戻る

企業ヒアリングの結果(要旨)
−短時間労働関係−

1 調査時期 平成14年5〜7月
2 対象企業 8社
3 業種 電気・ガス・熱供給・水道業 1
百貨店業 2
電気機械器具製造業 1
鉄道業 1
スーパーマーケット業 3
4 従業員数 1千人〜3千人未満 1
3千人〜5千人未満 2
5千人〜1万人未満 2
1万人以上       3
5 調査先 人事制度の企画立案を担当する者(部課長クラス)

I 短時間労働者の雇用状況等

 (1) 短時間労働者の雇用区分
  (1)  勤務時間がフルタイムに近いパートと短時間勤務のパートがいる事例(このほか、契約社員、アルバイトを雇用している場合もある)(B社、C社、F社、G社、H社)
  (2)  職務等に応じランクを設け、短時間労働者をランク別けしている事例(F社、G社、)

 (2) 賃金制度
 基本的には時給制がとられているが、具体的には、以下のような事例となっている。
  (1)  能力、職務等に応じた加給を行っている事例(B社、F社、G社、H社)
  (2)  基本給(時給)に地域に応じた地域給や勤務時間帯(繁忙時間帯)に応じた付加給を加算している事例(C社)
  (3)  短時間労働者のうち、管理業務を行っている職階の者については月給制をとっている事例(G社の一部)

 (3) 社会保険の適用
  (1)  全ての短時間労働者について、社会保険が非適用となっている事例(A社)
  (2)  全ての短時間労働者について、社会保険が適用されている事例(D社)
  (3)  社会保険の適用となる短時間労働者と、適用とならない短時間労働者がいる事例(B社、C社、E社、F社、G社、H社)
 (社会保険が非適用の場合は、103万円未満で働く場合が大半である)
   ・  社会保険の適用については、採用時に本人に希望を聞くこととし、勤務時間を決めている。(B社)
   ・  近年は、社会保険非適用となる短時間勤務のパートのみ採用しており、適用となる長時間勤務のパートは採用していない。(C社)
   ・  管理業務、判断業務、部門の責任者的な業務を行うパートは、フルタイムに近い勤務で社会保険が適用されており、定型業務を行う一般のパートは勤務時間が短く社会保険が非適用となっている。(F社、G社)
   ・  募集を勤務時間(社会保険適用の有無)ごとに区分して行っている。(B社、C社、F社、G社、H社)

II 適用拡大が行われた場合についての認識等

 (1) 現時点で考えられる対応等
  (1)  適用拡大によるコスト増への対応を、賃金の引き下げや価格転嫁で行うことは(人材確保上の問題や安売り店が増加している昨今の状況から)困難。
 業務の効率化や労務コスト全体の見直しの中で調整していくこととなるだろう。(C社、D社、F社、G社、H社)
  (2)  適用拡大が行われれば、短時間勤務のパートを積極的に採用する理由(保険料コストがかからない)が無くなるので、フルタイムに近いパートの採用の拡大を検討するだろう。(B社)

 (2) 適用回避行動の可能性等
  (1)  所定労働時間を引き下げた(20時間未満)場合には、人員の確保が困難になること、サービス面の低下が懸念されること、1日の労働時間が細分化され勤務ローテーションが組みにくくなるといった問題が生じる。これらを考えれば、労働時間の引き下げによる厚生年金の適用回避は、現実的ではないと考える。(C社、E社、H社)
  (2)  収入要件(60万円〜65万円)が導入された場合、適用から外れる勤務形態をつくることは難しいと考える(F社)
  (3)  その他
   ・  パート労働者の中に、所定労働時間を20時間未満に引き下げ、適用から外れたいとする者がでてくると考えられるが、会社としてもこれに対応し、新たな基準を下回る働き方を創設することも考えられる。(G社)

 (3) メリット等
  (1)  適用拡大により短時間労働者の募集は、「社保適用、基本給+出来高給」という条件で行うこととなるが、こうした場合、比較的優秀な者が応募してくるので、短時間パートの場合でも優秀な人材を採用できることが期待できる。(C社)
  (2)  適用拡大により、就業調整の必要が無くなり、パートの出勤率が高まることや長時間の勤務者が増えることにより勤務ローテーションが組みやすくなる。(B社、H社)
 (4) その他
  ○ 収入要件の導入について
 パートの時給には地域格差があることから、同じ勤務時間の者でも店舗毎に厚生年金の適用の有無が異なってくるのではないかという意見や、厚生年金の資格を取得した後の時給の変更や賞与の変動によっては、事後的に適用の有無が変わってくるのではないかといった意見があった。



