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第10回 社会保障審議会年金資金運用分科会
議事録及び議事要旨

平成14年10月30日


第10回 社会保障審議会 年金資金運用分科会議事録
(議事を公開した議題(1)に係る部分については議事録を掲載。議事を非公開とした議題(2)以降については議事要旨を掲載。)

日時 平成14年10月30日(水) 16:00〜18:11
場所 厚生労働省 省議室 本館9階
出席委員 若杉分科会長、内海委員、大和委員、小島委員、杉田委員、高梨委員
竹内委員、吉冨委員、吉原委員、米澤委員
議事
(1)年金積立金の運用の在り方についての検討(ヒアリング)
   (対象者)
    加藤 秀樹 氏 構想日本代表・慶應義塾大学総合政策学部教授
    竹原 均 氏  筑波大学社会工学系助教授
(2)平成13年度年金積立金運用報告書について
(3)株主議決権行使状況について
(4)その他


○ 泉運用指導課長
 ただいまより、第10回社会保障審議会年金資金運用分科会を開会いたします。
 まず、「年金積立金の運用の在り方についての検討」に係る資料の確認をさせていただきます。座席図、議事次第のほか、次のとおりでございます。
 資料 1「海外の公的年金積立金運用について」、資料2は加藤様提出の資料でございます。資料3は竹原様提出の資料でございます。よろしゅうございましょうか。
 なお、前回までの配布資料をファイルにまとめて机の上に置かせていただいておりますので、適宜ご参照いただきたいと思います。
 委員の出欠の状況でございますが、本日は福井委員におきましては、ご都合によりご欠席ということでございます。ご出席いただきました委員の皆様方が3分の1を超えておりますので、会議は成立しておりますことをご報告申し上げます。
 なお、本日の会議でございますが、前回と同様、「年金積立金の運用の在り方についての検討」の議題の終了をもちまして、当分科会は非公開とさせていただきますので、ご協力のほどよろしくお願いいたします。
 それでは、以後の進行につきましては、若杉分科会長にお願いいたします。


(1)年金積立金の運用の在り方についての検討(ヒアリング)

○ 若杉分科会長
 皆さん、こんにちは。本日はご多忙の折、お集まりいただきお礼を申し上げます。
 本日の分科会では、まず「年金積立金の運用の在り方ついて」、前回に引き続き、第2回の検討を行いたいと思います。
 前回の検討においては、まず、このような検討を行う趣旨を確認し、年金積立金の在り方と現在の基本ポートフォリオ策定の考え方などについて事務局より説明を受けた後に、委員の方々に「全額国債運用」と「株式を含む分散投資」のメリット、デメリットなどについて、フリーディスカッションを行っていただいたところでございます。
 本日は、ヒアリングのため、お二人の先生にお越しいただいております。お二人の紹介は、後ほどさせていただきたいと思います。
 それでは、まず、事務局の方から、「海外の公的年金積立金運用について」、説明をお願いいたします。それでは、運用指導課長お願いします。

○ 泉運用指導課長
 お手元の資料1「海外の公的年金積立金運用について」という資料をご覧いただきたいと思います。各国の積立金運用について一覧の表にしたものでございます。ご覧いただければ分かるようにしてありますので簡単にご説明させていただきますと、左の方、カナダでございますが、国とは別人格の委員会がございまして、そちらが運用を行っております。理事会で投資方針などを決定しております。従来、カナダの場合には財務省が管理する保有債券という形で運用いたしておりましたが、99年3月から順次、株式運用を開始したということで、現在は移行している段階にあると承知いたしております。構成割合などは下に書いてあるとおりでございます。
 次にスウェーデンでございますが、国とは別人格の基金が運用を行っております。スウェーデンの場合は一つだけではなく複数の基金を設けてそれぞれが運用しているというところが特徴でございます。やはりそれぞれの基金でポートフォリオなどを決めておりますが、第6基金というところは中小企業、ベンチャーキャピタル、未公開株を中心に運用しておりほかの基金とは違うスタイルで運用しているということでございます。
 次にデンマークでございますが、国と別人格の基金で運用を行っております。理事会において、資産構成割合などを決定しているということでございます。
 次にスイスでございますが、中央平衡事務所という国の組織で実施しているということでございますが、運用に関しての意思決定は政府組織とは別の理事会、資料にメンバー構成が出ておりますが、そういう理事会で意思決定をしているということでございます。
 その次がアメリカでございますが、老齢遺族保険と障害保険と二つの基金に分かれています。アメリカの場合は、真ん中にございますが、この基金を対象とした特別の財務省証券というもので積立金全額を運用しているということでございます。
 なお、ご参考までに資料の右側に、アメリカのその他の例といたしまして、州の職員の年金基金の例を掲載していますが、これらは株式も含めた分散投資をしているということでございます。
 ご覧いただきますと分かりますように、アメリカが他とは違う形の運用をしているということが見てとれようかと思います。
 なお、これに載せてございませんが、イギリスあるいはドイツといった国々はほとんど積立金を保有しておりません関係から、ここでは特に表の中に掲載しなかったということでございます。
 簡単でございますが、資料の説明とさせていただきます。

○ 若杉分科会長
 どうもありがとうございました。それではただいまの説明に関して、ご意見、ご質問等あるかと思いますが、本日はお二人の先生にお越しいただいておりますので、早速お話を伺うこととしたいと思います。
 前回の分科会では委員の方々に、限られた時間ではありましたがフリーディスカッションを行っていただき、年金積立金の運用の在り方についてのご意見をお伺いいたしましたが、さらに、幅広いご意見をお伺いするため、本日はお二人の方にお越しいただいております。
 本日お越しいただいているお二人について、事務局よりご紹介をお願いいたします。それでは、運用指導課長よろしくお願いいたします。

○ 泉運用指導課長
 では、ご紹介をさせていただきます。
 まず、加藤秀樹様でございます。京都大学経済学部をご卒業され、大蔵省にご勤務をされました後、シンクタンク・構想日本を設立され、現在構想日本代表並びに慶應義塾大学総合政策学部の教授をお務めでいらっしゃいます。
 それから、竹原均様、筑波大学大学院を終えまして、現在、筑波大学社会工学系助教授であられます。

○ 若杉分科会長
 どうもありがとうございました。
 お二人からは、株式を含む分散投資を行うべきなのか、全額国債で運用する方が望ましいのか、など、運用の基本的な考え方を中心に、年金積立金の運用の在り方について、ご意見をお伺いしたいと思います。
 ヒアリングの進め方としては、まず、お二人のお話をお伺いし、その後、まとめて質疑等を行わせていただきたいと思います。
 では、初めに、加藤先生から、よろしくお願いいたします。15分でお願いいたします。

