01/12/14 第7回 医療安全対策検討会議議事録            第7回 医療安全対策検討会議 日時 平成13年12月14日(金)14:00〜 場所 厚生労働省共用第7会議室 ○森座長  ただいまから、第7回医療安全対策検討会議を開催いたします。皆様お忙しい中、ま た遠方からもお出かけくださいましてありがとうございます。参考人の方々もどうぞよ ろしくお願いいたします。  本日、事務局から連絡をいただいておりますところでは、17名の委員がご出席、欠席 が4名と聞いております。前回の第6回は大阪で開催いたしました。委員の方々もたく さんご参加くださいましたし、シンポジウムを聴くという意味でお集りくださった方も かなりの数であったと思います。おかげさまで、盛会のうちに終了いたしました。大阪 の会議について、事務局からコメントがありますか。 ○新木室長  たくさんの先生方にご出席いただきまして大変ありがとうございました。おかげさま で大変好評のうちに終了することができましたことに御礼申し上げます。 ○森座長  本日の議題の中心は、検討項目の5番「医薬品・医療用具に関連した医療安全対策」 です。ご承知のように、医薬品とか医療器具というものも、安全対策を講じていく上で 非常に重要な要素の一つであると理解しております。こういう「もの」ということで、 本日は学識経験に富む方々をお呼びしてご発表願う、話題を提供していただく、あるい は討論に参加していただくという段取りを事務局にしていただきました。  本日、メインのお話を頂戴いたしますのは、桜井靖久先生です。それから、参考人と して、東京医科歯科大学歯学部附属病院薬剤部長の土屋文人部長と、北里大学医療衛生 学部臨床工学専攻の渡辺敏教授にご出席を願っております。  このお三方のほかに、日本製薬団体連合会安全性委員会の宮城島利一委員長、ならび に日本医療器具関係団体協議会安全性情報委員会の山本章博副委員長には、特にこちら からお願いしてお出ましいただきました。時間の関係で、あまり長時間のご高説を承る ことは難しいかと思いますが、是非、討論にはご参加いただきたいという私どもの強い 希望でございます。どうか遠慮なくご発言、あるいはご意見を賜りたいと存じます。  まず、事務局から資料の確認をしてください。 ○伏見室長  配付資料の確認をさせていただきます。資料1−1と資料1−2は桜井先生の資料で す。資料2は土屋先生の資料です。資料3は渡辺敏先生の資料です。資料4は宮城島参 考人の資料で、製薬企業のこれまでの取組であるとか、いくつかの個別事例、今後への 課題をまとめていただいております。資料5は、医療機器の団体からお越しいただいた 山本参考人の資料で、これまでの業界のいくつかの取組みの具体例と、今後の課題とい うことでまとめていただきました。参考資料1として、第4回会議の議事録があります 。以上です。 ○森座長  まず、3名の方々から続けてお話を承り、その後、総合的なディスカッションという 形で進めたいと思います。最初に、桜井先生にお願いたします。桜井先生は以前から、 医療の場でのリスクマネジメントの必要性ということを、折りに触れて強調してこられ た方です。また、この検討会議の下にある医薬品・医療用具等対策部会の部会長もして こられました。本日は、そういう長年のご経験を基にお話を承ります。 ○桜井委員  資料に沿ってお話をさせていただきます。これまで、随分たくさんの先生方のお話を 承って、大変感銘を受けました。そういうものを伺いながら、私なりに、こういう点を 検討会でご議論いただいたほうがいいのではないかということがありましたので、1頁 に「医療のリスク(安全)管理」というところに4点述べさせていただきました。  1番目は、「継続性」が大事ではないかということを強調したいと思います。ここ数 年、医療のリスク管理とか、安全管理ということが流行というか風潮として出てきまし た。なぜ、私がこのことを申し上げるかというと、私は7年前に『医療の未来像とリス クマネジメント』という本を監修しました。病院というのはホテルでもあり、薬局でも あり、レストランでもあり、クリーニング屋でもありと、いろいろな面からの分担のご 執筆をお願いしたときに、医師会、行政からはこの分担執筆をお断りを受けました。そ の当時のスタンスというのは、医療にはリスクはないのだということでした。それなの に、リスクマネジメントなどと生意気なことを言うな、ということでお叱りを受けまし た。それが、わずか7、8年前の現状でした。  それが、横浜市立病院の患者取り違えから始まって、一種の流行というか風潮になっ てきてしまった。こういうことの継続性ということが非常に大事であろうと思うのです 。そこに専門担当の、病院で言えば専門科担当者、あるいは担当の部署、国レベルで言 えば専門の担当機関とか、さらにはそういう雰囲気を醸成するような意識文化といった ようなものが続かないと、これは一時の流行に終わってしまってはいかんということで 、1番目にそれを記載させていただきました。  2番目ですが、リスク管理というのは一つの科学的な技術手法であるということです 。単なる精神論であるとか、エクスキューズであるとか、現象論的な捉え方ではない、 科学技術的な手法である、という理解が必要なのではないかと思いました。  いろいろお話を伺っていて、皆さんの用語であるとか概念、コンセプトの統一性がな いと、科学技術としては成り立たないということです。科学技術というのは、再現性が あり、客観性がある、ということが非常に大事なことなわけです。したがって、用語の 統一、概念の統一、あるいはデータベースの構築等ということが、これを永続させるた めには必要なことであろう。  これは、私が関係しているISO/TC210というのがあります。ISO(国際標準 化機構)というのがあり、昭和22年ぐらいから始まっている国際的な機関です。そこで 、国際的に通用するスタンダードを作っています。TC(technical comittee)という のは専門委員会の略ですが、その210番目のTCで「医療用具のリスク管理」というの が特に設けられまして、9年ほど前から始まったものです。その内容が、いま私が申し 上げた用語の統一とか、概念の統一といったことに大変役に立つのではないかというこ とで紹介させていただきたいということです。  3番目は、医療の場合にリスク分析、あるいはリスクマネジメントということと同時 に、ベネフィットとのバランスということを考えないと、必ずしもそのリスクだけ一方 を考えてもいけない。やはり、リスクベネフィットのバランスということが非常に大事 であるということです。そうなると、最近はやりのエビデンス・ベースド・メディスン とか、テクノロジー・アセスメントといったことの必要性も出てくるということではな いかと思います。  4番目は非常に大事なことなのですが、コスト負担の問題です。安全は決してタダで はない、誰かがそのコストを負担しなければいけないということです。これは、我々の 部会でも問題になったことがあります。これは、単なる私の考えですが、現在日本が経 済的な不況にあるということを踏まえると、逆手に取ってコスト負担ということをマイ ナスに捉えないで、そういうことをきっかけにして安全産業を興こすというようなやり 方、ものの考え方もあり得るのではないかということで書かせていただきました。  2頁目は「用語の定義」です。これも、比較的古くから欧州の標準化委員会等で定義 はこうですよと決められたものがあります。我々の委員会でも、こういった定義に則っ た国際ハーモナイゼーションといいますか、この委員会だけで通じるような会話ではな く、世界的に、あるいは全社会的に通じるような言葉が必要だろう。  「Harm」というのは「損害」と訳しています。これは文字どおり損害でして、財産へ の損害、健康への被害、生命への損害、これは実際に起こった損害です。火傷をしたと か、死んでしまったとか、火事で焼けたといった損害です。  「Hazard」というのは、ちょっとわかりにくい言葉なのですけれども、「危険」とい う言葉の訳は適当でないと思いますので、これはやめていただきまして、「Hazard」そ のままでご理解いただいたほうがいいと思います。これは、損害を起こし得る潜在的な 発生源ということです。台所に来ているガスにしても、下手すればガス中毒になるとか 、火事の元になるとか、あるいは刃物も使い様によってはメスとドスに変わるといった 内在する危険ということです。これは、川村先生の「厚生科学の研究」に、非常に詳細 なヒヤリハットの事例があります。あれは、一種のHazardの洗い出しということだろう と思います。  「Risk」というのは後で説明いたします。それから「リスクの分析」です。  「安全性」というのは、黒田先生等からも度々お話がありましたが、100%安全とい うのはないのだ、ということを理解しなければいけないわけです。「Safety」というの は何かというと、受容できない損害リスクのないこと。ちょっと回りくどい言い方です が、リスクはあるのだけれども、それが受容できるものである、というレベルのリスク ならば、それは安全と認めましょうということです。東京都に2日間暮らしていると、 大体100万分の1のリスクがあるということで、リスクがゼロということはまずあり得 ないということです。これは、基本的な認識だと思います。  3頁目の「リスク・マトリックス」というのが、リスクという言葉の内容です。縦軸 に発生の頻度を取り、横軸に損害の大きさを取るということで、そういうマトリックス ができます。ほとんど起こらず、起こっても軽度というようなものはネグリジブル、あ るいはトリビアルである。それから、カタストロフィックといいますか、非常に重大な 事故が起こるとか、あるいは中程度とか、軽度とかいろいろな損害の大きさ、シビアリ ティといったようなものによって、頻度と損害の大きさの組み合わせでリスクの評価を するというようなことです。  このリスクの評価のヘビーかライトか、インターメディエートかトリビアルかという ようなことによって、それぞれ対応の仕方が違ってくる。非常に頻繁に起こってヘビー なものであれば、そういうリスクは避けたほうがいい。日に何回も飛行機が落ちるのだ ったら乗らないほうがいい、というようなことになるかと思います。インターメディエ ートのリスクというのは、普通はリスクをどこかに移転するということです。医療事故 に際して保険をかけておくといったようなことに相当するかと思います。  軽度のリスクは、なるべく知恵を絞って、いろいろな手段でリスクを減らしていこう という努力をする。ネグリジブルなリスクだったら、それはアクセプトしましょうとい うことです。結局は、こういうマトリックスになるので、それをどう評価するか、ある いはそれにどう対処するかということが実際に問題になるわけです。  4頁は、ISO14971という、一昨年12月に制定された医療用語に関するリスクマネジメ ントの国際基準です。それに載っている医療用具に関係するHazardについてこんなもの があると。電気、磁場、熱とか生物学的な汚染・感染の問題、あるいは環境の電磁干渉 の問題、あるいは使用に際してのHazard、ラベリングとか、取扱い説明書は非常に重要 な項目だと思います。マン・マシンのインターフェイスの問題、メインテナンスとかそ の他の問題といったいろいろなHazardがある。こういうものを、順次洗い出していくこ とが、最初のステップになるということだろうと思います。  5頁は、こんな手順でやるのだという流れ図です。最初に、どういうリスクがあるの かリスク分析をする。Hazardの種類ということをやり、そのリスクの重大さの評価をど う見積るか。それが、アクセプタブルかトレラブルか、あるいはどういう選択肢がある かという分析をする、といったのが「リスク評価」です。それを、いかに軽減し制御し ていくかといったところまで含めて「リスク管理」と申しております。  重要なことは6頁ですが、これは1999年5月に、あるタスクフォースがFDAの長官 に対して進言をした報告書の中身です。これは「医療用具」になっていますが、医療全 般について拡張しても通用するものだと思います。  リスクの原因というのは、「既知」のものがある。その既知のものの中で避けられる ものと、避けられないものがある。避けられるものは予防可能である。避けられないも のは障害が起こってしまう。そのもの自体を使うときの、例えばメディケーション・エ ラーとか、医療用具の使用上のエラーとか、情報伝達のまずさとかいろいろあります。 そういったエラーによる有害事象も予防可能である。製品の欠陥も予防することができ ます。  予防できないものは、わかっているけれども、不可避の副作用と、もう一つ大事なの は残っている不確かさです。予測できないものがまだある、予測できないリスクがある ということを十分弁えていないとならない。これが、医薬品とか、医療用具の市販後調 査といったことに相当するのではないかと思います。  7頁と8頁は、リスク分析のやり方のいくつかの種類です。これは専門的になります が、故障モードの影響、フェーリアモード・エフェクトアナリシスということです。自 転車の例でわかりやすく書いてありますが、ブレーキが壊れた、その原因としてはゴム が磨耗したとか、ブレーキ系統の緩みが出たといったようなことが考えられます。その 頻度はどのぐらいであるか、それが起こったときの重大さはこのぐらいである、それを 掛算すると24点になるといったような評価をします。これは、故障という一つの事象が 起こったことから、だんだんボトムからアップのほうに持っていくというやり方です。  それに対して8頁の「フォールト・トゥリー・アナリシス」というのは、自転車の故 障がある。それには、どういうものとどういうものがある。その原因はどういうものと どういうものがある、という形のトップダウン型のやり方があります。インシデントレ ポートなども整理検討し、こういう形に持っていくのが最終的な答えになるのかと思い ます。  9頁は、一昨年12月にISO14971という、「医療用具に適用するリスクマネジ メント」に書かれているプロセスです。まずリスク分析をする。