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介護報酬改定等に関して

− 具体的指摘事項−

I.在宅サービス
II.施設サービス
III.介護保険制度運用上に関して

平成14年3月25日
日本医師会


I.在宅サービス

1.訪問介護

・「家事援助中心型」の報酬を見直す。

内容若しくは理由:
 在宅生活を支援するためには、「家事援助中心型」の役割は大きく、「身体介護中心型」に比べ「家事援助中心型」に対する適正な評価が必要である。

・「身体介護中心型」と「家事援助中心型」の明確な区分、若しくは単位数差の検討が必要である。

内容若しくは理由:
 現行ではサービス項目が多く、区分の判断が難しい。サービス内容によって両者を明確に区分し、それに応じた単位数を設定すべきである。

・「複合型」を廃止する。

内容若しくは理由:
 あいまいな中間的サービス種類を廃止し、体系の簡素化を図るべきである。

2.訪問看護

・介護保険と医療保険での算定に関する整合性を図る。

内容若しくは理由:
 利用者及び事業者に利用上、運用上の不整合や疑問が生ずる。(交通費の取扱い、利用者負担、回数制限等)

・医療保険での訪問看護の対象者の拡大を求める。

内容若しくは理由:
 該当はしないが頻回に訪問看護の必要な患者に対して、必要なサービスが支給限度額管理により制限を受ける場合や、医療並びに医療機器の高度化等で在宅療養者の受け入れが可能となり、本来医療保険対応と考えられる在宅療養者を、回数、対象疾病のみで区分けすべきではないと考えるため、「厚生労働大臣が定める疾病等の患者」の範囲を改めるべきである。

・訪問看護ステーション、医療機関からの訪問看護費の整合性を図る。

内容若しくは理由:
 利用者に対する単位差の合理的な説明が困難なため。

・訪問看護を2人で対応した場合、2人分の請求(複数看護師訪問加算など)を認める。

内容若しくは理由:
 医療依存度の高い患者や、ターミナルのケースも在宅療養する場合が増えており、看護師2人での対応が必要な場合があるため。

・特別管理加算の引き上げを求める。

内容若しくは理由:
 在宅療養患者で、在宅酸素療法、胃瘻造設、バルーン留置等管理指導が必要な在宅医療が複数提供される利用者が増加傾向にあり、高度な看護技術に対する適正な評価が必要である。

・緊急時訪問看護加算の見直しを求める。

内容若しくは理由:
 現行の緊急時訪問看護加算は体制加算と緊急時訪問看護実施(1回相当)を含んでいるが、この加算を算定していないケースでも連絡体制は敷いており、相談は入るケースも多いため、現行の緊急時訪問看護加算を体制に対する加算と実際の緊急時訪問看護実施に対する加算とに分けて設定する必要がある。

・緊急時訪問看護加算等の算定要件の見直しを求める。

内容若しくは理由:
 緊急時訪問看護加算等については、24時間体制、特別管理体制等のサービス体制が事業所に整い、かつ指示書にて必要と認めることによって、利用者に説明の上、加算できるよう改める。

・訪問系サービス全般について長距離移動(特に過疎地)に伴う距離加算、移動時間加算、難路加算、冬季加算等及び休日・祝日加算の新設を求める。さらに、サービスの少ない地域等地域特性を考慮した単価の設定を考慮すべきである。

3.通所リハビリテーション

・専門性の評価を求める。

内容若しくは理由:
 通所リハビリテーションのサービスの専門性やOT,PT等人員基準を整える必要性など適正な評価が必要である。(通所介護と通所リハビリテーションの比較の観点から)また、利用者に対し、個別に指導した場合などサービス提供の態様に応じた評価を求める。
・送迎加算の要件の見直しを求める。
内容若しくは理由:
 通所リハビリテーション提供後に併設医療機関を受診した場合でも、その後の送迎は通所リハビリテーションサービスの一貫と考えられるため、往復の送迎加算の算定を認めるべきである。

