01/12/14 第2回 これからの医業経営の在り方に関する検討会        第2回 これからの医業経営の在り方に関する検討会 日時   平成13年12月14日(金)10時30分から 場所   経済産業省別館10階1028会議室 出席委員 石井孝宜、大石佳能子、神谷高保、川合弘毅、川原邦彦、小山秀夫、田中      滋、谷川和生、津久江一郎、豊田 堯、西澤寛俊、西島英利、長谷川友紀      、南 砂                             (五十音順、敬称略) 議事内容 ○座長(田中)  それでは、時間になりましたので、ただいまから第2回「これからの医業経営の在り 方に関する検討会」を開催いたします。委員の皆様方におかれましては、ご多忙中のと ころ、当検討会にご出席いただきどうもありがとうございました。前回ご欠席の2名の 方が出席されておりますので、ご紹介させていただきます。まず(株)東芝人事勤労部 長の谷川委員でいらっしゃいます。続きまして、東邦大学医学部助教授の長谷川委員で いらっしゃいます。両委員ともよろしくお願い申し上げます。  それでは、議事に入りたいと思います。本日は、事前のご案内にもありましたように 、アメリカ、イギリス両国における医業経営について専門の有識者の方からお話を伺い ます。2人の先生方にお出でいただいておりますのでご紹介申し上げます。まず私のす ぐ右側が学習院大学経済学部の遠藤教授でいらっしゃいます。そのお隣が三井物産戦略 研究所プロジェクト・エンジニアリング室の美原室長でいらっしゃいます。  それでは、早速ですが、私たちに勉強させていただくということで、まず遠藤教授に 「アメリカの先行研究に見る医療における営利法人のパフォーマンス」についてお話し いただきます。 ○遠藤教授  私は、専攻が医療経済でして、要するに病院の経営の研究を専門としておりませんの で、アメリカの医療機関の先端的な経営をご紹介するというようなことはできません。 その分野についてはまた別の方からヒアリングされるほうがよろしいかと思います。私 が今日お話し申し上げる内容は、アメリカで、営利病院と非営利病院についてどういう パフォーマンスの違いがあるのか、ということが70年代の後半からかなり積極的に行わ れました。それに関連して、そこからどういうような結果が読み取れるのかということ を中心にお話をさせていただきたいと思います。  そもそもこれは営利組織、非営利組織というそのものとの比較であって、特に病院に 限定しなくてもいい議論ではあるのですけれども、特に経済学の分野では、非営利組織 ということについていくつかの評価があります。非営利組織の存在意義といってもいい のかもしれませんけれども、それについて2つの見方があると私は理解しておりまして 、これは一般の人たちの評価とオーバーラップしますので簡単にそこのところをご紹介 させていただきたいと思います。  非営利病院か営利病院かというのは、利益の配当が認められるか認められないかとい うことが大きな基準になるわけですけれども、さらにそこから先に進んで、所有者が存 在しないというところが1つの基準としてあるかと思うのですけれども、配当が制約さ れているということがなぜ医療の世界では重要なのかということについてはいろいろな 議論がされているわけで、さっと述べるにとどめたいと思うのです。これは、いわゆる 医師・患者間の情報の非対称性がある、あるいは公的に限らず医療保険制度があります から患者の自己負担が非常に少ない云々ということがあるものですから、そこに利潤動 機が介在すると経済学の言葉でいうところの機会主義という、相手をだまそうというよ うなことが働く。それをモニターするためには大変コストがかかるので、利潤動機はで きるだけ抑制しようというような目的で、非配当制約が課せられる。もちろん非配当制 約で機会主義を抑制できるかどうかは別問題として、理屈としては、これをやることに よってモニタリングのコストを下げることができて、クオリティーが保証されるのでは ないか。こういうことで非営利性というのは重要であるということを経済学などではい っているわけです。  それに対して、そうではないという考え方もまたあります。むしろこちらのほうが議 論としては先にあったように思います。少なくとも医療経済の分野では、こちらのほう の議論が先にありました。これは非営利組織に対する、あるいは非営利病院に対するあ る種の攻撃的なスタンスを取る立場です。つまり、非営利病院は非効率であるというこ とがあります。そこでの非効率であるという議論はいくつかあるわけですけれども、代 表的なものを2つあげてみます。1つは、非営利病院、あるいは非営利組織に拡大して もよろしいかもしれませんけれども、ミッションが非常に多様であるということと、そ の評価が簡単にできないということがあります。  このように、組織目的が多様である、しかも評価がきっちりできないということにな りますとある種言い訳ができるわけですから全体として非効率になるだろう。供給者の 独りよがりになる可能性がある。これは経済学でいうならば非効率であるということに なるわけでして、初期のころの病院を分析した論文などは、この視点からやっているも のも少なくありませんでした。さらには、非営利病院に対して与えられる非課税、補助 金といったような制度が、市場圧力を弱めてしまって、不採算であっても存続可能であ るということで、同じように非効率を生み出すのではないかという議論もありました。 このような非営利病院に対する否定的な意見があったことも申し上げておきます。  結局のところ、非営利制約は効率を上げるのか下げるのかを見るためには、実証に委 ねなければいけないわけです。実は、アメリカは、70年代から80年代の半ばぐらいまで に大変精力的に営利病院と非営利病院の比較が行われました。その結果は後ほどお話し いたしますけれども、その前に、諸外国において営利病院というのがどういう形で運営 されているのかと。営利病院の実態とでもいうことでありますけれども、その辺につい て簡単にお話ししたいと思います。  基本的には、先進国の中では、北欧など一部を除きますと、ほとんどの国では、営利 病院という形態は禁止されていないということです。民間営利病院というのは存在して いるということです。ただし、ここではフランス、ドイツ、イギリスを挙げましたけれ ども、ヨーロッパにおける営利病院と、アメリカにおける営利病院は、性質をかなり異 にするものであるというところが1つのポイントではないかと思います。  まず資料の1をご覧になっていただきたいのですが、これは1997年ですから若干古い 研究報告書ですが、これは医療経済研究機構という所で私が委員長で医療機関の非営利 性について研究をしたものの中から一部抜粋したものです。どこの国も医療改革が激し いので、この制度は多少変わっているものもあります。ですから、そのような付帯条件 付きでお読みいただければと思うのですけれども、フランス、ドイツ、イギリス、アメ リカの制度について簡単にまとめたものです。これ以外のこともやっているのですが、 その一部分だけを取り上げました。  これは簡単に言葉でまとめてありますけれども、次の頁以降は表でまとめてあります 。この表は、4つの国に分けまして、国公立病院、民間非営利病院、それから営利病院 の一般病床に占めるそれぞれの所有形態別の病床の割合を示しています。それから「位 置づけを規定する独自制度」というのは何をいっているかといいますと、いってみれば 、ある種の規制でして、例えばフランスですと公的病院活動といったものがある。ある いは、ドイツですと病院計画といったようなものがある。つまり、これらの規制が営利 病院と非営利病院に対して同じに課せられていないか、差がなく課せられているかとい うところを見たいためにこのように示したものです。もう一つは、イギリスの場合、税 ですから医療保険といえないかもしれませんけれども、いわゆる公的な医療保障の適用 になるかならないか、なる場合でも何か制約があるのかないのかというところで分けて おります。それから、営利、非営利によって補助金、とりわけ建設費のための補助金が 交付の対象になるかならないか。それから、税制上の問題です。これはもう少し細かく 見るとよく分からない点もあるので、この表ははややえいやっとやっているところもあ りまして、もし不完全なところがあればご指摘いただければと思います。また最初の頁 に戻らせていただきたいのですが、フランス、ドイツ、イギリス、つまりヨーロッパ系 の営利病院というのは、一言でいうならば、一部の例外を除きますと、いわゆる中小病 院です。日本の医療法人に非常に近い性格を持っているわけです。文章が短いのでその まま読ませていただきますと、例えばフランスでありますと「有限会社、合資会社によ り設立され、外科や産婦人科の診療に特化した小規模病院が代表的である。株式会社立 の大規模病院もあるが、例外的に少数存在するのみである。ほぼ全ての営利病院が、疾 病金庫との契約により、公的医療保険の適用を受けている。ただ、例外的には、疾病金 庫との契約を結ばず、高額な自由診療サービスを提供する病院が少数であるけれども、 存在する。営利病院は、公立病院及びこれに準ずる民間非営利病院と異なり、建設費に 対する公的補助金の交付を原則として受けられないというような形である」。  実は、フランスは、病床に占める営利病院の比率は、先ほどの資料で見ますと21.7% で、アメリカは12、3%ですからアメリカよりもこの比率は高いということです。ドイ ツですけれども、ドイツは、この時点では「営利病院の病床数が全病床に占める割合は4 .3%で、有限会社、合資会社により設立され、大型医療機器等を持たずに、一般手術、 理学療法、リウマチ等のプライマリ医療に特化した小規模病院が代表的である。株式会 社立の大規模病院も少数はある。営利病院の72%が病院計画に組み込まれて、疾病金庫 はこれらの病院に対する契約義務を負う。残り28%の病院に対しては、疾病金庫が契約 義務を負わないため、病院が自ら疾病金庫との契約を行い、公的医療保険の適用を受け ている。例外的には、疾病金庫との契約を結ばずに、美容整形、伝統医学等の自由診療 サービスを提供する病院が少数存在する。病院計画に組み込まれた営利病院は、公立病 院、民間非営利病院と同様に建設費に対する公的補助金の交付を得られる」ということ です。  つまり、フランス、ドイツについては、原則としては、公的な医療保険の対象内に入 っているということです。それぞれに病院計画と公的病院活動というある種の規制に参 加する自由度があったりできなかったりという、その辺の差は多少ある。それから、建 設費の補助金の対象には原則なっていない。こういうような形で、営利と非営利との間 の差別化が多少出来ている。  イギリスについては「NHS以外の病床は、NHS病院およびNHSトラスト病院の2 4分の1と少数である。民間保険会社、財団等の非営利団体により設立された病院チェ ーン傘下で、緊急でない手術、短期入院等に特化した医療サービスを提供する小規模病 院が代表的である。株式会社立の大規模病院も少数ではあるけれども、みられる。民間 病院もNHS病院およびNHS信託病院と同様に保健当局、あるいはGPファンドホル ダーとの契約を行いうるが、実際に契約をしているケースはまれである。従って、大部 分の民間病院は民間医療保険との契約により医療サービスを供給している。民間病院の 建設費に対する公的補助金制度は存在しない」。  つまり、イギリスは、もともとはNHSのシステムの外側にあったわけですから完全 な自由診療としてあった。しかも民間非営利病院というような意味合いが非常に弱かっ たものですから、民間病院が法人格を取得するためには、営利形態で運営されていた。 