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第4回資料
資料2−1

卒後臨床研修制度における研修目標等の
位置づけとこれまでの改善の取組について

1 卒後臨床研修制度における研修目標等の位置づけとこれまでの改善の取組

1 臨床研修に係る内容については、昭和43年の臨床研修制度の開始に当たり定められた「臨床研修運用方針」(昭和43年7月)において定められており、研修目標等については、同方針中の「臨床研修計画の参考資料」に示されている。

○ 臨床研修運用指針(昭和43年7月)

1 目的

 臨床研修は、医師が、適切な指導責任者のもとに、常に社会との関連において疾病を把握しつつ診療に関する知識及び技能を実地に錬磨し、医学の進歩に対応して自ら診療能力を開発しうる基礎を養うとともに、医療における人間関係、特に医師と患者との関係についての理解を深め、併せて医の倫理を体得し、医師としての資質の向上をはかることを目的とする。

2 方針

 臨床研修は、それぞれ各診療科に所属して行うものとする。ただし、二以上の診療科について行う場合には、4の臨床研修連絡会に所属して行うものとする。
 臨床研修を行うに当たっては、各診療科における指導責任者のもとに、当該診療科及びこれに関連する領域の知識及び技能を体得し、その水準の向上をはかるよう配慮がなされるものとする。

3 期間

 継続して二年間行うことを原則とする。

4 指導体制

 病院内に各診療科間の連絡を密にするため、指導責任者によって構成された臨床研修連絡会を設け、その連絡会に連絡調整の責任者をおく。

5 運営計画

 臨床研修を行う病院は、年度当初に別紙参考資料を参考として、病院の実情に即した当該診療科(関連領域を含む。)の臨床研修運営計画をたて、それに基づいて計画的合理的な臨床研修を行わせる。この場合、入院、外来、救急の配分、症例の選択等できる限り合理的に配慮し、二年間の臨床研修が有効なものとなるよう努める。(別紙参考資料:臨床研修運営計画)


【臨床研修運用指針 別紙】

(内科、小児科、精神神経科、皮膚科、放射線科、外科、整形外科、産婦人科、泌尿器科、耳鼻咽喉科、眼科及び麻酔科について記述
 → 内科、小児科について抜粋)

内科

I 研修カリキユラム

入院患者を担当させ、定期的に外来患者を扱わせおよび救急患者の診療に当たらせる。

一 研修期間中に、消化器、循環器、内分泌、代謝、血液、泌尿器、呼吸器、神経、筋等の疾患、アレルギー、膠原病、感染病(化学療法)、中毒等の各種の診療に当らせる。

二 内科の診断技術のカリキユラムとして、少なくとも次のものを含める。

(一) 各種疾患に必要な理学的診断法(血圧測定、眼底検査を含む。)
(二) 基礎的臨床検査法
一 検尿、検便、血球計算、検痰(細菌、寄生虫検査を含む。)
二 採液検査手技(胃十二指腸液、奨膜腔穿刺、髄液、骨髄等)
三 主要臓器のエツクス線透視およびエツクス線写真診断
 (心肺、消化管、腎)
四 血液等の生化学測定値および血清反応の判定
五 心電図の撮影および判読
六 内視鏡所見の判読
七 主要臓器の機能検査成績の判定
(三) 内科の治療技術カリキユラムとして少なくとも次のものを含める。
 処方、注射(薬物の薬理作用、副作用、中毒に関する知識)、輸血、輸液、穿刺、救急療法(蘇生法、酸素療法、胃洗滌)、食餌療法

II 研修中に修めるべき診療実績

一 診療経験

(一) 入院患者
 研修期間中に、次の部門の疾患の入院症例について、少なくとも二例ずつを含む合計四○例以上の入院患者につき担当医として診療に当らせる。
(1) 消化器 (2) 循環器 (3) 内分泌 (4) 代謝 (5) 泌尿器 (6) 呼吸器 (7) 血液 (8) 神経、筋 (9) 膠原病、アレルギー (10) 感染症
(二) 外来患者 八○例以上の診療に当たらせる。
(三) 救急患者 五例以上の症例を経験させ、または観察させる。
二 剖検症例数

 三例以上の剖検例を有することを有する。

三 病歴の作成、症例検討会および症例報告の作成

(一) 担当入院患者四○症例の病歴の抄録を作成させる。
(二) 内科より外科方面に移し、外科的治療を行なつた三症例の病歴の抄録を作成させる。
(三) 剖検三症例の病歴および病理所見のコピーまたは抄録を作成する。
(四) 症例検討会に参加させる。
(五) 担当症例の報告文を作成させることにより、臨床医学の実地に即した研究能力を修得させる。

小児科

I 研修カリキユラム

第一年目:次の二期にわける。

第一期:四か月
 小児科臨床の初歩的な診断法、治療法の手技を入院患者について患者の受持ちを担当する上級医のもとで受持ち補助医として研修を行なわせる。
 この間、病歴記載法、小児、特に乳幼児の診察法、栄養法、投薬および処方の原則、採血法、腰椎穿刺、骨髄穿刺、気脳術、心電図、脳波、X線読影法、予防接種等について研修を行なわせる。
第二期:八か月
 入院患者の担当医として上級医のもとで、患者に対する責任をもつて研修させる。
第二年目:第一年目の研修計画に引き続き、さらに小児科臨床の手技を、入院および外来患者の診療にわたりながら、小児の各種疾患について研修させる。その間、新生児、未熟児の診療に対する研修は必至で、約一〜三か月をあてることとし、のこりの期間では、更に伝染病、神経疾患、循環器疾患、呼吸器疾患、アレルギー疾患等の各種疾患を実際に診療する機会が与えられなければならない。又乳児栄養、小児保健(予防接種を含む)等の知識を研修するために育児相談の機会も与える必要がある。
 小児病院、乳児院、産院、精薄施設、肢体不自由児施設、がん施設、保健所等の特殊な病院および施設も、この研修計画の第二年目において適当期間組入れることにより、更に研修の実を上げるよう配慮する。

II 研修中に修めるべき診療実績

一 診療経験

(一) 入院患者について
 二年間に三○例以上の入院患者を主治医として直接診療し、病歴を正しく作製記録させる。
 左記の各部門あるいは疾患が対象となるが、偏しないことが望ましい。新生児および未熟児の養護と治療、発育、栄養障害、先天異常、腫瘍、小児精神身体医学、消化器、循環器、代謝、内分泌、泌尿器、血液、呼吸器、神経、筋、膠原病、アレルギー、感染症等。
(二) 救急患者について
 二年間に事故、中毒、急性疾患および急死等の一○例以上を経験させまたは観察させる。
(三) 外来患者について
 少なくとも一○○例以上経験させる。外来患者を対象として、成長、発育栄養およびその指導法、小児の健全育成(健康児の養護、保健指導、予防接種等)、小児精神、神経症、先天異常(遺伝および遺伝相談)について実地に修習させ、一般外来患者を適切に処理しうる能力を修得させる。

