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資料2

水質に関する基準の見直し等に係る基本的考え方(素案)


1.水質基準のあり方・性格

(1)  水道法(昭和32年法律第177号)における水質管理は、法律の目的の一つである「清浄な水の供給」を達成するため、第4条(水質基準)において「清浄な水」の要件を示し、その上で、この要件を満たすため、「施設の適正確保」及び「管理の適正確保」のために講ずべき措置を規定する、という形になっている。

(2)  このうち、施設の適正確保については、
(1)  施設基準(水質基準に適合する必要量の浄水を得るための設備を有することなど)の遵守義務(第5条)
(2)  技術者による水道の布設工事の監督(第12条)
(3)  給水開始前の施設及び水質の検査(第13条)
(4)  適正な給水装置の使用(第16条ほか)
などが規定されている。

(3)  一方、管理の適正確保については、
(1)  水道技術管理者の選任(第19条)
(2)  定期及び臨時の水質検査(第20条)
(3)  職員の健康診断(第21条)
(4)  消毒その他衛生上必要な措置(第22条)
(5)  人の健康を害するおそれのある場合における給水の緊急停止(第23条)
などが規定されている。

(4)  このような水道水質管理の基本となる水質基準について、水道法第4条の規定からは次のような性格が認められる。
(1)  水質基準は、水道により供給される水(基本的に給水栓を出る水)について適用されるものであり、原水について適用されるものではないこと。
(2)  人の健康に対する悪影響(急性及び慢性)を生じさせないという観点から設定されるべきものであること。
(3)  異常な臭味や洗濯物の着色など生活利用上の障害をきたさないという観点からも設定されるべきものであること。

(5)  このようなことから、現行基準を定めるに当たり、生活環境審議会はその答申(平成4年12月)において、次のとおりその考え方を示している。
(1)  水道水に求められる基本的用件の第1は、安全性・信頼性の確保である。この要件から人の健康に影響を及ぼすおそれのある項目をまとめ、「健康に関連する項目」として設定すべきである。
(2)  水道水に求められる第2の用件は、水道としての基礎的・機能的条件の確保である。この要件は、色、濁り、においなど生活利用上の要請あるいは腐食性など施設管理上の要請を満たすためのものであり、これに関連する項目をまとめ、「水道水が有すべき性状に関連する項目」として設定すべきである。

(6)  本専門委員会においても、基本的には上記(4)及び(5)の考え方を継承するものであり、今回の水質基準の見直しに当たっては、
(1)  人の健康の確保、及び
(2)  生活利用上の要請
の両面から基準の設定につき検討を行うべきであると考える。


2.地域性・効率性を踏まえた水質基準の柔軟な運用

(1)  水道により供給される水の質は、地域、原水の種類・質、浄水方法などにより大きく変動する。
(例1)地域による差異
 (1)  北海道の一部水源における自然起因の砒素問題、沖縄の一部水源における自然起因のアンチモン問題など、全国的な問題ではないが、地域的に見れば、安全な飲料水の確保の観点からは看過し得ない問題がある。
 (2)  農薬については、基本的に水源部で使用されている農薬に注意すればよいのであって、それが当該地方で使用されていない場合には、ほとんど問題とならない。
(例2)原水の種類による差異
 (3)  トリクロロエチレンなどの揮発性有機化学物質や硝酸性窒素などについては、多くの場合、地下水を水源とする水道において問題が生じている。
 (4)  ジェオスミンなどの臭い物質については、ダムや湖沼水などの停滞水を水源とする場合には問題を生ずるが、地下水を水源とする水道においてはほとんど問題とならない。
(例3)浄水方法による差異
(5)  臭素酸が比較的高い濃度で検出されるのは、多くの場合、オゾン−活性炭処理を行う水道に限られる。
(6)  水に不溶の化学物質(例えばダイオキシン類など)については、水中では基本的に粒子状物質に吸着された形で存在していることから、適切にろ過操作が行われている浄水場においては、基本的に問題とならない。