どういう使い道をする というふうに意図したのか、目的と対象、それを質的・量的にちゃんと特定する。それ に伴ったHazard、電気的なHazardもあればいろいろあると思いますが、そういうものを 特定してリスクを推定する。  そのリスクの評価、アクセプタブルかどうかの決定。リスクをどのように低減してい くかというアセスメントをやる。それで、リスク・コントロールをする。これにはいろ いろなやり方があります。これは危険でしようがないので、設計から抜本的に変えまし よう、というのがいちばん良いわけです。設計上変えられないというときは、何らかの 防護手段をそこに付け加える。二重絶縁にするとか、アースを取るといったようなこと です。それもできないときには、情報で伝える。こういう使い方をすると危険ですとい った情報的なやり方とか、いろいろなコントロールのやり方があるわけです。  そういうことをやって、なおかつ残留しているリスクを評価する。もし、それがアク セプタブルでなければ、これはやめということで退場になります。アクセプトできるも のは市販されて、その後市販後の調査がまた行われて、それがまた矢印で元のリスク分 析に返っていくといった一つのループになっています。そのときに医療として考えなけ ればならないことは、単なるリスクの分析だけでなく、そこに便益との比、リスクベネ フィットの比較というのがありまして、これが非常に大事になってくるということだろ うと思います。  10頁もタスクフォースのFDA長官へのアドバイスの中にあるものです。「複合シス テム」と書いてあります。この図のポイントは複合システムというところです。市販前 の段階は、企業のリスクアセスメントです。これはアメリカの場合ですから、FDAの リスクアセスメントということが中心になります。一旦承認されると市販されます。そ れで医療関係者が使う、看護婦が使う、薬剤師が使う、あるいは患者が使うというふう にいろいろな方が使う。これらを、全体の複合システムとして考えてリスクマネジメン トをしましょうということです。この報告書には、コミュニティとか、コンシューマー といったようなところの参画が非常に大事なのだということが書かれています。  11頁は、先ほどから言っておりますリスクベネフィットです。リスクベネフィットと いうのは、いろいろな段階でものの見方が違う。まず、FDAという行政の見方があり 、医療機関とか医療関係者の見方があり、患者個人の見方があるということで、それぞ れの視点によってリスクとベネフィットというものは変わってくるわけで、この辺はこ れからの課題かと思います。  12頁は私の分担ではないのですけれども、「エラー回避」です。ヒューマンエラー部 会というのが活動しているわけです。ハードウェア、システムウェア、ヒューマンウェ ア、情報ウェアと仮に名付けたのですが、このぐらいのことを全部気をつけないと、な かなかエラー回避には結び付かない、というようなことを示しています。  13頁は、コストということに関係するかと思うので出させていただきました。最近は 、ほとんど注射針はディスポ製品になっています。我々が臨床をやっていたころは、ま だシンメルで煮沸消毒をして何回も使っていました。これは例えばの例で、必ずしも数 字は正確ではありませんが、ディスポの針は1本4円であるが1回で捨てる。再生でき る針は12円なのだけれども5、6回は使えるということです。ところが、それによって 院内感染など注射針を介したB型肝炎の感染が起こって、その割合は医療関係者がこの ぐらい、患者がこのぐらいという数字が何パーセントと出ています。  それにかかる医療費はこのぐらいかかるということです。そうなると、再生針を使っ ていたときの3,400億円からディスポになって改善されて51億円になった。それを差し 引いて、年間の注射の回数が8億回ぐらいあるだろう。それを割算すると、1回当たり のディスポにしたメリットが425円あるということです。これは、こういうものの考え 方をしないと、なかなかそのリスクの回避はできない。1本4円だから高い、5回使え て12円だから安い、というような単純なものではなくて、1つのリスク管理ということ により、医療費全体がセーブできるというところまで考えなければいけないということ です。  14頁は、いろいろな医療技術がどんどん進歩しますが、医療技術が進歩するとリスク がなくなるのかということです。実はそうではなくて、医療技術が進歩するに連れて、 またそれなりの新しいリスクが生まれる、というような例がいろいろ書いてあります。 医療におけるリスク管理というのは、言ってみれば未来永劫続かなければならないこと だろうと思います。  15頁には、大体こういうアセスメントをして選択肢を作って、戦略を選択して、実施 して評価するということです。これは、Plan-Do-See-Checkという一つのサイクルです がこのようなことをやる。  16頁は、それをもうちょっと全体的にまとめた図です。リスク管理というのは、いま の外側のループをグルグルやるわけですが、そのときに非常に大事なのは、システマテ ィックにやらなければいけない、継続的にやらなければいけないというようなこと。ど こか一部だけが一生懸命やっても駄目なのだ、あるいは一時だけ一生懸命流行に浮かれ さるようにやっても駄目なのだということです。トップが関与して、リーダーシップを 発揮してもらわなければいけない。ちゃんとしたリスク管理の組織を形成する、そこに 権限を移譲する、専門家を育成する、全員の協力が要る、コミュニケーションが必要で ある、記録化、文書化といったようなことが守られて、初めてこのリスク管理のループ がうまく回っていくということだろうと思います。 ☆OHP  私は、学生時代に医学概論の講義を、緒方富雄先生という血清学(免疫学)の先生に 習いました。その冒頭にこういう言葉を伺ったのを非常に印象深く覚えております。緒 方先生は、「医療に携わる者は惻隠の情を持たなきゃいかん」とおっしゃいました。惻 隠の情とは何かというと、いま、まさに井戸に落ちんとしている子供がいたら、そこへ 思わず知らず駆け寄って助ける、というのが惻隠の情だ、そういう心を持たなければい かんということを緒方先生がおっしゃったのを、私はよく覚えております。  横浜市大の患者取り違えとか何かというのを伺っていますと、私が40〜30年前に医者 をやっていたころは、受け持ちの患者が今日手術だというと、朝7時ごろにはその病室 へ行って、「今日手術だけれども大丈夫ですよ、安心しなさいよ」と言って、それから 何か仕事をして、患者に麻酔がかかる前に手術場へ行って、まだ意識のある患者に、「 これから始まりますよ」と言って、それから手を洗って手術をした覚えがあります。  それが、なぜ患者を間違えるのか、私は不思議でしようがないのです。受け持ちとい うのはいないのか。それは、緒方先生の惻隠の情という言葉で表せるような意識が、い まの医療には欠けているのかというような気もして、わざとこれを出させていただきま した。どうもありがとうございました。 ○森座長  ありがとうございました。次に土屋先生にお願いいたします。土屋先生は、現在、病 院の薬剤部長をしておられます。医薬品にかかわる医療事故防止のために、いろいろ取 組みをしておられますので、そのようなご経験なども含めてお話いただければと思いま す。 ○土屋参考人  資料に従って話を進めます。医薬品とヒューマンエラーということになると、医薬品 を取り巻くさまざまな段階で起きることになります。医師が処方する場合であると処方 エラー、あるいは先日起きましたような入力エラーということが現実にあります。今度 は、処方が終わって薬剤師の段階に処方箋が出てくると、薬剤師は調剤エラーというこ とになります。この調剤エラーという中には、大きく分けて処方監査という、薬剤師は 薬剤師法で処方箋中に疑わしい点があった場合には、それを確かめた後でなくては調剤 してはならないという規定があります。これは、我が国の法体系の中でも珍しく、医師 が誤ることが前提といいますか、そういうことが書かれている文章です。それに対して 、薬剤師がそれをチェックしなさいという役割を担っています。  処方監査をして、調剤している段階、あるいは投薬する段階でさまざまなエラーが起 きる。最近はいろいろ情報提供をしておりますので、情報提供に関するエラーもありま す。調剤されたものが病棟、あるいは直接患者に行く場合もありますが、ここでは病棟 を考えますと、看護婦の所へ行って、注射とか与薬ということになります。そこでは混 合エラー、あるいは与薬違いといったさまざまなエラーが起きている。川村先生のご報 告は、その辺についてのご報告がいろいろありまして、かなりの率でこういうことが起 きているということになっています。  患者には後で渡るわけですが、中には情報提供された、その情報内容を誤解される場 合もあります。あるいは服薬違い、誤与、あるいはPTPのまま誤飲してしまうような 例もあります。医師から最終的に患者へ行くまで、さまざまな段階でエラーというのは 起き得るわけです。  こういうエラーを防ぐために、どういうことをやるのか。全田委員は、薬ある所に薬 剤師ありとおっしゃっておりますが、それぞれの段階で薬剤師がどう防いでいるのか、 という話を本日はしたいと思っています。  医師の処方エラー、入力エラーの防止ですが、これは裏を返すと薬剤師の処方箋誤読 防止という意味もあります。昨年、一昨年と処方オーダリングシステムを採用している 病院において、入力エラー、あるいは選択エラーが起きました。そのときに、オーダリ ングシステムは安全ではないのではないか、ということが言われました。しかし、それ が大きな間違いであります。  手書き処方箋、あるいはオーダリングシステム、あるいは最近では電子カルテという ことになります。手書処方箋とオーダリングシステムとの間では、明らかに安全度に差 があるわけです。  手書き処方箋となると、昔の薬剤師は医師が書いたものをどう判読するかという、判 読能力が薬剤師の能力であったわけです。それから、記載不備の発生要因が非常に高い ということです。オーダリングシステムになると、記載不備は、通常ではほとんどない が、入力ミスはある。まさに桜井委員がおっしゃいました、医療技術の進歩、あるいは 新しいリスクの発生というのは、まさにそういう意味で、オーダリングシステムであっ ても、やはり落とし穴はあるのだということになります。そういった場合でも、誤選択 を防止するための機能があるかないかというのはオーダリングシステムにおいて安全度 を測る一つの指標になります。  それから、中小の所でよく行われている医事システムを利用する方、あるいは前回処 方をプレ印刷し、今日はここを訂正するとか、追加するというようなこと。これについ ては、手書きに比べれば安全度は高いわけですが、オーダリングシステムのように出す ときのチェック、あるいはさまざまなそれを巡るデータベース等が付いていないという ことでいうと、医事課での入力ミスが存在します。  昔、東大病院で医事課での入力ミスをチェックするということをやったことがありま す。そのときにも、かなりのエラーが発見されていたということがあります。また、医 事システムの利用型になると、どうしても用法等でさまざまなことが細かく入力されま せん。医事課での入力というのは、あくまでレセプト用のシステムということになりま すので、そういった意味では用法の細かいところが不備になる可能性があります。  しかし、これらに共通してといいますか、そもそもいちばん問題になりますのは、我 が国に処方箋の書き方の標準化がされていないということであります。散剤その他で10 倍の量を調剤する、あるいは処方したという例を見ると、それは明らかに処方箋に記載 したのが原薬量なのか、あるいは散剤、バイサンリョウといいますか、製剤としての重 さなのかというところの解釈によって起きているエラーです。ここは書き方の標準化と いいますか、教育そのものも標準化されておりませんので、この処方箋の書き方の標準 化をまずきちんとする、ということが大切かと思われます。  「入力エラー」ということですが、例えばアルサルミンを処方するところに、アルケ ランを選択してしまった。それが7カ月間気がつかなかったという例がありました。こ れは、我が国の内服薬の商標を1つに特定するためには何文字を入力するとどうか、と いうことを調べた例であります。  「アルサルミン」のところを「アルケラン」、あるいは「サクシゾン」のところを「 サクシン」と選択ミスしたわけです。その病院は、両方とも頭2文字による選択システ ムを採用していました。頭2文字で商標が1つに特定される率はわずか11%です。しか しながら、頭3文字を入力すると67%が1つの商標に特定できます。頭4文字を入力す ると91%が1つに特定されることがわかりました。そこで、少なくとも入力文字数は3 文字以上にしたほうがいいのではないか、ということを提言したわけです。  入力文字数を少なくしたいというのは利便性です。利便性と安全性の比較をどうコン トロールするか。確かに4文字を入力すれば、ほとんど1つになってしまいますが、そ こは利便性が悪くなりますので、中間の3文字ぐらい、この2文字と3文字の差が大き いということからでも、そういうことでよろしいのではないかということで、現在は国 立大学病院でも、3文字入力の推進が行われています。  一方、医師がエラーをしても、それを防ぐ役割は本来薬剤師が行うことになっていま す。法的にもそういう位置付けになっています。これは、昨年度、日本病院薬剤師会で 5つの施設に対し、ある期間疑義照会をした例を集めた結果を整理したものであります 。総数は5施設で537件の疑義照会がされていました。その中で用法・用量に関する疑 義照会が64%でした。別薬品ではないかという疑義照会が16%ありました。この中には 、循環器用薬のはずが、抗悪性腫瘍剤という例も複数の所で見られました。それから重 複処方、あるいは適応症との関係でおかしいのではないか、剤形、投与日数違い、その 他となっております。  ちなみに、この5つの施設はすべてオーダリングシステムを採用している病院です。 