二 受持症例の剖検

 少なくとも二例以上の剖検例を有して正しく記録させ検討を行なわせる。またできるだけ多数の剖検例の見学をさせることが望ましい。なお、前記の他に定期的な症例検討会、臨床病理検討会、X線写真読影会、内外文献抄読会等に積極的に参加させ研修の実をあげさせる。また、適宜に症例報告ないし臨床統計報告の経験をさせる。

2 臨床研修の研修内容については、旧医療関係者審議会等の意見を踏まえ、順次、充実・改善のための次のような取組を行ってきた。
 (1) 研修目標等について、具体的な指針を参考として提示
 (2) 「臨床研修指定病院の指定基準」に研修プログラム等の考え方を導入

1 研修目標等に関する具体的な指針等
昭和49年 (臨床研修病院の指定基準の運用に係る通知)
 研修内容について、救急医療、初期診療等、プライマリケアの研修が行われるよう関連各科にわたるローテーション方式による研修を行うことが望ましいことを明示
昭和53年 (プライマリケアを含む臨床研修の実施に係る通知)
 幅広い臨床能力を持つ医師の育成のため、臨床研修の中でプライマリケアを修得させるための具体的方策(研修目標、研修方式、研修の評価)を明示
平成元年 (卒後臨床研修目標に係る通知)
 患者を全人的に診る能力を身につけるためにすべての研修医が達成すべき「卒後臨床研修目標」を具体的到達目標として明示

【参考1】

2 「臨床研修指定病院の指定基準」への研修プログラム等の考え方の導入

平成5年 臨床研修病院の指定基準に係る通知)
 臨床研修病院の指定基準において、研修プログラムに関する基準を明示(研修目標、研修計画、指導体制等を定めた研修プログラムを有すること)
 併せて、「臨床研修モデルプログラム」を明示

【参考2】

【参考1】

卒後臨床研修目標

はじめに

 医師養成の上で卒後臨床研修の役割は特に重要であるが、適切な臨床研修を実施するためには、まずその目標が明確にされる必要がある。
 既に昭和53年に、厚生省医務局長通知の中で具体的な到達目標が例示されており、その趣旨は昭和61年に示された「総合診療方式における研修目標」においても生かされており、これらは現時点でも達成すべき目標として十分有益なものである。
 しかしながら、医学・医療の高度化による臨床医の専門分野の細分化に伴って、若い医師の間に早急に専門的な技術を身につけようとする傾向があり、これを放置すると特定な領域しか診ることのできない臨床医が増加する恐れがある。
 他方、我が国では、人口の急速な高齢化に伴って慢性疾患を有する老人が増加し、また患者のニーズも多様化している。このような中で、医師は単に専門分野の疾患を治療するのみではなく、患者、家族の抱える様々な身体的、心理的、社会的問題も適格に認識・判断し、医療チームの中で治療、看護、介護サービス等の種々の方策を総合的に組織・管理し、問題解決を図る能力を備えることが必要となってきている。
 従って、患者を全人的に診る能力をすべての医師が身につけるための対策を講じる必要があるが医療関係者審議会臨床研修部会では既に卒後臨床研修の改善について検討を行っており、昭和63年3月の部会において、「期待される医師像」及び「臨床研修の意義」については下記のように考えるとの意見を得た。

「期待される医師像」

生涯教育を受ける習慣・態度を有する。
科学的妥当性、探求能力を有する。
高い倫理観と豊かな人間性を有する。
社会発展に貢献する使命感と責任感を有する。
自己の能力の限界を自覚し他の専門職と連携する能力を有する。
チーム医療のコーディネーターとしての機能を有する。
後輩の医師に対し指導できる能力を有する。
地域の指導者的役割を果たす能力を有する。
「臨床研修の意義」
幅広い臨床実務を経験し医学部で学んだ基本的知識・技術・態度を体系化する。
暖かい人間性と広い社会性を身につける。
医療人としての自己を見つめ直し「医の心」を十分に考える。
病める人の全体像を捉える全人的医療を身につける。
臨床経験を通じ、総合的視野、創造力を身につける。
患者の持つ問題を正しく把握し解決する能力を身につける。
科学的思考力、応用力、判断力を身につける。
患者及び家族のニーズへの対応、態度を学ぶ。
医療スタッフの業務を知り、チーム医療を率先して実践することを学ぶ。
医療における経済性を学ぶ。

 本部会では前記に示した「期待される医師像」と「臨床研修の意義」を実現するため、我が国の医療事情も勘案しつつ臨床研修についての標準的な到達目標を設定した。これは、志向する将来の専門領域の如何にかかわらず、全ての研修医に必須のものと考える。
 即ち、通常見られる疾患の患者に対して適切な診療を行い、また、特に救急時の診療を行う能力を身につけるべきである。そのためには、適切な判断力と診断治療のための基本的手技、更には全身管理能力を身につける必要がある。また、必要に応じて患者を適切に専門医又は施設等に送る能力の養成も重要である。さらに、病人の抱える問題を身体的、心理的、社会的に適切に把握し解決・指導するためには、患者及び家庭とのコミュニケーションを保つ能力の養成も大切である。
 これらについて卒前教育においても知識等を修得させているが、なお臨床教育の相当部分を卒後臨床研修で行うことが必要であると思われ、卒後臨床研修の使命は極めて大きい。

1 一般目標

(1)全ての臨床医に求められる基本的な診療に必要な知識・技能・態度を身につける。

(2)緊急を要する病気又は外傷をもつ患者の初期診療に関する臨床的能力を身につける。

(3)慢性疾患患者や高齢患者の管理上の要点を知り、リハビリテーションと在宅医療・社会復帰の計画立案ができる。

(4)末期患者を人間的、心理的理解の上にたって、治療し管理する能力を身につける。

(5)患者および家族とのより良い人間関係を確立しようと努める態度を身につける。

(6)患者の持つ問題を心理的・社会的側面をも含め全人的にとらえて、適切に解決し、説明・指導する能力を身につける。

(7)チーム医療において、他の医療メンバーと協調し協力する習慣を身につける。

(8)指導医、他科又は他施設に委ねるべき問題がある場合に、適切に判断し必要な記録を添えて照会・転送することができる。

(9)医療評価ができる適切な診療録を作成する能力を身につける。

(10)臨床を通じて思考力、判断力及び創造力を培い、自己評価をし第三者の評価を受け入れフィードバックする態度を身につける。

2 具体的目標

(1)基本的診察法

 卒前に修得した事項を基本とし、受持症例について例えば以下につき主要な所見を正確に把握できる。

1)面接技法(患者、家族との適切なコミュニケーションの能力を含む)
2)全身の観察(バイタルサイン、精神状態、皮膚の診察、表在リンパ節の診察を含む)
3)頭・頸部の診察(眼底検査、外耳道、鼻腔、口腔、咽頭の観察、甲状腺の触診を含む)
4)胸部の診察(乳房の診察を含む)
5)腹部の診察(直腸診を含む)
6)泌尿・生殖器の診察(注:産婦人科の診察は指導医と共に実施のこと)
7)骨・関節・筋肉系の診察
8)神経学的診察
(2)基本的検査法(1)