○ 加藤氏
 加藤でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
 最初に余談になりますが、2年前でしたか、まだ、年金福祉事業団から今の基金に変わる前、それに関する国会での議論のときに若杉先生と私も国会に参考人として呼ばれました。そのとき、この運用に対しては基本的に反対の立場で申し上げました。そういう意味では私の意見は非常にはっきりしているわけですけれども、こういう審議会の場で、立場が明確な私の意見を聞いていただけるのは、審議会の運営上は、私が言うのも変ですが、非常にうれしいことだなと思っております。
 1枚簡単なレジュメのようなメモを用意いたしました。ここはかなりきつい言い方の紙になっております。私の立場ははっきりしておりますし、余り甘い書き方よりも、かなり明確に言い切ったものの方が、こういうところで話しする立場上むしろお役に立つのではないかと思って、余り快くない書き方だという感じがされる方もいらっしゃるかと思いますけれども、あえてそういう書き方の紙を持ってまいりました。この紙に沿ってさっと説明申し上げたいと思います。特段に新しいものはありません。
 まず、株式運用について大きく分けて私は二つの問題点があると思います。一つは、日本の賦課方式の年金の積立金というのは、流動性以上の意味は持たないわけですけれども、そういうものに関してリスク運用することの是非が一つ、もう一つは、仮にリスク運用を可とした場合の現在の体制、問題点ということです。後者の方から紙に沿って説明申し上げたいと思います。
 まず、第1番目はリスク運用できる体制になってないのではないか。そこの一番最初のところでリスクの許容範囲が不明だと書いております。そのことの意味は、3行目から4行目に関してですが、年金の運用は、負債サイドからリスク許容度を計算して行うのが基本だと思います。ここについては異論はないのだと思いますが、だとすれば、公的年金は、現状では数百兆円のアンダー・ファンディングになっている。ここがオーバー・ファンディングになっておれば、そのオーバー・ファンディングの部分に関して、仮にそれをハイリスクなものに投資してゼロになったとしても国民的合意があらかじめあればそれはそれで仕方がないということになる。もうけたかもわからないけれども、結果的に損したということで許容されるのかもわかりませんが、今の時点で、既にアンダー・ファンディングですから、そもそもリスクはとれない状況からスタートしている。もしリスク運用するとすれば、その部分については保険料の引上げをまず行って、いわばリスクをとれる状態にしてからでないと始まらない、これが基本だと思います。
 ちなみに現在の150 兆円の積立金は、先ほど申し上げましたように、あくまでも将来の負担の先取りを含めた流動性と言っていいのだと思いますけれども、そういう意味では発生主義会計の視点から見た資産ではないわけですから、この前提が必ずしも明確に認識されていないのではないのかなという感じがしてなりません。年金運用当局にとっては、この積立金はまさに積立金、積み上がっているお金ということかもしれませんが、政府全体の会計から見ると既に支払いが発生しているものが流動性としてたまっている、それ以上の意味は持たないということをまず認識する必要があると思います。
 あと、1番目のところはお読みいただければと思いますが、(1)の「○」の最後のところに「長期運用は、20年後の結果は誰も責任をとらないという仕組みである」、ちょっときつい書き方ではありますけれども、実質的にはこういうことになっているのではないか。その背後には、これは例えば道路公団のような特殊法人もすべてそうなんですけれども、会計がどんぶり勘定になっているところにこのことの根本的な原因があるのではないかと思います。年金特別会計には発生主義会計は導入されておりません。したがって、資産、負債の現状の正確な把握ができてないわけですから、まず、ここをきちんと認識しないとリスク云々というところが、テクニカルな意味での運用論としてのリスク以前の問題としてあると思います。
 それから、次の「○」のところですけれども、いわゆる「時間分散効果」については、最近の研究結果が示していると思いますけれども、長期的に見てリターンが一定に収束するということを意味しているにすぎないわけでして、長期的に運用すれば必ずもうかるということは意味してないと思います。さらに長期といったときに、日本ではせいぜい年金資金の成熟期間から見て20年ぐらいということなのだと思いますけれども、よほど長い期間、50年とかそれ以上ということなら、若干また状況が違うというような研究成果もありますけれども、20年では最近の研究成果でいう上での長期には当たらないということが示せるのではないかと思います。
 それから、(2)のコーポレート・ガバナンスとマーケットですけれども、一般論として言えば、民間株式を国が大量に保有することについての概念整理がまだ不十分だと思います。厚生労働省のレギュレーターとしての立場とプレーヤーとしての立場が不明確になるということです。ちなみに東証の時価総額が今どれぐらいなんでしょうか、250 兆くらいの規模だと思いますけれども、最終的な年金運用の株式を対象にする部分がたしか18兆±9兆円でしたか、それで計算しますと、4%から10%を超えるぐらいになるわけです。例えばトヨタの筆頭株主は今たしか5.3 %ぐらいですから、これは運用次第では国がかなり大規模な株主になってしまう。
 また、国民経済的に見ますと、郵貯、簡保などと合わせて450 兆円になるわけですけれども、これら国がかかわる資金全体での自主運用、市場での運用ということで、マクロ経済的に考えないといけないと思います。
 それから、運用責任、ガバナンスの欠如、(3)ですけれども、これは先ほどの外国の運用についての例にもありましたけれども、日本と似た仕組みの年金制度を持った上で、最も本格的に株式に運用しているという意味ではカナダの運用組織が参考になると思いますけれども、これは役員の選任から予算に至るまで、政府から相当強い独立性を有しております。ですからこの独立性のレベルで見る限り、日本の基金とは少しの違いではなくて相当に違う。
Canada Pension Plan Investment Board については、割合いろんな方が調べていらっしゃいますから、どういう機関かというのは資料としていろいろあると思いますが、私が調べた限りでは、「独立性」を売り物にして登場したと言ってもいいと思います。
 企業統治への関与についてで参考までに述べますと、先ほどCalPERSの例がありました。また、CalPERSについて最近のニュースですけれども、シリコンバレーにサンノゼ・マーキュリー・ニュースという地域新聞があります。ここが2週間前にCalPERSを訴えたというニュースを聞きました。直接の理由は、CalPERSは株主としての権利を行使して企業に対して情報公開等々を強く要求したりしているわけですけれども、その肝心のCalPERS自身が運用状況についてはほとんど情報開示してないではないかというのがたしか中心的な理由だったと思います。ちょっとその背後について聞いたところ、CalPERSも結局は本音のところではキャピタルゲインねらいに徹している。例えばCalPERSの投資先の社外役員などに対して、長期的な視点からの投資を行うことによって株価が下がるようなことについての発言は控えてくれというような依頼はたびたび来るという話も聞きました。また、いわゆるドットコム企業に対してかなり投資をしたのも事実だと思います。そういうような背景を踏まえて、先ほど申し上げましたサンノゼマーキュリーニュースの訴訟になったということなんだろうと思います。CalPERS当局は大変に困惑しているという話を聞きました。
 もう一つ、つけ加えますと、申し上げるまでもないですけれども、CalPERSは雇い主が行政当局だというだけで、実質的に企業年金ですから、ここで余り比較の対象にはならないのかもわかりません。
 それから、2.解決策のところですけれども、大変恐縮ではありますが、(1)年金資金運用基金を廃止してもいいのではないか。今まで十数年間で、あえて勝ち負けということで言うと負け越しであるわけですし、実際に運用手数料は、12年度で400 億円余りでしたか、数百億円レベルで毎年かかるわけですから、それだけのコストをかけて続けることの意味はないのではないか。
 (2)そのかわり全額国債に運用、例えばこれは物価スライド式の国債などに運用する、というのが対案として考えられると思います。
 最初に二つ大きい問題がある。一つはマクロ的な視点だと申し上げました。マクロ的な視点については、最後の解決策の(2)の後半のところに書いております。そこの2行目から読みます。「そもそも公的年金は実質的に賦課方式になっており、年金財政が成熟すると運用収益は年金給付の1割強にすぎず、莫大なコストをかけて、あえてリスクを冒して運用する意味はほとんどない。米国でも公的年金の株式への運用が議論されたが、グリーンスパンFRB議長(これはたしか2年半ぐらい前だったと思います。クリントン政権のときにグリーンスパン議長は国会で証言をしております)は、公的年金積立金が株式市場に流れても、そのことによって将来の国民所得が増大しない限りは、私的年金とのゼロサムゲームになるだけであり、公的年金積立金の運用リターンが高まれば高齢者の扶養が社会的に容易になるというのは誤りであると指摘し、その導入に強く反対した」。そこのところであります。
 保険料も運用益もマクロ経済のパイの一部であるのは明らかですから、そういう意味でゼロサム、ですから国の年金運用が仮に勝った、負けたということをあえて使えばですけれども、勝ったとしても、それは市場全体で誰が勝ち負けかという意味での勝ったということだけであって、年金運用すること自体が貯蓄額を増やす。それで結果的にはGDPのかさ上げをするという効果を持たない限りは、それはマクロ的に見ても経済的な意味はないではないか。そういう意味でのゼロサムだということがグリーンスパン議長の根拠だと思います。これも確かに私はマクロ的にはそのとおりであると思います。
 以上でございます。

