検討会、研究会等  審議会議事録  報道発表資料  トピックス  厚生労働省ホームページ

下記データをPDFファイルでもご覧頂けます。PDF:55KB

平成14年9月13日(金)
<照会先>
政策統括官付社会保障担当参事官室
電話 : 03(5253)1111
   政策企画官 伊原(内線7705)
   室長補佐   石川(内線7706)


「子どもを育てたい、育てて良かったと思える社会をつくる」

〜いのちを愛おしむ社会へ〜


(中間とりまとめ)









平成14年9月



少子化社会を考える懇談会




序 なぜいま「少子化社会を考える」のか

(いのちあるものと共に生きる喜び)
 20世紀は、物の豊かさや技術進歩による便利さに幸せを感じる世紀でした。そして、夫が外で働き妻が家事と育児を担うという役割分担が一般的な時代でもありました。ところが最近は、そうしたことよりも、好きな人と一緒に過ごすことに幸せを感じるという人が、多くなってきたように思われます。技術文明の成熟は、かえって「いのちあるものと共に生きる」ことを、最大の価値と感じさせるようになったのです。21世紀は「いのちの世紀」と言うことができ、歴史の大きな転換期にあるといってよいのではないでしょうか。
 現代は先行き不透明な時代であるといわれます。お金だけでは安心が得られない時代には、生まれ育つ「いのち」とともに生きることが、何ものにも代え難い喜びであり、子どもがいることによってはじめて得られる励ましや元気が、大きな心の支えにつながるのではないでしょうか。
 「いのち」の中でも、子どもはいわば「未来からの預かりもの」です。こうした特別ないのちだからこそ、社会みんなで愛おしんでいく必要があると思われます。

(夫婦出生力の低下という新たな現象)
 今回、改めて「少子化社会を考える」きっかけとなったのは、平成14年1月に国立社会保障・人口問題研究所が出した新しい人口推計で、「夫婦の出生力の低下」という現象が見られるようになったことです。
 これまでの出生率の低下は、もっぱら、結婚年齢が遅くなったり(晩婚化)、結婚しない人が増えていること(未婚化)が要因であるとされてきました。晩婚化・未婚化という現象は変わっておらず、引き続きこの点への注目が必要です。
 ところが、最近の調査で、1960年代前半生まれ以降の結婚した女性が産む子どもの数が少なくなっているという新しい現象が見られます。このため、今回の新しい人口推計では、将来の少子化が一層進むという予測となりました。今回の検討では、とくにこの点に焦点を当てています。

(これまでの少子化対策の評価)
 近年の我が国の合計特殊出生率の急速な低下で、平成2年には「1.57ショック」という言葉を生んで以来、少子化は社会問題として認識されるようになりました。政府においても「エンゼルプラン」(平成6年)、「少子化対策推進基本方針」及び「新エンゼルプラン」(平成11年)などにより、少子化対策が推進されてきています。
 これまで、「産む産まないは個人の自由」であることを前提としながら、もっぱら子育ての肉体的・精神的・経済的負担を軽減することで、産みたい人が産めるようにする環境整備を進めるという対策がとられてきました。とくに、働く女性を念頭において、保育サービスの充実をはじめとする、子育てと仕事の両立支援を中心に対策を進めてきました。
 その結果、少子化対策を進めることの必要性が一般に認識されるようになり、施策のメニューもひと通りそろって、分野別にそれなりの成果を上げてきたとは言って良いでしょう。しかし、依然として、出生率の低下という現象は続いています。
 施策分野や地域によって施策の効果が異なっていたり、制度はあるが十分普及していないという問題点もあり、いままでの施策で何が足りなかったかの評価が、今こそ必要です。

(今回のアプローチ)
 これまでの対策がそれなりの成果をあげてきたとしても、少子化社会への対応を一層進めていくためには、保育などこれまで行ってきた対策に加えて、男性を含めた働き方の見直し、地域における子育て支援、社会保障における次世代支援、若い世代の自立支援など、比較的力を入れてこなかった分野にも重点を置いていくことによって、「必要な対策」を「必要かつ十分な対策」にしていく必要があります。
 本懇談会では、こうした観点から、今後の少子化社会への対応を進めていく上での「4つのアピール」と「10のアクション」を示しています。また、この際、それぞれの対策同士が有機的につながって総合的な対策になるようにするとともに、一層国民各層の皆さんに知られ、取り組みが広がっていくことが求められます。
 個々人と社会の両方にこうした対策の必要性を理解してもらうためには、単に子育て負担の軽減を図るというアプローチだけでは限界があります。魅力的な生き方の一つとして家庭を持って子育てをするという生き方が自然にできるような「望ましい社会像」を提示し、そうした社会を目指して対策を講じていくというアプローチが求められているのではないでしょうか。少子化社会への対応の目的は、単に子どもを増やすことにあるのみならず、あるべき経済社会の在り方をさぐり、未来への展望を拓くことにあるのですから。


