審議会議事録  厚生労働省ホームページ 

平成14年3月28日

厚生労働大臣
  坂口 力 殿

社会保障審議会医療部会
部会長 高久 史麿

医療提供体制に関する意見

 本部会は、医療提供体制の在り方に関して審議を重ね、今般、別添のとおり意見をとりまとめたので、これを報告する。


医療提供体制に関する意見

平成14年3月28日
社会保障審議会医療部会

 社会保障審議会医療部会は、昨年9月より8回にわたり、医療提供体制の確保に関する重要事項について審議を重ねてきた。
 当部会におけるこれまでの議論の概要は、以下のとおりである。

I.基本的な考え方と審議経過

1.  我が国では、国民皆保険制度の下で、全ての国民がいつでも、どこでも平等に医療機関に受診することが可能である。この結果、世界最高水準の平均寿命・健康寿命や高い保健医療水準を実現し、2000年6月に公表されたWHO(世界保健機関)の評価においても、我が国の保健システムは世界第一位と評価されている。

2.  しかしながら、急速な少子高齢化の進行、医療技術の飛躍的進歩、国民の医療に対する意識の変化など、医療を取り巻く環境は大きく変化しており、我が国の医療提供体制について、(1)効率化・重点化の不足、(2)競争が働きにくい構造、(3)安心できる医療の確保が不十分、(4)情報基盤等の近代化の遅れ、などの問題点が指摘されている。

3.  このことから、今後一層、患者の視点を尊重した質の高い効率的な医療提供体制の構築が求められており、このためには、患者に対する幅広い情報提供が推進され、患者の選択を尊重した医療提供を通じて、医療機関相互の競争が促進されることにより、医療の質の向上と効率化が図られることが重要である。
 医療機関においては、患者との対話を重視しつつ、情報提供に努めるとともに、患者においても、医療を選択するための様々な情報や手段を得て、自らの健康の保持のための努力を行うとともに、自覚と責任を持って医療に参加することが求められる。

4.  厚生労働省の医療制度改革試案の別添「21世紀の医療提供の姿」(平成13年9月25日)においては、医療提供体制の改革において当面進めるべき施策として、「病院病床の機能の明確化・重点化」、「根拠に基づく医療の推進」、「医療のIT化の推進」、「医療を担う適切な人材の育成・確保」、「広告規制の緩和」、「医業経営の近代化・効率化」、「医療安全対策の総合的推進」、「小児救急医療対策の推進」などが取り上げられており、当部会では、これらを中心に概括的な審議を行った。
 また、経済財政諮問会議や総合規制改革会議で指摘されている「医業に係る株式会社の参入」と「医療分野における労働者派遣」についても、参考人からの意見聴取を行い、検討を加えた。

5.  特に、政府・与党社会保障改革協議会の「医療制度改革大綱」や総合規制改革会議の「規制改革の推進に関する第1次答申」などで、今年度中に措置することを求められていた「広告規制の緩和」については、集中的に議論を行い、具体的な結論を得た。

II.個別の検討項目

1.医療における情報提供の推進

(1)情報提供の在り方

 患者が自らの判断により適切な医療機関を選択するために必要な情報が、幅広く患者・国民に対し提供されることが望ましい。また、情報提供の手段としては、医療機関による広告に加え、広報、院内掲示、公的機関による情報提供などがあり、これらの手段が、それぞれの特性を踏まえ有効に活用されるよう、環境整備や内容の充実が図られるべきである。
 医療機関の選択に資する情報提供の在り方として、客観的に比較可能なデータを提供するための用語の標準化等やIT化などの環境整備、情報の確実性や最新性が確保される形で散在している情報をデータベース化すること、これらの情報が地域住民に身近なところで得られることが重要である。
 なお、上記に加え、患者の求めによる情報開示が重要であり、特に医療機関の有するカルテ、レセプト等の医療情報について開示の義務化を求める意見があったが、これに対しては、医療の公共性だけを理由に一律に情報開示を義務づけるべきではないという反対意見があった。
 また、インフォームドコンセントの義務化についても議論すべきとの意見があった。
 一方、情報提供の推進に併せて、患者の自己決定を支援する体制の整備、さらに患者の教育、意識啓発の必要性が指摘された。

