02/02/28 第9回企業組織再編に伴う労働関係上の諸問題に関する研究会議事録     第9回企業組織再編に伴う労働関係上の諸問題に関する研究会議事録 日時 :平成14年2月28日(木) 10:00〜12:00 場所 :厚生労働省専用第12会議室(中央合同庁舎第5号館5階) 出席者:【研究会参集者・50音順】      毛塚 勝利 (専修大学法学部教授)      柴田 和史 (法政大学法学部教授)      内藤 恵  (慶應義塾大学法学部助教授)      中窪 裕也 (千葉大学法経学部教授)      西村 健一郎(京都大学大学院法学研究科教授、座長)     【厚生労働省側】      坂本政策統括官(労働担当)      鈴木審議官(労政担当)      岡崎労政担当参事官      清川調査官      荒牧室長補佐 【議事概要】 ○ 毛塚委員より、EU諸国に係る諸外国実態調査について報告が行われた。その内容   は以下のとおり。 (調査の前提としての法状況と調査の要点) ・ 基本的にEU諸国では、EU既得権指令に従った法的整備がなされている。 ・ 要点として以下の事項を掲げ、これらについて重点的な調査を行った。 (1) EU指令と国内法との相違点の確認 (2) 営業譲渡に相前後する解雇の効力判断 (3) 組織再編過程における組合、従業員代表の関与 (4) 企業組織再編の現状と政労使の対応方向 (5) 企業組織再編法の運用状況(ドイツ) (6) 労働者の拒否権問題(フランス) (7) EUの今後の政策(EU) (EU既得権指令と国内法との相違点) ・ 既得権指令に労働者の異議申立権に関する規定はない。このため、各国で規定が異   なている。ドイツ、イギリスはこれを認めているが、フランスは認めておらず、フ   ランスの労働者は労働契約承継を拒否できない。 ・ ドイツでは複数事業所が一事業所に統合された場合等に選挙資格従業員数が最も多   い事業所又は事業部門の経営協議会が6ヶ月間の過渡的任務にあたるとともに、監   査役会における共同決定権が5年間保障される。 (ドイツ調査について) 1.オペル社・リュッセルハイム工場  EU諸国における企業組織再編の実例として、GM傘下であるオペル社の事例(オペ ル・リュッセルハイム工場がそのエンジン製造部門を新設分割するのに伴い、1,500人 の労働者がPowertrain社へ転籍したもの)について聴取した。主な内容は以下のとおり 。 ・  労働者側は、今回の転籍に際して、これまでの既得権を維持することを大原則と   し、労使交渉に当たった。経営側は当初既得権の維持を拒否していたものの、労働   者が行ったストライキが経営に打撃を与え、態度が軟化した。これにより労働者側   は、ドイツ内、続いて全ヨーロッパで労使合意書を締結し、企業再編後もこれまで   の労働契約の内容をを維持することに成功したものである。 ・ オペル全体の構造改革ルールを定めたものとしてオリンピア・プログラムがある。 その内容は (1) 企業再編を行う際には、工場閉鎖は行わない(ただし、ヨーロッパ限定) (2) 経営を原因とする解雇は認められない。ただし、早期退職優遇措置に基づくもの    、高齢者の短時間就労への移行に伴うものについては、社会的に甘受できるもの   として許容される。 (3) 既成事実を作ってはならない。話し合いをしながら進めること。 といったものであり、オペルの労働者サイドはこうしたプログラムの策定を評価してい た。 2.連邦労働裁判所  ドイツの連邦労働裁判所からは、主に企業組織再編に伴う労働紛争の実態、当該紛争 に適用される法的枠組みについて聞いた。主な内容は以下のとおり。 ・  営業の移転については、民法典の613a条が適用され、これにより全ての労働者の   権利が移転先に承継される。当該規定に関してトラブルが発生するケースは、買い   手側がこの規定の適用から免れようとする場合に生じる。すなわち、売却される部   門に例えば1万人の従業員がいるが、買い手側としては、5千人分しか必要ないと   きである。 ・  上記のように、買い手において売り手の労働者全員を引き継ぐことができないケ   ースについて、譲渡前に予め解雇しておいて売却を行おうとしても、解雇制限法の   規制(「経営上の理由」の要件)が厳しく適用される。