02/05/23 第13回厚生科学審議会生殖補助医療部会議事録               第13回厚生科学審議会               生殖補助医療部会議事録                厚生労働省母子保健課         第13回厚生科学審議会生殖補助医療部会議事次第 日  時 : 平成14年5月23日(木) 10:00 〜13:10 場  所 : 厚生労働省専用第18会議室 出席委員 : 矢崎部会長 大日向先生        荒木委員 安藤委員 石井委員 加藤委員 岸本委員 金城委員        相良委員 澤 委員 平山委員 吉村委員 松尾委員 町野委員        渡辺委員 議  事 : ○ 生殖補助医療に関する有識者からのヒアリング         (対象者)         ・ 大日向雅美氏 恵泉女学園大学人文学部教授                 (生殖補助医療における心理カウンセリング)         ・ 平山史朗委員(生殖補助医療における心理カウンセリング)         ・ 渡辺久子委員(生殖補助医療における精神医学・                             児童精神医学の関わり) 配付資料 : 1.提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療の実施、精子・卵           子・胚の提供までの手続きや実施医療施設・設備の基準(検討課題          2)          (要検討事項(現時点における事務局素案))        2.不妊と向き合う人々と関わって(大日向雅美先生)        3.わが国における今後の不妊カウンセリングのあり方(平山委員)        4.ヨーロッパ生殖医学会(ESHRE)心理学・カウンセリング部門          不妊カウンセリングのガイドライン(平山委員)        5.ASRM(アメリカ生殖医学会)          生殖医学におけるメンタルヘルス専門家のための資格ガイドライン          (平山委員)        6.生殖補助医療を受ける夫婦と生まれた子への心のケア:小児精神保          健の立場から(渡辺委員) ○生殖補助医療対策準備室長  ただいまから第13回厚生科学審議会生殖補助医療部会を開催いたします。本日は、大 変お忙しい中、しかも朝早くから、先生方お集まりをいただきましてまことにありがと うございます。  本日は、才村委員、新家委員、鈴木委員、高久委員、栗山委員に御欠席の御連絡をい ただいております。それから渡辺委員は少し遅れられるという御連絡をいただいており ます。  それでは早速議事に入らせていただきたいと思います。矢崎部会長どうぞよろしくお 願いいたします。 ○矢崎部会長  それでは、まず資料の確認をお願いします。 ○生殖補助医療対策準備室長  それでは、先生方のお手元に御用意しております資料の確認をさせていただきます。  資料は全部で6つございますが、1つは、毎回要検討事項の案を事務局でまとめさせ ていただいたもの、検討課題2についてまとめたものが資料1ございます。それから資 料2が今日のヒアリングをお願いしてございます大日向先生の資料、それから資料3が 平山委員から御提出いただいた資料、それから資料4も同じく平山先生からいただいて おります。資料5も併せて平山先生からいただいているものでございます。資料6は渡 辺委員からの御説明の資料でございます。それから机上配付資料が全部で3つございま す。御確認のほどよろしくお願い申し上げます。  以上でございます。 ○矢崎部会長  まず検討課題2でございますが、内容はインフォームド・コンセント、カウンセリン グの具体的な内容と実施施設の設備の基準についてという検討課題でございましたが、 前回、委員の方から検討課題1のように、もう少し具体的に議論を進める指標になるも のをつくってほしいということで、資料1の事務局の案をつくっていただき、今日、資 料1としてお手元に配付させていただきました。  それでは、その施設基準にも関係しますが、配付資料3でございます荒木委員から設 備条件と実施医師の要件について学会の方の勧告がございますので、荒木委員から御説 明いただけますでしょうか。 ○荒木委員  平成12年4月、日本産科婦人科学会会員に対して、ARTを行うときの施設の設備条 件と実施医師の要件について会員に徹底を図りました。ここに書かれているとおりでご ざいます。前回、矢内原班から出されましたものよりは少し基準が緩やかではございま すが、一応、学会はこの線を守って実施しているということでございます。以上です。 ○矢崎部会長  ありがとうございました。それでは、これは実際の議論を進めるときの参考資料と させていただきたいと思いますので、これは委員の皆様に保存していただくということ でお願いいたします。  それでは、本日ヒアリングに入る前に、事務局から資料1の検討課題2の議論の進め 方についての素案を説明いただけますでしょうか。 ○生殖補助医療対策準備室長  それでは、資料1を簡単に御説明させていただきます。これは部会長からも御説明が ございましたけれども、前回、各委員の間から共通認識を深めていただくためにヒアリ ングを開始しているわけでございますけれども、検討2の課題のどの部分についてヒア リングを受けているのかということがなかなかわかりにくいという御指摘がございまし た。そういった意味で事務局の方で検討課題1と同様に、そのような様式でそれぞれの 課題をまとめさせていただいたものでございます。  なお、一連のヒアリング全体が終了いたしました時点で、もう一度事務局が委員の先 生方の御意見をまとめまして、素案をおつくりいたしますが、それまでの間、当面の 間、この検討課題の資料に基づきまして、ヒアリングをさせていただきたいというふう に考えております。それぞれの項目につきましては、ごらんいただきたいところでござ いますが、基本的にはインフォームド・コンセントのところとカウンセリング、それか ら大きくは施設基準の要件でございます。基本的にはそれぞれインフォームド・コンセ ント、カウンセリングがいつ、誰が、どんな形でと、内容についてそれぞれの項目にさ せていただいてございます。  それで今回、今日のヒアリングについてでございますけれども、3ページでございま す。(3)でございますけれども、「提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療にお けるカウンセリングの機会の保障について」ということでございまして、これは専門委 員会の中では、ここに書いてございますが、「○」で示してございますが、提供された 精子・卵子・胚による生殖補助医療を受ける夫婦又は当該生殖補助医療のための精子・ 卵子・胚を提供する人及びその配偶者は、当該生殖補助医療の実施又は当該精子・卵 子・胚の提供に際して、当該補助医療を行う医療施設又はその医療施設以外の専門団体 等による認定を受けた専門知識を持った人のカウンセリングを受ける機会を与えられな ければならないと、こういったようなことが決められてございます。  それを受けまして、この下のところでございますが、カウンセリングの内容やその方 法についてどのようなものが考えられるのかということでございます。それから矢印の その次の下のところでありますが、類型化された各々のカウンセリングの客体、内容、 方法、時期はどのようなものなのか。それから上記の類型化されたカウンセリングのう ち、受けることを義務づけるカウンセリングはあるのか。それから次のページでござい ますが、カウンセラーの施設からの独立性の確保のための要件をどのように設定すべき かと。こういったような課題があろうかというふうに整理をさせていただいているとこ ろでございます。  以上でございます。 ○矢崎部会長  以上の議論の進め方の指標となる素案をつくっていただきました。これにつきまして は、まだ素案でございますで、委員の皆様から、こういう視点から議論を進めたらいい のではないかというお気づきの点がありましたら、事務局の方に御連絡いただければ大 変ありがたいと思います。  まず、このような素案に従って議論を進めたいと思います。本日は、今、御説明があ りましたように、カウンセリングの機会の確保についてという議論のもとになりますお 話を三人の方々からお聞きしたいと思います。まず「生殖補助医療における心理カウン セリング」について、恵泉女学院大学の人文学部教授の大日向雅美先生、それから同じ く「生殖補助医療における心理カウンセリング」について平山委員、さらに「生殖補助 医療における精神医学・児童精神医学の関わり」について渡辺委員、お三人の方々から 御意見を承りたいと思います。時間が限られておりますので、それぞれ30分程度お話を お伺いしまして、その後、15分ぐらいをめどに議論を進めたいと思います。  それではまず、お一人目の大日向先生からよろしくお願いいたします。 ○大日向先生  皆様おはようございます。恵泉女学園大学の大日向と申します。本日は、この部会に お招きをいただきまして、話をする機会を与えていただきましたこと、ありがとうござ います。 (スライド)  これから私は、「不妊と向き合う人々とかかわって」ということで話をさせていただ きたいと思いますが、まず初めに、私がなぜ不妊カウンセリングをするに至ったか、そ の経緯を自己紹介を兼ねて話をさせていただきたいと思います。次、お願いいたしま す。 (スライド)  私の専門は発達心理学でして、特に家族問題・親子関係を中心に研究をしておりま す。主な研究テーマは、「日本社会における母性観の形成発達過程」ということで、具 体的には、お母さんとなった女性たちの苦悩に耳を傾けてまいりました。既に30年余り の月日が経っておりますが、その過程で明らかになったことは、日本社会には、いわゆ る母性愛神話というものが非常に根強いこと、これが母となった女性に対していろいろ な苦悩を強いているということです。しかしながら、母性愛神話は、母となった女性を 苦しめているだけではなく、母とならない女性に対して別の苦悩を強いている。今日は この構造をもとに話を進めさせていただきたいと思います。  そこで、母性愛神話とは何なのか、そしてそれが母となった女性、母とならない女性 に どういう影響を及ぼしているかということについて、次のスライドをお願いいたしま す。 (スライド)  母性愛神話と言いますのは大変内容が複雑でございますが、あえてまとめますと、左 側に書いてございますように、出産・育児は女性の生来的な適性だという考え方がまず 基本にあります。そして、我が子を産んだ母親の愛情が最善だ、その愛情に優るものは ないという母の愛情に対する絶対視。そして3つ目は、子育てはそれを担当した女性の 人間的成長に無条件でつながる、子育てイコール人間的成長説というのがあります。そ れぞれ一つ一つ必ずしもネガティブなものばかりではないと思います。事実ももちろん あると思いますが、こうしたものが混在して母となった女性に対して与える影響は、左 側にまとめてございますが、非常な育児負担を招いています。心身ともに一人で育児を しなくてはならない。しかも母の愛情が完璧と言われれば、完璧な子育てをしなくては ならないという プレッシャーになります。それが育児ストレス・育児不安を増強させている一因です。  ただ、その一方でお母さんとなることが女性にとって大変すばらしいんだというよう な価値評価が過剰に付与されることは女性自身が自分を謙虚に顧みることをなくさせて しまう。私はそれを「聖母像のおごり」と言っておりますが、母親が自分の愛情を謙虚 にふりかえることをさせなくなってしまう危険性があります。  一方、母とならない女性に対しては、この後詳しく話をさせていただきますが、今の 母性神話の裏返しとしましては、様々な偏見、抑圧を与えています。そして、母となっ た女性、母にならない女性がそれぞれに苦しんでいる構図の中で、大変悲しいことです が、女性同士の対立が起きております。とりわけ、少子化で子どもを産むことに対する 社会の期待が強まっている昨今は、母となった女性から母とならない女性に対するいろ んなプレッシャー、偏見が強められているということ、それがとりわけ不妊の問題と向 き合っている女性に苦悩を強めさせているということだと思います。  次に、なぜ私が不妊と向き合う人々とどういう経緯で出会ったかということですが、 次のスライドをお願いいたします。 (スライド)  日本社会に根強く存在している母性観がもたらす弊害について、お母さんとなった女 性のヒアリング調査を続けておりましたが、先ほども申しましたが、母とならない女性 は別の形で母性愛神話のひずみで苦しんでいるのではないか。それを明らかにして初め て私の研究は両面から成り立つのではないかということで、1989年に、主に子どもを持 たない女性たち、その原因が主として不妊が原因で子どもを持たない女性の方々を対象 にヒアリング調査を実施いたしました。まだ当時は、不妊カウンセリングというような こともほとんど世の中には認識されていなかった時代です。ヒアリング調査は大変苦労 いたしましたが、新聞紙上で呼びかけさせていただき、全国約300 人の方々に直接お会 いし、中には電話インタビューをさせていただくという形で調査をいたしました。その 方々から、私たちがこれほど苦しんでいるということを世の中の人にぜひ訴えてほしい という強い御要望もあり、『母性は女の勲章ですか?』という本にまとめたのが92年で す。この本の出版が大阪市にあります越田クリニック、不妊のクリニックですが、越田 光伸医師との出会いとなりました。この本を読んでくださった越田医師がわざわざ大阪 から東京まで訪ねてくださいまして、私に先生のところのクリニックでの不妊カウンセ リングを依頼してくださいました。そして96年から開始いたしまして、今も月1回の ペースでカウンセリングをやらせていただいております。次のスライドをお願いいたし ます。 (スライド)  カウンセリングを開始するに当たりまして、越田医師からの依頼、そして私と話し 合って合意させていただきたましたことをまとめてございます。それは不妊治療は医師 だけではできない。心のケアと医療行為が車の両輪のように成り立って初めて治療とい うのが成立するのだということを越田医師から明確に言っていただきました。当時、こ ういう発想を持ってくださるお医者様は本当に少なかったと思います。私にとっては本 当にありがたい出会いで、喜んで伺わせていただくとお返事を差し上げたところです。  その上で、どういうスタンスでカウンセリングをするのかということですが、クライ アントの方お一人お一人がよりよい形で不妊治療に向き合えるように、そしてもう一つ 大切なことは、よりよい形で不妊治療を終えることができるようにという、この2点を 合意させていただきました。これは越田医師からの依頼でもあり、私からのお願いでも ありました。ということは、やはり私一人でカウンセリングができるわけではなく、 チーム医療を目指してということも合意させていただいた点です。次のスライドをお願 いいたします。 (スライド)  具体的なカウンセリングルームの模様をお話する前に、不妊と向き合う方々がどうい うステップを踏んでいくのか3段階にまとめております。まず最初がショック、そして 不妊であることの受容拒否です。「まさか私が」というショックです。これは日本の学 校教育等で行われている性教育に不妊がいかに欠如しているかということを考えさせら れました。産むこと、そして中絶の怖さ等に関しては性教育でいろいろなされていると 思いますが、不妊である可能性ということも決して少なくない。それなのに、不妊とい うことを考えさせる思春期の教育が欠落しているのではないでしょうか。また一方で、 最近は不妊という問題が随分メディアにも取り上げられてまいりましたので、不妊とい うことに対してある程度の心構えをしている方も出てきております。それでも、生理不 順等がありまして覚悟をある程度していたけれども、「やはり、でも」という受容拒否 の段階がまず第1段階です。  そして第2段階、そこから不安、様々な惑い、葛藤が始まります。周囲からの外圧に も苦しみます。自身の心の揺れも非常に大きいです。その過程で自責の念に苦しみ、あ るいは夫、周囲の人々にいろいろな怒りの感情も持ちます。そして治療に対する不安、 疑問も募らせていきます。  こういう過程を踏んだ後、3段階目、次のスライドをお願いいたします。 (スライド)  不妊治療に終止符を打ちます。しかし、ここで不妊の問題が終わるわけではなく、新 たな課題との出会いに直面いたします。まず妊娠し出産・育児に入った場合、やはりそ こで人工的に産んだという負い目を引きずる方もいらっしゃいます。あるいは、そうい う負い目は少なくても、子育ての負担がかほどとは思わなかった、あるいは産むことだ けを考えて、育てる大変さを考えていなかったというような苦悩も始まります。これは お母さんとなった女性に、不妊の過程を踏む踏まないは別として共通に見られる苦しみ のようです。しかしながら、治療を経て生まれた子であっても、不妊という問題との向 き合い方いかんによっては、この子は授かりものだと思うというふうに非常にポジティ ブに関わっていく方ももちろんおられます。  2つ目のタイプは、子どもを持たない人生をスタートする方です。またここでも2つ に分かれます。不妊治療に費やした月日が無駄であったという思いで子どもを持たない 人生に踏み切らざるを得ない方、一方、不妊治療に要した月日があったからこそ今の生 活があると思える心境にいたる方がおられます。  失礼いたしました。今、御説明した部分がパワーポイントに入っていないということ ですので、お手元の資料の3ページ目の「3」というところをごらんいただきたいと思 います。子どもを持たない人生に入る方々の問題に関しましては、 また後のところで触れさせていただきます。  それでは次のスライドをお願いいたします。 (スライド)  それでは、不妊の方の苦悩ですが、従来からある不妊の苦悩と新たに加わった苦悩と があります。従来の苦悩ですが、これは外圧です。ここに関しては何気ない一言の中に も不妊の問題に関わっている方は苦しめられています。「お子さんは?」とか、結婚式 のスピーチ、あるいは年賀状等々で「早くお子さんを」、あるいは「孫をつくることが 何よりの親孝行」、こういう言葉を言う方々は、悪気はないにしても、固定した家族観 にとらわれていて、それが子どもを持たないことに苦しんでいる方をさらにさらに追い 詰めていることに余りにも無神経だと思います。「子どもがいてこそ夫婦だ」、「家族 はやっぱり子どもがいなくては」、「やはり女性は子どもを産んでこそ人格的な成熟を 達成できるのではないだろうか」等々、母性愛神話の弊害がここに端的にあらわれてお ります。  