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建築物衛生管理検討会報告書について

 建築物衛生管理検討会(座長:吉澤 晋愛知淑徳大学教授)では、平成13年10月から6回にわたり建築物環境衛生管理基準等の見直しについて検討を重ねてきました。今般、同検討会の報告書が下記のとおりまとまりましたのでお知らせいたします。


照会先:厚生労働省健康局生活衛生課
担当  :課長補佐 小林(内線2432)
        主査 伊藤(内線2434)
連絡先:TEL 03-5253-1111(代表)


建築物衛生管理検討会報告書

平成14年7月

建築物衛生管理検討会


検討会の構成員

相澤 好治  北里大学医学部教授
池田 耕一  国立保健医療科学院建築衛生学部長
石塚 義高  明海大学不動産学部教授
射場本忠彦  東京電機大学工学部教授
小田 浩道  札幌市保健所生活環境担当部長
紀谷 文樹  神奈川大学工学部教授
坂上 恭助  明治大学理工学部教授
宿谷 昌則  武蔵工業大学大学院環境情報学研究科教授
田中 生男  (財)日本環境衛生センター技術顧問
田中 正敏  福島学院短期大学保育科第一部教授
田中 節夫  東京都健康局地域保健部環境水道課長(第5回から)
中谷 肇一  東京都衛生局生活環境部環境指導課長(第4回まで)
眞柄 泰基  北海道大学大学院工学研究科教授
吉澤 晋  愛知淑徳大学現代社会学部教授
  (○印は座長、50音順)


検討会の開催経緯

 第1回  平成13年10月12日
 第2回  平成13年12月21日
 第3回  平成14年 2月15日
 第4回  平成14年 3月 8日
 第5回  平成14年 5月17日
 第6回  平成14年 6月14日


目次

1 はじめに

2 建築物を取り巻く社会状況の変化

3 建築物衛生の観点からの対策が必要な問題

4 建築物環境衛生管理基準の見直しについて
 4−1 基本的考え方
 4−2 空気環境の調整
 4−3 給水及び排水の管理
 4−4 清掃
 4−5 ねずみ、昆虫等の防除

5 その他今後検討すべき課題について

6 特定建築物の要件について

7 おわりに

 参考文献


1 はじめに

 我が国では、戦後、経済の発展、人口の都市への集中、建築技術の目覚ましい進歩等に伴って、都市部を中心に大規模な建築物が多く建設され、ビル等の建築物の中で1日の大半を過ごす人々が飛躍的に増大した。生活や活動の場である建築物は、安全性はもとより、健康で衛生的な環境が保持されていなければならない。建築物における衛生的環境の確保は、建築物の設計・施工と維持管理が併せて適切に行われることにより達成されるが、建築物の構造や用途が多様化している今日にあっては、日常の維持管理の寄与度が大きいことは言うまでもない。
 建築物における衛生的環境の確保に関する法律(従前の略称「ビル衛生管理法」。本報告書においては、以下「建築物衛生法」という。)は、不適切な建築物の維持管理に起因する健康への影響事例が昭和30年代にいくつも報告されたことから、建築物の維持管理に関し環境衛生上必要な事項等を定めることにより、建築物における衛生的な環境の確保を図り、もって公衆衛生の向上及び増進に資することを目的として、昭和45年に制定された。
 建築物衛生法の施行から30年余が経過し、この間、建築物の衛生水準が著しく向上したことは多くの人が認めるところである。しかしながら、近年、より衛生的で快適な生活環境への社会的ニーズの高まり、地球温暖化問題・省エネルギー対応の環境配慮型の建築物への関心の高まり等、建築物衛生を取り巻く状況は大きく変化しつつある。
 本検討会では、建築物衛生上の新たな課題に対応した建築物環境衛生管理基準の在り方等について、平成13年10月より6回にわたり検討を行ってきた。
 本報告書は、本検討会の論議を取りまとめたものであり、まず、建築物環境衛生管理基準の見直しに当たって考慮すべき課題として、建築物を取り巻く社会状況の変化と建築物衛生の観点からの対策が必要な問題を取り上げ、次いで、建築物環境衛生管理基準等の在り方について提言するものである。


2 建築物を取り巻く社会状況の変化

 我が国社会は、戦後の経済成長や産業発展を重視した成長型経済社会から、生活、環境、文化等の多面にわたり多様な価値観が多元的に存在する成熟型経済社会へと移行しつつある。さらには、地球環境保全の重要性の高まり、少子・高齢化、グローバル化、情報通信技術の高度化といった時代の流れの中で、近年、建築物を取り巻く環境は大きく変化している。
 建築物における衛生的環境を適切に確保するためには、このような社会状況の変化を考慮する必要がある。特に、建築物の長寿命化や維持管理も含めた建築物のライフサイクルコストの縮減、省エネルギー対策への対応は、今後の建築物衛生の在り方を考える上で重要な課題となっている。

(1)建築物の長寿命化やライフサイクルコスト縮減の要請
 高度成長期には、急激な都市化に伴って膨張するオフィス需要に応えるため、スクラップ・アンド・ビルドによる社会資本の整備が進められてきたが、地球環境保全対策の必要性と相まって、これからは、ストック・アンド・リノベーションの考え方に基づき、建築物の長寿命化を図り、良質な社会ストックとして長期間にわたり効率的に活用することが求められている。
 建築物における衛生的環境の確保に資する日常的な維持管理の業務は、同時に、ストックを良好な状態に保ち、建築物の長寿命化を図るという観点からも、その社会的重要性が増大している。平成13年12月の建築物衛生法の一部改正(平成14年4月1日施行)により、都道府県知事の登録を受けることができる業種として「建築物環境衛生総合管理業」が創設されたことや、業務の質に関する登録基準が設けられたこともあり、ビルメンテナンス業の役割の増大と成長が期待される。
 一方、維持管理を含めた建築物のライフサイクルコストの視点から建築物の費用をとらえると、建築段階のイニシャルコストよりもはるかに大きな比率を占める使用段階でのコストを縮減することが重要な課題となっている。建築物の適切な衛生環境を確保しながら、使用段階でのコストを縮減するためには、建築物のメンテナビリティ(メンテナンスのしやすさ)を考慮した設計を行うことが重要であり、例えば、建築物の維持管理についてのノウハウを有するビルメンテナンス業者が建築物の企画構想・設計の段階に参画することも望まれる。
 近年では、コスト縮減のため、建築物の衛生的環境を確保するための日常的な維持管理の費用も削減される傾向にある。過度のコスト縮減は、衛生的環境の維持に支障を来すおそれがあることが懸念されることから、建築物の適切な衛生環境を確保しつつコストの縮減も図るためには、空気調和設備や給排水衛生設備等の効率的運転などランニングコストの一層の効率化が課題となっている。

