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第3号被保険者制度について(論点例)

1 第3号被保険者制度の創設等(昭和60年改正)

(1) 昭和60年改正前の年金制度の問題点

 ○ 昭和60年改正前の厚生年金制度は、家計の主たる生計維持者の長期間就労を前提として、家計の主たる生計維持者への年金で夫婦二人の老後生活をカバーするという考え方で設計。したがって、長期間就労した被用者に対する年金給付が、夫婦世帯をカバーする水準に設定。また、被用者世帯の専業主婦は、年金制度の強制加入対象とせず、自営業者等を対象とする国民年金に任意加入できる制度となっていた。

 ○ このような制度について、以下のような問題点が指摘されていた。
 共働き世帯や国民年金に任意加入した妻がいる世帯では、世帯として見た場合に過剰給付となる場合がある
 被用者世帯の専業主婦が国民年金に任意加入していない場合、離婚したときや障害を負ったときに、年金保障が受けられない

(2) 昭和60年改正ー女性の年金権の確立、世帯類型に応じた給付水準の分化

 ○ こうした問題を解決するため、昭和60年改正では、自営業者等を対象としていた国民年金を全被用者世帯に適用拡大した基礎年金制度を導入。生活の基礎的な部分に対応する年金給付については、基礎年金として個人を単位として給付するとともに、以下のような形で第3号被保険者制度を創設。(参考資料1)
 自営業者等、従来の国民年金の適用対象を第1号被保険者、被用者年金の被保険者を第2号被保険者とするとともに、被用者(第2号被保険者)の被扶養配偶者も、第3号被保険者として国民年金の強制適用対象とする
 片働き世帯の老齢年金は従来の水準を維持しつつ、「夫と妻それぞれの基礎年金+被用者の報酬比例年金」とする
 通常は所得のない第3号被保険者に係る費用負担については、独自の負担を求めることとせず、被用者年金の被保険者全体の保険料拠出により賄う

 ○ こうした基礎年金制度や第3号被保険者制度の導入は、基礎年金部分について専業主婦も含めた女性の年金権を確立するとともに、共働き世帯の増加等に対応し世帯類型に応じた給付水準の分化を図り、ライフスタイルの多様化に制度的にも一部対応したもの。
 ○ 現行制度では、給付と負担の関係について、片働きか共働きかにかかわらず、夫婦世帯で標準報酬が同じであれば、保険料負担は同額で、老齢年金給付も同額となるようになっている。

2 第3号被保険者制度の廃止又は見直しを求める様々な意見

 ○ 第3号被保険者は、本人自身が保険料を納付することなく年金(基礎年金)が保障されているが、昭和60年改正による制度創設後における女性の就労の進展等、経済社会情勢の多様な変化の中で、第3号被保険者制度の廃止又は見直しを求める意見が、近年強くなってきている。

1) 片働き世帯を優遇する制度。また、短時間労働者の就業調整の原因となっている(参考資料2)
 第3号被保険者を抱える片働き世帯を優遇する制度であり、共働き世帯や単身世帯と比べて、老齢年金や遺族年金について給付と負担の関係が不公平となっているほか、短時間労働者が第3号被保険者に留まろうとして就業調整を行う原因となり、女性の就労や能力発揮の障害となっている。

2) 第3号被保険者にも保険料負担能力はある
 第3号被保険者の中には、短時間労働により賃金を得ている者もおり、また、所得のない者であっても、夫婦は婚姻費用を分担して負担する義務があること等を考えると、配偶者が第2号被保険者で賃金を有しているのだから、第3号被保険者にも保険料負担能力はある。また、家事労働による帰属所得を考慮することによっても、保険料負担能力があると考えることはできる。

3) 第2号被保険者の被扶養配偶者を第2号被保険者全体で支えることは社会的に受容されない
 第3号被保険者は世帯を維持し得る賃金を一人で獲得できる第2号被保険者により扶養される者であり、所得のない者ととらえる必要はない。このような第3号被保険者は減少傾向にあり、また、夫の賃金が高くなると専業主婦世帯の割合が高まるという実態がある中で、第3号被保険者を第2号被保険者全体で支えることは社会的に受容されない。

4) 第1号被保険者である自営業者の妻や母子家庭の母と比べて不公平である
 第1号被保険者である自営業者の妻や母子家庭の母は、個別に保険料を納めなければ給付が受けられず、保険料免除を受けても給付は減額されるのに対し、第3号被保険者のみ保険料を払わなくてよいのは不公平である。

