02/06/19 第12回企業組織再編に伴う労働関係上の諸問題に関する研究会議事録    第12回企業組織再編に伴う労働関係上の諸問題に関する研究会議事録 日時 :平成14年6月19日(水) 10:00〜12:00 場所 :厚生労働省専用第16会議室(中央合同庁舎第5号館13階) 出席者:【研究会参集者・50音順】      毛塚 勝利 (専修大学法学部教授)      柴田 和史 (法政大学法学部教授)      内藤 恵  (慶應義塾大学法学部助教授)      長岡 貞男 (一橋大学イノベーション研究センター教授)      中窪 裕也 (千葉大学法経学部教授)      西村 健一郎(京都大学大学院法学研究科教授、座長)     【厚生労働省側】      坂本政策統括官(労働担当)      鈴木審議官      岡崎労政担当参事官      清川調査官      荒牧室長補佐 【議事概要】 ○ 事務局より、資料に基づき企業組織再編に伴う労働関係上の諸問題に関する研究会  報告の実態部分(案)について説明が行われ、これを受けて意見交換が行われた。そ  の内容は以下のとおり。  ・ JIL実態調査についての記述が、やや漠然としているかなという印象を受けた   。もう少し具体的な数字をあげて記述してもいいのではないか。  ・ 内容としては非常に分かり易いと思う。報告書作成の際には、本体部分の後に別   添で参考資料をつけると、なお良いと思う。  ・ 特段の意見等なければ、内容的には概ね了承ということで、次回の研究会では、   若干修正したものに別添の参考資料もつけた形で提出したい。なお、他に何かあれ   ば、事務局までお知らせいただきたい。 ○ 事務局より、資料に基づき企業組織再編に伴う労働関係上の諸問題に関する研究会  報告に対する考え方等について説明が行われた。   これを受けて、意見交換が行われた。その内容は以下の通り。  ・ 営業譲渡は特定承継であるという前提に立ち、契約当事者間の売買の問題であるか  ら、当事者が自由にその承継対象を定められ、その契約から外れた労働契約は承継し  ない、労働契約の承継の推認もしないということでは、今まで研究会を開いてきたこ  との意義を問われかねない。   営業譲渡は当事者間の契約の自由に基づくという原則に一定の修正をかけ、労働契  約の承継について何らかの規制を加えるということを検討することが、当研究会の任  務であると考えている。   営業譲渡における法的枠組みを議論するに当たっての議論の出発点をどこに設定す  るかによるのだが、営業という概念設定とは関係なく、契約によって承継するとされ  たものだけが承継される、という単純明快な現行の認識で問題がないとするのか否か  が問題となる。 ・ その議論はある種の結論であり、現実に可能であるか否かが問題になるということ  だろう。 ・ 営業譲渡における債権債務関係は基本的に特定承継であり、また、営業譲渡が様々  な形で果たしている経済的役割を考えたとき、営業譲渡時の労働契約の承継だけを取  り出して規制する法的制度を作ることは難しいのではないか。 ・ 特定承継だから契約自由だという考え方を前提にしてしまうと、あまり議論するこ  とがなくなってしまう気がする。 ・ 資料No.2の4頁の2のイのところに「営業譲渡に際して労働契約が承継される場合  には、労働条件を含め、契約の内容がそのまま承継される。」とあるが、これは疑問  である。会社分割の場合は労働条件の変更なしに承継されるが、営業譲渡の場合は特  定的に引き継がれるので、労働契約がそのまま移転するという保証がないし、労働者  を一人も承継はしないで、全て新規採用形式で引き取るというオファーをする企業も  考えられる。そうすると、通常の場合であれば変更解約告知の問題になるのに対して  、営業譲渡の場合は使用者が異なるので、新規採用は自由だという建前のもとに労働  条件の保護が尻抜けになってしまうのではないか。営業譲渡のみを理由とした労働条  件変更はできないということを周知しているというが、本当にそれで対処できるのか  。