オーダリングシステムであると、どうしても正しいのではないかということでスルーし やすくなっているのですが、別薬品に関する問い合わせが16%もあったということは、 処方のチェックをすべきだろうということで、薬歴による処方チェックの重要性という ことを、日本病院薬剤師会のほうから全国に問いかけたということです。  特に糖尿病用薬であるとか、抗悪性腫瘍剤のように、誤ってそれが患者に渡ったとき に、患者に極めて重大な影響を及ぼす薬剤については、薬歴によるチェックが必要であ ろうということです。薬歴によるチェックというと、保険薬局においては、それが常に 行われているわけですが、残念ながら病院の薬剤部では、薬歴によるチェックは、外来 患者の場合には時間的に行えないというのが現状です。  しかし、これらの疑義照会の結果を見ると、処方のチェックというもの、極めて影響 の高いものについてのチェックということを考えざるを得ないというのが現実かと思い ます。そういうことを考えると、薬剤師によるエラー防止体制の安全の指標、これを疑 義照会ということでいうならば、調剤内規というのはどういうことかというと、薬価基 準上で複数規格が存在しても、その医療機関が1つの規格しか採用してなくて、1錠と 書けば、その規格で調剤する、というのは本来記載不備なのですけれども、そこのロー カルルールとしては妥当なルールということになります。しかし、そういったことが記 載不備について認識がなくなってしまうという意味で危険であるということです。たと えその医療機関が1つの規格しか採用していなくても、必ず規格も書くようにというよ うなチェックを行う必要があるということです。  「疑義照会記録」ですが、疑義照会がされた結果、処方が訂正されても、診療録(カ ルテ)そのものが変更されているかどうかということは甚だ疑問です。疑義照会は電話 で行われて、「それでいいですか」「OKです」「わかりました、そのように変更して ください」とはおっしゃるわけですが、その場にはカルテがないということも当然あり 得るわけです。したがって、疑義照会記録をどのようにするか、といったことも安全を 守るための大きなポイントになるだろうということです。  「前回処方・薬歴確認後の調剤体制の有無」というのは、特に病院薬剤師の場合を想 定しているわけですが、抗悪性腫瘍剤、糖尿病用薬、ワーファリン、ジギタリス製剤と いったところで、薬歴に従った調剤をしようと。  外来患者については、薬歴を取るということはなかなかしておりません。しかし、こ ういった影響の大きい薬についてはそうしようということです。特に、これらの薬剤の 初回投与時には、何らかの方法で医師に確認を取ることが望ましいということが、病院 薬剤師会のリスクマネジメント対策特別委員会のほうから全国に発信したということが あります。  先ほど、「医師の選択エラー」という話がありましたが、これは薬剤師によるエラー のシステム導入によってどうなったか、ということを調査した結果であります。私が前 におりました病院で、昔のシステムが入ったとき、入る前1年半、入った後1年半、実 際は前後5年間見ておりますが、そのときに通常のものはあまり変わりがなかったので すが、システム導入前には全くなかったエラーが、導入後に発生したということがあり ます。  いまはない薬ですが、「アバン」という薬は、手書きのときには3錠と書かれること が多かった。「アドナ」という薬は90mgという形で処方が書かれることが多かったわけ です。これが、オーダリングシステムを導入したときに、名称の標準化を行ってしまい まして、「アバン(30mg)」「アドナ(30mg)」という表示にしました。導入した後は 、必ずこういう表示で必ず処方箋が書かれるようになったところ、これが過去1年間半 の間は0件だったのが、導入後3年で15件発生しました。  そこで、これは「ア」という言葉と点々が付いている言葉がある。そして規格が同じ ということで、これが危険になるのだろうなということで、アバンのほうを英語の表記 にして「AVAN(30)」としたところ、また調剤エラーは0件になりました。これは 、薬剤師が調剤をするときにパターン認識を多少していて、1字1句を読むというより は、どちらかというとそういう形で読むことが多いので、どうしてもエラーが起きてし まう。これも先ほどのお話にありました、新しいテクノロジーが入ったときのエラーだ と思います。しかし、手書きに比べれば、判読間違いのエラーは格段に減っているわけ ですので、これもこういう表記がいけないというのではなく、システムが導入されたと きの落とし穴ということになってくるかと思います。  「看護婦のエラー防止に薬剤師はどう役立つべきなのか」ということですが、川村先 生のほうからも出ております、看護婦による医薬品関連のインシデントレポートから判 断すると、これは薬剤師が関与することによって、そもそもその発生を防止することが 可能なものが多数存在しているわけです。  それは、どういう対策をとるかというと、調剤方法の再検討であるとか、病棟におけ る医薬品の管理の仕方、あるいは自分たちは混注をしないけれども、混注する際の注意 情報といったさまざまな医薬品情報を提供することにより、あのレポートにあったよう なインシデントを防止することができるのではないかということです。  それを具体的に挙げると、注射薬の個人セットを実施しているか。最近はだんだん実 施するようになってきておりますが、その個人セットというのも、1日単位でやってい る病院もあれば、1回単位でやっている所もある。これは、1回単位のほうがずっとエ ラー防止にはなるわけですので、そういったことがやられるかどうかです。  「注射薬へのラベル表示」というのは、患者名や医薬品名をラベル表示したことによ り、患者が「これは僕のじゃないよ」ということを言ったという例もあります。したが って、こういうことをどのようにやるか。それから、混注に関して薬剤師がどれぐらい 実施しているのか、あるいは未実施の場合には、せめてその混注情報を提供しているか どうかということが、防止をするかどうかということになるかと思います。  最近は、与薬チェックシステムということで、バーコードによるチェックシステムと いうのがさまざまあるわけですので、そういったものをどう導入していくか、あるいは 同じように与薬チェックをするというときには、調剤方法の見直し。例えば、調剤方法 を、患者管理したときの調剤の仕方をもう少し考える、患者個別の調剤ということをも う少し考えなくてはいけないのかと思います。そもそも、病棟担当薬剤師がいるかいな いか。せめて通常勤務時間帯に薬剤師が病棟に常駐化していれば、さまざまなことが解 決するのではないかと思われます。  とかくこういう話をしてくると、入院患者の安全は保たれるのですが、外来患者の安 全はどう保ったらいいのかということがあります。従来調剤情報が医療機関にフィード バックされるということはあまりなかったわけです。処方箋というのは、もともと双方 向性がなく、医療機関から薬局への一方通行になっています。しかも、これは原本であ る処方箋の保管は薬局がしているわけです。医療の記録の中で、原本が医療機関側に存 在しない唯一のものということになっています。  疑義照会が行われて、処方変更になっても、診療録が訂正されるケースは決して多く ないために、原本と診療録の内容が不一致になる。そこでオーダリングシステムをやっ ても、毎回同じ処方が何回も出てしまって、その都度保険薬局のほうが対応に苦慮して いるということもあります。  これからは、調剤情報、あるいは少なくとも処方変更がされた場合には、医療機関の ほうにはその場では知らせているわけですが、ここに病院薬剤師が介在して、どういう 訂正が行れたということを確保し、そして診療録の訂正がされているかどうかの確認を するということが、外来患者の安全を図るためには必要だろう。そういう意味で「薬薬 連携」が極めて重要なのではないかと思います。  そういった中には、こういうチェックをするというときに、先ほどのオーダリングも そうなのですが、標準マスターというのがあるようで全然ないというのが現実です。常 用量の上限を決めるだとか、そういうことは一義的に本来どこの病院でも共通の話であ りますが、残念ながらそれをそれぞれの病院が自分の所で入力して作っている、という のが現状です。  むしろ、こういうものは標準マスターというものが世の中に1つあって、それをみん なが共有して使うというような形態にすることが必要だと思います。そうやって考えて いきますと、患者の安全というものを考慮した医薬品の捉え方というのは、従来は薬物 の安全性ということを考えてきたわけです。この安全性というのは絶対に必要ですが、 これについての整備、あるいは情報公開、その他のところはほとんど完成していると言 っていいところであります。  しかしながら、最近起きているメディケーションエラーそのものは、まさに名称であ るとか、容器であるとか、情報であるとか、そういった薬物を取り巻く周りの環境、そ れが医薬品のそのものでありますが、医薬品という観点から見ないと、その安全性は確 保できないことになります。  それだけではなく、先ほどから言うように、コンピューターシステムによるエラーと か、保険上の問題といったさまざまなことを考えていきますと、こういう法・諸制度を 含んだ医薬品というものを、いちばん大きな枠で捉えて、これの安全をどう図っていっ たらいいかということを図ることが、まさに医薬品の安全性にとって必要不可欠でして 、そういうものが担保されるようになれば、患者の安全が自動的に担保されるのではな いかということです。私からは以上です。 ○森座長  ありがとうございました。次に渡辺先生にお願いいたします。臨床工学という、必ず しも広くは知られていないご専門で、その普及にもお努めいただいている方であります 。医療機関での、医療機器の適正な使用などについてもご経験がおありと思いますので 、お話を承りたいと思います。 ○渡辺参考人  北里大学の渡辺です。私は、もともとは麻酔の医者でして、麻酔をやりながらではあ りますが、いまから20年ほど前に北里大学病院MEセンター部の責任者になりました。 この部門では、院内の診療科共通、または共同利用できる医療機器を中央化して管理す る。その合理的な運用を図るとともに、生命維持管理装置である呼吸療法装置とか、人 工心肺といったものの操作を担当する。それは臨床技術といいますが、臨床技術を提供 して、医療及び看護に貢献するということで、昭和61年にできました。  昭和61年というのは、まだ臨床工学技士法ができる前でして、そのときにこの責任者 になりました。私は学部長をやっている関係で4年前に部長を辞めたのですが、現在は ほかの先生にやってもらっていて、臨床工学技士が19名おります。こういう部門の責任 者になっってから、やはり器械というのは組織的にきちっと管理・運営しないと、いろ いろ事故が起こるのではないかということで、初め、私は管理者としてだけ入ったつも りだったのですが、本格的にきちっとしないとまずいのだということで、この部門を本 格的に担当するようになりました。  いまから8年前に、私どもの大学に臨床工学技士を4年制の大学で養成するという学 部ができましたので、そちらのほうに移りました。現在は直接タッチはしていませんが 、本日は過去の経験等を基に、こういう器械の管理の方法もあるのだと。これが、決し て良いことばかりではありませんが、特に医療事故に関係した事故を防ぐ意味では、一 つの方法ではないかということで先生方への話題の提供ということでさせていただきま す。  このMEセンター部(資料3頁)というのは、部長のもとに器械を管理する部門と先 ほど言いました臨床技術を提供する部門、これは後ほどまた出てまいりますが、人工心 肺を回すとか、高気圧酸素治療操置を操作するというような技術提供をする部門があり ます。機器の管理部門は、診療放射線部及び臨床検査部で使っている以外の器械を、す べてここで集中的に管理していて、人員はこのような配置でやっております。  実際の業務はどのようなものか(資料4頁)、器械の整備及びその安全性を定期点検 する、そしてそれを診療科に提供する。その利用方法はいろいろ決めており、同時に臨 床技術を提供する。このようにして器械を提供しているのですが、いちばん重要なのは 、その器械をきちんと使っていただかないとまずいということで、その器械の操作上の 基本と実際について指導しています。もう1つ重要なのは器械に関する情報を整理して 、それを保存して各診療科に提供する。同時に、私ども病院で器械の購入とか廃棄とい うのは、すべてMEセンター部を通してやっています。各診療科でテンデバラバラに器 械を講入することは一切しないということでやってきております。  実際にどの程度機械が保守・管理されているかということですが、これは平成12年度 でありますが(資料5頁)、機械の貸出し・返却は、年間大体7,000件、月にしますと60 0件弱です。点検が年間1,600件。これも器械の種類によって定期点検のやり方がいろい ろ違うわけで、メーカーに出さないとできないものもありますが、私どもでできるもの は、すべてやっております。故障が558件です。そのうち院内修理が389件で、メーカー に出すのが169件です。これも誰が修理をしてもいいというものではなくて、私どもの 技士ができるもの、要するにメーカーのほうでそういうことをしてもいいという、もし くはメーカーへ行って研修を受けて来た技士のみがやっております。  これをご覧になっていただきますと、389件に対して169件でありますから院内修理の ほうが多いわけです。後ほど資料をお見せいたしますが、かつては、これが9対1ぐら いで院内修理が非常に多かったのでありますが、最近はコンピューター化されてきてお り、ブラックボックス化されて、かなかな院内で修理できないという面も増えてきてお りますが、できるものは私どものほうでやっております。  その次は「臨床技術提供」という、人工心肺とか、PCPSとか、IABP、心臓カ テーテル、血圧モニター時の技術の提供です。実際に血圧とかいろいろモニターすると きに、看護婦さん、お医者さんでできる面もあるのですが、できないものは技士が行く というようなことで、このような件数を年間こなしております。