戻る

国民にとってよりよい介護保険制度の実現を目指す立場から

社団法人全国老人保健施設協会

はじめに、
 介護老人保健施設は、
 「利用者の自立した生活を営むことを支援し、家庭復帰をめざします。
 また、施設は明るい雰囲気を持ち、地域や家庭との結びつきをめざします。」
をその運営の理念として掲げ、

4つの役割と機能、つまり、

(1) 総合的ケアサービス施設
(2) 家庭復帰施設
(3) 在宅ケア支援施設
(4) 地域に開かれた施設
を運営の中心におき、昭和62年のモデル7施設による試行以来、地域に根付きながら、国民の評価を受け10数年で全国に2600施設約24万床(平成12年10月介護サービス施設・事業所調査の概況より)の施設までに成長した。

 介護保険制度開始の基本理念と我々介護老人保健施設が創設以来基本的な運営の柱としてきたその理念、役割・機能は同じである。介護保険制度開始後も、最も介護保険制度に近い施設として運営した実績を基本に、在宅と施設両方に軸足を置いた唯一の施設として、介護保険開始後、全体的に施設へのニーズが高まる中、あくまでも介護保険の理念である在宅重視をその運営の中心におき、介護保険の中心的施設としてゆるぎなき運営を行っている。

 さて、我々は介護保険制度開始直前、数回にわたり、当時の老人保健福祉局長に対し制度開始後予想される問題点について改善方の要望を行った。その後、実際に介護保険制度に移行し運営した現状ではそのいくつかは現実の問題点として現れている。今回の介護報酬の改定に当たっては、そのような問題点について、介護保険制度の基本的視点から再度検討を行うとともに、介護老人保健施設の理念、役割と機能を評価した介護報酬になることが望まれる。

1)老健の理念、役割・機能のあり方から見た今後のサービスの方向性について

施設サービス:

 一般的に要介護者等は、程度の差はあれ何らかの医療ニーズを有している。介護老人保健施設においては、医療と介護を総合的一体的に利用者のニーズに合わせて提供すると共に、利用者の自立を促し在宅復帰を目指すための維持期リハビリ(生活リハビリ)を中心とした施設であり、あくまでも在宅支援施設として位置づける。尚、現状において、その利用の実態は、在宅支援の後方基地としての機能が高まり、必ずしも、病院から家庭への中間施設的役割のみとは限らない。
 また、その持っている医療機能に関しては、今後の施設における医療のあり方の面からの検討を待つ必要があるが、現実には、現在の基準等や一般的な老人保健施設における設備、専門職種の配置の面からみてその機能に限りがあり、あくまでも利用者の健康管理や総合診療科的なより適切な医療を受けるための機能がその求められている範囲と考える。
 ただ、介護保険施設3類型の中で、より生活リハビリを中心とした利用者の自立を促すためのサービスの提供が期待されていることから考えれば、提供されるサービスにおいてはリハビリテーションが、これからより重要になってくると思われる。
通所リハビリテーション:
 在宅支援の一環としてのリハビリテーション提供施設としての通所サービスであることに鑑みれば、訪問リハビリや他の在宅支援サービスとの連携の基地を目指すことは大変重要であり、通所介護と異なり通所リハビリテーションのみでその期待された役割を完全に果たすことは難しいといわざるを得ない。これからのあり方として、より在宅支援としての役割とリハビリテーションの専門性を明確にしていくことが重要であり、そのことによって、介護保険制度の重要な柱である、在宅を中心とした自立した生活が確保されると考える。
短期入所療養介護:
 介護老人保健施設における短期入所は、あくまでも医療的要素を有する利用者のための在宅支援のサービスであることは間違いないが、その利用の実態から見れば、在宅生活を維持し、介護にあたる家族等の負担の軽減のためのレスパイトケアが主たる利用目的であると思われる。また利用者の感覚からすれば、施設サービスの短期的利用という思いが実態である。そのような意味での位置づけと今後の方向性について、介護保険での在宅介護の重視の視点から、このサービスの持つ重要性を考えるとき、更なる検討が必要であると考える。

2)介護保険制度施行後運営の実態としてその理念から乖離するものとして次のような課題が浮かび上がっている。

課題(1)「施設入所者の長期化、在宅復帰率の低下」

 今もなお、退所者の40%以上が在宅に復帰しているという実績はあるが、我々の制度開始後の実態調査においても、現実に、介護保険制度開始後入所が長期化し、在宅復帰率が低下しているのは事実である。その長期化、在宅復帰率の低下の原因究明のために行った当協会加盟施設における入所期間が1年を越える利用者の在宅復帰を阻害している要因についてのアンケート調査によれば、その要因について

介護の重度化(特に痴呆)
介護に当たる家族の精神的・肉体的負担感
一人暮らし、高齢者のみの世帯
本人・家族の安心感
住環境の問題(階段、借家など)
施設の割安感
等があげられる。

課題(2)「短期入所利用に関する課題」

 短期入所療養介護においては、療養病床、介護老人保健施設の有する病床の範囲でより効率的に利用できるようになったことや、介護保険開始後一時減少傾向にあった利用量も総体として回復傾向にあることは評価するが、実際の利用にあたって、要支援や要介護度の低いグループに於いて、介護報酬と限度額の関係から、介護負担の軽減や緊急的な利用がしづらいという在宅ケア支援の面からの課題が現場にある。また、短期的な施設サービスではないかという利用者の現場の感覚との制度の乖離などが指摘される。

課題(3)「通所サービスにおける通所リハの専門性の確立」

 更に現場では通所サービスにおける通所リハビリテーションの専門性が不明瞭という指摘があり、通所サービスにおける通所リハの専門性の確立が求められる。具体的には個別リハビリの導入や在宅の現場での訪問リハビリの一体的提供の検討が必要である。

課題(4)「施設で提供すべき医療の整理」

 昭和63年老人保健施設の創設以来、施設における医療の内容は基本的に変わっておらず、急速に進歩した医療の実態や国民の医療に対する一般的な期待から乖離しており現場で多くの矛盾を抱えて運用されている。施設で提供すべき医療の範囲を明確にし、医療保険との整合性の検討や介護報酬上の整理が必要である。

3)最後に、今後の改善の方向性について

1. 在宅復帰を促進し、在宅での自立した生活の支援機能の強化
2. 在宅支援としての居宅サービスにおけるリハビリテーションのより効果的運用
3. 在宅支援としての短期入所サービスのより利用者のニーズに応えた運用
4. 施設で提供すべき医療の範囲の検討と医療提供システムの整理
5. 在宅の受け皿としての施設整備の促進(グループホーム、ケアハウス、生活支援ハウス等との併設)


〔別紙〕
「特例転換型老人保健施設」についての意見

社団法人全国老人保健施設協会

 総論的には、療養病床からの転換であろうが、新規開設等であろうが、老人保健施設が国民から期待されている役割、機能を十分理解し、その運営の理念に賛同して開設されることがきわめて重要であると考える。
 ただ今回の特例転換型老人保健施設おいては、あくまでも施設基準等で一定期間の特例を認めるものであり、質の確保の観点から以下の項目について確認と要望を行っておきたい。

1) 特例の期間の厳守
2) 転換計画の承認に当たっては、その実効性に最大の配慮を行うこと。
3) 3年目を目途に、転換計画の実行状況、運営の実態等を検証し、不適切な場合は、その時点で承認を取り消すこと。
4) あくまでも、都道府県介護保険事業支援計画の範囲で当該圏域の実情に応じた段階的な整備を行うこと。


トップへ
戻る