1 どのような社会を目指すのか

(多様な生き方が可能になる社会)
 これまでの企業社会の典型的な働き方は、特に男性に対し家庭や地域社会での役割などよりも仕事を優先することを求め、そうでなければ仕事をやめるしかないという「単線型社会」だったといってよいのではないでしょうか。
 一方で、人々の意識や価値観が多様になり、「仕事も家庭も」といった考え方や、自己啓発や地域社会での役割を大事にしたいという考え方もあり、またその考える内容も多様化しています。こうした中で、「多様な価値の選択に基づく生き方が可能になる社会」になることが求められるに至っています。そして、多様な価値の選択に基づき、新たな挑戦ができることが、個人の個性や能力を十分に発揮させることになり、経済や企業の活力をも生み出すという考えに立つ必要があります。

(子どもを育てたい、育てて良かったと思える社会)
 こうした「多様な生き方が可能になる社会」とは、少子化社会との関連で言えば、家庭を持って子育てをするという生き方が無理なく選択できる社会です。子育ての努力が報われると感じられれば、子育てをするという選択が可能になります。社会心理学では、「希望は、努力が報われるという見通しがあるときに生じる」と言われます。「子どもを育てたい、育てて良かったと思える社会」は、希望の持てる社会といってよいのです。

(子育てという選択をする生き方が不利にならない社会)
 「子どもを育てたい、育てて良かったと思える社会」のための条件は、「子育てをする生き方が不利にならない社会」です。ここで不利とは、経済的な観点だけを言っているのではありません。家庭を持って子育てする際に、自分のやりたいことを全く犠牲にしなければならなかったり、子育てそのものや、子育てと仕事の両立について、肉体的・精神的に著しく大きな負担を自分だけで背負い込まなければならなかったり、生活水準を大きく下げなければならないようであれば、子育てをするという生き方を無理なく選択できるとは言えません。

(子どもや若い世代の成長と自立を支援する社会)
 愛する者と子どものいる暮らしは、喜びが大きいものですが、苦労も伴うものです。こうした選択をするためには、人生に前向きな自分の生き方の選択の1つとして、愛する者とともに子育てをするという生き方に「挑戦」できるように、精神的にも経済的にも自立した人間になることが求められます。そのためには、子どものころから、「いのち」の大切さにふれ、生きる力を持った自立した人間になれるよう社会が支援することも必要です。
 また、子育ては、若い世代が積極的に社会に参加していくということであり、人を育てることで親も成長していくのだということも、見逃すことはできません。
 このような意味で、「子どもを育てたい、育てて良かったと思える社会」の前提は、「若い世代が成長し、自立することを支援する社会」です。

(子どもも大人も生き生きと暮らせる、活力ある社会)
 このように「子どもを育てたい、育てて良かったと思える社会」をつくりあげることで、結果として、子どもの歓声が聞こえる「活力ある社会」になることが期待されます。子どもは「未来からの預かりもの」です。「児童福祉法要綱案」(昭和22年)において「子どもは歴史の希望」とうたっているように、子どもは次の時代に希望と活力を与えます。いま、「いのちの世紀」である21世紀が始まるに当たり、子どもにより希望と活力を与えられる社会をつくりあげようではありませんか。
 こうした希望と活力のある社会はまた、「子ども自身も大人もお年寄りも生き生きと暮らせる社会」でもあります。「子どもがいる風景」がふつうである社会では、子どもが親や社会の都合に合わせて生きるのではなく、子どもが自分のリズムで生きられるようになり、大人もお年寄りも無理なくのびのびと暮らせる社会になるのです。