もともとはNHSの枠外にあったわけですけれども、何回かのNHS改革の中で、条件 の整っている営利病院もNHSの病院としての契約ができるようになった。ただし、多 くはまだ民間医療保険との契約であるということで、この点が、ドイツ、フランスと違 いまして、公的な医療保険の枠外にある。ただし、例外的には枠の中に入ることもでき るのですけれども、基本的には枠外にある。こういうような形態で民間営利病院が存在 しているということになります。  したがって、フランス、ドイツ、イギリスというのは、例外的に大規模な株式会社立 病院も存在しますけれども、その多くは、いってみれば、民間非営利病院としての資格 を得ることができないような規模、あるいは内容の病院が営利形態で運営されていると 考えるのが素直な考え方なのではなかろうか。つまり、株式会社のメリットがどうのこ うのとか、そういうような論理で議論できる話ではないだろうと思っております。  ただし、特徴的なのがアメリカでして「民間営利病院の大部分は株式会社により運営 されている。特に近年では大規模病院チェーンの再編・合併が進んでいて、公的医療保 険というのはメディケア・メディケイドのことですけれども、それについて、営利病院 は他の全ての病院と同様の制度的扱いを受ける」ということでして、それ以外にも差別 的な制度というものは特にありません。どちらかというと、医療保険も全く共通に適用 されて、営利と非営利とを、税制とか補助金の問題は別としまして、ある種規制で分け るというようなことは特にしていないというのがアメリカの形態であります。もちろん アメリカの中でも小規模な営利病院というのはあるわけですけれども、特に急速に成長 しているのは、大規模な株式会社立の病院であるということになるわけです。  したがって、もし株式会社病院の株式会社としてのメリットと医療との絡み云々とい う議論で話をするときに、ヨーロッパで行われているものというのは、このような実態 でありますし、過去の歴史的形態からいっても株式会社のメリットをあえていえて云々 というところから発生しているものでは全くないと考えております。むしろその議論を するのであるならば、アメリカのインベスタ・オウンド・ホスピタルといわれるものが 、株式を上場して大規模なチェーン展開をしている病院ですので、それが果たして医療 のパフォーマンスが非営利病院と比較してどうなのか、というところの議論をすること によって株式会社病院の優越性があるのやなしやという議論はすべきだと思うわけです 。  実は、アメリカでもそういうような意識から70年代以降、多くの研究がされました。 私自身は、その中から代表的なものを個別にかなり読みまして、それについていくつか の論文にまとめております。ただ、本日は時間の関係があるものですから、もし時間が あればいくつか抜粋させていただきたいと思いますけれども、資料で申し上げますと、 資料の2辺りに、これは一部だけですけれども、サーベイしてまとめてあります。ほか にもこの倍ぐらいの量を一応読んで、報告書そのものには全部細かく書いているわけで す。  実は、私が読んだものというよりも、アメリカのあるジャーナルで、営利病院と非営 利病院のパフォーマンスの比較をしたものをサーベイして、それをまとめたものがあり ます。資料の3の表の4がそれです。これは何かといいますと、1つ目は、『The New E ngland Jounal of Medicine』のもので、86年に行われた医学協会というのですか、I OMという所が、営利と非営利のパフォーマンスの比較を行いました。それについてま とめたものです。もう一つは、87年に、『Jounal of Health Politics,Policy and Low 』という医療経済の論文が多く載っているジャーナルにまとめられたヘルスケアにおけ る営利と非営利のパフォーマンスについて書かれたサーベイです。この一部を抜粋した ものです。  これは86年からと87年ですから若干古いわけですが、大きな流れは大体読み取れるだ ろうと思います。ここに出てくる個別のペーパーについても読んでみましたけれども、 この論文はバイアスがかかった書き方はしていないと判断しております。  まず86年の『The New England Jounal of Medicine』のものですが、アメリカでも営 利病院というのは昔からあったわけですが、70年代以降、シェアがある程度拡大してま いります。そういう中で日本と同じようなことが議論されたわけです。中程をご覧にな っていただきたいと思いますけれども「営利病院の是非をめぐっては、医療を促進する 組織としてや、患者や地域のニーズに対して医科学を適用するという、医療機関本来の 目的とは本質的に相いれないものであるという考え方が強く反発を引き起こしている。 医療機関に当然求められる行動目的は、営利病院が行っていると考えられている利潤最 大化の行動とは異なるものである。しかし、対立する見解として、営利活動を行うゆえ に、非営利的組織に働かない市場メカニズムが機能するのではないかというものもある 」と、まさに10年遅れで日本で起きているような議論がここでされたわけです。  そこで、ここでは、先行研究のさまざまなサーベイと、それから独自の調査を組み合 わせて分析結果が書かれています。まずどういうことが議論されたかといいますと、こ れは私のレジメに戻っていただいたほうがまとめられておりますが、1つは、効率性の 問題です。つまり、企業はコスト管理が非常に行き届いているはずであるから、営利病 院のほうが営利企業のノウハウが使えてコストが安いのではないかということでした。 もう1つが、企業は患者のニーズに対応するので、質も良いのかもしれないということ であります。一方、営利病院のほうが良いとこ取りが起きている可能性はあるかもしれ ない。というような、質の問題とコストの問題とクリームスキミングの問題の3つの問 題が視点として分析が行われたわけです。実は、60年代にナーシングホームでかなり大 きな社会問題が起きまして、クオリティーの低いサービスが行われたということで社会 問題になりました。その中に営利形態の組織のものに問題が多かったということもあり まして、営利病院の拡大に対して同じようなことが起きるのではないかという社会的な 関心が集まったり、医療経済学者の興味も大変注がれたということがあります。  ただ、実際は、70年代から80年代の半ばぐらいまでこの種の研究が行われまして、85 年ぐらいで結論が大体出てしまうのです。したがって、それ以降のこの調査は急速に減 ります。そこからの医療経済学の関心というのは何かというと、80年代の半ばに病院に 導入されました包括払いの前後で医療のパフォーマンスがどう変化したかということに 関心が移ります。90年代に入ってきますと、いわゆる民間保険のマネジドケアというも のが非常に普及いたしまして、マネジドケア型の保険と昔から行われている出来高払い の保険とではどういうクオリティーの違いがあるかということに関心が移っていくもの ですから、所有形態別の議論というものの関心がだんだん薄れてきましたけれども、そ れでも今でもいくつか研究論文は出ております。また、去年は、こういう本が出版され 、関心はまだあるということになります。  どういう結論になったのかということですけれども、先程の表の4ですけれども、結 論から申し上げますと、営利病院は非営利病院よりもコストが安いということはなかっ た。これはかなり代表性のある話だと思います。例えば、医療コストというのは、『The New England Jounal of Medicine』のペーパーで見てみますと、病院に関する研究は 多数行われているが、営利病院は非営利病院よりもコストがかからないということや、 より効率的であるということを支持する結果は得られていない。ほとんどの研究で患者 当たりのコストの差はほぼ無視できるものの、営利病院の1日当たり患者診療コストは 、非営利病院のそれよりも3%から10%高いという結果が得られている。費用ベースの 支払い、これは包括払いが行われる前ですけれども、それで調べると、非営利病院より も営利病院のほうが8%から15%ほど高いというようなことがいえているわけです。  また、同じようなことが次の頁の『Jounal of Health Politics,Policy and Low』の8 7年の論文の中でも、ヘルスケアの費用ということで下から5行目ぐらいですけれども 「病院産業では営利病院と非営利病院との差はほとんど見られず、1日当たりの費用で は、営利病院のほうが一般的に高いという結果が示された」ということで、費用は私が 個別に読んだものを平均してみますと、営利病院のほうが高いか、あるいは有意な差が ないというようなことになっているということがほぼ明らかになっています。  しかし、ここには特に明言されておりませんけれども、利益率は、営利病院のほうが 非営利病院よりも高いという報告が非常に多いわけです。それはなぜかというと、1つ の解釈としては、良いとこどりが行われているのではなかろうかということです。ここ での良いとこどりの方法として考えられる方法は、まず1つは立地でありまして、アメ リカは支払能力に格差がありますから、支払いのいい人たちのところで立地がされてい る可能性がある。もう一つは、アメリカも日本と同様に、不採算な医療と採算性の高い 医療とが混在しておりますので、そこを選別して提供するというようなことが起きてい るかどうかということを見ています。それから、患者の支払能力に格差がある国ですか ら、支払能力の乏しい患者を選択的に排除している可能性はあるのかないのかというこ とです。ここでいう支払能力の乏しいというのは、無保険者であるとか、あるいはメデ ィケイドの患者です。  この手の研究は、はっきり申し上げて山のようにあります。先ほどの『The New Engla nd Jounal of Medicine』を見ていただきますと、医療へのアクセスというのが表の4 にあります。例えば調査によれば、支払い不能な患者の診療や不採算医療による損失は 、82年の全病院で患者の総収入のうち約4.5%を占めたと。81年からOffice for Civil R ightsの調べでは、営利病院よりも非営利病院のほうが保障されない人々への医療サー ビスの水準が高いという結果を得た。一方、American Hospital Associationの調査で は、カリフォルニア州において営利病院、非営利病院にほとんど差が認められなかった という結果を出した」。したがって、あまり差がないという結果もあるわけですが「Ins titute of Medicineが行った調査では、営利病院が30%以上を占めるデータを用いてフ ロリダ、テネシー、テキサス州とヴァージニア州について調べている。その結果、営利 病院での不採算医療は、患者からの収入の3.4から3.8%を占めるのに対して、非営利病 院では5.5から9.0%を占めている。この違いは、病院側の意思というよりも、その他立 地等々の問題であるけれども、結果としてそういうことになっている」というようなこ とが指摘されております。  同じようなことがサーベイのペーパーの27頁の所有形態と医療へのアクセスというと ころで書かれております。「医療の提供者が、収益性の少ない患者を3つの手段によっ て避けることができる。1つは、病院施設を所得の低い地域に立地しないこと。2つめ は、保障のない患者や保障の程度の低い患者が利用する可能性が高いサービスの提供を 行わないこと。3つめは、医療の支払いが不可能な人をサービスの提供時にスクリーニ ングするというものだ」ということであって、これらについてその結果が下のほうに書 いてあります。この結果は、時間の関係で簡潔に話させていただきますと、営利病院の ほうがこういうことが有意に行われているということがここに書かれております。  