02/08/19 第4回新たな看護のあり方に関する検討会議事録          第4回新たな看護のあり方に関する検討会議事録 日時      平成14年8月19日(月)         14:00〜16:00 場所      厚生労働省省議室 出席メンバー  井部俊子、上野桂子、内布敦子、川越厚、川村佐和子、國井治子、         西澤寛俊、平林勝政、藤上雅子、宮武 剛、柳田喜美子         (五十音順、敬称略) 発表者     国立がんセンター中央病院 平賀一陽手術部長 ○看護課長  ただいまから、第4回「新たな看護のあり方に関する検討会」を開催いたします。本 日は台風の影響が心配されましたが、遠い所からご参加をいただいた先生方も皆様ご出 席をいただきまして本当にありがとうございます。  本日は国立がんセンター中央病院手術部長の平賀先生にもご出席をいただいておりま して、後ほど、緩和ケアのことにつきましてご説明をいただくことにしております。  それでは川村座長、よろしくお願いいたします。 ○川村座長  皆様、こんにちは。本日の議事に入る前に、前回ご議論をいただきました静脈注射の 取扱いに関して、國井委員が一言ご発言されたいということですので、どうぞよろしく お願いします。 ○國井委員  議論の中で、いままでは静脈注射は法的には認められていないけれどもずっと隠れて なされていたということで、その辺の安全確保というところでは非常に心配な面があっ たわけですが、今回、この法解釈によって安全確保ということがさらに厳しく求めら れ、それを整えることが我々に非常に求められているのだと思います。本協会でも、そ の辺は先頭に立って会員を初めいろいろな施設に働きかけて、その確保に努力していこ うと思いますが、一方、安全を確保していくというところでいろいろな要員の確保や教 育にかかる費用など、必ず費用的なことも伴ってきます。  それがゆえに、そういう高い基準で要員配置をしている所や教育を整えている所は診 療報酬で評価を高くするとか何なりの経済的な評価ができるような検討を是非載せても らいたいということ。  我々の所では専門看護師や認定看護師の育成をしておりまして、特に危険の高い化学 療法等に関しては、がん化学療法認定看護師というものを育成しております。薬剤の知 識、取扱い等、それによる副作用等の管理にも非常に体系的な知識と技術ということ で、しっかりした教育を受けた認定看護師が世の中に出ております。是非、そういう人 たちを配置して化学療法等の所に活用しているような施設をきちっと評価するとか、患 者さんの安全のために努力している所を評価するような制度の所に是非反映させてほし い、という要望です。以上です。よろしくお願いいたします。 ○川村座長  ありがとうございました。このご発言について、何かご意見等はありますか。 ○平林委員  ただいまの國井委員のご発言に関連しまして私のほうからも是非、看護協会のほうに お願いと言いましょうか、要望が1つあります。  先ほどお話にありましたように、安全の確保ということが静脈注射が解禁されたこと によって非常に重要な問題になるということは前回も申し上げたつもりですが、現実問 題として静脈注射が広く行われているとしても、その行われ方はかなりバラつきがあっ てまちまちだろうと思います。そこら辺の、どういうふうにして静脈注射をどういう場 合に、どういう資格を持った、あるいはどういう能力を持った看護師ができるのか、と いうようないろいろなファクターがあろうかと思います。そういう点について看護協会 がリーダーシップと言いましょうか、主体性を持ってそのルールと言いましょうか、そ ういったようなものを是非、お考えいただきたいと思います。  事柄は医行為に関連してきますので、看護協会だけというわけにはまいらないだろう と思います。この委員会にも医師会の代表の方、あるいは病院協会の代表の方等がい らっしゃっていますので、それらの代表の方々、あるいは教育の問題にも関わってきま すので、教育に携わっている委員の方等ともご相談をされながら是非、どういうふうに して具体的に安全を確保していく方策を考えていくのかということについて、これは看 護協会として主体的にご議論を重ねていっていただくと、全体として静脈注射が解禁さ れたことによる危険性というものを防止することができるのではないかと思っておりま すので、その点は是非、お願いしたいと思います。 ○川村座長  ありがとうございました。ほかに何かありますか。 ○藤上委員  いま、がん化学療法などに関して専門的にきちんとやっている所には診療報酬の評価 をというようなお話がありましたが、今回の4月の診療報酬の改定では外来のがん化学 療法加算というものが設けられました。そこには専任の看護師さんがいること、あるい は専任の薬剤師がいること、といったような条件も付いておりますので、そこのところ は一応評価されているのではないかと思います。 ○國井委員  あれは専任なので、専門ではないのですね。 ○藤上委員  はい、専任の人です。 ○川村座長  よろしいでしょうか。では、本日の議事に入らせていただきます。  まず、事務局から資料のご確認をお願いいたします。 ○勝又補佐 まず、議事次第、メンバー表、座席表。次に資料1が「麻薬の取扱いにつ いて」です。資料2が「症状マネジメントにおける看護師の役割」、資料3が「在宅医 療における薬剤師の役割−疼痛緩和医療を中心に」です。それから本日、平賀先生の資 料を5枚準備していただいております。 ○川村座長  本日は、緩和ケアにおける疼痛管理等についてご検討いただきたいと思います。ま ず、事務局から、麻薬の取扱いの現状について説明をお願いいたします。 ○武田企画官  今日は先生方のご発表も多数ありますので、事務局説明を簡略に留めたいと思いま す。  資料No.1「麻薬の取扱いについて」の1頁目をご覧ください。麻薬に関する法制とし て、麻薬及び向精神薬取締法という法律があります。薬そのものについては、一般的に は薬事法、病院であれば医療法、薬局であれば薬事法といった規定がありますが、それ に加えて麻薬及び向精神薬取締法については、より厳しい規制が敷かれているところで す。ご承知のように、麻薬の乱用防止という観点から厳しい措置がとられています。  具体的には、薬事法の場合は製造・販売について主に規制しているわけですが、麻薬 の場合は、一般的に譲渡し・譲受け・所持が禁止事項になっておりまして、そこを違反 した場合に重い刑罰が科されておりますので、すべての場合について業務許可を取って いただくか、または免除規定を書くかということで整理がされているわけです。  1頁目に「麻薬施用者」という概念がありますが、「麻薬施用者」は医師、歯科医 師、又は獣医師ということです。医師の場合は、病院・診療所の許可に加えてこの麻薬 施用者の許可を取らなければ麻薬の施用ができない、又は麻薬処方せんの交付ができな い、ということになっています。  (2)の「麻薬管理者」ということですが、それぞれの施設に管理者として麻薬管理 者を置かなければならないという規定になっています。  (3)が「麻薬小売業者」です。麻薬小売業者は薬局開設の許可を受けている者でし か許可申請ができませんが、「免許を受けて、麻薬を記載した処方せんにより調剤され た麻薬を譲り渡すことができる」ということになっています。  2頁目ですが、「譲渡し・譲受け」の規定です。譲渡しの場合と譲受けの場合の規定 がありますが、特に(2)の譲受けの(1)、(2)は、患者の立場に立って書いているわけ です。(1)は、麻薬診療施設の開設者から譲り受ける場合で、病院・診療所から直接麻薬 製剤の交付を受ける場合、それから(2)は薬局から受け取る場合ですが、処方せんにより 調剤された麻薬を麻薬小売業者から譲り受ける場合、このような場合が禁止の例外とし て解除されているということです。  3の所に「管理・保管」とありますが、麻薬の場合は特別な管理・保管が義務づけら れています。ここにあるように、「麻薬の保管については、業務所内に麻薬以外の医薬 品と区別し、鍵をかけた堅固な設備内に保管しなければならない」ということです。ど この病院内、薬局内、それから卸しの流通センターにまいりましても、鍵をかけた金庫 のようなものに保管をされているところです。  「施用・交付」が4番です。「麻薬施用者でなければ麻薬を施用し、施用のために交 付し、又は麻薬を記載した処方せんを交付してはならない」ということです。麻薬施用 者の免許を取っている者でしか麻薬処方せんを交付できませんが、この割合がどう変化 しているか、という現状を後ろに付けております。  3頁です。麻薬処方せんについては、麻薬及び向精神薬取締法の第27条に記載事項が 書かれています。それから、6に「記録」という事項があります。いずれもこの麻薬製 剤について流通を管理し、誰が・いつ・どこに麻薬製剤を渡したかを追跡できるよう な、記録の保存義務がかかっているわけです。  7として「廃棄」があります。麻薬を廃棄する場合には、麻薬の品名・数量・廃棄の 方法について事前に届け出て都道府県職員の立会いの下に廃棄するのが原則ですが、法 第29条に例外規定があります。調剤された麻薬の残り、途中で死亡した場合、その他不 要になった残りの廃棄につきましては、患者家族から麻薬小売業者に戻され、そこで廃 棄されるわけですが、事後の届出で済むということになっています。括弧の中にありま すように通知レベルですが、職員の立会いを求めておりました。廃棄した後30日以内に 都道府県知事に届け出るというような規定になっています。これが麻薬の関係の法律の 概要ですが、いくつか関連通知をご覧いただきたいと思います。  4頁です。「病院、療養所における麻薬の施用について」という通知が昭和30年10月 21日に出されています。照会事項は、麻薬の施用は麻薬の施用者自ら直接患者に麻薬を 施用すべきであると解されるけれども、麻薬施用者の免許を持たない医師又はインター ン又は看護婦が施用できるかどうかということが照会されておりますが、昭和30年の麻 薬課長通知で、「麻薬施用者の免許を有しない医師、実地修練生又は看護婦が麻薬施用 者の直接の監督又は指示の下に麻薬を注射する等麻薬の施用の補助をする場合は、麻薬 取締法第27条第1項に違反しない」ということで、既に実際に麻薬施用の免許を持たな い医療従事者の麻薬施用ということが認められているということです。  5頁から6頁にかけての通知につきましては、前のこの会でもご報告をしております が、新めて若干見ていただきますと、5頁の宮城県からの照会ですが、1と2に分かれ ています。1は麻薬診療施設に所属する看護婦、麻薬診療施設として免許を受けている 病院・診療所に勤務する看護婦が、当該家族又は患者に搬送し授与してもいいかどう か。それから2番として、訪問看護ステーションの看護婦が同じような行為をしてよろ しいかどうか、それが麻薬及び向精神薬取締法上の麻薬施用者の麻薬交付の補助行為、 診療の補助行為というふうに解釈できるかどうかということが問われた件です。  6頁目に回答がありまして、その回答「記」の照会1の(1)及び(2)、照会2の(1)及び (2)について「貴見のとおり」となっているとおり、診療の補助行為と解釈をして差し支 えないという解釈が示されております。「ただし、現に当該患者の看護に当たっている 看護婦に限る」ということでして、実際にその患者の訪問看護に従事している訪問看護 ステーション以外の訪問看護婦については、この特例的取扱いは認められないというこ とになっております。法改正前ですので、「看護師」ではなく「看護婦」という言葉が 使われていることをご了解いただきたいと思います。  