02/07/23 第13回企業組織再編に伴う労働関係上の諸問題に関する研究会議事録    第13回企業組織再編に伴う労働関係上の諸問題に関する研究会議事録 日時 :平成14年7月23日(水) 10:00〜12:30 場所 :厚生労働省専用第17会議室(中央合同庁舎第5号館16階) 出席者:【研究会参集者・50音順】      毛塚 勝利 (専修大学法学部教授)      柴田 和史 (法政大学法学部教授)      内藤 恵  (慶應義塾大学法学部助教授)      長岡 貞男 (一橋大学イノベーション研究センター教授)      中窪 裕也 (千葉大学法経学部教授)      西村 健一郎(京都大学大学院法学研究科教授、座長)     【厚生労働省側】      坂本政策統括官(労働担当)      鈴木審議官      岡崎労政担当参事官      清川調査官      荒牧室長補佐 【議事概要】 ○ 事務局より、資料No.1-1企業組織再編に伴う労働関係上の諸問題に関する研究会報  告(案)について考え方等について説明が行われた。これを受けて、意見交換が行わ  れた。その内容は以下の通り。  ・ 事業移転(営業譲渡)に関する法政策の考え方として、次の4つの基本原則(以   下「基本原則」という。)を提示したい。   (1) 事業所の全部又は一部を移転するときは、人的物的資源の有機的結合として    の「営業」を単位にして移転することを基本とすること。     労働者の労務提供は物的資源と結びつくことで社会的に有意味な労働となるも    のであり、労働者の利益は、使用者責任が現実的履行可能性を規定する事業組織    によって左右されるものである。事業活動とは、物的資産と人的資源を結びつけ    る行為である以上、事業の移転を受け事業を行おうとする事業主は、人的資源と    しての労働者の活用を当然に予定するものであること等から、事業の移転に伴う    新たな事業主は当該「営業」を構成した人的資源たる労働者の雇用責任を引き継    ぐことを原則とするもの。である     この原則は、事業移転に関する契約の中で、当該「営業」を構成する労働者の    労働契約の承継を拒否するには、一定の合理的理由が求められ、譲受会社による    恣意的な労働者の選別は認められず、これに対する措置として機能するものであ    る。このため、事業所の一部又は全部が移転したにもかかわらず、労働契約が移    転の対象とならなかった労働者は、承継の対象とならなかったことに合理的理由    がないことを理由として譲受会社に対して承継を求めることができる承継請求権    を法定することが必要である。そもそも、事業を構成する物的資産の切り売りに    先立ち、事業それ自体の移転を考えるのが使用者(譲渡会社)の責任である。   (2) 当該「営業」を構成する労働者は、移転の対象となった場合であれ、移転を    拒否することができるものとすることとして、現行の民法第625条の通り、労    働者の移転拒否の自由を維持しなければならない。     一部移転の場合には、譲渡会社において継続雇用の可能性があるが、その可能    性ない場合には、全部移転の場合と同様、整理解雇の問題となるものである。   (3) 事業の移転が企業経営上必要不可欠である場合で、人員削減なしでの事業の    移転が困難で、かつ事前に配置転換等の雇用調整措置をとっても対応できないと    きには、譲渡会社は整理解雇を行った上で事業移転を行うことができるものとす    る。     譲受会社の指示による恣意的な選別や営業譲渡を用いた整理解雇法理の潜脱を    避けるためにも、譲渡会社において予め縮小させておいてから事業を移転させる    とすることが、移転のルールとしては望ましい。整理解雇を行う際、譲受会社の    指示に基づく人選は出来ないものとする必要がある。   (4) 事業の移転に際して、譲渡会社は労働組合又は過半数労働者代表との協議の    うえ行うこととすべきであり、協議を経ない人選は合理性をもたないものとみな    されるとするものである。協議を得ずに行われた、人員削減を伴う事業移転によ    る整理解雇は無効とする。     これ以外にも、報告書案で気になったところがある。24Pの、日本とヨーロ    ッパの事情の違いを述べたところだが、EUの既得権指令によれば、譲渡部門で    働いていた労働者は、その営業譲渡に伴って拒否権はないと書いてあるが、拒否    権はあるかないかの点については国によって異なるところであって、90年代以    降出された判決では「拒否権がないものと解釈されてはならない」と判示したも    のもあるところである。拒否権がないというのを、議論の前提にすべきでない。    拒否権がないのはフランス固有の法理であり、ドイツは拒否権を前提にした法規    制を行っている。それゆえ、日本と別に異なった事情があるとは考えない。     また、報告書は、一部譲渡、全部譲渡に分けて論述しているが、一部譲渡の場    合において、承継される労働者の選別において、使用者側の恣意的な選択への歯    止めという視点が欠けている。     また、法的なルールが必要ないという結論の点で、済生会事件、よみうり事件    など多くの判例において、黙示の合意の推認という法理を根拠にしている点が問    題である。この法理では、譲渡当事会社間において、特定労働者等を排除する明    示の意思表示があれば排除されてしまう労働者の発生を避けられない点で問題が    ある。恣意的な選択に対して歯止めをかける理論は必要ではないか。     全部譲渡についてもおなじことである。現在の法律がない中での裁判所での対    応ということには限界があるだろう。その限界があるときに、どういうルールで    もって法的な枠組みを作るのかを議論しなければならないというのが私の考え方    だ。  ・ 報告書案23〜24Pにかけての、日本ではヨーロッパ流の雇用承継方式をとる   べきでないという下りについては、若干説得的でないような気がした。具体的には   、23P下から2行目の「営業譲渡が雇用確保につながることを考えれば…」の文   章について、これは常にそうなるとは限らないことから、もう少し限定的に雇用確   保につながることとするのが適切である。