厚生労働省発表
平成13年12月20日
(別紙)
平成13年12月20日
労働分野における人権救済制度検討会議
1 労働分野の人権侵害について、答申を踏まえ、他の分野における救済制度と同等の救済制度の整備を図ることが必要である。
2 答申においては、雇用の領域を含む社会生活における一定の差別的取扱い、セクシュアルハラスメント等の人権侵害について、より実効性の高い「積極的救済」を図る必要があるとして、調停・仲裁、勧告・公表、訴訟援助等の救済手法の整備や実効的な調査権限の導入が提言されている。
一方、労働分野においては、既に労働基準法、男女雇用機会均等法等に基づいて、人権救済にかかわる制度が整備されてきたところであり、また、労働分野における人権救済制度の適切な運用に当たっては、労働法制、労使慣行、労務管理実務等に関する知識を有する職員が必要不可欠である。
これらを総合的に考慮すると、労働分野における「積極的救済」については、訴訟参加等人権委員会が行うことが相当であるものを除き、厚生労働省がこれを担当することとし、既存の機関や知識・経験の蓄積の活用を図ることが適当である。
3 答申においては、新たな人権救済制度を担う人権救済機関は政府からの独立性を有する委員会組織である必要がある旨指摘している。
このため、労働分野の人権侵害についても、救済制度の公平性・公正性の確保を図ることは重要であり、個々の事件の調停・仲裁は、都道府県労働局に置かれている独立性のある紛争調整委員会を活用し、公平性・公正性が保たれるような運営を図ることが必要である。
4 人権救済制度の整備に当たっては、利用者に対するワンストップ・サービスの提供という観点が重要である。
相談及び簡易な救済については、事案に応じて、専ら任意的な手法により簡易・迅速かつ柔軟な救済を図ることを目的とするものであり、排他的に担当を定めるまでの必要はないことから、労働分野における人権侵害については、相談者等が厚生労働省及び人権委員会のどちらの窓口に行ってもこれらについてワンストップのサービスを受けられることを原則としつつ、事案に応じて、人権委員会が厚生労働省の機関に紹介・引継ぎを行うことができるとするなどの適切な役割分担を図ることが適当である。
5 以上を踏まえ、労働分野における具体的な救済制度の内容及びその実施機関については、別紙のとおりとすることが適当である。
なお、調停・仲裁の申請、開始の方法等救済の手続については、人権委員会が行うものと同一にすべきである。
また、救済手続のうち訴訟参加については人権委員会が行うこととなるが、この場合には、厚生労働大臣が人権委員会に対し必要な資料等を送付するなど行政の責任において十分な引継ぎを行い、当該手続の利用者に対して余計な負担をかけないようにすることが必要である。
6 積極的救済の対象として禁止される差別の範囲を明確化することは、差別的取扱い等の未然防止のための啓発に有効なものである。このため、これら範囲の明確化に努めることが必要である。
なお、積極的救済の対象としての差別的取扱いとは、合理性のない不当な差別的取扱いをいうものであり、男女雇用機会均等法に基づくポジティブ・アクションや障害者の雇用を促進する障害者雇用率制度に基づく措置がこれに含まれないことは当然である。
7 都道府県労働局において人権救済制度にかかわる職員の研修を図るとともに、紛争調整委員会の運営について地方労働審議会に報告するなど、制度の適正な運営を図ることが必要である。
8 人権侵害の未然防止という観点から、労働分野における人権啓発を積極的に実施することが必要である。
9 労働分野において他の分野における人権救済制度と同等の救済制度の整備を図ることに伴い、男女雇用機会均等法に基づく調停等これと内容が重複することとなる制度については、その範囲において必要な法律の規定の整備を行うことが適当である。
10 なお、労働者側委員から、調停、仲裁などの救済手続は独立性の高い国家行政組織法第3条の委員会で行うべきであり、紛争調整委員会で行うことでは他の分野における救済制度と同等の救済制度とはいえないので反対であるという意見が表明された。
また、労働者側委員から、差別的取扱いの差別理由である「人種等」の中に年齢による差別が含まれていないことは問題であることという意見が表明され、これに対し、使用者側委員から、救済制度の対象範囲は答申のとおりとすべきであり、年齢による差別を加える必要はないという意見が表明された。
(別紙)
人権侵害一般 | 労働分野の人権侵害 | |
対象範囲 | ・ 簡易な救済は、あらゆる人権侵害を対象とする。 ・ 積極的救済は、以下の人権侵害を対象とする。 (1) 差別的取扱い等 ・ 人種、信条、性別、社会的身分、門地、障害、疾病、性的指向等(以下「人種等」という。)を理由とする社会生活(公権力との関係に係るもののほか、雇用、商品・サービス・施設の提供、教育の領域における私人間の関係に係るものを含む。)における差別的取扱い ・ セクシュアルハラスメント ・ 人種等にかかわる嫌がらせ (2) 虐待 (3) 公権力による人権侵害 (4) メディアによる人権侵害 |
