われている、「医療法人の永続 性」という言葉が出てきているわけです。  自民党のある国会議員にレクチャーしたときに言われたことですが、百貨店がどこに でも進出できるようになって、ある地域に、いま問題になっている所が入ってきた、そ うしたら、やはりここでは利益が上げられないからということで撤退して、そこには小 売店が全くない状況が起きた、医療にこれが起きてもらっては困るのだ、ということを 言われました。やはり簡単に市場から撤退できないのが医療ですから、無医地区をどう するかという議論が盛んにされるということも、是非考えなければいけないことであろ うと思います。  また先ほどから、株式会社になると医療の質が上がるといったお話もありますが、最 近の一連の企業の不祥事で、これはすべて消される話です。利用者の人たちは、美辞麗 句で騙されてしまう。現実的には東京電力でさえ、あんなに大きな健康被害を起こす可 能性のあることに関しても、隠してしまったということも起きているわけです。また食 品会社というのは、健康にいちばん大きな被害を与える企業ですが、それがああいう体 たらくです。そういうことも含めて、企業がやれば本当に医療の質が上がるのかどうか という議論は、もう一度していかなければいけない問題だろうと思います。米国の話も 出ましたが、米国では、やはりここでは利益が上がらないと思ったら、その地域から撤 退しています。撤退した結果、無保険者の地帯がいま非常に増加しているという現状も あります。10年前のアメリカの医療と、いまの反省期にあるアメリカの医療とを、やは りしっかりと検証する必要性があるだろうと思います。  医師の倫理の問題については、医師の倫理の綱領は、すでに改正いたしました。過去 はパターナリズムということで、まさしく八代さんがおっしゃったような医療の展開で したが、いまは患者と同じ視線に立って、患者と共同して疾病を克服していくという考 え方に変わってきました。まさしく時代の流れに沿った考え方をしてきているというの が現状です。  利用者の選択肢が広がるということですが、一体何の選択肢が広がるのでしょうか。 言葉だけは非常にきれいですが、では今は選択肢がないのか。選択肢はいっぱいあるわ けです。ただ患者たちは急に病気になるわけですから、普段から医療機関の情報を得て いないという部分があります。ですから、そういう意味での情報の非対象性的なものは あるのかもしれませんが、ある意味ではいまや情報は氾濫しております。  病院の質の評価というのは、日本医療機能評価機構が、もうすでに質の評価をして2 期目になっております。つまりもう5年を経過して、2回目の評価に入ってきており、 この評価内容をインターネットで公開する時代になってきたわけです。ですから八代さ んが言われている時代といまの時代とでは、だいぶ変わってきたのではないでしょうか 。カルテ開示を含めても、そのとおりです。  それから企業立の病院が70ぐらいあるのではないかということですが、この中で新日 鉄病院は、すでに医療法人に転換しました。なぜ転換しなければいけなかったのかとい うことも、やはり検証すべき問題だろうと思います。  それから非採算部門云々という話ですが、いろいろなコンサルタント会社が、自治体 病院の赤字をどうしようかというときに、いちばん最初に出てくるのが、やはり非採算 部門からの撤退です。まさしく公的な病院がそれをやり始めております。しかし、それ は公的な病院がそう決めたのではなくて、それをコンサルタントする人たちが企業的な 考え方に基づいて、非採算部門からの撤退を指導されるということも、実は起きている わけです。ですから先ほどおっしゃったようなきれい事ではないだろうと思っておりま す。  もう一つ、米国の非営利病院云々というお話もありましたし、公民ミックスというお 話も、八代さんのお話の中にいつも出てきますが、米国の病院事情というのは、本当に 患者が必要な医療が受けられないということなのです。そのために出てきたのが、患者 の権利法で、これは議会で可決されているわけです。この患者の権利法とは何なのかと いうと、必要な医療が受けられる権利です。ですから日本で言う、カルテを見せてくれ という権利とは全然違う視点での法の内容です。これが何を物語っているかは、皆さん 方はよくお分かりになるだろうと思います。  直接金融市場での資本調達のお話ですが、現実的に株式会社が直接金融市場から調達 している資金は、17、8%です。8割以上が、実は銀行からの借入れというのが現状です 。その結果何が起きたか。不良債権が起きて、いま大変な状況が起きているのです。