企業ヒアリングの結果(要旨)
−高齢者雇用関係−
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I 高齢者雇用の現状等 |
1 高齢者雇用への取組状況
多くの企業において、厚生年金(特老厚)の支給開始年齢の引上げを契機として、60歳以降における雇用への取組がなされている。
(1) 60歳以降の雇用の仕組み
(1) 再雇用制度を活用している事例(E社を除く各社)
(うち、制度化せず、事実上実施している事例(F社、H社))
(2) 本人の選択による65歳定年制としている事例(E社)。
(2) 再雇用の対象
(1) 希望者全員としている事例(B社、D社)
(2) 会社が必要と認めた者に限定している事例(A社、C社、F社、G社、H社)
−実態上は(1)に近い運用がなされている事例(A社)
−経営環境の厳しさ等を背景として、後継者不足等の場合に限定している事例(C社、G社、H社)
(3) 雇用期間
(1) 定額部分の支給開始年齢まで(C社の一部)
(2) 定額部分の支給開始年齢+α(A社、C社、D社、F社の一部、G社)
(3) 65歳到達まで(B社、E社)
2 勤務体制
(1) フルタイム(又は一般労働者の3/4以上) (E社、F社の一部、G社、H社)
(2) 短時間勤務(又は週当たり勤務日数の縮減)(C社、F社の一部)
(3) (1)と(2)の中から本人が選択 (A社、B社、D社)
一般の労働者よりも短い所定労働時間や、少ない所定労働日数での勤務を選択可能としている事例が多い。
その背景として、短時間勤務の場合には厚生年金の適用から外れ、在職老齢年金制度の適用もないため、年金が全額併給できることがある。
3 賃金制度
(1) 賃金決定と在職老齢年金の関係
(1) 在職老齢年金制度を考慮して賃金設定を行っている例(年金と賃金の関係についてのシミュレーションが行われている場合を含む。)(A社の一部、B社の一部、E社)
(2) 在職老齢年金を考慮せずに、賃金設定を行っている事例(F社の一部、G社、H社)
(3) 厚生年金不適用・特老厚の全額受給を前提に、賃金設定を行っている事例(A社の一部、B社の一部、C社、D社の一部、F社の一部)
(2) 賃金の具体的な設定基準
(1) 自社の大卒初任給の額(A社の一部)
(2) 定年前の賃金の一定割合(A社の一部、F社)
(3) 定年前の賃金水準(在職老齢年金等と合わせて)(B社の一部)
(4) パートタイム労働者の中位程度の時給(C社)
(5) 業界・市場水準(D社)
(6) 在職老齢年金等と合わせて定年前の賃金の8割(旧制度)→定年前の賃金の一定割合(現行制度)→職務内容や現在の能力(検討中)(E社)
(7) 職務内容(F社、H社)
支給開始年齢の引上げや総報酬制の導入(H16予定)を契機として、年金と合わせた手取保証の考え方を改め、上記の(7)を採用した事例(E社)も見受けられる。
(注) 年金制度の変更される前後において、年金を含めた収入を一定に維持するためには、賃金による差額の補填が必要となり、さらに、定額部分の支給開始後には賃金の下方修正が必要となることが背景。
(3) 賞与の扱い
できるだけ多く在職老齢年金を受給できるよう、賞与の支給割合を一般労働者よりも高く設定している事例(B社の一部、E社)
II 年金制度と高齢者雇用についての認識等 |
1 全般
(1) 企業年金や退職金の水準が高いため、公的年金が雇用に与える影響は余りない(A社)。
(2) 在職老齢年金制度は、屈折点がない、緩やかな(手取り収入)線となる方が企業として制度設計しやすい(D社)。
(3) 年金制度の改正により賃金制度が影響を受けることのないよう、今後、本人の職務や能力に応じた賃金に変更していく方針。
そうなれば、年金と賃金で一定の年収を保証する仕組みとは異なり、在職老齢年金は労働者個人の問題となる(E社)。
(4) 今後大量の退職者が見込まれることから、再雇用制度を検討する際に、在職老齢年金についても考慮する必要があると考えている(H社)。
2 在職老齢年金の仕組みが変更される場合の対応
(1) 仮に、在職老齢年金の仕組みが緩和され、年金額が増加するならば、それに応じた賃金水準の引き下げを検討したい。(A社、B社。うちA社は、実際には困難との認識)
(2) 仮に、在職老齢年金の仕組みが厳格化され、年金額が減少するとしても、市場賃金を基本としているため、賃金制度を変更することは考え難い(D社)。
(3) 仮に、在職中は年金を受給しない代わりに、退職後に通常より多い年金が受給できる場合、
−高齢者が正社員として本格的に就労し、それに応じた賃金が支払われる企業にとっては良い仕組みではないか(E社)。
