02/07/17 第8回「不当労働行為審査制度の在り方に関する研究会」議事録      不当労働行為審査制度の在り方に関する研究会(第8回)議事録 1 日時   平成14年7月17日(水)10時から12時 2 場所   専用第13会議室(厚生労働省5階) 3 出席者  (1) 委員(五十音順)    岩村正彦(東京大学大学院法学政治学研究科教授)    小幡純子(上智大学法学部教授)    菊池信男(帝京大学法学部教授)    毛塚勝利(専修大学法学部教授)    諏訪康雄(法政大学社会学部教授)    村中孝史(京都大学大学院法学研究科教授)    山川隆一(筑波大学社会科学系教授)  (2) 行政    坂本政策統括官、岡崎参事官、清川調査官、荒牧補佐、山嵜中労委第一課長他  (3) ヒアリング対象者    鍵山安衛(中央労働委員会使用者委員・財団法人地下鉄互助会顧問)    稲庭正信(東京都地方労働委員会使用者委員・日本経済団体連合会上席参事) 4 議事 ○ 本日は労働委員会使用者委員及び使用者団体からのヒアリングを行います。最初に 鍵山氏から論点を踏まえて意見を伺いたい。次に稲庭氏から意見を伺いたい。なお使用 者団体である日本経済団体連合会では、団体としての立場と使用者委員としての立場は 変わらないとのことでありました。稲庭氏におかれては、両者の立場を兼ねて頂いてお ります。それでは鍵山委員の方からお願いします。 ○鍵山使用者委員  中労委の使用者委員としての経験、他の使用者委員と議論したこと等を踏まえ、論点 について意見を述べたい。それぞれの項目について意見を述べたいが、それぞれの項目 は相互に関連する事項があるので、大きな項目毎に意見を述べたい。最初に資料No.2を 御覧頂きたい。この表を使って労働委員会の役割だとか現状、評価について説明したい 。  表1の不当労働行為事件取扱件数であるが、平成12年では、初審の新規申立件数は364 件で、終結件数は368件である。再審査については、新規申立が61件に対して、終結は56 件ある。数字上から見る限り、初審と再審査と同様に1年間の新規申立件数と終結件数 は、ほぼ釣り合っている。そうすると紛争解決機関としては、一応、機能しているとい えるのではないか。  特にこの表の中で、終結状況のところを見ると、初審の「取下和解」、「命令決定」 の割合がそれぞれ75パーセント、25パーセントとなっており、「取下和解」で終結する 割合が非常に多いことがわかる。再審査においても、「取下和解」が73パーセントに対 して、「命令決定」が27パーセントであり、双方いずれも4分の3が和解により解決し ている。  初審の命令決定件数は93件であるが、このうち初審命令を交付され、不服申立を行わ ず終結した事件は15件である。そうすると取下和解した275件に、先ほどの15件を合わせ ると290件である。この数は、初審段階での新規申立件数364件の80パーセントに相当す る。すなわち初審では概ね8割が労働委員会段階で解決していると考える。それから再 審査について見てみると、命令決定件数15件のうち、行政訴訟の提起件数は5件である 。これらを全て足しあげると、概ね労働委員会段階で95パーセントの事件が解決してい る。  行政訴訟についてみると、初審段階で11件、再審査段階で5件であり、合計で16件で ある。この16件は、初審段階の新規申立件数の5パーセントに相当する。逆にいうと、 95パーセントが労働委員会段階で解決するということになる。特に終結状況の中で和解 取下というのが初審・再審査で4分の3あるということは、労働委員会がADRとして機能 していると考えても良いという点が第1点としてあげられるのではないか。  労働委員会制度がADRとして機能しているということを前提にして、問題点は何かを具 体的にいえば、一つは滞留事件の問題があると考える。  平成12年で前年繰越件数、つまり滞留件数をみると、初審段階で750件で、再審査段階 で270件である。初審の場合、1年間に解決した件数が368件であるので、おおむね2年 弱分の件数を滞留として抱えるということになると思う。 初審において申立から終結 までどのくらいの期間がかかるのかというと、おおむね3年弱かかるのではないか。こ れは表2に掲げた1件あたりの平均所要日数の642日に相当する。滞留事件の大多数は初 審でみると都労委、大阪地労委で係属している事件である。具体的には都労委の係属事 件は320件であり、大阪地労委は196件で、これは初審の滞留事件の約7割に相当する。 この滞留事件を何とか処理する必要性があるのではないか。  この問題については、審査の迅速化、職員の専門性の向上、手続きの簡素化などそれ ぞれの労働委員会で努力がなされているが、限界があるような感じがする。そうすると 具体的な方策としては、都労委と大阪地労委に限定した話であるが、委員の一部常勤化 、あるいは滞留事件を処理するまでの間の特別措置として臨時に委員を増員するという ことが考えられるのではないか。  都労委と大阪地労委をみると、都労委は申立件数が110件に対して終結件数は105件、 大阪地労委は85件に対して82件であり、これは全国の平均値とだいたい釣り合っている 。もっともこれは都労委と大阪地労委に事件が集中しているので、その数値が平均とな るのは当然なのかもしれない。  再審査機関である中労委については、前年繰越、つまり滞留事件は平成12年で270件で ある。また平成14年の5月時点で259件となっているが、この内訳をみるとJR事件が42 パーセント、それ以外の一般の事件が58パーセントであり、この内、155件が結審後1年 以上経過している。この155件の中でJR事件と一般民間事件の割合は、8対2ぐらいで あり、前者が滞留事件として多くある。JR事件は、国鉄の分割民営化に伴う労使紛争 であり、中労委の再審査の場においては、このJR事件を処理しなければ問題の解決に はならないということになろうかと思う。  