02/01/16 第3回 これからの医業経営の在り方に関する検討会       第3回 これからの医業経営の在り方に関する検討会 日時    平成14年1月16日(水)16時00分から 場所    厚生労働省専用22会議室 出席委員  石井孝宜、内田裕丈、大石佳能子、神谷高保、川合弘毅、川原邦彦、       小山秀夫、田中滋、津久江一郎、豊田 堯、西澤寛俊、西島英利、       長谷川友紀、南 砂                              (五十音順、敬称略) 議事内容 ○田中座長  ただいまから、第3回、「これからの医業経営の在り方に関する検討会」を開催い  たします。委員の皆様方におかれましてはご多忙中のところを、この検討会にご出席い ただきまして、どうもありがとうございました。本日の出欠状況ですが、谷川委員が欠 席との連絡を受けています。早速議事に入りたいと思います。本日は、ご案内いたしま したように、何人かの委員の方から意見発表をお願いすることになっています。その前 に、事務局から資料の確認をお願いいたします。 ○田村補佐  資料の確認をさせていただきます。座席表、議事次第、委員名簿の次に本日ご発表い ただく委員から提出された資料があります。最初が神谷委員から提出していただきまし た「医療法人に関する意見書」。次に西島委員から2枚紙の「意見陳述レジュメ」。「 医療と市場経済」、「医の倫理綱領」という冊子の3分冊のもの。また、長谷川委員か らは「これからの医業経営の在り方」と書かれた資料と「規制改革の推進に関する第1 次答申」の抜粋の2つです。また「医療法人実態調査報告書」として、医療法人協会で 実施された調査結果の抜粋、日本病院会で実施された「会員への意識調査」集計結果の 抜粋。また、第3回の社会保障審議会医療部会の議事録を添付しております。  また資料とは別に、ファイルをご用意させていただいておりますが、こちらは前回ま での資料となっておりますので、適宜参照していただければと思います。なお、こちら は会議の参考としていただくものでして、お持ち帰りはご遠慮願えればと思います。 ○田中座長  ありがとうございました。早速、委員の意見発表に移らせていただきたいと思います 。20分を目処にお三方から伺います。最初に神谷委員からお願いします。 ○神谷委員  3つの問題についてお話したいと思います。営利法人の参入の問題、理事長要件の問 題、情報公開の問題という3つの問題で、その前提問題として、医療法人、特に「社員 が持ち分を有する社団」という形態を採用している医療法人を営利法人と評価できるの かどうか、という問題から入っていきたいと思います。  まず結論ですが、社員が持ち分を有する社団という形態を採っている医療法人は、や はり営利法人と考えるべきである。理由は対外的な事業活動から得た利益を財源として 、社員へ残余財産の分配を行っているからだということです。簡単に検討の内容を申し 上げますと、営利法人とは何なのかということなのですが、これは機能的に見ますと、 法人という器を使って、その器そのものが投資の対象となっているような構造を有する ものです。これは法律的には対外的な事業活動から得た利益を基に、剰余金を分配する 会社ということで、その分配の仕方は3つあり、「利益の配当」、もしくは「残余財産 の分配」、もしくは特殊な類型ですが、社員にいろいろな肩書きを与えまして、それに 「過大な報酬」を支払うという、よく言う「隠れた利益配当」という3つがある。こう いうことのどれか1つでもやっていれば営利法人だと、従来から考えられていたわけで す。注の3のところに、いちばん新しい教科書を引用しておきました。社団医療法人に ついては、確かに剰余金の分配は禁止されていますが、残余財産の分配は認められてお りますので営利法人ということになります。資料を拝見していて気が付いたのですが、 注6で引用しましたように、これはいろいろな委員会でもすでに指摘されているところ です。  こういう考え方がいろいろなところに関係してくるわけです。第二の営利法人の参入 の可否の問題は結論を先に申し上げますと、営利主体による参入を駄目だという理由は ない。理由を簡単に申し上げると、現在参入が認められている社団医療法人も営利法人 ですし、株式会社には株式会社ならではの利点もある。その理由を4つその下に書いて おきました。最初が、社団医療法人自体が営利法人と評価できますので、社団医療法人 には医療経営を認め、株式会社は認めない、という医療法の考え方の解釈は一貫してい ない。2番目が、現在株式会社の形態で行われている医療機関については、何か特に大 きな弊害が生じているといった指摘はないこと。3番目が株式会社は社団医療法人より も、相対的にはより迅速に医療を受ける者の要求に応えることができる。これは具体的 に何を念頭に置いているかというと、医療を受ける側、患者側の意識と要求が変わって きている。医療技術が急速に進歩して、その都度迅速にその医療を投入していかなけれ ばいけない。そういう場合に需要と供給のギャップを埋める能力はどちらが高いのか。 相対的には営利法人のほうが高いのではないか。これはアメリカなどでもいろいろ議論 されているところです。4番目が、営利法人だと医療費が高くなるのかと言うと、なか なかそう簡単に言えないのではないか。営利法人の中でも株式会社のほうが社団医療法 人よりも割高になるということまでは、どうも言えないのではないか。この辺りが理由 となるわけです。  第三は「理事長要件の問題」です。これも結論からいいますと、昭和60年以前の状態 に戻すこと、すなわち理事長は医師でなければならないという要件を廃止してもいい。 その理由は「理事長が医師」という原因と、「適正な医療の提供」という結果の因果関 係というのは、そんなにあるとはいえないのではないかということなのです。導入当初 は5頁の真ん中辺りに書きましたが、医学知識を有する医者を理事長に就任させること によって、適正な医療が行われるようにしよう、という意図だったと思いますが、こう いう規定を置いたからといって、医療の内容がより適正になったという指標はどうもな いようですし、医療法人自身にとっても、医療承継などの場合には桎梏となっている部 分があるのではないかという感じがいたします。  第四の「情報公開」の問題に移ります。情報公開の問題は、突き詰めてギリギリ議論 をしていきますとなかなか難しい問題があるのですが、これは大きく2つに分けること ができます。1つは「会計情報」に関する開示の問題、もう1つが医療情報の提供に関 する問題です。それぞれ誰を念頭に置いて、誰に対してやるものかというと、おそらく は社団医療法人の場合は「会計情報」については「債権者」、「医療の内容」について は「医療を受ける者」、すなわち、患者を念頭に置いているのだということになるかと 思います。  そこで、まず第1に会計情報の開示ということになるわけですが、株式会社の場合に なぜ会計情報を開示するか。それと同じことが社団医療法人にも当てはまるのか。ひい ては医療を行っている事業体全体に当てはまるのかという順番で、少し考えてみようと いうことなのです。株式会社の場合、会計情報の開示の理由は2つあるとされています 。1つは利益配分の限度を定めるという目的です。2つ目が7頁にありますが、利害関 係者にとっての意思決定の材料を提供するという目的です。具体的に言いますと、債権 者にとっては、お金を貸していいのか、もっと貸していいのか。株主にとっては、株を 持っていていいのか、それとも売ったほうがいいのかという、こういう判断のための情 報を提供するという目的です。この2つの理由のそれぞれを見てみますと、まず第1の 理由ですが、利益配分の限度を算定する必要がある。なぜこういう利益配分の限度を定 めなければいけないかといいますと、これは株式会社の場合には社員の有限責任を認め る代償だと考えられているわけです。ではなぜ有限責任制度を認めるのかというと、そ れはここに書きましたように、失敗の可能性があっても、社会的に望ましい企業活動、 病院であれば医療活動になりますが、それを促進する必要がある。法人の債権者のほう が社員よりもリスクの負担能力が高い、こういう理由付けがされているわけです。しか し、お分かりのように有限責任というのは、どこかで債務を切り捨てるわけですから、 こういう制度を導入すれば、債権者が犠牲になるわけです。そういう犠牲を強いる以上 はということで、株式会社のほうでは一定の財産を会社の中で維持させるための「資本 制度」、もう1つは「会計書類の開示」と、債権者を念頭に置いた2つの制度が導入さ れている。  最初のほうの「資本制度」の下で資本を維持させるというのは、つまりお金を外に出 さないために利益配当の限度額を定めるという理屈になっているのだと思います。社団 医療法人について見ますと、剰余金の配当は禁止されていますが、一定の自己資本比率 の維持というのが要求されていますので、これはあまり議論をした本はないのですが、 おそらく社団医療法人の社員についても、有限責任の恩典が認められるということにな るかと思います。そうしますと、先ほどの議論と同じように、債権者の意思決定のため の「会計情報の開示」も必要になる。この問題が8頁に書いてあるわけですが、株式会 社の場合には、情報の名宛人というのは債権者とともに社員ということになります。特 に公開会社の場合は、いちばんリスクを負っているのは社員ですので、社員がまず第一 、次に債権者という感じで、あとは従業員や地域の人などという形になります。  では社団医療法人の場合はどうかということになるのか。これは剰余金の配当が禁止 されていますので、長期的には別ですが短期的には、会計情報の名宛人というのはやは り債権者であるということになります。この債権者だという点に着目して、法人が有し ている営利法人としての性格が強ければ強いほど、ここで言っているのは社団医療法人 と株式会社のことを言っているわけですが、それが強ければ強いほど、有限責任制度に よって債権者が害される、犠牲になる危険性が高いということになります。