支え手を増やす取組み
(論点(例))
1 「支え手を増やす」ことの意義について
○ | 今後、急速な少子高齢化の進行が見込まれる中で、我が国経済社会を活力あるものとしていくためには、社会の支え手を増やすことが重要な課題である。雇用の流動化など、就労形態を含めて個人の生き方が多様化する中で、働く意欲を持つ者が多様な形で働き、国民が能力を発揮できる社会を構築していくことが必要であり、このためには社会保障制度や雇用を含む社会・経済制度全体を改革していくことが、強く求められている。(参考資料1−1、1−2、1−3、1−5) |
○ | 年金制度についても、女性や高齢者等の支え手を増やすことによって、支え手自身の年金保障の充実を図るとともに、少子高齢社会においても給付と負担のバランスを図り安定的な制度運営を行っていくことが重要ではないか。(参考資料1−4、1−6、1−7、1−8、1−9、1−10) |
○ | また、就労抑制的な仕組みについては見直しを進め、個人にとって多様な選択が可能となる制度としていくことが必要ではないか。 |
○ | 女性や高齢者等の支え手を増やす取り組みに当たっては、高齢者雇用の推進、短時間労働者の能力の有効発揮、さらには多様就労型ワークシェアリングなど雇用政策面での取組みとの連携が重要ではないか。(参考資料1−11、1−12) |
○ | 支え手を増やす具体的な方策については、以下の項目が考えられる。 |
2 短時間労働者等に対する厚生年金の適用拡大
○ | 女性と年金検討会では、多様な形態での就労を通じて年金保障の充実を図ることができるようにするとともに、年金制度の支え手を増やす観点から、短時間労働者に対する厚生年金の適用拡大をはかる方向で、様々な論点について検討していくべきであると整理されている。また、厚生年金の適用拡大は、短時間労働者等に対し、被用者にふさわしい年金保障を行うことを通じ、短時間労働を良好な就業形態とし、短時間労働者の処遇・労働条件の改善を図る上での基盤整備に資する。(参考資料2−1) |
○ | 厚生年金の適用基準について、どのように考えるか。 |
現行は、「通常の就労者の所定労働時間及び所定労働日数のおおむね4分の3以上である就労者については、原則として健康保険及び厚生年金保険の被保険者として取り扱うべき」とされている。(参考資料2−2)
諸外国では、一定以上の所得のある者は強制加入としており、その所得水準は、我が国の被扶養者認定基準(年収130万円)よりもかなり低い水準となっている。(参考資料2−3)
雇用保険では、1)反復継続(1年以上引き続き雇用されることが見込まれること)して就労し、かつ 2)1週間の所定労働時間が20時間以上である者は、短時間労働被保険者となる。(年収要件(90万円以上)は、平成13年4月から撤廃された。)
女性と年金検討会では、以下の2つの適用基準を設けてはどうかという提案が出された。(参考資料2−4)
1) 時間要件(週の所定労働時間が20時間以上の者)
2) 収入要件(週所定労働時間にかかわらず年収が65万円以上の者)
○ | 短時間労働者に対する厚生年金の適用拡大を図っていくため、今後議論を重ねていくべき論点はいくつもあるが、特に1)保険料負担の増加、2)年金財政への影響、3)健康保険の取扱いとの均衡等について、どのように考えるか。(参考資料2−4) |
○ | 厚生年金の適用基準を見直していく場合、支え手を増やすという観点から、被扶養者認定基準(年間収入が130万円未満)についても併せて見直し、基準の引き下げを図るべきではないか。 |
○ | 派遣労働者に対する厚生年金の適用について、どう考えるか。(参考資料2−5、2−6、2−7) |
派遣労働者数が増加する中、登録型派遣労働者については、本年5月から、就業の間に発生する短期の待機期間(最大1ヶ月)については、同一の派遣元事業主のもとで、次回の派遣就業が確実に見込まれているときは、健康保険及び厚生年金保険の被保険者資格を継続させることが認められた。
待機期間が1ヶ月を超える場合でも、健康保険については、本人の選択により任意継続被保険者となることもできる。(この場合、年金については国民年金となる。)
3 高齢者の就労促進と年金制度
○ | 年金の支給開始年齢に到達した者の年金支給と就業の関係については、次のように考えられる。 |
退職すれば年金を全額支給するが、在職中は年金を全く支給しないとした場合は退職促進の方向に作用する。
在職中も年金を全額支給する場合は、就業中立の方向に作用する。