次に内面的な苦悩ですが、これは今申し上げた外圧と決して別個のものではなく、外 圧とオーバーラップして、内面的な苦悩を深めざるを得ません。産みたい、産みたいの に産めないがゆえの産みたい欲求の強まり、そして女性としての欠損感、例えば春が訪 れるたびに木々が青く芽を吹きます。そうしますと、自然界はこうやって生命の連鎖を つないでいくのにと、自らの不毛性にやはり苦しみ、春の訪れに顔を背けて歩く人たち も決して少なくありません。また妻としての苦悩です。夫を愛すればこそ、夫に親とな る喜び、子どもを抱かせてあげたいのに、それができないという苦悩です。次のスライ ドをお願いいたします。 (スライド)  こうした従来からの苦悩に加え、新たに出てきたタイプ、生殖補助医療技術の発展に 伴って出てきた苦悩と言ってよろしいかと思いますが、子ども観の変化です。子どもは 授かりものという考え方は戦後大分うすらいで、つくるものというふうに変わってきて います。そこに生殖補助医療技術の発展、進歩がメディアで伝えられますと、周囲の期 待はさらに過剰になります。「なぜ治療をしないの?」と責められます。そして周囲の 人々は治療の確立が低いということをまだ十分知りません。不妊治療をすれば、かなり の確率でできるのではないかという期待を強め、プレッシャーをかけてきます。また是 が非でも産みたいと思う一方で、人工的に産むことに対するためらいがあります。さら に、先の見えない不透明さ、努力が報われないという言葉も多く聞いてまいりました。 これは非常に現代的な特徴だと思いますが、現代の人々、特に女性もそうだと思います が、学校教育あるいは企業社会での仕事というのは、一定期間努力をすればある程度明 確な成果をあげられるものが多くなっています。しかしながら、不妊治療というのはど んなに努力をしても必ずしも成果が得られない。思いどおりにならないことがこんなに あったということを初めて経験する。そして、この不妊との戦いがいつ終わるかわから ない、先の見えない不透明さです。そこに身体的な負担の大きさ、経済的負担の大きさ が加わります。治療にだけ専念する生活は、やはり仕事との両立が現状なかなか難しい です。しかし、仕事と両立しなければ経済的な負担もなかなかクリアできないというジ レンマがあります。職場の理解もなかなか得にくいということがあって、不妊治療を受 けているということが言えない。言ったら言ったで、またいろんな不必要な詮索をされ て苦しむというようなこともあります。  さらに男性不妊の悩みの深さというのも、生殖補助医療技術の発展に伴って、昔もも ちろんあったと思うんですが、新たに強まってきた問題ではないかと思います。女性も 様々に自分が原因の場合は苦しみますが、男性の苦しみ方というのは、女性の苦しみ方 と別種の混乱があるようです。非常に卑屈になる。今まで妻が原因だと思っていたとき には、治療に対していろいろオープンに語り合えたのに、夫が原因だということがわ かったその段階から、一切治療のことが言えなくなってしまった。夫が背を向けてしま う、非常に卑屈になってしまったと、妻たちはよくこう言います。夫がもう少し積極的 に向き合ってくれたら、結果よりもプロセスを私は大事にしたい。結果的に子どもが授 からなくても、夫婦で闘ったという実感を持てたら、私はこの不妊の日々が無駄だと思 わなくて済むのに、夫が何も言ってくれなくなってしまう。医療のスタッフからは、例 えば治療が進むに連れて、お連れ合いの意思の確認をしてくださいというようなことも 当然起こってきます。そのときに、夫の言葉がないわけです。夫の言葉で私は確認をし ていきたいのに夫の言葉がない。あるいは夫が非常にファジーな言葉しか言いません。 助詞の一つでも明確に、子どもが欲しいのか、子どもがいてもいいよなのかと、「も」 なのか、「が」なのかという、そういうところにもこだわって妻たちは追い詰められて いっております。  さて、こうした全体的な話の次に、それでは、実際にカウンセリングルームの中で、 不妊の方々とどういう出会いをさせていただいているか。まず悩みの訴え方ですがいろ いろです。話したい、聞いてもらいたいという思いを募らせて入っていらっしゃる方が いらっしゃいます。あるいは、どう話せばいいのか言葉が見つからずに非常に戸惑って いらっしゃいます。こういう方々は、まずカウンセリングルームに入っていらしたとき に、私が、「カウンセリングというのは決して難しいルールはありません、私の方に守 秘義務というのがあって、何でも話してください、あなたの不利になるようなことを、 あなたの了解なく外で話すことは決してありませんから安心してね。」と、申し上げた だけでどっと泣き崩れる方がほとんどです。これは10年前のヒアリングのときと同じで す。ヒアリングをさせていただいたときも、「不妊の悩みを聞いてもらえる人がいると は思わなかった」という言葉を皆さん言われました。10年経っても同じです。心のケア を受ける場がいかに少ないかということを今も感じています。身近な人でもなかなか聞 いてもらえない場合が少なくありません。実家のお母さんにも話せないということです ね。肉親なら苦しみを支え合えるかというと、必ずしもそうではない。母親を苦しめる のではないか、悲しめるのではないかと娘が遠慮して話さない場合もあります。あるい は勇気を奮い起こして話しても、母親の方がそういう話は聞きたくないと言って耳をふ さいでしまう場合もあります。心のケアを受ける場が肉親にも社会にも少ないというこ とを考えさせられます。  次のタイプは悩みを整然と話す方です。御自分の今までの経緯をずっと書きとめてい らして、よどみなく話す方です。あるいは悩みはないんですが、カウンセリングって一 体どんなものか試しに見学に参りましたと言いながら入っていらっしゃる方。そして3 つ目は、豊富な医学的情報を駆使して話をなさる方。こうしたタイプというのは、最初 に申し上げたタイプよりも、ある意味でカウンセリングを進めていく場合に難しいなと 思っております。なぜなら、問題の所在を見つけあぐねている方が多いからです。悩み を整然と話す方は問題の濃淡がわからなくなっておられます。どこがキーポイントで、 どこが幹で、どこが枝葉なのかということがなかなかわからなくなっています。ずっと 御自分の中で反芻して整理がつけがたくなっているんでしょう。  それから、「悩みはないんです、私は別に子どもがいないことに全然苦しんでいませ ん、周りの人も何も言いません、夫も理解があり非常にハッピーです、子どものいない 生活をかえってエンジョイしています」というようなことを話される方の場合、カウン セリングの持ち時間は大体50分ですが、35分ぐらいじっと耳を傾けさせていただきま す。どこかで崩れるんですね。あと残り10分ぐらいかなというところで、そこから「実 は」と言って、ほんの些細な私が向けた言葉をきっかけにどっと崩れて、そこからすご い問題が話し始められることがあります。ハッピーですと語る方は問題から目をそらし ている場合も多いようです。  それから、豊富な医学的情報を駆使なさる方、なぜここまで医学的な情報をお集めに なるのだろうかという程集めていますが、情報がその人の心の問題の穴にフィットして いないんですね。だから、医学的情報が空回りしています。情報が豊富にあるというこ とが必ずしも問題を解決しないということを考えさせられます。次のスライドをお願い いたします。 (スライド)  こうしたいろんな訴え方があるんですが、それぞれの方がいろんな変化を起こしてき ます。そこで、大切なことを3点まとめみました。  まず「聞いてもらうことの大切さ」です。話すことはいやされることだと思います。 そして「話すことの大切さ」、「自分の言葉で語る大切さ」だと思います。整然とまと める方は御自分の言葉が余りないんです。どんな稚拙な言葉でもいい、どんな戸惑いで もいいと思います。御自分の言葉となったときに、その方が直面している一番ネックの 問題というのが私なりにつかめさせていただき、そこからカウンセリングが深まってい くと思います。また、言語化することで問題点が客観視できます。夫婦とは、子どもと は、家族とは、生きるって一体何なんだろうか、本当に私は子どもが欲しかったのだろ うか、こうした問題を話すことを通して深めていく方が非常に多いです。  3つ目です。次のスライドをお願いいたします。 (スライド)  「悩む大切さ」。私はぜひとも今日強調してお話しさせていただきたいと思うんです が、「不妊と向き合うことがなかったら、こんなにも真剣に子ども、家族、夫婦、親子 のことを考えなかった、自分と向き合えなかった」という言葉を言ってくださる方が多 いです。そのとき、その言葉が出たときに、不妊治療のゴールは、それぞれが御自分 で、あるいは御夫婦で手探りで結論を求めていかれるだろうと思います。その結論は 様々です。この後申し上げますが、実に様々ですが、この悩みの過程をしっかりと持っ たとき、ある程度どんなチョイスも大丈夫だと思いますが、逆に言いますと、この過程 を持たないときはどんな情報提供があってもだめなんだろうと思います。次のスライド をお願いいたします。 (スライド)  それでは、クライアントの方にとって不妊とは、治療とは何なのでしょうか。私が今 申し上げたことと関連して、不妊治療の最大の意義というのはプロセスにあるだろうと いうふうに考えながらいつもカウンセリングをさせていただいております。現状、幸か 不幸か、妊娠の確率は必ずしも高くありません。その功罪を考えております。1つは、 これだけお金の負担をかけ、時間をかけ、心身の負担をかけて不妊治療に臨んでいたら 確率が高いことを望むことは人間の心理として当然だと思います。したがって、その中 で手段を選ばずという心境に追い詰められる人がいます。でも一方で、確率が低いから 悩む期間が長いです。その中でいろんなかかわり方をさせていただきながら、先ほど申 しました夫婦、家族の問題点をしっかりと見つめる強さを身につける方々がいます。  幾つかの事例から今の問題をお話しさせていただきたいと思いますが、ただ、最初に お断りしておきたいのは、残念ながら具体的な事例を今日お話しさせていただくことは やめておきたいと思います。この部会が公開であるということを伺いました。この種の 審議が公開でなされていることは大変すばらしいことだと思います。ただ一方で、カウ ンセラーとして、やはりプライバシーの問題があります。ウェブ上で私の話した事例が そのまま載ることに対するためらいもあります。ですから、アバウトなお話しかできな いことをお許しいただきたいと思いますが、主に女性側に原因があったとき、様々な揺 れをいたします。例えば「夫に原因がないんだから私は身を引きたい。離婚してでも、 私は夫に子どもを持つ選択を選んでもらいたい」、あるいは「代理母というのはどうで しょうか、卵子の提供が認められていないけれども、卵子が提供されたら、私は夫に子 どもを持たせることができるんだけれども」、こういう言葉を口にする方は少なくあり ません。しかしそれは本心なんだろうか。本当にあなたは離婚したいんだろうか、見つ め直してもらうと決してそうではない。こういう揺れを率直に夫と話す時間を持つ人 は、例えば「夫から子どもは欲しいよ、だけれども、それ以上に君との生活を僕は第一 に選んで結婚したんだ、子どもの有無よりも、君との生活を最優先にしたい」という言 葉をもらうことで立ち直っていく女性がおりました。「君は僕が原因だったらAIDを するのか」と聞かれ、また新たな問題、あるいは自分の抱えている問題に目が開かれた という方がいます。あるいはその逆でして、何としても是が非でも子どもが欲しいと思 いつめている方に、その背景を伺ってみると、夫が子どもがなければ君と別れるとい う、ですから、夫を何とかして獲得していたい。思いつめて私のルームを訪ねてくだ さった。結論は2つです。治療が成功するかしないか、でも、仮に治療が成功しても、 そういうことを言う夫とあなたは結婚生活を続けることが不安なのではないだろうか。 そこの不安に目を向けることで、この方は心を整理し直してみると言われました。  また、これは再婚の女性の方です。先妻のお子さんを立派に心を尽くして育てられま した。彼女は先妻のお子さんを育てたけれども、自分の子どもも年齢的に産めるのだか ら産みたいといいます。夫は産んでいいという、子どもたちも、お母さん、「子どもを 産んで」と言ってくれる。IVFを数回繰り返しているんですが、そこでためらいが出 てくるんです。果たして本当に産んでいいのだろうか。夫はかなり高齢です。もしうま く産んだ場合に、子どもが成人になったときの夫の年齢を考えると、夫は本当はためら いがあるんじゃないだろうか、だけど、私へのいたわりから産んでいいと言ってくれて いるのではないか。子どもたちが産んでくれと言ってくれるのも、今まで育てた母の私 への感謝の気持ちで言ってくれているのではないだろうか、それを確認したとき、今の 生活を大事にするというふうに結論に至った女性もおります。  また男性側に原因がある場合、どうしても子どもがほしい、私には原因がないのに、 何で私が子どもを産めないのということで、AIDを考えています。でも一方、夫のこ とを考えると、1%でも可能性を残してAIDに踏み切れないという、また、夫は1% の可能性にすがって、夫として、男としての自尊心を保っているのかもしれない。夫の 言葉がほしい。AIDをするかしないか、この辺をぎりぎり詰めてみたいという、こう いう揺れの時間が徹底的に必要だと思います。  こういう過程をいかに慎重に時間をかけて踏んでもらうか、そのカウンセリングの必 要性があると思います。性急な励まし、代替案の提示というのは、私はデメリットの方 が多いと思います。あるクライアントの方の声を紹介したいと思います。次のスライド をお願いいたします。 (スライド)  よく不妊に苦しんでいる方に周りの方はこう言います。子どもができなくても、それ に代わる生き方があるじゃない、わが子幻想にとらわれないで養子をもらったら、もっ と視野を広く持ったら古い考え方にとらわれないで、あなたが自我を確立したら不妊の 悩みなんて消えるのよ、こういう励ましというのは、決して当事者にとっては励ましに ならないということです。むしろ、子どもを産めない喪失感に打ちのめされているとき には何の助けにもなりませんと言っていらっしゃいます。むしろ、そんなくだらないこ とで悩むなと、悩むことすらも認めてもらえないような、むち打たれるような心境にな りますと言います。私は悩みに、よい悩み、悪い悩みという判断を性急に第三者がつけ るべきではないと思います。徹底的に悩み、悩むことを支援する中で、当事者が立ち上 がる力を支援していくことが大切だと思います。  そこで、最後になりますが、カウンセリングの意義と要件について話をさせていただ きます。真の支援となるためにということで、今まで話をさせていただいたことでおわ かりいただければありがたいんですが、私は不妊治療は医学的な課題であると同時に、 それ以上に壮大な人文科学、社会科学の課題だと思います。悩み葛藤する人々が持ち得 る、育て得る強靱な精神力と人間的なやさしさに私はいつもカウンセリングルームを出 るときに感動する思いを経験しております。こうした心理的発達過程をいかに着実に当 事者が踏んでいけるかの支援が必要です。そのために、次のスライドをお願いいたしま す。 (スライド)  何でも話せる雰囲気が必要です。無批判の共感と受容です。この無批判の共感と受容 はどこから出てくるのでしょう。カウンセラーが自分の力の限界に謙虚さを持つことだ ろうと思います。カウンセラーはある意味で力となります。でも、別の意味では無力と いうこともあります。無力であるがゆえに、この方の苦悩に精いっぱい耳を傾けさせて いただきたいと思います。私は毎回カウンセリングルームに訪ねてくださる方とお会い するその瞬間が大変怖いです。私の一言がこの方を苦しめるかもしれない、自分の無力 さで、この方がせっかく貴重な時間を使って出てきてくださったのに何もできないこと があるかもしれない、そんな思いをいつもいたしています。同時に問題点の整理ができ る専門的な知識が必要です。そして、これは医療サイドとの連携なくして到達できない ということも痛感しております。  カウンセラーの要件ですが、資格と資質は違うと思います。その違いを認識した上で 相互の統合を図れるような支援者の育成プログラムが必要だと思います。心理学領域、 精神科領域、医療領域、あるいは当事者の方々、それぞれが持ち得るノウハウを最大限 出し合って全員がカウンセリングマインドでかかわることだと思います。  最後に、あと一、二分時間をちょうだいいたしまして、この部会で御議論なさってい らっしゃる精子・卵子等の提供に関わる問題について、私なりに考えたことを最後に少 しお話しさせていただきたいと思います。  婚姻制度が一夫一婦制度を基本としている現状では、卵子・精子の提供は配偶者間に 限って治療を行うことが、これが一番自然だと思います。それでも人工的な治療を経て 子どもを産むことに対する抵抗感というのを人々は拭い得ていません。ここに対する支 援は必要でしょう。一方、技術的には非配偶者間の治療をもう既に可能としているわけ です。それを容認するかどうか。これは家族間、夫婦間、親子のあり方を根底から問い 直すべき局面に立っていると思います。  それでは、どこで誰がその是非を引くのだろうか、誰がガイドラインを引くのか、国 なのだろうか、当事者なんだろうか、それぞれいろいろな考え方があると思います。こ の部会で積極的に、大変勢力的な御議論がなされていることに私は敬意を表します。一 方で、当事者の自己決定を尊重するということも必要だと思います。様々な選択は当事 者の自己決定に委ねていいかもしれない。精子・卵子の提供を余り細かく、誰がガイド ラインを引けるか、私はわからないと思っています。自己決定は当事者がする。しか し、当事者がただ自己決定をしなさいというのは余りにも現状は過酷です。自己決定を するまでにいろんなプロセスを踏む、そのプロセスにありとあらゆる情報を提供するこ とです。それに対して、例えば、既にAIDが行われています。そのAIDでメリッ ト・デメリット、どういうのがあるのか。数量的な情報でなくていいと思います。典型 的なテピカルな事例でいいと思います。こういうふう状況で苦しんでいる方がいらっ しゃる、一方でこういう喜びに浸っている方もいらっしゃる、代理母も卵子の提供も同 じです。こういう想定される事例を内外から全部集め、そしてあなた方はどういう決断 をするのかを問いかけていく。その場合にもう一つ大事なことは、精子と卵子の扱いは 同等にすべきだと思います。