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JAグループの介護保険制度の改善要望事項

平成14年3月
全国農業協同組合中央会
JA高齢者福祉ネットワーク


1−1.訪問介護サービスの区分について

 基本的には訪問介護区分の一本化が望ましいが、介護保険制度の目的を達成するためのサービス区分という視点から、少なくとも区分の簡素化を行うべきである。区分の簡素化については、身体介護と生活介護の2区分とし、生活介護の中に従来の複合型・家事援助を含めるような区分設定・報酬単価について検討を行うべきである。

(1) 誤ったイメージを生みやすい「家事援助」という名称

 介護保険制度は、「要介護者等について、これらの者がその有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるようサービス給付を行ない、国民の保健医療の向上及び福祉の増進を図る」ことを目的としている。家事援助もその中の一つのサービスであり、サービス提供責任者を配置し、援助目的をもって個別援助計画やカンファレンス等を行ないながらサービス提供を行うことが求められている。
 しかし「家事援助」という名称のため家政婦・お手伝い的なイメージを利用者他が持ちやすい上に、報酬単価も家政婦派遣事業者レベルの利用料金水準の設定となっている。
 現行の「家事援助」という言葉は、介護保険の目的と内容からかけ離れており、福祉専門職の提供するサービスとして誇りの持てる「生活介護」といった名称とすべきである。

(2) 専門性のある「家事援助(生活介護)」

 「家事援助(生活介護)」は、利用者一人一人の価値観、暮らしぶりを尊重しつつ、生活の質を維持し高め、心と生活を前向きにさせるホームヘルプの基本的サービスである。限られた食材で健康維持をはかるための調理を行うなど、栄養学や家政学等に関する知識や技能が必要である。さらにこうした援助を通じて心のケアにつながるコミュニケーションの技術も習得しなければならないなど、家事援助(生活介護)は利用者の全人格と全生活に関わるサービスであり、きわめて専門性があり細やかな配慮が必要なサービスである。
 在宅での生活を維持する目的の「家事援助(生活介護)」は、家事の代わり(援助)をするという位置付けでなく、QOLを向上させるための総合的な日常生活の介護という位置付けが適当である。

(3) 身体介護・複合・家事援助という3区分の問題点

 利用者の日常生活をみたとき、身体介護と家事援助の双方が含まれたサービス提供がごく自然な自立支援の形であり、身体・複合・家事の序列や区分を設けること自体が目的とニーズにあったサービス提供を妨げている面がある。
 利用者は身体介護が必要であっても利用料が極端に低い家事援助を希望し、その結果、「家事援助であっても身体介護サービスをせざるを得ない場合がある」、「明確に身体・複合・家事が区分できない」、「高齢である利用者に理解できず納得されない」などの問題を包含しつつサービスを提供しているのが実態であり、制度上の問題を事業者が背負う状況になっている。

(4) 身体介護と生活介護という2区分に簡素化

 基本的には訪問介護サービス区分の一本化が望ましいが、少なくとも現行の区分の簡素化を行うことが利用者本位のサービスにもつながると考える。
 実際の現場では、純粋に掃除・買い物・調理のみの「家事援助」は少ない。「家事援助」でサービスに入っても、何らかの形で日常動作の援助や日常生活における身体管理を行っている事も多い。利用者にしてみれば単価的に低い「家事援助」での依頼は多いが、内容的にも無理があり、現在の「家事援助」は実質的には「複合型」である場合が多い。
 制度の目的からしても食事を一緒に作る、できる範囲で掃除を一緒に行う、きちんと食事を食べるのを見守る、食事介助するといったことで在宅における日常生活の自立支援を達成することが本来のあり方である。
 また、利用者が老夫婦世帯や、独居(日中独居含む)の場合には、純粋な「家事援助」サービスが在宅生活を継続する上での必要不可欠な基盤サービスであり、介護保険制度の枠外とすべきではない。
 このため区分の簡素化については、身体介護と生活介護の2区分とし、生活介護の中に従来の複合型・家事援助を含めるような区分設定・報酬単価について検討を行うべきである。


1−2.家事援助単価の引き上げについて(3区分が現行どおりの場合)