○ | したがって、高齢者の就労促進の観点からは、在職中も年金を全額支給することが適切だが、他方、就労している年金受給者に対する年金給付の在り方については、 |
勤労収入のみで生活している現役世代(=賦課方式の下で保険料を負担)とのバランスの観点
年金財政の健全化、安定化の観点
もあわせ考えなければならない。 このため、現行においては、在職中でも年金を支給しながら、年金や賃金の額に応じて年金の一定額を支給停止する在職老齢年金制度を設けているところである。(参考資料3−1) |
○ | 現行の在職老齢年金の仕組みについては、高齢者雇用との関わりにおいては、例えば下記のように機能しているといえるのではないか。 |
賃金が低い者について、年金との組み合わせによって老後の所得が確保されている。
加齢に伴う労働能力の低下や通常勤務の困難化等により賃金が定年前よりも低下する者について、年金との組み合わせによって手取り収入が改善することで、就業意欲の低下を緩和している。
在職老齢年金を考慮した賃金水準の設定がなされることによって、高齢者の雇用コストが低下し、企業が高齢者を雇用しやすくなっている。
一方、現行の在職老齢年金の仕組みは、年金受給権を有する者の就業に抑制的に機能し、また、就業する場合にも低賃金の就業を促進することで高齢者の就労促進を妨げている側面もあるのではないか。 |
○ | したがって、高齢者の就労を促進する観点から、 |
(1) 就労している年金受給者に対しても年金を全額支給することとした上で、年金と就業収入を一体として課税していくことで、現役世代とバランスをとりつつ、高齢者の就業を抑制しない方向を目指すべきとの指摘がある。しかし、この場合、給付費増―現役世代の負担増を避けようとすれば、現行の在職老齢年金制度の下における給付調整(20%〜100%)に見合う大幅な課税強化が必要であるが、現在の税制の体系から見て実際に可能か。
(2) また、60歳台前半の高齢者のさらなる就労促進のために、支給開始年齢の65歳への引き上げスケジュールを前倒しすること等について、どう考えるか。(参考資料3−3、3−4、3−5)
特別支給の老齢厚生年金(定額部分)は、男性で平成25(2013)年度(女性は平成30(2018)年度)までに、支給開始年齢が65歳に引き上げられることとなっている。
特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分)は、男性で平成37(2025)年度(女性は平成42(2030)年度)までに、支給開始年齢が65歳に引き上げられることとなっている。
現在の経済情勢、高齢者をめぐる雇用状況等を踏まえると、支給開始年齢の65歳への引き上げスケジュールを前倒しすることは現時点で現実的か。
○ | このように考えると、就労促進の方向を強めていくためには、現行の在職老齢年金の仕組みの見直しが必要であるが、これだけでは年金制度による高齢者の就業への影響(年金の支給を考慮した低賃金及びこれを前提とした働き方の選択等)により、高齢者の能力の有効な発揮、本格的な就労につながらないのではないか。(参考資料3−2) |
○ | したがって、現行の在職老齢年金の見直しとともに、高齢者の本格的な就労を促進していくためには、就労(賃金、働き方等)に対し年金制度の影響が及ばないような、年金制度上の新たな仕組みを検討することが必要なのではないか。 |
(新たな仕組みの例)
年金受給者が就労する場合には、現行の在職老齢年金制度とともに、年金の繰下げ受給を選択することができる仕組みを新たに設ける。
○ | また、60歳台後半の高齢者の就労促進のために、65歳以後へ支給開始年齢の引上げを検討することも考えられるが、高齢者をめぐる雇用状況等を踏まえると、現時点で可能か。 |
○ | 年金の繰下げ受給を選択することができる仕組みを検討するためのイメージ図 |
定額部分の支給開始年齢引上げ途上世代
◇ 「繰下げ」を行わない場合(在職による一部支給停止)
◇ 「繰下げ」を行った場合
報酬比例部分の支給開始年齢引上げ途上世代
◇ 「繰下げ」を行わない場合(在職による一部支給停止)
◇ 「繰下げ」を行った場合
4 次世代育成支援と年金制度
○ | 現在、我が国で進行している少子高齢化は、欧米主要国と比較しても程度が著しく、将来の我が国の社会経済全体に大きな影響を及ぼすことが予想される。このような国際的にも著しい程度の少子化の進行が継続するという見通しを前に、それへの対応として職場や地域など社会全体や政府を挙げて従来にも増して本格的に次世代育成支援策に取り組む必要がある。 |
