02/06/07 不当労働行為審査制度の在り方に関する研究会(第6回)議事録      不当労働行為審査制度の在り方に関する研究会(第6回)議事録 1 日時   平成14年6月7日(金)10時から12時 2 場所   飯野ビル(308会議室) 3 出席者  (1) 委員(五十音順)    伊藤 眞(東京大学大学院法学政治学研究科教授)    小幡純子(上智大学法学部教授)    加藤和夫(帝京大学法学部教授・弁護士)    諏訪康雄(法政大学社会学部教授)    村中孝史(京都大学大学院法学研究科教授)    山川隆一(筑波大学社会科学系教授)  (2) 行政    坂本政策統括官、岡崎参事官、清川調査官、荒牧補佐、山嵜中労委第一課長 他  (3) ヒアリング対象者    神奈川県地方労働委員会 松田保彦会長    愛知県地方労働委員会 楠田堯爾会長    大阪府地方労働委員会 田中 治会長 4 議事概要  ○ 神奈川県地方労働委員会の松田会長、愛知県地方労働委員会の楠田会長、   大阪府地方労働委員会の田中会長からそれぞれ、「不当労働行為審査制度の在り方   に関する論点」を踏まえ意見を述べていただきたい。  ○松田会長   不当労働行為と一言でいっても、その性質・態様は事件ごとに様々であり、それに  対する労働委員会の対応も異なる。したがってその論点に対する考察も事件毎に異な  ることとなるのではないかと考える。   当地労委では、全国的に見ると取扱い事件数が多い方であるが、労働組合法の趣旨  目的となっている団結権の擁護、並びに団体交渉の助成等を直接的に侵害するよう  な、いうなれば真性不当労働行為事件というべきものは、一部を除き少なくなってき  ているような感じがする。これらの事件では、確かに論点で言われているような迅速  性、簡易性、廉価性、専門性が問われることになる。   しかしながら、近年事件は複雑・多様化してきており、必ずしも問題点を一言で言  い表せないような事件が多数でてきているような感じがする。そこで事件の代表的な  類型毎に論点について述べることとしたい。   最初は、複数組合併存下における少数組合の差別事件である。   傾向としては使用者が多数組合に気を使い、その結果少数組合を差別するケースで  ある。この類型の事件は、まず和解でもって解決することが難しいと考える。その反  面同じような、複数組合併存下であっても、使用者側に少数組合を尊重する意志があ  ったり、少数組合とはいえ、ある程度の構成員がいたり、特定の職種に特化した構成  員がいたりして、企業の中でその存在を無視しえない程度に影響力がある場合は、和  解による解決が可能であると考える。この場合、最終的には団交ルールの確立や複数  組合と同様に労使関係秩序を確立するといった、本来の不当労働救済方法にそった形  での解決がしやすいという面がある。   しかしながら、多くの場合、和解での解決は難しく、また事件が長期化すれば、そ  の間に少数組合が壊滅的打撃を受けることがある。現に結審段階で組合員がほとんど  いなくなってしまったケースもあったところである。したがって当然に迅速化が求め  られるところである。   論点でも示されているが、代理人が複数いる場合、全員の日時が一致しなくとも代  表の方の日時が合えば期日を入れる、あるいは委員会の側からいえば、委員の常勤化  などが一つの方策だと考える。   事件の類型は、審査を行ってみないとわからないのではなく、申立の段階で、区分  けができる。特に経験の長いベテラン職員だと、申立の段階で、この事件は比較的和  解で早期に解決できるか否かをある程度把握することができると考える。   そういった情報を基にして事件の類型毎に担当審査委員を決めていくのも一つの方  策だと考える。   また何よりも職員の質の向上が重要ではないか。一部の地労委や中労委を除くと職  員の在籍期間が短く、十分な専門性を確保できていないのが現状である。   次に複数組合下でない場合であっても、極めて少数の構成員しかいなかったり、あ  るいは合同労組の場合も、特別な配慮が必要であろう。   この事件の特徴であるが一つとしては、協約の締結をめぐり組合員に適用される労  働条件について争われているケースがあり、形式的には労組法第7条2号事件(団体  交渉拒否事件)として申立が行われているが、実質は調整事件であることが多い。こ  の場合、調整事件としてあっせん、調停申請がなされ、それが不調に終わった後に、  労組法第7条第2号、あるいは第3号事件として申立が不当労働行為事件としての申  立が行われることとなるが、最初から使用者が調整に応じないことが明らかな場合  は、当初から申立がなされることがある。そのようなケースでは、本質が調整事件で  あるので、公労使の三者構成の特徴を生かして、調整的な和解を試みることとするケ  ースが多い。   このケースは、ある程度時間をかけて団交応諾命令を出したところで、はたして申  立人は納得するのだろうかという感じがする。   他方、少数組合、あるいは合同労組が個別的な労働条件について申立を行う場合で  あるが、実質的には苦情処理という性格があるような感じがする。   この種の事件の審理の進め方は大きく分けて2つあり、一つは、双方から何らかの  合意を取り付ける等の調整的和解を進める方法である。もう一つは苦情処理のための  ルールを作るための協議命令を発することである。   最後に解雇事件等の個別労働紛争が背景となる「駆け込み訴え事件」であるが、こ  れについては時間がかかっても和解で解決した方が良いのではないか。   また最近では、企業再編等に伴い、労働条件の引き下げが行われ、これを契機に労  働組合が結成されるケースが目立つが、その場合の団交拒否事件については、出来る  だけ迅速に解決することが求められる。しかしながら現行の審問手続きでは限界があ  ると考える。