そのときの注意事項でイからヘまで書かれていますが、特に先ほどの麻薬及び向精神 薬取締法上、保管というものが特に認められた者に限って認められていることの関連も ありまして、麻薬搬送に当たってはニの所にありますが、「すみやかに麻薬の交付が あった患者宅へ優先して訪問すること」、時間を置かずにすみやかに訪問をして持って いくこと。それから、ホの所にありますように「患者宅以外の場所での留め置きや保管 はできない」ということで、訪問看護ステーションの中で保管をするということは現行 法制上想定をされていない、という注意が付いています。  7頁以降、若干数字を拾っております。7頁は、「がんの死亡数と死亡率の年次推 移」です。がんの死亡数は、1999年で290,556人となっています。下の表で見ていただけ ればわかりますが、同じ1999年の全死因全死亡数は982,031人です。したがって、現時点 ではがんの死亡は、全死亡数の29.6%ということになります。非常にがんの死亡数が増 えている状況にあります。  がん患者の痛みの出現率です。がんと診断された時点で30%、進行がんにおいては60 〜70%、末期がんでは75%の患者さんが痛みを被る、というような報告が出されていま す。  8頁は「一日当たりのモルヒネ消費量の国際比較」ですが、医療用に使われているモ ルヒネをモルヒネに換算してその比較をしたものです。傾向として、どこの国でも使用 量が伸びています。それから、各国において使用量には大変開きがあるということ。日 本は近年伸びてきていますが、諸外国と比べるとまだ低い水準にある、ということがお わかりいただけるかと思います。  ただ、注意が必要と考えられますのは、モルヒネの適用が、例えば日本では硫酸モル ヒネ、MSコンチンががんの適用に限られていますが、欧米でがん以外に使う場合があ る。それからモルヒネ以外の同じような麻薬が使われる。といった国ごとの事情もあり ますので若干の留意が必要かと思いますが、基本的にわが国は低いほうになるというこ とは概ね推測されるのではないかと思います。  9頁は、我が国のモルヒネの消費量です。1979年以降の消費量をグラフにしたもので す。非常に特徴的なのは黒い棒グラフの硫酸モルヒネです。1989年に発売開始となって いますが、それが非常に消費量が伸びた、というところが注目されると思います。2001 年の塩酸モルヒネ、硫酸モルヒネの消費量の合計を1989年の消費量の合計と比較します と、約4.6倍ということになります。  ただ、もう1つ傾向として見て取れますのは、1980年以降、非常に大きく伸びた時期 と、近年やや伸びが鈍っている時期があること、それから2001年には若干消費量が減少 しているような統計になっていますが、この原因についてはちょっと定かではありませ ん。  関連して、あとの先生方のご発表にも出てくるかと思いますが、モルヒネに加えて フェンタニールパッチという医薬品が本年から発売になっていますので、その影響も今 後出てくるのではないかと言われています。  10頁が「麻薬施用者数の年次推移」です。麻薬施用者数は増加傾向にあります。この 統計で言いますと2001年に170,998人ということになっていますが、医師数との関係で 2000年の数字で取ってみますと、全医師の約64%が麻薬施用者の免許取得ということに なっています。  一方、病院・診療所単位で見るとどうか、というのが11頁です。1975年から5年ごと に数字を拾っております。いちばん上が病院・診療所数、2番目が病院数、3番目が診 療所数ということです。病院数で申し上げますと、1995年時点で9,606病院のうち8,534 病院が麻薬診療施設の免許を取っていまして、約9割弱ということになります。診療所 の数で申し上げますと、若干数の減少傾向であり、かつ割合はそれ以上に減少している というふうな傾向にあります。  一方、病院・診療所に並んで重要になります薬局ですが、12頁です。「麻薬小売業者 数の年次推移」ということで見ていただきますと、1989年の処方せん製剤の発売、消費 量の拡大に伴って、麻薬小売業者数も大きく伸びてきています。2001年では21,958人、 1989年の12.5倍というような増加になっています。  ただ、これは地域ごとに見ますとだいぶ差があります。13頁は「全薬局に占める麻薬 小売業者の割合」を出してみたものです。全薬局に占める麻薬小売業者の割合は、おし なべて見ますと、47.0%になります。多い県で言いますと、例えば□で囲っております が、長野県の90%を最高に石川県、宮崎県といった所は、麻薬小売業者の免許を取得し ている薬局の割合が高くなっています。低いほうで言いますと、沖縄県の6.3を一番低い 数字としまして、それに次いで宮城県、滋賀県といった所が比較的低い割合となってい ます。  事務局から用意した資料は以上です。ありがとうございました。 ○川村座長  ありがとうございました。何か、ご質問はありますか。 ○川越委員  貴重な資料をありがとうございました。10頁と11頁の所でお伺いしたいのです。麻薬 の施用者数が増加しているにもかかわらず、11頁では診療所における麻薬診療施設が 減っているということですが、これはどういう解釈が成り立つのでしょうか。1つは、 ここの診療所の院外処方のほうはどうなっているのですか。私は、院外処方の頻度が高 くなったからこういう結果が出たのではないかと思ったのですが、これはこの麻薬診療 施設の中に入っているのですか。 ○武田企画官  なかなかそこまでは分析できていないのですが、院外処方数はおそらく増えているの だろうと思いますが、麻薬診療施設でないと麻薬処方せんが出せませんので。ちょっと 私どもも、数字を拾ってみて解釈に苦しんでいるようなところです。 ○川越委員  何かわかりましたら、教えてください。 ○武田企画官  はい。 ○川村座長  他にありますか。 ○平賀部長  4頁目の照会事項に対する麻薬課長の通知の所で「直接の監督又は指示の下に」とい う、この「直接の」という意味はどうなのですか。この「直接の」というのが非常に 引っかかってくるのだと思います。要するに、現場にドクターがいなければいけないも のかどうか、ということがちょっと疑問に感じてしまうのです。この表現も「直接の」 という文字がなくて「監督又は指示の下に」というのであれば、今まで私は、そのよう にしておりましたが。 ○看護課長  いま私の所で、この「直接の」という意味合いをどのように解釈するかということを 十分に説明できる準備がありませんが、通常、この通知を出していた時期であれば病院 内、医療施設内ということを想定して考えられていたのではないか、とは思いながらい まこれを見ますけれども。 ○武田企画官  麻薬課長通知なので基本的に麻薬課のほうに正式なご回答をいただかなければならな いと思いますが、もし立会いを必要とする場合は「立会い」というふうに明示的に書く と思いますので、「直接の監督又は指示」と書いてありますが、それほど必ず目の前に いなければならないということではないだろうと思います。 ○川村座長  よろしいでしょうか。それでは、次のプログラムに進ませていただきます。  本日は、ゲストスピーカーとして国立がんセンター中央病院手術部長の平賀先生に、 「がん疼痛管理治療ガイドライン」についてお話をしていただくことになっておりま す。どうぞ、よろしくお願いいたします。 ○平賀部長  お配りしてある資料に従って説明していきます。田村課長からのリクエストは、作成 の背景、主な構成、ガイドラインの効果、普及に向けてという4項目でした。  作成の背景に関しては、WHOのがん疼痛治療ガイドラインが発刊されましてから10 年目の1996年に、日本緩和医療学会が北海道で開催されました。参加総数が400名〜500 名位しかないと思っていましたが、1,200名以上になりまして、ドクターの出席者も大変 多かったのです。  がん疼痛緩和という表題で、Portenoy先生、並木先生、濱口さん、的場先生、志真先 生、小川先生、太田先生と私がシンポジストになり、シンポジウムを開きました。発表 と質疑応答との間の休み時間に会場の参加者から質問を書いていただいた紙を回収いた しました。それに対しての答えは資料の6頁にありますから、あとでご覧ください。ど なたがどういう発言をされたかというのは省きまして、質問だけは書いておきました。 例えば6頁の上から数行目のところで、夜間の痛みに関して、鎮痛薬の追加などの裁量 をどの程度看護師に任せているか、看護師の裁量権と責任について、というような質問 も当時ありました。  がん疼痛治療は現在非常に不十分であります。不十分な理由の1つとしてがん患者の 診療に携わっているがん治療医、メディカルオンコロジストの医師たちが、その当時の がん疼痛治療法がエビデンスに基づいていない、経験に基づいているにすぎないと思っ ているので、がん疼痛治療に同意してくださらないことがあげられます。そこで、EB M(Evidence-based Medicine)に沿ったガイドラインが必要であるという緩和医療学会 の認識のもとで、私の方に作成委員長の声がかかりました。私はそろそろ人生の幕閉め の時期と思っていましたので、仕事は増やしたくなかったのですが、受託のお返事を出 さないでずるずるやっているうちに、お見合い写真と同じように会わなければいけなく なったという状況で、引き受けざるを得なくなり、がん疼痛治療のガイドライン作成作 業を開始しました。  作成委員の構成はいろいろな方々が推薦されましたが、特に若い先生方の方が頭が経 験則ではなく、文献に基づいて作成作業を行って下さるだろうということで、若い先生 方を集めました。EBMとは何なのかということも、その時では私は全然わかりません でした。  それで、京都大学の福井先生に何回かにわたって講義をしていただき、資料の3)の ガイドラインの作成作業に入っていきました。文献検索を始めて、統計学者によるET (Evidence Table)の妥当性の検証をして、それに基づいて各項目の解説と Recommendationを作成して、それについての討議を繰り返しました。最後に全体の統一 を図るという形でやりました。  委員会の討議が一番進んだのは、1997年の7月に集中合宿をしたときで、2日半ホテ ルに缶詰めになりまして、朝から晩までがん疼痛治療ガイドラインの討議を行いまし た。経験則に基づいて討議しがちであった先生方も、だんだんEvidenceに基づいて議論 することができるようになってきました。  資料の5)にガイドラインの項目が書いてあります。「総論」に始まりまして、「痛 みがある患者と精神症状および治療」までの7項目があります。資料の項目にアンダー ラインが引いてあるところは、ガイドラインの主たるものだと思っていただければよい と思います。  「Evidence Table」というものはどういうことかといいますと、ここにも書いてあり ますように、タイトル、著者名、雑誌名、キーワード、研究の行われた期間、研究デザ イン、研究対象、対象者数、検証対象となった治療法、除外基準の記載の有無などを Tableの中に書いて、その文献のEvidence質を判定するのです。Evidence Tableの作成者 は、私が訳して作成すれば私になるわけです。  Evidenceの評価というものが資料の7)にありますが、RCT(Randmized Controlled Trial)試験法であればAと付けましたし、症例報告であればD、誰かの意 見、あるいは教科書に載っていたものは、Evidenceが非常に低いE1というところに分 類しました。