(2)  これまでは「水質基準は全ての水道に一律に適用する」との考え方のもと、水道法第4条の水質基準のほかに、これを補完するものとして、「快適水質項目」、「監視項目」及び「ゴルフ場使用農薬に係る水道水の暫定水質目標」の3種のカテゴリーを設定し、これに対応してきている。そのもととなる考え方は次のとおりである。
(1)  現行の水質基準は全ての水道に一律に適用することを基本としているが、水道水の質的向上が求められている現在、一律に適用すべき基準に加え、おいしい水などより質の高い水道水を供給するための目標値を設定する必要がある。(生活環境審議会答申、平成4年12月)
(2)  水道水の今日的な要請にかんがみれば、基準項目以外に、水道水の水質に関して、次の二つの項目を設定し、水道法に基づく水質基準を補完することが重要である。まず、国民のニーズの高度化に積極的に答えられるよう、おいしい水など質の高い水道水を供給するための目標を「快適水質項目」として設定すべきである。(水質管理専門委員会報告、平成10年12月)
(3)  健康に関連する物質のうち、全国的にみて水道水中での検出レベルがきわめて低いことなどから現状では基準項目とする必要性はないが、体系的・組織的な監視を行うことによりその検出状況を把握し、適宜、水質管理に活用することが望まれる項目を「監視項目」として設定する必要がある。(同上)
(4)  (前略)水道として安全性を確保するためには主要な農薬について水道水として目標となるレベル(水質目標)が設定され、必要な場合には適切なモニタリングによりその安全性を確認の上、供給することが望ましい。このような観点から、(中略)ヒトに対する安全性を十分確保できるレベルとして水道水の暫定的な水質目標を(中略)定めることが妥当である。(水質専門委員会、平成2年5月)

(3)  なお、快適性については、ペット・ボトル入りの飲料水やミネラル・ウォーターの消費量の増大に象徴されるように、快適性に関する消費者の嗜好は年々変化していくものであり、平成4年当時は、より高品質なものとされた項目についても、現時点においては、最低限の要求となっていると考えられる。特に、他の商品を選べないという特質を有する水道においては、快適性についても十分な考慮が払われるべきであり、現行の快適水質項目とされるジェオスミンや2-メチルイソボルネオールによる異臭味被害が生じているという事実にも着目すべきである。

(4)  現行のシステム(水質基準−快適水質項目−監視項目−ゴルフ場使用農薬にかかる水質目標)については、多くの水道事業者の理解を得、水道水質管理上一定の機能を果たしてきたと考えられるが、
(1)  監視項目等については通知に基づく行政指導であり、強制力がないことから、上記(1)で例示したような地域的な問題を見落としがちであること
(2)  一方、水質基準項目については、全国一律適用との考え方から、ほとんど問題がない地域にある、又は浄水方法を採用している水道事業体においても毎月検査が義務付けられること
といった不都合が生じている。

(5)  このような状況に鑑み、本専門委員会としては、水質基準の見直しに当たり、次のような新たなシステムを採用すべきであると考える。
(1)  全国的にみれば検出率は低い物質(項目)であっても、地域、原水の種類、又は浄水方法により、人の健康の保護又は生活上の支障を生ずるおそれのあるものについては、すべて第4条の水質基準項目として設定する。
(2)  一方で、すべての水道事業者に水質検査を義務付ける項目は基本的なものに限り、その他の項目については、各水道事業体の状況に応じて省略することができることとする。

(6)  この場合において、水道事業者等が適切に水質検査項目を選択できるよう、水質検査の省略の可否に関する指針が明示されるべきである。

(7)  また、水質検査項目の選択の適正化と透明性を確保するため、水道事業者等に対し、選択した水質検査項目及びその理由を明示した水質検査計画を作成させ、当該水質検査計画を公表させることとすべきである。