銀 行からの借入れがなければ、何も不良債権化はしていないわけです。では医療機関が銀 行から借入れをして、不良債権化した病院が一体どのくらいあるだろうかと。もう一つ は、医療福祉事業団がお金を貸しているわけですが、ほかの住宅金融公庫等々と比較し ても、医療福祉事業団はほとんど不良債権化していないのです。そういう意味で医療機 関は非常に優秀で、資金はきちんと返しているということも考えなければいけない問題 だろうと思います。  利子と配当は一緒ではないかというお話については、利子は経費で、配当は税引き後 の剰余金です。そこに大きな違いがあるので、これが一緒だという議論は、いかがなも のかという気がします。  ブランド指向についても、医療事故が少なければいいのかという議論も、やはりしな ければいけないだろうと思います。実はアメリカでは、医療事故が増加の一途をたどっ ております。つまり医療が高度化すればするほど、医療事故が起きる可能性、確率は高 まってきています。もちろん医療事故は起こしてはいけないわけですが、増加している 現実があるということも、間違いのないところです。そこでアメリカでは情報開示とし て、その手術をやってどれだけ成功したかという数値を出せということを、ある意味で 義務化したところ、リスクの多い状況は治療しないということが起きて、患者が非常に 困ってしまいました。現実にそういう状況が起きているわけです。そういうこともしっ かり検証しなければいけない問題だろうと思います。  公的病院と民間病院の役割分担については、私どもがずっと以前から主張していると ころです。これに関しては今回の健康保険法の改正案の中で、きちんと対応することに なっております。  消費者の判断ということについては、消費者は現に判断しておられます。まさしく流 行っている病院と非常に厳しい病院というのが、もう現実にあるわけです。それほど患 者を馬鹿にしてはいけないのではないかと、私自身思います。いろいろな情報を取りな がら、実は患者は行動を起こしておられます。その結果、経営の厳しい病院と、経営的 にきちんとやられている病院とがあるだろうと思います。ところが米国はどうかと言い ますと、米国では患者が判断しようと思っても、できないようなシステムになっている ことはご存じのとおりです。契約されている病院にしか行けないので、アメリカではセ カンドオピニオンという制度が盛んに起きているのだろうと考えております。  今回、総合規制改革会議で出された特区の中に、びっくりするような言葉がありまし たので、どうしてこのような言葉が入ったのかということを、是非教えていただきたい と思います。「生命、身体、健康、公序良俗、消費者保護等に関する規制であるという 理由によって、対象外とすべきではない」ということですが、生命、身体、健康という のは、国民がいちばん関心のあるところで、一度失った生命は元に戻ってきません。や ってみて駄目だったらやめればいいではないかという議論は、まさしく儲け主義の考え 方でしかない。そういうようにしか、私どもは考えられないわけです。  総合規制改革ヒアリングで私どもが行きましたときに、八代さんは「まだまだこれか ら10兆円儲かるのですよ。どうして皆さん方、これに手を突っ込まないのですか」と言 われました。しかし私どもは、この10兆円の利益を上げるためにやるのではありません 。結果的に医療費が増大してきたことは認めざるを得ませんが、10兆円の利益のために 医療をやるというのは、我々医師にとっては容認できない問題です。 ○八代理事長  最後の意見は私の発言ではなかったと思いますので、誤解のないようにお願いします 。 ○西島委員  いや、ヒアリングのときにそういう言い方をされたのです。 ○八代理事長  西島先生の最後の点は、少なくとも私の発言ではなかったとという事実だけを言った だけの話です。もし、よろしければほかの点について。  まず豊田先生からのご意見ですが、私は何も銀行融資をいけないと言っているのでは なくて、銀行からお金を借りることと、株式を発行して配当を出すということは、同じ ようなものであって、少なくとも一方だけが常に望ましいわけではないと言っただけで す。これまで銀行融資が大きな貢献をしたということは、別に否定しておりません。  西島先生は私が今日言わなかったことばかりについて言っておられますので、それは あまりフェアーではないと思います。もしよろしければ時間のある限り、反論させてい ただきます。無医村の問題を市場競争に持ち出すというのは、ややアンフェアーではな いかと思います。