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第12回内分泌かく乱化学物質の健康影響に関する検討会
議事録


厚生労働省 医薬局 審査管理課 化学物質安全対策室


内分泌かく乱化学物質の健康影響に関する検討会(第12回)議事次第

日時:平成13年10月16日(火) 13:00〜16:50
場所:中央合同庁舎第5号館(厚生労働省)低層棟2F 講堂

1 開会
2 前回議事録の確認
3 議題
  (1)中間報告書追補(案)について
  (2)その他
4 その他
5 閉会

〔出席委員〕
伊東座長
青山委員  阿部委員  井上委員  押尾委員
櫻井委員  紫芝委員  鈴木(勝)委員  鈴木(継)委員
高杉委員  武谷委員  津金委員  寺尾委員
寺田委員  中澤委員  西原委員  藤原委員
松尾委員  安田委員  山崎委員  和田委員

〔報告者〕
菅野、関澤、牧野

〔事務局〕
鶴田医薬担当審議官、山本化学物質安全対策室長、宮原補佐、吉田補佐、黒羽専門官、
間瀬係長、川嶋主査、平野主査

〔オブザーバー〕
文部科学省、農林水産省、経済産業省、環境省、水産庁、海上保安庁


○事務局
 それでは、定刻となりましたので、ただいまから第12回内分泌かく乱化学物質の健康影響に関する検討会を開催させていただきます。本日は御多忙中のところお集まりいただきまして誠にありがとうございます。
 本日は3名の先生方が御欠席ということで、まだ遅れていらっしゃる方がいらっしゃるようですけれども、合計23名の委員の方々で検討会を進めさせていただきます。また前回と同様、検討作業の関係者の方にも同席いただくことにしております。よろしくお願いいたします。
 まず、開催に当たりまして、本日は宮島医薬局長が当初出席予定でしたが、急遽、国会の関係で出席できなくなったため、鶴田医薬担当審議官からごあいさつ申し上げます。よろしくお願いいたします。

○鶴田審議官
 審議官の鶴田でございます。本日は、各委員の先生方におかれましては、お忙しいところをお集まりいただきまして誠にありがとうございます。
 前回の会合では、試験法開発や人の健康影響の解明等に関する重点課題につきまして、各作業班から検討成果を御報告いただいたわけでございます。本日は、これらの検討成果の取りまとめと、今後の行動計画を含む、本検討会の中間報告書の追補案につきまして御検討いただくこととなっております。
 厚生労働省といたしましては、御検討いただきました内容に従いまして、国民の健康な生活を確保するための施策を着実につなげてまいりたいと思っております。委員の先生方には、引き続き御協力のほどよろしくお願い申し上げまして挨拶に代えさせていただきます。

○事務局
 ありがとうございました。
 それでは、座長の伊東先生よろしくお願いいたします。

○伊東座長
 それでは、ただいまから第12回内分泌かく乱化学物質の健康影響に関する検討会を開催いたします。
 まず事務局から本日の配付資料の確認をお願い申し上げます。

○事務局
 それでは、配付資料の確認をさせていただきます。
 まず本日の議事次第でございます。第12回の検討会「議事次第」でございます。配付資料一覧が配られておりますので、それをごらんいただきながらチェックいただければと思います。本検討会の「席次表」でございます。あと本検討会の委員名簿でございます。資料1、これは委員限りでございますが、前回(第11回)の検討会の「議事録(案)」でございます。続きまして資料2「内分泌かく乱化学物質の検討影響に関する検討会中間報告書追補(案)」でございます。資料2に関しましては、別冊が幾つかございますので、紹介いたします。まず資料2の別冊となっている「中間報告書追補別冊(案)」となっているものです。これには、1枚めくっていただきまして、左側に「1 重点課題に関する検討班作業資料」ということで、まず「1−1 試験法スキーム」についての別添を付けてございます。右側から別添1、さらにページを7枚めくっていただきますと、左側のページから別添2が出てきます。その続きとしまして、別冊になりますが、右上に「別添3」と書かれているものがございます。これは後ろから7枚目のところを見ていただきますと、左側から別添4というものが出てきます。さらに後ろから5枚目のところを見ていただきますと、左側から別添5というふうになっております。別添の位置がそれぞれ確認しにくいのですが、後で御確認いただければと思っております。続きまして資料2の別冊、「1−2 採取・分析法」というふうになっているものでございます。続きまして、資料2の別冊の「1−3 低用量問題対策」というふうに書いてあるもの、続きまして、資料2の別冊の「1−4 暴露疫学等調査」というふうになっているもの。続きまして、資料2別冊の「2 健康影響に関するその他の調査研究等の取組」というふうになっているものでございます。別冊につきましては、委員のみの配付とさせていただいております。
 以上でございますが、もし資料の不備等がございましたら、挙手をお願いいたします。よろしいでしょうか。
 あと、今日各テーブルにマイクがございますけれども、お願いなのですが、各委員の先生方、発言されるときには、マイクを自分の方に向けていただいて発言いただくようにお願いいたします。講堂で場所が広いものですから、声が通らない可能性がありますので、御協力をお願いしたいと思います。
 事務局の方からは以上です。

○伊東座長
 ありがとうございました。
 続いて、前回議事録の確認でございます。事務局の方から御説明をお願いいたします。

○事務局
 それでは、配付資料1をごらんいただきたいと思います。(第11回)前回の検討会の「議事録(案)」でございます。これにつきましては、既に速記録をもとにして事前に委員の方々には内容を確認いただいたものであります。特段の問題がなければ、この内容で確定の上、公開の手続に入らせていただきたいと思いますが、いかがでしょうか。

○伊東座長
 先生方いかがでございますか。よろしゅうございますか。

(「異議なし」と声あり)

○伊東座長
 ありがとうございました。
 それでは、前回議事録については、この内容で確定させていただきます。事務局で必要な手続を進めてください。

○事務局
 ありがとうございました。
 これにつきましては、この後、厚生労働省ホームページの掲載など公開の手続に入らせていただきます。

○伊東座長
 それでは議事に入りたいと思います。議題の1といたしまして、「中間報告書追補(案)」でございますが、資料2は配付されております。本日の進め方につきましては、3つのセクションに分けて効率的に進めていきたい。なるべく早く効率的に進むように御協力をお願いしたいと思います。3つに分けまして、まず各論の部分の1番目「試験法スキーム」、2番目「採取・分析法」、3番目といたしまして「低用量問題対策」までを行いまして、次に、各論部分の4の「暴露疫学等調査」につきまして論議を進めまして、さらに「リスクコミュニケーション対策」までを行います。そして最後に、概要の部分及びその他の部分という順に進めていきたいと思います。他の委員の先生方もよろしくお願いいたしたいと思いますが、御異議ございませんか。

(「異議なし」と声あり)

○伊東座長
 ありがとうございました。
 それでは、このように進めさせていただきます。まず事務局の方から「重点課題の検討成果」の1から3までについて、これは長いですから、しっかりと水を飲みながら説明してください。