−当社の賃金水準(年収180-300万円)であれば、就業せず年金を満額受給するか、賃金と年金の併給が選択されるのではないか(D社)。
3 総報酬制や、厚生年金の適用拡大に伴う対応
(1) 厚生年金の適用に伴い在職老齢年金制度が適用されるなど、短時間勤務形態での再雇用のメリットがなくなるので、高齢者のフルタイム勤務を増やしたい(B社)。
(2) 厚生年金の適用から外れるために高齢者の所定労働時間を短縮(20時間未満化)することは、
−労働者を活用しにくくなり、高年齢雇用継続給付の受給にも支障があることから困難(B社)。
−一つの方向ではないか(D社)。
(3) 現在は在職老齢年金をより多く受給できるよう、賞与の支給割合を高く設定しているが、総報酬制導入後も基本的には年収を落とさない方向で検討(B社)。
(4) 年金制度の改正により賃金制度が影響を受けることのないよう、本人の職務や能力に応じた賃金に変更していく考え(E社・再掲)。
高齢者雇用関係
A社 電気・ガス・熱供給・水道業 従業員数 1万人以上 |
B社 百貨店業 従業員数 3〜5千人未満 |
C社 百貨店業 従業員数 5千人〜1万人未満 |
D社 電気機械器具製造業 従業員数 1万人以上 |
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○ 一般職を対象とする定年退職者再雇用制度
○ 管理職に係る関連会社等への転籍制度
○ 支給開始年齢の引き上げに伴い、何らかの対応をする方向で今後検討。 |
○ 高年齢者パート制度
○ 高年齢者パートI
○ 高年齢者パートII
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○ 60歳以降の再雇用
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○ 定年退職者の再雇用制度 60歳定年を迎えると、就業希望の者は次の5つから 1つを選択する。 ○ 上記の(1)、(2)のコースに進む場合は、以下の人事制度が適用されることとなる。 (1) 満60歳の誕生日を迎える定年退職者のうち、希望者が対象(会社は、最低1つは仕事を提示し、合意が得られれば雇用契約を結ぶ。) (2) 再雇用は62歳まで。数年間かけ、段階的に65歳到 達まで引き上げ予定。 (3) 勤務形態は、フルタイムまたはパートタイム (4)賃金は定年前とは別体系とし、業界・市場水準を基本。
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○ 想定収入に占める在職老齢年金の割合が低いため当社においては、在職老齢年金制度が退職促進的に機能したり、雇用に影響を与えることはあまりない。 ○ 仮に在職老齢年金制度の下での調整規定が緩和された場合には、増加分について給与を引き下げたいが、実際には困難と思われる。
○ もともと賞与の配分を大きくするような給与体系ではないので、総報酬制導入に伴う見直しは考えていない。
○ 実体は不明だが、弾力勤務(短時間労働者)の者にも、社会保険加入の要望はあると思われる(担当者の個人的な印象)。 |
○ 高年齢者パートIが、月給に比べ賞与の割合が大きいのは、在老制度による年金の支給停止を小さく抑えるため(一般職で63%、管理職で75%程度のカット率を想定)。 ○ 在老制度による年金カットから外れる高年齢者パートIを選択する者が多い。 ○ 今後も、在老年金制度に合わせて給与制度等を検討。
○ 今後の支給開始年齢の引上げに伴い、高年齢者パート制度の利用は増えていくものと思われる。
○ 総報酬制度導入後も、基本的には年収を落とさない方向で、新制度下での年金額をシミュレーションしつつ検討。
○ 厚生年金の適用拡大により高年齢者パートIIにも厚生年金が適用される場合には、パートIIの勤務時間数を増やしパートIに限りなく近い形態にしていくことになると思われる。 ○ 社会保険の適用を外すため高年齢者パートIIの勤務時間数を更に縮小することはない。活用しづらくなるだけでなく、本人にとっても、週20時間を切ると雇用保険の被保険者から外れ、雇用継続給付の支給が受けられなくなる。 |
○ 60歳以降の者は、短時間契約社員として再雇用され、社会保険の被保険者にならないため、在職老齢年金制度の適用もなく、年金は全額受給できる。 ○ 短時間契約社員の制度は、支給開始年齢を意識したものであるが、厳しい経営環境の中で現在拡充の予定はない。 |
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○ 賃金は、業界・市場水準を基本とする。 ○ 働く高齢者に対し、「年金を全く支給しない」、「在老調整の仕組みを現在よりきつくする」、「課税をきつくす る」といった制度が取り入れられた場合の当社での影響 ○ 働いている間は年金の支給をしないが、退職後に現行より有利な条件で年金を受給できる仕組みができた場合
