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卒後臨床研修


卒後臨床研修のあり方について



全国医学部長病院長会議

平成14年7月22日


はじめに

 卒後臨床研修は、医学教育の卒前教育、卒後教育、生涯教育のうち、医師としてはじめて責任ある医療行為を行う時期であり、この期間に習得される医療・医学に対する考え方、技術・技能が研修医個々の医師としての将来への基盤を形成し、方向付ける非常に大切な研修期間と位置付けられる。したがって、平成16年度から新たに義務付けられる卒後臨床研修は、医師としての基本的知識、技術・技能、態度などを適切なカリキュラムと指導体制の整備の下に行われなければならない。
 この基本的な認識から、全国医学部長病院長会議は、卒後臨床研修の制度設計に関し、これまで数次に渡り提言等を行ってきた。これらの提言等は、国家試験合格後の時期における医師の基本的な臨床能力を涵養するために、最低限考慮すべき事項をとりまとめたものである。その際に重要なことは、研修医が安心して研修に取り組むため、全研修期間を通じて研修医の経済的保障と身分保障が大切であることは言うまでもないことである。また、この研修期間を有益に過ごさせるためには、研修目標を明確に提示し、医師としての初期研修に必要なカリキュラムを遂行するための臨床研修病院と指導医・指導体制の整備が必要である。さらに、研修が有効に行われたか否かについての公正な評価が自主的に行われる必要がある。
 以下は、国民に支持される医師を育成するために、全国医学部長病院長会議が従来から検討し公表してきた、卒後臨床研修のためのカリキュラム、病院群の考え方、指導医及び指導体制ならびに評価のあり方について、とりまとめ再度一括して提言するものである。
 卒後臨床研修制度の制度設計に当たっては、これらの内容を適切に実施することで、医師の基本的な臨床能力を涵養するという同制度の基本が確保されることを期待する。


目次

I 卒後臨床研修におけるコア・カリキュラムについて

II 研修施設について

III 臨床研修指導医と指導体制について

IV 研修評価のあり方について


I 卒後臨床研修におけるコア・カリキュラム

コア・カリキュラムの考え方

 卒後研修における医学的知識は、卒前に獲得した想起レベルの知識を問題解決レベルまで深める必要がある。卒後臨床研修では、知識の量の増加よりも、問題解決能力の習得のほうがはるかに重要である。また、ここに示したカリキュラムは、研修医が最低限習得すべき基本的医療知識、技能・技術を示すものであり、あくまでも最大公約数であることから、各卒後臨床研修施設においてより良いものを作成すべきと考える。コア・カリキュラムは、これに加えて選択される選択カリキュラムにより補完され、よりよい医師を育成するためのカリキュラムを作成するための基本的習得カリキュラムである。


1.臨床研修の一般目標と行動目標

【一般目標】

 医師として、医学・医療の社会的ニーズを認識しつつ、日常診療で頻繁に遭遇する病気や病態に適切に対応できるよう、幅広い基本的な臨床能力(態度、技能、知識)を身につける。


