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「2025年の日本の姿」

省内係長程度以下の若手職員13名で構成する「2025年の社会の姿ワーキングチーム」が、「懇談会」の議論に資するよう約2か月半かけて真剣に議論し作成。

○ 数値や財政影響を予測するものではなく、2025年の社会像、生活全般のありようを「物語」として描いたもの。

○ 各メンバーの自由な意思により作成したものであり、厚生労働省はじめ政府による公式見解ではなく、施策の実施を約束するものでもない。

(主な内容)

・ 子供を産み育てることは社会全体で支えるものという認識が高まる。
・ 夫婦による家事、育児の分担が一般化。
・ 家族とのふれあい、趣味、地域活動などに充てる時間が増加。
・ 社会保障負担が勤労意欲や経済活力を阻害しない程度の水準で安定。
・ 児童・家庭に対する社会保障給付の割合が増加。
・ 一時預かり、在宅保育、病児保育など多様な保育サービスが充実。
・ 時間当たり賃金はフルタイムやパートによる違いがなくなる。
・ 育児休業、看護休暇、勤務時間の短縮などの制度が利用しやすくなる。
・ 育児期間中に短時間勤務を選択しやすいような雇用管理。
・ 多様な働き方の選択が可能。育児期間中に夫婦で1.5人分の働き方。
・ 学歴ではなく物事への対応能力や人間性で人物を評価する社会。
・ 大学生は働きながら学ぶことが主流。本人への奨学金制度が充実。
・ 土地の高度利用(高層化、地下化)で都市部の地価が抑制。
・ 都市を流れる河川の水質が改善し、自然とふれあう場となる。



2025年の日本の姿

2002年6月14日
2025年の社会の姿ワーキングチーム

− はじめに −

 本報告書は、20歳代後半から30歳代前半の厚生労働省職員で構成する「2025年の社会の姿ワーキングチーム」(以下「WT」という。)が、約2か月半の議論を経て作成したものです。作成に当たっては、各メンバーの友人関係を頼り、省外の同年代から多数の有意義な意見をいただきました。
 本報告書の記述内容は、すべてWT各メンバーの自由な意思に基づいており、厚生労働省始め政府による施策の実施を約束するものではありません。

◎ 編集方針 ◎

 報告書は、WT各メンバーが「2025年の日本社会はこうあってほしい」と考える姿を描いています。ただし、単なる夢物語やSF小説とならないよう実現可能性があると判断したものに限りました。

☆ 本報告書の構成 ☆

 本報告書は、次の4部から構成されています。

第1部 2025年の日本の姿(要約)
 WT各メンバーが本報告書全体を通して描きたい姿をまとめました。
第2部 2025年の高島さん一家の暮らし
 本報告書のメインとなる部分で、2025年のある子育て世帯の暮らしを物語風に記述しました。多様な生き方が選択できる社会におけるひとつの在り方と考えています。
第3部 2025年の家族の会話
 第2部で描ききれなかった主要な場面について、冗談を交えながら、会話形式で記述しました。
第4部 本報告書に対する若者の声
 本報告の原案に対し省内外の若者からいただいた意見を載せました。



第1部 2025年の日本の姿(要約)

 本報告書で描こうとした社会の姿は、次のとおりです。
 あわせて、それぞれの項目ごとに現状認識(2002年の日本の姿)も示しました。今後、20数年のうちに、この現状と本報告書で描いた姿の間を埋める努力を社会全体で行う必要があると考えます。ただし、多くの20歳代、30歳代は、2025年になっても現状が継続し、又はむしろ状況は悪化すると悲観的に考えている者が多いことを付け加えます。


(社会経済)

○ 日本の総人口は減少。平均余命が伸長し、高齢化率は上昇。出生率は依然低迷するが(本報告書で描いたような社会が現実に達成されれば)上昇傾向。一方、都市部の人口はほとんど変化なし。

マクロ経済は安定成長。一人当たりの国民所得は上昇。
(供給側) 女性、高齢者、学生が労働力化し、労働力人口の減少は比較的緩やか。
 あわせて、科学技術の進歩やIT化の一層の進展により生産性も向上。国内生産は維持。
(需要側) 持続可能な社会保障制度の確立など将来に対する安心感から、過剰な貯蓄が消費に回り一人当たりの消費量が増加。あわせて、一層の高付加価値化により国際競争力を高め海外需要が拡大。

<現状認識>

・ 出生率は更に減少し、高齢化率は一層上昇。
・ 経済はゼロ成長又は若干のマイナス成長。失業率が高止まり。治安が悪化。
・ 将来に対する不安から、過剰な貯蓄が生じ、消費が低迷。

(価値観・生活スタイル)

○ 性別、年代を問わず、結婚するかしないか、子どもを持つか持たないかは本人の自由という意識が浸透するとともに、子どもを産み育てることは社会全体で支えるものという認識が高まる。

○ 男女の役割分業意識はほぼなくなり、夫婦による家事、育児の分担が一般化。

○ 仕事優先という考え方が少なくなり、それに伴い、家族とのふれあい、趣味、地域活動などに充てる時間が増加。

○ 親子のふれあいが、子どもの人間性を高めるという考え方から、家庭の機能が見直され、家庭学習や親子での地域活動などが盛んに。
○ 子育て期間中も、自らの趣味や夫婦だけの時間を大切にする人が増える。
○ 高校卒業後は、親から自立し、働きながら学ぶことが一般的に。その結果、若者の就労意欲が高まる。

<現状認識>

・ 男女の役割分業意識はなくなりつつあるものの、依然として、男は仕事、女は家庭(家事、育児)という意識が強いため、女性の社会参画が制限的。また家庭における教育やしつけは母親任せ。
・ 仕事かプライベートかといえば、社会的には「仕事優先」が求められている。
・ 大学生時代の学費や生活費は、親にみてもらう人が多い。その結果、子どもには自立心が養われないし、親も子育て費用に重い負担感。社会に出てからも自立できないフリーターやパラサイトシングルが増加。
・ 誰しも結婚し、子どもを持つものという考え方や結婚適齢期という考え方が根強い。

(社会保障全般)

社会保障負担が勤労意欲や経済活力を阻害しない程度の水準で安定し、持続可能で安定的な社会保障制度が確立。

児童・家庭に対する社会保障給付の割合が増加。

○ 社会保障制度の個人単位化が進むとともに、被用者保険の適用が大幅に拡大し、就労の選択に中立的に。

○ 各個人の保険料納付記録や給付に関する情報を提供できるようになることにより、その人の生活スタイルに合わせて若い頃から老後までの生活設計が容易に。

○ 一人当たり国民所得の増加により、国内外の様々な資産に投資するなど、私的な老後への備えが進み、高齢者になっても公的年金等に依存する割合は減少。

<現状認識>

・ 年金制度の持続可能性に対する不信感があり、将来に対する不安、世代間の不公平感が強い。
・ 児童・家庭に対する社会保障給付はわずか。

(子育て支援)

○ 多様な働き方の普及に伴って、保育所の預かり時間が弾力化。

○ 年間を通じて入所が容易になるとともに、一時預かり、在宅保育など多様な保育サービスが充実。多様な就業時間に的確に対応。子どもの急な病気時に良質な保育を行うサービス(病児保育)も充実。また、これらのサービスを専業主婦や育児休業中の親も外出などの際に利用。

○ 育児に関する相談、情報提供の充実により、育児不安が解消。

地域のボランティアによる子育て支援活動が活発化。

<現状認識>

・ 延長保育は増えているが、就業時間の多様化などに十分対応できない状態。遠方の長時間保育を行う保育園へ送り迎えする親が多い。
・ 専業主婦や育児休業中の親など育児に付きっきりの親は、育児の悩みを一人でかかえてしまったり、気分転換ができず苦悩。
・ 子どもの病気が長引くと長期間の休暇を取らざるを得ない状況。

(雇用管理)

○ 同一企業、同一職種における時間当たり賃金は、能力や成果を反映したものとなり、フルタイムやパートといった1日の勤務時間による違いはなくなる。

○ 子育てに対する職場内での理解が進み、男女問わず、育児休業や子どもの看護休暇、勤務時間の短縮などの制度が利用しやすくなる。

○ 労働者が育児期間中に短時間勤務を選択しやすいよう、午前・午後のようなシフト制などを取り入れるとともに、派遣労働の活用や退職者の再雇用などで代替要員を確保。

(働き方)
○ 男女問わず、個人のライフスタイルに応じた多様な働き方の選択が可能。

労働市場の整備により、転職や再就職が容易になる。

○ 価値観の変化を反映し、夫婦の働き方として、育児期間中を中心に、共にフルタイム(2人分)で働くのではなく、夫婦で1.5人分の働き方を選択するケースが増加。

○ 夫婦共にフルタイムの場合も、どちらかが在宅勤務を活用するケースも増加。

○ 多様な働き方の普及により、高齢者の雇用の場が拡大。

<現状認識>

・ 時間外労働も含めた労働時間が長く、家族との時間がもてない。
・ 働き方として、フルタイムの正規社員でなければ、パートタイムの非正規社員しかなく、労働条件(給与・社会保険・福利厚生等)にも大きな格差があるため、
(1) 夫婦の働き方として、「夫が仕事、妻が家事・育児=1人分」又は「夫婦共働き=2人分」のどちらかの限定的な選択に。
(2) 高齢者が生活スタイルに合わせて意欲的に働くことができる場が少ない。
・ 上司や同僚に気兼ねし、育児休業や看護休暇が取りづらい雰囲気。企業側も他の労働者へのしわ寄せや代替要員の確保が困難という理由から消極的。
・ 育児などでいったん退職すると正規社員としての再就職が困難。

(教育)