無医地区の問題は公的に担保すべきであって、無医地区でいまある病 院がつぶれたら大変だから、病院が過剰な地域でもつぶれてはいけないということには ならないと思います。永続性の担保が必要な点というのは、やはり公共的に提供すべき もので、それがあるからあらゆる所で競争してつぶれてはいけない、ということにはな らないのではないかと思います。  株式会社の問題は、今日はそう議論するところではないと思いますが、逆に配当を期 待しない株式会社というのも、十分あり得るわけです。決して株式会社が全部儲け主義 だけではありません。例えば無医村の地域について最初から配当を期待しないような形 で株式を購入する、住民が無医村の病院をサポートするために、お金を出し合うという こともあるでしょう。いわば神社に寄付して、名前を書いてもらうというやり方もあり 得るのではないかと思います。別にそれがメインであるとは言いませんが。  また私は、株式会社が入ったら必ず医療の質が上がるとまで、楽観的に言ってはおり ません。単に規制する根拠がないと言っているだけの話です。ですから株式会社の是非 にかかわらず、医療法人の間でも、もっときちんと競争することは、医療の質向上にと って重要ではないかと思います。  それから私は、米国の医療制度が良いなどということは、一言も言っておりません。 皆保険制度もないような国の医療制度を真似しろとは、一切言っておりません。むしろ 私が言ったのは、米国の非営利病院と日本の医療法人とでは、同じ非営利性でも、その 意味に大きな差があるということです。米国の非営利病院は、慈善医療という形で行動 規制をやっていますが、日本の医療法人にはそれがないと言っただけで、米国の医療の 問題点は、もう西島先生がおっしゃるとおりだと思われます。  土地投機の問題は、今日の話とは全然関係ないと思います。仮に病院が銀行からお金 を借りて土地投機をしたら、それ自体が大きな問題ですから、別に病院に不良債権の問 題がないのは当たり前のことだと思います。  自治体病院でコンサルタントが、いろいろな非採算医療から撤退することをアドバイ スするということですが、それを受け入れるのは自治体病院の責任ではないでしょうか 。逆に言えば別に自治体病院だけではなくて、医療法人も同じようなコンサルを受けて 、同じようなことをやっておられるわけです。私が言いたいのは、非採算医療との問題 を病院の倫理だけでやれば、必ず限界があるということです。それは別途、きちんと対 応しなければいけないのではないかということです。  医療事故についてはおっしゃったように、もちろんきちんとリスクを評価しなければ 、重要な手術をする病院が不利になりますから、医療の内容を考慮せずに事故だけを単 純に数えてはいけません。しかし、少なくとも患者の取違えとか、院内感染といった原 始的な事故は、それとは関係ないのではないでしょうか。また雪印や東電の例を挙げら れましたが、逆に医療機関でも同じことが起こっているではないですか。ですから株式 会社のほうが明らかに良いとか、医療法人のほうが明らかに良いということではなくて 、両方ともきちんと質を上げるための手段をやらなければいけない。そのときに問題を 起こした企業は、やはり徹底的に社会的な制裁を受けることが大事だと言っているわけ ですが、そこが病院の場合、どうなっているかが必ずしもよく分からないということで す。  それから私は、患者を馬鹿にしてはおりません。逆です。むしろ患者がきちんと、経 営上不安な病院には行かずに、安定した病院に行くというのは、非常に結構なことです 。そうであれば、なぜ株式会社が良いか悪いか患者が判断できないのかという論理とは 、矛盾するのではないかと思います。私も西島先生がおっしゃるように、いま消費者は すごく利口になっています。だからこそ消費者である患者の判断に、もっと委ねていい のではないかという論議なのです。もし間違っていれば、ご批判いただければ良いかと 思います。とりあえず気が付いた点を申し上げました。 ○西島委員  先ほどの10兆円の件は、たしか鈴木さんが当時おっしゃったと思います。 ○田中座長  ほかの委員、どうぞ。 ○小山委員  1つだけはっきりしておきたいことがあります。まずは歴史的産物ということですか ら、いまある病院制度をいまの時点で考えるのではなくて、歴史的・社会的産物として 医療制度もあるし、医療機関もあるということを念頭に、やはり賢く考える必要があり ます。昭和25年に医療法ができたときには、この国は間違いなく公主私補を取っており ました。