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3 第3号被保険者制度

1 現行制度の仕組み

 第II章でも述べたように、昭和60年改正では、基礎年金制度の導入に伴い、以下のように第3号被保険者制度が創設された。

(1) 被用者の被扶養配偶者も、第3号被保険者として国民年金の強制加入対象とする。

(2) 片働き世帯の老齢年金は「夫と妻それぞれの基礎年金+被用者の報酬比例年金」という形で、従来の水準を維持する。

(3) 通常は所得のない第3号被保険者の費用負担については、独自の負担を求めることとせず、被用者年金の被保険者全体の保険料拠出により賄う。


2 諸外国における配偶者の取扱い

夫婦の一方の保険料納付に基づいてその配偶者に対して年金給付が保障される仕組みは、諸外国の年金制度にも存在

 被保険者の保険料納付に基づいて、その配偶者に対して年金給付が保障されるという仕組みは、我が国のほか、アメリカやイギリスにおいても見られる。(資料V−3−1:日本の第3号被保険者と同様に配偶者に対する給付を有する国の制度
 両国における年金制度では、所得が一定の水準未満の者は強制加入の対象となっていない(資料V−2−4:諸外国における短時間労働者に対する適用)が、被保険者の配偶者に対する年金保障の仕組みは、保険料を自ら納めている配偶者であっても適用される。この場合、自分自身の保険料納付に基づく年金と配偶者給付との間では、一定の併給調整が行われる。
 フランスでは、老齢年金及び障害年金を受給できない配偶者を扶養している者に対して、一定の場合に被保険者の年金に加給金が加算される。
 また、ドイツやスウェーデンでは、所得が一定の水準未満の者は強制加入の対象となっておらず、被保険者の保険料納付に基づいてその配偶者に対して年金給付が保障されるという仕組みはとられていない(スウェーデンでは、低所得又は無所得であり、自身の年金額が低い又はない者には、保障年金が支給される。)。
 なお、諸外国の社会実態や年金制度の仕組みには我が国と異なるものがあり、配偶者の取扱いについての単純な比較はできないことに留意が必要である。

アメリカの制度

 アメリカの年金制度では、

○ 老齢年金又は障害年金の受給資格を有する被保険者の65歳以上の配偶者(62歳からの繰上げ受給が可能)に対して、被保険者に給付される年金額の50%が配偶者年金として給付される。

(注)年金制度上の平均賃金(2,539ドル、2000年)で満年度加入した場合の配偶者給付額は、月額553ドル(62,990円、為替レートはIMFによる1999年平均レートを使用。)となる。

○ 配偶者自身が被保険者として保険料を納付したことによる老齢年金又は障害年金を受給している場合には、その額だけ配偶者年金は減額される。(配偶者本人の老齢年金又は障害年金の額が配偶者年金を上回る場合には、配偶者年金は支給されない。)

○ また、被保険者が死亡した時点で、寡婦(夫)年金(被保険者に給付されていたものと同額)に切り替えられる。

イギリスの制度

 イギリスの年金制度では、

○ 夫が老齢年金(基礎年金及び付加年金)の受給資格を有し、受給年齢(65歳)に達している場合、受給年齢(60歳、なお2020年までに段階的に65歳まで引き上げられる予定)に達した妻は、夫の生存中には夫の基礎年金の60%を、夫の死亡後には夫の基礎年金と付加年金の100%(なお、2002年より付加年金は50%に減額予定)を、妻自身に対する配偶者年金として受給する。

(注)満年度加入した場合の基礎年金額は、週72.5ポンド(月額換算57,890円)であり、その60%は週43.5ポンド(月額換算34,740円、為替レートはIMFによる1999年平均レートを使用。)となる(2001年)。