そうすると 、理屈の上では会計基準の水準の下限は公益法人で、上限がほぼ同規模の閉鎖会社の会 計となり、その中間に社団医療法人は位置すると、一般論としてはこう言えるのではな いか。しかし、いま公益法人については、注28に書きましたように、新たな会計基準が 策定されており、そこでの方針としては連結財務諸表とか、退職給付会計等を導入しよ うということが提案されていますので、そうなると、こちらの社団医療法人についても 同じようにしようという議論になるかと思います。  ただ、これはなぜ開示が必要かという観点から理由をしっかり突き詰めて骨格を示め せと言えばこうなりますが、会計の場合は実際はそれだけではそうは簡単にいかない。 ほかでやっているからこちらもやらなければいけないと、比較可能性の問題等がありま して、注28にも書きましたが、普遍主義的なと申しますか、できるだけ企業会計にみん な近付けていこうという流れがあることも確かです。公益法人のほうは、中間報告を総 務省でやっておられるかと思うのですが、企業会計において作成される財務省のものと 同様のものにしようと、そこまで言っているわけです。ですから、実際のレベルでは、 話はそう簡単ではないということです。辻褄の合う理由を付けろと言われれば、とりあ えずこういう考え方になるのではないかというものとしてご理解いただければと思いま す。  最後が「医療の内容に関する情報」です。なぜこういう情報提供をしなければいけな いのかということなのですが、これはやはり医療に特有な性質に起因するというべきだ と思います。9頁のいちばん上辺りに書きましたが、具体的にはやはり医療の内容を評 価する知識と能力の水準について、医療を提供される側と患者となる者の間に大きな格 差がある。このギャップを補うために医療を提供する側に信認義務が課せられている。 法律的な名前は「善管注意義務」と言ってもいいかもしれませんが、信認義務が課せら れている。これはどういうものかといいますと、この頁のいちばん下に樋口範雄教授の 説明をそのまま使っていますが、「信認関係は、一方が他方の信頼を受け、信頼を受け た受認者が信頼を預けた人への配慮を最優先させる関係」だと。英米法でいう信託など でいちばんよく利用されている法律関係です。では、なぜこの信認義務に基づいて、ま たは基づくはずの情報を、事前に提供しなければいけないのかということになりますが 、これは9頁の真ん中より上のところに書きましたが、要するに患者となる人が一旦医 療機関に出向いてしまいますと、ほかへ変わるというのは非常にコストがかかりまして 、医療機関のほうが非常に有利な立場に立つ、いわゆる疑似独占といわれているような 状況です。こういう状況がありますので、基本的には、ここでは一般的なことしか申し 上げられませんが、医師・医療法人の創意工夫をこらした広範囲な情報提供を促進する ような方向で考えていくべきです。  その際に、具体的に頭の中でどういう整理をしたらいいかというのが、最後に述べて いるところです。信認義務の内容を、樋口教授は3つに分けていますので、それに合わ せて分類してみますと、第一が「委託者が自己決定をするための情報提供」という提供 義務です。医療の場合、最終的な決定権は患者の側に留保されているわけですが、患者 によるセカンド・オピニオンの取得に協力しているか否か。そのために検査データを積 極的に貸し出しているか。または5年生存率とか、手術中の死亡率、さらには医師別の 治療成績、こういうものがここに分類されるのではないか。  2番目は、「受益者が受託者を監視・監督するための情報提供義務」。受託者である 医師・医療法人の義務違反を防止する機能を有するもの。カルテの情報等の問題がこの 類型に当たるのではないかと思います。  3番目は「受託者である医師・医療法人と受益者である患者との間の信頼関係を育む ための情報提供義務」。医師の略歴、治験に関する事項というのはこの類型にあたるの ではないか。当然1と2の機能も、この第3の機能も併せ持っている。厳密には完全に 分類はできませんが、その機能を仕分けると、こういうふうに考えることができるので はないか。こういう考え方の延長線上で考えていってはどうかということなのです。  最後に、私は医療法人のできた歴史的な背景等を詳細に理解しているものではありま せんが、今回、内容を拝見して、どうも医療法人制度が作られたときの状況とは、だい ぶ前提が変わってきていますので、やはりいろいろな手当が必要なのではないかという 印象を持ちました。 ○田中座長  ありがとうございました。引き続き西島委員からお願いします。 ○西島委員  レジュメに従いお話をさせていただきたいと思います。医業というのは私ども6年間 教育を受けて、「医の倫理」というのを徹底的に叩き込まれるわけです。その第1目的 は「人命の尊重と保護」であって、経済性、営利性の追求ではないということから、私 どもの医業というのはスタートしているわけです。ですから、夜中だろうと、正月だろ うと働かなければいけないわけですし、また、20時間働きっぱなしということも、実は 私どもはどんなに疲れていても、やらなければいけないというのが医業だというふうに 考えております。  そういう観点から、幾つかお話をさせていただきたいのですが、まず、理事長要件の 見直しに関してです。病院経営と医業管理とを分離して、医業機関運営のマネージメン トを行うことが可能なのかどうかということです。経営を含めた病院の管理と、医療管 理というのは一体のものでして、分業することは当然ですが、分離をしたマネージメン トは行えないと。病院のマネージメント機能というのは、そこに書かれておりますが、 基本的には医師団及び医療全般を管理する院長機能、2番目が看護婦団及び看護全般を 管理する看護部長機能、3番目が総務・法務・事務全般を管理する事務部長機能。4番 目が財務・経理を管理する財務部長機能とこの4つだと思います。それに5番目として 全体を組織体として統括するトップマネージメント機能が加わると考えております。こ の1から4までの機能はほとんどの病院で緊密な関係を保ちながら、分業されているわ けで、理事長要件廃止とは何の関係もないと考えます。5の機能も、1から4の機能と 密接不可分であることは当然で言うまでもないわけです。  ただ、先ほど発表された総合規制改革会議の第1次答申においては、経営と管理の分 離ということを謳っているわけですが、これはおそらく所有と経営の分離の間違いでは ないかと私どもは考えます。所有と経営の分離というのは比較的よく見られることです 。しかし、そうしなければならないという性格のものでもないということです。また、 病院経営と医業管理の分離という意味が、非医師でない者が経営すれば、うまくいくと いうことであれば、それは極端な話ですが、国立病院等は非医師が経営している典型な 例です。しかし、国立病院等が成功しているというのは極めて希ですので、疑問と言わ ざるを得ないと考えております。  理事長要件の廃止というのは、運営の効率化を促進するのかということですが、理事 長要件の廃止が議論される際に、必ずといっていいほど出てくる言葉が、「医療機関運 営が効率化されるのではないか」という理論が展開されるわけです。しかし、何が効率 化されるのかという回答が全くないまま、言葉だけが1人歩きをしている。理事長要件 として重要なことは、先ほど私も申しましたが、経営能力のほかに医療倫理が必要とさ れることで、効率よりも医療倫理を優先させなければいけないという局面は、数多くあ るわけですので、そうすることが究極的な効率を高めることになるというのは、皆さん 体験されているところです。  また、医師の中にも、その経営能力の高い人もいらっしゃいますし、また、医師でな い人の経営能力がおしなべて高いと言えないこともまた事実です。最近株式会社が倒産 の憂き目にたくさん遭っています。大企業と言われるところも倒産しているわけです。  ここでこのレジュメの中に示していますが、医師と非医師の経営能力別に組み合わせ を出してみました。イロニのケースについては、医療倫理の観点から医師が理事長に就 任することで、おおかたの意見の一致が得られると考えます。問題はハのケースです。 その場合に非医師の医療倫理の高さが担保されれば、これは理事長就任の道は開いてお くということが、平成10年に決められました要件緩和です。仮に理事長要件は原則廃止 したということにしますと、イロニのケースにもこの倫理観の低い非医師の理事長が就 任することが可能になりますし、また、その場合には運営の効率化は達成されないどこ ろか、医療の荒廃を招くことにもなる。理事長要件が最初にできたときというのは、ま さしく富士見産婦人科病院事件からですが、医療の荒廃を招くことにもなる。医療の質 を守るためには、あるいは国民の健康、生命を守るためにはある程度ハードルの高さと いうものが、私どもは必要だろうと考えますので、要件廃止というのは、適切な選択で はないというふうに考えるところです。  また、経営に関しては、先日、岡山市が医療法人の医師である理事長に、経営管理を させたところ、赤字が縮小したということで、8,300万円の成功報酬を出すという記事 が載っておりましたが、非医師でなければならないということは何もないわけです。  医療法人の資金の調達方法の限定についてですが、医療施行法規則第30条の第34では 、病院または介護老人保健施設を開設する医療法人は、その資産の総額の100分の20に 相当する額以上の自己資本を有しなければならないとなっているわけです。病院等を開 設する医療法人に関しては、自己資本比率は20%以上原則を義務化されているわけです 。しかし、これはやはり医療の経営の安定と継続性が求められているから、こういう厳 しい条件が付いているのだろうと思います。  また、昨今の論調で、これは私も規制改革会議に出たときに言われたのですが、「な んで銀行を守るんですか」と言われたのですが、いま我が国の医療法人の資金調達とい うのは、銀行からの借入れに限定されているわけで、株式会社にして資金調達を多様化 することによって、経営の安定化を図るという論調が散見されるわけです。