2 少子化社会への対応:4つのアピールと10のアクション

(アピール1)男性を含めた働き方を見直し、「仕事時間と生活時間のバランス」のとれる働き方を実現する

 人々の意識や価値観が多様になり、仕事も生活も大事にしたいという考え方を持つ人が、若い世代だけでなく壮年層でも、また男性の間にも増えてきています。一方、これまでの働き方は、家庭や自分の生活よりも仕事を優先することを求められることが多かったことが、少子化の背景にあると考えられます。
 このような仕事と生活に関する考え方の変化に応じて、仕事と家庭生活の両立を女性や育児期だけの問題と考えるのではなく、男性や独身者を含めた全ての人の働き方を見直し、個々人の価値観に応じて働き方を選べるようにし、仕事時間と生活時間のバランスがとれる多様な働き方を実現できるようにすることが求められています。とりわけ、子育て期には、子育てと仕事が両立できるようにすることが必要です。こうした働き方ができるようになることで、独身者は自分の時間を活用して人間関係を広げ、将来のパートナーと出会う条件を整えることができ、子どものいる男女は家庭生活との両立という選択ができるようになるでしょう。そのことはまた、結婚後や出産後も仕事を継続することを希望する女性にとって、結婚や出産を選択することを躊躇させることを少なくすることになるでしょう。
 また、子育てと仕事の両立のみならず、仕事と仕事以外の生活の場全体を通じて、個々人がその個性と能力を十分に発揮できるようになり、個人の働きがいと社会全体の生産性向上を実現することが期待されます。

(アクション(1))多様な働き方が可能な社会の仕組みに変える

 個々人の家庭の事情やライフコースの段階に応じて、男女ともに働く時間や場所、さらには就業形態を柔軟に選ぶことができるようにすることが必要です。雇用分野においては、例えば、学校を卒業した時点では、時間や勤務場所の拘束の強いフルタイム勤務の社員を選択した人が、育児期間中は同じ会社で、短時間勤務で働き、その後、育児が一段落した後、再びフルタイム勤務の社員に戻るような例、子育てなどで退職後、短時間勤務の社員として再び働き始めても、働き方に見合った均衡な処遇を受け、再び活躍できるような例などが考えられます。
 そのためには、パートタイムや派遣、在宅就労など、多様な働き方のメニューが用意され、その働き方の間で柔軟に選択や転換ができるようにすることや、その働き方に見合った均衡処遇を図るための方策を検討し、これを進めていくことが求められます。また、そのような円滑な職業の選択や移動をしやすくするため、職業紹介など労働力需給の調整の機能を強化することなどが求められます。

(アクション(2))ファミリー・フレンドリー企業に優秀な人材が集まる

 とくに子育て期には、子育てと仕事が両立できるような働き方ができるよう、育児休業、短時間勤務、子ども看護休暇などの制度の普及を図るとともに、法制度においてもさらに整備を進めていくことが必要です。とりわけ、男女が共同で家庭に参画することが進められるよう、男性の育児休業取得の促進や配偶者の出産後の父親の休暇取得の推進など、男性が育児に参画できる環境の整備に力を入れていく必要があります。そのためには、男女の固定的な役割分担意識を払拭していくことも不可欠です。また、子育てが一段落した後の再就職を進めることが必要です。
 この場合、企業トップの理解と政策的支援が求められます。現在、育休業制度が規定され、実際に利用されている、事業所内託児施設が整備されているなど、一定の条件を満たした企業を、「ファミリー・フレンドリー企業」、いわば家庭にやさしい企業として表彰などで支援する制度が既に実施されていますが、その一層の推進が求められます。さらには、仕事も生活も大事にしたいという人が増えていることから、優秀な人材を集め、また従業員が自分の個性と能力を発揮して生産性を高めるためには、企業自身もファミリー・フレンドリーであることが求められると思います。
 そのために企業自身が積極的な対策を講じていくこととともに、指標の作成などによる一層の普及促進策も必要です。

(アピール2)子育てという選択をする生き方が不利にならないよう、「育児の社会化」を進め、企業・地域・政府こぞって子育て家庭を支援する

 親は子育てをする責任があるのは当然ですが、子育てをするという選択をすることで、自分の人生に大きな犠牲や負担を強いられるといった不利を被ると感じられるようであれば、そうした選択はしにくくなります。
 出生から学童期まで、子育ての責任と負担を親だけが背負い込むことがないよう、社会全体で子育て家庭を支援していくことが必要です。高齢者の介護については、社会全体で支援するものという考え方が一般化し、「介護の社会化」という考え方が常識になっています。育児についても、アクション(2)で記したような企業における取り組みだけではなく、企業・地域・政府こぞって子育て家庭を支援していくこと、つまり「育児の社会化」を進めていくことが必要です。その結果、親の子育て負担が軽減され、親子関係がよくなることも期待されます。
 なお、この場合「支援」とは、国や地方自治体によるサービス提供や経済的支援だけを意味するのではなく、情報提供や相談、民間での取り組み、環境整備などを広く含めた意味です。