○ 少子化に伴い、私立を中心に学校間で、教育内容や学費面での差別化が進む。

○ 学歴ではなく物事への対応能力や人間性で人物を評価する社会に。学習の目的意識が明確になり学び方が多様化。社会人教育や生涯学習が一般化。

大学生は働きながら学ぶことが主流となり、本人に対する奨学金制度が充実。

○ 小学生の遊び場と安全の確保のため、学校施設内で地域による子育て支援活動が活発化。

<現状認識>

・ 学歴偏重。全般的に学費が高い。子育てコストのうち教育費に対する負担感が強い。
・ 大学生が自立しておらず、学費のみならず生活費まで親が工面。
・ 小学生が安全に思いきり遊べる場所が少ない。

(住宅)

土地の高度利用(高層化、地下化)で都市部の地価が抑制されたことにより、1人当たりの居住面積は拡大。

○ 都市部では、住宅は、購入よりも家族の事情に合わせて住み替えできる賃貸が一般的に。

(自然・環境)

○ 下水道等の普及や汚水処理技術の向上により、都市を流れる河川の水質が改善し、自然とふれあう場となる。

○ 電線が地中化されるとともに、河川や運河に建設された高速道路が改修で地下化されるなど都市における景観が重視される。

<現状認識>

・ 地価は下落しているが、サラリーマンが自宅を購入するのは未だに困難。
・ 都市部を流れる河川や水路は、経済面や防災面、安全面など機能的な側面が強調されすぎており、人と自然のふれあいや景観などへの配慮がない。



第2部 2025年の高島さん一家の暮らし


登場人物
夫   高島 健太 医薬品卸会社 営業職(33歳)(旧姓河原)
妻   高島 美咲 出版社勤務 児童書を担当(33歳)
長女  高島 来夢(らいむ) 小学校6年生(12歳)
長男  高島 登夢(とむ)  保育園児(2歳10か月)
※夫婦の名は、1990年代の命名上位
@

<6:30a.m.>
 う、重い・・・。
 健太は、何事かと思い、目を開ける。
 どうやら寝ている健太の腹の上に、登夢が飛び乗ったらしい。登夢は、にいと笑って、
 「パパ朝!」
 と一息に叫ぶと起きあがり、ぱたぱたとキッチンに駆けていった。
 下の子の登夢は、やんちゃざかりで、時として思いもよらない行動にでる。

 
 健太は、のそりと起き上がるとキッチンに向かった。今日、妻の美咲は、午前中、在宅勤務の日なので、今朝の朝食当番は、妻。それ以外の日は、健太が朝食当番。そういう約束。
 テーブルに着くと、来夢と登夢はすでに食事を始めている。健太もゆっくりと席につき、食事を始める。
 「おみそ汁、味濃くない?」
 「いいんじゃないの。」
 曖昧に答える。頭はテレビのオン・ディマンド・ニュース専門チャンネルに集中。
※男女が家事を平等に分担
 −3年後にせまった日中韓を中心とした東アジアの通貨統合について、新通貨の単位を何にするか、政府間での綱引きが激しさを増しています。この問題に関し、一ノ瀬財務大臣は、・・・− ※国際貿易や国際資本移動を一層円滑化するためドルに替わる基軸通貨を目指し導入。
 登夢が手がかからなくなるまでは、健太と美咲が1年交代で短時間勤務をし、2人とも仕事は辞めないことにしている。今は、健太が短時間勤務の番。もっとも、フルタイムの美咲も週に3日は、午前中、在宅勤務なので、2人で子育てをしているという感じ。 ※働き方の多様化が進み、子育て期間中は、夫婦で1.5人分の労働を選択する者が増加。
<7:10a.m.>
 健太は、朝食を終えると、決まりきった儀式のように淡々と身支度を済ませる。玄関では登夢が待っている。
 「じゃあ、行ってくるよ。登夢、ママに行ってきますは?」
 「行ってきま〜す!」
 笑顔の美咲は、両手の手のひらで登夢の頬をはさんで、優しくさすりながら言った。
 「いってらっしゃい。」
 
A  
 一家は、街の中心部から地下鉄で20分程のところに手頃な3LDKのマンションを借りている。夫婦でローンを組めば、都市部のマンションも十分購入可能なのだが、健太と美咲が学生時代から住んでいるこの街で、子どもの成長に合わせて住み替えていきたいと考えている。 ※土地利用の高度化(高層化、地下化)により地価は抑制。1人当たりの居住面積は拡大
 健太は、登夢の手をひいて、ゆっくりと歩く。この辺は車道と歩道が分離されており、子どもを連れていても安心だ。登夢の歩みは、まだおぼつかないところもあるが、歩道には段差がなく、転ぶことは少ない。登夢は、保育園で習ったのだろうか、童謡を口ずさんでいる。ところどころ間違いながら。 ※歩行者優先の街作り
 
※街のバリアフリー化
 今日のように、美咲が午前中、在宅勤務をしている日は、こうして健太が登夢を保育園まで送る。つまりは、平日5日のうち3日は健太がこうして保育園まで送っているということになる。
 駅の近くの保育園までは、ゆっくり歩いても10分に満たない。わずかな時間ではあるが、2人のコミュニケーションには大切な時間。登夢は思いついたように、突然、保育園での出来事や友達のことを話すこともあれば、ずっと歌を歌っていることもある。今日は歌いたい気分のよう。
※男女が育児を平等に分担
<7:20a.m.>
 「おはようございます。よろしくお願いします。」
 「どうも、おはようございます。登夢君、おっはよう。」
 「おはよう!」
 登夢は大きな声で保育士さんに挨拶をすると、健太にバイバイをして、建物の中に駆けて行った。
※多様な働き方が普及するのに伴って、保育園の預かり時間も弾力化。
 保育園の入り口で、インド人のナムビア父子、田中父子と一緒になる。健太のように父親が送りに来るのは良くある風景。
 「おはようございます。」
 「ナマステ。おはようございます。」
※国際結婚が増え、その子どもも増加。
 「田中さんは、育休明けで会社復帰したんですね。」
 「はい、先週から。会社からは定期的に情報をもらっていたんですけど、なかなか慣れないんですよ。」
※男性の育児休業の取得が一般化。
<7:30a.m.>  
 「ゲート・フリー・システム」が内蔵された携帯を持っているので健太が自動改札に近づくと何もしないでも自動的に改札が開く。
 この時間でも車内は意外と混んでいて、なかなか座れない。
 とはいえ、雑誌を広げて読むゆとりは十分にある。健太がこの前テレビで見た、かつての「通勤地獄」とは比較にならないくらい楽ではある。あんなアクロバットな体勢で地下鉄に乗るというのは、想像を絶する。
※定期券のIT化
※今後も人口が都市部に集中するため乗客数はそれほど変化しないが、通勤時間の分散化により混雑緩和
<7:50a.m.>  
 業界紙にざっと目を通しているうちに、健太が通う営業所の最寄り駅に到着する。
 外に出ると立ち並ぶビルの隙間から朝日がまぶしい。営業所までは歩いて5分ほどだが、健太はその通勤路が気に入っている。かつては、高速道路が覆い被さり、その下を流れる水路が目にとまることなどなかった。10年ほど前の改修で、高速道路が地下にもぐったおかげで、今はとても明るい、緑いっぱいの水路となっている。
※職住近接

 

 

※1960年代に建設された高速道路の更新では都市景観が重視

B  
<8:00a.m.>  
 健太は席に着くと、パソコンで森田からの引継事項を確認する。
 彼は派遣の短時間勤務職員で、健太と入れ替わりで、12時30分から5時30分までを担当している。一昨年まで、同業他社で働いていたが、満60歳を期に退職。その後、1年間は、妻と2人で国内外を旅行したり、好きなピアノを習い直したりの悠々自適の生活だったらしい。
※育児期間中の短期間勤務を選択しやすくするため、派遣労働者を活用し、交代制を導入する企業が増加。※多様な働き方の普及により、高齢者の雇用の場が拡大
 昨夜、「アポイントを申し込んでいた大崎病院の後藤先生。明日朝イチで訪問してください」と、山路から携帯のメールに伝言があったので、急いで準備をし、営業所の倉庫に向かう。
 納品する商品は、電子受注システムを通して、昨日のうちに出庫係の山本が倉庫の所定の場所に並べている。
 今日の納品は3か所。その前に大崎病院。
 健太は、商品をチェックしながら手際よく営業車に載せ、出発する。

 20年ほど前にインターネット発注システムが開発され、さらに、10年ほど前からインターネット・テレビ電話が普及したおかげで、おおかたのことは足を運ぶことなく済ませることができるようになった。とはいえ、どうしても営業は、フェイス・トゥ・フェイスの関係を疎かにできない。健太も、できるだけ顔をつなぐ努力をしている。

 
 また、テーラーメイド医療で、患者ごとの診断と各種製造メーカーの医薬品とのマッチング役として、自らも病院経営に参画しているつもりで、病院に密着した事業展開がますます求められている。
 卸売業も決して楽ではない。
※患者の細胞を加工することによる再生医療も含め、患者の遺伝子情報等に基づいて個別の患者ごとの治療法、投薬量などを決めるテーラーメイド医療が普及。
<8:30a.m.>
 大崎病院は、中規模の病院ではあるが、複数の診療科があって、地域の中では中核的な存在である。
 病院に入ると、事務局に顔を出す。事務局長と軽く世間話をした後、内科の後藤先生を訪問。
 「おお、河原君か。季節の変わり目だから風邪がはやっててね。いつもの点滴薬ずいぶん使ってるよ。」