○ 若杉分科会長
 加藤先生、どうもありがとうございました。
 続いて、竹原先生からお話を伺いたいと思います。よろしくお願いいたします。

○ 竹原氏
 筑波大学の竹原でございます。マクロ的な視点、コーポレートガバナンスへの影響という点で、この問題が重要な問題であることは私も認識しております。
 私の場合にはファイナンスの分野で、特に企業価値評価でありますとか、株式価値評価について10年ほど研究を続けております。その立場から、私はむしろ株式が運用対象として適切であるかについて、今日は個人的な意見を述べさせていただきたいと思います。
 これまでの論点については、今、加藤先生からも幾つかの点についてはご指摘がありましたが、再度論点を整理して議論を始めたいと思います。
 まず、第1に、「加入者による株式投資のリスクテイクは必要か?」という点について、これは今の加藤先生がグリーンスパンの言葉を引いて説明されたことかと思いますが、これについては株式を含めた分散投資において、必ずしも必要でないということでなく、むしろ必要であると私は考えております。これは例えば税制であるとか、個人の、特に若年層の株式投資に何らかの阻害要因が市場においてあるとすれば、公的年金で株式投資を行うことには十分に、それは世代間のリスクシェアリングを促進するという点で、意味があると考えております。
 それから、第2番目の問題点としまして「価格形成への影響」の問題を挙げたいと思います。全額国債運用する場合、基本ポートフォリオの策定において、国債は市場規模も十分に大きく、流動性が十分にある、したがって、資金を国債の購入に充てても市場の価格形成はゆがまないとされています。
 それに対して株式の場合に、東証に対して十数兆円にわたる資金を長期において提供することは、株式の価格形成を歪めるであろう。むしろこれは株価PKOであるという意見があります。この点については部分的には私は合意します。ただし、全額を国債で運用することも、国債の価格形成をゆがめる可能性はあると考えます。当然のことですが、利回りが上昇すれば国債の価格は急速に下落するわけですから、その部分で国債に関しては運用のリスクがないということを、果たして年金資産の運用という立場から言い切れるのかということは疑問かと思います。
 3点目の「コーポレート・ガバナンスへの影響」については、先ほど加藤先生がご指摘のとおり、運用資産が経営に直接的な影響を与えることは確かです。ただし、この点につきましては、運用受託機関を通しての間接的なガバナンスへの影響に限定しているというのがこれまでの議論かと思います。
 私がきょう個人的な見解を述べたいのは、主に最後の二つの部分、(株式投資の)「期待収益率」と「インフレヘッジ機能」についてであります。
 全額を国債で運用する場合、これは確かに元本が保証されているという意味においては、ローリスク・ローリターンの安全な運用であることが言えます。これに対して株式を含めた分散投資、株式で運用するということについてどう考えるかというと、リスクテイクによって高いリターンを獲得することによって、将来の掛金率の負担を軽減することが十分に可能であると考えます。これはむしろ日本の企業、日本の国自体に対して、どれだけ信頼を与えるかということだと私は考えております。この点については後で詳しく説明させていただきたいと思います。
 それから、インフレのヘッジ機能についてですが、確かに全額を国債で運用するならば、元本は保証されるわけですが、現在の制度の設計上、給付額はインフレスライドしているわけですから、国債による運用ではそういったインフレスライドの分、実質的なリターンというのは確保されない。これに対して株式の場合には、ある程度のヘッジ機能があると考えられます。
 最後の2点、期待収益率とインフレヘッジについて細かく私の意見を紹介したいと思います。まず、株式の収益率が国債の利回りに対してはたして高いのかどうか。これは過去の実現収益率、20年とか30年といった長期間の収益率を調べる限りは、経験上は明らかなことだと思います。
 また、ファイナンスの理論からすれば、リスク資産の期待収益率は安全資産の利子率よりも必ず高いはずであります。もしそうでないとすれば、誰も株式会社に対して株式という形の資本提供は行わないわけですし、それからそういった収益率が確保できないような状況においては、税収も確保されない。法人税も個人の所得も確保されないような状況に陥るわけです。
 実際、個別の東証上場企業について調べてみると、株主資本利益率であるとか、総資産利益率で考えれば、今でも多くの企業について、収益性は確保されております。
 ではどういうことが問題なのかというと、今までは、長期においては、日本の経済が成長している過程においてはそうだった。では、マイナス成長になったときに果たして同じことが保証されるのかどうか。国債の利回りに対して、株式というもの、日本の市場全体、マーケットを見た場合、株式市場を見た場合に期待収益率は高いのか低いのか、それを考えるべきだと思います。
 その意味で、現在の基本ポートフォリオの策定においては、TOPIX (東証株価指数)をベンチマークとして、これをマーケット全体の変動としています。それはTOPIXが理論上の市場ポートフォリオであるということを仮定しているわけですが、私はTOPIX というのは必ずしも市場ポートフォリオの代用、プロクシーではあり得ないと考えています。当然そこには経済変動とともに業種の変動もありますし、投資スタイル、成長株であるとかバリュー株といったものも、リスク・リターン特性として考えなければいけないでしょうし、それから、将来の一部市場に上がってくるであろう二部市場、店頭市場の企業が全く含まれていない。それから、果たして危険資産の市場を日本だけで考えていいのか。アジア諸国、ヨーロッパ市場、アメリカ市場の株式の問題をどう考えるのか。そういった点で議論がきちんと整理がされているのでしょうか。
 以上の理由から、マイナス成長下で、果たして従来どおり基金ポートフォリオの策定において用いられたベンチマークとしてのTOPIX を継続的に利用する、そして、そのTOPIX に対するインデックス運用を主体に株式運用を継続していいのかという点については疑問を持っております。
 それから、インフレに対するヘッジ機能に関してですが、これも前提の置き方によると思います。今後、この数年間にわたりデフレが継続するのかどうか、それともどこかの段階で急激なインフレに至るのだろうか。マクロの経済シナリオに依存しますし、それから、そもそもALMを行う際の年金の債務が計測されているか。当然基本ポートフォリオは中長期のマクロシナリオと測定された年金債務に依存して、それらのデータをもとにALM的な立場から決められるべきだと思いますが、現状ではそうしたことが行われていません。ですから長期的に、今、考えられていることは、今と同じ経済環境が継続するという状況下で基本ポートフォリオが策定されているわけですが、長期的に日本の経済がどういうふうに推移していくのか、それに応じてあるべき株式の運用も当然姿を変えていくものだと考えております。
 この点については、理論的な側面に立ち入るわけですが、簡単な、よく知られた配当割引モデルといったものを使って、中長期、10年くらいのレンジにおいては、株主資本利益率が自己資本コストに収束するという前提である種のモデルを使って考えますと、もしデフレの状況、現在のような状況が数年にわたり今後継続するようであれば、その場合にはTOPIX よりもむしろバリュー株と呼ばれる資産性の高い株式にシフトする必要があるかと思います。逆にインフレのヘッジ機能という点について言うと、急激なインフレが将来において起こる。そのリスクを債券では吸収できないとした場合には、TOPIX というベンチマークよりもむしろグロース株にシフトした運用を行うことが必要かと思います。ただし、バリュー株に対する投資、グロース株に対する投資、いずれにしてもそこには何らかのきちんとした経営資源があること、将来のキャッシュフローを保証するための経営資源があることを見極めて、そうした企業に限定して投資することが必要だと考えております。
 したがいまして、私の意見としましては、株式に対して、現状の基本ポートフォリオ程度、あるいは投資比率はある程度の幅を持つのかもしれませんが、株式を含めて運用することに関しては賛成であります。ただし、株式運用の在り方、基本ポートフォリオの策定については議論をもう一回やり直すべきだと考えております。
 現在の株式の運用に関しては、パッシブを主体にするということが前提で行われていますが、そもそもこのパッシブというものをどう考えるのか。これまで行われた議論においては、パッシブはイコールTOPIX のインデックス運用としか考えておりません。しかし、パッシブには二つの意味があります。そもそも我々が効率的市場ということを議論するときに、何が効率的かというと、それは情報の利用、情報の加工、市場にもたらされたマクロの経済情報であるとか、会計のディスクローズされた会計情報がどのように盛り込まれるのか、それをどのようにアナリストやファンドマネージャーが分析するのかが効率的市場の定義になるわけです。
 そういう意味では考えますと、アクティブ、パッシブといったときに多分、評価軸は二つあるはずです。一つは情報をどれだけ積極的に利用・加工するのかです。もう一つは、回転率であらわされるような、年間に100 %を超えるような回転を行うアクティブと、それから5%、10%、20%程度のパッシブ運用やエンハンスド・インデックス運用を分ける評価軸です。
 そういう意味では、現在のパッシブは、情報の利用や情報の加工は一切行わず、その部分で他の投資家に対してただ乗りをしているわけです。しかしIT技術が進展することによって、情報の利用や加工の部分のコストは従来に比べて非常に低くなっていることが考えられます。したがって、将来においては、情報の分析は可能な限り積極的(アクティブ)でよろしい。ただし、基本的にバイ・アンド・ホールドという意味のパッシブに株式の運用を移していくべきだと考えます。
 したがって、結論としましては、私は株式の投資ユニバース、あるいはインデックスを、まず最初に再検討して、そこから基本ポートフォリオの策定問題をもう一度考え直すべきだと思います。我々は加入者の運用を代行するわけですから、当然きちんとした説明ができなければいけない。そうだとすると、東証一部に上場されているからといって、どのような株式でもそれを保有することは多分認められない。成長性や安定性を考慮して、特に信用リスクを現在であれば考慮して、また将来の成長性という意味でいうと、店頭、二部、外国株も含めてきちんとしたユニバースを考えるべきだと思います。
 ある意味でフィルター、東証に1,400 社程度上場されているわけですが、そのうちから、何らかのガバナンスのフィルター、あるいは安定性のフィルター、信用リスクのフィルター等で投資対象を絞り込むことが必要であると思います。これは例えば社債においても、野村のボンド・パフォーマンス・インデックスにおいて現状ではA格以上ですし、それから社債の運用においても、BBB格以上ということで運用が行われているわけですから、同じように株式においても説明ができないような過度のリスクを取るべきではなく、リスクの高い個別銘柄を年金資産のポートフォリオに組み入れることは適切ではないと考えております。ですから、こういったことを考えて、将来的にはカスタム・インデックス、そもそも年金の運用、負債サイド、将来のマクロの経済見通しを考えて、それに適した公的年金の運用に適したTOPIX でないカスタム・インデックスを検討する必要があるのではないかと考えております。
 それから、コーポレート・ガバナンスに関しては、将来のキャッシュフローにつながるようなきちんとした経営資源を持たない企業、明らかに衰退していく企業、それからガバナンスに問題のある企業に関しては最初から投資をすべきではないし、経営に関与してはならないのではないでしょうか。そのためのフィルター・ルールだと思っております。
 むしろ、そのときに当然運用対象から外れる企業が出てくるわけですが、そうした企業の経営者は、本来の意味でのリストラクチャリングにより、きちんと将来においてキャッシュフローが出せるということを示す、あるいは我々が使ったフィルターが間違っているとすれば、それが間違いであるということを徹底したディスクロージャーによって明らかにする、そういった経営努力が必要になるかと思われます。
 以上です。