(アクション(3))地域における子育て家庭を支援するための幅広いネットワークをつくる

 地域における子育て支援については、これまでも、共働き家庭を対象とした保育サービスがありました。「待機児童ゼロ作戦」を推進し、今後とも子育てと仕事の両立のため、学童保育も含めた保育サービスを充実することはもちろん必要ですが、その際には、働き方の多様化に対応して、子どもの保育ニーズも変化するため、通常の保育だけでなく、保育時間など多様な形での保育サービスを普及させていくことも重要です。
 また、保育サービスとのギャップの大きい小学校低学年の子ども達の放課後生活をより豊かにしていくための施策の充実も必要でしょう。さらに、共働き家庭のみならず、片働き家庭やひとり親家庭を含めて、すべての子育て家庭を対象として支援するとともに、育児の孤立化による育児不安の解消など、地域における様々な取り組みの充実を進めていくことが必要です。育児不安が大きく、また、仕事などで社会的活動が制限されがちな障害児の親の支援も重要です。
 子育て家庭を支援する場合、となり近所の人々で子育てを支え合うとともに、地域における子育て支援のための資源を有機的に結びつけて、ネットワークとして機能するようにすることが必要です。従来の保育所や自治体のサービスだけでなく、子育て中の母親が集まってつくる子育てサークル等や、中・高年齢者による子育て支援活動など、草の根のNPOの動きが地域で活性化してきており、これらの間のつなぎ・連携を図っていくことが重要です。こうした活動の場を提供し育てていくためには、これらのサービスの提供に当たっては、住民に最も身近な自治体である市町村の存在が最も重要であり、市町村が自ら責任を持って支援することが必要です。
 また、地域における各種の子育て支援サービスが、利用者に十分知られるように、情報を提供するなど、供給者と利用者の「つなぎの作業」も必要でしょう。
 さらに、地域毎に特色があり、サービスの充足度もちがうので、それを踏まえた対応が必要です。例えば、都市部においては、保育所の待機児童の問題への対応が求められます。一方、都市部よりも農村部の方が合計特殊出生率自体は高いものの、過疎化が進行し、少子化への対応が切実に感じられていることも多いので、地方から発信して運動を広げていくということも考えていく必要があります。そのために、自治体ごとにアクションプランを作成し、地域ごとに主体的な取り組みを行うことも考えられます。

(アクション(4))子育てバリアフリーを推進する

 子どもを連れて街を歩くと、公共施設、映画館、コンサートホール等の娯楽施設やデパートなどで、授乳設備や乳幼児コーナー、おむつ交換用ベッド付きのトイレなどがあればと思うことがあります。車いす用のトイレや歩道の段差の解消などの障害者向けバリアフリーのように、子育てをしていく際に支障がないようにまちや建物を設計する「子育てバリアフリー」を進めてほしいと思います。子育て家庭に対し、広くゆとりがある住宅や、保育所と住宅との一体的整備など、子育て支援サービスに身近に接することができる住宅を提供することも求められます。
 日本は子どもに無関心で、ときには子どもを排除するような社会だといわれることがあります。公共交通機関などにおいて子どもをつれた家族などに優先乗車をおこなったり、まわりの人が配慮をしてあげるような、意識面でのバリアフリーも求められます。