 必要に応じて自ら検査を実施し、結果を解釈できる。

1)検尿
2)検便
3)血算
4)出血時間測定
5)血液型判定・交差適合試験
6)簡易検査(血糖、電解質、尿素窒素、赤沈を含む)
7)動脈血ガス分析
8)心電図
9)簡単な細菌学的検査(グラム染色、A群β溶連菌抗原迅速検査を含む)
(3)基本的検査法(2)

 適切に検査を選択・指示し、結果を解釈できる。

1)血液生化学的検査
2)血液免疫学的検査
3)肝機能検査
4)腎機能検査
5)肺機能検査
6)内分泌学的検査
7)細菌学的検査
8)薬剤感受性検査
9)髄液検査
10)超音波検査
11)単純X線検査
12)造影X線検査
13)X線CT検査
14)核医学検査
(4)基本的検査法(3)

 適切に検査を選択・指示し、専門家の意見に基づき結果を解釈できる。

1)細胞診・病理組織検査
2)内視鏡検査
3)脳波検査
(5)基本的治療法(1)

 適応を決定し、実施できる。

1)薬剤の処方
2)輸液
3)輸血・血液製剤の使用
4)抗生物質の使用
5)副腎皮質ステロイド薬の使用
6)抗腫瘍化学療法
7)呼吸管理
8)循環管理(不整脈を含む)
9)中心静脈栄養法
10)経腸栄養法
11)食事療法
12)療養指導(安静度、体位、食事、入浴、排泄を含む)
(6)基本的治療法(2)

 必要性を判断し、適応を決定できる。
1)外科的治療
2)放射線治療
3)医学的リハビリテーション
4)精神的、心身医学的治療
(7)基本的手技

 適応を決定し、実施できる。

1)注射法(皮内、皮下、筋肉、点滴、静脈確保)
2)採血法(静脈血、動脈血)
3)穿刺法(腰椎、胸腔、腹腔等を含む)
4)導尿法
5)浣腸
6)ガーゼ・包帯交換
7)ドレーン・チューブ類の管理
8)胃管の挿入と管理
9)局所麻酔法
10)滅菌消毒法
11)簡単な切開・排膿
12)皮膚縫合法
13)包帯法
14)軽度の外傷の処置
(8)救急処置法

 緊急を要する疾患または外傷をもつ患者に対して、適切に処置し、必要に応じて専門医に診療を依頼することができる。

1)バイタルサインを正しく把握し、生命維持に必要な処置を的確に行う。
2)問診、全身の診察および検査等によって得られた情報をもとにして迅速に判断を下し、初期診療計画をたて、実施できる。
3)患者の診療を指導医または専門医の手に委ねるべき状況を的確に判断し、申し送りないし移送することができる。
4)小児の場合は、保護者から必要な情報を要領よく聴取し、乳幼児に不安を与えないように診察を行い、必要な処置を原則として指導医のもとで実施できる。
(9)末期医療

 適切に治療し、管理できる。

1)人間的、心理的立場に立った治療(除痛対策を含む)
2)精神的ケア
3)家族への配慮
4)死への対応
(10)患者・家族との関係

 良好な人間関係の下で、問題を解決できる。

1)適切なコミュニケーション(患者への接し方を含む)
2)患者、家族のニーズの把握
3)生活指導(栄養と運動、環境、在宅療養等を含む)
4)心理的側面の把握と指導
5)インフォームド・コンセント
6)プライバシーの保護
(11)医療の社会的側面

 医療の社会的側面に対応できる。

1)保健医療法規・制度
2)医療保険、公費負担医療
3)社会福祉施設
4)在宅医療・社会復帰
5)地域保健・健康増進(保健所機能への理解を含む)
6)医の倫理・生命の倫理
7)医療事故
8)麻薬の取扱い
(12)医療メンバー

 様々の医療従事者と協調・協力し、的確に情報を交換して問題に対処できる。

1)指導医・専門医のコンサルト、指導を受ける。
2)他科、他施設へ紹介・転送する。
3)検査、治療・リハビリテーション、看護・介護等の幅広いスタッフについて、チーム医療を率先して組織し、実践する。
4)在宅医療チームを調整する。
(13)文書記録

 適切に文書を作成し、管理できる。

1)診療録等の医療記録
2)処方箋、指示箋
3)診断書、検案書その他の証明書
4)紹介状とその返事
(14)診療計画・評価

 総合的に問題点を分析・判断し、評価できる。

1)必要な情報収集(文献検索を含む)
2)問題点整理
3)診療計画の作成・変更
4)入退院の判定
5)症例提示・要約
6)自己及び第三者による評価と改善
7)剖検

おわりに

 医師養成全般における臨床研修の目標の位置付け
 医学教育を改善し「期待される医師像」に応える医師を養成するためには、卒後臨床研修と卒前教育、専門医教育、生涯教育との整合性を図る必要がある。特にカリキュラムに関しては、これらは一貫性を有するべきであり、教育目標は専門医教育まで段階を経て次第に深さを増しながら幅を狭めていくと考えられる。
 以下に、本部会で臨床研修に関連して議論された点を付記する。

(1)卒前教育

 卒前教育における臨床実習は充実されてきているが、卒前教育における臨床実習は臨床研修における技能等の修得と密接に関連するものであるので、卒前教育における医行為を伴う臨床実習の許容程度について卒前教育における知識等の到達度も踏まえて十分に検討する必要がある。

(2)臨床系大学院

 臨床系を専攻する大学院学生も、患者の診療をする機会を持つのであれば、本卒後臨床研修目標を達成していることが専攻の前提として必要であると考える。

(3)専門医制度

 本到達目標は全ての臨床研修医に必須のものであるから、今後は全専門医学会が専門医(認定医)認定の条件として、臨床研修における本到達目標の達成を前提とするか、又はそれぞれのカリキュラムの中に盛り込むことが必要である。また、これに加えて、志向する将来の専門性を勘案し、内科系、外科系、小児科系その他各専門分野の系において、幅広く専門分野の各サブスペシャリティ及び関連領域の目標を達成することが望ましい。

(4)生涯教育

 卒後臨床研修は、地域医療における家庭医機能についての生涯教育の基礎としても位置付けられることが適当である。


【参考2】

臨床研修モデルプログラム作成等検討委員会報告書(平成5年)
(抜粋)

(大変恐縮ですが、上記資料はホームページ掲載を割愛させていただきます。
 必要な方は、
PDFファイルをご利用ください。)




第4回資料
資料2−2

研修目標等に関する臨床研修病院等の現状

◎ 平成6年度厚生科学研究
 「臨床研修の充実等に伴う諸制度の整備に関する研究」
(杉本恒明主任研究者)
・ 10大学病院及び16臨床研修病院の指導医及び研修医を対象としてアンケートを実施したもの