【行動目標】

1.患者−医師関係

 患者を全人的に理解し、患者・家族と良好な人間関係を確立するために、

1)患者、家族のニーズを身体・心理・社会的側面から把握できる。

2)医師、患者・家族がともに納得できる医療を行うためのインフォームドコンセントが実施できる。

3)守秘義務を果たし、プライバシーへの配慮ができる。


2.チーム医療

 医療チームの構成員としての役割を理解し、医療・福祉・保健の幅広い職種からなる他のメンバーと協調するために、

1)指導医や専門医に適切なタイミングでコンサルテーションができる。

2)上級医師および同僚医師、他の医療従事者と適切なコミュニケーションが とれる。

3)同僚及び後輩へ教育的配慮ができる。

4)患者の転入、転出にあたり情報を交換できる。

5)関係機関や諸団体の担当者とコミュニケーションがとれる。


3.問題対応能力

 患者の問題を把握し、問題対応型の思考を行い、生涯にわたる自己学習の習慣を身につけるために、

1)臨床上の疑問点を解決するための情報を収集して評価し、当該患者への適応を判断できる(EBM =Evidence Based Medicineの実践ができる)。

2)自己評価および第三者による評価をふまえた問題対応能力の改善ができる。

3)研究や学会活動に関心を持つ。

4)自己管理能力を身につけ、生涯にわたり基本的臨床能力の向上に努める。


4.安全管理

 患者ならびに医療従事者にとって安全な医療を遂行し、安全管理の方策を身につけ、危機管理に参画するために、

1)医療現場での安全確認を理解し、実施できる。

2)医療事故防止及び事故後の対処について、マニュアルなどに沿って行動できる。

3)院内感染対策(Standard Precautionsを含む)を理解し、実施できる。


5.医療面接

 患者・家族との信頼関係を構築し、診断・治療に必要な情報が得られるような医療面接を実施するために、

1)医療面接におけるコミュニケーションのもつ意義を理解し、コミュニケーションスキルを身につけ、患者の解釈モデル、受診動機、受療行動を把握できる。

2)患者の病歴(主訴、現病歴、既往歴、家族歴、生活・職業歴、系統的レビュー)の聴取と記録ができる。

3)インフォームドコンセントのもとに、患者・家族への適切な指示、指導ができる。


6.身体診察

 病態の正確な把握ができるよう、全身にわたる身体診察を系統的に実施し、記載するために、

1)全身の観察(バイタルサインと精神状態の把握、皮膚や表在リンパ節の診察を含む)ができ、記載できる。

2) 頭頸部の診察(眼瞼・結膜、眼底、外耳道、鼻腔口腔、咽頭の観察、甲状腺の触診を含む)ができ、記載できる。

3)胸部の診察(乳房の診察を含む)ができ、記載できる。

4)腹部の診察(直腸診を含む)ができ、記載できる。

5)泌尿・生殖器の診察(産婦人科的診察を含む)ができ、記載できる。

6)骨・関節・筋肉系の診察ができ、記載できる。

7)神経学的診察ができ、記載できる。

8)小児の診察(生理的所見と病的所見の鑑別を含む)ができ、記載できる。

9)精神面の診察ができ、記載できる。


7.臨床検査

 病態と臨床経過を把握し、医療面接と身体診察から得られた情報をもとに必要な検査を、

 {  A=自ら実施し、結果を解釈できる。
 B=指示し、結果を解釈できる。
 C=指示し、専門家の意見に基づき結果を解釈できる。

1)一般尿検査 (尿沈渣顕微鏡検査を含む)(A)

2)便検査:潜血(A)、虫卵 (B)

3)血算・白血球分画 (A)

4)血液型判定・交差適合試験 (A)

5)心電図(12誘導) (A)、負荷心電図(C)

6)動脈血ガス分析 (A)

7)血液生化学的検査 (B)

8)血液免疫血清学的検査(免疫細胞検査、アレルギー検査を含む)(B)

9)細菌学的検査・薬剤感受性検査 (B)

10)肺機能検査 (B)

11)髄液検査 (B)

12)細胞診検体(喀痰、腹水など)の採取と処理(A)
   細胞診・病理組織検査 (C)

13)内視鏡検査 (C)

14)超音波検査 (B)

15)単純X線検査 (B)

16)造影X線検査 (C)

17)X線CT検査 (C)

18)MRI検査 (C)

19)核医学検査 (C)

20)神経生理学的検査(脳波・筋電図など)(C)


8.基本的手技

 基本的手技の適応を決定し、実施するために、

1)一次及び二次救命処置ができる 。(13.行動目標4を参照)

