審議会議事録  厚生労働省ホームページ

薬食審第0828005号
平成14年8月28日
薬事・食品衛生審議会
  会長   内 山  充    殿
薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会
            会長   寺 田  雅 昭

薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会報告

 平成13年9月10日付け厚生労働省発食第222号による諮問に係る食品の安全性について、「組換えDNA技術応用食品及び添加物の安全性審査基準」(平成12年5月1日付け 生衛発第825号−1 厚生省生活衛生局長通知。以下「審査基準」という。)に基づき審議した結果、以下のとおり決議したので報告する。

1.審議経過
 平成13年9月10日付け厚生労働省発食第222号をもって諮問された食品及び添加物のうち、食品1品種の安全性について、審査基準に基づき審査した結果について、平成14年3月26日に開催された薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会食品衛生バイオテクノロジー部会(以下「部会」という。)において審議され、部会報告が取りまとめられた。

2.審議結果
 平成13年9月10日付け厚生労働省発食第222号をもって諮問されたわた(鱗翅目害虫抵抗性ワタ15985系統)については、審査基準に基づき、人の健康を損なうおそれがあると認められないと判断された。(別紙参照)


照会先
 厚生労働省医薬局食品保健部
   高谷監視安全課長
   担当者:三木(2454)、田中(2455)
     TEL 03-5253-1111


別紙

分科会報告書

品種ワタ(商品名:「鱗翅目害虫抵抗性ワタ15985系統」)
性質鱗翅目害虫(オオタバコガ、ヨトウムシ等)抵抗性
申請者日本モンサント株式会社
開発者Monsanto Company(米国)

 日本モンサント株式会社から申請されたワタ(商品名:「鱗翅目害虫抵抗性ワタ15985系統」、以下「15985系統」という。)について開発者が行った安全性評価が、「組換えDNA技術応用食品及び添加物の安全性審査基準」(以下「審査基準」という。)に適合しているか否かについて審査した。その結果は次のとおりである。

I 申請された食品の概要

 15985系統は、既にわが国において食品としての安全性審査を経たインガード・ワタ531系統の後代交配種(従来商業品種DP50との間で戻し交配育種を行い、育成された商業品種DP50B)に、新たにオオタバコガ、ヨトウムシ等の鱗翅目害虫の防除に効果を発揮する蛋白質(以下「Cry2Ab蛋白質」という。)を産生させるBacillus thuringiensis subsp. kurstaki由来遺伝子(以下「cry2Ab遺伝子」という。)が導入されている。 Cry2Ab蛋白質は、鱗翅目害虫に対して殺虫活性を持つ。B.thuringiensisの多数の株は、特定の害虫の防除に特に有効である結晶蛋白質又は封入体を産生することが明らかにされている。B.t.蛋白質は殺虫活性に基づいて分類されており、Cry2類の一つであるCry2Ab蛋白質は、米国のワタ栽培における鱗翅目害虫に対する殺虫活性を有する。B.t.蛋白質は鱗翅目昆虫の消化管において、中腸上皮細胞の特異的受容体と結合して陽イオン選択的小孔を形成する。その結果、消化プロセスが阻害され死に至る。 また、15985系統には、選択マーカー遺伝子として、GUS蛋白質を発現させるuidA遺伝子が導入されている。

II 審査結果

1 生産物の既存のものとの同等性に関する事項
 審査基準の第2章第1の各項に規定される資料(1.遺伝的素材に関する資料、2.広範囲な人の安全な食経験に関する資料、3.食品の構成成分等に関する資料、4.既存種と新品種との使用方法の相違に関する資料)について検討した結果、当該食品と既存のものが全体として食品としての同等性を失っていないと客観的に判断し、当該15985系統の食品としての安全性を評価するために、既存の食品を比較対象として用いる方法が適用できると判断した。そこで、既存のワタとの比較において、審査基準の第2章第2以下の各事項に掲げられた審査基準に沿って審査を行った。

1)遺伝的素材に関する資料
 宿主は、Gossypium hirsutumに属するワタの商業栽培品種DP50Bである。遺伝子供与体としては、cry2Ab遺伝子はBacillus thuringiensisに、また、uidA遺伝子はE.coliに由来する。