(1) 卒後臨床研修目標の達成度(%)

【指導医】
  一般目標の達成度 具体的目標の達成度
大学附属病院 0.0 6.9 42.8 44.7 5.7 0.0 5.2 47.7 42.6 4.5
臨床研修病院 2.1 4.8 31.7 57.2 4.1 0.8 5.2 36.6 52.2 5.2
合計 1.0 5.9 37.6 50.7 4.9 0.3 5.2 42.6 47.0 4.8
1 5段階評価(1:「全く達成できない」〜5:「完全に達成」)
2 回答した指導医の診療科に所属する研修医について研修修了時の達成度を質問したもの

(2) 臨床研修目標についての意見(%)

【指導医】
  一般目標 具体的目標
 
大学附属病院 9.0 58.1 9.7 9.7 13.5 8.4 60.0 8.4 10.3 12.9
臨床研修病院 12.1 54.4 8.7 6.7 18.1 12.4 55.2 7.6 6.9 17.9
合計 10.5 56.3 9.2 8.2 15.8 10.3 57.7 8.0 8.7 15.3
「1 高度すぎる 2 適当 3 不十分
4 偏りがある 5 知らない」

(3) 研修方式別の研修医数割合と研修成果

【研修医】
  研修医数割合(1) 研修成果(2)
総合診療方式 8.4 % 118.2
ローテート (内科系) 22.4 % 115.3
(外科系) 13.0 % 116.2
ストレート (内科系) 26.4 % 102.7
(外科系) 29.7 % 92.8
合計 100.0 % 105.3
(1) 調査対象者全体における割合
(2) 技術的到達度21項目と、common diseasesへの初期診療能力10項目についての自己評価得点(満点:155点)

(4) 研修の場所

【研修医】
  研修医数割合
大学附属病院のみ 30.8
臨床研修指定病院のみ 8.4
大学病院+臨床研修病院 40.9
大学病院+臨床研修病院+その他の病院 4.2
大学病院+その他 6.6
その他 9.0
合計 100.0

(5) 望ましいと考える研修方針(%)

【指導医】
  専攻分野に関わらず幅広い診療能力を 専攻の関連領域を中心に幅広い診療能力を 早くから専門分野のトレーニングを開始 その他・不明
大学附属病院 40.3 57.4 1.1 1.2
臨床研修病院 33.5 58.8 5.8 1.8
合計 37.0 58.1 3.5 1.4

(6) 研修医の研修への評価

【研修医】

<指導医の数>
 
大学附属病院 4.9 9.9 27.2 18.0 40.0
臨床研修病院 10.1 15.5 34.5 17.4 22.6

<指導医の質>
 
大学附属病院 2.8 8.8 26.6 33.4 28.5
臨床研修病院 3.0 6.7 21.0 36.0 33.2

<研修内容の満足度>
 
大学附属病院 8.6 16.7 34.3 25.7 14.8
臨床研修病院 4.6 8.8 19.2 38.1 29.3
注 5段階評価(1:「最低」〜5:「最高」)


第4回資料
資料3

畑尾正彦氏説明資料


卒後臨床研修の現況

アンケート調査 2000年12月

  合計 臨床研修指定病院 大学病院
依頼 496病院 373 123
回答 295病院 243 52
回答率 59% 65% 42%

開設者区分 臨床研修指定病院 大学病院
国立 26 7
公立 85 6
公的 69
私立 40 39
その他(医療法人など) 23
合計 243 52

1.研修医の募集人数と採用人数
募集人数   臨床研修病院 大学病院 全体
〜 5名 106(50 %) 3( 8 %) 109(44 %)
〜10名 69(33 %) 3( 8 %) 72(29 %)
〜15名 22(10 %) 1( 3 %) 23( 9 %)
〜20名 8( 4 %) 0( 0 %) 8( 3 %)
〜30名 4( 2 %) 2( 6 %) 6( 2 %)
〜40名 1( 0.5%) 2( 6 %) 3( 1 %)
40名〜 1( 0.5%) 25(69 %) 26(10 %)
採用人数 〜 5名 164(71 %) 9(18 %) 173(62 %)
〜10名 37(16 %) 2( 4 %) 39(14 %)
〜15名 20( 9 %) 2( 4 %) 22( 8 %)
〜20名 5( 2 %) 3( 6 %) 8( 3 %)
〜30名 5( 2 %) 3( 6 %) 8( 3 %)
〜40名 0( 0 %) 3( 6 %) 3( 1 %)
40名〜 1( 0.4%) 27(55 %) 28(10 %)

2.募集
  臨床研修病院 大学病院 全体
全国公募 135(64%) 46(94%) 181(70%)
特定の大学 20(10%) 0( 0%) 20( 8%)
大学からの派遣 52(25%) 1( 2%) 53(20%)

3.募集方法
  臨床研修病院 大学病院 全体
臨床研修病院ガイドブック 38(35%) 6(24%) 44(33%)
大学への募集要項送付 21(19%) 5(20%) 26(19%)
関連大学への依頼 42(38%) 11(44%) 53(39%)
ホームページ等 9( 8%) 3(12%) 12( 9%)

4.選考方法
  臨床研修病院 大学病院 全体
学力試験+他 43(18%) 6(12%) 49(17%)
個別面接+他 133(55%) 29(56%) 162(55%)
集団面接+他 20( 8%) 2( 4%) 22( 7%)
小論文+他 48(20%) 5(10%) 53(18%)
成績証明+他 60(25%) 13(25%) 73(25%)
推薦状+他 68(28%) 18(35%) 86(29%)

5.現在の研修目標
  臨床研修病院 大学病院
卒後臨床研修目標 (厚生省1989年)と同じもの 29(13%) 5(10%)
に病院独自のものを加え 81(35%) 14(29%)
を基本に各診療科の判断 82(35%) 19(39%)
国立大学附属病院共通カリキュラムを基本 10( 4%) 8(16%)

6.必修化の際の研修目標
  臨床研修病院 大学病院 全体
このままがよい 58(25%) 8( 18%) 66(24%)
新たな目標を示してほしい 149(65%) 30(67%) 179(66%)
各施設に任せてほしい 11( 4%) 5(11%) 16( 6%)

7.現在の研修方式
  臨床研修病院 大学病院 全体
総合診療方式 70(32%) 14(28%) 84(31%)
ローテイト 80(36%) 23(46%) 103(38%)
ストレート 70(32%) 13(26%) 83(31%)


卒後臨床研修の現状の問題点と今後の課題

 卒後臨床研修がよく行われていると思われる11病院を全国から選び、2001年5月〜6月に、臨床研修必修化準備調査検討委員会の委員が1〜2名ずつ現地に赴いて、それぞれの病院の研修責任者〜担当者に実状のヒヤリングを行った。可能な病院では、研修指導の実務に当たる指導医や研修医からも実状を聴取した。国立1、公立1、私立3(病院群1を含む)の臨床研修病院と、国立大学2病院、私立大学3病院である。
 望ましい研修が行われ、研修医の満足度も比較的高いと評価できる一方で、現状において、下記の問題点を指摘することができる。