次に迅速化の問題であるが、命令決定日数の平均を見てみると、初審では第1回審問 から終結までの期間は、全体の処理日数の55パーセントとなっている。一方、再審査の 場合は結審から命令書交付までが全体の78パーセントになっている。初審・再審査では 、それぞれこの部分を重点的に対策を講じる必要があろう。  初審については、平均4.7回の審問を行っている。問題点としては、複数代理人がいる 場合に日程がなかなか合わないこと、審問記録を見た上で次の審問に入ること等があり 、そのため次の期日が3か月から4か月も空いてしまうことがある。審査期間短縮のた めには、特に日程調整に工夫をする必要があるのではないか。  また結審から命令書交付までの期間、あるいは申立から第1回審問までの期間を短縮 するための方策としては、事務局職員の専門性を向上すること、命令書の書き方を工夫 すること、あるいは争点整理や事実認定の充実等いろいろあると考えられる。現在中労 委では、公労使及び事務局が加わって、審査の促進に関して検討中であり、ある程度案 が固まったようであるので、この案をいかに実行するかということが大きな課題であろ う。  これまで審査促進に関していろいろな提言がなされているが、どうも出されっぱなし という感がある。これをどういうふうに実行するかが今後の課題であろう。  都労委、大阪地労委では、それぞれ審理促進の具体的方策を検討しているようである が、その推移を見守っていく必要があると考える。また全国労働委員会連絡協議会にお いても、実務改善、制度改善の観点からワーキンググループを設け検討がなされている 。その結論を早急に得て、実行に移すことが重要ではないかと考える。  次に和解の問題であるが、平成12年の解決区分をみると「和解・取下」での終結件数 は275件であり、これは初審の終結件数の75パーセントに相当する。同様に再審査での 「和解・取下」の終結件数は41件であり、これは再審査の終結件数の73パーセントに相 当している。つまり初審も再審査も事件の4分の3が和解で終結しているということは 、従来から審査において当事者主義的な立場から運用が行われていることにあるのでは ないか。和解による解決は将来の労使関係安定のための効用が大きいと考えられ、この 点は評価できるのではないか。和解は契約であるので、それを誠実に履行する努力は労 使に対する教育的効果として意味が大きいと考える。  和解の手続きについては、和解は短期間で成立することは望ましいことではあるが、 不当労働行為として申立がなされる事件は、労使双方に不信感があるわけで、拙速に進 めるとかえって事態を悪化させることが往々にしてある。無理に期間を短縮するのでは なく将来の労使関係の安定という観点からいえば、解決まで多少時間がかかってもやむ を得ない面はあるであろう。  ただし和解での解決は、タイミングが重要であり、そのためには公労使の三者及び事 務局が連携をとるとともに、特に公益委員の経験等による判断が的確にできるような力 量を養うことが大切であろう。  和解におけるタイムリミットの設定については、紛争の要因としては労使双方の内面 的な対立と外形的なものとの2つがあると思われる。外形的なものについては、その障 害を除去する条件が整えば、解決まで時間を要するものかどうかある程度わかるが、内 心にかかわる部分については、お互いの感情を緩めたり、対立を解いたりするために時 間がかかると考える。従って一律にタイムリミットを設けることは、難しいのではない かと考える。要は早期に和解になじむ事件かどうかを見極めることが重要で、和解にな じまない事件について延々と和解作業を行うのではなく、早期に命令書交付を前提とし た手続きに移行することが重要であると考える。  それから和解と審査の切り分けの問題であるが、和解作業は非定型で物理的あるいは 数量的に把握できるものではないと考えられ、また労使の感情的な部分が入り込んでい る場合もあるので、審査手続きと平行しながら、適宜、和解手続きを行うことが和解成 立の可能性を高めることになるのではないか。したがって審査手続きと和解手続きの分 離は、賛成しがたい。また両者を分離したときに、和解不成立で命令作業に移行した場 合、和解の経過が審査委員に予断を抱かせるおそれがあるのではないか。それから和解 と命令作業について委員を交代して審査を行ったらどうかという議論があるが、別々の 委員で行ったら期間の短縮にはつながるとは思えず、むしろ長期化するのではないか。  その他の留意点としては、和解の場合は、労働側から和解案が出される場合があるが 、申立の内容を超えた要求を行ったり、高額な解決金を求めたり、あるいは謝罪を求め たりするケースが多いような感じがする。和解は互譲が前提であるという立場にたち、 審査委員はこのことをよく労働側に説明をし、和解を進めるべきだと考える。他の事件 との一括和解などの場合を除き、係争事項以外に争点を拡大することのないよう配慮が 必要ではないか。このような姿勢が和解作業においては必要と考える。  それから3番目の審査手続きについてであるが、労働委員会の強制権限の行使、審査 の実効性の確保、それから命令の履行確保、背景事情の認定など様々な手続きがある。 これらの手続きの中でも特に強制権限の行使については、公権力の行使は抑制的でなけ ればならないという考え方を我々は持っている。強制権限の行使については、現在、総 会の決議にかからしめているという現行制度は維持されるべきである。公益委員会議の 付議事項とすることについては反対である。  証拠提出における強制権限の行使については、労働委員会の審査は公開を原則として いるが、一方、社内文書は非公開の取扱をしているものが多い。したがって文書提出命 令を強制権限を行使して行うことは反対である。  審査の実効性の確保の措置についてであるが、証人出頭の確保、証拠の散逸の防止等 の手続きに限定すべきだと考える。  それから強制力をもった仮処分的な措置を設けることについては、当事者が不服があ れば最終的には裁判所の判断を必要とする現行制度の立場は維持されるべきであって、 それを職権的な方向に転換することは反対である。  