○ 妻自身が被保険者として保険料を納付したことによる老齢年金を受給している場合には、

◇ 基礎年金については、自身の保険料納付に基づく基礎年金と夫の保険料納付に基づく配偶者年金を、基礎年金の満額まで併給できる。

◇ 付加年金については、最高限度額(=保険料徴収上限に応じて保険料を支払った場合の受給額)を超えない限り合計額を受給できる。

フランスの制度

 フランスの年金制度では、老齢年金及び障害年金を受給できない65歳以上の配偶者(障害を有する場合には60歳以上)を扶養している者に対して、被保険者の年金に年額4,000フラン(月額換算6,170円、円換算レートはIMFによる1999年平均レートを使用)の加給金が加算される。ただし、当該措置に係る所得制限額は低い水準に設定されており、また給付額も長期間据え置かれている。


3 第3号被保険者制度をめぐる様々な議論

(1) 第3号被保険者に係る保険料負担のあり方を検討する前提

 第3号被保険者に係る保険料負担のあり方について検討する際に、まずその前提として以下に掲げる事項について整理した。

(1) 第3号被保険者に係る給付と負担の比較について

現行制度は、夫婦世帯で標準報酬の合計が同じであれば、保険料負担は同額で老齢年金の給付も同額

 第3号被保険者を抱える片働き世帯と共働き世帯の間で給付と負担の不公平があるという批判があるが、これについては、現行制度では、夫婦世帯で標準報酬の合計が同じであれば、保険料負担は同額で老齢年金の給付も同額となっている。(資料V−3−2:現行の制度における保険料負担と給付

家事労働による帰属所得等を考えれば、片働き世帯は共働き世帯よりも保険料負担能力が高いという意見

 これに対して、第3号被保険者の家事労働により帰属所得が発生していることから、標準報酬の合計が同じであっても、片働き世帯は共働き世帯よりも保険料負担能力が高いのではないかという意見がある。
 この帰属所得という考え方については、

○ 家事労働から生じる帰属所得は片働き世帯だけではなく共働き世帯にも発生するものであり、帰属所得に着目して片働き世帯だけに保険料負担を求めることは不公平ではないか、

○ 家事労働から生じる帰属所得については、具体的にどれだけの所得が発生しているのか算定できない以上は、それを基にしてどれだけの保険料負担を求めるのかが定まらず、制度に組み入れるのは困難ではないか、

という指摘もあり、現段階では、帰属所得を根拠に、あるいは、帰属所得を含めて世帯の所得として、保険料負担を求めることについては、帰属所得そのものについての議論の深まりを待って検討すべきものと考えられる。
 また、これに関連して、同じ賃金であっても、家事に係る外部サービスを利用する度合いが高い共働き世帯よりも片働き世帯の方が家事費用は少なく、したがって費用を控除した実質的な負担能力は片働き世帯の方が高いという意見があった。これについては、片働き、共働きの違いだけでなく、子供の数や要介護者の有無等によっても家事費用は異なり、そのような実質的な負担能力の違いを公平に把握して現実の施策とすることは難しいのではないかとの意見もあった。

所得の低い共働き世帯から相対的に所得の高い片働き世帯への事実上の補助となっているという指摘

 また、しばしば、第3号被保険者制度が、所得の低い共働き世帯から相対的に所得の高い片働き世帯への事実上の補助となっているとの指摘がある。確かに、個人に着目した場合は、被用者の被扶養配偶者は基礎年金制度を通じた再分配機能により所得移転を受けており、これをどのように考えるか様々な見方があり得る。
 この点について、夫婦世帯の標準報酬の合計をみる限りにおいては、現行の年金制度は、基礎年金制度を通じて標準報酬の合計が高い世帯から標準報酬の合計が低い世帯へ所得移転が行われる仕組みとなっており、指摘されているようなことにはなっていない。
 一方、共働き世帯の夫の賃金と片働き世帯の夫の賃金を比較した場合には平均的には片働き世帯の夫の賃金は若干高くなっている(平成11年全国消費実態調査報告で2人以上の一般世帯(勤労者世帯)における「世帯主だけが働いている世帯」の世帯主の勤め先収入は41.1万円、「世帯主とその配偶者のみが働いている世帯」の世帯主の勤め先収入は40.5万円。)が、共働き世帯の夫婦の賃金の合計額と片働き世帯の夫の賃金を比較した場合には平均的には共働き世帯の賃金の合計額が高くなっている(同調査報告「世帯主だけが働いている世帯」の勤め先収入の合計は41.2万円、「世帯主とその配偶者のみが働いている世帯」の勤め先収入の合計は54.8万円。)。厳密には年齢や世帯類型に応じた検討が必要であるが、それぞれの世帯に係る平均賃金で見た場合は、共働き世帯から片働き世帯への所得移転が行われていると見ることができる。ただし、これは、応能負担の考え方の下で必要度に対応した給付体系をとっていることの結果である。