そのような感じでつくっていきました。ただ、これはEvidenceの質と勧告 の強さというのは、必ずしもイコールではないということで、作業を進めていきまし た。  「診療ガイドラインの有効性」というものは、その当時で診療ガイドラインが91の疾 患に対して出ていまして、医師の診療行為の改善が93.1%、患者のアウトカム改善が82. 4%と、かなりよかったわけです。そこで、私たちもアウトカムスタディを計画し、当時 の厚生省科学研究費をいただき、行ってきました。  ガイドラインの「作成上の反省点」として、最初のころは特にそうですが、Evidence  Tableを作成する経過を省いて、委員会ではガイドライン案を、自分たちの経験や知識 で議論したところがあります。これは最後に修正してあります。  最初の頃は統計学者によるEvidence Tableの妥当性の検討をすることもなく、討論し ておりました。最終案作成の討議の前に福井先生に、妥当性があったのかということに ついて、Evidence Table全部の検証をしていただきました。  文献を読んでいまして、評価基準が非常に不明確なところがかなりあることが分かり ました。例えば、がんの痛みにモルヒネを使用しますと除痛状態が継続しています。こ の患者さんの病態としては、モルヒネをやめれば痛みが存在するから「痛みはあり」で すが、モルヒネを使っているために、QOLの評価としては「痛みがなし」になるわけ です。ところが、モルヒネを飲んで制吐薬を使っていると、副作用が消失しますが、制 吐薬をやめると吐き気が再び出現します。緩下薬をやめれば大きい便秘が出現しますか ら、病態としては副作用はありだということになります。このような判定のためにほと んどのモルヒネ製剤の治験では、「副作用あり」になっています。  ところが、副作用を上手に薬を使うことによってなくせば、QOLの評価としては 「副作用なし」となります。ところが、モルヒネ製剤の治験では、ほとんど「副作用あ り」。いわゆる痛みに関してはQOLの評価、副作用に関しては病態での評価を採用し ているのです。外国の文献も然りであります。  がん疼痛治療における日本人のEvidenceというのは、非常に少ないということが分か りました。それで、委員会は出版するか否かの判断を委員長に任せることに決定しまし た。私は、Evidenceのどこが希薄なのか、希薄な所に対して研究報告をどんどんしてほ しいという希望を含めて、委員長の裁断で不完全と思いながらも出版にこぎつけまし た。  極端な例を言いますと、日本人を対象にしたEvidenceのAクラス、例えばRCTみた いな、Evidenceの質の高いデータは、血漿中のモルヒネ濃度しかないのではないかとい うぐらいのものでありました。  先ほど外国と比べて日本はモルヒネ消費量が少ないという問題が出ていましたが、そ れは外国ではモルヒネを良性疾患にも投与しているというだけではなくて、日本人の場 合は外国人の標準の2分の1ぐらいの投与量で、血中濃度は同じになります。外国人が 60mgのモルヒネを1日服用していれば、日本人が30mgのモルヒネを服用したときの血中 濃度とイコールであるのです。そういうことからすると、外国の半分でモルヒネ消費量 はよいのではないかということが、先程のお話を聞いていて浮かんできました。  がん疼痛治療のガイドラインの「主な構成」としては、痛みの評価、治療効果の判 定、薬物療法、服薬指導、モルヒネの副作用とその対策であるということで、その項目 に重点をおき、文献として集めてまいりました。  ここで、ペインクリニックの先生方はどうしてもペインクリニック、いわゆる神経ブ ロックが薬物療法より優れていると思っていらっしゃいます。NNT(Number Needed to Treat)というのがあります。患者さん1人が利益を得るために必要な患者数と思わ れています。薬物療法であれば、有痛患者を80%減らすことに、モルヒネが80%効くと した場合に、治療なしで末期は70%痛みが出ますから、それで80%減らすとすると、 56%になります。56%はNNTでは1/0.56ですから、1.78人の患者さんがいれば、1人 の患者さんを治すことができるということです。そのようにして計算すると、神経ブ ロックでは1人の患者さんを治すのに14.3人必要になるということですから、いかに薬 物療法が重要であるかがわかっていただけると思います。  3番目に「ガイドラインの効果」を見ますと、資料はがん治療学会に発表した原稿を そのまま書いておりますが、ガイドライン配布後の除痛率は、保存的治療期の患者、末 期状態の患者とも、ガイドライン配布前の除痛率に比較して改善していました。配布後 のモルヒネ経口による除痛率は、ガイドライン配布前と比べて有意に改善していまし た。私は配布前の調査の前から2〜3年毎に調査を行っておりましたので、配付1年前 のもありますから、2年間でデータが横ばいだったものが、改善していたというふうに 解釈してよいと思います。それから、モルヒネ服薬指導を、配布後は47.9%するように なりましたので、本を読んで患者さんに服薬指導ができるようになったということで す。  考察としては、それまで看護師さんへのアンケート調査の中では、がん疼痛治療を困 難にしている原因はいろいろあるわけですが、その中に「医療者の認識不足」が29%で したが、ガイドライン配布後は48.9%と、20%ぐらい上がりました。いわゆる看護師さ んもかなりガイドラインで、知識を得て、自分たちが認識不足と答えていただいたのだ と思います。  ただし、医師の診療態度は変わっておりませんでした。ガイドラインを配って3カ月 間勉強して、そのあとに患者さんへの診療がどのように変わったのか、患者さん一人ひ とりの治療経過を分析していきましたが、最初に配るとなくすので、アウトカムスタ ディーの直前に配ったという病院がありましたので、うまくはいかなかったなどと、い ろいろなことがありました。  アウトカムスタディは国立病院の先生方に院長を通して、このスタディーに参加して いただけるかどうかをお聞きしてエントリーしていただき、行ってきました。医師たち のガイドラインに関するアンケートへの答えとして、マニュアルとガイドラインはどう 違うのかという質問がありました。私自身は、マニュアルというのは、医師の免許を 持っていれば、1年生がやろうが10年生がやろうが、がん患者さんを全く診たことがな い人ががん疼痛治療をやっても、必ずうまくいくというのがマニュアルであって、ガイ ドラインというのは医師の裁量権が入るということです。  原本を探したのですが、見つからなくて申し訳ありませんが、たしかマクドナルドの ハンバーガーの作成過程の操作は300か3,000行程あります。その3,000の工程をやれば、 小学生が作ろうが、おじいさんが作業しようが、必ずうまくできるということですか ら、相手を信用していないというのがマニュアルで、相手を信用しているのがガイドラ インだというのが私の解釈です。  資料の4)の「ガイドラインの普及に向けて」ですが、やはりこのガイドラインをも う少し充実させなければいけない。充実させるためには、皆さんにどんどんデータを出 していただきたいということです。改訂版を出そうかという話がありますが、その後発 表された論文を見ていますと、日本人のデータというのが集積されてきていませんの で、改訂版の作業をもう少し待っております。  現状と問題点としては、簡易モルヒネ濃度測定、副作用対策の簡易化、モルヒネが効 きにくい痛みへの対策というようなことです。それから、ペインセンターの開設、病診 連携、器具を含めて在宅がん疼痛緩和の研究(含:24時間体制の麻薬を扱える調剤薬局 の普及)などが必要で、麻薬を扱える調剤薬局が増えることです。先ほど説明された資 料にありましたが、たまたまがんセンターにありました平成8年度の資料では麻薬を 扱っている調剤薬局の平均は22%ぐらいですから、それに比べると随分と世の中が動い ているなと申し上げたいために、私も資料を一部付けておきました。  さらに、訪問看護の役割とか、医療者および市民への啓蒙活動が必要だと思います。 副作用云々ということは後で資料を読んでいただければと思います。WHOとしては、 がん疼痛治療というのは、「モルヒネの経口3段階除痛」と書いてありますが、あの本 の中にはポリシー(政策)があって、トレーニング(教育)があって、薬が有効に使え るかという3本柱が必要だということも記載されております。  私個人としては、日本では厚生労働省が一生懸命ポリシーを持って、麻薬も世界の中 ではいちばん使いやすくしてくださっておりますし、末期医療の講習会を次々に開催し て下さって教育にも熱心であるということだと思います。薬も十分にあると思いますの で、「日本」ということで考えますと非常に満足しておりますが、厚生労働省が指示し ていることと全く別個に、麻薬の取り締まりを厳しくしている県もあります。「日本」 としてはこの三本柱が非常によいと思いますが、県によっては違っていますし、県では なくて、病院によっても違うということで、その3本柱をどんどん小さくすると、病棟 でも違うという形です。個人でも、3本柱が不安定なところがあると思います。医療者 の社会的な成熟等が不足しているのかと、私は思っております。  がん患者さんの疼痛治療というのは、昔は対策ということで、がん疼痛治療の対策の 知識を持っていることであったと思います。その次に患者さんを視野に入れて、がんを 有する、痛みを有する患者さんへの対応というところまできたのだと思います。でも、 今後はがん患者さんへの対応ではなくして、患者さんへの応対のところまでいかなけれ ばいけないと思います。対策は知識。対応という言葉で言えば、ナースのケアですね。 実践です。応対というのは、コミュニケーションスキルということだと思います。  メイヨ−・クリニックの丸田先生に、この言葉を訳していただきました。その下に書 いてありますように、Having Strategiesというのは、対策を持つ、戦略を持つ。対応は Taking care ofで、ケアすることです。応対はAttending to で、Attending Physician というのはホームドクター、家庭医ということです。応対の心があって初めて患者さん に痛みがあることをいち早く知り、対策の知識を基にして原因の追求・治療手段があっ て、それを実践して、応対の心で患者さんの痛みの評価・治療効果の評価をするという 繰り返しだと思います。  私があるときにぎっくり腰になり、ロキソニンを飲みましたら、蕁麻疹が出て痒みが 出ました。痛いときに、ただ寝ていてもつまらないですから、「痛み」、「痒み」の他 にないかと一生懸命考えているうちに、「苦しみ」、「悩み」、「妬み」、「僻み」、 「憎しみ」と次々と思いつきました。これはみんな情動を伴います。こういう言葉とい うのは非常に面白くて、日本語は語尾でいろいろと変化していきます。英語では、3つ のSというふうに頭文字で表現していますが、日本語は末尾の変化ではないかと思いま す。  末尾に「み」がつく言葉の中の「痛み」と「痒み」は、身体的な感覚が加わります。 身体的なものには医学的な対応、情動的なものには社会のバックアップを含めていろい ろやらなければいけないのではないかと思います。  「み」が付くポジティブな言葉は何があるかということですが、「微笑み」、「親し み」という言葉がすぐ浮かんでくる人は、将来病気になっても非常に明るい人生を送れ ると思います。多分、病院の中では「親しみ」という段階にしかならないのではない か。