 『河原』は健太の旧姓である。

 
 最近は、社会保障番号が確認できれば全ての契約で旧姓が利用できるようになったため、仕事上はもちろん、クレジットカードや銀行口座の名義も旧姓のままである。健太も美咲も姓にはこだわりはなかったが、美咲の祖父が、ひ孫に『高島』姓を名乗らせたいと言ったので、そうしたのだった。 ※各人の社会保障情報の提供のために社会保障番号が導入。
※アメリカのように社会保障番号が個人の照合にも活用。
※姓へのこだわりの希薄化
 「そうですか。あれは特許切れの医薬品で値頃なのに、品質がいいから患者さんにもお医者さんにも評判いいみたいですね。ところで、先生にアポイントを入れさせてもらいましたのは、このたび、いつも利用していただいている弊社のテーラーメイド投薬のネットワークが拡張されるんですよ。小児科系の医薬品に強い製薬会社の商品・技術もコーディネイトできるようになるので、小児科の先生にもどんどん利用してもらえるようお願いします。」
 「そうかね、それはありがたい。うちの病院はテーラーメイドの投薬では地域の先端を走ってきたんだけど、うちの外科部長、この前、うちの病院の規模なら臓器再生はそんなに需要はないかもしれないけど、皮膚再生とかなら需要多そうだって言ってたな。おたくの細胞加工サービス評判良いらしいね。一度話聞かせてもらえないかな。」
 「ありがとうございます。是非、では、また改めてお話しさせてください。」
 
C
<8:30a.m.>
 美咲は朝食の後片づけを済ませると、来夢と一緒に部屋の掃除や洗濯を手際よくこなす。
 小学校に来夢を送り出した後、美咲はパソコンに向かう。
 
 会社のサーバーにログインし、在宅勤務の開始手続きをする。 ※在宅勤務の時間管理
 美咲が勤める出版社は、規模こそ大きくないが、最近では小学生向けの「ロックウェル騎士団の冒険」シリーズをヒットさせている。児童向けの洋書を翻訳し、発行する出版社なのだが、いい本を見つけられれば、会社の大小は関係ない。

 また、会社としては、要は期限までにモノができあがればいいわけで、勤務形態はかなり融通がきく。もっとも、裏をかえせば、成果にはシビアとも言える。

 
 社内の男女比は、ほぼ1:1。上司も同僚も育児に理解がある。 先日、登夢が急に熱を出して保育園を休んだときも、快く看護休暇をとらせてくれたのはありがたかった。 ※男女共同参画社会の確立
※育児に対する社会的な支援意識の拡大
※看護休暇制度の普及
 かつて大流行した、小さい子供への「読み聞かせブーム」は、一時の流行に終わることなく、家庭教育の一環として、小さい頃から親子が一緒に読書をする習慣が定着した。
 おかげで、「児童書」というジャンルの市場規模も拡大している。
※家庭教育の充実
 美咲にとっては、何より、自分の子どもに自分が手がけた絵本を読んで聞かせるのが楽しみでもあり、登夢は、美咲がアメリカで発掘した作家の「みけねこジョーイ」のシリーズに夢中だ。

 絵本の世界に国境はない。だから、優れたものがあれば、海外の絵本も、どんどん日本の子供達に紹介したい。美咲は、先週も、イギリスにいる代理人を通じて、現地で最近注目されつつある絵本作家に日本語版翻訳の話をオファーしている。その際に先方から聞かれていた契約上の詳細事項について回答を作成する。これならOKがもらえるのではないだろうか。期待がこもる。

D
<11:30a.m.>
 「あ、山路君。点滴薬のルジオミン、かなり処方が増えているようだから在庫確認しておいてね。」
 健太は上着を脱ぎながらパソコンに向かう部下の山路に声をかける。
 「風邪はやってるらしくて、ネットの発注でもルジオミン、結構出てますね。在庫は大丈夫みたいですけど。あ、それと河原さん。この前の浜田薬局の分なんですけど、メーカーから商品が届いたそうですよ。」
 「あ、そう。あそこは森田さんも顔がきくから、午後に森田さんに行ってもらおうか。」

 席に着くと、午前中に携帯で処理した発注をパソコンで確認する。電子化は進んでも、人為的なミスは起こりうる。地道な確認作業を怠ることはできない。
 発注に間違いないことを確認すると、在庫管理システムで在庫を確認する。発注分はすぐにでも準備できそうだ。あさってには十分間に合う。あとは事務の山路に任せる。

<0:30p.m.>
 森田が出社してきた。
 「おはようございます。今日の大崎病院どうでしたか。」
 「ええ、内科部長からの話だと、大崎病院もそろそろ再生医療始めたいと思ってるみたいです。今度、うちの細胞加工サービスの説明聞いてみたいって言ってたので、明日にでも、プレゼンに行ってこようかと思ってるんです。」
 午前中の状況と浜田薬局への納品について、健太は森田に引き継ぐと、帰り支度を始める。
 「河原さん、子供かわいいさかりでしょ。登夢君でしたっけ。」
 「そうですね。やんちゃで困りますよ。今日も体当たりで起こされたし。それじゃあ、あと、よろしくお願いします。」
 健太は時計を見る。1時。
 部屋を出ようとしたところで、あっ、と小さな声を出して健太は振り返った。

 
「森田さん、申し訳ないです。営業の車、水素入れといてください。 ※環境問題に配慮した水素自動車が普及
E  
<0:30p.m.>  
 契約に関する回答書ができたところで、美咲は会社の電子決済システムに乗せる。最後に、在宅勤務終了の手続きをする。
 そして、軽く昼食をとり、家を出る。
 

※在宅勤務の時間管理

 この時間帯は、日に2度目の通勤時間帯にあたる。地下鉄は空いているとはいえなかったが、今日は運良く座ることができた。

 ふと目の前に立っている細身の女性の指に目が留まった。左の人差し指にリングをしている。
 − あ、妊娠してるんだ −

※フレックスタイムや短時間勤務が普及し、お昼前後にも通勤時間帯ができる。
 結婚すると左の薬指にマリッジ・リングをするように、妊娠が分かると夫から贈られた「マタニティ・リング」を左の人差し指につける習慣がある。
 「どうぞ。」
 美咲は笑顔で声をかけると席を譲る。
※働く女性が一般的になる中で、通勤などが大変にもかかわらず、周囲からは判断しにくい妊娠初期の女性にも優しい社会が確立。
 「こんにちわあ。」
 美咲が会社についてメールを開くと、「みけねこジョーイ」シリーズの翻訳を委託している今井から、シリーズ4作目「みけねこジョーイといじわるキツネ」の日本語原稿の初稿があがってきていた。

 早速美咲は校正を進める。絵本は分量も少なく、文章自体難しくない。その分ごまかしがきかないとも言える。また、単純に日本語に訳すのは、何の苦労もないし、翻訳ソフトも進歩してるが、英語にはない日本語独特の微妙なニュアンスをいかに出していくかが腕のみせどころである。
 話の中盤で「いじわるキツネ」のしゃべり方をどうするか、美咲は迷った。児童向けの絵本だから、あんまりキツい言葉は避けたいけど、キツネが何となく憎らしく思えるようなしゃべり方でないと話がつまらなくなる。美咲は一つ一つの言葉を吟味しながら校正を進めた。

 
 美咲の会社はそう規模も大きくないので、日本語訳自体は外注に出しているが、1冊の本を出版するために、通常3人程度のチームを作って作業をしている。今回の仕事は、美咲は渉外業務を含め全体のコーディネートを担当しながら、美咲とイギリス人のハートが文章の校正、梨田がイラストを担当している。海外の絵本のイラストは、そのまま使えるものもあるが、日本人好みに多少手を加えなければならないこともある。  

 

※日本企業と外資系企業とにかかわらず知的労働分野における外国人が珍しくない存在に。

 「ハートさん、梨田さん、モニター見てくれる?」
 美咲は原稿を共用モニターに映し出すと、チームを組んでいる二人に声をかけ、打ち合わせを始めた。

 一通り読み終わると、ハートは、
 「キツネのしゃべり方難しいですね。"YOU"一つとっても、日本語にはいろいろな表現があるし。」
 とコメントし、梨田もうなずく。
 「そうなのよ、下品にならないように、いじわるさを出すのって、難しいのよね。」
 「根がいじわるな人だと、簡単なんでしょうけどねえ。」
 ハートが腕を組む。
 「総務の滝口さんに聞いてみようか。あの人さわやかにチクリと言うの得意でしょ。」
 梨田がちゃかす。
 「それは妙案ね。」
 笑い声が響く。だいたい、いつも和やかに打ち合わせは進む。

<3:00p.m.>
 文章がある程度固まったので、美咲と梨田は、イラストレーターのところに打ち合わせに出る。
 「これだけ世の中進んでも、結局は直接目で見るしかないんですよねえ。」
 「しょうがないよね。画面に写るのと、紙に印刷されるのとは、微妙に色合いとか違ってくるもんね。そこの微妙なところで梨田さんのセンスが生きてくるんじゃないの。」

 
 美咲は、軽量電気自動車を走らせる。

 社員の働き方はさまざま。

※環境問題に配慮した軽量電気自動車の普及
 大自然をテーマにした児童書を専ら担当している社員は、自然が豊かな山村に居を構え、打ち合わせもテレビ会議で済ませていたりする。
 社内には、名前を知っているだけ、又はテレビ画像で見たことあるだけ、という社員もいる。
 しかし、最後の仕上げは、どうしても直接目で確認することが必要になる。美咲の会社では、これを「ナマチェック」と呼んでいる。
 先の地方で山ごもりしている社員などは、「下山」、「世俗に出向く」などといってナマチェックのため出社する。

 イラストはほぼできあがっていたが、全般にもう少し柔らかいトーンにしたい、という梨田の意向で、微調整を続けた。
 再度、来週、仕上がりを見ることにして、2人は会社に戻る。

F
※IT化の進展で在宅勤務の選択が広がる。
<3:00p.m.>
 健太は、退社後、カラフルなヨットの浮かんだ水路を一望する眺めのいいレストランで、遅めの昼食をゆっくりとってから、家路につく。健太は、スーツ姿のまま、駅近くのスーパーに入った。夫婦のうち、短時間勤務の方が、夕食当番である。
 

 