しかし、こ の2枚目の資料に示すとおり、我が国の株式会社の金融に占める出資金比率は、10〜11 %程度で、資本準備金を入れても15、6%程度です。つまり、我が国の医療法人の資金 調達について、銀行からの借入れが一応限定されていることを理由に、株式会社論を展 開する前に、我が国の株式会社というのは、医療法人より、さらに銀行からの借入れに 依存しているという客観的な事実を忘れてはならないことだろうと思っています。  また、初期資本を出資金で調達するのは、医療法人も株式会社も同じです。もちろん 財団方式の医療法人は寄付金という形ですが、先ほども述べましたように、要件は医療 法人のほうが非常に厳しいわけでして、病院を経営する医療法人の場合には、総資産の2 0%以上が出資金でなければならないとされています。一方、株式会社というのは、1,00 0万円の出資で設立できますし、自己資本の要件がないことは皆様方もご存じのとおり です。  不足の運転資金ですが、医療法人は借入金によっているわけですが、株式会社は増資 、社債の直接経営で調達できるというふうに言われているわけです。しかし、社債とい うのはよほど信用力のある大会社でなければ発行できないわけで、例外的なものとしな ければならないと考えています。残るのは増資という形ですが、増資もそう簡単ではあ りませんし、先ほど述べましたとおり、我が国の株式会社において、出資金での資金調 達比率は10%をわずかに超える程度だというところです。株式会社のほとんどは医療法 人と同じく、間接金融で資金を調達しており、増資によって資金の調達が可能となると いうのは、これは幻想でしかないと考えています。ご存じのように、不良債権まさしく そのとおりだと思っています。  ただ、直接金融にはコストの問題もあり、金利は経費で落とせるということですが、 配当というのは税引き後の所得から行わなければならないわけですので、先ほどの反論 にはなろうかと思いますが、その分コストが高くなる。さらに医療費高騰を誘引すると いう問題も当然のこととしてあります。これも総合規制改革会議に出たときに、いちば ん最初に言われたのですが、「これからの医療というのは10兆円伸びるんですよ。どう して皆さん方はそこに手を突っ込まないんですか」という言い方をされたわけですが、 まず、10兆円の儲けがあるというところからスタートするのと、結果として私どもは利 益が上がったということの大きな違いはそこだろうというふうに思っています。つまり 、配当の上に売上げ、すなわち医業収入を積み増す必要が生じるわけですので、このと きには医療費といいますか、収入を引き上げる方向に作用することにはなるだろうと考 えています。  次に企業経営のノウハウの導入による経営の近代化・効率化という考え方です。これ も盛んに最近言われていることです。株式会社の企業経営のノウハウを導入することで 、医療機関経営の近代化・効率化を推進すべきという、昨今の風潮といったほうがいい のでしょうか、これに対して考え方を述べさせていただきます。安直に得られる企業経 営ノウハウなるものがあるとは思えません。あるとしても、それは各社ごとのアートで して、簡単に移転できるものではないと考えています。また、企業経営ノウハウなるも のが永久不滅ではない。「今日のエクセレント・カンパニーが明日の倒産企業」という 例はたくさんあるわけで、エンロンの例を引くまでもなく、いくらでもあるわけです。 もちろん日産自動車という会社がございますが、経営が非常に厳しくなったときに、外 国から社長を導入してこられたわけですが、そこで経営が立ち直ってきたという話もご ざいますので、必ずしも経営の専門家がやれば、効率化・近代化ができるということで はないと考えています。  株式会社は日本全国で約80万社あるわけですが、そのどれもが経営が近代化されて、 効率化されているわけではもちろんない。一方、立派に運営された組織というのはある わけで、株式会社だけではありません。個人にも公益法人にも、また労働組合、病院に も協同組合にも、地域社会の中にもそういう組織というのは存在するわけです。そもそ も資本の調達を変えれば、近代化・効率化するというエビデンスが、全く示されている わけでも何でもないわけで、このことは強く主張しておきたいと思います。極端な言い 方をして、言葉は悪いかもしれませんが、事業目的をなおざりにして、マネーゲームの ために上場する企業も幾らでもあることは、最近のIT関連の事例が示すとおりですの で、これは述べさせていただきます。  それから前回の会でもお話があったわけですが、米国の例から患者のサービスについ てちょっと考えてみたいと思います。営利法人による病院経営によって、患者本位のサ ービスが提供されるという論調が一部にあります。米国には非営利病院と営利病院のサ ービスを比較した実証研究が数多くあるわけです。例えば地域住民中心のサービスにつ いて、米国内の営利病院と非営利病院を統計的に比較しますと、営利病院のほうが救急 医療や健康増進サービスなどが少ないという結果、これはまさしくエビデンスです。ま た、利益率の低いサービスについても、営利は非営利に比べて少ないという結果も出て おります。  さらにエイズ関連の医療サービスについても、営利病院は劣っているという結果が出 ております。こういう実証研究から、営利病院のほうが利用者本位の医療サービスが行 われているという結論は得られないわけです。また、公立病院がいまは赤字で悩んでい るわけですが、幾つかのコンサルタント会社からコンサルタントされて、どうなったか というと、小児医療は赤字の原因だからということで、小児医療から撤退している公立 病院がたくさんあるわけです。私どもはやはり医者の立場では、こういうことはなかな かできない話です。  いろいろと述べさせていただきましたが、昨今の風潮として、エビデンスのないイメ ージだけの議論が横行する嫌いがあります。きちんとしたエビデンスに基づく議論を行 う必要性を私どもは痛感しているわけです。  最後に先ほど申し上げましたとおり、非医師であっても、医療というものに関して理 念と哲学をきちっと持った者に対する道を開くという趣旨で、平成10年に、理事長要件 の緩和が実施されたばかりで、理事長要件をよく読みますと、そういうきちんとした考 え方を持っていれば、理事長に就任できるということは、その道が開かれているわけで す。この趣旨が、平成10年に変わったばかりなのに、また数年間でそんな簡単に変化す る問題ではないということも、是非付け加えさせていただきたいと思います。  それからよく言われるのですが、医療法人、持ち分のある社団の医療法人は、営利法 人ではないかという議論が必ず出されます。今日も神谷委員のほうから出されたわけで すが、そもそも医療法人というのは、できたのは要するに医療サービス提供の継続性か らできたわけで、解散はあまり考えていないわけです。ですから、ずっと継続してやっ ている医療法人がほとんどで、よほどのことがない限り、例えば後継ぎがいないとか、 そういう場合には解散という形もあるでしょうが、それ以外ではほとんど解散というの はないわけで、そういうことも是非皆さん方の意識として、持っておいていただければ と思います。 ○田中座長  ありがとうございました。引き続きまして、長谷川委員から意見を発表していただき ます。 ○長谷川委員  お手元の資料の「これからの医業経営の在り方」をご覧いただきたいと思います。私 自身は内閣府総合規制改革会議の医療ワーキンググループの専門委員として、第1次答 申作成の過程でお手伝い申し上げましたので、そのときの議論の基本的な考え方につい て、前半でご説明申し上げて、後半で若干の私見についてお話申し上げたいと思います 。まず現在の医療制度についての基本的な問題意識についてですが、日本は他の先進諸 国に比較しても低コストで、非常に高い健康水準を維持しています。この意味では日本 が世界に誇るべき素晴らしい制度が日本の医療、あるいは保険システムであるといえま す。しかし、価値観の多様化が今後ますます進行することを考えると、一律の給付とい うことがある種の非効率を伴う可能性があります。価値観が多様化している中で全員を 満足させるためには、給付水準そのものを非常に高く設定しなければならない。しかし 高く設定した給付内容の多くは必ずしも他の人の望むものではないことで、非効率化を 伴うわけです。また少子・高齢化に伴う今後の負担増加に対して、どうすべきかという のが基本的な問題意識です。  これらの問題に対する対応を考える上で取りうる2つ大きなスタンスがあります。1 つは単一主体化により管理費用の低減化を図ることです。例えば医療保険システムであ れば保険者、あるいは供給主体である医療施設を単一化する。もし単一化が困難であれ ばルールを設定し選択肢を絞り込むことによって、同じようなサービスを提供させる。 それにより管理・運営にか関わる費用が安くなります。もう1つは競争原理の導入です 。保険財政、あるいは医療提供主体面での競争原理導入が有り得ます。  総合規制改革会議では競争原理導入のほうがより望ましいと考えこれを促進すること を、基本的なスタンスとしています。単一主体化では、一見効率が良くなるように見え ますが、競争原理が働かないために、実際にはあまり効率性につながらないという可能 性があること、また単一主体化では価値観の多様化に対応できないと考えたからです。  以下では主な論点をご紹介します。医療産業のあり方をどのように考えるのか、情報 公開と活用、医療機関の間での競争原理の導入、保険者機能の強化、EBMの推進、定 額支払い制度の拡大といった論点が主要なものです。  医療産業のあり方では、医療の安全性確保が第1で、以下、質の高い医療の確保、よ り効率的な医療、持続可能で国際競争力を有する医療産業の実現の順に目標を設定して います。特に医療で効率的というと、安かろう、悪かろうもあり得ると考えられがちで すが、これは今の日本の現状では許されません。