なぜならば、諺に「親しき中にも礼儀あり」という言葉があります。では、「馴染 み」は何かというと、「幼な馴染み」ということで、医療の世界に「馴染み」というこ とがあるとすれば、それは家庭医の先生と患者さんの付き合いしかないのではないか。 がん患者さんの場合にも医師と患者さんの関係が馴染みになる可能性がありますね。が んの経過が長いですから。 患者さんの馴染みの人は、馴染みの味は、馴染みの環境は?などが満たされたときに痛 みは軽減することでしょう。がん患者さんは在宅の方が痛みが少ないとの報告がありま すが、当然の帰結であるような気がします。以上です。 ○川村座長  ありがとうございました。わかりやすいお話をいただいたと思います。平賀先生に何 かご質問はありますか。 ○上野委員  先ほど、夜間の痛みに対して看護師にどの程度任せるかという、裁量権の質問があっ たと思いますが、私は在宅を担っているものですが、裁量権について、ここの回答はど のようなご返事だったのでしょうか。 ○平賀部長  質問は紙に書いていただいて残っていますが、回答については、時間がなくて全部を 回答できませんでしたから、回答があったかどうかはわかりません。 ○上野委員  先生のお考えは。 ○平賀部長  私が実践していることでしょうか。 ○上野委員  はい。 ○平賀部長  麻薬及び向精神薬取締法の改正の前から、私は適宜、増減可ということで行います が、最初からそういうことはしません。ある患者さんの痛みと薬への反応様式が安定し てきた時に、痛くなって1時間経ったらモルヒネ10mg追加可とか、2回追加したなら ば、15mgにしてくださいとかということでやっておりました。患者さんの痛みの全体の 流れを、看護している看護師さんと話し合って、認識が一定していれば、あとは看護師 さんに適宜増減でお任せしておりました。  それから、具体的には肺がんの患者さんですと、呼吸抑制とか、いろいろな問題点も 点滴投与で生じますから、その場合には呼吸数をモニターにして、呼吸数が10ぐらいに なったら、8mgを6mgにするとか、呼吸数が25になったら10mgを15mgにするという形 で、1つのモニターを明示して、モルヒネの増減の指示をしていました。私個人の考え だけでやるのではなくて、そのときの看護師さんといろいろと話し合いをします。  痛みの情報を得るには、看護師さんから得なければ治療はできませんから、その中で 話し合って、こんな感じでやるということを合意したうえでやっておりました。薬剤投 与に伴う異変が起これば私の責任というつもりでやっておりました。 ○上野委員  ありがとうございました。 ○宮武委員  投与をするときに口から飲むこともあれば、坐薬で投与される場合もあるし、注射で 投与される場合もあると思いますが、素人考えですと注射でやるとかなり体内で急速に 効いて、危険な状態になる可能性が高いのか、その辺はいかがでしょうか。手法そのも のについて、差がありますでしょうか。 ○平賀部長  手法そのものによって差があるとすれば、多分副作用ではないかと思っております。 昔みたいに1アンプルを筋注というふうにすると、かなり血中濃度が上がると思いま す。  例えば私が患者さんを初めて診て、モルヒネが効くのかどうかわからないときには、 初めての患者さんであれば、1mg静注します。ここにいらっしゃる方で、モルヒネ1mg の静注で患者さんが亡くなるとか、急変したという経験をした方は、全くないと思いま す。1mgで1時間効いたとすれば、24時間では24mgですから、経口に換算すると約60mg のモルヒネということになります。ですから、1mgというのは、普通のがん疼痛治療の 経口を60mgとすれば、まあまあいい線ですね。それで静注するということで、それは決 して多くはないというか、1本(モルヒネ10mg)を1回に筋注するのでなければ大丈夫 だと思います。  もう1つは、いま一緒に共同研究している星薬科大学の鈴木先生のお話ですと、吐き 気はモルヒネ投与の10分の1とか20分の1の量で出てきます。モルヒネ濃度が鎮痛域ま で到達すると、嘔気はなくなるとかいうことがあります。そういうことからすると、注 射で予め血中濃度を上げれば、吐き気を感じる前に痛みが止まることがあると思いま す。  副作用の中でいちばん最初に出てくる吐き気だけは、患者さんに起こさせてはいけな いと感じております。痛みの評価の中で、安静時のときの痛み、それから体動時の痛み があります。じっと静かにして我慢していても痛いから患者さんは薬を飲むのです。そ のときに吐き気があると、ウッとなりますから体に力が入って動いたと同じ状態になる ので、非常に痛くなって、この薬は絶対効かないと感じてしまいます。MSコンチンの 色を見ただけでも吐いてしまうということになりますから、吐き気は起こしてはいけな い。起こしたならば、それこそすぐ駆けつけて、吐き気止めの注射をすぐにして下さ い。そうすれば止まりますから。  ということで、特に経口の場合には吐き気が出て、吐いてしまうと薬が吸収されない のです。まだ坐剤のほうがいいですね。非常に濃度が低いところで吐き気が出ます。で も、吐き気が出てもお尻から入れたものを口から出すことは不可能ですから、そのうち に効いてきます。そうすると、あの薬は効いたことがあると患者さんはおっしゃってく ださいます。特に吐き気を防止することが大切です。  それから、麻酔科としてみてみますと、昔から前投薬で筋注に5mgモルヒネを打っ て、呼吸抑制を起こした人もいらっしゃいません。あれは不思議なことに、5mg打って も吐き気も出てきません。それで、私は不思議だと思いました。何で経口だと吐き気が でるのでしょう。多分経口でモルヒネを投与したときは、吸収していく段階で、どこか でこの薬は駄目なんだと、神様がそういう機構を残したのではないかと鈴木先生にお話 しましたら、鈴木先生がマウスやネズミでは吐き気は出ませんから、イタチか何か(フ レット)で実験して、非常にきれいなデータを出してくださいました。それらの集積し たデータが今度の報告書には載ると思います。 ○宮武委員  ありがとうございました。 ○川村座長  ほかにいかがでしょうか。よろしいでしょうか。それでは、お二方のお話を伺いまし て、全体的に討論をしていただければと思います。  では、内布先生と藤上先生に順次お話をいただきます。まず、看護師の立場から「疼 痛緩和における役割」ということで、内布委員からお話をお願いいたします。 ○内布委員  それでは、「症状マネジメントにおける看護師の役割」ということでお話を15分間さ せていただきます。              (スライド開始)  最初の頁ですが、看護の質を構成する技術について、私どもは1995年に1度調査をい たしました。兵庫県立看護大学の片田教授を中心とした班で始めましたが、そのときに がん性疼痛に限らず、いろいろな痛みがあります。例えば小児などの場合は、注射をす ることが痛い。IVHを入れることが痛い。そういう痛い処置というのは、医療現場で は非常にたくさんあります。そういう痛みを緩和していく看護師が持っている技術とは 何だろうかということを調査したことがありました。それは質的な調査で、参加観察を いたしまして、そのデータの内容を細かく分析していきました。  看護師は、患者さんがどのような痛みを持っていらっしゃるかということを、読み 取っていく技術が非常に優れておりまして、確かにそういう技術を具体的に持っており ます。それから、患者さんが痛んでいらっしゃる場の読取りということがありまして、 例えばその場に母親がいたり、重要他者がいたりする状況がありますが、そういうこと を読み取っております。患者さんがそれに耐えていく力。がんの場合は取れませんので 耐えることはできませんから、痛みを取るという方向にいくわけですが、例えばちょっ とした処置などは、少しの痛みを耐えなければいけない。そういう場合は、患者さんが それに耐えていくために、いま何を行っていますよとか、お薬を投与しましたが、あと 20分ぐらいで効いてきますよとか、そういうふうに先を見せていくことを盛んに行って いる姿が観察されました。  実際に痛みの介入技術として、お薬を投与するとか、暖める、マッサージなどを実際 にやっておりました。  そういうことが看護の技術としては実際にあるわけです。 ☆スライド これはPatricia J.Larsonという方がつくられた、インテグレーテッド・アプローチ・ フォア・シンプトム・マネージメントという、統合的なアプローチで、看護に焦点を当 ててつくられたアプローチのモデルです。これはがんの患者さんを中心につくられたも のです。こういう手順を踏んでいくと、うまくいくのではないかと。この方は兵庫県立 看護大学の元教授で、アメリカで開発したものを私どものところに持ってこられて、い ま淀川キリスト教病院などで実際にこのモデルを使っていただいています。  最初に痛みの定義自体が共有できていないと、痛みというのはその人が感じるとおり のものでありというのがあるのですが、痛みというのは、もちろん主観的なのですが、 その人はわがままで言っているのではないかとか、プラシーボは効くかもしれないと か、そういう定義で迫られてしまいますと、とても共有してやっていけない。  それからメカニズムはわからない場合もありますが、できるだけ明らかにする。その ことによっていろいろ使う薬剤が変わってきます。そのメカニズムが反映する形で患者 さんの体験というものが非常に変わってきますので、患者さんの体験世界というものを つぶさに調べるということをやります。その中で患者さんがその痛みを表現する力だと か、解釈する力、評価する力、そういうものが大体わかってきます。そうすると薬の管 理の力というものも大体わかってきます。  モルヒネなどを使い始めましたら、その患者さんが自分のセルフケア能力を使ってそ れを管理していくわけですから、患者さんの能力に沿いながら私たちは代償して補って いかなければならないケアを提供するということをしております。ケアの内容は主に知 識、技術、サポートの3点を与えるということで、モルヒネについて誤解をしていらっ しゃるようであれば、もちろん説明を差し上げますし、飲む時間ごとに飲めないのであ れば、飲むための技術、それは時間を知らせることだとか、ときどき電話をすることも ありますし、ピルケースに入れたり、チェックしたり、痛みを評価するために図を使う とかいうのも技術の1つです。  それから技術の中で重要なものは医師とコミニュケーションをする技術なのですが、 日本の患者さん方は、医師に対してなかなか自分の痛みを上手に伝えることができませ ん。ベッドサイドで私どもナースが聞きますと、「非常に痛い」ということをおっしゃ るのですが、医師が回診に行って聞きますと、「いや、大丈夫だ」とおっしゃるので す。そういうことを我々看護師は非常に経験するのですが、医師側としては経験がない ものですから、「そんなことがあるのかな」と言われるわけです。そういうことを代弁 していくこともしますが、できるだけ患者さんのお口で、自分の言葉でお話できるよう にお手伝いする。場合によってはロールプレイもするということをやります。そしてそ の活動の評価をして、もちろんQOLが上がったか、痛みは減少したのか、機能の状態 はどうか、その人の満足度はどうかということを評価いたしまして活動評価する、修正 する。こういう循環で疼痛緩和の活動をやっているわけです。  先ほど日本人は半分ぐらいの量で済むかもしれないということをおっしゃいました が、私どもはよく体験することなのですが、同じような痛みでも文化的な背景だとか、 その人の持っている文化的な意味と背景というものがございまして、その意味と背景に よって、その人の表現というものがずっと変わってきます。