公的な病院は医療体制を整備するので、民間はあくまでも補いますということ を、間違いなく国会でも言っていたわけです。こういう体制の中から、公的な病院がだ んだん増えていった過程が、昭和38年まではあるわけです。なぜかというと、実は民間 では資金集積がやりたくても出来なかったので、公的病院ができたり、国立病院が数を 増やしたり、日赤とか、済生会とか、厚生連などが「公的病院」だと言って、いろいろ なことをしたのです。そして国民の医療を確保するために、この国にはいろいろな形態 の医療機関ができたわけです。  昭和36年に簡易保険ができて、昭和38年以降、租税特別措置法があって、その後昭和4 0年代に一気に医療保険の給付の改善があったのです。民間病院が公的病院の病床数を上 回るのは、昭和45年ですから、それまでは公的なもののほうが病床数も多かったのです 。そういう意味では公的、社会主義みたいな医療の世界から、戦後何十年もかけて左に 触れたものが、大きく右に触れているところが、いまの現状だという正しい理解をする 必要があるだろうと、私は考えております。  なぜかと言いますと、医療法人よりも民営化を患者が望んでいるのか、それともいま の医療制度よりも株式会社のほうがいいと思っているのか、そうはならなくても今でも いいのではないかと思っているのかという議論は、リベートとしては、両方とも数量化 されたデータが不足で、勝負はつかないと思います。つまり、これだけの議論の素材で は、株式会社にしたほうがいいか、株式会社にしないほうが良いかというのは、好き嫌 いの議論でしかない。先ほど豊田先生が適切におっしゃったように、本当に国会か何か で議決してもらったほうが、はっきりするという事態で、好き嫌いの議論にしかなりま せん。ただ株式会社化することによって、メリットが若干あるだろうとは、私も思いま す。しかし、つぶしても知らん顔、儲からないからやめたでは困るのです。やはりその 危惧がありますということは、厚生労働省も言っていて、それをどうするかです。  ではどんな例があるのか、具体的に言いますと、会社立の病院は68ありましたが、200 0年以降、2つの会社が株式会社立の病院をおやめになりました。この2つは、2つとも 町と市が無理矢理買わされたのです。これは事実です。事実は事実ですから、それは認 めてほしいのです。  2つ目は、実際問題として株式会社化できたら、良い病院だということですが、いま 問題にしているのは、悲しいことに医療法人の病院に患者が集まるよりも、公的病院に 集まるということです。例えば都道府県立の病院に集まります。都道府県立の病院は支 出に対して3分の1、さらに税金を入れているわけです。そうすると赤字がいっぱい出 ている病院のほうが患者は好きで、赤字が出ていなくて儲かっている病院に、あんなに 儲かっている病院は良い病院だから行くというのは、私は逆ではないかと思っておりま す。何でも儲かって、高い店のほうが良いという人もいるかもしれませんが、儲かって いないけれど良心的な人の所がいいという人もいるので、それははっきり勝負がつかな いのではないかということが、2つ目に言えると思います。  3つ目に、リースの話を誰も議論していないとおっしゃいましたが、大変申し訳ござ いません。私どものような若輩の研究者のやっていることは、ご理解いただけないのか もしれませんが、医療法人は税金を払っているのですから、別にリースだって構わない ではないですか。リース会社だって払っているわけでしょう。それは別に何も規制する 必要もない。無税の医療法人はともかく、医療法人というのはみんな有税で、税金を払 っているわけでしょう。税金を払っているのだったら、別に何もそこまで言われること もないし、私は行政の監督責任でもないと思います。  豊田先生が一般の社団法人と、いくつか分けておられますが、もし医療法人の議論を 詰めていって、最後に結局持分の定めのある社団法人があるとして、それが儲け主義な ものと儲け主義でないものとを分けるときには、どうかその病院の連結決算を徹底的に してもらいたい。MS法人を持っていたり、奥さんが調剤薬局をやっていたり、同族が 何々ということがありますから、全部調べていただいて、そういうものは営利と認めて 保険医療機関から外せ、という話はあるかなと思います。そこの話はそこの話で、また 別の議論だと私は思います。  あまり大した話ではありませんが、事実と事実でないこと、歴史的・社会的産物であ ることと今のこと、それから実際に株式会社化が十分か、危ないのか危なくないのかや らせてみるのか、やらせてもいけないのかというデータが、必要にして十分にあるのか どうかという議論の下でしないと、やはりこの議論は好き嫌いの議論に聞こえて、私は あまり生産性がある議論だとは思えないのです。 ○ 田中座長  好き嫌いにすぎなくても議論しておかないと、社会的には解釈がつかない。少なくと も好き嫌いであっても、論理的根拠が何であるかを人々は知りたがっておりますので、 もう少し続けざるを得ません。  長谷川委員、どうぞ。 ○長谷川委員  結構議論が錯綜していますね。事実の確認と事例の紹介を、まず最初にしたいと思い ます。西島委員は、アメリカでの医療事故の件数が増えているとおっしゃいましたが、 多分全国的な調査で増えているものはないと思います。最近、非常に注目されているこ とは間違いないのですが、大きなエリアベースの調査は、実際には2件しかやっており ませんので、それでもって増えているというのは、ちょっと難しいのではないかという 気がします。  あと、情報公開で何があったかということですが、例えば外科医ごとの死亡率などを 出しますと、確かに重症例の方を避けることはあります。ただいろいろなファクターや 、いろいろなインジケーターでものを見なければいけません。代表的な事例はニューヨ ークです。ニューヨーク州ではそれをやった結果、確かに重症例をオペしないで逃げた 可能性があるのです。あるいは同じ患者をより重症と偽った可能性もあるのです。ただ グロスで見ると、やはり死亡率がうんと減ったと。それは1990年代のほかの州の同じ機 関と比較しても、明らかに減ったというのも事実です。情報公開というのは、どうやっ てリスク調整をやるかという限界はあるのですが、これはある程度試行錯誤しながら公 開のための仕組みをつくることによって、何らかの医療の質の向上を図ることは、当然 可能だと思います。  議論の枠組みについては、先ほどからいろいろな議論が出ておりますが、私自身、厚 生労働省からこの検討会のご説明を伺ったときには、ここでは株式会社の議論はしない という話だったと思うのです。しかし皆さんおっしゃるので、少し申し上げたいと思い ます。ある組織形態が良いとか悪いとか、だからこれをやるべきだといった予定調和は 、データのないところでは実際には不可能です。ですから小山先生がおっしゃっている ように、好き嫌い議論になってしまうわけです。ただ大事なことは、ある組織形態があ るとすれば、それに見合ったものは何なのかという整合は、きちんと図る必要があると 思うのです。そのために医療法人だけではなくて、国公立の医療機関も含めて議論しな いと、医療法人だけ議論してどうのこうのというのは、実際にはあまりバランスの取れ た議論にはなり得ないのではないかと思います。  諸外国での非営利の定義としては、行動による規制と所有による規制の両方を大体掛 けています。行動については、いわゆる不採算部門などです。「政策医療」と言うと、 一部でしか使っていない言葉ではありますが、多くの医療機関が忌避するような採算性 の低い医療については、一定の義務を課します。その代わり例えば税金を安くする、あ るいは一定の補助金を与えるということをやります。非営利性のもう一つは、所有です 。解散した場合には他の非営利法人に対して、その資産を移転する、あるいは自治体に 対してお返しするということで、私有財産は認めていないのが通常です。それから考え ると日本の持分のある医療法人というのは、中途半端と言うと言い方が変ですが、非営 利性の規制が若干弱いというのは、指摘できると思います。  さらに問題を複雑にしているのが、診療報酬です。これはランニングコストだけを賄 っているのか、キャピタルコスト部分を賄っているのか、どう考えるかによります。自 治体立の病院等には毎年毎年何らかの形で、1兆数千億円のお金が投入されています。 民間のほうは診療報酬だけです。医療施設近代化整備資金というものがあるのですが、 これはごくごくわずかです。この診療報酬の整備が実際にはどこに付くかというと、キ ャピタルコストを賄うかどうかです。さらにさかのぼると、キャピタルコストが持分と いうところに集約されると、若干問題があるかもしれないというところにくるわけです 。  豊田先生にひとつお聞きしたいのですが、整合ということを考えますと、いまでも持 分のない社団というのはあるわけですよね。出資額限度法人というのは、持分を最初の 設立時に出した額面だけに限定すると。しかもそれは覚悟してお出しになっている。そ うであれば、例えば持分を放棄したほうが早いのではないかという気がするのですが、 そういう議論にはならないのですか。