2)圧迫止血法を実施できる。

3)包帯法を実施できる。

4)注射法(皮内、皮下、筋肉、点滴、静脈確保、中心静脈確保)を実施できる。

5)採血法(静脈血、動脈血)を実施できる。

6)穿刺法(腰椎、胸腔、腹腔)を実施できる。

7)導尿法を実施できる。

8)浣腸を実施できる。

9)ドレーン・チューブ類の管理ができる。

10)胃管の挿入と管理ができる。

11)局所麻酔法を実施できる。

12)創部消毒とガーゼ交換を実施できる。

13)簡単な切開・排膿を実施できる。

14)皮膚縫合法を実施できる。

15)軽度の外傷・熱傷の処置を実施できる。


9.基本的治療法

 基本的治療法の適応を決定し、適切に実施するために、

1)療養指導(安静度、体位、食事、入浴、排泄、環境整備を含む)ができる。

2)薬物の作用、副作用、相互作用について理解し、薬物治療(抗菌薬、副腎皮質ステロイド薬、解熱薬、麻薬を含む)ができる。

3)輸液ができる。

4)輸血(成分輸血を含む)による効果と副作用について理解し、輸血が実施できる。


10.医療記録

 チーム医療や法規との関連で重要な医療記録を適切に作成し、管理するために、

1)診療録(退院時サマリーを含む)をPOS (Problem Oriented System) に従って記載し管理できる。

2)処方箋、指示箋を作成し、管理できる。

3)診断書、死亡診断書(死体検案書を含む)、その他の証明書を作成し、管理できる。

4)剖検所見の記載・要約作成に参加し、診療の向上に役立てることができる。

5)紹介状と、紹介状への返信を作成でき、それを管理できる。


11.症例呈示

 チーム医療の実践と自己の臨床能力向上に不可欠な、症例呈示と意見交換を行うために、

1)症例呈示と討論ができる。

2)臨床症例(剖検症例も含む)に関するカンファレンスや学術集会に参加する。


12.診療計画

 保健・医療・福祉の各側面に配慮しつつ、診療計画を作成し、評価するために、

1)診療計画(診断、治療、患者・家族への説明を含む)を作成できる。

2)診療ガイドラインやクリニカルパスを理解し活用できる。

3)入退院の適応を判断できる(デイサージャリー症例を含む)。

4)QOL(Quality of Life)を考慮にいれた総合的な管理計画(社会復帰、在宅医療、介護を含む)へ参画する。

5)社会福祉施設の役割について理解する。

6)地域保健・健康増進(保健所機能への理解を含む)について理解する。


13.救急医療

 生命や機能的予後に係わる、緊急を要する病態や疾病、外傷に対して適切な対応をするために、

1)バイタルサインの把握ができる。

2)重症度および緊急度の把握ができる。

3)ショックの診断と治療ができる。

5)二次救命処置 (ACLS = Advanced Cardiovascular Life Support、呼吸・循環管理を含む)ができ、一次救命処置(BLS = Basic Life Support)を指導できる。

※ ACLSは、バッグ・バルブ・マスク等を使う心肺蘇生法や除細動、気管挿管、薬剤投与等の一定のガイドラインに基づく救命処置を含み、BLSには、気道確保、心臓マッサージ、人工呼吸等の、機器を使用しない処置が含まれる。