背景事情の認定については、労働委員会の命令を見ると延々と背景事情や過去の経緯 を記載することにより使用者の不当労働行為意思を認めていることが多く、判断方法と しての範囲を逸脱しているという指摘も多い。不当労働行為意思の認定のためには、第 一に具体的な事実にまず焦点をあてるべきであり、それでは判断がつかない場合に限り 、過去の労使関係の経緯など背景事情による立証活動を行えば良いのではないか。直接 事実にまず焦点をあてるべきであり、間接事実その他については、その後に斟酌すべき である。往々にして労働委員会の審査では両者を不可分一体なものとして取り扱う傾向 にあり、この点は問題であると考える。  団交拒否事件に関する取り組みについては、団交拒否事件といっても合同労組による 団交申し入れとか、子会社の労働組合が親会社の使用者に団交を申し入れるなど、様々 なケースが考えられる。団交拒否事件を単純なものとして取り扱うことは疑問がある。 要するに緊急性の観点から言うのであれば団交拒否事件のみならず、解雇事件も同様で はないか。団交拒否事件だけがなぜ緊急性を要するのかという点については議論が少な いような感じがする。  次に審査体制について意見を述べたい。公益委員であるが、不当労働行為の審査に当 たり法律の専門家が必要とされるわけであるが、労働委員会は調整事件も取り扱うわけ であるので、そうすると法律の専門家だけで構成することはいささか問題がある。現在 のバランスのとれた委員構成は、現行でやむを得ないのではないか。ただし公益委員間 の意思の疎通が不十分であるということがよく言われるところである。初任研修とか通 常の意思疎通、あるいは委員交代の際の引継の問題など検討すべき点は多くある。これ は我々使用者委員が事件の参与委員となった場合、審査委員の個性によって審査の進め 方がいろいろ相違があることを感じるところであり、この点についてもある程度統一化 することを、公益委員会議で検討することも必要ではないか。  「小法廷方式」導入については、全員が必ずしも法律家でない委員の体制では、小法 廷方式を採用し、そこに全ての権限を委ねることは疑問がある。現行どおりでよいと考 える。特に中労委の場合には公益委員会議は年23回行われ、1回の公益委員会議で2件 の事件が諮られると聞いている。そうなると年間に46件の事件の合議が可能と考える。 しかし実際に命令が発出されたのは15件であり、キャパシティから言えば公益委員会議 の関係で命令の発出が遅れることではないのではないか。  中労委と地労委の関係であるが、委員の定数については、都労委、大阪地労委では滞 留事件処理のため特例を設けても良いと申し上げたが、逆に事件数の少ない地労委にお いては、地方行政を支えるコストとして大勢の委員を抱えるだけの価値があるのかとい う議論が出てくるのではないか。そういう面から勘案すると下限数の見直しも考えても 良いのではないか。ただしこれは不当労働行為審査事件に限った話であり、実際の検討 の際には、調整事件や個別労働紛争解決制度の運用とかの問題を総合的に考慮する必要 もある。しかし少なくとも不当労働行為審査制度の問題に限れば今のようなことがいえ るのではないか。  労働委員会における二審制の問題であるが、労働委員会の審査の統一性を図る観点か ら再審査は必要と考える。再審査において初審命令を維持したものについては、命令決 定15件のうち7件である。初審命令の維持が半数に満たないことは、地労委における事 実認定が不十分であること、あるいは判断が統一されないことなどにより命令に安定性 が欠けることが要因であることが推定される。労働委員会における二審制の議論は、こ ういう地労委命令の安定性が高まった段階で議論されても良いと考える。  それからもう一つ労働委員会における審級省略、つまり中労委で統一的に判断された 命令について取消訴訟が提起されるのではなく、地労委が独自に判断したものが、裁判 所において審理されることとなった場合、特に東京・大阪地労委は今でも不当労働行為 審査で手一杯なのに、さらに業務が増えるのではないか。  地労委の自治事務化に伴う問題については、自治事務化に伴い各地労委は独自運営の 指向が強まっていく中で、地労委間で委員の経験に格差が出てくるのではないか。その 差は研修等で補えば良いという意見もあるが、労働委員会の審査手続きは、研修だけで は足りないと思うし、経験を積むことが要求されるのであって、自治事務化によって各 地労委がばらばらに対応したのでは、横の調整が困難になってしまう。二審制の問題と ともに今後の課題として検討すべきことと考える。  次に司法審査との関係について、紛争解決手段としての労働委員会の役割であるが、 労組法第7条の規定は非常に簡素に出来ている。労使間の紛争は微妙なニュアンスによ って争われる事件が多いのであって解決のために労働問題を専門に扱う機関としての必 要性というものは、今後も重要であろう。特に原状回復だけで終わるのではなく、事件 を契機として将来の安定した労使関係の確立という配慮が求められるという点で教育的 効果も含んでいる。裁判所の判断と行政機関の判断との役割は、その点で相違があり、 労働委員会の役割は重要であろう。  複数の道筋がある仕組みがある点については、平成12年の初審命令に対する不服申立 件数59件のうち、地裁に取消訴訟が提訴された件数は、11件である。つまり不服件数の 約20パーセントが地労委から行政訴訟に行っている。この数値は決して軽くなく、再審 査機関の存在は必要であるが、前置するという考え方については私は否定的である。そ の選択は利用者に任せ、複線的な制度で良いのではないか。  再審査命令について、平成12年には15件命令が出されているが、この内5件が東京地 裁に取消訴訟が提起されているところである。これは1年間に不当労働行為申立がなさ れた件数364件に対して、1.4パーセントに相当する数値である。この1.4パーセントが行 政訴訟に係属したからといって、これが即、五審制の議論に結びつけてもよいのかとい うことについて疑問がある。