(1) 調査した臨床研修指定病院、大学病院では、ともにカリキュラム・プログラムはできているのだが、必ずしもそこに明示されている到達目標を念頭においた研修が行われていない。カリキュラム・プログラムと実際に行なわれている研修との間にギャップがある。
(2) ローテーションする目的は、幅広い基本的臨床能力の修得のためではなく、専門的診療を行うのに必要または有利だからということが多い。例えば外科系の講座や医局の研修医が麻酔科にローテーションするとか、脳神経外科の研修医が神経内科にローテーションするなどである。
(3) 臨床研修病院では、卒後臨床研修修了後に、継続的に中期〜後期研修に入る体制が不十分だったり、定員の関係で不可能だったりする。
(4) 研修医の評価が不十分である。形成的評価も不十分であり、研修修了の認定も明確な評価に基づいているとはいい難い。
(5) カリキュラム・プログラムの評価はほとんど行われていない。
(6) 大学病院はプライマリケア、救急疾患の教育システムが整備されていない。
 わが国の臨床研修の現状には、上記のヒヤリングの結果から指摘される問題点以外に、さらに下記の問題点があるといえよう。
(7) 一部の臨床研修病院や多くの大学病院では、研修医の育成という視点が乏しく、それぞれの専門領域や診療科を支える人材として扱われ、ストレート研修が主体となっている。
(8) 臨床研修病院は、大学の講座・医局の関連病院として位置付けられ、大学のストレート研修の一端を担っている場合が多い。研修病院として独自のカリキュラム・プログラムがあっても、医局人事の一環として来た研修医は、そのカリキュラム・プログラムには乗ろうとしないことがある。
(9) 大学から独立し、人事も大学に依存しない臨床研修病院も少なくないが、そこで研修できる研修医の数は、大学のそれからみると遥かに少ない。必修化された場合も、大学病院またはその関連の施設で研修する者が多いと予想される。(大学病院での研修が、幅広い臨床研修目標に合わせて充実したものに改善されないならば問題となる)。
(10) 全ての施設、特に臨床研修病院や関連病院で指導体制(指導医の数・質)が不十分である。
(11) 研修医の応募が少ない〜ない臨床研修病院がある。また研修医が臨床研修病院での研修を希望しても、将来の入局を予定している講座・医局が許可しなかったり、あるいは相談を受けた大学の教員が賛成しないこともある。
(12) 学会認定専門医制度との初期臨床研修カリキュラム・プログラムとの整合性が明確でない学会がある。

必修化される場合に望まれる卒後臨床研修

 卒後臨床研修においては、将来どの専門領域に進むにしても、すべての臨床医に求められる基本的な臨床能力を幅広く身につけた医師となることを目標とすることが望まれる。
 1970年代から一貫してプライマリ ケア能力の修得を提唱してきた厚生労働省が、1989年に示した卒後臨床研修目標は、必修化に際して現代社会の要請に応じて見直されると予想されるが、その新たな卒後臨床研修目標を、すべての研修医が身につけることを保証できるプログラムが、すべての研修施設(大学病院、研修指定病院、病院群、研修施設群)で用意され、かつ実践できる仕組みが整えられることが必要である。
 基本的な臨床能力としてのminimum requirementは確実にカバーされた研修を受けられるようにするとともに、将来の多様な進路に対応して選択できるプログラムが各臨床研修施設の特色(高度先進医療、地域医療、救急医療にすぐれているなど)として、プラスαとすることも歓迎されるが、それは、あくまでも基本の研修内容がクリアされていることが前提とされるものである。


第4回資料
資料4

必修化後の研修目標等の在り方について

◎ 必修化に向け審議された審議会の報告書等における研修内容に係る部分の抜粋

1 医療関係者審議会医師臨床研修部会とりまとめ(平成11年2月)

3 研修内容

○ 研修の到達目標は、「卒後臨床研修目標」に基本的に沿うものとする。当該目標については、インフォームド・コンセントや医薬品の適正使用など科学的根拠に基づく医療の提供等の観点から見直しを行う。

○ 内科系及び外科系の双方を含む複数の診療科で研修を行うとともに、救急医療等の研修の機会の確保について研修プログラムの中に明確に位置付ける。

○ 研修の場を臨床研修病院等だけに限るのではなく、「病院群」や「研修施設群」による研修等多様なものとする。

2 医師の卒後臨床研修に関する協議会とりまとめ(平成12年1月)

1 研修内容・プログラム

・研修の到達目標については、「卒後臨床研修目標」(平成元年厚生省医療関係者審議会)や「国立大学附属病院卒後臨床研修共通カリキュラム(平成10年)」などを参考とすること。

・上記目標の中でミニマム・リクワイアメントを定め、臨床研修が一定水準以上に保たれる必要があること。

・これに加えて、各施設の特色を活かした多様な研修内容を組むことができるよう配慮すること。

・研修はプライマリーケアを重視するとともに、複数の診療科を回るローテーション方式とすること。

3 臨床研修の必修化に係る医師法等改正の概要

1 医師の臨床研修の必修化に関する事項

(1)診療に従事しようとする医師は、2年以上、医学を履修する課程を置く大学に附属する病院又は厚生労働大臣の指定する病院において、臨床研修を受けなければならないこと。(医師法第16条の2関係)

(2)臨床研修を受けている医師は、臨床研修に専念し、その資質の向上を図るように努めなければならないこと。(医師法第16条の3関係)

(3)厚生労働大臣は、臨床研修を修了した者について、その申請により、臨床研修を修了した旨を医籍に登録するとともに、臨床研修修了登録証を交付すること。(医師法第16条の4関係)

(4)(3)の登録を受けようとする者等は、実費を勘案して政令で定める額の手数料を納めなければならないこと。(医師法第16条の5関係)

(5)(3)の登録を受けた医師でない者が診療所を開設する場合には、都道府県知事等の許可を受けなければならないこと。(医療法第7条関係)

(6)病院等の開設者は、(3)の登録を受けた医師に、その病院等を管理させなければならないこと。(医療法第10条関係)

2 施行期日

 医師の臨床研修の必修化に係る部分については、平成16年4月1日から施行すること。

4 平成12年11月30日(木) 参議院国民福祉委員会における附帯決議

 政府は、次の事項について適切な措置を講ずるべきである。

 十四、医師及び歯科医師の臨床研修については、インフォームドコンセントなどの取組や人権教育を通じて医療倫理の確立を図るとともに、精神障害や感染症への理解を進め、更にプライマリーケアやへき地医療への理解を深めることなど全人的、総合的な制度へと充実すること。その際、臨床研修を効果的に進めるために指導体制の充実、研修医の身分の安定及び労働条件の向上に努めること。


(参考)
臨床研修関係要望等一覧
( 研修内容等に関連するもの )