AIDでは、今精子の提供は認められている。卵子はだ め、あるいは精子に関しても、誰かがわからないような、特定できないような扱いをし ている。これは私はそろそろ新しい局面に移るべきときに来ているのではないだろうか と思います。精子を提供する方にとって、商業化されないように、あるいは将来扶養の 義務が生じないようにということは当然です。しかし、生を授けるということに関し て、やはりきちんと顔を出した提供ということも考えるべきではないか。卵子・精子同 等の人格を認めた提供ということも議論をしていっていただきたいと思います。そして それを決定できるのは、あくまでも当事者。その当事者が決定できるプロセスはもっと もっと時間をかけて全員がカウンセリングマインドでかかわることが必要だと思いま す。  以上です。時間を少し過ぎましたでしょうか、どうもありがとうございました。 ○矢崎部会長  どうもありがとうございました。御経験に基づいた大変すばらしいお話をお伺いでき たと思います。最後に言われた情報のしっかりした伝達と、当事者の自己決定というの は生殖補助医療だけではなくて、医療全体が問われる課題ではないかと思います。  質疑応答に移りたいと思いますが、大日向先生は今日最後までおられませんので、総 轄の討論に御出席できませんので、今お聞きしたいということがございますればどうぞ よろしくお願いいたします。 ○石井委員  本当にありがとうございました。大日向先生に出会えた患者の方は大変幸せな方だっ たのではないかなと思いました。そういう点で技術的なこと等を含めて幾つか伺いたい んですが、1つは、1回50分ということでしたけれども、人様々だと思いますが、大体 何回ぐらいとか、普通はこれぐらい必要であるというようなことが言えるのでしたら、 お願いします。多い場合、少ない場合あるかと思いますけれども。  もう一点は、資格と資質は違うということをおっしゃったんですが、私は大日向先生 のような方をそんなにたくさん養成できるかというと大変不安に思うんですけれども、 どういう教育、システムでカウンセラーを養成することが可能になるのか、資格また資 質ということでどういうことをお考えになっていらっしゃるのか。  そしてもう一つ、これはかなり具体的でお答えにくいかもしれませんが、このカウン セリングは患者さんが費用負担するものなのでしょうか、そして今、先生がかかわって いらっしゃるクリニックでは、患者さんのうち、全員が受けられるものではないと思う ので、どれくらいの方がカウンセリングを受けられるのか。ちょっと、たくさんですみ ません。 ○大日向先生  ありがとうございます。まず1回50分ですが、1回で来なくなる方ももちろんいらっ しゃいますが、リピーターというのでしょうか、何回も繰り返していらっしゃる方も3 割ぐらいいらっしゃいます。それは抱えていらっしゃる問題によって様々でして、何回 がいいという明確な線は、大変申しわけないんですが、お答えできないんですね。た だ、私は東京におりまして、このクリニックは大阪という距離的な問題がありまして、 それから私は本務が大学にありますので伺えるのが月1回です。ですから、月1回とい うことで、クライアントの方々は次を待っていらっしゃるわけです。1か月間お待ちに なっている中で、御自分で整理をしたり、あるいは医療スタッフの中でも、もう数年間 私が関わらせていただいておりますので、かなりカウンセリングの体制はできておりま すので、医療スタッフでかかわっていただける問題ももちろんあります。それで1か月 待たないうちに解決がついている場合もあろうかと思いますが、そんなことで本当に ケース・バイ・ケースだと思います。  それから、3番目の問題の方がお答えしやすいので。費用の問題ですが、患者さんが お払いになるのは1人1,000 円だそうです。私は1人1,000 円で東京から行っているわ けではありませんで、東京から参ります交通費だとか、一日分のことをクリニックの方 が負担をしてくださっています。ですから、かなりの経済的な負担をクリニックは払っ ていらっしゃるんだと思います。それでも、先ほど前半で申しましたけれども、越田ク リニックでは、治療は医療だけではできない、心のケアが必要だということを前提にし て私をそういう形で呼んでくださっていると思います。あくまでも患者さんにとっては 負担のないようにという御配慮があってのことです。  それから、資格と資質の問題ですが、これはすべての職種に通用することではあると 思うんですが、何々師とか、何々心理士とかいろいろあると思います。それは最低限の 条件であって、その最低限の条件プラス、そこにいろんな人生経験とかそういうものが あるだろうと思います。教師でも弁護士でもどの職種でも同じだと思います。ただ、不 妊のカウンセリングに関しては、先ほど最後のところで申しましたけれども、医師、医 療スタッフと心理学関係の領域のものと、不妊の問題で苦しんだ経験のある当事者、そ の三者がそれぞれのノウハウを持ち寄って、知識を共有しながらケース研究を続けてい くこと。これが将来的に不妊カウンセラーのあり方を確立していくことにつながってい けばいいなと思います。 ○矢崎部会長  ありがとうございました。そのほかいかがでしょうか。 ○松尾委員  大変有意義なお話をありがとうございました。ひとつお伺い致します。生殖医療の自 己決定権という問題は通常の医療の自己決定権と非常に異なる点があると思います。生 まれてくる子どもの幸福ということについて親は必ずしも責任をとれない。子どもに代 わって親が決定するという複雑な問題をはらんでいます。この医療の結果、生まれてく る子どもたちの状況はどうかということは親は十分わからない状況があります。更に生 殖医療は個人の問題にとどまらず、集団における生命のバランスや継続に少なからざる 影響を与えます。それほど単純な問題ではないと思いますけれども、先生はどうお考え でしょうか。 ○大日向先生  生まれてくる子の幸福を保障できないという重いお言葉がありました。私もそのとお りだと思います。でも、それは通常の妊娠で子どもを産む夫婦にとってもある意味で同 じではないでしょうか。それから集団における生命の継続の問題、これも同様のことを 私は考えております。子どもの幸福ということ、出自を知りたいという権利をどう保障 するかというを例に考えてみたいと思いますが、どういうコンテクストで子どもは知り たいんだろうかということですね。子どもが育っていくプロセスで、自分はこのお父さ んとお母さんの子かなという空想を持つ時期はよくあると思います。それに対して、果 たしてどこまで応えられるかというのは、私は生殖補助医療技術で生まれた生まれてい ないという問題以前に、その親が子どもをどういうふうに育ててきたという月日の重み が問われることだと思います。夫婦のあり方、家族のあり方を根本から考え直す揺れの 期間が必要だと先ほど申し上げたのはそういうことです。そこを徹底的にみんなが悩み 抜いたときに、はじめて生殖補助医療技術で生まれた子どもと、普通の通常妊娠で生ま れた子どもが果たしてどこまで差があるのかということも私たちは考えることができる のではないでしょうか。 ○相良委員  同じような質問ですけれども、私は都内で開業している産婦人科医なんですけれど も、普段、母性に関して大日向先生の御著書を読ませていただいて、今日は本当に感激 いたしました。ありがとうございます。  やはり最後に先生がおっしゃられた当事者の自己決定権ということについてですが、 この医療の場合には、今、松尾先生がおっしゃったように、将来子どもに出てくる問 題、あるいはドナーの家庭に出てくる問題というようなものも考えなくてはいけないと 思うんです。一方でできるだけいろいろ考えて問題が起こらないようにした方がいいの か、それとも、ある程度問題が出てくることを覚悟で、それを先生が今おっしゃられた ような形で悩みというか、苦しみの時期を経て、この医療を正しく根づかせていくとい う理想を掲げて進んでいくべきだと考えて、そういうふうにおっしゃったのかなという のをちょっとお聞きしたかったんですが。 ○大日向先生  生殖補助医療技術ということに限定して考えると、確かに様々に不透明な問題がある と思いますが、実は現実の家族、親子の中では、これに近いことは幾つも起こり得てい るのではないでしょうか。例えば父親の違う、夫以外の男性の子どもを産んで、そして 夫婦を継続している人も決して少なくないわけですね。その場合に非常に家庭が混乱す る場合もあれば、逆に家族のきずな強めながら、子どもの幸せを考えて家族を形成して いる御家庭もあるのではないでしょうか。あるいは、かつてありましたが、婚姻外の外 の女性に子どもを産ませ、その子どもを妻に育てさせるとか、こういう男性もかつては いたわけです。その間のいろんな妻の苦しみ、家族の悩みというものがあった。そうい うところを過去の事例の中にみつけていく。私は先ほど事例を可能な限り集めると申し 上げたのは、まだ卵子の提供とかそういうものは認められていないわけですから、それ はあり得ないと思います。AIDに関しても、データをまだ集めにくいということもあ るだろうと思います。でも、内外にはそういう生殖補助医療技術を経た場合、経ない場 合、似たよような事例はたくさんあるだろうと思います。それをみんなで提供し合っ て、そして当事者が悩む過程を支えていくということだと思います。そのときに、当事 者の自己決定を、あなた方の自己決定ですよと放置することはまだ忍びない段階だと簡 単に一言で申し上げてしまったんですが、例えば、日本はそのケアがないと思います。 産む場合もないと思います。イギリスに暮らしておりましたときに、お産の場合なんで すか、徹底的に自己決定をさせていく支援体制がありました。自己決定をさせるプロセ スを見て私は本当に驚いたんですが、こんなに分厚いファイルを一人一人が持つわけで す。妊娠がわかった段階から助産師さんや保健婦さんと綿密にQ&Aを繰り返していっ て、どういう産み方をしたいのだろうかということを積み重ねていきます。最終的には そこまで詰めるのというくらい、例えば、麻酔を使うのかとか、赤ちゃんが生まれてす ぐ抱きたいのか、体脂をある程度拭いてから抱きたいのかとか、そこまで徹底的に議論 をしています。ですから、同じことを、不妊の問題に関してもできたらいいと思いま す。例えば非配偶者間の問題を考える夫婦に対しては、様々な事例、こういう事例があ りますよ、あなた方ご夫婦ではこの場合はどうなんでしょうかということを徹底的に、 それぞれのチーム医療のカウンセリング体制の中で将来的にやっていくことがまず大事 だというふうに思います。そして、何かいろんな問題が起きてくる、これは家族、親子 の間には避けがたい問題ではないでしょうか。通常の妊娠で生まれた場合だって避けが たい問題、軋轢が起きています。そのときに、徹底的に私たちは悩んだんだ、揺れたん だ、そしていろんな方の支援を経ながら、この決断に至ったんだということを確信を もって伝えられることが子どもの権利を守ることに、間接的だと言われるかもしれませ んが、つながることではないかなというふうに思います。 ○金城委員  今日は本当にありがとうございました。1つだけちょっと伺いたいんですけれども、 カウンセリングの開始に当たってお医者さんと合意をなさった。よりよい形で不妊治療 に向き合えるようにということですね。まさにそのとおりだと思うんですけれども、た だ、よりよい形で最善でということなんですが、最低ラインは何かあるのでしょうかと いうことです。それから、もし最低ラインをクリアしていないような方が先生のお考え でいらっしゃったようなときには、治療は勧めたのでしょうか、それとも、治療は一時 待 つというようなことをなさったのでしょうか。その点お教えいただけたらと思います。 ○大日向先生  大変難しい御質問で答えにくいですね。何が最低ラインかということは私はわから ないです。ただ、苦しむ方にとって、この方がこの苦しみを乗り越える力を持てるか、 あるいはこの苦しみのために本当にだめになってしまうか、内容ではなくて、苦しみ方 を私は見させていただいております。そして、治療を打ち切るかどうかということです が、例えば医師の方からみて可能性がほとんどないと思う。でも、それを医師の側から 可能性がないよというには、やはり限られた治療時間で言い切れない場合があるから、 カウンセリングを受けてみませんかといって橋渡しをしていただいてくる場合もありま す。あるいはクライアントの方が御自身で治療を休みたいと言い出すことがあります。 治療を休みたい、このままどんどん坂を転げ、雪だるま式に治療に突進することが果た して自分にとっていいのかどうかわからないという言葉をおっしゃる場合があります。 象徴的な言葉なんですが、私は本当に子どもがほしいのだろうか、不妊治療が本当につ らくてつらくてたまらないから、そのつらさを自分に言い聞かせるために子どもがほし いという言葉を使ってきたのではないだろうかという揺れを示す方がいらっしゃいまし た。その方の場合、休みたいけど、お医者様が一生懸命次のステップを考えくださって いるときに、休みたいなどということが言いづらいとか、そういう惑いを示した方がい ます。しかしながら、このクリニックは休むことも奨励してほしいと私は言われていま す。休むことで、また自分の問題を冷静に考えることができる。またそれで治療にもう 一回向き合おうという思えば、それはそれでいいだろう。あるいは、ほかの医療機関に 行きたいと思うことがもしあったら、それは医師に言わなくても、カウンセリングルー ムの中で言うことであって、それは認めてあげてくださいとも言われています。患者さ んの最善の利益を大切にするということは、そういうことかなというふうに思っていま す。しかしながら、何をもって最低ラインとするかということは、ごめんなさい、お答 えできないですね。 ○矢崎部会長  どうもありがとうございました。  専門委員会の報告では、カウンセリングの機会の保障ということを言われています が、大日向先生のお話で、カウンセリングはどういう内容が必要かということを具体的 にお示しいただきまして、本日はお忙しいところ、この部会に出席していただきまし て、貴重なお話をありがとうございました。  それでは、一応、大日向先生の話はこれで終わりまして、次に、平山委員からお話を お伺いしたいと思います。よろしくお願いいたします。 ○平山委員  本日は、「生殖医療における心理カウンセリング」というテーマで皆様にお話させて いただく機会をいただきました。何分30分という時間しかございません。不妊カウンセ リングの全体について話すことは到底できませんし、本当に大ざっぱなことしかお話し できません。質問等もたくさんあると思いますけれども、そういう点について質問いた だいたりして、今日答えられない部分は、また後日資料などをつくってお知らせするよ うにしたいと思っております。  今、大日向先生のお話しくださいましたのが、私が言いたかったことをほとんど言っ てくださっているので、つけ加えることはないかもしれませんけれども、一応私の考え ている、現在の我が国の不妊の人々をめぐる状況と不妊カウンセリングの実際につい て、それから、これからの課題について少しお話をしたいと思います。スライドお願い します。 (スライド)  本日、まず現在不妊の人々、患者という言い方は語弊があるかもしれませんので、一 応不妊の人々の現状ということ、それから、生殖医療の不妊患者さんに与える、不妊の 人々に与える心理的な影響、それから、欧米における不妊カウンセリング、不妊カウン セラーの現状について少しだけお話ししたいと思います。そして我が国おける不妊の 人々へのメンタル・ヘルス・ケア・システムのあり方、先ほど大日向先生もおっしゃい ましたように、チームで当たっていくというのはどういうことなのかということに関し て、私の考えを少しお話ししたいと思います。そして、非配偶者からの生殖医療におけ るカウンセリングは本当に触りだけですけれども、お話をしたいと思います。スライド をお願いします。 (スライド)  今までの部会でも皆さん御存じのように不妊というのは実はありふれた現象である。 10組に1組か6組の1組のカップルは不妊なんですけれども、不妊の専門病院である、 うちの病院なんかにいらっしゃる患者さんがよくおっしゃることはそういうことなんで すね。「不妊の方がこんなに多いなんて知りませんでした。私だけが不妊で苦しんでい るんだと思いました。」いかに不妊という問題が社会の中で覆い隠されているかが見過 ごされてきていたかということが言えるのではないかというふうに思います。つまり身 近でないわけですね。スライドをお願いします。 (スライド)  現代はライフスタイルの多様化が認められる時代というふうには言われていますけれ ども、先ほど大日向先生がお示しいただきました母性愛神話というのは非常に強い。ま た結婚して子どもを持つのは当たり前という意識というのは非常に強いんですね。これ は別に社会だけということではなくて、また患者さん自身がそれに縛られているという 問題がある。子どもが産めないと成長できない、あるいは子どもを産むことで成長でき ると思うから治療するんだとか、そういうことをよくおっしゃいます。子どもを産み育 てる以外のことというのがなかなか選べない状況にある。自分たちがチャイルドレス、 子どもがいないことを選ぼうとしても、周りが許さない状況も依然として非常に強くあ るのを実際に臨床に当たっていると感じます。また、子どもがいないことや養子縁組を 選ぶことというのは、選択肢として存在はしている。そのことは患者さんはよく知って いる。だけれども、それは特別なことというふうに皆さんおっしゃるんです。「私には とてもできません。そういうのを選ぶのはとても勇気のある、とても偉い人たちなん だ、私たちはそんなことはできないから、とにかく自分たちの子どもが欲しいんです」 とおっしゃる方が非常に多いですね。学校教育でも不妊であることというのは想定され ていませんから、私たちは大きくなったら結婚して子どもをつくるんだということを教 え込まれているわけです。そういう中で不妊という事態に出会ったときに、患者さんは 非常に苦しむわけです。スライドをお願いします。 (スライド)  医療の場でも、実は不妊というのはそれほどメジャーな領域ではありません。これま で産婦人科の先生方というのは、いかに安全に産んでいただくかということに腐心して こられた。また、いかに産ませないか、中絶や避妊ということも非常に力に尽くしてこ られました。不妊という言葉を専門的に研究され始めたのは本当にここ最近のことであ ろうというふうに思います。そういう中で患者さんというのは、不妊で苦しんで何とか すがって病院に行くのに、そこでさらに傷つくんですね。