また、次に23P末から24Pにかけて   の段落において「交渉を阻害するような規定を設けることは適当ではない」とある   が、これは強すぎるのではないか。「…の規定を設けることにより営業譲渡に向け   た交渉が阻害される可能性について、慎重に考慮する必要があると思われる」程度   が適切ではないか。    その次のパラグラフで、日本的な雇用慣行も考えて、ヨーロッパ的なシステムを   導入することについては「法的措置を講ずることは適当でないと考える」という書   きぶりでは、強すぎるのではないか。私自身は、EUのようなシステムを法定する   ことは論理的に不可能とは考えていないが、今時点で導入することは、一つには営   業譲渡の多様性を考えれば、一律にそのようなルールを設けることに躊躇を覚える   、二つには、日本では解雇規制自体が判例による権利濫用法理でしかないので、営   業譲渡のところだけ法規制をかけることはアンバランスだという点で、現時点での   法規制を求めるものではない。解雇法制を整備し、その中で考慮すべき問題であり   、営業譲渡の法規制をしてはならないとは言わないが、全体的バランスを考慮する   ならば、こうした結論となるところである。    それからもう一つには、法的措置を行った場合の内容としても、「別段の意思が   表示されない限り、譲受会社は契約承継に同意したものとみなされる」というよう   な考え方もあるのではないだろうか。もう少し詰めて議論した方がよいのではない   か。    また、24Pの(2)のところで、「1)通常の営業の一部譲渡の場合」と、次の2   5Pの「2)の営業の一部譲渡で問題が生じている場合」と分けて考える意味がよく   分からない。両者とも本人が希望しないのに転籍させられるという点で問題が生じ   ているのではないか。他の表現を考えた方がよい。    26P中央の「なお」のパラグラフの末尾の一文も強すぎる上、内容も蛇足のよ   うな感じがする。日本の場合、譲受会社が全員を承継せずに他から新規採用するこ   とも可能で、このとき譲渡会社では整理解雇が必至となる。その点で、日本はEU   よりも労働者保護が薄いことは明らかであり、それが良いことか悪いことかの判断   が必要だ。報告書案の「我が国の制度が労働者にとって不利益に働くわけではない   」という記述には抵抗がある。    27Pの新会社を設立して実質的には営業譲渡というケースで同一性がある場合   には、法人格否認の法理で救われるという段落だが、この法理適用へのハードルは   、もう少し高いのではないか。形骸化とか濫用とかそういった要件があってはじめ   て適用されるのであるから、ただ同一性があるから適用されるというのは適切では   ない。また、次のパラグラフで、不当労働行為は許されず、解雇法理の潜脱もあっ   てはならないという記述についてはそのとおりだが、現実に十分対処できるのかと   いうところが問題だ。これに続く「考え方を明確に示し、使用者を指導すべきであ   る」という文章も、誰がどのような根拠に基づいて指導するのか、不明である。も   う少し説明が必要ではないか。    28Pの中央の「このような」ではじまるパラグラフで、営業を全部譲渡したが   労働者はどうするというところで、「譲渡企業は、譲受企業との間で労働者の受け   入れに向けて努力すべきであるし、譲受企業に承継されない労働者の再就職等につ   いても努力すべきことは言うまでもない。この点における譲渡企業の積極的な努力   を奨励すべきである。」とあるが、債務超過に陥って体力がない譲渡企業にとって   、どこまで対応できるのかが疑問だ。積極的な努力を誰がどのようにして講じるの   かが不明だ。また、こうした状況に陥った場合、譲受会社の受け入れは努力しても   困難であることは明らかであり、「努力に期待するしかない」というのが正直なと   ころではないか。    28P(3)の労働条件のところだが、問題はないという書きぶりになっているが    、私はこれを問題だと考える。低くなる労働条件に合意しなければ承継しないと   いう前提の元では、実際上、労働者の選択の余地はない。この問題点を率直に指摘   した上で、営業譲渡を特定承継とするからには止むを得ないとするしかなさそうで   あるが。    最後に29Pの「譲渡会社において」のパラグラフで、「労働組合等が組織され   ているときには、譲渡会社は営業譲渡に際して、当該労働組合等に対して、営業譲   渡を行う背景、状況等の説明、労働者の承継、労働条件の取扱い等について協議を   行っており、特段の問題は生じていない」とされているが、協議をする頃には営業   譲渡の期日は迫っていて、協議をするにも実質的な協議をすることはできない旨報   告書の前半部分で指摘しているところであり、そことの整合性をどう説明するのか   が不明瞭である。また、「労使協議」という言葉を使っているのであるが、団体交   渉という言葉は使えないだろうか。アメリカでも営業譲渡自体は経営事項という考   え方は強いわけであるが、譲渡に伴う労働条件等の事項は団交事項と考えられてい   るのであり、この点を明示しないまま「労使協議」とするのは不適当ではないか。   会社分割の場合は、承継法により労働条件は維持されるので、労使協議としても差   し支えないかも知れないが、営業譲渡はそれとは状況が異なることから、団体交渉   という言葉を用いるべきである。  ・ 最初に説明があった法政策の基本原則(1)について、ひとつは商法に言う営業と   、労働法にいう営業は、概念が別れても止むを得ないと考えている。商法において   はそうではないが、労働法においては、積極的に営業に労働者を人的資源という形   で営業に含ませる概念構想をされてもよろしいのではないか。    それから、基本原則(2)について、営業譲渡に伴い、労働契約が営業と共に承継   されるかということだが、これは包括承継である会社分割における考え方と、特定   承継である営業譲渡とは異なることとなる。