これは平成12年度のも のです。  先ほども言いました安全という意味で(資料7頁)、教育をしないとまずいというこ とで、講習会をしたり、また、私どもの病院は院内に月刊で情報誌が出ておりますが、 そういうものに医療機器に関係するいろいろな情報を提供しております。院内テレビが 毎週放送されますが、それに必要なときにはいろいろな情報を流す。それと教育用のビ デオを今までに数本作っておりますが、そういうものでも教育をする。それからトラブ ル情報。これは後ほどお見せいたしますが、いろいろトラブルがあった場合に、それを できるだけ早く現場へフィードバックし、同じようなトラブルを起こさないように、と いうようなことも考えております。それから、いちばん器械を使われる看護婦さん関係 の雑誌にME機器に関するようなことも随時提供しております。  実際に講習会はどの程度やられているかと言いますと(資料8頁)、これは平成12年 度でありますが、ME機器関連が3回ですとか、また、器械を使う場合に医療ガス設備 というのも非常に重要なわけですが、そういうものの講習会とか、それと人工呼吸器が やはりいちばん多いわけですが15回とか、このように教育活動をやっております。  講習会は定期的に、すなわち看護婦さんが入職されたとき、もしくは新しい研修医が 入って来たときのオリエンテーションの中に組み込むこともありますが、各病棟とかで 勉強したいというようなときには積極的に、うちの技士さんたちが出掛けて行ってその 教育に従事しております。実際に器械の安全を維持するためには、いま述べたような講 習もあるのですが、器械そのものを、うちの技士さんたちが考えて改良したようなもの もあります。  これは1つの例でありますが、この図をご覧になっていただきたいのです。これはあ るメーカーの機種で人工呼吸器でありますが、この上に三角の屋根があります。多分、 この屋根が付いているのは北里大学病院の器械しか付いていないのですが、通常市販さ れているものは、この屋根が付いておりません。この蓋を開けますと中の機械が見える ようになっています。この人工呼吸器を管理するようになって次のようなトラブルが起 こる事がわかりました。人工呼吸器を使用している患者さんには気管内吸入などをしな いとまずいわけですから、消毒液とか生理食塩水のカップを持って来て、それをこの人 工呼吸器の上に置くわけです。ひっくり返しますとその薬品が中に入るということで、 うちの技士が考えたのは、見栄えも良くするためにアクリルで三角形の屋根を作り、人 工呼吸器の上にマジックベルトで付けたということです。これがあるようになってから そういうトラブルはなくなりました。  もう1つは、ここの所をご覧になっていただきたいのです。これは呼吸回路の中に水 が溜まった水を取り除くウォータートラップです。ここに黒っぽく見えるスプリングが 付いているのですが、市販されたものは付いておりません。ここに水が溜まってきます と、水を抜いて、またはめるのでありますが、水が溜まるカップの壁が非常に薄いもの ですから、はめる度ごとに亀裂が入る可能性があります。亀裂が入りますと人工呼吸器 の場合にはガスがリークするわけです。うちの技士さんたちが考えまして、ここの所に スプリングを付けたらどうかということで付けましたところ、それ以来、亀裂が起こっ た例は全くありません。ただ、このカップは1つが3,000円とか4,000円するのですが、 メーカーにとってみれば消耗品が売れなくなったということで良くないのかもしれませ んが、私どもにとっては非常に良く、患者さんに対して安全性を高めるという意味では 貢献しているものではないかと思います。  もう1つここでご覧になっていただきたいのですが、この人工呼吸器が乗っている台 に加温加湿器がついているのですが、この前にカバーというかガードがあります。これ は市販されているものには付いておりません。これが裸のままでは、出っ張っておりま すからぶつけるわけです。ぶつけますと破損し故障するということで、それを何とか防 ごうということでアルミのガードを私どもの技士さんが作ってくれました。それ以来、 そういうトラブルがなくなっております。あと、アンビュバックをぶら下げるとか、い ろいろ工夫しておりますが、こういう技士さんたちの日頃の経験をもとに改良というか 、工夫したものも安全性を高めているという意味で、ME部門の臨床工学技士の役割は 非常に重要ではないかと思っております。  もう1つ技士さんたちが考えたものですがあります。家庭電化製品も医療機器もそう ですが、裏側を見ていただきますと、この器械は何アンペア電気を使うかということが 書いてあるわけです。これは裏側を見ないと分からないのですが、病院の現場ではそん なことをしている余裕は通常ありません。器械の表側に特別なラベルを貼り、消費電力 容量が分かるようにしました。例えばこれは赤で、15A以上必要な器械ですから、こう いう機械を無闇にコンセントへ差し込みますとブレーカーが飛ぶ可能性があるわけです 。お医者さん、看護婦さんに注意を喚起する意味で、器械の表面にこのラベルを貼るよ うにしたのです。ラベルの色は消費電気容量の大きさで分けています。お医者さんたち も、もし赤いのが貼ってあれば、これは電気をたくさん食うんだから使うときに注意し たほうがいいだろうと。こういうような教育もやっているわけです。  今まで中央管理でこういうことをやっているという話をしたのですが、いいことばか りではないということで、皆さん方の10頁に「中央管理の功罪」ということでまとめて みたのです。利点は機種の選定、評価、購入、運用、保守、廃棄に至るまで、全般に1 つの所で管理できるというのは利点だろうと思います。器械を常に整備された状況に置 くことができます。職員に対して効果的な教育訓練を行うことができます。また、限ら れた台数の機械を有効利用できる。中央から貸し出しますから、それぞれの部門で遊ん でいる機械は全くないわけですので、そういう意味で有効利用できる。  機能停止期間を短縮できるというのは、これをちょっと見てください。これは少し古 いデータで申し訳ないのですが、でもそんなに間違っていないと思います。1985年と198 9年に、1年間に起こった北里のMEセンター部での故障の件数が353件に対して446件 です。先ほども言いましたように、その当時は9割方MEセンター部の技士が修理をし ていたのでありますが、それをもしメーカーに委託したらどうなのか、ということで換 算したものであります。実際にMEセンター部でやりますと、31分とか24分、半時間ぐ らいで大体修理できるようなトラブルが多いわけです。そのときの技士さんの人件費等 から概算すると96万円ぐらい、それをメーカーに委託すると810万円とか736万円かかり 、比較すると1対8.4とか1対6.4になるわけです。これはパーツ代は全然含んでおりま せんが、技士さんがいると早く直って、しかも値段も安いという意味でメリットはある のではないかなということを示したデータです。  メーカーにお願いしますと、私どもの病院は相模原にありますから横浜もしくは本郷 から来ていただくわけです。それが「いま故障しましたから来てください」と言っても 、その日においでになるとは限らない。翌日ですとか翌々日になりますと1日か2日は 使えなくなる。そうすると、本来ならば1日使えば、何がしか診療報酬で点数がもらえ るものがもらえなくなる。それを示したのが遺失収益ですが、176万とか、250万とか大 したお金ではないかもしれませんが、技士さんたちがやれば31分とか24分、30分も経て ばすぐ使える、という例が多いということを示したデータであります。そういう意味で 中央管理をしますと、機械が有効に使えると同時に、経済的にもメリットがあるのでは ないかということであります。  その次に、ME部門が医療機器関連の発信、受信基地になることができるということは 、これは後にいたします。いいことばかりではなく悪い面もございます。器械の修理は すべて中央でやるということになりますと、院内職員の医療機器に対する理解というの は、非常に落ちてくる可能性がある。かつては個別管理で、病棟なら病棟、手術室なら 手術室で器械を管理していて、その部門のお医者さん、看護婦さんは必死になって管理 していたわけですが、それが中央で、すべて臨床工学士がやってくれるということにな りますと、それに頼ってしまうわけです。そういう意味で理解が不十分になる。それと 、日本人の悪い癖でありますが、自分のものは大事にするのですが、共通のものは粗雑 に扱うということが出てきます。これは欠点でありますが、先ほど言ったような教育訓 練を繰り返しやるより仕方がないのではないかと思っております。  もう1つ、機械を有効に使うという意味で、話題を提供したいと思います。1994年、 今から7、8年前の、ある時点で、そのときに北里大学病院にある器械が、講入してか ら何年経つかということを調べたものであります。税法上の耐用年数は6年とか7年と かと言われていますが、その当時は6年未満のものが3分の1で、それ以上使っている のは66%、3分の2はありました。このデータをどういふうに解釈したらいいかという のは、非常に難しいわけでありまして、古い器械があるから必ずしもいいというわけで もないと思います。当然、安全性が落ちている、警報装置がない器械もあるわけですか ら、そういうものを使うのはまずいのではないかという意見もございます。  ただ、私自身は、古い器械でもきちっと管理をして、メーカーの言われたような取扱 いをし、それが医療に貢献できるのでしたら、医療資源の有効利用ということではいい のではないかと思う。6年から7年経ったら、これはもう耐用年数だからということで 使えるものも廃棄するのはどうなのかな、という気がいたします。もちろん古い器械も 取扱いをきちんとしないとまずいわけで、安全装置、警報装置がないものを、むやみや たらに使うというのは、もちろん避けなければならないのですが、こういう器械をきち んと管理して教育をすれば、器械は長持ちするという1つの例ではないかと思います。  情報提供(資料9頁)という意味では、北里大学MEセンター部では、院内だとか他 の施設、もしくはインターネット、メーカー、学会、新聞等の報道からいろいろな情報 の入手に努めています。入手した情報のうち必要なものは院内の各部門に伝えます。そ のときに、MEセンター部という組織と同時に、病院の中には機器設備の安全を確保す るための特別な委員会がございます。これは20数年前からありますが、その委員会と共 同で、MEセンター部では各種の情報を、迅速に流して、同じようなトラブルが院内で 起こらないように努めています。  今までどんな情報を提供したか、ざっと簡単なものだけ持って来ました。例えば、こ の「酸素ボンベの取扱いについて」というのは、ある所で炭酸ガスと酸素ボンベを間違 えて使用したという新聞報道がありました。それで、すぐその翌日にその新聞のコピー を付けて院内へ流しました。それはどういう原因で起こったかは分かりませんが、その 時点で酸素ボンベと炭酸ガスボンベを間違えるということは、確実に起こり得るという ことは分かっておりましたので院内に注意を喚起いたしました。それから、圧力調整器 が発火したという事故が学会で報告されたのをすぐ院内に報告しました。また、医療ガ スの供給異常で医療ガスが止まったというのが神奈川県の病院でありましたが、この原 因はともかくとして、いま使っている医療ガスの供給設備からくる酸素は止まる危険性 があるわけです。そういう事故があったということは院内の多くの職員は知っていて職 員の意識レベルは高まっているのですから、あらためて今回の事故の内容を伝えて、ト ラブルが起こったらどうしたらいいのか、というような情報を流しているわけでありま す。  例えば、携帯電話のことが話題になったときに、こういう緊急警告というのを院内に 出したことがございます。これは平成6年でありますが「携帯電話によるシリンジポン プの誤作動について」と。「情報手段として携帯電話が普及しており、院内においても 患者及び面会で使用している光景を目にします。この携帯電話は電波を用いて情報伝播 させる作用していますが、最近の報告では、この携帯電話器のパルス電波によりシリン ジポンプが誤作動を起こす可能性があることが判明しました」。これは新聞にちょっと 出たことがあるのです。これはいわゆる郵政省の不要協のガイドラインが出る前であり ます。それで院内にこういう情報を流して「気を付けてください」という話をしたこと を覚えております。  先ほど言いました酸素ボンベと炭酸ガスボンベを間違えたという例は、これは平成7 年2月に出したものですが、平成4年6月15日に起こったものは新聞に報道されており ます。実は、このときにも同じような情報を流したのであります。3年経った後に、私 どもの病院で同じことが起こりかけたのです。院内で起こったものですから、これはい けないということで再度情報を提供したわけです。そのときに「酸素というのは、ボン ベは黒色です。笑気は青で二酸化炭素は緑色です。使用前に必ず注意してください」と いうことを流しております。  私の話はこれで終わるのですが、今回の話を受けてちょっと思ったのでありますが、 実は、私どもの病院には薬剤部があります。これは薬事法の管轄下で医薬品を取り扱っ ておられます。薬剤部の中には、医薬品情報センター(DIセンター)というのがあり ます。私はここを非常によく利用させていただいているのですが、同じ薬事法の下にあ る医療用具を管理するのは臨床工学部門で、その中にも同じDI(デバイス・インフォ ーメーション)センターというのが将来あるべきではないかと思っています。こういう ものをきちんと整備することによって医療器械も正しく使われると思います。  特に医療器械のリスクマネージメントの場合にいろいろなことをしなければならない のですが、いろいろな情報を早く入手して、それを院内に流す。もしくは、院内から出 たものを早く吸い上げて、例えば厚生労働省に届けるというような、院内の情報を集め て出すというときに、この臨床工学部門の中にDIセンターのようなものが必要ではない かと思っております。