1 日本リハビリテーション医学会(平成11年10月)
2 衛生学・公衆衛生学教育協議会(平成11年11月)
3 精神科七者懇談会(平成13年4月)
4 四病院団体協議会(平成13年5月)
5 日本内科学会(平成13年5月)
6 日本産科婦人科学会(平成13年6月)
7 全国医学部長病院長会議(平成13年7月)
8 日本整形外科学会(平成13年8月)
9 全日本民主医療機関連合会(平成13年9月)

(医療関係者審議会医師臨床研修部会とりまとめ(平成11年2月)以降のものであって、同一団体等から複数回の要望等がなされている場合は最新の要望のみを記載。)

(大変恐縮ですが、上記資料はホームページ掲載を割愛させていただきます。
 必要な方は、
PDFファイルをご利用ください。)


福井委員資料
卒後臨床研修カリキュラム

平成13年9月28日
国立大学医学部附属病院長会議常置委員会教育研修問題小委員会
卒後研修検討部会

一般目標

 医師として、患者、家族の信頼を得て日常頻繁に遭遇する病気や病態に適切に対応し、質の高い医療の提供ができるよう、臨床各科に共通して求められる基本的な臨床能力(態度・技能・知識)を身につける。

行動目標の項目

1.患者−医師関係
2.チーム医療
3.問題対応能力
4.安全管理
5.医療面接
6.診察
7.臨床検査
8.基本的手技
9.基本的治療法
10.医療記録
11.症例提示
12.診療計画
13.救急医療
14.予防医療
15.緩和・終末期医療
16.医療の社会性

経験すべき症状・病態

1.緊急を要する疾患・病態(18の疾患・病態)
 列挙されたものの80%は経験すること。
2.頻度の高い症状(33項目)
 列挙された症状のすべてについて経験すること。
3.経験目標疾患・病態(18系疾患)
 列挙された疾患・病態の60%は経験すること。

研修ローテイション(モデル)

 複数の基本診療科ローテイションプログラムを検討中


国立大学附属病院
卒後臨床研修共通カリキュラム(案)

1.臨床研修の一般目標と行動目標

 臨床医として患者、家族の信頼を得て、より良き医療の提供と、医学への貢献を心がけ、広い視野に立った国内・外での医療協力や研究に関心を持ち、日常頻繁に遭遇する病気や病態に適切に対応するために、臨床各科に共通して求められる基本的な臨床能力(態度、技能、知識)を身につける。

1.患者−医師関係

一般目標:
 患者を全人的に理解し、患者中心の医療を行うために、患者・家族と良好な人間関係を確立する。

行動目標:

1) 患者、家族のニーズを身体・心理・社会的側面から把握できる。
2) 医師、患者・家族がともに納得できる医療を行うためのインフォームドコンセントが実施できる。
3) 守秘義務を果たし、プライバシーへの配慮ができる。

2.チーム医療

一般目標:
 チーム医療の円滑な遂行のために、医療チームの構成員としての役割を理解し、医療・福祉・保健の幅広い職種からなる他のメンバーと協調できる。

行動目標:

1)指導医や専門医へ適切なタイミングでコンサルテーションができる。
2)上級および同僚医師、他の医療従事者と適切なコミュニケーションがとれる。
3)同僚及び後輩へ教育的配慮ができる。
4)患者の転入、転出にあたり情報を交換できる。
5)関係機関や諸団体の担当者とコミュニケーションがとれる。

3.問題対応能力

一般目標:
 患者の問題を把握し、問題対応型の思考ができ、生涯にわたる自己学習を習慣づける。

行動目標:

1) 臨床上の疑問点を解決する為の情報を収集、評価し当該患者への適応性を判断できる(EBM =Evidence Based Medicineの実践ができる)。
2) 自己評価および第三者による評価をふまえた問題対応能力の改善ができる。
3) 研究や学会活動に関心を持つ。
4) 自己管理能力を身につけ、生涯にわたり基本的臨床能力の向上に努める。

4.安全管理

一般目標:
 患者ならびに医療従事者にとって、安全な医療を遂行するために、安全管理の方策を身につけ、危機管理に参画できる。

行動目標:

1) 医療現場での安全確認を理解し、実施できる。
2) 医療事故防止及び事故後の対処について、マニュアルなどに沿って行動できる。
3) 院内感染対策(Standard Precautionsを含む)を理解し、実施できる。

5.医療面接

一般目標:
 患者・家族との信頼関係を構築し、診療に必要な情報を得るために、医療面接を適切に実施できる。

行動目標:

1) 医療面接におけるコミュニケーションのもつ意義を理解し、コミュニケーションスキルを身につけ、患者の解釈モデル、受診動機、受療行動を把握できる。
2)患者の病歴(主訴、現病歴、既往歴、家族歴、生活・職業歴、系統的レビュー)の聴取と記録ができる。
3)インフォームドコンセントのもとに、患者・家族への適切な指示、指導ができる。

6.診察

一般目標:
 病態を正確に把握するために、全身にわたる身体診察を系統的に実施し、記載できる。(P10、経験すべき症状・病態<頻度の高い症状>を参照)

行動目標:

1) 全身の観察(バイタルサインと精神状態の把握、皮膚や表在リンパ節の診察を含む)ができ、記載できる。
2) 頭頚部の診察(眼瞼・結膜、眼底、外耳道、鼻腔、口腔、咽頭の観察、甲状腺の触診を含む)ができ、記載できる。
3) 胸部の診察(乳房の診察を含む)ができ、記載できる。
4) 腹部の診察(直腸診を含む)ができ、記載できる。
5) 泌尿・生殖器の診察(産婦人科的診察を含む)ができ、記載できる。
6) 骨・関節・筋肉系の診察ができ、記載できる。
7) 神経学的診察ができ、記載できる。
8) 小児の診察(生理的所見と病的所見の鑑別を含む)ができ、記載できる。
9) 精神面の診察ができ、記載できる。

7.臨床検査

一般目標:
 病態の診断と臨床経過を把握するために、医療面接と身体診察から得られた情報をもとに診断仮説を立てて必要な検査を選択でき、実施あるいは指示し、結果を解釈できる。

行動目標:
 以下の基本的臨床検査を理解し、実施あるいは指示し、結果を解釈できる。( A=自ら検査を実施し、結果を解釈できる。B=検査を指示し、結果を解釈できる。C=検査を指示し、専門家の意見に基づき結果を解釈できる。)

1)一般尿検査 (A)
2)便検査:潜血(A)、虫卵 (B)
3)血算・白血球分画 (A)
4)血液型判定・交差適合試験 (A)
5)心電図(12誘導) (A)、負荷心電図(C)
6)動脈血ガス分析 (A)
7)血液生化学的検査 (B)
 ・簡易検査(血糖、電解質、尿素窒素など)(A)
8)血液免疫血清学的検査(免疫細胞検査、アレルギー検査を含む)(B)
9)細菌学的検査・薬剤感受性検査 (B)
 ・検体の採取(痰、尿、血液など)(A)
 ・簡単な細菌学的検査(グラム染色など)(A)
10)肺機能検査 (B)
 ・スパイロメトリー (A)
11)髄液検査 (B)
12)細胞診・病理組織検査 (C)
13)内視鏡検査 (C)
14)超音波検査 (B)
15)単純X線検査 (B)
16)造影X線検査 (C)
17)X線CT検査 (C)
18)MRI検査 (C)
19)核医学検査 (C)
20)神経生理学的検査(脳波・筋電図など)(C)