したがって申立の段階での事務局による、団交の実質的履行を求めるよ  うな制度があっても良いと考える。   現行でも審査の実行確保措置勧告制度があるが、一方では救済命令と同種内容的な  勧告を出すことは慎重にすべきであるとの議論がある。当地労委では、団体交渉とは  言わずに協議を行うべきとの勧告を出し、かなりの効果を上げている。   以上、現在の体制あるいは運営手続を若干の見直しを図ることによって、ただいま  説明した各種特徴のある事件に対応する方策を述べたが、そうは言っても、やはり委  員構成、職員の配置等、数々の問題点があり、労働委員会制度の根本的な見直しをし  なければいけないのかもしれないということは認識しているところである。  ○楠田会長   個々の論点については、資料のとおりである。全体的な考え方について説明したい  。   論点では、審査手続の迅速化、司法審査における5審制の問題が主なテーマではな  いかと考えたので、これらの点についての考え方を述べたい。   手続の迅速化、効率化のための大きな枠組みとして、労働委員会における適切な役  割分担と、労働委員会と裁判所との間における役割分担という二面から申し上げた  い。   まず、労働委員会における中労委と地労委の役割分担についてである。  地労委の救済命令のうち約6割は、使用者側から再審査の申立てがなされているが、  中労委の再審査をみると、地労委や裁判所の各段階での処理日数と較べて解決までに  多くの日数を要している。統計によると解決までに約4年半程度かかっている。また  、再審査においては、命令取消訴訟における緊急命令のような救済命令の履行を強制  する制度がないため、地労委の救済命令が相当期間履行されないままになっていると  いうのが実態と認識している。   再審査制度にメリットがないわけではないが、このようなデメリットがあり、労働  委員会制度全体の機能低下に影響を与えていると言わざるを得ない。   そこで、地方分権の趣旨に従って地労委と中労委が管轄する事件を分け、適切な役  割分担をしていくことにより、労働委員会内部での審級省略が行われれば、5審制の  解消にとどまらず救済命令の実効性確保にもつながっていくと考える。  地労委事務が自治事務である以上、その役割も地域の労使関係の安定にあり、自ら発  した命令については、地労委自らが責任を持つべきではないか。   中労委の再審査がなくなり、不服申立てのすべてについて行政訴訟として地労委が  対応することになると、地労委の事務が増大することにもなるが、行政訴訟への対応  を考慮した体制整備が必要になること、職員の経験を積む機会にもなることから、結  果的には地労委の審査体制の強化につながるのではないかと考える。   一方、中労委においても、単に事務が減少するというだけのものではなく、地労委  の職員や委員に対する専門的な研修の面で、蓄積されたノウハウを活用して更に大き  な役割を担ってもらえるようになると思う。これは、事件数の少ない地労委の職員の  専門性を高めるためにも重要である。   次に、労働委員会と裁判所の役割分担について申し上げたい。   現在、両者の関係はあまり良好とは言えないように思う。論点の中でも指摘されて  いるように、裁判所は労働委員会の事実認定について改めて検討する仕組みになって  いるし、どうも労働委員会の判断が裁判所に信用されていないのではないかという印  象を持っている。しかし、不当労働行為の救済制度の中では、労働委員会の命令は最  終的に裁判所で確定し、履行が強制される仕組みとなっており、労働委員会が準司法  的手続により、不当労働行為の存否を判断する専門的機関として設置されている以  上、一定の連携や合理的な役割分担が必要である。   具体的には、審級省略、実質的証拠法則、新証拠の提出制限の導入が検討課題にな  るが、現状の労働委員会の審査手続には大きな問題があるので、そうした問題を労働  委員会自身でまず改善し、導入のための条件を整備することが必要と思う。   今申し上げた審査手続の問題については、迅速化を図るために様々な提言がなさ  れ、一定の取組が行われてきたが、あまり効果がみられていないことも事実である。  これは、提言が根本的な問題をそのままにして、対症療法的な面を中心になされてき  たためではないだろうか。提言も出尽くした感があるので、これからは制度上の具体  的な見直しが必要と思う。   そうした審査手続の迅速化の点で効果があると思うのは、審査の目標期間を設定す  ることではないか。例えば原則1年以内に命令を発するというような目標期間、ある  いは努力目標を設ければ、迅速化に関しては、多くの問題が解決するのではないかと  思う。   それから、審査手続における当事者主義的運営については、不当労働行為の審査手  続が、準司法的手続として行われるものである以上、手続面においては、裁判所の手  続に一定程度近づけていく必要があると考える。審査委員が職権を行使するためには  、具体的な手続規定が不可欠で、他の行政審判の例を参考に規定を整備すべきである  。これは、将来の審級省略や実質的証拠法則等の導入において、前提となるものと考  える。   ただ、裁判所に手続を近づけるといっても、やはり、労働委員会としての専門性や  不当労働行為の判定に際しての労使関係的なアプローチは維持し、発展させていく必  要があると思う。例えば、労使の参与委員の労働関係における豊富な知識、経験を、  和解の場以外でも十分活かしていくために、意見陳述にとどまらず合議にも参加でき  る仕組みを考えていくことも必要である。これは、労働委員会の判断に一層の専門性  を付与していくことにつながると考える。    ○田中会長   地労委の意見を述べる機会を与えていただきありがとうございます。   それぞれの項目について個別に意見を述べることとし、最後に総括的な意見を述べ  ることとしたい。   