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VI 終わりに

1 国民的議論が求められる

 第IV章で議論した、個人単位と世帯単位、応能負担と応益負担、公平性の確保という問題は、女性と年金をめぐる問題であるのみならず、我が国年金制度のあり方や社会保障制度全体、さらには我が国社会のあり方にまで関わり、大きな価値判断を要する問題である。本検討会においても、これらの重大な問題との関連を含め、6つの課題について幅広く密度の濃い議論を行ったところであるが、最終的にはどのように国民的合意が形成され、どのような選択が行われるかに関わる問題である。
 本報告書では、女性と年金をめぐる問題の個別の論点について、あえて早急に結論を求めるのではなく、基本的な方向はできる限り明らかにしつつ、幅広い観点から問題を整理した。ここに整理された多様な議論を素材として、女性と年金の実情の一層の把握を図りつつ、次期制度改正に向けて、幅広い国民的な議論が綿密に展開されることを期待する。
 また、少子化の問題は、世代間扶養の仕組みを基本として成り立っている公的年金制度にとっても重要な問題である。育児期間等に係る配慮措置等については、検討会では積極的な意見と消極的な意見とがあったが、年金制度上の措置として、次世代を育てる少子化対策に取り組むことが適当かどうかという点についても、国民的な議論が期待される。


2 現行制度からの円滑な移行と長期的な視点が必要である

 女性と年金をめぐる様々な問題は、雇用や育児・介護等の家族的責任といった一生の道筋での様々な局面において、男女に差があるという実態があり、これが年金制度に直接反映される、あるいはこの実態に配慮して年金制度において主に女性を想定した特別な措置を講じるといったことにより、生じているものである。
 女性と年金をめぐる様々な問題については、国民的な合意が形成された上で早急に改善を図るべきである。しかしながら一方で、年金制度の改正は、女性のライフスタイルの選択、将来の生活設計に多大な影響を与えるものであることから、社会の実態に配慮して現行制度からの円滑な移行が図られるよう万全の措置を講じるとともに、長期的視点に立ち、男女共同参画の進展に合わせて不断に見直しを図っていくべきである。(資料VIー1:GEM(ジェンダー・エンパワーメント指数)に関する国際比較


3 他の政策分野を含めた総合的な対応が求められる ― 女性と年金問題解決のための環境整備

 女性と年金をめぐる問題については、年金制度上の対策だけではなく、以下の政策分野における実効ある対応策が講じられることにより、十全な解決が図られるものである。したがって、今後の年金制度における議論と並行して、これらの政策分野においても、政府、労使等、関係方面において、具体的な検討や実効ある取組みが早急に行われることを強く要請するところである。

(1) 女性の就労支援策等

 女性と年金をめぐる問題は、女性が男性と同じように就労し、賃金を得る社会を想定すれば、その多くが解決する性格のものと考えられる。このことにかんがみれば、女性の年金が相対的に低い水準となっていることの背景として考えられる、女性の雇用機会や賃金等、雇用に関わる諸課題について、労働政策上の解決が図られることが求められる。

(1) 雇用の分野における男女の均等な機会と待遇の確保

 男女労働者の均等な機会及び待遇を確保し、女性労働者が能力を十分に発揮していくことができる環境を整備していくことが重要である。

(2) 職業生活と育児等の家庭生活の両立支援

 労働者が仕事と育児や介護を両立させ、生涯を通じて充実した職業生活を送ることができるようにすることが重要である。

(3) 多様で柔軟な働き方の整備

 労働者個人の価値観、ライフスタイルなどに応じ、多様かつ柔軟な働き方を選択することができるようにするため、短時間労働等について、個々の労働者により主体的に選択され、またその能力の有効な発揮等ができるような良好な就業形態としていくことが重要である。

(4) 若齢労働者対策

 就労支援策は、女性だけではなく、若齢者一般に対して求められている。いわゆるフリーターなどの非正規労働者が男女を問わず若齢層に増加している中で、年金保障の確保という観点とともに、将来の良質な人材の確保という観点からも、若齢者に対する就労支援策が重要である。

(2) 少子化対策の推進

 少子化に対する対応は、単に年金制度において重要な課題であると言うことにとどまらず、我が国経済社会の将来のあり方に大きな影響を持つ重要な政策課題である。したがって、子供を産み、育てやすい環境づくりについては、政策全般にわたってより一層の推進が求められる。

(3) 健康保険制度、税制、企業の配偶者手当の問題についての検討

 年金制度だけではなく、関係する政策分野等においても、整合性をもった取組みがなされることが重要である。
 特に、健康保険制度の被扶養者認定基準、税制上の配偶者控除及び特別配偶者控除並びに企業の配偶者手当の取扱いについては、各々が短時間労働者の就業調整の要因となっているとの指摘があることから、就業形態の多様化に対応し、就業に中立的な制度を構築するとの観点から、整合的な見直しが行われることが必要である。



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