分割の場合は包括承継であるから、営   業として対象に入ったものは承継されるし、分割対象の営業とならないものは承継   されないこととなるだけであるから、労働契約が営業を構成するか否かは大問題と   なるかもしれないが、営業譲渡の場合は特定承継であるから、営業に入っても入ら   なくても個別同意を取ってはじめて、相手先に労働契約が移転するということとな   る。営業譲渡の営業に労働者が入るか入らないかの議論は、する必要はないのでは   ないかと言う感じがする。  ・ 報告書(案)にもあるように、日本は「企業に雇われた」という概念が強い。    「営業」の概念は、「企業」の概念より狭い。日本の場合は、営業譲渡があった   としても、他の営業への配置転換を模索する等、企業の中での雇用責任というのが   全面に出てくる。これに対し、ヨーロッパの場合では、「職務」の概念が強く、勤   務する企業が変わっても自分の職務が一緒であれば良いという労働者が多数であろ   う。こうした雇用慣行等からすると、営業譲渡に際して譲受企業に雇用責任を持た   せるという考え方は、日本の土壌には合わないのではないか。 私は、基本的には   、この報告書案はしっかり現状を把握した上で、結論を出していると評価している   。    それから、営業譲渡に伴って労働条件が下がる場合があることは、これは当然で   、営業譲渡の対象を見るとかなりの場合採算が悪化している。こうした状況で、当   該営業が企業経営の中核であれば、譲渡の対象とならないわけで、もちろん積極的   意義を持つ営業譲渡はあり得るが、営業譲渡の中には、経営がうまくいかない、建   て直しが必要だと切迫して行うものが多いのだから、そうした場合には経営側も労   働側も痛みを負うことは当然である。どのような場合でも労働者が損失を被らない   ように対処するというのは不可能だ。経営には失敗もあるし、労使のシステムが特   定企業の中でうまくいっていない場合もある。それを修正するメカニズムが必要で   、営業譲渡はそうした仕組みとして作用するものであり、労働条件が悪くなる場合   もあるわけだ。  ・ 心情的にはEU既得権指令のように全体として労働者が承継されるような仕組み   ができればいいなとは思うが、ただ、現行でこれをもし設定してしまえば、今まで   解雇法制について判例で事後的に規整してきたこととの整合性をどのようにとれば   よいのかが疑問となる。現状で、この基本原則を営業譲渡全般にかけてしまうこと   は、難しいのではないか。全体的な解雇法理の検討と合わせて考慮されるべき問題   である。  ・ 私自身は、営業譲渡を包括承継にしなさいということを主張しているものではな   いのであり、これまでの判例の集積も踏まえて黙示の合意の推認という法理がどう   破られるかという点のフォローを議論しているだけであって、まるっきり従来を覆   すものでもないし、EUの制度と同じものを導入しようとしているものでもない。   ましてや、経済的合理性を全く否定するわけではない。    しかし、労働法的な限界事例として、例えば、営業譲渡の際に、譲渡会社及び譲   受会社のみの合意で、特定の労働者を自由に排除できるという現行の制度について   、法的に規制していく必要はないのか、という問題点は看過できない。  ・ 営業譲渡の際に人の選別という過程で、両会社間の恣意がはたらくことはあり得   るが、多くの場合、やはり経営不振のため何らかの是正措置が求められているケー   スだ。そのときに雇用を全部確保するように買い手に義務付けることは、営業譲渡   の成立自体を非常に困難にする。具体的には、九州のある会社が清算に追い込まれ   た事例について、これは譲渡に当たり雇用の確保を条件に相手方を捜したが、その   ため相手方が見つからず、結局財産を譲渡してしまって清算、全員解雇という結果   になった。  ・ 例えば、譲渡部門に30人いる中で、15人しか要らないというときに、それを   どう考えるか。  ・ それは整理解雇の問題だ。差別的に解雇できるかどうかというのと同じ問題だ。  ・ 個別的に特定の労働者は要らないと言われた場合が問題なのだ。例えば、譲渡部   門の30人のうち15人しか要りません、そういう契約は結構だ。しかし、買い手   側の都合だけで、特定の者は要りませんと、いう理屈は成り立つのか、そういう問   題はどう考えるか。  ・ それは差別的な解雇は出来ないという法理によって解決することはできるのでは   ないか。  ・ そういう法理はなく、使用者の意のままに差別的な取扱いができるから問題なの   だ。それをできないという前提で議論するのは適切ではない。  ・ 差別的な理由で労働者を解雇しようとすると、それは整理解雇4要件の人選の合   理性の要件に抵触することとなるし、協議等手続を果たして実効ということになる   。それが営業譲渡ということになると、そのうち誰を承継しないこととするかを決   める上では、整理解雇の規制の網にかからなくなる。  ・ そうした場合でも譲渡会社には雇用責任がある。15人の内、10人しか引き取   れないというケースでは、その5人は譲渡企業が雇用責任を負う。引き受け手の方   がどうしても欲しくない人を押しつけてしまうのでは、そもそも取引が成立しない   ことが考えられるし、結果的に当該労働者に向いてない業務に使わざるを得ないこ   ととなる。  ・ 営業譲渡の際に、当事者間の合意によって、引き継ぐ労働者の人選を自由にする   ことが出来る。それが営業譲渡の最も大きな問題である。だから、たとえば30人   のうち、15人に削減して譲渡することについては、私は反対していない。しかし  、その15人の選び方について、まったくのフリーで良いのか、恣意的な判断を許し  てよいのかというのが私の問題意識だ。  ・ 最初に提示された基本原則について、(3)のところだが、今の整理解雇の法理を   どのように適用するかの議論になる。(2)は民法625条の問題であり、必ずしも   営業譲渡の特定承継を排除するものではないという趣旨であるようだが、やっぱり   営業というものを人と物を組み合わせてということになると、特定承継というやり   方とは調和しないのではないか。  ・ 営業譲渡は特定承継であり、何を承継させ、承継させないのかについての当事者   の合意の結び方について、一定の制約をかけられないだろうかということを問題と   している。それはこの研究会の出発点ではないか。それについて「契約の自由」の   一言で片づけてしまうのであれば、労働法的な議論は一切始まらない。それは営業   譲渡について包括承継にせよと言っていることと同義ではない。人選に対して、一   定の制度的な歯止めをかけるべできはないか、ということである。    基本原則(3)については、EU的にはこのような考え方はないが、フレキシビリ   ティを持たせるために、このような考え方を柔軟に取り入れて、基本原則(1)との   整合性を図っているわけだ。  ・ 今の発言について、100人のうち50人しか引き受けられないという、人数の   制約については止むを得ないということだろう。その50人の選び方について、あ   る特定人がイヤだということである場合に、例えばその特定人が組合の活動家であ   るということならば不当労働行為として労働組合法の問題になり、男女差別であれ   ば男女雇用機会均等法の問題として解決される途がある。これらの他、現在国会で   審議中の人権擁護法に違反する行為については、これらの法律を根拠とした規制が   可能であるが、それ以外の問題についてはどのように制限を行うことができるのだ   ろうか。  ・ 基本原則(4)で示した協議によって解決することとなる。労使手続を経ないよう   な人選については、合理性を持たないとして認めないというような考え方だ。  ・ 譲渡会社及び譲受会社だけで、受け入れ人数を決めてしまって、該当労働者側の   意向が全く汲まれないというのでは、やはり落ち着きが悪い。せめて、労働者代表   がその場で意見を言える等、制度的な保障ができないだろうか。今、現状として、   ほとんどの営業譲渡事例で、協議が行われているにしても、そうでない事例もやは   りあるのではないか。そういう事例を考慮して、措置を考えることも必要ではない   のだろうか。  ・ 報告書にどのような理屈が書いてあったとしても、結果として何ら法的措置が必   要ないという結論であれば、それらは単なる言い訳にしか過ぎない。本研究会は研   究者の集まりであって、研究者としての論理が示されていないような報告書はおか   しいと思う。    契約自由の原則によって、いかようにも労働者を排除することが出来るという営   業譲渡の宿命、そこにどのように立ち向かうことができるのかというのが、この研   究会の使命ではないのか。私としては、法的整備は必要ないという結論は論理的で   ないと言うことだ。営業譲渡がなされる際の問題について、どのように問題を解決   するのかという論理面が示されなければならない。この報告書案ではメッセージが   伝わってこない。  ・ 譲渡対象労働者の選定に当たって、恣意的な排除を防止するというのは重要な視   点だと思う。ただし、だからと言って、何らかの規制を講ずるとすると、営業譲渡   が持っている経済的な機能に対して、制約をかけることになりはしないだろうか。  ・ その問題は配慮されるべきだ。要するに兼ね合いの問題だ。譲受会社の言うまま   というのであれば、何も解決にならない。営業譲渡の問題の根元は、売り手と買い   手の意思によって、全てが決まるということではないのか。その救い方について、   黙示の合意の推認という形でやってきたけども、それを明示で排除の意思が示され   たならば、現行ではお手上げになってしまうのではないか。  ・ 基本原則(3)について、100人の労働者のうち、70人引き受けるが30人は   勘弁して欲しい、そのような場合に、70人の人選というのは判断しないというこ   とになるのか。  ・ そうではなくて、70人の人選については労使協議のルールでカバーする。  ・ 100人のうち70人は協議ルールでカバーし、残った30人については譲渡企   業に残って、配置転換の可能性を模索し、それでも雇用を確保できないときには整   理解雇の問題ということになる。  ・ この基本原則は、一部譲渡の場合も全部譲渡の場合も、両方考えてある。譲渡会   社において整理解雇してでも売った方がよいというケースもあるだろう。  ・ それでは、譲受企業の側が、「この人はいらない」「この人は来て欲しい」とい   うことは言ったとしても、あくまで希望として表明できるに留まると言うことか。  ・ 希望を表明することはいっこうに差し支えないが、その希望についても一定の   ルールの下で、70人に絞る作業を進めるということだ。細かいところまで詰めて   いるわけではないが、大枠はそういうことだ。  ・ 基本原則(3)では整理解雇法理の適用段階で支障が出ないか。つまり、今までの   法理によると、100人のうち、譲渡企業に残留する30人については譲渡企業に   雇用責任があるため、これが余剰人員となる場合には整理解雇法理に服することと   なり、解雇は規制される。ところが、この基本原則(3)によると、その整理解雇が   積極的に推奨されることとなるのではないだろうか。  ・ その辺は問題がある。ただし、イメージとして、減らさなきゃ売れないという場   合に、EU型のままだと問題が生じてしまう。それを回避するための方策だ。パイ   が小さくなることは経済的な必然だとすれば、おっしゃるような問題があるだろう   けども、そのパイをどう分けるかについて労働法的に網をかける必要があるのでは   ないだろうか。  ・ 譲受会社の意向により、例えば、パソコンが分かる人がいい等と言えることはこ   れは当然のことなのではないか。恣意的な選別はチェックしなきゃいけないだろう   が、そこまで規制することはいかがだろうか。  ・ 希望を言うことはいっこうに自由であり、それが合理的なものであるならば全く   差し支えのないことだ。しかし、営業譲渡で何を引き継ぎ、何を引き継がないかは   当事会社間の合意のみで決まるとすることについて、歯止めは必要ないのか。買い   手の希望に応じてなるべく買いやすくすることは労使とも考えることだろう。  ・ それは取引の自由が優先することになるのであろう。恣意的な問題については、   何かチェックしなければならないというのは当然のことだろうけども。  ・ それは2段階の問題だ。アメリカにもあるように恣意的な取扱を禁止するところ   もある。  ・ 解雇の場合はそうだろうけども、営業譲渡の場合は、採用行為というのが入って   くる。  ・ そのポイントにより、営業譲渡を使うことによって整理解雇4要件の潜脱等いろ   いろな問題が発生するわけだから。  ・ 労使協議のところで、この人選の方法をきっちり話し合うべきと言うことはその   通りである。それから、組合差別や人種差別等がいけないことというのは言うまで   もないことである。ただ、その一定のルールに基づいて、譲渡会社の方で話し合っ   て結局決めたとして、それでも譲受会社の方で「この労働者はやはり受け入れられ   ない」と判断する場合、承継を強制できるだろうか。譲渡会社できっちり話し合っ   て、一定のルールでやれというのもいいし、譲受企業の方で法律に反する基準で排   除してくれば、そこはダメだというところまでは良いのだが、そうでない場合につ   いて、それを何らかの形であれ制限することは可能なのであろうか。  ・ それは、承継した上での解雇の問題になる。差別だけ排除するにしても承継請求   権を認めるかどうかというのは一つの論点で、承継請求権を認めるということであ   れば、当該労働者を解雇できるかどうかの問題になる。差別により承継を排除され   た場合に、承継請求権を全く認めないのであれば、それは損害賠償の問題につな   がってくる。それを認めても認めなくても損害賠償の対象になってくるだろうが、   論理的に突き詰めれば、それは解雇の問題になるか否かということになる。  ・ そこで法的な措置が必要か。  ・ 具体的に排除された労働者に対して、選択の基準が合理的でない、あるいは差別   であるときに、譲受企業に対する承継請求権を認められるか認められないかという   ことである。私はその点について、承継請求権を認める論理的必然性はあると考え   ているが。  ・ 承継請求権というのは現行法の枠組みでは構成し得なくて、だから、法的措置が   必要だということなのか。  ・ その通りである。今までは黙示的合意論で救ってきたが、今ではこの理屈で救え   る可能性は非常に少ないのであるから。  ・ 譲受企業が、この人は労働組合活動家だから、あるいは外国人だからと言う理由   で承継排除された場合に、現行法制では承継請求権はなく、損害賠償の問題にな   る。  ・ 判例法理の中では、タジマヤ事件のように、他の労働者が引き継がれているとき   に、特定の労働者を排除されているときだけは、全員を引き継がれる旨の合意が   あったと読み込んで今までは救済を図ってきた。  ・ それは100人いるうち、ほとんど100人全員が引き継がれているときであろ   う。100人が50人になってしまう場合は、その選び方が難しいだろう。労働組   合法違反のような形の差別ならば、法律に基づく救済が可能だが、それ以外のもの   を営業譲渡に係る差別という観点の立法措置でもって差別を排除していこうとする   のか、それとも協議でもって人選の合理性を担保しようとしているのか。営業譲渡   で誰を引き継ぐのかという点は、最終的には取引関係であるので難しいところだ   が、少なくとも譲渡会社において労使協議をきちんとしなさいということは言うこ   とができると思う。営業譲渡に伴う承継差別の問題があるという認識を提示しつ   つ、労働組合法等に基づいた個別の対応を図るということで止むを得ないのではな   いかと思うが、いかがか。  ・ 恣意的な選択が入った場合に、何か対処をしなければならないということはある   だろうが、承継請求権ということまでなると困難だろう。  ・ それは営業という単位をどう考えるかというところにつながる論点である。原則   は、事業の移転にはなるべく人も含めて考える。ただし、雇用責任が譲渡会社にあ   るとしても、買い手側の譲受会社が全員を引き継ぐことができない場合もある。そ   の場合は、一定のルールで、譲渡会社で予め削減をしたうえで事業を移転すること   は認めても差し支えない。経営主体が切り替わるに際して、物だけ買って、人は買   わない、引き継ぐ範囲は自由です。それがルールだというのでは、労働者にとって   は酷いはなしである。営業の中に労働者を引き継ぐ推定が入ったとしてもよいので   はないか。  ・ 論理的に営業というのが、必ず人とセットでなければならないというのはおかし   い気がする。  ・ 現行のままでいくと、物や設備等だけ売却した結果、労働者だけ残って、「設備   がないから、うちの会社はもう営業できません。おしまいです。」というのではお   かしい。普通であれば、事業ごと買ってもらうように努力すべきだ。そうすると面   倒くさいから、という理由で、物ばかり売ってしまうことはおかしい。  ・ そういう酷い事例について何らかの歯止めをかけなければならないのは当然だ   が、法律で一律に規制を欠けるというのは困難であろう。だからといって、人と施   設をセットで考えなければならないとすることは妥当でない。  ・ 私は原則論を言っているだけであって、必ず物・人セットで持っていけとは言っ   ていない。原則、経営者が買い手として他社の事業を買うのなら、人も原則として   引き受けて経営責任をとりなさいよと。ただし、どうしても引き受けられないもの   については、一定のルールで配慮していいですよということだ。  ・ 難しい問題だ。今回の報告書案について、文章の表現の仕方に手を入れて、とい   う方法ではなく抜本的に変えようということなのか。  ・ 研究会報告の発表にタイムリミットはあるのか。  ・ もう1回開催して、ということは可能だ。  ・ 今まで議論を重ねてきたというのならともかく、まだ十分議論してないでしょ   う。  ・ タイムリミットはない。今回でまとめなければならないものではない。    この報告書案に対して、こういうような形で文章を手直しする。そうすればまと   められるというような見解は他にお持ちの方はいらっしゃるか。  ・ 基本原則(1)のところで言うと、物と、つまり施設等と労働者との関係で、営業   譲渡の場合は、ここの土地はいらないと言う形で好き勝手言って買い手は買えるが   、逆に労働者は好き勝手が言えないという感がある。