02/05/13 第11回企業組織再編に伴う労働関係上の諸問題に関する研究会議事録     第11回企業組織再編に伴う労働関係上の諸問題に関する研究会議事録 日時 :平成14年5月13日(月) 10:00〜12:00 場所 :厚生労働省専用第18会議室(中央合同庁舎第5号館17階) 出席者:【研究会参集者・50音順】      毛塚 勝利 (専修大学法学部教授)      柴田 和史 (法政大学法学部教授)      内藤 恵  (慶應義塾大学法学部助教授)      長岡 貞男 (一橋大学イノベーション研究センター教授)      中窪 裕也 (千葉大学法経学部教授)      西村 健一郎(京都大学大学院法学研究科教授、座長)     【厚生労働省側】      坂本政策統括官(労働担当)      鈴木審議官      岡崎労政担当参事官      清川調査官      荒牧室長補佐 【議事概要】 ○ 事務局より、資料に基づき企業組織再編に伴う労働関係上の諸問題についての主要 論点について説明があり、これを受けて、意見交換が行われた。その内容は以下の通り 。 ・ 報告書には、営業譲渡に伴う周辺状況としては、多様な実態があることを明記した  い。 ・ 議論を進めるに当たっては、企業が組織再編を行うに当たって、会社分割と営業譲  渡という選択肢の使い分けをどのように考えるか、また、実際上労働者にとってみて  はそれらの使い分けによって、どのような影響を受けるのかをそれぞれ明らかにする  必要があるのではないか。営業譲渡の法的性格から検討するのではなく、営業譲渡が  持っている経済的機能からどのような措置を図るべきかを考えるべきではないか。 ・ 雇用関係は企業ごとに異なる。営業譲渡は企業間の取引であるので、その実施に当  たり雇用関係の調整が行われるのはやはり必須であると思う。その実態を踏まえ議論  を進める必要があると考える。ヨーロッパの場合は、企業別ではなく産業別労働組合  であるため、企業が異なっても同じ業種であれば類似しているが、日本の場合は労働  条件は企業ごとに定められているのである。統一的ルールを考えるに当たってはこう  した実態を踏まえて検討すべきだ。 ・ 合併と営業譲渡との使い分けについては、債務超過会社を吸収合併出来ないという  制約があるが、その際、組織統合を行うために貸借対照表を作成する際に「のれん」  をどこまで計上できるか、「のれん」を多めに見積もっても、なお債務超過を解消で  きない場合には、合併を行うことはできず、営業譲渡を行わざるを得ないという実態  がある。また、合併は全財産を移さなければならないが、営業譲渡の場合はある部分  だけを任意で移すという選択ができる。   企業にとって会社分割よりも営業譲渡を用いることのメリットとしては、会社分割  が商法改正前の合併よりも債権者保護手続が厳格である一方で、営業譲渡には債権者  保護手続は全くないという点がある。 ・ 重要な財産を譲渡されてしまっては、譲渡会社の債権者は困らないか。 ・ 重要な財産を譲渡した会社には、必ず対価が入ってくる。この対価が不当に低い場  合は民法上の詐害行為取消権を行使することができるため、営業譲渡において債権者  保護手続がなくとも問題はない。 ・ 合併と営業譲渡とで異なることは、合併の場合は移転する資産に対する支配を及ぼ  す主体が再編前後で変わらないが、営業譲渡はあくまでも売却であるため経営権が移  り、資産に対する支配者が変わる。これが経済的側面から見ると大きな相違点であろ  う。 ・ 労働者が変わるか変わらないかが、合併と営業譲渡間の大きな違いだろう。合併の  場合は、労働契約は何ら変わらずに移る。会社分割の場合は、どちらの会社に所属す  るかという問題はあるが解雇という問題も起きてこないし、労働条件も変わらない。  営業譲渡については、これらと異なり、それを機会に雇用調整や労働条件の変更を行  いうる。これが大きな違いだろうと考える。 ・ 人の問題を議論する以前に、なぜ営業譲渡を用いるのかといった商法学的なところ  の検討が必要だろう。 ・ 商法的に見ると、労働者を必ず引き受けなくてもよいという面では、営業譲渡の方  が楽である。反面、裁判所の選任する検査役による手続、全ての債権債務関係を個別  に移転する手続が煩雑であること、土地等について取得時と譲渡時で大きく価格が異  なる場合に譲渡元・先のどちらで評価をして税を負担するかの問題が大きいものであ  り、営業譲渡についてはこれらの手続や費用面がネックとなっている。 ・ 営業譲渡に伴う労働者の承継について、学説はいろいろあるが、実定法上民法第6  25条が存在しており、この壁を越えなければ簡単に当然承継だと言いきることはで  きないであろう。会社分割法制は、この民法第625条をクリアーするための理論で  あったが、営業譲渡については、当然承継により「譲渡先に移る不利益」をこの62  5条で担保しているのであり、「譲渡元に残る不利益」については解雇法理で担保し  ている。その他、使用者が邪な考えを持っていた場合については不当労働行為や法人  格否認の法理で救われている。 ・ 営業譲渡で組織再編をスムーズに行うことを阻害してはならない。ただし、そこで  どういうルールでやるかということになった場合に、営業譲渡は企業同士の取引の問  題だから自由だということを尊重しつつ、労働者を承継させるというルール作りをす  ることは合理的なことだと考える。 ・ 会社分割は、分割後、両方の会社とも債務超過などなく、正常に存続していくとい  う建前で整理されている。合併の場合も、存続会社を正常の会社とする以上、再編後  も両会社が企業としてやっていけることが大原則である。これに対し、営業譲渡の場  合は必ずしもそうではない。会社全体としては立ちゆかないがこの事業だけは譲渡す  ることにより救いたい、あるいは会社全体としてはうまくいっているが、この事業は  どうもうまくいかないといった場合に譲渡することにより事業再構築を行う。そうい  った機能が、営業譲渡には期待されているわけであり、こうした機能を活かしながら  、労働者保護をどのように図るかということであろう。営業譲渡全体を捉えて、一律  の枠をはめようとするのではなく、産業再生法、民事再生法、会社更生法等様々なツ  ールに基づく営業譲渡を整理し、いったいどの営業譲渡がどのように問題なのかを考  えるべきである。  ・ だから、営業譲渡の機能面から考察すべきと主張してきた。どの営業譲渡をモデル  ケースとして考えるべきかは重要である。 ・ 会社分割法制について、使用者側から「我が社の不採算部門を切り捨てるのに会社  分割を使えないか」という質問をしばしば受けた。できない旨を答えてきたわけだが  、倒産法制を用いると会社の信用に傷がついてしまうこともあり、会社分割を使えな  い不採算部門切り捨てのケースで営業譲渡で対応を図るというニーズが認められる。 ・ そのようなケースの営業譲渡で、労働者の承継を図る措置をとると、「移る不利益  」が発生してしまう。 ・ 日産からIHIへの譲渡のように、営業譲渡対象事業の発展を企図する前向きの形  態の譲渡で、労働者もまたそれを望んでいるという譲渡もある反面、そうでない譲渡  もあり、非常に範囲が広い。 ・ 西相信用金庫の事例に係るヒアリングにもあったように、預金だけ引き継いで労働  者は引き継がないという営業譲渡形態もあるわけで、あまりにもフレキシブルで、そ  の分使い勝手がいいのだろうが、労働者保護措置としてはどのように対処すべきだろ  うか。 ・ 前者の営業譲渡では、何らかの措置を図ることは当然不要であるが、後者の営業譲  渡では労働者としてはたまったものではなかっただろうが、これだけの負債を抱えて  いたのであれば仕方がないという考えも当事者にはあったことだろう。 ・ 営業譲渡により切り離した不採算事業のみで成る新会社設立については、商法上の  規制はない。資本金一千万円以上さえ満たしていれば、株式会社の設立はできる。 ・ これだけ多様な目的、形態の営業譲渡がある中で、前回の研究会の報告書のように  営業譲渡を一律に考えて分析することには無理があると思う。 ・ 日産からIHIへの営業譲渡のように、明るいイメージの営業譲渡については当然  承継説により労働者を承継させた方が良いが、将来潰してしまうような営業譲渡では  当然承継説を採るのは適切ではないだろう。これは当然承継説に立ちつつ個別同意を  取るという構成に立つということなのか。 ・ 個人的にはそうした構成が適切だと考えるが、裁判所の論理構成も便宜的で事案に  より当然承継説に立ち、あるいはそうでない等柔軟な対応をしている。法人格否認の  法理により対処しているものもあるが、もう少し簡易な法理はないものか。 ・ 商法では、法人格否認の法理は最後の手段であり、使い勝手は良いものとは言えな  い。その割には、労働裁判ではよく活用されていて意外だと思った。 ・ ドイツにおける共同事業所の責任のように、二つの企業が共同で責任を負担する法  理は考えられないか。 ・ 事業を子会社化するような営業の一部譲渡では親子会社での共同責任を考える余地  はなくはないが、全部譲渡のような形で元がなくなってしまえば共同責任を考える余  地はなくなる。 ・ 譲渡当事会社がそれぞれ関連会社である場合は、そうした考え方も可能ではあろう  が、関連会社ではない場合については取引の問題となる。 ・ タジマヤ事件の判旨に見られる「労働契約の承継に係る黙示の合意が推認」とある  が、これはよくある理論構成なのか。 ・ これは特殊な事案で、労働者が整理解雇されてその地位を巡って係争中に営業譲渡  がなされた事例である。裁判の結果、解雇が無効となり、譲渡会社での地位が確認さ  れた結果、他の労働者が全員承継されているということで、その一人だけを排除する  理屈はないということで、黙示の合意推認という法理になったものである。 ・ 営業譲渡問題のハードルの一つ目として、営業譲渡は取引行為だから、特定労働者  を排除することも自由ではないかということに対しては、どのような考え方ができる  か。 ・ 「営業」という概念に人が含まれるかどうかという点だろう。当該営業に密接な労  働者については、営業を構成していると考えることができようが、代替可能な労働者  については営業を構成する労働者に該当しないと考えざるを得ないだろう。10人の  代替可能な労働者が従事している営業について、労働者が余剰で営業譲渡後8人しか  いらないという場合について、労働者は当然に営業の一部を構成するとして10人全  員が承継されるということにはならないであろう。 ・ 我妻先生等の学説では、労働者は企業施設と有機的一体の組織体を構成するので営  業譲渡に伴い原則として承継すると、労働者と営業との関連の度合いについて分析す  ることなく述べているが、やはり労働者は無条件に営業と一体とは言えないであろう  。 ・ 原則承継説に立つ我妻先生や幾代先生と、非承継説に立つ石井先生とでは、企業観  が異なるのではないか。つまり、我妻先生等が考える営業は、株式会社等の企業体を  考えているのではなく小さな人的会社を想定しているのに対し、石井先生は人と企業  との関係が薄い株式会社のような企業体を想定しているのであろう。それで差が生じ  ているのではないかと考えている。 ・ それでは、欠くべからざる重要な役割を果たす労働者が、営業譲渡に伴い譲渡先に  移らない場合については、「営業」の一部が欠けることとなる結果営業譲渡が成立し  ないということにはならないのか。 ・ 営業譲渡の譲受会社が、譲渡対象となる事業に欠くべからざる労働者が移らないこ  とを知って、営業譲渡契約を締結しているならば何ら問題はない。 ・ ヒアリングを行った企業等では、当該営業に欠かせない労働者が移りやすいように  上乗せ金を積んで、必ず来てもらえるよう努力をしている例がある。また、ヒアリン  グ対象企業ではないが、営業譲渡に伴い労働者の全員が移らないのであれば営業譲渡  計画はなかったものとする旨の合意を当事会社間で交わしていた事例もあり、実務上  は当事会社間で欠かせない労働者を確実に転籍させるよう条件を付して営業譲渡契約  を結んでいるものと考えられる。 ・ ドイツでは、労働者に転籍を拒否する権利があるので、事業に欠かせない労働者が  転籍することを保証しないと、そもそも営業譲渡は成立しない現実がある。日本でこ  のドイツのような取扱いをすること、すなわち営業譲渡が行われる場合には労働者は  原則として承継されて、労働者には拒否権もあるという取扱方法には具体的にどのよ  うな問題点があるか。  ・ つまり、余剰人員がもしある場合には、営業譲渡の前か後のいずれかで整理解雇を  行うことになる。資料No.5の「倒産法制における営業譲渡の取扱い」をみると、破産  法は別にして会社更生法でも民事再生法でも労働組合の関与がかなり認められている  ところだが。 ・ 営業譲渡で人の削減を行おうとするのならば、そのような労働組合の関与を図ると  いう取扱いになるのではないか。  ・ 民事再生法は最近立法されたものなので労働組合の関与する範囲は若干広めとなっ  ているが、会社更生法と民事再生法の大きな違いは、会社更生法は厳格な手続である  ので更生計画に基づかなければ営業譲渡を行うことができないのに対し、民事再生法  は迅速に営業譲渡を行わなければ会社資産は急速に劣化してしまうので再生計画に基  づかずに営業譲渡することが可能である点である。そうした再生計画に基づかない譲  渡を行う場合については、その実施に先立って労働組合の意見を聴取しなければなら  ない旨の関与規定が置かれているわけである。 ・ 会社分割と異なり、類型的に人の整理の問題が起こるのが営業譲渡だと思う。人の  移転のルールと、人の整理のルールをどう組むかが問題ではないか。 ・ 営業譲渡に伴う労働条件の変更及び労働協約の問題はどうか。 ・ 営業譲渡に伴い退職金が清算されるケースがほとんどなのか。 ・ ほとんどとは言い切れない。そうではなく、そういったケースが相当あるというこ  とだ。営業譲渡の際に、労働契約の合意解約・再雇用という形態をとるものが多いが  、そういった手法をとってはならないという理屈を立てることは難しい。企業の契約  の自由を制約することはできない。 ・ 労働契約の合意解約・再雇用といったものが、脱法的なものとなる場合、すなわち  そのタイムラグが非常に短い場合などでは、営業譲渡の法理を適用するといったこと  は可能なのではないか。 ・ あくまでも労働者が合意をしている。その合意に基づいて、譲渡会社での契約を一  旦切り、譲受会社と新たに契約を結んでいるわけである。退職金・年金の引き継ぎが  今まで通りの水準でというわけにはいかないが、労働契約の終了・再雇用という形態  をとってはならないという法理は通用しないであろう。なかには、譲渡会社で100  人抱えているが、譲受会社で50人しか引き継げないというケースはあろうが。 ・ そういったケースが起こるのは個人的にはおかしいと思う。引き継がれない50人  が出てしまう以上は、営業譲渡の法理を考えなければならないと思うが。 ・ その場合に、譲受会社で、全て100人の労働者を引き継がなければならないとい  う法理、あるいは立法措置というのは困難だ。 ・ 譲渡の相手が、身内であるグループ会社という場合には、EUの既得権指令のよう  に全員を引き継ぐという法理を考える余地があるのではないか。そこまで見過ごすこ  とは良いのか。 ・ そこは営業譲渡される「営業」には、人が一体的に含まれているか否かという問題  だろう。現在、「営業」には人は有機的一体として含まれるという考え方にはなって  いないのではないか。 ・ 従来の考え方にいう「営業」は、製造業における工場のように製造ラインで働いて  いる労働者が確実にいるようなものをイメージしているであろう。それが現在では、  コンピュータソフトを作る会社におけるSEのようにほとんど物がなくて、人が創造  的な役割を果たしているというケースも出てきている。 ・ 議論に際して、詳細な場合分けが必要だ。営業の全部譲渡で譲渡会社がダメになっ  てしまっている場合、そうではなく一部譲渡で譲渡会社・譲受会社のどちらをダメに  しようとしているのか。また、譲渡先がグループ外かグループ内か。