○事務局
 それでは、配付資料2につきまして説明させていただきます。
 まず初めに、この配付資料ですけれども、前回の検討会の後、各作業班の先生方と事務局とで作業いたしまして、今月10月4日に最初の案を各委員の方に送付して、10月11日までに御意見があれば提出いただくようにお願いしたところでございます。その後、数名の先生から修正、加筆等の意見をいただきまして、今回それを反映させたものを配らせていただいております。
 初めに、座長の方から説明がありましたように、資料2の各論の1から3の部分について説明したいと思います。恐縮ですが、配付資料2の13ページ、3としまして、「重点課題と検討成果」です。この13ページから15ページにかけましては、前回の検討会で御説明いたしましたが、今回の重点課題について短期的な検討を加えるという結論に至った経緯が説明してございます。これについては前回説明しておりますので省かせていただきます。
 続きまして、17ページをごらんください。(1)試験法スキームでございます。まずこの分野ですけれども、目的としまして、この検討班では、内分泌かく乱作用に関する事前スクリーニング試験、スクリーニング試験及び詳細試験の課題を整理して、今後の試験実施の方針を明らかにする。また、必要な場合には、試験プロトコールの作成も行う。なお、詳細試験に関しては、低用量問題対策における検討と連携して進める必要があるということで検討を進めていただきました。
 基本的な戦略ですけれども、この検討班では、図1に示してありますが、段階的なスクリーニングと詳細試験の関係を規定して、その各々の要素となる試験法について検討を加えるという体制をとっております。
 図の下でございますけれども、まずin silico(電算機内)予測につきましては、その処理スピードと経費の安さから、スクリーニングの第1段階として位置づけられる。その次に、ヒト培養細胞においてエストロゲン応答を測定する試験をロボット技術によってハイ・スループット(HTP)化した超高速測定法を置く。その次に、人工的に作成した高感度バイオアッセイとして、子宮肥大反応試験と、次の18ページにいきますが、ハーシュバーガー試験を配する。これらによって順位付けされた物質は、低用量域を含むホルモン作用が生物学的に説明可能な物質であるというふうにみなすことができ、ヒト健康への悪影響があるのかどうかについて、リスク評価のための詳細試験に供する優先物質となるということでございます。
 次に、in silico 予測についての説明ですけれども、これにつきましては、世界的にはCoMFA と呼ばれる3次元定量的構造活性相関(3D-QSAR) の統計解析ベースを用いるのが主流であるということ。これは、受容体の構造情報がない場合に、活性に必要な構造条件を推定するのに有効と考えられる。しかし、エストロゲン受容体のように、受容体構造が既知の場合には、受容体にうまくはまる分子モデルを探すドッキングモデル解析をベースにしたシミュレーションが有効と考えられたため、この検討班では、後者を採用しております。
 市販データベースACD(Available Chemical Directory) の約20万化合物、及び米国EPA のDr. John Walkerから共同研究として提供された約58,000種類の化合物リストについて、in silico の計算を行い、バーチャルスクリーニングを行った結果、1物質当たりの計算所要時間は4〜5分ということであります。そのうち、この後説明いたしますSPR 法(Surface Plasmon Resonance)による無細胞系及びHela細胞を用いた応答反応系におけるデータとの照合が可能であった部分について考察を進めているところでございます。
 次に、SPR 法ですが、この方法は、エストロゲン受容体αがDNA 応答配列及びコファクターと相互作用する際に、経時的かつリガンド依存的な結合・解離係数の変動を測定するものであります。これは、細胞を用いた試験系ではないにもかかわらず、アゴニスト(agonist)とアンタゴニスト(antagonist)の峻別ができることが大きな特徴であり、ハイ・スループット化も可能かもしれないという状況であります。
 次、19ページでございます。ヒト培養細胞を用いた応答反応系(ハイ・スループット・スクリーニング:HTPS)です。これは経済産業省と厚生労働省の共同研究によって、Hela細胞を基礎とするヒトエストロゲン受容体α応答反応を測定する試験というものを、ロボット技術によりハイ・スループット化した超高速測定方法を開発することに成功し、既にエストロゲン・アゴニスト及びアンタゴニストについて、再現性及び有用性に関するデータの蓄積が進んでいるところであります。一方、反応系の特性に起因すると思われる、受容体結合性からみた予想外の結果が若干得られており、その細部に対する検証がさらに必要であるということ。しかし、目的とするスクリーニング手法として適用するための基本的な性能には、問題がないことが示されつつあるということでございます。現在、エストロゲン受容体αに対応する試験系が確立されたところであって、他の試験系についても、開発を続行中であるという状態であります。
 次に、子宮肥大反応試験とハーシュバーガー試験です。卵巣摘出雌ラットを用いた子宮肥大反応試験、これはエストロゲン・アゴニストとアンタゴニストを検出するもの、及び去勢雄ラットを用いたハーシュバーガー試験、次のページにかかりますが、アンドロゲン・アゴニスト及びアンタゴニストを検出するものであります。これにつきましては、経済協力開発機構(OECD)が試験法ガイドライン作成のための検討を進めております。特に前者の子宮肥大反応試験については、国立医薬品食品衛生研究所の主導により試験プロトコールの開発と有効性の確認を実施して、現在ガイドライン化の作業を進めているところであります。また、ハーシュバーガー試験につきましては、米国の主導によって、開発した試験プロトコールの有効性確認を実施中であって、その作業が終了次第、ガイドライン化の作業に移るという状態であります。これらの試験によってスクリーニングが完了し、詳細試験を行うに当たっての優先リストが作成されるということになります。
 次が詳細試験ですけれども、詳細試験につきましては、従来の毒性評価法に則った「2世代生殖毒性試験」を中心とする比較的大規模なバイオアッセイを進めることで、一部の機関では実施に移っているところもある。しかし、この検討班では、「従来型の生殖毒性試験」における観測項目では、多くの候補物質が陰性の結果に終始することが予測されるとの立場に立って、また実際に予想どおり、一部の候補物質に対して陰性所見が得られているということだそうです。したがって、こういった一部の候補物質が陰性に所見になるという、これらの試験では、提起される低用量問題への対応が実質的に困難であると考えるのが中立的な科学的解釈であるという視点に経ちまして、現在までのところ、低用量問題を含む内分泌かく乱に関する生体反応の要点を簡便かつ詳細に掌握するためには、1世代試験などを中心に据えたmRNAの発現解析によるメカニズム解析研究が考慮されるというふうに説明してございます。また、このような手法を加味した上での胎生期・新生児期・思春期を対象とした試験法や、特定臓器に焦点を絞ったad hocな試験法、これは神経系、内分泌、発がん、免疫などというのがありますが、こういったものの開発も考慮されるということでございます。
 結語でございますけれども、図1に示しました階層的戦略によって、内分泌かく乱化学物質問題の解決に向けた試験法を逐次整理してきている。今後の焦点としては、スクリーニング試験に対しては、国内及び国際的要望に応えられるように、開発したプロトコールの細部調整と有効性確認をどのように行うかということを考える必要がある。また最後の4行ですけれども、低用量問題について、メカニズムの把握に依拠した有害性の認定が求められることから、生体の成長過程(胎生期・新生児期・思春期)や生体反応の局面(神経系、内分泌系、発がん、免疫など)を切り出した特異的実験系による方法も並行して行われる必要があると考えられるということであります。
 21ページでございますが、この検討班で協力いただきました関係者の方及び参照となる文献等を提示してございます。
 続きまして、22ページですが、(2)採取・分析法について説明いたします。
 まず概要でございます。内分泌かく乱化学物質の分析結果については、内分泌かく乱化学物質に対する社会の関心の高さから、数値だけが一人歩きする傾向にあります。特に信頼性の高くない分析法によるデータの取得や、安易なデータの解釈及び取扱によって、社会を混乱させている場合があるのも事実です。
 そこで、この本検討班では、内分泌かく乱化学物質の採取から分析までを包括した精度管理等ガイドラインの策定を目標として作業を進めてまいりました。当初より、生体試料については調査作業を開始しておりましたが、その分析法について、現時点で公表されている学術論文をレビューしてみると、発表されている分析法については、まず複数の専門家の評価を受けて公表されている分析法がほとんどないこと、また、汚染を防ぐために、実験室での分析に入る以前の検体の採取・保存や実験室内の分析において留意すべき点があり、これを怠ると分析結果の信頼性が損なわれるということ、また、代謝物に関する検討がなされていないこと、こういったことなど信頼性の高い分析法として採用するには、満足すべき評価はできず、ガイドラインとして提示できる段階にはないという結論に至りました。
 そこで、この検討班では、まず、食品中に混入する代表的な3物質、ビスフェノールA、フタル酸エステル類、ノニルフェノール、これを当面の調査物質として検討いたしました。まずこの作業では、測定分析に関して、食品衛生上問題とすべき食品試料を対象とした信頼性の高い分析法を提示し、さらにその分析法に対する注解等を示して、分析担当者あるいはデータの解析・評価をする方の参考になる指針を提供することを念頭において編集を行い、その成果を「食品中の内分泌かく乱化学物質分析ガイドライン」として取りまとめました。
 これは暫定ガイドラインでありますが、2部から構成されまして、第1部に一般試験法ガイドライン、第2部に個別試験法ガイドライン(食品対象)として、ビスフェノールA、フタル酸エステル類、ノニルフェノールの3物質の分析法を示しております。食品容器包装材料に関連する材質試験や溶出試験については除外しております。また第2部の個別試験法は、客観的な論文審査のなされている学術誌に掲載されている論文を参考論文としております。
 これら化合物の分析法につきまして、今後も様々な手法を用いた新規分析法が報告される可能性もあり、引き続いて情報の収集・評価を行う必要があります。さらに、精度管理を視野に入れ、同一試料のクロスチェックを実施して当該分析法の妥当性を検討する等の研究が別途必要であります。
 23ページをお願いします。また、生体試料を対象とした採取・分析法については、今後も最新の分析法を検索し、信頼性の高い分析法を基軸としたガイドラインを構築する必要があります。
 また、実験動物の飼育及び実験環境からの暴露調査を実施して、内分泌かく乱作用のスクリーニングや観測を目的とした動物実験の信頼性を検証し、試験法の改善に役立てることが必要であるというふうに締めくくってあります。
 以降、第1部とありますけれども、ここに示されているのが、まず食品中の内分泌かく乱化学物質分析ガイドラインの一般試験法に該当するものです。長いですので、「はじめに」のところを読ませていただきますが、内分泌かく乱化学物質等の食品中に存在する濃度は、一般的に低濃度であり、現在の分析測定技術レベルで考えられる範囲において、信頼性の高い数値を得るためには、分析装置や測定室の設備に加えて、測定・分析操作等に関わる一定水準以上の技術が要求されます。
 そこで、内分泌かく乱化学物質等の食品試料中の濃度を測定するための一般的留意点をまとめたというものです。なお、ここで示した以外にあっても測定結果の信頼性を確保出来ることが認められればその方法を採用してもよいということでございます。
 以降、まず1.として「試料採取」、24ページにいきまして、2.ですが、「器具・装置及び試薬」、さらに25ページにいきまして、3.として「分析法」、4.として「検出下限値」、一番下ですけれども、26ページにかけまして、「精度管理」、さらに27ページにいきますけれども、6.の「外部機関とのインターキャリブレーションを行うことが望ましい」、7.の「その他」という構成からなっております。28ページには、別添としましては、この測定法のチャートを示してございます。
 29ページ以降は、第2部ということで、個別物質の試験法ということになります。まず29ページの「食品中のビスフェノールAの分析法」。この試験法の概要はここに書いてありますように、食品からアセトンによりビスフェノールAを抽出し、抽出液をC18 及びPSA (primary secondary amine) カートリッジにより精製後、ヘプタフルオロブチル(HFB) 誘導体とした後にガスクロマトグラフ/質量分析計(GC/MS)で定性・定量するというものでございます。
 以下、「試薬」、「器具」、30ページでありますけれども、「装置」、「試験溶液の調製」「試験操作」、31ページにいきますけれども、「検出下限・定量下限」、そして「注解」という形で構成が成り立っております。32ページに、最後ですけれども、参考文献と参考資料というものを紹介してございます。
 33ページ、これは食品中のフタル酸エステル類の分析法です。試験法の概要ですけれども、食品からアセトンによりフタル酸エステル(PAE)を抽出し、抽出液をフロリジルカラムクロマトグラフィーによって精製し、GC/MSで定性、定量を行います。本法は農水産物、加工食品全般に適用することができ、分析の対象となるPAE は、フタル酸ジエチル(DEP)、フタル酸ジプロピル(DPP)、フタル酸ジ-n- ブチル(DBP)、フタル酸ジ-n- ペンチル(DPeP)、フタル酸ジ-2- エチルヘキシル(DEHP)、フタル酸ジシクロヘキシル(DCHP)、フタル酸ブチルベンジル(BBP)であるというふうになっております。
 以下同様の構成となっております。
 36ページまで飛びまして、36ページの一番下の部分でございますが、食品中の4−ノニルフェノールの分析法でございます。試験法の概要ですけれども、各種食品(精白米、畜産物、水産物、乳製品、野菜、果物)からアルカリ性エタノールで加熱還流して抽出し、精製後、GC/MSにより定性、定量を行います。37ページの方に入っております。本試験の主な対象化学物質は、4−ノニルフェノールですが、その他のアルキルフェノール(4−ブチルフェノール、4−ペンチルフェノール、4−へプチルフェノール、4−オクチルフェノール)や2,4−ジクロロフェノールに応用が可能であるというふうになっております。以下の構成は同様でありますので、説明は省かせていただきます。
 39ページでございますけれども、最後に、この検討班の検討協力者の方々及び参照文献等を示させていただいております。
 続きまして、40ページをごらんください。(3)低用量問題対策であります。
 まず1.として「はじめに」でありますが、低用量作用問題は、種々のホルモン様作用を持つ化学物質の受容体を介した作用様式、その受容体側の多様な反応特性及びホルモン様物質の形態形成期にかかわる不可逆性変化に関連した要因など、いくつかの異なった要因によって構成されており、各要因の作用メカニズムに解明が待たれている。この問題が現状では可能性の問題であるとはいえ、そうした1つのメカニズムに関わることが明らかになりつつあることは、地球規模の研究の進展に基づく重要な知見である。しかし、これまでのいずれの化学物質の毒性解明に当たってもしばしばそうであったように、毒性発現メカニズムを明らかにすることは容易なことではない。
 そうした背景に立って、米国環境保護庁では、昨年10月、ノースカロライナ州で低用量問題に関する国際的な専門家による文献査読 (peer review)会議を行った。ここでは、低用量作用の存否に関わるデータのそれぞれに対して低用量影響が存在するという見解と低用量作用が認められないとする双方に信頼性(credibility) を確認するという結果に終わり今後に解明すべき課題を残したが、同時に低用量作用の毒性学的な意義を明確にできなかったという現段階における認識を浮き彫りにしたということであります。
 したがって、この問題では、以上のような現状に沿って、メカニズムの面からの解明と現実的な面からの対策の双方から対応することが肝要であるということであります。
 したがいまして、本検討班におきましては、これらの内容を明らかにし、今後の解決への道筋を明らかにすべく検討を行ったということであります。
 2.としまして、低用量作用におけるホルモン様作用と内分泌かく乱の区別であります。内分泌かく乱化学物質問題では、ホルモン様作用(内分泌作用) を及ぼす化学物質の存在と、それらの生体障害性(内分泌機能かく乱)の両面について仮説が提示され、それぞれ検討がなされてきた。試験法の開発において、ホルモン様作用の有無を同定・検出する試験法の開発とその生体障害性作用を検出する方法がそれぞれ検討されているように、前者と後者の作用メカニズムは、今後の対応策などを念頭に置いたとき、相互の関連を保ちつつ、分けて分析される必要があるということであります。
 ホルモン様作用を持つ化学物質は、(1)何らかの形で種々の生体内ホルモン受容体との直接相互作用を有するものと、(2)としてこれらへの間接作用を有するもの、特に、(3)としまして、内分泌ホルモン代謝に対して作用するものなどに区別される。(1)〜(3)の諸作用は相互に関連しており、特に、受容体との相互作用、閾値問題、用量作用反応の性質、作用シグナルの特徴、さらにそれらの胎児や新生児に対する特異的な影響に関心が集まっているということであります。
 そこで、この検討班には、低用量問題に対する集中的な作業が求められているので、ここでは生体ホルモン受容体に対する種々の化学物質の相互作用の問題を中心に検討を行い、次に41ページに入ります。その他の事項については、必要に応じて記述を付加することでこのレポートを構成しております。
 3.ですが、ホルモン様作用を有する化学物質。ホルモン様作用を有する物質には、(1)生体内の生理的ホルモン、(2)生理的ホルモン作用を目標に作られたホルモン療法に用いられる種々の医薬品、(3)植物などに含まれホルモン様作用を示すことの知られる植物性ホルモン様物質、及び(4)生活を取り巻く種々の化学物質の中でそうしたホルモン受容体との相互作用もしくは内分泌器官への影響の知られる物質群などが挙げられる。この他に、受容体との相互作用を介さないステロイド代謝に対する修飾を含む、性腺への作用物質が、広義のホルモン様作用物質として加えられます。
 ホルモン様作用を有する化学物質の受容体作用の特徴としては、(1)種を越えた受容体構造の近似性、(2)各種性ステロイドホルモンの活性部分の構造の近似性、(3)それらの代謝排泄様式の特異性、(4)低用量作動性、及び(5)受容体反応特有の未知の事柄、これには結合性とシグナル、結合と解離、シグナルの交叉性、未知の核内受容体の関与などがあります。これらを挙げることができる。これらの多くは生体内の生理的作用物質(生体内ホルモン)の存在下で付加的に作用する性質を有する点で、一般化学物質とは異なった様式の生体影響を示すことも、作用様式の特徴として認識されるということであります。
 これらの化学物質の"ホルモン様作用の強さ" の評価ですが、評価法によって明らかに異なるということです。例えば受容体結合反応でみる反応性の強さと、受容体と作用物質(リガンド)の解離における係数を指標にみた時、双方の反応の強度は、必ずしも平行しない。そして両者ともに、生体影響の各々の局面を表現していると考えられる。これらの相関関係は解明の途上にあって、現状ではリスクを一般化した表現で説明できる段階にはないが、これらの物質のホルモン様作用は、生体内の生理的ホルモン自体の作用も含め、低用量と高用量の生体作用様式が異なるなど、生体障害性の有無についての議論は投与様式に関わることが多い。極端な条件下での生体障害性の如何については、摂取・摂食量に応じた一定の説明ができると考えられるが、例えば、大豆食品の成分であるゲニスタインの場合、抗乳がん作用や、閉経期以後のホルモン代替療法としての有効性も信じられているということであります。
 これまでホルモン作用を有する農薬の安全性評価も行われておりますが、ここで取り上げる課題は、従来考えられているよりも低用量で見られる影響という点で区別されます。またホルモン様作用を有する化学物質の中には、高用量で受容体経由以外の生物影響や毒性作用を示す場合もあることに注意しなければならないということです。
 次に4.です。低用量作用を巡る諸問題です。多くの化学物質の高用量における生体影響・生体障害性に対する安全管理についての考え方は、それなりの整備がなされていると考えられることから、前項にみたような生理的作用と生体障害性の境界にまたがった形での低用量作用が問題の焦点となります。
 42ページをお願いします。まず1)としまして、低用量作用の語義についてです。前述のとおり、米国環境保護庁は昨年10月、ノースカロライナ州で低用量問題に関する文献査読会議を行った。そこでは、低用量作用を「ヒトの通常の暴露の範囲または米国環境保護庁で採用している生殖・発生毒性評価のための標準試験法において一般に使用されている用量より低い用量で起こる生物学的変化」としております。この検討班では、それを踏襲しまして、「従来の標準的な毒性試験において観察されてきた無作用量 (NOEL) や無毒性量(NOAEL)よりも低い用量で観察される性ホルモン様の影響」として低用量作用を考える。これはエストロゲンで10-10M程度の濃度、動物への投与量にして数μg/kg/dayという低濃度に相当します。但しこの語義を、単に観察されてきた NOEL や NOAEL 以下の用量で観察される性ホルモン様の影響として見るとき、アンドロゲン系ではエストロゲンより103程度高い濃度が対象となり、これは、生体でのエストロゲン系における周期性の維持とアンドロゲン系における恒常性の維持という、生物学的には異なった維持機構を背景としていることが示唆されるが、詳細は明らかになっておりません。
 2)としまして、低用量問題の背景です。低用量問題は、抽象的に存在するわけではなく、内分泌かく乱問題の可能性の有無が問われている精子の質的・量的機能低下の問題、免疫系に対する影響、子宮内膜症などの諸問題のそれぞれに関わっています。マウスの前立腺重量低下に影響を与えるビスフェノールAの用量は2μg/kgと低く、子宮内膜症で検討対象となったアカゲザルの実験におけるダイオキシン(2,3,7,8-TCDD)の毒性反応を起こす最低投与量(LOAEL)は、100pg/kg/dayとさらに低い値であった。個々の問題の解決は、低用量問題の解決次第という面もあり、他方、個々の問題の解決こそが低用量問題の解決に寄与するものとの見方も存在する。ここでの討論も、そうした不確定な状況の上に立っていることに留意しなければならないということであります。
 次に3)ですが、形態・機能形成期における不可逆的変化の惹起です。成熟個体における生理的ホルモンによる恒常性のもとでは、可逆的な変化を惹起する用量であっても、生体の発生・形態・機能形成期にプログラムされる生体作用は、非可逆的な変化を惹起する可能性が指摘されている。したがって、実験的にも、疫学的にも、胎生期・形態形成期の暴露には特に注意を払った調査が求められている。こうした認識がヒトにあてはまるかどうかについて見解は様々であるが、実験報告を基礎とした生物学的説明可能性については、現状で明確に否定する根拠はない。これと併せて、受容体の状態により、ホルモン様作用物質の効果が異なったものとなることも知られている。思春期・成長期の小児と成人、また成人と更年期後の女性とでは、ホルモンに対する受容体の応答性が大きく異なる可能性が指摘されており、これに応じて、ホルモン様作用物質の作用も異なったものになると信じられています。
 43ページをお願いいたします。4)生物学的蓋然性について。これは注釈を付けております。先に読みます。生物学的蓋然性:関連した一連の生物学的実験結果に基づいて、生物個々の反応要素など、相互の隔たりや近似性を考慮することによって類推される"ありそうな事柄" 、"生物学的に説明可能な事柄" のことであります。
 本文に戻りますが、低用量作用についての現時点の科学水準での理解は、未熟であり、不完全と言わなければならない。それは、我が国の諸研究だけでなく、米国・環境保護庁及び食品医薬品庁、欧州共同体の環境化学担当部門などの機関が今日までに集約した結果も、低用量作用に関する十分なデータを持ちあわせていないという点に対して十分に注目する必要があること、を結論するにとどまっていることに象徴されます。具体的には、低用量影響が認められるとする見解と認められないとする見解とが両立するために、実験系の手探り状態となっているのが現状である。先に説明しましたノースカロライナ州の文献査読会議における個々の論文の重点的な検討結果(別冊1-3、査読会議報告和訳参照)でも、また、同一の関係論文の検討を行ったこの検討班における独自の検討結果(別冊1-3 参照)においても、低用量影響が認められるとする見解と認められないとする見解の双方を確認するという結果になっています。本検討班では、特に用量―作用曲線パターン、閾値の有無、反応オシレーションの有無、相加・相乗性の有無といった点に着目して検討を行った。
 低用量問題では、低用量作用の有無について見解の異なる報告の双方に信頼性を確認したが、そのことは、生物学的に説明可能であると指摘することができる。(1)閾値問題については、報告された多くの試験物質で、リン脂質細胞膜の易透過性と相俟って受容体結合の可能性があることが指摘されており、また、(2)受容体個別の作用や、用量増加に伴う受容体の発現低下といった効果によるオシレーションなどの非直線性の反応、(3)核内受容体相互の相加反応性、などの指摘もあり、データを公表する動きが見られる。他方これらの指摘は、低用量影響が生物学的に説明可能であることを示しても、現時点におけるデータをもって、これをヒト健康影響の可能性の問題とするには、確実にデータが不足しているということであります。
 5)試験系とデータ解釈における問題点であります。低用量作用の有無とその用量−反応相関については、試験系に依存して異なった結果が得られている。標準的な試験系が確立していないがために、いくつかの影響の有無についての論争が継続しているが、それらの解決のためには、結果を左右するであろう因子について具体的な検討が必要である。ちなみに先のノースカロライナにおける会議で指摘された問題点を列挙すると次のようになるということで、次の44ページにかけて(1)から(4)まで問題点が列挙されております。
 まず(1)としまして、試験動物における問題。Ashby ら(1999)は、vom Saalらによる低用量のビスフェノールA暴露により精子生産効率及び前立腺重量への影響が見られたという報告の再現性について検討した中で、動物の系統だけでなく、実験動物供給源の違いによる動物の感受性や生理状態(遺伝的な背景を含む)、44ページをお願いします。その違いの可能性があることを指摘している。
 (2)飼料における問題。市販の餌中には植物エストロゲン物質などのホルモン活性を有する物質が混入しており、その混入レベルは十分管理できていない。Odumら(2001)は、低用量での影響が見られた、または見られなかったというこれまでの報告中で用いられた餌、これは特別仕様のものを含むとありますが、そのほか毒性試験でよく用いられている市販の餌、この両者について、比較分析と生殖・発生毒性試験を行って、いくつかの指標に対する影響について調べました。その結果、食餌中の植物エストロゲンの含量は、発生におけるいくつかの指標に影響を及ぼすが、植物エストロゲン以外にも未知の因子がこれらの指標に影響を与えているらしいことがわかった。
 また、吉田ら(2001)は、市販の固形飼料が40 ppm程度のビスフェノールAを含んでいたと報告し、混入経路については不明であるが製造過程であろうと推定している。
 他方、Ema ら(2001)は、試験に用いた市販飼料を分析したところ、ビスフェノールA含量は検出限界(3ppb)以下であったと報告しており、用いる飼料間における差の存在をうかがわせる。
 (3)飼育条件における問題。Ashby ら(1999)はvom Saalらの報告を再現する試みの中で、仔動物を個別または群で飼育することによる影響を検討し、個別に飼育した方がやや体重が重くなると報告している。
 (4)データの解釈における問題。臓器重量の違いを体重で補正することが適切かどうかについては、双方の変化について相関性の検討が必要とされるが、共分散分析では、すべての投与量において相関性が同様に成立することを前提としている。また実際に子宮重量が体重と逆相関するという試験例も見られている。統計処理において同腹仔を適切に扱う(母獣の影響を検討しておく)ことは言うまでもないが、一定数の仔動物を検査する際に、一腹から複数の仔動物を用いて偽陰性率を下げることはできても偽陽性率を減らすことにはならない点に留意すべきである(NTP/NIEHS, 2001) ということであります。
 6)です。以上を踏まえまして、問題解決のために必要な検討ということであります。低用量問題をめぐっては、多くの実験的な工夫が求められている。この項では、この点に関連する主な事項を掲げます。
 45ページ、46ページにかけまして、全部で5項目挙げてございます。
 まず(1)番としまして、生物学的恒常性(ホメオスタシス)との拮抗。生体内の内分泌環境は、生物学的恒常性(ホメオスタシス)によって制御されており、低用量作用などは、これに打ち消されて観察されない所見が少なくないことがむしろ一般的である。45ページに入っております。卵巣摘出動物における子宮肥大反応は、そうしたホメオスタシスを遮断することによってホルモン作用やホルモン様影響を観察するものである。他方、ここではそうした影響下での反応性をもって生体障害の可能性の如何を論じることの難しさが問題点となっている。さらに内因性と外因性のリガンドの間でホメオスタシス作用における違いがあるかについても未解明である。これらの生体反応過程で発現する遺伝子群の解析が、この問題点を克服することにつながるかどうかについて、国内外での検討が進んでいる。
 (2)番受容体発現低下です。低用量での受容体経由の影響は、高用量では受容体の発現低下などの理由によって観察されないことも少なくない。個体レベルでもこうした現象があり得るとすれば、非直線性反応を考察する手がかりになるかも知れない。そのことを一般化するためには、適切な分界点を与える実験系が開発される必要性があるが、現状では、その試験系と評価法は不十分と言える。
 次に、(3)番女性ホルモン作用に関するデータギャップ。成熟女性の生体内環境には生理的なリガンド(ホルモン)が大量に存在する。生体の成長が不十分な女児における早期初潮や早期の性成熟並びに閉経後の女性ホルモン療法と乳がん発生リスクが指摘されつつあることとの関連で、ホルモン様作用化学物質の乳がん惹起のリスクが論じられている。しかしエストロゲンの弱い変異原性は既知の問題であり、むしろ成熟女性における400pM/L に達するエストロゲンの影響の生理的"安定性" のメカニズムこそ、ある意味では未知の問題と考えられる。そしてこのことは、次の実験的事実とも関連する。
 (4)多世代試験と胎児影響。実験的に二世代試験や多世代試験が行われているが、多くの場合、内分泌かく乱化学物質による影響は認められない。これまでの報告で実験的影響が認められるのは、胎生期影響や新生児期影響に限られている。これに対して、そうした条件下での低用量影響を検出する系、特にその妊娠中や授乳時における生物の発生過程への影響に注目した方法の開発が種々の面から試みられ始めている。
 (5)試験結果の再現性。低用量影響を認めないとする結果では、ジエチルスチルベストロール(DES) のような物質でも反応性が認められなかったことが注目された。この結果からは、追試によって解決することのできない未知の問題が含まれていることが示唆される。本検討班では、DES を陽性対照として用いた試験について、実際に陽性結果が得られた場合と得られなかった場合の試験条件と結果について比較検討し、何が結果の違いに寄与していると考えられるのかを解析しております。46ページに入っております。この結果を基にして、陽性対照であるDES について再現性をもって陽性結果を得られる試験系を確立し、同一条件で他の試験物質がどのような結果を示すか検討できるようにすることが肝要である。
 具体的には、次のような調査研究が必要と考えられる。
 ●DES 陽性対照が再現性をもって陽性反応を示す条件を確認するための試験研究を実施する。
 ●試験に用いる動物種と系統、生殖・発生毒性試験に関わる背景データについて、データベースを構築して、違いが生じたときの要因についての検討を支援できるようにする。
 ●生体のホメオスタシスを含む生理的な反応による効果を確かめ、また生殖・発生影響への本質的な理解を進める一助として、投与動物について遺伝子発現、たんぱく発現解析などの手法を組み合わせた研究を進める。
 ●一腹児の扱い、臓器重量の体重補正の有効性など、生殖・発生影響の統計解析手法のあり方について、試験データに基づいて検討をする。
という提案であります。
 4.です。ホルモン様作用のヒトへの生体障害性。生体に対する低用量作用は、認められるとする研究報告と認められないとする研究報告の双方に信頼性 (credibility)が確認されており、しかも前項で見たとおり、低用量作用による実験的な障害性については生物学的に説明可能であるとの指摘を否定する根拠は乏しい。胎生期・新生児期影響への可能性については、特に注意が傾けられるべきであることが指摘されている。他方、これに対するヒトへの影響の可能性については、疫学研究の必要性が指摘されている(National Research Council, 1999) 。実質的にヒト影響を取扱った報告は、次で述べるダイオキシン類やPCB 類を除き見出されず、またそれらの結果に対する判断についても評価は定まっていない。以下は、現時点における生体影響のケーススタディーである。
 (1)ダイオキシン類の生体障害性。ダイオキシン類の障害性については、ラット2年間投与試験における体重抑制や肝障害、またラットの3世代生殖試験での子宮内死亡、同腹児数の減少などが動物試験で認められており、さらにアカゲザルの子宮内膜症に関する報告がみられる。以上のうち、内分泌かく乱との関係が指摘されている事実は、イタリアのセベソ地区での暴露における出産児の性差の変動とオランダのディメルゼィディク地区(Diemerzeedijk) におけるステロイド代謝に起因するとされる口蓋裂である。双方とも、米国環境保護庁はその因果関係を採用せず、注視するにとどめている。また、ミシガン湖におけるPBB 汚染魚の食用に起因するとされる甲状腺機能低下に関する報告は、議論の決着が得られていないということであります。
 47ページをお願いします。(2)としまして、乳がん等成熟女性に与える影響。次項の子宮内膜症も同様であるが、乳がんを含むヒト成熟女性に与える影響を肯定する報告は見出されない。ちなみに未知の事柄が少なくない中で、そうした影響の生物学的説明可能性についても成熟個体を用いた実験に関する限り認められない。初経年齢の低齢化と乳がん発生の相関についての考察が散見されているが、この相関については、同時に身長の増加も相関することが知られている。欧州各国では、過去30年間で年平均3.5mm の身長の増加と約1年の初経年齢の低齢化が記録されている。これらの相関に外来性内分泌作用物質の影響を加味することは困難であり、少なくとも現状ではそうした調査報告は見られない。受胎調節に用いられるピルや閉経期のホルモン補充療法を含む女性ホルモン剤の影響を見た研究が多数あるが、誘発される反応が内分泌かく乱物質の影響として確立した報告は見られていない。
 (3)子宮内膜症です。子宮内膜症は、性周期を有する哺乳綱霊長目の動物に認められる病因不明の疾患で、ダイオキシン類(TCDD/PCBs)による病態の重篤化傾向が指摘されている。その根拠には、アカゲザルの実験データがあるので生物学的説明可能性は否定できない。しかし、これについてヒトでの関連性を肯定する報告は見られていない。
 (4)その他のヒト影響の可能性についてです。以上のほか、ヒト影響に関して、精子の質的機能低下、新生児の神経行動に対する影響、免疫学的影響などについて生物学的には説明可能であるとの指摘があり、例えば免疫影響については、油症 (Yu-sho) の報告が知られている。これらについては、いずれも別途個別の班研究が進められているので、ここでは触れないということです。
 5.としまして、試験法の充実と確定試験法の確立。スクリーニング法によって優先順位付けされる物質の中のどれだけの物質を内分泌かく乱物質と考えるべきかについては、見解が分かれている。スクリーニング法は、内分泌作用物質の検出法から成立しており、撹乱性との異同は、作業として区別されるからである。
 できるだけ早く、関連物質のプレ・スクリーニング及びスクリーニングを進めてゆくことの必要性もさることながら、リストアップされるであろう物質の内分泌かく乱性の可能性が定まらないため、試験法のエンドポイントは定まらない状態となる。このような状態でスクリーニング法によってリストアップされる不確定物質が滞貨する状態を起こすことは避ける必要も求められる。そこで米国環境保護庁でも欧州共同体でもスクリーニング後の試験法の充実に乗り出している。米国環境保護庁における甲状腺影響を念頭に置いた齧歯類思春期雄アッセイ、アロマターゼ試験、齧歯類胎生期- 授乳期試験などは、その例であり、これまでのスクリーニング法における不確実性の補強をねらっている。48ページに移りますが、また米国食品医薬品局では、国際生命科学研究所(ILSI)との共同により、遺伝子発現の網羅的検出をリスクアセスメントに用いる検討に力を入れ始めた。他方、WHO/IPCSは、地球規模のアセスメントの際に、内分泌かく乱化学物質の「検出法」について言及することを避ける方針をとっているということです。
 我が国では、胎生期ウインドウ効果に注目した1世代試験(子宮内位置効果、肛門・生殖突起間距離、性的二型核などの検討を含む)と、同じく胎生期ウインドウを考慮した発がん性試験の双方に対して、発現遺伝子の網羅的検索を組み合わせた系を対象に、補助スクリーニング+確定試験としての方向性を検討している。但し、スクリーニングで選別される物質の中で、真に生体障害性を持つ物質を最終的に選別する確定試験法が、作用メカニズムの解明の現状に照らして適切に開発されるのかどうかについては、課題が残されているということです。
 最後6.ですが、まとめとしまして、内分泌かく乱物質の生体影響は、未だ明らかではない。低用量作用の問題はその中心的課題であって、現時点では、低用量作用は実験的には生物学的に説明可能と言えるかもしれないが、人への影響の有無を判断するためには、まだ確実に多くのデータが不足していて、十分な予測ができない状態にある。米国環境保護庁では、そのスクリーニングに関してさしあたり500 物質程度、2005年を目途として終了する計画を出している。この検討班におきましても、この時期に照準を合わせて試験法の開発を達成すべく、対応するメカニズムの研究を進め、一刻も早くその実態を明らかにしたいという結語であります。
 最後に、この検討班の検討協力者と参照文献等を49ページにかけて提示いたしました。
 あと説明いたしませんでしたが、別冊に当たる資料の方におきましては、この本文のところに出てきましたいろいろな検討結果に関する詳細な報告、あるいは各分担の研究の報告の概要が添付されておりますので、適宜ごらんいただければと思います。
 以上です。