バランスとして、それが良い   かと言う問題もあるが。  ・ それは営業譲渡の方の問題というは、商法上、経営上の判断としてどういう方法   をとるか、労働者を抱えている企業については、労働者に対してどういう対応をと   るのが望ましいかを考えて欲しい。考える筋道だけは押さえていただきたい。あ   と、商法上の営業譲渡においては、債権者保護、株主保護といった別の視点からの   規制があるが、労働法については、営業譲渡に関して、一定の考えの筋道が別途、   若干整合性を欠くとことがあったとしても仕方がないとは思うが。  ・ 営業部門が4つあるとして、ある1部門を譲渡して、その営業には100人の労   働者がいたとする。70人だけ引き取ってくれるということで、30人は残る。こ   の30人というのは企業全体として、「君たちが働いていた営業はなくなってし   まったから、整理解雇になりますよ」として、あくまでも譲渡対象の営業部門だけ   で考えるのか。それとも、他の正常に経営されている3つの営業全部を考えて整理   解雇対象と考えるのか。  ・ 従来日本の場合、企業全体を考えていたが、近年の判例は事業所を単位として整   理解雇対象を考えるようになってきている。  ・ それはケースバイケースだ。企業全体、均一性とか統一性がある場合には企業の   全営業を対象に考えるだろうし、3つ営業があるといっても、それぞれの営業が異   質性の強い場合は、まとめて考えることはできない。また、営業が完結性を持って   いるような場合でも、大阪支店から人を持ってきて、混ぜて、整理解雇をやるかと   言えば、それは東京支店の人からすれば迷惑だろう。あくまでもケースバイケース   だ。  ・ 異質性と完結性ということがあったが、異質であって、ここの営業譲渡が実行さ   れると残された者は整理解雇だということで予測できるということか。  ・ そこは日本の場合は、普通は配置転換等の配慮がなされることにはなるが。  ・ 基本的には、残された者についてはそのようなケースでは整理解雇の対象にはな   るだろう。他の事業所が遠くにあるようなケースなどでは、配置転換の余地が少な   いと言う判断になる。そういう努力はしなければならないのが原則だ。  ・ 基本原則(4)から考えるならば、方策としてはあり得るが、基本原則(1)は特定の   立場の者からすれば大目玉ということになるだろう。システムを変えないと難しい   。  ・ 裁判所が、この基本原則(1)のような判例を突然出して、それが定着すれば話は   別だが。  ・ 判例には少ないとしても、同じような考え方はあるはずだ。判例は、今までは黙   示的合意論を中心に救ってきたではないか。  ・ 判例にいう黙示的合意論で救えないところについてはどう考えるか。  ・ 法的な手当をするということならば、それを前提にして、対応をすればよいが。   黙示的合意論で対応できないところについては、法律でもって対処せざるを得ない   とは思うが。今の時代は、従来の判例法理では対応しきれない部分も出てきている   。特定承継にしても、特定承継するときの合意の仕方について一定の合理性を要求   するという規制の網のかぶせ方の問題がある。ただし、その網をかぶせる背景事情   として、「営業」というのはこういうものでしょうというのを言っておかないと、   というのが基本原則(1)の考え方である。  ・ 先ほど話にあったように、ヨーロッパにあるような「職務」概念を前提にする   と、日本の伝統的な考え方の修正を求められるのかなという感はある。  ・ 「職務」という概念としても、「職務」だから必ず移転しなければならないとす   るものでもない。労働者の利益を考えたときに、労働者が取捨選択できるようにす   るというのがヨーロッパの基本的方向だし、それが日本においても共通する考え方   であろう。もしどうしても雇用を確保するためのパイがないというのであれば、解   雇される可能性は高いというのはあるが。  ・ そうした営業概念を構成しようとして基本原則を提示されているのか、それとも   営業譲渡を用いた整理解雇法理の潜脱は許さないという意図で提唱されているの   か。  ・ EUの指令がなぜ解雇を禁止しているかというと、私は、日本的に言うと恣意的   な選択はダメですよという観点からという形でしか解釈できないと考えている。だ   から、必ずしも解雇法理の潜脱だけではない。やはり、事業における労働者の利益   を考えたら、そういう結論になると思う。  ・ 日本は企業に就社するので、職務との結びつきはそれほど考慮しないということ   にすると、最近はある程度特定のポジションで専門的な仕事をするというスタイル   に変わってきているわけだから、対応しきれないのではないか。原則はこれだ、と   提示されると本当にそうなんだろうかと感じてしまうところだ。  ・ 企業の利益などは労働法で保護しなくてもいいと思っている。従事してきた仕事   が移転するときには、労働者は必ず付いていけるという形であれば、拒否権などな   くてもよいという話になるかも知れない。  ・ 企業再編について、合併は包括承継、会社分割は部分的包括承継である。今の話   を聞くと、営業に労働者を含めるとし、営業譲渡においては民法第625条でもっ   て拒否権があり、それでいて、かつ承継請求権があるとするならば、労働者にとっ   てはそれに越したことはないであろうが、現実問題として適当であろうか。ムシが   良すぎるとまでは言わないが。  ・ 会社分割においては、以前にこの研究会でも報告があったように、現実には承継   されず出向で行ったり、いろいろな方策がとられている。ドイツなんかでは分割の   場合でも拒否権を認めているし、別に営業譲渡、会社分割といった使われる手法に   よって労働者の処遇が変わるような制度にはなっていない。  ・ 分割の場合は、包括承継であって、営業譲渡はそうではない。経営者側として   は、どんなメリットデメリットがあるのか。営業譲渡の場合は苦しい状態だから、   という口実が出来るのか。  ・ 今までのヒアリングで発表された範囲でいうと、営業譲渡の場合は売却利益が発   生する一方、会社分割では発生しないという大きな違いがある。