○ 60歳以上のパートタイム勤務者のほとんどが厚年非適用だが、週20時間以上にて適用拡大がなされた場合、これらの者は新たに適用対象となる。 ○ 適用拡大後も、現在負担している 60歳以上のパートタイム勤務者の総費用の範囲内でやり繰りせざるを得ず、当該勤務者の勤務時間を1/2以下に抑えることも検討すべき方向の一つ。また、全てをフルタイムに切り替えたり、派遣会社雇用コースに切り替えていく方法も選択肢としては考えられるのではないか。
○ 在職老齢年金のカーブはできるだけ緩やかな線が理想。屈折点がなければ賃金制度の設計がし易い。 |
E社 鉄道業 従業員数 5千〜1万人未満 |
F社 スーパーマーケット業 従業員数 1千〜3千人未満 |
G社 スーパーマーケット業 従業員数 3千〜5千人未満 |
H社 スーパーマーケット業 従業員数 1万人以上 |
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(1) 定年は65歳。 (2) 昭和60年に、(1)技能の伝承、(2)大量退職者の発生に伴う退職金等の負担緩和、(3)将来の人手不足対策の見地から実施。 (3) 60歳時点で退職するか、65歳まで働くかは、本人が選択する仕組み(どの時期に退職しても、退職金に差は生じない)。 |
(1) 明確な規定はないが、60歳定年後の正社員について、本人の希望と会社の意向により嘱託契約により再雇用(現在20名)。 (2) 週40時間勤務。 (3) 給与は、定年退職時の6割から7割に設定して月給23万円程度。賞与は、夏と冬に各1ヶ月分。
(1) 登用審査に合格したパートタイマーが60歳に達した際に62歳まで継続雇用する制度。 (2) 勤務時間は1日4時間、週20時間以下。 (3) 給与は時給制。基本給+職種給+職能給(職能給は、契約変更前の60%)。賞与は支給せず。 |
○60歳定年後の嘱託社員制度について
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○ 一般職員を対象とする定年退職者再雇用制度
○ 現在60歳定年退職を迎える者は年に数人しかいない。しかし、5〜10年後には大量に出てくることになるため、今後定年退職者の再雇用制度について検討することとしている。 |
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○ 賃金制度の設計との関係
60歳以降の賃金は、厚生年金の受給額との合計が、59歳時の年収の8割(平均をみると賃金56%、年金が24%)になるように設定。
定額部分支給開始年齢の引き上げに伴い、昨年、従来の「59 歳時年収の8割保障」の制度を改正し、厚生年金の支給額に関わりなく、賃金を59歳時の年の 56%(従来の制度下での平均的な支給割合)とする仕組みとした。
来年度に総報酬制が導入される(ボーナス割合が高い場合、在職老齢年金額が大幅に減少)ことに加え、これまでのように年金の制度改正に応じて賃金制度を見直す必要がないよう、賃金と年金は別のものという考えの下に、賃金体系の見直しを検討している。 ○ これまで、在職老齢年金の仕組みにより調整された年金額の多寡は、59歳時年収の8割が一律保障されていたため、あまり個人レベルでの関心とはならなかった。 ○ しかし、年金の支給に関わりなく、本人の職務の内容や能力によって賃金を決定する仕組みに改めることとなれば、在職老齢年金制度の下で受給する年金額の多寡は、今後はむしろ個人の問題に。 ○ 仮に、働いている間は在職老齢年金を支給せず、その代わりに退職後に若干有利な年金を受給できるような仕組み があれば、60歳以降も正社員として本格的に就労し、それに応じた賃金が支払われる当社の従業員にとっては、良いのではないか。 |
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○ 嘱託契約による再雇用者の給与設定において、在職老齢年金の考慮はしていない。
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○ 嘱託社員は厚生年金の被保険者となるが、特に在職老齢年金の額を考慮した賃金ではなく、職務内容に応じた賃金設定としている。 |
○ 給与設定において、高年齢雇用継続給付は考慮しているが、年金については特に考慮していない。
○ 定年退職後の再雇用については、すべての者が社会保険に加入しているため、適用拡大に伴い新たに厚生年金に加入→在職老齢年金制度の適用という問題は生じない。 |