(2) 第3号被保険者の保険料負担能力に関する考え方について

婚姻費用分担請求権に基づく第3号被保険者の保険料負担能力に関する考え方

 第3号被保険者の保険料負担能力に関する考え方について、先に述べた帰属所得の考え方のほかに、年金保険料は婚姻費用に含まれ、この婚姻費用を夫婦は共同で負担しているという考え方も提案されている。この考え方の骨格は次のとおりである。

○ 婚姻共同生活を送る上での生活費(民法上の婚姻費用)は家庭外で労働する配偶者が拠出するが、夫婦が共同で負担しており、その中に老後生活の保障の根拠となる年金保険料は当然含まれる。

○ 仮に配偶者が婚姻費用を支払わないときには、被扶養者は配偶者に対して婚姻費用分担請求権を持ち、配偶者は婚姻費用を支払う義務を有する。したがって、第3号被保険者には年金保険料を支払う能力がある。

 これは、婚姻費用という概念で整理することにより、所得のない第3号被保険者であっても保険料負担能力があると考えることができることを法的に説明付ける考え方である。これに関しては、いったん被用者の賃金全体を保険料負担能力としてとらえた上で、同じ賃金を起源とする婚姻費用を被用者の配偶者に係る保険料負担能力として重ねてとらえることが適切といえるのかとの意見もある。いずれにしても、婚姻費用分担請求権に基づく考え方をもとに現実の政策として、第3号被保険者に保険料負担を求めることが相当であるかという点については、さらに議論が必要である。

配偶者の賃金に対する潜在的な持分権に基づく第3号被保険者の保険料負担能力に関する考え方

 また、

○ 第3号被保険者はその配偶者と婚姻共同生活を送っており、両者は家庭の内外での労働を分担し、第3号被保険者は家事労働で帰属所得を発生させているが、両者の労働の評価は、原則として家庭内では均等・平等であり、家庭外で獲得した資産は離婚・死亡の清算時に原則として均等に分割されるべきものである、

○ 第3号被保険者には、潜在的ではあるが、この獲得した資産に持分があるところ、将来に備えて潜在的な持分を年金保険料の形で具体化していくことも、法的には説明可能である、 という考え方もある。

 この潜在的な持分権に基づいた考え方については、(1)現段階ではまだ我が国の税制、労働法制等の社会制度において具体化されていない中で、年金制度のみがこの考え方を採用することが妥当かどうか、(2)潜在的持分権は婚姻期間中に増加した資産を対象とした考え方であり、こうした潜在的持分権の考え方をフローである賃金全体に当てはめることはできるのかといった意見があることを踏まえ、さらに議論が必要である。

 さらに、このような婚姻費用分担請求権や配偶者の賃金に対する潜在的な持分権の考え方をとることにより、第3号被保険者は保険料負担能力があると考えられることから、第3号被保険者制度を続けることには問題が多い、したがって、直ちに廃止することは困難であるとしても、将来的にはこれを廃止することとし、その時期を明記すべきとの意見があった。

短時間労働者に対する厚生年金の適用拡大との関係に関する意見

 短時間労働者に対し厚生年金の適用拡大を行いつつ、第3号被保険者制度を存続する場合、比較的高賃金である配偶者をもつ者が引き続き第3号被保険者にとどまると考えられ、公平性の観点からも併せて第3号被保険者制度の廃止や見直しが必要であるという意見があった。これについては、短時間労働者に対する厚生年金の適用拡大を講じた場合、働きたくても働けない者等も第3号被保険者にとどまると考えられ、配偶者が比較的高賃金であるもののみが第3号被保険者にとどまるという見方は適切ではないという意見があった。