まず論点1のイの役割の評価について述べたい。当地労委は、平成 13年の取扱件  数は282件である。内訳は、前年からの繰り越しが200 件、新規が82件である。その  うち終結件数は99件であり、次年度への繰り越しは183件である。大雑把にいうと年  間約100件を処理している。終結の内訳であるが命令・決定は37件、和解が52件、取  下げが10件である。このように当地労委では目の前の事件処理に追われているという  のが実情である。   当地労委の場合は、事務局職員というよりは、むしろ委員が前面に出て審査を行っ  ている。例えば、公益委員一人あたり、常時約10件程度事件を抱えており、調査・審  問等で週2回程度、審査を行っている。平成11年は週3回のペースで審査を行ってき  た。これに調整事件が加わり、夜にもう1回、委員会に出席することがある。そのよ  うな多忙な委員を、支えているのが事務局である。   次に1のロであるが、ADRの特色として簡易性、廉価性については備わっていると  考えている。専門性については、主として公益委員に係る問題だと考えるが、例えば  当地労委には現在労働法の専門家がいないが、そのことで専門性に問題が生じている  とは考えていない。   迅速性については、もちろん必要なことであるが、早ければそれで良いとは思わな  い。事件処理の基本はあくまでも各事件の個別具体的な事情にそって解決を行うべき  ことだと考える。   次に1のハについては、それぞれの機能はいずれも重要であり、機械的に切り分け  は可能かもしれないが、事件処理の中では一体不可分の形で発揮されるべきものであ  り、組合わせをどうするかという問題ではないと考える。   次に2の和解であるが、当地労委の和解に対するスタンスは次のとおりである。  すわなち、    ・ 個々の事件の見極めをつけながら和解のタイミングを図っていくこと    ・ 審査の全期間を通じて和解の機会があると考えた場合は、どのような時でも     公労使が十分に連携をとりつつ和解を進めること    ・ 当事者間の状況を十分に把握しながら柔軟に対応すること  である。   労使で発生した問題は、和解での解決が現実的であることが多いと感じるが、しか  しながら和解にこだわるがゆえに審査期間をいたずらに延ばすことは、当地労委では  考えていない。和解は、それ自体の性格やタイミングの見極め等から一律に処理でき  るものではなく、タイムリミットを設けることは、少なくとも地労委段階においては  必要性は感じない。   3の不当労働行為の審査手続であるが、イの審査期間については、労働委員会と裁  判所では事件処理に関する対応が異なっているのではないか。裁判所での処理期間と  労働委員会でのそれとを比較しての議論はいかがなものかと考える。審査期間が長い  という批判があるということは十分認識しているところであるが、地労委はできるか  ぎりの努力をしており、目安を設けること自体は否定しないが、一律に期間を設定す  ることは適切とは考えていない。   3のロの審査委員の職権の行使であるが、実態として当事者主義的な運営がなされ  ていることは否定できないが、行政機関の性格上、円滑な進行を図るということで当  事者の納得・理解を得ることは必要不可欠であると考える。逆に拙速に進めればかえ  って当事者の間に軋轢が生じることとなる。   審査委員が職権を行使すれば円滑な処理が進むというのは、一面的な見方であり、  基本的には否定されるべきものと考える。   3のハの迅速化のための方策であるが、これについては当地労委でも可能限り取り  組んでいるところである。しかしその実効性をあげるには当事者の理解・協力が不可  欠である。あえて言えば、逆に当事者の協力がなければどのような方策も意味がない  と考える。   3のニの背景事情を命令の中で記述することについてはが、労使関係をかんがみる  に背景事情の把握は重要であるが、どの程度取り上げるかは大変難しい問題である。  これについても一律に論じることができる問題ではないと考える。   3のホの単純な団体交渉拒否事件の取扱いであるが、労組法第7条第2号事件につ  いては確かに迅速な解決が図りやすいという側面があり、実際の処理期間も短いので  はないかという感じがする。ただ一言で2号事件といっても、命令をすぐに発出でき  るというものではなく、その判断が困難となる事案もあるのではないか。   対応によって和解に持ち込めるものもあれば、そうでないものもある。これについ  ても結局、個別性に左右される問題であるので特別なルールを設ける必要はないと考  える。   次に4の審査体制について述べたい。   まず4のイの公益委員の審査体制については、当地労委の公益委員は、各分野で現  役で活躍されている方であり、ベストな体制であると考える。この公益委員に対する  研修であるが、当地労委では事件処理や合議での過程で実地に研修がなされていると  考えている。公益委員は非常勤でもあり、これ以上研修を行うことは時間的に困難と  考える。   なお公益委員の常勤化の問題であるが、その数、人材の確保、公益委員会議の持ち  方、任期等の問題をどうするかが見えないと何とも評価しようがいない。   次に4のロの公益委員全員の合議をどう評価するかについてであるが、当地労委で  は専門分野が異なる委員による合議が、審査の進行や命令に対する判断などにとって  非常に有意義となっていると考える。小法廷の採用については現時点で解決しなけれ  ばならない問題の方が多いのではないか。例えば1)審査組織が複雑化する、2)小法廷  方式で決定できない事案について再度全員で合議を行わなければならないことにな  る、3)多様な意見反映の場が今以上になくなる、4)委員構成をどうするか、5)公益委  員は専門分野や経験が多様である方がむしろ好ましい、6)会長はすべてに参加するの  か、等である。   