・ 事業主が、人種等を理由として、雇用の領域(採用、労働条件)において行う差別的取扱い ・ 職場におけるセクシュアルハラスメント ・ 職場における人種等にかかわる嫌がらせ |
相談 | ・ 人権委員会(仮称)が相談に応ずる。 | ・ 厚生労働大臣(厚生労働省の職員:総合労働相談コーナー等)が相談に応ずる。 ・ 人権委員会による相談においては、事案に応じて厚生労働省の機関を紹介するなど、関係機関間の緊密な連携協力関係を構築する。 |
簡易な救済 | ・ 人権委員会は、以下のような強制的要素を伴わない専ら任意的手法による救済措置を講ずることができる。 (1) 助言、関係機関への紹介・取次ぎ等 (2) あっせん (3) 啓発的手法を用いた指導等 |
・ 厚生労働大臣(都道府県労働局長)が左記の措置を講ずる。 ・ 人権委員会が左記の措置を講ずる場合には、事案に応じて厚生労働省の機関を紹介するなど、関係機関間の緊密な連携協力関係を構築する。 |
人権侵害一般 | 労働分野の人権侵害 | ||
積極的救済 | 特別調査 | ・ 人権委員会は、積極的救済の対象となる人権侵害(メディアによる人権侵害を除く。)について、過料又は罰金で担保された質問調査権、文書提出命令権、立入調査権等を有する。 | ・ 左記の調査等は、厚生労働大臣(都道府県労働局長)が行う。 |
調停・仲裁 | ・ 人権委員会は、調停(当事者間の合意による紛争解決を促す手続)・仲裁(仲裁人が、仲裁判断に従うとの当事者双方の合意を前提として、確定判決と同一の効力を持つ判断を示す手続)を行うことができる。 ・ 調停・仲裁の手続に関しては、各地において、法律専門家、学識経験者、一般有識者等の参加を得る体制の整備を図る。 |
・ 左記の調停・仲裁は、厚生労働大臣(都道府県労働局長)が紛争調整委員会に行わせる。 ・ 調停については、関係労使の意見聴取のための規定を設ける。 |
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勧告・公表 | ・ 人権委員会は、人権侵害の加害者に対する勧告(人権侵害の事実を指摘して任意に救済措置を講ずるよう促す措置)及びその不遵守に対する公表をすることができる。 | ・ 左記の勧告・公表は、厚生労働大臣が行う。 | |
訴訟援助 | ・ 人権委員会は、勧告をした事案について、調査の過程で収集した資料を被害者が自らの訴訟に活用できるよう資料提供をすることができる。 | ・ 左記の資料提供は、厚生労働大臣が行う。 | |
・ 人権委員会は、人権侵害の被害者の訴訟に参加することができる。 | ・ 訴訟参加に関しては、労働分野の人権侵害についても、人権委員会が行う。 |
: | 厚生労働省で行う部分 |
(参考1)
1 趣旨
平成13年5月25日、人権擁護推進審議会において、「人権救済制度の在り方について」の答申がなされた。これは、我が国における人権侵害の実情や救済に関わる制度の状況を踏まえ、我が国にふさわしい人権救済制度の整備を提言したものである。
厚生労働省においては、従来から労働基準法や雇用機会均等法の施行等を通じて労働分野における差別禁止等について中心的な役割を果たしてきたが、上記答申に基づき新たに制度を設けるなかで、厚生労働省がいかなる役割を果たすべきか等について検討する必要がある。
このため、厚生労働大臣が学識経験者及び労使関係者の参集を求め、労働分野における人権救済制度の在り方についての検討会議を開催するものである。
2 会議の検討事項
人権擁護推進審議会答申を念頭に労働分野における人権救済制度の在り方及びこれに関連する諸問題について
3 会議の運営
(1) 会議は、厚生労働大臣が学識経験者及び労使関係者の参集を求めて、平成13年10月から開催する。
(2) 座長は、学識経験者の中から、互選により選出する。
(3) 会議の庶務は、厚生労働省政策統括官付労政担当参事官室において行う。
(4) 法務省人権擁護局担当者が、オブザーバーとして会議に出席する。
(参考2)
(五十音順、敬称略) | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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担当 政策統括官付労政担当参事官室 労政担当参事官 岡 崎 淳 一 調査官 清 川 啓 三 参事官補佐 鈴 木 英二郎 電話 03(5253)1111(内線7748) 03(3502)6734 (直通)