(2)省エネルギー対策への対応
 地球環境保全が重要な社会的課題となっており、建築物においても、省エネルギー化や資源循環型社会の構築に向けた取組の推進が急務となっている。平成9年12月に京都で開催された気候変動枠組条約第3回締結国会議で採択された京都議定書では、CO2排出量の削減目標が定められたが、この目標の達成のためにも、建築物における省エネルギー対策の推進が求められている。
 建築物におけるエネルギー消費は、建築資材の生産、建築工事、竣工後の使用、除却等といった各段階で生じるが、建築物のライフサイクル全体のエネルギー消費の中でも大きな比率を占めるのが建築物の使用段階におけるエネルギー消費である。これを削減するために、設計・施工の段階において、建築物の断熱性の向上及び空気調和・照明・給湯等の設備のエネルギー効率の向上について考慮する必要がある。建築物の日常の維持管理においても、空気調和設備や給排水衛生設備等の運転に当たり、省エネルギーへの配慮が求められている。
 なお、欧米諸国ではオイルショック後の時期に、エネルギーの利用効率化などの観点から、建築物の気密化や外気取り入れの抑制が行われたために換気量が不足し、室内の空気の悪化が社会問題化したこと、また、給湯設備における湯温管理が不適切であればレジオネラ属菌をはじめとする細菌類やその他の微生物の増殖を招きやすくなることなどから、過度あるいは不適切な省エネルギー対策が、人の健康に悪影響を及ぼすおそれがあることについて留意が必要である。省エネルギー対策の推進に当たっては、まずは、人の健康への悪影響が生じない水準の衛生的環境を確保することが不可欠である。


3 建築物衛生の観点からの対策が必要な問題

 建築物においては、適切な維持管理が行われなければ、建築物利用者の健康に様々な影響を惹起するおそれがある。ここで、近年、建築物衛生の観点からの対策が求められている代表的な健康問題を取り上げる。

(1)シックビル症候群
 米国やヨーロッパのいくつかの国では、1970年代後半から1980年代にかけて、オフィスビルで働く労働者などの間で不定愁訴や非特異的症状を自覚する人が増加し、「シックビル症候群」(Sick Building Syndrome)として社会問題化した。このような健康問題が発生した原因については必ずしも解明されておらず、複合要因が関与している可能性が示唆されているが、エネルギーの利用効率化などの観点から、建築物の気密化や外気取り入れの抑制が行われたために換気量が不足したことに伴い、室内空気の汚染が進んだことが主要な原因と考えられている。
 シックビル症候群については、欧米の文献で多数報告されているが、我が国での報告例はほんどない。我が国の建築物がシックビル症候群の発生を免れてきたのは、建築物衛生法に基づく衛生管理体制が有効に機能してきたからではないかと考えられる。建築物利用者の健康を確保するため、今後も建築物における衛生管理の充実を図ることが重要である。
 「シックビル症候群」は、広義には、建築物の利用に伴う健康影響の総称として用いられることがあるが、通常は、健康影響の原因が特定できない場合と明確な原因が特定された場合とを区別し、前者を「シックビル症候群」と定義し、後者は「ビル関連病」(Building Related Illness)と呼ばれている。ビル関連病には、一酸化炭素中毒、タバコ煙やアスベスト、有機溶剤などの汚染物質による有害作用、レジオネラ症や過敏性肺炎など、建築物の構造や維持管理の在り方が、建築物利用者の健康問題に直接・間接的に関連する様々な疾患や公衆衛生上の問題が含まれる。

(2)化学物質の室内空気汚染による健康影響
 室内空気中の化学物質汚染の問題として、かつては、開放型燃焼器具の使用、工場や自動車からの排ガスで汚染された外気の導入に伴う一酸化炭素、窒素酸化物、硫黄酸化物、粒子状物質による健康影響が建築物衛生上の重要な課題であった。これに対し、最近では、ホルムアルデヒドや揮発性有機化合物による室内空気汚染、タバコの受動喫煙による健康への影響に対する関心が高まっている。
 揮発性有機化合物等による室内空気汚染問題への関心が高まっている理由の一つとして、測定技術の進歩により、極めて多数の微量物質に対する暴露が明らかになってきていることが挙げられる。個別物質の有害性についての研究は進行中であり、特に複合暴露による影響等については未だ十分な結論が得られていないものの、近年、化学物質対策においてALARA(As Low as Reasonably Achievable)という考え方が提唱されている。また、WHO欧州環境保健センターの作業グループでは、2000年5月に「健康的な空気を呼吸するのは人の権利である」と宣言している。
 このようなことから、人の健康に悪影響を与えないようなレベルとして設定された基準値を遵守するだけでなく、より良い室内環境を維持するための取組を進めることが望まれる。

(1)ホルムアルデヒドや揮発性有機化合物による室内空気汚染
 近年、我が国において住宅等の気密性の向上、ライフスタイルの変化に伴う換気量の減少、化学物質を放散する多様な建築材料や家庭用品の普及等に伴い、住宅等における化学物質による室内空気汚染が問題となっている。
 一方、建築物衛生法の対象となる特定建築物においては、化学物質による室内空気汚染の報告例は少ない。この理由は、建築物環境衛生管理基準において二酸化炭素濃度を1,000ppm以下にすることと定められており、この基準値を遵守することにより、十分な換気量が確保されるため、二酸化炭素以外の空気中の化学物質濃度も低レベルに抑えられているからではないかと考えられる。しかし、清掃やねずみ、昆虫等の防除など建築物の維持管理で用いられる薬剤や、建築物利用者の活動に起因する化学物質により、室内の空気汚染が生じる可能性があるとの指摘もあることから、今後、こうした事例を原因とする室内空気中の化学物質濃度の実態把握を行い、化学物質の不必要な暴露を低減するための対策を進める必要がある。

(2)タバコの受動喫煙
 タバコは様々な種類のガス状及び粒子状の有害物質を含有しており、悪性新生物や虚血性心疾患、慢性気管支炎、肺気腫など様々な疾病の危険性を増大させることが報告されている。妊娠中の喫煙により低出生体重児や早産の頻度が高くなるという報告もある。室内又はこれに準ずる環境において、他人のタバコの煙を吸わされることを受動喫煙というが、この受動喫煙により、肺がんや小児の呼吸器系疾患等の危険性が増大することも報告されている。受動喫煙を防止するためには、建築物において禁煙や適切な分煙の措置を講じることが重要である。現在、第154回国会で審議中の健康増進法案においても、多数の者が利用する施設における受動喫煙防止措置の努力義務規定が盛り込まれており、建築物衛生の観点からも、環境タバコ煙対策を推進する必要がある。

(3)生物由来の汚染物質による健康影響
 建築物の構造や、設備の維持管理、使用条件などは、病原微生物の増殖やそれに基づく感染症をはじめとする種々の疾患に大きく関与している可能性がある。建築物衛生の観点からは、かつては、コレラや腸チフス、赤痢などの水系感染症、ペストをはじめとする媒介感染症の対策が重視されてきた。生活環境の改善により、今日ではこれらの感染症は激減しているが、近年、次のような生物汚染問題への対応が建築物衛生上の重要な課題となっている。

(1)レジオネラ症
 レジオネラ属菌は、本来土壌や湖沼など自然環境に生息する常在細菌であるが、建築物の冷却塔や給湯設備などで増殖し、易感染性の高齢者や免疫不全者に対して重篤な肺炎症状をもたらすことがある。レジオネラ症を予防するためには、感染源になり得る設備等の定期的な清掃等適切な維持管理が必要である。

