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基発第1063号 平成13年12月12日 |
都道府県労働局長 殿
脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の 認定基準について |
標記については、平成7年2月1日付け基発第38号(以下「38号通達」という。)及び平成8年1月22日付け基発第30号(以下「30号通達」という。)により示してきたところであるが、今般、「脳・心臓疾患の認定基準に関する専門検討会」の検討結果を踏まえ、別添の認定基準を新たに定めたので、今後の取扱いに遺漏のないよう万全を期されたい。
なお、本通達の施行に伴い、38号通達及び30号通達は廃止する。
第1 | 基本的な考え方 脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。以下「脳・心臓疾患」という。)は、その発症の基礎となる動脈硬化等による血管病変又は動脈瘤、心筋変性等の基礎的病態(以下「血管病変等」という。)が長い年月の生活の営みの中で形成され、それが徐々に進行し、増悪するといった自然経過をたどり発症に至るものとされている。 しかしながら、業務による明らかな過重負荷が加わることによって、血管病変等がその自然経過を超えて著しく増悪し、脳・心臓疾患が発症する場合があり、そのような経過をたどり発症した脳・心臓疾患は、その発症に当たって、業務が相対的に有力な原因であると判断し、業務に起因することの明らかな疾病として取り扱うものである。 このような脳・心臓疾患の発症に影響を及ぼす業務による明らかな過重負荷として、発症に近接した時期における負荷のほか、長期間にわたる疲労の蓄積も考慮することとした。 また、業務の過重性の評価に当たっては、労働時間、勤務形態、作業環境、精神的緊張の状態等を具体的かつ客観的に把握、検討し、総合的に判断する必要がある。 |
第2 | 対象疾病 本認定基準は、次に掲げる脳・心臓疾患を対象疾病として取り扱う。 1 脳血管疾患 (1) 脳内出血(脳出血) (2) くも膜下出血 (3) 脳梗塞 (4) 高血圧性脳症 2 虚血性心疾患等 (1) 心筋梗塞 (2) 狭心症 (3) 心停止(心臓性突然死を含む。) (4) 解離性大動脈瘤 |
第3 | 認定要件 次の(1)、(2)又は(3)の業務による明らかな過重負荷を受けたことにより発症した脳・心臓疾患は、労働基準法施行規則別表第1の2第9号に該当する疾病として取り扱う。
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第4 認定要件の運用
1 | 脳・心臓疾患の疾患名及び発症時期の特定について
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2 | 過重負荷について 過重負荷とは、医学経験則に照らして、脳・心臓疾患の発症の基礎となる血管病変等をその自然経過を超えて著しく増悪させ得ることが客観的に認められる負荷をいい、業務による明らかな過重負荷と認められるものとして、「異常な出来事」、「短期間の過重業務」及び「長期間の過重業務」に区分し、認定要件としたものである。 ここでいう自然経過とは、加齢、一般生活等において生体が受ける通常の要因による血管病変等の形成、進行及び増悪の経過をいう。 (1) 異常な出来事について
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第5 その他
1 | 脳卒中について 脳卒中は、脳血管発作により何らかの脳障害を起こしたものをいい、従来、脳血管疾患の総称として用いられているが、現在では、一般的に前記第2の1に掲げた疾患に分類されている。 脳卒中として請求された事案については、前記第4の1の(1)の考え方に基づき、可能な限り疾患名を確認すること。 その結果、対象疾病以外の疾病であることが確認された場合を除き、本認定基準によって判断して差し支えない。 |
2 | 急性心不全について 急性心不全(急性心臓死、心臓麻痺等という場合もある。)は、疾患名ではないことから、前記第4の1の(1)の考え方に基づき、可能な限り疾患名を確認すること。 その結果、急性心不全の原因となった疾病が、対象疾病以外の疾病であることが確認された場合を除き、本認定基準によって判断して差し支えない。 |
3 | 不整脈について 平成8年1月22日付け基発第30号で対象疾病としていた「不整脈による突然死等」は、不整脈が一義的な原因となって心停止又は心不全症状等を発症したものであることから、「不整脈による突然死等」は、前記第2の2の(3)の「心停止(心臓性突然死を含む。)」に含めて取り扱うこと。 |
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具体的業務 | 負荷の程度を評価する視点 | ||
常に自分あるいは他人の生命、財産が脅かされる危険性を有する業務 | 危険性の度合、業務量(労働時間、労働密度)、就労期間、経験、適応能力、会社の支援、予想される被害の程度等 | |||
危険回避責任がある業務 | ||||
人命や人の一生を左右しかねない重大な判断や処置が求められる業務 | ||||
極めて危険な物質を取り扱う業務 | ||||
会社に多大な損失をもたらし得るような重大な責任のある業務 | ||||
過大なノルマがある業務 | ノルマの内容、困難性・強制性、ペナルティの有無等 | 業務量(労働時間、労働密度)、就労期間、経験、適応能力、会社の支援等 | ||
決められた時間(納期等)どおりに遂行しなければならないような困難な業務 | 阻害要因の大きさ、達成の困難性、ペナルティの有無、納期等の変更の可能性等 | |||
顧客との大きなトラブルや複雑な労使紛争の処理等を担当する業務 | 顧客の位置付け、損害の程度、労使紛争の解決の困難性等 | |||
周囲の理解や支援のない状況下での困難な業務 | 業務の困難度、社内での立場等 | |||
複雑困難な新規事業、会社の建て直しを担当する業務 | プロジェクト内での立場、実行の困難性等 |
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出来事 | 負荷の程度を評価する視点 | |
労働災害で大きな怪我や病気をした。 | 被災の程度、後遺障害の有無、社会復帰の困難性等 | ||
重大な事故や災害の発生に直接関与した。 | 事故の大きさ、加害の程度等 | ||
悲惨な事故や災害の体験(目撃)をした。 | 事故や被害の程度、恐怖感、異常性の程度等 | ||
重大な事故(事件)について責任を問われた。 | 事故(事件)の内容、責任の度合、社会的反響の程度、ペナルティの有無等 | ||
仕事上の大きなミスをした。 | 失敗の程度・重大性、損害等の程度、ペナルティの有無等 | ||
ノルマが達成できなかった。 | ノルマの内容、達成の困難性、強制性、達成率の程度、ペナルティの有無等 | ||
異動(転勤、配置転換、出向等)があった。 | 業務内容・身分等の変化、異動理由、不利益の程度等 | ||
上司、顧客等との大きなトラブルがあった。 | トラブル発生時の状況、程度等 |