現実は、技士さんの数もそんなに多くないわけで、薬剤部のDI センターほど、システマティックにはやられておりませんが、私ども北里大学病院のM Eセンター部では、ほそぼそとこういうのをやっている次第であります。  以上で私のお話を終わらせていただきますが、皆さん方の検討の話題になればと思い ます。どうもありがとうございました。 ○森座長  ありがとうございました。さて、このようにして3名の方々から、それぞれのご経験 に基づく貴重なお話を伺いました。  それでは討論に入りたいと存じます。もし、いつものように会議全体を2時間で終わ るということであれば、午後4時まで40分、若干時間を超過してもいいということであ れば、プラスアルファの時間が残っております。どうぞ皆様方、積極的にご発言願いた いと存じます。  先ほど冒頭にご紹介いたしましたように、今日は特に、医薬品、医療機具の、いわば 供給者の側からもお二方にお見えいただいております。もし討論の冒頭に、これだけは 一言、どうしても言っておきたいというお考えでもありましたら伺いますが、よろしゅ うございますか、討論に入って。  それでは、討論の間、ただ単に質問にお答えいただくだけではなく、何なりと積極的 にご発言ください。 ○中村委員  実は、今年4月の日本医師会の代議員会で代表質問いたしました。そのタイトルは「2 1世紀は医師を礎にした健康立国日本」ということでした。その中で私は「セーフティ ・イズ・ノット・フリー」ということで代議員の皆さんに1つの提案をいたしました。 ブルードワンド事案になりますと、IPV6が普及してまいります。家庭用品の中にも 携帯電話等で操作ができる機械が出てまいりました。当然、それは家庭における健康器 具にもそれが使えるわけです。いま新聞でいろいろ言われておりますのは、高齢の方は 、いちばんの価値観が健康である。一方、所得、蓄えもかなり多いということです。そ ういう方々に健康に投資していただくのはいいのではないだろうかと。ただし、どうい うような内容の器具がいちばん必要とされるかというのは、我々臨床家が比較的情報を 得やすいので、メーカーサイドで、いろいろなのを付けられて高くなるよりも、より普 及できるような機械器具等を提案していったらどうだろうかと申しました。  さらによく考えてみますと、それは家庭だけではなくて、病院で使える医療器具もそ の考え方が生きてくるのではないかと思うのです。その場合はどうしても、その費用負 担を誰がするかというのが悩ましい問題であります。患者さんに一部負担していただく というのも必要かと思いますし。もし、そのためにスタッフの省力その他につながるこ とであれば、これは医療機関自身がその費用を負担するということも可能かな、という ように思っております。辻本委員の先だってのご意見等を聞きますと、あまり患者さん に負担していただくと、どうも評判が悪いというようなこともありますので、その辺は 悩ましいわけでありますが、今日、冒頭で「セーフティ・イズ・ノット・フリー」とい うお話がありましたので、委員の皆様のご意見を拝聴したい。あるいは、機械器具のメ ーカーの方々もご出席になっておられますので、その辺のところのお考えを拝聴したい と思います。 ○森座長  ありがとうございました。メーカーサイドとか、費用負担というお言葉がありました が、何かお答えになりますか。 ○山本参考人  医療用具と医薬品の違いですが、医薬品は大体1つひとつ、単品ごとに、銘柄別に費 用が決まるというようになっています。安全なもので、それがいいという評価を得れば 、比較的高い価格を付けていただける、というような仕組みになっているわけですが、 医療用具の場合は、技術料に含まれてしまう製品がかなりあります。その場合は、安全 なものを作っても、安全にかかるコストは全く評価されないということになります。医 療機関では、注意して使えばいいのだということで、安いほうを使ってしまうというよ うなことになりますので、安全対策にかかる費用をどこかで見てもらえるようなことが できれば大変有難い。製造企業に対する援助でなくとも、医療機関が安全対策を施した 製品を購入しやすくする仕組みであってもよいのではないかと私たちは思っています。 ○宮城島参考人  いろいろ安全対策を取った後でも十分医療現場で使っていただければ、ある程度のコ ストは考えてもいいのです。安全対策を、現場でも使えるような、また現場で十分評価 できるような体制を考えていただきたいと思います。対策はとったけれども十分利用さ れないと、コストが大変高いものになりますので、その点、是非お願いしたいと思って おります。 ○堺委員  いまのことに関連するのですが、医療廃棄物が我が国ではまだルールが定められてお りません。患者さんが、例えば自己注射というような形で注射器が使われる、そうする と注射器や針の廃棄という問題が現実に生じております。現在は病院にお持ちいただい て病院が廃棄しておりますが、これは将来ますます増加する傾向にございます。このコ ストを将来どこが負担するかというようなことも、どこかでご討議いただければと考え ております。  最近、家電製品とかパソコンなども、廃棄コストをどのような形で徴収するかと論じ られておりますが、医療器具についても、廃棄のコストをどのように負担するか、とい うことも将来ご検討いただきたいと思います。 ○森座長  ありがとうございました。いつか似たようなことで、病院のゴミの処理をする人が注 射針で指を突き刺してしまう事故があった、という話題をちょっと出したことがありま す。そのときには、廃棄物はこの委員会とは別の領域ではないかといった雰囲気だった と記憶しております。しかし、いずれにしろ、おっしゃったことは大事だと思います。 ○三宅委員  土屋先生と宮城島さんにお尋ねしたいのです。冒頭にリスクのプロセスのことで桜井 先生がおっしゃったのですが、先ほどのお話だと、とにかく既製に出来た薬品の名前、 その他、そういうものをどういうふうにいじって安全にやるかという、情報をどう動か すかというお話だと思うのです。そうではなくて、もっと根本にたくさん原因があると 思います。ですから、似たような名前がたくさんある、似たような剤形がたくさんある 。そういうものをどういうふうに解決すればいいというふうにお考えか、それをまず教 えていただきたいと思います。 ○土屋参考人  私のほうとしては、そういう類似性ということの評価をどのように行ったらいいのか ということでシステムも作りまして、類似性を客観的な評価ができるシステムというも のを現在試作いたしました。そういった中で、今度は心理学の人たちと一緒になって、 どういう係数になったら全員が似ているというのかとか、似ている似ていないという表 現に対しては、やはりそこが主観的なもので非常に難しいところがあるものですから、 何らかの格好で客観的な評価ができるように早急にすべきであろうと考えております。  そういうシステムがきちんと出来れば、当初から承認時といいますか、それは製薬企 業が命名をするときに、事前にそういうシステムでチェックをして、これはどういう対 策をとったらいいかと。それから似てはいけないと言っても、大体私どもが計算したと ころでは、平均5文字から6文字の商標でございます。そうすると、この組み合わせで 似ないで済むのか、ということも一方でございます。そうすると、似て事故が起きた場 合に、相手薬が危ない薬効とか、そういう場合には例えば規制をするとか、そういうさ まざまな規制方法もあると思いますので、まず1つは、似てるとは何ぞやという定義を してもらうために、いまそういう実験を心理学、その他の人間工学の方を通じましてや っている最中でございます。ただ、これは早急にそういうものを仕上げて1つやってい きたいと。  名称については割と簡単に数値評価をするということができるのですが、今度はデザ イン上の、外観上の類似というものは、これはまたもう少し難しいのです。それについ ては、例えば世の中で出ている全部の医薬品の外観がまず分かることが大きな対策にな ると思いますので、そういったデータベースをまず作ること、ということが必要ではな いかと思います。  そういう基盤の整備がされますと、今度はそれを見ながら、デザインする側も、ああ 、これは似てしまうなとか、そういうことをやりながらやる。そういう大きな枠での、 これは出来上がってしまったからでは遅いものですから、そういうことを確実に情報と して捉えられること。そして、それを今度評価してフィードバックしていく、というよ うな仕組みを早急に作ることが必要ではないかと思っております。 ○宮城島参考人  私どもは資料4でお話をさせていただきます。いま土屋先生からもお話がありました ように、今まではいろいろな医療事故、特に類似性の問題を個々の医療機関と個々の製 薬企業で対応してきました。そうした場合、改善策を作ったとしても、また他の医療機 関にとっては、新たな医療事故の誘発する1つの原因になります。A医療機関とA製薬 会社と話をしてても、今度はB医療機関にとっては、それがまた他の類似性の問題とか が起こります。資料4の2枚目に書いてありますように、いま私たち製薬企業では、統 一的な防止策を取るため製薬企業の中でプロジェクトを作っております。その中で実状 調査をしたり、技術検討をして対策を図っております。  ですから、ここでお願いしたいのは、薬剤師の方とか、医師の方、いわゆる個々では なくて、例えばこういう場とか、団体としていろいろ検討の場を作っていただければと 思っております。  もう1つは、販売名のことですが、これは6頁目に書いてありますけれども、いま土 屋参考人からもお話がありましたように、名前の類似性は非常に難しいところがありま す。できたら「類似性を客観的に判定するシステム」を作っていただきたい。例えば、 土屋先生が検討しているようなコンピューター化もそうですし、人間的な工学見地から 作っていただいて、私たちはそれを参考にして名前を付けるとか。  現在では、1つは商標権に抵触するかどうかという基準で命名しているのですが、新 たに「医薬品としての類似性を客観的に判定するシステム」を、できるだけ早く作って いただきたい。  もう1点は、これも先ほど土屋参考人からお話がありましたよう、表示、色調とか外 観の類似性も非常に多くの医療機関からご要望があるのですが、その類似性を客観的に 判断することも非常に難しい。これもデータベース等を作って、第三者的に類似性を判 断していただきたい。そういうシステムができれば私たちも積極的に対応したいと思っ ています。A医療機関、Aさんから言われて直すと今度は次の問題が起こってきますの で、何か第三者的、あるいは、この様な公的な場で検討することができればと思ってお ります。 ○井上委員  日本薬剤師会の井上でございます。まず申請時にきちんと、客観的に評価するシステ ムはまだできていません。それで、アマリールとアルマールは薬剤の名称が非常に似て いるのですが、それなのに申請のときに、これ似ていますよという人は誰もいないので す。片一方は血糖降下薬でこの名称類似による医療事故が何件も起きているのです。現 状は名前の類似性を客観的に申請時に評価するシステムがないということが1つと、臨 床上、私ども日本薬剤師会では今年は「インシデント・レポート」というのを集めてお り、薬剤師が起こした調剤事故のインシデント・レポートを集めているのですが、その 中で傾向的に出てくる医療事故を起こしやすい薬剤というのがかなり決まってくる、絞 り込める。そういったのを私どもは情報として発信しているのに、製薬メーカー側で取 り入れていただけるようなシステムがまだ確立されていない。  さらに、インシデント・レポートを取っていきますと、今度は名前の類似性とか外観 の類似性がないのに薬理作用が全く別で、専門家故に間違ってしまうというような事例 等があります。子宮収縮剤を子宮を弛緩させる薬と間違って出してしまう、というよう な作用があるのですが、それは専門家故に間違ってしまう。そういう傾向もあるのだと いうことです。できるだけインシデント・レポートを集めて、それから出てくる情報を 客観的に分析をし、医薬品名の類似、それ以外の要因も含めて系統的に分析をしていく 必要があると思うのですが、それが反映される医薬品に関するシステムがまだ日本では 出来上がっていないというのが現状だと思います。今後の課題として、やはり厚生労働 省に、音頭をとっていただきまして、是非話し合いができる場所を早急に作っていただ きたいというのが希望であります。 ○三宅委員  いま井上委員が言われたことは私どもも経験していまして、こういう分かりきって事 故が起きているケースについては、早急に名前を変えるとか、改善策を具体的にやって いただきたいと思うのです。そういうことをやらない場合は、メーカーが責任をとるの か、あるいは行政側が責任をとるのか分かりませんが、これは単に医療機関の問題では ないと思うのです。だから薬理業界が自分たちの仕事としての責任ある対応を私は期待 をしています。  私も今回このことで初めて分かったのですが、そういうデータベースができないまま メーカーが勝手に名前を付けて、表示をして、それがそのままスルスル通っていくとい う仕組み自体がおかしいのではないでしょうか。ですから、まずそういうデータベース をきちんと作って、自分たちでまず自己評価することは結構なのですけれども、それを 公的な機関がきちんと検査して、安全だということで認可する、そういう仕組みがきち んとされるべきだと思います。少なくとも、事故が起きているケースについては早急に 対応していただきたい。  外用薬については、私はアンプルに入っているものはもうなくなったと思っていたの ですが、ちょっと薬剤部に調べさせたら、まだかなりありますね、アンプルに入ってい る外用薬は。 ○土屋参考人  40くらいですか。 ○三宅委員  ええ。そういうものは、やはり絶対間違いないように剤形を変える。私はこの前「ア ンプルを四角にしてくれ」と言いましたが、それぐらいのことをやっていただかないと 、こういう間違いは防げないと思います。 ○森座長  ありがとうございました。どのぐらい規制して、どのぐらい自由に、というのは難し い問題かもしれませんが。土屋参考人、どうぞ。 ○土屋参考人  その場合医療機関では、現在ですと類似した場合には他社製品を使うということで、 採用薬を切り替えるということも薬事委員会の中では、切り替えられる場合には、そう いうような対策もとったりするのです。ですが、三宅先生が言われましたように、根本 のところでそういうことが行われれば、そういう苦労もなくなるのかなという気はいた します。 ○三宅委員  現実にそういうことを私どもやっています。名前の点も、確かにタキソテールとタキ ソールは、たった一文字しか違わない。そういうのがまかり通ること自体が私はおかし いと思います。また、先ほどのメテルギンのあれもそうですが、言葉の調子が似ている と間違いやすいということもあるのです。ですから、そういうものも含めて、とにかく 事故の起きたケースについては早急に対応していただきたい。私はそう思います。 ○矢崎委員  今までの委員のご意見と関係があって3つのお願いをしたいと思います。今日、桜井 委員をはじめ3人の先生方から医療機関、あるいはユーザー側における医薬品、医療機 器の保守管理、取扱いへの取組みなど、お話を伺って大変参考になりました。我々はヒ ューマン・エラーのほうでやっていますが、それも十分参考にしていきたい。私どもは 、やはり供給側の方々、それに加えて行政側の方々に、こういうことに関する医療事故 防止への取組みをよろしくお願いしたいと思います。  1つは、医療機器の開発、特に安全性確保の視点から医療機器の開発のインセンティ ブを是非、高めてほしい。それは先ほど中村委員が言われた「セーフティ・イズ・ノッ ト・フリー」ということで、先ほど言われたように工夫してやっても高いと売れない、 だけど、それによって医療事故が防げれば相対的な医療費の節減にもなりますので、何 かそういうものを取り入れていただきたい。  2番目は、情報の的確な把握と迅速な伝達を製品に反映する仕組みを、いまの薬剤名 ばかりでなく、先ほど渡辺先生からお話になった、例えば人工呼吸器のトラップの割れ やすいのを、ちょっとした工夫で良くなるとか、あるいは機械の出っ張りの部分がカバ ーでと。そういうものの情報が早く医療機器の製造側に伝わって、それで改良される。 ご自身の中で工夫されて、それで終わりということではなくて、そういうものが伝わっ てほしい。それはほかの工業業種、例えば車であれば即座にスッと反映されるのですが 、医療機器だと、エンド・ユーザーは即ち患者さんですから、そこの意見がなかなかメ ーカー側に伝わらない。間に医療機関が入っている、あるいは医療人が入っているとい うことで、なかなか迅速に伝わらないところがあるのですが、やはり、いま話題になっ た薬品名を含めて、もう少し情報を包括的に把握して、実際に反映する仕組みを、先ほ どのお話のデバイス・インフォメーション・センターではございませんが、何かそうい うものを、行政的にも少し考えていただければ有難いと思います。  私どもユーザー側にとって3番目のお願いですが、どんどん新しく開発されるといろ いろな機能が付加されて、非常にファンシーな機械になっていく。それだけ故障も多い し誤りも多いので、機器は、特に人工呼吸器みたいに生死に直接かかわるような機器は 、できるだけ機能をシンプルにして、構造をシンプルにして、なるべく間違いのないも のを開発する。すごく高級なものを開発するという意味でなく、簡単なもの、故障のな いものを開発するというのも1つのストラテジーになるような仕組みをお考えいただき たいということで、供給側と、局長さんもいらっしゃいますので、行政側にも是非そう いうことをサポートしていただきたいことをお願いいたします。 ○森座長  どうもありがとうございました。いわゆる高級とか、いわゆる付加価値というのは、 必ずしも、本当の意味の高級でもないし、本当の意味の価値増加、有用でもないですね 。何か、いまの点についていかがでしょうか。 ○渡辺参考人  いま言われた3つのことで私なりに答えさせていただきます。「セーフティ・イズ・ ノット・フリー」で、確かにそうなんでありまして、いまの器械がすべていいわけでは なくて、安全という意味で改良していただくのはいいと思います。ただ、絶対安全とい うのはあり得ないわけです。先ほど先生が言われた複雑な機器と同じように、安全を確 保するためになるとますます複雑になって、取扱いがかえってややこしくなるとか、保 守がやりにくくなるという意味で、なかなか難しい面もあるわけです。ある程度のとこ ろで妥協して、それ以外のところはユーザーに対する教育ということでやらざるを得な いのではないかと思う。ただ、いまの器械がすべていいというわけではなくて、少しで も改良すべきところは改良する必要があるだろうと思います。  その意味では、先ほど私が示しましたように、うちの技士さんたちが考えたものをメ ーカーに取り入れていただければいいのですが。これは私ども病院の中で温存していた わけではなくて、もうだいぶ前に学会等でも発表して雑誌にも書いているのですが、な かなか取り入れてもらえない面があるわけです。  器械の開発をされるときに、先日もある会であったのですが、メーカーの方はどうす るかというと、ある特定の先生方の所へ行って「いまどういう状況だ」と、その先生方 の意見を聞いて開発される場合が多いわけです。そうしますと、保守とか操作性が忘れ られて患者不在の器械が出てくる。私はそのときに言ったのは、「できればそういう先 生方の意見を聞くと同時に、器械を保守管理する、操作する臨床工学技士とか、看護婦 さんの意見を聞いて作ったらどうですか」と。もっと言うと、先生が言われるように、 患者さんの意見を聞けるといちばんいいわけですが、残念ながら患者さんとメーカーと のつなぐ橋はないわけです。  その意味では、私は臨床工学技士の人たちにも、「患者さんの立場で考えて情報をメ ーカーに提供しなさい」と。メーカーの方たちには、「お医者さんの所へ行くなとは言 わないけれど、お医者さんの所へ行ったら、そのついでに必ず臨床工学技士の所へ行っ ていろいろ話を聞いてきなさい。そうすると、いい情報がありますよ」という話をして おります。まだ全国の病院に臨床工学技士はすべているわけではない、歴史が浅いわけ です。これから臨床工学技士の人たちに頑張っていただかないとまずいだろうと思いま す。  先生が言われた「人工呼吸器などはシンプルにすべきだ」と、これは全くそのとおり だと思います。実は、先日アメリカのある雑誌にこういうことが書いてありました。フ ォードか何かの車に乗っているある人が、学会かどこかで出張して飛行場に着いてレン タカーを借りた。ダッジの車を借りたら、じゃあダッジの取扱い説明書を見なければ車 が運転できないかと言ったらできるわけです。それと同じことがなぜ医療でできないの か。人工呼吸器だったら、基本的なところだけは同一にする。  実は、ちょっとうちで調べたのですが、人工呼吸器を5台持って来たら、すべて換気 量の設定が違うわけです。ダイヤルのある場所も違います。そういう器械が現場にあっ て、それを間違いないようにするというのは、まず不可能だと思う。これは当座教育し なければならないのですが、メーカーのほうで、是非その辺のところも考えていただき たいなと思っております。ただ、これだけいろいろ複雑な機械が出てきておりますと、 それを標準化するということになりますと、これは大変なことだと思いますが、でも、 是非それはやっていただきたいなと思っております。  だいぶ前にそういう話を私がメーカーの方に話をしたら、「そんなことをしたら自分 たちメーカーの特殊性が出なくなるから、それは不可能ですよ」と言われたことがある のです。じゃあ、テレビにしろ、パソコンにしろ特殊性を出すために、テンデバラバラ のものを作っているかというと作っていないわけです。それでもそれぞれのメーカーは 、ちゃんとした特殊性のある器械を作っているわけですから、医療機器メーカーでも私 はやればできるのではないかと思う。是非そういうふうにしていただきたいと思います 。 ○黒田委員  矢崎先生のお話と大変似た話になると思いますが、今日、先生方からいろいろお話を 聞きまして、現場の所ではいろいろ工夫しておられると思うのです。しかし、桜井先生 が言われるみたいに、もうそろそろ国として1つのシステム・デザインをどう作ってい くかというディスカッションが必要ではないかという気がするのです。間違いやすい状 態を置いておいて間違うなというのは無理だと思うのです。実際にたくさん間違ってい ますよ、というデータが山のように出てきているわけです。それは名前であったり、機 材であったり、いろいろなものを改良することによって、ある程度防止することができ るわけです。それをどうするかというのは、やはり行政を含めた1つのシステム・デザ インが必要だろうと思うのです。その辺、日本全体の中で大変な温度差があるなと思う のは、例えば航空機にもしこういうことができましたら、これは完全なる「改善命令」 というのが出るわけです、機材であるとか、そういう面で。もちろん、それはスタンダ ーライズされているものですから、そういうことができるのでしょう。  私、薬害エイズ関係の仕事をお手伝いしたことがあるのですが、その後も、副作用に 関しては直ちに処置をして、あるいは販売を中止するというような大変な権限を厚生労 働省がお持ちになっておられます。また、ほかの機材については「PL法」というのが ありまして、それは大変大きなウェートを持っているわけです。その辺、安全に関する 温度差ですね、特に医療過誤関係の問題に対する、特に、ものと人間との関連の温度が 大変低いような気がするのです。  今まで皆さん努力しておられるものを、ある1つのシステムに組んでいけることがで きそうだ。もちろん、それにはいろいろな問題があると思いますが、特に行政の方々の システム・デザイン、どこでデシジョンメーキングをし、国民の命に係わる問題なんで すね。  渡辺先生の所で本当にたくさんいろいろな努力をしておられるということは、同時に 、それと同じようなことが日本国中の病院の中で困っているわけです。そういう面にお けるシステムをどう作っていくか、というディスカッションを是非ともしていただきた いと思います。 ○鶴田医薬局審議官  医薬品の名前とか形について私見を述べますが、医療用薬品は1万3,000品目ぐらい あり、一般薬まで含めると非常に数も多くなる。名前はこっちをいじっても、じゃあ、 あっちのほうから見たらどうかとか。そうすると、いつになっても根本的な対策ができ ない。こういった誤用について根本的に対策がとれることができるかどうか。長期的な 対策になるかも分かりませんが、例えばアメリカなどではバーコードみたいな、高額的 な機器を使って、そういった誤用が起こらないようにシステムを導入している。そうい ったことも含めて、根本的に誤用をなくすような方策ができないかどうか。それと、実 際に起こっているものについては短期的にどんどん改めていく、というような2つの方 向が必要ではないのかと考えます。いずれにしてもいちばん大変なのは、インセンティ ブをどのように与えていくか。そういったコストの話は、桜井先生の委員会でもう、議 論も出ておりますので、その面からの検討も期待しています。その委員会の中で、いま お話がありましたようなシステム的なディスカッションについても、お願いできればと 思っております。 ○川村委員  お話がちょっとはずれるかもしれませんが、市販前と、行政の認可と、そして市販後 という3つのフェーズがあると思うのです。市販後にいろいろ問題が生じたときに、そ れを直すということは、メーカーも非常に苦労が多いというふうに伺いました。それか ら、ある人にとっては誤りやくすても、ほかの方にはそれが慣れていたりするわけです から、私は市販前にウェートを置くべきではないかと思っています。  輸液ポンプに1つ例を挙げたいと思います。2年前に私が事例を集めましたときに、3 ,000事例中7%が輸液ポンプ関連の操作エラーでした。大体2つの群に分かれまして、 経験の浅い看護職の方がメカニズムを知らなかったことによって起こってくる誤りと、 それから比較的熟練者が、頭ではよく分かっていたにもかかわらず間違った操作をした という誤りがありました。。後者の場合は、多くはプレッシャー下なのです。例えば時 間的に切迫して焦っていた、あるいは、ほかのことを気にかけながら行ったなどです。 こうしたプレッシャーにさらされやすいというのが他の業界と医療の1つの違いだと思 うのです。日常茶飯事にタイム・プレッシャーが生じる、特に夜勤帯の看護婦さんなど は、そういった状況に置かれていて、分かっていても間違ってしまいます。分かってい ても熟練者の間違うエラーというものを防止するため、市販前の製品開発段階で、どの ように設計をしていくかという、その仕組みが必要と思うのです。ユーザービリティー ・テストと言われていますが、医療特有のプレッシャー環境を模した中でのユーザービ リティーのテストが必要ではないかと思いまして、そういった視点からもう一度医療機 器の製品開発を考えていただければと強く願っています。 ○山本参考人  いま医療用具について非常にバラエティに富んでいて難しいというお話がありました が、私の資料5を参照していただきたいと思います。1頁目に「医療用具の特徴と問題 点」ということを書いていますが、医療用具はどうしても医療技術者に使っていただく 使い勝手の問題がありまして、私たち企業がずいぶんいろいろな所に伺いに行くのです が、それぞれ要望が違うのです。ですから、なかなか統一化が難しいという問題が実は あるのです。従って1つ問題点として私が挙げさせていただきたいのは、ここ2、3年 、安全対策ということで、いろいろな所でリスクマネジメントが叫ばれて有難いのです が、それが統一されていなくて、各病院でいろいろ要望を挙げてくださるので、それに 応えると、今度は違う所では新しい問題になるということがあります。  例えば、シリンジに色を付けてくれとか、チューブに色を付けてくださいと。これ用 にはこれ用の色を付けてくださいというような要望がいろいろな病院からいくつか出て 、それぞれの企業が勝手に対応してしまうのです。