すなわち、経営上の理由と   いっても、緊急の必要性等特別な理由を必要とされ、相手側の条件を理由としても   認められない。 ・  営業譲渡の買い手側が譲受け後に余剰労働者を解雇することについて、営業譲渡   に直接関係しないのであれば、民法613a条の適用関係は問題とならず、解雇制限法   上の問題だけになる。例えば、トラックの製造部門を譲り受けた企業が、その譲渡   後のトラック市場の悪化によって、その後工場の閉鎖を余儀なくされ、解雇が生じ   た場合にはこの民法613a条の問題とはならない。すなわち、それによって解雇され   た労働者が、譲り受けの際の予測が十分でなかったことを理由として、争うことは   できない。 ・  異議申立権を行使した労働者の取扱いについて、現実上、異議申立を行ってメリ   ットがあるのは、熟練労働者等優れた労働者が主だろう。企業分割や営業譲渡が成   功するためには、当該部門において作業等のノウハウを熟知している労働者が事業   と一緒に移ることが重要である。このため、こうした熟練労働者に移転を拒否され   、当該会社分割や譲渡自体が失敗に終わらないように、賃金等でプレミアを付ける   ことが行われる。 ・  ドイツにおける「営業」の定義について、何が「営業」に当たるのかどうかは争   いがあるところである。一般的に言えば、当該対象となる部門の独立性、すなわち   独自に営業できる体制にあるかどうかが一つのメルクマールとなる。また、実態と   しての経済の一体性でみるということになる。    例えば、ある医療機関がレントゲン車を売却した場合には、単純にそれだけで営   業の一部の移転とは言わないが、他の器具を含め売却するなどレントゲン科として   成り立つ場合には、営業といえる。ただし、前者の場合でも、そのレントゲン車と   それを扱う者とが切り離せないという特別な関係にある場合には、その者も器械の   売却と共に移転すると考えられる。この営業の考え方について、既得権指令とドイ   ツ国内法との違いはない。 3.連邦労働社会省  ドイツ労働法制を所管する連邦労働社会省からは、企業組織再編に伴い適用される法 制度の概要について聴取した。主な内容は以下のとおり。 ・  民法典613a条に規定されているように、営業の全部又は一部譲渡があった場合に   ついては、その譲渡に伴い労働契約も移転する。これは「売り手の設備や事業は欲   しいが、コストの関係でそこに従事する労働者はいらない」という買い手の恣意に   よる解雇を防ぐなど労働者保護を図ろうというものである。 ・  民法典の改正により、613a条につき第5、6項が追加された。第5項は労働者に   対する通知義務を譲渡当時会社に課すものであり、第6項は転籍についての異議申   立権を労働者に付与するものである。 ・  第5項を設ける理由は、組織再編に関する事項が労働者に知らされていなかった   ことに起因するトラブルが多く発生したためである。既得権指令では労働者代表へ   の通知義務について、重大な不利益を及ぼす場合に限定するものとされているが、   ドイツ国内法では、全ての譲渡において義務を課している。 ・  また、第6項を設ける理由は、職業選択の自由が侵される可能性があるためであ   り、これまでも判例により異議申立権が認められてきたことを受けたものである。 4.Verdi(統一情報産業組合)  ドイツ最大の労働組合であり、情報通信産業に係る産別であるVerdiを訪問し、組織 再編へ対応するに当たっての基本的スタンスについて聴取した。 5.BDI(ドイツ産業連盟)  ドイツの代表的使用者団体であるBDIを訪問し、企業組織再編に対する法的規制に 関する認識を聴取した。主な内容は以下のとおり。 ・  現在、EU域内における企業組織再編の動きは、EU既得権指令等の規制により   阻害されている状況にあると認識している。特に、労働組合が経営参画を行うこと   は、産業競争力を奪うことにつながる。 ・  反面、アメリカのように解雇が簡単に行えることは望ましいと考えない。ただし   、解雇の判断要件である「社会的な正当性」についての労働裁判所の解釈が厳格で   あるため、ドイツでは解雇を行わなければならない状況に置かれた際、企業がとる   べき選択肢は非常に限定されたものになっていることは遺憾である。 ・  既得権指令については、経営側としてもEU域内のルールづくりは極めて重要で   あると考えることから、大枠では妥当と考えている。しかしながら、企業組織再編   については、もっと迅速かつ簡易に行えないだろうか。 (フランス調査) 1.CFDT(フランス民主主義労働同盟)  フランス労働組合のナショナルセンターであるCFDTから、主に企業組織再編に伴 うフランスの解雇法制について聴取した。主な内容は以下のとおり。 ・  フランスには集団解雇からの労働者保護規定は多数あるが、基本的には金銭的補   償により解決するケースが多く見られる。 ・  営業の一部を移転する場合に、フランス法制では全労働者を承継しなければなら   ないこととなっている(労働法典L122-12)。この点につき、買い手である企業が全   ての労働者の承継を必要としないとき雇用整理をいつ行うのかについては、売り手   が行う場合には、譲渡をより容易にすることの理由に加え、当該部門の経済的解雇   を理由とした金銭的補償により整理を行うことになる。 ・  フランスでは、解雇の人数や(退職割増)手当などの詳細を明記した「Social Pl   an(社会計画)」を提出すれば解雇ができるものの、これが社会的に認定されるた   めのハードルは高い。労組向けに作られたハンドブックがあり、これをもって対応   している。 ・  解雇を行う際、行政官庁(監督署)への届出が義務づけられている。1996年の法   改正によりそれまでの事前許可制が届出制に変更されたものだが、これにより解雇   の正当性が保証されるものではない。すなわち、フランスの労働裁判所は解雇の有   効性判断に当たり、社会計画の策定等解雇の手続面での審査を厳格に行うため、使   用者が解雇することはやはり難しい。 ・  解雇対象となる人員の選択はまずは削減対象となる業務に関係する労働者から対   象になる。第1基準は職種、第2基準は年齢・性別の職順であるが、これは労働法   典で定められているものではない。 2.雇用連帯省  フランスの労働法制を所管する雇用連帯省からは、解雇規制を内容とする法改正及び 企業組織再編に伴う解雇について聴取した。主な内容は以下のとおり。 ・  雇用連帯省は、経済的理由による解雇の法的定義を位置付ける労使関係近代化法   を制定予定であり、集団解雇の要件として次の3要件が成文化される。 (1) 他の代替手段を講じても改善不可能な経済的困難があること (2) 解雇を伴う再編成が必要となる新技術導入を行わないと企業活動が存続できない こと (3) 「競争力保持」ではなく「会社業務の保持」上、どうしても解雇が必要であること ・  例えば、500人の企業が譲渡される場合で、買い手は300人しか必要としないケー   スにおいて、売り手がこれら200名の労働者を解雇する場合は、「延命不可能なほど   の経済的困難」「解雇以外の代替策なし」の要件が証明されなければならない。 ・  既得権指令には「移転を理由に解雇はできない」と規定されているが、フランス   法においては、同様の規定はないものの、移転の日に効力を有する全ての労働契約   が移転先の企業と労働者との間で存続する規定があり、営業権譲渡による解雇は動   機不十分とする裁判官の判断により、適用において同じ結果となる。 ・  経済的理由による解雇を伴う企業組織再編と社会計画の失格認定には直接の相関   関係はない。1999年に打ち出された1,153件の社会計画中、失格認定を受けた例は10   0件であるが、これは「解雇の動機が深刻かつ重大な経済的困難に見合ったものかど   うか」ではなく、「付帯措置が十分であったかどうか」だけに基づいて行われた失   格認定であり、きっかけもさまざまである。 3.MEDEF(フランス企業運動)  フランスの代表的使用者団体であるMEDEFからは、ドイツのBDIと同様、企業 組織再編に対する法的規制に関する認識を聴取した。主な内容は以下のとおり。 ・ フランスでは企業組織再編に伴う転籍につき、労働者の拒否権が認められていない   。  