II 給付と負担について
今後の議論を進める上で必要と考えられる論点(例)や参考資料をとりまとめたものである。 |
目次
1 現在の年金の給付水準
2 保険料負担水準
(1)現行制度の基本的考え方
(2)保険料引上げの凍結について
(3)論点(例)
3 給付と負担の関係
(1)年金制度における給付と負担の関係と社会経済情勢
(2)社会経済情勢が想定を超えて変動する場合の給付と負担の関係に関する基本的考え方
(3)論点(例)
4 現在受給している年金の取扱い
5 給付と負担の関係が分かりやすい年金制度
1 現在の年金の給付水準
(1)基本的考え方
1) サラリーマン世帯については、夫40年厚生年金加入、妻40年専業主婦という片働き世帯において、基礎年金(夫婦2人)+厚生年金(夫)のモデル年金が、現役時代の手取り年収に対して概ね6割(59.4%)となることを基本として、給付水準を設定。(参考資料1−1)
2) 自営業者世帯については、基礎年金(夫婦2人)が、老後生活の基礎的部分をカバーするものであることを基本として、給付水準を設定。(参考資料1−2)
3) 国際的には、サラリーマンについて、現役時代の賃金との比較で給付水準を設定することが通例であり、ILOにおいても、この方法が採られている。(参考資料1−11)
(2)論点(例)
○ 現在の年金の給付水準について、以下の点についてどう評価するか。
1) 高齢者世帯の生計費(消費支出)を賄うという観点からみて、年金の給付水準についてどう評価するか。(参考資料1−2、1−3、1−4)
2) 現役世代の生計費(消費支出)と比較して、年金の給付水準についてどう評価するか。(参考資料1−5)
3) サラリーマン世帯と自営業者世帯との間で、就業や稼得の態様の違い等から、高齢期の所得保障の必要性に違いが見られることについて、どう評価するか。(参考資料1−6)
4) 標準的な年金(モデル年金)を共働き世帯を基本として見直すとした場合、単身世帯、特に女性の単身世帯の給付水準を、どう考えるか。(参考資料1−7、1−8、1−9)
○ また、国際的に見て我が国の年金の給付水準について、どう考えるか。(参考資料1−10)
○ 上記を踏まえ、現在の給付水準について、どう考えるか。
2 保険料負担水準
(1)現行制度の基本的考え方
社会保険方式の公的年金制度では、年金を受けるためには一定期間の保険料納付が必要であり、制度スタート後、時間の経過とともに受給者が増え、これに合わせて年金給付費も増大する構造となっている。また、公的年金制度においては、社会経済の変動に対応して、年金受給の時点において実質的に価値のある給付を行うため、賃金や物価の伸びに対応して給付水準を改定することが要請され、これにより年金給付費はさらに増大する。
我が国では、こうした年金給付費の動向等を踏まえ、「保険料について、平準保険料に比べて当初は低めに設定し、その後段階的に引き上げ、最終的に収支が均衡するように設定する」段階保険料方式をとっている。段階保険料方式は、保険料(率)を将来に向けて段階的に引き上げていくことをあらかじめ想定し、その将来見通しに基づいて当面の保険料(率)を設定する財政方式である。(参考資料2−1)
このような財政方式の下で、これまで段階的に保険料(率)を引き上げながら制度運営を行ってきたが、賃金や物価の伸びに応じた給付水準の改定や制度の成熟によって年金給付費が増大する過程において、世代間扶養(賦課方式)の要素を強め、今日においては、世代間扶養の考え方を基本とした制度運営となっている。現実の年金財政運営においても、納付される保険料は全て年金給付に充てられ、積立金は実質的には増えていない状況となっている。(参考資料2−2、2−3、2−4、2−5、2−7)
欧米主要国においても、保険料率は、制度の成熟化や少子高齢化の進展等に伴って、徐々に引き上げられてきている。(参考資料2−6)
(2)保険料引上げの凍結解除について