(2)アレルギー疾患
 近年、アトピー性皮膚炎や気管支喘息、アレルギー性鼻炎をはじめとするアレルギー疾患が増加しており、国民の3割程度が何らかのアレルギー疾患に罹患しているとの報告もある。アレルギー疾患の発症・増悪には、素因のほかアレルゲンや各種寄与因子が関係しており、建築物衛生の観点からも対策を講じることも重要である。すなわち、建築物内の塵埃中に含まれるダニ、真菌の胞子、花粉、動物の毛、ゴキブリの虫体成分等は主要なアレルゲンであり、これらを除去するため、清掃の励行等建築物の維持管理における配慮が必要である。また、高温多湿の条件はダニや真菌の増殖を招きやすくなる一方、アトピー性皮膚炎や気管支喘息の患者では低湿度が増悪因子となり得ることから、適切な温湿度管理が必要である。

(3)過敏性肺炎
 過敏性肺炎は、建築物の構造や維持管理が発症に大きく関連するアレルギー疾患の1つである。夏型過敏性肺炎は、高温多湿で日当たりが悪く、換気状態の悪い家屋で増殖するTrichosporon asahiiやTrichosporon mucoides(トリコスポロン)によって発症する過敏性肺炎である。治療や予防のためには清掃を励行しトリコスポロンを除去することが重要であるが、中には治癒のために改築や転居が必要な場合もある。
 一方、建築物の空気調和設備や加湿装置が好熱性放線菌などの微生物に汚染され、これらを反復吸入することにより感作されて発症する過敏性肺炎は、換気装置肺炎(空調病・加湿器肺)と呼ばれることがある。予防のためには空気調和設備や加湿装置の清潔保持が重要であると考えられるが、微生物汚染の程度と発症の関連などについては十分解明されておらず、今後、建築物衛生の観点から調査研究を実施することが必要である。

(4)結核
 1990年代以降、建築物での結核の集団感染事例の報告が増加している。換気が不十分な建築物での集団感染事例の報告や、建築物の気密性の向上と集団感染の増加の関連を示唆する報告があり、換気不足や過密が結核感染の重要な要因として挙げられている。しかし、空気調和設備のシステムの改善や換気の徹底が、どの程度結核感染予防に寄与するかは未解明であり、今後、建築物衛生の観点からの調査研究が必要である。

(5)クリプトスポリジウム症
 Cryptosporidium parvum(クリプトスポリジウム)は、胞子虫類に属する原虫で、環境中では「オーシスト」と呼ばれる嚢包体の形で存在する。オーシストは塩素に対して強い耐性があり、人間や動物がこれを経口摂取すると消化管の細胞に寄生して増殖する。クリポトスポリジウムに感染した場合、健常人の場合、腹痛を伴う水様性下痢が数日程度続いた後自然治癒するが、免疫不全者では重篤化することもある。
 クリプトスポリジウム症の予防のためには、し尿・ふん尿処理施設等の排出源の把握や浄水処理の徹底が重要であり、水道行政において必要な対策が講じられているところである。一方、建築物の排水ポンプの故障により汚水が飲料水貯水槽に混入したことが原因で、建築物利用者にクリプトスポリジウム症が発症した事例が報告されている。したがって、本症の予防のためには、建築物衛生の観点から、給排水衛生設備の維持管理を適切に行うことも重要である。

(4)Mass Psychogenic Illness
 建築物の利用等に関連する心理・社会的現象として、Mass Sociogenic IllnessやMass Psychogenic Illness(以下「MPI」という。)が諸外国では文献で多数報告されている。MPIは、急性症状を引き起こす化学物質や生物由来の汚染物質などの発症因子が環境中に存在しないにもかかわらず、建築物などで同一場所にいた複数の者が、同時に、客観的な臨床所見に欠ける非特異的症状を訴える現象である。
 化学災害やバイオテロなどに対する不安や恐怖感が共有されている人々の間で、悪臭の発生や、不審物の発見、有害物質の暴露による被害の発生についてのクレイム申し立てなどが引き金となって生じる集団心理反応が本態であると考えられている。通常、問題が発生した場所から離れたり、医師から重篤な疾患ではないと説明を受けることなどにより、症状は消失する。被害の発生を伝えるマスコミ報道、救急車の到着等の要因によって、不安が増大し、二次的に有訴者が発生するケースが多いのも、MPIの特徴である。
 なお、多数の者が同時に非特異的症状を訴えた場合に、十分な原因究明が行われることなく、安易にMPIと診断される傾向があるとして、この概念に批判的な意見もある。
 我が国では、MPIの報告例は極めて少ないが、かかる事例が発生した場合に適切な対応が講じられるよう、建築物衛生の観点からも今後検討する必要がある。


4 建築物環境衛生管理基準の見直しについて

4−1 基本的考え方

 建築物環境衛生管理基準は、建築物衛生法に基づき、建築物の衛生的環境を確保するための基本的な措置等を定めているものであるが、この基準の内容については、建築物衛生を取り巻く状況の変化に対応し、適時見直していくことが重要である。
 2で述べた建築物を取り巻く社会状況の変化や、3で述べた建築物衛生の観点からの対策が必要な問題を踏まえ、次の事項を考慮して、建築物環境衛生管理基準の見直しを検討する必要がある。

(1)関係する基準との整合性について
 建築物環境衛生管理基準として定められた項目の中には、他の法令による基準と極めて関係の深いものが少なくない。例えば、空気調和設備や給排水衛生設備の構造方法は建築基準法で基準が定められており、飲料水は水道法の規制、清掃は廃棄物の処理及び清掃に関する法律の規制の対象にもなっている。また、事務所は労働安全衛生法に基づく事務所衛生基準規則の適用を受けている。
 したがって、建築物環境衛生管理基準の見直しに当たっては、これら関係法令による基準と整合性がとれるように配慮する必要がある。

(2)適用対象となる建築物について
 現行の建築物環境衛生管理基準は、特定建築物の所有者等当該特定建築物の維持管理について権原を有する者に対して、遵守義務を課しているものである。
 一方、建築物衛生法第4条第3項においては、「特定建築物以外の建築物で多数の者が使用し、又は利用するものの所有者、占有者その他の者で当該建築物の維持管理について権原を有するものは、建築物環境衛生管理基準に従つて当該建築物の維持管理をするように努めなければならない」とされており、特定建築物以外の建築物についても努力義務が課せられている。
 したがって、建築物環境衛生管理基準の見直しに当たっては、特定建築物以外の建築物における維持管理の実態をも考慮し、実行可能な基準を定める必要がある。

(3)建築物の複合用途化への対応
 現行の建築物環境衛生管理基準は、
(1)統一的管理性(建築物を統一の基準で管理できること)
(2)全体性(基準が建築物の全体に適用されること)
(3)制御可能性(人為的に制御することにより基準を遵守することができること)
という3つの特性に着目して定められている。
 しかしながら、建築物の大型化・複雑化に伴い、現在では、一つの建築物が多様な用途に用いられることも少なくなく、一つの建築物が複合用途に用いられる場合、用途に応じて、必要とされる維持管理の手法や水準が異なることがある。
 例えば、空気環境については、建築物内の区域ごとに人の活動密度等により、温湿度や換気量等の設定を調整する必要がある。また、用途等に応じて至適な温度や湿度が異なる場合もある。ねずみ、昆虫等の防除についても、例えば厨房や食品販売の区域と事務室の区域とを比べて明らかなように、区域によって生息する動物の種類や生息密度が大きく異なっている。
 このように、基準が建築物の全体に適用されるという「全体性」の考え方が、建築物利用の多様化に伴い、建築物の維持管理の実態に必ずしも合致しているとは言えなくなっている。したがって、複合用途で用いられる建築物などでは、「統一的管理性」や「全体性」を考慮しつつも、用途に応じ、区域ごとに適切な維持管理を実施するという考え方が必要である。