(8)  なお、水質基準項目として設定しない項目(物質)であっても、一般環境中で検出されている物質、使用量が多く今後水道水中でも検出される可能性がある物質など、水道水質管理上留意すべき物質(項目)については、水質目標とともに関連情報を付して公表し(水質目標設定物質リスト(仮称))、関係者の注意を喚起すべきである。

(新システムの概念図)
新システムの概念図

(9)  ところで、これらの水質基準項目等については、リアルタイム・モニタリングが可能なものは限られており、水質管理に万全を期するためには、地域性や原水の質、浄水方法などに応じ、水質基準不適合の可能性を事前に把握し、そのうえでそれに対応した管理を行っていく必要がある。

(10)  食品衛生分野における危害分析・重要管理点(Hazard Analysis and Critical Control Point, HACCP)やWHOにおける水安全計画(Water Safety Plan)などもこのような考え方にたったものであり、我が国の水道水質管理においても、このような考え方を取り入れていくことが必要であろう。


3.逐次改正方式

(1)  水質基準については、最新の科学的知見に従い常に見直しが行われるべきであり、平成4年の生活環境審議会第2次答申(「今後の水道の質的向上のための方策について(第2次答申)―水道水質に関する基準のあり方―」)においても、次のとおり指摘している。

 『水道水質に関する科学技術の進歩には著しいものがあることから、今後とも幅広い知見の集積を恒常的に行い、基準見直しの検討を行うべきである。』

(2)  一方、世界保健機関(WHO)においても、飲料水水質ガイドラインの3訂版では、今後は"Rolling Revision"(逐次改正方式)によることとし、従来のような一定期間を経た上で改正作業に着手するという方式を改めるとしている。

(3)  我が国の水質基準においても、上記(1)のとおり、理念上は逐次改正方式によることとされているが、それが必ずしも有効に機能していない背景には、水質基準見直しのための検討開始要件が明確となっていなかったという面がある。

(4)  従って、今後は、検討開始要件を明確にしていく必要があり、これを実効あらしめるためには、例えば、関連分野の専門家からなる水質基準の見直しのための常設の専門家会議を設置することが有益である。

(5)  また、逐次改正方式の実効性を高めるとともに、水道水質管理の一層の充実を図るため、水道事業者等による水質検査に加え、国及び地方公共団体において水道水質管理行政を担当している部局による水質監視が重要である。

(6)  国及び地方公共団体による水質監視については、これまで都道府県が策定する「水道水質管理計画」に基づき実施されているが、同計画においては、第1に水道事業者等における水質検査体制の整備充実が上げられている。

(7)  しかしながら、その後10年が経過し、水道事業者等における水質検査体制の整備が進んできたと考えられる現在、国及び地方公共団体による水質監視は、次の点を主たる目的として実施すべきである。
(国による水質監視)
(1)  全国的な水道水質状況の把握
(2)  水質基準設定の要否の検討
(地方公共団体による水質監視)
(1)  水質基準設定の要否の検討
(2)  水道水源の状況の監視及びその結果に基づく水道事業者の指導
(3)  水質基準の遵守状況の確認

(8)  当然のことながら、これらの水質監視の実施に当たっては、環境担当部局、河川担当部局等関係部局との連携が必要であり、また、水道事業者等に協力を求めることが不可欠である。


4.水質基準設定に当たっての考え方

 (1) 微生物に係る基準

(1)  人に対して健康被害を与える可能性のある病原微生物は多様であるが、水道水を介して伝播するものは主に腸管系の病原微生物で、糞便による水の汚染が原因している。

(2)  このため、現行の水質基準では、糞便性汚染指標及び現存量指標(ひいては塩素消毒が適正に行われているか否かの判定指標)として、それぞれ「大腸菌群数」及び「一般細菌」が定められている。

(3)  これらの指標については、最新の知見に照らして見直しが行われるべきであり、本専門委員会においては、この機会に再評価を行うこととした。具体的には、
(1)  「大腸菌群数」に替えて直接的に糞便由来である「大腸菌」を水質基準とすることの是非
(2)  「一般細菌」の妥当性と従属栄養細菌HPC(Heterotrophic Plate Count)の追加、あるいはHPCへの転換の可能性
について検討を行うこととした。