質は今以上を維持しながら、できれば より少ない医療資源を使って、より効率的な医療を目指す必要があります。また医療は しばしばやむを得ない消費と見なされますが、就業人員、規模など社会の中で大きな位 置を占める産業でもあります。産業として持続的な発展が可能であれば、より望ましい と思われます。  そのためには、まず情報の公開と活用が必要です。現行の医療法では広告規制が定め られており、不特定多数に対する情報提供は、一定のリストに挙げられた項目しかでき ません。これは他の産業と比較してもおかしいのではないか。むしろ医療機関の判断で 、公開したい事項については広告できるようにすべきだという議論は総合規制改革以前 からもありました。  情報公開を最初に取り上げたのは、情報を公開するか否かというのは、医療機関や提 供される医療サービスについて決定的に異なる状況を意味するからです。競争原理導入 というのは情報に基づいた利用者の合理的な選択が前提です。情報が公開されない場合 は、逆に基本的にサービス・プロバイダーである医療機関は均質であり、提供される医 療サービスは等しいということを前提にします。情報公開は、医療機関の機能や医療サ ービスの内容に差があることを認めるからこそ情報の価値があるわけで、前提が全く異 なります。  次に競争原理が本当に導入できるかどうかを検討する必要があります。医療では情報 の非対象性であるとか、緊急性であるとか、最低限の医療サービスは必ず保障しないと いけないといったことから、自由市場というのが必ずしも成り立ちません。医療サービ スの主たる利用者はお年寄りとか弱者なので、選択と自己責任といっても、保護機能な しに放置するのは無理があります。何らかの方法で利用者のエイジェント、すなわち保 護機能が必要になります。  保護機能としては2つが考えられます。1つは第三者機関による評価・認定です。例 えば米国ではJoint Commission on Accreditation of Healthcare Organizationsとか、 National Committee for Quality Assuranceなどの評価機関があります。日本でも同様 の組織として財団法人日本医療機能評価機構があります。これらの機関による認定を参 考とする方法です。2つ目はいわゆる保険者機能です。これは必ずしも保険者に限定さ れたものではありませんが、実際上保険者がもっとも想定されやすいということで保険 者機能と呼ばれます。具体的には良い医療機関への種々の形での患者誘導、患者からの 問い合わせに対応した医療機関の推薦・紹介などが考えられます。  EBMの推進は、広く医療の質を確保するための手法とお考えください。EBMは、本 来は一定の方法論に基づいて、ある病態に対して最適な治療法をガイドラインの形で明 らかにすることにより、治療法の最適化・標準化を図ることを目的としたプロセスアプ ローチの一手法です。現在は医療の質を向上させるための有力な手法として注目されて いますが、医療の質を規定するのは治療法の選択のみではなく、他の因子も影響するた め、臨床インディケーターを用いたデータベース構築によるアウトカムアプローチも同 時に必要となります。EBMが1990年代前半に確立・導入されるとともに、その限界 が認識され、1990年代後半以降はむしろアウトカムデータの構築に先進諸国の関心 は移行しています。例えば、いくつかの疾患の治療成績を幾つかの臨床インディケータ ーを用いて調べてみますと、施設によってかなりのばらつきがあります。これは利用者 の立場に立てば、施設選択の非常に大きな根拠になりますし、行政的にも地域の医療計 画を立てる上で非常に重要なデータになります。この種のデータは断片的にはいくつか 利用可能なのですが、国全体の包括的なデータが利用可能な国は日本を含めてほとんど ありません。日本の病院団体などでは非常に努力されて、こういうデータをお作りにな っている所はあるわけですが、まだまだ緒についたばかりというのが現状です。EBMの 推進は、狭義ではなく、アウトカムデータ構築なども含めた広義の概念としてご理解い ただきたいと思います。  医療の質を維持・向上させるためには、種々の主体が、複合的に役割を果たすことが 必要です。例えば、アメリカでは複数の認定機関がそれぞれの観点から医療機関やHMO(H ealth Maintenance Organization)の認定を行い、EBMに基づくガイドラインも相当 程度普及しています。またメリーランド病院協会やCDC(Centers for Disease Control a nd Prevention)のように臨床インディケーターを設定して、データを病院から収集・集 計し公開する活動が行われています。こういった活動が医療の質を維持するためのイン フラとして機能しています。  定額払い制度の拡大では、DRG/PPSの導入が図られるべきです。DRGは疾病を 治療に必要な資源(=費用)に応じてグループ化したものであり、DRG/PPSはそ れぞれに対してあらかじめ決められた一定の金額を医療機関に対して支払うという診療 報酬支払い方式です。DRG/PPSでは、予想より治療費用が必要になった場合の財 政的リスクは医療機関が受けることになり、これが大きな圧力となって、診療の標準化 、ガイドラインの導入、医療従事者のコスト意識高揚をもたらします。診療報酬支払い 制度は医療のあり方を相当程度規定するという点できわめて重要であり、どのような効 果を期待するかという点で望ましい方式が議論されるべきですが、いまの日本の状況で はDRG/PPSが望ましいと思われます。  これらが第1次答申での主な論点と考え方です。  続いて医業経営の在り方に関する私見を若干述べさせていただきます。競争原理導入 の立場からは、ある組織形態を認めるか否かは、その組織形態が現行の組織形態よりも 効率などにおいて優っているから認めるという考え方はとりません。検討すべきことは 、いかにして公正な競争が可能な環境を制度的に整えるべきかという1点だけです。ど のような組織形態が最終的に生き残るかは関心の対象外です。では、なぜ競争していた だきたいかといいますと、より良い医療を、より少ない医療資源で提供できる組織体に 残っていただきたいという、まさにその1点だけなのです。したがって、例えばアメリ カでの非営利病院と営利病院の比較研究の結果を、営利病院は非営利病院に比較して必 ずしも効率的でないと解釈し、営利病院の参入を認めるべきではないという考え方はと りません。どちらの組織形態が競争環境でより適応し生存しやすいかの予測は困難であ り、そもそも競争原理導入にあたっては関心の対象外です。医療はその国の文化・歴史 的な産物であり、アメリカの事例を日本にそのまま適応することはできません。競争環 境を整えるためにはどうしたらいいかを議論すべきです。  良い医療機関とは、最小の資源で最大の産生が得られる医療機関です。公正な競争環 境を整備するには、まず産生である医療サービスについて質の高い医療とは何かを明ら かにして、そのインディケーターを開発し、データの公開を促進する必要があります。 インディケーターの開発は、行政、学会、その他が考えられますが、重要なことは個々 の医療機関が個別のインディケーターを使用していたのでは比較できないため、共通の インディケーターを定めることです。生データの公開は重要ですが、このままでは利用 者は理解が困難です。生データを収集・評価してわかりやすい形で利用者に提示する評 価・監査機関の育成も必要です。また、国際疾病分類を用いている医療機関が日本では いまだ少ないので、これについても導入を促進し、疾患名・処置名についての用語を統 一する必要があります。これについては診療録管理体制加算が診療報酬に導入されて、 現在は整備の途中ですが、これらのインフラを整えない限り、競争環境はなかなか整備 されないということは指摘させていただきたいと思います。  資源についても検討が必要です。資源の多くは診療報酬で支払われるわけですが、診 療所と病院では全くコスト構造が異なります。医療が近代化するとともに、病院では非 常に大きなキャピタルコストが必要になり、また医師以外の多くのコメディカルスタッ フが必要になります。病院医療では診療報酬が、ランニングコストとキャピタルコスト のうち、どの部分をまかなっているかをはっきりさせる必要があります。例えば国公立 病院を例に取りますと、建設に必要なキャピタルコストは、財政から出されることが普 通です。実際に運営する中で赤字になると、財政から補助が行われます。そうすると診 療報酬はランニングコストの一部をまかなうに過ぎません。他方、民間病院ではキャピ タルコストもランニングコストもすべて診療報酬でまかなう必要があります。ごくごく 一部に、医療施設近代化整備資金などがありますが、これはキャピタルコストとして用 いられます。診療報酬の性格をはっきりさせて、キャピタルコストとランニングコスト のどの部分をまかなうのか、はっきりさせないことには議論になりません。  財務会計については2つの検討すべき点があります。1つは医療機関の収入の大部分 は診療報酬であり、公的な要素を持っています。公的な財源から報酬を受けていること を考えると、財務会計の内容について一定程度は明らかにする必要があります。BSと かPLを開示するとか、監査を行うなど検討してもよろしいかと思います。  もう1点、国公立病院のコストとも関連するのは、いわゆる政策医療です。不採算医 療の代名詞として、よく政策医療という言葉が使われるわけですが、何を根拠に政策医 療というのか不明瞭な部分があります。実際には部門別の会計を出して、本当にこの地 域でこの医療が不採算なのかを明確にする必要があります。診療報酬の性格の明確化、 財務会計の透明性の確保、政策医療の定義をはっきりさせることによって、診療報酬以 外の資源を投入するための考え方を明確にすることができると思います。  経営の自由度については、これを制限する理由は何もありません。