※男女が家事を平等に分担

 携帯からアクセスし、インターネットで冷蔵庫の中を確認する。
 さて、今晩は何にしようか・・・。
 米や醤油といったストックがきくものや、牛乳などいつも欠かせないものは、インターネットで農家や商店と直接契約して購入している。
 しかし、野菜や肉ばかりは、いつ何を使うか、その時々に考えるので、スーパーに足を運ぶことになる。直接目で見て選びたい、ということもあるが。
 料理は、たまには面倒と思うこともあるが、2人の子供もおいしいといって食べるので、悪い気はしない。
※IT家電の普及

 

※IT化により生産者等からの直接購入が増加

 買い物を済ませると、健太は保育園に登夢を迎えに行く。この時間子供を迎えに来る親は、健太のほかにもいるのだが、今日は迎えに来た他の親とは鉢合わせなかった。一方で、この時間に子供を預けにくる親もいる。
 「どうも、高島です。」
 健太の声を聞きつけて、登夢が駆けてきた。
 「登夢、今日もちゃんとセンセイの言うこときいていい子にしてたかあ。」
 登夢は、ぶんと大きくうなずいた。
 「でも、ちょっとおもらししちゃったんだよねえ。」
 今度は小さくもう1回。
 「どうもお世話さまでした。」
 健太は左手に買い物袋、右手で登夢の手をひいて保育園を後にした。

 登夢は、道すがら、んーとね、と何度も前置きを付けて、今日の出来事を話した。健太は大げさに驚いたり、感心したりしてみせながら登夢の話を聞く。そうしていると、家にはあっという間に着いてしまう。

G

<5:00p.m.>
 「ああ、のど乾いちゃったよー。」
 健太の背後で来夢が冷蔵庫を空ける。
 「おい、帰ってきたら、ただいまだろう。挨拶はちゃんとしないとだめだぞ。」
 オレンジジュースを注いだコップに口をつけたまま、
 「ままいま。」
 バツが悪そうに、来夢はおそらく「ただいま」と言った。
※多様な働き方が普及するのに伴って、保育園の預かり時間も弾力化。
 放課後、来夢は、週に3日はクラブ活動をして帰ってくる。足が早い来夢は、女子サッカー部に所属している。女子サッカーのプロリーグに憧れの選手がいたのが、サッカーを始めるきっかけだった。来夢は将来プロサッカー選手になることが夢である。 ※小学生の遊び場と安全の確保のため学校の施設内で地域による子育て支援活動が活発
 それ以外の日は、時間にゆとりがあるお年寄りや、中高生のボランティアが放課後の遊び相手をしてくれる。ボランティアといっても彼らは市からいくばくかの謝礼をもらっているのだが。
 お年寄りが教えてくれる遊びは、最近の子供にとっては、むしろ新鮮に映るらしく、好評だ。学生ボランティアは、お兄さん、お姉さんといった感じで、子供に近い立場で遊んでくれるので、これはこれで好評。
 高島家の場合には、学校が終わるころには、健太が家にいるので、部活がない日は、来夢が帰ってきてもいいのだが、来夢は友達と一緒にいることを選んでいる。
 今日は、遊びの日だ。
 「今日は何して遊んできたんだ?」
※地域活動が、お年寄りの生きがいであるとともに、多少の収入源にも。
※中高生もボランティアの意識を高めるために、授業や課外活動でボランティア活動に取り組む。また、小さい子どもと遊ぶ貴重な体験の場に。
 「おばあちゃんが、ゴム飛び、っていうののやり方を教えてくれたよ。簡単だけど、やってみるともりあがっちゃった。それからね、玲奈ちゃんと校庭の芝生で寝ころんで、雲を見てた。」

 来夢は健太の脇から鍋をのぞき込んで、カレー、とつぶやくと自分の部屋に行った。夕食までに宿題を済ませないと、夜、テレビを見せてもらえない。

 登夢はテレビに夢中になっているようだ。この時間帯のアニメは子供の間ではやっているらしく、登夢も毎日欠かさない。
 健太はキッチンからリビングをのぞき、登夢の様子をうかがう。テレビに夢中で振り向きもしない。
 「登夢、今日カレーだぞ。」
 登夢は、ん、と短く返事をしただけだった。

 電話が鳴った。美咲からだった。
 「今から帰るね。」
 午後6時。

H

<9:00p.m.>
 家族4人の夕食を終えると、健太は登夢を風呂に入れ、一緒にブロックで遊んだ後、寝かしつける。寝付きが悪いときは、美咲が絵本を読んで聞かせる。今日は、すんなり寝てくれた。

 健太と美咲は、リビングでコーヒーを飲んでいる。
 「次の本って、いつ頃出るの。登夢も楽しみにしてるんじゃないか。」
 「そうね、まだ担当チームの中でも、揉んでる最中だし、あと2ヶ月くらいかかるかなあ。あなたの方はどうなの。営業って顔合わせる頻度も大切なんでしょ。」
 「ああ、なんとか繋いでるよ。短時間勤務もあと2か月だからもう大丈夫だろう。」
 「2人でフルタイムだと家計は楽だけど、子どもたちとの時間が減ってしまうね。」

 

※校庭の芝生化は、子どもの安全とともに、子どもが外で遊ぶようになり、心身の健康によいことから推進。

 「うん。ただ、来年来夢が中学、スポーツの盛んな私立に行きたいって言うと、少しお金かかるよなあ。それと、登夢が大きくなったら、この家じゃ手狭だっていう問題もあるし。」
 「そうね。でも、もう少し子どもと一緒にいてあげたいな。あなたがフルタイムに戻ったら、私、在宅勤務を増やそうかな。」
 「おれだってフルタイムになってもできるだけ子どもと接したいと思ってる。一緒に頑張ろうな。」
※学校の情報公開が進み、学校の個性を見極めた上で選べる社会に。

 
※家族のライフスタイルや価値観に合わせた働き方が可能

 テレビ電話が鳴った。美咲の実家の両親が2人並んで写っている。お互い顔を見ながら最近の出来事を話す。美咲の両親は業界こそ違うが会社の上役でそれぞれ苦労しているようだ。
 先日驚かされた登夢の急な発熱のことを話すと、美咲も小さい頃たびたび同じようなことがあり、ハチミツ入りのホットミルクを飲んで寝ると良くなったそうだ。

 電話を切ると、美咲は、さて、とつぶやき、

 

※祖父母も共働きということが一般的に。

 「来夢に負けないように、私も勉強。」
 と言いながらパソコンで海外の児童書の売り上げをリサーチする。最近、大して大きくない出版社が発行した本が、本国で映画化され、その本も爆発的な売り上げを記録したことがあった。青田刈りで版権を手に入れることはリスクもあるが、当てたときのメリットは大きい。年俸にも大きく跳ね返ってくる。

 一方の健太も書斎に入り、薬剤師の勉強を始める。薬剤師の資格は必須ではないが、商品知識と医者とのやりとりでの耳学問では限界がある。説得力のあるセールスには専門的な知識が必要だと常々感じていた健太は、短時間労働を単なる子育て期間ではなく、ちょうどいいステップアップの期間とも捉えている。

 
 健太は小さい頃「お医者さんになりたい」と言っていた。今から医学部に入り直すことはとてもできないが、薬剤師になることができたら、人と薬に関わる会社を興して、人の健康に役に立つ仕事をしたいと思っている。

 そして、いつものように高島家の一日は終わる。

I

 土曜日。休みの日は、いつもより朝寝坊できるささやかな楽しみがある。

※2001年小学生がなりたい職業の男子第3位(第一生命調べ)
※働き方として起業を目指すケースも増加。
 また、今日は夫婦2人でサイクリングに行く予定である。 ※育児期間中も2人の時間を大切にする夫婦が増加
 家族4人の朝食を終えたころに、いつも育児シッターをお願いしている大学生の甲野が到着する。月に1、2度夫婦2人で出かけるのだが、そんなときは、家で育児シッターに子供2人の面倒をみてもらうことにしている。

 「いつも2人でお出かけ、いいですねー。仲良くてうらやましいな。あとは任せてください。」
 「3時間くらいして、お昼過ぎの1時半ごろには帰りますんで、よろしくお願いします。」
 柔らかな日差しを浴びながら、風を切る。爽快。
 木々の緑、空気の香り、そよ風に揺れる花びら、あらゆるものに春の優しさが漂っていた。

 サイクリングは、2人にとって、単なる共通の趣味にとどまらず、特別な意味を持つ。

 2人が出会ったのは、大学のサイクリングサークルだった。
 このサークルでは、月に一度、サイクリングに出かけることになっていたのだが、目的地やコースの選定は、持ち回りで担当するルールだった。
 1年生の夏、健太と美咲は、クジでたまたまペアになり、目的地とコースの設定を担当することになったのだが、それまで、お互い特に意識していなかった2人が急接近するきかっけになった。

※育児シッターが普及
※家庭教師などとならんで、大学生のアルバイトのひとつに
 その後、つきあい始めた2人は、やがて同棲をはじめた。愛する人とずっと一緒にいたいから。しかし、同棲にはもうひとつ、奨学金とアルバイトで学費や生活費を賄う2人にとって経済的、という理由もあった。

 そして、大学3年のとき、来夢が誕生し、それを期に結婚した。
 来夢の誕生は、経済的な影響が大きかったのは事実であるが、手当など社会保障を受けながら、美咲も健太も割のいいアルバイトを選んで何とか乗り切った。親からは援助の申し出もあったが、できるだけ2人でやっていきたかった。

※少子化により大学の学費が低下。
※奨学金制度の拡充
※高校卒業後、自立することが一般的に。
※同棲の増加
※学生出産、学生結婚の増加。
※出産・育児に対する社会保障制度の拡充
 学内には、福祉学部の研修の場を兼ねた託児ルームがあった。社会に出た後、子育てをしながら通う大学院生を主な対象にしていたが、学部生の2人も利用させてもらった。