○伊東座長
 ありがとうございました。
 それでは、ただいま説明をいただきました項目、多岐にわたっておりますが、質疑、討論に移りたいと思いますので、御意見がございましたらどうぞ。

○鈴木(継)委員
 42ページのところで、最初のパラグラフです。本検討班では、それを踏襲して、「従来の標準的な毒性試験において観察されてきた NOEL や NOAEL よりも」云々という文章がございますが、そこで観察される性ホルモン様の影響として低用量問題を考えると、こう書いてあるんですが、私が寝ぼけていたせいか、どうして性ホルモンだけに限定したのかというのが自分なりに分かりませんで、どなたかに御説明願えるとうれしいのですが。

○伊東座長
 ただいまの御質問についてどなたかお答えいただけますか。井上先生どうですか。

○井上委員
 お答えする責任があるんだろうと思うのですが、性をなぜつけたのかという御質問ですけれども、提起されている問題がそうであったこととお答えすることでいかがでしょうか。この問題そのものがホルモン全体にかかわることは認識はしているつもりでおりますが、この問題が提起された入口のところは、性ホルモン様作用という認識でスタートしましたので、それが結果的に様々なホルモン様作用、あるいは、さらに本文の中でも触れられているような核内受容体の問題にも広がっていくということは、そういう考え方で記述されているわけですけれども、入口はそういうことだったという認識をしております。ただ、これは検討班のあれですけれども、検討会の先生方のお考えに従って、もちろん、これを外しても直接の影響はないだろうというふうに思っております。
 以上です。

○伊東座長
 どうぞ。

○鈴木(継)委員
 おっしゃることはよく分かるんですけれども、今のままの書き方だと、性ホルモン様作用を示すもの以外は扱わないよというふうにも読めてしまう可能性があるものですから、ちょっと書き方を工夫した方がいいかなと、そう思っただけです。

○松尾委員
 今の問題に関連しまして、そこにあえて NOEL よりも低い量で観察されると記述されている理由について質問します。もともと低用量問題は、人の通常の暴露の範囲とか、非常に低い暴露の範囲とか、いわゆるEPAの標準的試験パラダイムより低いときの生物学的な変化という定義をしていたと思うんです。何ゆえに本検討会はNOEL、NOAEL ということを明記されたのか教えていただきたいと思います。

○伊東座長
 これも井上先生お願いします。

○井上委員
 先ほどの性のところは認識がはっきりしないのですけれども、この括弧の文章は、ノースカロイナのミーティングで定義された低用量作用の部分をそのまま訳しております。それから、これはこの検討班の立場で、この検討会ということではございません。

○伊東座長
 どうぞ。

○武谷委員
 少し理解しにくいところが45ページの中段でございますが、「女性ホルモン作用に関するデータギャップ」という意味がもう一つ分からないのです。さらにその文章を読んでみますと、成熟女性の生体内環境はホルモンが大量に存在する。生体の成長が不十分な女児における早期初潮や早期の性成熟というのは確かにこれでよろしいんですけれども、むしろ成長が不十分というのは、早期初潮や早期の性成熟によってエストロゲンのプリマチュアーな分泌の結果として、成長が不十分になるということなので、因果関係が逆なような誤解を与えるのではないかという、その辺の表現法を御検討いただけないでしょうか。それから、ホルモン補充療法との関連で乳がん発生リスクが述べられていますが、早発思春期とホルモン補充療法を2つ並べた理由がよく分かりません。しかも2例をもってデータのギャップというのはどのようなことかというようなところがやや理解しにくいので、もしお答えいただければと思うんですが。

○井上委員
 まず初めに、申し上げようとする内容についての御説明の前に、ぜひ婦人科の先生方や小児科の先生方の適切な表現について表記の上での御援助をいただければと思っております。それから、御指摘をいただいた点などありましたが、そのまま直らないで、初経等の言葉に置き換わっていないところが残っておりますのは、こちらの手違いでございます。それから「データギャップ」という言葉が適切でないという指摘は前からありまして、言葉を探しあぐねていたところがあります。それは先生のただいまの御指摘にあったような早発閉経ともう一つの閉経後の事象とが並べて書くことに意義があったのではありませんので、2つを別記するような形で記載の表現を改めたいと思います。
 それからあとは、なぜ2つを取り上げたのかという点につきましては、さらに付け加えるべき点、併記すべき点があるようでしたら御指摘いただければありがたいと思います。そういうところです。

○伊東座長
 よろしゅうございますか。

○武谷委員
 リバイズしたものをまた一度拝見させていただきたいと思います。以上でございます。

○伊東座長
 そのほかどうぞ。

○津金委員
 46ページなんですけれども、人への生体障害性について4番で書かれているんですけれども、これは低用量問題にスペシフィックな問題として、例えばダイオキン類での生体障害とか、乳がん、あるいは子宮内膜症の影響を示されているのでしょうか、それとも人への障害という意味なのでしょうか。

○井上委員
 御質問の意味は、ここの記載は、46ページから始まる4項が低用量作用性と関連していないことが含まれているのではないかという点ですね。

○津金委員
 低用量の問題として先生はとらえて、こういうような生体障害性を挙げられたのでしょうかという質問なんですけれども。

○井上委員
 一応そのつもりなんですけれども、そうでないものも含まれてしまいましたかね。恐れ入りますが、御指摘いただければ検討させていただきます。

○津金委員
 例えばイタリアのセベソとか、これは低用量問題で扱っていいのかなというようにも思いましたので。

○伊東座長
 そのほかどうぞ。

○松尾委員
 17ページのスキーム。これは前回からしつこく絡んでおりますけれども、スクリーニングと詳細試験ですね。これを見ますと、文章にも書いてありますけれども、この流れを確認したということで自信のほどを示されたと感じて非常に感銘深く見ておるんですが、2つばかりコメントします。1つは、依然として右手にトキシコゲノミクスというのがあります。これは座長もおっしゃったように時期尚早で、非常に大切な部分でありますけれども、研究的な要素が非常に多い。これを即この流れの中に入れるというのはちょっと問題があると私も感じます。これは少なくともいろんな意味でまだまだ未熟といいましょうか、分かっていない部分が非常に多くて、障害性との絡みにおいては全く分からないというのが、言い過ぎかもしれませんが、そういう段階だと思うんです。ここが点々で書いてありますので、少し遠慮されたというふうにもとれますけれども、この辺は何とかもうちょっとお考えいただいた方がよいのではと思います。スクリーニングとして、これを取り入れるというのはちょっと問題があるのではないかと思います。それがコメントです。
 もう1点は、18ページです。今この流れの中にin silico からハイ・スループット、それからハーシュバーガー、ウテロトロフィック、これをやった後、一番最初の行ですけれども、「これらにより順位付けされた物質は、低用量域を含むホルモン作用が生物学的に説明可能な物質と」書いてございますけれども、まずこの意味はどういうことなのかちょっと分からない。低用量は、既に言われていますのは、逆U字ですね。ユーシェイプのことを言っておられるのかと、こういうふうに思うんですが、しかし、これだけの試験で説明が可能とはとても思えないんですけれども、その辺の自信のほどをお伺いしたいと、こういうことです。

○伊東座長
 どうぞ。

○菅野先生
 18ページの「低用量域を含むホルモン作用が生物学的に説明可能な物質」については、低用量域と言っておりまして、「低用量問題だ」というふうには限定していないのであります。ここではU字型とか逆U字型などという概念は一切入れておりません。先ほど低用量問題班の話にもありましたように、いわゆる一般的な知見に基づいたNOEL、あるいはNOAELより下の用量で起こり得る反応が、例えば子宮肥大試験をはじめとするスクリーニング試験でひっかかると、そういう意味での低用量域を述べております。スクリーニングでありますので、低用量問題ということには一切ここでは触れておりません。ついでに申し上げるべきなのか分かりませんが、「生物学的に説明可能な物質」という用語、これは実はバイオロジカスプロージビリティ(BIOLOGICAL PLAUSIBILITY)を日本語で分かりやすく説明してくださいということで、事務局の方に苦労して作っていただいた訳語であります。
 以上です。

○伊東座長
 それに関連して、座長が余り発言するのは不適切ではありますけれども、トキシゴゲノミクスの問題は、私も時期尚早であろうというふうに思っております。重要であるということは十分分かっておりますけれども、これはこれからの研究の進展によってここに加えていくことが可能であるということではないかというふうに思っております。したがって、これは菅野先生、あちらこちらでこの図は見飽きるぐらい私、見ましたけれども、この左側と右側と両方外すと、外したからやらないということではないんですよ。研究は十分にやるけれども、しかし、ここの時点でここに加えて、これが絶対的なものであるような印象は私はどうかなというふうに思っています。
 例えば、今から十数年前は変異原のテストをやれば発がん性が分かって、発がん実験をやらなくてもいいというような流れが一時ありましたけれども、研究が進んでまいりまして、そうではないということになったというようなことがある。したがって、トキシコゲノミクスがどれだけこれから進展するか分かりませんが、まだデータを蓄積しておるという段階で、これが重要であるというようなことをここで特に取り上げるのは私は反対であります。これについて何か御意見がございましたら、そんなことは何を言っているのかということでありましたら、井上先生でも、菅野先生でもおっしゃってください。
 松尾委員も、その点についてけしからんということであれば、どうぞおっしゃってください。

○松尾委員
 確かに非常に重要で、おもしろいですね。我々のところでもやっていますが、非常におもしろくて、最先端ではらはらしながら実験をやっていますけれども、結局、現段階は、ハイ・スループットの域を出ないのではないかと思っていまして、またぞろ、要するにXYZとTが入りまして、結局、慢性毒性とか、発がん、あるいは2世代をやって、その時々に遺伝子をとってきてということで全生涯の試験をやって初めて明らかになるのでは?、最近そんな不安にかられております。そういうことで、やがてはそのフィードバック、要するにそういうことで何か起こったら、逆に障害性が予測できるという時代がくると思うんですけれども、非常に距離があるような気がいたしまして、これをスクリーニングに使うというのは何か危険だなという感じがしたので申し上げました。

○伊東座長
 松尾委員の言葉をとらえるようでありますけれども、私はこれが非常に重要であるということについての認識は全然変わっておりません。したがって、厚生労働省をはじめ、いろいろなところ、また国外でも積極的にこの方面の研究が進められておりますけれども、生物反応がそんなに簡単にチェックできるのか、ホルモン領域が、トキシコゲノミクスのレベルでこうだという結論が引き出せるようになるまでにはまだ少し時間がかかわるように思うわけであります。ですから、研究を進めるということについては私は全く異議ございませんし、やるべきであるし、やらねばならないというふうに思っておりますけれども、スキームの中に入れるということについてはやはりどうかなというのが私の偽らざるところであります。したがって、46ページの真ん中ぐらいのところで、「生体のホメオスタシスを含む生理的反応による効果を確かめ、また生殖・発生影響への本質的な理解を進める一助として、投与動物について遺伝子発現、たんぱく発現解析などの手法を組み合わせる研究を進める」と。進めねばならないということではなくて、進める必要があるというように、井上先生、これを書いていただけたらどうかなと思っています。これは絶対必要なんですけれども、これがネセサリーであるということは、ここではちょっと考えていただいた方がいいのではないかと。菅野先生についても同じです。

○井上委員
 ただいま御指摘をいただきました46ページのは、これは班の方々のあれを取り入れたものですので、先生の今おっしゃったような形でこういった研究を、ここには進めなければならないということを書いてあるわけでありませんので、冒頭の「次のような調査研究が必要と考えられる」というところをもう少しニュアンスを変えて、先生のおっしゃられたような形で、こういった研究的なものが進むという形にいたしたいと思います。

○伊東座長
 どうぞ。

○菅野先生
 座長のおっしゃることはよく了解いたしました。矢印を破線にしたのは、少し弱めたということであります。思い起こさせていただきますに、トキシコゲノミクスという言葉が出た時点で、厚生労働省あるいは我々の方でこの仕事をスタートしていないと、ゲリラ的なデータがぽぽっと出てきた場合の危機管理ができないだろうという意味でのディフェンシブな意味も込めて、即やらなければいけないという立場をとりました。そのときに、ここにわざと縦断的に入れさせていただいた最大の理由は、実をいいますと、トキシコゲノミクスと申し上げた途端に、これがin silicoの上に横に並ぶと、すなわち、in silicoの手前のスクリーニングになるのではないかという御意見をいただいたんです。それはしかし、本質的に絶対に違う。それはin silicoの手前のもう1個のスクリーニングの手間を増やすという代物ではない。むしろ詳細試験や低用量の問題も含めたメカニズム解析に必須のものとなる。フェノタイプではとらえられないような、例えば内分泌ではフィードバック機構が動いて、フェノタイプが消えてしまうようなときでも遺伝子は動いている。そこを見ることの出来るツールであったりするわけであります。むしろ詳細試験を開発するために必須な道具になるであろうということでトキシコゲノミクスの位置を、一番天辺のスクリーニングではなく、もっと縦断的に、詳細試験に絡む道具として使えるのであるというところを強調するために縦に置いたといういきさつがあります。そういう意味では、逆に一番下の詳細試験で使えるトキシコゲノミクスができたあかつきには、その上の段階にも還元させることが出来る、そういう意味では下から上に延ばしていった経緯もあります。

○伊東座長
 私は完全に消してほしいと思っているんですね。ですけれども、私はこれが意味がないということではなくて、非常に重要であると。もしも、どういうところで、どのようなエビデンスがこちらではっきりと出せるのかということがわかった時点で入れてもいいのではないですか。何も今入れる必要がないというのが私の考えです。一番最後の方に、タイムスケジュールが出ておりますけれども、あと何年かして、何年かってそんなに長くないんですけれども、近い将来、このデータが日本だけではなくて、世界にもいろいろ出てまいりましたときに、これはいいということであれば、その時点で入れるということが僕は一番いいのではないか。今、先走って入れる必要はないのではないかというのが私の考えです。ですから、それが何を言っているか、あのじいさんはということであれば、私はすぐ引っ込めますけれども。

○井上委員
 先生の時期尚早論はもちろん100%分かるのですけれど、FDAのイルシーに対する指示の記載は、先ほどごらんいただいたとおりなんですけれども、FDAのジョージたちは、リスクアセスメンをもうスタートしている状態にあります。

○伊東座長
 それは私も知っているんです。

○井上委員
 もちろん御存じだと思います。

○伊東座長
 だから私は言っているんです。イルシーがごたごた言っておるとか、FDAがどう言っているか、だからやるというのではなくて、だめだと言っているわけではないんですけれども、まだデータが出ていないんじゃないですか。出ているんですか、データがはっきりと。リスクアセスメントに使えるぐらいのデータがあるんですか。

○井上委員
 リスクアセスメントに取り入れる方向性を打ち出す必要があるだろうというふうに申し上げているわけです。

○伊東座長
 それは十分に分かっています。

○井上委員
 それがこの表の中に残るべきかどうかということについては、僕は・・・。

○伊東座長
 内分泌かく乱の問題について適用するということはできるかどうかということは全然分かっていないわけです。だから時期尚早だと私は言っているんです。それだけのことです。ですから、イルシーの連中がどうやっているかというのは、私のところにも相談がありますからよく知っているんです。大事だということもよく知っているんですけれども、ここで入れるのはまだ早いというのが私の意見なんです。

○井上委員
 つまり入れ方の問題ではないということですか。この表から削除する云々の点については、私は菅野先生と立場はちょっと違います。私は削除があってもいいと思います。

○伊東座長
 菅野先生は削除しないと、私は削除しようということです。

○井上委員
 それは議論をお進めいただきたいと思うんですけれども、シーダの責任者がリスクアセスメントについて実際に公式に打ち出しているという事実があるということを念頭に置いた表現だけでは何らかの形で。

○伊東座長
 どこかに入れることは、私は一向に構いません。

○井上委員
 分かりました。

○伊東座長
 だけど、この表からは、菅野先生はこの表をお気に入りのようですけれども、私は外してもらおうと思っているんですね。ですから、どこかに入れていくということについては、井上先生、私は全く同意見です。ただ、一般の毒性についてのリスクアセスメント、毒性のチェックのためにトキシコゲノミクスをやるということについては私は何の異議もないんですけれども、内分泌かく乱物質のやつにまでこれが全部適用できるかといいますと全然エビデンスがないという段階だから、ここで入れるのは少し早いと、こういうことです。どうぞ。

○関沢先生
 井上先生と低用量問題対策の報告をさせていただく関沢です。46ページの提案で、ポチがついた4つ黒丸がございます。先生の御指摘のございましたように、生体のホメオスタシスを含む生理的な反応の効果を確かめるということで提案させていただきましたのは、具体的に高用量を投与したときの受容体のダウンレギュレーションなどを頭に置いて書いております。低用量で影響の発現があって、逆U字の現象が見られたという場合に、これまでデータはそれほど出ておりませんが、受容体発現のダウンレギュレーションをチェックすることによって人によって違った報告が出たり、あるいは影響の再現性がないということが具体的にチェックすることが実験的に可能であるということを考えて提案させていただきました。

