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6 遺族年金制度

1 現在の遺族年金制度の仕組み

 遺族年金制度は、

(1) 被保険者が現役期に死亡した時に、その者によって生計を維持されていた配偶者や子等に対する給付、

(2) 受給権者が死亡した時に、その者によって生計を維持されていた配偶者等に対する給付

の2つの性格をもった給付である。(資料V−6−1:現在の遺族年金制度の仕組み

(1) 若齢の遺族配偶者(妻)に対する遺族年金

(1) 厚生年金に加入していた現役期の夫の死亡時に妻に18歳未満の子(あるいは障害をもつ20歳未満の子)がある場合資料V−6−2:若齢の遺族配偶者(妻)の遺族年金(1)

◇ 夫の死亡時から子が18歳に到達するまで(あるいは障害をもつ子が20歳に到達するまで)は、遺族基礎年金(子の加算を含む。)及び遺族厚生年金が支給される。

◇ 子が18歳に到達した後、妻が40歳以上となり65歳に到達するまでは、中高齢寡婦加算を含む遺族厚生年金が支給される。

◇ 妻が65歳以降は、老齢基礎年金及び遺族厚生年金が支給される。

(2) 厚生年金に加入していた現役期の夫の死亡時に妻に18歳未満の子(あるいは障害をもつ20歳未満の子)がない場合資料V−6−3:若齢の遺族配偶者(妻)の遺族年金(2)

 ○ 夫死亡時に妻が35歳未満の場合

◇ 夫の死亡時から妻が65歳に到達するまでは、遺族厚生年金が支給される。

◇ 妻が65歳以降は、老齢基礎年金及び遺族厚生年金が支給される。

 ○ 夫死亡時に妻が35歳以上の場合

◇ 夫の死亡時から妻が40歳に到達するまでは、遺族厚生年金が支給される。

◇ 妻が40歳以上となり65歳に到達するまでは、中高齢寡婦加算を含む遺族厚生年金が支給される。

◇ 妻が65歳以降は、老齢基礎年金及び遺族厚生年金が支給される。

(2) 高齢の遺族配偶者(妻)に対する遺族年金

 高齢(本人の老齢年金の受給権が発生後)の遺族配偶者(妻)は、自らの老齢基礎年金を受給するとともに、報酬比例年金については、自らの老齢厚生年金と夫の死亡により生じた遺族厚生年金の両方の受給権を持つことになることから、併給調整が行われる。(資料V−6−4:高齢の遺族配偶者(妻)の遺族年金
 併給調整の方法は、以下の3つの方法の中から遺族配偶者(妻)が選択することとなる。

(1) 遺族厚生年金のみを受給(=夫の老齢厚生年金の3/4)

(2) 自らの老齢厚生年金のみを受給

(3) 遺族厚生年金の2/3と自らの老齢厚生年金の1/2を受給(=夫と自分の老齢厚生年金の合計額の1/2)

(3) 片働き世帯と共働き世帯の間での高齢期の遺族年金の不均衡

 夫婦世帯で賃金の合計額が同じ場合、片働き世帯と共働き世帯の間で、老齢年金では原則的に給付と負担の関係が同一となるが、遺族年金については同一とならない場合がある。(資料V−6−5:片働き世帯と共働き世帯の間での高齢期の遺族年金の不均衡
 例えば、世帯全体での賃金の合計額が36万円であり、共働き世帯の場合、夫と妻がそれぞれ22万円、14万円の賃金を有するとした場合、片働き世帯と共働き世帯で保険料は同一であり(労使合わせて6.2万円)、老齢年金額も同一である(老齢基礎年金も含め、世帯全体で24万円)。しかしながら、夫が死亡した場合の遺族年金について見ると、片働き世帯では、妻の老齢基礎年金に加えて、遺族厚生年金(=夫の老齢厚生年金の3/4)を受給することになり、合計15万円の年金を受給することとなる。これに対して、共働き世帯では、妻の老齢基礎年金に加えて、遺族厚生年金の2/3と自らの老齢厚生年金の1/2(=夫と自分の老齢厚生年金の合計額の1/2)を受給することにより、合計12万円の年金を受給することになり、片働き世帯と共働き世帯の間で、現役時代の世帯全体での賃金の合計額が同一であるにもかかわらず、高齢期の遺族年金は同一とならないこととなる。