短時間労働関係
A社
 電気・ガス・熱供給・水道業
 従業員数 1万人以上
B社
 百貨店業
 従業員数 3〜5千人未満
C社
 百貨店業
 従業員数 5千人〜1万人未満
D社
 電気機械器具製造業
 従業員数 1万人以上
短時間労働者の雇用状況等
雇用状況
 パートは、全社で300人程度。
 元社員である女性が、育児が一段落した後に再び働くケースが多い。
労働時間帯
 1日3-5時間、週5日程度の勤務。主な職務は、データ入力、書類整理、ファイリング等。
社会保険の適用
 社会保険は適用されない。
短時間労働者の雇用状況等
雇用状況
 パートは、約2,800人(正社員:パート=1.7:1)。
 長時間勤務パート(社保適用)と短時間勤務パートに区分(両者の比率は7:3)。
 ほかに、短大卒相当の契約社員(1年更新)も採用。
賃金等
 パートは時給制で、基本給(平均約950円)+能力給(最大350円)。
 賞与は、長時間パート2ヶ月、短時間パート1ヶ月。
 年収は多くて250万円程度。短時間パートの場合は、103 万円以内が8割、103-130万円未満が2割。
社会保険の適用
 所定労働時間が週27時間以上の者に社会保険を適用(パートの7割が該当)。
就業調整等
 短時間勤務のパートが年収を抑えるために多忙時に休むことで、業務に支障が生じることがある。
 パートの時給を上げた場合、年収が103万円や130万円の基準を超え、本人の意にそぐわなくなるため、昇給は余り行っていない(昇給に代わるインセンティヴのあり方が課題となっている)。
短時間労働者の雇用状況等
雇用状況
 契約社員とパートは約5千人(正社員と契約社員・パートの比率は1.1:1)。
 販売業務を行う販売専任契約社員(週35時間)、販売業務、販売サポート業務及び事務業務を行う短時間パート(週28時間未満、平均24時間程度)・長時間パート(週30時間)に区分。
 ただし、繁忙な時間帯に重点的に短時間の者を充てることが合理的と判断し、近年は長時間パートは採用せず、より時間の短い短時間パートを中心に採用。
 販売専任契約社員、短時間パート、長時間パートの比率は、1対12対3。短時間パートのうち、約半数が主婦、約1割が学生、残りはフリーターなど。
賃金等
 販売専任契約社員は月給制で、年収200-400万円。
 短時間パート、長時間パートは、ともに時給制(基本時給+地域給与+付加給)。
 短時間パートの場合で、年収は、全体の5割が103万円以下。103万円を超える者の殆どはフリーターであり、また130万円を超える者は殆どいない。
社会保険の適用
 販売専任契約社員及び長時間パートには、厚生年金が適用される。
就業調整等
 年末の就業調整については、毎月現場で計画的に管理しているので、以前ほど困ることはない。
短時間労働者の雇用状況等
雇用状況
 短時間労働者の数は、60歳未満の者を除き、約430人(本社の人事部門で把握している者の数)。
労働時間等
 所定労働時間は1日7時間、週5日勤務。
社会保険の適用
 全員に厚生年金が適用されている。
適用拡大がなされた場合の対応等
 当社では、競争の激化や、売上げの低迷等の事情から現在合理化を推進中。そのような状況下で社員の一部を営業等にシフトしており、パートに関しては雇用を縮小している状況。
 したがって、適用拡大に伴う事業主負担の問題は当社で は生じないと思われる。
適用回避行動の可能性等
 当社のパート労働者は、第3号被保険者となっている者が圧倒的多数であり、また、金銭的に困って働いている訳ではないため、保険料負担が生じた場合でも、追加的に就労して手取りを増やそうとは考えず、さらに保険料負担の水準によっては退職する者が出てくる可能性も考えられるのではないか。(担当者の個人的な印象)
適用拡大がなされた場合の対応等
 人事サイドとしては保険料負担の掛からない勤務時間の短い者を活用するよう現場に求めている。
 しかし、採用権限を有している現場では、勤務シフトを組み易い等の理由で、社会保険が適用される長時間勤務のパートの採用を希望しており、実際にも、その比率は近年次第に高まっている状況にある。
 適用拡大がなされた場合、短時間勤務の者を積極的に採用する理由はなくなるので、勤務時間が正社員に近い形態の者の雇用拡大について検討する。
メリット等
 現場がこれまで主張していたように、長時間勤務者が増えれば勤務シフトが組み易くなる。
適用拡大がなされた場合の対応等
 事業主負担は、少なくとも年間約3億円(労務コストの0.6%程度)の見込み。
 コストへの対応としては、業務の効率化を検討。なお、賃金の引下げによるコスト増への対応は困難(雇用競争力が低下し、優秀な人材が他社への流出する結果となる)。