そこに書いてある言葉は私が カウンセリングで聞いた実際の言葉です。「子どもができないなんおかしいです」、 「治療してまで子どもを欲しがるなんておかしい」「子どもがいなくたって死ぬわけ じゃないんだから」、「子どもが欲しいなら治療のつらさぐらい我慢しなさい」、傷つ いている患者さんが医療の場でこんなことを言われたらどうでしょうか。さらに傷つい て、その医者は信用できないというふうに感じるのも当然だと思います。こういう傷つ きというはめずらしいことではなくて、よくあることなんです。そういう中でカウンセ リングルームにいらっしゃる方に、こういう傷つきを抱えていかなければいけない。こ ういう傷つきから、そういう苦しみをとっていかなきゃいけないということもあるわけ です。スライドをお願いします。 (スライド)  不妊であることというのは、子どもを産み育てるのは当然と考えてきたほとんどの人 にとっては、受け入れがたいショックな宣告です。しかし、これまで傷つきというのは 理解されることは少なかったです。また治療してまでほしいという気持ちはわがままと とらえられたりして罪悪感に苦しむ、治療しながらも、こういう治療を受けていいのだ ろうか、悩みながら、それでも治療をやらなければいけないんだと非常に苦しんでいる 状況です。私たちの社会というのは子ども中心に回っています。子どもを産むことを絶 対視されていますから、そういう中で大きくは、国の施策では少子化問題とかそういう のもあるでしょうし、非常に近い問題でいえば、地域社会というのも、子どもがいない と子ども会にも入れない、団地の中のコミュニティにも入れない、そういう現実がある わけです。非常に深刻な孤立感を感じておられるのが現実です。スライドをお願いしま す。 (スライド)  そこで生殖医療というのが出てきたわけですけれども、これが不妊で悩む人の福音に なっているのかどうかということはちょっと吟味しなければいけない問題ではあろうと 思います。生殖医療技術の進歩には功罪があります。今まで子どもは持てなかった方に 子どもが授かるようになったということは事実ですけれども、今までの部会で渡辺先生 や松尾先生がおっしゃってくださったようにいろんな問題も出てきているのも事実だと 思います。どちらも現実なんですね。ですから、両方とも考えていかなきゃいけない。 不妊症治療というのは多くの国で実施されていて、我が国の新生児出産の1%以上を占 めている、ARTが占めているというのも現実です。この流れを戻すということは難し いでしょう。また同時に、妊娠後に描いていた子ども像と現実の子どものギャップとい うのが受け入れられずに治療したことを後悔したり、苦しんだりする方はおられるのも 事実だろうと思います。スライドをお願いします。 (スライド)  ですから、生殖医療へのスタンスというのは難しいのですけれども、どんどん進める べきというのも極端ですし、問題があるからやめるべきというのも極端だろうと。私た ちは生きている、私たちが生活している21世紀のリアルな現実というのを認識した上 で、じゃ、それでどういうシステムをつくっていくかということを多分部会の先生方も 意識しておられると思いますが、もう一度これが大事なことではないかというふうに確 認しておきたいと思います。スライドをお願いします。 (スライド)  先ほど大日向先生もおっしゃってくださったことですが、生殖医療の発展が生み出し た新たな問題、(古い問題もあるんですが、)いろいろあります。治療の技術が生み出 されるたびに、それをしないとやめられないという問題が出てきます。結果的に治療の 長期化ということがあります。すべてやらないとまだやり残したことがあるというふう におっしゃるんですね。ですから、人工授精までやって、それで納得してやめるという のは一つのチョイスとしてあっていいわけですけれども、体外受精があるのに、それを 受けないでやめるというのはどうもできないという形も非常に多いと思う。そこでケア のシステムというのが本来必要なんですね。そこで吟味することが要るんですけれど も、そのケアがないということがあります。  また、多胎出産による問題というのも非常に大きな問題ですね。これは今まで部会で もよく指摘のあったところで、未だに産科婦人科学会の会国をやぶって、4つ5つの胚 を戻して非常に多い多胎出産になってしまって、大変な状況になっている方も多いと。 多いとは言いませんけれども、いらっしゃるというふうに聞いています。さらに経済的 な負担というのも非常に大きい。これはお金で子どもをつくる感覚ともつながってしま うので、非常に罪悪感がある。治療をやめるときにも、経済的な問題というのは大きく なってきます。お金がなくて治療をやめるというのは非常に申しわけないような気がす るということをよくおっしゃいます。出生後の心理社会的な問題については、多分後ほ ど渡辺先生も御発表くださると思いますので詳しくは言いません。とりあえず、現在の 夫婦間生殖医療、配偶者間生殖医療の場合には、思春期までは行っていませんけれど も、学童期までの親子関係等については割合詳しい研究が出てきつつあります。今のと ころはほとんど問題がないとは言われていますが、それも確かに問題がないと断言でき るかどうかはわからないところです。今のところは一応問題がないという研究、きちん とした手続を踏んだ研究でも、そういう結果が出ているのが多いと思います。スライド をお願いします。 (スライド)  先ほど大日向先生に心理的なプロセスに基づいて言っていただきましたけれども、私 の方は治療の段階、ステップに分けて心理的な問題というのを説明してみたいと思いま す。大抵の場合、不妊というのは予期せぬ出来事です。結婚すれば妊娠できると大抵の 人は思っていますから、まさかということですね。そういう気持ちが一番初めにくる。 もしかしてと思いながら煩悶する時期があるわけです。だけれども、そこから婦人科に 受診するまで実は非常に葛藤がある。婦人科にかかるということは、それ自体で非常に 抵抗のあることです。それからまた、大抵の場合、女性が受診します。男性側が受診す るのは非常に少ないです。こういうことから不妊というのは女性の問題として扱われて しまって、夫婦の問題としてとらえにくくなってしまうという問題があると思います。 スライドをお願いします。 (スライド)  そして実際に検査が始まります。検査というのは非常につらいプロセスなんですけれ ども、そこで原因というのがわかることで安心したいというので、ひたすら検査に明け 暮れるということもよくあります。そこで不妊だと先生から言われる、お医者様から言 われることは非常に大きなショックです。その危機については少し後で説明をしたいと 思います。そういうときに自尊心が崩れるわけです。普通でないという言い方を患者さ んはよくされます。「普通でないような気がするんです。」と。「どうして私が」、 「Why me?」ということをよく言うんですけれども、なぜ私がこんな目にあわなくちゃ いけないんだというようなこと。それから、何か悪いことをしただろうかというような 疑問、そういう気持ちがどんどん出てくる。この段階でよくあるのは、だんなさんの協 力が得られないということもよくあります。先ほど大日向先生もおっしゃったように、 男性不妊の問題というのは非常に深刻なんですけれども、女性不妊の場合でも男性の協 力がなかなか得られないことが多いし、精液検査というのは男性の自尊心にすごく大き な影響を与えると言われています。精液検査の結果でインポテンツになるなど性機能障 害が起こることも稀ではありません。それぐらい男性にとって、精液の正常状態と自分 の性的能力やそういうことを結びつけて考えがちなんですね。そういう傷つきもある。 また、検査自体、非常にプライバシーに侵入的です。婦人科の診察台というのは、それ に上がるだけでもつらいとおっしゃる方は非常に多いです。そういうところも医療機関 は理解してこなかったということもあると思います。スライドをお願いします。 (スライド)  一般不妊症治療というのが始まります。これはタイミング法であるとか、AIH、人 工授精というものの段階なんですけれども、ここで「基礎体温表に監視されるセック ス」というふうに書きました。日を指定されて、この日に夫婦生活を持ってくださいと いうふうに言われます。これは非常に夫婦関係に悪影響を与える。この日にと言われ て、男性というのはなかなかそういう気にならなかったりするので、非常に不自然な セックスになる。そういう日に限ってだんなさんが遅く帰ってきたりすると、女性側と いうのは1か月準備してその日に向けているわけですから、どうしてこんな大切な日な のにということで夫婦のトラブルというのは非常によくあります。スケジュールに基づ くセックスというのは、排卵日を規定してしまいますから、それ以外の日はセックスし ても意味がないというふうに思うようになります。セックスレスになってしまったり、 性行為というものが子どもをつくるためのものだけになってしまう。非常に貧しいもの になってしまう。本来性には夫婦間のコミュニケーションや楽しみであるとかいろんな 側面があるはずなのに、そういうものが失われていく時期であります。  それから、治療というのはほとんど女性側になりますから、不平等による問題が出て くる。この時期ぐらいには治療が生活の中心になってきます。この時期の患者さんの心 理状態をあらわす言葉で、私たち不妊カウンセラーというのは、“感情のジェットコー スター”という言葉をよく使います。期待をしてずっと上ってきては、生理がきてズド ンと突き落とされる。しかしまた次の月には期待をして、またズドンと突き落とされ る。これを延々と繰り返す。そしてそのジェットコースターはおりられないというんで すね。一度乗ったらおりられないジェットコースターだと。それほどまでにきつい感情 の過程があるにもかかわらず、おりられないというのが非常に苦しい状態であると。 「出口の見えないトンネル」という表現もよくされます。いつ妊娠するかはお医者さん もわからないわけですから、妊娠できますよと言えないんですね。いついつまで妊娠で きますよということは言えないから、とにかく頑張りましょうとしか言えない。それで 患者さんは頑張ってしまうわけです。そうすると治療をやめられない。そういう循環が ある。スライドをお願いします。 (スライド)  そういう中でARTに進んでいく方もおられます。そういう中で治療の負担というの は増大していきます。特に経済的な負担と身体的な負担というのは非常に大きなものが あります。ARTの段階にいきますと、もう後がないというふうな感覚が出てきます。 ほかに選択肢はない。これをし続けるしかないというふうに大体の方はおっしゃるの で、延々と繰り返していることになると思います。ステップアップができないというの は非常に大きな不安となる、あせりとなるものです。スライドをお願いします。 (スライド)  不妊の心理的な問題というのを理解するときに役立つ考えとして危機のモデルと、喪 失のモデルについて少しお話をしたいと思いますが、喪失に関して恐らく渡辺先生が説 明してくださると思いますので、簡単にだけしたいと思います。  先ほどの不妊という診断のときが典型的なんですけれども、非常に衝撃が起こるわけ です。頭が真っ白になってしまったという方、それからまさか自分が不妊だなんて信じ られない、認めたくないというような気持ちがどんどん出てくる。その後、どうして自 分がという怒り、それから、これで死ぬわけではないんだからと何とか自分で自分にい い訳をしながら、納得させようとしながら承認をしていって、現実的にどういうことが できるだろうかとかという段階になる。ただ、これは実際的には素直にこういうふうに 進んでいくとは限らず、行きつ戻りつするし、何度も同じようなことを繰り返すことも あります。同じところにとどまり続ける方も非常に多い。ここで適切なケアというのは 必要なわけですけれども、なかなか得られていないというのが現状であろうと思いま す。ケアに当たっては、先ほど大日向先生が言ってくださった言葉で一番いいなと思っ たのは「揺れ」ということだと思うんです。その揺れにつき合いながら、じっくりと話 を聞いていって、それこそ一回だけではなくて、何か月も何年もかかることもある。そ ういう過程を一緒に過ごしていくことというのがカウンセラーの役割となります。スラ イドをお願いします。 (スライド)  危機モデルともう一つ喪失モデルという考え方がありますので、少しだけ説明をした いと思います。私たちは大切なものを失ったときに、それを弔うプロセスというのが必 要になります。ですけれども、不妊というのも喪失体験なわけですけれども、いろんな 意味での喪失体験であるということを理解していただきたいんです。「対象喪失の3次 元」と書きましたが、現実的なものをなくすということ、それから自己を一体化してい た地位や役割を失うということ、それから機能や体の一部を失うこと、これは厳密に分 けるのはなかなか難しいんですけれども、いろんな意味で不妊というのは喪失になるん だということを次のスライドで説明致しますが、不妊の喪失というのは、今言った3次 元すべて含んで、さらに多重的なものである。同時多発的に喪失は起こる。そしてそれ が何度も何度も繰り返される。それは例えば、単に不妊と言われたときの衝撃、喪失体 験だけではなくて、子どもを望んでおられる方にとって、毎月生理がくる、治療がうま くいかない、そのことも喪失体験なわけです。ですから、きちんとしたケアが必要なん ですけれども、そこが理解されていないので、ケアも当然行われていないという現状が あります。スライドをお願いします。 (スライド)  治療がうまくいかないということは、もちろん物質的に受精卵が流れてしまうことで すから失うことになります。授かるはずだった自分たちの子どもを失う体験でもある。 同時にそれはイメージの世界では、夢見ていた子ども、自分が想像していた、欲しがっ ていた子どもを失う体験でもある。また、妻としてできる、妻としてちゃんとやってい るというような自信であるとか自尊心、そういうものも失う体験です。それから女性と して機能している体でない、身体機能の喪失、そういうものも感じるわけです。不妊と いうのは常にそういうことを感じさせられる経験をしておられるということです。スラ イドをお願いします。 (スライド)  対象喪失と悲哀の仕事。これは悲嘆の喪の過程とも言いますけれども、自分にとって 大切なものを失う体験というのは忘れられるものではありません。長い時間をかけて 様々な心理状態が繰り返されて、その対象、失ったものを知的に理解するだけではなく て、感情的にも、情緒的にも断念していく。本当に失ったんだということを納得してい くプロセスが必要なわけです。これをmourning work というわけですけれども、それを していかなければいけない。不妊においても、先ほど言ったような非常に複雑な悲嘆、 悲しみや喪失体験なわけですから、それを悲しんでいかなければいけないんだけれど も、悲しめないというのが今の不妊の大きな問題ではないかというふうに私は思ってい ます。患者さんは「悲しんでいる暇がない」というふうにおっしゃるんですね。特に体 外受精を頻回に繰り返しておられる患者さんの話を聞くと、治療がうまくいかなくて も、もう次のスケジュールは次のスケジュールはというふうに求められるんですね。そ のショックを一々受けていると耐えられないとおっしゃるんですけれども、本来なら ば、そこまでショックを受けることなのであれば、そこできちんと処理をして、そこで 考え直して、そこまでストレスやいろんなものを感じる、この治療の意味というものを 問い直すきっかけになるはずですね。そういうことをやっていかなければいけないん じゃないかというふうに思っております。スライドをお願いします。 (スライド)  これは悲哀の仕事の一連の流れですので、結構です。次のスライドをお願いします。 (スライド)  このように治療自体が非常にストレスフルである。そして治療の選択というのは非常 に難しい問題がある。子どもを持つ持たないというのは人生の選択でもあります。そし て非常に複雑な喪失体験でもあるということ。この不妊を経験している人々を支えてい くためにはどうすればいいのだろうかということを私たちは考えなければいけない。基 本的な考えとしては、非常に広範囲な問題を含んでいる。情報提供のレベルでいい問題 から、その人の人生そのものを扱う深いかかわりまで必要であるというふうに思いま す。カウンセリングはどの程度の人にと先ほど石井先生はおっしゃったけれども、専門 的な心理カウンセリングが必要な患者さんというのは、不妊患者の10から20%程度とい う言われ方をすることがあります。それではそれ以外の方には何もしなくていいかとい うと、そういうわけではなくて、そういう方にもきちんとした心理学的な情報提供、 (インフォームド・コンセントというのは前提ですから、それはあった上で、)それで 心理的な情報提供などをしていく。それから、先ほどトータルなチーム医療という話が ありました。看護婦や医師による心理的ケアでケアしていける範囲が残りの8割程度で あろうというふうに考えます。それから、社会全体でかかわっていくには当然ですけれ ども、医療の場においては、チーム医療が不可欠です。各専門家が専門性を尊重しなが ら協力していく。すべてを一つの職種で担うのは無理があります。ですから、ドクター がすべてを管理していく、「自分がカウンセリングもやっているんだ、」というのは ちょっと難しいんじゃないかなというふうに思います。ドクターも看護士も、そしてカ ウンセラーも当然万能ではありません。カウンセリングですべて患者さんの心理的ケア ができるか、当然そんなことはありません。みんなで支えていくという形が必要だろう と思います。スライドをお願いします。 (スライド)  ここで欧米における不妊カウンセリングの実際について少しだけお話をしたいと思い ます。欧米においては、やはり先進的な試みが行われている国があります。不妊の心理 学的な側面を理解して援助していくためには専門性が必要だというふうに考えますの で、大体においてカウンセリングや臨床心理学、それからソーシャルワーク等の学位や 資格を持った精神保健の専門家というものが、さらに不妊の医学的な心理学的な問題に ついての訓練を積んだ上でケアに当たっているというのが現実です。  そこについて配付資料の5です。アメリカの方をちょっと見ていただきたいと思いま す。アメリカ生殖医学界におけるメンタルヘルスプロフェッショナルたちのガイドライ ンについてまとめたものです。当時のアメリカ不妊学会、現在のアメリカ生殖医学会で は1985年にこの学会の中にメンタルヘルスプロフェッショナルグループという職能団体 ができました。