ということでまた個別のペーパーに戻っていろいろと見てみても、もちろんものによ っては有意な差がないというものもありますけれども、多くはこのようなクリームスキ ミングが行われているということを支持しております。ただし、医療の質についてはど うかということですけれども、医療の質については、何をもって質のメジャーにするか という問題でもありまして、これについては結論が出ていないと思われます。実際に営 利のほうが質が悪いといわれるような調査もありますけれども、それはちょっと代表性 がないようなデータであったりとかで一般化は難しいでしょう。  この種の研究は、現在でも五月雨的に行われておりまして、例えば資料の4と資料の 5は、最近の研究を1つですけれども、これは『The New England Jounal of Medicine 』の99年版ですから比較的新しいわけです。これは、営利病院しかないような場所と非 営利病院しかないような場所で、患者1人当たりのメディケアの支出額を経年的に調べ たものです。これは単純に比較をするのではなくて、具体的には、資料の5が『The New England Jounal of Medicine』のアブストラクトを抜いてきたものですが、患者の属 性とか地域の属性、病院属性でちゃんと調整をかけまして統計的に処理をしたうえでの 調査結果ですけれども、これを見れば一目瞭然でして、メディケアの支出額は、営利病 院しかない地域と非営利病院のある地域では、営利病院しかない所のほうが高いという 傾向がずっと見られるわけです。これはコストが高いと見るのか収入が高いと見るのか はともかくとしまして、公的な財源が営利病院のほうで多く消費されているということ がいえるということです。  アメリカは、営利病院の比率は10数パーセントという話ですけれども、97年では13.5 %にまで増えているのですが、80年ぐらいには9%でしたから80年から97年の約20年の 間に9%から13.5%まで増えたということです。しかし、これをどう見るかだと思いま す。私は、そんなに増えていないな、と思っております。最近はかなり増えてはいるの ですが、なぜ増えているかといいますと、マネジドケアに対して交渉力を確保するとい う意味合いで、大きなホスピタル・チェーンの傘下に入ったほうが優位な立場を取れる ということで、非営利病院が営利病院に転換するようなケースも増えております。しか し、約20年の間に9%から13.5%までしか増えていない。逆にインベスタ・オウンド・ ホスピタルのマーケットの中で最大の現象として何が起きているかというと、急速な合 併です。株式交換という方式をとって急速に集中化が行われております。非営利病院の 市場の集中化とは比較にならないような集中化が起きているというのが1つの特徴です 。  いずれにしても、このようにアメリカを見る限りにおいては、パフォーマンス比較を すると、安くて良い医療が、株式会社は市場のメカニズムが働いてできるのだというよ うなことは直ちには信用できないだろう、というのが私の1つの結論です。欧州につい ては、先ほど申し上げましたように、確かに形態は営利企業だということではあります けれども、これは先ほど申し上げましたように、株式会社はメリット云々というような 議論とは全く関係ないものですし、比較調査すらほとんどないというのが実態だと思わ れます。  このようなアメリカの実態であるとか、あるいは欧州の実態を見まして、最近、我が 国でも医療改革の中で営利病院参入云々という議論が出ているわけですけれども、医療 改革を行っている国は多くの国があるわけですけれども、政策メニューとして営利病院 を振興させようということを意図した国というのは、私は知りません。もともとこのよ うな理由で営利病院というのは存在していましたけれども、医療費の適正化のためであ るとか、医療のアクセスの公平のために営利病院を積極的に振興しようとした国はない と思います。強いていえば、イギリスが、かつてNHSの完全な枠外にあった営利病院 をNHSのファンドで少し使うことができるようにするということが行われましたけれ ども、それが類するものかな、と思います。しかし、あれはなにも営利病院が前面に出 た議論ではなくて、いままで完全に公的にやっていたものをある程度独立採算にして、 NHS内部の大きな改革の中の付属品みたいな形で出てきた話でありますから、そこに 営利病院云々という議論を入れるのはやや無理があるかな、と思っております。という ことで、医療改革の中であたかも有効な処方箋のごとくにいわれることについては、正 直いって、どういうことなのだろうか、という気持がしております。それから、アメリ カのような実態も尊重すべきではないだろうかと。ほかの国のことだからといって果た して無視できるのか、ということがあると思います。  もう一つは、営利病院のメリットということが随分議論されているわけですけれども 、私が知るところでは、本当に営利病院のメリットというのは何なのかという具体的な ことがあまり聞こえてこないような気がいたします。医療従事者が営利組織に雇用され た場合とそうでない場合では、どうして営利組織に雇用されたときのほうがパフォーマ ンスの高い医療が行われるのか。それはマネージメントの違いなのか何なのかよく分か りません。たとえマネージメントの問題であったとしても、それは果たして非営利形態 ではできないことなのかどうかという議 論があると思います。  たとえば、チェーン・オペレーションということは実際に非営利形態でも行われてい るわけですので、これが営利形態でなければならない理由は何なのか。かつては、営利 企業はディスクロージャーが非常に優れているという議論がありましたけれども、あれ もある意味で妙な話であって、ディスクロージャーをきっちりされているのは、上場し ている企業でありますから上場していない限りは、それがほとんどないだろうと。しか も出てくるのは、ほとんどが財務情報なわけです。普通の患者さんは、財務情報は別に 欲しいと思わないわけです。医療機関の情報が欲しいというのは、医療のクオリティー とか専門性とかいう情報ですから、それがなぜ株式会社になると情報が開示されるのか というのがよく分からないというのが実態でもあります。  そうなってくると、最終的には、営利組織は、資本調達が株式市場から調達できるが 、非営利組織はできない。そこのところと、あとは利益の配当ができるかどうかという ところに限定されるのかな、と思うわけです。ただ、そうなってきますと、株式市場か ら資本調達ができるということは上場基準を満たしているということになるわけですが 、果たして現行の非営利病院がその基準をどのぐらい満たすことができるのかというこ とがあると思いますし、一方で大企業が子会社として参入してくる場合には、本体の事 業の信用力や収益力を背景として高い株価で資本調達ができるわけですから、仮に非営 利病院が連合して上場基準を満たす病院をつくった場合と比較しても、これは明らかに 資本調達上の不平等というのが存在するわけです。制度上の不平等を容認するというこ とであると、これは営利病院のほうが社会的に望ましいのだという理由がない限りは、 あえて不平等を認める合理性がどこにあるのだろうかと思うわけです。  しかし、そうはいっても、営利病院参入問題というのは、医療法人の税制のあり方で あるとか、資本調達を含めた病院のマネージメントのあり方を再考させるうえでは大変 有益なことになっている。まさに、このような研究会が開かれていることは、非常に有 益であったと思います。しかし、それ以上のものではないというのが私の感想です。 ○座長  どうもありがとうございました。この分野をいちばんよくフォローしていらっしゃる 遠藤先生だけあって、短い時間でエビデンスに基づいて営利・非営利問題を包括的に話 していただきました。質問はたくさんあると思いますが、予定では、講演を2つお伺い してからまとめて質疑に入ることになっております。続きまして美原室長のほうから「 イギリスのPFI事業について」お話しいただきます。 ○美原室長  お手元に資料を用意しましたので、これに基づき、英国の最近の動向として、97年以 降、民間資金等を活用した公的医療施設の整備のあり方としてのPFI手法が注目され ているわけですが、これを焦点として英国の最近の公的医療機関の整備のあり方に関し 簡略にご報告申し上げようと思います。  英国では、1948年から、医療はナショナル・サービスという形で提供されています。 これは日本の制度とは全く違うわけですが、医療の末端の経営ユニットとしてのNHS 信託病院というのがありますが、この整備のあり方、政策、大きな方向、そのメカニズ ムといったものは、日本でも類似的に検討できるのではないかということが日本でも話 されているわけです。それをイメージしながら、英国の実態はどうなのか、ということ をご報告したいと思います。  レジメの1頁目をご覧いただきます。まず英国の病院制度ですが、1948年以降、政権 が変わるたびごとにNHS改革というものがいわれているわけでして、それぞれの国の 制度というのはそれぞれの様々な問題があります。特に英国においては、旧態依然の施 設というのが非常に多い。例えば、19世紀に出来た施設をそのまま使っているとか、第 2次世界大戦後のバラックを病棟に使っているというケースもありますし、診療行為と 手術行為が別の病院で行われるというのが実態でもあるわけです。NHS近代化のため には、施設の近代化が必要ということと、施設を近代化することによって医療サービス の質が上がるのだ、というのが現在の英国政府の考え方ですが、特に急性期総合病院と か旧態依然の病院の建替え、あるいは複数地区病院の統廃合といったものが積極的に推 進されているのが実態ともなります。  政策的には、1997年5月に、当時のブレア政権が病院建設計画というのを立てまして 、これに基づきPFI手法を用いた公立病院の整備が図られているわけです。当初予算 はわずか22億ポンドだったのですが、最近保健省が提示したデータによると31億ポン ドにふくらんでいます。現在に到るまで、PFI手法により整備され開業中の病院が4 病院あります。建設中の病院が17病院で、合計21病院が開業ないしは建設中です。保健 省が認定した今後進行しうる案件というのはさらに多くて、すでに43病院となっており ます。これら病院は、400床から500床の中規模、大規模の総合病院、特に急性期を主体 にした病院が対象になっています。  英国におけるPFIという一般概念は、実は、病院に関わるセグメントごとの個別の 非診療サービスをも民営化する、あるいは民間委託するという考えをも内包しているわ けですが、PFIが施行されましてから2001年6月まで保健省案件のみで181件のさま ざまなPFI案件が実現しています。ですけれども、いわゆる病院PFIという総合病 院の施設化はその規模・内容と供に最もインパクトのあるPFI案件となり、現在、実 行されている案件が21病院もあるということが1つの大きな特徴になるのではないかと 思います。政策的には、英国政府は非常に面白いことをやっていまして、ファースト・ ウェーブ、セカンド・ウェーブ、サード・ウェーブという形で、一定の期間に集中的に 病院整備をなすという考え方をとっています。これは新しい仕組みであるために、病院 関係者や民間事業者にどういう規範があるべきかということを集中的に実際にやりなが ら、その政策的あり方をまとめているわけです。ファースト・ウェーブから実践を積み 重ねて、ガイドラインを設定して、契約のあり方とかファイナンスの規範はどうあるべ きかといったことを政策的にまとめてきたというのが、英国政府の政策の実践上の1つ の大きなポイントではないかと思います。