5)頻度の高い救急疾患の初期治療ができる。

6)専門医への適切なコンサルテーションができる。

7)大災害時の救急医療体制を理解し、自己の役割を把握できる。


14.予防医療

 予防医療の理念を理解し、地域や臨床の場での実践に参画するために、

1)食事・運動・禁煙指導とストレスマネージメントができる。

2)性感染症(エイズを含む)予防、家族計画指導に参画できる。

3)地域・職場・学校検診に参画できる。

4)予防接種に参画できる。


15.緩和・終末期医療

 緩和・終末期医療を必要とする患者とその家族に対して、全人的に対応するために、

1)心理社会的側面への配慮ができる。

2)緩和ケア(WHO方式がん疼痛治療法を含む)に参加できる。

3)告知をめぐる諸問題への配慮ができる。

4)死生観・宗教観などへの配慮ができる。


16.医療の社会性

 医療の持つ社会的側面の重要性を理解し、社会に貢献するために、

1)保健医療法規・制度を説明できる。

2)医療保険、公費負担医療を説明できる。

3)医の倫理・生命倫理について説明できる。

4)虐待について説明できる。


2.経験すべき症状・病態

 研修の最大の目的は、患者の呈する症状と身体所見、簡単な検査所見に基づいた鑑別診断、初期治療を的確に行う能力を獲得することにある。

(1)頻度の高い症状

 以下の症状について、最低限90%は経験することが望ましい。

1)全身倦怠感

2)不眠

3)食欲不振

4)体重減少、体重増加

5)浮腫

6)リンパ節腫脹

7)発疹

8)黄疸

9)発熱

10)頭痛

11)めまい

12)失神

13)けいれん発作

14)視力障害

15)結膜の充血

16)聴覚障害

17)鼻出血

18)嗄声

19)胸痛

20)動悸

21)呼吸困難

22)咳・痰

23)嘔気・嘔吐

24)胸やけ

25)嚥下困難

26)腹痛

27)便通異常(下痢、便秘)

28)腰痛

29)関節痛

30)歩行障害

31)四肢のしびれ

32)血尿

33)排尿障害(尿失禁・排尿困難)

34)尿量異常

35)不安・抑うつ


(2)緊急を要する症状・病態

 以下の症状・病態について、最低限90%は経験することが望ましい。

1)肺停止

2)ショック

3)意識障害

4)脳血管障害

5)急性呼吸不全

6)急性心不全

7)急性冠症候群

8)急性腹症

9)急性消化管出血

10)急性腎不全

11)流・早産および満期産

12)急性乾癬症

13)外傷

14)急性中毒

15)誤飲、誤嚥

16)熱傷

17)精神科領域の救急


(3)経験が求められる疾患・病態

 以下の疾患・病態について、※のものは必ず経験すること。さらに、全体の最低限70%は経験することが望ましい。

(1)血液・造血器・リンパ網内系疾患

※(1)貧血(鉄欠乏貧血、二次性貧血)

(2)白血病

(3)悪性リンパ腫

(4)出血傾向・紫斑病(播種性血管内凝固症候群:DIC)


(2)神経系疾患

※(1)脳・脊髄血管障害(脳梗塞、脳内出血、くも膜下出血)

※(2)痴呆性疾患

(3)脳・脊髄外傷(頭部外傷、急性硬膜外・硬膜下血腫)

(4)変性疾患(パーキンソン病)

(5)脳炎・髄膜炎


(3)皮膚系疾患

※(1)湿疹・皮膚炎群(接触皮膚炎、アトピー性皮膚炎)

※(2)蕁麻疹

(3)薬疹

(4)皮膚感染症


(4)運動器(筋骨格)系疾患

(1)骨折

(2)関節の脱臼、亜脱臼、捻挫、靱帯損傷

※(3)骨粗鬆症

(4)腰椎椎間板ヘルニア


(5)循環器系疾患

※(1)心不全

※(2)狭心症、心筋梗塞

(3)心筋症

(4)不整脈(主要な頻脈性、徐脈性不整脈)

(5)弁膜症(僧帽弁膜症、大動脈弁膜症)

(6)動脈疾患(動脈硬化症、大動脈解離)

(7)静脈・リンパ管疾患(深部静脈血栓症、下肢静脈瘤、リンパ浮腫)

※(8)高血圧症(本態性、二次性高血圧症)


(6)呼吸器系疾患

※(1)呼吸不全

※(2)呼吸器感染症

※(3)閉塞性・拘束性肺疾患(気管支炎、気管支喘息、気管支拡張症)

(4)肺循環障害(肺塞栓・肺梗塞)

(5)異常呼吸(過換気症候群)

(6)胸膜、縦隔、横隔膜疾患(自然気胸、胸膜炎)

(7)肺癌


(7)消化器系疾患

※(1)食道・胃・十二指腸疾患(食道静脈瘤、胃癌、消化性潰瘍、慢性胃炎)

(2)小腸・大腸疾患(イレウス、急性虫垂炎、痔核・痔瘻)

(3)胆嚢・胆管疾患(胆石、胆嚢炎、胆管炎)