裁判所の小法廷方式と単純に比較して議論することは、労働委員会は元々裁判所と  は前提が違っているのだから、困難ではないかと考える。要するに、様々な問題があ  り、少なくとも地労委段階では困難な問題の方が多いような感じがする。   次に4のハの労使参与の役割であるが、判定機能の面では大きくないが、和解の場  面では、その役割は大きいと考える。審問において公益委員の審査指揮に影響を与え  ることはまったくない。逆に審査委員が参与委員に適宜意見を求めることにより、適  切な審問の進行が確保できることがある。したがって参与の役割を見直すことは現時  点では必要ないと考える。   次に4のニの事務局職員の役割であるが、当地労委では事務局職員が表に出ること  はあまりないが、非常勤の公益委員がスムーズに審査を行えるのは、事務局職員によ  る事前の準備があればこそである。   次の5のロの不当労働行為の二審制についてであるが、ここで論点にあがっている  ことは極めて重要なことだと考えているが、二審制という制度の構造が問題というよ  りは、再審査事件の処理日数が長いという実態が問題ではないかと考える。   どのような制度を取るにせよ、このような事態にいたらないような制度設計を慎重  に考えるべきだと考える。   次の6のイの司法審査との関係であるが、複数の道筋があるということについては  、裁判所と労働委員会とでは扱う対象が異なるし、労働委員会の方が事件について柔  軟な対応がとれる等それぞれ特色があり、利用する側も選択すると考える。労働委員  会は不当労働行為救済機関として長い歴史と蓄積を持っている。その独自の存在理由  は強調されて良いと考える。   次の6のロの5審制の問題であるが、とりわけ新証拠の提出制限を是非とも採用し  ていただきたい。実質的証拠法則の採用であるが、地労委においても事実認定は、相  当厳密に行われていると考える。過去、公益委員の中にも裁判官を経験された方がい  たが、その方から、事実認定は裁判所より厳密に行われているということを聞いたこ  とがある。したがって導入の可能性は十分にあるのではないかと考える。いずれにし  ても地労委の役割論に関係することとなるので慎重な議論が必要と考える。   論点の各項目についての意見は以上である。最後に総括的な意見を述べたい。   当地労委は都労委と並んで多くの事件を抱えており、そのような状況の中で委員や  職員には相当な無理をお願いしながら、公労使そして事務局と連携を行いつつ審査を  進めていることを理解願いたい。その上で論点の背景となっているキーコンセプトを  考えると、「迅速化」と「専門化」ということではないかと考える。これについて  は、いずれもある種の戸惑い・違和感を感じる。   迅速化についてであるが、その実現が図られてしかるべきではあるが、一方迅速化  を求めるあまり審査委員が審問において、申立人に対して強権的な審問指揮を行い証  言を制限したり、十分な理由付けのない命令を拙速に交付することとなれば、これは  労働委員会の果たすべき役割の放棄にもつながりかねない。   初審としての役割を担う立場からいえば、重要なことは、事件の内容や性格に応じ  た処理であり、公正な審査をどうするかにつきると考える。   審査の迅速化は重要なことであるが、何をもって迅速化の達成が図られたのかとい  う評価基準を明確化しないと、迅速化という概念は主観的、情緒的な意味になりがち  である。そのような意味で初審段階での長期化が直ちに問題であるとはいえないので  はないか。審査の長期化の点は再審査の期間や行政訴訟の期間を含めて議論すべきで  ある。また司法制度改革の中で進められている裁判の迅速化についても、メリットだ  けではなくデメリットもないわけではないというように聞いている。裁判所との安易  なアナロジーはすべきではないと考える。むしろ地労委の本来的な役割は何かという  原点に立ち返り、その役割を最大限に発揮できるようにすることが重要であり、その  ことを踏まえて迅速化の問題を多面的に考察すべきである。   2つめの「専門化」についてであるが、仮に不当労働行為審査事件に関して、法律  的な判定を結論的に言い渡すことのみが労働委員会の役割とするならば、制度として  審査委員を常勤化するということも十分に考えられるが、その機能に終始するなら  ば、不当労働行為の判定は基本的には裁判で争った方が良いということになるのでは  ないか。   最後に、現行制度は50年の蓄積の上に機能しているものであり制度としては相当程  度成熟しているものと考える。一方実際の細かな運営手続きについては、各地労委で  異なる手続があり、それは各地労委が地域の特性を活かしているのであり、その意味  で多様性があっても良いと考える。いずれにせよ、研究会の委員におかれては、各地  労委の運用実態を十分に踏まえた上で、よりよい結論を出していただくようお願いし  たい。  ○ ありがとうございます。これからだだ今の意見を踏まえ意見交換を行いたい。   どなたか質問等ありましたらお願いいしたい。    ○Q   団交拒否事件についてですが、この種の事件は、事件の性質上当然早急に処理され  るべきと考えるが、統計をみると必ずしも迅速に処理がなされているとは言い難い。   事件の性質に応じて審査委員を選ぶ等の対応で果たしてこの種の事件を迅速に処理  することは可能なのか。それとも他に何か方策があるのか。  ○A   アメリカの制度を見てみると、連邦のリージョナル・オフィスでの事件処理では、  最初に申立内容を受け入れるか否か勧告を行うこととなる。それを受け入れれば良し  とするが、受け入れなければ改めて次の段階に進むことになる。もちろん職員や委員  の専門性の確保が前提となるが、このうような制度は参考となるのではないか。   