日時: | 平成13年10月12日(金) 10:00〜12:00 |
場所: | 厚生労働省専用第16会議室(中央合同庁舎第5号館13階) |
出席者: | 【研究会参集者・50音順】 毛塚 勝利(専修大学法学部教授) 柴田 和史(法政大学法学部教授) 内藤 恵(慶應義塾大学法学部助教授) 長岡 貞男(一橋大学イノベーション研究センター教授) 西村 健一郎(京都大学大学院法学研究科教授、座長) 【厚生労働省側】 坂本政策統括官(労働担当) 鈴木審議官 岡崎労政担当参事官 清川調査官 荒牧室長補佐 |
【議事概要】
○ ミサワセラミックス労働組合委員長 前野 寛氏及び同書記長 新井 正弘氏並びにゼンセン同盟政策局長 逢見 直人氏より、ヒアリング調査票の回答内容に基づき、ミサワセラミックス(株)(以下「ミサワセラミックス」又は「ミ・セラ」という。)から星光化学工業(株)(以下「星光」という。)への化成品事業の営業譲渡の実情、具体的な対応等について説明が行われた。その内容は以下の通り。
(ミサワセラミックスの沿革について)
ミサワセラミックスは、大正時代に創業した浜野染色という企業に由来する。その後、浜野化学となり、昭和50年代にミサワグループ入りに伴いミサワセラミックスと名称変更。平成9年のミサワセラミックケミカル(株)との合併を経て、現在に至る。
ミサワセラミックス労働組合は、かねてよりゼンセン同盟の傘下組合である。
(営業譲渡が行われた理由)
ミサワセラミックスはプレハブ住宅事業をコア事業として位置付けること、紙パルプ市況は不調であり合理化を図る必要があることから、星光化学への営業譲渡が実施された。
星光化学は、西日本を拠点としており、主に東日本を拠点とするミサワセラミックスの化成品事業を取り込み、事業を強化する目的があった。
(労働契約の取扱について)
営業譲渡された化成品事業に属していた労働者98名(うち組合員79名)中、96名が星光に転籍した。転籍を拒否した者はいない。
転籍していない2名は定年退職間近の労働者であり、労使合意によりミサワセラミックスから星光へ在籍出向という形で手当てした。これは退職まで間がなく、転籍させるよりも在籍出向の方が労使双方に利益となるからである。
協議の結果、賃金に関し、転籍時における月額賃金を保証すること、退職金に関し、転籍時に一旦清算するものの、退職金額算定の基礎となる勤続年数は星光に引き継ぐこと(星光を退職する際の退職金額は、ミサワセラミックスにおいて一旦清算した額を控除)、転籍に際し移籍金を支給することを内容とする労使協定を締結した。
(労使協議について)
2000年11月22日、ミサワセラミックスと星光化学との間で本件営業譲渡に関する基本合意がなされたが、これ以前に労組への事前協議、通知はなされていない。会社経営陣が組合三役に対し、基本合意成立後に初めて口頭で説明があったのみである。
2000年11月24日、ミサワセラミックスから文書で「化成品事業の一部営業譲渡についてのお知らせ」が発出されたが、組合に対してのものではなく、世間一般に対しての広報文という位置づけであった。労働契約等の取扱いについては、営業譲渡の詳細が決定次第通知するという内容である。
その後、直ちに星光化学の役員が労働者に対し、転籍に伴う処遇や転籍後の業務内容等について労働者からのヒアリングを開始した。ミサワセラミックス労働組合としては労使間の協議も行われない段階でのヒアリングは不当と判断し、ヒアリングの中止を申し入れた。これを受け、ヒアリングは直ちに中止された。
転籍する79名の組合員は、新規に立ち上げたゼンセン同盟星光労働組合の組合員となった。
労働協約について、譲渡先の星光化学にも労組があることから、星光化学内にミサワセラミックス由来と星光化学由来のそれぞれの労働協約が併存することを会社との間で確認した。その後の労働協約の一本化を目指すことで労使一致した。
(上部機関であるゼンセン同盟の役割)
ミサワセラミックス労働組合にとって、営業譲渡への対処は初めてであったことから、ゼンセン同盟より対処方針について指導を受けた。指導事項は「化成品事業の一部営業譲渡に関する申し入れ書」における要求事項、協定書の内容に反映されている。
(今後の企業組織再編に伴う労働問題への取組について)
企業組織再編に伴う労働問題は、短期間の取組では対応しきれるものではないにもかかわらず、経営側には事前協議を行わず決定事項をトップダウンで通知し、それに従わせようとする傾向が認められる。労組として、企業組織再編を行う際には事前協議が不可欠であることの理解を経営側に求めていく。
○ これを受けて、意見交換が行われた。その内容は以下の通り。
Q: 労働者は納得して転籍したか。「なぜ転籍しなければならないのか」といった不満が労働者にあったのではないか。
A(ミサワセラミックス又はゼンセン同盟。以下同じ。):
化成品事業に従事する労働者は浜野化学時代から勤務している者が多数であることから「自分は浜野の人間である」といった意識が強いこと、従来ミサワセラミックスにおいてプレハブ住宅事業と化成品事業で人事交流がなかったことから、全員が転籍を望んだといえよう。もっとも労働者は星光化学へ企業名が変わってしまうことの抵抗感、星光化学における第二、第三の合理化がやってくるのではないかといった危惧は持っていたであろう。