※(4)肝疾患(ウイルス性肝炎、急性・慢性肝炎、肝硬変、肝癌、アルコール性肝障害、薬物性肝障害)

(5)膵臓疾患(急性・慢性膵炎)

(6)横隔膜・腹壁・腹膜(腹膜炎、急性腹症、ヘルニア)


(8)腎・尿路系(体液・電解質バランスを含む)疾患

※(1)腎不全(急性・慢性腎不全、透析)

(2)原発性糸球体疾患(急性・慢性糸球体腎炎症候群、ネフローゼ症候群)

※(3)全身性疾患による腎障害(糖尿病性腎症)

(4)泌尿器科的腎・尿路疾患(尿路結石、尿路感染症)


(9)妊娠分娩と生殖器疾患

(1)妊娠分娩(正常妊娠、流産、早産、正常分娩、産科出血、乳腺炎)

(2)女性生殖器およびその関連疾患(無月経、思春期・更年期障害、外陰・腟・骨盤内感染症、骨盤内腫瘍、乳腺腫瘍)

(3)男性生殖器疾患(前立腺疾患、勃起障害、精巣腫瘍)


(10)内分泌・栄養・代謝系疾患

(1)視床下部・下垂体疾患(下垂体機能障害)

(2)甲状腺疾患(甲状腺機能亢進症、甲状腺機能低下症)

(3)副腎不全

※(4)糖代謝異常(糖尿病、糖尿病の合併症、低血糖)

※(5)高脂血症

(6)蛋白および核酸代謝異常(高尿酸血症)


(11)眼・視覚系疾患

(1)屈折異常(近視、遠視、乱視)

(2)角結膜炎

(3)白内障

(4)緑内障

※(5)糖尿病、高血圧・動脈硬化による眼底変化


(12)耳鼻・咽喉・口腔系疾患

(1)中耳炎

(2)急性・慢性副鼻腔炎

(3)アレルギー性鼻炎

(4)扁桃の急性・慢性炎症性疾患

(5)う歯と歯周病

(6)外耳道・鼻腔・咽頭・喉頭・食道の代表的な異物

(7)口内炎、口腔乾燥


(13)精神・神経系疾患

(1)症状精神病

(2)痴呆

(3)アルコール依存症

(4)うつ病

(5)精神分裂病

(6)不安障害(パニック症候群)

(7)心身症


(14)感染症

※(1)ウイルス感染症(インフルエンザ、麻疹、風疹、水痘、ヘルペス、流行性耳下腺炎)

※(2)細菌感染症(ブドウ球菌、MRSA、A群レンサ球菌、クラミジア、結核菌)

(3)真菌感染症(カンジダ症)

(4)性感染症

(5)寄生虫疾患


(15)免疫・アレルギー疾患

(1)全身性エリテマトーデスとその合併症

(2)慢性関節リウマチ

※(3)アレルギー疾患


(16)物理・化学的因子による疾患

(1)中毒(アルコール、薬物)

(2)アナフィラキシー

(3)環境要因による疾患(熱中症、寒冷による障害)

(4)熱傷


(17)小児疾患

(1)けいれん性疾患

※(2)ウイルス感染症(麻疹、流行性耳下腺炎、水痘、突発性発疹、インフルエンザ)

(3)細菌感染症

(4)小児喘息

(5)先天性心疾患


(18)加齢と老化

※(1)高齢者の栄養摂取障害

*(2)老年症候群(誤嚥、転倒、失禁、褥瘡)



ローテーションの例

 卒後臨床研修に必要な基本的医療知識、技能・技術を習得できるスーパーローテーションの例を以下に示す。ローテーションは、必修科目に加えて、選択必修カリキュラムと選択カリキュラムとから構成される。

  必修科目: 内科、外科、小児科、救急
  選択必修科目: 産婦人科、精神科、麻酔科、放射線科、診療所、福祉・介護施設、保健所
  選択科目: 残りの診療科


スーパーローテーションの例

 コアローテーション:必修9ヶ月以上、選択必修3ヶ月以上、合計12ヶ月以上

  6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月 4月 5月
1年目 内科 外科 小児科・救急 選択A
2年目 選択B 選択C 選択D 選択E