95年にこのガイドラインを定めています。  3行目から読みますが、「メンタルヘルス専門家は、技術が発展し、不妊患者が直面 する複雑な心理社会的問題が認識されるにつれて、生殖医学で次第に重要な役割を果た すようになっている。その結果、患者やスタッフを援助するために訓練された不妊カウ ンセリングの技能やサービスの必要性が増大している」。そこに書いてあるような仕事 をするべきだろうということです。先ほど資格と資質という問題がありました。ですの で、これは資質の問題ではなくて、資格の方のことになると思いますが、一応資格につ いて書いてあります。まず1番に、原則として精神医学、心理学、ソーシャルワーク、 精神看護学、結婚/家族療法という、マスタークラスなんですけれども、その分野にお ける修士、マスタークラス、あるいはドクタークラスの学位のある方でないと、向こう はメンタルヘルスプロフェッショナルになれませんので、そういう前提があるんですけ れども、そういう基礎を持った、土台にそういうものがある方がさらに不妊カウンセリ ングの勉強をするということになります。  3番心理学的側面の訓練ということですが、生殖生理学や生殖の問題に関する検査、 診断治療、ARTの問題についてなどをやっています。それから今話している第三者生 殖、非配偶者間生殖医療の問題などについても知っているということです。臨床経験な どを書いてあります。配付資料4の方にはヨーロッパのガイドラインというのがありま すので、これはヨーロッパ生殖医学会の心理学カウンセリング部門のものなので、はっ きりした定義というのはまだ確定したものは出していないんですけれども、患者中心ケ アとカウンセリングというのを区別しているのが特徴だなと思ったので入れておりま す。患者中心ケアというのは、先ほど大日向先生がおっしゃったように、すべての医療 従事者というのは、カウンセリングマインドを持ってケアに当たらなきゃいけない。そ の水準というのは当然必要なわけです。その上で、さらに専門的なカウンセリングが必 要な方にはカウンセラーのカウンセリングが受けられることは重要であろうという言い 方をしているわけです。  イギリスにおける不妊カウンセリングということなんですけれども、HFE法以来、 カウンセリングを受ける機会というのが保障されるようになったということです。初期 には不妊カウンセラーというのは不足していたようですが、現在は、英国不妊カウンセ リング協会(BICA)というものがありますので、そこで養成しているようです。  カウンセリングの4つの側面というふうに書いてあります。下にありますが、情報カ ウンセリング、これは心理学的な情報提供についてです。それから影響カウンセリング とありますが、これは治療の選択を援助していくようなプロセスです。これにも大変時 間がかかる場合があるというふうに書いてあります。3番目に支援カウンセリング、サ ポートカウンセリングです。不妊の検査や治療に伴う様々な心理的な問題の患者さんを 支えていくということです。4番目に治療カウンセリングということで、より専門的な カウンセリングも必要であるということです。  こういうふうな状況であるということを知っていただいて、じゃ、日本でどういうふ うなシステムをつくっていくかということが重要なわけです。まず現在の状況はどう なっていかということについて知っていただかないといけないんじゃないかなと思いま したので、次のスライドをお願いします。 (スライド)  現状です。あえて医療機関のみならず、社会全体のシステムということで考える方が いいだろうと思いましたので、ちょっとつくってみたんです。足りないところもあると 思いますが、まず、不妊カップルを支えていく社会資源としてどんなものが考えられる かということですが、不妊カップルがいたときに、不妊相談センターというのが現在、 厚生労働省が各都道府県に配置を進めておられますね。そういうものがある。それか ら、患者のサポートグループ、養子縁組の機関などがあります。当事者グループがあり ます。インターネットなどもあります。もちろん医療機関。現在、不妊心理カウンセ ラーといいますのは、不妊にかかわるカウンセラーは、医療機関に属するカウンセラー がほとんどです。大日向先生や私のように、クリニックや病院で働いているカウンセ ラー、心理学的なバックボーンを持ったカウンセラーというのは恐らく全国で10人いな いと思います。その程度です。  現在の状況ですけれども、カップルがあって、本当は不妊相談センターというプライ マリーなところの情報提供をしなきゃいけないわけですけれども、余り知られていない というのが現状だと思います。また、医療機関からの情報提供、例えば成功率であると か、どんな治療をしているということについても明らかになっていない場合が多いの で、本当は患者さんというのどういう治療を受けたらいいのかとか、どこの病院にか かったらいいかというのが初めには知りたいのに、そういうことがまだなかなか知られ ないということがあります。サポートグループも鈴木委員のフィンレージの会のように 非常に活発に頑張っておられるグループはありますが、まだまだアメリカやオーストラ リアのように力を持っているわけではありません。アメリカなどではリゾルブという組 織が数千人以上の会員を持ってやっておられます。非常に患者さんの支えとなっていま す。  じゃ、今、患者さんは何を支えにしているのか。実はインターネットやマスコミの情 報です。これは非常に支えになっている場合もあります。しかし、いい情報が出ている 場合もありますが、非常に虚実が混ざったうわさが流れます。病院の評判についてもそ うだし、治療のことについてそうだし、オルタナティブメディスンというか、代替医療 についてもそうです。ですけれども、それに頼らざるを得ないような状況を今患者さん というのは抱えておられるようです。医療機関にかかっても、得られる情報は少ないん だけれども、頼るしかないから、ネットに頼るというふうになっていくという現状があ るのではないかなというふうに思います。現在の医療機関では、心理的ケアの専門家は 不足しています。情報公開も不足しています。これはもちろんインフォームド・コンセ ントなども重要ですけれども、心理的なケアにおいても、患者さんがまず自分がどうい う治療を受けられるとか、どういう可能性があるんだとかは、選択肢を知るために必要 なことであろうと思います。現在は一部の看護師さんたち、助産師さんたちは非常に頑 張っておられて、ケアに当たっておられる病院が出てきつつあるという状況だと思いま す。スライドをお願いします。 (スライド)  それでは、これから望まれるケアというのはどういうことがあるかなというふうに考 えてみました。まず生殖医療を受ける以前に、不妊を気づいた段階や病院に行こうかど うかと悩む状況のときに、不妊相談センターに容易にアクセスができること、そしてそ こからきちんとした情報提供が得られることです。これはもちろん治療だけではなく、 治療しないということも含まれますよね。そういうことも含んで、容易なアクセスがで きること。そしてサポートグループというのは、治療以外の選択肢を提示していくとい うことが非常に重要となります。養子縁組などの機関も、まだまだ日本で養子というの が不妊の方にとっての選択肢となるまでに至っていない現状があるというふうに思いま す。  それから、この時点で既にメンタルヘルスの専門家にかかることもできるようにする ことが重要であろうと思います。ここで子どもを持つ意味の吟味などできていけば、も しかすると、そこで子どもを持つ意味、自分たちに子どもが必要かというところを考え ることができるのではないかというふうに思います。それから学校教育です。ここは非 常に重要だと思うんですけれども、多様なライフスタイルを認める教育であるとか、不 妊の教育というのを学校教育の段階から行っておくということは非常に重要なことだろ うと思います。スライドをお願いします。 (スライド)  生殖医療を受けている時期になりますと、不妊カップルというのは当然医療機関との かかわりが強くなります。そういう中でも非常に治療自体がストレスフルであるとい う、先ほど申し上げましたように、そういう状況の中では、まずプライマリーケアとし ては、コーディネーターと書きましたけれども、医療機関内にいる看護師などが中心と なってプライマルな相談に乗るということが重要だと思います。そこからもうちょっと 専門的なケアが必要だなという場合には、心理カウンセラーの方に相談、紹介をしてい くということが重要であろうと思います。医療機関というのはもちろんそうですけれど も、不妊カップルは、サポートグループからも支援を受けることができることが必要だ と思います。ここを支え合い、エンパワーメントと書きましたが、これがものすごく重 要です。この治療中の時期には、個人カウンセリングよりも、むしろサポートグループ などによるグループカウンセリングや支え合いのグループの方が役に立ったという意見 をおっしゃる方も多いという海外の研究もありました。この時期、不妊治療を始めた時 期でも、実は不妊相談センターというのは大事で、転院の相談であるとか、今受けてい る治療に対する疑問など、あるいはセカンドオピニオンなど得られる情報を提供してい くことが必要だろうというふうに思います。セカンドオピニオンというのは、患者さん の心理的な安定とか、ケアにおいても重要であると思います。スライドをお願いしま す。 (スライド)  それでは、非配偶者間生殖医療を考慮・実施する時期ということになりますが、この 時期になりますと、まずは実施医療機関の問題も入ってきますし、公的管理運営機関も 入ってきますが、今までの夫婦間生殖医療と非配偶者間生殖医療ではまたカウンセラー の役割というものもちょっと変わってくるなというふうに考えています。実際にどうい う形になるかわかりませんけれども、マンパワー的な問題からいって、公的管理運営機 関が治療の可否判定などをするんだと思うんですけれども、心理的な問題に対するケ ア、それからカウンセリングやスクリーニングということをもしカウンセラーがすると なると、医療機関にいるということは難しいですので、派遣制度などをつくっていくこ とが必要かもしれません。  ちょっと遺伝カウンセラーというのをここへ書きましたが、不妊カウンセラーと遺伝 カウンセラーのかかわりについては後で少しお話ししたいと思います。こういう感じで すね。ここでは養子縁組の機関であるとか、チャイルドレスのグループであるとか、そ ういうところがもっと不妊カップルとかかわれるように、治療の時期としてはもっと以 前からですけれども、そういうふうになることが大事ではないかなと思っています。ス ライドをお願いします。 (スライド)  「不妊の人々への心理的支援における各々の役割」と書いてみました。今、図にした のを簡単にまとめたものです。不妊相談センターというのは、情報提供というのが必要 です。重要だと思います。医療機関選択の援助、医療機関の公平な評価というのをやっ てほしいと思います。また心理的問題のプライマリーケアというのは大事だと思いま す。サポートグループというのは非常に大きな役割を演じるはずです。情報提供、それ から連帯による孤立間の軽減、それから生き方のモデルの提示、これは重要なんです ね。患者さんはとにかくほかの人はどうしているんですかとおっしゃる方が非常に多い んですね。それほど情報がないんです。ですから、いろんな生き方があるんだ、チャイ ルドレスにしても、子どもを持たないという選択をしようと思っても、子どもを持たず に生活している人はどんな暮らしをしているのか、どんなことに悩んでいるのか、どん なことで楽しいのか全然わからないとおっしゃるんですね。ですから、そういう意味で のサポートグループというのは重要だと思います。スライドをお願いします。 (スライド)  医療機関内にいる専門家たちとしては、医師というのは心理的なケアにおいては、正 しい情報提供やインフォームド・コンセントの徹底などをしていただくことが重要であ ろうと思います。患者さんに正しい情報、適切な情報を伝えていただければ、治療中の 患者さんの不安はかなり減るんです。そのことを知っておいてほしいなというふうに思 います。治療の可能性であるとか、治療の説明というのが余りにもされていない現状が ある。それからコーディネーターと書きました。医療機関内にいるリーダーとなるよう なナースが演じることが多いと思いますが、情報提供や患者さんの教育、それから治療 スケジュールの管理、もちろん心理的問題のプライマリーケアなどをしていく、それか ら各専門家間の調整などをしていきます。これについてはまた後日、蔵本ウィメンズク リニックの福田先生などが発表されると思いますので、ちょっとそこで聞いていただい たらと思います。  不妊カウンセラーというのは、医療機関の内外にいる可能性があります。どっちがい いというのは、実はまだ結論は出ていなくて、どっちもありだと思います。それぞれに 利点とデメリットがあります。スライドをお願いします。 (スライド)  先ほどから申し上げていますように、心理的ケアというのは広い意味があるわけです から、様々な水準があるということです。それぞれについて医療専門家がどのような役 割を果たしていくかということについてですけれども、医師というのは、説得というの は嫌な言い方ですけれども、情報提供、それからインフォームド・コンセントの責任者 であるということです。選択肢の提示をきちんとできることは重要であろうと思いま す。コーディネーターというのは、心理学的な情報提供、冊子やパンフレットなどをつ くることも重要です。インフォームド・コンセントの確認や補助をしていくことも重要 でしょう。病院スタッフとして治療選択にかかっていくということです。それから、即 時的対応、医療機関内にカウンセラーがいない場合には、病院スタッフ内でケアをして いくことというのはとても重要ですし、カウンセラーにつないでいくためには、プライ マリーなケアが非常に重要なわけです。ですから、そういう意味でコーディネーターの 役割というのは大きいと思います。カウンセラーというのは、あくまで中立的な立場 で、病院の立場とは違う立場で話を伺っていく。先ほど言ったような不妊特有の喪失な どを扱っていくというのが役割だと思います。 それでは、我が国における不妊カウンセリングのあり方について考えたものを示したい と思います。資料の3になると思います。ちょっと時間が延びて申しわけありません。  ここでいう不妊カウンセリングというのは、広い意味ではなくて、狭い意味の不妊カ ウンセリングになります。医師や看護婦等は医療関係者として基本的な心理援助技術を 持っていることが求められるが、不妊の独特かつ複雑な心理過程を理解し必要な心理的 支援を行うためにはより専門的な知識と技術が必要であろうと。生殖補助医療につい て、基本的な知識を持って、専門的なカウンセリングの知識と技術を持ったカウンセ ラーが行う支援というのが必要であろうというふうに思います。  そこに役割と要件について書いています。不妊心理カウンセラーの役割は生殖医療を 必要としている女性/男性、カップル又はその家族等に対して心理的な支援を行いま す。2)不妊心理カウンセラーは、生殖医療についての基本的な知識を持っており、専 門的なカウンセリングの知識と技術を身につけている必要があると思います。また生殖 医療をめぐる国内外の規制等にも熟知していく必要があります。3)不妊心理カウンセ ラーは、生殖医療を提供する医師やほかの専門職との協力関係を維持する資質が必要で す。ですけれども、医療技術そのものを提供する側と一線を画して自律的な立場から女 性/男性カップルを支援する必要があると思います。4)不妊心理カウンセラーは、生 殖医療を提供するすべての医療機関に配置されることは重要だと思いますけれども、当 面は心理カウンセラーたちがネットワークをつくって公的管理運営機関などが派遣制度 をつくっていくということが重要なのではないでしょうか。  あとは書いてありますので、読んでいただいたらと思います。そのページの下からで す。他職種との関係ということで、その次のページに、遺伝カウンセラーというのが書 いてあります。遺伝カウンセリングというのが生殖医療においても、区別というのが重 要であるというふうに思われますので、ちょっとお話ししたいと思います。遺伝の問題 というのは非常に重要な問題ですから、不妊心理カウンセリングにおいても出現する問 題です。ですけれども、これに関してはわが国では既に古山先生などが頑張っておられ るように医師を主体とした活動はなされてきました。そこでの遺伝カウンセリングとい うのは、主に遺伝学的な情報提供であるとか、インフォームド・コンセントであると か、その説明であるとか、そういうことが主なわけです。ですから、不妊カウンセリン グとは重なる部分もありますが、違うものだというふうに考えていただい方がいいかな と思います。ですから、不妊の問題で、遺伝的な問題が出てきた場合には、遺伝カウン セラーに紹介するというシステム、それ もチーム医療であるというふうに考えた方がいいんじゃないかなと思います。  それではスライドに戻りたいと思います。次のスライドをお願いします。 (スライド)  非配偶者間生殖医療における心理的な支援というのは、配偶者間生殖医療における援 助に加えて、自分と遺伝的つながりを持つ子どもの受容というのが必要となります。こ れはどういうことかというと、レシピエント側ですね。自分とは遺伝的なつながりを持 たないということは、単に子どもを持つだけではなくて、遺伝的なつながりを持つ子ど もはもう持てないんだということを受容できていないと問題が起こってくるということ も可能性としてはあるだろうということです。対象が不妊カップル、それから提供者の カップル、生まれた子ども、その家族等も含まれるのではないかということです。それ から提供する者、される者という人間関係の複雑さが出てきます。これは特に精子ド ナーの場合あると思います。それから、真実告知の問題が非常に大きいと思います。そ してこれは配偶者間生殖医療でも本来そうなんですけれども、妊娠・出産後を含めた長 期的な支援が必要であろうと思います。スライドをお願いします。 (スライド)  非配偶者間生殖医療における不妊カウンセリングということで、これはごく簡単にし か書いていないので、申しわけないんですけれども、スクリーニングということをまず やらなきゃいけないかもしれません。これについてどういうふうにお考えになるかとい うことについてはここで議論することなんだろうと思います。外国ではまずスクリーニ ングという過程を経ます。これはその方がドナーになる。この場合はレシピエントにな ることに耐えられかどうかを心理学的に選別するという意味です。