痛みは自分に与えられた試 練であると考えられている患者さんなどは、「ゼロにしないでくれ」ということもおっ しゃるわけです。私どもはそういう場合は患者さんの意見を十分お聞きして、それで日 常生活で起こってくる弊害、先を見せながら決定を一緒にするということをしておりま す。 ☆スライド  今日は麻薬のことですので、「医師との共働に見る看護の機能」ということで少し拾 い出してみました。投与を実際やります。これは先ほど説明があったとおりです。投与 中のモニタリングですが、鎮痛効果のモニタリングが大事なのですが、いろいろな投与 法がありますので痛みの程度と性質の変化、そういうものを見ていきます。かなり頻繁 に変えなければいけない。薬がどんどん変わっていく。特に最初の使い始めなどは、1 日のうちに何回もオーダーが変わる。そのたびに報告をして調整をするということがか なりあると思います。  それから先ほど出ました副作用、便秘、吐き気、眠気と3つ大きな副作用があります が、そういうもののモニタリングをきちんと行うということです。先ほど平賀先生が おっしゃいましたが、ネガティブな体験になってしまいますと麻薬を使うことすら拒否 してしまうという患者さんが出てこられますので、そういう体験にならないように私ど もで副作用を十分チェックするということです。  それから投与中の生活の変化、QOLの変化のモニタリングですが、じっとしていれ ば痛くないでしょうというのが、現場でよくあるのです。「患者さんは痛くないと言っ ているよ」と。「でも先生動けません」、「だってじっとしていたら痛くないんでしょ う」と医師から言われることがあるのですが、動けなかったら生活はできないのです。 QOLももちろんものすごく悪くなるわけです。それでは生きている意味というのが非 常に半減してしまうわけです。私どもが目標としているのは、患者さんがしたい生活が できて、そして痛みがないということを目標にしているわけです。心理的な変化のモニ タリング等も行います。  この辺のモニタリング機能というのは非常に大きくて、病院の場合は24時間そばにい ますし、訪問看護の場合もたぶん看護師さんが最もそばにいる時間数は多いと思いま す。ですから、専門家で最もそばにいるというと、看護師ということになりますので、 このモニタリング機能は非常に大きくなってくると思います。  それから「患者情報の共有」ということで、医師に対して情報の提供、調整の機能と いうものがあります。  それから「投与量や補助薬の検討」は、患者さんはもちろん参加していただきまし て、痛みのマネジメントというのは患者中心でなければならないというのが1つあるの ですが、もちろん痛み等々の症状はすべて主観でして、患者さんが最も症状マネジメン トのエキスパートである、ということをDr.Larsonは強調して言っております。痛みのマ ネジメントについてはまず患者に聞けと。エキスパートは患者なんだということを肝に 銘じて、患者さんに参加していただくということを言っています。もちろんお話ができ ない場合は、代弁をするということもやります。薬剤の管理に関しては、これは法律上 いろいろなことがあると思いますが、現実では残量の管理などはやっております。 ☆スライド 「麻薬による疼痛マネジメント 看護独自の役割」には何があるのかと。いま申したの は、医師との共働作業でやることですが、ここに書かれているのは看護独自の機能とし てあります。  患者の生活支援、セルフケアを支援すること、治療への参画を支えること。どうも 引っ込み思案で、「お任せします」と患者さんはすぐ言われるのです。ですから、そう ではなくて「あなたの痛みなので、あなたが中心になって治していくのですよ」という ことをやはり申し上げて、なるべく参加してもらう。ただしセルフケア能力が非常に低 い、特に末期になりますとどんどん落ちてまいりますから、そういう場合は全代償とい う代償を看護師が専門的に行っていくという働きももちろんあるわけです。ですから、 何が何でも患者さんのお尻を叩いてやらせるという発想ではもちろんありません。  それから患者さんも痛んでいらっしゃいますが、それと同時に患者さんの家族の方々 も非常に痛んでおられますので、家族のケアが必要です。  それから、関係する人々の意見の調整は未告知の問題の場合の麻薬の取扱いで、残量 があった場合、家族も患者もそのことを知らないで使っているということで、日本には 現実にあるのです。そういうこともありますので、未告知の問題があるのですが、その 場合の倫理的な判断。それから症状緩和に対する意見の調整、そういうものも実際には 行っております。 ☆スライド  「麻薬の管理技術」に関して看護師が行っていることです。「投与方法の選択」は、 もちろん医師が行っているのですが、私どもはやはり情報を細かく提供して、それに よって医師の判断がより良くなるようにという支援をする働きが看護師にはあると私は 思います。「身体機能的な問題とQOLの考慮」、これは、QOLのバランスというの がありますので、例えばうんと痛くなったときに眠ってしまうようにセデーションをか けてしまうということもあるわけです。そうすると、確かに痛くないのですが、QOL は悪くなってしまいます。そういう鬩ぎ合いの部分のところでは選択が非常に問題に なってきますので、投与方法の選択等では議論をかなりするわけです。  投与技術に関しても、経口、皮膚から、直腸から、皮下から、静脈から、硬膜外から というふうに、いろいろな投与方法がありますので、それぞれの刺入部位の観察、貼付 部位の観察、感染の観察、ポンプの管理というものをやっております。それからきちん きちんと時間で投与しませんと、効果が上がってきませんのでそういう定時投与と記録 の管理をする。 ☆スライド  それからすごく大事なのは、患者さんは服薬等に関して自己管理能力というのをお持 ちなのです。もともと患者さんはそういう能力をお持ちなのですが、やはり教えてもら わないとわからないということはたくさんございまして、それをわかりやすく教えてい くということが必要で、この方がどれぐらいその事がおできになるのかということを細 かく見ていく必要があると思います。それから家族がどこまでできるのか、それで医療 者がどこを支えればこの人の麻薬の管理はうまくいくのか、ということを査定する技術 を看護師は教育されていると思います。  それから、「症状マネジメントの主役を促す技術」。これは先ほど言いましたように 患者さんが主役なので、医師だけではなく看護師ともですが、医療者と良いコミュニ ケーションを作っていくための技術、患者さんが中心にいられるような働きかけをする ということです。そのためには患者さんとかなりいろいろなことをお話したり、「言っ てみましょう」とか「これを使ったら言えますか」とか、いろいろな方法を提供して、 やれるようにしていきます。  「麻薬の管理技術3」は「必要な知識」。これは偏見をなくすような働きかけもしま すし、投与中の身体の管理方法。特に副作用がございますので、薬がどんどん増えてい きます。痛み止めを使いますと、少なくとも便秘の薬とか、吐き気の薬とか、そういう ものは同時に出ていきますので、何だか薬が増えていってどんどん自分は悪くなってい くのではないかと患者さんはお考えになりますので、体の管理の仕方等々をお教えしま す。  それから「技術の習得」は、飲み方、痛みの評価方法、薬の評価方法も患者さんは習 得していただきます。レスキューの使い方、使用判断の技術、コミュニケーションの技 術、そういうものを伝えていく。  それから「サポート」は、患者さんが私どもの言う通りにそのままやってくださると いうわけではなくて、やはり患者さんの麻薬に対する価値観とか、考えとか、自分の最 期の終末期のあり方についての考えとか、そういうものがありますので、そういうこと を認め尊重し、そしてQOLが多少悪くなってもその人の考えが、十分な治療方法を得 てもそう判断なさるのであれば、支持していくということももちろんいたします。  これは国立がんセンターの平賀先生の所で使っていらっしゃるパンフレットで、私ど ももよく使わせていただくのですが、とてもわかりやすく書かれていまして、しかも専 門的なことが非常にわかりやすい。こういうパンフレットを使いますと、患者さんはよ く理解していただけます。  これも痛みの記録ですが、私が担当している患者さんは、これを使い始めたことに よって医師に伝えられなかった自分の痛みが伝えられるようになりました。というの は、医師はベッドサイドに来るのですが、すぐどこかに行ってしまうのです。それで 「どうですか、痛みは」と言われたときに、まずこのシートを1週間分ポンと出すので す。自分と医師との間に取りあえずこれが出てくると、患者さんもそれを使って、「こ の足の付け根の所がジーンと痛いんでな」とかいうふうに話を始められる。ということ で、こういうものを使います。  サポートですが、先ほど言いましたように患者さんの価値観等ともよく考慮して、サ ポートをしていく。これも非常に大事です。在宅の場合は、病院からお帰りになるとき は電話を週に1回入れるとか。向こうから電話をなさるのはすごく気が引けるのです が、こちらから電話をしていく分にはとても喜ばれるのです。非常に支えになるのでそ ういうことをしたりしています。 ☆スライド  これは私がした研究ではありませんが、「わが国におけるターミナルケアのあり方に 関する基礎調査」ということで、私の所の講師が3月に行った調査で、訪問看護師4,989 名、病院看護師5,440名を対象にして全国の調査をしました。緩和ケアに関係あるところ だけ抜き取ってきました。  「症状緩和についての医師との調整」というので、訪問看護師が「困難と感じる」と いうのと「困難と感じない」、「普通」の3つに分けているのですが、困難群が32. 4%。身体症状の緩和ケアで困っているというのが半数近くおります。Nが5,027という ことです。 ☆スライド  次は病院看護師についてです。これで見てみますと、やはり医師との調整で困ってい るのが3割近く、身体症状の緩和ケアも4割近くの看護師が困っていると。Nが5,447名 ですが、困っているということです。だから症状緩和は必ずしもうまくいっていない。  訪問看護の何が課題ですかというので、90%の看護師が、症状緩和に困っている、非 常に重要な課題であるということで2番目に挙げております。 ☆スライド  WHO方式のがん疼痛治療法の知識について聞きましたところ、「あることを知って いる」、「内容をある程度知っている」、「内容をよく知っている」、「知らない」と いう回答をいただきまして、病院の看護師のほうが知っている率が高いのですが、この データからは、WHO方式の治療法の知識は看護師みんなが持っているわけではないと いうことがあります。それは7年前の1995年に渡辺が調査したのとほとんど同じ質問で 聞いているのですが、ほとんど同じ結果で、ここ7年間で看護師に対してWHO方式は あまり普及していないのかもしれないという、少し残念な結果です。 ☆スライド モルヒネの使用についての説明ですが、「説明ができる」、「多少は説明できる」、 「できない」、「わからない」という回答でやってもらいましたところ、病院の看護師 のほうが若干「説明できる」という数値が高いのですが、訪問看護師のほうは「説明で きる」という方は14%で非常に少ないのです。