PFI手法は、NHS改革の中において、現 在では、非常に大きな病院全体の近代化・合理化戦略の1つであるということがいえる と思います。  そもそも何のためにPFIをやるのかということですが、その目的は、あくまでも国 民医療費をどう削減しつつ整備を図るかという方向から来ているわけです。医療はナシ ョナル・サービスですので、日本の国立病院と同じように、あくまでも一般会計から国 民保健費支出というものが支出される。ですけれども、国民医療費をどう削減して効率 化していくのか。そのためにValue for Moneyという考え方を示して、いわゆる納税者 に対する効率的な税金の使用という形で説明責任を果たす。公共がやるよりも民間が安 いときにおいてのみはじめてPFI手法が適用されるという考えになると思います。こ れを効果的にするため民間事業者の範囲を大きくとり、単純な施設整備案件ではなく民 間事業者に設計、建設、資金調達、ならびに医療支援サービスも含めてやらせるという 形で、医療行為そのものは、あくまでも公的セクターの専権になりますが、非診療部門 を民間に一括して委ねる。それに整備を組み重ねる。これがPFIの手法になるかと思 います。この手法により公的セクターから民間セクターに効率的なリスク移転をすると ともに、同時に市場から効率的に資金を調達する。また、新しい整備によって医療サー ビスの質そのものを向上させようと。これがPFIの基本的な考え方になると思います 。  昨年度、英国政府保健省は、国民保健サービス計画というものを発表しておりますが 、さらなる病院改築は英国のNHS改革にとっては必要だろうということとともに、P FI手法を積極的かつ重要な政策手段として活用し推進することをいっています。現実 に1996年以降、英国政府の病院建設プログラムが始まりましてから、新規大病院整備の8 5%はPFI化しているわけです。15%は、公共負担による一般財源からの投入により 公共がやっている。これはValue for Moneyが算定できなかった、あるいは公共がやっ たほうが安いというケースでして、件数にするとわずか4件しかない。この意味におい ては、新しい病院施設整備の展開は、基本的には、英国保健省は、PFI手法で民間資 金を導入することを1つの基本施策にしているといえます。  3頁目の下に図が描いてありますが、右側は、保健省の年次予算計画書で2001年のも のです。国民保険の総支出は年間で約480億ポンドで、大体これぐらいの規模の国民医 療費がなされているということがいえると思います。そのうちの資本支出の割合ですが 、左側の図は非常に面白い図ですが、実は、PFI投資というのは民間の投資で、あく までも名目金額で推定でしか過ぎぎません。一部政府支出もありますが、この土地売却 というのは、国有財産たる土地を売却して、その収益を整備行為やサービス購入に充当 しようという考え方です。2001年から今後の推計を取ってみますと、新規病院の投資の 大半はPFI投資ですが、引き続き割合を一定にしながら公共としての政府支出は、将 来的に整備行為においてもかなり出てくる。これは政府支出は病院整備だけではないと いう理由があるからです。  次の頁をご覧いただきますと、どういう形でこの案件が推進されているのかを説明し ています。日本の国立病院に似ておりますが、医療はあくまでもナショナル・サービス ですので、英国では、公立病院の資本投資で2,500万ポンド以上の基本的な決裁は、大 臣レベルまで上がります。整備計画のあり方と実現を下から上げていくわけです。いわ ゆる病院は、ここではNHS病院トラストという主体ですが、これがいわゆる経営ユニ ットとしての病院になると思います。地域レベルで病院、救急車、地域保健サービスの すべてを担う主体という形で、いわゆる自立した経営主体としてのエイジェンシーにな っているわけです。この構図そのものは、制度的には1990年以降出来ているわけですが 、現在、英国には429の病院トラストと、それを支える地域の保健局というものが存在 し、その上に保健省が存在する。病院整備に当たっては、個別の病院ユニットが地域の 当局と相談しながら基本事業計画書とか事業実施計画書を上げて、一定の金額以上につ いては大蔵省の認可が必要になる。ですけれども、最終的には、保健省内部において、 国家的見地から整備の必要度、優先度を国の段階で総合的に集中管理しながら病院整備 案件と一国のNHSの中における優先度を決定している。こういう構造になるのではな いかと思います。  また、面白いことに、整備計画、ならびに整備計画にかかる基本的な計画書、実施計 画、PFI契約のすべては情報公開の対象になっております。大蔵省に行けば、すべて の契約書が見れることになると思いますし、説明責任を果たすような仕組みが整理され ているというのが実態でしょう。  5頁目を見ていただきますと、PFIの実体は何なのかということですが、その基本 は、病院の機能を峻別し官民でこれを合理的に分担しあうことにあります。公的主体を 、本来の診療行為、診断行為、あるいは病院の全体管理に集中させ、全体の中で合理化 ・効率化を図ろうということでして、民間に委ねられる部分はできる限り民間部門に委 ねようということから、病院の基幹業務、基幹機能とこれを支援する機能を峻別し、Cor eとNon-Coreに分け、官民の共生を図るわけです。病院の医療サービスそのものは、国 が医療サービスを購入するという形でNHSトラスト病院から病院のサービスを買うこ とになるため、NHSトラストというのは、病院として医療サービスの供給主体という ことがいえるのではないかと思います。  真ん中の図を見ていただきますと、これをまとめてあるわけですが、施設の設計、建 設、保有、このために必要な資金調達、施設の長期維持管理、それとともに面白いこと に、病院支援サービスを一括して提供する。これが非常に大きな特色になると思います 。例えば、これを25年、30年間の長期継続契約によってなすわけですが、現在価値化さ れた価値というものは、実は、施設整備費よりもこういう医療支援サービスのほうが大 きくなるという形で、サービス要素が非常に大きいPFI案件ということがいえるので はないかと思います。  では、公的主体は何をするかというのは右のほうにありますが、あくまでも診断・診 療行為、それとともに一体としての病院の管理・運営を担うわけですから、病院の経営 行為とか管理行為そのものを民間事業者に委ねるわけではないわけです。これを実行す るための各サービスがいろいろとあるわけですが、日本と違う点は、例えば臨床検査な どは入っておりません。これはエイジェンシー等々がやるために入ってないわけです。 それと当初の案件では、ITとか情報システムは入ってなかったのですが、最近の案件 では、これを入れるようになりました。これを実行するために精緻な入札、公募、契約 体系をとるわけです。どういうことを考えるかというと、病院の期待する機能関係とか 機能的内容、あるいは病院にとっての運営の考え方を民間事業者に提示して、民間事業 者に評価させて効率的な運営のあり方を考えさせ、これを提案させるという形になると 思います。これを支えるためにサービス水準要求書というものを詳細に規定して、これ を基に民間事業者に委ねる方法を考える。また、パフォーマンスを測定する方法を考え 、それと民間事業者に対するサービス提供に対する支払い行為というものをリンクさせ る。こういう考え方をとるわけです。この意味においては、施設のあり方とか医療支援 サービスのあり方を一体化して考える。このためには、病院が何を要求しているかとい うのをお互いが正確に認知して、全体の施設設計とか施設運営、支援サービスのあり方 を考える。こういう効率的な考え方をとることになると思います。  実際の仕組みですが、次の頁をご覧いただきますと、この病院PFIが実際に進展し たのは1997年以降でして、実は、制度的にそもそもNHSトラストの法的位置付けに懸 念があり、PFIスキームを実施するための特別立法措置が必要でした。1つは、NH Sトラストがつぶれたらどうするのかと。これがつぶれて、医療を提供する主体がなく なった場合、保健大臣によりまして、他の公的医療機関に対する残存債務の継承命令を 出せるという小さな立法を制定しています。それとともに、NHSトラストは、外部者 と本当に契約行為ができるのだろうか、ということが金融機関から問題になりまして、 NHSトラストの契約締結能力を特別立法措置によって定めた。この2つの法律により まして1997年以降、爆発的に病院PFIというのが出てきたわけです。  その構図はこの図のとおりですが、非常にややこしい形になると思います。これはプ ロジェクト・ファイナンス方式を利用して、一定の公的主体とPFI事業者が、通常25 年から30年になりますが、長期継続契約をなすことによって一定の施設の整備、建設、 ならびに医療支援サービスを一括して民間PFI事業者に委ねるということとともに、 そこにさまざまな下請契約とか、あるいは出資契約、融資契約というものが全体の仕組 みの一部を構成するるわけです。  この図は単純銀行融資ですが、現在においては、単純銀行融資から私募債をプロジェ クト主体が発行することによって直接資本市場から資金を調達するというメカニズムが 出来ています。ただ、この場合には、このメカニズムだけでは非合理ですので、通常、 ラップアップ・インシュアランスといわれまして、保険機関等々が、いわゆる格付機関 にプロジェクトのリスクを評価させて、それに与信補填という形で保険機関等が与信補 完をしてプロジェクトの与信評価をトリプルAにして直接資本市場から資金を調達する というメカニズムがほとんど一般化しています。これはリスクの小口分散化の手法とい う形で、特に病院PFIは、収益構造がある程度安定しているとみられるためにこうい う資金調達の手法が現実に行われているというのが英国の実態ともなります。  次の頁は、どういう形の規律の構造になっているかということを簡単に示しているわ けですが、非常に面白いわけです。英国のPFIの特徴的なポイントは、民間事業者に 対する支払いは、病院なければ支払いなしという形でして、支払行為に常に可変性とい う性格を持たせています。それとともに支払行為の一体化ということがすべての前提に なっている。  実は、こういう形で民間事業者が入ることにより支払いの硬直化や病院にとっての負 担増は本当に大丈夫かという形なのですが、民間事業者に対して支払われる費用は、レ ベルが大体一定化しています。通常の場合、左の図にありますが、これはトップヘビー の元利金の支払方式を描いているわけですが、現実のコストを積み上げまして、それを 平準化してしまうわけです。その平準化したコストというものをエリアごとの優先度に 応じて割り当てる。例えば、手術室とか病棟とか外来とかは重要度が違ってきます。こ れがアベェイラブルになることによってはじめてPFI事業者に対して金が支払われる 。こういう構造をユニタリー・ペイメントという形で、民間事業者に一定のサービス・ パフォーマンスを明確に契約条項として要求し、それがみたされて初めて支払いが実行 される構造になると思います。  支払い規律にはその他いろいろな考え方があるわけでして、例えば左の下の図にあり ますが、これは土地資産、例えば病院統合をした場合、旧病院の土地が余ってしまいま すので、これを売却した金額をサービス価格支払いに充当しようというわけです。なお かつ一定の基準価格を第三者の評価によって設定して、それより高く売却できうれば民 間にもメリットをシェアしようというプラスのインセンティブ効果もあるわけです。た だ、大半は、これはサービス対価の前払いに充当しますので、現在価値化された価値と して考えますと非常に大きなメリットをもたらすという形になるのではないかと思いま す。