そうすると、今度は違う病院さんで は新しい事故になるということとか、いろいろなことがありますので、是非そういう要 望を統一する仕組みを作っていただけるとありがたい。  最近も新しいリスクマネジメントということで東京都でも医師会を中心にして、そう いう対策をつくろうとしていますが、あるいは厚生労働省でもつくる、あるいは大阪で もつくるということになりますと、その要望が違ってくる可能性があるのです。ですか らそれを厚生労働省で統一していただき、それに対して企業側も一本化して対応する、 何かそういうような仕組みが必要ではないかと考えていますので、よろしくお願いした いと思います。 ○井上委員  皆さまのお話をお聞きしていて全体的に思うことは、同じ安全対策でも医薬品の場合 、副作用が起きますと報告制度から始まって、副作用への対応や、それの情報収集、副 作用情報の末端への伝達については、世界でも有数のシステムを厚生労働省がつくられ ていると思うのです。  ところが同じ安全でも例えば名称の類似とか、医療用具の現場からの情報の吸い上げ 、そしてそれを分析しその危険性を末端に伝えていく、医療事故発生の危険性改善をし ていくという、どちらもそうなのですが、片一方のサイドエフェクトについてはすごい システムがあるのに、同じ安全対策でも医療事故に対する戦略、まさに矢崎先生が先ほ ど言われましたストラテジーがありませんし、桜井先生が言われたリスク管理ループが まだ完全に出来上がっていないような気がするのです。  これは、これから取り組むことであり、そのためにこの委員会があるわけですから、 まさしくこの親委員会とそれぞれの委員会できちんとした対応をしないといけないとい う、今日のお話し合いで結論が出ているのではないかという気がするのです。是非そう いう医薬品・医療用品に関する医療安全のストラテジーを構築していく、それは基本的 には医薬品の副作用の対策と似たようなところがありますので、そういった面を参考に して、迅速な対応を是非お願いをしたいということです。 ○川村委員  山本参考人のお話を伺っていて誤解があったのかもと思いました。私が申し上げるの はあとでの要望ではなくて、操作設計のところで普通に操作をしているわけですが、そ の操作設計の段階で初心者、あるいは医療従事者を参加させていただいて、そこでの取 組みをいただきたいということなのです。あとでどうこう、色を変えていただきたいと かいう話ではないのです。いま製品開発の段階で操作設計、マンマシンのインターフェ イスの自分は、どのようになさっておられるのでしょうか。操作設計については実際に 医療従事者を交じえてしているとか、そういうことではないのですね。 ○山本参考人  そうですね、それは機械によってずいぶんいろいろ違うのです。 ○川村委員  では、輸液ポンプに限定させていただきます。 ○山本参考人  輸液ポンプですと、どうしても機械をつくる人たちの好みがかなり入るのは事実です 。その人たちにしても、設計の段階で病院に要望を伺いに行くのですが、もう1つ問題 点は先ほど渡辺先生のお話の中にありましたように、薬は薬剤部ということで聞きに行 く場所が明快になっているわけです。医療用具の場合はそういう窓口がないものですか ら、非常に限られた医療施設にしか聞けないという問題点があります。  私たちもその情報をなるべく正確に把握したいと思いますので、1つは、先ほど渡辺 先生が提案していただいたように、実は私も資料5の10頁に「医療業界からの提案」と いうことで、医療機関に医療用具担当窓口を設置していただきたい、ということで述べ させていただいているのですが、そういう所をつくっていただいて、そことの情報の交 換をする。あるいはそこに私たちメーカーからの情報提供をするという仕組みができれ ば非常に有難いと思っています。  もう1つ申し上げさせていただきたいのは、2番目に、これは安全対策とか、改良品 をつくった時に評価体制が全体的にできていないと感じるのです。医療事故対策として 私たちは去年から2品目の新しい事故防止対作品を業界として設定しました。栄養ライ ンの新しいものをつくったり、あるいは人工呼吸器で新しい物をつくったりしているの ですが、それが本当に受け入れられているかどうかを調査しようとしているのです。業 界だけがやったのではあまり信頼されないので、是非第三者なりあるいは厚生労働省を 入れた改良品の評価システムみたいなものをつくっていただけたら、大変有難いと思っ ています。 ○森座長  ありがとうございました。折角いいご意見がたくさん出ておりますので、ここで打ち 切るのは惜しいと思いますから、時間を少し延長させていただきます。 ○児玉委員  日ごろ医療器具周りの事故、例えば心カテから人工呼吸器、三方活栓のような単純な ものに至るまで、おびただしい事故事例を経験しているわけです。山本参考人から要望 を統一してほしい、一方で各医療機関の要望がバラバラだと。これも実態は私はいろい ろ話を聞けばそのとおりだと思うのです。  ただ、私が思いますのに、安全のために是非とも標準化すべき、かつ、これは行政が 入って規制すべき事項と、それからそのマーケットの中で個別化をしていただいて、競 争していただくべき事項が混在してしまっている。これは行政のほうでリーダーシップ をとっていただいて、これをどう振り分ける、どれを標準化すべきことで、どれが個別 に競争すべきことなのかということを是非振り分けていただきたい。おそらく今そうい う仕組みが全くない中で大変苦労をしておられるのではないかと思うので、その辺、後 ほどご意見をお聞きしたいというのが1点です。  もう1点は、私は100病院ほどの中間管理職のナースに講演をさせていただく機会が ありました。その時にいい機会だからということで三方活栓についてアンケートを取ら せていただきました。詳細は時間の都合上避けさせていただきますが、3分の1の病院 では静脈ラインと経口血管のラインのサンポウカッセンのサイズを変える、あるいはカ テーテルジプト、ルアールチップのシリンジの先を変えるというシステムを導入してい ましたが、3分の2の病院では導入していない、あるいは検討中。「なぜですか」とい う質問に対して、半分程度の回答は不明だったのですが、半分程度はコストの問題とい う回答が返ってきたのです。  いま申し上げました標準化と個別化、情報交換の問題のみならずコスト分担の問題を 議論する場が是非必要ではないかと思うので、その辺について山本さん及び関係各省の 方からお言葉をいただければと思います。 ○森座長  ありがとうございました、他に何かございますか。 ○医薬局長  いろいろご指摘いただいておりますが、確かにいま多くのご意見の中にありましたよ うに、これまでの私どもの安全対策というのは、医薬品で言えば副作用のリスクをどう するかということ、医療用具で言えば機能がきちんと作動するかどうかという視点だけ を中心にした安全対策で、ここで議論になっているような名前が紛らわしくて取り違い が起き易いとか、あるいは容器なり色なり、そういう形状的なものについての原因でエ ラーが起こるような場合の事故、そういうものに対する安全対策をどうするかという視 点は、現在の規制にはおそらくそういう視点からのものはないと思います。  そういう意味ではまさにこの場でそれを議論をしていただいて、いまお話がありまし たように、どこまで行政あるいは法的な規制の中で、そういう新しい視点からの安全対 策を盛り込んでいくかという辺りは、またいろいろご提言いただいて、取り組んでいき たいと思います。例えば名称とか、あるいは医療用具で言えば容器なり色というものを ある程度安全対策上制限、規制していくという形が、行政でどこまでやって、いまお話 がありましたように、あと各メーカーが市場である程度自主規制していくという辺りの 振り分けが1つ必要なのかなと思います。  その場合、これ医薬品・医療用具もそうですが、日本だけではなくて非常にグローバ ル化している商品ですから、やはり国際的なハーモニーゼーションといいますか、そう いうものが必ず絡んできますので、日本発のそういう問題提起も私は非常にいいと思い ますが、やはり国際スタンダードにそれがなっていくような方向付けも、併せてやって いく必要があるのかなという気がしています。  安全性についてのコストの問題をどうするかというのは、非常に大きな問題でして、 特に医療用具の場合はストレートに価格が評価されるというより、先ほど言いました技 術料の中にそれが取り込まれた形になっているということですが、ただ、行政の立場か らのそういう安全性の規制を行うとしても、たぶんいわゆるミニマムの安全性はある程 度強制力をもった規制として基準を設けて、それ以上のより安全性の部分というのは、 それぞれの独自性といいますかプラスアルファでしていくということなので、行政の規 制というのは大体そうですが、少なくともここまでは絶対確保しなければいけない安全 性という基準を整理して、それに適合するものについては、おそらく医療保険の分野で も評価して取り込んでいくという形になると思います。  そういう意味ではこの新しい視点からの安全性の確保のために、行政として規制し基 準を設けて少なくともここまでは基本的に確保すべきだというラインを、ここでご論議 いただいてご提言いただき、それが法令的あるいは行政的にきちんと整理されれば、お そらくそこまでの安全を確保するためのコストは医療保険なり、そういう技術料の中に 反映していくというリンクは可能になってくるのではないかという気がしますが、いず れにしても、この視点というのはまさに今までなかった、ある意味で抜けていた視点で すので、ここでのいろいろなご提言をいただいて法的あるいは行政的にカバーすべき、 この視点からの規制はどこまでかという点についてのご提言をいただければ、我々はそ れを基にしまして考えていきたいと思います。 ○森座長  ありがとうございました。かたや全て役所の規制に頼らなくては何事も進まないとい うのであれば、それもまた、ちょっと寂しい話ではありますね。 ○全田委員  自分が医療の社会にいた時には、今日の三先生のご説明の立場だとか、メーカーの立 場というのは非常に分かるのです。自分が医療の立場を離れてみますと、では、どうい うことでリスクマネジメントをしていただくかというのは患者さんなのです。この会議 もそうなのですが、大変に申し訳ございませんが、受ける方のご意見というのはなかな か入らない。非常にアバウトな話で恐縮ですが、医療を受ける方のご意見を受けるとい う。今日の先生方のお話を伺って私はもっともだと思います。私も医療人として生きて きた男ですから。ただ、自分がいま医療人から離れてしまいましたから。本当に医療を 受ける側の人にとって、それが本当のリスクマネジメントになるかどうかということは 、もちろん一般の方々もおいでいただいていますが、何かそういうことのチャンスも是 非、行政として考えていただきたいということを、非常にアバウトな話で申し訳ござい ませんが、一言申し上げたいと思います。以上です。 ○長谷川委員  先ほどの井上委員に対する応援と、僭越ながら山本参考人あるいは医薬局に対して若 干提案をしたいと思うのです。先ほど井上委員のほうからは薬の副作用に関しては結構 やっているのだけれども、名前とか機械の問題とかはあまり得意でないと言われた。山 本参考人のほうから「窓口の問題」と言われたのですが、私が聞く感じでは、むしろこ れまでお薬は薬理作用あるいは副作用としては、きちんと安全性が管理されていると思 いますし、機械の有効性、安全性はきちんとやられていると思うのです。実は薬をめぐ ってシステムがある、人がいる。全田委員のお言葉を借りれば患者さんもいる、そうい う1つの繋がったシステムで行われています。機械のほうもメンテから始まって、その 購入あるいは実際に機械を使う人という1システムでやっています。したがって窓口も 当然つくらなければならないけれども、それ以上に発想として、ものの考え方としてヒ ューマンとマシンというのがインタアクションしているのだ、それはシステムなのだと 。  冒頭に桜井委員からもご提案があったのですが、もともとヒューマンとものを分ける ということ自身が危険である。最初から1システムとしてとらえて、もう一遍言って恐 縮ですが機械そのもの、お薬そのものの安全性という構成は研究されてきていると思う のですが、それを人のシステムの中に置く時にどういうふうに間違いが起こるかという 、発想の転換がいるではないかと思いますので、窓口に合わせてものの考え方の発想を 我々は変えたほうがいいのではないかと思いますので、提案しました。 ○桜井委員  3点ばかり申し上げたいのです。1番目は総論的なことで、これはご参考になるかと 思いますが、アメリカのインスチュート・オブ・メディスンが、医療事故の予防策とし て4点挙げています。その1つはリーダーシップ・センターの設立。要するにリーダー シップのとれるようなセンターをつくりなさいということが1つです。2番目は情報・ 報告システムの完備です。こういうものをきちんとつくらなければいけない。3番目は 今日も盛んに出ていましたが、やはり安全の基準づくりというか、スタンダード・ダイ ゼーションをしなければいけない。4番目は現場というか、医療者の安全対策の実効の 評価ですね。これもどなたか言われていましたが、そういう仕組みが必要。この4点が IOMからの予防策の実効性ある対策として必要ではないかということが言われていま した。それが第1点です。  第2点はコストの問題です。厚生労働省は医療費は「コスト負担」という見方しかし ないのかどうかは知りませんが、コスト負担という見方、観点が非常に濃厚で、産業と いうかそういう経済活動という見方は通産省辺りに比べると比較的に薄いと私は思いま す。この安全のコストの問題を先ほどの局長のお話も医療保険の中で考えるとか、やは り1つの枠組みにとらわれて考えていると言っては失礼かもしれませんが、そういうも のの考え方のリミテーションがあるような気がするのです。  いま総合科学技術会議などでも「安全」ということは言っていますし、日本の経済が 不活性だということもありますし、これは安全産業というものが1つの産業として相当 重要なものになり得る。しかも安全とかリスク管理というのは冒頭申し上げたように、 1つの科学技術でして、そういう面が産業化するということは筋の通る話だと思うので す。