2)広範囲なヒトの安全な食経験に関する資料
 ヒトが摂取するワタ由来の食品は綿実油のみであり、綿実油は油として、天ぷら油、サラダ油等に利用され、広範囲なヒトの安全な食経験がある。
 cry2Ab遺伝子の供与体であるBacillus thuringiensis subsp. kurstakiについては、ヒトの直接の食経験はないが、これを基材とする生物農薬等としてこれまで世界各国で安全に使用されてきた。uidA遺伝子の供与体であるE.coliはヒトの腸管内に存在する一般的な細菌である。

3)食品の構成成分等に関する資料
 15985系統は、主要構成成分、アミノ酸組成、脂肪酸組成、無機物、毒性物質等に関し、組換え母本ワタ(DP50B)及び既存のワタ(非組換えワタDP50)と同等であった。

4)既存種と新品種との使用方法の相違に関する資料
 15985系統は、食品としての利用方法は既存のワタと同等である。なお、既存のワタとの栽培上の相違は、主要鱗翅目害虫に対する殺虫剤の使用量を削減できる点のみである。

2 組換え体の利用目的及び利用方法に関する事項
 15985系統は、Cry2Ab蛋白質の発現によりオオタバコガ、ヨトウムシ等鱗翅目害虫の食害を受けないため、それらの防除のための薬剤散布を軽減することができる。この点以外、栽培方法、利用目的及び利用方法は従来のワタと変わらない。

3 宿主に関する事項
 宿主は、Gossypium hirsutumに属し、インガード・ワタ531系統と商業ワタ品種DP50との間で戻し交配育種を行い、育成された商業ワタ品種DP50B(後代交配種)である。ワタは主に綿実から生産される油を食用として利用しており、広範なヒトの安全な食経験がある。ワタには有害生理活性物質であるゴッシポール、シクロプロペノイド脂肪酸が含まれているが、搾油工程において無毒化または著しく減少する。

4 ベクターに関する事項
 15985系統の作出にはE.coli由来の発現ベクターPV-GHBK11が用いられた。 PV-GHBK11は、それぞれ1コピーのCry2Ab蛋白質産生に関与する遺伝子([P-e35S]- [cry2Ab]-[NOS 3'])、GUS蛋白質産生に関与する遺伝子([P-e35S]-[uidA]-[NOS 3'])、NPTII蛋白質産生に関与する遺伝子nptII遺伝子、その他ori-pUC領域等を含み、そのサイズは8.7kbpである。15985系統の作出には、制限酵素によって処理・精製されたcry2Ab遺伝子発現カセット及びuidA遺伝子発現カセットからなる直鎖状プラスミド断片(PV-GHBK11L)が用いられた。
 PV-GHBK11に存在する全ての遺伝子は、その特性が明らかとなっており、既知の有害塩基配列を含まない。また、PV-GHBK11には大腸菌中でのみ増殖が可能なori配列が含まれるが、植物や自然界では増殖することができない。ただし、遺伝子導入に用いたPV-GHBK11Lにori配列は含まれていない。なお、PV-GHBK11Lのワタ組織への導入には、パーティクルガン法が用いられている。

5 挿入遺伝子及びその遺伝子産物に関する事項

1)供与体に関する事項
 15985系統に導入されているcry2Ab遺伝子はBacillus thuringiensis subsp.kurstakiに由来する。また、組換え体を選抜するためのマーカーとして用いたuidA遺伝子はヒトの消化管中の主要細菌であるE.coliに由来する。

2)遺伝子の挿入方法に関する事項
 PV-GHBK11Lの宿主への導入には、パーティクルガン法が用いられている。

3)構造に関する事項
 15985系統には、それぞれ1コピーのcry2Ab蛋白質産生に関与する遺伝子([P-e35S]- [cry2Ab]-[NOS 3'])及びGUS蛋白質産生に関与する遺伝子([P-e35S]-[uidA]-[NOS 3']) が存在している。既知の有害塩基配列は含まれていない。