この点につき、一定の労働者保護がなされた事例として飲料水メーカーのペリエがブ ロイサーグに物流用のパレット製造部門を売却しようとした際の判例がある。ブロイザ ーグへの労働契約の移転を望まない従業員側が申立を起こした事件について、判例は「 パレット製造部門は経理上も独立した経済的主体ではないため、資産の一部譲渡になり 得ない」とする従業員の主張が認められた。 ・  経営側としては、分離可能なら独立性を有した事業である考えていたにもかかわ   らず、売却後で独立ではないといわれるのは困ったことであり、法的安定性も失わ   れる。この点については判断が揺らいでいる。 ・  ペリエ社の事例のように「営業譲渡ではない。」と労働者が主張することによっ   て、労働契約の自動的承継を免れようとするのが、転籍拒否権を持たないフランス   の労働者のとる手法であるが、 (EU調査)   EUでは、欧州委員会の制度担当者よりヒアリングを行った。既得権指令について2 001年3月に、条ズレ(第4a条 → 第5条)の形式改正が行われたということであっ た。 ○ これを受けて、意見交換が行われた。その内容は以下の通り。 Q: フランスの労使関係近代化法は現在成立したのか? A:(毛塚委員若しくは事務局。以下同じ)  : 昨年末に議会で審議がなされたが、議論は紛糾していたと聞いている。使用者側   にとって、大変厳しい規制が盛り込まれているためであろう。状況は確認する。 Q: フランスでは、営業譲渡の買い手が対象事業の全労働者を承継できない場合、事   前解雇をする余地はない法的整理になっているのか。 A: フランスの場合、事前解雇は無理であり、承継後、解雇することを予定して事業   の売買代金を決める。解雇保証金を含めて、売買代金が決められるということであ   る。    MEDEFによれば、やはり買い手は全労働者を承継せざるを得ないが、余剰人   員が発生するため、後に解雇する分を見込んで事業を買うことが行われている。フ   ランスの場合、社会計画等手続面が厳しいこととともに、経済的解雇が許容され難   いため、このような取扱いになる。 Q: フランスの場合、金銭補償で解決が可能ということならば、なぜ譲渡前に雇用調   整を図ることができないのか。 A: 譲渡することを理由とする解雇が認められず、経済的理由に基づく解雇の3要件   を満たさない限り、譲渡前の雇用調整が困難だからである。    また、営業譲渡には迅速性が求められるが、譲渡前に解雇にあたっての手続(改   正法によればさ、さらに労使協議及び社会計画の認定といった2段階の手続を経る   こととなる。)面で時間がかかり、間に合わない。 Q: 整理解雇時、フランスは金銭補償による解決が可能であるが、ドイツでは金銭解   決はできないのか。 A: できないわけでないと思う。金銭で解決することが多いとは思うが、ドイツの場   合、現実に金銭解決するに至る前に早期退職優遇制度等で雇用調整を行っておくこ   とが多い。また一般的に、金銭補償額はドイツはフランスよりも高いようである。 ・ フランスの経営者は、現行のフランスの法制にどのような印象を持っていたかにつ   いてだが、MEDEFでは、フランス解雇法制はヨーロッパの中で一番厳しいと考   えており、さらに今回の法改正で厳しい法制にしてしまうと、解雇する方途がなく   なり、整理解雇ができない間に、会社自体がつぶれてしまう事態を招来すると考え   ている。フランス経済も必ずしも好況とは言えず、労働コストを削減することで、   企業体力を何とか維持できるにもかかわらず、それができなくなるとますます厳し   くなる。    現政権は解雇規制強化の立場なので、社会計画制度の強化が重要だと考えている   が、例えば、1,000人以上の企業で集団的解雇を行う場合に、最大9か月にわたる   再就職のための有給休暇を与えなければならないこと等、大企業にとっての規制が   厳しすぎるということが議論になっている。 Q: ドイツ・オペル社の事例では、ストまで起こっていることが興味深いが、この事   例は例外的に荒れた事例と言えるか。このような事態は一般的なのか。 A: このストライキは、「労働者側と誠実に話し合わないと大変なことになる」とい   うことを警告する趣旨であり、その後協議が行われ労使合意に至っている事例であ   るが、こうした事例は決して例外的とも言えないが一般的とも言えない。    