(4) 現行の遺族年金の生計維持関係認定基準

 遺族年金の受給権は、被保険者等が死亡した当時、被保険者によって生計を維持されていた遺族に対して発生する。「生計を維持されていた遺族」とは、死亡した被保険者と生計を同じくし、恒常的な収入が将来にわたって年収850万円以上にならないと認められること、という2つの要件を満たす遺族をいう。
 昭和60年改正以前は、国民年金、厚生年金には生計維持認定要件はなく、共済年金において、配偶者について、組合員の死亡時の給与の額を超える収入を将来にわたって有すると認められる者以外の者等を遺族年金の受給権者とした。
 昭和60年改正では、各年金制度に共通の生計維持認定要件を設定することとし、具体的には、厚生大臣の定める金額(600万円)以上の収入を将来にわたって有すると認められる者以外の者等を遺族年金の受給権者とした。
 平成6年改正では、厚生大臣の定める金額を850万円以上に改定した。
 遺族年金の生計維持認定要件は、法律上、権利発生要件であることから、社会通念上著しく高額の収入を有している者以外は生計が維持されていたものと考えて、遺族年金の支給対象とする考え方がとってきたものであり、所得分位の上位10%に当たる者の推計年収をもって基準を設定してきている。


2 諸外国における遺族年金の取扱い

 遺族年金制度について、諸外国(アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、スウェーデン)の制度を見ると、以下の点が指摘できる。(資料V−6−6:諸外国における遺族年金の取扱い

(1) 子が成長するまでの間の若齢の遺族配偶者に対する遺族年金

 子が成長するまでの間の若齢の遺族配偶者に対する遺族年金は、家族給付制度によって対応するフランスを除いて、いずれの国にも存在する。

(2) 子を養育しない若齢の遺族配偶者に対する遺族年金

 子を養育しない若齢の遺族配偶者に対する遺族年金については、存在しないか、あっても有期の給付か、子を養育する場合より低額の給付となっている。

(3) 高齢の遺族配偶者に対する遺族年金

 高齢の遺族配偶者に対する遺族年金も、スウェーデンを除き、いずれの国にも存在する。この場合、自らの老齢年金の受給権を有する場合は、ドイツを除き、自らの老齢年金を受給した上で遺族年金について一定の調整が行われている。

(4) 受給資格における男女差

 受給資格における男女差は、ないか又は撤廃の方向である。


3 遺族年金制度のあり方

遺族年金制度については、これを基本的に維持することとしつつ、見直しを検討

 遺族年金制度については、将来的には、年金制度において個人単位化を貫きこれを廃止する、又は希望する者だけが加入する別建ての制度とすべきであるという意見がある一方、

(1) 子が成長するまでの間の若齢の遺族配偶者に対する保障については、ほとんどの国の年金制度において行われており、また、配偶者の死亡後に、就労しつつ子を養育するとしても、なお所得保障の必要性は高い、

(2) 子を養育しない若齢の遺族配偶者に対する保障については、諸外国の制度においては、給付がないか有期の給付としているものもみられることから、その就労を支援しつつ、見直しを行うことが必要なのではないか、

(3) 高齢の遺族配偶者に対する保障については、ほとんどの国の年金制度において、高齢期には死亡した配偶者の保険料納付に基づく給付が行われており、また、高齢期の所得保障として亡き配偶者の保険料納付に基づく給付の必要性は高い、

といった意見がある。これらを踏まえ、遺族年金制度については、これを基本的に維持することとしつつ、次に掲げる論点等について、見直しに向けて綿密に議論していくことが必要である。
 なお、遺族年金の見直しに当たっては、今後、遺族年金の受給者が増加していくと考えられることから、年金財政への影響も踏まえて、慎重な検討を行うことが必要である。