ですけれども、こういう方式によりますと、いわゆる医療支援サービスの価格や内 容が硬直化しないかということがあるわけでして、この医療支援サービス部分に関して は一定期間、例えば5年間固定プラス・インデックス調整をして5年ごとに第三者によ るベンチマーキング・テストをして、プラス・マイナスを補正するということを考えて います。これは、あくまでも契約行為の内容が硬直的にならないようにし、市場実態か ら乖離しないようなさまざまな契約メカニズムをとっていることを意味しています。  また、最近出てきたのは、一旦出来たファイナンス構造をリファイナンスするという 行為がありまして、この場合には、リファイナンスのメリットを公共と民間で分けるべ きだという面白い議論が出てきています。これは契約構造、収入構造が決まっています とリファイナンスのメリットは民間にすべて行ってしまいますので、あらかじめ公共と の間で官民の利益分担を決めるべきだという行為は面白い発想になるのではないかと思 います。  では、実際の病院組織はどうなのかということですが、これも非常に面白い考え方を とりまして、非医療サービスというものを一括して民間事業者に委ねるということは、 実は、いまある病院の組織の効率化を図らなければいけないという前提があるわけです 。英国では、1981年に、EU指令に基づいた雇用保護のための雇用譲渡制度(TUPE )というのがあります。英国では、公務員の雇用は法律では担保されていません。必ず しもこの法律は、官だけではなく、民にも適用されるわけですが、企業とか組織に官民 を問わず、合併とか譲渡があった場合、被雇用者の既得権利を保護しようという国内法 が1981年にできています。  例えば、病院がいままで担ってきた支援サービスの一部を担う公共側の職員は、このT UPE制度によって被雇用者そのものが公共から民間事業者に移転する。給与待遇も一定 期間そのままの条件にして年金とともに移転するという形なのですが、一部解雇もあり ます。これは、病院の一部機能ないしは当該職務がいらなくなった場合にリダンダンシ ーという形で時間をかけて解雇していくだけです。こういう制度が現実には1981年から 施行されているわけです。これは、あくまでも病院を効率化して、本来必要のあるスタ ッフにとどめようという考え方とともに、またできる限り雇用者、被雇用者の権利を守 りながら民間事業者にできる限りの病院支援サービスを委ねようという形になると思い ます。  ですけれども、公共の職員たる支援サービス職員の移転を81年以降は、政府指導によ りできる限り強制的にやっていったわけですが、新しい考え方として2000年の7月に、V alue for Moneyのテストが満たされる限りにおいて病院側の任意裁量による選択肢とな りました。義務ではない。これを病院が抱えるか否かは、個別の病院の事情に即して考 えなさいということになるのではないかと思います。  では、病院トラストの経営状態はどうなるかという課題ですが、非常に面白いことに 、できる限り無理、無駄、ムラを排除し、効率化を図るということが英国のPFI医療 政策の根本になっています。この効率化の要素をPFI事業者が成就して収益となし、 病院全体の効率を上げることは、医療の本質とは何ら関係ないというスタンスを英国は とっています。この意味では、PFI事業者の収益目的と行動は、病院全体の目的、効 率化と矛盾しないという政策的スタンスをとっていることになると思います。  一方、病院のほうからしますと、面白いことに、いわゆる資本の機会費用として6% を国から取られています。ですけれども、これは回り巡ってまた年次交付金という形で 病院に戻ってくるわけです。これは資本のコストを常に考えることをNHS病院トラス トに強要していることになると思います。また、一定の予算の範囲内においてさまざま な制度的圧力によって病院トラストに総医療費削減というものの圧力がかかっていると いう事情は、日本と同じではないかと思います。ですけれども、PFI事業者が担う範 囲というものは限定されますので、PFI事業者そのものが病院全体の収益や費用を管 理しているわけではなく、あくまでも機能の分化によって分離された要素のみを管理す るという形になっているわけです。  9頁目にまとめてありますが、公的部門におけるPFI手法の英国における展開は一 体何なのかといいますと、政府の位置づけとしては、あくまでも公共調達にかかわる選 択肢の1つで、別にドグマでもないわけです。この背景にあるのは、公的主体としてで きる限り資産を保持しない。完璧にサービスが付与された施設の利用サービスを民間か ら購入し、その範囲・内容に関し、できる限り民間に委ねようということになると思い ます。これにより、病院の機能的一体を維持しながら新しい病院整備をなし、同時に費 用とかリスクを効率的・効果的に管理する手法として民間事業者の経営能力とか、ある いは組織力、管理力、運営力といったものを病院の中にインテグレートしてしまおうと いう考え方ではないかと思います。この結果、病院と医師・看護婦は、できる限り患者 サービスに集中し、患者へのサービスの質を上げることを医療の本質とし、それ以外の 業務は、できる限り一括的に民間事業者に委ねようということになります。また、これ を支える詳細な契約を取り決めることによって市場からの資金調達を可能にしようとす ることになるのではないかと思います。  ですけれども、当初ご報告しましたように、計画実施に関しましては、病院側の意思 のあり方をどういう形で民間事業者に伝えるのか。この実践的手法が非常に重要になっ てきます。それとともに、計画から実践に至りましても、やはり病院としての一体感を どうやって醸成するのかという形でコミュニケーションとか業務指示のあり方、お互い のコンセンサスのあり方、またこれを職員がどういう規律として押さえていくのか。こ れも英国においても非常に重要な要素ということになっています。  政府の考え方ですが、英国政府の基本的な考え方は、PFIというものは、公共調達 の一手法として明確に定着していると考えています。一定のあるべきモデルというもの を提示し、規範を提示することによって枠組みを創出して、市場にその整備を委ねると いう考え方をとっているわけです。現在の英国政府の大きな考え方は、Value for Mone y・テストが検証される限りにおいて、新規病院施設はできる限りPFI手法を用いな さいということが基本的なポイントになるのではないかと思います。今後、総合病院タ イプの施設はほとんどがPFI手法になると思いますが、現在、英国の保健省は、もっ と小規模の、特にかかりつけ医の施設等も新しいPFI手法で展開しようということを 考えるとともに、さまざまな異なった手法が出ているというのが実態ではないかと思い ます。  ちなみに、英国医師会は、PFI手法というのを基本的に支持して英国政府の施策を 支援しています。一方、英国医療労働組合は、さまざまな組合がありますが、100%賛 成しておりません。特にPFIの効果、労働者の雇用問題、あるいは本当に問題がない かにつき医療組合は疑念を呈しているということですが、政府全体の大きなNHS改革 とかNHS計画に組合そのものが反対しているわけではない。英国でもさまざまな議論 が官民の中で存在しているというのが事実ではないかと思います。 ○座長  ありがとうございました。公共主体のプロジェクト・ファイナンスについて極めて専 門的な内容を分かりやすくお話しいただきました。それでは、ただいまのお2人にお話 しいただきましたアメリカとイギリスの動向について、日本における実態を踏まえて何 かご意見、ご質問がありましたらどうぞお願いいたします。 ○神谷委員  遠藤先生のご説明を伺いまして、印象が正しいのかどうか、その点をコメントしてい ただければと思うのです。営利法人かどうかというところは配当の有無の問題だという 前提でご議論されたのだと思います。営利法人が参入するメリットはないというご主張 だということは分かるのですけれども、少なくとも有害的ではないという感じもするの です。つまり、営利組織で医業を経営するということと非営利組織で経営するというこ ととの間にあまり差はないというのが基本的なトーンだと思います。営利組織でやると いうことについて、それは害があるのだという立証はないような感じがするのですが、 いかがでしょうか。 ○遠藤教授  それはアメリカの実態をどこまで我が国とオーバーラップして考えるかによるかと思 いますけれども、費用が増えて、差別的なことが行われるということは有害ととらえる かとらえないかです。もう少し詳しく申し上げますと、つまりクリームスキミングとい う言葉でいいましたけれども、支払能力の高い所に選択的に立地をする。それと、不採 算の医療を抑制する。それから、支払能力が低い無保険者、あるいはメディケイドの患 者を入院させることに対して抑制的になる。こういうエビデンスはかなり出ているわけ です。それをどう考えるかです。 ○神谷委員  ただ、これをよく見ますと、資料3の26頁に「不採算医療の供給水準は、営利病院に おいても比較的低いという点は」というコメントがありますけれども、これが営利性・ 非営利性の違いによって生まれているということはいえないと思うのです。要するに、 立地が効いてこの差が出てきているということもありうるわけで、このことについては 、営利病院であるか非営利病院であるかということから不採算医療の供給水準が生じて いるということは立証されてないわけでしょ。 ○遠藤教授  それはこの中ではいっていませんけれども、立地条件で調整して、明らかに入院比率 に差があるというような調査もあるわけです。それはお話ししなかったのですけれども 、それからそもそもが立地によってそうなったということ自体、結果的にそういうこと ではないですか。立地の意思決定が働いているわけですから。 ○神谷委員  でも、それは非営利性が効いたということにはならないですね。 ○遠藤教授  だから、営利のほうが、支払能力の乏しい所に立地をしないという意思決定をした。 ○神谷委員  その問題を次にお聞きしたいのですけれども、クリームスキミングと言われましたけ れども、それは市場をのっぺらぼうと考えるのか否か。つまり一定の医療供給の場の中 に、例えば、コストはいまよりちょっとかかってもいいから良い医療が欲しいとか、そ ういう見えざるセグメントがあって、それに対応しているだけだという仮説はどうなの ですか。 ○遠藤教授  それは基本的に検証できないわけですけれども、資料の4の所に、例えばメディケア の支出額。これは何かというと、メディケアという公的医療保険の1人当たりの使われ た額を経年的に見ているわけですけれども、これは患者の属性であるとか、さまざまな 状況を調整しているのです。これを見てみますと、営利病院だけがある地域のほうが、 いってみれば、日本の公的医療保険の使用額が高いというようなものです。こういうこ とが起きている。 ○神谷委員  これはよく分かります。それで、その資料の1つ下の段の真ん中辺りに先生がお書き になっていますのは、営利病院が本当に患者のために安くて良い医療を提供しているの であれば、そのシェアはもっと上昇してもよいはずであると。 ○遠藤教授  これは別の議論です。 ○神谷委員  これとも多少関係すると思うのですが、少し高くても良い医療が欲しい。または、文 句をつけられる医療が欲しいという主張だってあるわけです。 ○遠藤教授  おそらくそこは、公的保険というものをどうとらえるかということだと思うのです。 高くても良い医療を受けたいという人がいて、これは実証されておりませんけれども、 営利病院は、質が高くて、しかもコストの高い医療を提供していると仮にしましょう。 営利病院はこのような患者のニーズに対応しているのだ。