(1) |
水道法(昭和32年法律第177号)における水質管理は、法律の目的の一つである「清浄な水の供給」を達成するため、第4条(水質基準)において「清浄な水」の要件を示し、その上で、この要件を満たすため、「施設の適正確保」及び「管理の適正確保」のために講ずべき措置を規定する、という形になっている。
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(2) |
このうち、施設の適正確保については、
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(1) |
施設基準(水質基準に適合する必要量の浄水を得るための設備を有することなど)の遵守義務(第5条) |
(2) |
技術者による水道の布設工事の監督(第12条) |
(3) |
給水開始前の施設及び水質の検査(第13条) |
(4) |
適正な給水装置の使用(第16条ほか) |
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などが規定されている。
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(3) |
一方、管理の適正確保については、
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(1) |
水道技術管理者の選任(第19条) |
(2) |
定期及び臨時の水質検査(第20条) |
(3) |
職員の健康診断(第21条) |
(4) |
消毒その他衛生上必要な措置(第22条) |
(5) |
人の健康を害するおそれのある場合における給水の緊急停止(第23条) |
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などが規定されている。
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(4) |
このような水道水質管理の基本となる水質基準について、水道法第4条の規定からは次のような性格が認められる。
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(1) |
水質基準は、水道により供給される水(基本的に給水栓を出る水)について適用されるものであり、原水について適用されるものではないこと。 |
(2) |
人の健康に対する悪影響(急性及び慢性)を生じさせないという観点から設定されるべきものであること。 |
(3) |
異常な臭味や洗濯物の着色など生活利用上の障害をきたさないという観点からも設定されるべきものであること。 |
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(5) |
このようなことから、現行基準を定めるに当たり、生活環境審議会はその答申(平成4年12月)において、次のとおりその考え方を示している。
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(1) |
水道水に求められる基本的用件の第1は、安全性・信頼性の確保である。この要件から人の健康に影響を及ぼすおそれのある項目をまとめ、「健康に関連する項目」として設定すべきである。 |
(2) |
水道水に求められる第2の用件は、水道としての基礎的・機能的条件の確保である。この要件は、色、濁り、においなど生活利用上の要請あるいは腐食性など施設管理上の要請を満たすためのものであり、これに関連する項目をまとめ、「水道水が有すべき性状に関連する項目」として設定すべきである。 |
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(6) |
本専門委員会においても、基本的には上記(4)及び(5)の考え方を継承するものであり、今回の水質基準の見直しに当たっては、
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(1) |
人の健康の確保、及び |
(2) |
生活利用上の要請 |
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の両面から基準の設定につき検討を行うべきであると考える。 |
(2) |
これまでは「水質基準は全ての水道に一律に適用する」との考え方のもと、水道法第4条の水質基準のほかに、これを補完するものとして、「快適水質項目」、「監視項目」及び「ゴルフ場使用農薬に係る水道水の暫定水質目標」の3種のカテゴリーを設定し、これに対応してきている。そのもととなる考え方は次のとおりである。
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(1) |
現行の水質基準は全ての水道に一律に適用することを基本としているが、水道水の質的向上が求められている現在、一律に適用すべき基準に加え、おいしい水などより質の高い水道水を供給するための目標値を設定する必要がある。(生活環境審議会答申、平成4年12月) |
(2) |
水道水の今日的な要請にかんがみれば、基準項目以外に、水道水の水質に関して、次の二つの項目を設定し、水道法に基づく水質基準を補完することが重要である。まず、国民のニーズの高度化に積極的に答えられるよう、おいしい水など質の高い水道水を供給するための目標を「快適水質項目」として設定すべきである。(水質管理専門委員会報告、平成10年12月) |
(3) |
健康に関連する物質のうち、全国的にみて水道水中での検出レベルがきわめて低いことなどから現状では基準項目とする必要性はないが、体系的・組織的な監視を行うことによりその検出状況を把握し、適宜、水質管理に活用することが望まれる項目を「監視項目」として設定する必要がある。(同上) |
(4) |
(前略)水道として安全性を確保するためには主要な農薬について水道水として目標となるレベル(水質目標)が設定され、必要な場合には適切なモニタリングによりその安全性を確認の上、供給することが望ましい。このような観点から、(中略)ヒトに対する安全性を十分確保できるレベルとして水道水の暫定的な水質目標を(中略)定めることが妥当である。(水質専門委員会、平成2年5月) |
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(3) |