(3) 第1号被保険者と第3号被保険者の公平性について

 第1号被保険者との均衡から、第3号被保険者にも第1号被保険者と同様の保険料負担を求めるべきであるとの指摘がなされることがある。

第1号被保険者に対する定額保険料の考え方

 自営業者、農業者等の第1号被保険者に関しては、第2号被保険者と違い、その就業や稼得の形態が様々であり、所得把握の状況も一律には考えられず、現実の所得を適切に把握することは困難であるため、実際の所得の帰属や多寡を問わず一律に保険料負担能力を有する者とみなして、夫と妻それぞれに定額保険料を課すとともに、保険料の免除制度を準備している(現行の制度においては、免除を受けた場合の給付は1/3となる)。
 一方、第2号被保険者については、生計の源泉である給与所得は一律に把握されている。このような給与所得によって生計が維持されている第2号被保険者の被扶養配偶者について、第1号被保険者と同じ位置付けを行うことの是非を論じる場合には、所得把握の違いやそれに伴う保険料負担能力のとらえ方の違いについて十分留意が必要である。

第2号被保険者や第3号被保険者と比べた場合の不公平の指摘とそれに対する対応の方向性

 一方で、昭和36年に国民年金が創設された頃と比べて、第1号被保険者の様相も変化し、短時間労働者等の被用者や無職の者も相当数存在するとともに、第1号被保険者の中にも所得の格差があることは事実である。このような状況の中で、現行制度では第1号被保険者として自営業者、農業者を主に想定しつつ、そうではない者も含めて一律に保険料負担能力を有する者とみなして定額保険料を課していることへの疑問や、厚生年金の適用を受けている被用者世帯(第2号被保険者、第3号被保険者)と比べて不公平であるとする意見もある。
 このような点については、前述したように、被用者についてはできるだけ厚生年金を適用する方向での検討が必要と考えられる。また、第1号被保険者の保険料負担についても、今後、税制の見直し等により自営業者等の所得把握の改善が進めば、所得に応じた保険料負担という本来の応能負担という方向で考えることが望ましいと考えられる。

(4) 昭和60年までは専業主婦の多くは任意加入し国民年金の保険料を支払っていたことについて

 昭和60年改正以前の制度では、専業主婦の約7割が任意加入制度によって国民年金に加入し、保険料負担をしていたのであるから、現行の制度において、専業主婦であっても保険料負担能力はあるのではないかとの指摘がなされている。

プラスアルファの給付としての昭和60年改正前の国民年金の任意加入制度

 前述のように、昭和60年改正前は、片働き世帯の夫に対する「定額+報酬比例+加給年金」という厚生年金水準によって、夫婦二人の老後の生活が支えられるという考え方で給付設計されていた。したがって、妻の国民年金への任意加入によって得られる年金は、いわばプラスアルファであり、それゆえに「任意」、すなわち加入して保険料を払おうと思う人のみが加入していたものである。

昭和60年改正による年金制度の設計変更

 しかし、昭和60年改正により、給付水準が適正化され、将来に向けてプラスアルファとしての任意加入制度は廃止されるとともに、片働き世帯については、夫と妻ともに強制加入の下で、二人分の基礎年金+夫の報酬比例年金という水準によって、夫婦二人の老後の生活が支えられるという設計に変更されている。
 この際、強制加入対象となった被扶養配偶者に対し、保険料負担を義務として求めることは困難であることから、現在のような制度が設けられたものである。(資料V−3−3:昭和60年改正前後の被用者の被扶養配偶者に係る保険料負担と給付の位置付けの違い