(4)  また、クリプトスポリジウム(Cryptosporidium parvum)等の塩素耐性を持つ病原微生物による汚染、あるいは配管系や受水槽等でのレジオネラ(Legionella)を含む微生物の増殖(regrowth)の問題への対応が新たな課題となっており、これらへの対応が必要となっている。

(5)  このうち、クリプトスポリジウム等の塩素耐性を有する病原微生物については、現在、厚生労働省において暫定対策指針を策定し、水道事業者等の指導に当たっているが、ここでは、次の点について検討を行うこととした。
(3)  クリプトスポリジウム等に関し、暫定対策指針から一歩進めて水質基準を設定することの是非
(4)  病原微生物対策として消毒等の措置を規定している水道法第22条に基づく措置として、消毒に加え、塩素耐性微生物に係る措置(具体的には、これらの微生物の存在が疑われる場合における適正なろ過操作を行うべきこと)を加えることの是非

(6)  さらに、配管系における微生物の増殖対策として、
(5)  配管系における微生物の増殖(regrowth)の指標としてHPCの有用性
について検討を行うこととした。

 (2) 化学物質に係る基準

  (1) 化学物質に係る基準

(1)  化学物質に係る基準の設定に当たっては、その毒性を評価することが基本であるが、この点に関し、生活環境審議会水道部会水質管理専門委員会は、「水道水質に関する基準の見直しについて」(平成10年12月)において、次のとおり報告している。
(1)  検討対象項目について、人の暴露データや動物を用いた各種毒性試験(短期毒性試験、長期毒性試験、生殖・発生毒性試験、変異原性試験、発がん性試験等)等毒性情報を収集・整理し、毒性の評価を行う。評価に当たっては、暴露源(暴露経路)を考慮するものとする。
(2)  なお、化学物質は、発現した毒性により、ある暴露量以下では発現しないと考えられる毒性を有する物質、すなわち閾値があると考えられる毒性を有する物質と、どんなに微量であっても発現の可能性が否定できない毒性を有する物質、すなわち閾値がないと考えられる毒性を有する物質の2つに通常分類される。これらの検討対象項目について、閾値の有無を検討する。検討に当たっては、国際がん研究機関(IARC)の発がん性評価を基本とし、米国環境保護庁(USEPA)等その他の発がん性評価の結果も参考とする。

(2)  また、恕限値については、評価値の算出に関連し、次のとおり報告している。
(1)  閾値があると考えられる場合については、当該項目の有害性に関する各種の知見から原則として動物又は人に対して影響を起こさない最大の量(NOAEL(最大無毒性量))を求め、それに基づいて評価値を算出することとする。
(2)  毒性試験等に基づいて、ある用量以下では毒性が発現しないとみなされる場合は、動物試験あるいは疫学調査から得られるNOAELなどを不確実係数で割ることにより耐容1日摂取量(TDI)を求める。
(3)  不確実係数は種内差及び種間差に対して100を用い、さらに、短期の毒性試験を用いた場合、最小毒性量(LOAEL)を用いた場合、NOAELの根拠となった毒性が重篤な場合、毒性試験の質が不十分な場合等に対してそれぞれ最大10の不確実係数を追加することを基本とする。また、非遺伝子障害性の発がん性の場合、発がん性を考慮し、不確実係数10を追加することを基本とする。
(4)  飲料水の寄与率(TDIのうち飲料水が占める割合)については、食物、空気等他の暴露源からの寄与を考慮して定めるものとするが、これらが明らかでないものが多いことから、一般的には飲料水からの摂取量をTDIの10%と想定することとする。
(5)  遺伝子障害性物質による発がん性等閾値がないと考えられる場合については、飲料水を経由した当該項目の摂取による生涯を通じたリスク増分が10-5となるリスクレベルを評価値とすることを基本とする。外挿法としては、線形多段外挿法を基本とする。