○伊東座長
 それは、データが出てまいりましたら大いに発表していただいて、ここで使っていただいたら結構ですけれども、この時点では少し早いのではないかということです。

○関沢先生
 現時点でも、実験的にこのレベルはもうできるのではないかという前提に立って提案させていただきました。

○伊東座長
 そのパブリケーションを持っておられるわけですか。

○関沢先生
 受容体の低用量と高用量での発現レベルについてはDESなどについてはございます。

○伊東座長
 ほかの先生方の御意見も含めてデータについて御発言ください。私と井上先生と菅野先生ばかりやっていると、時間があと10分ぐらいの余裕しかございませんので。

○鈴木(勝)委員
 今の46ページのところの表現なんですけれども、実はこの前の班会議に休んでしまったので言えなかったのですが、若干補足しておいた方がよいと思っているんですけれども、メカニズムに基づいた解明というのは、ノースカロライナのロードーズピアレビューでもかなり強調されておりまして、その点のところは、今回の研究の一つの目玉といいますしょうか、どうしてもそこをやっていかないと物事が解決しないと思うんです。その中で、今のトキシコゲノミクスの議論というのはちょっとかみ合っていない部分もあるように聞こえていまして、例えばDNAチップスとかそういったような形でのトキシコゲノミクスを考えてしまうと極めて先走った形になると思うんですが、そうではなくて、作用機序から考えて、途中でmRNAの発現を見るとか、関連するたんぱくの発現を見るとかといったようなことについては絶対必要なことであろうというふうに思っていまして、その意味でここは必要なのではないか。

○伊東座長
 そういう御意向でここに出されるということでは、私は何の異議もありません。賛成ですけれども、これを内分泌かく乱の問題について、これでスクリーニングができるような、あるいはリスクアセスメントのできるようなニュアンスのことがあってはならないというのが私の非常に強い意見です。

○鈴木(勝)委員
 最初の方のスキームとの関係ですよね。

○伊東座長
 そうです。

○鈴木(勝)委員
 その点では僕も同感です。

○伊東座長
 そのほかどうぞ。
 寺田先生何か。

○寺田委員
 お恥ずかしいんですけれども、低用量の全体のもっと根本的なことに関する報告成果がはっきりしません。報告書というのは、最初に書いてありますように、今までやってきたことを、データを出して今後のあり方を検討するとあります。しかし、低用量のことで今まで何をやられたかよく分からないんです。要するに、あの人はこう言ったとか、ああ言ったとかの問題で、実際にどういう風にこの問題を低用量の班で今まで2年間か3年間やってこられたか。そういうデータが、ここへ出るべき問題じゃないのかと思います。やったけれども、できなかったと。だから、今のチップの問題も、今までこうやってきて、こういうポジティブな方向があるというのだったら、それはそれなりに書いていただいて、表に入れるのは結構だと思います。大体私は座長と同じ気持ちです。また、パブリケーションリストも何も載っていなかったらちょっと評価ができません。

○伊東座長
 今、寺田委員のおっしゃったことは、結局はたくさんの研究費を使って低用量問題に取り組んできた、その結果、前の報告書と今度の報告書との間にはこれだけのプログレスがあって、ここの問題ははっきりわかったということをきっちりと書いてもらわないと、これでは困ると、こういうことですね。

○寺田委員
 例えば分析法のところではきちんと書いてあって、実際にやられて検討されたんだなとよく分かりますね。ところが、大変失礼ですけれども、低用量のところは何をやられたのかよく分からない。実験として多分やられたと思うんです。そういうのをどういうことをやられて、どういう問題点が出てきて、どういうパブリケーションがあったのかということを教えていただければいいと思います。

○伊東座長
 井上先生どうぞ。

○井上委員
 この低用量問題対策の項をまとめる経緯になりましたのは、今年の1月でございます。これは3年前からこの班があったわけではございませんで、むしろ、今年度から低用量問題を新しく本省の方から申しつかりまして、そうは言っても、もちろん低用量問題は以前からあったわけですから、それなりのパブリケーションがなくはないのですけれども、ただ、ここで議論していることに直接かみ合うものについてはございませんでしたので、ここには掲載しておりません。実際に低用量に入り込んだデータを実験的にお出しになった班員の方たちは比較的多数おられまして、それについての原著論文は80を超える成果を持っております。この低用量問題を私どもが実際にきちんと取り組む必要性が明らかになったのは、昨年のノースカロライナのミーティングによってだろうと思います。この時点で各国に古いものから新しいものを合わせて40程度しかございませんでした。その中に本邦の江馬先生のその当時の未発表論文が2つございました。そういう状況でございます。

○寺田委員
 どうもありがとうございました。それでもドーズレスポンスとかなんかに関しまして、必ずしも低用量でなくても結構ですから、必ずしも先生の班でなくても構わないんですが、出していただければと思っています。検討班の中でやってきた参照とか参考文献とかちょっと呼び方が違うんですが、これは人のデータを参考として出しているのか。例えば分析の方だったら明らかに御自分らがやられているのを引用されているわけですね。ちょっと検討しただけだったら寂しい感じがします。会を開いて、あれが問題だ、これが問題だと言われても、勉強会ではそんなにかかるものじゃないだろうというような感じがついします。確かに時間は短いとしましても、実際にドーズレスポンスとか、あるいは、どういうことを今までやってこられたのか。また研究者の代表的な発表文献その他、どういうバックグラウンドの人が集まって検討班をつくっているのか分かるように10個、あるいは5つでもいいですから出していただければと思います。

○伊東座長
 寺田先生の御指摘はもっともな点でありまして、いろいろなところで、外国で出されたデータ、国内で出てきたデータを含めて、ここまでの問題が明らかになったということをクリアにしていくのがこの検討班の目的でございますので、そういうような書き方にぜひ改めていただきたいというふうに思います。菅野先生何か。

○武谷委員
 よろしいですか。

○伊東座長
 どうぞ。

○武谷委員
 ちょっと議論を蒸し返すようで恐縮ですが、42ページの「低用量作用の語義」に関してですが、そこの中段あたりに、エストロゲンで10-8M程度の濃度というふうに書いてあるんですけれども、これは vitroあるいは動物でいうと体液中、あるいは血清中の濃度というふうに解釈してよろしいかと思うんですけれども、エストロゲンという物質はいろんなものがありまして、何をもってエストロゲンとしているのかということをスペシファイしていただかないと、エストロンなのか、エストリオールなのか、エストラダイオールなのかによって話はえらく違ってきますし、それのバイオポテンシーは相互に2けた、3けた違ってくるので、そこを明記していただきたいということと、もう一つ、これは代表的な17β-エストラダイオールかというふうに仮定いたしますと、10-10というのはかなりの濃度でございまして、御存じのように、これは女性の月経期に近い濃度、ほぼそれに近い濃度でありまして、更年期障害の治療にも使われる濃度であり、骨粗鬆症もこれである程度予防できるような濃度であるので、これをもって低用量といっていいかどうか疑問です。明確に10-10という数字を出す以上は具体的な物質名を書いていただかないといけないし、今の低用量という議論は、ひとえにここの定義にかかわる問題で、これは大変重みのある表現かと思います。
 以上でございます。

○伊東座長
 どうぞ。

○菅野先生
 まさしくこの濃度が人間にとって低用量でないところが、「低用量問題」のひとつの本質だと考えております。通常の毒性試験を進めてきた立場からすると、ご指摘の濃度は実はNOEL以下なのであって、そこをノースカロライナにおける低用量問題に関するミーティングでは、「今までの毒性試験でひっかからない濃度」を「低用量」の定義にしていたんです。ですから、先生がおっしゃったことが、低用量問題は看過できない可能性があるという、私どもの思うところとまさしくどんぴしゃりのお言葉なのです。そういう関係の濃度であります。

○武谷委員
 今までは、そうすると低用量じゃないものを扱ったということは、エストロゲンの作用としてノンフィジオロジカルな、トキシコロジカルな濃度範囲で扱ってきたのではないかと、そのように解釈できるのですが、そういうことになるのでしょうか。

○菅野先生
 まさしくそうなんです。ですから、従来型の毒性試験でのNOELが、先生のおっしゃるところの人でのrelevantな濃度よりうんと高いところにあったんです。そこで受容体原性の毒性という概念を導入すると、この位の濃度でも何か起こる可能性があるということになります。ただし、2世代試験などの、通常実施されるintact animalを使った実験ではひっかからない、あるいは、非常に曖昧な形で検出されるというところが問題なんだと、そういう理解であります。

○武谷委員
 そうすると低用量というのは、改めて発想の転換で新たな着眼をしたというよりは、当然やるべきことを今気づいたということで、初めから低用量を考えなければいけなかったんだと、そういうふうに申し上げてよろしいんですね。

○菅野先生
 そのとおりだと思います。我々もそういう認識に立っておりますが、ただ、世の中の方がなかなか簡単にはついてきてくれなかったという、私個人の認識です。

○武谷委員
 少なくともエストロゲンの物質名だけはサイエンティフィックなペーパーですので、エストロゲンと書くのはちょっといかがかと思いますので、そこだけ指摘させていただきます。

○伊東座長
 ありがとうございました。そのほかに何か。
 ございませんか。そうしたら、また最後のディスカッションなどもございますので、今までのところはこれで終わりにさせていただきます。
 それでは次に、事務局の方から重点課題と検討成果の(4)及び(5)について御説明をお願いいたします。