5) 育児・介護等の事情のない者は自ら働かないことを選択している者
 育児・介護等を行っている者はともかくとして、そうした事情のない者は、自ら働かないことを選択しているにもかかわらず、保険料を納付する者と同じ基礎年金給付が保障されるのは不公平である。

6) 第3号被保険者が自ら保険料を納めないことで、年金制度への関心が薄れがちとなり、夫の転職や退職等により年金制度上の地位が変更された場合の手続漏れ等も生じている

3 諸外国における配偶者の取扱い

 ○ 被保険者の保険料納付に基づいて、その配偶者に対して年金給付が保障されるという仕組みは、我が国のほか、アメリカやイギリスにおいても見られる。なお、諸外国の社会実態や年金制度の仕組みには我が国と異なるものがあり、配偶者の取扱いについての単純な比較はできないことに留意が必要である。(参考資料3)

  •  アメリカ及びイギリスにおける年金制度では、所得が一定の水準未満の者は強制加入の対象となっていないが、被保険者の配偶者に対する年金保障の仕組みは、保険料を自ら納めている配偶者であっても適用される。この場合、自分自身の保険料納付に基づく年金と配偶者給付との間では、一定の併給調整が行われる。

  •  フランスでは、老齢年金及び障害年金を受給できない配偶者を扶養している者に対して、一定の場合に被保険者の年金に加給金が加算される。

  •  また、ドイツやスウェーデンでは、所得が一定の水準未満の者は強制加入の対象となっておらず、被保険者の保険料納付に基づいてその配偶者に対して年金給付が保障されるという仕組みはとられていない(スウェーデンでは、低所得又は無所得であり、自身の年金額が低い又はない者には、保障年金が支給される。)。

4 第3号被保険者に係る保険料負担を求める考え方(女性と年金検討会における整理)

 ○ 女性と年金検討会では、全国民共通の給付としての基礎年金制度を前提として第3号被保険者に係る保険料負担の在り方について議論が行われ、保険料負担を求める考え方(負担能力に応じた負担又は受益に着目した負担)、保険料負担を求める主体(被扶養配偶者に求める又は被扶養配偶者の配偶者に求める)、具体的な負担の方法(定額負担、定率負担)等の点から、典型化した見直し案を整理。

  •  まず、第3号被保険者に係る保険料負担を、従来どおり第2号被保険者全体で負担能力に応じて求めるか、あるいは第3号被保険者を抱える片働き世帯グループの中で第3号被保険者に対する基礎年金という受益に着目した負担を求めるかという点から、考え方が整理できる。

  •  前者の場合、被扶養配偶者に保険料負担を求めつつ応能負担の考え方を貫くため、潜在的な持分権という考え方を第2号被保険者(以下、便宜上「夫」と記す。)の賃金全体に及ぼすことで、夫の賃金を分割して第3号被保険者(以下、便宜上「妻」と記す。)の賃金を想定するという考え方がある。

  •  受益に着目した保険料負担を求めるという考え方に立つ場合、妻自身に保険料負担を求める考え方と、夫を通じて保険料負担を求める考え方があり得る。通常、被扶養配偶者には所得がないことから、妻自身に保険料負担を求める場合は定額負担とならざるを得ないが、夫を通じて保険料負担を求める場合には、定額負担(第3号被保険者を抱えるグループの中でも受益に着目した負担)と所得に応じた定率負担(第3号被保険者を抱えるグループの中では負担能力に応じた負担)の2つの考え方がある。

 ○ また、夫の賃金が高くなると専業主婦世帯の割合が高まることに着目して、高賃金者である夫に対して標準報酬上限を引き上げて保険料の追加負担を求め、応能負担を基本とした体型の下でその考え方を徹底することにより実質的な公平を図る案や、第3号被保険者としての扱いを受ける者を育児や介護の期間中の被扶養配偶者に限定するという案も提案された。(参考資料4−1〜4−6)