これはもちろん成育 歴などの聴取もあるんですけれども、心理検査などや面接を行って判断していきます。 これで不適とされた場合には、カウンセリングを継続したりすることで認められるケー スもあったりするし、また、やっぱりあなたはやめた方がいいよというふうに言われる 場合もあるそうです。不妊心理カウンセリングが不適と判断することの是非というのが 問題になると思います。これはカウンセラーの能力の問題もあります。それから人権的 な問題、子どもを持つ権利というのは誰にもあるのに、それを選別することは許される かという問題、それから医師法との関連、それもあると思います。ただ、心理学的な判 断というのは重要な役割だなと思うのは、皆さん御存じの「ベビーM事件」というの が、代理母が自分の産んだ子を手放さなくて裁判になった事例がありました。あの事件 で心理学者は代理母に対して判定をしたときに、複数の心理学者が不適という判定をし たらしいんです。それでも結果的には行われてしまって、ああいう問題になったという ことがあるわけですから、ここら辺、心理学的な判断の重要性というのはどういうふう にとらえていくかというのは、この部会でも問題になるところであろうと思います。実 際的には、現実的にどうかなと思うんですけれども、提供する公的管理運営機関での検 討、もし判断した不妊カウンセラーがこの患者さんにこの治療を受けることに疑問を もった場合には、公的管理運営機関に上げて、そこで児童心理学者や精神医学者、それ から小児科医、産婦人科医などを交えた専門委員会で判定していくという形になるのか もしれない。そういうシステムも実際的なのかもしれないなというふうに考えておりま す。スライドをお願いします。 (スライド)  治療前カウンセリング数回と書きました。当該医療に関する支援的問題についての理 解を促して、理解を促すと書きましたけれども、実際的にはここでは揺れということも 扱っていくべきだろうと思います。ここで数か月かかったって、その人にとって重要な ことですからいいと思うんです。ですから、もしかすると、今までの議論で非配偶者間 生殖医療におけるカウンセリングというのは、カウンセラーに一回会ったら、それで終 わりというふうに思っておられた方がおられるかもしれませんが、心理的な問題を考え た場合には、かなりの回数や期間というのを必要とするのではないかなというのが私の 考えです。これは治療前もそうですし、治療後もそうです。治療中は配偶者間の場合と 一緒ですが、治療後、妊娠した場合には妊娠後の問題についてもきちんとフォローして いくことは必要ですし、治療をやめる場合もあるわけですね。うまくいかないケースに ついてのケアというのも必要であろう。それから、妊娠・出産後の問題について扱って いくことは必要だろうというふうに思います。スライドをお願いします。 (スライド)  提供者に対するカウンセリングです。同様にスクリーニングがあります。ドナーの方 がスクリーニングというのはよくされているように思います。欧米ではスクリーニング で不適なドナーを排除されますけれども、それをどうするかという問題があります。そ れから、治療後のカウンセリングです。これは先ほど松尾先生も、提供した精子・卵 子・胚についての思い、そういうものについて整理ができていないと。これは本来は治 療前にしておくべきでしょうけれども、実際に提供してから問題が出てくる可能性もあ りますから、そこら辺に対するフォローも要るだろう。生まれてくる子に対する気持ち も当然前にやっているわけですけれども、妊娠したらまた変わってくるかもしれないか ら、治療後も継続的なフォローが必要かもしれません。スライドをお願いします。 (スライド)  生まれてきた子に対してもカウンセリングは当然必要であろうというふうに思いま す。スライドをお願いします。最後のスライドです。 (スライド)  今、テクニカルなことをかなり言ってきましたけれども、実際的に私が普段カウンセ リングをしているのは、治療するしない、子どもを持つ持たないということが、その人 の価値とは関係ないということをその人が納得していけるのが理想的なカウンセリング の終わり方かなというふうに思っています。子どもを産んだからとか、子どもが産めな いと価値がないというふうに考える方は非常に多いので、そこを解きほぐしていくとい うのが実際にカウンセリングでよくやっていることです。治療を頑張るから生きている 価値があると考える人が多い。治療しているときは生き生きしているんだけれども、治 療していないときは非常につらいとおっしゃる方もおられるぐらいです。そこにいらっ しゃる、その人が存在するということへの価値を大事にしていくというのが不妊の関わ る心理士として重要じゃないかなと思っています。  生殖医療の中でカウンセラーというのは、医療の場にいながらもちょっと離れた、 ちょっとずれたところから見て、さっき言っていたシェットコースターに乗っている患 者さんにジェットコースターから下りてみて、こんなジェットコースターに乗っている んだよというところを一緒にながめたり、そういうことで治療の意味というのを考えて いったりするような仕事をしているというふうに思っています。しっかり悩んで、一緒 に悩んで、悲しんでというプロセスに付き合えるということが重要なことであろうとい うふうに思います。その上で治療を選ぶということに関して、私たちカウンセラーとい うのは、それを支えていくというのが重要であろうというふうに思います。  長くなって申しわけありませんでした。とりあえず、私の発表は終わりたいと思いま す。 ○矢崎部会長  どうもありがとうございました。平山委員には、実際のカウンセラーの仕事の内容と か、大きな枠組みのイメージをお話しいただけたかと思いますが、どなたか平山委員に 対する御質問はございますでしょうか。どうぞ。 ○金城委員  先ほど先生は、カウンセリングの独立性、中立性ということでお話になったと思うん ですけれども、医療機関の内と外にあることによる件メリットとデメリットがあると おっしゃったんですね。その具体的なことについてお話をいただきたいと思います。そ れから、私はやはり独立性というのは非常に重要だと思うんです。そうでなければ、カ ウンセリングを要件とすることの意義というのはなくなってしまうのではないかと思い ますので、それが大切だと思うんですが、外国なんかではその点についてはどのような 制度になっているのかお教えいただきたいと思います。 ○平山委員  まずカウンセラーが病院の中にいること、外にいることのメリット・デメリットにつ いてです。中にいることによって有利なことは、もちろん治療の状況が非常によくわか るということがあります。それからまた、治療スタッフと連携をとりやすいということ があるんですね。私たちカウンセラーというのは、カウンセリングをしている時間とい うのはせいぜい週に1度50分程度のものです。それ以外の時間は1人の患者さんに対し てはわからないわけですけれども、チームとして考えていくときには、医療情報の守秘 を守りながらのやりとりというか、そういうことも重要になってきますので、そういう 連携がとりやすいということが1点あると思います。デメリットは独立性の問題です。 私も医療機関の中にいるカウンセラーですので、独立性を保つのに非常に難しい点を感 じることはあるんです。というのは、治療をやめたいとおっしゃったときに、当院のド クターとの了解事項では、そういう点についてもちろん話し合うことを勧めていて、結 果的にやめることになっても、それはオーケーなわけですけれども、なかなか一般的に 病院の中にいるカウンセラーが治療をやめるとか、あるいはドクターの悪口を言うと か、治療のぐちを言ったりする場というのは難しいこともあるかもしれません。そうい う意味ではデメリットだろうと思います。しかしそこは工夫によってある程度クリアで きる問題かなと。うちの病院の場合は診察のフロアと別の階に独立したマンションの一 室でやっているんですけれども、同じ建物ですけれども、少しはカウンセリングに来る のをほかのスタッフに知られずにできたりするこ とはありますので、そういう意味では独立性を保てているかなというふうに思います。  外国に関しては、まだデータが確実なのがありませんので、また調べて後日お知らせ したいと思いますが、ただ、アメリカの場合は制度自体が、カウンセラーというのがほ とんど独立して開業しています。ですので、開業のカウンセラーとクリニックが契約し てというか、そういう感じでやっているというふうに聞いたことがあります。そこから 紹介されて、サイコロジストのところに行ってという形で病院の外のカウンセラーに検 査やスクリーニング、カウンセリングを依頼しているというふうに聞いています。 ○矢崎部会長  そのほかいかがでしょうか。 ○石井委員  時間がないところ幾つかすみませんけれども、質問させていただきたいんですが、第 1点目は、あえて平山先生だから失礼な質問をさせていただきますけれども、今の不妊 のカウンセリングというのは、女性に対するカウンセリングが多いと思いますが、その 場合、男性である平山先生であるということの問題はないんでしょうか。その答えとし ては、専門家だから大丈夫だということがあると思います。平山先生が専門家であると いうことが御報告を伺ってよくわかったんですけれども、我が国の場合、悩みを専門家 に相談する、一般的にカウンセリングというものがそんなに行われていない中で、不妊 についてだけカウンセリングがうまくいくのでしょうかということが2点目。  3点目は、今女性が中心といったときに否定的な顔をされたので、ちょっと安心なん ですが、大日向先生も平山先生も男性の不妊原因のときに大変問題になるということを おっしゃったんですが、男性に対するカウンセリングということが余りお二人の先生(1) 話の中で見えてこなかったので、その点について。そしてもう一つ、先ほど不適の判定 ということをおっしゃったんですけれども、私はカウンセリングというものは、自分が 不適だということを自分で納得していく過程、あるいはカウンセリングを通じて、その 不適さを克服していく過程なのかなと思っていたものですから、そういう判定をすると いうことがカウンセリングの中の役割なのかどうかということ、以上です。 ○平山委員  まず私のクライアントさんというのは実は8割以上女性です。残りがカップル、ある いは男性になります。男性だけというのは非常に少ないです。最近はカップルが増えて きました。そこに対して男性カウンセラーの限界というのが正直あるだろうと思いま す。なぜなら、私には生理のつらさもわかりませんし、実際に私が体外受精を受けたこ ともありませんし、そういう意味での純粋な体験としての共感というのはできないであ ろう。そういう意味で男性だからカウンセリング受けませんとおっしゃった方がおられ ます。ただ、女性だったらいいかというと、また全然違う問題ですね。特に不妊の方と いうのは、女性の中での区分けというのをすごくされるんですね。女性でも、あの人は 子どもを産んでいるから、あの人はこの治療をしているから、あの人は治療がまだ人工 受精の段階じゃない、私たちみたいに体外受精のことはわからないわよ、そういうこと をものすごく区別される。また同時に、もう一点女性だからいいとはいえないというの は、不妊の女性が傷つけられてきた対象というのは女性が多いんです。ですので、そう いう意味でも私と話すことで案外安心されるという方もおられるようです。もちろん、 だんなさんとの関係についての相談のときはかえって話しやすいという方がおられます ね。男性はこういうときどうなんでしょうねよく言われますけれども、男性だからこそ のメリットもあるかなというふうに思っています。ですから、性というのが両方選べる のが理想的だと思いますけれども、どちらにもメリット・デメリットはあると思います し、それをできるだけ解決する、クリアしていこうとするのが専門家としての訓練だろ うと思います。それができていないという場合は私の専門家としての未熟さであろうと 思います。  もう一つ2番目、悩みを相談する文化がない中で、不妊だけカウンセリングというの はどうだろうと。そのとおりだと思います。日本において、カウンセリングということ 自体が非常に抵抗感のあることであるというのは私も不妊カウンセリングを始めて思い ました。というのは、カウンセリングという看板をかけても、カウンセリングは病気の 人が行くものというので来てくださらないことが非常に多かった。そこを解決していく にはどうするかというのは、敷居を低くしていくことが大事だと思うんです。それは情 報提供です。きちんとした不妊の心理的問題であるとか、対処の方法であるとか、そう いうことについて積極的にこちらから働きかけていく。単に面接室で待っているだけの カウンセラーではなくて、こちらから発信していくカウンセラーの姿というのが非常に 重要ではないかというふうに思います。そういうふうにやっていかないと、実際的には 根づいていかないものだろうなと。これはカウンセリング業界全体にも言えることだと 思います。ただ、悩みを相談する文化はないとおっしゃっていますけれども、悩みがな いわけではないということです。ですから、それはやっていくしかない。特に地域社会 が崩れてしまった中では、近所の御隠居さんに相談するわけにもいかない現状では、専 門家の存在というのは、だんだん抵抗というのは少なくなってきている感触はありま す。  3つ目、男性の不妊症に関するカウンセリングです。まず男性はカウンセリングに来 たがらないという大きな問題があるんです。ほとんどの男性は、男性不妊にかかわらず なんですけれども、カウンセリング来たがらない。これは多分一般のカウンセリングで もそういう面があると思いますが、不妊のことでは特にそういうことがあります。私が よく持つケースは、性機能障害に関する男性からのカウンセリングが多いです。あとは 夫婦関係の問題などについて、あとは奥さんとどうかかわっていいかわからないという ようなことでお見えるになる方もあります。男性にとって不妊というのがものすごく自 尊心を傷つけられる出来事であるということが、一番ではないかもしれないけれども、 大きな問題であろうと思います。また、社会に生きている、これは男女差別でありませ んが、大抵の男性は社会に出ていて会社に勤めていたりするわけで、その中での軋轢と いうのは非常に大きい。子どもを抱いて一人前。女性もそうなんですけれども、男性と いうのは、出世まではあんまりかかわらないと思っておられるかもしれませんけれど も、実は子どもがいないと転勤させられやすいとかいろんな問題がまだあるんですね。 そういうことで苦しむ。社会的なかかわりで苦しんでいる方が多いというのが印象とし てあります。そういう方に対するケアというのもまだできていません。ですので、先ほ ど言ったような敷居を低くしていくこと、男性の方が話やすいという方が多いのであれ ば、男性のカウンセリングがもっと入っていくことも重要であると思います。  4番目です。不適という判定についてです。これはカウンセリングの一般的イメージ とは離れる問題、すごくイメージは違うと思うんです。ですから、スリーニングとあえ て言ったんですけれども、スクリーニングとカウンセリングの2つの機能をアメリカな どの場合の不妊カウンセラーがやっているということなんです。スクリーニングという のはあくまで判定なんです。心理判定ですので、ドナーとして不適とする判定基準とい うのは、DSMーIVという精神科の診断基準でのアクセス1、2、(第1軸、第2 軸、)に障害がないこととか、夫婦関係がぜい弱であることとか、そういうふうな診断 基準があるんですね。それにを当てはまっているかどうかということで判定していくと いうのがプロセスになります。カウンセリングによって改善できるものであればするん だと思うんですけれども、不適と言われた人はリジェクトされるケースが実際にはある ようです。不適という判定は心理学者がその責務を持ってやるということのようです。 答えになっていますでしょうか。 ○矢崎部会長  よろしいでしょうか。 ○澤委員  今のお話なんですけれども、先生がおっしゃったようなスクリーニングということで すね。適・不適ということとカウンセリングというのは区別して考えないと非常に難し くて、例えばイギリスでは、市のソーシャルワーカーが既に養親になる資格決定という のを、スクリーニングみたいなことを先にやっておって、それでまずクライアントが不 妊治療を受けられるかどうかという、一番最初の設定があるんですよね。そことどうも カウンセリングが一緒になると、カウンセラーは非常に大変な仕事を負ってしまうので はないかと思うんです。 ○平山委員  私もそう思います。ですから、日本でこのシステムを考えるときには、どういうふう にしていくのか、ソーシャルワーカーと連携していくのか、あるいは病院に派遣された カウンセリングが判定するのではなくて、もちろん検査や診断面接はしても、その結果 というのは、公的管理運営機関の方で判定するという形になるのかもしれないなという ふうにイメージとしては思いますが。 ○矢崎部会長  よろしいでしょうか。大分時間が押し迫っておりますので、渡辺委員の御説明をお伺 いする前に10分ぐらい休憩いただいて、12時20分から再開させていただきたいと思いま す。よろしくお願いいたします。                  (休憩) ○矢崎部会長  時間がまいりましたので、再開したいと思います。先ほどは平山委員から長時間にわ たりましてどうもありがとうございました。  それでは、本日最後の話を渡辺委員から、「生殖保護医療における児童精神医学の関 わり」ということでお話を承りたいと思います。よろしくお願いいたします。 ○渡辺委員  私は小児精神保健の立場から、特に子どもの側に立って何かヒントになることをお話 ししたいと思います。 (スライド)  1人の子どもを幸せに育てるということは、その子どもが置かれている環境の力にか かっているというふうに思います。子どもは生まれつき障害のある子どもでも、有能な 高い資質を持っている子どもでも、出会う環境のサポートがなければ、その本来の力を 発揮することはないと思うんです。恐らく新しいニューロサイエンスというのは、その ような胎生期からの脳の発達、心の発達、そういったものをこれから向こう10年、20年 より明らかにしていくと思います。そういう意味で私どもの生殖補助医療の問題、課 題、そこで生まれる子どもたちへの新しい育児というものに関しては、新しいニューロ サイエンスの知見というものが応援してくれるのではないかというふうに思っておりま す。  