○事務局
 それでは、事務局の方から、同じく資料2の50ページでございます。(4)暴露疫学調査から説明いたします。
 まず総括でございますが、外的要因のヒトへの健康影響については、例えば、放射線について、広島・長崎・チェルノブイリの事例などが明らかにされ、放射線暴露量と甲状腺をはじめとする諸臓器の発がんについて確かめられた。暴露量の正確な決定が健康影響の検討に不可欠であることを示す事例である。
 現在、問題となっている内分泌かく乱化学物質についても、事故や不注意による大量暴露により、健康影響が問題となった事例がある。1958年に日本で1968年に台湾で起きた食用油の製造過程でのPCB汚染では臨床的疾患としての「油症」が出現し、暴露量と臨床症状の関連が討議された。1975年にイタリアで起きた工場事故によるダイオキシンの地域暴露では、成人男性の暴露量とその後のパートナーから生まれた子供の性の関係が最近明らかにされた。最近になって実情が明らかにされたスロバキアのPCB高濃度汚染等については、暴露量と甲状腺自己免疫異常の頻度が関係することが明らかにされている。これらは暴露の初期にたまたま生体試料を採取保存し、その後測定技術が成熟してからの測定により、暴露量と健康影響の関係について報告がなされ、さらに長期のフォローアップから新しい知見が追加され続けているコホートである。
 事故や高濃度汚染以外に、より一般人の生活に近い場面でも、内分泌かく乱化学物質の影響が懸念される場面がいくつもある。これらについては人間の側での何らかの異常を感出する手段と生体試料採取など暴露量を評価する体制を確立した上で、厳密な疫学的手法により、暴露と異常の関係が確立されなければならない。
 本項では、人間の側の異常を「発がん」、「器官形成」、「神経発達」、「生殖機能」等としたとき、これまでに報告されている疫学研究に関して内分泌かく乱化学物質との因果関係についてのまとめを報告する。また、本邦でも厳密な疫学研究が実施される必要があり、その際に必要な内分泌かく乱化学物質の濃度測定法の抜本的改良並びに因果関係の傍証となる実験的研究の成果について報告する。
 前者の結果、結論としては、(1) 乳がんのリスクはDES により20〜30%上昇する可能性が示唆されるが、その他の内分泌かく乱化学物質では明らかな上昇はなさそうであること、また、その他のがんと内分泌かく乱化学物質の関係に関しては信頼できる研究がなく、関連性について言及できないこと、(2)PCBは高濃度暴露群において甲状腺異常を来す可能性が示唆されること、(3) 尿道下裂、停留精巣など器官形成に関わる問題については研究がなく、関連性について言及できないこと、(4)PCBは日常摂取されるレベルで、小児の神経系の発達に影響する可能性が示唆されること、(5) 精子数低下や子宮内膜症との関連については疫学研究がなく、関連性について言及できないこと、等である。今後我が国で質の高い疫学研究が行われる必要性が具体的研究プロジェクトと共に提言されている。
 また今回の報告では触れていないが、女児が胎内でDES に暴露されると子宮の先天奇形や成人前に膣がんを発生するリスクが高まることが知られている。DES は強力な合成エストロゲン製剤であり、過去には流産防止の目的や乳がんの治療に使用されていたが、現在では使用が制限されており、DES が使用される以前と使用が制限された後では、上記の異常は事実上発生例がない。他の内分泌かく乱化学物質の多くが間接的にホルモン作用に影響を与えるのに対し、DES は強力なエストロゲン製剤であることから、上記の異常は胎児期に不適当なエストロゲン作用を受けたことに起因すると考えられる。一方、乳がんとの因果関係については、乳がんの多くが成人発症であることから、DES が間接的にホルモン作用に影響を与えた結果である可能性が示唆される。
 後者では、内分泌かく乱化学物質のうち、ビスフェノールA、クロロベンゼン類、パラベン類、フタル酸エステル、ベンゾピレン、PCB 、クロルデン、トリブチルスズ化合物等について、抽出・測定法を改良して、さい帯血、母体血、母乳、尿、毛髪、腹水、臓器等の濃度を測定したところ、クロルデン、ナフタレンを除いた上記物質は、いずれかの生体試料中に含まれており、暴露として問題となりうることが示された。また、内分泌かく乱化学物質の一部はヒト由来細胞を用いた受容体に結合すること、内分泌かく乱化学物質の作用機序として乳腺細胞・子宮内膜細胞を増殖させ、栄養膜幹細胞分化に影響すること、内分泌かく乱化学物質の代謝過程でのグルクロン酸抱合の役割などが明らかにされた。
 これらの成果は、今後疫学研究の成果と相まって、内分泌かく乱化学物質と人の健康影響との因果関係について重要な示唆を与えるものと思われる。
 以上が総括部分です。
 次、52ページをごらんください。
 4-1)生体暴露量等について説明いたします。内分泌かく乱化学物質が社会の関心を集めて久しいが、環境暴露や生物発生への影響に関する報告が散発的に行われる中で、ようやく本領域への研究の取り組むべき方向が明確になりつつある。内分泌かく乱化学物質に対する当初の社会的混乱は、水、土壌、魚類などの自然環境からの内分泌かく乱化学物質の一時的な検出結果や生物発生異常についての報道が、本物質を「なんとなく怖い物質」に祭り上げたことに始まる。その後、厚生科学研究による総合的かつ基本的な調査研究等の取組により、内分泌かく乱化学物質の今後の研究・作業の進め方が示唆されるようになりつつある。
 まず内分泌かく乱化学物質の測定法の確立であります。内分泌かく乱化学物質研究の基本の第一は、感度と特異性に優れた内分泌かく乱化学物質の測定法の確立である。測定法に関連した事項として、測定試料の取扱は看過できない。特に生体試料の採取から始まり、分離・保存の過程を経て、いかに背景因子の干渉及び夾雑物の混入を防ぎ、信頼し得る絶対値を得るに至るまでの各種操作法の確立は重要である。本領域については、既に厚生科学研究「高分子素材からなる生活関連製品由来の内分泌かく乱化学物質の分析及び動態解析(主任研究者:中澤裕之星薬科大学教授)」において、協力して検討を進めてきたところであるということです。
 次に、内分泌かく乱化学物質の生体暴露量についてです。自然環境の中には70種以上のいわゆる内分泌かく乱化学物質が存在するが、ヒト健康に対する影響を考察する場合、真の生体暴露量、すなわちこれら物質の生体中の濃度解析が第二の重点項目である。厚生科学研究「内分泌かく乱化学物質に関する生体試料(さい帯血等)分析法の開発とその実試料分析結果に基づくヒト健康影響についての研究(主任研究者:牧野恒久東海大学医学部教授)」では、前出の研究と連携を取りながら、測定法が確立していて安定した測定結果が常に得られ、過去及び現在のわが国における工業生産量等からして黙視できない内分泌かく乱化学物質として、(1) ビスフェノールA、(2) クロロベンゼン類、(3) パラベン類、(4) フタル酸エステル、(5) ベンゾピレン、(6) ポリ塩化ビフェニール、(7) クロルデン、(8) トリブチルスズ化合物などを測定候補とした。
 測定対象としたヒト生体試料は、主として(a) さい帯血、(b) 母体血、(c) 母乳、(d) 腹水などで、可及的に一症例から(a) 〜(d) を同時採取し、同一個体内での臓器間の濃度勾配も検討した。
 その結果、樹脂原料として未だ年間約30万トン生産されるビスフェノールAは、(a) 〜(d) いずれの試料においても検出され、その生体内の濃度範囲は0.21〜0.79ppb であった。
 クロロベンゼン類はヘキサクロロベンゼンを分析したが、一般末梢血、母体末梢血で100 %、さい帯血で88%検出され、その濃度範囲は0.03〜0.10ppb であった。53ページに移りますが、また、同一患者から採取した試料中のヘキサクロロベンゼン濃度には、患者末梢血と腹水では有意な正の相関関係(順位相関関係数=0.722 、n =12、p =0.017 )が認められた。
 一方パラベン類は、メチルパラベンとして、さい帯血や母乳から検出され、妊婦が暴露を受けたパラベン類が、血液を介して母乳やさい帯血に移行したことが推定された。
 プラスチックなどの可塑剤として使用されるフタル酸エステルについては末梢血中、腹水中にフタル酸モノブチル(MBP)、フタル酸モノベンジル(MBzP)、フタル酸モノ-2- エチルヘキシル(MEHP)の形で、平均で1〜5ng/mLの濃度で検出された。
 化石燃料の不完全燃焼などにより大気中に放出されるベンゾ(a) ピレンは、モノヒドロキシベンゾ(a) ピレン(OH-BaP)の形で男子尿中から検出され、引き続き、母乳、さい帯血、母体末梢血、腹水などにおける暴露状況を検討する予定である。
 不燃・絶縁剤として用いられたポリ塩化ビフェニール(PCB)は、1972年以降生産は中止されているが、母乳、母体末梢血、さい帯血で35種の異性体として検出され、その濃度範囲は脂肪あたり60−99ng/gであった。
 シロアリの駆除などに使用されたクロルデンは、1986年以降生産中止になっているが、trans-ノナクロルが63%(0.06−0.17ppb )に、cis −ノナクロルが17%(0.03−0.05ppb )に検出されたが、ヘプタクロロエポキシド、オキシクロルデン、trans-クロルデン及びcis-クロルデンは、いずれの試料からも全く検出されなかった。
 船底塗料や漁網防汚剤として用いられ、現在これら開放系の使用が一部中止されているトリブチルスズは、測定法によって差があるものの、毛髪試料の33〜77%に検出(5 〜45ppb )され、同一家族から高濃度に検出(41〜45ppb)された例を平成11年に報告している。
 トルエン、ベンゼン、キシレン、スチレン、パラジクロロベンゼンなどの揮発性有機化合物は、末梢血、腹水中に0.6 〜4.0ppbの濃度で検出され、陽性率はトルエンが80%の試料に、パラジクロロベンゼンが49%に、o-キシレンが29%に、スチレンが26%に検出された。なおナフタレンは全く検出されなかった。
 次に、生体内での作用発現について。ヒト健康への内分泌かく乱化学物質の影響を検討する作業の中で、第三に重要な点は、これらの物質のヒト生体内での作用機序の検討である。具体的には、(a) ヒト体内におけるこれら物質の受容体の有無、(b) ホルモンとしての作用発現の有無、(c) これらの物質のヒト生体内での代謝・解毒のメカニズムなどの検討である。
 内分泌かく乱化学物質のヒト生体内受容体については、ヒト副腎皮質由来(H295R 細胞)、ヒト乳腺細胞(T47D)などに、生体内エストロゲンと同様の受容体が存在することを見出した。さらにヒト子宮内膜細胞(HHUA)、ヒト乳腺由来細胞(MCF-7 )を用いて、受容体についてさらに詳細に検討すると、これらの物質はエストロゲンのαとβの受容体と結合することが確かめられた。受容体については、さらに、既知の受容体のほかに、未知のいわゆるオーファン受容体の存在の有無についても検討することとした。
 54ページの方に入っております。内分泌かく乱化学物質の生体内での作用発現については、ヒト副腎皮質細胞に対して、そのコルチゾール産生を抑制することが判明した。また乳腺細胞、子宮内膜細胞の増殖を刺激することも確認された。さらにマウスでは、トリブチルスズの分解産物であるジブチルスズが免疫系に作用して、経口免疫寛容の誘導に影響を及ぼすこと、及びベンゾ(a) ピレンはラットの栄養膜幹細胞株(TS細胞)の分化過程に影響を及ぼすことを見出した。作用発現検討の今後の課題としては、生体内に実際に存在するこれら物質の暴露量の範囲でどのような作用が発現するか否かの検討が残されているということです。
 内分泌かく乱化学物質の代謝・解毒の検討は、まだ今後の研究に多くの余地が残されている。ビスフェノールAを例にとると、ラットではその大部分は消化管と肝臓でグルクロン酸抱合されることが判明した。一方、腎臓では代謝は行われず、濾過・排泄されるのみであると推察された。グルクロン酸抱合体を分解してもとの内分泌かく乱化学物質にもどす酵素(β- グルクロニダーゼ)の存在も見出し、今後ヒト生体内での検討を行うこととしている。
 最後に、結語ですが、以上、この検討班は、生体試料の測定法の確立に基づき、内分泌かく乱化学物質の真の生体暴露量を測定すると共に、これら物質の生体内受容体、作用発現、さらに代謝・解毒などの検討を通して、ヒト健康への影響についての結論を導くことをその主たる研究目標とした。
 今後は、内分泌かく乱作用が疑われるその他の環境汚染物質についても、同一母体の複数部位からの生体試料採取と濃度分析データを蓄積し、また同一母体の胎児からも同様に生体試料採取と濃度分析データを蓄積することにより、母体からの暴露の実態を解明することが目標となる。さらに、これらの物質が生体内に実際に存在する暴露量の範囲で、どのような作用を発現するのか否か、また代謝・解毒の全容について明らかにすることが求められるということであります。
 次に、55ページをごらんください。4-2)としまして、疫学研究の現状ということでございます。
 まず、1.はじめにでございますが、内分泌かく乱化学物質の人への健康影響を評価する場合、動物やヒト細胞などを用いた実験室での研究に基づき、人への健康影響を推察する方法が主として用いられている。しかし、実際に人間社会に存在している量の内分泌かく乱化学物質が、人に対して何らかの健康影響を及ぼしているか否かを知るためには、人間集団を対象として、内分泌かく乱化学物質暴露と健康影響との関連を検討する疫学研究からの証拠が重要である。
 この検討班では、内分泌かく乱化学物質暴露による健康影響の可能性が懸念されている、発がん、甲状腺機能、器官形成、小児神経発達、生殖機能などへの影響について、疫学研究に基づいた刊行論文についてレビューすることにより、現状の内分泌かく乱化学物質の人への健康影響に関する問題の整理を行うとともに、今後の研究の方向性についての提言を試みたということです。
 次に、2.としまして因果関係の評価の方法論の現状であります。疫学研究を内分泌かく乱化学物質の人への健康影響という問題解決に適用することは、「内分泌かく乱化学物質の暴露量の多い人達が、少ない人達に比べて、ある病気になる確率が高いか否か」について検証を行うことになる。そのためには、疾病頻度の指標、暴露の指標、暴露要因と疾病の関連性の指標、研究デザインが、それぞれ適切に選択されて、研究が実施されなければならない。
 また、実施された疫学研究の成果の質に基づいて、暴露要因と疾病の因果関係を評価する際には、一定の判定規準が求められる。この規準になるものとしては、英国の疫学者Hillによる判定規準(1965)、ダイオキシンの健康影響に関する全米科学アカデミーの判定規準、化学物質等の発がん性評価に関する米国保健省と国際がん研究機関の判定規準が挙げられる。さらに、後二者には次のような共通点がある。
 1)として専門家の審査を経て出版された研究論文を、主な資料として採用していること。
 2)として因果関係が「ある」「ない」という二分法ではなく、「十分な知見がある」、「限定的な知見がある」、「不適切な知見がある」などの段階的な判定を採用していること。
 3)としまして、疫学研究と動物実験の双方を利用するが、最終的な判定にあたっては、疫学研究の知見をより重視していること。例えば、三者いずれの判定においても、ヒト集団を対象とする疫学研究で「十分な知見」が存在しない限り、動物実験の知見のみに基づいて、因果関係の存在を肯定する最高位の判定(国際がん研究機関におけるグループ1など)を適用することは、原則的にないこと。
 4)としまして、疫学研究の評価にあたり、因果推論の典型とみなされているHill流の判定規準は用いず、偶然・バイアス・交絡という競合的解釈を排除することができている程度によって、研究の質を判断していること。56ページに入っております。すなわち、Hill流の判定規準を満たすデータがどれだけ蓄積されているかという帰納主義的な立場ではなく、因果性以外の競合的解釈(偶然・バイアス・交絡)という「誤り」が研究からどれだけ排除されているかという反証主義的な立場から、疫学研究の妥当性を判断していること。
 5)としまして、研究の進展に合わせて、判定の見直しと更新が行われているということです。
 暴露要因と健康障害との因果関係の有無を、議論の余地なく完全に証明することは、疫学研究と動物実験のいずれでも、原理的に不可能である。それを前提とした上で、不完全な実証研究のデータに基づいて、できるだけ誤りの少ない形で因果関係を評価し、具体的な対策に結びつけるために考案された方法論として、上記の共通点を理解することができる。したがって我が国において、内分泌かく乱化学物質の健康影響を評価し、その対策を検討する場合も、因果推論の方法に関する国際的な現状を十分に踏まえて議論することが重要であるということです。
 次に、各論ですけれども、まず3-1 として乳がんでございます。有機塩素系化合物などの内分泌かく乱化学物質にはエストロゲン様作用があるため、これらの物質の暴露と内分泌関連がんである乳がん発生との関連が注目されてきた。動物実験ではジエチルスチルベストロール(DES) やエチニルエストラジオールがマウスに乳腺腫瘍を発生させることが報告されている。
 そこで、内分泌かく乱化学物質(ダイオキシンを除く)と乳がんに関する疫学研究の現状について文献的考察を行った。米国立医学図書館の医学文献データベース(PubMed)を利用して選択した文献は48件で、コホート研究6件、症例対照研究34件(うち、コホート内症例対照研究10件)、断面研究4件、エコロジカル研究3件であった。日本人を対象とした研究は1件もなかった。文献的に検討した結果、有機塩素系化合物に関しては明確なリスク上昇についての一貫した証拠は見いだせなかった。DES については乳がんリスクを上昇させるという結果が複数の前向き研究で報告されており、経口暴露の場合にはリスクの上昇が起こると考えられた。DES と有機塩素系化合物以外の内分泌かく乱化学物質と乳がんの関連に関する研究はきわめて乏しく、疫学研究の必要があるということです。
 次に、3-2 子宮体がんについてです。内分泌かく乱化学物質と女性のがんについてのこれまでの疫学研究は、前述の乳がんに関する報告が大半を占める。一方、エストロゲンに対する感受性は乳房よりも子宮内膜の方が高く、内分泌かく乱化学物質によるヒト発がんリスクを評価するためには、乳がんではなく子宮体がんに関する研究を行うことが重要である、という指摘もある(Adami ら(1995))。
 57ページをお願いします。そこで内分泌かく乱化学物質(ダイオキシンを除く)と子宮体がんに関する疫学研究の現状について文献調査を行った。PubMedを利用した結果、人口ベースの症例対照研究が2件報告されていた。いずれも、DDT やPCB 等の血清レベルの上昇による明らかなリスク上昇は認められなかった。現状では、疫学的知見は極めて乏しく、内分泌かく乱化学物質と子宮体がんとの因果関係を適切に判断することは困難と思われ、子宮体がんに関するコホート内症例対照研究の必要性が示唆されたということです。
 3-3 卵巣がんについて。これについても文献的な考察を行ったところ、DES については卵巣がんのリスクとなる可能性は低いと考えられた。DES 以外の内分泌かく乱化学物質と卵巣がんの関連に関する研究は極めて乏しく、疫学研究の必要があるということであります。
 3-4 前立腺がんとの関係です。有機塩素系化合物などの内分泌かく乱化学物質にはエストロゲン様作用あるいはアンドロゲン様作用があるため、これらの物質の暴露と内分泌関連がんとの関連が注目されてきた。動物実験では、ラットでテストステロンによる前立腺がんの発生が報告されている。
 そこで、文献的な考察を行った結果ですが、農薬暴露による前立腺がんリスクの増加が示唆されたが、有機塩素系農薬など特定の物質に関しての評価は不可能であった。有機塩素系化合物以外の内分泌かく乱化学物質と前立腺がんの関連に関する研究も極めて乏しく、疫学研究の必要があるということであります。
 3-5 精巣がんとの関係について。これについて文献期考察を行った結果、有機塩素系化合物に関する研究は極めて少なかった。DES については精巣がんリスクが統計的に有意に上昇するという一致した結果はみられなかった。その他の内分泌かく乱化学物質についての研究はなかった。有機塩素系化合物などの内分泌かく乱化学物質と精巣がんの関連に関する研究は極めて乏しく、疫学研究の必要があるということであります。
 次、58ページをごらんください。3-6 甲状腺がんとの関係であります。有機塩素系化合物などの内分泌かく乱化学物質には、ホルモン受容体とのアゴニスト作用あるいはアンタゴニスト作用があるため、これらの物質の暴露と内分泌関連がんとの関連が注目されてきた。ダイオキシンやヘキサクロロベンゼンのように、動物実験において甲状腺に腫瘍が発生することが報告されている物質もあるということです。
 そこで、文献的考察を行った結果、有機塩素系化合物に関する研究はほとんどなく、クロロフェノキシ除草剤でリスクの上昇がみられた研究1件のみであったということです。DES については複数の前向き研究の結果で有意なリスクの上昇がみられていなかった。その他の内分泌かく乱化学物質についての疫学研究はなかった。有機塩素系化合物などの内分泌かく乱化学物質と甲状腺がんの関連に関する研究は極めて乏しく、疫学研究の必要があるということです。
 次、3-7 甲状腺機能への影響との関係であります。ダイオキシンに暴露された人に甲状腺機能の異常が起こることを示唆する報告があり、PCB などダイオキシン以外の内分泌かく乱化学物質暴露と甲状腺機能との関連が注目されてきたという背景があります。
 そこで、文献的な検討を行ったところ、PCB については甲状腺機能への影響が複数の高濃度暴露集団での研究で報告されており、一般人口での疫学研究が必要と考えられる。その他の内分泌かく乱化学物質と甲状腺機能の関連に関する研究は極めて乏しく、疫学研究の必要があるということです。
 次に、3-8 尿道下裂との関係。尿道下裂は、精巣がん、停留精巣、精子数減少、男女比の低下などとの共通の背景として内分泌かく乱化学物質が考えられ、最近ではこれによる影響で説明しようという試みが多い。そこで、文献的な検討を行った結果、有機塩素系化合物などの内分泌かく乱化学物質についての報告はなかったということです。農薬従事、ホルモン製剤、廃棄物処分場周辺居住などを挙げて、内分泌かく乱物質による暴露を間接的に想定した研究からは、リスクの上昇を示唆するものもあるが、種々の交絡も無視できないので、内分泌かく乱化学物質による影響と判断することは難しい。内分泌かく乱物質を特定できる疫学研究は極めて乏しく、今後、よくデザインされた疫学研究を実施する必要があるということです。
 59ページの方に入っております。3-9 停留精巣との関係です。男児の泌尿器先天異常の主たるものである停留精巣のリスク要因として、これまでの研究では胎児期の内外のエストロゲン暴露が指摘されている。そこで、文献的考察を行った結果、これまで報告されている研究では、有機塩素系化合物などの内分泌かく乱物質についての報告が1件あり、ヘプタクロロエポキシド、ヘキサクロロベンゼンとの関連を認めた。その他、農薬、ホルモン製剤との関連が報告されている。有機塩素系化合物などの内分泌かく乱物質と停留精巣との関連に関する研究は極めて乏しく、今後、疫学研究の必要があるということです。
 3-10小児神経発達への影響との関係について。PCB 、ダイオキシン等の有機塩素系化合物は、 脳神経分化発達に重要な作用を有する甲状腺ホルモンと類似する構造的特異性がある。甲状腺のホルモンのレセプターあるいは結合蛋白との親和性が高く、その作用を阻害すると考えられている。脳血管関門の未成熟な胎児期から乳児期の脳神経の発達に影響を及ぼすことが示唆されている。一方、視床下部- 下垂体系の神経内分泌系はさまざまなホルモン受容体が存在する。内分泌かく乱化学物質が胎児、新生児期の視床下部・下垂体・甲状腺へ直接、間接的に働き脳の機能や知能、学習などに関与する神経発達の異常をもたらす可能性も示唆されている。
 このような背景を踏まえて文献的な考察を行った結果、PCB が小児の神経発達に影響をあたえていることが示唆された。有機塩素系化合物としては農薬DDE について報告があったが、因果関係を適切に評価することは困難であった。その他の物質についての報告はなかった。アジアにおける研究は極めて乏しく、今後、日本においてよくデザインされた疫学研究を実施する必要があるということであります。
 次に一番下、3-11精子数への影響との関係であります。60ページの方を開けてください。内分泌かく乱化学物質による男性生殖器系への影響のひとつに、近年における人の精子数減少などの精液の質的低下の傾向が危惧されている。内分泌かく乱化学物質の精子への影響は野生動物での事例や動物実験では確認されているが、人での影響についてはまだ確実な証拠が示されていない。
 このような背景で文献的考察を行った結果、精子に関する研究では内分泌かく乱化学物質との関連を扱った文献は極めて少なく、その少数例は農薬等の化学物質の生産・加工・使用に携わる人集団における職業性暴露、及び胎児期のDES 暴露の成人後の影響等を、非暴露群と比較したものであった。化学物質としては有機リン系農薬、除草剤等で4件あり、うち3件が精子への何らかの影響を示していた。有機溶剤関連の研究が2件含まれていたが、2件とも影響を認めないという報告であった。大気汚染との関連を異なる2地域で調査した研究では、精子数の変化はないが、長期にわたる汚染地域での居住が精子の質を劣化させるという報告であった。DES の胎内暴露例の成人後の生殖機能を調査した1例では、DES は生殖異常に対するリスクを増大させないとしている。しかしながら、単なる精巣毒性と内分泌かく乱作用との違いをこれらの文献から区別することは困難であり、内分泌かく乱化学物質の影響評価のための方法論の整備と目的の明確な研究デザインによる疫学調査の必要性が示唆されるということです。
 次、3-12子宮内膜症との関係についてです。PCB 等の有機塩素系化合物の一部には、エストロゲン様作用があると考えられている。そのため、これらの物質が、女性の内分泌関連がん(乳がん・子宮体がん)や子宮内膜症の発生に関与する可能性が指摘されてきた。なかでも、ダイオキシンを混入させた食事をアカゲザルに与えたところ、用量反応的に子宮内膜症の発生率が上昇したことを、1993年にRierらが報告して以来、ダイオキシン等の化学物質とヒト子宮内膜症との関連が疑われてきた。
 このようなことを背景としまして、文献的な検討を行ったところ、胎児期のDES 暴露に関する断面研究が2件報告されており、暴露群は非暴露群よりも子宮内膜症の有病率が高い傾向にあった。DES の胎内暴露は不妊や子宮頸管狭窄を起こすことが知られており、このため二次的に子宮内膜症の発生リスクが高まる可能性もある。DES 以外の化合物に関して、病院ベースの小規模な症例対照研究が4件報告されていた。内膜症症例で、血清PCB レベルの上昇を認めるものと認めないものがあり、結果は不一致だった。現状では、疫学的知見は極めて乏しく、内分泌かく乱化学物質と子宮内膜症との因果関係を適切に判断することは困難と思われた。より大規模な症例対照研究の必要性が示唆されたということであります。
 次に61ページをごらんください。4.としまして、これまでの各論の総括になります。まず4-1 発がん影響です。
 ●複数のコホート内症例対照研究の成績から、有機塩素系化合物(PCB や主な有機塩素系農薬)による乳がんリスクの上昇はなさそうである。しかし、層別解析(閉経前/閉経後、遺伝子多型など)で関連が強く現れる可能性を示唆する報告があり、影響を受けやすいサブグループの存在が今後の検討課題となる。
 ●複数のコホート研究の成績から、DES の経口投与によって20〜30%程度の乳がん発生リスクの上昇がありそうである。
 ●その他の内分泌かく乱化学物質とその他の内分泌関連がんとの関係については、疫学研究の成績はほとんど存在せず、関連性について言及できない。
 次に、4-2 甲状腺機能への影響について。
 ●複数の断面研究の成績から、PCB の高濃度暴露者において、甲状腺機能の低下をもたらす可能性が示唆されるが、さらに、より質の高い疫学研究が必要である。
 次に、4-3 器官形成への影響について。
 ●尿道下裂、停留精巣との関連については、疫学研究の成績はほとんど存在せず、関連性について言及できない。
 次に、4-4 小児神経発達への影響について。
 ●複数のコホート研究の成績から、PCB は日常摂取されるレベルにおいて、小児の認知機能や知能、思春期の発達を低下させる可能性が示唆されるが、さらに、日本人におけるより質の高い疫学研究が必要である。
 4-5 として生殖機能への影響について。
 ●精子数低下、子宮内膜症との関連については、疫学研究の成績はほとんど存在せず、関連性について言及できないということです。
 5.としまして、必要な研究の提言ということですけれども、内分泌かく乱化学物質によるヒトへの健康影響を知る上で、疫学研究からの知見は極めて乏しいのが現状であったのに加え、日本人を対象とした研究はほとんど存在しなかった。しかし、欧米においては、PCB や残留有機塩素系農薬の健康影響に対する強い関心から、特に、乳がんを対象として、コホート研究内で保存されている血清を用いた症例対照研究や生体試料測定を含めた大規模な症例対照研究などが複数行われており、重要な科学的根拠を提供している。内分泌かく乱化学物質の暴露状況、健康影響が懸念されている疾病の罹患状況、あるいはエストロゲンなどの内因性ホルモンのレベル、経口避妊薬などの合成ホルモンの使用状況、大豆など植物由来エストロゲンの摂取量など、交絡要因が大きく異なり、さらに遺伝的素因も異なる可能性のある日本人において、内分泌かく乱化学物質暴露による健康影響が存在するか否かを検証することは、極めて重要と考えられる。現在、厚生科学研究費補助金(生活安全総合研究事業)における調査研究では、乳がん・尿道下裂・停留精巣・子宮内膜症などの症例対照研究や精子数に関する断面研究などが進行中であり、今後その成果が発表されるものと期待されるが、研究デザインや研究数を考えると、それらの結果のみでは、内分泌かく乱化学物質暴露による健康影響についての十分な証拠を得ることはできない。
 このような状況に鑑み、この検討班からは、われわれ人間社会に現実に存在し得るレベルでの内分泌かく乱化学物質による人への健康影響に関して、より質の高い科学的根拠を得るために、以下のような疫学研究を推進することを提言するということで、62ページにおきまして、全部で大きく3つの提言をしていただいております。
 まず1)として内分泌かく乱化学物質暴露と疾病の現状把握とモニタリング。内分泌かく乱化学物質の人への暴露状況について現状を把握するために、日本国民を代表し得る対象者を設定し、生体試料中の内分泌かく乱化学物質濃度を測定する。また、その測定を定期的に実施し、内分泌かく乱化学物質の暴露状況を継続的に監視することが望まれる。例えば、国民栄養調査の調査項目を拡大し、内分泌かく乱化学物質などの国民の健康を脅かす可能性のある化学物質の血中濃度などの測定を、項目に含めていくことが考えられる。
 また同時に、内分泌かく乱化学物質暴露の影響として懸念されている疾病のモニタリングも必要になる。国レベルの統計としては、人口動態死亡統計が最も信頼性の高いものであるが、内分泌かく乱化学物質との関連で注目されている乳房、子宮、前立腺、精巣、甲状腺などの部位のがんについては、5年生存率が高く、死亡統計では不十分である。幸いにも、現在、有志地域によるがん登録が行われているために、罹患の現状と動向については考察が可能であるが、人口動態統計と同様、国レベルでの実態把握と継続監視が必要である。また、子宮内膜症や精子数、あるいは器官形成の異常などについても、国レベルでの監視システム確立が望まれるということです。
 2)としまして、症例対照研究やコホート研究などの疫学を方法論の基盤とした人を対象とした研究の推進。ある疾病の発生に内分泌かく乱化学物質の暴露が関係しているか否かを実証するためには、疾病を保有している患者についてのみ暴露量を測定しても解決しない。また職業的に内分泌かく乱化学物質に高度に暴露した人から、内分泌かく乱化学物質との関連が懸念されている疾病が発生したからといって、それが暴露に関係しているとは言えない。疫学研究の方法論を用いて、可能な限り偶然・バイアス・交絡による誤りを最小限にする努力をした上で、両者の関連を客観的かつ定量的に表現して初めて科学的根拠となりうる。63ページをお願いします。今回の検討では、疫学研究の科学論文を系統的にレビューすることにより、内分泌かく乱化学物質といくつかの疾病との因果関係について結論を導くことを試みた。残留農薬の乳がん罹患に及ぼす影響については、欧米からは数多くの証拠が提示された結果、因果関係を肯定するには至らなかったが、生活習慣や遺伝的素因などが異なる日本人に関するデータは皆無であるため、日本人に対する影響については未知である。また他の疾病や他の内分泌かく乱化学物質については、研究数が限られており、今後、疫学研究の方法論に基づいた大規模かつ質の高い研究の推進が望まれる。推進が望まれる具体的な研究としては、
 ●各種生体試料保存を含むコホート研究を基盤とした症例対照研究
 ●妊婦や乳幼児を対象としたコホート研究及び先天異常に対する症例対照研究
 ●男性生殖機能への影響に関する問題解決に向けた疫学研究
 ●職域集団を対象とした疫学研究
 などが挙げられます。
 3)としまして、内分泌かく乱化学物質の人への健康影響に関する研究の継続的な総括とその情報公開。人への健康影響に関する疫学研究は、国際的な関心を反映して急速に発展し、論文報告数も増加している。国際的な研究の進展に迅速に対応するために、今回の検討で試みた、刊行論文のレビューと更新を継続的に実施することが重要である。そして、このような最新の研究状況に関する総括の成果については、インターネット等を用いて広く国民に還元する必要がある。このような措置を通じて、十分な科学的根拠に基づく情報を国民と行政が共有するようになれば、内分泌かく乱化学物質問題の理解と対策はさらに促進されるはずであるということです。
 最後に、この検討班関係の協力者方々と参照文献等を64ページにかけて提示いたしております。
 ちょっと長くなりましたが、また続けさせていただきます。
 65ページをごらんください。65ページは、(5)としてリスクコミュニケーション対策であります。
 まず、1.はじめにですけれども、この検討班では、内分泌かく乱化学物質の問題を例としたリスクコミュニケーションの実行基盤の整備に向けて、前提となる概念に対する理解を促進し、具体的な検討課題を提言としてまとめることを目的としました。その提言の中には、具体的な行動とその行動主体が誰なのか、またさらには、そのために必要な組織や予算はどのようなものか、行動を如何に実行に移すか、行動の効果をいかに計量するかということが含まれます。
 次に、2.前提となる概念と理解についてでありますけれども、まずリスクコミュニケーションの定義であります。一般にコミュニケーションは、「誰(情報作成者、提供者)が、誰(情報の受け手)に、どんな目的で、何(どんな情報) を、どのような手段(情報チャンネルとメディア)と表現で、いつ(あるいはどのくらいの頻度で)伝えるのか」によって規定される。この中でも、「誰が、誰に、何を」がもっとも基本的であるが、この作業においては、「調査研究の成果を国民の健康的な生活のために調整・活用する(行政科学)立場にいる者(行政)が、一般消費者に、内分泌かく乱化学物質のリスクについての予測を伝える」場合と、「一般消費者が、行政に、内分泌かく乱化学物質のリスクについての予測を伝える」場合の双方を考察の対象とするということです。ここでいう行政とは、主として厚生労働省であり、厚生労働省から一般消費者への情報伝達に最も重点を置き、次にその逆方向の情報伝達を考慮する。また、それ以外の情報伝達、例えば調査研究に携わる者(研究者)からの情報発信や異なる政府機関同士における情報伝達などは、必要な場合に考察の対象にするということにいたしました。
 次に、リスクの概念であります。ここで言うリスクとは、本来化学物質の安全性の研究や毒性学で使用される用語である。一般に化学物質がヒトや野生生物に接触すれば、何らかの影響を及ぼす可能性がある。その中には、薬のように好ましい作用を及ぼすものもあれば、発がん物質のように悪い作用を及ぼすものもあり、無害あるいは何ら影響を及ぼさないものもある。より正確に言うならば、薬に関しても、いわゆる副作用が伴うことがあり、良い作用、好ましい作用、悪い作用、警戒すべき影響などは、並存している可能性がある。いずれにしても、その内の好ましくない作用や悪い作用がどういうものであるかを見極めることが必要である。この判別の作業を有害性の同定(Hazard Identification)と言う。
 有害性が同定された化合物に接触する(暴露される)可能性があるヒトや野生生物は、実際に被害を受ける可能性がある。それは接触が濃厚であれば起きやすく、希薄であれば起きにくいと考えられる。66ページに入っております。すなわち、有害作用が実際に起きるか否かは確率的な事象である。有害な影響が実際に起きる可能性をリスクという。したがってリスクは確率的な概念である。ただし、どんなに有害な物質であっても、生物への暴露が起こりえなければ、実際の被害は考えられない。その意味で、この場合のリスクはゼロである。日本語では、リスクは高い、あるいは低いと表現される。ヒトが同じ有害化合物を体内に取り込んでも、影響は性、年齢、遺伝的要因、体調、食事などで異なる。すなわち、リスクも異なる。
 リスクコミュニケーションにおいて、何を伝えるかの「何」に当たるのがリスクである。確率は数学でいう測度の一種であり、0から1の間の連続値で表される。したがって、リスクの概念(数学で言う確率事象)が正確に定義され、それが伝える者と伝えられる者との間で共通に理解されていれば、リスクコミュニケーションは推定された数値の伝達になり、誤解の生ずる余地はない。例えば、わが国の交通事故死の年間件数はおよそ1万であるから、ある人が1年間で事故死する確率は、人口を約1億人とすれば、1万分の1である。これが最も簡単に算出した交通事故死のリスクである。交通事故には怪我もあるが、怪我のリスクは死亡のそれより大きい。
 しかし、化合物の有害性にはより複雑な性格があり、怪我と死亡のような単純な尺度で測ることはできない。化合物の生体影響は、さまざまな指標(エンドポイント)で観察され、現実には有害性の同定は科学的に難しいことが多い。また化学物質の地球上の分布も一様ではなく、そうした化合物の暴露の推定も前提条件に大きく左右される。こうした一意的な同定が難しい事象は不確定であると言われるが、不確定さは様々な因子に随伴して現れる。すなわち不確定さも多様である。したがって、確率の概念を適用する前提となる科学的な表現、すなわち数学的な定式化は極めて困難なことが多い。したがって、こうした問題を一般消費者に理解してもらうことは極めて困難であるということです。
 次に、リスクマネジメントであります。化合物のリスクがあれば、対策が必要になる。有害性の同定とリスクの算定は科学の問題である。すなわち科学技術が進歩し、また十分費用が使えるならば、有害性の同定もリスクの算定も原理的には可能である。ところが、対策の問題になると価値観が入ってくる。この違いは、医学における診断と治療の違いに相当する。医学が進歩すれば診断は正しいものに収斂していく。しかし、どのような治療をすべきかに関する意見は必ずしも一致しない。何らかの対策をとるべきか、何もしないかは、対策をとる立場にいる人間の価値観に左右される。リスクに対する対策はリスクマネジメントと呼ばれる。リスクマネジメントは、マネジメントの責任者の価値観に左右されるが、彼らの行動も多くの意見(価値観)に左右される可能性がある。もしリスクマネジメントの責任者が、彼らの取る対策に関して一般消費者の支持を得たいと考えるなら、彼らの行動の根底にある価値観を明らかにすると同時に、一般消費者の価値観を理解するように努める必要がある。行動の根底にある価値観を明らかにすることは、いわゆる説明責任(accountability)に関係している。
 67ページをお願いいたします。次に、内分泌かく乱物質の特色であります。内分泌かく乱物質とは、ヒトや野生生物の内分泌系に作用し、その正常な機能を阻害する化合物の総称である。内分泌系の働きを阻害する医薬品や化合物は確かに存在するが、ヒトの精子形成能の低下や野生生物に見られるメス化の現象が、環境中に存在する内分泌系の働きを阻害する化合物の影響であるという仮説がC.コルボーンらによって立てられ、その検証が全世界的な関心事となった。これが内分泌かく乱物質問題である。この問題が大きな論争を巻き起こした背景には、提出された仮説が概念として専門家の意表を突くものであったこと、本当ならば大変な問題であるが、その検証が容易ではない仮説であったこと、実際に仮説検証作業が始まってからも、研究者の間で意見が分かれるほど相反する結果が報告されていること、従来の科学的(毒性学的)手法では予測できない結果(逆U字現象など)が報告されていることが挙げられる。
 こうした意味では、有害性の概念がほぼ直線に近い量−反応関係で理解されている放射線や、従来の毒性学により有害性の機序がほぼ解明されている化学物質などとは、大きく事情が違っている。ここには、化学物質の安全性の問題であるとは言え、他の化合物にはない難しさがあるということです。
 次に、リスクコミュニケーションの必要性についてです。前述のように、リスクマネジメントの責任者が、彼らの取る対策に関して一般消費者の支持を得たいと考えるなら、彼等の行動の根底にある価値観を明らかにする必要がある。一方で、確率的な概念であるリスクの多様さを一般消費者に理解してもらうことは極めて困難である。しかしこの点がある程度理解されなければ、彼等の行動は、一般消費者の持つ不安の解消のために何ら具体的(社会的)貢献もすることができないであろう。したがって、リスク全体に関わる分析、すなわち専門家あるいは責任担当者の義務としてのリスクへの対応の最終段階として、コミュニケーションの必要性が生じる。言い換えれば、十分な、あるいは効果的なコミュニケーションなしでは、それまでに積み上げられた膨大な専門領域での調査研究や検討結果が、学問としては記録に残るとしても、人間の生存あるいは健康保護には全く生かされないこととなる。そのために、コミュニケーションの中では、「誰が」と「誰に」と「何を」という重要三項目に加えて、「どうやって」と「いつ」の二つの重要性も認識されなければならない。
 これらのことを前提として、これから具体的に検討しなければならない課題としては、次項のとおりとするということであります。
 68ページをごらんください。3.検討すべき課題の範囲であります。
 まず(1)としまして、コミュニケーション・チャンネル。考察の対象とするのは、行政と一般消費者との双方向のコミュニケーションである。具体的には、情報作成者及び提供者が厚生労働省、情報の受け手が、
 ●一般国民・消費者
 ●政府内部
 ●NGO/NPO
 ●企業
 ●その他の関係者(Stakeholders)
 ●特別な関係者(Specific Audience)
 ●海外の専門家及び市民
である場合と、その逆方向の情報伝達を主たる対象とするということです。
 (2)としてコミュニケーションの目的ですが、何のために情報を伝達するかは、情報発信者の立場で異なる。発信者が行政であれば、
 ●政策への理解(Accountability)
 ●合意の形成 (Public Acceptance)
 ●リスクの低減
 ●問題解決の加速
 ●緊急の警告
などが目的となる。これに対して、一般消費者が情報発信者である場合は、
 ●意見の表明
 ●政策の提言
 ●問題解決への参画
などが目的となる。
 (3)提供情報の内容( コンテンツ) 。どのような情報を発信するか、その際には根拠として使えるデータが得られるのか、またそれを誰が作成するかは、発信者と目的によって違ってくる。提供情報の内容には、
 ●問題全体に関わる知見と行動の説明(Conceptual Framework)
 ●行政の行動の結果伝達(調査研究などの報告)
 ●誤解解消のための説明
 ●対象化合物の範囲(リスト作成有無)
 69ページをお願いいたします。引き続きまして、
 ●対象集団 (population) の範囲(小児や妊婦などの高感受性弱者等)
 ●危険性の同定 (Hazard Identification)
 ●リスク(危険性の確率)
 ●リスクマネジメントのための行動
 ●リスクとコストベネフィット
などがある。これらの情報源の種類としては、専門的な解説から一般向けの解説まで、幅広い材料が対象となる。
 (4)としまして、情報と提供メディア。メディアとは情報を伝達する手段のことであり、以下が含まれる。
 ●省の広報(ニュースレター、パンフレット、小冊子など)
 ●インターネットホームページ(報告書、海外の信頼のおける文書の翻訳、データベー
スなど)
 ●マスメディア(テレビ、ラジオ、新聞など)
 ●雑誌(解説記事)
 ●単行本(解説書)
 ●関係者、NGO/NPO などへの説明会、対話集会
 ●講演会
 ●電話、Fax 、CD-ROM、その他の手段。
 (5)としまして、ユーザーの視点:情報の利用法。発信された情報が、受け手にどのように利用されるかを予想、分析しておく必要がある。例えば、
 ●概念的理解
 ●科学的知見の理解
 ●規制状況とその背景の理解
 ●化合物より情報が追えること
 ●規制などの変化に対してタイムリーに説明があること
などに留意しておく必要がある。
 (6)としまして、継続対応です。コミュニケーションは双方向の理解を最要視するのであるから、情報を伝達すれば、その受け手の応答に的確に対応することが重要となる。具体的な対応には、
 ●問い合わせへの対応
 ●情報提供の継続と更新
 ●消費者ニーズの把握と双方向の理解促進
などがある。例えば、インターネットによる情報提供であればWeb マスターが必要であるし、また専任者による速やかな対応と情報更新が必要となる。
 (7)としまして、リスクコミュニケーションの実行と組織。これまで説明しました上記の(1) 〜(6) を実行するための基盤として求められるのは、厚生労働省としての「リスクコミュニケーションガイドライン」の策定と実施体制の整備である。具体的には、次の順に進めることになろう。
 ●上記の各事項に関する詳細な調査検討
 ●検討会等の開催による指針の策定
 ●情報提供の方法と組織と予算の手当て
 ●実行
 ●評価:効果判定の規準と継続的な評価の実施。
 なお、内分泌かく乱化学物質の問題は既に全世界的な関心事になっている訳であるから、実際には、これらの基盤整備と並行して、本項に掲げられた事項をたたき台として、できるところから即実行に移していくことになる。例えば、試案として次のような事項は即実行に移すことができよう。
 ●情報提供の中核となるWeb-siteは、国立医薬品食品衛生研究所化学物質情報部が作成しているものを利用して、新たにTracking機能をつける。
 ●対話集会ないし啓蒙のための講演会をできるだけ早い機会に開催する。
 ●どのような誤解があるのか、その原因は何か、それはどのように解消できるのかについて検討班で分析する。
 ●情報提供のための関係者(Stakeholder) についての情報を収集、整備する。
 (8)としまして、リスクコミュニケーションからみた内分泌かく乱化学物質の問題と行政科学(レギュラトリーサイエンス)の判断規準であります。
 リスクコミュニケーションからみた内分泌かく乱化学物質の問題には、これまでにはない、以下のような問題がある。
 ●内分泌かく乱作用という新しい概念と新しい危険物質であるかもしれないという作業仮説
 ●環境ホルモンという化合物群があるという誤解。例えば「ダイオキシンは猛毒、ダイオキシンは環境ホルモン、ゆえに環境ホルモンは猛毒」というような解釈
 ●科学的に決着のつきにくい知見。
 71ページをお願いいたします。そうした対応上の難しさであります。
 これらは、調査研究の成果を国民の健康的な生活のために調整・活用する行政科学的な立場にいる者(行政)にとって、従来のやり方では施策に移すことが極めて困難な問題である。従来、人の健康影響への有無を考慮して何らかの施策に移す判断をする際には、科学的な証拠の蓄積に基づいて、人の健康影響に悪影響を及ぼす可能性があるかどうかを判断することを鉄則としている。ここでいう科学的な証拠とは、適切なプロトコールに沿って実施される科学的実験や調査から得られる結果、すなわち、動物実験から人への影響を予測したり、検体の分析結果から暴露や変動を予測したりして得られる成績又は外挿である。しかし、例えば、内分泌かく乱作用はこれまでの毒性とは異なる新たな概念であり、現時点で入手できる実験成績は内分泌かく乱作用が生物学的に説明可能であることを示すが、人健康への影響を判断するには、確実に外挿データが不足していて十分な予測ができない状態であることから、この「生物学的説明可能性(Plausibility)」という判断規準を如何に国民の健康的な生活のために調整・活用していくかが問われることになる。
 行政科学の判断規準を明文化したものはないことから、内分泌かく乱化学物質問題のリスクコミュニケーションを例にして、化学物質が有するかもしれない未知の毒性や生物学的には説明可能というような毒性から国民の健康的な生活を守ることを基本原則とした横断的な行政科学規準を整備することが重要と考えられる。その基本骨子としては、
 ●行政科学
 ●判断規準
 ●コミュニケーション
 ●合意形成
 ●高感受性弱者(小児、妊婦など)への対応
などが挙げられるということであります。
 (9)としてその他の検討事項ですけれども、72ページをごらんください。研究班などの報告書を読みやすくする注文、あるいは海外の著名人を招いた対話集会の企画、外国語(英語など)での情報提供の必要性などについても考慮する必要もあるということであります。
 次に、この検討に当たっての検討協力者の方、参照とした文献等を示させていただいております。
 長くなりましたが、事務局の方からは以上です。