8.基本的手技

一般目標:
 患者への適切な対応をするために、以下の基本的手技の適応を決定し、実施できる。

行動目標:

1)一次及び二次救命処置ができる 。(13 - 行動目標4)を参照)
2)圧迫止血法を実施できる。
3)包帯法を実施できる。
4)注射法(皮内、皮下、筋肉、点滴、静脈確保、中心静脈確保)を実施できる。
5)採血法(静脈血、動脈血)を実施できる。
6)穿刺法(腰椎、胸腔、腹腔)を実施できる。
7)導尿法を実施できる。
8)浣腸を実施できる。
9)ドレーン・チューブ類の管理ができる。
10)胃管の挿入と管理ができる。
11)局所麻酔法を実施できる。
12)創部消毒とガーゼ交換を実施できる。
13)簡単な切開・排膿を実施できる。
14)皮膚縫合法を実施できる。
15)軽度の外傷・熱傷の処置を実施できる。

9.基本的治療法

一般目標:
 患者への適切な対応をするために、以下の基本的治療法の適応を決定し、適切に実施する。

行動目標:

1) 療養指導(安静度、体位、食事、入浴、排泄、環境整備を含む)ができる。
2)薬物の作用、副作用、相互作用について理解し、薬物治療(抗菌薬、副腎皮質ステロイド薬、解熱薬、麻薬を含む)ができる。
3)輸液ができる。
4) 輸血(成分輸血を含む)による効果と副作用について理解し、輸血が実施できる。

10.医療記録

一般目標:
 医療チームの一員として、患者への診療を的確に実施するために、医療記録を適切に作成し、管理できる。

行動目標:

1)診療録(退院時サマリーを含む)をPOS (Problem Oriented System) に従って記載し管理できる。
2)処方箋、指示箋を作成し、管理できる。
3)診断書、死亡診断書(死体検案書を含む)、その他の証明書を作成し、管理できる。
4)剖検所見の記載・要約に参加し活用できる。
5)紹介状の作成と紹介状への返信作成ができ、それを管理できる。

11.症例提示

一般目標:
 質の高いチーム医療を実践するために関与した症例について他の医師と意見交換ができる。

行動目標:

1) 症例提示と討論ができる。
2) 臨床症例に関してのカンファレンスに参加し、学術集会にも参加する。

12.診療計画

一般目標:
 保健・医療・福祉の各側面に配慮しながら、全人的・包括的医療を実施するために、診療計画を作成し、評価する。

行動目標:

1) 診療計画(診断、治療、患者・家族への説明を含む)を作成できる。
2)診療ガイドラインやクリニカルパスを理解し活用できる。
3) 入退院の適応を判断できる(デイサージャリー症例を含む)。
4) QOL(Quality of Life)を考慮にいれた総合的な管理計画(社会復帰、在宅医療、介護を含む)へ参画する。
5) 社会福祉施設の役割について理解する。
6) 地域保健・健康増進(保健所機能への理解を含む)について理解する。

13.救急医療

一般目標:
 生命や機能的予後に係わり、緊急を要する病態や疾病、外傷に対して適切な対応をするために、初期診断能力と初期対応能力を 身につける。

行動目標:

1) バイタルサインの把握ができる。
2) 重症度および緊急度の把握ができる。
3) ショックの診断と治療ができる。
4) 二次救命処置 (ACLS = Advanced Cardiac Life Support)ができ、一次救命処置(BLS = Basic Life Support)を指導できる。
※ACLSは、バッグ・バルブ・マスク等を使う心肺蘇生や除細動、気管挿管、薬剤投与等の一定のガイドラインに基づく救命処置を含み、BLSには、気道確保、心臓マッサージ、人工呼吸等通常、機器を使用しない処置が含まれる。
5)頻度の高い救急疾患の初期治療ができる。
6)専門医への適切なコンサルテーションができる。
7) 大災害時の救急医療体制を理解し、自己の役割を把握できる。
14.予防医療

一般目標:
 予防医療の理念を理解し、地域や臨床の場で実践する為に各種活動に参画する。

行動目標:

1)食事・運動・禁煙指導とストレスマネージメントができる。
2)性感染症・エイズ予防、家族計画指導に参画できる。
3)地域・職場・学校検診に参画できる。
4)予防接種に参画できる。

15.緩和・終末期医療

一般目標:
 患者・家族への適切な緩和・終末期医療を実施するために、全人的理解に基づいて対応できる。

行動目標:

1)心理社会的側面への配慮ができる。
2)緩和ケア(WHO方式がん疼痛治療法を含む)に参加できる。
3)告知をめぐる諸問題への配慮ができる。
4)死生観・宗教観などへの配慮ができる。

16.医療の社会性

一般目標:
 医師としてのプライドを持って社会に貢献し、患者への適切な対応をするために、医療の持つ社会的側面の重要性を理解できる。

行動目標:

1)保健医療法規・制度を説明できる。
2)医療保険、公費負担医療を説明できる。
3)医の倫理・生命倫理について説明できる。
4) 虐待について説明できる。

2.経験すべき症状・病態

 初期臨床研修の場では、先ず患者の呈する症状を迅速かつ的確に把握し、診断・治療を行うことが求められる。ここでは特に緊急対応が必要な、また頻度の 高い主な症状・病態があげられている。次項の目標とする研修症例・病態との関連において経験されるものである。

<緊急を要する疾患・病態>

1) 心肺停止
2) ショック(アナフィラキシーショックを含む)
3)意識障害
4)脳血管障害
5)ショック急性呼吸不全
6)急性心不全
7)急性冠不全
8)急性感染症急性腹症
9)急性中毒急性消化管出血急性呼吸不全10)急性腎不全
11)急性腹症流・早産および満期産
12)急性消化管出血急性感染症
13)外傷(頭部外傷、脊椎脊髄損傷、胸部鈍的外傷、腹部鈍的外傷、骨盤骨折、四肢骨折・創傷)
14)熱傷急性中毒
15)誤飲(タバコ、薬物など)、誤嚥(ピーナツなど)
16)アナフィラキシー熱傷
17)流・早産および満期産精神科領域救急

<頻度の高い症状>

1) 全身倦怠感
2)不眠
3)食欲不振
4)体重減少、体重増加
5)浮腫
6)リンパ節腫脹
7)発疹
8)黄疸
9)発熱
10)頭痛
11)めまい
12)失神
13)けいれん発作
14)視力障害
15)結膜の充血
16)鼻出血
17)嗄声
18)胸痛
19)動悸
20)呼吸困難
21)咳・痰
22)嘔気・嘔吐
23)胸やけ
24)嚥下困難
25)腹痛
26)便通異常(下痢、便秘)
27)腰痛
28)関節痛
29)歩行障害
30)四肢のしびれ
31)血尿
32)排尿障害(尿失禁・排尿困難)
33) 尿路異常