(4)地域性や季節性の考慮について
 地域や季節によって気候が異なることから、建築物における温度や湿度の管理、給排水の管理、ねずみ、昆虫等の防除の在り方には、大きな地域格差が存在しており、全国一律に画一的な対応をとることは必ずしも合理的ではない場合がある。
 建築物環境衛生管理基準は、全国一律に適用する考え方に立って定められており、温度や湿度のように基準値に大きな幅が存在する項目もあるが、今後、例えば地域性や季節性を考慮した望ましい値(指針値)を定め普及啓発を図るなど、よりきめ細かな維持管理が行えるような対応も必要である。

4−2 空気環境の調整

(1)現行の基準値の見直しについて
 空気環境の良好な状態を維持するため、中央管理方式の空気調和設備を設けている場合、浮遊粉じんの量、一酸化炭素の含有率、二酸化炭素(炭酸ガス)の含有率、温度、相対湿度及び気流の6項目について、基準に適合するように維持管理を行うこととされている。また、中央管理方式の機械換気設備を設けている場合、浮遊粉じんの量、一酸化炭素の含有率、二酸化炭素の含有率及び気流の4項目について、基準に適合するように維持管理を行うこととされている。

(1)浮遊粉じんの量
 室内の浮遊粉じんの発生源としては、室内に堆積又は付着している粉じんが人の活動によって飛散したもの、室内での喫煙など物質の燃焼に起因するもの、外気中の浮遊粉じんが室内へ流入したものなどが考えられる。
 特定建築物における浮遊粉じん量の不適合率は、例えば東京都平均では、昭和46年から昭和52年にかけて、毎年50%を超過していたが、その後経時的に漸次低下している。全国平均では、昭和52年には21.9%であったのが、平成12年度には2.2%となっている。このように、室内環境における浮遊粉じん量が低下している理由としては、空気浄化技術が高度化していること、室内の禁煙や分煙化が進んでいること等が考えられる。
 現行では「空気1立方メートルにつき、0.15ミリグラム以下」と定められているが、浮遊粉じん量は、空気環境の快適性の指標となるものであり、合理的に達成でき得る限り低減することが望まれる。今後、室内の浮遊粉じんの形状、粒径、化学組成等の性状や挙動の把握を行い、また、有害性等についての科学的知見を踏まえ、基準値や測定方法について再検討することが適当であると考えられる。
 測定回数については、他の項目と同様、2月以内ごとに一回、定期に測定することとされているが、例えば、
過去一定期間の測定で、浮遊粉じん濃度が基準値を超えていない
禁煙になっている、又は分煙の場合に設備構造上喫煙の影響がない
等の条件を満たす場合には、測定回数の緩和が可能であると考えられる。

(2)一酸化炭素の含有率
 一酸化炭素は室内では、石油、ガス等の燃料の不完全燃焼等により発生する。
 現行では、一酸化炭素中毒を防止する観点から、含有率は「百万分の十以下」と定められているが、この基準値は、一酸化炭素の人体に対する影響にかんがみれば適当であると考えられる。
 一酸化炭素の含有率は、他の項目と同様、2月以内ごとに一回、定期に測定することとされているが、例えば、
過去一定期間の測定で、一酸化炭素濃度が基準値を超えていない
禁煙になっている、又は分煙の場合設備構造上喫煙の影響がない
等の条件を満たす場合には、測定回数の緩和が可能であると考えられる。

(3)二酸化炭素の含有率
 二酸化炭素は、少量であれば人体に影響は見られないが、濃度が高くなると、倦怠感、頭痛、耳鳴り等の症状を訴える者が多くなることから、また、室内の二酸化炭素濃度は全般的な室内空気汚染を評価する1つの指標としても用いられていることから、二酸化炭素の含有率は「百万分の千以下」と定められている。良好な室内空気環境を維持するためには、1人当たり概ね30m3/h以上の換気量を確保することが必要であるが、室内の二酸化炭素濃度が1,000ppm以下であれば、この必要換気量を確保できていると見なすことが可能である。
 エネルギー消費を節約する観点から、過度に換気する必要はないものの、衛生的な空気環境を維持するためには、二酸化炭素濃度が現行の基準値以下になるよう、今後とも適正に管理することが必要である。
 なお、法令上の「炭酸ガス」との表記は、「二酸化炭素」とすることが適当である。

(4)温度
 温度は、健康で快適な室内環境条件を維持する上で、代表的な指標の1つである。温熱環境の快適性は温度だけでなく湿度、気流及び放射熱(輻射熱)によっても影響を受けること、着衣量や活動強度等によって各個人の温冷感は大きく違うことから、建築物の利用者全員に生理的・心理的に満足が得られる温度管理を行うことは困難である。
 しかし、室内温度と外気温度の差を無視した過度の冷房により、感冒などの呼吸器の障害、下痢や腹痛などの消化器の障害、神経痛や腰痛などの筋・骨格系の障害、月経不順などの内分泌系の障害など、いわゆる「冷房病」などが生じることがある。また、冬の寒冷は、脳卒中や循環器疾患、呼吸器感染症などの罹患率の上昇を招く。一方、室内温度の上昇は、居住者の体力の消耗や、建材などからの化学物質の放散量の増大をもたらすことになる。したがって、室内環境における適切な温度管理は重要である。
 現行の基準値「17度以上28度以下」については、現在の温熱環境の実態からは下限値の「17度」はかなり低い値であるといった問題点や、夏季、冬季、中間期とで基準を区別するべきとの意見もある。これについては、今後、基準値とは別に、望ましい値(指針値)を定め普及啓発を図るなど、よりきめ細かな維持管理が行えるような対応も必要である。