「多少は説明できる」という人を加える と、この「多少は」というのがどれぐらいなのか全然幅が広すぎてわからないのです が、「できる」と答えた方々はかなりできる方々だと思います。しかし、「多少」とい うのは非常に幅がありますので、何とも言いがたいのです。これも少し残念なデータで すが、看護師がモルヒネについても、WHOについてもよく知って、そのことを使いこ なしているということではどうもないということが1つあります。  「訪問看護師が症状緩和で困っていること」というのは、実はこの調査は自由記載を 持っておりまして、そこを拾い出しました。非常に頻度が高い、これは頻繁に出てくる というものだけを拾い出しますと、ここに書いてあるものが挙がってきました。「医師 の往診体制が不十分である」、「医師に緩和ケア技術が普及していない」、「医師が緊 急時に対応出来ない」、「意見の調整」、「医師がターミナルケアに消極的である」、 「コントロールが難しい事例では看護師も経験不足である」、「家族の負担や不安への 対応が難しい」ということが頻度が高いのです。実は、この自由回答のところはそんな にたくさんいつも調査して出てくるわけではないのですが、この調査に限ってはものす ごくたくさんの方々が多くの意見を書いてくださっています。その中で頻度の高いも の、これは全員が書かれているわけではないので頻度を数えても意味がないのですが、 主だったものを挙げてみました。 ☆スライド  実は兵庫県には5つの緩和ケア施設がありまして、いま申請中が1施設あります。実 は緩和ケア施設先進県なのです。県立は1つもないのですが、民間が5つある。非常に 状況としてはいい状況なのですが、そこで調べたものです。これは県立成人病センター の熊野先生たちが調べられたもので、県内の全病院350カ所と診療所の9割に当たる3, 936カ所に調査をしたものなのです。病院の回答からかいつまんで見ていきますと、「積 極的に終末期患者を受け入れている」が16%、「終末期患者を受け入れているが不十分 だと思う」が55%。これはかいつまんで見ていますので円グラフなどにしていません が、新聞記事の中に特集記事があったので拾い取っています。「あまり受け入れたくな い」が12%、「院内に緩和ケアチームがある」が8%、「将来地域で終末期医療の中心 的な役割を果たしたい」が42%、「終末期医療ネットワークの参加を希望する」が66% という、医療機関からの回答です。 ☆スライド  次は診療所からの回答です。Nが2,185で、「積極的に受け入れている」が9%、「状 況に応じて受け入れている」が41%、「全く受け入れていない」が49%。実はこの辺は 円グラフになっているのですが、これ以下は円グラフではなくて単独の質問です。「モ ルヒネの使用経験がない」が55%で、「将来も終末期患者の受け入れには否定的であ る」が66%、「在宅の終末期ケアを支援する専門機関やシステムが必要」が96%。です から、自分の所では診たくないが、そういうネットワーク等々で公的機関の整備をお願 いしたいということを強く開業の診療所の先生方は言っておられるのです。そして病院 施設のほうもそういうネットワークは必要で「参加をしたい」と言っていて、どうも終 末期を診療所レベルで診ていくというのは荷が重いのかなというふうに見受けられまし た。  そういうことで、看護の役割を包括的に最初お話しまして、あと麻薬に限定していく つかお話をさせていただきました。どうもありがとうございました。 ○川村座長  どうもありがとうございました。引き続いて藤上先生に薬剤師さんの立場からお願い いたします。 ○藤上委員  それではご紹介いたします。                  (スライド開始)  平成6年の10月から調剤法の中に在宅訪問薬剤管理指導が認められまして、在宅医療 に対する薬剤師の活動が本格的に始まっております。今日は「在宅医療における薬剤師 の役割」ということで、疼痛緩和医療を中心にご紹介したいと思います。 ☆スライド  「訪問薬剤管理指導業務」の流れですが、これはまず医師による訪問指示が出されま す。これは処方せんに大体基づいています。そうしますと、薬剤師のほうは薬剤の調整 などを行いながら、それをもって患者宅を訪問する。訪問して薬剤管理指導業務をが行 うという形です。疼痛緩和に関しましても、通常の訪問薬剤管理指導の流れの中で行わ れていきます。 ☆スライド  これは「在宅患者訪問薬剤管理指導の算定」はどのようになされるかですが、医療保 険のほうでは訪問薬剤管理指導と言っております。こちらのほうは、今年の4月の調剤 報酬の改定で、月の1回目が500点、2回目以降は1回300点の月4回まで、麻薬加算は 1回100点の月4回まで算定できるという形になっております。  介護保険のほうは、介護報酬の改定が来年ということで、これは居宅療養管理指導と 言っておりますが、いままでどおり1回当たり550単位の月2回まで、麻薬加算は100単 位の月2回までということになっております。ただ、これはあくまでも介護保険上、医 療保険上2回まで、4回まで算定できるということで、私たち薬剤師は必要であれば2 回、4回、5回という形で行われ、特に疼痛緩和に関係しておりますと、月に8回、10 回といったように訪問するということもそんなに稀なことではないということも経験し ております。 ☆スライド  「訪問薬剤管理指導の算定要件」ですが、これは医師の指示に基づいて、患者さんの 同意を得て、薬学的管理指導計画を作って、そして薬学的管理指導を行い、必要に応じ て行った内容の情報提供を医師に対して文書で行った場合に算定できるという形になっ ております。  お手元に簡単なものですが、(様式1)医師から薬剤師へ、(様式2)薬剤師から医 師へという情報提供書を入れておきましたが、この文書形式というのはそれぞれの薬 局、あるいは薬剤師、医師、医療機関の工夫でさまざまなものがあります。服薬指導と いうことで、大事なことは患者さんがどのように病気を理解しているか、ということが いちばん重要になってくるわけですが、病気についての説明というのは主治医の先生に お任せして、私たちは患者さんの症状を治療するための薬についてわかりやすく指導す る、ということが重要であると思っております。 ☆スライド  先ほど「薬学的管理指導計画」という言葉が出てきましたが、これは患者さんの心身 の特性及び処方薬剤を踏まえて作っていきます。実施すべき指導の内容、患者宅への訪 問回数、あるいは訪問間隔といったものも計画の中には入ってきます。  訪問後には、必要に応じて新しく得られた患者さんの情報というものを踏まえて、計 画の見直しが行われます。少なくとも月に1回、処方変更の場合も適宜見直していくと いう形になります。 ☆スライド  薬学的管理の内容は、薬剤服用歴への記載が義務づけられております。どういったこ とを記載するかといいますと、患者さんの基本的な情報を踏まえてどういう指導を行っ たかとか、訪問時の指導の要点、あるいは処方医に提供した訪問結果に関する情報の要 点、こういったようなものが薬剤服用歴の中に記録されていきます。 ☆スライド  これは麻薬管理加算です。これは麻薬が処方されている患者さんに行った場合に算定 できるという形ですが、麻薬についてのいろいろな情報、取り扱い、あるいは麻薬によ る鎮痛効果がどうであるか、副作用の有無はどうだろうかといったようなことを行いま して、処方に対して必要な情報提供を行った場合に算定できるという形になっておりま す。  患者さんというのは、「モルヒネ」という言葉よりも「麻薬」という言葉に敏感に反 応されます。麻薬というのは、薬剤師にとっては規制がたくさんあって、管理すること が厄介な薬ですが、患者さんにとっては麻薬も処方された薬の1つである、1つでしか ないということです。患者さんには処方された薬の一般的な管理方法ということで、確 実に指導していくという形を取っております。モルヒネに関しては、まず副作用を知る こと。そして副作用をどうやって抑制していくかということ。決められた時間どおりに 服用するということ。もう1つは痛みが強くなった場合にどういう対応をすればいいの か。また、服薬を急に中止しますと、退薬症状みたいなものが出てくる。そういったよ うなことを患者さんにお伝えしていきます。 ☆スライド  「麻薬管理指導に関する薬剤服用歴への記録事項」、これは通常の薬剤服用歴記載事 項に加えて、麻薬に関して行ったことを記載していくわけですが、患者さんや家族から 返納された麻薬の廃棄に関する事項も記録していくという形になっております。 ☆スライド  末期がんの患者さんが本人の希望で在宅医療を受けたいと思ったときに、それがス ムーズに実現するためには、いくつかのハードルがあるのかなと思います。1つは告知 についてということで、病名・予後の告知の有無が状況を左右するということです。病 名や予後の告知を受けていない患者さんの場合は、在宅に移行してもうまくいかない場 合が多いということを私たちは経験しております。  また、ターミナルケアでは症状の進行が早い場合があります。他の在宅医療スタッフ と互いに迅速な情報の提供や交換を行い、対処する必要性が出てくるということ。そし て薬剤師としては、症状の変化に伴う処方変更に迅速な対応をすることが求められま す。もう1つは緊急対応及び臨機応変の対応が必要になる、そういう必要性が出てくる ということも認識しておかなければいけないのかなということです。 ☆スライド  これは在宅期間が1週間で終わってしまった患者さんなのですが、大学病院で手術を 受けて良くなるだろうと思っていたら、なかなか良くならない。自宅に戻りたいという 本人の希望で、告知はされないままHPN療法を受けながら退院という形になっており ます。薬局には院外処方せんとしてHPN調剤の依頼がありまして、無菌調製をし、訪 問薬剤管理指導を行った。ところが患者さんは自分の病状が手術まで受けたのに徐々に 悪化することに非常に疑問を持って、1週間で再入院になってしまったということなの です。  私たち薬剤師は、告知がなされているか否かということよりも、先ほども申し上げた ように、患者さん自身がご自分の病気をどのように理解しているのかということが大事 になります。病気に対する不安とか、薬に対する不信感を持っている患者さんには、副 作用を知ること、副作用を抑えること、それが闘病にプラスになるということなどを伝 えますが、闘病に前向きな気持を持っている未告知の患者さんに対しては、告知の検討 をカンファレスなどで提案するということがございます。  こうした状況での薬剤師の役割というのは、医師と患者さん、患者さんと医師の中継 ぎをすること、黙っている患者さんの思い、それを表に引き出してあげるという役割も あるのではないかと思っております。私たちは患者さん宅を訪問するときに、医師ある いは看護師さんたちと一緒に訪問することもございますが、なるべくならば単独で訪問 するということを心掛けております。  病棟活動を始めてよく経験することは、「先生には言わないでね」、「看護師さんに は言わないでね」。たぶんこれは「薬剤師には言わないでね」ということもあると思う のですが、そういう言葉で相談を持ち掛けられることがよくあります。これは私は非常 に大切なことではないかと思います。いろいろな患者さんの思いをぶつける対象が多け れば多いほどいいのではないかという思いもありまして、単独で訪問するということを 心掛けております。 ☆スライド  これは在宅期間が3カ月ということで、非常にうまくいった例です。最終的にはMS コンチンが1日に460mg、塩酸モルヒネが持続皮下注で475mgという処方になりました。 