(3)  現在の知見に照らしても、上記の考え方を変更する理由は見当たらず、本専門委員会においても、基本的にこの考え方を踏襲することが適当であると考える。

(4)  なお、内分泌かく乱化学物質については、哺乳類、特に人への低用量域での健康影響に関しては現在のところ評価は確定しておらず、今後の研究に待たなければならない。従って、現時点においては、内分泌かく乱作用に着目した水質基準の設定は見送ることが妥当と考えられる。しかしながら、将来の見直しのための準備の意味を込めて、水道水中の存在状況等につき監視等を行っていくことは必要であろう。

  (2) 暴露分析

(1)  化学物質に係る基準の設定に当たっては、水道水経由の暴露割合を的確に反映させた基準とする必要がある。

(2)  しかしながら、これらのデータを得ることは一般的に容易ではないことから、基本的には従来の考え方を踏襲することが適当であると考えることから、飲料水の寄与率(TDIのうち飲料水が占める割合)については、食物、空気等他の暴露源からの寄与を考慮して定めるものとするが、これらが明らかでない場合には、一般的には飲料水からの摂取量をTDIの10%と想定することとする。

  (3) 処理技術、検査技術の考慮

(1)  処理技術及び検査技術の考慮については、生活環境審議会水道部会水質管理専門委員会は、「水道水質に関する基準の見直しについて」(平成10年12月)において、次のとおり報告している。
(1)  基準値又は指針値は、水道として実用可能な分析技術によって定量可能なレベルである必要がある。定量可能なレベルでない場合には、水質としての基準化ではなく、必要な場合には、一定の技術的手法によりその確保を図る方法(定量下限を基準値又は指針値とすることを含む)等を検討する。
(2)  基準値は、水道において維持されることが必要であり、その達成のための処理等の技術について必要な検討がなされなければならない。

(2)  この点については、本専門委員会においても、基本的に踏襲するものであるが、水質基準は水道において維持されることが必要であるということに鑑み、基準設定の時点においては目標値を達成する処理技術が存在しない場合にあっては、BAT(Best Available Technology、利用可能な最善の技術)の考え方を取り入れ、既存の処理技術で得られる最小の値を基準値とすることを考慮すべきである。

  (4) 基準の設定

(1)  生活環境審議会水道部会水質専門委員会は、「水道水質に関する基準のあり方について」(平成4年12月)において、水質基準の設定に当たっての基本的考え方を次のとおり報告している。

 WHO等が飲料水の水質基準設定に当たって広く採用している方法を基本とし、1日に飲用する水の量としては2リットル、人の平均体重としては50kg(WHOでは60kgとしている。)を用い、食物、空気等他の暴露源からの寄与を考慮しつつ、生涯にわたる連続的な摂取をしても人の健康に影響が生じない水準を基とし安全性を十分考慮して評価を行った。さらに我が国における水道水源、給水栓水等からの検出状況を総合的に勘案の上、項目と基準値を設定したものである。したがって、このように健康影響が長期間摂取の結果として評価された項目については、万一、一時的に基準値をある程度超える状況があったにしても直ちに健康上の問題に結びつくものではないことに留意して基準の運用を行うべきである。