特に過去の経験からいって、1.4パーセントの中には事実認 定や法律解釈で重要な問題が争点となっていたり、あるいは特殊な労使関係にある場合 、労使ともそれぞれ地裁、高裁、最高裁の三段階の審理を受ける権利は確保されるべき であるとの意見が強いわけであり、こういう1.4パーセントのために五審制が議論される のはいささか、審査の促進の観点からは違うのではないかと考える。  以上である。 ○ ありがとうございました。それでは稲庭使用者委員、お願いします。 ○稲庭使用者委員  論点項目に対する使用者委員としての意見は鍵山委員と同趣旨である。私は、レジメ (資料No.3)にしたがい、使用者側からのアンケートによって得られた意見を紹介した い。ただ数値については、この場で紹介することは対象者に了解をとっていないので、 明確な数値等については差し控えたい。  まずレジメの1の「企業の労働委員会に対する意識について」及び2の「労働委員会 使用者委員の「論点項目」に対する考え方について」について、どのような答えが返っ てきたのか、大きな点だけ冒頭に申し上げたい。  最初に企業の労働委員会に対する意識である。これは労働委員会に事件が係属したと 思われる従業員1,000人以上の会員企業30社に聞いたところ、このうち13社の企業から次 のような回答がなされたところである。  一番多かったのは迅速化の問題であり、調査審問が開かれるまで時間を要する等の意 見が多かった。2番目として命令が労働側の主張に偏りすぎているのではないかという 意見であった。それから取消訴訟は必要な制度であるという意見も多かった。4番目で あるが、労使関係の背景事情の主張立証が長く、もう少し簡略化する等改善が必要であ るとの意見があった。それから公益委員の前で申し上げるのは恐縮であるが、審問指揮 が頼りないという意見があった。延々と主張が続いてしまうことがあり、指揮すべきと ころは指揮して頂きたいという意見があった。  以上が企業の労働委員会に対する意識であった。  次に、「地方経営者協会」という組織があり、そこの専務理事クラスの方は、だいた い地方労働委員会の使用者委員を兼ねている方が多い。その方々59名に論点についての アンケートを行ったところである。回答数が30あり、その中には地方労働委員会の使用 者委員の意見を集約して送りますというものもあった。結果について説明したい。  一つ目は労働委員会の役割・評価という点であるが、これは労働関係の安定を視野に いれた公正な解決を視野に入れた解決をすることが肝要であるという意見が多数であっ た。ADRとしてみた労働委員会の特色であるが、和解による解決が多いという点で柔軟 性、簡易性については評価できるという意見が多かった。逆に迅速性と専門性は評価で きないという意見もあった。それを裏返しにいうと制度改善に当たっては迅速性と専門 性を重点に行うべきとの意見であろうと考える。  判定機能と調整機能、教育機能の組み合わせについては、これは労使関係の安定のた めには、和解の調整機能と教育機能は重要であり、これらを重視しなければならないと いう意見であった。  救済命令に対する取消訴訟については、労働委員会は行政機関として簡易迅速を重視 し、裁判所は司法的判断を下すものであり、現行の制度は妥当であるとの意見であった 。  和解の評価については、早期に命令で終結しても労使の信頼関係が回復しなければ労 使紛争が再発するおそれがあり、労使関係安定の観点から、ある程度時間がかかっても 和解を目指すべきであるという意見もあった。そうなると先ほどの迅速化とは反対の意 見となるが、要するに両方の意見が出ているということである。  どこまで和解の努力をするかということであるが、これは当事者の意向、調整の進行 状況などを見て、公労使三者で総合的に和解を続けるか否かを判断するべきであるとい う意見であった。  和解にタイムリミットを設けることについては、これは一律に設けることは困難であ るという意見であった。  和解の手続きと審査手続きの分離という点では、審査手続きにより双方が主張した後 でなければ和解の機会が熟さないこともあり、和解と審査を分離することは得策ではな いとの意見であった。  審査委員の職権行使については、労委規則で規定されているものの、現実的には当事 者主義的運用がなされており、これは労働委員会におけるこれまでの長い経験から行わ れていることであるので、職権強化については反対であるとの意見であった。  迅速化についてどのような改善が必要かというと、中身はよくわからないが、審査期 日の日程調整を改善すべきとか、事件処理計画の策定、争点整理の徹底が必要であると の意見であった。  不当労働行為の成否に直接関係のない背景事情の主張立証については、制限するなど 審査委員の指揮が必要となるのではという意見であった。  団交拒否事件について特別な配慮をする必要があるかどうかについては、団交拒否と いってもその内容は多岐にわたっていることから、特に使用者性の問題がかかってくる と早期の処理が難しいのではとの意見であった。  審査体制については、適切性や公正性確保の点で、現在の体制で良いのではないかと いう意見であった。  労使参与委員の役割の評価であるが、特に見直す必要はないとの意見が多かった。  事務局職員に調査・審問の手続きに一定の役割を担わせることについての要否、必要 な研修については、公益委員は非常勤であるので、審査手続きの中で事務局職員が一定 の役割を担うことは必要であり、そのためには事務局職員の専門性を高めてもらいたい という意見が多かった。  地労委によっては申立事件数に差があり、その結果、経験にも差が生じているが、す べての地労委に同じ対応を求めることが現実的か否か、あるいは事件数の少ない地労委 に何らかの方策が必要であるかについては、審査について統一的な制度運用、判断が必 要であり、事件数により地労委の審査体制を変更すべきではないとの意見が多く、現行 で良いとのことであった。  