病院を退院してきた当初は、MSコンチン240mgぐらいでコントロールされていたのです が、3カ月目に入る頃から塩酸モルヒネが加わっております。塩酸モルヒネは持続皮下 注なのですが、当時は1cc中10mgの製剤しかなくて、これだけの量を投与するのに持続 皮下注モルヒネを2本使って投与したという経験があります。  この患者さんは、告知を受けて治療には積極的に応じていらっしゃいました。亡く なったときは54、5歳の主婦の方だったのですが、3日前までは食事の用意などの簡単な 家事も行うことができていたという患者さんです。  入院する前の3日間というのは傾眠傾向が徐々に強くなりまして、家族が不安を感じ て入院となった。入院5日後には亡くなっていらっしゃる患者さんです。  がん疼痛治療の目的というのは、痛みを取り除いてできるだけ普通に近い生活を続け てもらうということにあるのかなと。もう1つは、患者さん自身がモルヒネの服用のコ ントロールをして、確実に痛みから解放されるように根気強い指導というよりも、サ ポートが必要なのかなというふうに私は思っております。 ☆スライド  これは緊急対応の例ですが、この患者さんは1日30mgのMSコンチンの投与で安定し た状態になっていたのですが、亡くなる前日の夜8時ごろに急激な痛みが出てきた。家 族の方が看護師さんに連絡をした。看護師さんは主治医に連絡したのですが、主治医の 方は遠方に外出していた。ただし電話連絡が可能であったということです。主治医の先 生からは通常薬を提供していた保険薬局のほうには、「アンペックの注射10mgを10本患 者さんのお宅に届けてください」というような指示がありました。緊急を要したという ことですので、すべての麻薬管理上の手続を省略して、アンペックの注射薬を患者さん 宅に届けました。看護師さんは電話で指示されたとおり処置して痛みが治まったという 状況ですが、次の日の早朝、息を引き取ったという旨が薬局のほうに連絡がありまし た。主治医の先生も早朝往診なさったようですが、こういった場合などに、いわゆる法 規を超えてやらねばならない事態が発生したときに、臨機応変の対応がどこまでできる のかなということです。 ☆スライド  これはいま現在、疼痛緩和に用られている薬剤・器具です。1日1回、あるいは2回 の服用で痛みのコントロールができる硫酸モルヒネ徐放剤が出てきたということが非常 に疼痛緩和のためにはいいことだったのですが、今年の3月にはフェンタニルという貼 付剤が市場に出てきております。これはモルヒネからの切替え投与が原則となっており ますが、72時間の持続効果があります。これが出てきたことで経口投与ができない人、 坐薬が投与できない人には朗報だったのではないかと思っています。  もう1つは、このフェンタニルはモルヒネの副作用が出て使えない患者さんに対して も使える可能性がある薬剤ではないかと思っております。ディスポーザブルの持続皮下 注入器は、2日用・5日用・7日用とあります。ロックアウト時間が1時間、あるいは 15分のものとありますが、これは痛みが強くなったときに患者さん自身で追加投与がで きる。1度追加投与したあと、1時間経たなければ次の投与ができない、15分経たなけ ればできないよといったようなことです。もう1つは、先ほど1cc中10mgのモルヒネし かないということがあったのですが、昨年、5cc中200mgの高濃度の塩酸モルヒネが出て きまして、これは在宅での高容量の持続皮下注を使うときには非常に有用ではないかと 思っております。  在宅ホスピスケアの形というのは、いくつかの機関と連携するという形のものと、1 つの医療機関に関係者が揃っていて、1つの機関でできるものといろいろな形がありま す。お手元の資料の中に仙南地区在宅ホスピスケア連絡会の資料が入っていますが、こ の連絡会は事務局が仙南保健福祉事務所となっているようです。ここが在宅医療を希望 する患者さんを地域の主治医、訪問看護ステーション、保険薬局、行政、あるいは紹介 病院などと連携して、地域で受け入れて、患者さん、あるいは患者家族への支援を実践 してきた取組みの紹介です。  内容は患者さんが入院している病院から、地域の関係者でケアチームを立ち上げるま での流れと、各関係者の役割、関係者間での情報の共有化をどう図るかということがま とめられております。こういったような取組みがいろいろな所で出てくると、在宅の疼 痛患者のケアというのはやりやすくなるのではないかと思います。  この仙南地区での取組みの1つの重要なポイントは、それぞれの関係者の活動がきち んと評価されて、次へのステップアップにつながっていることであると私は思っており ます。在宅ケアを受けている患者さん、あるいは末期がんの患者さんが闘病している居 宅を1ベッドの医療施設と考えて、主治医、看護師、薬剤師等、医療スタッフ、あるい は介護スタッフが患者さんの家族とともに患者さんのために、それぞれの役割を発揮す るのが在宅医療支援システムであろうと私は思います。このシステムが円滑円滑に進ん でいくためには、やはり医師、看護師、薬剤師など各医療スタッフ、介護スタッフが共 通の言葉を持って、互いに緊密な連携を取り、情報交換をするということが最重要の条 件ではないかと思います。  最後に、在宅医療で使用される医薬品、医療用具、衛生材料などは薬局、あるいは薬 剤師が責任をもって提供する、というようなことをお伝えして紹介を終わりたいと思い ます。ありがとうございました。 ○川村座長  大変、実践的なお二人のお話を伺いました。ありがとうございました。何か、お二人 のお話にご質問、ご意見がおありでしょうか。 ○内布委員  薬剤師の方の中で管理薬剤師という方は何パーセントぐらいいらっしゃいますか。 ○藤上委員  保険薬局には必ず管理薬剤師は1人置かないといけないということになっています。 ○内布委員  全薬剤師の数の中では、パーセンテージはいかがですか。 ○藤上委員  全薬剤師はよくわかりませんが、全国では保険薬局があるのが4万6千ぐらいでしょ うか。だから、それぐらいはあるのではないかと思います。薬剤師全体では、病院薬剤 師、保険薬局の薬剤師合わせて、たぶん、いま14万人の薬剤師がいると思います。そう いう状況だと思います。 ○内布委員  麻薬の破棄、処分などをするときに、管理薬剤師が立会うというのがありますね。病 院の薬剤師が例えば10人おられて、1名が管理薬剤師で、後の方は違う場合は、その 方々は役割は果たせないのですか。 ○藤上委員  現実には麻薬管理者という者が大体1人、薬剤師でいますけれども、もし薬剤師でい なければ、医師がなるのです。そういう人が立会いの下に廃棄するという形になりま す。ただし、麻薬の調剤はすべての薬剤師ができます。 ○内布委員  看護師が麻薬を取り扱うことにどう関与していくかということに、実際はいろいろい まやっていますが、医師の中でも麻薬は取り扱える医師とそうでない医師があり、薬剤 師の中でも管理ができる方とそうでない方とがいらっしゃるわけです。先ほどの調査を 見て、私も思ったのですが、すべての看護師が麻薬を取り扱えるようになるというふう にしてしまうと、流通過程で厳密な管理が法律上もなされているので、それは難しいか なと思いますが、先ほどの10数パーセントの看護師で、「説明できる」、「よく知って いる」という方々というのは、かなり講習会などを受けておられて、麻薬に精通して、 使い慣れていらっしゃる方々とか、訪問看護ステーションの長とか、そういう方々はや はり、ある程度麻薬を責任持って保管できるとか、そういうことができると、在宅は非 常に進みやすいのではないかと思います。  しかし、調査を見ていると、全部の看護師にそれができるようになるというのは、か えって危険なのではないかと思います。いま、麻薬はいろいろ流用して、社会の問題に なったりしているので、そうしたほうがいいのではないかと思ったのです。 ○藤上委員  麻薬に関しましては、麻薬取締法等、いろいろな規制がありますね。その規制に基づ いて行われなければいけないと思いますが、ただ、臨機応変に対応しなければならない というときには、やはり医師、看護師、薬剤師、それぞれの連携のあり方が重要になっ てくるのではないかと思います。 ○上野委員  在宅でも、この頃麻薬の取扱いというか、ターミナルが入ってくることもあって、ほ とんどが病院経験者の看護師ですので、全く知識がないわけではないのですが、熟知し ているというわけでもないというところがあります。やはり、前回お話したとおり、プ ロトコールが麻薬に関しても出来ていますので、そこを使いながら、もちろん知識を深 めていくことは大事ですが、医師との関係、調剤薬局との関係等を深めていくことが大 事なのではないかというふうに思います。  ただ、私はステーションで麻薬を管理するということは避けたいというふうに思いま す。ステーションは1つの事業所ですので、看護師が麻薬管理者になれるわけでももち ろんありませんし、そこに管理するだけのものもありませんので、やはり麻薬そのもの は、例えば利用者さんのお宅であったり、調剤薬局であったりすると思うのですが、も し亡くなられたときには速やかにそれをお返しするというふうな手法で、取扱いの仕方 をきちんと考えていかなくてはいけないのではないかと考えます。 ○藤上委員  私もそう思います。だから、保険薬局、あるいは薬剤師としては迅速な対応がどれだ けできるかというところになってくるのではないかと思います。それはしなくてはいけ ないのではないかと思います。  先ほど、どなたからか、現時点で保険薬局で麻薬の取扱いを取っているのが少ないと いうようなお話がありましたが、これは医薬分業が進んでいくということと、もう1つ は院外処方せんで麻薬が出るということが通常になってきますと、薬局のほうでも対応 せざるを得ないし、対応していかなくてはいけないのではないかと思います。 ○上野委員  もう1点なのですが、これは薬剤師というよりも、先ほどのデータにありました在宅 の開業医の先生の麻薬管理者が36%という数字だったのですが、やはり、在宅をこれか ら推進していくときには、ターミナル、特にがんの末期が在宅に帰ってきます。病院か ら帰ってきたときに、どうしても具合が悪くて、先ほどの例では病院に戻っていらした ようなのですが、在宅で最後まで看取ってあげたいというときに、病院の先生は往診は しませんので、そうすると、在宅の医師に麻薬の取扱いをしていただく。そして在宅で 看取ってあげたいというふうに思うのです。そうすると、在宅の開業医の先生が麻薬取 扱者になっていただくような手法を進めていけないものだろうかと思います。退院にな りまして、麻薬を使わなくてはいけないときに、実は先生が麻薬管理者になっていない ので扱えないという事例が実際にあるので、そこらをクリアーできないかと思います。 ○藤上委員  仙南地区における在宅ホスピスケアの中では、在宅でケアを受けたいという患者さん が出てきますと、たぶん行政だと思いますが、行政が間に入って、地域でチームでケア ができるような形に、ケアチームを立ち上げるような形になっているようですが、こう いう形のものが進んでいけばいいのではないかと思います。そういう所に診療所の先生 方も名乗りを上げていただけるといいのではないかと思っています。 ○國井委員  協会などでよく聞くのは、在宅で緩和ケアをしているときに、麻薬の管理が難しいの で、実際に受けていない訪問看護ステーションが多いように聞いています。結局、難し いというのは、管理ができない、いわゆる保管ができないとか、何かのたびに、いちい ち患者さんのご家族か担当のナースが行かなくてはいけない。