(2)  その上で、生活環境審議会水道部会水質管理専門委員会は、「水道水質に関する基準の見直しについて」(平成10年12月)において、基準項目及び監視項目の設定指針について次のとおり述べている。
ア.基準項目と監視項目
 ・ 検討対象項目に係る毒性情報や暴露評価から評価値(基準値等として設定されることが検討される値)を設定し、評価値の一定レベル以上の値を超えて検出されているものの中から用途、使用量、毒性に関する科学的知見等を総合的に判断して重要と考えられるものを基準項目とし、これらの事項が基準項目に準ずると判断されるものであって定期的にモニタリングする必要があると考えられるものを監視項目とする。
 ・ なお、上記の毒性情報に関しては、WHO飲料水水質ガイドライン等の国際的な評価や検討時点において入手可能な文献情報等を踏まえ検討する。また、検出状況に関しては、検出率及び検出濃度の双方を考慮する。具体的には、以下の考え方を基本として、データの検出状況、分布状況等を考慮し、これらを総合的に検討する。
イ.基準項目
 ・ 基準項目は、全ての水道にその定期的な測定・監視、測定値が超過した場合の対策の実施等管理を強制するものであるので基準値に近いレベルとなる蓋然性が高いものを選定することとし、具体的には以下を基本とする。
 ・ ただし、既存の基準項目については、以下に関わらずこれを維持する。
1) 調査結果の有効な最大値データが評価値の50%を超えていること。ただし、濃度分布等からみて特異値と考えられる場合は除く。
2) 上記を満たし、かつ評価値の10%を超えるものの検出率が数%のレベルであること。
ウ.監視項目
 ・ 監視項目は、今後の動向を把握するものであるので、評価値に近くなる可能性が乏しいと考えられるものを除き幅広く選定することとし、具体的には以下を基本とする。
 ・ ただし、既存の監視項目については、上記の基準項目の考え方に該当する場合を除き、設定後まだ数年を経たにすぎず今後のデータの蓄積が重要であることに鑑み、以下に関わらず当面これを維持する。
1) 調査結果の有効な最大値データが評価値の50%を超えていること。ただし、濃度分布等からみて特異値と考えられる場合は除く。
2) 上記を満たし、かつ評価値の10%を超えるものの検出率が数%のレベルであること。
 ・ なお、評価値が暫定的なものについては、原則として監視項目とし、さらに、指針値の表記の際には指針値が暫定的なものであることを明示することが適当である。これに伴い、監視項目は性格的に次の2つに分けられる。
1) 指針値は確定しているが指針値に比べ現在の検出状況が低いレベルにあることから、現状では基準項目とする必要がないもの
2) 水道水から監視することが適当と認められるレベルで検出されていることから、指針値は暫定的なものであるが、監視項目として位置づけられているもの
(3)  しかしながら、水道水の安全性確保の観点から、本専門委員会においては、上記2の(5)のとおり、全国的にみれば問題とはならないものの、地域的な状況等により重大な問題を生ずるおそれのある項目については、水質基準を設定すべきことを提言したところであり、上記の判断基準に従えば監視項目に分類されるものについても水質基準を設定することとすべきである。

(4)  なお、農薬については、対象とする病害虫等に応じ散布される地域、また、病害虫等の発生時期に応じ散布される時期が限定されるなど、その他の化学物質に比較して使用形態が独特であり、水質検査において検出されないことが多い。しかしながら、水道水中の農薬については国民の関心が高く、その特性を十分考慮した上で水質基準の設定等の検討が必要である。

(5)  要すれば、次のとおり考えるべきである。

[個別項目の検討結果を踏まえて記述]

 (3) 性状に係る基準

(1)  性状に係る基準について、生活環境審議会水道部会水質専門委員会は、「水道水質に関する基準のあり方について」(平成4年12月)の中で、次のとおり報告している。

色、濁り、においなど生活利用上あるいは腐食性など施設管理上障害の生ずるおそれのある項目については、障害を生ずる濃度レベルを元に評価を行い、水道水の性状として基本的に必要とされる項目を選定し、基準値を設定した。

(2)  本専門委員会としても、基本的にはその考え方は踏襲すべきものであり、色、濁り、においなど生活利用上障害の生ずるおそれのある項目については、障害を生ずる濃度レベルを元に評価を行い、水道水の性状として基本的に必要とされる項目を選定し、基準値を設定すべきであると考える。


5.水質検査

 (1) 水質検査方法

(1)  法令で検査を義務付ける場合、いわゆる公定検査法を定めることが通例である。これは、検査方法によっては、同一の試料を検査してもその結果が異なることがあること、また、許容値等を定める関係上少なくとも当該許容値等を測定し得るものでなければならないからである。水質基準に係る検査方法においても例外ではない。