それはそれで1つの考え方と してあると思う。ただ、ここでは、自費ではなく公的医療保険を営利病院のほうがたく さん使っているのです。それでいいのですかと。 ○神谷委員  そこはまた別の手当ということもありうると思うのですが、そこを手当せずにオーケ ーという議論にはなかなかならないかもしれませんけれども、そこを手当したうえでと いうことであればよろしいわけですか。 ○遠藤教授  つまり、いろいろな条件を調整したときに、公的医療保険を使っているのが明らかに 営利病院のほうが多いということが確として分かるということがここであったわけです 。しかし、それは営利病院のほうが高くて、患者が満足するような医療を行っているの だからかまわないではないかと。そのためにこれだけの公的医療保険が営利病院だけた くさん消費されても、それは消費者の反応であるからそれはしようがないというお考え ですか。 ○神谷委員  いや、この差がある原因が、つまりサービスを受ける側の意思によって左右されてい るのがどれだけあるかということですね。そこは必ずしもはっきりしてないわけですね 。それは、教育水準か何なのか分かりませんが、実際は効いているわけですね。だから 、そこは簡単にいえるのかな、という部分も率直のところあるのです。つまり、費用の 支出について全部病院がコントロールしているのかということです。 ○遠藤教授  それについてはいくつか考え方がありますけれども、結論からいうと、そこを厳密に いわれれば、それは分かりません。これは供給側がそうやっているのか、需要側がそう しているのかは分からないと思います。ただ、ほかの条件を調整しても、公的医療保険 の使用の仕方がこういうふうにオーナーシップによって違いがあるという事実を、これ は問題ないと見るか、問題あると見るかと。私は、個人的には、問題あると見ているの ですけれども、そこは患者の選択の結果だから、公的保険といえどもたくさん使うのは 勝手ではないかとということでしょうか。 ○神谷委員  私は、その部分は、日本の場合は、病院経営の仕方の違いもあるわけですから、日本 の場合でもそういう差があるかどうかということもやはり見るべきだと思っているので す。 ○遠藤教授  厳密のことをいえば、最近のDRG分類等々で、本当に同じような疾病分類に入る人 たちに資源消費がオーナーシップによってどう違うのかというようなことまできっちり 調べてみる必要性はあるとは思います。 ○大石委員  私もいまのご意見と一緒で、先生のご主張の、株式会社の参入がいまの日本の医療に とって足しにはならないというのはよく分かりましたし、それはサポートされていると 思うのですけれども、特段害にはならないのではないかという気もするのです。いくつ かありまして、まずクリームスキミングの問題に関しては、確かに営利を追求するとク リームスキミングは起こりうると思います。  しかしながら、まず立地の問題に関しては、アメリカの場合は、国民皆保険になって なくて、お金持ちはお金持ち用の保険があって、お金がない人はお金がない人用の保険 があるということの中でクリームスキミングが非常に起こりやすい状況があると思うの です。ですから、日本の国民皆保険制度を維持するのであれば、ちょっと状況は違うだ ろうというのが1つ目です。  2つ目は、不採算の精神科だとか小児科だとか小児精神科というのが切り捨てられる ことがありうるだろうという問題はありうると思うのです。しかしながら、これはいま の日本の医療制度の中でも結構起こっている問題で、これは別個の問題として今後対応 しなくてはいけないと思うのです。要するに、いますでに起こっている問題が、これに よってどの程度促進されるのかというのがよく分からない。要するに、この問題はすで に日本には存在するわけです。営利的な目的で運営されていないという状況の建て前が ありながらそれが発生している。だから、これが助長されるかどうかというのはちょっ と疑問であるということです。  3つ目の話は、神谷委員のお話の中にもあったのですけれども、コストをかけるとい ったときに、患者がそれによって満足を得たかどうかという部分の相関関係が出ていな いというのが1つ問題かな、と思いまして、要はコストをかけても患者がより満足して いるかどうかというのを測るべきだと思うのです。別の言い方をすると、営利病院とそ うではない病院によって患者の満足度がどの程度差があったか。アメリカの場合という のは、患者満足度調査が結構発達していますので、取ろうと思ったら取れる方法という のはあると思うのです。これは1回検証するべきではないかと思います。  4つ目は、さっきもちょっと出たのですが、営利病院の中でアウトカムが結果として どの程度違うのかというのも1度見てみる必要があるのではないかという気がしました 。 ○座長  最初に申し上げておきますが、講演者に対する質疑だけではなく、それぞれの委員同 士の意見交換の場でもありますので、委員同士で、いまの質問について私はこう思うと 言っていただいて結構です。 ○川原委員  只今、お2人の委員が言われるたことはごもっともだと思いますし、それぞれの方々 がいろいろなご意見をお持ちであると思います。私自身20有余年ほぼ連年アメリカを 中心に欧米の病院経営について現地での調査研究をしてまいりました。先程遠藤先生に よるアメリカの医療における営利法人のパフォーマンスについてのエビデンスに基づい た具体的な形でのご発表がなされました。私にとっては従来からの調査研究結果を実証 すると同時に当委員会で検討する際の理解をより以上に深める有益な発表であったと認 識しております。 ○遠藤教授  大石委員ご指摘のとおり、アウトカムというのは、質の差の話に入ってくるのだと思 うのですけれども、それについてはいくつかやっているものがあるわけですが、これは 営利がよかったり非営利がよかったりして、結果的にどちらがいいかというのは、はっ きり分からない。それはどうも評価手法の問題であって、コストのようにはっきり分か らないからだといえます。ですから、もっと精度の高い調査をすればいいではないかと いう議論は分かるのですけれども、現状ではそのぐらいしかないということです。あと は何でしたか。 ○大石委員  クリームスキミングが起こるということが、日本のいまの状況の中ですでに起こって いるものは起こるだろうし、これが営利・非営利と関係あるかどうか分からないという 話と、それから日本の保険制度が違うから起こり得ないものというのもあるのではない かという話です。ですから、大きくまとめると2つの話があって、1つは、エビデンス はかなりあると思って、説得力はあるのですけれども、やはりアウトカムとか患者の満 足度に関するエビデンスがあるともっと説得力があるだろうという話と、それといまの 状況とどの程度変わるのかがよく分からない部分がありますという話です。 ○遠藤教授  後者の話についてはもうお話ししたかと思うのですが、実際には、質の評価というの は大変難しいですし、本来個別の医療機関に入ってやらなければできないような話をた くさんの医療機関を総合的に見てやるわけですから大変難しい。しかもアウトカム評価 というのは、満足度評価だけではありませんので、医学的な評価もありますから大変難 しいところはあるかな、ということがあってエビデンスが少ないのは仕方がないという 感じはいたします。  2つめの話というのは、結構重要な話でありまして、この種の議論としては、実は科 学的でないので、私は避けたいな、と思ってはいるのですが、要するに今だってあるで はないかという議論です。今だってある話だから営利が入っても大差ないという話です 。例えば、クリームスキミングだって今だってある。不採算医療だってやらないかもし れない。それが営利が入ってくると、その度合いがもっと強まるのではないかとこれか ら読み取れるかどうかと。とです。私は、アメリカの事例から、営利病院参入によりお そらくその度合いは強くなるのではないかと思ったわけですけれども、それは所詮アメ リカの話であるといわれれば、それまででそこのところはこのエビデンスからは何もい えない話です。 ○座長  たくさんの問題が提起されて、1個1個論争していると全部の時間を使ってしまう。 私たちの頭の中にそれぞれの論点が明確になったということで、ここで議論してどちら が勝つかという戦いの場ではありませんので。川原委員、どうぞ。 ○川原委員  美原室長からイギリスの病院PFI事業のお話を伺って、PFIの基本的なことにつ いてある程度理解を深めることができました。日本においてもPFI法が成立されたの を契機にPFI方式が注目され、かつ研究も盛んになされ、四国の某市においては実施 が決まり、且つ各地の公的施設などでの運用が検討され始められております。これらは イギリスと同様に自治体立病院におけるキャピテーションコストの調達手段としてPF I方式に委ねるということで行われているわけですが、このPFI方式が私的病院のキ ャピテーションコストの多様化の一手段として運用できうるのかどうか。仮に私的病院 に対して運用できうる可能性がいくらかでもあるとすれば、法改正も含め、その方策と して具体的にどのようなことが考えられるのかご教授いただければありがたいと思いま す。 ○美原室長  なかなか難しいご指摘ではないかと思いますが、いま日本におきましては、小渕政権 のころ出来ましたPFI法というのがありまして、この法律に基づいて公共施設等の管 理者等、すなわち国、地方公共団体その他の公共法人に、こういう手法を使って整備し てもよろしいという1つの法的な枠組みが出来ました。この法律が施行されたのは1年 半前でして、法の施行の枠組みが固まったのは去年の3月からでして、まだ日本では新 しい仕組みになると思います。また、考えとしては公共施設の整備であって、公的主体 のみがその対象ともなります。もちろん、この考え・手法を民・民間で私的病院に適用 することは考えとしては成立しえます。  一方考慮すべきは、日本と英国では制度が全く異なりますし、法体系も異なりますの で、同じスキームがそのまま日本に当てはまるとは考えてません。ですけれども、日本 は日本なりの制度に立脚したさまざまな考え方ができるのではないかと思います。医療 関係においては、マーケットでは、2件が来年具体化いたします。これは高知と近江八 幡市で、すでにマーケットに出ようとしているわけですが、潜在的に新規医療施設にP FI手法を適用したいと考えている自治体の方が数十おられます。これでもかなりの規 模になるという形になりますが、ポイントは、現在の医療制度、特に自治体立病院が主 体になると思いますが、これはいわゆる地方公営企業という形になりますので、一般会 計からの補填等々の問題で、やはり財政的事由が非常に大きなポイントになっていると ともに、どうしても中核医療施設、特に2次医療圏では、医療設備をやることが必要な 地域もあるわけです。こういった地域においては、施設そのものを近代化する、あるい は医療サービスの質を向上するための1つの手法として1つの選択肢となるわけですが 、もちろんこれがすべてではありません。現状のままの公共投資でやるほうがいいとい う判断をされる自治体もおられれば、あるいは管理者等によっては、新しい手法を使っ てみようというのがいま現在の動向ではないかと思います。  ただ、私も国の推進委員会の一員ですが、法律が出来まして、基本方針と呼ばれる法 律の枠組みを固める実質的な施行令を定めて、なおかつ国の共通的な規範としてガイド ラインを制定しています。ただ、このガイドラインは、あくまでも一般的なものでして 、実際に医療分野にこれをどう適用するかというのは今後の課題になると思います。個 別の事業分野においては、さまざまな特殊な事情がある。例えば、PFI法は医療法と か、いわゆる医療関係の法律を凌駕する法律ではありません。