○伊東座長
 ありがとうございました。
 それでは、ただいまのこの2つの御説明の内容につきまして、御質問、御意見などございましたらどうぞ。

○阿部委員
 とりあえず2つだけ、66ページのリスクマネジメントのところにあります下から7行目「何かの対策をとるべきか、何もしないかは、対策をとる立場にいる・・・」、とありますがこれは絶対に間違いです。対策をとられる立場、治療を受ける人間の価値観による、これはインフォームド・コンセントの基本概念ですから、これは明らかに間違いだと私は思います。
 それからもう一つ、61ページ、これはちょっと難しい問題だと思いますが、「その他の内分泌かく乱物質とその他の内分泌関連がんの関係については、疫学研究の成績はほとんど存在せず」と書いてございますけれども、確かにこの疫学全体を調べたところでは、余り関連がないのかもしれませんが、一言61ページの最後に経口避妊薬ですね。これについては実にきちんとした疫学的研究があって、乳がん、子宮内膜がんについてはある程度の見解が出ていると思うんですが、そういうことを記された方がいいんじゃないかと思いますが、いかがでしょうか。

○事務局
 これにつきましては、きょうは検討専門班の方、事務局に一任しておりますので、私の方からお答えさせていただきます。
 御指摘はもっともだと思いますので、これについては反映させた形で修正をしたいと思っております。簡単ですが、以上です。

○津金委員
 経口避妊薬に関しましては、今回の内分泌かく乱化学物質としてレビューの対象に含めなかったのですけれども、経口避妊薬というものも内分泌かく乱化学物質として扱っていくべきなのでしょうか。

○伊東座長
 これはいかがですか。
 私は、そういう内分泌かく乱作用があることは事実なんですから、やはり触れられた方がいいのではないかというふうに思いますが、いかがですか。