(5)湿度
 夏季の高湿度状態は、暑さに対する不快感を高めるだけでなく、アレルギー疾患等との関連が指摘される好湿性真菌やダニの増殖を招きやすくなる。一方、冬季の低湿度状態は、気道粘膜を乾燥させ気道の細菌感染予防作用を弱めるとともに、インフルエンザウィルスの生存時間が延長し、インフルエンザに罹患しやすい状況になる。また、アトピー性皮膚炎や気管支喘息などのアレルギー疾患の患者では、低湿度が増悪因子となる。このため、適切な湿度管理が必要であり、現行の基準においては、「40%以上70%以下」と定められているところである。
 特定建築物における相対湿度の不適合率(全国平均)は、過去25年にわたって30%前後(平成12年度は30.8%)で推移しており、建築物環境衛生管理基準の中で最も不適合率の高い項目である。湿度管理の実態については、特に、冬季においてこの基準に定める湿度の確保が困難であることが、空気調和設備の設計者や維持管理の従事者等から指摘されている。
 また、省エネルギーの観点から実用化しつつある、低温送風(大温度差送風)等の新しい空気調和の方式では、夏季冷房時に低湿な空気環境となることがある。運転条件によっては相対湿度が40%以下になることがあるが、夏季には相対湿度が低い場合においても、生理的・心理的に満足を得る水蒸気量を確保できるのではないかとの指摘がある。
 このようなことから、相対湿度の下限値については、
夏季は相対湿度が40%以下になっても加湿の必要はない旨を規定する、
冬季には衛生的環境の確保の観点からは40%を維持すべきであるが、現状では、換気装置の性能等に問題があり30%を下回る極端な低湿度状態の建築物が少なからず存在している現状があることから、最低限確保すべき湿度として35%を基準値とし、これを下回る低湿度状態の建築物に対する指導を重点的に行うことが望ましい、
といった意見もある。このことについては、現時点においては、主としてインフルエンザウィルスの生存時間の観点から基準値の引下げを合理化する科学的知見は得られていないので、基準値を改訂するには至らないが、現在、温湿度条件とインフルエンザウィルスの生存時間の関係についての再現試験が行われており、この結果が得られ次第、相対湿度の基準値を再検討することが適当であると考えられる。
 なお、加湿装置については、様々な形式のものが使用されているが、加湿水の使用量やエネルギー使用量が多いことなどの問題点が指摘されており、性能が良く衛生的な加湿装置の開発が望まれる。

(6)気流
 適度な気流は、温熱環境の快適性を維持するため、また、室内空気の混合・攪拌による均質化の点から有効である。気流が1メートル/秒増すと体感温度が3度程度下がるので、比較的高い温度設定の冷房運転でも涼しさを維持できることから、適度な気流を維持することは省エネルギーの観点からも有効である。
 ただし、気流が速くなると、体温調整機能に変調を来すおそれもあることから、現行では、「0.5メートル毎秒以下」と定められている。
 この基準値は、冷房の吹き出し気流が直接当たらないような室内の全般的な気流の人体に対する影響にかんがみれば、適当な水準であると考えられる。

(2)中央管理方式以外の空気調和設備又は機械換気設備の基準について
 現行では、中央管理方式の空気調和設備又は機械換気設備を設けている場合において、建築物環境衛生管理基準が適用される。「中央管理方式」とは、各居室に供給する空気を中央管理室等で一元的に制御することができる方式をいう。
 空気環境の調整に関する空気調和設備及び機械換気設備の方式が、「中央管理方式」に限定されている理由は、建築物衛生法が制定された昭和45年当時においては、ビル等の建築物の空気調和設備は、中央管理方式のものが一般的であったこと、また、建築物環境衛生管理基準を定めるに当たり「統一的管理性」や「全体性」という考え方が前提としてあったことが挙げられる。
 個別方式の空気調和設備は、法制定当時には、もっぱら家庭用ルームクーラーとして利用されていたが、技術改良等により、比較的規模の大きな建築物においても導入されるようになっている。最近では、一台の室外機により複数室の室内機に冷媒を供給する、いわゆるビルマルチタイプの空気調和設備も普及している。
 中央管理方式の空気調和設備又は機械換気設備を設けていない建築物については、建築物環境衛生管理基準の適用外とされているため、換気量が十分確保されず室内空気の汚染が懸念されるケースが認められること、十分な湿度管理が行われておらず冬季には低湿度状態になる傾向にあることが指摘されている。
 このようなことから、中央管理方式以外のものであっても、個々の利用者による制御が困難な方式の空気調和設備又は機械換気設備を設けている建築物については、原則として、中央管理方式と同様の維持管理を行うべきであると考えられる。

(3)化学物質による室内空気汚染問題への対応について
 最近、住宅等において化学物質の室内濃度に関する各種の実態調査が実施されているが、これらの調査結果によれば、室内空気中のホルムアルデヒド濃度が室内濃度指針値の0.08ppm(平成9年に「快適で健康的な住宅に関する検討会議」の小委員会で策定)を超過する住宅が3割程度認められること、また、ホルムアルデヒドやある種の揮発性有機化合物が比較的高いレベルで認められる住宅が存在することが明らかになっている。
 一方、ビル等の建築物においては、地方公共団体等でこれまでに実施された調査の結果によれば、室内に特殊な発生源が存在せず、かつ、十分な換気量が確保されている条件下では、ホルムアルデヒド等の化学物質の室内濃度は比較的低い状況にあること、また、建築物の竣工後、時間の経過に伴い化学物質の濃度は低減する傾向にあることが示されている。
 特定建築物におけるホルムアルデヒドや揮発性有機化合物の測定に関しては、(1)(3)のとおり二酸化炭素濃度が1,000ppm以下になるように換気量を確保することにより、建築物内の空気環境における化学物質の濃度を比較的低い水準に抑えることが可能であり、室内空気汚染の原因となり得る多数の化学物質を定期的に測定するのは実務的でないと考えられ、現時点における科学的知見からは、化学物質の定期測定を一律に義務付けるのではなく、十分な換気量を確保することにより化学物質による室内空気汚染防止を図ることが適当である。
 ただし、建築物の構造等の条件によっては、建築物の竣工及び使用開始後の一時的な期間、化学物質濃度が高くなり、健康への影響が生じる可能性を示唆する報告もある。これについては、建築物の使用開始時や大規模な修繕・模様替を実施した場合には、ホルムアルデヒド等の化学物質の濃度測定を実施し、濃度測定の結果、比較的高い水準の化学物質濃度が認められた場合には、維持管理上必要な改善策を講じるといった対応が必要と考えられる。

(4)微生物による室内空気汚染問題への対応について
 冷却塔等で増殖したレジオネラ属菌による集団感染、空気調和設備に起因する結核の集団感染、冬季に低湿条件で好発するインフルエンザの集団感染、加湿装置で増殖した細菌による肺炎や、居住環境に存在する真菌による過敏性肺炎の発症など、建築物の維持管理の状況等が、病原微生物の増殖やそれに起因する感染症をはじめとする種々の疾患に大きく関与している可能性がある。実際、空気清浄装置、加湿装置、冷却塔、ダクト等の空気調和設備システムの構成機器が種々の細菌や真菌の汚染源となりうることが報告されている。
 このため、空気調和設備の日常的な維持管理を確実に実施するとともに、空気調和設備のシステム全体の点検及び清掃を定期的に実施することが必要である。また、微生物汚染に起因する感染症等の発生を防止する観点から、加湿装置や冷却塔の補給水として、雑用水を使用するのは適当ではなく、これらの補給水は飲料水に限定するのが適当である。
 なお、一般環境中や空気調和設備システム内における微生物、あるいはマイコトキシンやエンドトキシンなど微生物由来の物質の存在状況と疾病との定量的な関係は、必ずしも明確ではない。したがって、現時点における科学的知見にかんがみれば、細菌数や真菌数の測定を法令上義務付ける必要性は高くないが、微生物による室内空気汚染に関する調査研究は引き続き実施する必要がある。
 また、微生物の殺菌・抗菌を目的として、様々な種類の化学物質が使用されることがあるが、安全性や有効性が必ずしも十分検証されていないものが存在することが指摘されていることから、今後、これらを適切に評価する手法の研究が必要である。

