国民年金の未加入・未納対策
1 国民年金の未加入・未納の状況
○ 国民年金(基礎年金)制度は全国民を対象とする制度であり、未加入者・未納者が公的年金加入対象者全体に占める割合は5%程度。 ○ 未加入者が減少する一方、未納者は増加傾向にある。 |
《公的年金加入者の状況》
(注) | 1 | 平成13年3月末現在。なお、第1号被保険者には、任意加入被保険者(29万人)を含めて計上しており、免除者は、法定免除者、申請免除者、学生の納付特例者の計である。 |
2 | 平成10年10月15日現在(平成10年公的年金加入状況等調査より)。 | |
3 | 平成11年3月末(平成11年国民年金被保険者実態調査より。未納者とは、調査対象とした第1号被保険者1,652万人のうち過去2年間1月も保険料を納付しなかった者。)。 |
《未加入者数、未納者数の変化》
(注) | 未加入者数は「公的年金加入状況等調査」、未納者数は「国民 年金被保険者実態調査」の結果による。 |
2 未加入・未納に対する認識
○ 未加入者については適用対策により着実に減少しており、現行の対策を引き続き推進。 ○ 未納者については増加傾向にあるが、主な要因は年金制度に対する理解や意識の差。 |
(1)未加入者
20歳到達者に対する手帳送付及び基礎年金番号を活用した適用対策の促進等を実施
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現行の対策を引き続き推進 |
(2)未納者
平成11年の国民年金被保険者実態調査(265万人)によれば、平成8年調査(172万人)に比べ93万人増加
未加入者が減少し、未納者が増加していることからは、手帳送付により適用した者は制度への関心や保険料納付意識が低く、保険料納付に結びついていない実態がうかがわれる。
未納の主な要因は年金制度に対する理解の差や意識の差にあると分析できる。
1) 未納者と納付者の所得分布に大きな差はみられないこと
2) 生命保険・個人年金の加入状況をみても、未納者でも半分以上(53.9%。納付者の加入割合は73.6%)が加入しており、加入者は平均的には国民年金保険料を超える相当な保険料を支払っていること
3) 未納者は納付者に比べて老後に対する準備の意識が歴然と低いこと![]() |
年金制度の意義・役割に対する正しい理解が重要な問題 |
《所得状況(本人を含む世帯の総所得金額)》
《生命保険・個人年金の加入状況》
加入割合 | 再掲 | |||
生命保険 | 個人年金 | 両方とも加入 | ||
納付者 | 73.6% | 71.3% (2万4千円) |
25.2% (1万9千円) |
22.8% (4万8千円) |
未納者 | 53.9% | 52.1% (1万8千円) |
12.7% (1万6千円) |
11.0% (4万1千円) |
《老後の生活設計に対する意識》
公的年金 | 自分で働く | 特に考えていない | |
納付者 | 55.0% | 13.6% | 9.2% |
未納者 | 18.6% | 23.3% | 22.6% |
○ 未納者については、これが直ちに年金財政を揺るがし、年金制度が立ちゆかなくなる状況にはないが、このような者が存在し、増加していることが、制度への信頼を損ねるとともに、保険料納付義務を果たしている者に多大なる迷惑をかけていると認識。 |
保険料を滞納する者は増加しているが、
1) 国民年金は20歳以上60歳未満の全国民で支える仕組みであり、未加入者をあわせても保険料を納付しない者は全体の5%程度に過ぎないこと
2) 未加入、未納期間部分については将来の年金給付はなく、この意味で「ただ乗り」は生じない仕組みであること
から、直ちに公的年金の財政を大きく揺るがし、制度が立ちゆかなくなる状況にはない。
しかしながら、保険料を滞納する者は、
1) 入らなくてもよいという意識が拡がることで、全国民が強制的に加入して制度を支えることにより成り立つ世代間扶養の仕組みの信頼が損なわれる
2) 未納者が増加した分だけ保険料納付義務を果たしている人達1人当たりの基礎年金の拠出金単価が増大する
3) 仮に年金制度が存在しない場合、老親を私的に扶養することとなる。この意味では、未納者は、通常、保険料納付義務を果たしている納付者の保険料負担で賄われる自分の老親に支払われる年金によって私的な扶養負担を免れることになる。未納者は、このような恩恵を受けているにもかかわらず、その制度を維持するための相応の義務を履行していない
という形で、保険料納付義務を果たしている者に対して、多大なる迷惑をかけていると認識している。
したがって、保険料を滞納する者は将来年金を受給できないのだから保険料を納めなくてもよい、という考え方は、明らかな誤りである。
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制度の意義・役割に関する国民一人一人の理解を深める一方、徹底した保険料収納対策を講じていく必要 |
3 これまでとってきた保険料収納対策
○ 平成14年度から保険料収納事務が国に移管したことを契機として、以下のような対策により収納対策の強化を図っている。 |
(1)年金広報の充実
年金制度の意義・役割について正しく理解してもらうとともに、保険料の納付は国民の義務であるという認識を浸透させるための広報を展開
1) 政府広報やテレビ・インターネット等の媒体を活用した集中的な広報
2) 市町村の広報誌による広報
3) 年金ホームページの開設
4) 制度周知リーフレットの配布(対象世代別に内容を工夫)
5) 成人式の機会を捉えた新成人への広報
(2)中、高校生に対する年金教育の推進
年金広報専門員等による中学、高校の教員及び生徒を対象とした年金セミナーを開催
「文部科学省・厚生労働省連携協議会」を設置(13年6月)し、年金教育の充実方策等を検討
(3)学生納付特例制度等の周知
(4)納めやすい環境づくり
被保険者が自主的に保険料を納める環境を整備する観点からの取組み
