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2 公的年金の財政再計算

 公的年金の保険料率は、少なくとも5年に一度、給付に要する費用額等を予想し、将来にわたって財政の均衡が保たれるように再計算されている。

1 将来見通し

 公的年金各制度は、計算基準時点から将来にわたり、想定される経済社会状況の下、賃金上昇率、消費者物価上昇率等についての前提を置き、被保険者数の見通し、受給者数の見通し、給付費の見通しを作成している。保険料収入については、年金財政の長期的な収支均衡が図れるように将来の保険料率を設定して推計を行い、給付費の見通し等とあわせて年金制度の財政見通しを作成している。

2 基礎率・基礎数

 将来見通しは、

(1) 再計算基準時点の直近に得られる基礎統計に基づいて、被保険者、受給者、年金額等に関する年齢別等の項目別に分類したデータ
を初期値とし、
(2) 別途作成される将来推計人口・労働力見通しと
(3) 過去の実績を参考に設定する脱退率、障害年金発生率、死亡率、失権率、賃金上昇率、消費者物価上昇率など
を用い、被保険者数、受給者数、給付費等が将来に向けてどのように変化していくか、シミュレーションするという考え方に依っている。
 初期値のことを基礎数、脱退率、障害年金発生率、死亡率などの保険事故の発生を予測するための率や、失権率、賃金上昇率、消費者物価上昇率などの率を基礎率という。

3 財政再計算

 実際の被保険者数や受給者数、財政状況は、必ずしも将来見通しどおりとはならない。その場合、予定した長期的な収支均衡が、必ずしも図れないことになる。
 このため公的年金制度では、定期的に、経済社会の変化・事業状況に基づき前提条件を改めた上で将来見通しを再度計算し、収入と支出の長期的均衡が図られるよう、保険料率を見直している。これが、財政再計算である。


財政再計算における将来見通し作成過程の全体像(概要)
−厚生年金・国民年金の例−

流れ図


基礎数、基礎率等の例 −厚生年金 平成11年財政再計算の場合−

1 将来推計人口

 日本の将来推計人口(平成9年1月)における中位推計(国立社会保障・人口問題研究所)

2 労働力率の見通し 労働省職業安定局推計(平成10年10月)

3 基礎数 (直近の被保険者・年金受給者の統計データ)

・国民年金及び厚生年金の実績に基づき設定
(主要項目)
 年齢・被保険者期間別被保険者数
 年齢・被保険者期間別平均被保険者期間
 年齢・被保険者期間別標準報酬月額
 年金の種類・年齢別受給者数
 年金の種類・年齢別年金額
 厚生年金・国民年金の積立金額

4 基礎率(人口学的要素)

(被保険者数、年金受給者数が今後どのように変化していくのか推計するための率等)

・国民年金及び厚生年金の実績並びに各種統計資料等に基づき設定
(主要項目)
 被保険者総脱退力(年度内脱退者数÷年度平均被保険者数)
 被保険者死亡脱退力
 障害年金発生力
 標準報酬指数(昇級指数)…(20.5歳を1とした各年齢の標準報酬額の指数)
 老齢年金失権率
 障害年金失権率
 遺族年金失権率
 遺族年金発生割合(被保険者死亡時に、妻、子等を有する割合)
 年齢相関(死亡した被保険者の年齢と遺族の年齢の関係)
 再加入率(加入者のうちの再加入者である者の割合)

5 基礎率(経済的要素)

 賃金上昇率
 物価上昇率
 運用利回り

出所 厚生省年金局数理課「厚生年金・国民年金平成11年財政再計算結果」


公的年金制度に係る法律における財政再計算に関する規定

国民年金法

 国民年金法において、「保険料の額は、この法律による給付に要する費用の予想額並びに予定運用収入及び国庫負担の額に照らし、将来にわたつて、財政の均衡を保つことができるものでなければならず、かつ、少なくとも五年ごとに、この基準に従つて再計算され、その結果に基づいて所要の調整が加えられるべきもの」と規定されている。

 また、保険料の額は、将来にわたって財政の均衡が保たれるまでの間、「段階的に引き上げられるべきもの」と規定されている。

 基礎年金の給付に要する費用に充てるための基礎年金拠出金については、国民年金法において、「再計算が行われるときは、厚生労働大臣は、厚生年金保険の管掌者たる政府が負担し、又は年金保険者たる共済組合等が納付すべき基礎年金拠出金について、その将来にわたる予想額を算定するものとする」と規定されている。

厚生年金保険法

 厚生年金保険法において、「保険料率は、保険給付に要する費用(基礎年金拠出金を含む。)の予想額」並びに「特別保険料、予定運用収入」及び「国庫負担の額に照らし、将来にわたつて、財政の均衡を保つことができるものでなければならず、かつ、少なくとも五年ごとに、この基準に従つて再計算されるべきもの」と規定されている。

 また、保険料率は、将来にわたって財政の均衡が保たれるまでの間、「段階的に引き上げられるべきもの」と規定されている。

国家公務員共済組合法、国家公務員共済組合法施行令

 国家公務員共済組合法において、長期給付に要する費用(基礎年金拠出金に係る保険料相当部分を含む)については、「その費用の予想額」と「掛金、特別掛金及び負担金の額並びにその予定運用収入の額の合計額」とが、「将来にわたつて財政の均衡を保つことができる」ように「少なくとも五年ごとに再計算を行うもの」と規定されている。

 また、国家公務員共済組合法施行令において、長期給付に係る掛金率は、「財務大臣の定める基準に従って、掛金率を段階的に引き上げること」によって、長期給付に要する費用の算定額と、当該事業年度以後における掛金、特別掛金及び負担金の額並びにその予定運用収入の額の合計額とが「将来にわたつて財政の均衡を保つことができるように算定するものとする」と規定されている。

地方公務員等共済組合法、地方公務員等共済組合法施行令

 地方公務員等共済組合法において、長期給付に要する費用(基礎年金拠出金に係る保険料相当部分を含む)については、「その費用の予想額」と「掛金、特別掛金及び負担金の額並びにその予定運用収入の額の合計額」とが、「将来にわたつて財政の均衡を保つことができる」ように「少なくとも五年ごとに再計算を行うもの」と規定されている。

 また、地方公務員等共済組合法施行令において、長期給付に係る掛金率は、「総務大臣の定める基準に従つて、掛金率を段階的に引き上げること」によって、長期給付に要する費用の算定額と、当該事業年度以後における「掛金、特別掛金及び負担金の額並びにその予定運用収入の額の合計額」とが「将来にわたつて財政の均衡を保つことができるように算定するものとする」と規定されている。


 私立学校教職員共済及び農林漁業団体職員共済組合については、法律に再計算の規定はないが、慣例として上記4制度同様、少なくとも5年ごとに再計算が行われている。


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