(アクション(5))子育て支援は妊娠・出産からはじまる

 子育て支援は妊娠・出産という子どもが産まれる前の時点から始まると考えるべきです。発達段階に応じて、性に関する正しい理解の普及を行うことで、性感染症を予防したり、望まない妊娠や、これにともなう中絶を減らし、これらを原因としておこるかもしれない心身のトラブルを予防する効果も期待できます。
 また、第1子の出産でつらい思いをし、「もう子どもは産みたくない」という気持ちになるようなことのないよう、安全で快適な「いいお産」ができるようなケアを提供できるようにする必要があります。妊産婦が選び、満足できるようなケアが求められています。お産に妊産婦が主体的に関わることができるようになることで、主体的な子育ての準備になることが期待されます。
 健康診査や小児医療、出産前後における精神的不安(産後うつなど)や出産前後に子を亡くした親等への理解、サポート、ケアなど、母子保健、周産期医療等の推進も重要です。
 子どもを持ちたいのに不妊が原因で子どもができない男女が、不妊治療を受けるケースが多くなっています。倫理的にどこまでを容認すべきかといった問題、技術の有効性・安全性、医療機関の体制整備、さらには、経済的な負担、不妊治療を継続して受けられる職場環境の整備などの問題があり、その在り方を検討する必要があります。

(アクション(6))社会保障などにおいて次世代を支援する

 現役世代が保険料や税金を払って制度の支え手となり、高齢者世代に年金や介護などの給付をする世代間扶養の色彩が強い社会保障制度においては、子どもは次の時代の社会保障の支え手としての意味を持っています。子どもを育てることは次の時代の社会保障の支え手を育てることですから、社会保障制度を持続可能にするために、子育てに対し社会保障制度上なんらかの配慮をする必要があると考えます。とりわけ、負担と給付の対応を基本とする社会保険制度を活用し、既存の給付との関係を整理した上で、子育て家庭に配慮を行うことは考えられないでしょうか。長い目で見れば支え手が増え制度を安定させることにつながり、将来に対する国民の安心感を作り出すことになるのです。
 現在の社会保障給付費のうち高齢者関係は67を占めるのに対し、子ども・家庭関係は3%にしかなりません。また、今の制度では、子育てをするしないに関わらず、社会保険料は同額で、給付も同一であることが原則ですが、多様な働き方の実現とあわせて、子育て家庭に対する配慮措置を拡充し、次世代の育成を支援することなども考えてよいのではないでしょうか。

(アピール3)「家庭を持って子育て」という生き方にも「挑戦」できるよう、若い世代の成長・自立を支援する

 家庭を持って子育てをすることは、パートナーや子ども達に責任を持つということでもあります。こうした選択をするためには、人生に前向きな自分の選択の1つとして、家庭を持って子育てをするという生き方に「挑戦」できるように、精神的に成長し、経済的にも自立した人間であることが求められます。その結果、若者とその親との親子関係も、自立した者同士の人間関係になることが期待されます。
 そのためには、豊かな人間性など「生きる力」を持った自立した人間になるよう、心身ともに健やかに育てるとともに、子どもや家庭の大切さを知る機会をもてるようにすることも大切です。若い世代の親からの自立を促し、経済的・精神的に自立できるような基盤の整備も必要です。
 「子育ては親育て」という言葉がありますが、子育てを通して親自身が成長し、自立していくという側面を見逃すことはできません。若い世代が子育てを経験する中で、「育てられる者」から「育てる者」へと成熟していくことになるのです。育てられる者から育てる者への転換は、やがて看取る者から看取られる者へと続いていきます。私たちの生涯の中で、大切な体験の転換です。

(アクション(7))子どもの「生きる力」を育てる

 子どもが、心身ともに健やかに育ち、豊かな人間性、他人に対する思いやり、主体的に判断する能力などの「生きる力」をはぐくむことができるようにすることが、子どものすこやかに育つ権利を保障する上でも重要なことです。そのためには、様々な自然体験やボランティアなどの体験活動の機会を子どもに提供することが必要です。また、子ども同士で切磋琢磨したり、地域での異年齢の集団とふれあう機会を与えることは、子どもたちが自ら考え、主体的に「生きる力」を学びとっていくという意味で、大切なことです。
 食生活の乱れや過度なダイエット指向などによって、危機的な状況に陥ってきている、子どもの食の状況を改善するとともに、食の場を通じた家族形成や人間性の育成を考えていくことも大切でしょう。