(5)空気調和用ダクト清掃の評価法の確立
 中央管理方式の空気調和設備では、ダクトを通じて給気、排気、外気導入が行われる。これまでの調査結果によれば、排気用ダクトの壁面には多量の粉じんが付着している場合があることが明らかになっている。また、室内空気中に清浄な空気を供給する給気ダクト内部にも、粉じんや真菌が存在し、空気調和設備始動時に吹出し口から飛散される場合があることが報告されている。
 近年、建築物における空気調和用ダクト清掃の実績が増加しており、平成14年4月に施行された建築物衛生法の一部改正法では、「建築物空気調和用ダクト清掃業」が都道府県知事の登録を受けることができる業種に追加されたところである。ダクト清掃については、客観的な評価法の確立が今後の課題となっている。

4−3 給水及び排水の管理

(1)飲料水について
 近年、安全で衛生的な飲料水の確保への関心が高まっている。建築物における飲料水については、これまで建築物衛生法及び水道法による規制が行われてきた。
 建築物衛生法に基づく飲料水の管理は、平成5年12月の水道水質基準の大幅な改正に合わせて、建築物における衛生的環境を確保するという観点からの検査体系が整備され、今日に至っている。
 一方、水道法に基づく飲料水の管理は、これまでの水道水質基準の遵守に加え、平成14年4月から施行された改正水道法により、簡易専用水道を含めた貯水槽水道について、管理主体と具体の管理のあり方を供給規定によって貯水槽水道の設置者に明確化させることとなった。
 また、平成15年度からは、水道水質基準項目において、給水管等の配管材料に使用されている鉛の基準値が強化される予定となっており、水道法と同等の水質の飲料水を確保するとの考えに基づき管理が行われている特定建築物においても、飲料水の水質検査でこの基準値を適用することが適当である。
 このような動向を踏まえ、今後も引き続き安全で衛生的な飲料水が供給されるよう適切な管理が必要である。

(2)給湯水について
 建築物内に設置されている給湯設備は、快適性の追求や技術の向上により需要が拡大し、現在では様々な方式が活用され、その利用形態も多岐にわたっている。
 特定建築物における飲料水については、建築物環境衛生管理基準の対象とされてきたが、飲料水と同様に飲用に用いることもある給湯水については、これまで同基準の対象外とされてきた。
 給湯水の給湯方式には、湯を使用する箇所ごとに加熱装置を設置して給湯する局所式と、機械室などに加熱装置を設置し、建築物内の必要とする箇所に配管で湯を供給する中央式とに大別される。特に、中央式の給湯設備では、レジオネラ属菌等の細菌類の増殖や金属類の溶出などによる水質劣化が見られることが報告されている。したがって、中央式の給湯設備を設けて飲用その他これに類する用途に給湯水を供給する場合にも、基本的には飲料水と同等の水質を確保する必要があり、定期的な水質検査によって水質の状況を把握すべきものと考えられる。また、給湯温度の適正な管理、給湯水の滞留防止に関する措置等、給湯水が衛生的に供給されるため、給湯水に関する設備の維持管理も併せて行うことが必要である。

(3)排水について
 排水設備については、排水管の詰まりによる排水の逆流、汚損、悪臭の発生、トラップの破封による悪臭の発生やねずみ、昆虫等の室内への進入、阻集器や排水槽の不適切な維持管理による悪臭などの障害が発生する可能性があるので、適切な維持管理が必要である。このようなことから、平成14年4月施行の建築物衛生法の一部改正法では、「建築物排水管清掃業」が都道府県知事の登録を受けることができる登録業種に追加されたところである。
 なお、トラップの破封、排水の逆流、あるいは排水設備の維持管理の不備に伴い発生する悪臭成分を含有する物質を簡易に測定する手法は現時点では確立されていないが、これが確立されれば、排水設備の維持管理への活用が期待される。

(4)雑用水について
 雑用水とは、人の飲用その他これに類する用途以外の用途に供される水の総称であり、建築物内で発生した排水の再生水、雨水、下水道事業者の供給する再生水、工業用水等が原水として利用されている。一方、使用用途としては、便所の洗浄水をはじめ、散水、水景用水、消火用水、栽培用水、清掃用水等多様な用途で使用されている。
 雑用水は人の飲用に供される水ではないものの、配管等に不備がありクロスコネクションや逆流等が生じれば雑用水により飲料水が汚染されるおそれがあること、汚染された雑用水を飛沫等の形で吸飲あるいは小児が誤飲するなどすれば健康を害するおそれがあることなどの衛生上の問題が指摘されていることから、雑用水の利用に当たっては適切な維持管理が必要であり、建築物衛生法に基づく基準を設けるべきである。
 具体的には、雑用水の利用を、水洗便所用水として使用する場合と、散水用水、水景用水、清掃用水等人が直接触れる可能性のある用途に使用する場合に分け、前者については、「大腸菌群数、pH、臭気、外観、残留塩素」の5項目について、後者については、さらに生物的安全性を確保するとの観点から「濁度」の項目を追加し、定期的な水質検査を行うべきであると考えられる。
 測定の頻度は、pH、臭気、外観、残留塩素は7日以内ごとに1回以上、大腸菌群数及び濁度については2か月以内ごとに1回以上とすることが考えられる。なお、雑用水の原水にし尿を含む場合は、当面、水洗便所用水だけに使用を限定するとともに、水景施設としての噴水や滝などエアロゾルを発生する用途にはこれを使用しないこととするのが適当である。また、雑用水槽の清掃等、雑用水が衛生的に供給されるため、雑用水に関する設備の維持管理も併せて行うことが必要である。

4−3 清掃

(1)「汚物」の名称について
 建築物衛生法施行令では、「適切な方法により掃除を行ない、衛生的な方法により汚物を処理すること」と規定され、清掃作業により収集した「汚物」の処理について明記されている。
 法令上、「汚物」の用語については、旧清掃法の定義において、ごみ、ふん尿等を制限列挙してこれを「汚物」という概念で包括していたが、廃棄物量の増大にとどまらず質的な多様性が顕著となってきたため、汚物という概念ではこのような状況への対応が困難となったことから、廃棄物の処理及び清掃に関する法律においては、ごみ、ふん尿等を例示的に規定し、「汚物」に加え「不要物」という概念を包括したものとして「廃棄物」が定義されている。
 建築物の清掃により収集するごみ等についても、現在ではその種類が多様化していることから、「汚物」のかわりに「廃棄物」の用語を用いて、その適正な処理について規定すべきであると考えられる。

(2)廃棄物保管設備等の維持管理について
 近年、資源循環型社会の構築に向けた法制度の整備が進められており、ごみを資源物としてリサイクルするために分別回収を排出者に義務付けるなどの措置が講じられつつある。建築物内での廃棄物の分別収集や分別保管は、廃棄物保管設備等における衛生害虫や悪臭の発生を防止するという観点からも重要である。
 また、廃棄物の再資源化を促進するため、建築物内で廃棄物の再分別や圧縮、脱水等の中間処理が行われることがあるが、廃棄物処理設備を設ける場合には、建築物における衛生的環境を確保する観点から、当該設備における適切な維持管理が必要である。