私自身は現在小児科の中でフルタイムで勤務している小児精神保健のスペシャリスト でございますけれども、実際にはトレーニングのプロセスとしては、まず小児科、精神 科、神経内科、それから障害児療育、それから12年前にイギリスのタビストッククリ ニックというところで深層心理の精神分析的な治療へのアプローチの訓練を受けてまい りました。そして現在、慶応病院の小児科で約9年間臨床しております。慶応の小児科 という、基本的には体の病気でくるお子さんの受皿である小児科に身体疾患の形をとり ながら、多様な心身症のお子さんたちがおいでになります。もちろん身体疾患のお子さ んもいらっしゃいますし、身体疾患と心身症も併せて持った方たちもいらっしゃいます けれども、心身症の方たちの中には、特に私がかつて10年前、20年前、日本では経験し なかったような、よくわからない子どもたちが増えております。そういう現象とニュー スで低い年齢の子どもたちの行動障害が起きているということと妙にひびき合うものが あります。  一例を申し上げますと、とても愛情深い御両親のもとで一粒種として育ったお嬢さん がとても賢い、すばらしいお嬢さんが思春期のあるときをきっかけに、まるで自分の過 去がわからなってしまい健忘状態に陥るとか、それから幼稚園・小学校ぐらいから、興 奮して楽しいことがあった直後に、死にたくなる、泣きわめくとか、あるいは家ではい いのに、集団に入ったとたんに、トイレの穴に物を詰めたり、学校のペットを絞め殺し たりそういうことをする。こういうことは奇異な問題ですけれども、小児科という場で 日常的にケースとしてやってきます。そして入院させたり外来治療をしたりしながら、 いろいろなアプローチから子どもさんを理解しようとするんですけれども、驚くこと は、普通の平均的な日本のどこの家族にもあるような状況で育ちながらそうなんです ね。  私は生殖補助医療のことは非常に気になっております。というのは、小児科に来る心 身症の子どもたちの行動が古典的なヒステリーとか、腹痛とか、頭痛とかという子ども さんも、それから今申し上げたような、よくわからない問題のお子さんたちもみんな一 人一人、特に治療した暁には、とてもデリカシー豊かなすてきなお子さんたちになる し、それから一人一人お話をしていくと、お父さまやお母さま、皆さんいい方なんです けれども、家族としての調和がとぼしい家族としての喜びや楽しみが隠された形で否定 されて生きてきた方たちが多いんですね。それは例えば、お父さんが非常に忙しくて、 そのお父さんの忙しさのピリピリがお母さんを不安にさせたとか、あるいは、おじい ちゃんがシベリアで若いころ強制収容所に入っていたために、おじいちゃんが戦後の日 本を述べるとき、秘められた戦争体験の語られざるものが家族の雰囲気を超真面目にし てしまって、孫がゴロゴロと転がってテレビを見ても、おじいちゃんがシャンと座りな さい、背中に物差しと言ってしまって、そういう悪気のない親心が、ある種の敏感な子 どもたちに疎外感とか不安感とかを誘発していく。そういったミクロのレベルのすれ違 い、誤解、それは子どもが不当に感じてしまえば、ミクロの虐待やネグレクトに近いも のとして私どもの診ている子どもたちから語られたりするわけです。これは恐らく私ど も日本が近代化する決意を自ら持ち、それに邁進している中で生まれた一つの副産物で はないかと思います。  私自身は、イギリスで暮らしたり、イギリスで勉強したりして、日本の外の文化も体 験しておりますけれども、私自身は日本に帰ってきて、文学を卒業してから29年間の臨 床の中で感動するのは、日本人の持つ非常に温かい穏やかな母性なんですね。その母性 が豊かなために、日本は無名の保育園の園長先生や保健婦さんやいろんな地域のソー シャルワーカーの方たちが見事にとてもいい役割を果たしてくださっています。そし て、そういったレベルでは、昔ながらの村の子どもたちを育てるような温かい人情のあ る保育園や養護施設や小児科病棟や、そういうものがたくさん点在しおります。それが 私は日本の救いだと思うんです。けれども、これから日本は多民族の国になっていかざ るを得ないと思います。日本を目指して中近東やアジアからたくさんの方たちがいらっ しゃる。それから、その一部として生殖補助医療の子どもたちもこれから増えていくと 思うんです。私どもはかつて日本人は均一の民族としてみんな同じで一緒にということ があったんですけれども、いよいよ均一性を棄てて、多民族のいろいろな価値観のぶつ かり合う社会に本格的に入っていかなければいけない。一体私自身は、そういう新しい 社会をうまく生きて、そして子どもたちの模範になっていくような育てられ方をしてい るかというと、これは甚だ疑問だと思うんです。  それから日本というのは、こういう体験を恐らくは最近の歴史で初めてするんだと思 うんです。私は児童精神保健の領域にいるおかげで、改めて日本は新しい日本になって いくなと感じております。新しい育児のバージョンが必要であって、それはそろばんで 計算をしているのが上手だった国民から、コンピュータで計算するのが上手な国民に なっていくのと同じである。時代に合ったバージョンアップをしなければいけない。で すけれども、計算の本質は同じだと思うんです。計算の本質は何かというと、そういっ た数学の領域の一つの原理があるわけですね。私は自分自身が戦後の混乱の中から育て てもらった世代として、また女性が自由にキャリアを持ちながら子育てをするという新 しい時代を自ら体験した者として、私は育児の原理を今振り返ることによって生殖補助 医療をいい方向に持っていく可能性はあるのではないかと思います。  例えば、そのときに私が必要だと思うのは、より深い自己の内面を見つめていく姿勢 を、どのように若者たち・子どもたち、そして私たちがもう一度自己を育み直すかとい うことだと思うんです。今日のお話は、平山先生と大日向先生に共通していることは喪 失体験の問題だと思います。お二人とも非常に具体的に喪失体験のお話をなさいました けれども、生殖補助医療に至る道のりというのは、不妊という自然な形で我が子と出会 えないという喪失体験の果てに出会う世界なんですね。この喪失体験は、我が子との出 会いになりますと、親密な深い情動をえぐられる非常に痛ましい世界であり、かつ、そ れを乗り越えようとする心の中には、親になりたいという親心がうずいてくるわけで す。ですから、恐らく不妊治療を経て生殖補助医療に入っていらっしゃる御夫婦はどな たも大変真面目で、大変頑張り屋で、そして最後の最後の望みまでかけようとしてい らっしゃると思うんですね。次のスライドをお願いします。 (スライド)  これが生殖補助における特殊性ですけれども、まず第1に自然な妊娠、出産、家族、 家庭からの排除ということは、これは仮に生殖補助医療ですばらしい子どもを得て、新 しい家庭ができても消えないものだということを強調したいと思います。とても幸せに なった方がおっしゃった言葉は、今までのあれは何だったのと。今の明るい私しか人は 知らないけれども、私は絶望の中で一人生き延びていた自分を知っているということな んですね。ですから、喪失体験は治癒できない喪失体験だと。治癒できな喪失体験をし かしながら私どもは人類は抱えて生き延びてきた。それと、人間が恐竜やヒョウや、そ の他の強い動物たちの優れた生き延び方を持たないということからかえって知恵を合わ せ、力を合わせ、そして集団で生き延びることができたわけです。ですから、たとえば 日本という貧しい国がこの欧米の植民地化の中で生き延びた、サバイバルの中にある親 心をもう一度見直すことによって、何か日本独自の新しい道が可能なのではないかと思 います。  第2番は先端科学技術による命です。先端科学技術よる命というのは、すばらしいマ ジックのように思えると同時に、非常に怖いリスクを伴うわけです。これはまるでいき なりロケットに乗るようなものだと思います。そこには頑張ろうとか、おもしろそうだ なという前向きな意欲が必要で、それは健全な意味でも躁的な防衛です。怖さを乗り越 えて躁的に闘う、一種の躁状態です。一番明るい楽観的な自分を動員して乗らなければ いけない。それから、現実の否認ということは、今現在はずっとこうではない、現実を 変えていこうということが現実否認の一つの、日本は本来はこうではない、もっと工業 国になるんだということで焼け野原は乗り越えてまいりましたけれども、それと同じよ うに一時的に現実を否認して、そして行動を起こさなければいけない。この行動化が過 剰になりますと、それに遭進してほしい父親不在の淋しい家庭をつくってしまって、そ の中から家庭内暴力の子どもたちが増える。この現象は高度経済成長から約10年ぐらい 遅れて増加しました。乳幼児期に父親が育児に参加していないことのツケとして家庭内 暴力が出てきているわけです。日本が敗戦で欧米に負けたままでたまるかという思いが 行動化し突っ走り過ぎますと、一番その人個人にとって必要な親密な関係である、夫に とっては妻、妻にとっては夫、そして子どもにとっては親、親にとっては子どもとい う、家族の親密な三重唱、四重唱のきれいな音のハーモニーをぶち壊しながら動くこと になるわけです。ジェットコースターに乗るようになるわけです。この行動化というこ とが過剰に働きますと、心の情緒の成熟を阻みます。ですから、残念ですけれども、ビ ジネスで成功している方たちが必ずしも人間として成熟し、情緒的に成熟度の高い人で はないんです。むしろ、日本は残念ながら社会的に非の打ちどころがないかどうかとい うこととは全く関係なく、個々の家族の成熟というものが遅れたり、中座したり、歪ん だり、あるいは順調に行ったりという、そういうコンビネーションになってきていると 思います。  それから葛藤の置き換えというのは、人間は人間で地球で暮らせばよかったわけで す。それを好奇心からロケットに乗りたいと思い一つ地球で人間として暮らすことに甘 んじることができます。宇宙人と会いたいということに置き換えているという飛躍があ るわけです。皆さんにこの複雑な状況を私なりに整理しようと思うために、非常に稚拙 なたとえで言うんですけれども、例えば生殖補助医療というのは、大変な喪失体験を経 た夫婦が、でも、私は我が子に出会いたい、何らかの形で我が子に出会いたいと思っ て、もしかしてロケットに乗って別の宇宙に行けば出会うかもしれないと思って命をか けてロケットに乗るというぐらいの大きなプロジェクトではないかと思うんです。ただ し、ロケットのときはみんなが見守るし、それから税金を払って支えている。ですけれ ども、生殖補助医療は夫婦のプライバシーということがいい意味で尊重された個人の意 欲を讃えるプライバシーではなくて、何か恥ずかしい、表には出せないプライバシーと いうことで、匿名性の世界である。ちょうど密かに人知れず夜中に、もしかすると、ロ ケットが爆発して死んでしまうかもしれないことを覚悟で我が子に会いに行くぐらいの リスクがあると思います。そういうふうに具体的に考えていきますと、私はやはり社会 が本当にロケットを打ち上げるぐらいの気持ちで生殖補助医療の育児というものを支援 していただきたいと思うんです。  それで、じゃ、日本はどういうふうに不妊というものを克服してきたかというと、そ れはやはり多様だったと思います。たまたま私の心に浮かんだのが「桃太郎」のおとぎ 話です。「昔々あるところに、おじいさんとおばあさんがいて、二人とも子どもが大好 きなのに子どもがいなかった。そしてある日どんぶらこと桃が流れてきて、中から桃太 郎が生まれた」という、これは子どもたちの大好きな日本の神話で、日本の穏やかな風 土の中の母性や父性がよく出ていると思います。桃太郎は桃から生まれた太郎であっ て、ただの太郎じゃなくて、桃太郎なんだということで、社会が不妊の御夫婦によかっ たねと拍手を送って、そして桃太郎を育てたわけです。年取った御夫婦が自分たちの力 で桃太郎を育てられるわけはないわけですね。村が、子どもたちがみんなが桃太郎を育 てたわけです。  アメリカのヒラリー・クリントンという人は、彼女は1人の子どもを育てるのに一つ の村が要るという本を書いているそうです。私は今、日本の子どもたちに一つ必要なの は、情緒的な村、あるいは憩えるふるさとだと思うんです。ふるさととしての家庭、ふ るさととしての学校、ふるさととしての小児科だと思うんです。辛うじて私どもの小児 科はふるさととしての小児科というところまでは行ったというふうに自負しております けれども、桃太郎が育ったのは村の応援があった、そして桃太郎は、残念ながら、ただ 好きなように生きることはできないわけです。桃太郎は鬼退治に行かなければいけな い。その鬼退治ということの中に、私は深層心理を扱う人間としていろいろなことを読 んでしまいます。それは例えば、不妊の御夫婦をいじめた意地悪な人がいる世の中をも う少し明るくしてほしいというおじいさん、おばあさんの願いであり、村の人の願いで あるかもしれないけれども、同時に私は鬼は不妊という中で苦しんだおじいさんとおば あさんの中に住んでいる鬼だと思います。それから、自分が桃から生まれてしまったと いう運命の中で感謝がありますから口にはしませんけれども、疎外感というものを生き たという、桃太郎の心の中の鬼だと思うんです。それをきび団子や犬や猿やみんなが応 援して島の向こうの鬼退治に行く。これは日本人の困難や対象処喪失を乗り越えていと きの非常に賢い物語じゃないかと思うんです。私は桃太郎の現代版というのを生殖補助 医療でつくり直せれば少し明るいものができるのではないかと思います。次のスライド をお願いいたします。 (スライド)  残念ながら、人間の赤ちゃんというのは生まれたときから理屈を越えた存在の知覚と いうものがあるということが今言われ始めています。現代わかっているところは、トレ バーサンという人たちが中心になって研究している間主観性という世界なんですね。人 間の赤ちゃんは心地いいものが自分に触れると歓迎されたと思ってフワッと感覚を開 く。これは胎内からあると思いますけれども、未熟児で生まれ赤ちゃんでも、新生児室 でお預かりしている赤ちゃんでも、真心を込めて非常にコンディションでニコッと笑い かけますと、本当に生後週間の赤ちゃんですからこちらがニコッと笑ったのか、ただ見 つめたのかの違いが分かってジッと見つめ返してきます。ですから、人間の赤ちゃんと いうのは、サバイバルの本能として、自分自身がウェルカムされているかどうかという ことを感知していく力が恐らく出産後のかなり早い時期からあるのではないかと思いま す。そうしますと、人間の赤ちゃんが、対象喪失に嘆き、新しいテクノロジーの不安、 そして人に知らせてはいけないことをやっている匿名性というトリプルのストレスやト ラウマに生きる父母のつくり出す家庭で、そのような音色の感覚体験をしていくに違い ないと思うんです。次のスライドをお願いします。 (スライド)  これは日本の添い寝ですけれども、日本の添い寝は貧しい農家でも、どんなに姑に嫌 われている嫁でも、授乳のときだけは至福の一時を楽しめたわけです。トレバーサンた ちは、赤ちゃんのすぐそばの世界が本当に満ち足りたものだと、ちょうど子宮の中の羊 水と子宮壁がきちんと赤ちゃんを守れるように、乳幼児の早期はこの世界が安定してい ると大丈夫と言っています。私が、「じゃ、お母さんと赤ちゃんがロケットに乗ってい ても大丈夫なの」と聞いたら、ロケットに乗っていても、お母さんが本当に安心してい て、我が子と一緒にいるときに心から楽しいと思えたときには、赤ちゃんは結構安心し て脳は安定して発達していくものらしいよと言っています。次のスライドをお願いしま す。 (スライド)  そして日本の「川の字」に寝る親子の姿です。川の字には母子を守る父親の姿があり ます。私は父性というものは、仮に障害児が生まれても、いいじゃないか、どこが悪い んだ、うちの子じゃないかという社会の悪、鬼と闘う父親のたくましさだと思うんで す。父性が豊かであるときには、母性は自ずと開いていくものだと思います。その父性 というものの中に「匿名性で生殖補助医療をどうして隠すんだい、僕たちがかわいがる からいいじゃないか」という父親のたくましさがあって、お母さんも「そうかもしれな い、じゃ、いじめられたらお父さんに言いつけて、お父さんが闘ってくれるので安心し て育てていきましょうね」という気持ちを持てれば、うまくいくのではないかと思うん です。むしろ私は、母性愛神話ということを大日向先生がおっしゃったんですけれど も、母性神話が問題なんじゃなくて、日本は母性的な歴史の中で人情は厚かったけれど も、今どういうわけか健全な母性が伸びやかに広がることが否定され萎縮している、そ こが問題だと思うんです。それはもしかすると、男性の中の母性つまり子をはぐくむ気 持ちが萎縮しているからもしれないんですね。男性が家族におまえたちと生きていく。 俺だって出世が先ではなくまず伸びやかに生き物として共に生きたいという気持ちがも てたらもう少し違うのではないかと思うんです。次のスライドをお願いします。 (スライド)  ここら辺はすべて生殖補助医療の子どもたちだけではなくて、つまずいて精神保健医 の門をたたかなければいけなかった気の毒なお父さんやお母さんや子どもたちにもあて はまります。ここであえて私は、このような非常に不思議な丸を出しました。これは 子、親、そして治療者という形のモデルですけれども、同時に横には現実、空想、幻想 という3つのことが書いてあります。実はこれは深層心理を扱うときの大事な概念なの で、うまく御説明できるかわかりませんけれども、少し具体的にお話ししたいと思いま す。  現実というのは、私とあなたが出会ったときのお互いの男女であったり、社会的な地 位を持っている者同士、子どももそうです、現実の男の子であったり、色が白いとかそ ういうことだと思います。現実レベルの出会いは整理された理性が働く部分です。とこ ろが、家庭というのは現実レベルもありますけれども、より豊かな空想レベルがありま す。どういうことかというと、小さいときから女の子も男の子も、大きくなったら私は ママになって、こういうお洋服を自分の女の子に着せたいとか、男の子は僕がパパに なったら、こういうバットを息子に買いたいとかという空想の親像というものを描いて いくわけです。これは自分の夢であり、期待であり、そしてかなり小さいときからその 気持を持ちながら子どもは発達していくわけです。夢がなくなってしまった子どもたち は無気力で、そして心身症の症状で引きこもってしまったり、あるいは非行動化してエ ネルギーを発散するというふうになってしまうので、こういった夢は必要です。これは そろばんであろうとコンピュータであろうと足し算の原理が変わらないように、恐らく 変わらない人間の発達原理だと思います。こういった空想的なレベルが、例えばいい医 者と出会ったり、いい治療者と出会うと、ふっと誘発されるわけです。