二審制の見直しについては、現行で良いとの意見が多かった。  司法審査の関係では、行政救済、民事救済、行政訴訟など複数の道筋は確保されるべ きであり、現行で良いのではとの意見であった。  審級省略については、取消訴訟では事実認定、法律解釈など大きな問題を内包してい ることが多いため、裁判所の審理の機会を減らすべきではないとの意見が多かった。  だいたい以上のような意見が多かった。  次にレジメの「不当労働行為の審査に関する私見」であるが、基本的には、鍵山委員 の意見と同趣旨でもあるが、この機会に私見を述べさせて頂く。  (1)の陳述書の活用であるが、これは何回か経験したことであるが、一つの労組がいく つも申立を行う場合があり、その場合は背景事情は同じ場合があるのではないか。過去 あるいは別な地労委で同じ背景事情を繰り返し、そのために時間が取られるという場合 があるように思われるので、何とか工夫はできないかと考える。  労側の方で、陳述書での主張は証拠として取り上げてもらえないという危惧があるの であれば、審査委員の方から陳述書でも証拠として取り上げる旨を指示する等の運用を 行うべきではなかろうか。  (2)であるが、直接的な事実関係と間接的な事実関係に関して、いろいろな命令を見て みると、「会社と労働組合は、過去あるいは現在、何々事件等、様々なところで争って いる」ことが認定され、「争いが多いことから使用者が組合を嫌悪していることが推認 される」旨、書かれていることがあるが、事件となるのは労働組合が一方的に申立を行 うためであり、使用者側としては申立があった以上争わざるを得ないわけであるので、 その意味では係争事件があるから不当労働行為意思があるという推認は使用者にとって は受け入れがたいことなのではないか。不当労働行為意思の判断はこの点を踏まえて、 是非とも慎重に行って頂きたい。  それから(3)の和解における解決金問題である。いわゆる駆け込み訴えなど合同労組か らの申立では、実質的には個別紛争である事件が多いが、このような事件の中には、不 当労働行為の解決というよりは、和解金の支払いに重点が置かれるものが多いような感 じがする。使用者側に聞いてみると、自宅や店に集団で押し掛けられると非常に困るし 、特に解雇の問題では、合同労組との労使関係が今後も続くとは考えにくいので、組合 が解決金を要求する代わりに本人は退職するというのであれば、使用者の方は不当労働 行為の成否は争わずに、早く解決したいために解決金を払うことで、和解してしまうこ とが多いようである。このことから考えると、本来、労働委員会は不当労働行為の救済 機関として利用されるべきものであるが、その利用方法が、本来の筋とは違う形になっ ているのではないか。その場合には、和解が本当の意味での解決になっているとは思え ず、これは筋を曲げた「邪道な和解」であるとの意見も出ているようである。地労委で こうした事件が多いと聞いているが、そうなるとますます使用者の労働委員会に対する 不信感が増大することにもつながりかねず、何か対策が必要である。  次に(4)を飛ばして(5)の最高裁判例と労働委員会命令についてであるが、最高裁判例 に反するような命令がだされるようなケースがあり、その場合、中労委に再審査が申立 てられたり、地裁で審理されれば、いくつかのバリエーションがあるにせよ、結論は最 高裁で確定していることなので、当該地労委の命令は取消を免れないのではないか。最 高裁判例があるのはわかっているけれども、地労委の行政裁量として、それとは異なる 判断をしたということは、いささか行き過ぎではないかと考える。  (6)の和解の研究について、労働委員会の終結区分の70パーセント以上が和解であると いう現実がある。中労委では結審後命令の発出までの期間が長いことは、複雑な事案で あり命令作業が慎重に進められるためと考えられるが、もう一つの理由として和解が進 められていることも要因としてあるのではないか。中労委時報では都労委の公益の渡辺 委員が和解の研究をやるべきとの論文を載せていたが、私も和解の事例を集積して内容 の分析・整理の上検討を行うことは必要ではないかと考える。  次に(4)の統計と迅速化の問題である。常々考えていることは、例えば昇級・昇格差別 事件などは、一つの労働組合がいくつもの申立を行い、またその後も、継続する事件と して1年毎に申立を行うケースがある。その他にも配置転換や処遇問題で申立を行うこ とがある。さらには、裁判所で仮処分の申立も行い、また中労委でも再審査が係属して いる。このような状況で和解をするにしても一括和解をしないことには、本質的な解決 にはならないのではないか。命令についても、例えば10件の申立のうち配置転換は結審 しているが、他にも昇級昇格差別事件が多数あり、配置転換だけ命令を交付しても、一 つの事件の解決にはなっても真の意味での労使紛争の解決にはならないので、なかなか 命令を出せないのではないかと推測する。  しかしそのようになると事件の申立件数は何十件となり、解決する期間も当然長くな ってしまう。それを統計で表すと長期未処理事案が増えてくるのは当然であり、その結 果を平均で表せば、審査に長期間を要しているという数値が出ることになる。一般市民 には労働委員会の実情はなかなか理解していただけないので、その数値だけ見ると何故 こんなに解決まで時間を要しているのであろうという意見が当然でてくる。従って事件 処理に関する統計については、例外的な事件とそうでない事件とに分けて、おおむね7 割から8割程度はこうですよ、他の複雑な事案については、このようになっていますの で、審査に時間がかかっています、というように分けた説明をした方が良いのではない か。統計の取り方、分け方といったものを何とか工夫する必要があるのではと考える。 実態を説明しきれていないために迅速化の取り組み状況について一般から誤解を招かれ ることがあるのではないか。  最後の(7)審査体制の機能充実とブロック化についてであるが、申立件数が少ない地労 委も現実にあり、そのようなところで専門機能の充実を求めても無理ではないか。