営業譲渡を巡って、労働者全員をいったん退職させ、違う条件で新規採用するとい  った手法は、現実に多く見られるようになっている。トラブルにはなっていなくても  、その裏で、泣く泣くそれに応じざるを得ない人たちが多くいると思われる中で、そ  れが問題ないと言えるのかどうか。営業譲渡に伴って労働契約は自動的に承継するも  のではないという前提の帰結が、ここに現れているのではないか。 ・ 物の売買と、営業譲渡とはどこで区別しているのか。当事者間の意思では、物の売  買ということであっても、その実態がひとまとまりのものであるならば、そこに労働  者を含めて承継ということはできるのではないか。商法では、物の売買と営業譲渡と  をどこで区別しているのか。 ・ 従来の商法の通説では、「営業」について、工場のようなものをイメージしており  、機械を譲渡をする場合に労働者は代替可能であることが多く、当該労働者は「営業  」を構成しないという結論になる。   会社分割における「営業」と営業譲渡における「営業」を同じ概念で捉えるか否か  は、商法上の一つの論点であるのだが、学習院大学の前田教授や東大の江頭教授など  は、会社分割と営業譲渡の「営業」は別概念であるとしている。会社分割については  、法律(労働契約承継法)があるから労働者が移転するのか、労働者が「営業」を構  成するために移転するのかは明らかではないのだが、転籍にせよ在籍出向にせよ人的  要素を全く伴わない分割を行うのは、会社分割制度の趣旨に反すると述べているので  、会社分割の方の「営業」では、人的要素を広く含める考え方をしているのが最近の  考え方であると伺われる。これは会社分割制度が創設された後に発表された学説であ  る。   一方で、商法第245条の「営業」は人的要素を含むとする学説はほとんどなく、  唯一、学習院大学の神作教授が人的要素を含むとしている。これについて、ご本人に  「どの程度の労働者を含めるのか。」と質問してみたところ、「人的要素は含まない  とは言わないが、かなり制限されたものだ」と回答されており、これは一般労働者で  はなく、その営業において不可欠な労働者のみが含まれるということだ。現在のよう  に多様な会社組織を前にすると、従来の学説はそれに対応し切れていないのではない  かと思われる。   私自身も、他の者では代替不可能な労働者のみが「営業」を構成する要素となり、  その人が移転しないものならば営業譲渡は成立しないと考えるが、特定の機械を動か  すのに非常に習熟しているという程度の労働者ならば、他の者をある期間訓練させて  習熟させれば、当該労働者と代替可能となるわけであり、その程度では「営業」を構  成する労働者とは言えない。 ・ 商法の「営業」と労働法の「営業」が同じ概念でなければならないという理由はな  い。   営業譲渡は特定承継であり、承継させる権利義務の範囲は当事者次第であるという  原則に修正を加えることはできないという前提に立つのならば、労働契約の承継に関  するルールを設定するのは非常に難しかろう。   資料No.2の3頁の法人格否認の法理について、実質的に同じ会社であって、同一性  があるからということだが、営業譲渡が特定的個別的な契約である以上特定の労働者  を排除することは可能であるはずだが、そのときに法人格否認の法理によってどうや  って譲受企業に責任を負わせていくことができるのか。 ・ 法人格否認の法理が用いられる場合に、当該営業譲渡が形骸化していることのみな  らず、背景には、濫用事例かとか不当労働行為があったかなどがあるのではないか。 ・ 営業の全部譲渡の場合で、労働者の全員を引き継がなければならないという法的ル  ールがあるならば、特定の者を引き継がなかったときには、それは濫用であると言う  ことはできるであろうが、営業譲渡は当事者間の合意次第だという前提に立つと、営  業の全部譲渡で労働者の一部しか引き継がない合意を交わすことも可能であり、その  ときに、どうやって譲受会社に責任を負わせられるというのか。 ・ 営業譲渡に伴う労働関係の問題としては、譲受会社への転籍に係る問題と、譲渡会  社が転籍を拒否する労働者を解雇できるかどうかという2つの問題がある。この場合  、譲渡会社と譲受会社が同じであるという法人格否認の法理が適用されるケースでは  、特定の労働者を排除するということはなくなる。   一部譲渡の場合、譲受会社に移れなかった労働者は譲渡会社における解雇が正当化  されない限りは雇用継続の余地がある。一部譲渡であれば、最終的には譲渡会社に責  任を負わせることができる。   全部譲渡の場合、譲受会社に移れない労働者について雇用継続を考えることはでき  ない。後は金銭的解決の問題となり、そこで得られる額が問題となる。こうした全部  譲渡の事案は、法人格否認のケースでない限りは、譲渡会社が債務超過に陥っている  ケースが大半であり、営業譲渡があるか否かにかかわらず全体としてどの程度労働者  に金銭的補償がなされるかということにつながっていかざるを得ないと考えている。  譲受会社に行くかどうかの問題と、解雇できるかどうかの問題をセットで考えなけれ  ば営業譲渡に関する問題を解決することができず、解雇法制が措置されていない現状  で、その一部の営業譲渡の承継のルールだけを措置することは適切でない。営業譲渡  は特定承継なのであり、会社分割のように包括承継で、必ずどちらかの会社に雇用が  あるという前提があるわけではない。こうした中で、営業譲渡についてだけ、他の債  権債務関係とは異なった取扱いを措置することが適切なのかどうかは疑問だ。 ・ 法人格否認の法理が適用されるケースは、よほど重大な事態であり、それだけ適用  のハードルは高くなるだろう。この法理だけで、本当に対応できるのか。資本関係、  役員関係と判断要素が列挙されているが、労働契約があるかないかというオール・オ  ア・ナッシングではなく、もう少しきめの細かい救済を考える必要があるのではない  か。 ・ 全部譲渡をして、譲渡会社が清算するというケースでは、譲渡会社に雇用の継続を  図ることはできないわけであるから、譲受会社への責任を模索するしかないが、仮に  そのような法規制があると、営業譲渡を引き受ける会社はなくなるのではないか。そ  の結果、営業譲渡しようとする会社は潰れるしかなくて、100人のうち50人なら  ば引き受けるという可能性を潰して全員の雇用が失われる結果になるだけではないか  。 ・ 営業の譲渡が行われる場合に、どこの範囲を引き継ぐか引き継がないかは当事者の  契約の内容であり、その内容を制限することができないのは経済合理性の問題である  ことは理解できるが、そこと労働者の利害をどう折り合いをつけるのかが大事なとこ  ろだろう。その点、譲受会社が可能な限りは雇用の承継を求めることは許されるはず  だ。そのために、労働契約の承継を推定するような措置を作らなければ労働者の保護  は図れないと思うが、どのような措置が可能だろうか。 ・ 100人の労働者のうち50人であればこの営業は成り立つと譲受会社が考えてい  る場合に、第三者が客観的な立場で、70人を引き継げるはずだ、いや80人だと判  断することは不可能である。 ・ 「営業」という概念を判断の切り口にすればよいのではないか。譲渡される営業に  従事する労働者が全員承継された後、譲受会社の方で余剰人員が発生していると判断  したならば、それは解雇の問題になるだけの話である。それで買い手がいなくなると  いう経済的な論理はあるだろうが。 ・ 「譲渡部門の労働者全員を受け入れてから整理解雇してください。」ということに  したとしても、譲受会社の方には、譲受前からの労働者がいるわけであり、我が国に  おける整理解雇法理にいう人選の合理性の判断単位は、営業単位ではなく会社単位と  なっている以上、配置転換の可能性を追及されることとなる。そうすると、企業にと  ってもかねてから譲受会社に従事してきた労働者にとっても、ありがたくないという  ことが十分考えられる。