 現行の家事援助の報酬単価では、家事援助を受ければ受けるほど赤字が拡大する状況である。今後も継続的に利用者本位のサービスを提供していくためには、現行の家事援助の重要性を適正に評価し、報酬単価を大幅に引き上げるべきである。

 現行の家事援助の報酬単価は、1時間あたり1,530円である。この報酬単価では、ヘルパーならびにサービス提供責任者・管理者の給与、移動時間費用、準備・報告のための費用、交通費、カンファレンス費用、教育研修費用、エプロン・手袋・消毒薬等の経費、事務管理経費、キャンセル時のヘルパー報酬補償、社会保険料負担等をまかなうことは不可能であり、家事援助を受ければ受けるほど赤字が拡大する状況である。
 JAグループでは、条件不利地域である農村部を中心に訪問介護事業を展開している。現在、1か月あたり利用者1万人超、20万時間超の訪問介護サービスを提供しているが、身体:複合:家事援助は、この1年間を通して24:29:47(平均単価2,490円)の比率であり、±2ポイントの範囲でしか変化がみられない。
 経営的にはJAの364事業所のうち8割の事業所が赤字である。経営収支上の観点から戦略的に利用者ニーズを誘導すれば、家事援助比率を低く抑えることは可能であるが、それでは介護保険の目的に即した利用者本位のサービスを提供することにならない。いいかえれば家事援助比率47ポイントという利用実態が現在の利用者ニーズを表している。  家事援助は、前述したように利用者の全人格と全生活に関わるサービスであり、きわめて専門性があり細やかな配慮が必要な「生活介護」サービスである。
 サービス提供量は順調に増加しており、ある程度収支も改善するとみられるが、今後も継続的に利用者本位のサービスを提供していくためには、現行の家事援助の重要性を適正に評価し、報酬単価を大幅に引き上げるべきである。


2.サービス提供責任者の設置基準について

 現行のサービス提供責任者の設置基準は、ヘルパー人員またはサービス提供時間基準を満たす必要があるが、業務実態およびサービス利用実態に合わない状況がみられるため、現行の設置基準の運用を改善すべきである。

 サービス提供責任者には、アセスメント・訪問介護計画作成、ヘルパー派遣調整、家族との連絡、苦情処理、モニタリング、カンファレンス、ヘルパー資質向上のための指導、他機関との連絡・調整など幅広い業務を行う中で、訪問介護サービス品質の標準化、維持・向上をはかる重要な役割を担っている。
 このため一定の基準に従い、サービス提供責任者を設置することはサービス品質の担保のために必要なことではあるが、現行の設置基準については業務実態およびサービス利用実態に合わない状況がみられている。
 サービス提供責任者の設置基準は、ヘルパーの人員基準とサービス提供時間基準があるが、JAグループでは、家事援助比率が高いこともあり、特定の時間帯に利用が集中すること等から非常勤ヘルパーが多いため、ほとんどの事業所が時間基準の適用をうけている。
 時間基準では「月450時間程度に1名の配置」を義務づけているが、利用者1人当たり月平均利用時間18時間〜20時間(※1)から算出すると、月22〜25人の利用者に1名の設置基準となる。これをケアマネジャーの利用者制限である50人程度と比較すると、半分以下の利用者数の設置基準となっている。※1)JAグループ平均だが、全国的にも統計上同様と推定される。
 サービス提供責任者の業務負担量は、毎日のサービス管理上、時間数よりもサービス回数の方が相関が強いという実態もあり、時間基準以外の指標が必要である。
 経営的にみると、サービス提供責任者の費用は、訪問介護報酬から捻出しなければならないが、時間数基準では家事援助と身体介護の時間数が全く同じ扱いであることから、家事援助比率の高い事業所にとって、時間数基準は家事援助単価の低い現状では経営収支的にも見合わない状況にある。
 サービス品質レベルは、利用者の重要な選択基準であり、最終的に事業者が利用者確保の形で事業責任を負うものであり、事業者の裁量に一定任されるべきものである。
 以上を踏まえ、現行の基準に加え、例えば30人〜35人程度の利用者数基準を設けたり、450時間に1人の設置基準について、ある程度の幅を認めるなど指定基準の運用を改善すべきである。