まずは、人の移  転のルールをどうするかを大前提を議論しなければ、次の議論には進めない。   営業譲渡に伴い余剰人員の削減がなされることをどう考えるか、原則として全員を  引き継ぐという考え方をどう考えるかの問題だ。その前に、営業譲渡は取引行為であ  るから、人を引き継ぐも引き継がないも自由だというならそれまでだが。 ・ 会社分割に伴う労働契約承継法では、分割に伴い移る労働者については当然承継・  拒否権無しである。営業譲渡について、当然承継・拒否権ありというのは今までにな  い考え方だ。労働契約の取扱いとして、会社分割との整合性をどう考えるかが問題と  なる。 ・ ここでいう労働契約の「承継」とはどういう意味か。労働条件を当然今まで通り引  き継ぐことをも含む概念なのか。営業譲渡に伴い、当該営業を支配する経営者が異な  れば、会社の労働条件が大幅に異なるものになることは当然であるし、あり得ること  であると考える。合併の場合は、マネージメント(経営者)も労働者もペアで新会社  に移ることとなるが、営業譲渡は譲渡される営業に対するマネージメントは引き継が  れず手を離れることとなる。そうした中で、労働契約の承継とはどういうことを意味  するのかが不明確だ。 ・ それは二段階から成っていて、一つ目は労働契約の土台が引き継がれること、二つ  目が労働条件が引き継がれることであろう。 ・ 使用者が異なれば、労働条件が変わるだろう。 ・ 仮に、日本でもヨーロッパのように、営業譲渡に伴い労働者を全て引き継ぐという  旨を条文に書けば、あとは譲渡会社と譲受会社のどちらで整理解雇をするのか、労働  条件の調整をどうするのか、という形で問題が純化されて非常にクリアーになると思  うが、そこまで踏み込むことが可能だろうか。 ・ そのような立法をすべきと主張しているのではない。承継する旨の合意がなされた  場合に、その合意は労働契約の引き継ぎを合意したことを意味するのか、それを越え  て労働条件が変更されず今まで通りであることを意味するのかを明確にしたいという  ことだ。 ・ それならば、二段構えの考え方で良いだろう。あるケースでは、労働者全員を引き  継ぐことはできないということが問題となるだろうし、また別のケースでは、全員を  引き継ぐけども今まで通りの労働条件を維持することはとても無理だということが問  題となるものもあるだろう。 ・ そうした考え方で結構だと思う。最初の大前提の段階で、営業譲渡についてどの労  働者を引き継ぎ、引き継がないかは当事者の自由だというところからスタートするな  らば、どのような労働者保護を考えることができるのか。取引の自由からスタートす  ると労働者の保護のコントロールをかけることは困難になるのではないか。 ・ さまざまな営業譲渡のスタイルがある中で、そのような法理を一律にかけることは  簡単に認められるのか。 ・ それはそうであろうが、仮に特定の形態の営業譲渡についてはどのようなルールを  適用すべきかという場合分けを考えることはできよう。対象を区切って議論するにし  ても、大前提を議論しなければ先には進めない。 ・ 営業譲渡先に移れなかった労働者は譲渡企業に残って余剰人員となるわけだが、解  雇規制によりそう簡単に解雇できるものではない。どんな企業でも余剰人員は抱えて  いるわけで、ビジネスがうまくいっていない場合では、取り扱う職を変えてもらって  配置転換するなど何らかの調整を行わざるを得ない。譲渡会社には使用者責任があり  、余剰人員について配置転換をする等の責任がある。こうした中で、営業譲渡の時に  、経営のマネージメントが異なる営業譲渡先で必ず人を全員連れて行かなければなら  ないという理屈は困難だろう。 ・ フランスでは、営業譲渡に伴い労働者は全員譲受企業に承継され、余剰人員があれ  ば譲受会社で整理解雇を行う。あるいは、譲渡会社であらかじめ整理解雇を行ってお  いてから譲渡をするといった取扱いが行われている。移転に伴う選別はダメだろう。 ・ それは、承継された労働者は譲受会社に初出勤してみたら、いきなり解雇だという  ことを意味するのか。 ・ 営業譲渡契約の交渉の中で、譲受会社が労働者に支払う解雇予告金等のコストを含  ませて交渉するということだ。 ・ 今の議論の中に市場原理はどこまで考慮されているのか。その主張に基づくとする  ならば、必ず労働者を譲受会社に引き継がなければならないとするならばその分譲渡  金額はディスカウントされるであろうし、譲渡金額を高くしようとするのであれば譲  渡会社において労働者を削減することになるはずだ。 ・ そうであろう。譲渡会社において削減すれば合理的な場合もあるであろうし、また  逆の場合もある。買収する側の企業が急成長していれば余剰労働者を含めて高く営業  を購入する場合もあるであろうが、そうでないことも多く、仮に雇用調整をするとし  ても営業譲渡の前にすべきか、後にすべきはケースバイケースだ。 ・ そうだとすると、営業譲渡に伴う人の移転については固定的ルールを作るのではな  く、大枠だけを定めることにしておかざるを得ない。労働者の承継を定めたルールを  作るとしても、整理解雇の問題とタイアップとならざるを得ない。雇用調整を営業譲  渡の前でやるべきか、後でやるべきかの事情がケースバイケースなのであれば、法律  の条文で細かくルールを定めることができるのかは懐疑的だ。そのあたりのフレキシ  ビリティを含んだルール作りしか困難だ。 ・ 吸収分割の場合、分割に伴って労働者を選別したり排除することが出来ないので、  仮に引き受けた労働者が少し余剰だといった場合には、承継会社が雇用調整を行うこ  とになろうが。 ・ 日本の場合は、整理解雇4要件に当てはまれば、解雇をすることは当然できる。E  U既得権指令でも、どの段階まで解雇が禁止されているのかというと、営業を移転す  る段階での解雇を規制しているだけであり、営業の移転が完了した後に解雇をするこ  と自体は制約はしていない。 ・ さまざまな形態の営業譲渡について、場合分けをして、「この原則に立てばこうい  ったケースではこういった帰結になる」ということを踏まえて議論する必要がある。 ・ 最後に、商法の世界では、営業譲渡は包括承継ではないことが確立した考え方とな  っており、営業譲渡であるから労働契約について包括承継的な考え方を入れて当然に  承継させようという議論は、商法的な考え方とは相反することを言っておきたい。そ  れに上乗せする形で、労働法的な特則を入れるというのであれば理解できるが。 ・ 問題としているのは、営業譲渡は取引行為であり、労働契約を承継するもしないも  自由だという考え方が適切かどうかだということだ。 ・ もう一つ、営業譲渡における「営業」の概念がはっきりしていないことが気にかか  る。会社分割制度については、商法においてしっかりと枠組みを組み立てた結果、「  これ以外は会社分割ではない」といった分水嶺が明確になっているが、仮に立法措置  で条文を構築する際に「営業譲渡」と規定するにしても、それが単なる会社資産の譲  渡の場合は含まれるのか否か等が問題となり、果たして範囲を明確に規定できるかど  うかは疑問である。 ・ 昔の学説も、当然承継ではなく原則承継であり、明示的な特約があれば労働者は排  除してもよいといった考え方である。その意味では、さほど大きな違いはないだろう  。もしその原則承継説を立法化したとしても、使用者側の弁護士は「労働者を明示的  に外す契約を交わしなさい」とアドバイスをすることによって対応することになるだ  ろう。それを許さないところまで立法措置をすべきなのか。 ・ もし仮にそうするのであれば、譲渡される対象をはっきりしなければならない。 ・ EUの場合は、「企業移転」や「営業」が明確に規定されているにもかかわらず、  譲渡される対象部分が特定の資産なのか、営業なのかはよく問題となるところである  。日本でも、同じことになるのではないかという気はする。特定承継でやるならば、  「濫用的な営業譲渡契約を結んではいけません」ということが定まればよい。                                      以上          担当:政策統括官付労政担当参事官室法規第3係(内線7753)