全労働者を承継させた上で、譲受会社で整理解雇を求めると  いうのは適切なのか。やはり、事前に整理した上で営業譲渡するしかなくなる。 ・ 事前に整理するのでも構わないが、現在のままでは、譲渡された営業に必要な人員  だけが選択されて、譲受会社に移ることができない労働者が発生してしまう。特定承  継の考え方を前提にすると、営業譲渡に関する承継のルールを設定することは困難に  なってしまう。 ・ 全部譲渡で、100人のうち、50人が譲受会社に引き継がれるケースについて、  譲渡会社に残った50人の労働者については、譲渡会社がなくなってしまうわけであ  り、雇用の継続を考えることができないのであるから、営業の売却益をどれだけ得る  ことができるかの問題になる。営業の全部譲渡があった場合には、その営業に従事す  る労働者の雇用責任を譲受会社に全て負わせる措置を講ずるか、そうでなく通常の会  社の清算の問題になるか、どちらかしかない。 ・ 100人のうち、50人引き継ぎのケースで、裁判所は、50人では少なすぎる、  もっと雇用できるはずだという人数を判断するわけではなく、整理解雇される労働者  の人選が適切になされているかどうかという判断をするにとどまる。営業譲渡に伴い  譲受会社が引き継ぐ労働者の選別という側面で見れば、整理解雇4要件にいう人選の  合理性という基準は営業譲渡にはなじみにくいのではないか。 ・ 整理解雇4要件の中には、労働組合等との協議を求める要件がある。その労使協議  の中で、労働組合等はどういう営業譲渡をするかについて、意見を言うことができる  という面はあるが。 ・ 合併の場合にも同じ議論は成り立つだろう。合併により全ての労働者を承継する結  果、存続会社において余剰人員が発生する。それを回避するために、合併を実施する  前に予め人員削減を行っておくという手法もあり得る。 ・ 合併も営業譲渡も、再編の前に人員削減をするか、後にするかの問題が発生する点  では共通だが、合併の場合には、希望退職の募集などソフトな人員削減のやり方がな  されている。合併では労働契約は自動的に継続するので、完全に整理解雇の問題にな  ってしまい、法的にも事実上もなかなか認められにくいためであろう。営業譲渡の場  合には、その前後で雇用関係が当然承継ではないため、その機会に人員削減を行いや  すいという側面がある。 ・ JILの調査でも、合併に伴う解雇はゼロであった。合併自体が、債務超過の企業  を救済する手法として使うことができないことも大きな事情ではないかと考える。具  体的には、北海道拓殖銀行が主に北洋銀行に引き継がれた形態が、合併に類似してい  るが、実際は営業譲渡で行われている。 ・ この資料No.2のトーンで報告書を出すとすると、誰に対してどのようなメッセージ  を発信するのかが不明確だ。営業譲渡の持っている社会的経済的機能や、営業譲渡が  行われる形態は多様であること、民法第625条の意義、そういったことを整理をし  た結果であることは理解できるが、このままでは一体何を生み出したのかということ  になりかねない。営業譲渡というのは、企業組織再編のうち、枠組みが法定されてい  る合併、会社分割を除いた非常に多様なフィールドであるから、一律に規制をしない  ということになろうが。 ・ 私自身も、企業の活性化とかそういったものを妨げるつもりはない。ただ、労働者  保護とのバランスの取り方というのが伝わってこない。 ・ しかし、営業譲渡が特定承継であることに修正を加えることは難しいのではないか  。 ・ EUのように、営業譲渡を特定承継としつつ、「営業」という概念にこだわって営  業単位での労働者の承継ルールを定めることは可能ではないか。特定承継という点で  は、EUも日本も変わらない。では、「なぜEU指令のような考え方を取れないので  すか」という質問に対して、この研究会はどういった答え方をするのか。 ・ そういう雇用承継ルールを作ることには抵抗も強いであろうが、少なくとも、営業  譲渡で労働契約が承継されるときには労働条件についての変更はないという現状認識  は疑問だ。