将来に向けた公的年金の財政計画においては、段階的に保険料(率)を引き上げるとともに、相当程度の積立金を保有し、その運用収入を含めて年金給付を賄うことで、急速な少子高齢化の進行による急激な保険料水準の上昇を緩和しつつ、長期的な収支の均衡が図られている。(参考資料2−7)
仮に、この段階的な保険料(率)の引上げを遅らせた場合、将来積立金から得られる運用収入が減ることになるため、最終的に収支を均衡させるための保険料水準の引上げ幅は大きくなる。逆に、段階的な保険料(率)の引上げをより早期に行えば、最終的に収支を均衡させるための保険料水準の引上げ幅は小さくなる。(参考資料2−8)
なお、仮に、次期年金制度改正において、現在予定している保険料引上げ凍結解除を行わず、現在の保険料水準を将来にわたって固定するようなことをする場合、新人口推計対応試算ベース(中位推計)において、現在受給している年金を含め、直ちに給付水準を大幅に抑制することが必要となる。(基礎年金の国庫負担割合1/2の場合は3割程度、1/3の場合は4割程度の給付費の抑制が必要。)また、緩やかに給付水準を低くしていくとすれば、将来に向けて更にそれ以上の給付水準の抑制が必要となる。
(3)論点(例)
○ 少子高齢化が急速に進展する中で、保険料負担の水準を段階的に引き上げていくことが必要であり、将来の保険料水準を過度に上昇させないためには、前回改正では凍結された保険料(率)の引き上げを次期改正では再開させることが必要。
○ 将来の最終保険料(率)の水準について、どう考えるか。
前回改正では、厚生年金について、最終保険料率を20%(対年収)程度に設定。(参考資料2−9)
将来の最終保険料(率)を想定よりも抑制しようとする場合、その抑制度合いに応じて将来の年金給付の適正化が必要となるが、この場合、現在受給している年金との間での給付水準に格差が生ずるとともに、適正化の度合いによっては、高齢期における所得保障の主柱という公的年金の意義にも関わることとなる。
○ 保険料(率)の引き上げ方について、どう考えるか。
(1) 厚生年金に係る現行の5年ごとの引上げについて、どう考えるか。毎年、小幅ごとに引き上げていくという考え方について、どう考えるか。
(2) 最終保険料(率)に到達する年次について、どう考えるか。
平成11年財政再計算では、遅くとも平成37(2025)年に最終保険料(率)に到達することを想定。
後世代への負担をできるだけ軽くするため、引上げ計画を前倒しするかどうか。(この場合、最終保険料(率)は低くなる。)
一方、経済環境が悪く、実質賃金上昇率が低いときには、保険料(率)引上げ幅を圧縮するというような配慮措置について、どう考えるか。この場合、引上げ計画を後倒しすることとするかどうか。(最終保険料(率)は高くなる。)
○ 国民年金について、保険料負担を引き上げる過程において、現行の全額免除・半額免除制度をさらにきめ細かく設定することが考えられるかどうか。(参考資料2−10)
3 給付と負担の関係
(1)年金制度における給付と負担の関係と社会経済情勢
公的年金制度が最大限効率的に運営されるべきことは当然の前提として、その将来に向けた給付と負担の関係は、基本的には、財政再計算時に想定した人口構造や賃金・物価・金利等の経済情勢等の外生的な社会経済情勢に変動が生じた場合、その変動に応じて変化する。 |
(2)社会経済情勢が想定を超えて変動する場合の給付と負担の関係に関する基本的考え方
1 人口構造が想定を超えて変動する場合 (1人当たり賃金上昇率等の経済情勢は想定どおり) |
1) 人口構造の変動、すなわち少子高齢化が想定を超えて進展する場合(参考資料3−2、3−3)
少子化の進展 | = | 社会全体での総賃金(=社会全体での保険料の賦課ベース)の増加を想定以上に抑制
|
|||
寿命の伸びの進展 | = | 年金受給者数の想定以上の増加 |
○給付水準を維持するならば、将来の保険料(率)を想定よりも引き上げることが必要
○将来の保険料(率)を想定どおりとするならば、給付水準を想定よりも抑制することが必要