(2)  一方、水質検査技術の進歩は格段のものがあり、これらの技術革新を適切にとりいれていくことも必要である。また、水質試料については、地域や原水の種類・質、さらには浄水方法により、混在物質(検査妨害物質)の種類・量もさまざまである。このため、水質検査方法については、上記(1)の要件を満足しつつ、より柔軟な検査が可能となるよう配慮すべきである。

(3)  以上の諸点に留意しつつ、本専門委員会においては、公定検査法とされることを念頭におき、次のような原則に基づき水質検査法の検討を行った。
(1)  水質基準項目(物質)を確度よく測定できる方法であること
(2)  定量下限として基準値の1/10の値が得られる方法であること
(3)  精度の高い方法であること
(4)  ベンゼンなどの有害物質を極力使用しない方法であること
(5)  上記の条件を満たす方法が複数ある場合には、可能な限り多くの方法を提示すること
(6)  自動検査法が採用できる場合にあっては、積極的にこれを採用すること
(7)  検査方法の記述に当たっては、上記(1)〜(4)の要件を確保するための必要最低限の要素(装置、操作、試料・試薬の種類・量など)を記述するに止め、(1)〜(4)の要件の確保には影響しないと考えられる要素については簡略化し、検査者の工夫の余地を残すこと

(4)  なお、水質検査技術の革新に柔軟に対応できるようにするため、上記公定検査法と同等以上の方法と認められる検査方法については、これを積極的に公定検査法と認める柔軟なシステムを工夫することが必要である。

 (2) 水質検査の品質保証(QA/QC)

(1)  水質検査における品質保証(Quality Assurance/Quality Control, QA/QC)の重要性については、論を待たず、これまでも種々の通知等によりその徹底が指導されてきたところである。

(2)  特に、水道法改正による管理委託制度の導入やいわゆる20条機関の登録制度化により、民間事業者による水質検査への参入が大幅に増加することが見込まれることを考慮すれば、今後、水質検査分野におけるQA/QCの重要性は益々高まってくるものと考えられる。

(3)  既に、食品衛生の分野においては、その検査において優良試験所基準(Good Laboratory Practice, GLP)制度が導入されており、環境測定の分野においても、ISO17025(JIS Q17025)が制定され、GLP制度が導入されている。

(4)  水道水質の検査の分野においても、厚生労働省が実施している20条機関を対象とした精度管理調査の結果をみれば、水質検査の品質を保証するためには、GLP制度の導入が不可欠であると考えられる。

(5)  このような状況を踏まえれば、20条機関に対してGLP制度を適用させることが適当であり、水道事業者及び地方公共団体の水質検査施設についても、これに準じて水質検査の品質を確保するよう努力していくことが必要である。

(6)  また、標準試料を用いた統一精度管理調査の実施により、検査施設間における水質検査技術の格差是正、向上に努めていくべきである。

 (3) 水質検査のためのサンプリング/評価基準

(1)  水質基準は、(1)水道により供給される水(基本的に給水栓を出る水)が満たすべき水質上の要件であり、(2)水道により供給される水すべてについて満たされる必要がある。

(2)  しかしながら、すべての給水栓で水質検査を行うことは実際上不可能であり、現実的でないことから、合理的な範囲で地点を限定し、水質検査を行うことになる。

(3)  従って、水質基準の確認のための水質検査に当たっては、どのように採水地点を選定し、また、どのような頻度で検査を行うか(サンプリング)、そして、その検査結果をどのように評価するか、が極めて重要となる。