よく分からないのは、出資額限度法人と、持分を 放棄した社団や財団とは、実際に何が違うのでしょうか。また違うとお考えだからこそ 、これがよろしいと主張されると思うのです。そのあたりをご説明いただけますか。 ○豊田委員  現在、持分のある社団とない社団がありますが、スタート時点で、持分のある社団と してスタートした医療法人が、持分のない医療法人に変わる具体的な例としては、いわ ゆる特定医療法人と特別医療法人です。そのほかに、もう自分の所では捨てたというこ とはできないわけです。この議論をしますと、ではなぜ特定医療法人にならないのか、 あるいは特別医療法人にならないのかという議論になるわけですが、極めて簡単になれ る所ではないのです。特定医療法人と特別医療法人というのは、単に持分があるとかな いということで決まるものではありません。その中の運営にはいろいろな細かい問題も あるのです。ですから、そう簡単にできる問題ではないというのが1つです。  もう一つに、やはりこの医療法人制度には歴史があります。今回の出資額限度法人と いうのは、中途半端と言えば確かに中途半端です。ただ、それぐらい残すのだったら、 それも全部放棄して、特定になればいい、特別になればいいというのは、先ほども言っ たように難しいというのが1つあります。もう一つは、やはり長い歴史の中で、その法 人の中でのいろいろな人、資産などのいろいろな問題がそれぞれ複雑にからみ合ってい る現実を、一気にここで革命的に持分なしにしろと言うことは、普通、現実的な問題で はありません。いま36,000弱の医療法人があるわけですが、いま医療法人制度を改革す るというのは、それを少しでも公益の立場の方向へ持っていこうというのが、我々の改 革の方針です。革命的に全部ひっくり返すのなら、それはきれいでしょうけれど、そう いうことは現実の問題ではありません。  やがて特定・特別を目指すその前のステップとして、中間的な立場として、いま持分 のある社団は、医療法人よりもより公益の中間的な形で、出資額限度法人を選択しても らうということです。それがゴールの人もあるかもしれませんが、そこで中をいろいろ 整理しながら、次の特定を目指すステップとしての役割も、そこに期待しているわけで す。50年の歴史のある36,000弱の医療法人の中で、一気にやるということも、理論的に はできるかもしれませんが、現実問題としては混乱だけになります。 ○長谷川委員  そうすると出資額限度法人という制度は、時限でというようにお考えになるのですか 。 ○豊田委員  制度の類型として作りますので、時限ではありません。将来のことはわかりません  が、とりあえずハードルが高くて、特定・特別医療法人には行けないけれど、今よりも さらに公益性を高めたい所が、そちらのほうを選択する1つのステップです。医療法人 が自らの決定で選択できる類型を、ひとつそこに作ってほしいというのが、私どもの提 案なのです。 ○田中座長  時間になってまいりましたが、どうしても一言言っておきたいという方はどうぞ。 ○西島委員  先ほどの長谷川委員の件ですが、一昨年、日本医師会で医療安全のシンポジムムをや ったときに、アメリカから専門家に来てもらい、増加の一途をたどっているというデー タが出てきたわけです。 ○南委員  かなり専門的な議論になってきたので、ちょっと戻って、八代先生のお話に、1つだ け質問させていただきます。国民の視点から見れば、やはり医療の質が良くなってほし い、良い医療が受けられるようにしてほしいというのが、当然の希望だと思います。八 代先生のお話は、一貫して利用者の視点、患者の視点ということですから、非常に素直 に響くのですが、そのお話の中で、あくまでも患者のためかどうかということで判断す べきである、良い医療をしている規制をするかどうかも、悪いサービスをしている所は 規制があるべきだし、良いサービスをしている所には規制がないべきで、悪いことをし ている所は市場から撤退すべきであると。これは先ほどのお話ではないけれど、言葉で は簡単ですが、やはり評価が非常に難しいということが、もうすでに分かっているわけ です。そこで八代先生ご自身のお考えで結構ですが、その辺を誰かに評価させるのか、 それとも完全にいまの現状で、市場原理で国民の判断に任せていいとお思いなのか、そ こだけお伺いしたいと思います。 ○八代理事長  私の説明が不足した部分をご質問いただき、感謝します。もちろんいまの情報公開は 進んでおりますが、まだまだ不十分で、今のままでの競争だけで十分だとは考えており ません。