第3号被保険者に係る保険料負担の考え方
現行 【第3号被保険者に係る保険料負担を負担能力に応じて負担―夫―定率負担】
 通常は所得のない第3号被保険者に独自の保険料負担を求めることとせず、第3号被保険者に係る拠出金負担は、夫の加入する被用者年金制度全体で定率負担するもの。
第I案 【第3号被保険者に係る保険料負担を負担能力に応じて負担―妻―定率負担】
 潜在的な持分権の具体化による賃金分割を行った上で、妻自身にも分割された賃金に対して定率の保険料負担を求めるという仕組み。
 個人で負担し個人で給付を受けるという考え方を、応能負担の仕組みを維持しながら貫くことができ、片働き、共働きを通じて、夫と妻それぞれに給付と負担の連動が明確となる。また、報酬比例部分も含め、離婚した場合の年金給付のあり方が明確となる。
第II案 【第3号被保険者に係る保険料負担を受益に着目して負担―妻―定額負担】
 第2号被保険者の定率保険料は第3号被保険者の基礎年金に係る拠出金負担分を除いて設定し、それとは別に、第3号被保険者たる妻自身に、第1号被保険者と同額(現在13,300円)の保険料負担を求めるという仕組み。
 第3号被保険者も含めて個々人全員が受益に着目した負担という考え方から保険料負担を行うことにより、第3号被保険者に係る保険料負担についての不公平感を解消できる。
第III案 【第3号被保険者に係る保険料負担を受益に着目して負担―夫―定額負担】
 第2号被保険者の定率保険料は第3号被保険者の基礎年金に係る拠出金負担分を除いて設定し、第3号被保険者のいる世帯の夫には、それに第1号被保険者の保険料と同額(13,300円)を加算した保険料負担を求めるという仕組み。
 所得のある者から保険料負担を求めるという考え方を貫きつつ、受益に着目した負担という考え方を導入することにより、第3号被保険者に係る保険料負担についての不公平感を解消できる。
第IV案 【第3号被保険者に係る保険料負担を受益に着目して負担―夫―定率負担】
 まず第2号被保険者の定率保険料を第3号被保険者の基礎年金に係る拠出金負担分を除いて設定し、第3号被保険者のいる世帯の夫には、それに第3号被保険者に係る拠出金負担に要する費用を第3号被保険者のいる世帯の夫の賃金総額で割った率を加算した保険料負担を求めるという仕組み。
 被用者の保険料負担に係る応能負担の考え方を貫きつつ、第3号被保険者について世帯単位での受益に着目した負担という考え方を導入することにより、第3号被保険者に係る保険料負担についての不公平感を解消できる。
第V案 【第3号被保険者に係る保険料負担をより徹底した形で負担能力に応じて負担―夫―定率負担】
 夫の賃金が高くなると専業主婦世帯の割合が高まることに着目し、高賃金者について、標準報酬上限を引き上げて、保険料の追加負担を求めるという仕組み。
 片働き世帯が相対的に高賃金であることに着目して、高賃金者の保険料負担を引き上げることにより、実質的に第3号被保険者に係る保険料負担についての不公平感を縮減できる。
第VI案 第3号被保険者を、育児・介護期間中の被扶養配偶者に限るという仕組み(その余の期間については、他案のいずれかの方法で保険料負担を求める。)。
 第3号被保険者としてのメリットを受けられる期間を育児等の活動を行っている期間に限定することにより、第3号被保険者に係る保険料負担についての不公平感を縮減できる。

5 女性と年金検討会における典型化した見直し案に係る主な論点

 1) 潜在的な持分権に関する論点等 (第I案関係)
 第I案については、年金制度を個人単位化しつつ、負担能力に応じた負担という考え方を貫徹させようという点では評価できるが、潜在的な持分権の具体化による賃金分割という手法が、我が国の税制、労働法制等の社会制度に組み込まれていない中で、現段階で年金制度のみがこの考え方を政策として採用できるかどうか。
 また、第3号被保険者本人に保険料負担を求めないにもかかわらず、基礎年金に加えて報酬比例年金(第2号被保険者と折半)も給付することになるが、これについてどう考えるか。当面、男女間の相当の賃金格差が続くとすると、被扶養配偶者である女性の年金額が、就労している第2号被保険者の女性の年金額よりも高く評価される場合があるが、これについてどう考えるか。
 また、第2号被保険者−第2号被保険者の夫婦や、第2号被保険者−第1号被保険者の夫婦については、賃金分割を行うこととするのかどうか。

 2) 事業主負担に関する論点 (第I案、第II案、第III案、第IV案関係)
 現在、第3号被保険者に係る保険料負担の半分(第3号被保険者に係る基礎年金の拠出金負担に相当する分で計算すると、平成12年度で0.89兆円。)は、実質的には事業主の負担により賄われているが、第I案から第IV案については、これについて引き続き事業主に負担を求めることができるか。また、仮に求められない場合これに代わる財源をどこに求めるのか。