3.訪問介護の特別地域加算について

 特別地域加算は事業所の所在地により適用が決定されるが、加算指定地域外から加算地域内の利用者にサービスを提供しても加算を請求できない。逆に加算地域内に事業所がある場合、加算地域外の利用者にサービス提供する場合もあるが、その場合、利用者にとって15%割高になるなどの弊害が生じている。
 このため利用者の住所地により加算請求ができるようにすべきである。

 中山間地・離島などでは、利用者宅間の移動に時間がかかり1日あたりのサービス提供件数が少なく移動コストもかさんでいる。介護保険制度ではこの点を踏まえ、特別地域加算が設定されているが、次の問題があり改善を要望する。
 特別地域加算は事業所の所在地により適用が決定されるが、加算指定地域外から加算地域内の利用者にサービスを提供しても加算を請求できない。逆に加算地域内に事業所がある場合、加算地域外の利用者にサービス提供する場合もあるが、その場合は利用者にとって15%割高になるため、結局値引き申請を事業所として行わざるを得ない場合がある(13%値引し15%の加算等)。その場合一律的に加算地域内の利用者にも値引き対応となってしまうなどの制度上の不具合が生じている。
 事業者は加算地域に加え、加算地域外の利用者にもサービス提供することで利用者を確保している実態がある。このため利用者の住所地により特別地域加算請求ができるようにすべきである。


4.居宅介護支援事業者の報酬引き上げについて

 現状の居宅介護支援事業の報酬単価では、基準ぎりぎりの利用者数でも経営損失が生じている。居宅介護支援専門員に期待される役割は大きく、その責務を全うするため報酬単価を大幅に引き上げるべきである。

 JAグループでは、174か所の居宅介護支援事業所で月8,000人超の利用者のケアプランを作成しているが、ほとんどの事業所で赤字(93%)を計上しており、居宅介護支援専門員の人件費を介護報酬では賄えない状況にある。
 赤字の原因は事業規模の少なさに起因するものではない。居宅介護支援事業の人員基準では利用者数50人に1人の居宅介護支援専門員を配置することを求めているが、JAグループの1事業所平均利用者は約46人であり、基準ぎりぎりの利用者50人を扱っても経営収支均衡が全く見通せない状況にある。
 いうまでもなく、介護保険事業のキーパーソンとして居宅介護支援専門員に期待される役割は大きい。
 利用者や利用者家族が納得のいくサービスを提供するには、訪問や連絡調整を緊密に行うことが重要である。このため居宅介護支援専門員の勤務実態は、共働きの利用者家族が多いこともあり、利用者家庭の生活サイクルに合わせた面談・連絡調整を行わざるをえず、夜間・時間外勤務が恒常化している実態がある。
 利用者が満足するサービスを継続的に提供していくには、こうした居宅介護支援専門員の労苦に応える労働環境を整えることが事業者としての責務であるが、現在の介護保険の報酬単価では経済的な待遇面で事業者努力に限界がある。このため居宅介護支援専門員の報酬単価・区分・加算等について、大幅に改善すべきである。
 報酬見直しに際しては、次の点に留意して見直す必要がある。

(1) 現行の介護度別報酬は、介護度が高くなるほど医療系、福祉系サービスのミックスプラン作成やサービス提供者会議など業務が多くなることなどから、3段階の区分設定がされている。確かに介護度が重度の利用者の場合、利用初期段階では、連絡・調整に手間がかかり、プラン作成にも時間を要するが、その後は変化がない場合も多い。かえって軽度の利用者・家族の方が家族関係にかかわる困難ケースが多かったり、さまざまな要望・希望が出され、その都度訪問し、プラン変更も多いなど、居宅介護支援専門員にとって、現在の介護度別の報酬単価の設定には違和感がある。

(2) 居宅介護支援専門員1人が50人の利用者について単に計画を作成するだけならこなせるが、利用者・家族に満足いただけるプラン作成を行うには、実態的には厳しい。


5.通所介護の定員の扱いについて

 通所介護の定員超過については、1名でも超過するとその日全体の介護報酬の30%カットというペナルティが課されるが、1日につき定員超過2割程度の幅を認め、月平均で定員以内であればペナルティを課さないなどの運用改善を行うべきである。