(4)  この場合において、水道における汚染物質の挙動に十分留意する必要がある。
(例1)汚染物質に応じた地点選定
 (1)  消毒副生成物については、配水池から給水栓に近くなるほどその濃度が高くなる傾向がある。
 (2)  鉛などについては、給配水管からの溶出が主たる汚染源となっている。
 (3)  トリクロロエチレンなどの有機塩素化合物については、基本的に浄水過程以降、その濃度が上昇することはない。
(例2)汚染物質に応じた採水時期選定
 (4)  農薬は、その病害虫等の発生時期に応じ、散布される時期が限定されており、基本的に散布時期以外に検出されることは希である。
(例3)汚染物質に応じた採水方法
 (5)  鉛など給配水管からの溶出が主たる汚染源となる物質については、滞留水を測定する場合と流水を測定する場合でその結果が大きく異なる。
(5)  本専門委員会においては、上記(4)のような例を踏まえつつ、また、WHOや諸外国の例を参照しつつ、上記(1)の(1)及び(2)の要件を判断するためのサンプリング及び検査結果の評価はいかにあるべきか、について検討を行うこととした。具体的には、
(1)  どのような地点で採水すべきか(例えば、配水池、配水管、給水栓など)、また、どの程度の地点数が必要か(例えば、給水人口10万人当たり給水栓(1)地点など)
(2)  どの程度の頻度で採水すべきか(例えば、月1回、年4回、年1回など)
(3)  その結果得られた検査結果をどう評価すべきか
などについて検討を行うこととした。

 (4) 水質検査計画

(1)  水質検査は、水質基準の適合状況を把握するために不可欠であり、水道水質管理の中核をなすものであるが、一方で、その実施に当たっては、水道事業者等に対し大きな負担を強いるものである。
(2)  このため、水質検査は、「水質基準の適合状況を確実に把握できること」との前提に立ちつつも、効率的・合理的なあり方が求められており、生活環境審議会水道部会水質管理専門委員会においても検討が進められ、「今後の水道水質管理のあり方について」(平成12年3月)の中で、「水質検査計画」の制度を中心に据えた姿を提示している。
(水道事業者の役割)
(1)  水質基準項目等の増加に対して、より効率的・合理的な水道水質管理を行うために、従来の全国一律的な水質管理ではなく、水源種別、過去の水質検査結果、水源周辺の状況等について総合的に検討し、自らの判断により水質検査等の内容を計画として定め(以下、「水質検査計画」という)、これを精度管理に配慮して自ら又は厚生大臣の指定する者(以下「指定検査機関」(注)という。)への委託により実施し、その結果を評価・公表する。
(2)  監視項目等については、自ら安全な水を供給する上で必要と判断したものについて水質検査計画に位置づけ、検査を実施する。また、都道府県に協力し、水道水質管理計画に基づき当該流域における必要な水質監視の一部を担う。
(3)  なお、指定検査機関については、水道事業者や都道府県と協力の上精度管理を適正に行い、正確で迅速な分析結果の提出を通じて、地域の水質管理のために積極的な役割を果たすことが期待される。
(注)  本専門委員会報告がなされた後、いわゆる20条機関については、指定精度から登録制度に移行することとされた点に注意する必要がある。

(3)  本専門委員会においても、水質検査の効率的・合理的な実施のために上記水質検査計画の考え方は基本的に有効と考えるものであり、同報告を現在の状況を踏まえて見直した上で、これを制度化することが適当であると考える。


6.簡易専用水道における水質管理

(1)  水道事業者等から水道の供給を受ける簡易専用水道等については、管理の不徹底から水質面での問題が生ずることがあり、その管理の充実を図ることが重要である。

(2)  このため、水の供給者である水道事業者が、供給規程に基づき簡易専用水道等の設置者に適正な管理の履行を求めるなど、適切に関与していくことで管理の徹底が図られるよう、平成13年に水道法が改正されたところである。

(3)  一方で、規制改革の流れの中、簡易専用水道の管理についての指定検査機関(いわゆる34条機関)の行う検査については、登録機関による実施とすることとされた。

(4)  このような状況を踏まえ、本専門委員会では、簡易専用水道の管理のあり方、簡易専用水道における34条機関の役割・あり方、さらには、34条機関に係る登録基準及び登録検査のあり方について検討することとした。


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