註1 ローテーションの順不同 小児科と救急は各1ヶ月以上、また、救急は2年目でも良い
註2 2年目は外来診療研修(総合的な外来が望ましい)を必修とする。
註3 選択A-E 最低3種類の診療科を経験する。
註4 選択A-Eのなかに必修選択を取り入れそれぞれの病院の特徴を提示する。
必修選択科: 産婦人科、精神科、痲酔科、放射線科、診療所、福祉・介護、保健所から2科目を選択。
註5 研修の開始時期は将来的には4月にすべきである。


II 研修施設について

研修施設の概要

 初期臨床研修の目的は、個々の研修医が多種多様な疾患を経験しながら臨床技能・知識・態度の実際を学び、その経験から帰納して臨床医学の原理を導き出す方法を学ぶことにある。このためには、責任ある指導医による科学的教育方法に基づいた組織的な指導の下で全人的な診療能力を習得する必要がある。このような研修を行うために基本的な研修プログラム(コア・カリキュラム)と特色ある選択的な研修プログラムを提供できるよう施設の体制が構築されていなければならない。さらに初期研修の目的として、一般的な総合診療能力の涵養をはかりつつ、社会から要請されている地域医療・保健・福祉・介護等の医療関連施設における経験も選択できるように、研修内容に組み込まれる必要がある。
 このような研修プログラムの構築にあたって、単独の研修施設で十分な研修プログラムが用意できない場合には、地域の医療機関等の協力を得て研修病院群を形成する。