PFI法というのは何で もできる法律ではありませんで、既存の法体系の枠の中において、いわゆる公共施設と いうものをどうやって整備するのかという考え方がありますし、必ずしも先生の言われ ているように整備だけではなくて、それにかかわりうる維持、管理、補修、あるいは支 援サービスをもスコープにするというところが非常に新しい特徴点ではないかと思いま す。ご指摘の点は、これからの課題であるとともに、かなりの判断事項が現場の管理者 等に委ねられますので、病院管理者等の方々がどういう形でこれを設計されるのか、そ のとき国の規範がどうあるべきかというのは、今後の議論になるのではないかと思って います。 ○川原委員  よく分かりました。あえてこのような質問をさせていただきましたのは、この検討会 で私的病院における今後の資金調達手段の多様化を検討することになっております。私 的病院の大半は設備の老朽化、新制度への対応のために巨額な資金調達を迫られており ます。PFI方式の私的病院への運用が将来的に難しいということであれば、何かそれ に変わる手段はないのか伺いたいと思いますがいかがでしょうか。 ○美原室長  いまの法体系そのものは、あくまでも公共施設ということに限定していますので、も ちろん先生の言われるように、さまざまな可能性はあるわけでして、例えばPFI的な 手法を私的病院に用いた、似たような考え方もあるわけです。例えば、クリニック・モ ールというのがあります。最近、一部の不動産業者等々がやっていますが、市中の個別 の診療所とかクリニックを総合する形で医療サービスそのものをまとめて提供しようと いう考えがある。これも医療行為と医療支援サービスを明確に分けるわけですね。これ はPFIに近い。ですけれども、あくまでもPFIというのは、公共施設等をどうやっ て効率化するかという考えから出ておりますので、確かに同じような手法をさまざまな 主体にも適用できるのではないかというのは1つのお考えですし、政策の1つの方向性 でもあるのではないかと思いますが、今後の議論が必要だと思います。 ○谷川委員  非常に単純化して考えますと、新しい施設をつくると。新しい経営手法を入れるとい うことはいいのですが、患者の数が変わらないと、減価償却費が増えて、その分の費用 負担はどうなるのだろうと懸念されます。PFIの中では、その辺の問題というのはど う解決されているのでしょうか。 ○美原室長  地方公営企業である公立病院の場合には、公共投資であっても、PFI投資であって も減価償却というのは必ず必要になってくるということになりますし、当然のことなが ら政策医療をしていますと赤字体質になりやすいわけです。いまのところは、もし公共 でやった場合、コストを積み上げて、どのくらいのコストになりますかということを推 定し評価することを、パブリック・セクター・コンパレーターといっています。PFI に基づく積算値は現在価値化した値でそれより低くなければいけない。もちろん割引率 の問題だとかさまざまな課題はありますが、あくまでも公共がやるよりも全体のライフ サイクル・コストを現在価値化した指標でもって安くなければいけないというのが1つ の大きな前提になると思います。それとともに、どういう形で病院をうまく経営してい くのかというのは、当然施設整備をやりますと償却負担が大きくなってくる。病院の経 営に対する費用負担そのものが大きくなってくるわけですが、おそらくこれは病院の整 備を担う管理者等が全体の中でどうやって効率化していくのか。いまの病院がどうある べきかというさまざまな判断があって、その効率性と民間事業者の効率性がマッチして 最大の効率化が出てくるという形になると思います。確かにそれなりの整備負担という 形で公共にとっての支払いは継続するわけですが、たとえ一般会計からの繰出し金があ りましても、100あるのだったらそれを50にしよう。100あるのだったら70にしよう。少 しでも財政負担を軽減しながら、最終的には、医療の質の向上を目指して新しい設備を することによって患者のサービスが向上されるのではないかという考え方に立っていま す。 ○座長  ほかにいかがでしょうか。委員同士の意見交換でも結構です。 ○石井委員  簡単な事実確認といいますか、教えていただきたい点が2点あります。アメリカの株 式会社の病院は、配当制限があるのかどうかというような辺り、それから配当制限があ ったとしても、留保された利益ないしは資金を病院事業以外の他への転用というのを制 約しているのかしてないかという辺りの問題と、経営者要件が医師であることは必要な いという記載がありましたが、逆に医療機関の経営者であるからには、こういう要件が 必要だというような何か制約があるかどうかということだけ教えていただきたいのです 。 ○遠藤教授  株式市場で上場していますので、個別の配当制約があるかどうかというのは、正確な ことは申し上げられませんが、基本的には、配当はしているはずです。ただ、それにな にがしかの制約を追加的に課している可能性があるかどうかということは、いまはよく 分かりません。  あとは、経営者要件ですけれども、医師でなくてもいいと。それ以外に何かを入れて いるかということですが、私の理解では、医師でなくともよく、他に何の条件も入って いないと思っております。 ○座長  私も補足しますけれども、基本的に配当制限はありません。どこに使ってもかまいま せん。それから、アメリカの病院は、もともと99%の病院で医師は院長ではありません 。なぜならば、医師は外部の存在だからです。病理医、麻酔医、インターン、レジデン トを除き、病院で雇われている医師がいません。それ以外の医師は外部の、むしろ病院 を監督する者として契約しています。チーフ・オブ・メディカル・スタッフは必ず医師 ですが、それも院外の存在になります。株式会社であるかないかにかかわらず、病院の プレジデントは医師ではないとご理解いただければ大丈夫だと思います。 ○川合委員  美原室長に質問なのですが、特定目的会社というのは一般企業なのですね。 ○美原室長  そうです。 ○川合委員  一般企業が経営が成り立つということは、イギリスの公立病院の運営は水膨れであっ たということなのですね。 ○美原室長  大変興味深いご質問で、さてどうでしょうかという形になりますが、これは一般会計 から実質的には医療サービスを購入するという形でグロスでもって一定の年度予算措置 ・交付金を付与して、整備をする場合には、それを見込む形で全体額という形でNHS トラストに年次予算というものが付与される。その中で整備をしたときにPFI事業者 にどのくらい払えるのかというのを想定したうえで予算措置をしているわけです。果た して過去の公立病院が非効率であったか否かという形ですが、英国保健省、もしくは英 国の大蔵省の人に聞いてみますと、彼らのスタンスというのは、先ほど遠藤先生のお話 にもありましたが、そもそも公共というのは非効率なのだと。実は、英国人の発想は、 そこに根源があります。すべて公共に委ねると、どうしても非効率性が出てくる。少し でも役割分担をして、民に委ねるべきところは民に委ねよう。これが英国的な考え方で はないかと思います。果たして同じ考え方が日本に通用するかどうかは、これはまた別 の議論ではないかと思います。 ○小山委員  まずNHSトラストのPFIの導入という背景には、NHSトラストの病院に対する 新規の投資が経済的にできないわけです。1980年代サッチャー政権の経済状況は、いま の日本よりもひどいような状態だったわけです。でも、国民医療を守るためには、病院 に投資しなければいけないわけです。それをみんな公的病院でやっているものですから 、窓ガラスが割れてもどうしようもないし、器械は買い替えられないし、CTスキャン なんかはほとんどの病院になかったわけですから、どうするのだ、というのが新公共マ ネジメントの中の一部のPFIの考え方だったということは是非ご理解いただきたいわ けです。  2番目に、PFIについては、株式会社が参入するわけですが、まさにこの検討会の 名前と同じように、医療経営の中でプライベートとパブリックがどう役割分担をするか という議論を世界中でしているわけです。ですから、営利が参入したほうがいいのか悪 いのか、してほしいのかしてほしくないのかというウィルの議論ではないのだと思うの です。むしろキャンかキャンノットの議論で、できるかできないならばできるのです。 営利を参入させることは簡単にできるのです。させないこともできますけれども、それ はどっちでもできる。問題は、私がお聞きしたいのは、ドゥーなのかドントなのか。ど ういう状態が整えば営利が参入してもよくて、どういう状態が整わないと営利が参入し てはいけないのか。そこの境の議論というのが見えなくなった。例えば、機会主義が誘 発されてもいいから徹底的なディスクロージャーで医療の質の監視および医療の質のメ ジャーメントができれば、ドゥーなのかドントなのかという議論は是非教えてほしいな と思います。  あと、PFIについては、公的病院と民間との関係で、そして特定目的会社は、その 病院のPFIをやるために新しくつくる会社なのです。ですから、いろいろな業者がい ても、それが全部代表企業をつくって、その病院と一緒に生死を共にする株式会社を別 につくっているわけです。そこまでしなければ信用できないというイギリスでの長い議 論があったことは、一言付け加えさせていただきたい。  それと、この場で言っていいのかどうか分かりませんが、高知医療センターのPFI の委員長は私ですからどのくらい大変かということはちょっと言っておきたいのですが 、手続論が大変なのです。公立病院がPFIをやる場合には、公立病院がどういう医療 をやるかという性能基準を示さなければいけないのです。そんなこと普通はできますか 。たまたま高知病院機能計画というのを作って、それを全部ディスクロージャーして、 こういう医療だ、女性外来はこうやるのだ、こういうのをやるのだと1個ずつ全部付け て、組織はこうやるのだけれども、皆さんどうですかということなのです。それを受け て、どこかの会社を選べといわれても、今度審査基準を作るのに何カ月もかかるのです 。役人は役人の仕事を作る、と昔聞いたことがありましたけれども、すごい量の事務手 続なのです。でもやろうと。民間に委ねられるところは民間に委ねよう、とこの国の総 理大臣はおっしゃっているわけです。だったら民間に委ねられるためには、それをどう 手続するかという議論だと思うのです。 ○美原室長  ご指摘のとおりだと思います。ただ、高知で先生はご苦労されていると思いますが、 トランザクション・コストというのは、マーケットにおいてプラクティスがうまくいけ ば、また、経験を積むことができ得れば、おそらく将来の案件は役に立ちコストも手間 も簡略化でき得ることになると思いますので、是非とも日本のために頑張っていただき たいと思います。 ○座長  遠藤先生、小山委員の質問にお答えいただきたいと思います。 ○遠藤教授  要するに、営利企業が参入する条件について考えを述べろと。基本的には、小山委員 が言われましたように、1つは、情報の開示です。もう一つは、資本調達のインバラン スというか、制度上の差というものをどう考えるかということだと思います。つまり、 非営利形態と営利形態で資本調達を考えたときには、先ほど申し上げましたように、明 らかに大企業が参入するほうが資本調達は楽ですから、そこにあえて差を付けるという のは、先ほど申し上げましたように、営利形態のほうがいいのだというように社会的な ジャッジメントがあれば話は別ですけれども、いま言ったように、判断が分かれている ところでありますし、アメリカの事例もあるということであるならば、同じように非営 利形態でも資本調達が容易にできるような仕組みを作るということが必要なのではない か。