・送迎加算の見直しを求める。

内容若しくは理由:
  短期入所系サービスの送迎加算が片道で184単位であるのに対し、通所系サービスは片道44単位である。送迎に関する労力、リスク等は異なるところはなく、通所系サービスの送迎加算の引き上げを求める。
 また、エレベーター等が未設置の高層住宅に住む利用者の送迎は、時間、労力ともに通常の送迎より負担が大きいので、例えば「高層住宅加算」の新設を求める。
 同時に、体が不自由な方々にできるだけ下の階を提供したり、早急にエレベーターを設置する等、行政を中心として改善を図るべきである。(未だに、エレベーターのない公営住宅は非常に多く、所得の低い要介護者が数多く居住している)利用者の不利益を排除し、公平性に配慮した改善をしなければならない。

・通所系サービス全般について休日・祝日加算の新設を求める。

4.短期入所療養介護

・単位数の引き上げを求める。

内容若しくは理由:
 24時間介護である点を踏まえ、通所系サービスとの合理的な単位数差を設けるべきである。例えば、同じ施設(基準適合診療所)の通所リハビリテーションより平均単価が低く設定されている場合がある。

・動ける痴呆加算の新設を求める。(他の在宅サービスにも共通)

内容若しくは理由:
 現行の要介護認定において適正に評価しきれていない介護上の手間や負担が大きいため。

・通所・短期入所系サービスの送迎加算に距離加算の新設を求める。

5.居宅療養管理指導

・居宅療養管理指導の要件の見直しを求める。

内容若しくは理由:
 実際の訪問や指導、助言に応じて、個別に算定する体系に改める。例えば、サービス担当者会議に出席、電話やFAXでも指導、助言を行なった、あるいは介護支援専門員(居宅サービス事業者)に情報提供や助言を行なうたびに、月一回と限らず算定できるよう検討する。

6.居宅介護支援

・初回訪問時並びに主治医との連携の評価を求める。

内容若しくは理由:
 1人の利用者に対して初回訪問時にプラン内容の調整を行なうだけでも1時間以上を要し、記録処理に1時間以上、他事業所等の連絡調整(記録・事業所間の連絡調整は毎月)にも時間がかかるため、その評価を求める。並びに、医療サービスの提供の位置付けや主治医との医学的観点等での連携は重要であり、その評価を求める。

・居宅介護支援の算定要件の見直し

内容若しくは理由:
 介護支援専門員に求められる業務内容からは事務が過重(ケアプラン作成における利用者への複数回の訪問、サービス担当者会議の開催等、他業者との連絡調整等)になり、利用者に対する十分な支援が行なえないため、介護支援業務から給付管理業務を分離し、事業者で担当することとし、現行報酬を事業者業務分、介護支援専門員業務分に分離して設定する。


II.施設サービス

1.介護老人福祉施設

・ホテルコスト自己負担の減免を求める。

内容若しくは理由:
 全室個室・ユニットケアの特別養護老人ホームにおけるホテルコストの徴収は、利用者の負担増を招くだけである。

2.介護老人保健施設

・人員基準における医師及び看護師等の定数増が必要である。

内容若しくは理由:
 現行基準では厚労省の要求する医師の仕事量を消化することは物理的に不可能である。また、夜間、休日には看護師の勤務していない時間帯がある。このようなことが起きないように看護師の定数増が必要である。病院併設型の老健施設では、夜間・休日の緊急医療は親病院の当直医に依頼しているのが現状である。

・人員基準の見直しと、それに伴う単位数の引き上げを求める。

内容若しくは理由:
 身体拘束が原則禁止となり、現場では実現に向けて取り組みを行なっているが、そうしたなか、転倒・骨折の増加といった報告が後を絶たず、原因の追及と因果関係を各種団体で調査検討しているのが現状である。施設内におけるケア体制の見直しも当然必要ではあるが、多くの成功例の検証から、介護現場の施設人員の基準が法定人員よりも増員した中で実行されていることがわかり、身体拘束の廃止に向けての財政的支援が必要である。

・施設サービス費の範囲の見直しを求める。

内容若しくは理由:
 介護老人保健施設入所者を病院に搬送しても、疾病特性あるいは特別な技術を要しない医療という理由から施設で治療せざるを得ない患者の場合、施設負担が高額になるため、以下のような例では別途請求を認めるべきである。
例)
偽膜性腸炎の場合 ;
 バンコマイシンの内服(1〜2週間継続)と、脱水に対する輸液、諸検査(大便のCDトキシン検査も含む)
疥癬患者の場合 ;
 本人は勿論、入所者全員、職員などの予防・治療が必要となる。
長期入所者の場合;
 一つの集団として、肺結核の対策をする必要があるため、胸部単純エックス線撮影。

