年金積立金の運用の在り方に関する検討
− 「国内株式」運用の方向性
筑波大学社会工学系 竹原 均
● これまでの論点の整理
全額国債運用 | 株式を含めた分散投資 | |
加入者による株式投資のリスクテイクは必要か? | 不必要. 加入者は個人の株式投資を減少させることにより, 積立金が株式ヘ投資されたことに対応するであろう. → 株式投資は無意味. | 必要. 個人の株式投資の阻害要因があれば, 公的年金で株式投資を行うことには意味がある. |
価格形成への影響 | 国債は市場規模が十分に大きく, 流動性がある. 巨額の資金の株式市場での運用は, 株式市場での価格形成を歪める. (株価PKO?) | 全額を国債で運用することも, 国債の価格形成を歪めている. 利回りが上昇すれば, 国債価格は下落する. |
コーポレートガバナンスへの影響 | 国(厚生労働省)が私企業の経営に直接的な影響を与えることは好ましくない. | 間接的なガバナンスへの影響に限定. |
期待収益率 | ローリスク・ローリターン. 元本保証安全で確実な運用. |
リスクテイクにより高い期待リターンを獲得することにより, 将来の負担を軽減することが可能. |
インフレヘッジ機能 | 給付額はインフレスライド. 国債による運用では実質的なリターンは確保されない. | インフレに対するヘッジ機能があると一般には考えられている. |
経済のマイナス成長下での株式運用
● 株式期待収益率は国債利回りより高いのか?
- | 過去の実現収益率を調べる限りは明らか |
- | リスク資産の期待収益率は安全資産利子率より高い → もしそうでないとすればだれも資本を提供しない |
- | 個別企業の収益性は, 多くの企業では確保されている |
● ベンチマークポートフォリオ, パッシブ運用の問題
- | TOPIXは「市場ポートフォリオ」ではない |
- | 業種, スタイルとリスク・リターン特性 |
- | 2部市場, 店頭市場, 海外市場への投資 |
- | マイナス成長下でのTOPIXでのインデックス運用の是非 |
株式期待収益率とインフレ, デフレ
● デフレ, あるいはインフレかで最適な投資戦略は異なる
- | 基本ポートフォリオは中長期のシナリオと年金債務に依存する |
● 中長期ではROEが自己資本コストに回帰するという前提で考える.
← | 将来のキャッシュフローにつながる経営資源を保有し, かつコーポレート・ガバナンスに問題がない |
● 配当割引モデル: 株価 = 将来の配当の現在価値
- | 割引率 = 実質金利 + 期待インフレ率 + 企業の株式リスクプレミアム |
● デフレの状況が継続する場合
- | バリュー株. | ただしある程度の配当利回りが安定的に確保され, かつ純資産の長期継続的な減少がない企業に限定. |
● 急激なインフレが起こることが予想される場合
- | グロース株. | ただし技術力, 人材, ビジネスモデル, リスクテイク能力を含めた「経営資源」があることが条件 |
株式運用はどうあるべきか?
● 基本ポートフォリオの再検討とパッシブ運用の再考
- | 売買手数料ではなく, 分析能力に対して対価(運用フィー)は支払われるべき |
基本ポートフォリオ策定の再検討
● 株式の投資ユニバースの再検討
- | 成長性, 安定性の考慮 → 東証2部, 店頭, 外国株 |
- | 成長性, 安定性, ガバナンスによる「フィルター」の適用 |
- | 社債をある格付以上に制限するのと同じように, 過度のリスクを持った企業の株式の組み入れは制限されるべき → 加入者の株式投資の代行ならば, そうしたリスクテイクは出来ない |
● 公的年金での株式運用のためのカスタム・インデックスの作成
- | 基本的にはバイ・アンド・ホールド戦略 |
● コーポレート・ガバナンス
- | 経営資源を持たない企業, 衰退産業,?ガバナンスに問題のある企業には最初から投資しない. 経営に関与しない. |
- | 運用対象から外れた企業は, (本来の意味での)リストラクチャリング, 徹底したディスクロージャーなどの経営努力を求められる |