1) 保険料の納付窓口を全国の銀行、郵便局、信用金庫、農協などあらゆる金融機関に拡大
2) 口座振替を行っていない者全員に口座振替の利用を勧奨
3) 集合徴収については、市町村、商店会、自治会等の協力を得て、納付窓口を拡大
(5)保険料の納付督励
保険料を滞納している者に対する納付督励の取組みを全国統一的に実施
1) 納期限の翌月から年6回にわたり催告状を送付
2) 電話による保険料の納付督励を実施
3) 職員や国民年金推進員の戸別訪問による保険料の納付督励、徴収を実施
年金教育の現状
(1)年金教育の概要
年金教育は平成5年度より指定県方式として8県で実施。平成10年度より全国実施とし、今年度で5年目を迎えている。
実施方法は、
1) 地方社会保険事務局で年金広報専門員を委嘱する
2) 年金広報専門員等が、教育委員会及び学校等へ年金教育の趣旨を説明し、協力を要請する。
3) 理解を得られた地域において、年金広報専門員が教員及び生徒に対しビデオ及び副読本を用いて年金教育(年金セミナー)を行う。
最終的には、生徒が中学及び高校在学中に一度は年金教育の授業を受けるようになることを目指している。
(2)実施状況
平成12年度実績 | 平成13年度実績 | |
年金広報専門員数 | 32県 53名 (社会保険OB 37名、教員OB 16名) |
42県 82名 (社会保険OB 42名、教員OB 40名) |
副読本 | 中学生用 33万冊 高校生用 35万冊 |
中学生用 34万冊 高校生用 40万冊 |
教員対象 | 4,891校 | 5,338校 |
生徒対象 | 350校 | 500校 |
(3)今後の課題
平成13年6月に「文部科学省・厚生労働省連携協議会」を設置し、その課題の1つとして、実施校数の拡大、教員OBの年金広報専門員への委嘱など、年金教育の充実方策について検討中。
また、現行の副読本及びビデオの活用に加え、パソコン(CD-ROM及びインターネット)を使用した実施方法について検討中。
国民年金保険料の納付督励
4 今後の対応の方向性
○ 制度面での対応と保険料収納面での対策を合わせて、収納対策の強化に努めていく。 |
(1)制度面での対応 | ― | 基礎年金国庫負担割合2分の1への引上げと低所得者にきめの細かい免除の対応 |
保険料負担が急激に上昇すると、保険料を負担できない者が増加するおそれがあり、保険料負担の過度の上昇を抑制する必要がある
特に、定額保険料水準の上昇は低所得者に対する影響が大きいことに留意する必要がある
しかしながら、今後の急激な少子高齢化の進展を前に保険料水準の上昇は避けられない
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保険料負担の過度の上昇を抑制するために、基礎年金の国庫負担割合の2分の1への引上げの実現が必要 |
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保険料水準の上昇が避けられない中で、負担能力に応じたきめ細かな対応により適正に保険料を納付していただくための工夫が必要(本年度より実施している半額免除制度の実施状況も踏まえながら、免除段階を多段階にするなどにより、より低所得の者にとって負担能力に応じた負担となるよう検討) |
(2)保険料収納面での対応 | ― | 一層の納付しやすい環境整備と保険料納付が国民の義務でありその徴収は法令の規定により担保されているという観点からのより強力な納付指導の実施 |
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納付しやすい環境の整備については、特に、未納者の割合の高い都市部を念頭においた対策として、コンビニエンスストアやインターネットを活用した保険料納付を実施する方向で検討する。 |
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同時に、保険料納付について理解の得られないものに対しては、保険料納付が国民の義務であり、その徴収は法令の規定により担保されているという観点から、より強力な納付指導を行っていく。 |
制度面での対応のイメージ
(参考)年金と生活保護制度
○ 「年金に加入しなくとも、生活保護で年金以上の給付が受けられる」と言われることがあるが、年金と生活保護では給付の要件や給付額の考え方、給付の性格等は本質的に異なる。 (生活保護では、保護基準額が年金のように一律に給付されるわけではない。) |
○公的年金・恩給を含めて自分自身の収入のない、収入の低い高齢者は、三世代同居世帯、夫婦のみ世帯(女性)に多く属している。 ○年金を受給していない、年金額が低いということが、直ちに生活保護を受給することにつながるわけではない。 |
個人の年間収入階層別にみた高齢者の分布(1997年の年間収入) (資料)平成12年版厚生白書(厚生省)(国民生活基礎調査の再集計結果を引用) |
高齢者の生活保護適用状況(平成12年) (資料)被保護者全国一斉調査12年7月1日現在(厚生労働省) |
○欧米主要国の公的年金制度は、一定以上の所得のあるものを強制適用の対象としており、所得のないものについては強制適用対象とされていない。これは、年金制度が、現役時代に得ていた所得の喪失を補填するという考え方を基本においていることによるものである。 ○全額税財源による保障年金制度を有するスウェーデンを除いては、年金のない、年金の低い者に対しては、別の体系(生活保護制度)によって対応されている。 |
国名 | アメリカ | ドイツ | スウェーデン | イギリス | |||||||||||||||||||||||||||
公的年金の体系![]() |
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被保険者
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