なお、快適性については、ペット・ボトル入りの飲料水やミネラル・ウォーターの消費量の増大に象徴されるように、快適性に関する消費者の嗜好は年々変化していくものであり、平成4年当時は、より高品質なものとされた項目についても、現時点においては、最低限の要求となっていると考えられる。特に、他の商品を選べないという特質を有する水道においては、快適性についても十分な考慮が払われるべきであり、現行の快適水質項目とされるジェオスミンや2-メチルイソボルネオールによる異臭味被害が生じているという事実にも着目すべきである。
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(4) |
現行のシステム(水質基準−快適水質項目−監視項目−ゴルフ場使用農薬にかかる水質目標)については、多くの水道事業者の理解を得、水道水質管理上一定の機能を果たしてきたと考えられるが、
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(1) |
監視項目等については通知に基づく行政指導であり、強制力がないことから、上記(1)で例示したような地域的な問題を見落としがちであること |
(2) |
一方、水質基準項目については、全国一律適用との考え方から、ほとんど問題がない地域にある、又は浄水方法を採用している水道事業体においても毎月検査が義務付けられること |
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といった不都合が生じている。
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(5) |
このような状況に鑑み、本専門委員会としては、水質基準の見直しに当たり、次のような新たなシステムを採用すべきであると考える。
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(1) |
全国的にみれば検出率は低い物質(項目)であっても、地域、原水の種類、又は浄水方法により、人の健康の保護又は生活上の支障を生ずるおそれのあるものについては、すべて第4条の水質基準項目として設定する。 |
(2) |
一方で、すべての水道事業者に水質検査を義務付ける項目は基本的なものに限り、その他の項目については、各水道事業体の状況に応じて省略することができることとする。 |
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(6) |
この場合において、水道事業者等が適切に水質検査項目を選択できるよう、水質検査の省略の可否に関する指針が明示されるべきである。
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(7) |
また、水質検査項目の選択の適正化と透明性を確保するため、水道事業者等に対し、選択した水質検査項目及びその理由を明示した水質検査計画を作成させ、当該水質検査計画を公表させることとすべきである。
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(8) |
なお、水質基準項目として設定しない項目(物質)であっても、一般環境中で検出されている物質、使用量が多く今後水道水中でも検出される可能性がある物質など、水道水質管理上留意すべき物質(項目)については、水質目標とともに関連情報を付して公表し(水質目標設定物質リスト(仮称))、関係者の注意を喚起すべきである。 |
(1) |
水質基準については、最新の科学的知見に従い常に見直しが行われるべきであり、平成4年の生活環境審議会第2次答申(「今後の水道の質的向上のための方策について(第2次答申)―水道水質に関する基準のあり方―」)においても、次のとおり指摘している。
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『水道水質に関する科学技術の進歩には著しいものがあることから、今後とも幅広い知見の集積を恒常的に行い、基準見直しの検討を行うべきである。』
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(2) |
一方、世界保健機関(WHO)においても、飲料水水質ガイドラインの3訂版では、今後は"Rolling Revision"(逐次改正方式)によることとし、従来のような一定期間を経た上で改正作業に着手するという方式を改めるとしている。
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(3) |
我が国の水質基準においても、上記(1)のとおり、理念上は逐次改正方式によることとされているが、それが必ずしも有効に機能していない背景には、水質基準見直しのための検討開始要件が明確となっていなかったという面がある。
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(4) |
従って、今後は、検討開始要件を明確にしていく必要があり、これを実効あらしめるためには、例えば、関連分野の専門家からなる水質基準の見直しのための常設の専門家会議を設置することが有益である。
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(5) |
また、逐次改正方式の実効性を高めるとともに、水道水質管理の一層の充実を図るため、水道事業者等による水質検査に加え、国及び地方公共団体において水道水質管理行政を担当している部局による水質監視が重要である。
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(6) |
国及び地方公共団体による水質監視については、これまで都道府県が策定する「水道水質管理計画」に基づき実施されているが、同計画においては、第1に水道事業者等における水質検査体制の整備充実が上げられている。
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(7) |
しかしながら、その後10年が経過し、水道事業者等における水質検査体制の整備が進んできたと考えられる現在、国及び地方公共団体による水質監視は、次の点を主たる目的として実施すべきである。