○ 若杉分科会長
 竹原先生、どうもありがとうございました。
 お二人の先生から、それぞれのご主張とそれに基づいた具体的な提案をお伺いいたしました。ただいまのお二人のお話につきまして、ご意見、ご質問等がありましたら、どうぞご自由にお願いします。小島委員どうぞ。

○ 小島委員
 今、お二人の先生からお話いただきました。私の基本的な立場は前回も分科会でも発言しましたけれども、基本的には、公的年金については賦課方式を基本にするべきということです。その意味で、今の積立金の規模が妥当かどうかというところにも疑問がある。そして、今の積立金は、それを運用するとすれば国債・債券を中心に運用するべきで、株式運用からの撤退という方向に向かうべきと考えております。
 そういう立場で、お二人の先生に伺いします。加藤先生も株式運用はすべきでないという立場から国債を中心に運用しろということです。市場運用については二つのリスク、すなわち市場運用リスク、それから、ポリティカルリスクがある。ポリティカルリスクは、特に株価維持についてのPKOですが、既に今の公的年金の資金はこのPKOに組み込まれているという認識を持っています。
 撤退して株式運用をやめるといった場合には、株式市場が混乱をするということになり、すぐに撤退することはできないということで、既にPKOに組み込まれているというふうにも言えると思います。
 そういう観点で言いますと、加藤先生がおっしゃるように、国債運用に徹底すべきといった場合に、株式運用の撤退の方法としてどういうふうに考えたらいいのかというのが加藤先生に対する質問です。
 それから竹原先生は、基本ポートフォリオの考え方について再考すべきだというお話です。では積立金が今150 兆円ぐらいありますが、これをもっと増やすべきなのか、あるいは減らすべきなのかということについて、お聞きしたいと思います。

○ 若杉分科会長
 加藤先生の方から、お願いします。

○ 加藤氏
 株式運用からどうやって撤退するかということですけれども、撤退に関して私は具体的なプランは持ち合わせておりません、申し訳ありませんが。ただ、相当な金額であることは事実ですから、これは内海委員のご専門のところですけれども、日本の外貨準備というのはたしか今40〜50兆でしたか、これの運用、あれだけの規模の外国為替の市場でこれを運用することに対しての物すごい神経を使うわけですから、そのことを考えると、日本の株式市場における年金、本当は郵貯も含めて考えないといけないのですけれども、それの規模は先ほど申し上げましたように比率が高いわけですから、やはり相当な時間をかけて徐々に撤退していくとか、それなりのプロセスを経ないとかなりの影響がある。
 ただ、逆に、今までそれにしては割合無造作にやってきたのではないかなという感じは私はしておりますけれども、無造作にやったけれども、そこの問題はそれほど顕在化してない。しかし、撤退の方がより神経を使うのは間違いないのではないかと思います。

○ 若杉分科会長
 では竹原先生お願いします。

○ 竹原氏
 積立金を今後増やすべきか、それとも減らすべきかということに関してですが、私は基本的には賦課方式の部分と積立方式の部分は、分けて考えるべきだと思っております。積立方式に基づく積立金の部分については、これはむしろ今の現役世代、今、掛金を払っている世代の個人間のリスクテイクだと思います。だから個人が将来における自分の掛金を減らすために、今リスクを取るか、取らないかという意味で、積立金の規模は少なくとも現状の維持を行う、それによって将来、自分の掛金が急速に増加するというリスクを低減させる、それが必要だと思っています。
 ただし、積立金が本当に増えるのか、減るのかという点については、負債の測定がされてない以上、正確に計測することは非常に難しいと思います。むしろそれは、これからの公的年金において、給付をどうやって行っていくのか、その制度設計がきちんと定まった段階でALM的な立場から議論すべき事柄であると考えます。

○ 若杉分科会長
 内海委員、どうぞ。

○ 内海委員
 前回、私出席してないので意見を申し上げてないものですから、お二人の意見を伺った上で、私の意見を言ってもいいのでしょうか。あるいはもっと後の段階になるのでしょうか。

○ 若杉分科会長
 御意見・ご質問ともどうぞ。

○ 内海委員
 主として加藤さんのご意見へのコメントも含めた私の意見ですけれども、こんな損ばかり出していてしょうがないじゃないかということはわかるのですけれども、それで思い出すのは、ちょうど円がプラザ合意の前、1ドル240 円とか250 円だったころ、その後も200円を割ってからも生命保険会社が高い金利にひかれて相当外貨投資をし、不動産も買い、その後、ドルが更に下がって、保険会社では運用責任者たちが左遷されるというような状況だった。
 でも、今になってみると、これを保有し続けていたら、投資利回りは、この投資が一番利回りがよかったのです。日本で投資していたら、恐らく銀行がさんざん貸した後、保険会社がまた日本で不動産だ、株だと買っていたらどういうことになっていたかと思うと、投資特に年金の運用は長い目で見ないと、今どうだからというのは言えないのではないかという素朴なコメントが第1です。
 第2に、国債だけというのも、さっき竹原さんからご指摘あったように、私はリスクがあると思う。今はたまたま金利がどこも下がっていますね。恐らく今年中に連邦準備委員会も欧州中央銀行も金利を下げるでしょう。しかし、長い目で見ると、市場に50億人の人間が住むようになってどういうふうに変わっていくかということを考えないといけない。長期的に見て、私は数年前に三つの仮説を立てたのです。
 一つは、製品の価格、比較的単純な製品の価格は下がるだろう。それから、第1次産品は、50億人の、マーケット人口の生活水準が上がっていく仮定で、恐らくその供給はなかなかキャッチアップできないから、その価格は上がるだろう。それから金利は当然エマージング・エコノミーズ、体制移行国、それから先進国でも投資需要は拡大するので、金利は上がるのだろうと思っていました。製品の下がる方はもう既におこっている。第1次産品は下がり続けていたのがこのところ上がり出しました。金利は、今、下がり続けているようですけれども、10年というオーダーで見たら、私は上がる可能性の方が大きいだろうと思うので、長期的に見たら固定金利の国債はリスクがあるということは考えなければいけないし、そして一つの国の通貨だけで運用することのリスクがあるから当然ある程度外貨ということも必要です。その意味で国債だけというのは、賛成し難い。
 アメリカも、10年前は財政赤字で国債を出していた。それがあっという間に財政が立て直り、国債をだんだん出さなくなったら何をベンチマークにするのかというような議論さえやっていた時期があった。アメリカの財政は再び悪くなりだしましたけれども、日本も10年とか、もっと長い方で見たらどういうふうになるかということもわからない。だから国債だけというのはおかしいのではないか。そういう意味で、私はもう少し長い目で見て、株も含めてある程度のポートフォリオをきっちりとつくっておくことは必要ではないかという感じがするんです。
 アメリカでは確かに今は公的年金の運用に株式は入れていません。日米交渉でアメリカが投資顧問を公的年金に使うことができるようにするべきだという議論があったときに、私は大蔵省はやめていたのですが、日本の大蔵省とアメリカの財務省と両側からいろいろ要請されて、間に立ったことがあります。加藤さんも言われたように、国がどういう株を買うかとか、それがまた表に出るというのはちょっと問題がある。だからブラインド・トラストという考え方がアメリカの中にあって、運用している国の公務員はどこの株を買っているかわからないような仕組みにしようということで、何か複雑な仕組みを採用されたことがあると思います。この問題をどういうようにするかというのは、問題があるから株式運用をやめるというのではなく、年金資金運用基金の独立性など、国が直接どの株をどうこうすることを決定するのではないような仕組みを考える方がいいのではないかと思います。
 その意味では、私は基金の独立性、政府の役割と年金の運用との間の距離などについてしっかり、考えておいた方がいいのではないかという感がしています。以上です。