しかし、診療・医 療の質情報が整備されて、公開が行われ、透明性が確保されていることが前提条件です 。現状では前提条件なしに議論が行われているのでなかなか結論を得ることができませ ん。例えば医療法人の理事長が医者であれば、医業に関する犯罪はなくなるのかとか、 経営は効率的になるのか、それは分からないのです。ただ、理事長の人格に頼るという のは合理的ではありません。富士見病院で問題になったのはむしろチェックシステムが なかったことです。それを組織として防止するような方策、あるいは監査するような方 策がなかったという、システムの失敗なのです。医療事故に関しても同じことが言えま す。ある個人の人格でもって、何かを保障しよう、担保しようというのは、非常に原始 的な議論だと思います。どうしても理事長要件だとか、株式会社の参入などの議論に関 心が集まりますが、競争原理の導入の観点からは、前提条件、必要なインフラの整備を どのように図るか、といった点でご議論いただければ、より建設的な結果が得られるの ではないかと思います。 ○田中座長  どうもありがとうございました。お三方とも大変興味のある発表をいただきました。 議論の前にあと2つ、ご用意いただいた資料について発表をお願いいたします。まず、 医療法人協会の調査結果について、豊田委員からお願いします。 ○豊田委員  それでは昨年の12月に、当協会で会員を対象に医療法人制度についてアンケートを行 いました。医療法人制度については、いろいろな角度から近年議論されているわけです が、そもそもこの医療法人制度ができました過程、あるいはそれが成立するまでの議論 の中で、私どもが過去に遡っても、はっきりしない点、非常に曖昧な点があって現在に 至っている。その間、いろいろな改革を、あるいは修正を加える動きはありましたが、 ほとんどこの50年間動かないという反省もあります。私どもがいまいちばん問題にして いるのは、例えば株式会社参入について、先ほどもありましたが、医療法人の一部は営 利法人と変わりはないということに対して、非常に残念に思うわけですが、その議論は 後にして、そういったことで株式会社参入それだけが単に反対だと言っているのではな く、そういったことを議論することで私どもの医療法人改革を本来あるべき姿にもって いく1つのきっかけにしたいと考えて、さらに医療改革に取り組んでいるわけです。  今日ここでお話するのは、それでは会員の医療法人の実態はどうなっているのかとい うことについてのアンケートです。会員に対して発送した数は1,473、回答をいただい たのが852法人、回収率は57.8であまりよくないのですが、これに基づいて結果を発表 させていただきます。医療法人の形態は、社団をとる形態と財団ということがあるわけ ですけれども、社団の形態をとっている法人が724、率にして84.98%、財団法人の形態 をとっているものが11.15%です。  それから、1頁の下に「特定医療法人および特別医療法人」というのが出ています。 社団と財団がありますが、この中に、さらにそれぞれに、これは租税の特別措置法によ ってできた制度で医療法ではないのですが、特定医療法人と、平成9年に改正、10年か ら施行された医療法に基づく特別医療法人と、こういう新しい形もございます。ここに 出ているのは、当協会に所属している法人のうち、特定がいくら、特別医療法人はいく らということです。我が国の全医療法人の中では、特定医療法人は301、特別医療法人 は現在22ということです。  2頁にいきます。医療法人というのは最初は社員が集まって設立するわけですが、こ れは、医療法人を立ち上げるためにどれぐらいの人たちが集まってやっているのかとい うことを、統計で示したものです。この後ずっと、持分のある、なしというのが出てき ますけれども、持分のある社団が特に問題になっているようです。その点をよく見てい ただきたいと思います。社員数では、立ち上げるときの人数、その後維持するために医 療法人を支えている人たちが11〜19人というのが、法人の数としては多いわけですけれ ども、4〜9人が61%ということです。これらの人によって法人が立ち上げられている ということです。  法人を立ち上げた人たち、あるいは、それを維持している人たちの社員の親族の割合 が、3頁に出ています。「親族関係」というのは、社員のうち理事長と親族関係にある 社員の割合について示しているものです。これを見ますと、これに回答した647法人の うち最も多かったのは、全部理事長との親戚関係であるという法人で、192法人、29.68 %です。社員の半数以上が親戚であると、いわゆる同族法人と言われるわけですが、10 0%を含めて半分以上同族であるという数を合計しますと398法人、61.51%です。理事 長との親族関係はかなり強いということです。  次に、4頁を見ていただきたいと思います。社員と理事があるわけですが、日常のい ろいろな医療法人の活動を行っている理事についてです。4頁は理事の数です。最も多 い人数は6人で、172法人、20.98%、医療法人の理事会が5〜7人で運営されていると いうのが約50%です。  5頁をご覧いただきたいと思います。先ほどの社員と同じように、それでは理事の親 族の割合はどうなっているのかということですが、100%理事長の親族であるという法 人が191法人で24.55%、50%以上が理事長と親戚であるという法人が451法人で57.97% と、先ほどの社員に似た数字になっています。  6頁は、幹事です。幹事は1人から4人まで統計をとってありますが、医療法人の幹 事が1人というのが491法人で60.77%と、いちばん多くを占めています。また、幹事の 親族割合ですが、回答数718法人のうち最も多かったのが0%で、511法人でした。親族 関係はないという法人が71.17%で、非同族化がかなり進んでいるということが、ここ には出ています。  7頁をご覧ください。現在、医療法人協会では、会計処理についての勉強会を行って います。どのようにして経理の処理が行われるかということですが、昭和58年に示され ました「病院会計準則」と従来からの「企業会計の基準」とがありまして、ご覧のとお り「病院会計準則」が67.78%、一般の企業会計の基準が16.26%となっています。7は 「外部監査の実施」ですが、外部監査を行っている医療法人は3.63%です。  先ほども出ていました「経営情報公開の可否」についてですけれども、これは会員の 意識の調査です。「経営情報をすでに公開している」が1.46%、「公開してもいい」が2 0.34%、「公開すべきでない」が78.2%ということです。  8頁は、「医療法人の理事長資格および要件」についてです。現在、理事長資格要件 は、医師あるいは歯科医師を原則とすることになっていますが、現在の当協会の756法 人についてアンケートをしましたところ、医師を理事長とする法人が88.84%、歯科医 師を理事長する法人が2.58%で、その合計が91.4%になっています。後ろのほうに資料 も付いていますが、原則ですので、それ以外の方が理事長になっておられる法人が73法 人ありました。過去5年間の経営が安定しているとか、理事長が死亡して後継者がまだ 医科大学にいるということで、理事長の奥さんが理事長になっている法人、また、現在 の法規が施行された日に、すでに医師でない方が理事長になっていたという法人もあり ました。この3つが、73法人の中で多かった順番です。  9頁は、「理事長の資格要件の緩和」についてです。これは意識の調査です。理事長 資格要件については、現在は原則として医師あるいは歯科医師ということになっている わけですが、これを緩和すべきか、あるいは現状維持すべきかということです。50.37 %が、現在の医師あるいは歯科医師という規則を維持すべきである、ということでした 。無条件の緩和ではないわけですが、緩和をしてもいいというのが329法人で40.22%、 現在の法規は撤廃すべきだというのが9.41%でした。当協会の会員の意識がこのように 分かれているということです。以上でございます。 ○田中座長  ありがとうございました。最後になりましたが、日本病院会の調査結果について、川 合委員のほうからお願いします。 ○川合委員  昨年末に行いました日本病院会の、会員2,625会員を対象としたアンケートの結果で す。資料の2頁をご覧ください。円グラフになっていますが、これは理事長要件です。 トータルとしては「医師であらねばならぬ」というほうが「医師である必要がない」と いうより若干多めなのですが、これを公的と私的に分けますと、私的の側は「医師であ る必要がない」というほうが多くなった、というデータです。いずれにしても、お互い に接近した数字です。  4頁は、営利企業の参入はどうなのかということです。「反対」が約80%ですが、こ れも、公的と私的に分けますと、私的のほうが公的に比べて「入ってもいい」が若干増 えている、というデータです。  次は、情報公開の話です。これは複数回答です。ここで話題になっている経営内容云 々ということを見ますと、プライバシーを侵害しない範囲内の医療の内容については、 ほとんどの病院は「いい」と答えていますし、第三者機能評価も「いい」ということで すし、患者情報についても、大体30%強ぐらいは「いいのではないか」という回答でし た。ところが、経営内容は、10%ちょっとという非常に低い段階にとどまっているとい うことです。以上です。 ○田中座長  簡潔に、ありがとうございました。それでは、お三方の意見、および2つの団体のア ンケート調査について、ご意見やご質問がありましたら、どうぞご自由にご発言くださ い。 ○石井委員  経営内容開示議論等もありますので、公認会計士の立場から、3点ほどポイントをま とめて、ご意見をいただきたいことがございます。神谷先生の資料の3頁目に「営利法 人による医療経営への参入抑制政策の改廃」というのがありまして、その第二で、株式 会社が医業経営を行うことによる弊害があるかどうかということに関して指摘がない、 というお話がありました。