2) 少子化傾向が好転する場合
少子化傾向の想定を超えた好転 = 社会全体での総賃金は想定を超えて増加
○給付水準を維持するならば、将来の保険料(率)を想定よりも低くすることが可能
○将来の保険料(率)を想定どおりとするならば、給付水準を想定よりも引き上げることが可能
2 1人当たり賃金上昇率等の経済情勢が想定を超えて変動する場合 (人口構造の変動は想定どおり) |
1) 1人当たり賃金上昇率等の経済情勢が想定を超えて低迷する場合(参考資料3−4、3−5)
(=実質賃金上昇率(1人当たり賃金上昇率―物価上昇率)が想定を超えて低迷する場合)
1人当たり賃金上昇率の低迷 | = | 年金給付費を想定よりも小さな賃金総額で支えることになり、年金財政は厳しさが増す(参考資料3−1) |
○給付水準を維持するならば、将来の保険料(率)を想定よりも引き上げることが必要
○将来の保険料(率)を想定どおりとするならば、給付水準を想定よりも抑制することが必要
2) 1人当たり賃金上昇率等の経済情勢が想定を超えて改善する場合(参考資料3−4、3−5)
(=実質賃金上昇率(1人当たり賃金上昇率―物価上昇率)が想定よりも高くなる場合)
1人当たり賃金上昇率の大幅な改善 | = | 年金給付費を想定よりも大きな賃金総額で支えることになり、年金財政の厳しさは緩和される |
○給付水準を維持するならば、将来の保険料(率)を想定よりも低くすることが可能
○将来の保険料(率)を想定どおりとするならば、給付水準を想定よりも引き上げることが可能
(3)論点(例)
○ 公的年金制度が最大限効率的に運営されるべきことは当然の前提として、その将来に向けた給付と負担の関係は、基本的には、財政再計算時に想定した人口構造や賃金等の経済情勢等の外生的な社会経済情勢に変動が生じた場合、その変動に応じて変化する。(参考資料3−6、3−7、3−8)
○ このような社会経済情勢の変動に対して、我が国や欧米主要国では様々な取り組みが行われている。
1) 人口構造や経済情勢の変化等の外生的な社会経済情勢が想定を超えて変動する場合には、その都度、給付内容を見直すとともに、将来の保険料水準を見直していくという考え方。(従来からの我が国の制度改正(昭和60(1985)年改正、平成6(1994)年改正、平成12(2000)年改正等)、アメリカ(1983年レーガン年金改革)、ドイツ(1992年改革、2001年改革))
2) 将来にわたって保険料水準を固定し、その後、人口構造や経済情勢の変化等の外生的な社会経済情勢が想定を超えて変動する場合には、給付内容を自動的に調整するという考え方(スウェーデン(1999年改革))
○ 我が国において、人口構造や経済情勢の変化等の外生的な社会経済情勢の変動を踏まえた今後の給付と負担の関係について、どう考えるか。
人口構造や経済情勢の変化等の外生的な社会経済情勢が想定を超えて変動するときに、その都度、給付内容を見直すとともに、将来の保険料水準を見直していくこととした場合、給付内容や将来の保険料負担をその都度見直していくことには限界があると考えるのかどうか。
将来にわたって保険料水準を固定し、その後、人口構造や経済情勢の変化等の外生的な社会経済情勢が想定を超えて変動するときに、給付内容を自動的に調整することとした場合、将来、社会経済情勢が想定を超えて悪化すると実質的な年金水準が低下することとなるが、その低下はどこまで許容されるか。また、この場合、年金給付のスライドの在り方とも関わるが、自動調整の手法についてどう考えるか。(参考資料3−9、3−10)
4 現在受給している年金の取扱い
(1)基本的考え方
年金給付については、新しく受給し始める時点で、年金水準の基礎となる現役時代の賃金について、その時までの水準の変動に応じて再評価。それ以降は物価の変動に応じて改定。