(2)広告規制の緩和

 医療機関による広告の規制緩和については、今回は患者保護の観点から現行のポジティブリスト方式を前提とし、客観的で検証可能な事項については、原則として規制緩和することとした。具体的な項目については、別添のとおりである。
 なお、医療機関の広告については、基本的に、虚偽広告、誇大広告など患者にとって有害となるもの以外は規制を原則撤廃すべき(ネガティブリスト方式)という意見があった。
 また、広告規制緩和の具体的な項目についての主な考え方は以下のとおりである。

2.病院病床の機能の明確化・重点化

 病院病床については先の医療法改正において、平成15年8月末までに療養病床と一般病床に区分されることとされているが、さらに広告規制の緩和を含めた医療情報の提供と患者の選択が進むことによって、病院病床の機能分化が促進されると考えられる。
 なお、病院病床の機能分化については、急性期の患者にとっては望ましい方向である一方、亜急性期、慢性期の患者に係る病床の在り方は慎重に検討すべきという意見があった。
 また、地域医療計画については、本来社会が求めている機能に対して新規参入規制になっている面があるとしたら、議論すべきという意見があった。

3.根拠に基づく医療の推進

 医療の質の向上を図るためには、地域の医療機関が容易に最新の医学情報を参照できるよう、EBM実践のための文献データベースや主要疾病の標準的診療ガイドラインが整備されることが極めて重要である。
 これらの施策については、年次目標を定め、重点的な整備を進めることが肝要であり、患者が主体的に医療に参加する環境の整備のためにも重要である。

4.医療におけるIT化の推進

 患者・国民への医療情報の提供や地域の医療機関のネットワークを形成する上で、医療におけるIT化は重要な手段である。保健医療分野におけるIT化を推進するために、昨年12月に、「保健医療分野の情報化に向けてのグランドデザイン」が策定され、電子カルテやレセプト電算処理のシステムの普及について数値目標が示されたが、その着実な実施が必要である。
 なお、電子カルテは単なるツールに過ぎず、電子カルテを導入する前に、個々の医療機関における業務の標準化や見直しを行うことが重要であるとの意見があった。
 また、医療のIT化に係る費用負担の在り方について、今後さらに検討が必要であるとの意見や、地域の医療機関ネットワークの中で患者の情報が共有され、健康管理や個別指導、各段階に応じて適切なケアが切れ目なく行われる仕組みが必要との指摘があった。

5.医療を担う適切な人材の育成・確保

 医療サービスの質の向上を図るためには、それを担う医療従事者の質の向上や適正な数の確保、配置が重要である。
 地域医療の確保の観点から、医師が専門化・細分化され過ぎており、総合的な診療能力を有する医師を養成する必要性が指摘されるとともに、大学を中心とした医師の人事についての問題点が指摘された。特に、現在「医道審議会医師分科会医師臨床研修検討部会」(部会長:矢崎義雄国立国際医療センター総長)で検討されている医師の卒後臨床研修制度については、大学に依存する体制を改めるべきとの意見があった。医師の生涯学習の義務化、医師の免許更新制などについても議論すべきとの意見があった。また、国民に安定した医療を提供するためには、医療従事者の地域偏在の改善が重要な課題である旨の指摘があった。

6.医療安全対策の総合的推進

 相次ぐ医療事故やその報道を通じて、医療に対する国民の信頼が揺らぎかねない状況にある中、患者の視点を十分に踏まえ、国民に真に安心できる医療を提供するという観点から、関係者をあげて医療安全の推進に取り組むことが重要である。医療安全に関する今後の方針及び当面取り組むべき課題については、現在「医療安全対策検討会議」(座長:森亘日本医学会長)で総合的な検討が進められているところである。医療に対する国民の信頼回復のために、緊急の取組が必要である。

