参考資料1 |
帝塚山大学 才村 眞理
はじめに
生殖補助医療の実施に伴い,生まれてくる子どもの権利擁護の立場から、「子どもの健全に育てられる権利」や「子どもの出自を知る権利」を確保することが必要であると思われる。これらの権利を保障するためのシステムを考慮する際、ソーシャルワークによるカップルと子どもへの支援体制が必要だと思われる。
カップルの「子どもを生み育てる権利」を見据え、子どもの権利擁護のシステムを構築するためには、どのようなシステムが考えられるのかについて、2002年6月1日第10回日本社会福祉士会・社会福祉学会において共同発表した。子どもが健全に育つための支援、カップルが真実を告知するための支援,また,知りたいとする子どもが出自を知る際の支援等について、現行の里親制度,養子制度を参考にすることができると思われる。
以下第10回 日本社会福祉士会・社会福祉学会(2002.6.1.)で発表した資料を一部改変した。(発表者:才村 眞理(帝塚山大学) 宮嶋 淳(日本社会事業大学大学院))
1、里親・養子縁組の現状
○ | 民法の改正 昭和62年(1987年)改正、昭和63年(1988年)1月1日施行 |
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○ | 年齢階級別、男女別里親に委託されている児童数(H10)
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○ | 特別養子縁組の成立及びその離縁に関する処分受付件数の推移
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○ | 特別養子縁組の性格 | ||||||||||||||||||||||||||||
実の親に養育されるよりも養父母に養育されるほうが養子となる子の利益になる、福祉に適う場合にだけ、成立が認められる |
2、「真実告知」へのカップルの対応
* | 次のデータ並びに各表は、社団法人家庭養護促進協会(1995年)報告書をもとに、発表者がデータの枠組みや配置等を本発表に引きよせて、抜粋し編集したものである。 |
○ | 調査の概要 | |||||||||||||||||||||||||||
・ 調査対象:H6.7.までに特別養子縁組が成立した家庭=140ケース ・ 回収数 :120ケース(81.6%) ・ 養子の性別:女児=63人、男児=57人 |
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○ | 調査の結果 | |||||||||||||||||||||||||||
・ 特別養子であることで心配していること(上位回答)
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・もし将来、子どもが実親に会いたいと言ったらどうするか(上位回答)
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・一般論としての「打ち明ける」(上位回答)
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・真実告知をしたかどうか
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・なぜうちあけたか(上位回答)
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・うちあけたことをどう思うか(上位回答)
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・ 子どもが何才の時に真実告知をしたか 4才=6件、5才=7件、6才=5件、7才=7件 ・・・75.6% |
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・うちあけたのは誰か 妻=18件(54.5)、夫婦=11件(33.3)、夫=1件(3.0) |
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・ うちあけることへの不安(上位回答)
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・ 真実告知の内容
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・真実告知の内容(育ての親であること)
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・ 真実告知の内容(実親の情報)
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・ どんな風に話をしたか(話をしようと思っているか)