先程、西島先生がエンロンという企業のお話をされましたが 、アメリカで公益事業の市場公開を行った結果、場合によってはブッシュ政権も揺るが しかねないというような非常に大きな問題が出てきております。  今週の『ニューズウイーク』から抜粋をすると、政府の規制が幅をきかせている非効 率な公益事業に市場原理を持ち込んで、より良い暮らしを実現するはずだったのだけれ ども、エンロンという企業が倒産をした。1年前の株式の時価総額が600億ドルだった が、現在それが99%下落をしている、売上高が1,000億ドルということです。いわゆる 企業の暴走を防ぐために用意されていたはずの何重ものチェック機能が実は全く役立っ ていなかった、ということが問題になっております。残念ながら、私が属している公認 会計士職域における監査業務の中で世界最大規模の監査法人が、監査調書を廃棄したり して、監査機能が機能せず、また、社外取締役等の監視機構も機能していなかったよう である、という議論が出ております。  公益性の高いサービス事業という問題と、そのチェックシステムというかかわりの中 で、最も進んでいると言われているアメリカの実状が、残念ながらこれからかなり大き な再評価を受けるであろうという事実がある、ということが第1点です。『フォーチュ ン』という企業のランキングのリストでは、500社の中の上位7位にエンロンがランキ ングされていたわけですが、多分これからアメリカにおける企業統治を支える「器と心 」の問題が出てくるだろうと言われています。そういう観点から考えると、弊害が生じ る、生じないということに関しては、今アメリカという国においては変化が起きている ということです。エンロン事件において今いちばん大きな問題だと言われているのは、 経営者が最も関心を払っていたものが株価であった、いわゆる資本主義の錬金術であっ た、ということです。株式の時価総額600億ドルを日本円に換算すると、6兆円とか7 兆円になります。このような要素が資本主義における企業経営の中の仕組みとしてある というのは事実です。そのことと、医療サービスというもののかかわりをどう考えるか というのは、1つの大きな検討課題だと思います。  今の議論にも繋がりますが、長谷川先生が、人に頼るのは合理的でない、システムに 依存するほうが効果的である、というお話をされました。世界で最も会計監査システム が発達している国はアメリカですが、アメリカの中で最も巨大な監査法人で現実にこう いうことが起きていますので、残念ながらチェックシステムだけでは物事は機能しない 、教育によって人格を形成するということも必要だ、ということも事実だろうと思いま す。そうしますと、理事長医師要件議論というのも心の観点から考えなければいけない のではないかと、私は個人的には思っています。  最後に、会計情報の議論でありますが、基本的に会計情報の議論というのは医療法人 に限定されるものではありません。医療法人の会計情報議論というのももちろんあるの ですけれども、医療法人に限定されるものではなくて、医療サービス提供という問題に ついての議論なのだろうと思います。例えば政策医療の部門別会計議論というのが出て きたりしますが、大部分の医療法人は、いわゆる政策医療の担い手にはなっていないと いう事実がありますので、政策医療を区分会計するという議論は、医療法人に限定しま すと、あまり該当しない。一方、民間は政策医療をしていないのかというと、そうでは なくて、日赤や済生会や厚生連は非常に多大な政策医療サービスを担っています。その 辺りを考えてくると、確かに必要性というのはあるのかなという結論に達します。  しかしながら、営利企業やその他の様々な法人における情報開示との関連で考えると 政策医療と保険診療にかかわる会計を区分しようというのは会計技術的にも大変難しい 部分があり、また他の情報開示例からも十分に検討する必要が生じます。例えば日本で 最大規模の製薬会社の有価証券報告書というのは100頁にも及ぶもので、昨日のニュー スでは、この会社の株式の時価総額が東京三菱銀行よりも大きくなっていますが、セグ メント情報としては、社会保険診療に対する医薬品売上高がいくらで、これにかかわる 営業利益がいくらか、という開示はありません。医薬部外品、試薬、医療用薬品、OT C、それらを全部含めた医薬品事業の売上げがいくらで、利益はいくらかという開示は あるのですが、社会保険医療にかかわるところの売上高と対応する営業利益がいくらか というような情報開示は、一切ないのです。  そうなってくると、医療施設に限定して、政策医療の赤字部分がいくらで、通常の保 険診療部分の収支がどうかという情報提供を求めるのであれば、他の医療事業とかかわ りを持っているさまざまな事業者が、同じような情報提供をするというのが公平なこと なのできないかということも感じております。以上3点、少しニュアンスが異なるかも しれませんが、意見を申し上げました。 ○田中座長  ありがとうございます。ご意見ですので、反論していただいても結構ですし、賛成し ていただいても結構です。 ○長谷川委員  3点ご指摘いただきましたが、後ろの2点に対してコメントをさせていただきたいと 思います。何かあるものを担保するときに、システムと人格のどちらがより重要なのか ということについては、最後は人格かもしれませんが、システム整備をまず図ることが 実際的だと私自身は考えています。ある種の医療事故とか、医療にまつわる犯罪などに 対して、ピアレビューのシステムとか、患者統計といったデータがあれば、ある病院に なぜある疾患が多く集まって、ある術式が非常に多いのか、ということがわかるはずな のです。富士見病院のように、同一の術式が集中して発生し、かつ手術で採取した組織 が病理に出さない状況を誰もチェックできなかった。これはやはり一義的にはシステム の問題なのだと、私自身は理解しています。  2点目のセグメント会計については、不採算医療は地域により、診療科目によりあり 得ることです。それは小児救急かもしれないし、火傷に対する救急かもしれません。も し、診療報酬以外のリソースを投入するからには、「何を基準に何のために」を明らか にすることはどうしても必要です。例えば上場会社でセグメント会計をとっていないで はないかというご指摘に対しては、もちろんセグメント会計情報を明らかにしている会 社もありますが、日本でいちばん大きな製薬会社が公費を受けているわけではないので 、義務として定められているわけでもなく、また同一に考えることはできない話です。 やはり政策医療・不採算医療についてはそれなりの考え方を明らかにする必要があるの ではないかと私自身は考えています。 ○川合委員  私は物を知らないので質問するのですが、私の記憶する限りでは、政策医療という言 葉は国立病院・療療所にしか使わない言葉で、公営企業法の中には政策医療という言葉 は使われていませんし、日赤に関しても政策医療という言葉は使われていません。言葉 遣いについて明らかにしていただきたいと思うのですが。 ○田中座長  今のは、長谷川委員に対する質問ですか。 ○川合委員  これは、むしろ厚生労働省の方にお伺いしたほうがいいのかなと思います。政策医療 という言葉が巷でよく使われます。でも、地方自治体の公営企業法の中には政策医療な どという項目は1つもない。国立病院・療養所の中にはいろいろなことがあって、「こ れを政策医療と言う」と書いてある。政策医療とは何であるのかということをまず明ら かにしていただいて話を進めていかないことには、訳がわからなくなってしまいます。 ○田中座長  すぐお答えになれなければ、この次までにということになると思うのですが。 ○石塚指導課長  「いわゆる政策医療」という使われ方が一般的で、へき地とか救急とかいうので、皆 さんある程度のイメージはあるのでしょうけれども。 ○川合委員  「いわゆる」という言葉など、どこにも載っていませんけれども。 ○石塚指導課長  少なくとも公的に、医療法などで明確に定義したものはないと承知しています。 ○小山委員  政策医療は、今は厚生労働省ですけれども、行政が医療政策の一環として行う医療は 政策医療だとお考えいただいて結構だと思います。これは、平成2年に国立病院・療養 所の経営改善をし、7年に再編成もやっています。政策医療と一般医療ということで、 循環器の患者さんが入ってきて骨折もしていると、骨折は一般医療で循環器のほうは政 策医療だから、心臓のほうは政策医療で骨折のほうは一般医療です、という定義ではあ りません。しかしながら、国が進める医療について、特に国立病院、国立療養所が進め る医療について、例えば国立がんセンターとか循環器病センターとか国立国際医療セン ターが国の政策として進めるという医療の範疇は、おのずとしてあると考えられている のではないかと思います。それが法律になっているかどうか、定義になっているかとい いますと、ご質問のようなことについては定義にもなっていません。一般的に考えて政 策医療というのは存在する、と私どもは理解しています。よろしゅうございますか。 ○川合委員  ですから、公営企業の中には載っていない、ということを申し上げているのです。い ま小山先生がおっしゃったとおりです。 ○小山委員  載っていません。おのずと政策医療という範疇があるだろうという形で、その政策医 療をやっているのが国立病院、国立療養所だということで、国立病院、国立療養所の法 体系は整備されている、というのが事実です。 ○川合委員  私が思っていたことと変わりなかったということですね。ありがとうございました。 ○神谷委員  先ほどの石井委員のご意見には私の意見についての指摘も含まれていたと思いますの で、3つの点についてお答えしたいと思います。最初に、エンロンと株価という話があ りましたけれども、エンロンのケースは、逆に言えば、トップの2人の人に問題があっ たと理解することもできるケースなのです。法律で制度の手当てをしたら必ず良くなる 、ということはないわけです。