この事例の経緯は、3月にパワートレインを作ったときに、労働組合に対して事   前情報が入らなかったことから発生したものである。企業組織再編後も、労働者の   これまでの権利が維持されるためにストを起こしたものである。 はじめは時間単   位でのストだったが、埒があかなかったので、最大3日間のストを実施し、その際   トランスミッションを製造している工場の生産がストップしたのが経営側に大きな   ダメージを与えたようで、その後の交渉が労働組合側にとって有利に進んだもので   ある。 Q: オペル社は、経営危機に直面して、このような再編を行ったのか。 A: オペル社の企業組織再編は、母体であるGM資本がFIATと合弁のエンジンを   作るために着手した再編で、むしろ先手先手で行ったものであろう。 Q: EU諸国と日本を比較して、法規制面での違いをどのように評価するか。 A: EU諸国と異なり、日本ではルールが不明確であり問題である。 ○ 中窪委員より、アメリカ合衆国に係る実態調査について報告が行われた。その内容 は以下のとおり。 (調査の前提としての法状況と調査の要点) ・  アメリカの労働法制は、労働者保護の考え方が非常に希薄であり、解雇自由、差   別禁止(人種、性別、年齢等)が基本的な特徴である。 ・  したがって、営業譲渡に際し、売り手側が事前に解雇し雇用調整を行っておくこ   とも可能であるし、譲渡後買い手側が解雇することも可能である。また、労働条件   についても使用者が一方的に変更することが比較的容易である。 1.全米商業会議所(USCC)  アメリカの代表的使用者団体であるUSCCから、アメリカ合衆国におけるリストラ 時の労働契約の取扱い等について聴取した。主な内容は以下のとおり。 ・  アメリカでは、使用者はレイオフ対象となる労働者に対して様々な給付・恩恵(   離職・退職手当支給、各種給付期間の延長等)を自発的に提供しており、労働者保   護がかなり企図されている。ただしこの場合、レイオフされた労働者は、従前の使   用者から給付・恩恵を受ける代わりに、当該レイオフ期間中、訴訟を起こさないこ   とに同意する旨一筆入れることが一般化している。 ・  営業譲渡時において、譲渡企業が雇用していた労働者の過半数をそのまま譲受企   業が承継する場合には、譲渡企業における団体交渉に係る権利義務関係が承継され   ることになる、という決定がNLRBによって出されている。 ・  近年、使用者側は、従業員に対する労使関係のハンドブックを作る際には、後で   それが法廷で契約内容とみなされないよう注意深く作成するようになってきている   。 2.アメリカ労働総同盟・産業別労働組合会議(AFL・CIO)  アメリカ労働組合のナショナル・センターであるAFL・CIOから、アメリカ合衆 国におけるリストラ時の労働契約の取扱い及び全国組織としての対応等について聴取し た。主な内容は以下のとおり。 ・  企業がリストラを行う際の意思決定プロセスというものは、非常に不透明なもの   であり、一部の意思決定者の恣意によって進められている、というのがアメリカの   労働者の一般的な見解である。 ・  アメリカの企業文化の根底にあるのは、「株主第一」の思想であり、従業員を大   事にしようとする思想は極めて希薄である。経営者にとって労働者はコストそのも   のでしかないのである。 ・  投資資本として最大規模である労働者年金基金に対する、労働組合の支配力を高   めることに長年努力を費やしてきている。即ち、年金基金の投資先の一つとしての   企業株式に対する間接的所有者という立場になり、当該企業が組織再編を行おうと   する際の交渉の場における発言力を高めているのである。    具体的には、全米通信労組(CWA)から企業合併の相談を受けた事例で、年金   基金の力を背景に、合併が実現すれば大規模なダウンサイジングが誘発され、雇用   喪失につながることを主張し、実際に当該合併計画を一定期間延長させたケースが   ある。 ・  労働者代表が、企業の意思決定過程に参加し情報を得ることについては、企業側   が全く非協力的な場合で、そもそも意思決定過程そのものが極めて不透明なもので   ある場合はどうにもならないが、その一方で、企業側の開示文書が多く存在する場   合にあっては、この20〜30年間で、労働組合側が法的専門知識を高めてきてお   り、これら膨大な量の文書の解析を可能にしてきた。 3.全米雇用機会均等委員会(EEOC)  公民権法第7編の実施機関であるEEOCから、アメリカ合衆国におけるレイオフに 伴う実情等について聴取した。 4.国際食品・商業労組(UFCW)  小売業等の産別労組であるUFCWから、営業譲渡時における労働者保護の取組みや 労働協約の取扱い等について聴取した。主な内容は以下のとおり。 ・  労働組合としては、使用者に対する抵抗勢力としての力を得ることで、リストラ   が行われる際に、当該リストラのみならず、その周辺事情に何らかの影響を与える   術を見い出そうとしている。 ・  具体的には、使用者の行動が、他の法規制(反トラスト法、証券取引法、環境保   護法等)上の障壁に適合しているか否かを調査した上で、労働組合としての政治的   影響力を用いて、適合しない状況を作り出そうとする。 ・  自動車労組(UAW)の労働協約のように、レイオフをしない条項を盛り込んで   いる労働協約もあるが、UFCWでは、小売業における賃金等が相対的に低いこと   や、小売業そのものが不況の影響を受けにくい面があることなどが影響して、同旨   の条項は労働協約中には盛り込まれていない。 5.全国労働関係委員会(NLRB)  不当労働行為の規制を担当する機関であるNLRBから、営業譲渡時における労働者 保護や労働協約の取扱い等について聴取した。主な内容は以下のとおり。 ・  一般的に、譲受企業が譲渡企業の労働者の過半数を引き継ぐとき、譲渡企業にお   いて労働者代表として認識されていた労働組合を、譲受企業においても同じ地位を   維持するものと認め、当該組合との間で誠実に団体交渉を行うことが義務づけられ   るが、当該労働組合が譲渡企業との間で締結していた労働協約を承継する必要はな   い(Burns事件:1972年)。 ・  譲受企業が、譲渡企業の労働者の過半数を承継する場合、その労働条件を包括的   に承継する必要はなく、新しい労働条件により雇用し、以後労働組合との間で交渉   していくことが可能である。このこと自体は不当労働行為ではなく、合法的な行為   である。こうすることによって、団体交渉関係の継続と事業再編の柔軟性を両立さ   せることが可能となるのである。 ・  最高裁におけるFirst National Mentenance事件の判決については、営業譲渡を行   うことそのものについては経営事項であり、団交応諾義務はなしとするものである   が、その解釈をめぐって変遷がみられるところである。    いずれにせよ、当該リストラが労働コストを引き下げるためになされたものか、   若しくは事業範囲の改善のためになされたのかを証明しなければならない。結局は   団体交渉によって解決できる問題であるか否かが、判断の分かれ道となっている。   NLRBとしては、ある程度経営者の企業活動の自由を認める判断をしてきている   が、最高裁判所によってその判断が覆されることも多くある。 ・  現実的に考えれば、慎重な使用者であれば、リストラを行うことの決定について   、労働組合と交渉すべきかどうか迷ったときには、とりあえず交渉するようにする   はずである。 ・  労働組合が使用者と対等な立場で団体交渉するためには、使用者から当該リスト   ラに係る情報を提供されなければならない。団体交渉義務の中に情報提供義務が含   まれるが、その場合の企業側の問題として、団体交渉が長引くことにより短時間で   のリストラの決定が不可能になるという点がある。 6.国際サービス労組(SEIU)  サービス業の産別労組であるSEIUから、営業譲渡時における労働者保護や労働協 約の取扱い等について聴取した。 7.全米機械工労組(IAM)  製造業等の産別労組であるIAMから、営業譲渡時における労働者保護や労働協約の 取扱い等について聴取した。 ○ これを受けた意見交換については、時間の関係上次回に持ち越された。 以上 担当:政策統括官付労政担当参事官室法規第3係(内線7753)