したがって、物価が下がった時に現在受給している年金の名目額を引き下げることは制度的には想定されているが、さらに、年金制度を適切に運営するために不可欠な場合は、物価下落に見合った引下げのほかに、現在受給している年金額についても、その算定方法を変更し年金水準の適正化を行った例も存在する。ただし、この場合、物価下落の要素以外での年金の名目額の引下げについては、財産権に制約を加えることとなるので、憲法上許容されるか否かについての慎重な検討が必要である。(参考資料4−1、4−2)
(例)受給している年金額の算定方法を変更し年金水準の適正化を行った例
○ 平成12(2000)年の年金改正
厚生年金(報酬比例部分)の給付水準を5%適正化(ただし、改正前の年金額算定式による年金額は物価スライド付きで保障)
○ 昭和61(1986)年の共済年金の改正
年金額の計算式の変更により給付水準を適正化(ただし、従前の年金の名目額は保障)
○ 平成元(1989)年のJR共済年金の改正
年金額の算定に当たって、賃金の退職時特別昇給に係る部分を適正化(従前の年金の名目額自体を引下げ)
○ 平成13(2001)年の農業者年金の改正
農業者年金の経営移譲年金の給付を平均9.8%適正化(従前の年金の名目額自体を引下げ)
※ このほか、受給している年金額を実質的に引き下げる措置として、年金課税の強化(例えばアメリカの1983年のレーガン改革)が挙げられる。
(2)論点(例)
○ 次期年金制度改正において、将来世代に対して、保険料負担の引き上げや給付水準の適正化を求める場合、現在の年金受給者に対しても、年金水準の適正化を求めるかどうか。また、この場合、どのような手法が適切なのか。
5 給付と負担の関係が分かりやすい年金制度
(1)欧米主要国の例
○ 欧米主要国では、年金制度に対する理解や信頼を高めるため、給付と負担の緊密な関連性について国民に対して情報を提供する様々な取り組みが行われている。
1) ドイツでは、年ごとに保険料納付実績を指数化した個人報酬点数(ポイント)を被保険者各人に与え、ポイント数によって将来の年金給付の相対的な大きさが分かる仕組みをとっている。被保険者にとって、将来受給する年金が徐々に貯まっていくことが実感できる仕組み。
※ 年金月額=個人報酬点数(ポイント)×年金種別係数×年金現在価値
個人報酬点数(ポイント)は、被保険者個人の報酬を全被保険者の平均報酬に対する比として、年ごとに算定する数値(=被保険者個人の報酬/全被保険者の平均報酬)。例えば、ある年に全被保険者の平均報酬を得ていた者の、その年の個人報酬点数(ポイント)は、1.0。
ドイツにおいて標準的な年金を受給する者は45ポイントを有する。(標準的な年金月額=45ポイント×年金現在価値)
年金種別係数は、年金の種別ごとに決められている係数(老齢年金1.0、就労不能年金0.6667等)。
年金現在価値は、全被保険者の平均報酬額に対応する保険料を45年間拠出した場合に、標準的な年金月額が受給できるように設定されている。(年金現在価値=標準的な年金月額/45)また、年金現在価値は、毎年、手取り報酬上昇率に応じて改定される。
2) スウェーデンでは、1999年改革において、毎年納める保険料総額をもとに、みなし運用利回り(=名目賃金上昇率)を加えた金額を年金原資として、コーホートごとの平均余命に基づいて定まる除数で年金原資を割ることにより年金額が決定される「概念上の拠出建て方式」を導入。被保険者にとって、将来受給する年金が徐々に貯まっていくことが実感できる仕組み。
3) アメリカ、カナダ、スウェーデン、ドイツ等では、毎年1回、一定年齢以上の者に対し将来受けとる年金の見込額等を通知する制度を導入。(ドイツは2004年度から)
(2)論点(例)
○ 我が国でも、年金個人情報の提供充実に取り組んでおり、社会保険事務所等における年金相談に際し、50歳以上の者を対象に、個人の加入記録に基づく年金見込額を提供することを検討中。(現在は受給権発生を2年以内に控えている者を中心として年金見込額を情報提供している。)
○ 現役世代、特に若い人の年金制度に対する理解や信頼を高めるため、将来の自らの年金給付を実感できる仕組みや運営として、どのようなものが適切か。