4−4 ねずみ、昆虫等の防除

(1)ねずみ、昆虫等の防除の意義
 ねずみ、昆虫等は、病原微生物を媒介し、人に感染症をもたらすおそれがあることから、建築物における衛生的環境を確保する上で、その防除が重要視されてきた。
 現在我が国では、媒介動物が関与した感染症の発生は極めて少なくなっているものの、世界的には発展途上国だけではなく先進諸国においても、しばしば媒介動物が重大な疾病問題の原因となっている現状がある。また、近年、建築物の大型化や室内の温熱環境の向上に伴い、都市部においてねずみやゴキブリが増加傾向にあることが指摘されている。
 したがって、今後も、疾病予防の観点から、建築物におけるねずみ、昆虫等の対策に注意を払うことが重要である。
 なお、近年、建築物におけるねずみ、昆虫等の防除においてIntegrated Pest Management(総合防除)(以下、「IPM」という。)という考え方が注目されている。IPMは、主として農業分野における害虫防除の体系として発展してきた概念であり、「害虫等による損害が許容できないレベルになることを避けるため、最も経済的な手段によって、人や財産、環境に対する影響が最も少なくなるような方法で、害虫等と環境の情報をうまく調和させて行うこと」と定義されている。
 IPMについては、手法や効果が明確でない対象種があるなどの問題点があるものの、ねずみ、昆虫等の防除は、IPMの考え方を取り入れた防除体系に基づき実施することが適当と考えられる。

(2)生息状況調査について
 建築物衛生法施行令第2条第3号ロにおいては、「ねずみ、こん虫等については、適切な方法により発生及び侵入の防止並びに駆除を行うこと」とされている。この規定は、ねずみ、昆虫等の生息、活動状況、建築物の構造、建築物の使用者又は利用者への影響等を総合的に検討した上で、適切な方法による防除の実施を求めたものである。
 しかし、時として、「ねずみ、昆虫等の防除は殺そ殺虫剤を散布することである」と誤解され、一部では、ねずみ、昆虫等の生息及び活動状況を十分調査することなく、殺そ殺虫剤を使用するような実態もある。
 このような誤解や実態を招く要因として、
建築物衛生法施行規則第4条の3第2項で「ねずみ、昆虫等の防除を、6月以内ごとに一回、定期に、統一的に行わなければならない」と規定されていること、
防除についての明確な維持管理基準が定められていないことから、防除業者や建築 物利用者がねずみ、昆虫等の発生がゼロになることを求める傾向があること、
などが指摘されている。
 ねずみ、昆虫等は、環境によって繁殖要件が違い、また防除の必要度も異なることから、建築物全体を統一的に防除を行う必要はない。むしろ、ねずみ、昆虫等の生息状況を定期的・統一的に調査するのが重要であり、その調査結果に基づき、必要に応じ適切な防除を行うこととするのが適当である。
 すなわち、法令上、防除作業の頻度を規定するのではなく、生息状況の調査の実施頻度を、昆虫等の生活史等を考慮した上で具体的に定めることが望ましい。例えば、25℃で孵卵したチャバネゴキブリの幼虫は約50日で成虫となり、ほぼ1月後には成虫が次の卵を産卵し、2か月もあればチャバネゴキブリが増加することから、2か月以内ごとに一回の頻度での調査の実施を義務付けることが考えられる。
 防除作業の実施に当たっては、ねずみ、害虫等による損害が許容できないレベルに抑制することが防除の目的であって、ねずみ、昆虫等の発生がゼロになることを追求するのは適当ではないことに留意が必要である。したがって、防除が必要かどうか、また、防除が有効であったかどうかを確認するための指標としての維持管理基準を、防除の対象となる動物種ごとに設定することが必要である。

(3)薬剤の使用上の注意について
 近年、薬剤を害虫防除に使用することへの批判が強まっている。薬剤の乱用や不適切な使用実態が一部に見受けられることがその一因であると考えられる。しかし、効果的な防除を実施するためには薬剤の使用が不可欠な場合も少なくないことから、安全性に十分配慮した上での適正な薬剤使用の徹底を図るべきである。
 すなわち、害虫防除のために薬剤を使用する場合には、調査により生息状況等を確認した上で、必要な場合にのみ、建築物内の必要とされる区域に対し、適切な薬剤を適量使用するよう、関係者に対する普及啓発が必要である。
 なお、建築物におけるねずみ、昆虫等の防除作業において殺そ殺虫剤を使用する場合には、通常、薬事法上の承認を受けた医薬品又は医薬部外品が用いられている。しかしながら、極めて例外的ではあるが、毒物劇物取締法に基づく毒物・劇物に該当する農薬を希釈して殺そ、殺虫目的に使用している業者がいることが指摘されている。このような使用法は、建築物利用者に対する安全が確保できないことから、不適当である。

(4)防除の対象について
 従来は、もっぱら、病原微生物の媒介による感染症の発生を防止するという観点から、ねずみ、昆虫等の防除が位置づけられてきた。
 一方、アレルギー性疾患との関連においては、ダニ以外にもゴキブリなどの昆虫がアレルギーの原因となることが指摘されている。また、チカイエカやツメダニなどは、刺咬により皮膚炎を起こすことがある。したがって、「媒介動物」以外の「有害動物」に対する防除の在り方についての検討が必要である。
 また、人に不快感を与えて嫌われる「不快動物」については、被害の受け止め方に個人差があり主観的要素が強いものの、建築物利用者の多くに心理的不快感をもたらすものであることから、「不快動物」に対する防除の在り方についても検討が必要である。


5 その他今後検討すべき課題について

(1)空気調和設備、給排水衛生設備等の性能検証
 建築物における衛生的環境を確保する上で、空気調和設備、給排水衛生設備等の設備システムの維持管理を適確に実施することが重要であるが、設備システムの性能の向上を図るための手法として、近年、コミッショニングという考え方が注目されている。
 コミッショニングは、そのシステムが設計趣旨に合致した性能を確実に発揮するように、また、室内環境や都市・地球環境、エネルギー及び使い易さの観点から最適な状態に維持されるように、設計・施工並びに機能試験が行われ、運転保守が可能な状態であることを確かなものとする一連のプロセスをいう。コミッショニングは企画段階から始まり、それから設計・施工・受け渡し・運用・訓練の各段階を含む建物の全使用期間(ライフ)にわたって適用され得るものである。
 コミッショニングの具体的な方法論については、現時点では研究段階であるが、竣工時に設備性能検証を実施し、設備の初期性能の把握が行われれば、日常の維持管理に当たって有用な情報が得られるとともに、経年使用による性能劣化の診断が容易となり、建築物の衛生的環境の向上に大きく寄与すると考えられる。建築基準法等の関係法令との整合を図りながら、建築物における衛生的環境を確保するという観点から、コミッショニングの考え方を取り入れることも検討すべきである。

(2)建築物における危機管理の対応
 近年、テロ事件等に起因する災害発生の防止が重要な課題になっている。建築物の空気調和設備や給水設備等に意図的・非意図的に有害化学物質や微生物が混入すれば、建築物全体に健康影響が拡大するおそれがあるため、かかる汚染を防止することは、建築物衛生管理上重要である。
 従来、冷却塔や空気調和用ダクト、貯水槽などの構造や設置場所については、設備の維持管理の従事者にとっての利便性や安全性が重視されてきた。しかし、メンテナンスが容易に実施できる設備は、部外者の侵入や異物混入を招きやすい設備である場合が多く、危機管理上問題であると言える。また、建築物においてテロ事件等が発生した場合の、危機管理体制は必ずしも確立していない。
 したがって、今後、建築物衛生の観点から、建築物における危機管理対応の在り方について検討することも必要である。