新しい条件を飲まない者は承継しないと言えるのだから。実際には労働者  がそれを受け入れるため、必ずしも問題が目立ってはいないが、その労働条件の低下  が合理的な範囲内に収まっているのだろうか。 ・ 譲渡先の労働条件が低ければ、労働者は転籍を拒否することができる。そして、会  社に配転先を模索して欲しいと主張することが出来る。営業の全部譲渡の場合でも、  2つのケースがあって、グループ経営を行っている企業であって、同一グループ他社  の中に配転先を模索することができるケース、もう一つは元々の会社がなくなってし  まうケースである。後者の場合は、経営危機に陥っているわけでありキャッシュを増  やしていかなければならず、労働者を削減するなり、労働条件を引き下げて人件費を  削減するということは営業譲渡をするか否かに関係なく、行わなければならないこと  だ。こうした場合の営業譲渡というのは、経営危機にある企業が状況を立て直すため  のひとつのツールにすぎない。 ・ 法的ルールとして、通常の場合であれば、労働条件を引き下げるために就業規則の  変更や変更解約告知といった方法があるが、いずれにしても労働条件引下げについて  一定の合理性を備えることが必要であり、裁判所がその点をチェックする。ところが  営業譲渡の場合には、契約を一旦打ち切り、低い労働条件でもって新規採用を行うこ  とで、合理性要件を回避することができてしまう。 ・ 整理解雇4要件の人選の合理性という基準は、新規採用には適用されない。誰を新  規に採用するのかは、契約の問題であり、当事者間のみの問題だから一切関知しない  ということでは、簡単に労働法の規制を満たされてしまう。 ・ 両当事者の合意がある場合及び合理的な理由がある場合には、労働条件の変更が認  められるが、営業譲渡に際して労働契約が承継される場合には、労働条件も含め、契  約の内容がそのまま承継されることが多いかどうかという点について、JILの実態  調査を見ると、退職金の問題等、労働条件の調整は頻繁になされていることがわかる  。契約内容がそっくりそのまま引き継がれることは多くはないだろうが、論理的には  労働条件の基本ベースは守られているということだ。 ・ 一部譲渡の場合では、労働条件の変更も併せて提示されて、それに同意してしまえ  ば差し支えないが、変更が納得できないとして転籍を拒否すれば、従前の労働条件で  譲渡会社に残留する。譲渡会社が譲受会社における労働条件を提示して、労働条件変  更を含めて転籍に同意すれば、2つの法律行為に合意をしたこととなり、譲渡会社が  譲受会社に置ける労働条件を示さずに転籍の意思確認を求め、労働者がこれに応じれ  ば一つの法律行為に合意したことにとどまる。   ここでの記述は、営業譲渡に伴い労働条件が変わるというのが基本ではなく、労働  条件が変わることにも合意しているから変わるというだけのことである。特定承継で  あれ、包括承継であれ、労働条件変更に合意しなければ、変わることはない。これが  理屈の面であるが、実体面で言えば退職金や賃金体系等調整が必要なものについては  、一時金等で調整する等の措置がなされている。 ・ 一部譲渡の場合は、転籍を拒否しても残るところがあるわけだが、全部譲渡で会社  がなくなってしまう場合は、事実上転籍を拒否することはできないという問題がある  のではないか。一番弱い形で法的措置を講ずるとすれば、特段の明示がない限り労働  契約は承継されるものとする、また、特段の明示がない限り労働条件はそのまま引き  継がれる旨を明文化することが考えられる。使用者としては、弁護士の指導のもとに  労働者を引き継がない旨を契約に明文で盛り込んで対抗するだろうが、こうした措置  を講ずることで、労働契約の承継ルールを明確化する効果はあるだろう。 ・ 労働法的に「営業」の概念を独自に構築しなければ、資料No.2の1のロには対応で  きないだろう。