・介護老人保健施設内で行なう医療処置行為の見直しを求める。

内容若しくは理由:
 施設サービス費に包括評価される医療処置行為の範囲を縮小し、現実的に施設内で行なえる医療処置行為に限定すべきである。

・緊急時治療管理の算定日数の拡大を求める。

内容若しくは理由:
 緊急時治療管理が1ヶ月間に連続した3日間しか認められていない。このような患者を医療機関に搬送しても、患者の病状が中〜軽症の場合は入院を断られ、施設に連れて帰り、施設で治療を継続することになる。施設で最高7〜10日間の緊急時治療管理が行なえるよう要望する。 (肺炎の場合、7〜10日間の治療で、緩解する例は多い。老人は居場所が変わるだけで精神的動揺が烈しい。)

3.介護療養型医療施設

・退院時処方の場合、別途薬剤料を算定可能にする。

内容若しくは理由:
 介護療養型医療施設の報酬算定に関しては、特定診療費を除き診療報酬にほぼ準拠しているが、医療保険適用の療養病床で退院時処方を行なった場合、別途薬剤料の算定は可能であるが、介護療養型医療施設では、算定は不可であり、是正を求める。

・おむつ代を介護報酬の包括範囲外とし、医療保険と同様に扱う。

内容若しくは理由:
 おむつ代で、大幅な赤字が生じている。包括範囲からはずして、利用者負担とし、適切なコストを反映すべきである。医療保険では利用者からおむつ代を徴収しており、医療保険との整合性を図るべきである。

・医療保険における地方単独事業(身体障害者、重症難病等)の介護保険への拡大を求める。

内容若しくは理由:
 身体障害者、重症難病など医療費並びに食事療養費の自己負担が地方単独事業で公費補助されている患者では、介護保険を利用すると1割負担並びに標準負担額が生じるため、医療保険と同様、公費補助の対象とすべきである。
・特定診療費「感染症対策指導管理料」(有床診療所における介護療養型医療施設としての指定を受けている施設)の算定を可能にする。
内容若しくは理由:
 病院については医療保険、介護保険ともに算定が認められ、有床診療所については、医療保険では算定可能であるが、介護保険では認められていない。有床診療所でも医療保険で算定しているところは常に感染症対策を行なっているのであり、算定可能とすべきである。

・介護療養型医療施設の介護職員配置比率3:1の基準の継続を求める。

内容若しくは理由:
 労働基準法を遵守し、良質なサービス提供と看護・介護夜勤体制を維持するためには現行の6:1、3:1の看護・介護職員配置比率は最低限必要な配置数と考える。

・老人性痴呆疾患療養病棟に介護職員配置比率3:1の基準の新設並びにこれに見合った施設サービス費の設定を求める。

内容若しくは理由:
 老人性痴呆疾患療養病棟は、痴呆に伴って幻覚、妄想、夜間せん妄等の症状を有し、他施設等では対応困難な痴呆性老人を専らの対象としており、さらに原則身体拘束禁止の規定のもとで、事故を未然に防ぎながらケアを行なっていくために、ほとんどの施設においては、現行の人員基準以上に看護、介護スタッフを加配して対応している実状がある。

4.施設サービス全般

・小規模施設の報酬単価の改善を求める。

・その他の日常生活費の取扱いについて都道府県によって、差異が認められており、統一を図るべきである。

・介護保険法の解釈が運用において給付サイドの拡大解釈が目立つため、改善を求め
る。

内容若しくは理由:
 平成12年3月31日付 保険発第55号の第1:「急性増悪時の対応についての内容」
 介護保険適用病床に入院している患者が急性増悪した場合、転院、転床ができず介護保険適用病床で緊急的に行なわれた医療は、医療保険からの給付とされている。ただ第1、1の(2)に「介護保険から給付される部分に相当する療養については、医療保険からの給付は行なわれないものであること。」と通知されている。この(2)を基に検査、投薬、注射、一部の処置については、介護保険の包括部分に当たるとして、医療保険からの給付が認められないとの解釈である。
 しかし、この包括部分の規定は、急性増悪時への対応治療を指すのではなく、介護保険適用病床への入院が必要な要介護者は医学的治療が必要でかつ、介護を必要とする患者が対象であり、この慢性治療における包括範囲を示したものと解釈することが自然である。
 実際に、急性増悪時の多くを占める肺炎などの併発において、抗生剤等の投与をはじめその治療には、1日あたり3万円前後の費用が必要となり、包括の考え方からは除外しなければ、治療が困難になる事も想定され、(1)での急性増悪時への対応を記した主旨と乖離したものになると考えられ、拡大解釈を押し付けたものと考えざるを得ない。