○阿部委員
 混乱するといけないので、付記とか添付とかいうような恰好で書いていただければいいんじゃないかと思いますけれども。

○伊東座長
 どうぞ。

○武谷委員
 ロードスピル、オーラルコントアセプティブに関しては、確かに直接作用もありますけれども、人類に対するエビデンスとなっている点は、排卵抑制、あるいは子供をつくらないことによる効果と理解しておりますので、直接作用なのか、あるいは避妊効果を通じての二次的な作用なのかということをきちんと分離してデータを記載していただければよろしいのではないかと思います。逆に子宮内膜がんはピルによりそのリスクが半減すると言われておりますので、パラドキシカルな効果というのが二次的には見られるわけでございます。卵巣癌も頻度が半減するというふうに言われておりますが、これも排卵抑制による間接的効果と思われます。

○伊東座長
 非常にいいサジェスチョンをいただきましたから、その点、御判断いただいて、混乱を与えないような書き方で検討していただきたいと思います。
 そのほか何か。

○櫻井委員
 暴露疫学等調査、先ほど別冊の方も拝見しまして、大変よくまとまって、総論、各論ともによくまとまっていると思います。それであるから、研究の推進という部分も重みがあると思うのですが、63ページの2つ目のパラグラフ、4つポッチがついて、推進が望まれる具体的な研究は次のとおりであると4つ書いてありますが、一番上のものはちょっと意味がはっきりしなくて、コホート研究を基盤とした症例対照研究、これはコホート研究及びコホート内症例対照研究というふうに2つ併記しているのか、あるいは特異的に効率を考えてコホート内症例対照研究を推奨していらっしゃるのか、そこがちょっと分からない。

○津金委員
 時間的な問題もありますので、基本的にはコホート内症例対照研究を意味します。コホート研究をもしこれからやるとしたら、10年か20年後に結果が出るというようなことになると思います。それから、例えば内分泌かく乱化学物質の暴露状況を最初からコホート研究の形で全部分析し、それからフォローアップするということは現実的ではないと考えます。

○櫻井委員
 分かりました。それからもう一つよろしいでしょうか。

○伊東座長
 はい、どうぞ。

○櫻井委員
 69ページですが、リスクコミュニケーションの部分です。これも広くいろいろな問題点をまとめていらっしゃいますが、69ページの一番上の部分で、若干追加してほしいなと思うところがございます。リスクの情報提供の内容です。危険性の同定の次にリスクというふうになっていますが、危険性の同定の次の暴露の推定というのがある方がきっちりシステマティックになると思います。
 それからリスクというところは、危険性の確率というだけでなくて、これは結局個人ごとのリスクの種類とか確率を勘案して総合的なリスクを5段階ぐらい、あるいは4段階、3段階のどれかに分類するということからマネジメントに移行するということでないと現実的ではない。したがいまして、(危険性の確率)というふうに書くよりは、もうちょっと別の表現がよろしいのではないかというふうに思いました。以上です。

○伊東座長
 ありがとうございました。
 そのような御意見を御参考にしていただいて、ぜひうまく表現していただきたいと思います。どうぞ。

○藤原委員
 68ページの上の方の検討すべき課題の範囲の1ですが、コミュニケーションのチャネルのところで、上から2行目「情報作成者および提供者」というところの対の言葉として、「情報の受け手」とだけなっているのですが、私は最近の情報のいろんな状況を見ていますと、単なる受け手だけではなくて、利用者ということが入ってくると思います。ここに並んでいるのを見ていますと、企業とか関係者その他諸々の中には、利用者という言葉が私は一番適切だと思うんです。2つ並べた方がより広い範囲になるのではないかと思います。69ページにユーザーの視点というのが入っていまして、ここにユーザーだけをくくり出していろいろ書かれているのですが、冒頭に送り手と受け手と。しかも受け手の中にも多様な、消費者といってもいいんでしょうか、いろんなタイプの人たちがいるということを念頭に置いた語句を入れた方が適切ではないかと思います。以上です。

○伊東座長
 ありがとうございました。

○松尾委員
 リスクコミュニケーションに関します大変立派な御講義を受けまして感銘いたしておりますけれども、さてということになりますね。それでは一体何をするんだというのがちょっと分からないものですから、具体的な例でここにお示しになったような内容を御披露いただきたいということで、ひとつ提案いたします。それは17ページに、限りなくまたスキームにこだわりますけれども、スクリーニングと詳細試験がありますけれども、ここでin silico からハイ・スループットから、こういうふうに下りてまいりますよね。この試験一つ一つの内容と意味付け、それで何ゆえに下に行くのかというのを一般大衆といいましょうか、ここの先生方は非常にレベルが高くてすぐお分かりと思うんですけれども、恐らくこれが分からないのではないかと思うんです。ですから、実例として一体in silico というのは何なんだ、ここでスクリーニングをかけたら次にハイ・スループットとは何なんだ、こういうふうな試験の内容と語れる範囲を皆さんにお知らせして、それでこうこうきたんだというようなことを実例として、先ほどの御講演に従った内容で御披露いただけたら非常にありがたいと思います。
 それからもう一つよろしいでしょうか、71ページ。ちょっとここで気になりましたのは、丸ポチが5つありますけれども、その3つ目、「化学物質が有するかもしれない未知の毒性や生物学的には説明可能」云々とありますけれども、これはよく読むと、行政科学規準とか書いてありますけれども、予防原則と、要するに科学的にまだ解明されない事実があるので、予防原則に従って処置すると。こういうふうに受け取れるんですけれども、厚生労働省ではそういう判断の仕方でよろしいのでしょうか。従来の考え方ですと、科学的にきちんと背景、その他が分かっているものについて処置されたと。ちょっとギャップがあるように感じますけれども、いかがでしょうか。

○伊東座長
 その点につきましても、こちらから答えてください。

○事務局
 まず最初の具体例に関しては、数値を分かりやすく語れるかという非常にいい例だと思いますので、これにつきましては、それぞれ担当されている先生方にも協力していただいて、語りかけをどうするかというのは検討してきちんと載せるようにしたいと思います。
 2番目の質問ですけれども、これは説明しますと、むしろ予防原則という言葉は避けました。それはなぜかといいますと、結局、予防原則という言葉が逆に非常に広く誤解されている印象を持ったからです。具体的に言えば、これは否定的に考えたときに、いろんな対策、健康とか環境とかを考えたときの対策をとる上でいろんなデータの蓄積みたいなものが、そういったものの対策、データの蓄積みたいなものがないからといって、そういったものの遅延がそういった政策をとることを妨害してはならないというような意味だったと思うんですけれども、基本的に、これは必要最小限の科学的なデータというものは必須だと思っております。その上で、それをどのように調整、活用して利用するかということが問われていますので、その意味で、今回の内分かく乱化学物質の場合には、実験的にはプラスのデータ、マイナスのデータが両方出ている状態だと。両方ともそれは否定できない。それに対してどうしたらいいんだという状況になっているわけです。ですから、それに対してそういったデータをどのように行政的に調整、活用しているのかというところに対して今すべがありませんから、それに対してきちんと検討する必要があるということで、こういう表現で書かせていただいている背景がございます。説明になっていますでしょうか。

○伊東座長
 和田先生どうぞ。

○和田委員
 私はちょっと教えていただきたいんです。昨今、リスクあるいはリスクコミュニケーション、あるいはリスクマネジメントということが私たちのいろんなところでも言葉として出てきまして、非常に明快に分かりやすく示されていますのでと思っておりますが、この65ページのリスクコミュニケーションの定義というところで、行政から一般消費者に内分泌かく乱化学物質のリスクについての予測を伝える場合と、それから一般消費者から行政に全く同じ文言でリスクについての予測を伝える場合の双方が述べられているわけです。68ページの真ん中辺の(2)にコミュニケーションの目的というのがありまして、これで情報発信者の立場で異なるという2つの目的が書き分けられておりまして、さらに提供情報の内容については、発信者と目的によって違ってくるというところがあるのは当然だと思うんです。それでもとへ戻りますけれども、65ページの真ん中辺のこの書き方というのは、全く同じ文言であるのが妥当なのかどうか。その辺がよくわかないものですから、これは教えていただきたいと思うことです。

○事務局
 65ページの部分のところの言い方が、要するにリスクについての予測を伝えるということが対等に書かれているということでしょうか。ちょっとすみません。理解ができなかったのですが。

○和田委員
 ある意味で対等であることは必要であると思うんですけれども、文言として全く同じ文言が使われているのが一番適切なのかどうかというところがちょっと、後の目的なり、内容というところを見ると明らかに違っているものですから、この書き方が一番適切なのかどうか。いけないと言っているわけではなくて、この言い方が一番適切なのかどうかということを教えていただきたいということです。

○事務局
 理解いたしました。この部分はむしろ双方向のコミュニケーションということに重点を置いたがために、こういう共通した言い方になってしまっているということがあります。おっしゃるとおり、一般消費者の立場からリスクについての予測を伝えるという意味では、行政側から伝える場合で、格段の持っている情報であるとか、背景であるとか、環境とか条件が全く違うと思いますので、一概に同じことを言い表せないのではないかと思います。そこは必要があれば、ちょっとほかの部分との整合性をとって、もう少し分かりやすく書き直せればと思っています。ただ、ここの表現は、あくまで双方向のコミュニケーションということを重視するという意味でこのような表現になっているということだけでございます。

○伊東座長
 どうぞ。

○鈴木(継)委員
 予防原則という言葉を避けましたとおっしゃったのですが、具体的には、避けるというのはどういうことになるわけですか。予防原則と言わないで、予防のための方策というふうに言葉を変えている部分もあるわけですよね。あるいは、あれはもっと丁寧に事前配慮型の方策とか、どんな中身のことをどのようにやるのかに関して、こういう言葉を使いますというのは、ある程度でき上がってきてしまっているわけですけれども、予防原則というのを避けたと言われると、以後、我々はその言葉を非常に使いにくいことになりますよね。

○事務局
 ちょっと解答が不適切だったかもしれませんが、説明し直しますと、今おっしゃられた利用制限等で予防的アプローチという言葉が使われていることはこちらも把握しておりますので、別にそういった言葉を使うことに関して、こちらとしても反論とかそういったものはありませんし、むしろ、そういったものは積極的に取り入れていきたいと思っております。ただ、ここでは、あくまで限られている調査研究の成果をいかに最大限活用して、それを伝えていく、それを活用していくということがここで議論するコミュニケーションの一番根本だと思っておりますので、こういう説明をした次第です。ですから、御指摘のとおり、そういった考え方、もしそういった一般概念が既にたくさん使われていますから、そういった言葉をきちんとここに書いた方がいいということであれば、こちらの方は、それは反論はいたしませんけれども、こちらとしては、調査研究等各地でされているわけですけれども、されているけれども、明らかにならないという状態をどのように解決するか。それはデータとしては得られているのだけれども、それをいかに最大限活用するかということが大切だと思っておりますので、こういうふうに記載をしている次第です。もし先生がおっしゃるように、一般的に受け入れられている言葉ということで、そういったものをきちんとこういったところで取り入れるべきだということであれば、それは中に反映させたいと思っております。

○青山委員
 ちょっと細かい字句の問題ですが、57ページの3-4 前立腺がんという中ほどの部分でありますが、1 行目に、「有機塩素系化合物などの内分泌かく乱化学物質にはエストロゲン様作用あるいはアンドロゲン様作用」と言い切ってしまっているのですが、実際にはアンゲロゲン受容体に結合する、いわゆる内分泌かく乱化学物質と言われているものは、すべて抗アンドロゲン様の作用が見つかっているのであって、アゴニスティックな作用というのはピュアなアゴニスト以外には見つかっていないように思うんです。ですから、続きの文章との関係もありますので、抗アンドロゲン様作用として意味が通じにくいのであれは、エストロゲン受容体またはアンドロゲン受容体との親和性が認められるというような言葉に置き換えられてはいかがでしょうか。

○伊東座長
 ありがとうございます。はい、どうぞ。

○寺尾委員
 ちょっと細かいことなのですけれども、52ページの中ほどの「内分泌かく乱化学物質の生体暴露量」というところの1行目の「70種以上のいわゆる内分泌かく乱化学物質が存在するが」と、これは言い切るだけの根拠があるのかどうかということと、もう一つは53ページに、これに関連するのですけれども、トルエンとか、ベンゼン、キシレンという化合物が列挙されていますけれども、これは内分泌かく乱を起こすというエビデンスというか、サジェスチョンするような何かがあって書いているのでしょうか。もしそうでなかったら、なるたけこういうのは落としていった方がよろしいのではないかという気がするんですけれども。

○牧野先生
 お答えいたします。最初の御質問ですが、何をキャンディデイトにするかというのは、現在もこの席でも議論があるわけでございますが、これは私どもの厚生科学研究が始まる前年の補正予算による研究の段階で、これは行政側から従来の工業生産量等に鑑みて、こんなものというものが当時60から70ぐらい挙がっておりまして、こういう表現が残っているわけでございます。それから、先生がおっしゃるように、後半のトルエン、ベンゼンは、そういう意味では、同時に検討したというふうにおとりになっていただきたいと思います。

○寺尾委員
 そうしますと、なるたけ世の中が混乱するようなものは入れない方が私はいいのではないかという気がいたしますので、そこら辺ははっきりさせておいた方がいいんじゃないでしょうか。

○牧野先生
 それは、最後に行政の方でおまとめになるときに、総合的に御判断いただきたいと思いますが、とりあえず測定して、そういう測定値があるということだけ提出したわけでございます。

○押尾委員
 先ほども出ていた部分ですが、63ページの今後推進が望まれるという研究のところの3番目に「男性生殖機能への影響に関する問題解決に向けた疫学研究」というのがあるのですけれども、今までの流れの中では、今日の御発表の中でも男性生殖機能に関しては、今のところ問題は分からないという話できているかと思うのですが、ほかの4つのところにはそういう問題とかということは出ていなくて、ここだけ問題解決というふうに具体的に踏み込んで書いてあることはどういうことなのかなというのと、具体的に何か研究方法で既にお考えになっていることで、もしお話ししていただけるのであれば教えていただければと思います。

○津金委員
 内容的にはもう少し詳細な部分を別冊のところに記していると思うのですが、ここにこういうふうに取り上げたのは、単に分担執筆、担当者のくせがそのまま残ってしまったということです。分担執筆している部分でまだ整合性がとれていない部分がありますので、今後そこら辺の整合性を保つような形にしていきたいと考えています。

○伊東座長
 私、最後に1つだけお尋ねしたいんですが、59ページの後ろの方に、小児の神経発達にPCB が影響を与えるというところがあるんですね。ところが、その前の御説明のときに、PCB については触れないというのが47ページの(4)のところに、その他の影響の可能性についてというところで、PCB については触れないというのがあるんですね。ですから、この2つのところは後で調整をしておいていただきたいなというふうに思います。よろしくお願いします。

○阿部委員
 54ページですが、この報告書はサイエンスに関しては具体的に書いていて非常によろしいと思うんですが、ただ、「ジブチルスズが免疫系に作用して、経口免疫寛容の誘導に影響を及ぼす」と、これはどう読んでもよく分からないんですが、具体的に書くのか、観念的なことは除いた方がいいんじゃないかと思いますけれども。
 もう一つよろしいですか。結局、一番最後の方に、プロージビリティとありますね。生物学的説明可能性、これはどの程度の関心を持つべき問題なのかについてよく分からない。私も分からないし、お読みになる方も分からないんだろうと。そうするとこれについて、しかもこれをプロージブルな毒性から国民の健康を守ることを基本原則とした厚生行政をつくっていくのが必要だろうと言っているわけですね。その規準が分からないのに、どうしてそれをつくれるかという問題が逆にあるような気がするんですが、ちょっとしつこい質問かもしれませんが、お答えいただけたらと。

○牧野先生
 阿部先生の最初の質問は、私が答えるべきだと思いますが、確かに1行に満たない字句では大変解釈が難しい文言だと思います。いわゆる免疫的なトレランスについてトリブチルスズで、これはvitroですが、まだ検討している段階でございまして、これは本年また引き続き検討しておりますので、報告書をまとめる時点ではかなり具体的な数値で、ほかの物質に関しましては、かなり具体的な数値を出しておりますので、同様の結果が出るよう努力いたしたいと思います。

○事務局
 後半の質問に関しては、事務局から解説いたしますが、71ページのところに具体的な基本骨子と5つ挙げてあるのですけれども、この前にも書いてありますように、このようなことを扱える明文化されたものがないということで、実は規準自身も基本的な議論のひとつとして入ってくるという理解で考えております。その上で、この中の判断規準というのはありますけれども、ここでは今内分泌かく乱化学物質の実験データから得られる状況で、このプロージビリティという言葉が焦点に挙がってきたわけなのですけれども、実際に判断規準というのを考えたときには、これはいろんなものがあるわけです。プロージビリティだけではなくて、いろんな判断の仕方がありますので、そういったものを全部含めて、こういったところできちんと定義づけをした議論をしたいというふうに思っております。ですから、プロージビリティだけに限って議論をするということではありませんので、その点、御理解いただければというふうに思います。

○伊東座長
 ちょっと休憩でもしようかなと思っているんですけれども、じゃ、先生どうぞ。

○和田委員
 細かい文言のところなんです。66ページの下から3行目に、「もしリスクマネジメントの責任者が彼らのとる対策に関して一般消費者の支持を得たいと考えるなら」という表現があるんですけれども、これは私が理解しているのは、一般消費者が理解できるようにということだと思うんですけれども、「支持を得たいと考えるなら」という文言はちょっと適切ないんじゃないのかなと思いますが。

○伊東座長
 ごもっともでございます。そのように訂正いたします。

○事務局
 ちょっと言葉を考えさせていただきます。

○伊東座長
 それでは、ちょっと予定の時間より超過いたしましたけれども、これから10分か15分間休憩にいたします。それで4時20分ぐらいから再開させていただきます。

(休憩)

○伊東座長
 それでは再開いたします。各論部分の質疑は終わりましたので、次に6ページから12ページまでの概要、それから73ページ、74ページの行動計画、その他の部分につきまして事務局の方から御説明いただきます。