4 遺族年金制度に係る論点

(1) 支給要件における男女差

男女差を見直していく方向で考えることが適当

 遺族年金の支給要件における男女の取扱いの違いは、ほとんどの国で存在しておらず、我が国においても男女差を見直していく方向で考えることが適当である。この場合、現実には、賃金水準、年金受給額等について男女差が見られ、例えば母子家庭と父子家庭において、多くの場合、年金による所得保障の必要性の度合いが異なると考えられること等を踏まえれば、中高齢寡婦加算等の給付設計や生計維持認定要件のあり方に係る検討と併せ、支給要件における男女差を見直していく方向で、今後、検討を続けることが必要である。

(2) 高齢の遺族配偶者に対する遺族年金と老齢年金の併給

(1) 共働き世帯と片働き世帯との間の給付と負担の均衡の観点

 高齢の遺族配偶者について、共働き世帯と片働き世帯との間の給付と負担の均衡をとろうとする場合、遺族厚生年金の水準(現在は老齢厚生年金の3/4)と、遺族厚生年金と老齢厚生年金の併給を選択する場合の水準(現在は両者の老齢厚生年金のそれぞれ1/2)を同じ割合に揃える方向で検討を続けていくことが必要となる。
 この場合、

(@) 遺族厚生年金と老齢厚生年金の併給を選択する場合の水準を3/4に引き上げて両者の割合を合わせた場合、ともに長期間にわたり高賃金を得ていた夫婦に対して過剰な給付とならないかどうか。また、今後厳しくなることが想定される年金財政から見て、給付水準の引き上げは可能かどうか、

(A) 遺族厚生年金の水準を現在の3/4から引き下げて両者の割合を合わせた場合、片働き世帯に係る遺族厚生年金の給付水準や、併給問題とは関係のない若齢の遺族配偶者に対する遺族厚生年金の給付水準を引き下げることとなるが、社会保障制度としての年金制度のあり方として適当かどうか、

(B) 遺族である高齢単身者の生活費用は、高齢者夫婦の生活費用の半分を超える水準となることから、1/2よりは大きく、過剰給付となるおそれのある3/4よりは低い水準で考えるべきではないか(例えば3/5)、

といった観点も併せて検討していくことが必要となる。

(2) 自ら働いて保険料を納付したことが、できる限り給付額に反映されるようにするという観点

 また、これと併せて、自ら働いて保険料を納付したことが、できる限り給付額に反映されるようにするとの考え方から、自らの保険料納付に基づく老齢年金の支給を基本とし、遺族年金額を調整する仕組みとなるよう検討することが、一つの方向ではないかと考えられる。

(3) 若齢遺族配偶者に対する遺族厚生年金の水準について

 前述の議論において、高齢の遺族配偶者に対する遺族厚生年金の水準を引き下げた場合にも、現在は同じく3/4としている若齢遺族配偶者に対する遺族厚生年金の水準について、現行を維持してはどうかという意見があった。これについては、

(@) 若齢遺族配偶者から高齢遺族配偶者に切り替わる際に、遺族厚生年金の水準が下がることについてどう考えるか、

(A) 若齢遺族配偶者及び高齢遺族配偶者に対する遺族厚生年金については、現在3/4という点では同じであるが、他方でそれぞれに適用される賃金及び加入期間が異なるので、必ずしも年金の水準が同じにはならない、

といった様々な制度的論点を含めて検討する必要がある。

(3) 離婚時の年金分割と遺族年金の関係

両制度の間の整合性の観点からの考慮が必要

 遺族年金制度のあり方を考える場合に、前述した離婚時の年金分割の仕組みが講じられるのであれば、両制度の間の整合性の観点からの考慮が必要となる。
 この場合、高齢期の離婚により、現役期の生活を共にした元の妻は遺族年金の支給対象とならず、高齢期になってから妻となった者が遺族年金の対象となることを疑問視する見方があるが、仮に離婚時に年金権そのものが元の妻に分割されることとなれば、元の妻が遺族年金給付を受けられないという問題は、実質的には解消されることとなる。また、死亡者の年金によって、その生前に生計を維持されていた者の生活保障を行うという遺族年金の趣旨から、高齢期になってから妻となった者が遺族年金の対象となることには変わりはないが、元の妻に分割された部分を除いた遺族年金が支給されるという整理ができると考えられる。



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