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(国による水質監視) |
(1) |
全国的な水道水質状況の把握 |
(2) |
水質基準設定の要否の検討 |
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(地方公共団体による水質監視) |
(1) |
水質基準設定の要否の検討 |
(2) |
水道水源の状況の監視及びその結果に基づく水道事業者の指導 |
(3) |
水質基準の遵守状況の確認 |
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(8) |
当然のことながら、これらの水質監視の実施に当たっては、環境担当部局、河川担当部局等関係部局との連携が必要であり、また、水道事業者等に協力を求めることが不可欠である。 |
(1) |
人に対して健康被害を与える可能性のある病原微生物は多様であるが、水道水を介して伝播するものは主に腸管系の病原微生物で、糞便による水の汚染が原因している。
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(2) |
このため、現行の水質基準では、糞便性汚染指標及び現存量指標(ひいては塩素消毒が適正に行われているか否かの判定指標)として、それぞれ「大腸菌群数」及び「一般細菌」が定められている。
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(3) |
これらの指標については、最新の知見に照らして見直しが行われるべきであり、本専門委員会においては、この機会に再評価を行うこととした。具体的には、
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(1) |
「大腸菌群数」に替えて直接的に糞便由来である「大腸菌」を水質基準とすることの是非 |
(2) |
「一般細菌」の妥当性と従属栄養細菌HPC(Heterotrophic Plate Count)の追加、あるいはHPCへの転換の可能性 |
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について検討を行うこととした。
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(4) |
また、クリプトスポリジウム(Cryptosporidium parvum)等の塩素耐性を持つ病原微生物による汚染、あるいは配管系や受水槽等でのレジオネラ(Legionella)を含む微生物の増殖(regrowth)の問題への対応が新たな課題となっており、これらへの対応が必要となっている。
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(5) |
このうち、クリプトスポリジウム等の塩素耐性を有する病原微生物については、現在、厚生労働省において暫定対策指針を策定し、水道事業者等の指導に当たっているが、ここでは、次の点について検討を行うこととした。
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(3) |
クリプトスポリジウム等に関し、暫定対策指針から一歩進めて水質基準を設定することの是非 |
(4) |
病原微生物対策として消毒等の措置を規定している水道法第22条に基づく措置として、消毒に加え、塩素耐性微生物に係る措置(具体的には、これらの微生物の存在が疑われる場合における適正なろ過操作を行うべきこと)を加えることの是非 |
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(6) |
さらに、配管系における微生物の増殖対策として、
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(5) |
配管系における微生物の増殖(regrowth)の指標としてHPCの有用性 |
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について検討を行うこととした。 |
(1) |
水質検査における品質保証(Quality Assurance/Quality Control, QA/QC)の重要性については、論を待たず、これまでも種々の通知等によりその徹底が指導されてきたところである。
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(2) |
特に、水道法改正による管理委託制度の導入やいわゆる20条機関の登録制度化により、民間事業者による水質検査への参入が大幅に増加することが見込まれることを考慮すれば、今後、水質検査分野におけるQA/QCの重要性は益々高まってくるものと考えられる。
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(3) |
既に、食品衛生の分野においては、その検査において優良試験所基準(Good Laboratory Practice, GLP)制度が導入されており、環境測定の分野においても、ISO17025(JIS Q17025)が制定され、GLP制度が導入されている。
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(4) |
水道水質の検査の分野においても、厚生労働省が実施している20条機関を対象とした精度管理調査の結果をみれば、水質検査の品質を保証するためには、GLP制度の導入が不可欠であると考えられる。
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(5) |
このような状況を踏まえれば、20条機関に対してGLP制度を適用させることが適当であり、水道事業者及び地方公共団体の水質検査施設についても、これに準じて水質検査の品質を確保するよう努力していくことが必要である。
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(6) |
また、標準試料を用いた統一精度管理調査の実施により、検査施設間における水質検査技術の格差是正、向上に努めていくべきである。 |