○ 若杉分科会長
 ありがとうございました。加藤先生、今のことに何かレスポンスはありますか。

○ 加藤氏
 国債に関わるリスクというのは当然それなりにあるのだと思います。すべての大きい資産には何らかのリスクはあるわけですけれども、しかし、私は物事というのは一番スタートに返って考えないといけないのではないかと思います。さっき小島委員からお話がありましたように、日本の年金は賦課方式であるということ、賦課方式における積立金というのは何なのかということ、ここがすべてのスタートなのだと思います。例えば日本は5年分に相当する積立金を持っているわけですけれども、このこと自体の問題も併せて議論しないといけないのではないか。
 本来は賦課方式であれば、積立金はもっとはるかに小さい規模でいいわけでして、この積立金というものが、先ほどの繰り返しになりますけれども、年金運用当局にとってはたまっているお金かもわかりませんが、これは会計上の観点からいけば、決して資産サイドに勘定されるべきものではなくて、既に発生済みのコストというとちょっと不正確ですけれども、負債サイドに考えないといけないものであると、ここを忘れると、そこにかけていいリスクが何なのかということがよくわからなくなるのではないかと思います。
 直接のレスポンスということではないのですけれども、そういうことを考えると、この積立金に課していいリスクというのは何なのか。それは国債が持つリスクと一足飛びに株式が持つリスク、その間にはいろいろあるわけですけれども、それが一足飛びに株式が持つリスクまでいっていいことには、私は決してならないのではないかと思います。

○ 若杉分科会長
 竹内委員どうぞ。

○ 竹内委員
 加藤さんの方には、今の内海さんの議論とだぶるので若干のコメントで結構なんですけれども、基金に関するガバナンスの欠如という点は、率直に言って、私もこの会議にずっと出ていて非常に疑問に思うというか若干不安を覚えていた点でございます。つまり大臣が最終的な責任者であって、我々は中間的な、いわゆる方針を決めるところであり、エグザキューションはまた別なグループがやっているということでございまして、マニュファクチュアリングというか、運用のプロセスは非常に見えにくい状態にあります。我々の当面の課題はどちらかというとマクロ的な整合性といいますか、そういうような議論がかなり大きな比重を初期のころは占めていまして、結果責任、受託者責任という議論も大分やったのですけれども、どこにリスクをとる人がいるのかといいますと、誰もとらないというような状況が発生がしかねないということに関して非常に不安を覚えています。現在もその状態が続いているわけですが、その問題に関しまして、加藤さんがカナダの例を挙げられましたが、一定の独立性をもし担保するとすれば、こういった分科会のような形がいいのか、率直に言って、もう少し外に出た形がいいのか、あるいは公聴会みたいなものをもっとオープンにやるような形がいいのか、利害関係者が集まるような場所にした方がいいのか、その点についてコメントがあればいただきたいというのが一つでございます。
 恐らくもともと財投改革と一緒になって出てきた話なので、結局、財投は危険だということからお金を引上げているわけで、また同じように国債を買ってしまうということについてもやや問題があるのではないかという意味で、国債に対して全面依存というのも問題があるのではないかと考えます。将来の税収というものの危険性もあるというのが私のイメージだったので、そこの点については国債運用のリスクが大きいのではないかというのが若干のコメントでございます。
 前者の点について率直にどういう形にすれば、少し透明度が上がり、独立性という意味での改善になるかというのが一つ目の質問でございます。
 竹原さんの方のプレゼンテーションにつきましては、私もどちらかというと賛成の部分がございまして、いわゆるエンハンスト・トゥ・インデックスといいますか、単なるパッシブで売買手数料だけをめくらめっぽう払っているというのは非常にイージービジネスをやっているというような形になりかねなくて、まさに情報の加工ノウハウというところに力点を置いた運用体制に持っていくべきであると考えます。つまりスクリーニングをかけて、マニュファクチャリングのところについても、つまりファンドのつくり方のポリシーに至るまでもっと精査して、きちんとしたスクリーニングをかけながら移行するというような考え方に、私もかなり賛成なのですけれども、その場合の絞り込みといいますか、それを一体現行制度の下でどのようにやるのかという問題があります。
 今は、やや丸投げではないんですけれども、各ファンドマネージャーの方にスクリーニングの機能といいますか、そういうものは委ねられている感じがします。運用結果は相当下ぶれしてしまったわけですが、私が思うにはスクリーニングが本当にかかっていたのかということについてはかなり疑問があるわけで、もう少しインデックスの考え方とスクリーニングの考え方に工夫の余地があるのではないかというのが私のイメージなんですけど、具体的にどんな方法があるかをお伺いしたいと思います。日本にスクリーニングとかフィルターをきちんとかけられる会社が存在してないというのも、また疑問があって、どのくらいこれがフィジブルなのかということについてコメントがあればお願いします。

○ 若杉分科会長
 最初の点は、加藤先生は、基金を廃止すべきだという意見ですけど、基金の場合にガバナンスを活かせるにはどうしたらいいかという質問ですけれども、何かレスポンスはございますか。

○ 加藤氏
 本日、CanadaのPension Plan Investment Board についてのペーパーを持ってきたつもりだったのですが、すいません、持ってき忘れてまして、その中に例えばこんなものでガバナンスがある程度保たれるという一つのお手本というのか、サンプルがあったのですが、申し訳ありません。ただ、さっきも申し上げましたけれども、役員の選任から予算まで含めて極めて独立しておりますし、まさにboard 自体に全員が金融あるいは投資の専門家であるというような相当細かい条件があります。
 それに加えて運用機関の役員なり会長がたびたび外に出て行って、これは単なる情報の開示以上に独立性を、さっきちょっと売りにするというふうに言いましたけれども、いろんな形の、例えば会長のスピーチという形で、今、こういう運用をしているとか、我が社はこういう方針で役員を選ぶとか、金の使い方はこうであるとか、かなり詳細かつたびたび独立性に関する具体的情報を発信しているというようなことも含めて、残念ながら、今の基金とは雲泥の差だなと思っております。
 私が手元に持っております資料程度でしたら後でお送りいたしたいと思います。

○ 若杉分科会長
 竹原先生お願いします。

○ 竹原委員
 スクリーニングをどうやるのか、アクティブ運用の在り方についてのご質問かと思うんですが、これは基金の立場と受託の立場と二つあると思います。まず、基金に関して言うと、パフォーマンスの評価方法を変更する必要があると思います。現状ではインフォメーション・レシオ、すなわちベンチマークとどれだけ乖離したかということだけをリスクとしているわけですが、もともとTOPIXが効率的な市場ポートフォリオのプロクシーになっていない以上、これはほとんど無意味だと思います。ALM全体の、もちろん国債も含めて、外貨建ての資産も含めてのALMの中で多少のトラッキングエラーをなぜ許容できないのかということを考えております。
 そういう意味で言うと、今のインフォメーション・レシオを中心にしたパフォーマンス評価ではなくて、本来の意味での、ALM的なダウンサイドリスクの意味で、給付を賄えるかどうかという意味でもきちんとした貢献を測定する方法に変更することが必要だと思います。
 そのためには、現在の場合には詳細なディスクロージャーは行われてないわけです。例えば受託財産ごとに過去1年間、毎月のインフォメーションレシオがどうであったかなどは一切公開されてないわけですが、そういったものも公開するなど、必要なディスクロージャーを行うことが基金にとっては必要だと思っています。
 それから、受託に関して、果たして、今、日系、外資系の企業において、そういったスクリーニングを行うだけの能力のある企業がどれだけあるかということですが、私は、今それをやっているところがないとしても十分できると思っております。例えば、昨今、研究会ですとか、証券アナリスト協会を始めとしていろんなところで株式の運用の在り方、それに関わるアナリストの在り方、ファンドマネージャーの在り方というのが非常に積極的に議論が進められております。それから、決して公表された論文という形では出てきておりませんが、各研究機関等でかなり基礎研究が進んでおります。
 そういったことを踏まえていけば、すぐにということは難しいと思いますが、基本ポートフォリオの見直しを含めて、2〜3年の期間を見ていただけるならば、十分に今の日本の金融機関はそういった業務をこなすことが可能であると私は信じております。