あくまでも合わせ技として、さまざまな手法を使って、 社会として、できるだけ不幸な結果が生まれないような手当てをしていく、ということ なのです。本気になって、法の網をくぐり、制度の網をくぐって悪いことをやろうと思 えば、それはたぶん相当の確率でできて、数年間隠しおおせるということは確かなので すけれども、制度の手当てをするというのはいかに合わせ技で全般として制度をうまく 働かせる確率を高めるか、という問題だと思います。  次に、人に頼るのが合理的な場合もある、というお話がありました。もちろん個別に はそうなのですが、大量観察として理事長要件が良い結果をもたらしているか、という ところが問題で、どうもそういう関係はない、という議論がしたかったのです。3番目 の会計のお話では、現にどうしているかということは別として、管理会計的な意味では 、情報がなければ、部門別会計はいずれにしろつくらないといけないというのは確かな ので、この点についてはちょっと議論が噛み合っていないのではないかと思いました。 ○小山委員  私は、この検討会では医療法人のことを考えて、医療法人とか民間医療機関の経営に 少しは資する話をするのだろうと思っていました。株式会社が参入するかどうかという のは、よくわかりませんが、正確に申し上げますと、日本の病院の形態は、公法人も特 殊法人も民法法人もありますし、社会福祉法人も学校法人もありますし、生活協同組合 みたいな中間法人も私法人もあって、私法人も、有限会社、合名、合資会社を除いた株 式会社もやっているわけです。そういういろいろな法人組織が病院をやっているわけで すから、例えば情報公開の話は、どう考えても医療法人だけの話ではないだろうと思う のですが、これは、この会としてそういう理解でいいのでしょうか。  もう1つ、いろいろな法人形態があるのですけれども、何しろ省庁再編で、国の機関 、公法人自身をガチャガチャとリストラして、今は特殊法人をゴチャゴチャとやってい て、独立行政法人、民法法人ときて、いずれは医療法人にくるのではないかと思うので す。上のほうを整理してもらわないといけない。みんないろいろなことを言っています けれども、日本の国の法人の形態が決まらないわけじゃないですか。特殊法人は全部や めるという。それでは公益法人になるのかなということで、公益法人はどういうものか というと、公益法人もアカウンタビリティも要るし、情報公開もするという。じゃあ医 療法人もやったら、という話でしょう。上から順番にきているので、そろそろくるから 、その前に議論しておくというのは有用なのですが、医療法人だけ取り出しても、医療 法人もまた厄介で、持分の定めがないものとか、財団の医療法人とか、いろいろある。 持分の定めがあるのは約7割の医療法人で、病院数にすると3,500〜3,600です。これだ けで議論すればいいというのなら、それはそれで議論はできる。  それから、神谷先生のお話は、わかったようなわからないような話だと思います。余 剰金の配当禁止と残余財産の分配が可能というのは、全く意味が違います。医療法上の 非営利性というのは余剰金の配当禁止だ、と厚生労働省は言ってきたのです。残余財産 の分配が可能だから営利だとすれば、残余財産の分配も余剰金の配当も両方ともしてい れば、完全に営利なわけですよね。そうすると、生活消費協同組合とか農業協同組合と いう法律がありますが、これは、一定の内部留保以上については、余剰金を分配するこ ともできれば、残余財産について皆さんに返すこともできるのです。ということは、生 活協同組合も農業協同組合も営利法人だということになるわけですね。 ○神谷委員  全く違います。それは昔からある議論なのですが、私の意見書をよく見ていただきた いと思います。「利益の分配」の前に言葉があるのです。対外的な事業活動から得た利 益を財源とするかどうか、というところがポイントなのです。株式会社で、自分の会社 の株主しか取引相手にしない、という会社を考えていただくとわかります。このような 社団や法人が、いま言われた農協とか生活協同組合で法人格を持つところとか、生命保 険でよく使われている相互会社です。要するに、法人という身内の中だけでお金が動い ていますから、剰余金という名前は同じですけれども、このようなところでやっている 剰余金の支払は、単なる出資の払戻しで、閉じた法人内部のお金のやりとりなのです。 ですから、生協や農協は営利法人ではありません。そこは、誤解のないようにしていた だきたいと思います。  利益の配当といい、残余財産の分配といい、過大な報酬の支払いといい、要するに、 これは「利益の分配」なのです。利益の分配にはいろいろな方式があって、ほかと商売 した結果得た収支の差額という利益を投資した人に返す返し方が違うだけなのです。3 番目の過大な報酬の支払いは例外的です。利益の分配がなされるのが営利法人だという のは、商法で100年ずっと議論されてきたことですから、誤解のないようにしてくださ い。剰余金という名前は同じでも、よってきたるところは違うわけです。そこをご理解 いただきたいと思います。 ○田中座長  経済学の見方ですと、利益の有無よりも、先ほど石井委員の言われた株価ですね。企 業価値の最大化、株価の向上を求めるのが営利企業である。利益は、結果としてあった りなかったりするし、非営利法人でも生きていくためには利益はある程度必要なので、 利益の有無は、あまり経済学では着目しないのです。 ○神谷委員  医療法にも同じ文言がありますけれども、「営利の目的」という言葉はどういう意味 かというと、まさに、こういった対外的な事業活動から得た利益を社員に分配するとい うことなのです。もちろん、そういう意図でやっているというだけで、儲からない場合 もあるわけです。そういう意図でやっている限りは営利法人だと。経済学的な定義と基 本的には変わらないのは、器というものにみんなお金を集めて、それを使ってほかのと ころから利益を上げて、それを投資者に還元する、というところです。その構造を法律 的な言葉で言うと利益の分配の要素があると言うことになるとご理解いただければいい のではないかと思います。 ○小山委員  1つは、法律的に営利法人か非営利法人かというのは全く意味のない議論なのではな いか、ということを申し上げたいのです。それから、経済学的にもいろいろ考えられま すし、みんなそれぞれ学問はあるのでしょうけれども、私は、医業経営の在り方という と、税制が頭にくるのです。税金の問題は役所が違うから違うのかもしれませんが、営 利、非営利と税制はまた全然別でしょう。生活協同組合は軽減税制があるわけです。地 域医療に貢献しているのは民間も公的も同じだとすれば、株式会社並みに課税がされて いるという議論が片一方にはあるわけですよね。税は国家だというから、税制の世界は また全然別なのかもしれませんが、法律的な意味とか経済学的な意味から、この会議で 、これからの医業経営の在り方というのが出てくるということがあるのでしょうか。 ○田中座長  厳しい指摘ですが、あとでどなたかお願いします。 ○川原委員  冒頭から、株式会社であるとか、医療法人であるとか、いろいろなことが論じられて おりますけれども、私は、法制根拠となる法律に大きな違いがあるところに目を向ける べきではないかと思うのです。議論の本質はどこにあるのか。株式会社は商法に基づい てつくられた法人であるのに対し、医療法人は非常に公益性が強く、営利を否定してい る医療法に基づいてつくられた特別な法人であります。利益に対する両法人の考え方が 、先ほど来お話に出ていますけれども、株式会社の場合には、株主の株式購入の動機は 、資産運用という視点に主体性がおかれております。その結果、当然のこととして、資 産運用の利回りとしての利益配当がなされ、且つ、財産は株主に帰属することになりま す。同時に、株式会社の経営活動は何かと考えた場合、社会的使命は、確かに明確にさ れ、その存在の有益性も十分に認められておりますが、利益の最大化を追求し、獲得さ れた利益から株主に配当をし、その後の残余利益を社内に留保蓄積していくのが株式会 社なのではないかと位置付けています。しかし、医療法人の場合には、国民のための医 療を追求し、質の高い医療を提供した結果として上がった利益についての配当は許され ておりません。配当することが許されない利益の使途はどのように位置付けられている のかと申しますと、医療への再投資のために使用するということになっております。し たがって、利益が上がったといった現象面のみで株式会社と医療法人を同一視して同じ 土俵の中で論じること自体、かなり無理があるのではないかと思うのです。 ○田中座長  営利、非営利法人問題も大切ですが、もう1つ、小山委員の言われた、この委員会の 目的である医業経営の近代化について、特に今日は経営情報公開が発表のテーマでした が、この情報公開については何か意見がおありでしょうか。 ○川原委員  先ほど来、論じられている会計情報、いわゆるマネジメントに関するディスクロージ ャーについて考えてみたいと思います。株式会社にあっては、株式公開されている法人 など特定の場合には確かにディスクロージャーがなされております。しかし、零細・中 小企業が本当にディスクロージャーをあまねく行っているのかというと、実務の世界で は行っていないと理解していただきたいと思います。株式公開している会社が概略80万 社のうち、何社あるのか、ということを考えてみたいと思います。株式公開をしている 会社の数は、本当にごくわずかです。それなのに、何の根拠があって医療法人に経営情 報の公開を求めるのか。今、議論の対象になっている医療経営の情報をディスクロージ ャーする相手先は何なのか。端的な言い方をすれば、医療法人の場合には都道府県知事 への決算の届け出を義務付けられております。私は、公式ルートでの経営のディスクロ ージャーがきちんとなされているのではないか、と理解しております。 ○西島委員  先ほど来、情報公開ということで、特に医療の質をどこでどう見極めるのか、という 話が出ているわけですが、指標をどれにするのかというのは、非常に難しいのです。