昭和60年改正前と現行制度とでは、被扶養配偶者の位置付けが全く変わっている

 このようなことから、第3号被保険者の保険料負担能力を論じる上では、昭和60年改正前と現行制度とでは、被扶養配偶者の位置付けが全く変わっていることに留意すべきである。この点に関しては、約7割の専業主婦が任意加入していたことを評価して、すべての第3号被保険者に保険料負担を求めることは可能であるという意見があるとともに、これに対して全国民共通の基礎年金とするためには任意加入していなかった約3割の専業主婦の存在を重く考える必要があるという意見があった。

(5) 第3号被保険者に対する基礎年金の水準について

 現行の年金制度においては、基礎年金の水準は、全国民共通の給付として老後の基礎的な生活を賄うという考え方に立って設定されている。検討会においては、全国民共通の給付としての基礎年金制度を前提として第3号被保険者に係る保険料負担のあり方についての議論が進められたが、第3号被保険者の就労意欲を積極的に高めていこうとする観点から、短時間労働者に対する厚生年金の適用を行うとともに、育児や介護等の事情で就労が困難である場合について一定の配慮を加えた上で、それ以外の期間に係る第3号被保険者に対する基礎年金給付については減額する方法も考えられるという意見があった。この意見に対しては、実態として、ほとんどの世帯が何らかの第3号被保険者期間を有しており、このような措置を講じれば相当数の世帯で受給する年金水準が下がるという意見があった。

(6) 基礎年金の税方式化による第3号被保険者問題の解決について

 基礎年金について社会保険方式をとる現行の財政方式を改め、これを税方式化(=目的間接税等すべて税財源による方式)することにより、国民年金のいわゆる空洞化問題への抜本的な解決策となり、すべての国民に基礎年金を保障することができるとともに、第3号被保険者問題の解決にも資するのではないかという意見があった。
 このような税方式については、

(@) 自助自律の原則の下で、保険料を納めるという自己責任を果たした者が年金給付を受けるという仕組みを基本とする我が国社会保障のあり方と適合しないのではないか、

(A) 基礎年金給付に係る負担は巨額であり、さらに将来に向けて相当増加させなければならないものであるが、個々人の年金受給権及び年金額と個々人が払う目的間接税等の税負担が連動しない税方式によって、このような巨額の負担について国民の合意が得られるか。仮に税負担の引き上げの合意が得られなければ、所得制限の導入や給付水準のカット等が行われ、年金は「第二の生活保護」化してしまうのではないか、

等の問題がある。


(参考) 第3号被保険者自身の保険料負担に対する意識について

 検討会における議論に際しては、第3号被保険者自身が保険料負担に関してどのように考えているかという点についてもとりあげられた。
 この点については、第3号被保険者の中には自分の保険料も含めて夫の給料から天引きされていると誤解している者も少なくないという意見、第3号被保険者に係る保険料負担は第2号被保険者が全体で負担していて自分の夫が特別に上乗せして負担をしているのではないことを説明すると、自分も負担すべきという考えを持つ者も少なくないという意見があった。また、専業主婦や専業主婦経験者を交えたフリートーキング(第11回検討会)では、第3号被保険者経験を有する参加者から「自分は負担してもよい」という意見もあった。
 なお、この点については、平成8年に行われた「女性のパートタイム労働者等に関する調査」(厚生省年金局)や、平成10年に行われた「平成9年度国民生活選好度調査」(経済企画庁国民生活局)がある。(資料V−3−4:第3号被保険者の実態について

(2) 見直し案とそれについての議論

(1) 典型化した見直し案

 以上に述べた議論を踏まえた上で、検討会では、的確な議論を進めるため、第3号被保険者に係る保険料負担に関する各方面からの意見や検討会で出された様々な提案について、保険料負担を求める考え方、保険料負担を求める主体、具体的な負担の方法等の点から、典型化した見直し案に整理し、それぞれの提案の利点及び論点について、踏み込んだ議論を行った。
 典型化した見直し案に整理するに至った考え方は次のとおりである。

(注)なお、以下の記述に当たっては、便宜上、第2号被保険者=夫(夫が第3号被保険者の場合の妻を含む。)、第3号被保険者=妻(妻が第2号被保険者の場合の夫を含む。)として説明している。