研修施設の設定

1.臨床研修施設に必要な基本条件

 研修施設は以下の条件が整備されている必要がある。

1)臨床研修に必要なプログラムを提供できること。

2)研修プログラム実施に必要な指導医の確保や、指導体制の整備がていること。

3)臨床研修期間中に経験すべき症例の種類・数が確保できること。

4)臨床研修に係わる施設・設備が整っていること。

5)研修医の福利・厚生が図られていること。


2.研修病院群の設定

1)研修内容の内、基本となるコア研修内容の主要部分を提供する病院を研修拠点病院とする(研修拠点病院は、臨床研修に十分な実績があることが望ましい)。

2)研修拠点病院を中心として、地域の複数の研修協力病院および研修協力施設(医療関連施設:診療所・保健・福祉・介護等)が連携して研修病院群を形成する(図参照)。

3)研修拠点病院には臨床研修センターを置き、研修病院群における研修の統括を行う(図参照)。

4)研修病院群を形成する研修拠点病院・研修協力病院・研修協力施設間の調整を図るため、臨床研修連絡協議会を設ける(図参照)。

5)研修拠点病院は他の研修病院群の研修協力病院となることができる。

6)研修拠点病院において初期研修に必要なプログラムを全て提供できる場合には、この研修拠点病院が単独で研修施設となることができる。


3.臨床研修センターの役割

 臨床研修センターは、研修病院群を構成する各医療機関等の責任者(病院長、施設長等)からなる臨床研修協力協議会と協力しながら以下の事項を決定し、公表する。

1)研修プログラム・カリキュラムを作成する(基本となるコア研修カリキュラムと特色ある選択性カリキュラムを作成する)。

2)研修病院群における研修指導体制を構築するとともに、指導医等の公表とともに指導医等の育成を計る。

3)研修病院群において経験できる症例等をまとめる。

4)研修病院群における研修に関わる施設・設備等(福利厚生施設を含む)を整備する。

5)上記の1)〜4)に基づき、研修病院群における研修医受け入れ数を決定し、公募する。

6)研修病院群における研修に関わる人的支援態勢、責任体制を確保する。

7)研修病院群における研修医の評価方法を統一し、研修医の形成的育成方法の改善につとめる。

8)個々の研修医の研修内容とその到達度について管理及び評価を行う。

9)研修病院群内の研修システムの向上に務める。

10)臨床連絡協議会との協議により研修医の研修修了認定を行う。


図 病院群の例

病院群の例

III 臨床研修指導医と指導体制

研修医指導の基本的考え方

 卒後臨床研修は、我が国の将来の医療を支える医師が基本的医療技能を習得するための重要な初期研修の期間である。卒後臨床研修が効率よく行われるためには、研修指導医の役割に負うところが大きい。現在の医学・医療に必要な基本的技能は、量的・質的に大きく向上しているため、医師の初期教育をより効果的に行うには、単に経験主義だけに頼った、先輩医師が後輩医師を教育するという図式のみでは成果を上げることは出来ない。EBMに基づいた医療、透明性のある医療、患者に優しい全人的医療が国民から求められている現在の医療現場において、国民の要請に即応して活躍する医師を育成するために、科学的教育方法に基づいた教育法を身につけた適切な指導医を身近においた臨床研修が行われ、頭だけで理解させるのでなく、体に覚えこませる教育が施されなければならない。近年のIT技術の開発は、医療分野においても多くの情報交換を可能にしているが、研修医に対する指導は、指導医が研修医の身近にいて、知識や経験則の伝授、基本的な医療技術の手ほどき等を行うとともに、研修医の精神心理面にも配慮しながら行わなければならず、これらをIT技術の導入による遠隔的な指導で行うことは困難であろう。卒後臨床研修において最も大切なことは研修における適切な指導医と指導体制の整備である。研修医指導における基本的姿勢として以下のことが守られることが必要である。

(1) 単に経験則に頼るのでなく、EBMに則った科学的指導

(2) 研修医個人に着目した身近に指導医を置いた個別指導

(3) 人間性豊かな指導


1. 指導医の業務

(1) 患者-医師関係の在り方、チーム医療のあり方、安全管理への対応、問題対応能力の開発、医療に対する考え方、EBMに基づく医療の実践、医療保険、医事・薬事法制などの教育

(2) 診察法、採血、注射、創傷処置などの基本的医療技術の教育

(3) 患者情報の収集法と解析法の教育

(4) 検査計画の立案と検査結果の解析法の教育

(5) 鑑別診断の立て方と診断の決定法、治療の選択などを行う思考法の教育と開発

(6) 基本的な検査技術、治療技術の教育

(7) 研修医による症例のプレゼンテーション、学会発表の指導

(8) 医療の安全・危機管理教育の徹底

(9) 研修医のモチベーション向上を目指した教育

(10) 研修ならびに研修指導の評価と指導法の開発と改善

(11) 自己の医療技能の開発   など


2. 指導医の資格

 指導医は、基本的診療に関する幅広い知識と技能を持ち、人格的にも優れた素養をもつ人材であること。

1) 病院診療の指導医

(1)  指導医は、臨床経験10年以上で、かつ、2年以上の医学部学生あるいは研修医の指導経験を持つ者が望ましい。

(2)  卒後臨床研修センターなどが開催する研修指導医講習会、ワークショップなどを受講した者。

(3)  学会専門医の資格を持つ者。


2) 保健・福祉施設、高齢者福祉・介護施設、終末期医療施設などの指導医

(1) 臨床経験10年以上で、それぞれの分野における3年以上の経験を持つ者が望ましい。

(2) 指導医のための講習会/ワークショップなどの受講者。

(3) 医学部学生の指導経験を持っている者。

(4) それぞれの専門分野における認定を受けた者。


3. 指導医の処遇

(1) 研修指導医、指導助手(臨床経験3年以上の上級医)に対して手当を支給する。

(2) 研修指導医を勤めたことを将来のプロモーションのための履歴として認定する。

(3) 指導医を志す者が学会専門医の資格を取得できる環境や指導医のための講習会、ワークショップなどに参加できる環境を整備する。

(4) 指導医が研修医の指導が出来る時間的余裕を持たせる勤務体制を構築する。


4. 指導体制

(1) 研修拠点施設(研修拠点病院)の病院長は、「卒後臨床研修センター」を設置し、卒後臨床研修センターに指導医を登録し、公表する。

(2) 指導医は、卒後臨床研修センターとの連携のもとに研修プログラムにそった研修指導を行い、研修医各人の研修プログラムの進行度合いを勘案してプログラムの微調整を行う。