営業譲渡は、例え   ば過重な債務を負う企業が債務を解消するためにキャッシュを得る手法として使わ   れる特徴がある。税制面では、会社分割は税制優遇措置が整備されている反面、営   業譲渡は課税額が大きくなる。そうした事情の中でどちらを選択するのかというこ   とになる。また、会社分割の場合、Aが会社分割によりA’及びBと分割されたと   しても、A’及びBとも債務履行の見込みがあることが要件とされているのに対   し、営業譲渡は、このような要件はなく、特に不採算事業を対象とする場合等、両   方とも生き残るとはいえないこともある。  ・ 営業譲渡の場合は、多くの場合が不採算部門を対象としているだろう。人員削減   は多くの場合で必然となると思われる。  ・ 営業譲渡について、特定承継にこだわらないようなやり方は考え方として成り立   たないことはない。しかし、それが我が国の法制にとって、整合的かどうかという   とやはり整合的ではないであろう。近年の判例が労働者の承継について、包括承継   的な構成をとっていないことからすると、我々もこうしたことを考えなければなら   ない。営業についての考え方について、昔は人と物がセットだったが、現在、そう   考えなければならない必然性はあるのだろうか。やはり、それで論理的に整合性が   あるのは、特定承継かなという感じだ。我々はそこで何か出てくる問題、恣意的な   解雇などはチェックしなければならない。そういうことを書かなければならない。  ・ 裁判所自体がかつてのように包括承継的な考え方を採ることが少なくなって、当   事者間の合意の内容によって対象が決まるという考え方が強くなったからこそ、ど   ういうルールを構築しようかというのが問題ではないか。最近の判例の傾向を前提   にして、そんなことを言っても、選別することが問題で、それを解決する方法は見   い出せない。問題は、恣意的に労働者を選別することが法的な救済のテーブルに乗   らないことだ。  ・ それは解雇法制の問題、労働組合法等の問題であって、営業譲渡だけを対象にし   て、法制化というのは問題だ。  ・ 労働組合法や、男女雇用機会均等法違反などではない労働者の選別を救済する枠   組みはない。  ・ その枠組みを考えることがこの研究会の使命だろう。  ・ 不法行為として損害賠償ということのみだろうが、それが果たして不法行為に該   当するのであろうか。  ・ 結論の当否はともかく、その問題について答案を書くことなく、これが研究会報   告だとして発表するのはやめていただきたい。  ・ 組合差別にも、性別差別にも、人種差別にも当たらない、それ以外の恣意的な差   別が対象だが、具体的に何がそこに入るのか。  ・ 解雇であれば、人選の合理性ということで対象になるが、特定承継で選別する限   りは対処できるだろうか。  ・ 自分は譲渡される営業についていきたいけど、残されてしまった。連れて行って   欲しい、というケースでは、先ほどの異質性の議論で、そのケースでは残され   ちゃったら整理解雇の問題になるだけだ。新しい会社に対して、それでも承継を強   制するのはかなりキツいことだ。  ・ 新しい会社に対して、承継したものとみなして、異議申立を考えることはできる   だろう。  ・ 物権や債権については、譲渡当事者間で選択していけるのならば、労働者につい   てもこれとこれとこれという形で言いたくなるのは止むを得ないだろう。  ・ そういう問題だからこそ、労働法的にどういう修正をするかが議論の出発点だ。  ・ 営業譲渡というのは新しい契約の締結という側面があって、そこで承継されない   ことについて、採用しないことが違法だというように、法律違反を問う構成を作る   のは難しい。  ・ 持株会社をトップにして企業グループが出来てきている。その企業グループ内で   営業譲渡をするときには、承継請求権を認めるということならば考える余地はある   かもしれないが、全然別の企業グループ傘下の企業に譲渡する際に、承継を強制す   るというのはやはり困難。    グループ内限定と言うことならば、中間的で落ち着きがよいだろう。企業グルー   プというのは単体の企業ではなくて、もうちょっと拡張された範囲で企業を考える  ものであるが、そのグループ内で譲渡するときに、解雇されてはやはりおかしいわ   けで、配置転換しなければならないというのは、どうだろうか。  ・ 一つの企業グループの中であれば、配転なり出向なりということで解決すること   が労働法的にも可能ではあろう。それから、基本原則(4)は、営業譲渡を行う場合   に、譲渡会社の方が、当該営業部門の100人のうち、譲受会社が70人しか要ら   ないということであれば、こういうことで70人を選択しましたということで、組   合と協議するというそういうことか。  ・ 営業譲渡で人を減らすとか労働条件を減らすとかは労働組合が関与していれば比   較的妥当な結果となるということはあって、協議で対応させることは良い手立てだ   ろうとは思うが。  ・ 協議のルールを認めるとして、結論で、100人のうち、70人の事例で、譲渡   会社で十分な協議がなされていれば有効とするとして、十分な協議をしていないと   きには営業譲渡そのものに影響が及ぶと考えているのか。  ・ 法律論からすると、その可能性はある。効力影響することはあり得る。それは分   割だってそうだろう。  ・ 会社分割は部分的包括承継だというのが前提になっているという違いがあるが。   協議を重視すべきだとおっしゃっているのか、それとも協議が法律要件と考えてい   るのか。  ・ それは一定のルールがあるから。  ・ この報告書案を踏まえて、これに加筆修正するか。  ・ 座長が私の考え方に対して、反論を書いてくるのなら、それでかまわない。    研究会報告であれば、論理的に、課題に対してどう答えているかが大事だから、   その辺の対話ができた報告書であれば、結論はどうであったって構わない。  ・ 現状と問題点を記述して、根本的問題点を指摘しておきながら、何もしないとい   うのはどうか。手続ルールなどを考えることはできないか。  ・ 難しいところだが、EUのようなルールがいいのかどうかに対して、問題があると   考えてらっしゃる委員もいらっしゃる。  ・ 問題があるのなら、それを指摘してもらいたい。  ・ EUは労働市場が硬直的であり、それが上手く機能しているかについては、消極的   評価せざるを得ない。営業譲渡の仕組みも、そうしたEUの硬直的労働市場を前提に   した制度ではないか。  ・ 全員承継というのは、あくまでも恣意的な選別を排除するということと、解雇   ルール潜脱を防止するということから求めているだけであり、それが経済的発展を   阻害するだけのものであるならば、そもそも労働法などない方がよい、ということ   になる。  ・ 牛刀を持って鶏を割くようなもので、解雇法理など営業譲渡以外の問題にも当て   はまる問題が手当てされていないにもかかわらず、営業譲渡においてのみそうした   枠をはめてしまうのはいかがなものか。我々は確かに恣意的な選別等に対して対処   しなければならない。しかしそのために、問題なく行われている事例も含めた営業   譲渡全体について枠をはめてしまうことになりかねない。確かにEU圏内は雇用のパ   フォーマンスは良くない。失業率も10%を越える国もある。こうした営業譲渡規   制も、それに寄与しているのではないか。もちろん、それを参考にすべきである   が。  ・ 恣意的な選別について、譲受会社に対して何らかの責任を課すことはできるだろ   うか。恣意的な選別に対して、手続法を課し、組合法違反や均等法違反について   は、それによって対処するということは言える。また、譲渡会社が譲受会社の意向   を聞きながら、労組等と協議をしてきたものの、その意向を聞きすぎて、結果とし   て何らかの法違反に至ってしまった場合には、その意向を示した譲受会社に不法行   為責任を問う等して対処すると言うことは言える。しかしながら、譲受会社に対し   て基本原則(1)を強制することはいろいろな問題でやはり困難だ。恣意的な選別が   なされないような形で、譲渡会社に対応を求める、そういうことはできるだろう。  ・ 積極的に違法ならば、その責任を問うことはできる。問題は、何となくおかしい   けども何の法に触れているのかは判然としないもので、これを責任を問うことは果   たして出来るのだろうか。  ・ そこは譲受会社と組合の話し合いなりで解決する他はないだろう。話し合った結   果、まとまらないときは、それはそれで仕方がないということになる。解雇の場合   で、整理解雇4要件の人選の合理性について判断されることにもなろうが、それが   どこまで合理的かは、最終的には裁判所の判断によることになる。そこは恣意性の   程度で判断されることになる。  ・ 整理解雇の場合は、解雇無効だと言えるのだが、営業譲渡の場合は、承継から外   されて、これは確かにフェアとは言い難いと認めつつも、裁判所はどういう形で救   済を図ることができるだろうか。  ・ 損害賠償は強制できない。  ・ そうなると実際上望ましくないと言いつつ、実際上は法的にはやむを得ないとい   う結論にならざるをえない。  ・ 元の会社で勤め続けられる場合と、結局行き先がない場合の二つに分けられる。   元の会社における解雇無効を訴えて、それで戻れれば良いが、結局元が潰れてし   まったときには、損害賠償以外しか途がなくなってしまう。  ・ 厚生労働省で指導とか周知を予定されているのか。  ・ 指針を作って指導すると言う全体的な方針になっている。毛塚先生の基本原則の   (1)と(3)を混ぜて読むと、100のうち70か50かまではしょうがないが、へこ   んだ上で何とかするというのを法律で書くというのは相当難しい。そういう全体を   合わせて読むと、数が減るのは経済的合理性から止むを得ないという点を認めつつ   も、50人の選び方をきっちりやってくださいというのを書くのはどうか。最後の   最後に譲受会社に法的責任をかけるのかどうか。労働者保護の観点から、譲受会社   もできるだけ無理なことは言うなと言わざるを得ないのか。  ・ 結論はともかく、事業の移転を考えているときに、事業を引き継ぐという意思は   人も引き継いでというのがかつては通常の形態だったわけである。それがあったか   ら、原則的な書き方をしているわけであって、人の受け手のない営業譲渡だった   ら、原則かというメッセージを送るのも一つの案ではないか。移転を受ける経営者   は、原則は人を受け付ける。そうでないときは人を受けないということも一定の   ルールの下で許容する。その原則を書けないということは私は理解できない。  ・ 原則というのは、当事者同士が何も書かなければ、労働者も引き受けるという   ルールだということならば書ける。後の恣意的な選別のところについては、これは   何故なのかと思う。承継請求権のところはどうやったらそう言えるのかという感想   を持った。特定承継で本来は自由にできるけれども、本来は営業譲渡はこういうス   タイルだということならば言うことはできるだろう。  ・ 現在の社会において、営業というのは人と施設がセットでなければいけないもの   かというのは言えるのか。  ・ それは商法の世界ではないか。商標を譲渡することも商法の世界では営業譲渡と   なり得る。だから、営業譲渡ではなく、私は事業の移転と表現する等、広くなりす   ぎる傾向のある営業という言葉ではなく、事業を移転させるときの経営者の責任を   明らかにするための議論を行っているわけである。  ・ 今日の議論を踏まえて、8月下旬あたりにもう一度開催したい。  ・ 特定承継がダメだというわけではないことについて、委員の認識は共通している   と思う。と言って、今のままで報告書を出すと、「営業譲渡は使用者の意のまま   だ」というイメージを与えてしまい、それはマイナスの結果となる。そういったと   ころの限界を汲み取れるような報告書である必要はあると思う。研究会をこれで打   ち切る必要はない。座長である私が事務局とも相談して、作成した報告書案をお示   ししたい。                                      以上          担当:政策統括官付労政担当参事官室法規第3係(内線7753)