7.小児救急医療対策の推進

 小児科医の負担の増大や大病院への救急患者の集中などが指摘される中、小児救急医療体制の確保は喫緊の課題であり、「小児救急医療拠点病院」の整備などの新たな施策については、その早急な実施が求められる。
 なお、小児救急医療に関連して、小児科の不採算性についての指摘や、医学生が小児科医を目指すような学校教育の在り方についての意見があった。

8.医業経営の近代化・効率化

 非営利を原則としてきた我が国の医療機関経営について、昨今、経営の効率化や資金調達の多様化を図るために営利企業の参入を認めるべきとの主張がある。医療の効率化と質の向上を図るためには、まず、患者への情報提供を進めることによる患者選択を通じた医療機関相互の競争の促進や、理事長要件の緩和等の医療法人制度改革による医業経営の近代化などの取組を着実に進めることが必要である。
 なお、営利企業の参入により、次のメリット等があるとの指摘がなされた。

等の理由から、慎重な対応が必要であるという反対意見が多かった。

9.医療分野における労働者派遣

 医療分野に従事する専門的な人材の最適な配置を可能にするため、医療関連業務の従事者の労働者派遣に関する規制の見直しが求められており、雇用形態に関わりなくチーム医療は可能であること、派遣という形態で働きたい医療従事者の希望を一律に禁止すべきではないとの意見があった。
 これに対し、適正な医療を提供するためには、チームの構成員が互いの能力や治療方針等を把握し合い、十分な意思疎通の下に業務を遂行することが不可欠であること、恒常的にチームの力を高めていくことによって、良い医療、良い看護、安全な治療の場を提供することができることから、医療機関における医療関連業務の労働者派遣に関して規制を緩和することは、慎重に検討すべきという意見が多かった。
 また、現行の派遣制度においては、事前に労働者を特定する行為が禁じられていること、派遣期間に制限が設けられているため継続的な雇用が困難であることなどの問題点が指摘された。

10.その他

III.おわりに

 厚生労働省は、情報提供の推進などをはじめとする当面の諸課題について、その改革を着実に実施するとともに、さらに、良質かつ効率的な医療提供体制の確保に向けて、その検討の進め方を含め、関係者の意見を反映しつつ、早急な検討を行っていくことが求められる。

照会先:医政局総務課
    課長補佐 宮嵜(内2513)
    課長補佐 鯨井(内2514)
    代表 03−5253−1111
    夜間 03−3595−2189


(別添)

広告規制を緩和することとした事項

 次の基準を満たす団体から専門医の認定を受けた医師・歯科医師がいる旨
学術団体として法人格を有していること
団体の会員数が1,000人以上であり、かつ、会員の8割以上が医師・歯科医師であること。
カリキュラムに基づき5年以上の研修を行っていること
資格の取得に当たって適正な試験を実施していること
資格の更新制度を設けていること
団体の会員及び認定した専門医の名簿が公表されていること
専門医の資格要件を公表していること
一定の活動実績を有し、その内容を公表していること
問い合わせに応じる体制が整備されていること
 治療方法
 手術件数
 分娩件数
 平均在院日数
 患者数
 次に掲げる医療機関である旨
公害健康被害の補償等に関する法律の公害医療機関
戦傷病者特別援護法の指定医療機関
小児救急医療拠点病院
エイズ治療拠点病院
特定疾患治療研究事業を行っている病院
小児慢性特定疾患治療研究事業を行っている病院
精神保健福祉法に規定されている措置入院を行っている病院
 医師・看護師等スタッフの患者数に対する配置割合及び人数
 売店、食堂、花屋、喫茶店、床屋、一時保育サービスの実施等がある旨
 他の医師又は歯科医師の意見を求める患者に協力する体制を確保している旨(いわゆるセカンドオピニオンの実施)
 電子カルテを導入している旨
 患者相談窓口を設置している旨
 症例検討会を開催している旨
 入院診療計画を導入している旨
 医療安全のための院内管理体制が整備されている旨
 (財)日本医療機能評価機構が行う医療機能評価の個別具体的な審査結果
 病床利用率
 病院・診療所を経営する法人の理事長の略歴
 外部監査を受けている旨
 (財)日本適合性認定協会の認定を受けた審査登録機関に登録している旨
 医療機関のホームページアドレス


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