 2人は自転車を走らせながら、決して雄弁ではなかったが、2人でいることそれ自体を実感していた。それで十分であった。
 郊外の小さな湖がある自然公園が、今日の2人の目的地だった。湖畔で自転車を降りると、2人は眼前に広がる風景をしばらく眺めた。

 春風になびく髪を軽く押さえながら、ふと、美咲は健太の方に顔を向けた。
 「ねえ、フルタイムに戻ったら、そのままずっと通すの?」
 健太は意外な顔をした。
 「そうだな、来夢の中学もあるし、広い家にも住み替えたいし、それに将来の独立のために、今よりもう少し貯金したいね。まあ、短時間は、また子供ができるとかすれば別だけど・・・、んっ、どうしてそんなこと聞くのかと思ったけど、もしかして・・・。」
 健太が微笑むと、美咲は、一呼吸おいて、少しおどけたように、「マタニティ・リング、またほしいな。」
 幸せそうな2人を包むように、ひときわ優しい風が通り抜けた。

I@
※社会に出てからも大学や大学院で学ぶ社会人が増加し、大学にも託児施設。
 日曜午前9時半。健太はいつもより遅い朝食の準備をしている。休みの日は、料理の得意な美咲が夕食を担当し、健太は朝食当番。そういう約束。
 美咲は皿やカップを準備した後、ソファーで新聞を読んでいる。
 2人の子供はまだ寝ている。

 「さて、そろそろ起こしてくるか。」
 健太は、自分に気合いを入れるように、少し大きな声でそう言うと、子供部屋に向かう。
 「おい、来夢、朝メシできてるぞお。」
 来夢は、んんんとうなって、目をこすりながら布団から出る。

 健太は登夢のそばにこっそりと忍び寄ると、布団をはがし、脇腹をくすぐった。
 一瞬、きょとんとした登夢は、事態が飲み込めると、もがくように体をくねらせて笑い出した。
 「この前のおかえしだー。」

 今日は、「上田川クリーン作戦」に家族で出かける予定。

※男女が家事を平等に分担
 上田川は、地元を流れる川。20世紀の高度成長期に汚れてドブ川と呼ばれたこともあったが、21世紀初頭から清流を取り戻そうという運動が起こり、いままで四半世紀にわたって活動が続けられている。現在では、蛍が生息する清流に再生し、地域住民の憩いの場となっている。 ※下水道等の普及、汚水処理技術の向上で、かつての清流が復活。
 このクリーン作戦は、かつては、市役所の旗振りで行われていたが、今はボランティアの手に委ねられている。

 のんびりと朝食を済ますと、サンドイッチを持ち、4人で川へ向かった。

※ボランティア活動の活発化
 正直にいうと、月に一度のクリーン作戦は、世の中のために、といった大それたボランティア精神から参加し始めたわけではなく、子供と一緒に川で遊ぶことが主な目的だった。同じ考えの親が多いらしらしく、来夢も友達ができて楽しそうだし、登夢も興味津々で河原を冒険する。そういった意味では、気軽な気持ちで参加している。

 「みなさんおはようございます。えー、今日は、この場所から、松橋、すぐそこに見える橋ですね。あそこまで、河原と水辺のゴミ拾いをしたいと思います。」
 リーダー格の竹田という男が、手の平をメガホン代わりにして、50名ほどのボランティアに今日の作業を説明する。大小のポケットがしつこいほど装備されたベストから、竹田がアウトドア派であり自然を愛していることが伺われる。
 「えー、それでは、始めます。ゴミ袋はこちらにありますし、軍手は忘れた方用にいくつか用意してありますので、使ってください。がんばっていきましょう。」

 特にいつまでに終わらなければならない、という決まりはないが、おおむね昼過ぎに終わり、解散。午後は川で遊ぶというのが、暗黙のルールになっていた。

 美咲と来夢が河原組、健太と登夢が水辺組にそれぞれ分かれてゴミ拾いを始めた。

 美咲と来夢は、手も動かすけど、口も動かす、といった感じで、近所の人たちや同級生とおしゃべりに興じながら、作業を進める。時折、そおなのよ、えーほんとにい、といった断片的な言葉や笑い声が響く。

※「親子で何かをする」ということを楽しむ習慣。気軽にボランティアという風潮。
 健太と登夢は、水辺の生き物を観察しながら、ゴミを拾う。といっても登夢はゴミを探しているというより、川の中の生物を観察している。
 ザリガニを見つけた健太は、慎重にその背中をつまむと、登夢に見せる。ザリガニは、抵抗してハサミを開き、振りかぶる。
 「ほら、登夢、ザリガニだよ。ほら。」
 登夢は、うお、と言ってじっとザリガニを見つめると、
 「ざにがに、がおーってしてるねっ。」
 といって鼻息を荒くした。

 集団で行動するとき、誰が決めたわけでもないのに、自然と取りまとめ役になる人が出てくるものだ。こうした人たちを中心にスムーズに作業は進んでいく。

 午後1時を前に今日の作業が終わる。

 「はい、みなさんお疲れさまでした。おかげさまできれいになりました。来月のクリーン作戦につきましては、上田川ボランティア・ネットのホームページに掲載しますので、よろしくお願いします。それでは、解散します。」
 竹田の表情には、達成感が見て取れ、うっすらとにじむ汗が、きらと光った。

IA
※親子で自然と触れ合うことで教育的効果とともに、人間性の涵養に。
 ビニール・シートを広げ、河原で4人一緒に昼食を取る。
 美咲と来夢は、今日仕入れた出口さんちの話やナナちゃんちの出来事を披露する。
 健太は、それをふんふんと聞き、たまに相づちを打つ。
 登夢は、自分に話を振られると答えるが、基本的には、さっき捕まえたザリガニがいるプラスチックの虫かごを見ている。美咲と来夢は、気持ち悪い、といやがったが、登夢はかなり気に入った様子。

 昼食が終わると、4人でフリスビーを始めた。
 そのうち、健太は、疲れたよ、といって、ビニールシートに戻り横になる。

 3人は、しばらくフリスビーを続けたが、登夢がうまくできなくて、不機嫌になってしまったので、中断し、河原を散歩し始めた。

 横になった健太の頭には、仕事のことが浮かんでくるが、せっかくの休みだし、と自分に言い聞かせ、ゆっくりと流れる雲を見る。

※遠くまで足を伸ばさなくても、地元に自然があり、気軽に気分転換ができる。
 今、健太と美咲の2人は、十分に子供と接する時間を持っている。仕事は能力主義で楽ではないし、健太が短時間勤務の分、収入は減っているが、こうした日常を金で買っていると思えば、安いものだ。
 来夢は、最近、健太とちょっと距離を置き始めた。男親から見ると、女の子は難しい。そのうち煙たがられるのかな。
 登夢は、興味を持ったら、周りが目に入らない。こだわりを持って仕事に取り組んでいる美咲の事を考えると、登夢は美咲に似たのかもしれない。
 つらつらと思いを巡らせるうち、健太は眠りについた。

・・・。
 人の気配を感じて、健太はうす目を開けた。
 にいと笑いながら、登夢がすぐそばまで近寄っている。
 また何かやらかす気だな。
 健太は目を閉じ、気付かないふりをすることにした。

(完)
 



第3部 2025年の家族の会話

1.社会経済

1−1 経済・暮らしぶり

 技術革新の進展や新しい財・サービスの開発に伴う消費需要の掘り起こし、女性や高齢者の労働力化等により、少子高齢化の中にあっても経済が安定的に成長し、国際競争力も向上。社会保障負担も適正な増加幅になる等により、暮らしぶりは現行水準を維持。所得格差はそれほど拡大せず、犯罪も現行水準を維持。

妻:
 今度、相手に伝えたいことを考えただけで相手に自動的に伝えたり、見た映像を自動的に相手に伝える機械を日本の会社が作ったんですって。

夫:
 テレパシーみたいだね。携帯電話の技術も随分進んだね。今度、タイヤのない車もできると言うし。それらの技術は世界で大ヒット間違いなしと言われ、株価が高騰してるようだよ。

妻:
 産業の空洞化とか日本はアジアの田舎になるとかいろいろ言われてたけど、日本もがんばってるわね。そうそう、コンシェルジェサービスとかフードサービスとか在宅のサービスも充実して生活も楽になったわよね。

夫:
 社会保険料や税金も負担がめちゃめちゃ増えるんじゃないかと心配されたけど、今の水準に収まってよかったね。その機械が実用化されたらさっそく買ってみようよ。

(最悪シナリオ)
 労働力の減少や高齢化による消費需要の低下から経済が低迷。産業の空洞化や大幅な円安が進行し、輸入品・海外旅行が高値の花に。社会保障負担の増大等により、暮らしが厳しくなる。低所得者の増加や所得格差が拡大し、犯罪が増加。

妻:
 また今年もマイナス成長だって。どんどん日本が貧乏な国になっていくわね。今は家電製品も自動車も韓国や中国の会社の製品ばかり。しかもすごく高いのよ。
 それに買い物に行っても老人ばかりで活気がないのよ。売ってるものも年寄り好みのつまらない物ばかりであれじゃ買う気にならないわ。

夫:
 そういや大学卒業の時に海外旅行に行ったよね。君もブランド品を買いあさったりしていて、とても今では信じられないね。

妻:
 それなのに、どんどん社会保険料や税金ばかり高くなって、本当もう暮らしていけないわ。

夫:
 それに、隣の公園のホームレスも随分増えたよね。子どもを連れて遊べないよ。
 なんか儲かってる奴は儲かってるようだけど、どんどん落ちぶれていく人が増えてるよね。

妻:
 そう、犯罪発生率って世界一になったそうよ。安全な国日本はどこにいってしまったのかしら。

2.育児支援

2−1 多様な保育サービスの充実

 延長保育を利用できる保護者が増えるとともに、在宅における良質な保育サービスも充実し、多様な就業時間に的確に対応。

上司:
 今日はちょっと徹夜で作業しなくちゃいけない状況だけど山田君は大丈夫かなあ。

妻:
 ええ、大丈夫です。(携帯を取りだし、夫に電話)今日はちょっと仕事で徹夜しようと思うんだけど、そっちはどう?