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3、「真実告知」に関する考え方
○ | 8「3−2 児童調査は、・・・・適切な時に子どもが実親家庭について知るニーズに応えるためであり・・・」 |
○ | 「3−3−2 子どもの背景についての情報。名前と命名者のほか、託置の日付と理由を経過順に記した委託記録・・・・」 |
○ | 「4−6 養親は、子どもが自分の背景を知る権利について知らされなければならず、かつ、関連する諸問題に対処するための準備を与えられなければならない。」 国際社会福祉協議会(ICSW)スウェーデン国内委員会/大谷リツ子訳「国内養子縁組のためのガイドライン草案」『新しい家族』養子と里親を考える会、1994年、57-60頁 |
○ | 「・・・いつかは本人も知るわけです。そういうことを考えると親子間で事実を隠すということはよくないのです。子が、ある日突然、事実を知ってショックを受ける理由は、親が自分を騙していたという点に非常にショックを受けるわけです。・・・日本でも外国でも、養親は、時期を選んで、適切な言い方で養子であることを告げるべきであるという見解が主流です。要するに、要父母は、よく時を選んで、言い方を考えて養子であることをいうべきだ、そのことが本当の強い親子関係を形成するもとになるのだ、・・・」 |
○ | 「・・・この戸籍の特別の措置の上で考えなければならないのは、子が自分の実の親を知る権利、みずからのアイデンティティを知る権利を保障してやらなければならないということです。」 法務省民事局参事官細川清『新しい養子法〜入門から戸籍・家事審判の実務まで〜』社団法人民亊法情報センター、1988年、64頁 |
○ | 「・・・これまでの経験では真実をかくさず、なおかつ、しっかりとした養親子関係を築くことによって、親子であるという自信をもって・・・・」 厚生省児童家庭局育成課監修『里親になる―制度の解説と養育の手引き―』(財)日本児童福祉協会、1981年、27頁 |
○ | 「・・・必要時には、まず単独戸籍をたどり、実親戸籍の検索もでき、近親婚や離縁、出自を知る際に用いられる。・・・・むしろ適当と思われる時期に、その真実を告げることが望ましい。」 高梨公之監修『実例民法』自由国民社、1996年、322頁 |
4、養子縁組と生殖補助医療における親子の比較
表1 [特別養子縁組][普通養子縁組]並びに[生殖補助医療による親子]の比較
項目 | 特別養子縁組 | 普通養子縁組 | 生殖補助 |
成立形態 | 国が関与する審判 | 養親と養子との契約 | カップルの希望 |
制限 | 戸籍上、結婚しているカップルでないと縁組できない | 単身者でも可 | 提供者の要件として検討中 |
年齢(下限) | 何れ25歳以上、20歳以上 | 20歳以上 | ? |
年齢(上限) | なし(協会=40歳) | なし | 母=50歳? |
実父母同意 | 必要 | 必要 | 必要 |
同意が必要でない場合 | (1) 意思表示できない場合 | 成立しない | 成立しない |
(2) 虐待や悪意の遺棄 | |||
成立期間 | 監護の期間が6ヶ月以上 | なし | なし |
相談機関 | 里親制度を経由する場合、児童相談所 | 指定医療機関? | |
判断機関 | 家庭裁判所 | 家庭裁判所(未成年者を養子とする場合) | 指定医療機関? |
養子(実子)の年齢 | 6歳未満(8歳未満で6歳に達する前から監護されている場合も可) | 年齢制限なし | 出生前 |
実親との関係 | 終了。 | 遺産相続権等継続 | 出自を知る権利 |
戸籍上の表示 | 実子(「民法817条の2による・・」の記載) | 養子 | 実子? |
法的効果 | (1) 養子は養親と同じ「姓」 | (1) 同左 | (1) 同左 |
(2) 養親夫婦は養子の親権者 | (2) 同左 | (2) 同左 | |
養親からの離縁申し立てできない | (3) 双方の意思により、協議が整えば、可能 | (3) できない | |
特別な場合の認知権 | 実父が特定されるのに、認知されていない場合、実父から認知権を奪うことになる | 認める | 認めない |
法定代理人 | 15歳未満の場合、必要 | − | |
本人の承諾 | ない | 15歳以上の場合、あり | ない |
真実告知 | (1) 戸籍で確認できる | (1) 同左 | (1) ? |
(2) 「知ってしまう」より「知らせる」 | (2) 同左 | (2) 同左 | |
(3) 安定した親子関係 | (3) 同左 | (3) ? | |
真実告知の中身 | (1) 親子確認 | (1) 同左 | (1) 同左 |
(2) 選択性 | (2) 同左 | (2) ? | |
(3) 幸福感 | (3) 同左 | (3) ? |
[注] | 「生殖補助」欄は、現在、国の厚生科学審議会(厚生労働省)や法制審議会(法務省)において検討中の事項を抽出したもので、今後の審議により大幅な変更もありうる。 |