(3) 卒後臨床研修センターは、指導医の意見を聴取して研修プログラムの調整・改善を行う。

(4) 研修医の指導に当たっては、「研修医−指導助手(臨床経験3年以上の上級医)−指導医」の体制を取り、1人の研修医に少なくとも2人以上の上級医の参加による屋根瓦方式の指導体制をとる。

(5) 指導医は、毎日一定時間、医療現場において研修医の指導に当たる。

(6) 上級医が研修医の医療行為のチェックが出来る指導体制をとる(カウンターサインなど)。

(7) 研修医の指導に当たって、看護師・コメデイカル職員の協力体制を構築する。

(8) 卒後臨床研修センターは、「研修手帳」を発行し、研修医に配布する。研修終了時に研修手帳を提出させる。

(9) 研修医は、指導医のもとで経験した医療行為などを研修手帳に記録する。指導医は、研修手帳に指導医の意見を記載する。

(10) 卒後臨床研修センターは、随時、研修医、指導医それぞれの意見を聴取しながら研修の円滑な進行をはかり、提出された研修手帳をもとに研修評価を行う。


IV 研修評価の在り方

評価に対する考え方

 研修評価の対象は、研修医、指導医、ならびに研修システムの3つの評価が必要である。研修医の評価においては、充実した研修をするための評価と最終的に修了認定するための評価が必要である。指導医の評価については、指導医であることの資格認定の評価と、よりよい指導を行うための評価が必要である。研修システムの評価についても、研修実施病院であることの認定のための施設やプログラムを含めた研修システムの評価と、より良い研修を提供するための評価が必要である。さらに、研修システムの評価については、マッチングシステムに必要でもあり、必ず公表されるべきである。


1 研修医の到達度・経験等の評価

 研修期間の途中に行われ評価の結果が研修医にフィードバックされる形成的評価と、研修の最後に修了認定のために行われる総括的評価が必要である。

1)形成的評価:

2)総括的評価:


2 指導医の評価

1)指導医の資格の評価

 各指導医は、別項に示すような指導医であることの要件を満たしていることを証する書類を研修センターに提出して指導医であることの認定を受ける。

2)指導医の指導内容・方法の評価

 各指導医は、研修医の指導実績を報告する。また、指導研修セミナーなどの参加実績を報告する。
さらに、研修医に加え、上級指導医、同僚、指導助手、コメディカルスタッフによる評価を受ける。


3 研修施設(カリキュラム内容・指導医・設備等)の評価(表2)

 各研修施設は、以下に示す事項などについて自己評価し公表する。さらに、全国的あるいはブロック単位の評価機関による評価も受け、内容を公表する。


4 総合評価・改善等のための全体的機構

1)全国的な臨床研修総合評価改善システム(仮称)の設置:

 研修の基本的な内容やコア・カリキュラムの在り方等の概要は全国的に改善していく必要がある。また、研修修了認定のために、統一評価基準を作成し、改善していくことも必要である。さらに各研修病院群における研修内容の評価・改善等についても調査検討し、社会にも公開していく必要がある。これらのために、各研修病院群の「臨床研修連絡協議会」は、全国的に連合して「臨床研修総合評価改善システム」(各関連省庁と独立した組織とし、有識者、患者代表を加えることが必要)を確立する。

2)各地域ブロックにおける地域ブロック研修調整システム(仮称)の設置

 複数の研修病院群を地域ブロックごとにとりまとめ、地域ブロック内での連携・調整等を行う必要がある。このため、各研修病院群の「臨床研修連絡協議会」が相互に連携して地域ブロック研修調整システムを構築する(有識者、患者代表も参画する)。


別表
 研修施設、研修体制、指導体制について公表が望まれる項目として以下のものが考えられる。


1.研修施設


2.研修体制


3.指導体制



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