そう いう意味ではブロック化して、申立については都道府県労政事務所等で受理し、実際の 審査とか調整はブロックごとに行うことも考えた方が良いのではないか。 ○ どうもありがとうございました。ただいま2人からそれぞれ意見を伺いましたが、 これについてこれから意見交換をしたい。 ○Q  説明の中で「地方経営者協会」に属している方の意見の紹介があったが、その中で労 働委員会で評価できない部分は迅速性と専門性であるとの意見が紹介された。迅速性は 良くわかるが、専門性が評価できないという点は、どのような点であろうか。もう少し 具体的に説明願いたい。 ○A  専門性について具体的中身までは聞いていない。 ○Q  それから30社の企業に対するアンケート結果であるが、5番目に審査委員の審査指揮 が頼りないとの意見があったがこれは、4番目に説明があった背景事情の主張を延々を 主張することを許してしまうという意見との兼ね合いかもしれないが、もう少し具体的 にわかるのだろうか。 ○A  そこまで詳細に回答を得てはいないのでわからない。ただ回答があった13社のうち8 社の企業が審査指揮が頼りないと回答している。 ○Q  単純な団交拒否事件についいて特別な配慮をする必要の有無について、消極的な意見 であったように思われるが、その理由としては使用者性が絡むという理由があったがそ れを除いた意味での単純な団交拒否事件についてはどうであろうか。 ○A  そのような質問は特にしていない。回答としては多岐にわたるので特別な配慮は必要 ないとの意見が多かった。 ○Q  お二方に聞きたいが、労働委員会の救済について、類型別にいうといろいろな事件が たくさんあるが、特にこの事件は迅速に解決しなければならない事件はどのようなもの であると考えているのか。 ○A  団交拒否の関係した事件もそうであるが、解雇事件についても迅速に処理すべきであ ると考える。実際にかかわった事件であるが、管理職組合のケースで、前の年の申立が あり、翌年の3月末で定年を迎えることが決まっている事案であった。迅速性が求めら れ、前の年までは和解を模索していたが、条件が合わず命令に移行するということで3 月末の定年を迎える前に命令を発出したというケースがある。これは中労委としては比 較的早く命令を交付したケースだと考える。しかしこれは特殊な例だと考える。いずれ にしても審査委員と参与委員とが相談しながら、進めていくのがベターなのではないか 。こういうケースはこうしなくてはいけないというのではなく、例外的なものについて は、例外的な取扱があっても良いと考える。 ○A  私見としては、団交拒否だけのことであるならば迅速に処理すべきと考えるが、使用 者の中にはそもそも何で団交しなければならないのかというところから説明しなければ ならない使用者もいて、時間がかかることもある。使用者性を除くとか、一般に団交す れば良いということだけの事件ならば、迅速に結論を下すべきであろう。 ○ 先ほどの管理職組合のケースでは、申立の段階で審査を省略するなどの簡易な手続 きをとったというわけではなく、通常の手続きに沿って調査審問を行い、和解するか命 令を交付するかという選択をし、その後に命令を交付したケースである。最初の段階か ら手続きを省略した訳ではない。 ○ 統計と迅速化の指摘であったが、私も同感である。我々が扱っている事件でも、次 から次への申立がなされ、その場合併合することがある。事件数だけが積み重なり、併 合しているので期間だけが長くなる。そういう現象が実際に起きている。そのような事 件を除いて統計を取ってもよいのではと考える。他方でそのような方法を採ると、事件 を個別でカウントしなくなるので、実際に係属している事件は減ってしまうという現象 が出てきてしまう。しかしながら指摘には賛成である。  それから、団交拒否事件については、確かに使用者性・労働者性が争点となると事実 関係を立ち入って調査しないといけないので、初審段階ですぐに命令を発出するといい ことは難しいと考えるが、他方で単純な組合否認型の団交拒否事件もある。その型の事 件については申立人が主張と争点を絞ってくれれば、調査1回、審問2回で命令に至る ことができるのではないか。申立人が争点を絞り込んでくれるかが問題である。組合否 認型で一見すると早く解決できそうな事件も時間がかかってしまうことがあるかもしれ ない。 ○ その点についてであるが、不当労働行為として申立がなされた事件について、単純 なものについて調整事件に転換できないかということを使用者委員の中で議論したこと がある。 ○ ただ都労委の例を見ると最初にあっせんとして申立がなされたが、使用者がまった く取り合わず、それで不当労働行為として申立が行われるケースが多い。 ○ 立ち会い団交的に、労使委員と事務局が立ち会い、話し合いを行い、解決したケー スもある。 ○Q  和解についてであるが、和解と審査を分けることについては、かえって時間がかかる とか、ケースバイケースとの意見であったと思う。和解が成立しそうだという見通しと は、具体的にはどのようなものであるのかお聞きしたい。それから、その見通しは事件 の類型により異なるのか。事件の内容によっては比較的早期から、例えば調査段階で和 解できるか否かの見通しがつくというような違いがあるのか。 ○A  和解については、あらゆる段階で行われるわけであるが、申立の時に、和解で解決し てほしいということを最初から申し立ててくる事件がある。そういう事件は審問に入る 前に和解作業を進めることとなる。しかし必ずしも和解が成立するとは限らない。  それからもう一つは審問の段階になって和解の気運が高まり、それでは和解を進めよ うということで行う場合がある。それから結審後に会社に戻ってお互い話し合って和解 の方を選択する場合もある。定量的、数量的に把握できるものではなく、事件は非定型 であるので、まさにケースバイケースで対応せざるを得ない。従って審査委員の経験に 基づく判断が重要になるのではないか。