Q: 会社はなぜ事前に情報提供等を行わなかったのか。
A: 経営側はインサイダー取引の危惧があると主張した。
A: 証券取引法上のインサイダー取引と、労使協議は別だとゼンセン同盟として主張した。事前協議がなかったことを理由に、組織再編を白紙撤回させた事例もゼンセン同盟傘下にはあるが、今回のケースは譲渡先と基本合意が締結された後だったため、そこまで動くことに至っていない。
Q: 星光化学における処遇体系とのすり合わせで問題は生じなかったか。あるいは、もともと両者の労働条件体系に違いがなかったのか。
A: 両者の労働協約等を対照しながら、転籍後不利益が生じないか検討した。今回不利益は生じなかったが、これは譲渡先企業に体力があってはじめてできることである。有利子負債圧縮のための譲渡の場合等では、なかなか難しい。
A: 一長一短はあるものの、両者の就業規則等を見比べると総じて星光化学の方が良かったという事情は認められる。
Q: 転籍に当たり退職金を一旦清算しているが、この手法は組合にとって基本のものと考えているか
A: そうだ。ただし、勤続年数を譲渡先で通算できないこともある。
Q: 移籍金はどういった性格のものか。一般にある、労働条件の不利益変更を補うための補填金といったものか、転籍に伴う慰謝料的なものか。
A: 今回不利益変更はないため、専ら慰謝料的なものだ。その額の算定に当たっては、過去にゼンセン同盟傘下の組合で移籍金が支払われた事例等を参考にした。
A: その資料は、転籍に伴い労働条件が伸びたケースなどを想定し、移籍金を転籍に伴う逸失利益をカバーするためのものと捉え作成したものだ。
Q: 本件営業譲渡は、ゼンセン同盟にとって成功事案か。
A: 営業譲渡契約成立前に行った交渉の中で、労働条件について不利益変更なくまとめることができたのは良かったと思っている。ただし、事前協議がまったくなされなかったことは問題だ。
Q: 経営側への要求事項として、労働者が転籍を拒否した場合、会社として具体的にどのように対応するのか明らかにすることとあるが、これはどういう状況を想定していたか。
A: 会社は「問題解決に努める」と回答したが、こうすることでいろいろな状況に対応できると判断したためだろう。
Q: ミサワグループは、M&Aを積極的に行う企業として有名であり、色々なところから買収した事業を、また他社へ譲渡することも多いと考えるが、ミサワグループはこういった手法に慣れているのか。
A: 経営手法としては慣れているだろう。もっとも、企業組織再編を行うに際し、労働者、特に組合に対する対応を行うことには理解がない。
Q: それは労組を組織させない経営側の明確な姿勢の現れなのか。
A: 不当労働行為に該当する事実はないが、組合が消滅してしまった事例は2ケースある。
Q: 化成品事業について、星光は西日本基盤で主に販売中心、ミサワセラミックスは東日本基盤で主に製造中心と言うことから重複部門は少ないと思われるが、今後事業所整理等が行われると考えるか。
A: 危惧しているところである。主に工場について整理統合が行われ、閉鎖に至るところが出てしまうことも考えられる。
Q: ミサワグループの中で再編が行われ、主に事務職等では部門の整理統合が行われたのではないかと考えるが、どうか。
A: ミサワグループの中で、労働組合が存在する唯一のケースがミサワセラミックスである。グループ内他社の社員会等と連絡は取り合っておらず、事実を把握していない。
○ 事務局より、資料No.1,企業組織再編に伴う労働問題の実態に関する研究調査案について説明が行われた。これを受けて、以下の意見が出された。
資料No.1-2の3PのQ9において「譲渡先企業は、どのような目的で貴社から営業権を譲受したと思いますか。」とあるが、ここにある営業権とはいわゆる暖簾を指し、意味が異なってしまうことから権を外すべきではないか。
○ 事務局より、資料No.2,企業組織再編に対応した諸制度改正について説明が行われた。これを受けて、意見交換が行われた。その内容は以下の通り。
Q: 企業組織再編税制について、譲渡益課税の繰延べについて説明がなされたが、人的分割が行われる際の株主への課税はどのような取扱いとなっているのか。
A(事務局。以下同じ):
税制適格の場合、みなし配当課税が行われない。
Q: 事務局から、会社分割制度施行後半年間で人的分割が行われたケースは皆無だと説明があったが、なぜ行われないのか。
A: 経営判断として、人的分割により設立会社等との資本関係が切れてしまうよりも、物的分割によって自身に株式を割り当てることで資本関係を維持しグループ内に留めることでグループ全体のシナジー効果を高めようとしていることが考えられる。 また、日本の場合、利益配当を求める株主圧力がまだまだ小さいことから、人的分割による株主への割当が実施されにくいが、今後人的分割が増えていく可能性もあるだろう。
以上
担当:政策統括官付労政担当参事官室法規第3係(内線7753)