 3) 第3号被保険者に係る保険料負担を受益に着目して負担するという考え方に関する論点 (第II案、第III案、第IV案関係)
 第II案、第III案及び第IV案に共通する論点として、第3号被保険者に係る保険料負担について受益に着目して負担するという考え方を導入することの妥当性については、

  •  基礎年金の費用負担に関して、現行制度では、第2号被保険者及び第3号被保険者に係る拠出金負担について、保険料を報酬比例で負担する被用者年金制度全体で負担することで、自らの保険料負担のない第3号被保険者のみならず、賃金が低く保険料負担の低い第2号被保険者の保険料負担も軽減されている。このような中で、第3号被保険者だけに受益に着目した負担という考え方を適用することが整合的であるかどうか、また妥当であるか、(参考資料5)

  •  諸外国の年金制度においても、応能負担の考え方を基本として、通常は所得がない者は年金制度の適用外となっている中で、諸外国と異なり全国民共通の基礎年金の枠組みをとる我が国において、通常は所得のない者に対して受益に着目した負担の考え方をとり入れることが妥当であるかどうか、 等の論点もあり、応能負担と応益負担に関する制度体系の基本の選択に関わる問題として、なお綿密な議論が必要。

 また、負担のすべてを受益に着目した負担とするのではなく、被用者グループについて、応能負担(定率保険料)と応益負担(定額保険料)を組み合わせる(=一部を受益に着目した負担とする)考え方について、どう考えるか。(国民健康保険では、応能割と応益割が組み合わされている。)

 4) 定額保険料に関する論点 (第II案、第III案関係)
 第II案及び第III案については、現在、やむを得ず第1号被保険者に対してとられている定額保険料の仕組みを、さらに第3号被保険者にも及ぼすこととなり、保険料負担の逆進性の問題を一層拡大させることについてどう考えるか。
 また、この考え方を突き詰めていくと、基礎年金については、第3号被保険者のみならず、第2号被保険者も含めた全被保険者から定額保険料を徴収することとなるのではないか。(この場合、第2号被保険者については、2階部分について別途、定率保険料を徴収する。)

 5) 雇用行動に対する影響等に関する論点(第III案、第IV案関係)
 第III案及び第IV案については、応能負担の考え方をとる現行制度体系の中で、第3号被保険者に係る世帯単位での受益に着目した負担という考え方をとり入れるという工夫がなされたものであるが、片働き世帯の夫(妻)に課される保険料率が共働き世帯の夫と妻に課されるものよりも高くなることについて、事業主の理解が得られるか。また、雇用行動に何らかの影響を及ぼす可能性はないか。

 6) 共有すべきリスクの分化に関する論点(第III案、第IV案関係)
 第III案及び第IV案については、「所得のない第3号被保険者に係る保険料負担について、被用者の間で共有すべきリスクととらえる社会連帯が崩れており、第3号被保険者に係る保険料負担は、第3号被保険者を抱える被用者の間で負担するのが妥当。」という考え方を背景としている。
 これについては、被用者間でのリスクの違いには、第3号被保険者の有無だけでなく、例えば性別の違いや子供の有無のように様々なものがある中で、社会保険制度の下で国民が共有すべき社会的なリスクをどう考えるかという点も考慮しながら、十分に議論を重ねていくことが必要である。

 7) 第V案に関する論点
 第V案については、部分的な解決策にとどまるのではないか。また、賃金の高い者により多くの負担を求める手法が今日の税制や社会保障制度における所得再分配施策の流れの中でどのように位置付けられるのか。

 8) 第VI案に関する論点
 第VI案については、育児等により就労できない者について、被用者間で連帯して年金給付を保障する考え方であるが、この期間中にある者以外の被扶養配偶者の扱いについてどう考えるか。育児等の期間以外の期間について保険料負担を求める場合には、他のどの案の考え方をとるか。或いは、保険料負担を求めず、育児等の期間以外の期間について年金給付面で調整するという考え方は考えうるか。
 また、そもそも育児・介護期間中にある者に対して年金制度上の特別な配慮をとることが妥当かどうか。

 9) 保険料の特別徴収に関する論点 (第I案、第II案関係)
 第I案及び第II案については、雇用関係のない妻自身に賦課される保険料の特別徴収(いわゆる天引き)が可能かどうか。仮に特別徴収ができなければ未納の増加を招くおそれはないか。

 10) 医療保険に関する論点 (すべての案に関係)
 すべての案について、医療保険も同様に見直し、被扶養配偶者の受益に着目した保険料負担を求めることとするのかどうか。


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