夫:
 今日はねえ、仕事は定時だけど、学生時代の友人と会うことになってるんだよなあ。10時くらいには帰れると思うんだけど、ベビーシッターさんをお願いしようか。じゃあ、僕からベビーシッターセンターに電話しておくよ。9時までは保育所で、お迎えと1時間見てもらおう。

妻:
 私は仕事をしながらベビーシッターの様子をインターネット画像でチェックしておくわ。

夫:
 じゃあ、仕事がんばってね。

(一般的イメージ)
 延長保育は増えるが、就業時間の多様化に十分な対応ができない状態。遠方の長時間保育を行う保育所に送り迎えをする親が増加。

妻:
 うちの会社、サービス業だから24時間営業、年中無休でしょ。保育所はいくら延長保育とか言ってもこの辺じゃ8時、9時まででしょ。どうしよう?

夫:
 二駅先の駅前に24時間の保育所がオープンしたけど、あそこに預けるとなると通勤時間が1時間増えるなあ。また、人気が高くて入れるか分からないよ。

妻:
 本当はベビーシッターとかにお願いできるといいんだけど。

夫:
 それは無理だよ。稼ぎのほとんどがなんだかんだ引かれるのに、ベビーシッターは補助がないからめちゃめちゃお金がかかるじゃん。ベビーシッターを雇うために働くようなことになっちゃうよ。仮に雇えたとしても虐待とかが心配だよね。

妻:
 もう仕事を辞めるしかないじゃない。

2−2 子どもの病気時の保育

子どもの病気時に良質な保育を行うサービスが充実。

妻:
 あら、りな、熱があるわよ。私、今日大切な商談が入ってるんだけどあなた休める?

夫:
 僕も今日は朝から社長へのプレゼンでもう出なくちゃいけないんだ。

妻:
 じゃあ、病児保育をお願いする?かなり熱が高いから保育所の病児保育室ではなくって、看護婦さんに来てもらう方がいいわね。

夫:
 そうだね。じゃあ、君から電話しておいて。

(一般的イメージ)
 子どもの病気が長引くと長期間の休暇を取らざるを得ない状況に。場合によっては退職しなければならない状況に。

妻:
 大変、りな、熱があるわよ。

夫:
 今日は僕は朝から社長にプレゼンしなければならないから休めないよ。

妻:
 今日は私も大切な商談があるんだけど、どうしよう?

夫:
 僕は無理だよ。

妻:
 私も休めない。

夫:
 しょうがないなあ、ジャンケンしよう!

妻:
 じゃあ、一本勝負で!(ジャンケンをして妻が負ける)ああ!!この前も大切な商談をドタキャンしちゃったし。もう大切な仕事は任せてもらえなくなっちゃうわ。

2−3 リフレッシュ等のための保育の充実

 リフレッシュ等のために子どもを預けることが可能となり、子どもを持つ親の生活に明るさが出る。

妻:
 明日は結婚記念日ね。私たちが知り合ったパレスホテルのレストランにフレンチを食べに行かない?

夫:
 そうだね。りなが生まれてから、もう本当に育児で大変な生活だったからね。二人でリフレッシュしようか。明日の朝に近くの保育所に一時保育の申し込みをしよう。

妻:
 久しぶりの外食だから楽しみね。りなももう4ヶ月でだいぶ安定してきたから、たまには一時保育を利用してリフレッシュしましょ。私、行きたいコンサートや映画があるのよ。

夫:
 そうだね。僕が面倒を見て、君に遊びに行ってもらうのもいいけど、たまには二人でも出かけたいもんね。

(一般的イメージ)
 女性は子育てに追われて全く自由な時間がなく、育児ノイローゼとなる者も存在。その状況を嫌う者が増加し、ますます晩婚化が進行。

妻:
 なによ、今日もこんな時間に帰ってきて。また飲んできたの?いい気なもんよね。
 私一人に子どもを押しつけて・・・、もう朝からずっとビービー泣くから、ろくに食事もしてないし、お風呂に入ったって頭も洗えないし、もう、もう、私限界!(泣き崩れる)。

夫:
 なんだよ。今日は飲んでないよ。仕事だよ、仕事。もう、おれだって疲れてるんだから。先に寝るね。

妻:
 もうイヤ、子どもが産まれてから、なんにも楽しみがないじゃない。友達はまだ結婚せずに遊び回ってるのに、私だけ髪振り乱して赤ん坊の世話なんて、もうやってられないわ。みんな旅行したり、飲みに行ったり、おしゃれしてるのよ。ああ、早く結婚なんてするんじゃなかったわ。

夫:
 こんな面倒くさいことになるなら、一人の方が楽だよ。

3.働き方

3−1 就職・就業形態

 労働市場が整備され再就職や労働移動が円滑に。専門的な能力を有し、企業間を渡り歩く労働者が増加。出産・育児に係る環境や労働市場が整備され、女性の就職も進む。

夫:
 今度、コンサルティング会社に転職することにしたよ。人材紹介会社に登録して転職先を探していたんだけど、その会社は僕がこれまでキャリアを積んできた医療経営のコンサルタントを求めていて、僕のキャリアを高く評価してくれたんだよ。あそこは今度、富士見医療センターの経営改革をやるみたいだから、僕のキャリアを磨くのに最適なんだ。真紀も今度小学生になって教育費も多くなってくるからサラリーがいいところの方がいいし。

妻:
 よかったわね。おめでとう。真紀ももう小学生だし、創太も3歳で保育所にも慣れたようだから、私も、また働きはじめようかな。真紀ができる前にやっていた国際法務のレベルアップ・コースを受講して、会社を紹介してもらいたいな。育児との両立を考えると育児支援制度が整っていて在宅勤務ができる会社がいいね。

夫:
 そうだね。結構そういう会社はあるよ。その分野の能力要件もだいぶ変化してるようだから、キャリア・コンサルタントに能力評価してもらって、足りない部分の訓練を受けるといいんじゃない。

妻:
 そうね、明日早速、ホームページにアクセスしてみるわ。

(最悪シナリオ)
 労働市場が未整備で再就職が困難。特に技術革新等によりミスマッチが拡大。出産・育児に係る環境が整わず、女性の就職も進まない。低賃金・不安定雇用のパート労働者や派遣労働者が増加。

夫:
 じ、実は僕、会社がクビになったんだよ。

妻:
 えっ。どうするのよ。明日からどうやって生活していくの。でも、しばらくは失業保険が出るんでしょ。どのくらい出るの。あんたがんばって早く就職してもらわないと、まだ、うちには住宅ローンも子どもの教育費もあるんだから、しっかりして。

夫:
 これまでやってきたような仕事はもう時代遅れなんで求人がまったくないよ。技術校に通おうと思うんだけど、僕みたいなおじさんには突然新しいことを学べって言われてもついていけないよ。ほんとすごく就職が厳しいんだ。あとは賃金の安いパートや派遣の求人ばかり。結構僕みたいな年代でもパートに行く人が多いんだよね。この歳になって重労働で安い賃金の仕事をするとは、ほんと情けなくなっちゃう。

妻:
 私も子どもが出来る前は働いてたけど、出来た途端に遠くに転勤させられたりして辞めることに追い込まれたわ。今から仕事を探しても私もパートしか仕事はないでしょうし、本当にどうしましょう?

3−2 就業に対する意識

 インターンシップの定着など若年者への職業意識の啓発支援が効果を上げ、学校から職業への移行がスムーズに

弟:
 兄さん、そろそろ高校卒業後の進路を決めなくちゃいけないんだよね。いろいろ迷っていてさ・・・。

兄:
 難しいよね。僕も迷ったけど、高校生時代に職場体験学習の時間があって、銀行とか証券会社に行ったり、メーカーの企画開発の人と一緒に仕事をしてみたこともあったんだ。その中で一番興味があったのが、ものをつくる仕事だったから工学部を志望したんだ。学生時代も夏休みなんかを利用して海外を含めいろいろな会社でインターンシップをしたんだよ。大学でも熱心に紹介してくれたしね。

弟:
 夏休みに海外ばかり行っていると思っていたら、そういうことをしていたんだ。
 今の仕事に就くのにインターンシップは役立ったの?

兄:
 そうだね。工学部を選んだ後、専攻を選ぶにときも、インターンシップの経験を考慮したよ。海外で働いてみたいという希望もあったから、実際仕事をしながら暮らすことができたのはいい経験だったな。いろいろやってみたけど、昔から自動車が好きで、やっぱり自動車会社で企画開発をするのが一番自分に向いてそうだと分かったんだ。だから、学部の専攻も迷わなかったしね。今はインターンシップで行ったこの会社に就職できてかなり満足しているよ。

(一般的イメージ)
 社会保障負担増から勤労意欲低下。若年者の職業意識の希薄化が益々進み若年の高失業化が拡大。

弟:
 兄貴、よく家族も顧みずそんな長時間働いてるな。しかも働いたってほとんど税金や社会保険料で取られちゃうんだろ。やってらんねえー。どうせ年金なんて俺たちがジジイになる前に破綻するんだから、入ったって意味ねえし。バイトでも食っていけるんだからそれでいいじゃん。俺の友達なんてみんなフリーターでちゃんと就職する奴なんていないよ。

兄:
 そうは言ってもな、お前、バイトで今はいいかもしれないけど、オヤジ世代になったら大変だぞ。今の給料で子どもを養っていけるのか?ほら、最近、元フリーターのおじさんでなんのキャリアも積まないで来て、失業と日雇い仕事を繰り返してるホームレスがめちゃめちゃ増えてるだろ。

弟:
 まあ、俺はどっちにしても会社人間にはなりたくねえから、適当にやるよ。兄貴は家族のためにがんばってくれや。

4.高齢者の暮らし

4−1 高齢者の再就職

 高齢者も、貴重な労働力としてそれまで長年築きあげてきたキャリアを活かした仕事をすることが容易に。

夫:
 おかえり。面接、どうだった?