ただ、単純な2号事件は少なく、例えば3号事件等別な争点が付随していることと  なる。当然団交以外の争点も審査の対象となり、そうなると時間がかかることとなる  が、少なくとも団交拒否の部分については促進するような勧告を出すことに意味があ  る。   すべてではないが代理人の中には勧告には法的根拠はないということで反発する場  合もあるが、少なくとも団交の促進に関する勧告については頭から無視はできないと  いう状況にはなるようである。   それで十分であるかもしれないが、裁判所の真似をする必要はないとしても、可能  であるならば略式命令的な制度があれば、迅速性が何より重要となる事案については  効果があるのではないか。おそらく各地労委においては様々な工夫がなされていると  考える。そのような実態を把握して頂き、中労委等で広く周知して頂きたい。  ○Q   準司法的な機能を持っている労働委員会は不当労働行為について救済命令を発する  ことができる制度をもっている。しかしながら事件はそれぞれ特徴があり、単に違法  かどうかの判定を下すだけでは果たして十分な解決がなされるのかと言う問題が生じ  る。そのような場合は、公労使が一体となり何とか将来的な労使関係の安定を見据え  た形で和解なり命令なりを出すことになる。その点のズレを感じることはないか。  ○A   団体交渉拒否のケースでは、使用者が労組法の趣旨に理解を示さないことがある。  使用者側の参与委員から説得することにより、理解を得て和解で解決するケースもあ  れば、それでも解決しないケースもあり、その場合は、最終的な命令を発出すること  となる。つまり和解と命令とを同時ににらみながら審査を進めている。   団交拒否事案で、最後まで自らの主張を貫き、最終的に団体交渉命令の交付を受け  交渉するのか、あるいは審査の途中で交渉に応じるかは、使用者の判断である。   最終的には命令を発出するという判定機能が背景にあればこそ和解がうまくいくと  いう面がある。    ○Q   労働委員会の役割が事件を丸抱えして和解するというところにあるとすれば、専門  性との関係ではあるが、もちろん和解においても専門性は必要ではあるが、当事者が  納得すれば労働法の観点から見て離れた結果となっても、問題なしとすることにもな  ろうかということにもなる。その場合、法的な知識があったら逆にマイナスとなると  いうこともあり得ることではなかろうか。   しかし準司法的な機関であるという位置づけであるとすれば、和解とはいえ、法的  な結論とそれほど異なるものとなることはないのではないか。  ○A  指摘のとおり、単に当事者が納得すれば良いという形での和解を行うことはあり得な  い。長期的に労使関係をどうするかを考慮しながら解決することは、労働委員会の社  会的使命である。安易な妥協は行わない。    ○Q   救済命令を発するということに向けての手続きがなされ、その過程で当事者間に和  解が成立しうるといことなのか。  ○A そのとおりである。    ○Q   確かに公労使の連携が重要ではあるが、ただ労働委員会に申立がなされる事案は労  使の対立という構造があるのではないか。先ほどの説明では公労使がうまく連携して  審査が進められているようであるが、審査の進め方や結論的な部分、例えば和解勧告  の場合などで、労使参与委員の意見が合わず、そのため審査が長引くようなケースは  ないのだろうか。  ○A   結論的な部分については、公益委員のみで判断することになる。労使の参与委員に  ついては、単純にそれぞれの立場を代弁するのではなく、労使共通の基盤に立った上  で行動することが多いと考える。個別の事件に応じて何が合理的なのか、どのような  結論をだせば当事者が納得するのかといったことを考えながら審査に参与していると  考える。   しかしながら仮に対立がある場合は審査委員が責任を持ち、最終判断を下すことと  なる。   ○Q   当事者は、審問の場で、組合活動的なことを行ってしまい、そのために申立られた  争点とは直接的に関係のない事項を主張したり、あるいは事件の審査状況から見て不  利だと判断すると期日等を先に延ばす戦術を取るケースもあるやに聞いている。   労使の各委員は、そのようなことはなく、公益的な立場に立って互いに連携して審  査を進めているのか。  ○A   少なくとも労使参与委員には、そのような戦術に荷担する委員はいないと理解して  いる。    ○Q   そうなると労使参与委員の意味は何か。公労使が互いに意見が一致するならば、使  用者側委員といっても使用者側が信頼することもないし、労側委員が労働者の代表だ  からといって申立人がその人を信頼することはないのではないか。  ○A   労使参与の役割は、将来的により良い労使関係を作るにはどうすれば良いのかとい  う観点を基本としながら、労使がそれぞれの当事者を説得したり、労使の正当な利益  を主張することではないか。   また当事者は、労使各委員に対しては自分たちの側であるという仲間意識もあるの  ではないか。    ○Q   意見の中に、事件毎にそれぞれ特徴があり、単に迅速化すれば良いというわけでは  なく、拙速に審査を進めるあまり、根拠のない命令等がだされる懸念がある旨の指摘  がなされたが、当方の表現にもよるものと思われるが、十分にご理解いただけていな  いように思う。   当事者は、自分の主張をそのまま立証しようとするあまり、広い範囲にわたり証人  尋問を求める場合もある。背景事情について複数の証人から延々と何期日にも渡り、  尋問が求められ、ややもするとそれに応じてしまい、それだけで半年が経過してしま  う実態がある。しかしながらそのような審査は、本来の労働委員会の審理の在り方か  らすればやはり問題があるのではないかと考える。