02/04/02 第10回企業組織再編に伴う労働関係上の諸問題に関する研究会議事録   第10回企業組織再編に伴う労働関係上の諸問題に関する研究会議事録 日時 :平成14年4月2日(火) 13:30〜16:00 場所 :厚生労働省専用第16会議室(中央合同庁舎第5号館13階) 出席者:【研究会参集者・50音順】      毛塚 勝利 (専修大学法学部教授)      内藤 恵  (慶應義塾大学法学部助教授)      長岡 貞男 (一橋大学イノベーション研究センター教授)      中窪 裕也 (千葉大学法経学部教授)      西村 健一郎(京都大学大学院法学研究科教授、座長)      守島 基博 (一橋大学大学院商学研究科教授)     【厚生労働省側】      坂本政策統括官(労働担当)      鈴木審議官      岡崎労政担当参事官      清川調査官      荒牧室長補佐     【日本労働研究機構側】      佐藤主任研究員      渡邉研究員 【議事概要】 ○ 日本労働研究機構より、資料に基づき企業組織再編に係る実態調査の調査結果につ  いて報告が行われた後、これを受けて、意見交換が行われた。その内容は以下の通り。 Q: グループ内の組織再編と、グループ外のそれでは、退職金の取り扱いについて差   はあるか? A(JIL:以下同じ)  : グループ内外という切り口では、差は大きく変わらない。企業組織再編が消極的   な目的でなされた場合、これを契機に下がったケースもある一方、積極的な目的で   なされた場合、これを契機に上がったケースもある。 Q: 退職金カーブが年功序列型から、業績・成果に見合ったポイント制への移行がみ   られるため、今後退職金の清算によって生じる不利益が減っていくだろうというこ   とだが、退職金のカーブが今後フラットになっていけば、不利益が減っていくとい   う理解か?  A: そのとおりである。 Q: 譲渡後において退職金受取額水準が下がる場合について、具体的にどの程度下が   っているのか。 A: 調査対象となる労働者や、企業ごとにより状況は様々であろうということ、また   、調査票設定が大変複雑になってしまうということから、お尋ねの件については把   握していない。 Q: 資料No.1-1の6頁にある、「営業譲渡の理由の一つとして雇用確保」とあるが、   これはどういう意味か。  A: 特に他の就業機会に恵まれない地方の工場などにおいて、経営が悪化し、このま   までは事業ごと倒れてしまうという事態に追い込まれたとき、従業員の雇用を確保   するために、営業譲渡をするということを意味するものである。    また、人材が根幹となっているIT企業などでは、転籍対象となるSE等が同意   しなければ営業譲渡が成立しないので、一人一人の労働者に個別に協議の場をもち   、全員が同意したときに、営業譲渡先を探し、熱心に交渉するという現実もある。 ・ 譲渡をする理由によって、プロセスが変わってくるイメージだ。倒産時など時間的  余裕がない場合の譲渡については労働者への対応は荒っぽいが、きっちりとした理念  があって行う前向きな目的で行う譲渡では、労働者、労働組合等に確実に通知し、雇  用が確保されている印象だ。 Q: 営業譲渡に伴い、上部機関への加盟や、組合支部組織の再編等、労働組合の組織   構成がどのような影響を受けるものであるのか。 A: 今回の調査が、お尋ねの件について答えるものではないが、営業譲渡に伴い、組   合組織が縮小していくと組合の交渉力が低下する等の影響はあるものと理解してい   る。 Q: 2点お尋ねしたい。1点目に、今回の調査により、営業譲渡前後において労働条   件が維持されているケースが比較的多いということだが、その「維持」はその後ど   の程度継続するものなのか。2点目に、「賃金等労働条件を維持しないと譲渡でき   ない」という規制を設けたとするならば、それは営業譲渡をどの程度制約する要因   となるとお考えか。  A: 1点目については、営業譲渡後、1〜3年を目処に労働条件を調整する企業が多   いとの感触を持っている。2点目については、そこまでの感触は得ていない。 Q: 営業譲渡の対象になっている企業は、不採算事業が多いのか。その「営業」の中   身はどのようなものであるか。 A: 資料No.1-3の12頁によると、営業譲渡先は譲渡元よりも従業員規模は小さいもの   の、労働条件はほぼ変わらないケースが多い。    なお、ヒアリング調査においては、実際に営業譲渡を行った使用者若しくは労働   組合等を調査対象としており、この調査を以て営業譲渡の対象になっている「営業   」の中身について云々することはできない。 Q: 営業譲渡に際し、労働組合への通知、事前協議等を着実に行ってきたものの、営   業譲渡が譲渡先の事情等で成立せず、結果として労働者に不利益が生じてしまうケ   ースのような、営業譲渡が行われないことに伴う不利益ということはこの調査は考   慮しているのか。  A: 今回の調査は、実際に営業譲渡を行った企業の使用者若しくは労働組合から話を   聞いたり、アンケートに答えてもらっているが、お尋ねのようなケースについては   把握していない。  Q: 資料No1-3の14頁、「営業譲渡計画の事前通知(SA)−企業調査Q14-1」で、「   労使協議の相手方がなかった」と回答している企業が19.1%ある。これは、通知を   したいが協議対象となるべき労働者の組織がなかったということか、通知を渋った   結果ということなのか。  