4)性質に関する事項
 cry2Ab蛋白質は、オオタバコガ、ヨトウムシ等特定の鱗翅目昆虫の消化管において、中腸上皮細胞の特異的受容体と結合し陽イオン選択的小孔を形成する。その結果、消化プロセスが阻害され昆虫は死に至る。
 また、GUS蛋白質は、β-グルクロニドを加水分解する酵素で、植物形質転換の過程で可視定量マーカーとして使用される。

5)純度に関する事項
 遺伝子導入に用いた発現ベクターPV-GHBK11は塩基配列がすべて決定されており、その特性も明らかにされている。

6)安定性に関する事項
 15985系統に導入されたcry2Ab遺伝子は、複数の後代に安定して遺伝しており、また、後代でcry2Ab蛋白質が発現していることが確認されている。

7)コピー数に関する事項
 サザンブロット分析結果より、15985系統には、1コピーのPV-GHBK11L(それぞれ1コピーの完全なcry2Ab遺伝子カセット及びuidA遺伝子カセット)が導入されており、また、PV-GHBK11の外骨格領域は導入されていないことが示された。

8)発現部位、発現時期及び発現量に関する事項
 種子中のcry2Ab蛋白質の発現量は、43.2μg/g生組織重量で、GUS蛋白質の発現量は、58.8μg/g生組織重量である。

9)抗生物質耐性マーカー遺伝子の安全性に関する事項
 15985系統の作出に用いた発現ベクターPV-GHBK11L に抗生物質選択マーカー遺伝子は含まれていない。組換え母本DP50Bはインガード・ワタ531系統の挿入遺伝子由来のnptII遺伝子とaad遺伝子を有しているが、NPTII蛋白質の安全性については、インガード・ワタ531系統、757系統の申請時に既に審査されている。また、aad遺伝子は細菌特異的なプロモーターの調節下にあるため植物内では機能せず、15985系統においてもAAD蛋白質が発現していないことをELISA法によって確認している。

10)オープンリーディングフレームの有無並びにその転写及び発現の可能性に関する事項
 外来のオープンリーディングフレームは、cry2Ab遺伝子とuidA遺伝子の発現に係るもののみである。

6 組換え体に関する事項

1)組換えDNA 操作により新たに獲得された性質に関する事項
 15985系統に新たに導入された性質は、cry2Ab蛋白質の発現により鱗翅目害虫に対し抵抗性を持つ点のみである。

2)遺伝子産物のアレルギー誘発性に関する事項

 a 供与体の生物の食経験に関する事項
 cry2Ab遺伝子の供与体であるBacillus thuringiensis subsp. kurstakiは、ヒトの直接の食経験はないが、これを基材とする微生物農薬としてこれまで米国やヨーロッパを中心に安全に使用されてきた。
 uidA遺伝子の供与体であるE.coliは、ヒトの腸管内に存在する一般的な細菌である。

 b 遺伝子産物がアレルゲンとして知られているか否かに関する事項
 cry2Ab蛋白質及びGUS蛋白質が、アレルゲンとしてアレルギー誘発性を有するということは報告されていない。/TD>

 c 遺伝子産物の物理化学的処理に対する感受性に関する事項

 人工胃液・人工腸液に対する感受性
 多くの既知アレルゲンは、ペプシン及びトリプシン消化に対して安定であることを踏まえ、cry2Ab蛋白質を人工胃腸消化液に反応させ、ウェスタンブロット分析した結果、人工胃液中でcry2Ab蛋白質の免疫反応性は、15秒後に完全に消失することが確認された。人工腸液中では、約50kDのトリプシン耐性の消化産物が生成され、16〜24時間後に免疫反応性が消失した。
 GUS蛋白質については、人工胃液中では15秒後に、人工腸液中では4時間後に免疫反応性が消失することが確認された。