○ 若杉分科会長
 どうもありがとうございました。米澤委員どうぞ。

○ 米澤委員
 余り重ならないように追加的なコメントを述べさせていただきます。
 一つは、基本的に株式運用が平たく言ってもうからないならやるべきではないと思いますし、もうかるのであればやる必要があって、最初からそれをやらないというのはちょっとロジックがおかしいのではないかという感じがしております。もうかるか、もうからないか、今、現在非常に悩ましい状況ではありますが、実はそれは別な言い方しますと、多少言わずもがな仮定かもしれませんが、結局のところ、公的な資金、郵貯、簡保も含めて400 兆以上ある資金を最初から全部社会資本ないしは財政の部分にやるのか、ないしは必要があったときには、そこからも民間の資本の方に行くようにするのかという問題でもあります。もちろん財政投融資、政策投資銀行みたいなところから、また民間に戻ってくることもありますが、もうかるか、もうからないかということは、実は入り口のところの資源配分の際に、海外も含めてもうかるところに流すというのが必要であり、そのためには民間の資本の方に資金を配分することが、最適な配分にもつながるのではないかと思います。マクロの面から見ればそのぐらいの必要性も考慮するべきではないかと思っています。
 そういったときに、最初から株式運用という資金が民間に流れるところをふさごうということに関してちょっといかがかなと思っています。もうかるかということは、さっき言いました積立金に関して、いくらかでも将来の負担を減らすという目的と非常に整合的だと思います。これは、さかんに竹原さんなんかおっしゃっていますが、比較的フィックスに近いライアビリティーを持っていても、もうかる場合には株式投資もすべきだという解は出ています。今、実際の政策アセットミックスは、それに近いものかどうかは、もう少し議論の余地があるかもしれませんが、そういう意味では最初から株式運用はしないというのは出てこないのではないか、理論的に考えても厳しいのではないかという感じがします。
 とはいいながら、株式投資をすればリスクは国債に比べればあります。これは要するに日本の経済変動のリスクです。今、日本経済が非常に困っている。みんながそれから逃れたい、逃れたいとなったら、もうどうしようもなくなってしまう。ある意味では、今、日本の経済の閉塞感というのもそれに近いところなので、あるところだけ身勝手にリスクを逃れるということは難しいのではないか、そのぐらいの気持ちで、最初に言ったことと同時に考えていくといいのではないかと思います。
 それから、竹原さん、今、インフレのことは臨場感はないんですが、アメリカなどの長期データで見ても、実質リターンで、多少リスクのとり方が違うんですけど、一番安定しているのはインフレ連動債です。次は株式です。それからインフレに連動してない普通の国債です。インフレが将来的に非常にシリアスなものになったときは、今言ったような順番が事実としてあるということでございます。
 最後に仮にいろんな状況で株式が御法度となったときに、債券の運用はそう簡単なんですか、株式に比べて。特にライアビリティーを持っていて、そこで債券の運用は、ある意味でかなり難しいロジックが出てきます。そのときに債券だから、国債だから安全というのはちょっと違うんじゃないかなという感じがします。
 それから、加藤様からいろいろ出ていますカナダの例は、私ももう少し調べたくなるぐらい一つのいい仕掛けというか、工夫になっているのかなという感じがちょっとしました。以上です。

○ 若杉分科会長
 どうもありがとうございました。では、大和委員お願いします。

○ 大和委員
 お二方とも言っておられますけれども、年金の債務をどうとらえるか。それから、もう一つは賦課方式における積立金というのはどういうものなのか。それをはっきりさせないと、運用の仕方云々とか積立金の量をどのくらいにするかというのは問題があるように思います。確かに純粋の賦課方式で保険料の引上げも一切要らないような定常状態であれば資金繰りさえつけば積立金は要らないわけですね。資金繰り調整ぐらいで済んでしまうかもしれません。そのときには確かに収益とかリスクということは一切考えないで流動性だけを考えるという考え方になるのだと思いますけれども、それでももう少し余裕を持って積んでおきたい場合、その量が非常に大きく、年間給付の何倍かにもなるというときに、リターンがほとんどゼロの状態で、流動性だけを考えて持つというのが本当にいいのかという問題もあると思います。
 しかし、今、日本の年金財政の現状はそういう状態にはないわけです。2050年かちょっとはっきり覚えておりませんが、そのくらいまでは、少子高齢化で保険料を引上げなければ給付が払えない。それをなだらかにするためにずっと保険料を上げてきているものだから、積立金がたまっているというふうに伺っております。つまり賦課制度だけれども、保険料の引上げをなだらかにするために積立金を持っていて、しかも、それは2050年ぐらいまでは持っていないといけないという状態であるわけです。
 年金の給付と保険料の間の制度をそもそも変えるということは別問題としてあるかもしれませんが、少なくとも現状、(その前提の場合でも積立金は一切流動性資産で年金財政に織り込む必要はないという考えもあるかもしれませんが、)5年分か6年分ぐらいの積立金があるのであればリターンを年金財政に入れた方がいいのではないかという考えで今この制度があるのだと思うんですね。ある程度のリターンを入れて、ある程度のキャッシュフローを将来のこととして織り込む形で積立金を持っているわけです。
 そのように年金財政に繰り込むという前提に立ったときには、繰り入れたためにリターンを追求すると同時に、そのリスクも負ってしまうわけですけれども、現在のそういう状況のときに積立金の運用どうあるべきかというのを、お二方からご意見をお伺いしたいのですけど、純粋の事前積立制度でもないし、純粋の賦課制度でもないわけですね。将来どうするかは別にして、現状そういう状態にあるという中でのお考えをお聞きしたいと思うんですが。
 もう一つ、一番最初に海外の公的年金積立金運用のご紹介がありましたけれども、これもそれぞれのケースで、財政方式がそもそも賦課制度なのかどうか、年間給付金に対してどのくらいの積立金を持っているのか、それによってこの考え方は少し変わってくるように思いますので、それも教えていただければと思います。

○ 若杉分科会長
 まず、海外の事例については、時間もありますので、次回に事務局より説明をお願いします。数理課長から、現在、積立金を保有している意味などについて、簡単に説明をお願いします。

○ 坂本数理課長
 現在の厚生年金、国民年金の財政運営の考え方でございますけれども、基本的には世代間扶養の賦課方式を考え方の基本としておりますが、今、我が国は非常な勢いで少子高齢化が進んでおると、そういう現状でございますので、積立金をある程度保有いたしまして、高齢化のピークに備えるという財政運営をしております。そして平成11年の直近の財政再計算におきましては、最終的にもある程度の積立金を保有いたしまして、その運用収益でもって、将来の世代の保険料の負担を軽減する、そういう考え方の下に財政計画をつくっているところでございます。

○ 若杉分科会長
 そういうことで、積立金と言っているんですけど、積立方式の積立金とは全然意味が違います。そういうことを前提に、今の大和委員のご質問にお答えいただけますか。加藤先生から。

○ 加藤氏
 たびたび同じことの繰り返しばかり申し上げるのですけれども、今の賦課方式の下での積立金というのはまさに流動性の問題なんですね。仮に純粋な賦課方式で、直ちに保険料の調整が可能であれば積立金はほとんどいらないことになる。しかも確定給付ですから、運用がうまくいっても、逆に損が出ても給付は同じなんですね。出す方が決まっているわけですから、直ちに保険料が調整できるのであれば、保険料で調整するわけですから、もらう側にとっては同じことなんですね。ですから私はそれがスタートとして考えるべきことではないかと思うんです。
 ただ、日本の場合にはさっきご説明あったように高齢化が進む。それと政治的にすぐに保険料を上げたりというのはなかなかできないですから、あらかじめ先食い状態で、今のうちに保険料をとっておこうかということなんだと思います。その結果、積立金が5年分も、とてもたくさんたまっちゃったということですから、そこで運用の話が出てきたという順番だと私は思います。
 ですからうまく運用して、そこでもってなるべくたくさん返せるようにというのは、そもそもの確定給付型で賦課方式でということの原則に反すると私は思っております。ですから、あくまでも賦課方式における積立金は、それが多かろうが少なかろうが預かり金であって流動性であると。それは会計上は資産サイドではなくて、負債サイドに考えるものであると。であれば、そこに高いリスクをかけて運用するものでは基本的にはないだろうと思います。
 これは先ほどの繰り返しになりますけれども、現実問題としてリスク許容度というのは、オーバー・ファンディングで、今、資産と負債があって、これだけ資産が余っていると、これはなくなってもいいよというときにそれにリスクをかけるのはいいわけですけれども、今は年金に関しては逆になっているわけですから、少なくとも今の時点で、単純にもうければいいではないかということではなくて、リスクをそもそもとれるスタート地点に来てない。
 グリーンスパンのゼロサムというのは、マクロ的に、いわば原理主義的に考えたものですから、私はこれは正しいと思いますが、仮にそこを置いておいて、リスク運用をどうしてもするとしても、まずアンダー・ファンディング状態を正すところからしないといけない。それで、アンダー・ファンディングであるか、ないかということは、年金特別会計を発生主義でもう一回、資産、負債すべて洗ってみないと、とりあえず手元に百数十兆円のお金があるから、それはキャッシュとして積まれているのだということではだめなのではないか。年金特会の資産、負債を洗い直せば、私は今の時点で余資運用という形でリスクをとって運用できるような状態には決してないと思います。
 余りほかのものと比較するのは適当ではないかもしれませんが、例えば今議論になっております道路四公団についてもキャッシュフローはあるわけですね。キャッシュフローはあるけれども、会計を発生主義的に見て、資産、負債を洗い直してみると、これは道路公団自身が出した数字でも債務超過になっているわけですから、私は年金についても同じ状態が今発生している、そこをスタートにしないとこの議論はなかなかそこから先に行かないのではないかということを考えております。
 もう一つ、つけ加えると、国民はそもそも百数十兆の積立金というものについてのイメージとして、どこかに150 兆円ぐらいのお金が余って積み上がっていると、そういうイメージを持つのだと思いますね。ですから、その中身、それからそれをリスク運用するということの意味合い、今の賦課方式とか確定給付ということの意味を私はほとんどの人が余り理解してないんだと思います。ですからリスク運用について、私は100 %絶対にすべきではないということを申し上げているわけではなくて、今、そういうことができる状況では全くないし、もしするのであれば、賦課方式、確定給付、その上での積立金の意味をまずはっきりさせて、それから行うのでないと、きちんとした政府としての義務が果たせないと思います。