A: 資料No1-2によると、労働組合等への通知は比較的よくなされていることが読み   とれるが、会社更生法等の倒産法制を活用した事例等、譲渡企業が経営破綻に直面   している事例では、直前になるまでまったく通知がなされない事例もみられた。 ・ 事前通知はよくなされているというが、これは労働組合等が存在するなど労使協議  ができる前提がある事例が中心であると考える。労働組合の組織率が低下している昨  今、無組合企業が多くなってくると通知がなされないのではないか。   ・ 使用者側、労働者側で「事前通知」という言葉を異なったように把握しているので  はないか。つまり、使用者側は相手方との交渉が既にまとまっていて、後は労働組合  が納得すれば全てを実行できる段階で労働者側に行う通知を「事前通知」と考えてい  るのに対し、労働者側は営業譲渡計画が確定する前の早い段階で行われるものを「事  前通知」と考えるのではないかという見解を持っている。  Q: 今回の調査対象事例では、転籍を拒否した労働者の取扱いはどのようになされて   いたのか。 A: 一部を除いて、基本的に営業譲渡に伴う転籍を迫られた労働者は拒否をしていな   い。それは、転籍を拒否すると、これまで従事してきた仕事をすることができなく   なってしまうということや、営業譲渡元にとどまったとしても転居を伴う配置転換   を受けることとなることが原因であろう。また、営業譲渡に際し、会社が希望退職   者を募り、これに労働者が応募するというケースも多い。 Q: 営業譲渡に伴い退職金を清算する場合(転籍に伴う清算、希望退職に基づく清算   をともに含む)、額の算定は、会社都合退職の基準により行われているのか。 A: 譲渡に伴い退職金を清算する場合、会社都合退職として処理し、逸失利益を補填   するとともに多少のプラスαを付けて支払うケースが多い。     ○ 事務局より、資料に基づき、これまでの研究会で行ってきた実態把握を踏まえた企  業組織再編に伴う労働関係上の取扱いに係る状況について、説明が行われた。   これを受けて、研究会の今後の議論の進め方等も含めて意見交換が行われた。内容  は以下の通り。 ・ 現状の分析については、概ね資料No.2-1のとおりでよいのではないか、と思う。 ・ 事務局の用意した資料No2-1では、日本については企業組織再編をとりまく実情把  握、諸外国については企業組織再編に適用される法制度についてとりまとめられてい  るが、日本についても判例法理を含めた法制度についてもまとめ、検討すべきではな  いか。  最終的には、「日本の法制度」「日本の現状」「諸外国の法制度」の順番にきて、そ  れらを受けて、「今後どうするのか」についての記述になるのではないかと思う。 Q: 会社分割と営業譲渡の使い分けがどのようになされているか。 A(事務局:以下同じ)  : 日産、旭化成のヒアリングにおいては、税の問題等により使い分けがなされてい   るが、一般的にどうかということまでは把握できていない。当該企業組織再編税制   により、課税の面で会社分割は有利になる場合がある反面、営業譲渡により企業が   キャッシュが入ることを求める場合もある。 Q: 本日報告いただいた実態調査も含めて、当研究会で営業譲渡の実態把握をかなり   行ってきたが、労働関係上の取扱いについて大きな問題となった営業譲渡について   もっと知りたい、というのが本音だ。営業譲渡時における労働契約の取扱いに関す   る事案で、労政事務所や総合労働相談コーナーへの相談は行われているのか。 A: 問題となっている事案をできる限り把握するために、ヒアリング調査においては   、連合等の協力を得て組合調査を行ったところである。確認はしてみるが、労政事   務所における相談は、解雇事案、労働条件の不利益変更事案という切り口で整理は   されていても、営業譲渡に伴うか否か等、その背景事由については整理されていな   いと思う。総合労働相談コーナーへの問い合わせについても同様であると思う。 ・ 解雇自由原則のアメリカでは、営業譲渡時でなくとも解雇が比較的自由に行い得る  。日本の場合、解雇については、判例法理により整理解雇4原則が確立してはいる  が、当研究会で議論している営業譲渡等が行われるケースのような、労働契約の継ぎ  目の部分に対する考え方が希薄である。 ・ 営業譲渡時における労働契約の承継に関する判例及び学説について、整理を行う必  要があるのではないか。第1回研究会の資料からは、判例は黙示の合意を媒介として  労働者の承継について妥当な解決を図っているということを理解できたが、倒産関係  事案、不採算事業切り捨て事案等、それぞれの事件の背景にある事情はさまざまであ  る。判例の事案の背景事項についてより細かな検討を加えるべきではないか。 ・ これまで実態把握してきたものについて、類型化して整理する必要がある。  今後の研究会の議論の進め方としては、これまでの実情把握を踏まえ、フリートーキ  ングにより行うことが望ましいのではないか。 ・ 次回の研究会でのフリートーキングに向けて、事務局には若干の資料を提出いただ  き、それを踏まえて議論したいと思う。 (事務局) 今後のスケジュールについては、次回研究会を5月13日(月)、次々回      を6月19日(水)に予定している。                                      以上 担当:政策統括官付労政担当参事官室法規第3係(内線7753)