ですから、生殖 補助医療で自分を救ってくれる産婦人科の先生たちは必ず自分の求めていた空想の親の ような、理想化された専門家になっていくわけです。  ここまでのレベルでほとんどの方たちはうまくいくんですけれども、たまたま小さい ときから非常に敏感なたちであったり、次から次へとトラウマを生き延びて、それも、 小さな赤ちゃんのときから親との死別や離別やいろんな文化を転々としたり、自分自身 が病気でたくさん痛い思いをしたりして、マルティプルなトラウマやストレスを経てき た方の場合には、空想的現実的なレベルがちょっとうまくいかなくなりますと、より深 い心の幻想的なレベルの怖い情動がわきあがります。それはホラーの世界になってしま いがちですね。  大日向先生が心理相読が1日50分、1か月1回というのは、これはどう転んでも現実 レベルと浅い空想レベルしか動かないと思います。ですから奥の空想のより深い部分 や、ドロドロした幻想的なレベルは動かない仕組みになるわけです。相読者はいなくな る人だということがわかるわけですから、クライアントも表面しか動かさない。その意 味で私は50分、月1回はその安全性があると思います。ところが、産科に入院された り、私どものところで拝見する方たちは、母子で入院されていた、24時間です。お子 さんに問題があって入院治療していますと、それこそ幻想領域の心がたくさん出てまい ります。この幻想的領域の否定的な気持が出てくるときには、精神科的ケアが必要とな ります。つまり同じ嘆きの訴えが、あるところまではオペラのアリアのように私どもの 胸ぐらをえぐり非常に感動的ですね。ところが、あるところからふっとばらばらになっ てきて追っていけない、まとまりがない、そして乖離していく。そのときには、心は分 裂していったり、自己破壊が生じて死の願望に襲われたりするわけです。そういった非 常に怖い世界が生殖補助医療の中では多々起きているのではないかと思います。そして その方たちはどのように生き延びているのだろうか、それを私は知りたいと思いますけ れども、匿名性があるがゆえに、情報が私どものところにたどりつかないです。  このようなことをお話ししていると長くなります。次に移りたいと思います。では、 次のスライドをお願いします。 (スライド)  次のスライドは、対象喪失の喪の仕事に入りたいと思います。対象喪失の喪の仕事 が、順序よくショックから否認、悲嘆、抑うつ、再起というふうに流れていけば、これ が一番理想的な形です。でも、例えば脳障害児が生まれたとか、あるいは我が子が産め ないことは深い悲嘆ですから長くかかると言われています。残念ながら、否認と抵抗の 心の段階、あるいは悲嘆と抑うつのところに生殖補助医療というものがネガティブな形 で入ってしまうと、そこにこだわりが出てきます。例えば、ショックを受けて否認が あって、きびしい現実に抵抗しているときに、違う方法があるんだ、自分は一生悪いこ とをしませんから、お願いです、生殖補助医療で赤ちゃんをくださいという運命の取引 をしているときに、生殖補助医療と出会いますと、それはその方の悲嘆のプロセスを止 めてしまい、魔術的な思考に突入させます。自分だけが、自分だけはちゃんとした赤 ちゃんが生まれて当たり前というふうになるわけです。  それから、運命との取引だけではなくて、サーチなども起きてきます。サーチは医者 にも向かいますし、こんなはずではないという形で生活のあらゆる面にも向かってきま す。そうしますと自然にのんびりと、食べた後お皿なんか洗わなくていいのに一生懸命 にお皿を洗ったり、夫に対して完璧に尽くそうとし始めたり、全体が思いこみのつよ い、狂信的な世界になってしまいます。これ自体が子どもの生まれてくる環境として非 常に気の毒だと思います。  例えば、そこをうまくクリアして、怒り、嘆き、恨み、不安、自責の念に入ることが 早くできますと、そのときに初めて、本当に不妊治療を乗り越えたいと思っていたのだ ろうとか、子どもを欲しいと思っていたんだろうかという疑念、揺れが出てくるわけで す。この揺れが出てきた時期が実際に妊娠する前であればいいですけれども、お腹の中 に赤ちゃんができてしまったり、あるいは子どもが生まれて、子どもを育てる過程で起 きたりしますと、子どもが生まれた後に離婚したり、あるいは乳幼児期に、特に一、二 歳に子どもがやんちゃになる時期に一転して裏切られたと思ったりして、そして怒り、 狂ったり、弾けたりすることになります。このようなマルティプルトラウマというの は、必ずかなり耐え忍んで生き延びるからサバイブルできるわけです。そうしますと、 私どものトラウマの生き延び方の一つには、攻撃者に一度つぶされてはいるんですけれ ども、一歩遅れて無力感をはねのけるだけの強さを自分が獲得したいという頑張りが出 てきます。そうしますと、その頑張りは後で申し上げますけれども、攻撃者への同一化 というふうに言って、自分がされたようにしていくというふうになるんです。先ほどの 平山先生がおっしゃった夫に対して切っていくというような、「あなた、月1回しかな い日なのに、何で大事な日が」といったあたりは、テクノロジーで切られている自分の 脈絡を今度は夫に切っていくというような形になりますし、それから子どもの育児の中 にも、きちんきちんとしていくというふうになっていくわけです。それがミクロトラウ マになりやすい。そういう意味で諦念と対象の内在化と原初再適応というとろになかな か行きにくいというのが一つの現実です。それはとりもなおさず、カウンセリングの伝 統がなかったり、トレーニングのシステムがないこともあるかもしれません。次のスラ イドをお願いします。 (スライド)  それで、子どもが育つ一つのマトリックスというんですか、一つの情緒的な風土は、 向かって左のようなばらばらな大人と子どもの関係ではだめなんですね。お父さんとお 母さんが一枚岩になって、寄り添う軟らかさとしっかり闘う強さとが母性と父性が一体 になって、ちょうど子宮の中の羊水と子宮壁のように胎動に耐えて10か月間過ごすよう な、そういった頑張りが必要なんですけれども、それにはハーモニーのある夫婦が必要 で、夫婦の深い慈愛に満ちた思いやりが必要なわけです。それが達成したときは、もし かすると子どもは必要じゃないかもしれないというふうに大日向先生はおっしゃってい ましたけれども、そこまで達成したときこそが、逆にどんな生まれても大丈夫な時期で もあるわけです。このような抑うつ状態ですね。疑念に満ちたうつ状態を経て、そして 断念したときに人間は謙虚になり、深くなり、行動化せずに、しみじみと自己のありの ままを受け入れる力を育くむということです。次のスライドをお願いします。 (スライド)  そういうわけで、生まれてくる子どもたちは普通はお母さんが抱っこしている、その お母さんと子どもを抱っこしているお父さんが、ハッピーですばらしい、うれしいとい う気持ちで私どもに出会うんですけれども、生殖補助医療の親子は、なけなしの気持ち でこのように人々と出会うでしょうか。できるようにしたいというのが私どもの専門家 のチャレンジです。そして家族というのは、新しいニューロサイエンスでは血のつなが りということが必ずしも必要ではないということも一部分で出ております。そうします と何が必要かと申しますと、その固体の赤ちゃんにとって安心して生き生きと明るく伸 びやかに、自分のままでいいということをよくわかってくれる人だというんですね。つ まり、その子を理解する感受性だというんですね。そして感受性がうまくいっていると きには、その赤ちゃんはお母さんという存在、お父さんという存在を無条件に自分を愛 してくれる存在だと思っています。この無条件という言葉が抽象的でしたから、もう少 し具体的には、うそ、偽りのない共に暮らす関係だと思っています。このうそ、偽りの ない関係を匿名性というものが邪魔しているというところがすごく難しい問題だと思い ます。次のスライドをお願いします。 (スライド)  そして生まれる子の人格発達の課題は、ライフサイクルにわたると思います。生まれ 子は、御夫婦がいやすことのできない喪失体験を担いながら、なおかつ乗り越えようと しているという複雑な心理状態の中に生まれるんですけれども、子どもさんもPrimal Woundといって、原初的な傷をどこか負っているのではないか。この内容に関してはよく わかりませんけれども、例えば試験官の中で育まれといった操作などが、果たしてケミ カルなレベルで、あるいは物理的なレベルで胎児に何かを記憶として残すかどうかわか りませんけれども、養子にやられた子どもたちのアメリカの研究では、アメリカはオー プンに子どもたちをどんどん養子にしていきますけれども、そういう養子にしてはいけ ないデリケートで、そういうものを感じてしまう子どもたちがいるんだということをベ ティ・リフトンなどは提唱しておりますけれども、そういう人たちが言っているPrimal Woundというのは、原初的なブラックホールのような虚無感とかそういうものがあるので はないか。子どもたちが語った限りではあるに違いなと言われています。  子どもたちの語るということですけれども、私どもは、子どもから語らなければいけ ないんですけれども、とりあえずの小児精神保健の目標は、このような悪条件の自然な プロセスを経ることができなかった御夫婦が、でも、それに代わる人間的なサポートの 中で人間的なプロセスを経て子どもさんを育てた場合に、その子どもさんが少なくとも 自分の中のネガティブな感情をきちと言語化できる思春期を迎えられるあたりが一つの 大事なゴールだと思います。そして多くの子どもたちが言葉にできないで自分を痛めつ けたり、衝動的に物を壊したり、キレてしまうわけです。そこを私どもは5年、10年と かかって小児精神保健の外来や入院治療の部屋で親御さんを育て、親御さんをいやし、 親さんを尊重しつつ、血のつながらない親心を持っている社会の応援団として子どもた ちを育てていく、そういうプロセスが必要なんですね。そしてライフサイクルわたる応 援の中でも一番大事なのはやはり乳幼児期だと思います。乳幼児期はどうも脳の深い情 動中枢に体験が焼きついてしまうのではないかと言われています。その次は自覚的に自 分がどこがおかしいということがわかった思春期ですね。同一性の危機には深いものが あります。これは私が前に資料で配付しました生殖補助医療で生まれた子どもたちの心 ということにも書きましたので、時間の関係上少しはしょりますけれども、自分は心の 難民ではないかというようなつぶやきがその一つのあらわれだと思います。  それから先日、NHKで「人間ゆうゆう」の番組を見せていただきまして、私もそこ から学ぶことが多かったんですけれども、その方たちがネットワークでお互いの体験を 交流しているというのを見ますと、私はよくぞそこまで育った、よくぞそこまで大人に なれて、そして社会的にお互いをサポートするサバイバルのメカニズムをつくろうとし ているなということで感心するんですけれども、思春期の課題が大きいですね。  それから、思春期で終わらないというところが問題です。思春期を乗り越えた方が親 子をつくろうとしたときに、親密な関係がまたすごくろくの振り出しみたいに同じ自分 の出自の問題を誘発するんですね。私は出自の問題を抱えて母親になった方や父親に なった方たちの治療を多くしておりますけれども、その方たちはいろんなフラッシュ バックが起きます。そしてフラッシバックが起きるために、掛値なしのうそ偽りのない 母親と赤ちゃんの関係とか、父親と赤ちゃんの関係を見ていると、ものすごくモヤモヤ した、ねたみとも、怒りとも、絶望ともつかないもので苦しみ、我が子に対するそうい う感情を抱く、自分で混乱していかれるわけです。次のスライドをお願いします。 (スライド)  そして生まれる子の人格の発達のリスクでちょっと乳幼児期に光を与えるとします と、それは授かった御夫婦にとってこの子どもさんが大事な子どもになっていくところ です。しかも生殖補助医療という魔法を、新しいテクノロジーの魔法の子どもになって いくということは、いろんな意味でリスクとメリットと両面あると思います。子どもが うまくいかなくなったときの悲嘆が、絶望が大きいということです。そして母親の葛藤 というものを受けていきます。「死んだ母親のコンプレックス」とか、「赤ちゃん部屋 のお化け」とかといったことを、次のスライドをお願いします。 (スライド)  少し映像的に申し上げます。そして子どもの体験記憶の深いところに、無意識の層に そういった母親の苦しみも取り入れられてしまうというところが非常に痛ましいところ だと思います。次のスライドをお願いします。 (スライド)  これがよく「死んだ母親コンプレックス」とか、「赤ちゃん部屋のお化け」というふ うなときに出すスライドですけれども、お母さんがハッピーの最中にふっといろいろな 自分の過去を思い出してしまって落ち込んだりするわけです。それから実際に今順調に 生まれた子どもたちの中でも、10人に1.5 人、お母さんの産後のうつ状態にさらされる 子どもたちがいます。お母さんの産後のうつ状態というのは、怖いお化けの世界なんで すね。赤ちゃん部屋のお化けの世界であって、その原因は多様です。自分の身近なもの の死であったり、心ない近所の人の一言であったり、そういったリスクが普通のお母さ んたちの密室の育児にも襲いかかってくるんですけれども、生殖補助医療というプロセ スを経た方にはもっと何百倍もの形で襲ってくるということを強調せざるを得ないと思 います。次のスライドをお願いします。 (スライド)  もう最後になりますけれども、大急ぎではしょりますと、それは母親の中だけではな くて、夫婦の中でも起きますから、父親がキレていったり、夫婦のプロセスというもの もずっと長く応援していかなければいけない状況がございます。テクノロジーの方は生 殖補助 医療ほど緻密にできておりませんので、次のスライドをお願いします。 (スライド)  先ほど大日向先生が夫の一言で自分が明るく生きていけるか、明るく生きていけない かにつながるとおっしゃいましたけれども、たまたまいろいろなことで落ち込んでい て、夫婦で話し合いたいと思っているときに、夫がボロぞうきんのように疲れて帰って きて、そしてたまたま泣いた赤ん坊に「うるさい」と言ったときに、お母さんはうつ状 態になられるわけです。次のスライドをお願いします。 (スライド)  同じことの強調になりますが、こういったことが、たえず一人の人間としての人権を 保障されるべく、お母さんや子どもやお父さんたちにかかっていくという状況をどのよ うにオープンに私どもが背負っていけるか。健全な意味での母性神話は、私たち血のつ ながらない者がみんなで次の世代を背負っていかなければ、少子化の社会というのは順 調にいっている子どもさえも育たないわけです。  それではこれで終わりにさせていただきます。そこで最後に、いつものことでござい ますけれども、そういった意味で私は精神科の心理のカウンセラーの役割とか小児精神 科医の役割ということを強調したいと思います。申し上げるまでもなく、この領域は精 神障害のリスクが高いところですから、精神科医が危機管理、投薬、入院、治療をしな ければいけません。それから心理カウンセリングも、一般の心理カウンセリングの経験 に加えて生殖補助医療を専門的に学び、かつ深層心理の研修を受けて、そして一つ一つ のケースに関して先輩からスーパービジョンを受ける必要があります。  そして最初に戻しますと、大日向先生のようなカウンセラーがポストの数ほどいる世 の中になりましたら、生殖補助医療だけでなく、あらゆる形の子どもたちの発達の問 題、子どもたちの心の問題というものがクリアできるようになると思うんです。ですけ れども、一人の大日向先生を育てるには大変な御本人の努力とたくさんの患者さんの協 力とそれなりの研修システムが必要です。私も9年間小児科の先生方をトレーニングし てまいりました。確かに資質だと思います。つまり二十四、五年親元で育てられたその 方の心が成熟している方は1を聞けば10を知る。ですけれども、資質がない方、御自分 自身がまだ未解決のトラウマの抱えている方が小児科の領域にいらっしゃいますと、今 では心身症の子どもたちや精神保健の心の問題、爆弾を抱えている子どもたちが入って まいりますから、その方たちが、残念ながらミイラとりがミイラになるように苦しん で、精神的におかしくなっていかれます。これは非常に深い領域を、みんなで経済的な 基盤も、人文科学のあらゆる分野の方たちの応援を経て体制をつくっていかなければい けない領域だと思っております。  時間をオーバーをして申しわけありません。 ○矢崎部会長  どうもありがとうございました。小児精神保健の立場からお話をいただきました。も う既に予定の時間を過ぎておりますので、質疑応答は次の機会をさせていただくという ことで、今日は終了時間が来ましたので、ぜひ一言ということがなければ、ここで終了 させていただきたいというふうに思います。次回について事務局から。 ○小林主査  次回の生殖補助医療部会なんですけれども、6月14日金曜日14時から17時までの予定 となっております。場所はこの建物です。17階の専用第21会議室になっております。次 回のヒアリングなんですが、検討課題1から3までの議論全体に関する参考として、諸 外国の生殖補助医療をめぐる現状ということについてヒアリングを行うことを考えてお ります。ヒアリングの前提となります厚生科学研究の松田班の研究の報告書なんです が、現在製本の途中でして、製本が終わり次第、先生方のもとに郵送で送らせていただ く予定となっております。次回の会合まで御一読いただければと思います。また、各委 員の御意見や御指摘は引き続きメールやファックスで事前に送付いただければと思って おります。資料作成の関係上、締め切りは6月12日の午前中までとさせていただきま す。  最後なんですが、本日、昼食を御用意させていただいておりますので、昼食をとられ る委員がおられましたらば、この場でしばらく待ちいただければと思います。  事務局からは以上でございます。 ○矢崎部会長  それでは、次回は諸外国の生殖補助医療をめぐる現状についてお話を伺って、その 後、今日の御説明も含めた総合的な総論を進めたいと思います。  本日はお忙しいところお集まりいただきましてありがとうございました。もしお時間 がありましたら食事を、大分お腹が空いている委員の方々も多いと思いますので、よろ しくお願いいたします。                    照会先:雇用均等・児童家庭局 母子保健課                          03−5253−1111(代)                              桑島(内線:7933)                              小林(内線:7939)