○ 若杉分科会長
 加藤先生のご理解が制度の趣旨とちょっと違うかなと思いましたので数理課長に制度の趣旨を確認していただきました。加藤先生のご説明では「積み上がってしまった」と表現されたわけですが、結果的にではなくて運用するために意図的に積み立てたんですね。その運用益で保険料の上がり方を緩くしよう、将来の最終的な保険料を下げようという明確な目的がありました。
 それから、あくまでも積立方式ではありませんから、年金債務という概念はありませんね、したがって、アンダー・ファンディングという概念も当然ありません。

○ 加藤氏
 日本の場合には必ずしも純粋な賦課方式ではないということになっているわけですけれども、制度がどうであれ、特にリスクをとって市場においてそれを運用するのであれば、そこに市場のルールがかかってくるわけですから、年金に関しても市場のルールがかかってきたときにどういう状況であるかという、まさにリアリティーを把握してないといけないという意味であります。
 ですから制度上ということであれば、今、若杉先生がおっしゃったとおりかもわかりませんけれども、現実、リアリティーというのはそこに一つしかないわけですから、そこをよく見て、それをちゃんと見るためには発生主義でどうなっているかということからスタートしないとよくわからなくなってしまうということであります。

○ 若杉分科会長
 竹原先生、いかがですか。

○ 竹原氏
 私は掛金の問題につきましては、確かに確定給付という制度が維持される限りは、給付を受ける側にとってみればリスクをとってもとらなくてももらえる年金額は変わらないわけですが、一方、現在の加入者を考えた場合、今、一番問題になっているのは、年金の掛金を若年層を含めて拠出してくれるか、拠出してくれないかということで、議論はそこまで来ているわけですね。
 大切なのは、今、掛金を払っている側の人たちが、これはリスクを負って、自分の中で、将来掛金が急速に上がるリスクを、今日株式に投資するというリスクと置き換えているわけであって、加入者個人において、リスクテイクと、それに対する株式の投資が成功した場合にベネフィットを受けるという、そういう仕組みだと思うんです。そういう意味で言うと、リスクテイクを自分でして、そのベネフィットを自分で受けているのだから、これは十分に説明がつくのではないかと思うんです。
 それから、今の若杉先生のご指摘で、ライアビリティーの議論は、本来できにくいという話があったのですが、もちろん賦課方式の下ではライアビリティーのきちんとした議論は難しいのですが、一方で掛金に上限がある場合には、将来の持ち得るキャッシュフロー、アセットには上限があるわけですね。だとするとALM的な立場でバランスはしなければいけないとすれば、アセットが上限を持つということは当然ライアビリティーにも上限があるので、そこには明確に制度上は測定できなくても天井はあるはずだと思うんです。もしライアビリティーが計測できないのであれば、アセットの方の見通しを固定して、それに合わせるような基本ポートフォリオの策定をする必要はあるかと思います。

○ 若杉分科会長
 それは積立方式とは違った意味での債務概念があるということですね。

○竹原氏
 はい。

○ 若杉分科会長
 高梨委員、どうぞ。

○ 高梨委員
 前回、私は公的年金の積立金の運用について、現行制度を所与のものとしてそれを維持することを前提に議論することはいかがであろうか、こういった趣旨の発言をさせていただいたのですが、今でもその考え方は変わっておりません。ただ、現在、百数十兆円の年金積立金が存在して、それが一定のルールの下で運用されているという現状を踏まえて考えると、公的年金の年金積立金の運用の在り方としては、私は株式運用を含む分散投資がふさわしい、こういうふうに考えております。ただ、その前提として、年金積立金の水準については、今後の年金制度改革にふさわしいものにすべきだと考えます。
 私は年金制度改革の方向として、次期の改正において、基礎年金の国庫負担を現在3分の1ですが、それを2分の1に引上げるべきだと思っておりますし、その後、全額税方式にしていくべきだと、こういうふうに考えております。
 併せて給付の水準についてでありますが、既受給者を含めた国民のすべてが痛みを分かち合う、こういう観点から給付水準の思い切った見直しを行うことが必要である、こういうふうに考えています。したがって、そういうことを考慮した形で年金積立金の水準を見直していくべきではないかと思います。また、運用の目標収益率ですが、現在は4.5 %ということになっておりますが、現実の経済実態を踏まえたものとすべきでありますし、年金積立金の運用として長期的に達成可能なものに見直していくべきではないかと考えます。
 実は、今日ヒアリングにお越しいただいている加藤先生と事務局に教えていただきたい点があるのですが、今は年金資金運用基金として市場運用が28兆円ぐらいとともに財投債の購入が12兆円ぐらい行っております。その財投債の引受けが3省合意で行われているわけですが、この点について、加藤先生に財投債の引受けを年金資金運用基金として行っていることについてどういうふうに考えるかというのを教えていただきたいと思います。そして事務局にでございますが、今の財投債の引受けについては、7年間の経過措置ということで、昨年は12兆円購入をしているわけであります。年限は、長いものは20年、または10年ものと、こういう購入をしているわけですが、本来、移行期は7年間なわけです。しかし、移行期が7年間のときに10年で引受ける、あるいは20年で引受けるということについて、一体どういうふうに考えるのかという点が一つと、7年間の経過措置期間が終わった段階で、財投債の引受けをするという義務があるのか、ないのか、その辺についての考え方はどうなのかということについて、これは事務局の方だと思いますが、教えていただきたいと思います。以上です。

○ 若杉分科会長
 加藤先生には5時半ぐらいに終わるということでお願いしてありましたので、それに合わせてこの後ご予定があるそうです。お約束の時間になってしまい申し訳ございませんが、最後にこの点だけ答えていただけませんか。

○ 加藤氏
 申し訳ありません。今の高梨委員のお話ですが、最初に高梨委員おっしゃいました、全体的な年金についての制度改革はセットで考えないといけないのは私は全くそのとおりだと思います。それと同時に財投自体も、これはとりあえず財投債あるいは財投機関債というものがある程度賄っていく、あるいは郵貯サイドからの改革は進んでいるわけですけれども、いずれにしても、今、財投の仕組み全体の改革途中という状態だろうと思っています。ですから、年金資金運用基金で財投債を買うということも、現時点では、一つの選択肢だろうなと思っておりますけれども、でき上がりの姿というのでしょうか、こういう場所できちんとした本格的な議論をしていただく際には、さっきから申し上げております年金特別会計自体の在り方、財務状況の把握、もちろんその根底には年金制度そのものがあるわけですが、それとセットとして財投自体の在り方というのは考えざるを得ないのだと思います。ですから、今の時点での財投債投資は、そういう意味での途中経過状態での持ち方の上での一つの選択肢というふうに限定的に考えるのかなと私は思っております。

○ 若杉分科会長
 どうもありがとうございました。私の不手際で時間がかなり予定をオーバーしておりますので、今の2番目の質問については、次回以降の分科会で事務局に答えていただくということにさせてください。竹原先生にどうしてもご意見やご質問のある方は出していただきたのですが、いかがですか。杉田委員、どうぞ。申し訳ありませんが、なるべく短めにお願いします。

○ 杉田委員
 先ほど竹内さんから若干出ておりましたけれども、私も基本的に、今、株がこんな状態ですから、株を外せという議論が出てくる心情的なものもわかりますけれども、最終的には日本経済の将来を信ずるか信じないかというところで結論が違ってくるんですね。日本経済をもう信じないということになれば、株はやめた方がいいというふうになるのだろうと思うんです。しかし、私はまだまだ何年かの困難な時期はあると思うんですけれども、それを乗り越えれば、まだ我が国には成長余力があると、こういうふうに私自身は信じておりますので、やはりここは株を全部排除するという考え方ではなくて、株を含めて分散投資を行うということの方が国民の役に立つのではないかと思っているわけなんですね。
 その観点から、今日の竹原先生のご意見に非常に共鳴するものがあるのですが、その中で、先ほどいわゆるベンチマークをTOPIX に絞っているので、本当に効率的な運用がされてないのではないかというご批判、これは私も前から何となくそう思っていまして、ただ、私自身は専門家でないのでどういうふうにしたらいいのかということがよくわからないでいたのですが、今日先生の方から、もっと優良資産に絞り込みをやるべきだとのお話がありました。
 私どもの新聞に日本生命の社長さんも同じように、今後、生命保険会社の年金運用については、優良資産に絞り込んでいきたいというようなことを話しておられるわけなんですが、先ほど幾つかおっしゃいましたけれども、この優良資産への絞り込みの方法も先ほどおっしゃったベンチマークを変えていくということに尽きるのでしょうか。しかし、ベンチマークがなかなか現実にないというのも一方で事実で、何を頼りに機関投資家がやっていくか、この辺についてはどういうふうに対応したらよろしいのでしょうか。