これはドイツの例だが、医者が診療に必要な機械を医療機関に売れば  、これは営業譲渡になる。しかし、医療機関でないところに売却すれば、これは営業  譲渡ではなく、単なる物の移転になる。売却の相手方が医療機関ならば「営業」とい  う概念を媒介にして雇用の継続を図ることができる。相手方が医療機関でないところ  ならば、雇用の継続を図れないという結果になってしまうが、「営業」という概念に  こだわるとすれば、こういった形になる。 ・ 会社分割の場合は、会社分割制度が適用された場合の労働契約承継ルールを作ると  いう意味で範疇が明確だったが、営業譲渡の場合は非常に様々な類型があり、画一的  なルールを設定するのは難しい。そうした中、民法第625条があるということは労  働者が承継を望む望まないという問題の他に、相手方企業にも労働契約の承継を受け  る受けないの自由があるということだ。それにこだわる限り、特定承継の理論を修正  することは難しいということだ。そうなると、後は解雇法理の問題になる。また、情  報提供など手続的なところが問題となる。 ・ EU的に、特定承継のルールの下で労働契約の承継について措置を設けられないと  するならば、会社の重要な設備を売却する場合には組合と協議をして、営業譲渡契約  書の締結を義務付ける立法しかないのではないか。つまり、そうした設備なり営業が  譲渡されることによって、自分たちの雇用に影響が出てくるわけだから、入り口のと  ころでしっかりと協議を行うということだ。 ・ 営業譲渡に伴う労働契約の承継について、法律でルール化するということであれば  、相当割り切らなければならない。会社分割の場合はいくつかの建前があって、分割  後の会社双方とも債務超過もないし清算されることもないという商法上の建前がある  。そうすると、そこから労働者がこぼれてしまうと言うことが建前上ない。これは会  社分割は包括承継であるという前提があったから、労働関係についてもそれを肯定し  て、基本的には主たる営業にそのまま従事することとして、若干の拒否権を与えると  いう枠組みになった。これに対し、両社とも債務超過である可能性があり、今後とも  会社が存続していくという保証がない営業譲渡が山ほどある中で、商法上特定承継で  ある前提のもとで、労働者について譲渡会社に包括的に承継されるかを法制化するに  は、相当な割り切りが必要だ。 ・ その議論を行う上での前提が曖昧だ。まず、日本には解雇制限があるのかどうかか  ら入らなければならない。日本には解雇濫用法理があり、我々はそれにより解雇が制  限されているということとしているが、それはそもそも法律ではないのだからと言っ  てしまえばそれまでのことだ。営業譲渡を行うことによる解雇法理の潜脱を許容する  ことはあってはならないことで、これを考慮して、営業譲渡の法理を考えなければな  らないと思うが。 ・ おっしゃるとおりで、我が国は解雇については判例法理があるが、ヨーロッパと違  って、営業譲渡のところは空白になっている。もっともこの点は、だからこそ良いの  だという考え方もあろうが。 ・ 営業譲渡した場合、必ず譲受会社に転籍するものだという法理を作った場合、人員  削減を行いたい譲渡会社にとっては、一挙両得となる可能性がある。現行では、労働  者には転籍しない自由がある。不採算部分を営業譲渡してしまえば、事業再構築と同  時に人員削減も可能となる。果たしてそれでいいのか。 ・ 最近の学会では、法の手続化が議論されている。特定のルールを一律に押しつける  というよりも、法定のための手続を整備し、当事者に情報を提供することによって、  適切な結果を導くというアプローチである。このような形の規制であれば、相対的に  抵抗も少ないのではないか。資料No.2でいうと4〜5Pのところをきちんとやりなさ  いということだ。 ・ ヒアリングを行った企業からは、インサイダー取引の問題があるから労働者側に事  前協議や情報提供を行えないという発言があったと思うが、何か問題があるのか。 ・ 情報提供や事前協議自体が法に触れるというものではなく、営業譲渡契約を締結す  る前に情報が漏洩すると譲渡額が下がる等の影響で営業譲渡契約が成立しなくなって  しまうという問題が第1点、企業の労務担当まで営業譲渡計画そのものが知らされて  いないという実態があるというのが第2点である。もっとトップ同士の話合いで計画  が進んでいるとするならば、営業譲渡計画の外部発表までの段階で労組等に情報提供  や協議をということは難しい。インサイダー取引の問題があると様々なところで主張  があったが、証券取引法等法律レベルの制限のところでは特段の問題があるわけでは  ない。 ・ 特定の者が不合理に排除されたときに、それを救済するための法理というのは検討  できないか。 ・ 労働組合員であることを理由に承継から排除されたならば、不当労働行為法理で救  済することができるが。 ・ 譲渡の当事者同士がそれぞれつながりがある場合、例えばグループ企業同士である  ならば承継排除の場合に譲受企業に雇用責任を認めていくことができるだろうが、全  然関係のないグループ外企業にそれを認めることは非常に困難であろう。 ・ 買い手側の人選が非常に濫用的だった場合について、雇用責任を認めることはでき  るのではないか。 ・ 買い手側が引き継ぐ労働者を個人名を挙げて特定しているのならば、そういうこと  を考える余地もあるが、現実はそうはなっていないであろう。逆に、実際問題として  、名前が売れていて、この人がいなければ営業が成り立たないということならば、欲  しい人材を個人名を挙げるということはあるということだが。 ・ 譲渡契約自体が交渉中ということであれば、情報開示は難しいであろうが、譲渡契  約が公表された後であれば、きっちり労使協議を行いなさいということは言えるだろ  う。 ・ 学説自体は前回整理してもらった通り、営業譲渡は特定承継ということだが、今回  の検討結果の取りまとめに当たっては、営業譲渡の活用形態が様々であるということ  を述べた上で、それを類型ごとに整理するということでも意義があるのではないか。 ・ 営業譲渡の形態が多様な中で、統一的に割り切ってというのは難しいことだが、そ  うした中で、譲渡会社が講ずるべき事項、手続等、営業譲渡を行うに際し配慮すべき  事項をまとめたガイドラインのようなものは世に示すことは可能であると思う。法律  的でないにしても、営業譲渡の際に尊重される一定のガイドラインを設け、さまざま  な営業譲渡のスタイルがある中で、対応を図っていくことが良いのではないか。 ・ その通りだと思う。上から一律に規制するのではなく、ガイドラインで労使ともに  尊重すべきルール作りを行うことは適切なことだ。   営業譲渡の判例の中には、労働契約の承継に対して黙示の合意を推認していくとい  うアプローチをとっている事案がみられる。これは全労働者のうち何人かがこぼれ落  ちてしまったときに救済を図るための法理だが、その法理は非常に論理的でなく曖昧  だ。 ・ 判例は論理的ではなく、合目的的に労働者を救済している。 ・ 個別の裁判事案でそのような法理を使いつつ柔軟に対応するのはいいが、それを法  律にしてしまうと全ての事案に適用されてしまい柔軟な対応ができなくなってしまう  。それはなかなか難しい。 ・ 現行のままでも、民法第625条があり、整理解雇4要件があり、団体交渉がある  のだから、それをもって営業譲渡における労働者保護に一定範囲で対応できるだろう  。判例の場合は合目的的に解決を図っているということだが。 ・ 判例は合目的的に解決を図っているが、そうではなく法律でどのように論理的に書  き込むことができるかが問題である。 ○ 次回の研究会について、7月23日(火)に行うことが了承された。なお、次回の  研究会では、この日の議論を踏まえて、事務局が報告書全体のたたき台を作成し、提  出することとされた。                                      以上          担当:政策統括官付労政担当参事官室法規第3係(内線7753)