審査の目標の設定と若干関係があ  るかもしれないが、このような実態は、かなりの地労委で共通の問題ではないか。   それから和解に関してだが、委員会として和解に全力し、将来にわたり良好な労使  関係の構築に努めることは、それはそれであるべき姿であると考える。他方、当事者  間で積極的な和解の意思表示をしない場合、ただ労働委員会の提案を待って善し悪し  をいうだけという実態がなくはない。少なくとも当事者の一方が和解を望んでいるな  らばともかく、ただ単に何とか和解で解決できないかということで、延々調査を続け  ているケースがあるのではないかという印象があるが、そういった点についてどう考  えるか。実情を踏まえて意見を伺いたい。  ○A   迅速性は確かに日数で現れるが、そこで求められているのは、いかに適正さを維持  しながら少しでも早く救済の途を探るかということだと思う。   今、指摘のあった背景事情を立証するために数人の証人を申請するケースは、当地  労委ではあまりみられないが、重複する証人の申請はしないようにお願いしているし  、期日の設定においても、できるだけ次次回まで期日を入れたり、反対尋問を行いや  すくするため、陳述書を活用するなどして審査の促進に努めている。   和解については、特に当事者から申入れがなくても、大体調査が終わった段階と最  後陳述の前には、主に各側の委員から意向を打診している。もちろん、当事者の意向  を尊重しているし、和解の意向がある場合でも、いたずらに期日を重ねないように心  がけ、期日外でも各側の委員に当事者と接触してもらいながら、なるべく早い期日に  和解ができるようにしている。  ○A   審問の中で必要性の範囲を超えるような証人申請がなされることは、ないことでは  なく、そこが悩みどころでもある。様々なことが要因となり長引くことがあり、確か  に指摘のとおり委員からみてこれは問題であると感じることはないことではない。   気になるのは数値目標を立てた場合、事件の事情も無視して、それが一人歩きした  り、拘束的な意味あいを持ち、ややもすると期間を徒過した事案は、労働委員会とし  て違法状態となるような見方をされるのではないかという危惧から申し上げたまでで  ある。   合議は2週間に1回であるが、単純な事件は1回で終わるが、通常は2回くらい議  論を要することとなる。つまり合議だけで1か月を費やすこととなる。非常勤である  という現行体制を前提とすれば、やはり1か月で命令を作成することは無理がある。   数値は明確で、わかりすく、努力目標としてはあってしかるべきである。実際、当  地労委でも内部的な努力目標はもっているところである。しかしながら、繰り返しに  なるが事件はそれぞれ異なっているので一律に数値を当てはめるのは困難ではないだ  ろうか。   和解についてであるが、当事者の側が委員の打診を待って何も意思表示をしないと  いうケースは、少なくとも当地労委ではなく、また当事者に対してどうしたいのかを  はっきりさせるようにしているところである。当事者が和解を希望しないのであれば  、命令交付を前提とした審理を進めるまでである。   参考までに申し上げると、当地労委の場合、終結区分で和解が命令を上回ったのは  、平成10年以降であり、それ以前では逆であった。平成10年以前では、都労委と当地  労委では対比が明らかで、都労委は和解が多く、当地労委では命令交付件数が多いと  いう特徴があった。つまり当地労委の場合は、もっぱら和解で解決するような単純な  事件は少なく、当事者が命令を望む事件が多いという事情があったと考える。しかし  ながらここ数年は和解で解決できる事件は増えてきている。原因はよくわからないが  、調整的に解決できる事件が増えているのかもしれない。    ○Q   小法廷方式であるが、確かに法律判断が分かれるような複雑な事件については、様  々な専門分野の委員が参加し、議論をすることに意味があると考える。しかしながら  全ての事件がそうであるとは限らない。事実認定さえ明らかであるならば、結論にお  いては基本的には変わらないという事件もあると考える。そうすると実際に審査に関  与していない委員が全員集まり合議で結論を決めなければならない必然性がどれだけ  あるのだろうかということを常々疑問に持っている。   その点について付随的に意見を伺いたい。  ○A   まず委員がすべて労働法の専門家であれば、たえず全員で合議をする必要はないの  かもしれない。ただ非常勤の公益委員でかつ法律家でない委員がいるということを前  提にすると、委員の組合わせをどうするかという問題が生じてくる。むしろ審査に携  わっていない委員が、自らの経験を踏まえて、この争点については当事者はどう主張  しているのか等、ある意味では法律家には思いもつかないような意見を出し、それを  契機にもう一回事実関係を洗い直す形になり、議論が展開したことが少なからずある  。法律家でない委員がいることにより、議論が陳腐化せず、別の新たな視点での議論  が展開できるメリットがあるのではないか。    ○Q   迅速化との関連であるが、ケースによって不当労働行為の審査の在り方が異なるの  ではないかという認識があるかどうかを聞きたい。また中には当事者が迅速な解決を  望んでいないケースがあるかどうか、あるとすれば、迅速な解決が望まれる事件とそ  うでない事件とを振り分けて、審理計画に反映させることはできるのか、あるいはそ  うしたことは既に行われているのか。三地労委に聞きたい。  ○A   明確な形での審理計画を立てているわけではない。ただそういう事案であっても、  1回で主尋問・反対尋問を終え、次々回までの期日を設定し、結審を予定する。そう  することにより双方にプレッシャーがかかり、延びた方が良いと思っている当事者で  も、この事件は比較的早く終結し、また結論も明らかであり、労働委員会の立場とし  ては迅速に処理される事案であるということを薄々感じ取るのではないか。   