 まず、第3号被保険者に係る保険料負担を、従来どおり第2号被保険者全体で負担能力に応じて求めるか、あるいは第3号被保険者を抱える片働き世帯グループの中で第3号被保険者に対する基礎年金という受益に着目した負担を求めるかという点から、考え方が整理できる。
 この場合、被扶養配偶者に保険料負担を求めつつ応能負担の考え方を貫くため、前述した潜在的な持分権を夫の賃金全体に及ぼすことで、夫の賃金を分割して妻の賃金を想定するという考え方がある。
 さらに、受益に着目した保険料負担を求めるという考え方に立つ場合に、妻自身に保険料負担を求める考え方と、夫を通じて保険料負担を求める考え方があり得る。この場合、通常は被扶養配偶者には所得がないことから、妻自身に保険料負担を求める場合は定額負担とならざるを得ないが、夫を通じて保険料負担を求める場合には、定額負担(第3号被保険者を抱えるグループの中でも受益に着目した負担)と所得に応じた定率負担(第3号被保険者を抱えるグループの中では負担能力に応じた負担)の2つの考え方がある。
 以上を踏まえ、第3号被保険者に係る保険料負担の考え方について、整理すると、
 第I案 第3号被保険者に係る保険料負担を負担能力に応じて負担―妻―定率負担
 第II案 第3号被保険者に係る保険料負担を受益に着目して負担  ―妻―定額負担
 第III案 第3号被保険者に係る保険料負担を受益に着目して負担  ―夫―定額負担
 第IV案 第3号被保険者に係る保険料負担を受益に着目して負担  ―夫―定率負担
とすることができる。

 この4つの案に加えて、夫の賃金が高くなると専業主婦世帯の割合が高まることに着目して、高賃金者である夫に対して、標準報酬上限を引き上げて保険料の追加負担を求め、応能負担を基本とした体系の下でその考え方を徹底することにより、実質的な公平を図る案(第V案)もあり得る。
 現行の仕組みとこれらの5つの案を体系的に整理すると、次表のとおりとなる。

第3号被保険者に係る保険料負担の考え方
現行 【第3号被保険者に係る保険料負担を負担能力に応じて負担―夫―定率負担】
通常は所得のない第3号被保険者に独自の保険料負担を求めることとせず、第3号被保険者に係る拠出金負担は、夫の加入する被用者年金制度全体で定率負担するもの。
第I案 【第3号被保険者に係る保険料負担を負担能力に応じて負担―妻―定率負担】
潜在的な持分権の具体化による賃金分割を行った上で、妻自身にも分割された賃金に対して定率の保険料負担を求めるという仕組み。
個人で負担し個人で給付を受けるという考え方を、応能負担の仕組みを維持しながら貫くことができ、片働き、共働きを通じて、夫と妻それぞれに給付と負担の連動が明確となる。また、報酬比例部分も含め、離婚した場合の年金給付のあり方が明確となる。
第II案 【第3号被保険者に係る保険料負担を受益に着目して負担―妻―定額負担】
第2号被保険者の定率保険料は第3号被保険者の基礎年金に係る拠出金負担分を除いて設定し、それとは別に、第3号被保険者たる妻自身に、第1号被保険者と同額(現在13,300円)の保険料負担を求めるという仕組み。
第3号被保険者も含めて個々人全員が受益に着目した負担という考え方から保険料負担を行うことにより、第3号被保険者に係る保険料負担についての不公平感を解消できる。
第III案 【第3号被保険者に係る保険料負担を受益に着目して負担―夫―定額負担】
第2号被保険者の定率保険料は第3号被保険者の基礎年金に係る拠出金負担分を除いて設定し、第3号被保険者のいる世帯の夫には、それに第1号被保険者の保険料と同額(13,300円)を加算した保険料負担を求めるという仕組み。
所得のある者から保険料負担を求めるという考え方を貫きつつ、受益に着目した負担という考え方を導入することにより、第3号被保険者に係る保険料負担についての不公平感を解消できる。
第IV案 【第3号被保険者に係る保険料負担を受益に着目して負担―夫―定率負担】
まず第2号被保険者の定率保険料を第3号被保険者の基礎年金に係る拠出金負担分を除いて設定し、第3号被保険者のいる世帯の夫には、それに第3号被保険者に係る拠出金負担に要する費用を第3号被保険者のいる世帯の夫の賃金総額で割った率を加算した保険料負担を求めるという仕組み。
被用者の保険料負担に係る応能負担の考え方を貫きつつ、第3号被保険者について世帯単位での受益に着目した負担という考え方を導入することにより、第3号被保険者に係る保険料負担についての不公平感を解消できる。
第V案 【第3号被保険者に係る保険料負担をより徹底した形で負担能力に応じて負担―夫―定率負担】
夫の賃金が高くなると専業主婦世帯の割合が高まることに着目し、高賃金者について、標準報酬上限を引き上げて、保険料の追加負担を求めるという仕組み。
片働き世帯が相対的に高賃金であることに着目して、高賃金者の保険料負担を引き上げることにより、実質的に第3号被保険者に係る保険料負担についての不公平感を縮減できる。