 通所介護の定員超過については、1名でも超過するとその日全体の介護報酬の30%カットというペナルティが課される。
 通所介護では、平均して1割前後のキャンセルが発生するが、だからといって30%ペナルティのリスクを犯して、定員超過の計画を組むわけにも行かず、稼働率の直接低下につながり、事業運営を左右する原因となっている。
 このため1日につき定員超過2割程度の幅を認め、月平均で定員以内であればペナルティを課さないなど運用改善を行うべきである。


6.社会福祉法人の低所得者の自己負担軽減措置について

 低所得者の自己負担部分の軽減措置については、社会福祉法人のみ認められているが、公平な競争条件を確保するという観点から改善が必要である。さらに高齢者福祉を実施していく上で低所得者に対する配慮は重要であること、および低所得者対策の普及が必要であることから、社会福祉法人・民間事業者に関わらず軽減措置にかかる事業者負担分については公費負担とすべきである。

 高齢者福祉を実施していく上で、低所得者に対する配慮は重要であるという認識はJA事業者も厚生労働省と同様である。
 厚生労働省は、低所得者の自己負担の軽減措置については、社会福祉法人のみ認めており、民間事業者には認めていない。
 その理由は、(1)社会福祉法人は社会福祉事業を任務とし、慈善博愛の精神に則って低所得者の負担軽減を行うことが期待される、(2)事業者負担を伴う低所得者対策を民間事業者に押しつける形になるためなじまない、(3)社会福祉法人は法人税等非課税等の税制上の優遇措置もあり、事業者負担を一定求めることが可能である、(4)事業者が利用者負担分のみ値引きを行うことは介護保険の仕組みに反する等の理由によるものである。
 JA事業所の実際の例では、「要介護5で毎月30万円のサービスを利用している利用者が、近くの社会福祉法人が軽減措置を実施することになったため、JAのサービス提供を継続して受けたいという希望はあるものの、毎月3万円から1万5千円に軽減できるという経済的な理由により事業所変更した」といった例があり、徐々にそうしたケースがみられつつある状況である。
 低所得者にとっては、自己負担が半分以下になる経済的メリットはサービスの質の差よりもより大きな動機となる。利用額が多額であればあるほど事業所を「変更せざるを得ない」理由となっており、ある意味で選択制という介護保険の基本に反する実態がある。
 厚生労働省の理由は、理論的には一部理解できるが、「低所得者対策」は、利用者からみれば「なぜJAは高いのか、社会福祉法人はJAの半額だ」という捉え方である。民間事業者側からすると、「税制上の優遇措置もある社会福祉法人がさらに介護保険市場から1割もの利用者を囲い込んでいる」という状況であり、公平な競争条件を阻害するものである。
 また、厚労省の理由に対しては、(1)民間事業者も福祉事業を実施している、(2)低所得者の軽減の必要性は毎日利用者に接する事業者であれば当然感じている、(3)全く利用されないより、利用料の97%程度が確保できれば、3%程度の負担は一部の低所得者に限れば可能である、(4)軽減措置と介護保険の値引きとは別次元の話であるというのが事業者の実感である。
 以上を踏まえ低所得者対策は公平な競争条件を確保するという観点から改善が必要である。さらに高齢者福祉を実施していく上で低所得者に対する配慮は重要であること、および低所得者対策の普及が必要であることから、社会福祉法人・民間事業者に関わらず事業者負担分については公費負担とすべきである。


7.その他の介護保険制度関連の意見

○ 要介護高齢者は、外出支援等の移送サービスについて強いニーズがある。現行では、道路運送法との関係から、介護保険制度でこれらのニーズに対応できるサービス提供がなされておらす、介護予防・生活支援事業の市町村での活用も遅れている。このため実態的にはタクシー事業の認可を受けない形で、かなり多くのNPO団体などが利用しやすい料金で移送サービスを行ない、ニーズの一部を満たしている状況である。
 公共交通機関が整備されており、移動手段が確保できる都市部と違い、農村部ではとくに深刻な問題であり、要介護高齢者の移送及び移動支援の場合は正式に容認するなど前向きな検討を早急に行うべきである。

○ 冬期間積雪のため、移動時間が通常の2倍は確実にみなければならないため、ヘルパーの人数・経費(移動時間報酬)も多く必要となるため季節加算等が必要である。

○ 介護保険制度自体や、利用可能対象者であることも知らない高齢者がまだ多いので、介護保険3年目以降も周知徹底してもらいたい。



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