妻:
 なかなか手応えあったよ。私が長年築きあげてきた営業の知識と経験をたっぷり売り込むことができたと思う。今日行って来たテムズカンパニーは、この前の渡良瀬商事より給料が良くて魅力的なのよ。でも週5日勤務だから、ちょっと体力的にもきついし。

夫:
 そうだね。渡良瀬商事なら週3日だから、君が前から入りたいって言ってた地域の登山サークルにも一緒に入れるじゃないか。少ないけどおれの収入もあるし、プサンインベスターズの年金プランの支給もあるし、株の配当もあるし、もう子どもも独立して2人なんだから、給料のことは気にしなくていいんじゃないか。

妻:
 そうだね。無事に渡良瀬商事に決まって初給料が出たら、自分へのご褒美に、久しぶりに2人で山に登りに行こうね!

(最悪シナリオ)
 高齢者の再就職は単純労働が主流。多少なりとも長年のキャリアが活かせそうな求人には多くの高齢者が殺到し、なかなかやりがいある仕事に就くことができない。

妻:
 あ、おかえりなさい。面接、どうだった?

夫:
 いや、今日の面接もダメだったよ。たった1人の求人にあれだけ人が来ていてはね。

妻:
 そうだったの・・・。でも、年金がもらえるようになるにはまだ年数がかかるし、最近、お金苦しいのよ。失業給付だってもうすぐ切れるんでしょ?お願いだから選り好みしてないで、何とか早く勤め先を見つけて。

夫:
 そう言われても、この歳になって、今までの知識も経験も何も活かされないところで、黙々と単純労働するなんて耐えられないよ。面接だって、自分より一回りも二回りも若い奴に志望動機を偉そうに聞かれて・・・。解雇される前は、営業一筋で理不尽だと思ったこともみんな耐えて必死にやってきたのに・・・。俺だって辛いんだよ!

4−2 高齢者の社会参加

 定年などで退職した者も、専業主婦(夫)も、高齢期ならではの様々な形の社会参加の道がある。

夫:
 今日は木曜日か。君は、小学校の課外授業の講師に行く日だったね。今日は、どんなことを教えるの?

妻:
 先週の続きで、お手玉づくり。先週は、小学校の中庭で育てている朝顔で、布を染めるところまでできたから、今週は、その布を使って、いよいよお手玉を完成させるんだ。来週は、お手玉の練習をして、お手玉大会でもしようかな。

夫:
 お手玉とは、懐かしいね。大会も是非やったらいいんじゃないかな。僕も何か、若い人に教えられることがないかな。そういえば、来春卒業の大学生を対象にして「働くってどんなこと?」っていうテーマの講座をコミュニティーセンターが開くらしいんだ。その講師の募集のメールが来ていたから、応募してみようかな。

妻:
 それはおもしろそうじゃない。延長学級から帰ってきたら、詳しい内容を教えてね。あら、もう時間だ。行かなくちゃ。あなた、晩ご飯の支度をお願いね。

(一般的イメージ)
 定年などで会社勤めをやめたとたん、社会との接点がなくなってしまい、自分の経験や知識を人に伝える機会もなくなる。

妻:
 あなた、会社を辞めたとたん、元気がないじゃない。テレビばかり見ていないで、少しは、家事の手伝いでもして。

夫:
 今までしたこともないのに、突然できないよ。なんだか、働いていた頃と違って、毎日が単調だなあ・・・今は、孫が遊びに来ることだけが楽しみだよ。

妻:
 そうね、あの子が遊びに来ると、家が活き活きしますよね。この間遊びに来たとき、あなたが将棋を教えてあげたでしょ。とても喜んでたみたい。同じ年頃の子が近所にもたくさん住んでいるから、その子たちにも教えてあげたらどう。

夫:
 おれ一人でどうやってやるんだ。それより、早く夕飯にしてくれないか。



第4部 本報告書に対する若者の声

 本報告書の原案に対し、各メンバーの友人関係を頼り、省外の同年代から、多数の有意義な御意見をいただきました。
 ここでは、その一部を御紹介いたします。

<価値観・生活スタイル>

・ 夫婦と子どもの一家庭のみを挙げて「こうあって欲しい」社会とするのは、多様化がますます進む現状において、国が一つの在り方を前提にしており、問題。多様な生活設計をする人々を、それぞれのニーズに合ったようにサポートする社会、人々の価値観の多様性を国の施策が積極的に受入れ、ライフスタイルに中立な社会を目指すべき。(20代(女性)、大学院生)
・ 2025年に子育てする世代は現在子育てされている世代であり、今まさに親の姿を見て、親の愚痴を聞かされ、幼少期の多感な心に刷り込まれ、育児に対するネガティブな感情が醸成されかねない。2025年といわずに早急に解決すべき課題である。(30代(男性)、通信)
・ 学生結婚・出産には違和感。働きながら学ぶだけでも経済的には大きな負担であり、子育てまで学生二人で対応しきれるのか。(20代(女性)、公務員)
・ 「高校卒業後は親から自立、働きながら学ぶことが一般化」、「学生結婚・出産の増加」は、今の世の中の流れからみてなぜそうなるのかよく分からない。((女性)、出版)
・ 子育てが格好いいと思われるようにすることが重要ではないか。(20代(男性)、省内)
・ 個人主義化するため、生活の単位が夫婦や家族ではなく、個人単位の人が増加し、結婚する人間が減少するのではないか。また、教育やしつけが単調になってきている中で、未熟な大人が増え、責任を持てない人間が増加し、自分以外の者を支えることは難しくなるのではないか。(30代(男性)、卸売)
・ ペイドワーク(賃金労働)での男女間の差を無くすためには、アンペイドワーク(家事、育児等)における男女間の不均衡を無くすのが前提という意識転換が重要。育児と家事を女性のみが背負ったままでは、女性は職場で男性と同様には働けない。(20代(女性)、大学院生)
・ 専業主婦を選択するのもカップルの自由。その選択を否定的に捉えるのはおかしい。(20代(女性)、住宅)
・ 夫の育児に対する意識は大いに変わると思うが、夫婦の役割は夫婦で決めるのが理想であり、専業主婦を希望する者も少なくないと思う。(30代(男性)、省内)
・ 夫婦だけの時間を大切にする人たちは子どもを作らないのではないか。(20代(男性)、公務員)
・ 在宅勤務は、仕事と家事、育児を分離しにくいという考えもある。また、在宅勤務が健太ではなく美咲というのは、「育児は女性の責任」という意識が残ったまま、という気がする。(30代(女性))

<社会保障全般>

・ 年金制度の問題等高齢化社会への対応について触れなければ未来予想図とはならないのではないか。(省内)
・ 児童・家庭に対する社会保障給付の割合の増加となると、どこを削減するのか。高齢者への対応は大丈夫なのか。(30代(男性)、通信)
・ 社会保障の個人単位化は、個人化の流れを助長するのではないか。(20代(男性)、公務員)

<子育て支援>

・ 育児に対する経済的な不安の解消について触れられていると、より共感できるものになったのではないか。(30代(男性)、通信)
・ 延長保育や夜間保育が進まないのは保育士も母親である場合が多いからであり、保育サービスの充実も、労働時間の弾力化も誰かの家庭を犠牲にしないと成り立たないのではないか。((男性)、省内)
・ 子どもの看護休暇がとりやすくなることはよいことだと思うが、子どもの病気は突然の場合が多いので、どうしても休めない場合のために、休暇よりも病気の子どもを安心して看てもらえるようにすることが大切ではないか。((男性)、省内)
・ 欧米のように育児シッターのような他者が家庭内に入ってくるのは、日本では想定しがたい。むしろ、ドクター等医療系スタッフが常時駐在し、受入も24時間可能、ショートステイもできるといった医療と育児の両方に対応でいる施設があれば、夫婦だけの時間も大切にできるし、夫婦とも仕事に没頭することもできるのではないか。((男性)、省内)
・ 育児シッターの普及は費用面で難しいのでは。料金が安いとなると賃金もやすいということではないか。(20代(男性)、公務員)
・ 育児シッターは身内か近所の親しい人でないと実現が難しいのではないか。(30代(男性)、省内)
・ 育児シッターを有資格化して、安心して任せられる環境が欲しい。(20代(男性)、商社)
・ ベビーシッターは、大学生だけでなく高齢者の働く場としても有効ではないか。(20代(女性)、省内)
・ 父親が保育園に預けに行くのは今でもよくあることではないか。(省内)
・ 子育て世帯への経済的援助、託児施設の充実、企業側に対する育児支援への優遇制度といったものを充実させないと子どもは増えないのではないか。(30代(男性)、卸売)
・ 公的な支援は子どもを持つことの阻害要因の除去にはなると思うが、子どもを持とうとするインセンティブについての問題の根本的な解決策にはならないのではないか。(20代(女性)、公務員)
・ 子どもが帰宅すると親が既に仕事から帰宅しているという状態は理想だが、学童保育や地域の子育て機能の充実も必要ではないか。(公務員(男性))
・ 金融機関の合併等により、大手町や赤坂、霞ヶ関等に空き店舗が多数あるが、その場所を国(都道府県)等が借り、「育児センター」のようなものを作れないだろうか。(20代(男性)、商社)
・ 「子どもは夫婦の持ち物で各夫婦の責任」から「子どもは社会の子ども」という意識転換が必要。子育てに係るコストはもっと社会化する必要がある。シングルマザー、シングルファザーでも育てやすい社会に。(20代(女性)、大学院生)
・ 男性にも育児に参画する義務を課す必要があると思う。意識が変わるのを自然に待つのではなかなか変わらない。制度によって意識を変えるという発想もあっていいのではないか。このまま男女ともに仕事に邁進する社会では、犠牲になるのは子どもだと思う。(20代(男性)、公務員)