適用回避行動の可能性等
 労働時間の引下げによる厚生年金の適用回避は、現実的ではない(かつて週20時間のパートを募集したが、ほとんど応募がなかった)。
 また、あまり極端に勤務時間が短くなると、商品知識等が乏しくなりサービスの低下が懸念される(結果的に、定型的な業務など限定的なものにならざるを得ない)。
 1日の労働時間を増やし、労働日数は減らす手法も、結果的に客が少ない時間帯にも人を配置させることとなる。
メリット等
 「社保適用、基本給+出来高給」という条件での募集には比較的優秀な者が応募してくるので、短時間パートの場合でも優秀な人材を採用できるようになることが期待される。
 パートを被扶養者の認定基準を気にせずに手当等で処遇することが可能となる。
適用拡大がなされた場合の対応等
 現在でも全員が厚生年金に適用されていることから、適用拡大に伴う影響はない。
E社
 鉄道業
 従業員数 5千〜1万人未満
F社
 スーパーマーケット業
 従業員数 1千〜3千人未満
G社
 スーパーマーケット業
 従業員数 3千〜5千人未満
H社
 スーパーマーケット業
 従業員数 1万人以上
短時間労働者の雇用状況等
雇用状況
 パート・アルバイトは、季節によって出入りが大きいが、年間平均で1,000人程度(アルバイトは学生が主体)。
 文化・レジャー部門を中心に雇用。同部門は、元々は社員が主体であったが、昨今は、退職者等の補充はパート・アルバイトが主体(正社員は、レジャー施設の管理企画的な仕事に従事)。
賃金等
 時給制であり、単価等は個人によって違う(現場において決定される)。
社会保険等への加入状況
 雇用保険に加入しているパートは、パートアルバイトの約半数(500程度)であり、その大半が社会保険にも加入しているものと思われる。
短時間労働者の雇用状況等
雇用状況
 パート2,508人、アルバイト1,113人(全従業員に対する短時間労働者の割合は約60%)。
(1)  1日4時間、週20時間、非課税限度額以内で勤務するAパート(2,096人)
(2)  1日6時間、週30時間で勤務するBパート(267人)
(3)  1日6時間、週30時間、各部門の責任者程度の業務を行うEパート(45人)
(4)  60歳から62歳までのパート継続雇用として、1日4時間、週20時間で勤務するSパート(100人)
(5)  学生のアルバイト
賃金等
 時給制。アルバイトを除き職能給(0〜500円)あり。
 Bパート及びEパートには賞与あり。
社会保険の適用
 (2)(3)(312人)は適用、(1)(4)(5)(2,196人)は非適用((1)(4)のうち1,729人は雇用保険適用)。
短時間労働者の雇用状況等
雇用状況
 パート労働者は約11,000人(正社員:パート=1:3)。(ほかに、学生、短期契約者5,000人)
(1)  管理業務や判断業務を行うリーダー(3区分)
週30時間以上勤務で、パート労働者全体の約1割
(2)  熟練定型業務を行うAパート
一日4時間以上勤務
(3)  単純定型業務を行うB・Cパート及び研修中の者
一日2時間程度。
  ((2)、(3)でパート労働者全体の9割程度)
賃金等
 リーダーを除き時給制。ランク給(10-90円)あり
 年収は大半が103万円以内で、103-130万円未満は数名程度。夫の扶養控除や家族(扶養)手当の影響が大きい。
社会保険の適用
 (1)は適用、(2)(3)は非適用(半数程度は雇用保険には適用)。
短時間労働者の雇用状況等
雇用状況
パート35,163人、アルバイト12,937人。
(1)  週30〜35時間で勤務する長時間パート
(2)  週30時間未満で勤務する短時間パート
(3)  週30時間未満で勤務する長期アルバイト
(4)  繁忙期に2ヶ月以内の雇用期間で勤務する短期アルバイト
賃金等
 時給制。アルバイトは基礎時給のみ。パートは基礎時給の他に職種加給、業績加給、調整給があり、約1ヶ月分の賞与支給。
 長時間パートと短時間パートは職務内容が同じであるため、賃金体系及び賃金水準に差異を設けていない。
社会保険の適用
 (1)は社会保険適用、(2)(3)(4)は社会保険非適用((2)のうち9割以上の者が週20時間以上のため雇用保険適用)
適用拡大がなされた場合の対応等
 適用拡大を機に、現在のパート・アルバイトの雇用形態を変化させる(例えば、ある程度責任のある仕事を契約社員に、単純定型的な仕事はアルバイトに)可能性があるのではないか。
 いずれにしても、保険料コストへの対応は、総額人件費の中で調整していくこととなるだろう。
適用回避行動の可能性等
 会社として、適用されないように基準以下の勤務時間・賃金で働いてもらいたい者も出てくると思われる。ただし、労働時間が短いパート(例えば週20時間未満)は、確保しにくい可能性がある。