第二次の補正予算が云々されている昨今ですから、是非早急に打って出てやるとい うことも私は必要ではないかと思うのです。要するに保険でチンタラチンタラというよ うな問題は、何年かかって活性を待つかは分からないということで、もう少し攻めの姿 勢でやっていただいたほうが私はかえって効果があるのではないか、これが第2点です 。  3点目はコンシューマー・オリエンテッドなものの考え方というのが何人かの先生か ら言われました。私は全くそのとおりだと思います。ただ、私は非常に不思議だったの は、1980年にアメリカにヘルスケア・リスクマネジメントの会ができて、7割の病院に リスクマネジャーがいる。それにもかかわらずIOMから4万5,000人から10万人ぐら い死んでいるという報告が出て、驚いたというのが私は分からなかったのです。要する にリスクマネジャーがそんなにきちんとやっていて、何でアメリカというのは医療事故 が多いのかということが実に不思議でしようがなかった。  それはある方の話によると、アメリカのリスクマネジメントというのは、非常にファ イナンシャル・オリエンテッドで、いかにしたら賠償金を減らせるか、保険金額を減ら せるかということが主眼でやっているのではないか。それに対して我が国のリスクマネ ジメントは、ヒヤリハットにしても何にしても、全く経済的インセンティブがなくて、 良心の賜ですよね。良心がなければこんなことできないわけです。そういうことでやっ ているということで、私は日本の医療に関するリスク管理というのは非常に有望だと思 っています。以上3点申し上げました。 ○堺委員  今日は製薬団体と医療用具団体の両方の団体で、医療安全に係わっておられる方がい らっしゃいますので、この機会にお願いしたいのです。医薬品と医療用具の両方に跨が る問題も医療現場では発生していますので、この場合もこういうことについては是非両 団体でご討議をいただきたい。具体的な例を1つ申し上げます。  最近、私どもの病院で発生したのですが、輸液ポンプのアラームが鳴りやまない。こ れは変だ、機械が故障したのだろうと最初に考えまして、ポンプを換えたのですが、そ れでも鳴りやまない。これは何か中身に問題があろうと考えましたところ、ある薬品、 ニトロ化合物用の回路を通す薬品だったのですが、これは能書では100倍に希釈して投 与すべきところ、そんなにたくさん投与できないという主治医の判断で、20倍の希釈で 投与しましたらその現象が起こった。これは実験で確認できたのです。  先ほど山本様からいろいろな組み合わせで、いろいろなことが起こるというご意見が ありましたが、まさにそのとおりです。これは厚生労働省のほうにもちろんお届けして ありますが、ここから先は行政のほうへのお願いなのです。医薬局のほうへ実はすぐお 届けしようと思っていましたところ、増子先生の調査会から「最近発生した重要事象を ただちに届けるように」というご指導をいただきましたので、そちらへ届けました。  病院の立場からいたしますと、厚生労働省にお届けすればその事象の中身によって、 いろいろ切り分けをできればお願いしたいということです。あちらへお届けしたりこち らへお届けしたりということが、できれば少なくて済むと有難いと思います。以上でご ざいます。 ○辻本委員  コストのお話が出ていますが、最初に桜井委員から、「患者の意識改革も必要」にそ して「もちろん医療現場の意識改革」ということも言われたと思うのです。これまで患 者たちは「安全というものは与えられるもの」という認識が非常に強かったのではない か。そこにコストがかかるのだということ、これが、これからの患者への意識啓発とい うことで非常に大事な点だと思うのです。ただ、先ほどもお話を伺っておりますと、ま た、診療報酬の加算とか、あるいは保険外実費という曖昧な状況の中で、もしこのコス トが組み込まれてしまうとすると、納得できるでしょうか。それでなくてもコスト意識 が高くなってきている患者たちが、そこに十分な説明もなく、納得もないまま、また“ 取られる”という意識になる。これはおよそ啓発という教育の所には繋がっていかない と思います。ですから安全というものにはこれだけのコストがかかるのだということを 、きちんと国民への教育をしていただくことが大切。患者もこれだけの安全を求める時 代ですから、納得すれば私はそこに不信というものは生まれないと思います。  今日、北里のMEセンターのお話を伺っていて、患者が求めたい、つまり病院を選ぶ 時に欲しい情報には、それこそこうしたMEセンターの取組みがある病院、そういう所 を選んで行きたい。何より患者が情報開示で求めるものは、こういう情報ではないかと 思いながらお話を伺いました。そして、DIセンターを設置する必要性ということを最 後に強調していただいたことで意を強くしたのですが、1つだけお聞きしたいと思いま す。  「新しい取組み」ということを渡辺さんからお話があったように思いますが、果たし てどの病院にも設置が可能であるのかどうか。あるいはそこまでの分析をなさっておら れるかどうか。1床当たり経費としてどれぐらいがかかって、それがどれぐらいプラス 効果を果たしているのか。そういうことが病院間にも明らかな情報となれば、いま何か 取り組まなければと現場も必死になっている状況の、1つの大きな資産に繋がっていく のではないかということを感じました。その辺りのことがもしお分かりでしたらご説明 をいただきたいなと思います。 ○渡辺参考人  いまのことについてお答えいたします。現時点で日本に臨床工学技士が1万5,000人 おります。しかしながら全ての病院にその人たちがいるというわけではなくて、1人と か2人という病院が多いだろう。先ほどもお話しましたように、業務内容が非常に多岐 にわたっているので、私が言ったようなことはなかなか難しいだろうと思いますが、し かしながら、これから臨床工学技士が増えてきますから、そういう方々に先ほど言った ような仕事をしていただいて、初めからMEセンターのようなものをつくる必要はないか もしれませんが、個々の人たちがそういう心構えでいろいろな情報を集めて流す。それ で実績を上げていただかないと、まず話は進まないのではないか。  1床当たりどれぐらい云々ということ、経済的なことはどうだということは、それは 将来やらないとまずいと思いますが、とりあえずいま現場におられる少ない臨床工学技 士の人たちが、地道な活動をしていただくのが先決ではないかなと思っています。臨床 工学技士というのは誕生して日も浅く、もう1つは今まで臨床工学技士がおられなかっ たから、その病院で、では器械が使えなかったかというと、使っているわけです。臨床 工学技士の業務は、業務独占ではないわけですから看護婦さんとかほかの人がやっても いいわけです。保守点検に関してもどなたがやってもいいわけです。そういう意味で立 場は業務独占のほかの医療職種に比べると弱いのですが、しかしながら、これから器械 がだんだん増えてきますし、いろいろな技術が使われますので、そういう意味ではこれ から頑張っていただかないとまずい。そうしないとやはり医療機器、医療用具に関する 安全というのは私は確保できないのではないかと思います。 ○森座長  ありがとうございました、「安全」という言葉にも一部には誤解がありますね。ごく ごく当たり前の人が何の考えも、何の医学的知識もなしに使えるような、いわば「安 全」というのは、私たちが目指している「本当の意味の安全」ではないかもしれません ね。 ○望月委員  今までのお話とちょっと違った観点になるかもしれないのですが、先ほど危険性があ る医薬品あるいは医療用具というのは、承認前の段階でそれを評価するシステムの導入 が必要ではないかというご意見がありましたが、先ほどの桜井先生のお話の中で、さま ざまな形でリスクを見積る。  例えば医薬品については治験の段階でその薬がどのようなリスクがあるか、ある意味 では副作用という側面からのリスクというのは、かなりのきちんとした試験を行って評 価をしているわけなのですが、リスクと便益の比でその薬を世の中に出すか出さないか は最終的に決まっていくわけです。リスクが例え仮にある程度あっても、便益がいまの 世の中で必要であれば出していくということもあり得ると思うのです。その時にその評 価をしたリスクを、きちんと承認後の臨床現場で反映して使っていける仕組みができて いるかというのは、いまは十分ではないような気がします。  医薬品に関しては医療用医薬品添付文書という形で、そのリスクのアラームの部分を 発信していくわけなのですが、おそらく医療用具のことについても取扱い説明書等で、 そういった啓発はしていかれていると思うのです。そこがきちんと反映されるのか。  医薬品なども毒薬とか劇薬とか麻薬とかいった規制区分をつくって、リスク管理をし ようとしても、その範囲で納まらない形のリスクというのが残ってしまっているのでは ないかと思うのです。そういった辺りを例えばきちんと医療用具などではシュミレータ ーを使ったシュミレーションを受けた人でないと取り扱えないとか、医療用の薬品に関 しても、そのリスクと使い方をきちんと研修した方でないと使えないとかいう仕組みも 、ある所では必要になるのかなというふうに思います。それが1点目です。  もう1点ですが、私は医薬品情報を長年扱ってきた関係で、製薬企業が医薬品の適正 な使用のために、必要な情報をMRさんという医薬情報担当者という方を通じて、さま ざまな形で私たちに還元してきてくれているというのは分かっているのです。先ほど渡 辺参考人のご意見で、医療用具に関しての情報に関して、例えばいろいろな情報をどう も新聞から得たり、マスコミ報道から得られて、それを参考人のような先見性のある方 はお気付きになられて院内に流すという仕組みをとられていたようなのですが。医療用 具の会社には、製薬企業のMRさんに相当するような医薬品、医療用具に非常に高い知 識と技能を持っている方がいらして、それをきちんと情報伝達していただけるという仕 組みがあるのでしょうか。もしないとしたらデバイス・インフォメーション・センター をつくられる際には、やはり医療用具の会社にもそういう方を育成していただくことも 必要かなと思いました。 ○渡辺参考人  いまの件でMRは私は非常に羨ましい制度で、今日お話したようなことはいろいろな 所で話しますが、医療器械の業界の方たちには、製薬業界にあるようなMRを是非つく っていただきたいということはいつも言っていますが、現実にはまだないことは確かで す。 ○梅田委員  時間がありませんから簡潔に申し上げます。私は日本歯科医師会を代表して来ている わけですが、歯科医療というのは非常に医療用具をたくさん使っています。用具の中で 、先ほど桜井先生の論文を見させていただきまして非常に関心させられました。、私ど もはJISの規格にISOを可及的整合させるべく国際会議で努力しているわけです。先生の お書きになられた「リスク管理のプロセス」これは非常にきれいな図柄で出ているわけ ですが、こういったものは日本ではどの程度運用されているのか、そういう点をお分か りになりましたら教えていただきたいと思います。以上です。 ○桜井委員  これはISOの14971というのが一昨年の12月にISOで基準がつくられまして、国 際的には発行しているわけです。しかしながら、日本ではそのISOを大体そのまま翻 訳してJIS化するわけです。そIのJSの作業がたぶん来年早々にはなると思います 。そうしますと先生がいま言われたようなこの流れが一般化すると思います。 ○山崎委員  別に遠慮はしていなかったのですが、今日は国家的なストラテジーに基づくシステム づくりの方向にいくべきだ、というような先生方のご意見を伺って、私も全く異存はご ざいません。その方向にいくべきだというふうに思っています。ただ、その前にいま現 実に起こるような事故を防ぐ。特に私の立場から申し上げて、薬剤関連事故を防ぐとい うことで、先ほど土屋参考人からお話がありましたが、私が関心をもったのは処方箋と いうのがともすれば一方通行であって、疑義照会の結果、処方変更があったような場合 も、診療記録にこれが残されない場合があるということがありましたが、疑義照会とい うのはこういう事故を未然に防ぐ場合にも大事なことではないか。  1つには他の診療機関からの処方による相互作用を防ぐということもありますし、そ れから医師の診療方針に基づく、例えば適用外使用だとか、あるいは過量を使わなけれ ばいけないというような場合、これが例えば病院勤務薬剤師がそういう疑義照会の結果 を、診療記録に残すという役割を果たすべきだというお話がありましたが、もう1つ遡 って、病院・診療所から発行される処方箋がそこを出る時に、それが調剤の段階で薬剤 師が間違いなくその処方箋を調剤できるような、その前処理と言うと言葉は悪いかもし れませんが、そういうシステムがそこにあれば、疑義照会の質がまた1段上がる。その 結果として安全性が確保できるのではないかということを感じましたので、その辺のシ ステムについても。現実にはいろいろな所で実現しているということも存じ上げていま すが、広い範囲で。そうしますと今日話題になったような事故が身近な所で、もう少し 防げていくのではないかと思いました、それだけ感想を申し上げます。 ○森座長  ありがとうございました。本当はあと1時間でも続けたいところでございますが、時 間の制約もあり、今日はこれで終わりにいたしましょう。どうしても一言、という方が おられれば拝聴いたしますが、よろしゅうございますね。では、事務局から次回のこと などについてアナウンスしていただきます。 ○新木室長  次回は来年1月11日の午前10時30分から12時30分まで「第三者機関及び法的側面」に ついてご検討をいただく予定です。詳細については後日ご連絡申し上げます。以上です 。 ○森座長  大幅に時間を超過して、大変申し訳ございませんでした。これで終わりにいたします 。                    (照会先)                      医政局総務課医療安全推進室企画指導係                      電話 03-5253-1111(内線2579)