<ボランティア>

・ 「育児シッター」の職務内容はあまり大学生が希望する職種とは思えず、主要な雇用の場にまではならないのではないか。また、個人主義的に考える流れの中で、放課後の子どもの面倒を多くの学生やお年寄りがボランティアでみようとするのか。全般的にみんなが子ども好きでないと、第2部で描かれた社会は成り立たないような気がする。ボランティア活動は意識の高い人にしか現状でも広まっていないし、家族のレジャーとしてのボランティア活動は強い契機がないと広まらないのではないか。(20代、主婦)
・ 海外留学や海外ボランティアの義務化などをやってみてはどうか。(30代(男性)、銀行)
・ 個人主義化するため、自分のこと以外のボランティア活動などに興味を持つ人は減少するのではないか。(30代(男性)、卸売)
・ 小学生の遊びは、同級生同士でやるのではないか。小学生が老人の相手をしに行く方が自然。過保護すぎ。(30代(男性)、省内)
・ 我々が高齢者になったときに子どもに教えるような遊びがあるのだろうか。(20代(男性)、公務員)

<雇用管理>

・ 派遣労働者と代替できる者は正社員として雇わないのではないか。また、育児期の短時間勤務などを導入する企業に対して助成しない限り、そう簡単には広まらないのではないか。そもそも営業職は交替で行うことは難しいのではないか。(20代、主婦)
・ 労働時間と給与の問題は企業にとっては「そんな都合のいい話はない」ということになるのではないか。労働時間が半分なら、給料はそれ以下になってしまうのではないか。(30代(男性)、銀行)
・ フルタイムとパートが「正規社員」と「非正規社員」から、「正規社員」の中でのフルタイム、パートタイムになるべき。(20代(女性)、大学院生)
・ 2人で1.5人分となると、育児期間中、0.75人分働くことに理解を示す余裕のある会社は出てくるのだろうか。企業間の競争が激しくなっている現状からすると制度ができても奨励する余裕はないのではないか。(20代(男性)、保険)
・ 育児期間中の短時間勤務やフレックスタイム制が広く認められるようになれば少子化に効果があると思うが、実際にこのような制度を利用する場合に、人事上不利な取扱を受けないといった不安を払拭するような仕組み・職場環境作りも必要ではないか。(不明)
・ 企業における少子化対策への貢献としては「男性の育児休業義務化」が必要となると思う。(20代(男性)、商社)

<働き方>

・ 第2部で描かれているような雇用形態を認めると、少なくとも企業としてはコスト増になるため敬遠するのではないか。また、女性個人としても、仕事を全力でやりたいというニーズも相当強いのではないか。高島一家のような生活を理想とする人が少ないからこそ、少子化なのではないか。(20代(女性)、証券)
・ この話の夫婦のように、フルタイムと短時間勤務を組み合わせた1.5人分の働き方・収入で子どもを3人育てることができるのか疑問((女性)、出版)
・ 現実はいつ残業が入るか分からない。家事・育児の分担もきれいに半々とはならず、夫婦のうち、短時間勤務をしている者が家事・育児のメインの部分を引き受けざるを得ないのではないか。((女性)、出版)
・ 趣味、地域活動等に充てる時間を増加させるためには、長時間労働をなくすことが必要である。(省内)
・ 夫婦で1.5人分の仕事はどうやって実現させるのか。夫婦が別の企業に勤めていても可能なのか。(30代(男性)、電力)
・ 仕事の分担は効率的な面がある一方、非効率な面もあり、一部の職種に限られるのではないか。情報化などにより雇用人数も減少することが予想され、このような社会の変化に対応できなかった人は職を失い、生活できなくなってしまう可能性もあるのではないか。(30代(男性)、会社員)
・ ネット上のセキュリティーが発達することが在宅勤務普及の前提となるのではないか。(不明)
・ 2人で1.5人分働くということはいい。労働環境としてはSOHOの拡充や長期休暇制度の浸透などにより整ってくるだろうし、社会的にも女性がもっと社会進出すべきという風潮が強まってきているので実現可能ではないか。(20代(男性)、保険)
・ 通信系の発達により生産性が格段に向上する可能性はあり、そういう意味では高島一家のような家庭はあり得るだろう。(20代(男性)、銀行)
・ 在宅勤務もフレックスタイムも職種が限られるのではないか。通勤地獄が緩和されるか疑問。(20代、主婦)

<高齢者>

・ 高齢者がどのように生活しているのかがよく分からない。親の介護を抱えていれば、このような優雅な生活は送れないのではないか。(20代(女性)、公務員)
・ 高島家が介護を迫られているとすればここまで綺麗な未来にはならないのではないか。(20代(男性)、銀行)
・ 介護問題の記述がなかったが、例えば、遠距離介護を行っている社員がいる場合には、優先的に介護施設への入所を認めるなど、企業の制度として一定の要件に合致すれば支援策を講じる等の社会環境整備についてもお願いしたい。(20代(男性)、商社)

<教育>

・ 少子化でなぜ学費が低下するのか。(20代、主婦)(20代(男性)、公務員)
・ 少子化に伴い、今後さらに大学の競争が激しくあるとすれば、大学の質の向上も必要であることから、費用はそれほど低下しないのではないか。(30代(男性)、省内)・ ゆとり教育の反動で学習塾に通っている現状をみると、今以上に学習塾に熱を入れるということにはならないのか。(30代(男性)、通信)
・ 校庭の芝生化は是非実現して欲しい。(30代(男性)、製造)
・ 校庭の芝生化は維持するのが大変だし、ガラスの破片があったりして危険性もあるのではないか。((男性)、公務員)

<国際化>

・ 女性、高齢者、学生の労働力化に加え、外国人の労働力のウエイトが高まるのではないか。(30代(男性)、証券)
・ 現在でも、登録レベルだけで100人に一人の割合、登録外を含めるとそれ以上の割合にある外国人の方々の存在について、例えば、友達や近所に外国人がいるような設定にし、さらに、その人達とも楽しく生活しているという多文化共生社会の実現に向けてのビジョンを描くべき(30代(男性)、研究者(日本語教育)、)

<住宅・自然環境>

・ 都市部の地価が抑制されると、逆に都市に人口が流入するため、一人当たりの居住面積はそれほど広くならないのではないか。(20代、主婦)
・ 高速道路の地下化は構想としてはいいが、公共事業費を抑制しようという今の流れの中では実現しないのではないか。(20代(男性)、保険)
・ ここで描かれた2025年の自然・環境の姿は大変いいことだと思う。(20代(男性)、公務員)

<その他>

・ 親や親戚、近所の人達との交流についても考えるべき。(30代(男性)、研究者(日本語教育))。
・ 現在の膨大な財政赤字、企業のリストラ、収入減などからは、ここに描かれている豊かな生活の元手、個人の収入にせよ、国の収入にせよ、なかなか「実現可能」とは思えない。(公務員(男性)、40代)
・ 同世代が共感できる姿が描かれており、その実現に向けての行政の多様なバックアップに期待する。(30代(男性)、通信)
・ 少子化は若者の晩婚化によるのも大きいのではないか。若者の結婚環境の変化(結婚したくなるような社会)も検討してみてはどうか。((男性)、省内)
・ 児童・家庭への社会保障給付の増加、看護休暇、短時間勤務などに当然付随する社会的なコストの増加についても触れるべきではないか(省内)
・ この例が悪いとはいわないが、これが理想の姿であるとして示すことには違和感を感じる。もっと多様な姿を併記した方がいいのではないか。(省内)
・ 我々の世代が中高年世代になる頃だろうから、中高年もそれなりに未来は明るいというメッセージは出せないのか。((男性)、省内)
・ バラ色過ぎるのではないか。実現可能性があるとも思えない。(不明)
・ 登場する子どもに手がかからなすぎる。現実的なにおいがもう少しした方がいいのではないか。(20代(女性)、通信)
・ 円満な家庭ばかりではなく、離婚率も相当上がっているのではないか。(20代(女性)、公務員)
・ 高島家はエリートという感じがする。(20代(男性)、保険)
・ この頃には、夫婦別姓が主流ではないか。(40代(男性)、公務員)
・ 家計の収入の構造は、共働きが前提か(賃金水準、年金・税制度等は?)。(40代(男性)、公務員)
・ 妊娠しながら働いている女性の通勤の負担の軽減を図るためにも、マタニティーリング的なものは必要。(20代(男性)、商社)(20代(女性)、省内)
・ テレビゲームのITの影響が、こどもが育つという局面に想像以上の悪影響を及ぼしていくと思う。こうした中で、ここで描かれているように親子のふれあいを保つのは至難の業ではないか。(20代(男性)、公務員)
・ 仕事以外に価値を置く人は増えると思う。余暇市場はもっと拡大するのではないか(20代(女性)、大学院生)
・ 「家族」という概念自体が、多様化、流動化すると思う。子どものいない家庭、同性愛者のカップル、片親の家庭等、様々な形がそれぞれもっと受け入れられやすくなり、また、人生の間に、結婚、離婚、同棲が一回づつとは限らない社会になるのでは。(20代(女性)、大学院生)


「2025年の社会の姿ワーキングチーム」メンバー

(50音順)

  河村 のり子
  源河 真規子
  佐々木 菜々子
  佐藤 由佳
  下向 智子
  白川 泰之
  武田 康祐
  日野 力
  姫野 泰啓
  古瀬 陽子
  蒔苗 浩司
  簑原 哲弘
幹事 森 新一郎

(年齢構成) 20歳代後半 7人、30歳代前半 6人
(既・未婚) 未婚者 7人、既婚者 6人(うち子持ち4人)


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