 また、これらの案とは別の切り口で整理した考え方として、第3号被保険者としての扱いを受ける者を、育児や介護の期間中の被扶養配偶者に限定するという案(第VI案)も提案された。この場合は、このような期間にある者以外の被扶養配偶者については、第I案〜第V案のいずれかと組み合わせることとなる。

第VI案 第3号被保険者を、育児・介護期間中の被扶養配偶者に限るという仕組み(その余の期間については、他案のいずれかの方法で保険料負担を求める。)。
第3号被保険者としてのメリットを受けられる期間を育児等の活動を行っている期間に限定することにより、第3号被保険者に係る保険料負担についての不公平感を縮減できる。

(2) 典型化した見直し案を議論する際の主な論点

 検討会では、この典型化して整理した見直し案について、踏み込んだ議論が行われたが、これらを論じる際の主な論点は次のとおりと考えられる。

(@) 潜在的な持分権に関する論点(第I案関係)

 第I案については、年金制度を個人単位化しつつ、負担能力に応じた負担という考え方を貫徹させようという点では評価できるが、潜在的な持分権の具体化による賃金分割という手法が、我が国の税制、労働法制等の社会制度に組み込まれていない中で、現段階で年金制度のみがこの考え方を政策として採用できるかどうか、一層の議論が必要である。

(A) 事業主負担に関する論点(第I案、第II案、第III案、第IV案関係)

 現在、第3号被保険者に係る保険料負担の半分(第3号被保険者に係る基礎年金の拠出金負担に相当する分で計算すると、平成11年度で0.85兆円。)は、実質的には事業主の負担により賄われているが、第I案から第IV案については、これについて引き続き事業主に負担を求めることができるかという点や、仮に求められない場合これに代わる財源をどこに求めるのかという点も、大きな論点である。

(B) 第3号被保険者に係る保険料負担を受益に着目して負担するという考え方に関する論点(第II案、第III案、第IV案関係)

 第II案、第III案及び第IV案に共通する論点として、前述のように、第3号被保険者に係る保険料負担について受益に着目して負担するという考え方を導入することの妥当性については、

○ 基礎年金の費用負担に関しては、現行制度では、第2号被保険者及び第3号被保険者に係る拠出金負担について、保険料を報酬比例で負担する被用者年金制度全体で負担することで、自らの保険料負担のない第3号被保険者のみならず、賃金が低く保険料負担の低い第2号被保険者の保険料負担も軽減されている。このような中で、第3号被保険者だけに受益に着目した負担という考え方を適用することが整合的であるかどうか、また妥当であるか、

○ 諸外国の年金制度においても、応能負担の考え方を基本として、通常は所得がない者は年金制度の適用外となっている中で、諸外国と異なり全国民共通の基礎年金の枠組みをとる我が国において、通常は所得のない者に対して受益に着目した負担の考え方をとり入れることが妥当であるかどうか、