まさしく公益委員の質が問われている部分はそ こにあるのではないか。 ○Q  その場合、命令では労使関係はよくならないとか、両方が譲歩しそうだという状況認 識が見通しの中身になるのか。 ○A  命令を出して相互の権利関係だけ確定させるという方法もある。しかし私どもの基本 的なスタンスとしては、当事者主義的な運営を行い、労使が自主的に労使関係秩序を将 来に向けて継続するような解決を図ることが望ましいと考えている。裁判所のように権 利を確定させ原状を回復すれば良いという立場ではなく、見通しとして教育的な効果が そこに認められるのかどうかの見極めをつけて命令を出すべきではないか。  命令は、ある一つの事件に対して1かゼロかの結論を出さざるを得ないが、中には、 背景事情を延々と述べ、だからどうだというような、こじつけのような命令を出してい ると感じることがある。労働委員会命令の中に、裁量で教育的効果がでるような書きぶ りができるかどうかを考えて頂く余地があるのではないかという気がする。要するに労 使紛争は、1かゼロかではなく、4分6分とか、それぞれの言い分があるわけである。 結果として白か黒かということになればしこりを残すこととなる。その辺りが難しいと ころであり、過去に調整的命令ということが一時期議論となったことがあるが、最近で は議論がとぎれているような気がする。検討すべきではないか。 ○ 命令主文には書けないが、命令書の理由の部分に「なおこの間組合の対応にも問題 があった」という趣旨のことを記載することもある。 ○ そのことは承知している。しかしそれでは足りないと考える。 ○ しかし命令主文に記載することは難しい。 ○ たしかにその通りである。司法審査との関係で難しいだろう。 ○ それとさらに組合側の不当労働行為という問題も考えざると得なくなる。 ○ 和解のタイミングの問題であるが、一つは合同労組のことである。使用者側は和解 でも良いという感じでも、合同労組の方が使用者サイドに押し掛けていって、交渉を求 め、感情的になってしまった例があり、審査委員からそのようなことは紛争拡大につな がるので止めるよう指示したことがある。それ以降、押し掛け行為がなくなり、使用者 はそれでは和解しようという気運が生じ和解が成立したケースがある。もちろん使用者 側の悪いところもあるのかもしれないが、労組の方も押し掛けるというような行為は止 めて頂かないと、あるいは審査委員の方から言って頂かないと和解が進まない。  もう一つは、労働組合の代表者と不当労働行為を受けた組合員の考えに違いがあるケ ースがある。組合員は和解でも良いと考えているのに、リーダーの方は審問に進むよう に主張し、それに対して労働者側の参与委員や審査委員から、組合員はこう思っている というような趣旨を説明して和解が成立したケースもある。特に合同労組が申立人とな る場合の対応・研究を何らかの形で行った方が良いのではないか。 ○Q  合同労組が申立人となる例に代表される個別労働関係紛争的なものについては、労働 委員会としてもう少し整理した方が良いのか、それとも解決金のルール設定がおかしい と感じているのか、そのあたりをもう少し詳しく説明願いたい。  それと関連するが、先ほどのお二方の意見では、現在の労働委員会制度に関して個々 に問題点を指摘されたが、全体としてそれほど問題はなくおおむね原状維持という意見 であったように感じた。使用者委員から見て、労働委員会の制度的な問題、例えば判断 が労側よりではないかとい意見があったが、それを是正する場合、どのような手続き、 どのような問題点があると考えているのか、お聞かせ願いたい。 ○A  解決金の問題については、セクハラ問題が起き、それに対して団交拒否がなされた場 合、申立は団交拒否でなされる。その場合、団交が行われたか否かが争点となるが、結 局、解決金はどれだけかということが争点となってしまう。  そういう場合は、使用者委員の立場から見ると、和解は真の解決にはならず、いうな れば邪道な解決となるのではないか。  それから判断が組合よりという意見であるが、一般的には和解での解決が多いので現 行の制度で良いと考える。ただ運用で専門性の確保とか審問指揮などを行って頂きたい ということである。  判断については条件付命令、例えば先ほど議論があったが、命令書の中に組合にも反 省すべき点があるのではということを記載するなど裁量の中でできるかどうかを検討す べきではないか。そうなれば組合も反省するところとなり、使用者にとってみれば、判 断が組合側によっているとは思わなくなるのではないか。 ○Q  使用者委員の中には合同労組絡みの事件では和解は邪道という意見をもっているとの ことであったが、それは筋を曲げた和解が労働委員会の手続きの中で進められていると いうことなのか、それともそういう進め方で和解をしてしまう例があるので、和解が成 立したとしても、邪道と思えるのか、どちらであるのか。 ○A  後者の方である。和解は成立したが、不当労働行為の問題として取り上げて和解を進 めたものではない、と感じている。 ○Q  不当労働行為事案として解決するのであれば、関連する事項が和解の中に入っていて もかわまないのではないか。そもそも和解は当事者一方が不同意ならばどんなに進めて も成立はしない。筋を曲げた和解であっても、勧奨で応じてしまうことがあるというこ となのか。 ○A  要するに使用者の方は、事業所に押し掛けられたりして困る、また解雇や退職事案の 場合、当人と労使関係が今後続くこともない、それならば和解金を払えば良いというこ とになる。そこには不当労働行為の有無の問題は意識の中にない。困るから和解する。 当事者の思惑は違うが解決するならば良いということで、和解を進めるのであれば、そ れは不当労働行為の救済という観点から行う和解を本来の姿とするならば、適切な和解 とはいえないのではないか。だからといって和解ではなく命令を発出すれば良いという 意味ではないが、少なくともそういう和解は邪道ではないかと私は感じるところである 。 ○Q  そのようなことは、労働委員会の手続きの在り方の問題ではなく、紛争解決の一般の 問題で、訴訟でも調停でも極めて頻繁に起きることである。むしろ両方の思惑が違うか らこそ、承諾できるような条項をうまく見つけることができたため和解ができるケース がある。思惑は全く違って本来ならば絶対に出したくない金であっても和解が成立する 例はたくさんある。それは結局、第三者が関与して、公的な場で公的な形で解決に努力 することにより、本来の筋からすると不満が残るけれども、最後はやっぱり和解が成立 する。そうなると和解は、邪道だということになるのか、それともなおかつ和解できた のだから良いことなのか、というふうな考え方もあるのではないか。 ○A  和解一般は邪道ではないと考える。はじめから和解金が目的の申立については、そう であるという意味である。 ○Q  教育的効果についてであるが、一つは不当労働行為制度をあまり理解がない使用者を 説得するという側面があると考えるが、そのようなケースは和解の場面で実際どれくら いあるのか。もう一つは、一時は感情的になっても時間の経過とともに収まり、和解に 至るケースもあると考える。2つのケースの和解について、どのくらいあって、また最 初からそうすべきと考えていて最終的にそうなったケースがどのくらいあるのか。その あたりは和解を研究しないと難しいのかもしれないが、経験の中から意見を聞かせて頂 きたい。 ○A  和解は、債務をお互い負担しあうことであり、その契約条項を誠実に履行する過程の 中で、しなければならないことについてお互い努力することとなる。これは、教育的効 果につながるであろう。  それからレアケースで言うなれば手切金を払って解決するケースであるが、それは使 用者にとってみれば痛い思いをするわけで、その意味で教育的効果もあると考える。概 念的に漠然としたものであり、こうだから教育的効果があり、逆にこうだからないとい うのを分類することは難しい。 ○Q  労使関係の安定につながるような解決が大事ではあるが、そのため時間がかかる場合 がある。労使関係の安定を目指して努力したが、結局は和解はできなかったケースがあ るだろう。そのためには最初の見極めが必要となろう。不当労働行為として申立があっ た事件というものは、使用者は相当構えて審査に臨むことになるのではないか。私見と しては、例えば使用者委員の方から説得されたとしても心変わりしない場合もあるので はないか。果たして労使関係の安定の観点から和解するということがあるのだろうか。 和解をやるよりは早期に命令を出してもらい、結論をだしてもらった方が良いのではな いか。  和解によりその後の労使関係が安定するようなケースが相当数あるというのであれば 、話しは別であるが、そのあたりをどう考えるかお聞きしたい。 ○A  具体的・数量的に把握しているわけではないが、先ほど申し上げたとおり、労働条件 といった具体的な要素が争点となった場合は、解決しやすいと考える。しかし内心の問 題となると、不当労働行為意思を認定することとなり、それは時間がかかる。和解の調 査を行う時間の経過の中で、使用者を説得することができるかどうかが和解成立の鍵と なる。ある程度の時間はやむを得ないというスタンスを持っている。具体的に何月何日 までにやらなくてはダメだということではない。そのあたりは審査委員の経験なり、勘 というものに関わるのではないか。 ○Q  和解で解決した方が、将来の労使関係の安定の観点から良いとの意見であったが、一 方で合同労組による申立事件の場合、企業内に労働組合はないわけであるので、団交拒 否であっても結果的に和解金の支払いによる解決が多いのではないかということであっ た。それは和解一般の話しというよりは、本来の個別的な側面がある合同労組からみの 事件の解決のため、労働委員会制度が使われるという問題提起なのか。 ○A  そのとおりである。要するに労使関係は途切れており、労働者も解決すれば、組合を 辞めてしまっている例も多い。 ○Q  そのような申立事件については、労働委員会として具体的にはどのような方策が必要 であろうか。 ○A  わからない。 ○Q  背景事情の立証について陳述書の活用すべきとの意見があったが、そのとおりと考え る。その時に、陳述書だと証拠として認定に使ってもらえないのではという思いがある ので、審査委員から、そうではない旨を言えば出しやすくなるのではとの意見があった と思う。 ○A  証人尋問でなければ、証拠として取り上げてもらえないのではという意味である。 ○ 陳述書は現在、訴訟ではどこでも認められていると思う。しばらく前までは、陳述 書で尋問に代えることについては、相手側に反対尋問の機会がない証拠を出すことにな り、これはおかしいのでは、という意見が出されることがかなりあった。しかし、これ は使い方の問題で、脱退勧奨発言を言ったか言わないかというようなことについて陳述 書で代えることは問題だとしても、例えば組合結成以来のいきさつ等は陳述書でも良い のではないか。  陳述書を提出することについて、果たして相手側がそれに反対しないだろうかという 危惧があるのかもしれない。しかし、相手方が反対しているときは、適宜、審問を行う などすれば、スムースにいくのだろうと思う。中労委でも証人申請があっても、陳述書 で代用してもらうこともあり、また尋問を認めるにしても陳述書を活用することによっ て主尋問の時間を半分にするとかしている。 ○ それでは時間となりましたので本日の議論はここまでとします。鍵山さん、稲庭さ ん両名におかれては、多忙の折り、大変貴重なご意見を賜りありがとうございました。 本日の意見は今後の研究会の参考とさせて頂きます。  次回は、7月24日(水)の13時から東京地裁の判事並びに労働団体として連合からの ヒアリングを予定します。                                      以上 照会先 政策統括官付労政担当参事官室 法規第二係 村瀬又は朝比奈     TEL 03(5253)1111(内線7752)、03(3502)6734(直通)