(アクション(8))若い世代が子どもや家庭を知り、子どもとともに育つ機会をつくる

 若い世代が子どもと接する機会が少なくなっています。子どもの頃から赤ちゃんや年下の子どもとふれあって育つ環境にあることで、人への関心や共感を高め、それは子育ての予備体験にもなります。地域や学校でこのような機会を設けることが必要です。
 教育の場において、子どもが将来の親として必要な基本的なことを習得できるよう、子育ての意義や家庭の重要性についての理解を深めることも大切です。家庭生活は男女が協力して築き、子育てにおいて男女がともにその責任を果たすことの大切さも教えていく必要があるでしょう。
 また、家族とのふれあいを通じて親が子どもを育てる家庭教育は重要ですが、子どもとの接し方がわからない親や、しつけや子育てに自信のない若い親が増えています。子育て家庭の相談に乗ったり、親になるための情報を学習できるような機会を提供するため、地域や学校・行政が取り組むことが求められています。とくに、これまであまり子育てを担ってこなかった、あるいはできなかった父親が子育てに主体的に参加できるようにすることが必要です。

(アクション(9))若い世代の親離れを進め、自立して家庭を持つための基盤を整備する

 高校卒業後も親と同居し、親が教育費と生活費を負担する若者が少なくありません。欧米などでは高校卒業後は親から自立して生活する傾向が強いとされています。最近では、学校卒業後も、自立しないで豊かな独身生活を楽しむためや、自立できるほどの経済基盤を持てる仕事がないために、親と同居し、親の経済に依存する生活形態や、定職を持たず不安定就労を続ける「フリーター」といわれる生活形態も指摘されています。このような親への依存からの脱却という意味での「親離れ」を進め、若者が自立し、家庭を持てるよう支援する必要があるのではないでしょうか。
 そのためには、奨学金の充実や、若者の能力開発や適職選択による安定就労の推進など、経済的基盤の整備が大切だと考えます。このことは、親の子育て負担の軽減にもなります。
 また、家庭を持つための伴侶をもてるように、市町村を中心に広がりつつある「出会いの場づくり」を支援することも考えて良いかもしれません。

(アピール4)少子社会への対応を進め、活力ある「老若男女共同参画社会」を実現する

 少子化の進行により、労働力供給の減少や、社会保障負担の増大、地方における過疎化の進行などの影響が出ることが指摘されています。こうした問題に対応し、マイナスの影響を和らげて活力ある社会を実現することが必要です。

(アクション(10))少子社会を活力ある社会にする

 少子化が進めば、生産年齢人口が減少し、労働力の供給が減少します。これまで十分にその能力が活用されてきたとは言えない女性や中・高年齢者が、子育てや健康状態など個々人の事情に応じ就業できる環境を整備することで、労働力を確保することが必要です。これは、性や年齢による垣根を取り払った「老若男女共同参画社会」の実現につながります。能力開発や教育を通じて、質の高い優秀な人材を育成することも必要です。また、新規産業の創出や技術革新、地域振興などを通じ、このような対応により、経済社会の活力を維持・創造していくことが重要です。


3 「企業のトップ」「地域の人たち」「政府関係者」に対する3つのメッセージ

(メッセージ(1))企業のトップの方へ
  「多様な価値観は経済と企業を伸ばします。家庭と両立できない職場は立ちゆきません」
(メッセージ(2))地域の人たちへ
  「子育て家庭を地域で支える仕組みをつくろう!子どもにとって育つ場所が『ふるさと』です。」
(メッセージ(3))政府関係者へ
  「国の未来を見据えて、いますぐ少子化社会への対応を。政府ぐるみで実効  ある子育て支援策を」



 ※少子化社会への対応を進める際の留意点 

 上記の対応を進めるに当たっては、次のような点に留意することが必要です。

 (1)「子どもにとっての幸せの視点で」
 子どもの数だけを問題にするのではなく、子どもが心身ともに健やかに育つための支援という観点で取り組むこと。
 (2)「産む産まないは個人の選択」
 子どもを産むか産まないかは個人の選択にゆだねるべきことであり、子どもを持つ意志のない人、子どもを産みたくても産めない人を心理的に追い詰めることになってはならないこと。
 (3)「多様な家庭の形態や生き方に配慮」
 共働き家庭や片働き家庭、ひとり親家庭など多様な形態の家庭が存在していることや、結婚するしない、子どもを持つ持たないなどといった多様な生き方があり、これらを尊重すること。


(以上)



参考1

「少子化社会を考える懇談会」の開催について



 趣旨
 今回の人口推計においては、晩婚化に加え、夫婦の出生力そのものの低下という最近の傾向が見られたことから、前回推計に比べ少子化が一層進展するという結果になった。
 少子化問題は、我が国の経済社会に大きな影響を及ぼす可能性があるとともに、国民一人一人の生活観や社会の在り方に大きく関わってくることから、その要因や少子化社会への対応について、経済、社会保障、雇用、教育など幅広い視野から検討するため、厚生労働大臣が主宰する有識者による懇談会を開催する。