迅速な解決が望まれる事件については、最近の例では3か月程度で終結した事件も  ある。   ある意味、不当労働行為となる争点が明らかな事件については、事実を押さえれば  導きだされる結論は変わらないと考える。そういう事件は合議にかけても1回で結論  がでる。年間4〜5件はある。   余談ではあるが、労働組合の結成を擁護し、団交交渉の促進を図るといった労働組  合法本来の趣旨に基づく事件については、最近ではほとんど見られなくなり、不当労  働行為として申立がなされているものの、本質的には個別労働条件をめぐる権利紛争  だったりするような事件が増えてきている感じがする。   また、我が国の労働組合は年々組織率が減少している現状をみると、不当労働行為  救済制度が、日本の労働組合の結成促進にどのような役割を果たしているか常々疑問  に思っている。  ○A   被申立人側はともかくとして、申立人側が迅速な解決を望まないケースはないと思  う。   期日をしばらく空けるとか、次回期日が1か月半くらい先になる場合には、申し訳  ない旨言いながら審査を進めていると、迅速な解決を望まないであろう側も、労働委  員会は迅速に審査を行おうとしていると感じてくれる。  ○A   地労委として迅速化において責任を問われることとなる場合、もちろん審査の過程  もあるが、基本的には結審後から命令書交付までの期間の長さではないか。   それについては結審後、具体的な期間はケースバイケースなので一律にはいえない  が、当地労委では一定の目途をもって命令書を交付するという内部の努力目標を設定  し、それに基づく作業を進めている。単純な団交拒否事件については、予定している  目標よりも早く命令を交付するということもある。   事件によっては、複雑なものや、証拠調べの作業量が多かったりして、内部的に設  定した目標が達成できない場合もあるし、他方、労働者救済の立場から、迅速な命令  書交付が望まれるケースでは、早めに命令案を書き上げ、合議にかける等内部的な調  整が行われるところである。    ○Q   裁判所と労働委員会との関係についてお聞きしたい。労働委員会の救済は、裁判所  による救済とは違う側面があるとの説明があったが、他の地労委も同様な考えなのか  を伺いたい。それと労働委員会で審査を経た命令が、裁判所で取り消される場合があ  り、ヒアリングの中では、実質的証拠法則を採用すべきとの意見があったが、そうな  ると、労働委員会の審査制度は、本来異なるはずの裁判所に制度の中に組み込まれる  ような体制となるのではないか。その点をどう考えるか。  ○A   労働委員会の一番大きな役割は、将来に向けてより良い労使関係を構築するため、  どのような救済命令を発するかということではないだろうか。一方裁判所は、過去の  行為に対する判定であるとか、原状に回復するということではないか。   労組法第7条第1号事件については、確かに裁判所的な考え方で判定を下しても良  いのではないか。しかしながら組合の弱体化を図る事件に代表されるような、3号が  全体にかぶさったような事件については、将来の労使関係を見据えた形での解決を図  る必要があるのではと考える。労働委員会には広範な命令を発出しうる裁量権が付与  されており、そのことは最高裁判例でも認められている。司法審査の関係でいうと、  5審制の問題について私見をいえば、中労委には審級省略、実質的証拠法則を採用す  るに足るだけの権威と能力を持っているのではないかと考える。実現すれば、地労委  命令に対して(1)地裁、高裁、最高裁へと審理が進むパターンと、(2)中労委、高裁、  最高裁へと審理が進むパターンが2通りあり、どちらを選ぶかは不服申立者の選択と  なる。   当地労委では、命令発出後、不服がある者は、地裁に提訴するのではなく、中労委  に再審査の申立を行うケースが非常に多いという現状がある。おそらく距離的な問題  もあるかもしれない。地裁に提訴されるのであれば、裁判所との関係を試行錯誤して  いく良い機会となるのではないかと考える。  ○A   裁判所は法的な判断として一刀両断的に判断するが、労働委員会は、同じ問題で再  度申立てがなされないようにといった教育的効果を含むことができるところに相違点  があるのではないか。裁判所で労働委員会の命令が取り消されることは、労働委員会  で提出されなかったような証拠が新たに出されることが原因かと思うが、これは双方  にとって不幸なことだと感じる。  ○A   裁判所の段階で新たに証拠を提出することを制限すべきと考える。地労委段階では  証拠が揃わなかったなどといった理由があれば別だが、そうでなければアンフェアと  なる。そういう意味での手続的な整備は必要だし、迅速な手続の観点からも証拠の提  出制限は必要だろう。地労委は事実に基づいて公正な判断を下す機関であるというこ  とを理解して頂いくことが大事ではないかと考える。   司法制度との接続の問題であるが、地労委命令は使用者に対して義務を課すもので  ある以上、その命令が最終的には司法において判断されることはやむを得ないことで  ある。司法をにらんだ上で、地労委にどのような権限、例えば実質的証拠法則の採用  などであるが、これを付与するかは検討に値することだと考える。    ○Q   労働委員会と裁判所との関係であるが、裁判所は労働委員会に対する理解や信頼性  が低いのではないか、また、審級省略は確かに理想的ではあるが、それには条件整備  が必要であろう、との趣旨の説明があったが、信頼性が低いのは何が原因なのだろう  か、条件整備についてもう少し具体的に意見を伺いたい。  ○A   条件整備について、今明確なビジョンがあるわけではない。信頼性については、裁  判官の経験のある公益委員からそのような話を聞いたことがある。