 加熱処理に対する感受性
 cry2Ab蛋白質及びGUS蛋白質は、121℃25分の加熱により免疫反応性が完全に失われることが、ウェスタンブロット分析により確認されている。

 d 遺伝子産物の摂取量を有意に変えるか否かに関する事項
 ヒトが最も摂取するワタ産物は綿実油であるが、綿実油には蛋白質はほとんど含まれていないため、15985系統中で生産されるcry2Ab蛋白質及びGUS蛋白質はほとんどヒトに摂取されることはなく、その摂取量は無視できるレベルと考えられる。

 e 遺伝子産物と既知の食物アレルゲンとの構造相同性に関する事項
 cry2Ab蛋白質及びGUS蛋白質について、既知のアレルゲンとの構造相同性を検索するため、567のアレルゲンとの配列の比較をデータベースより抽出して解析した結果、cry2Ab蛋白質及びGUS蛋白質と7個以上隣接したアミノ酸配列が一致するような配列はなく、既知アレルゲンとの間に相同性は認められなかった。

 f 遺伝子産物が一日蛋白摂取量の有意な量を占めるか否かに関する事項
 ヒトが最も摂取するワタ産物は綿実油であるが、綿実油には蛋白質はほとんど含まれていないため、cry2Ab蛋白質とGUS蛋白質がヒトの一日蛋白摂取量に対して有意な量を占めることは考えられない。

3) 遺伝子産物の毒性に関する事項
 cry2Ab蛋白質及びGUS蛋白質について、マウスを用いた急性経口投与試験を行った結果、それぞれ最大投与量1,450 mg/kg、100 mg/kgまで投与しても有害な影響は認められなかった。この投与量は、日本人(体重50 kg)が綿実油から摂取するcry2Ab蛋白質及びGUS蛋白質の一日最大予想摂取量0.169μgの、それぞれ4億倍、2,950万倍に相当する。
 また、毒素配列データベースを用いて検索を行った結果、cry2Ab蛋白質及びGUS蛋白質と既知の毒性蛋白質との間に相同性は認められなかった。

4)遺伝子産物の代謝経路への影響に関する事項
 cry2Ab蛋白質は酵素活性をもたないため、代謝経路に影響を及ぼす可能性は低いと考えられる。また、GUS蛋白質については、植物中におけるグルクロニド合成経路は主要な代謝経路ではないこと等から、GUS蛋白質の発現が植物の代謝経路に及ぼす影響はあるとしても低いと考えられる。

5)宿主との差異に関する事項
 主要構成成分(蛋白質、脂質、灰、炭水化物等)及び有害生理活性物質(ゴッシポール、シクロプロペノイド脂肪酸)について、既存のワタとの間で比較したところ、いくつかの項目で統計的有意差が認められたものの、圃場間での一致もなく、いずれも文献値の範囲内であったことから、意味のある差違はないと考えられた。

6)外界における生存及び増殖能力に関する事項
 1998年から、米国を中心として圃場試験が行われているが、15985系統の生存・増殖能力は非組換えワタと同等であった。

7)組換え体の生存及び増殖能力の制限に関する事項
 15985系統の生存・増殖能力は非組換え品種と同等であることから、生存・増殖能力の制限要因についても両者の間に変化はないと考えられた。

8)組換え体の不活化法に関する事項
 15985系統は、物理的防除(耕耘)や化学的防除(感受性を示す除草剤の散布)など、ワタを枯死させる従来の方法によって不活化される。

9)諸外国における認可、食用等に関する事項
 15985系統については、2000年6月に食品及び飼料としての安全性評価の申請が、米国食品医薬品局に提出されている。また、2001年2月に豪州・ニュージーランド食品局(ANZFA)に、食品としての安全性評価の申請が提出されている。

10)作出、育種及び栽培方法に関する事項
 15985系統と既存のワタとの栽培方法の相違は、鱗翅目害虫の防除に薬剤散布を必要とするか否かの点のみであり、他の点では同等である。

11)種子の製法及び管理方法に関する事項
 15985系統の製法及び管理方法については、既存のワタと同様であり、各種分析に用いた世代の種子は、4℃、40%湿度の条件下で管理されている。

遺伝子解析の結果、GUS蛋白質のN末端から377番目のアミノ酸がグルタミン酸からリシンに変わっていたが、(1)GUS蛋白質の活性部位は保存されていること、(2)三次元構造に影響はないこと等から、消化性試験及び急性経口投与試験の結果に影響を与えるものではないと判断された。

III 基準適合性に関する結論

 以上のことから、日本モンサント株式会社から申請された鱗翅目害虫抵抗性ワタ15985系統については、申請に際して提出された資料を審査基準に基づき審査した結果、人の健康をそこなうおそれがあると認められないと判断される。


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