III.介護保険制度運用上に関して

1.要介護認定

・要介護認定7段階を3〜4段階に減らし、区分に幅を持たせる。

内容若しくは理由:
 簡素化し、各介護度の違いを認定基準・介護報酬とも明確にすることにより、理解が容易となり、事務費の節減と効率化に役立つと考える。

・病状変化の少ない利用者については、認定期間を適宜延長出来るようにし、その際には、保険者と支援事業者の合意と主治医の同意を得る。

・認定審査会の委員としての業務継続と人材確保が困難な状況になりつつあり、改善が求められる。

・主治医意見書記入医師に自動的に認定結果がわかるようなシステムに改める。

内容若しくは理由:
 意見書を記載したにもかかわらず、判定結果がすぐにはわからない。毎回意見書の中に「認定結果御教示ください」と記入しなければ情報提供されていない。

2.利用者負担

・在宅サービス受給者(要介護4以上)と施設サービス受給者の利用者負担額の整合を図るとともに在宅サービス受給者の利用者負担率の軽減を図る。

内容若しくは理由:
 介護保険制度導入の主旨は、在宅介護者の手間、苦労を軽減することが目的であったが、現在の状況は在宅介護が伸び悩み、施設介護はどこの施設でも待機者であふれている。特別養護老人ホーム、グループホームの運営のなかで、在宅介護と施設介護の利用者負担に不公平感があり、このような現象が起きていると思われる。
 すなわち、施設介護でも在宅介護でも食事代、介護保険利用者負担の合計は同程度で、1日中介護の手間を人に任せる施設介護が良いか、1日数時間在宅サービスを受け、後は家族が介護しなくてはならない在宅介護が良いかは、一目瞭然である。
 施設介護と在宅介護で、利用者負担にはっきりとした差が出るようにしないと施設介護の待機者はなかなか解消しないと考える。

3.介護保険と医療保険の整合性

・かかりつけ医と施設間の連携の仕組みを強化する。

内容若しくは理由:
 特養、老健は終の棲家でなくあくまでも在宅復帰を目指すものであることから、在宅でのかかりつけ医との連携は不可欠である。しかし、現状はかかりつけ医の関わりに制限があり、結果として利用者に不利益をもたらしているケースがある。

・訪問看護におけるターミナルケア加算の要件の見直しを求める。

内容若しくは理由:
 死亡日の前月以前から訪問看護を行い、その上ケアを死亡前24時間以内に実施した場合のみ加算されるものであるが、24時間以内のケアの実施の要件の緩和を求める。

・老健入所者が、必要があり他の医療機関を受診した場合、受診先の医療機関での請求を可能にする。

内容若しくは理由:
 医療についてオールマイティの医師はいないが、老健に勤務する医師として、可及的広範囲の浅い知識や技術を身に付けるように日々努力はしている。しかし、限度を超えるものについては、他の医療機関の専門医に紹介している。他の医療機関の受診の際、算定に関する現行制度は現実的ではなく、必要な診療の抑制となっている。

・介護療養型医療施設入院者が、必要があり他の医療機関を受診した場合、受診先の医療機関での請求を可能にする。

内容若しくは理由:
 他の医療機関を受診した場合の費用で、入院元で包括評価されているものは介護報酬に含まれているため、透析患者や重症の皮膚疾患の患者は入院できなくなっている。特定の疾患については、受診先の医療機関においても「外来扱い」として請求できるようにする。

4.その他

・毎月の利用表確認印、訪問や書類への捺印については、利用者から迷惑がられることが多く(サービス利用時に契約しているので)改善の余地がある。

・短期入所療養施設の絶対数不足の解消対策として、潜在資源の有効活用を図るべきで
ある。

・指導、監査体制は改善すべきである。

内容若しくは理由:
 介護保険と医療保険における審査体制に差があるのはやむを得ないが、管理監督上、医療についての理解が不足しているため。


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