適用拡大がなされた場合の対応等
 当社の8時間換算でのパート比率は同業他社に比べ低いため、現在、退職者の一部をパートで補充することにより、パート比率を高めコスト削減を進めているところ。また、来年度については高卒の採用は行わない予定。
 適用拡大がなされた場合には、これら労務コスト全般の見直しの中でコストへの対応を考えていくことになろう。
 当社では1日4時間の働き方が相当定着しているため、適用拡大の対象となるパートの所定労働時間を長くすることは考え難い。
適用回避行動の可能性等
 雇用保険適用基準変更時の経験からみて、週19時間や19.5時間への変更を希望する労働者が現れるのではないか。
 会社としては、所定労働時間を短くしてAパートを一律に適用から外すことには、事後的に適用上の問題が生じないかという懸念がある(実態として必ずしも全員が1日4時間ちょうどで勤務している訳ではないため)。
 年65万円ないし60万円の収入基準が導入された場合、それが適用されない勤務形態をつくることは難しいと考える(1日3時間で週15時間といった勤務では、会社としてのメリットに乏しいため)。
その他
 収入要件が設けられた場合、パートの時給には地域格差があるため、同じ勤務時間であっても各店舗ごとに厚生年金の適用の有無が異なることとなり、労務管理が複雑になるのではないか。
適用拡大がなされた場合の対応等
 仮に適用基準が「週所定労働時間20時間以上」に拡大された場合には、雇用保険の被保険者となっている者(5千人強)が新たな被保険者となる見込み。
 コスト増への対応については、労務コスト全体の見直しを行わざるを得ない。
 なお、安売り店が増加している中で、価格転嫁は難しい。また、パートの賃金の引き下げによる対応については、優秀なパートの他社への流出を招くこととなり、人材確保上問題がある。
 適用拡大に伴い、もっと勤務時間を長くしたいという者が出てくることも想定される。
 フルタイムで働いて欲しい者が長く働いてくれることは会社としてもメリットとなるが、短時間勤務で単純作業を担当するパートもいてはじめて全体のバランスが保たれることから、勤務時間増の希望者ばかりが増えることは望ましくない面もある。
適用回避行動の可能性等
 当社では、週の所定労働時間がちょうど20時間の者が多いため、時間を減らし適用から外れたいと考える労働者も多いのではないか。
 会社としても、負担増を回避するため、新たな基準(週20時間)を下回る働き方を創設することも考えられる(現在でもパートの作業工程を細かく細分化しており、1日2時間のみの勤務者もいるので、それほど困難はないのではないか)。
適用拡大がなされた場合の対応等
 デフレによる商品価格低下のなかで人件費が上がるのは厳しい。パートタイマーの時給を下げることは困難であり、正社員の業務のパートへのシフトを一層推進し、パート比率を上げることで、正社員を含めた人件費総額の削減を検討する必要があるのではないか。
 新たに適用されるパートが所定労働時間を長くすることを希望するかもしれないが、必要のない時間帯にまで余分な人員を抱えることは出来ないため、個別に対応。
適用回避行動の可能性等
 パートの労働時間の週20時間未満への切替えは、夕方からの引継が難しくなるなど、営業上の影響が非常に大きいため難しい。
 (勤務日数を減らす方法については、パート自身がどのように対応するか分からない現時点での判断は難しい。)
 雇用保険の適用基準変更時にはパートは余り抵抗なく加入したが、ほとんどが夫の扶養となっているため、社会保険への加入には抵抗があるのではないか。適用拡大する場合は、適用対象者への十分な広報が必要。
メリット等
 適用拡大により就業調整をする必要がなくなれば、パートの出勤率が上がり、勤務シフトを組み易くなる。
 ただし、就業調整については、年金の130万円よりも税制による103万円の縛りが大きな要因となっており、その見直しが必要。
 なお、当社では、短時間労働者の勤務時間が長くなることによるメリット(生産性の向上等)はあまり想定し難い。
その他
 収入基準の新設について
(1)  パートの雇用時に、収入の見込みで厚生年金の適用・非適用を判断することは、実務的に厳しい。
(2)  最低賃金の見直しに伴う時給の変更や業績による賞与の変動により、事後的に適用の有無が変わるのではないか。
(3)  雇用保険の旧90万円基準の場合、地域毎の時給差のため、同じ勤務時間でも店舗毎に適用関係が異なり、困った。
 短時間労働者は出入りが激しいため、届出に係る事務作業が相当量になる可能性。
 適用拡大に伴うアルバイトの学生の扱いに関心あり。


トップへ
戻る