○事務局
 それでは説明いたします。資料2の6ページを開けてください。
 6ページから12ページにかけまして、概要という形で今回の各重点についての検討成果を要約しております。また、この調査研究の成果を行政施策に調整・活用すべく具体的な行動計画を提示しておりますので、それについて説明いたします。
 なお、先ほどの各論の議論でいろんな先生からの意見が出て、各論部分で文面上修正する必要が当然出てくる箇所がありますので、一部、6ページから11ページの部分につきましても、それに伴って言い方を変えなければいけないことがありますので、そこはそういう旨で読んでいただければというふうに思っております。
 6ページの概要ですけれども、内分泌かく乱化学物質の健康影響に関する重点課題についての検討成果を以下に要約する。また、調査研究の成果を行政施策に調整・活用すべく、具体的な行動計画を提示する。
まず重点課題についての検討成果であります。1)として試験スキーム。
 ○低用量域を含むホルモン作用が生物学的に説明可能な物質というものは、電算機を用いた活性予測→ヒト細胞株を用いた女性ホルモン応答の測定系→ほ乳動物を用いた子宮肥大反応試験と去勢雄反応試験からなるスクリーニング試験系によって、順位付けできると考えられる。
 ○順位付けされた物質は、順次リスク評価のための詳細な試験を行って、内分泌かく乱作用を通したヒト健康への悪影響の可能性があるのかどうか、判断することになる。
 ○詳細試験としては、従来型の生殖発生毒性試験で内分泌かく乱作用を観測することは困難と考えられるので、生体の成長過程(胎児期・新生児期・思春期)や生体反応(神経系、内分泌系、免疫系など)に特異的な実験を実施するなど、現時点での知識に照らして適切な検討を行う。
 今後の進め方です。
 ○低用量域を含むホルモン作用が生物学的に説明可能な物質を順位付けし、リスト化する。
 ○各試験についてガイドライン並びに評価規準を整備する。
 ○リスト化された物質については、順次詳細な検討を加え、内分泌かく乱作用を通したヒト健康への悪影響の可能性があるのかどうかを評価する。
 ○内分泌かく乱作用を通したヒト健康への悪影響の可能性があると判断された物質に関しては、用途制限や監視等、必要な法的措置や行政措置を講ずるということであります。
 次に、2)としまして採取・分析法であります。
 ○内分泌かく乱化学物質の分析結果について、公表されている学術論文を精査した結果、発表されている分析法は、
複数の専門家の評価を受けて公表されている分析法がほとんどないこと
汚染を防ぐため、実験室での分析に入る以前の検体の採取・保存や実験室内の分析 において留意すべき点があり、これを怠ると分析結果の信頼性が損なわれることが判った。
 ○そこで、数少ない信頼性のおける方法を元に、まず食品分析についての一般試験法と食品中に混入する3物質(ビスフェノールA、フタル酸エステル類、ノニルフェノール)を対象に暫定ガイドラインを提示した。
 今後の進め方です。
 ○生体試料分析についても、信頼性の高い採取・分析法ガイドラインを整備する。
 ○同一試料を用いた複数試験分析機関によるクロスチェックを実施し、提示した分析法が妥当かどうか確かめる。
 ○精度管理を保証する措置を講ずる。
 ○実験動物の飼育及び実験環境からの暴露調査を実施し、内分泌かく乱作用のスクリーニングや観測を目的とした動物実験の信頼性を検証し、試験法の改善に役立てる。
 次に、3)低用量問題対策。
 ○低用量作用を、従来の標準的な毒性試験で観察されてきた無影響量(NOEL)や NOAEL より低い用量で観察される性ホルモン様の影響、と定義する。
 ○現時点では、低用量作用の存否について再現性のある実験結果は得られていないが、双方の見解には信頼性が認められる。よって現時点では、低用量作用の存在は生物学的に説明可能であるとしか言えない。低用量作用を通したヒト健康への悪影響の可能性を判断するには、確実にデータが不足しており、十分な予測ができない。
 ○低用量作用の検出には、実験的な工夫が求められるが、その際には、関連する問題として、以下の点を克服する必要がある。
低用量影響は、ホメオスタシス(生体内の環境を恒常的に制御する機能のこと)によって打ち消されて、観察されにくいことがある。
高用量では、受容体を介した反応の場合、受容体発現の低下によって、低用量影響が観察されにくいことがある。
成熟女性の生体内には、女性ホルモンが大量に存在し、その量は変異原性や乳がん惹起のリスクが疑われるのに十分な量であるにもかかわらず、生理学的に問題がないという事象について、メカニズムが解明されていないこと。
二世代試験や多世代試験では、多くの場合、内分泌かく乱作用は検出されていないが、実験的影響が認められている事例は、胎生期影響や新生児影響に限られており、これらに着目した低用量影響を検出する方法が確立されていないこと。
ジエチルスチルベストロール(DES) のような陽性物質でも低用量影響が検出されない報告があるように、陽性物質について再現性をもって陽性結果が得られる試験系ですら確立されておらず、同じ条件下での他の試験物質との比較検討ができる状態になっていないこと。
 ○低用量問題は、作用機序の解明に向けた取組と現実的な面からの対策の双方から対応する必要がある。
 8ページをお願いいたします。今後の進め方です。
 ○実験結果の再現性の問題を克服するための調査研究を進める。具体的には、DES 陽性対照が再現性をもって陽性反応を示す試験条件の研究、生殖発生毒性試験に関わる背景データベースの構築や統計解析手法のあり方、こういったことについての研究を行う。
 ○スクリーニングによって順位付けされた物質は今後リスト化されてくるので、スクリーニング結果を補強することを狙った補助試験法を充実させる。
 ○スクリーニングから確定試験アプローチを含む、内分泌かく乱影響の観測のための包括的なガイドライン(仮称)を策定・実施する。
 ○生物学的説明可能性(Plausibility)を施策の判断規準とする行政手法を検討する。
 次、4)暴露疫学等調査。まず4-1 疫学研究であります。
 ○乳がんのリスクはDES により20〜30%上昇する可能性があるが、その他の内分泌かく乱化学物質では、明らかな上昇はなさそうである。その他のがんと内分泌かく乱化学物質の関係については、信頼できる研究がなく、関連性について言及できない。
 ○ポリ塩化ビフェニール(PCB)の高暴露は、甲状腺異常を来す可能性が示唆される。
 ○尿道下裂、停留精巣など器官形成に関わる問題については、研究がなく、関連性について言及できない。
 ○PCB は日常摂取されるレベルで、小児の神経系の発達に悪影響を与える可能性が示唆される。
 ○精子数低下、子宮内膜症との関連については疫学研究がなく、関連性について言及できない。
 今後の進め方です。
 ○日本国民を代表しえる対象者を設定し、内分泌かく乱化学物質の暴露と疾病の現状把握と継続的なモニタリングを行う。
 ○疫学の方法論に基づいた、人を対象とした研究を推進する。具体的には、各種生体試料保存を含めたコホート研究を基盤とした症例対照研究、妊婦や乳幼児を対象としたコホート研究、男性生殖機能への影響に関する問題解決に向けた疫学研究、職域集団を対象とした疫学研究など。
 ○内分泌かく乱化学物質の人への健康影響に関する研究を継続的に総括(刊行論文のレビューと更新)し、その成果を広く国民に周知し続ける。
 次に、4-2) 暴露調査等。9ページをお願いいたします。
 ○ビスフェノールA、クロロベンゼン類、パラベン類、フタル酸エステル、ベンゾピレン、PCB 、クロルデン、トリブチルスズ化合物について、採取抽出法・測定法を改良して、同一母体から、さい帯血、母体血、母乳、尿、毛髪、腹水、臓器等の濃度を測定した結果、クロルデン、ナフタレンを除く上記物質は、いずれかの生体試料中に含まれ、長期予後との関連は定かでないが、環境暴露として問題となりうる。
 ○内分泌かく乱化学物質の一部は、ヒト由来細胞を用いた受容体に結合する。また、乳腺細胞・子宮内膜細胞を増殖させる他、栄養膜幹細胞分化に影響する。代謝過程ではグルクロン酸抱合の役割が示唆される。
 今後の進め方です。
 ○内分泌かく乱作用が疑われるその他の環境汚染物質についても、同一母体の複数部位からの生体試料採取と濃度分析データを蓄積する。また同一母体の胎児からも、生体試料採取と濃度分析データを蓄積し、母体からの暴露の実態を解明する。
 ○これらの物質が生体内に実際に存在する暴露量の範囲で、どのような作用が発現するのか否か、また代謝・解毒の全容について明らかにする。
 次に5)ですが、リスクコミュニケーション対策です。
 ○リスクコミュニケーションは、「調査研究の成果を国民の健康的な生活のために調整・活用する(行政科学)立場にいる者(行政)が、一般消費者に、内分泌かく乱化学物質のリスクについての予測を伝える場合」と「一般消費者が、行政に、内分泌かく乱化学物質のリスクについての予測を伝える場合」の両方を指すものとする。
 ○リスクコミュニケーションからみた、内分泌かく乱化学物質の問題には、以下のような問題がある。
専門家の意表をつく新しい概念と新しい危険物質であるかもしれないという仮説
環境ホルモンという化合物群があるという誤解
従来の科学的手法では予測できない、科学的に決着のつきにくい知見
膨大な既存化合物の見直しが求められる、対応上の難しさ
 ○検討すべき課題は、情報の発信者と受信者、情報伝達の目的、提供情報の内容、情報提供の手段、情報の利用法、継続対応の仕方、コミュニケーションの実行基盤、行政科学の判断規準の整備などである。
 今後の進め方です。
 ○上記の課題についての調査研究と即実行できる事項の実践を通して、コミュニケーションの実行基盤(リスクコミュニケーションガイドライン策定と実施体制)を整え、また継続的にコミュニケーションの効果を判定し、改善に生かす。
 10ページをお願いいたします。
 ○内分泌かく乱作用を含む、化学物質が有するかもしれない未知の毒性や、生物学的に説明可能な毒性から、国民の健康的な生活を守ることを基本原則とした、横断的な行政科学規準の整備を行うということであります。
 最初にも説明いたしましたけれども、これらの文章につきましては、各論のところで、今日何人かの先生から指摘等ございましたので、それに基づいて言葉等の修正をこの後かけるということになります。
 11ページをごらんください。11ページは行動計画であります。上記の検討成果から、以下の行動計画を定めると。これにつきましては、平成10年に検討会の中間報告を出して折にも、このような具体的な実施時期等を明示しておりますので、今回も各検討班で検討いただいて、今後やらなければいけないというものが明らかになりましたので、それについての目標を示しております。
 まず行動ですけれども、低用量域を含むホルモン作用が生物学的に説明可能な物質のリストを整備する。これは最終的に整備がし終わるのが2005年度を目標としております。
 リスト化された物質は、順次、詳細な検討を加え、内分泌かく乱作用を通したヒト健康への悪影響の可能性があるかどうかを評価する。これは準備行うということであります。
 リスト化された物質は、順次、暴露モニタリング対象物質として、生活環境からの総暴露量の評価とリスク評価を実施し、また生体試料の保存を継続的に行う。これも順次ということであります。
 生体試料分析について、信頼性の高い採取・分析法ガイドラインを整備する。これは来年度までにつくりたいと思っております。
 複数分析機関によるクロスチェックを実施し、精度管理保証のための措置を講じる。これは2003年度までに行いたいと思います。
 実験動物の環境からの暴露調査を実施し、内分泌かく乱作用のスクリーニングや観測を目的とした動物実験の信頼性を検証し、動物試験法の改善に役立てる。これも来年度までに行たいと思っております。
 スクリーニング試験から確定試験アプローチ、対象物質リストを含む内分泌かく乱影響の観測と評価、監視のための包括的なガイドライン(仮称)を策定・実施する。これは個別のガイドラインについては、できた時点から活用したいと思いますが、最終的に全体が完成するのは2005年度を目標というふうに考えております。
 内分泌かく乱化学物質の暴露と疾病の現状把握と継続的なモニタリングを行う。疫学の方法論に基づく、人を対象とした本格的な研究を推進する。疫学研究の継続的な総括と成果の周知につきましては、2002年度から順次行いたいと思います。
 コミュニケーションの実行基盤の整備、これは来年度までに達成したいと思います。また、このコミュニケーションの継続的な効果判定、これも準備行いたいと思います。
 また内分泌かく乱作用を含む、化学物質が有するかもしれない未知の毒性から国民の健康的な生活を守ること、を基本原則とした、横断的な行政科学規準の整備を行う。これにつきましても、2005年度までの完成を目指したいと思っております。
 次に73ページをごらんください。73ページは、この前のページまでの各論の議論を踏まえまして、この行動計画の部分をここにまとめとして記してございますので、説明は省かせていただきます。
 続きまして、別冊の方でお配りいたしましたタイトルが「健康影響に関するその他の調査研究等の取組」というふうに書いてある、ページ数でいうと、右下が6ページというふうに番号がふってありますけれども、この資料をごらんください。よろしいでしょうか。これにつきましては、前回の検討会のときに、作業中の資料の中の一環として説明いたしておりますので、説明は簡単にしたいと思いますけれども、簡単に紹介いたしますと、まず2−1としまして、「厚生科学研究費補助金による調査研究の概要」ということで、平成10年11月の検討会の中間報告書で定められた対処方針を踏まえて、厚生科学研究費補助金でこの3年間に行った研究成果について、既に公表されていますので、それについて、この重点課題に取り上げたもの、取り上げなかったものを含めて簡単に紹介する意味でここに総括の部分をまとめさせていただいております。内容につきましては、説明を省かせていただきます。
 それで、右下のページの36ページというふうに書かれているところまでお進みください。2−2としまして、「内分泌かく乱化学物質ホームページとデータベースの構築」ということで、前回の検討時にこれから公表に向けて作業中の内分泌かく乱物質のデータベースとQ&Aについて簡単に御紹介いたしました。今回Q&Aを完成させまして、既にホームページ等で閲覧できるシステムができておりますので、それについて紹介しております。
 次のページをめくっていただきますと、内分泌かく乱化学物質ホームページの紹介、そのまま打ち出しておりますけれども、37ページ、38ページ、39ページにかけて概要が分かるようになっております。
 40ページからにつきましては、Q&Aについて、全部で47ページにまで全部で16問ありますけれども、これにつきましても、各先生方の方には既に通知いたしておりますけれども、こういったものをつくって既に公表いたしております。
 48ページですけれども、「世界における最近の取組と国際協力」ということで、ここでは、前回の検討会で説明いたしましたように、IPCSであるとかOECD、あるいは49ページ、50ページにいきますと、米国であるとか欧州における取組について簡単に紹介しております。説明は省かせていただきます。
 また50ページの真ん中から下の4ですけれども、「国内における主要な取組と各省協力」ということで、具体的には51ページ、52ページありますような、これまでの主なその他の取組について簡単に年表の形式で紹介させていただいております。
 また、最後の53ページには、関係する省庁がいくつかございますので、それがどういった枠組みでこういった検討を進めているかということが分かるようなフロー図がありますので、それを紹介させていただいております。
 事務局からの説明は以上です。

○伊東座長
 ありがとうございました。
 ただいまの説明につきまして、どなたか御質問、御意見ございませんでしょうか。

○松尾委員
 73ページの行動計画の御説明の中に入っていますね。ここで1、2、3次、4次というふうにリストアップされるんですけれども、この前に、非常に重要な情報が世の中にあふれていると思うんです。それが生産量であったり、環境濃度であったり、生体内濃度であったり、それからあと、ハザードに関する文献その他がいっぱいあると思うんですけれども、これを十分に活用していただいてということを提案したいんですけれども、その後こういうふうに進まれるということの方が効率がいいのではないかと思うんですけれども。

○事務局
 それにつきましては、もちろん対象物質等に関して検討を始める際には、そういった背景情報が貴重ですので、今、松尾委員がおっしゃれたとおりの情報を参考にして、どういう規準で選ぶかというのを考えて、こういった検討を進めていくことになるかと思います。これにつきましては、表にはうまく出てこなかったのですが、実は6ページの「重点課題についての検討成果」の試験スキームの(今後の進め方)のところの2番目の○なんですが、「各試験についてガイドライン並びに評価規準を整備する」というふうにあります。実はここでちょっと説明したつもりでいたのですが、そこがうまく反映されていませんでしたので、そこは分かりやすいように表の方も改めたいと思っております。結局、各スキームを構成する試験に関しては、どういう規準でその物質を選んで、それをどういうふうに評価していくかということを検討しなければいけませんから、それをここに説明した次第なのですが、これがちょっと表の中だと分かりませんので、分かりやすいように修正したいと思います。

○松尾委員
 次のリスト化された云々のところですね。「順次詳細な検討を加え」と書いてございますけれども、ちょっとこの説明がなかったように思うんですけれども、どんな検討なのでしょうか。

○事務局
 具体的には、ここに書いてあるとおり、詳細な検討によってヒト健康への悪影響の可能性があるかどうかを評価すると。これは具体的には各論の方で議論いただきました。その図の方はまだ修正があるとは思うのですけれども、17ページの試験法スキームの図1を見ていただきたいのですが、これについては、今日いただいた議論で修正等をしなければいけないのですけれども、この点線の引いてあるところがございます。点線の引いてあるところから上の部分がスクリーニングスキーム、その下が詳細試験ということで、詳細な検討ということで、今言った詳細な検討というのは、この下の部分に該当するというふうに理解いただければと思います。その中には、いろんな文献的な検討から、あるいは同時に開発されてくるような補助的な試験の結果みたいなものが当然入ってくると思いますので、そういった情報を利用してリスク評価を行っていくということであります。この表だけだと説明が分かりにくいのでちょっと工夫したいと思っております。

○伊東座長
 どうぞ。

○井上委員
 低用量問題に関連して一言申し上げます。先ほどの本文のところも武谷先生からの御指摘があったりしましたので、本文を含めて、それから概要の7ページの低用量の○の3つ目のポツの「成熟女性の生体内には」の項については、菅野先生にも手伝ってもらって根本的に書き換えて事務局と御相談しながら改訂いたします。
 それから性ホルモンという定義で本文の42ページの上から6行目ですか、7行目ですか、性ホルモンという形になっておりましたのが、この7ページのような形で独立してきますと、ちょっと低用量問題の本質が限定されるということは確かに御指摘のとおりですので、これは「性」をとって「ホルモン様の影響」というふうにさせていただきたいと思います。以上です。

○伊東座長
 よろしゅうございます。

○津金委員
 暴露疫学の疫学のところですが、「信頼できる研究がなく」とか、そういう表現が多いんですけれども、ないわけではないので、「少なく」と書いておいていただければと、お願いします。いろんなところにあります。

○伊東座長
 研究費をたくさんもらっていて、ないというのはどうも困るなと思っていたところです。よろしくお願いいたします。
 それでは、大分時間も経ちまして、意見もまだ出尽くしていないと思っていらっしゃる方もいらっしゃると思うんですけれども、このあたりで中間報告書追補案ということについての修正すべき点はいろいろと御指摘ございましたし、今はメールで、あるいはファックスでいくらでも御意見を賜れる時代でございますので、そういう形でこれから今日の御議論を踏まえた上でディスカッションをしていくということにしたいというふうに思っております。
 特に私、感じましたのは、先ほど寺田先生も御指摘がありますけれども、この検討会ができて第1回のパブリケーションが厚生省で行われて、そしてそれが出て、それから莫大な研究費が厚生省だけではなくて各省庁に出てまいりました。日本だけではなくて、世界的にもすごい研究が活発に進んだ。したがって、そういうような情報を全部集めまして、各セクションの中でどういうような、現状では内分泌かく乱化学物質と思われている物質の中で、我々の健康に直接影響があるというエビデンスはあるのかないのかというような結論、そして現時点ではあるのかないのかという結論。それから、この問題はまだ不十分だから、さらに今後の検討が必要だというようなコメントというようなことを念頭に、各先生方、責任のある先生方は資料をおつくりいただきたい。それを今度は第2回目の健康影響に関する検討会の中間報告書の追補という形でパブリッシュしていくということではないかと考えております。したがって、今日のディスカッションでまだ足らないということがありましたら、御質問、御意見を賜れば結構でありますし、それから新しく訂正されて出てまいりました内容につきましても、また、先生方にそれぞれその内容をお送りいたしまして検討するということにもっていきたいというふうに考えております。そうでないとまたこのような会を年内にやると言われると、皆様方がっくりされるのではないかというふうに思っております。
 この資料の取扱その他について、何か事務局の方でありましたら御説明ください。

○事務局
 事務局の方では、次のように作業を進めたいと考えております。今日御指摘いただいた事項につきましては、今、座長の方からも説明がございましたが、座長と事務局の方で整理をいたしまして、修正したものを郵送もしくはファックス、あるいは電子メールの手段で再度各委員にお諮りして、最終化したいと思っております。いかがでございましょうか。

○伊東座長
 もう一度こういう会議というよりは、皆様にお送りして御意見を賜るということにしたいと思います。よろしいですか。よろしゅうございますか。
 そのほか何か事務局からございますか。

○化学物質安全対策室長
 事務局からは特にございません。
 本日、長時間にわたりまして御審議ありがとうございました。本日御審議いただきました資料2「中間報告書追補案」につきましては、先ほど座長の方からもお話がございましたように、座長と事務局の方で必要な修正作業をさせていただきまして、委員の皆様には再度お届けすると。その上で御意見等をお諮りいたしまして、最終化をするということにいたしたいと思っております。
 また、本日御議論いただきましたように、行動計画という形でついておりますので、今後は調査研究、また行政的な取組につきまして、行動計画に沿った形で進めていきたいと思っております。その際におきましては、先生方にいろいろ御相談等をさせていただきまして御協力いただくこともあろうかと思いますので、またよろしくお願いいたしたいと思っております。
 事務局から以上でございます。

○伊東座長
 それでは、長時間御検討ありがとうございました。この行動計画を見ておりますと、2005年ということまで書かれておりますので、これは恐ろしいことであるということをお覚悟の上でおつき合い願いたいというふうに思っております。
 研究費も随分出ておりますので、その中で立派な成果を出していただいておるということについては私も十分理解しておるつもりでありますけれども、言葉足らずで、菅野先生とか井上先生、気分を壊されたのではないかなと思うんですけれども、どうぞ気分を壊さないでおつき合い願いたいというふうに思っております。どうも長時間ありがとうございました。

(了)

照会先
厚生労働省医薬局審査管理課化学物質安全対策室
担当:川嶋
TEL :03−5253−1111(2424)


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