それが2つ目です。  しかし、この2つは、営利企業を入れるための条件というふうに設定されること自体 が私は不思議なのです。これは、いまの形態でやればいい話なのです。つまり、病院間 の情報がよく分からないからもっとはっきりしろという要請があるわけですし、情報開 示を進めれば、現行の制度でもいくらでも競争は起きるわけですし、そこになぜ営利企 業を参入させるための条件となるのか。まず営利企業の参入ということを前提とする議 論は優先順位が逆なのです。我々医療経済をやっている人間からすれば、病院評価だと か、情報開示だとか、非営利組織の資本調達の方法なんていうことがはるかに優先順位 が高いはずなのに、なぜ営利企業が入ってくるための条件としては、として論じられて いること自体にこの種の議論が本末転倒になっているような感じがしている。 ○長谷川委員  若干感じますところを申し上げますと、国際比較というのは非常に難しいのです。医 療制度というのは、いろいろな歴史だとか文化だとか社会構造のプロダクトですから、 外国の事例を単純には持ってこられません。だから、外国の事例はいろいろな視点で見 る必要が当然あると思います。アメリカの例でいきますと、株式会社がすでにあった。 それはヒル・バートン法などで第二次世界大戦後に病院をつくるのに援助したという経 緯があるので、ヨーロッパとは経緯がことなります。アメリカの病院のマネジメントス タイルは、基本的にはマネージメントの教育を受けた人間がやっているので、こっちの 病院はマネージメントが良くてあっちが悪いのだというのはあまりありません。いくつ かの比較事例はあるのですけれども、結果からいきますと大した差がないというのは当 然の結果です。  確かにクリームスキミングの問題は指摘されますが、これは、設置主体を問わず、ど こかに病院をつくるときにマーケティングをやるのは当たり前の話であって、それは経 済でいくと当然エクイティーとエフィシェンシーのトレードオフのバランスをどこで取 るかというだけの話で、アメリカでも非常に条件の悪い病院では、例えばDRGの支払 で補正するとか、あるいは非採算医療をある程度やることを条件として、ノンプロフィ ットとして税金を減免するなど工夫しているわけで、それはむしろテクニカルな議論で す。クリームスキミングは、営利病院だけに限られた問題ではなく、誰がやろうが良い ところを取りたいのです。ただ、社会として医療の公共性を考えた場合に、それは避け る必要があり、そのために。どういう手法で避けるかという技術論なのです。  アメリカでの事例の紹介をいただいたのですが、背景事情、あるいは研究のデザイン についても検討する必要があります。例えば、メディケアで医療費を表すことは、デー タが得られやすいのでしばしば用いられますが、医療費の一部、おおよそ20%を占める に過ぎません。単価が安いためメディケアの患者は診療しないというドクターはめずら しくありませんメディケア費用をもって医療費を代表させることには慎重である必要が あります。またクロスセクショナルとエコロジカルなスタディーでもって因果関係を出 すというのは本来無理です。したがって、エビデンス・レベルとしては、それほど高く なく、いろいろな議論はあるのですが、大した差はないというのは正直な話だと思うの です。この結果をもって、断定的、かつ因果関係が存在するかのように考えることは控 えるべきでしょう。  ヨーロッパでは80年代半ばからヘルス・セクター・リフォームという形で医療の効率 化を図ろうとしました。これはほとんど失敗しています。基本的には内部市場を入れて 競争すれば効率化できるという考えの下に改革を進めましたが、英国、オランダなど、 ほとんど失敗しました。経済効率のみを重視したヘルス・セクター・リフォームはうま くいかないのではないかとの印象を私は持っています。その点ではヨーロッパの事例は 大きな教訓を与えてくれました。  アメリカ、ヨーロッパの事例をもとに、日本の状況を考えますと、まず考えなければ ならないのは、公的な病院と、民間の医療法人病院の位置付けです。医療の質というの は、1つの重要なキーワードですから、これに関わる情報をだしていただくような促進 策が必要です。また会計基準が病院の設置主体で統一されていないので統一化が必要で す。部署ごとのセグメント会計も不採算医療、政策医療を明らかにする上で必要でしょ う。現状ではこれらの情報が整備されていないために、病院のパーフォーマンスを質の 観点から評価し、病院設置主体による位置付け、役割分担を明らかにすることが困難で す。個々の病院レベルでは経営の選択肢が多い方がこのましいことは当然です。例えば 、資本調達の自由度拡大という点では、株式化というのは選択肢の1つだと思いますし 、PFIも当然1つの選択肢です。経営上の自由度、選択肢拡大は、医療の効率化をも たらす有力な手法ですが、別の観点からも考える必要があります。例えば、医療におい て完全な自由参入を認めた場合には、新規病院の参入、競争に負けた病院の撤退などに 際して、混乱が生じる可能性があります。そのためには一定の制限が必要になりますが 、これは反面、病院の経営自由度拡大をさまたげるものになります。たとえば、いまの 医療計画で病床制限がある中では、実質的には病院の新規参入は困難です。医療法人の あり方については、それだけを議論しても実際には意味ないというのが正直な話なので 、結構いろいろなところに連動する問題ではないかな、という印象を持っております。 ○座長  お2人の発表のお蔭でいろいろな論点が頭の中で整理する議論ができたと思います。 それで、事務局から資料が提出されておりますので、これについての説明をいただいて 、多少質疑が必要だと思います。よろしくお願いします。 ○田村指導課長補佐  事務局から資料を4つほど提出させていただいております。1つは、第2回「これか らの医業経営の在り方に関する検討会」事務局提出資料という横長のものです。もう一 つは、平成11年度病院経営指標という冊子です。あと2つは、社会保障審議会医療部会 の議事録として2回分提出させていただいております。  それでは、まず事務局提出資料という横長の資料に沿って説明させていただきます。 2枚めくっていただきまして、まず最初に「医療経営に関する最近の動き」ですけれど も、11月の29日に政府・与党社会保障改革協議会で医療制度改革大綱というものが施行 されました。この中で医療提供体制の改革として医療機関の経営の近代化・効率化のた めの方策について早期に検討を行い、必要な措置を講じる。医療法人の理事長要件につ いては、今年度内に更に緩和する。また、総理の諮問機関である総合規制改革会議のほ うで12月の11日に総合規制改革の推進に関する第1次答申というものが取りまとめられ て総理に施行されたわけですが、この中において、まず医療に関する徹底的な情報開示 ・公開ということで、医療機関の医療機能、業務内容、医師の専門分野、診療実績など に関する客観的に比較可能な情報公開を促進するべきである旨の提言がなされておりま す。  2頁目ですが、同じく第1次答申の中で、医療分野における経営の近代化・効率化と いうことで、医療機関の経営に関する規制の見直しの提言がございます。直接金融市場 からの調達などによる医療機関の資金調達の多様化等々を図るために利用者本位の医療 サービスの向上を図っていくことが必要である。このため、今後、株式会社方式などを 含めた医療機関の経営の在り方を検討すべきである旨の提言がなされております。また 、理事長要件の見直しにつきまして、病院経営と医療管理とを分離して、医療機関運営 のマネジメントを行い、その運営の効率化を促進する道を開くため、平成14年度のでき るだけ早い時期に、合理的な欠格事由のある場合を除き、理事長要件を廃止すべきであ る旨の提言がなされております。  3頁目ですが、こちらは、医療法人の医師・歯科医師以外の理事長の認可状況を平成1 3年3月31日現在で厚生労働省医政局指導課において調査したものです。平成10年に理 事長要件が緩和されておりますが、緩和の改正前に非医師また非歯科医師の理事長とし て認可された法人数は214法人、緩和後に認可した法人数は121法人で、合計で335法人 が非医師また非歯科医師の理事長として認可されているわけですが、平成10年の緩和後 に認可した法人の内訳としては、理事長が死亡してその子女が医師となるまで妻を理事 長とする場合などの改正前の基準によるものが56、また過去5年以上安定した経営の医 療法人等々、緩和による改正後に加えられた基準によるものは65です。合計335法人が 非医師・非歯科医師の理事長として認可されております。  4頁目ですが、これは第1回に豊田委員のほうからご指摘のありました平成11年4月2 1日の衆議院大蔵委員会の会議録の医療法人に関する部分の抜粋です。主要な発言とし ては、6頁目にアンダーラインを付けさせていただいていますが、医療法人の相続税の 評価をめぐる発言があります。  続きまして、冊子になっております平成11年度病院経営指標(医療法人病院の決算分 析)というものですけれども、こちらは、厚生労働省医政局指導課において平成6年度 より病院の健全な運営に資するための参考資料として取りまとめているものです。平成1 1年10月1日現在5,299ある医療法人が開設する病院のうち1,387病院について損益状況 、財政状態等を基に集計したものです。その結果については、7頁にレーダーチャート 、15頁以降に全体的な集計結果の説明を付けさせていただいておりますので参考にして いただきたいと思います。  あとは、第1回、第2回社会保障審議会医療部会の議事録を合わせて配付させていた だいておりますのでご参考にしていただきたいと思います。以上です。 ○座長  ただいまの事務局の説明につきまして何か質問がおありでしたらお願いいたします。 ○津久江委員  医療部会の第1回、第2回でも企業参入の問題が議論されておりますが、この委員会 との関係はどのような形で整理されているわけでしょうか。 ○大谷総務課長  株式会社の参入をどう考えるかということについては、医療部会でももちろんそれが 重要なテーマでありまして、ヒアリングもしたり議論しているわけです。基本的に是非 論は、医療部会を中心に考えたいということで、ここの検討会では、是非論も踏まえな がら、それこそ遠藤先生のプレゼンにもありましたように、参入するかどうかという議 論ではなくて、株式会社が論じられているメリットを、例えば現行の医療法人制度にど ういうふうに活かし、あるいはデメリットをどうやって防止していくかという、具体論 こそこの場でお願いしたいということで、是非論はここでこれ以上していただく実質的 な意味もないし、むしろ医療部会のほうで、今日のご議論をいずれ報告する機会があり ますから、部会がおそらく年度内に広告規制の問題とか1,2まとめなければいけないポ イントがありますので、その中で包括的に扱うというふうに私どもとしては考えており ます。 ○座長  ほかにございませんようでしたら、時間になってまいりましたので、本日はこれで終 了したいと思います。次回の日程につきまして、事務局から説明をお願いいたします。 ○指導課長  次回は1月16日(水)16時からの開催ということで場所が決まり次第、正式のご案内 を差し上げたいと思っております。次回は何人かの委員の先生方から意見を発表してい ただいて議論を深めさせていただきたいと思っております。 ○座長  発表をいただく委員の方には事務局から依頼があると思います。それでは、本日はこ れで閉会いたします。お忙しい中、ありがとうございました。 照会先 厚生労働省医政局指導課 医療法人指導官 北見 学(内線2560) 医療法人係長 赤熊めいこ(内線2552) ダイヤルイン 3595-2194