当 然それはしていかなければいけないことはわかっているわけで、私どももそれはずっと 研究はしてきているのですが、指標をどうするのかというのは非常に難しい問題です。 日本医療機能評価機構でも、その研究は進んできています。アメリカでは、やはりそう いうさまざまな指標を使って公開しているのですが、その結果何が起きているかという と、結果が下がるから重度の患者は診ない、ということなのです。そういうことが実際 アメリカで起きている。そういうことを考えると、情報の公開は当然必要なのですけれ ども、難しい問題であるということだけは、ちょっと言わせていただきたいと思います 。簡単なものではないということです。もう1つ、患者さんに対しての情報提供、説明 と同意というのは医療法の中に入っているわけですので、医師は当然それをしているわ けです。先ほど来出ている話は、まさしくその成果の部分だろうと思います。 ○神谷委員  情報公開の程度について、ちょっと誤解があるように思います。私の書いたものもそ うですが、上場している株式会社と同じものをすべてやれということは、全く言ってい ないのです。これは医療法でも商法でも同じですが、問題は、法人の性格に応じて債権 者に対する開示のレベルを定めて置かなければいけないということなのです。まず、開 示の内容のレベルが法人の性格との関係でどの程度になるのかという点が検討の基本で 、将来、株式会社で上場企業が医業経営をするとなれば、その場合の開示の程度は株式 を公開している会社と同じにならなければいけませんが、今はそういう議論をしている わけではないのです。 ○豊田委員  情報公開には、いろいろな情報公開があるわけですが、先ほど西島委員が言われたと おり、診療の場における情報公開はもうすでにかなりされているわけです。そして、株 式会社と同じような経営内容、資産内容などの公開ということになると、そもそも何の ための情報公開かといいますと、医療の透明性ということもあるでしょうけれども、実 際に医療機関を選択するときに、患者さんたちに正しい情報を与えて、間違いないよう にするという、選択のためのいろいろな情報を提供するということが目的なわけです。 しかし、例えば患者さんが胃潰瘍の治療に行くときに、あそこは借金が多いから駄目だ とか、借入れが多いからどうとかという、いま議論されている情報公開が、果たして関 係があるのか。これは全く意味のない議論ではないでしょうか。そんなことが患者さん の病気の治療のためになるのでしょうか。そういう議論は、経済学者の遊びではないで しょうか。 ○石井委員  第1回のときに、自己紹介を兼ねて申し上げましたが、会計という問題と、経営情報 の開示という問題と、開示された情報が正しいかどうかの第三者チェックという問題は 、それぞれ別の問題です。今、会計の基準と言われているものが全分野にわたって変化 をしております。変化には現実的な理由があるわけです。病院会計準則と言われている 基準自体は、残念ながら少し陳腐化しております。これは変えるべきであります。病院 会計準則に準拠して作成された財務諸表によって提供される会計情報が、医療サービス の受け手である患者等にとって有用かどうかという以前に、財務諸表自身は現在の病院 会計準則でも明記されていますが、経営結果の数値情報ですから、病院施設の管理者や 医療機関の経営者にとって非常に重要なものであります。従いまして、経営の効率性や 経済性評価の観点から会計情報そのものはもともと非常に有用なものだ、というご理解 はいただいていると思います。  それに対して、経営情報の開示という議論になったときには、神谷先生のメモにも記 載されておりますが、規模あるいは業務の内容というような一定の基準によって開示す べき主体や情報に関してはっきりとランク付け或いはガイドラインを明確にする必要が あります。今回、パブリックコメントを求めるということで、総務省から"公益法人会 計基準の見直しに関する中間報告"が公表されましたが、これに関しても、末尾におい て、一定規模以上の公益法人のみについて時価会計や退職給付や連結会計議論をする、 規模の小さな法人については、過重な負担となるので適用しないというような提案をし ています。そのあたりは、委員の皆さんにご理解いただけるのではないかと思います。 ○川原委員  会計準則を見直し、現代に通用する会社基準を制定するということは否定するもので はなく、むしろ積極的にやるべきだと思います。ただ、それを何のためにやるのかとい うのが問題だと思うのです。私は医業経営者自らが、自分の組織体の経営内容がどうあ るのかということを、他の医療施設との比較対比の中でしっかりと状況判断できる客観 的な基準づくりという意味での会計基準の手直しということであれば、よく理解できる し、それをやらなければいけないと思います。勿論、医療経営の実態調査を行う際とか 、或いは第三者が評価を行う際の判断基準の統一性、正確性を担保するためにも必要で あることは当然のこととして認めます。ただ、先ほど私が経営情報を誰に対してディス クロージャーするのかとお聞きしたのに対して、債権者のためのディスクロージャーな のだというお話がありました。現在、医療法では経営情報を債権者に対しては、その求 めに応じて閲覧の形で開示するということになっております。このような規定があるこ とを前提に考えるとディスクロージャーの対象は国民ということになるのではないかと 考えざるを得ません。国民は経営情報を見て、医療の質とかサービスをジャッジメント することができるのか、私は誤った認識を与える基になると思うのです。ディスクロー ジャーをすることによって医療の質を高め、サービスの向上を実現するに足る組織体制 の構築に直接結びつくのかどうか。私は疑問に思っております。国民に対して経営情報 のディスクロージャーを行うということであれば、一律的に義務化するのではなく、医 療法人の自主性に委ねることで良いと思います。 ○神谷委員  そんな大した話ではないと思うのです。要するに、株式会社と比較した場合に名宛人 は誰かという話で、診療報酬をたくさんもらっているから公的法人的な要素があるのだ となれば、ここにある公益法人のところに水準を合わせるべきだ、ということになる。 公益法人と同程度の開示をやったから患者さんとの関係で大変いいことがあるかという と、これはそんなには関係する話ではないと思います。そういう議論が出るのではない かと思って、私の意見書にも、病院が潰れるか潰れないかということは本文で論ずる必 要はないということで、6頁の注の17に、それは除くとはっきり書きました。そういう 議論をここでしてもあまり意味がないのではないかということで、最初から除外してい ますので、そこを皆さんが一生懸命議論されるのは、ちょっと意外だなと思っています 。 ○長谷川委員  いろいろ論点が錯綜しているので、少し整理して議論されたほうがよろしいと思いま す。まず、どのようなルールに基づいて会計がなされているかという、ルールの問題が 1つあります。また、会計が適切になされたかどうかという監査の問題があります。そ の結果を公開するのか、あるいは開示するべきかという3つ目の論点があります。  会計ルールについては、現状では必ずしもルールが統一されていません。当然統一し たほうがいいというのは、誰でもわかる話だと思います。そして、いま特に話が錯綜し ているのは3つ目の会計情報の開示についてです。診療報酬は準公的なお金だというこ とで、収入の多くがそのような準公的なお金に依存しているような組織は、一般の株式 会社に比較して、より多くの人間に対してその情報を提供する必要があるかどうかにつ いて検討する必要があるます。次に、自治体からの補助とか近代化整備資金などの診療 報酬以外のリソースをいただく場合は、提供すべき情報の質・量がより多くなるのかを 議論すべきでしょう。これについてはいかがお考えなのでしょうか。 ○田中座長  時間になってきました。こういう委員会は、私たち委員の発言を事務局に論点整理を していただいた上で、また改めて議論することになるのだと思います。それも含めまし て、次回についての説明を受けたいと思います。お三方およびお2人の先生方、どうも ご準備をありがとうございました。それでは、今の論点整理をしなければという点を受 けて、次回以降の方法について、指導課長からご説明をお願いします。 ○石塚指導課長  第1回目にもお願いしておりましたが、3月には、理事長要件ですとか、いま出てい ました経営情報の開示の問題を中心にして、中間的な取りまとめをお願いするわけです 。それに向けて、次回は2月20日(水)の午前10時からという日程です。中間取りまと めに向けた叩き台のようなものを事務局のほうで用意させていただきたいと思います。 開催場所が決まり次第、文書で改めてご通知申し上げたいと思いますので、よろしくお 願いします。 ○田中座長  経営情報の開示については今かなり意見が出たと思うのですが、理事長要件のほうは 、ご発表はありましたが質疑がまだあまりないので、発表に基づく論点整理しかできな いかもしれませんが、これはあくまでも叩き台としての整理ということで、お願いした いと思います。さらに、時間が足りなくて今日ご発言できなかった方もいらっしゃるで しょうし、家に帰ってこれをお読みになって、改めて、このような整理があり得る、と いうご意見が出ることもあると思います。特に、いま申し上げたように、理事長要件に ついては、ご発表はありましたけれども、議論を戦わせていませんので、それらについ てご意見がありましたら、事務局のほうにファックスかメールでお送りいただければ、 それを入れたいとの話が事務局からありました。よろしくお願いします。そういう予定 になっていますが、よろしいでしょうか。それでは、本日はこれで閉会いたします。お 忙しいところをご出席いただきまして、どうもありがとうございました。 照会先 厚生労働省医政局指導課 医療法人指導官 北見 学(内線2560) 医療法人係長 赤熊めいこ(内線2552) ダイヤルイン 3595-2194