3.経験が求められる疾患・病態

 臨床研修の一般目標と行動目標を達成するには、日常臨床の場で実際に症例の診療に参加することが求められる。ここにあげられている症例・病態は、便宜上、器官・臓器別に分類されているが、特定の診療科での研修を意味するものではなく、2年間の総合診療方式を基本としたプログラムの中で外来または 病棟において、診断・治療・予後追跡の少なくとも一部に参加することを目標とするものである。

(1)血液・造血器・リンパ網内系疾患

(1)貧血(鉄欠乏貧血、二次性貧血)
(2)白血病
(3)悪性リンパ腫
(4)出血傾向・紫斑病(播種性血管内凝固症候群:DIC)

(2)神経系疾患

(1)脳・脊髄血管障害(脳梗塞、脳内出血、くも膜下出血)
(2)痴呆性疾患
(3)脳・脊髄外傷(頭部外傷、急性硬膜外・硬膜下血腫)
(4)変性疾患(パーキンソン病)
(5)脳炎・髄膜炎

(3)皮膚系疾患

(1)湿疹・皮膚炎群(接触皮膚炎、アトピー性皮膚炎)
(2)蕁麻疹
(3)薬疹
(4)薬物障害
(5)皮膚感染症

(4)運動器(筋骨格)系疾患

(1)骨折
(2)関節の脱臼、亜脱臼、捻挫、靱帯損傷
(3)骨粗鬆症
(4)腰椎椎間板ヘルニア

(5)循環器系疾患

(1)心不全
(2)狭心症、心筋梗塞
(3)心筋症
(4)不整脈(主要な頻脈性、徐脈性不整脈)
(5)弁膜症(僧帽弁膜症、大動脈弁膜症)
(6)動脈疾患(動脈硬化症、大動脈解離)
(7)静脈・リンパ管疾患(深部静脈血栓症、下肢静脈瘤、リンパ浮腫)
(8)高血圧症(本態性、二次性高血圧症)

(6)呼吸器系疾患

(1)呼吸不全
(2)呼吸器感染症
(3)閉塞性・拘束性障害をきたす肺疾患(気管支炎、気管支喘息)
(4)肺循環障害(肺塞栓・肺梗塞)
(5)異常呼吸(過換気症候群)
(6)胸膜、縦隔、横隔膜疾患(自然気胸、胸膜炎)
(7)肺癌

(7)消化器系疾患

(1)食道・胃・十二指腸疾患(食道静脈瘤、胃癌、消化性潰瘍、慢性胃炎)
(2)小腸・大腸疾患(イレウス、急性虫垂炎、痔核・痔瘻)
(3)胆嚢・胆管疾患(胆石、胆嚢炎、胆管炎)
(4)肝疾患(ウイルス性肝炎、急性・慢性肝炎、肝硬変、肝癌、アルコール性肝障害、薬物性肝障害)
(5)膵臓疾患(急性・慢性膵炎)
(6)横隔膜・腹壁・腹膜(腹膜炎、急性腹症、ヘルニア)

(8)腎・尿路系(体液・電解質バランスを含む)疾患

(1)腎不全(急性・慢性腎不全、透析)
(2)原発性糸球体疾患(急性・慢性糸球体腎炎症候群、ネフローゼ症候群)
(3)全身性疾患による腎障害(糖尿病性腎症)
(4)泌尿器科的腎・尿路疾患(尿路結石、尿路感染症)

(9)妊娠分娩と生殖器疾患

(1)妊娠分娩(正常妊娠、流産、早産、正常分娩、産科出血、乳腺炎)
(2)女性生殖器疾患(無月経、思春期・更年期障害、外陰・腟・骨盤内感染症、骨盤内腫瘍
(3)男性生殖器疾患(前立腺疾患、男性不妊、勃起障害、精巣腫瘍)

(10)内分泌・栄養・代謝系疾患

(1)視床下部・下垂体疾患(下垂体機能障害)
(2)甲状腺疾患(甲状腺機能亢進症、甲状腺機能低下症)
(3)副腎不全
(4)糖代謝異常(糖尿病、糖尿病の合併症、低血糖)
(5)高脂血症
(6)蛋白および核酸代謝異常(高尿酸血症)

(11)眼・視覚系疾患

(1)屈折異常(近視、遠視、乱視)
(2)角結膜炎
(3)白内障
(4)緑内障
(5)糖尿病、高血圧・動脈硬化による眼底変化
(12)耳鼻・咽喉・口腔系疾患
(1)中耳炎
(2)急性・慢性副鼻腔炎
(3)アレルギー性鼻炎
(4)扁桃の急性・慢性炎症性疾患
(5)う歯と歯周病
(6)外耳道・鼻腔・咽頭・喉頭・食道の代表的な異物

(13)精神・神経系疾患

(1)症状精神病
(2)痴呆
(3)アルコール依存症
(4)うつ病
(5)精神分裂病
(6)不安障害(パニック症候群)
(7)心身症

(14)感染症

(1)ウイルス感染症(インフルエンザ、麻疹、風疹、水痘、ヘルペス、流行性耳下腺炎)
(2)細菌感染症(ブドウ球菌、MRSA、A群レンサ球菌、クラミジア、結核菌)
(3)真菌感染症(カンジダ症)
(4)寄生虫疾患

(15)免疫・アレルギー疾患

(1)全身性エリテマトーデス(SLEとその合併症)
(2)慢性関節リウマチ
(3)アレルギー疾患

(16)物理・化学的因子による疾患

(1)中毒(アルコール、薬物)
(2)アナフィラキシー
(3)環境要因による疾患(日射病、熱射病、寒冷による障害)
(4)熱傷

(17)小児疾患

(1)新生児けいれん性疾患
(2)ウイルス性感染症(麻疹、流行性耳下腺炎、水痘、突発性発疹、インフルエンザ)
(3)細菌性感染症
(4)小児喘息
(5)先天性心疾患

(18)加齢と老化

(1)高齢者の栄養摂取障害
(2)老年症候群(誤嚥、転倒、失禁、褥瘡)


●星委員資料

 出月康夫 他 「卒後臨床研修(必修化)に関するアンケート集計結果」
  〜日本医師会雑誌(第126巻・第7号 平成13年10月1日)

(大変恐縮ですが、上記資料はホームページ掲載を割愛させていただきます。
 必要な方は、PDFファイルをご利用ください。)


●三上委員資料

 地域医療研究会 21世紀の医療をつくる若手医師の会
  要望書「医師卒後臨床研修の改善のために」

(大変恐縮ですが、上記資料はホームページ掲載を割愛させていただきます。
 必要な方は、PDFファイルをご利用ください。)

照会先
厚生労働省医政局医事課医事係
TEL 03−5253−1111内線2568



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