○ | このように、少子化に対して総合的な次世代育成支援対策が講じられようとしている中で、公的年金制度においてもその一環として次世代育成支援に向けた対応をどのように考えていくかが課題となるが、肯定的な見解、否定的な見解の両論があり、十分な議論が必要である。 |
○ | 肯定的な考え方としては、次のような考え方があげられる。 |
世代間扶養の仕組みを基本に成り立っている公的年金制度にとっては、次の高齢者世代を支える勤労世代となる次世代を育成することは本質的に重要な課題であり、実際にも少子高齢化が進む先進欧州諸国の公的年金制度の中において、様々な形で次世代を育成する者への配慮措置が講じられている。(参考資料4−1)
このうちイギリスは家族の看護、介護等家族的責任を広くとらえた措置となっているが、ドイツ、フランス、スウェーデンでとられている措置は、他にも就労できない様々な事情がある中で育児には特に手厚い配慮を講じているものであり、これは世代間扶養を基本とする公的年金制度の本質に由来するものと考えられる。 |
これらの措置によって、世代間の所得移転の仕組みである公的年金制度において、年金給付によって高齢者世代を現役世代が支えるとともに、年金の給付と負担の仕組みを通じて、次の高齢者世代を支える次世代を育てる者を支えることにより、次世代の育成支援を行っていると考えることができる。
このような考え方を敷衍して考えていくと、単に育児責任を果たす者への配慮という視点だけでなく、世代を超えた支え合いである年金制度においては、次世代の育成に対して、社会(加入者)全体で支援し、子育てについて中立的な仕組みとするという考え方をさらに取り入れ得る。
また、この考え方は、子育て費用について社会保険の方法を導入し、所得制限のない形で次世代育成支援を行うべきとの指摘とも軌を一にする。
少子高齢化の進展に伴い保険料水準が上昇していくことは避けられない中で、今後さらに高くなる保険料を負担しながら次世代を育成する現役勤労世代の理解を得るためには、次世代育成支援という形で保険料負担を還元することも有効である。
○ | 否定的な見解としては、次のような考え方があげられる。 |
年金制度は老後の所得保障を行うために運営されているものであり、趣旨の異なる次世代育成支援については租税財源で行うべきである。
老後の生活に必要な費用は子どもを何人育成したかとは無関係であり、子どもを育成したことで給付が増加する仕組みは適切ではない。
子どもの有無により給付や負担に差を生じさせることは個人のライフサイクルに中立的ではない。
次世代育成支援対策としては、年金制度のような所得の移転ではなく、保育サービス等子育て環境の整備等が実効性が高い。
年金財政が厳しい見通しの中で年金給付以外の給付を行う余裕はない。
○ | 現在、我が国においては、育児休業期間に対して配慮措置を講じるという形で、次世代を育成する者への配慮が行われているが、年金制度における次世代育成支援を拡充すべきという考え方をとる場合は、「女性のライフスタイルの変化等に対応した年金の在り方に関する検討会」の報告書にまとめられているように、次のようなことが検討事項となるのではないか。(参考資料4−2、4−3) |
現行の配慮措置は厚生年金保険被保険者(第2号被保険者)のうち育児休業取得者のみを対象としているが、厚生年金の被保険者として育児期間も働き続けている者、第1号被保険者、さらには育児を理由として離職して第3号被保険者となった者等、他の者も対象とするべきかどうか。
育児を理由として休業、離職、短時間労働の選択を行うことにより、賃金が減少、あるいは厚生年金の加入期間が短くなることに配慮した措置として、報酬比例部分について、年金算定上の賃金の配慮や加入年数の加算を行うことが考えられるが、このような措置を講じるべきかどうか。その場合の対象者や措置内容はどう考えるか。また、その際、離職促進的に機能しないような工夫は考えられるか、所得との関連のない定額の基礎年金給付のみである第1号被保険者との均衡をどう考えるか。
第1号被保険者に対する配慮措置をとろうとする場合には、所得との関連のない基礎年金の給付で配慮を加えることはできないが、保険料負担等の面で配慮を行うかどうか。
上記の年金の給付と負担における育児期間への配慮措置にとどまることなく、例えば、公的年金の積立金を財源とした「若者皆奨学金制度」の創設や年金制度における保育費用の助成等、育児や子育てを支援する措置をさらに拡大させることをどう考えるか。