それが緩和されること で、例えばきちっと教育を受けた管理者とか、そういうところに管理することが可能に なると、もうちょっと在宅ホスピスの緩和ケアが推進されるのではないかというのが私 の意見です。  いまのご報告にもありましたが、実際は診療所の医師たちは必ずしも、在宅のホスピ スケアにそんなに積極的でないときに、わりと側にいるナースにその役が広がればいい のではないかと私は逆に思いますが、いかがでしょうか。 ○藤上委員  というよりも、先生方のほうがそこに入っていく、取り組んでいくという意識が出て くるほうがベターではないかと思います。やはり、それぞれの役割がありますし、無制 限にいろいろなことを規制緩和していきますと、いちばん最後に損をするのは、患者さ んではないかと思います。やはり、看護師や薬剤師が、こうこうこうしたいという思い がある前に診療所の先生方がそういった取組みをしてくださるようになっていくのがよ いのではないかと思います。 ○國井委員  その検討は私たちと違うところなのでできないのですが、現状の中で、これから在宅 死を希望される方も増えてくるときに、いわゆるきちっと教育を受けた看護師の役割を もう少し増やしていくことも、患者さんにとっては非常に効率的といえるのではないか と思います。 ○藤上委員  西澤先生、いかがですか。 ○西澤委員  立場が病院協会から出ているものですから、診療所の先生方のことに対して、私が言 及するのは、少し違うのではないかという気もするのですが、医師として発言させてい ただくと、看護師の方、薬剤師の方々がかなり積極的にターミナルケアを在宅でやろう とするときに、やはり医師として、私たちも積極的に行っていく責務は必要だろうと思 います。これは日本医師会と私ども病院団体も協力しながら、何らかの形で進めていき たい。  また、それぞれの職種の協力、チーム医療が必要ということを、委員の皆さん方もこ こで非常に発言されています。その8中で医師の役割というのが非常に重要ではないか と思っています。また、診療所の先生方の30数パーセントといっていましたが、それぞ れの診療科目によっては、全く絡まない診療科があると思いますので、このパーセン テージを低いと見るかどうかというのは、また別問題だと思います。 ○柳田委員  考えてみますと、リスク・マネジメントとか、あるいは最近いろいろな医療事故が起 こっている中で、我々はそれに逆行する議論をやっているわけです。しかしながら、在 宅医療へシフトしていくのであれば、それに対応していかなければならないわけです。  いま西澤先生がおっしゃいましたように、お三方の貴重なご意見を拝聴して、やはり 在宅医療に関して、今後医師が大いに関与していかなければならないことであります。 ただ、いままでの麻薬管理者は特定の人に課されていて、しかも定期的に申請をしなけ ればならないというようなことできたわけですから、やはり麻薬を取り扱う方に対して は、それなりの縛りというようなものも必要ではないかと思います。それと、懸念しま すのは、本当に医師の指示で、0.7ccという指示が出た場合に、果たして本当にその麻薬 を0.7cc注射しているのか、あるいは、その残りはちゃんと届け出るのでしょうが、その 辺りが心配なわけです。その辺のことを言いますと在宅はできないということになるの ですが、事が麻薬ですので、この辺はもう少し医師、看護師、薬剤師の方々と、それに 法的関係をどうするかの議論を深めなければならないと思っておりまして、私は今日1 回の議論では、とても結論を出すわけにはいかないというふうなことできています。も う少し議論を深めさせていただきたいと思います。また、次回にでもお願いいたしたい と思います。以上です。  ○川村座長  先生、議論を深める場合に、何かこの点をというようなご指摘がございますか。 ○柳田委員  麻薬を取り扱うわけですから、いままで医師、歯科医師、薬剤師というふうにして管 理者として決まっていたわけですので、法的問題も含めてこの辺をもう少し考えていか なくてはならないと思います。この問題に関しては、私は慎重になっています。 ○川越委員  2つのことをお話したいと思います。1つは全国調査のことと、もう1つは私の個人 的なことで、末期がんの方を診ていて、特に看護師さんたちがこういう仕事をやってい ただけたら助かるんだなということです。  全国調査というのは、昨年度、笹川研究財団から補助金をもらいまして、全国で末期 がんの方を診ているという医療機関の調査を行いました。これは最終的に、この7月ま でで412件登録されているわけですが、いまがんで家で亡くなる方は大体2万人という計 算がされています。その中の1割ぐらいが、ここで取り扱われている数に相当します。 そういう医療機関の412例のうちの大部分が無床の診療所です。248医療機関です。  今日のモルヒネの件ですが、全部話していたら長くなりますので、1つ2つ指摘した いと思います。1つはモルヒネの経口剤などは無床診療所でも非常に沢山使われていま す。93.1%です。問題はCSIと言われている持続皮下注を無床診療所でどのくらい使って いるかということです。これは52.2%です。一方、200床以上病院で、回答が49例あるの ですが、そこでは「行っている」というのが39機関で79.6%ですから、そういう所と比 べると、非常に少ないということがまず言えます。  それから、疼痛緩和を先ほどの平賀先生の話にございましたように、「一定の方式で 行っているか」ということに関して、これはやはり、かなり問題があります。先ほどの 病院との比較で言いますと、49病院の中で、45機関、91.8%は一定の方式で行ってい る。ところが診療所ですと、247の中の144、58.3%しか、一定の疼痛緩和を行っていま せん。  ということで、簡単にまとめますと、やはり無床診療所が末期がん患者の在宅ケアを 担っているということは間違いないと思いますが、そこでの疼痛管理ということがまだ まだであるということが言えると思います。  それから、私のほうでやっている経験の中で、いろいろ「新たな看護を考える」とい うことで、いろいろな現場からの注文がありますので、その話をしたいと思います。前 回のこの会で、私の働きについて、詳しくお話しましたが、今日は疼痛緩和のことにつ いて、ちょっとお話したいと思います。  2年間で153人の方を、家で最後まで私は主治医として看取っています。家で亡くなっ ています153人の中の、経口モルヒネだけという方が42人、モルヒネ坐薬のみというのが 10人、持続皮下注のみというのが14人、あとIVHがありますが、モルヒネの経口と坐 薬というのが28人で18%です。  ちょっと前後しますが、153例の中で、モルヒネを使ったという方は113例です。パー センテージにしますと、73.9%になりますが、大体3/4ぐらいの方がモルヒネ、オピ オイドを使って疼痛管理をしています。  現場でやっていますと、問題はいくつかあります。是非検討していただきたいのは、 順不同になりますが、1つは廃棄の問題です。麻薬の廃棄というのは結構面倒くさいの で、私たちの希望としては、患者さんが自宅で処分するという方法を何とか検討してい ただけないかと思います。例えば、私たちは、患者さんが亡くなった時点で、必ず家族 の方に往診したり、訪問看護をするわけですが、私達医療者その立会いの下でトイレに カプセルを開いて粉を流す、そういうことを認めていただく。ちゃんとした記録に残し てやるというようなことがあれば、すごく助かります。   というのは、独居の方も いらっしゃいますし、老老介護というようなこともありまして、家族の手がないことが あるのですね。私たちは院外処方ですから、持って帰るといっても置く場所がないの で、持って帰れません。その場で処分しなければいけないので、そういう廃棄の方法を 考えていただきたいということが1つです。  あと、CSIという持続皮下注の件です。これはバルーン式のみが認められているの ですが、たぶんシリンジ式にすると、家族が動かしてしまうということを心配されてい るのではないかと思います。そんなことをいうと、これは実は経口薬についても同じこ とが言えるわけです。1錠と言っているところを2錠飲むということも当然考えられる わけです。もし、そういうことが理由だとしたら、シリンジ式のポンプも使えるような 形で検討していただきたいということでございます。  それから、看護師さんのほうに是非やっていただきたいことがあります。法的に今後 検討していただきたいことですが、その前に医者の占有権でこれはちょっと譲れないと いうことについて話しておきます。1つは麻薬の開始についてであります。これは、や はり医者が決定しなければ、絶対に無理だと思います。もう1つは、麻薬の種類の変更 です。容量の変更については、後で話しますが、一定の条件のもとで、看護師の裁量に 任せてよいと思います。例えば、MSコンチンからカディアンに変えるということは、 あまり問題ないわけですが、いわゆるDDSといわれている変更ですね。例えばMSコ ンチンからアンペックに移すとか、あるいは経口モルヒネから皮下注、それから硬膜外 にやるという場合です。もう1つは製剤とDDS変更です。例えば、モルヒネからフェ ンタニールパッチへ移行する、しないという問題ですね。こういうものは、やはり医者 が絶対にやらなければいけないと考えています。  ただ、規制緩和していただきたいのは、用量変更(主に増量)の件なのです。これは 実際にやってみたらよくわかりますが、かなり頻繁に量を増やさなければいけないので す。その理由は、主に2つあるのですが、1つは病院から家に帰ってくるとき、必ずし もいい状態で帰ってきていないですね。症状緩和をきっちりするために、帰ってきたと きに、増やさなければいけないということがしばしばある。それに、もちろん症状の進 行に伴うモルヒネ量の増量ということが必要ですので、これはある一定の包括的な指示 を出したときに、看護婦さんがその判断で量を増やすというようなことを認めていただ ければ、スムーズに、かつ細かい対応が可能になるのではないかと思っています。その ほか、まだ言いたいことが沢山ございますが、全くの現場の話で申しわけないのです が、お願いしておきます。 ○上野委員  麻薬のことで、いまの先生の裁量権のことは、私もお願いしたかったのです。そうで はなくて、訪問看護ステーションでは衛生材料を扱うことができないという問題があり まして、医師は在総診を取っている場合は、出せないですね。在宅寝たきり患者処置指 導管理料を取っていれば、もちろん出せるというのがあるのですが、なかなかそれがな いと出せないという状況がありまして、そうすると、利用者が買うかステーションがそ れをどうにか調達しなくてはいけないという、いろんな問題があるのです。そこら辺の ところは、調剤薬局さんのほうでは、例えば、カテーテル類から、どの程度まで準備が できるのかというところを、今日はちょっと無理かとも思いますので、訪問看護ステー ションへの法整備ということもあると思います。次回の検討でも構わないのですが、考 えていただければと思います。 ○川村座長  これはそう簡単にはいかない話ですね。個別的な話と、法制度の話というのもあると 思います。事務局のほうにお預けする形にしまして、よろしいでしょうか。 それでは、大変活発なお話をいただきまして、充実した2時間であったと思いますが、 時間になりましたので、これで終わりにしたいと思います。大変ご苦労さまでした。 照会先 厚生労働省医政局看護課 課長補佐  勝又(内線2599) 保健師係長 習田(内線2595) ダイヤルイン 03-3591-2206