しかし、法律家で  なくても事実認定については、十分判断できると考える。そこら辺のところを裁判所  も理解してほしい。  ○Q   労働委員会の審査の段階では提出されなかった新証拠が裁判の段階で提出されるこ  とが司法審査で命令が取り消される要因となっているとのことであったが、確かにそ  のような問題があることは否定出来ないが、労働委員会命令が取り消される理由はそ  れだけなのか。別な理由によることも相当数あるのではないか。   これは、もちろんすべてではないが、労働委員会命令や記録を見ると、争点が何か  ということが把握できておらず、争点中心の審理となっていない例があるということ  である。裁判官から、他の事件に比較して不当労働行為救済命令取消訴訟事件は、記  録が厖大であることが多く、しかもその中で関連のある必要な証拠はどこにあるのか  、それを探すのに大変苦労するということを聞いたことがある。それから命令書の事  実認定に係る証拠であるが、探したけれども結局見つからず、よくよく見ると主張の  中に該当箇所があり、主張と証拠の区別が付いていない例があるということも聞いた  ところである。   専門性の問題にもつながるが、裁判所が労働委員会の専門性があることをなかなか  認めないのは、今いったような事情があるためではないだろうか。   審級省略は委員会の専門性が前提であって、裁判所としては、事実認定や法的な見  解が専門性に基づき納得できるというのであれば、当該専門性を尊重し、一から審査  し直すこともないであろう。   裁判における他の労働事件は以前と比較しかなり迅速化しているが、不当労働行為  命令の取消訴訟はいまだに、迅速化できていない。労働委員会は、専門性をもってい  るということを、認識させるように自らの審理方法や認定・判断の内容を改善すべき  であろう。   説明頂いたように労働委員会と裁判所とは違う面があるということは否めないけれ  ども、裁判所は不当労働行為の解決の本質を十分に認識した上で、労働委員会の判断  を尊重するようになるのが望ましいといえようが、現実にはそうなっていないと感じ  る。   アメリカでも、確かに労働委員会に対しては批判がなくはないが、労働仲裁ほどで  はないにせよNLRBに対する司法機関の信頼はかなりあり、それが実質証拠の法則  等の採用につながっている。日本の場合は残念ながら事情が違うようである。  ○A   争点の整理は必要であるが、当事者が申立内容を拡張して様々な主張をしてくる場  合がある。もう少し内容を絞って早く終わるように助言はするが、なかなか審査指揮  が難しい。  ○A   裁判所で新たな証拠が出て、それにより命令が取り消された例は、私自身の経験し  た例ではない。むしろ、判断の問題であるかと考えるが、その場合であっても、同様  に経験した例はあまりない。むしろ地労委命令で詳細に判断した部分を、地裁、高裁  ともにそのまま採用して頂き、現場で苦労して組み上げたものが認められたケースも  ある。もちろん裁判所からみて労働委員会の審査の在り方に不満があることは十分に  承知しているところである。しかしその中で、くつがえることのないよう争点整理を  行い、事実に基づき公正な評価を下し、かつ法理論が明確でない部分はそれなりに現  場の感覚で何とか補おうとしているということを理解願いたい。  ○Q   命令における証拠の適示は、どのような状況であるのか。また、命令作成のトレー  ニングはどのように行われているのか。裁判所では判決起案の手引きといった一種の  マニュアルがあるが、そのようなものはあるのか。  ○A   数年前から主張については、番号をつけ、その主張に対応する証拠を出させる取扱  をしている。命令で認容された主張については、それに対応する証拠を摘示すること  とになる。   不当労働行為は例外なく弁護士の代理人がついているので、ある程度指示をすれば  整理したものを出してくれる。  それから結審してから命令書案を書き始めては遅いと考え、命令を交付することにな  りそうな事件は審問の段階でわかるので、審問の段階で随時整理し、骨子案を作成し  ておくようにしている。事務局の方で、審問の状況に応じて取捨選択したり、記述の  配列を変えたりしている。  ○A   命令作成のトレーニングについては、事務局のベテラン職員が適宜指導、助言を行  っている。中部ブロックの会議でも、命令書の様式をある程度パターン化することを  協議したことがある。また、証拠の摘示については、命令書案の段階では、書証番号  を記載したものを作成している。  ○A   判断の基になる事実認定は厳密に行っている。詳細なマニュアルはないが、職員の  中にはかなりの経験をもっている方がおり、その方々からの内部研修、あるいは中労  委での中央研修に参加し、必要な技術を修得している。   やはり一番大きいのは、OJTであろう。次から次に事件がくるので、担当審査委員  との間で議論を行い、調査・審問・合議を通して、命令を書き上げる経験の中から必  要な技術をトレーニングすることとなる。    ○ ここで時間となったので、本日の議論はこれまでとしたい。3地労委の会長にお   かれましては、多忙のおり、ご足労いただきありがとうございます。本日の意見に   つきましては、今後の研究会での議論の参考とさせて頂きます。    さて次回以降の研究会の予定について、事務局から説明願います。  ○ (1)6月28日(労働委員会労働者委員に対するヒアリング)、(2)7月17日(日本   経団連、労働委員会使用者委員に対するヒアリング)、(3)7月24日(連合、裁判   所に対するヒアリング)を予定している。  ○ 本日はありがとうございました。 照会先 厚生労働省政策統括官付労政担当参事官室 法規第二係 村瀬     TEL 03(5253)1111(内線7752)、03(3502)6734(直通)