2  検討内容
(1) 少子化の要因の分析
     ○ 社会経済状況や若い世代の価値観の変化も踏まえ、少子化の要因を分析する。
(2) 少子化の影響の分析(約20年後の社会の姿を描く)
     ○ 少子化が将来の我が国の社会経済に与える影響を分析し、対応の在り方の検討に資するため、約20年後の社会の姿を描く。
(3) 少子化社会への対応の総合的な在り方の検討
     ○ 少子化社会に対する認識と経済社会全体の在り方(少子化に対する評価、若い世代の選択との関係、次世代育成の重要性、経済社会の在り方、社会保障及び雇用の在り方、など)
     ○ エンゼルプランなど少子化対策の拡充
  • 子育てと仕事の両立支援
  • 地域における子育て家庭の支援
  • 子どもを育てるための教育・青少年対策
  • 子育てコストの軽減など
     ○ 労働分野での対応策(労働時間や働き方の多様化、高齢者や若年者の雇用など)
     ○ 上記の検討に当たり、これまでの少子化対策をフォローアップする

3  検討スケジュールと体制
(1)  3月に第1回会合を開催。その後、1〜2ヶ月に1回程度開催し、1年程度で報告をまとめる(必要に応じ中間的なとりまとめも行う)。ヒアリングも実施する。報告を受け、必要なものは平成16年度予算(早ければ15年度予算)に反映させる。
 
(2)  懇談会での検討を円滑に行うため、省内に、事務次官を主査とし、厚生労働審議官を主査代理とし、政策統括官(社会保障担当)、雇用均等・児童家庭局長、年金局長及び政策統括官(労働担当)を副主査とし、関係局長を委員とする少子化問題会議を設置する。また、課長レベルの幹事会をおくとともに、係長程度以下の省内若手職員等により、約20年後の社会の姿を描く作業などを行うワーキングチームをおく。
 
(3)  懇談会の事務局(庶務等)は社会保障担当参事官室で行う。



参考2

「少子化社会を考える懇談会」メンバー



  青木 紀久代    お茶の水女子大学大学院人間文化研究科助教授
  安達 知子    東京女子医科大学医学部助教授
  大越 将良    「男も女も育児時間を!連絡会」世話人
  大日向 雅美    恵泉女学園大学教授
  奥山 千鶴子    子育てNPO法人「びーのびーの」代表
  柏女 霊峰    淑徳大学社会学部教授
   (座長) 木村 尚三郎    静岡文化芸術大学長
  熊坂 義裕    岩手県宮古市長
  黒澤 昌子    明治学院大学経済学部助教授
  玄田 有史    東京大学社会科学研究所助教授
  小西 秀樹    学習院大学経済学部教授
  酒井 順子    エッセイスト
  佐藤 博樹    東京大学社会科学研究所教授
  残間 里江子    (株)キャンディッド・コミュニケーションズ
   代表取締役
  清水 ちなみ    コラムニスト・「OL委員会」主宰
  白石 克子    伊勢丹労働組合執行委員
  津谷 典子    慶應義塾大学経済学部教授
  松本 秀作    (社)日本青年会議所会頭
  水戸川 真由美    いいお産の日実行委員会事務局長
   ・テレビ・ビデオ制作コーディネーター
  山崎 泰彦    上智大学文学部教授
  山田 昌弘    東京学芸大学教育学部助教授
(50音順、敬称略)



参考3

「少子化社会を考える懇談会」のこれまでの検討状況



第1回(3月27日)
  ○人口推計、これまでの取り組み、フリートーキング

第2回(5月17日)
  ○少子化の要因と少子化社会に対する認識、経済社会全体の在り方

第3回(6月14日)
  ○少子化の影響と対応、少子化対策の基本的考え方とポイント

第4回(7月17日)
  ○今後の少子化対策の在り方(中間とりまとめに向けた検討)

第5回(9月13日)
  ○中間とりまとめ



 PDFファイルを見るためには、アクロバットリーダーというソフトが必要です。
アクロバットリーダーは無料で配布されています。
 (次のアイコンをクリックしてください。) getacro.gif



トップへ
検討会、研究会等  審議会議事録  報道発表資料  トピックス  厚生労働省ホームページ