○ 竹原氏
 私が最後のページで書いていることは、実際に実現して行くまでには、克服すべき大きな問題が幾つか残っていると思います。ただ、既に株価の価格形成はインデックス運用が主体になることよってゆがみ始めているというのが私の認識です。それが今後、毎年相当規模の資金が株式市場にインデックス運用を主体として入ったときに、さらに大きな適正価格との乖離を生んでいき、だから、市場における株価形成機能がさらに弱まっていくということが考えられます。
 資本市場、株式市場の役割というのは、経営資源を持っていて、将来のキャッシュフローを生んでくれるであろう会社に、公的な資金であれ、個人の投資家であれ、きちんと資金が流れることであって、それをきちんと見極めていくには、基本的には私はディスクロージャーというものが、もっと今よりも進展していくことが一つの条件だと思っています。ですから、今年に入ってから会計情報をめぐる問題がありましたけれど、少なくとも経営者が会計という形できちんと情報を流していき、それに対してアナリスト、ファンドマネージャーがきちんとした分析をしていく、その作業を放棄することは許されないと思うんですね。むしろ極端な話をすれば、今の終値ベース、成り行きで注文してインデックスをつくっていればそれでいいという運用をこのまま続けさせること自体が株価形成をゆがめていると思います。それをやめるべきです。その過程で何らかの、ものすごいコストがかかるようなことは避けたいわけです。それではアクティブ運用が、要するに長期ではパッシブ運用に勝てないという議論につながるわけです。ですから、コストが、当然のことながら今のパッシブ運用、インデックス運用の数ベーシスと比較して、10ベーシスあるいは20ベーシスという高いレベルになるのかもしれませんが、10ベーシス、15ベーシスぐらいの年間の運用フィーでおさまるような形で、極めて機械的な、何らかのフィルターを見つけていく必要があり、また、それはできるはずです。なぜならば、私たちは債券の格付けという意味で企業の財務状況なりキャッシュフローについて分析する手段を持っているわけですから、そういった企業の会計内容や、ガバナンスに関しては質問票調査も必要になるかと思いますが、そういったものを複合的に生かしていくような体制を、むしろ受託が中心となって、これから進めていくことが必要だと思っています。

○ 若杉分科会長
 吉冨委員、なるべく短めにお願いします。

○ 吉冨委員
 もし、これがセミナーだったら、先生方の論文をいろいろ批判するのでしょうけど、これはセミナーではないので、先生方のご意見からいろいろ学ぶというふうに考えております。
 運用利回りを上げるということが基本的な命題だという大前提ですが、先生がおっしゃっているデフレとインフレの時期でどう違うのかというのがちょっとわからなかったということです。つまり名目賃金の上昇率よりも高いリターンが得られることが年金積立金の運用の目的なんですね。名目賃金はインフレのときには高いしデフレのときは低い。したがって、デフレとインフレのときに、賃金の動きと国債の利回りの動きはどう違うのか。非対称性があるのかないのか、株についても同様です。
 それが分かって初めてデフレのときにはバリューを買う、インフレのときにはグロース買うという意見が出てくるのでしょうけれども、そこら辺のメカニズムといいますか、フレームワークがいま一つ分からないので、教えていただければありがたいと思います。

○ 竹原氏
 学会ですと、また20分くらいかけてお答えするところなんですが、私の中でも今個人的に最近研究を進めているテーマで、そうした株価の動きを分析するのはかなり難しいのではないと考えています。なぜならば株価というものを考えるときには、配当還元モデル、あるいはそれに等しいモデルを使うしかないわけです。そのときに、国債の場合は長期債の割引率で現在価値に割り引けば、それでいいわけですが、株価の場合には実質的な金利に期待インフレ率、さらには企業のリスクに対するリスクプレミアムの部分を合計したもので割引かななければいけない。当然、期待インフレ率と株式のリスクプレミアムが同方向に動く場合、昨今のように逆方向に動く場合と、いろんな状況がありますので、そこのところの分析は非常に難しいことなんです。ただし、そういったところも、むしろそこで運用に知恵を絞らなければいけないと思うんですね。将来、どういう状況であれば、この会社はキャッシュフローを生んでくれるのかどうか、そういったところで知恵を出す必要があると思います。逆にその部分で知恵が出せないのだったら、受託は運用のフィーも取れない、そういうルールを徹底することが必要だと思っております。ですから、そこの部分、お答えになってないような気がしますが、そういった部分のシミュレーション、あるいは感応度分析といったことをできることも受託に要求される能力の一つだと思っております。

○ 吉冨委員
 今、デフレの時代に入っているので、まさにインフレとデフレの時期の差というのは重要なんですけれども先ほど名目賃金の上昇率とリターンとの関係で、基本的には学会ではどういうエビデンスがあるんですか。

○ 竹原氏
 賃金の部分と期待リスクプレミアムとの関係についてはある程度明確な傾向が出ています。例えば賃金の上昇率自体が株式のリスクファクターの一つとなっているということは実証されています。
 もう一つは、仮にデフレの状況でも、金利低下と相殺する方向で企業の期待リスクプレミアムが上がってしまうと、両者が相殺しますから、株価が反応しないというケースが起こり得ます。それは物価上昇率で測った期待インフレ率と企業の潜在的なリスクプレミアムが、例えばバブルの時期ですと同方向に動く場合もありますし、昨今の場合にはどうも逆方向に向いて動きが相殺しているというようなこともあります。実証研究上はまだ決着がついてないままであります。

○ 若杉分科会長
 予定の時間を過ぎておりますが、吉原委員、他に特に何かございますか。

○ 吉武委員
 ちょっとあったんですけど今回は結構です。

○ 若杉分科会長
 本日は加藤先生、竹原先生から、今後の検討に当たって大変参考となる貴重なご意見をいただきました。本日、両先生からいただきましたご指摘や委員の方々からのご意見等も踏まえて、引き続き年金積立金の運用の在り方についての検討を年末にかけて行っていきたいと考えております。
 時間が遅れておりますので、公開の審議はここまでで終わります。ここでいったん議事を事務局に預けます。なお、予定の議題が残っておりますので分科会はまだ続きます。委員の方々には、6時15分ぐらいまでということでお時間を延長させていただきたいのですが、よろしいでしょうか。
(「はい」と声あり)

○ 若杉分科会長
 では、運用指導課長、この後の議事についてお願いします。

○ 泉運用指導課長
 これにおきまして、議題の(1)の審議を終了といたします。
 ただいまより5分間あるいは5分長ければ3分間ぐらい休憩とさせていただきまして、以後の審議は非公開となりますので、傍聴の方におかれましてはご退室のほど、ご協力のほどよろしくお願いいたしたいと思います。

(傍聴者退室)
(休憩)


 これ以降の議事は非公開とした。以下、議事要旨を掲載。

(○は委員、●は事務局、△は年金資金運用基金の発言)


(2)平成13年度年金積立金運用報告書について

 平成13年度年金積立金運用報告書について事務局より説明。

(質疑応答)

○ 前回、年金資金運用基金の資産全体の運用結果に対する国民の視点からの評価も記載すべきであるという趣旨の発言をしたが、そのような記載が行われず残念だ。しかし、分科会長とも相談していただいた上でこのようになっているとのことなので、報告書を提出していただくことについては了承する。

○ 15ページの実質運用利回りは、引き算ではなく割り算で求めているのか。

● 実質運用利回りは、注のとおり「(1+名目運用利回り÷100)÷(1+名目賃金上昇率÷100)×100−100」という計算式で求めている。

○ 概算的には引き算と同じだな。

 質疑応答の後、厚生年金保険法及び国民年金法の規定に基づき、厚生労働大臣から社会保障審議会に、「平成13年度厚生年金保険及び国民年金における年金積立金運用報告書」が提出された。


(3)株主議決権行使状況について

 株主議決権行使状況について年金資金運用基金より説明。

(質疑応答)

○ 議案に反対した比率が日本株と外国株では1桁違うが、大きな要因は何か。

△ 株主提案の割合が、日本株式の場合は8万6600件中1000件と約1%程度であるが、外国株式の場合は2万6100件中2500件と1割近い。一般的に株主提案は反対される傾向が強いため、株主提案の割合の違いが大きく影響していると考えている。

○ 投資対象企業をいい企業に変えるためにも議決権行使の役割は大きい。今後ますます議決権行使は重要になると思うので、年金資金運用基金において、さらに実効ある議決権行使ができるようにガイドライン等の見直しを積極的に進めていただきたい。


(4)その他

【第9回議事要旨について】
  第9回議事録及び議事要旨については、配付資料のとおり確認。


〈照会先〉
年金局運用指導課企画係
TEL  5253-1111(内線3350)
夜間 3595-2868


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