(3)アメニティ形成と建築物衛生の課題
 近年、都市部の建築物では、景観対策やヒートアイランド現象の防止、省エネルギー効果の観点から、屋上緑化や壁面緑化が注目されている。一方、室内における観賞用樹木の設置やガーデンニングなど、室内緑化の試みも進められている。また、大型複合用途ビルなどにおいては、アメニティ形成のため、流水、落水、噴水等の水景施設を設置する事例が増加している。こうした人間性や地域性を踏まえた建築物の景観の向上は、安らぎと潤いに満ちた都市空間を形成する上で重要な課題になっている。
 しかし、快適性や豊かさを追求する景観形成の取組が、建築物や建築物利用者等に対してネガティブな影響を及ぼすおそれも指摘されている。例えば、建物緑化による湿気の発生、害虫等の繁殖、害虫等の防除のための殺虫剤使用等に由来する健康への影響を懸念する意見がある。また、水景施設では、適切な維持管理が行われていない場合、水中に様々な微生物が増殖する可能性があることが報告されている。建物緑化などの取組と健康との関係については、十分な科学的検討が行われていないものの、建築物利用者等の健康を確保した上でアメニティ向上を推進するため、建築物衛生の観点からの調査研究も必要である。


6 特定建築物の要件について

 「特定建築物」は、建築物衛生法第2条において、「興行場、百貨店、店舗、事務所、学校、共同住宅等の用に供される相当程度の規模を有する建築物で、多数の者が使用し、又は利用し、かつ、その維持管理について環境衛生上特に配慮が必要なものとして政令で定めるものをいう」と定義されており、建築物衛生法施行令第1条において、建築物の用途、延べ面積等により特定建築物の範囲が定められている。
 建築物衛生法の対象となる特定建築物の範囲については、以下の見直しを行う必要がある。

(1)特定建築物の10%除外規定について
 建築物衛生法では、興行場、百貨店、集会場、旅館など特定の用途に用いられる建築物を特定建築物と定義しているが、これら特定の用途以外に用いられる部分が特定の用途に用いられる部分の面積の10%を超える建築物(以下、「10%除外規定適用建築物」という。)については、特定建築物の対象範囲から除外されている。これは、建築物衛生法の制定時には、建築物全体を同一の基準で維持管理することが前提とされていたため、特定の用途以外に用いられる部分が一定以上の建築物は、対象から除外することが合理的であると考えられていたことによるものである。
 しかしながら、
近年、建築物の大型化・複合用途化が進んでおり、特定用途部分の延べ床面積が非常に大きいにもかかわらず、特定建築物には該当しない10%除外規定適用建築物 が増加している状況にある。
平成9年度に実施された維持管理状況実態調査の結果、10%除外規定適用建築物 では、特定建築物と比較して、空気環境の調整、ねずみ、昆虫の防除等の項目において建築物環境衛生管理基準の不適合率が高く、建築物利用者の健康への影響が懸念される場合があった。
基準が建築物の全体に適用されるという「全体性」の考え方は、建築物の維持管理の実態に必ずしも合致しておらず、この考え方に基づいた特定建築物の除外規定は合理性を欠いていると考えられる。
ことから、従来、特定建築物から除外されていた10%除外規定適用建築物も、特定建築物の対象とすべきであると考えられる。

(2)もっぱら事務所の用途に供される特定建築物について
 建築物衛生法第5条第4項の規定に基づき、都道府県知事は、もっぱら事務所の用途に供される特定建築物の使用、変更等の届出を受けたときは、その旨を都道府県労働局長に通知するものとされている。
 これは、建築物全体がもっぱら事務所の用に供されている建築物については、不特定多数の者が出入りするおそれがなく、当該事務所に勤務する労働者の健康の保持のみが問題となることから、労働安全衛生行政の面から指導監督が行われるのが適当であるとの考え方に基づいている。この考え方により、現行の建築物衛生法の法体系においても、もっぱら事務所の用途に供される特定建築物については、都道府県労働局長から要請があった場合のみ、保健所等による立入検査が行われることとされている。
 しかし、もっぱら事務所の用途に供される特定建築物についても、多くの建築物においては、一の管理者の下に複数の事業所が入居している場合が少なくないことから、建築物衛生の実効を挙げるためには、個々の事業主に対する監督に留まらず、建築物全体の維持管理権原者に対して保健所等による指導を行うことが適当ではないかと考えられる。
 したがって、都道府県労働局長から要請があった場合でなくても、建築物衛生行政の面から必要があると認めるときは、もっぱら事務所の用途に供される特定建築物に対して、保健所等が立入検査等を行えるように見直すべきである。

(3)延べ面積要件について
 特定建築物の延べ面積要件は、建築物衛生法制定時(昭和45年)には、8千平方メートル以上の建築物では空気調和設備を設けている場合が多く、また、維持管理が複雑であると考えられたことから、「8千平方メートル以上」であった。
 その後、大規模な建築物の数の増加、空気調和設備等の普及、建築物衛生に対する関心と認識の高まり等の諸般の事情の推移に応じて、昭和48年には「5千平方メートル以上」と改正され、さらに、昭和50年には「3千平方メートル以上」と改正され、現在に至っている。
 特定建築物に該当しない3千平方メートル未満の中・小規模の建築物については、建築物衛生法の規制対象外であるため、保健所等による指導監督が行われておらず、維持管理の実態は充分に把握されていない。しかし、これまでに実施された調査結果によれば、建築物環境衛生管理技術者の免状の交付を受けた者を維持管理の責任者として選任し、建築物環境衛生管理基準を遵守した良好な維持管理が行われている建築物がある一方で、維持管理に必要な知識のある者が確保されていない、十分な換気量が確保されていないなどの環境衛生上問題のある建築物が存在することが明らかになっている。このため、3千平方メートル未満の中・小規模の建築物についても、利用者の健康を確保する観点から、特定建築物の対象とするべきであるとの意見がある。
 延べ面積要件を引き下げ、規制の対象となる建築物を拡大することは、建築物の適正な衛生環境を確保する上で望ましいことは疑いないが、小規模の建築物にまで建築物環境衛生管理技術者の選任を義務付ける等現行の特定建築物と同じ義務を課すことについては、当該建築物の維持管理権原者の負担や維持管理の実態等にも十分配慮する必要がある。
 したがって、まずは、特定建築物の対象とならない中・小規模の建築物における維持管理の実態把握を進め、また、他法令における規制の状況や建築物維持管理権原者の負担等も考慮しつつ、例えば、延べ床面積2千平方メートル以上の建築物を特定建築物の対象とすることを検討することが考えられる。


7 おわりに

 本検討会においては、建築物環境衛生管理基準等の在り方について、6回にわたる論議を行い、この報告書をまとめた。内容については、具体的な方向づけができた論点がある一方、さらに検討を続ける必要がある事項も残されている。行政部局においては、本報告書に基づき、適切な対応を進められることを期待したい。


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