等の論点もあり、前述の応能負担と応益負担に関する制度体系の基本の選択に関わる問題として、なお綿密な議論が必要である。

(C) 定額保険料に関する論点(第II案、第III案関係)

 第II案及び第III案については、現在、やむを得ず第1号被保険者に対してとられている定額保険料の仕組みを、さらに第3号被保険者にも及ぼすこととなり、保険料負担の逆進性の問題を一層拡大させることについてどう考えるかという論点もある。

(D) 雇用行動に対する影響等に関する論点(第III案、第IV案関係)

 第IV案は、応能負担の考え方をとる現行制度体系の中で、第3号被保険者に係る世帯単位での受益に着目した負担という考え方をとり入れるという工夫がなされたものであるが、片働き世帯の夫(妻)に課される保険料率が共働き世帯の夫と妻に課されるものよりも高くなることについて、事業主の理解が得られるか、また、雇用行動に何らかの影響を及ぼす可能性はないかという論点もある。また、第III案にも同様の論点がある。

(E) 共有すべきリスクの分化に関する論点(第III案、第IV案関係)

 第III案及び第IV案については、「所得のない第3号被保険者に係る保険料負担について、被用者の間で共有すべきリスクととらえる社会連帯が崩れており、第3号被保険者に係る保険料負担は、第3号被保険者を抱える被用者の間で負担するのが妥当。」という考え方を背景としている。
 これについては、被用者間でのリスクの違いには、第3号被保険者の有無だけでなく、例えば性別の違いや子供の有無のように様々なものがある中で、社会保険制度の下で国民が共有すべき社会的なリスクをどう考えるかという点も考慮しながら、十分に議論を重ねていくことが必要である。

(F) その他の論点

第V案及び第VI案に関する論点等

 第V案については、部分的な解決策にとどまるのではないかという論点や、賃金の高い者により多くの負担を求める手法が今日の税制や社会保障制度における所得再分配施策の流れの中でどのように位置付けられるのかという論点がある。また、第VI案についても、育児・介護等により就労できない者について、被用者間で連帯して年金給付を保障する考え方であるが、この期間中にある者以外の被扶養配偶者の扱いをどうするかという論点のほか、後で述べるように、育児・介護期間中にある者に対して年金制度上の特別な配慮をとることが妥当かどうかという論点がある。
 このほか、第I案及び第II案については、雇用関係のない妻自身に賦課される保険料の特別徴収(いわゆる天引き)が可能かどうか、仮に特別徴収ができなければ未納の増加を招くおそれはないかという論点もある。

医療保険に関する論点(すべての案に関係)

 最後に、すべての案について、医療保険も同じように見直すことが必要なのかという点も、影響が大きく、十分に議論すべき論点である。


4 今後の検討

問題の大きさを踏まえつつ、国民各界各層の間で、さらに踏み込んだ議論が行われ、国民的合意が形成されていく中で、適切な結論が見出され、改革が行われていくことを強く望む

 検討会では、前述のように、現在の第3号被保険者制度についての様々な議論の整理を行った上で、的確な議論を進めるため、第3号被保険者に係る保険料負担の考え方に関する各方面からの意見や検討会で出された様々な提案を踏まえて、典型化した見直し案という形に整理して示すとともに、その利点や議論する際の主な論点も明確に提示したところである。(資料V−3−5:第I案資料V−3−6:第II案資料V−3−7:第III案資料V−3−8:第IV案資料V−3−9:第V案資料V−3−10:第VI案
 この問題は、個人単位と世帯単位、応能負担と応益負担、公平性の確保という社会保障制度としての我が国年金制度の基本に関わる大きな問題である。こうした問題の大きさを踏まえつつ、国民各界各層の間で、さらに踏み込んだ議論が行われ、国民的な合意が形成されていく中で、適切な結論が見出され、改革が行われていくことを強く望むものである。



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