当然ながら情報公開をもっと徹底することが大事です。先ほど西島先生から、 医療評価機構のお話がありましたが、これは基本的に任意で、インターネットに載せて もいいということですが、逆に言えば評価が悪ければ、別に載せなくてもいいわけです 。そうではなくて、むしろ患者から見れば、評価の悪い所を知りたいわけです。そうい う意味では折角、医療評価機能ができたわけですから、将来的にはこの評価システムを 医療機関に対して強制して、当然ながらその結果も情報公開ということで公開するぐら いでないと社会保険診療、税金が投入されている医療サービスを担う事業者としては、 やはり社会的義務がないのではないでしょうか。  ついでに、先ほど豊田先生が最後のところで、50年の歴史があると言われましたが、 逆に言えば50年も経って、なぜ変えられないのか。豊田先生によれば、医療法人という のは医療の理念に賛同して、出資したものも出資額でいい、インフレスライド、賃金ス ライドなど要らないと言っているような方ですから、なぜその人たちが自己財産にそん なにこだわるのか。それを私は非常に疑問に思います。  小山先生の、リース方式についてのご発言にも誤解があります。私は、決してリース 方式を規制しろと言っているのではありません。資本調達方法では同じではないでしょ うかとの点だけですので、よろしくお願いします。 ○田中座長  これは好き嫌い論であるがゆえに、逆にいくらでも議論できますが、時間になって  まいりました。  確かに医療や健康は、特区で試す類のものではないという理解が基本です。しかし逆 に試したからといって、何がわかるのか。いま特区をつくったら悪い株式会社が入って きて、ほれ見なさい、こんな株式会社は悪い医療をすると結論を下すような実験をする わけはないので、入ってくる所は良い、素晴らしい株式会社に決まっています。したが って客観的な実験にはならない。むしろ今日話したような論議を世の中の人に見てもら う、これがまさに特区だと思っています。条件の整わない実験をして、そこの医療機関 にかかったら確かに良かったからといって、一般化できるとはとても思えないのです。 むしろこのように議論をしている内容を、世の中の人に読んでいただいて判断をあおぐ 、あるいは我々に質問して判断いただく、それが本当の意味でこういう分野における特 区に当たると考えております。  その意味で今日は両方の立場とも、非常に理路整然とお話いただきまして、誠にあり がとうございました。感謝申し上げます。 ○八代理事長  最後に、西島先生が言われたことについて1点だけ。生命、身体にかかわる規制をな ぜ特区で外したのかということですが。 ○西島委員  外したのではなくて、これは除外すべきでないということが書かれています。 ○八代理事長  特区でやってもいいということにしたのかという理由ですが、それは生命、身体が極 めて重要だからです。つまり西島先生の議論の前提には、いまの医療制度がベストであ る、だからそれを変えたら必ず悪くなる、国民に対して犠牲を強いる、そういう前提が あると思うのです。我々はいまの医療制度がベストであるとは、到底思えません。新し い医療制度を試すことによって、もっと良い医療制度があるかどうかという可能性を探 るのが、特区の目的です。ですから前提の違いだと思います。  現に医療の世界で新薬を認可するというのは、常にその問題があるわけです。新薬を 認可すれば、副作用があるかもしれない。しかし認可しなければ、それによって救えた かもしれない患者が死んでしまうかもしれない。常にその問題があるわけですから、実 験するから必ず悪いことだというのは、決して医療の世界も例外にはならないと思いま す。 ○田中座長  残念ながらここまでにいたしまして、事務局から今後の日程と進め方について、ご説 明をお願いいたします。 ○指導課長  次回は11月19日の火曜日、10時半から開催することとします。医療法人・医療機関経 営の弾力性、効率性を高めるための方策について、ご議論を深めていただく予定です。 次回の開催案内については、場所等が決まり次第、正式なご案内を差し上げることとし ておりますので、よろしくお願いします。 ○ 田中座長  それでは本日はこれにて閉会いたします。委員の先生方、八代理事長、お忙しい中を どうもありがとうございました。                                    (以上) 照会先 厚生労働省医政局指導課 医療法人指導官 橋本 昌男(内線2560) 医療法人係長  手島 一嘉(内線2552) ダイヤルイン 3595-2194